JP2004321211A - 生体信号を利用したfMRI環境用仮想運動装置及び方法並びにプログラム - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明は、fMRI環境用仮想運動装置に関しており、生体信号の入力部と、fMRI環境下で計測した生体信号をfMRI環境外に伝送した後にノイズ成分を除去する計測部と、計測した生体信号から特徴パターンを抽出する特徴抽出処理部と、特徴パターンから使用者が意図する運動やその力などを推定する運動意図推定部と、運動意図推定部の出力に基づいて運動軌道などを計算する人体モデル部と、人体モデル部で計算された運動の様子を示す3次元コンピュータグラフィクス、および計算中の各部の処理状況を使用者に提示するフィードバック部と、各部で使用するパラメータを保存・読み出し可能なパラメータ保存部とから構成される。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高磁界を発生するfMRI環境内において使用者から計測した筋電位波、脳電位波、あるいは心電位波などの生体生理信号から推定した使用者の運動意図を利用して計算機上に形成された人体モデルの自然な動作制御を可能とするfMRI環境用仮想運動装置及び方法並びにプログラムに関するものである。fMRIとは、核磁気共鳴イメージング装置(MRI:Magnetic resonance imaging)で撮影した画像を用いた脳機能計測法(functional MRI)であり、脳神経活動に伴った局所の脳血流変化を捉えて間接的に脳活動を観察することができる。
【0002】
【従来の技術】
生体信号を利用して仮想運動を実現する手法に関しては、従来より提案されている(例えば、特許文献1,特許文献2参照)。これは、運動を生じさせる原因である脳,神経系の活動を何らかの非侵襲的な方法で計測し、その信号に基づいて運動軌道や力軌道を推定し,それに基づいて計算機内の世界で身体の一部または全部のモデルである仮想身体をあたかも自分の分身であるかのように自然に制御し、位置のみならず力、速度、加速度を自由に操れるようなヒューマンインタフェース装置の提供を目的としたものである。
【0003】
しかしながら,前記特許文献に記載された発明は、使用者の個人差や疲労による影響に対して適応する機能を備えていないため、使用者の操作能力が低い場合や長時間使用に対しては、使用が困難であった。
【0004】
さらに、生体信号の計測時に大きなノイズが印加する劣悪な環境下での使用を考慮していないため、高磁界を発生するfMRI環境内での脳機能解析に適用することはできなかった。
【特許文献1】
特開平7−28592号公報
【特許文献2】
特開平7−36362号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、以上のような問題を解決するためのものであり、高磁界を発生するfMRI環境内で計測した生体信号から高磁界に起因するノイズ成分の除去を可能とすることを目的とする。
また、本発明は、使用者の個人差や特性変化に対する適応能力を有し,fMRI環境内において計測した生体信号を利用することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明における第1の発明は、fMRI環境用仮想運動装置に関しており、生体信号の入力部と、fMRI環境下で計測した生体信号をfMRI環境外に伝送した後にノイズ成分を除去する計測部と、計測した生体信号から特徴パターンを抽出する特徴抽出処理部と、特徴パターンから使用者が意図する運動やその力などを推定する運動意図推定部と、運動意図推定部の出力に基づいて運動軌道などを計算する人体モデル部と、人体モデル部で計算された運動の様子を示す3次元コンピュータグラフィクス、および計算中の各部の処理状況を使用者に提示するフィードバック部と、各部で使用するパラメータを保存・読み出し可能なパラメータ保存部とを含むことを特徴としている。
【0007】
また、本発明における第2の発明は、目的に応じた生体情報の利用を可能とするために、上記した第1の発明の構成に加えて、上記の生体信号の入力部では入力として筋電位、脳波、光学式力センサなどを選択あるいは組み合わせて受けることが可能な構成を備えることを特徴としている。
【0008】
また、本発明における第3の発明は、上記した第1の発明の構成に加えて、計測した生体信号を増幅後fMRI環境外へと伝送し、磁場の影響によるノイズ成分を除去する計測部を含むことを特徴としている。
【0009】
また、本発明における第4の発明は、計測した生体信号から特徴量や力情報を抽出するために、上記した第1の発明の構成に加えて、整流処理、フィルタリング処理、周波数解析処理、正規化処理、ピーク検出処理などを適切に実施する特徴抽出処理部を含むことを特徴としている。
【0010】
また、本発明における第5の発明は、使用する生体信号に含まれる個人差に適応するために、上記した第1の発明の構成に加えて、ニューラルネットを利用した学習機構を備えた運動意図推定部を含むことを特徴としている。
【0011】
また、本発明における第6の発明は、上記した第1の発明の構成に加えて、運動意図推定部においてニューラルネットを利用して特徴パターンから使用者が意図する運動意図を推定し、その事後確率を計算することを特徴としている。
【0012】
また、本発明における第7の発明は、使用者が意図する運動や力を反映した動作をフィードバック部で再現するため、上記した第1の発明の構成に加えて、人体モデル部では人間の機構特性、運動特性などを反映した人体モデルにおいて、運動意図推定部の出力に基づいた運動軌道などを計算することを特徴としている。
【0013】
また、本発明における第8の発明は、fMRI環境下で計測した使用者の動作をディスプレイで提示するため、上記した第1の発明の構成に加えて、フィードバック部では、入力部での入力選択の状態、計測部でのノイズ除去状況、特徴抽出処理部における特徴パターンおよび力情報、運動意図推定部における事後確率値、人体モデル部で計算した運動状況などをコンピュータグラフィックや合成音などにより視覚、聴覚的に使用者に提示することを特徴としている。
【0014】
本発明における第8の発明は、fMRI環境下で計測した使用者の動作をディスプレイで提示するため、上記した第1の発明の構成に加えて、入力部での入力選択の状態、計測部での増幅率やノイズ除去のパラメータ、特徴抽出処理部におけるフィルタなどのパラメータや最大筋力値、運動意図推定部におけるニューラルネットのパラメータ、人体モデル部における粘弾性や慣性などのパラメータなどを、使用者毎に保存・読み出しが可能な構成を有することを特徴としている。
【0015】
また、本発明のfMRI環境用仮想運動方法及びコンピュータプログラムは、計測した生体信号をfMRI環境外に伝送して、ノイズ成分を除去し、ノイズ成分を除去した生体信号から特徴パターンを抽出して、使用者が意図する運動及びその力を推定する。この推定した運動及びその力に基づいて運動軌道を計算し、この計算された運動の様子を3次元コンピュータグラフィクスに示す。そして、計算中の処理状況を使用者にフィードバックして提示する各手順を含み、またそれを実行する。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下にこの発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明の望ましい一般的な実施形態を説明するためのブロック概念図である。図1に示す構成は、生体信号の入力部と、計測した生体信号をfMRI環境外に伝送した後に(図中の1:検出した生体信号のfMRI環境外への伝送)ノイズ成分を除去する計測部と、計測した生体信号(2:生体信号からノイズ成分を除去した信号の流れ)から特徴パターンを抽出する特徴抽出処理部と、特徴パターン(3:信号処理された生体情報から抽出された特徴量データの流れ)から使用者が意図する運動やその力などを推定する運動意図推定部と、運動意図推定部の出力(4:NN(Neural Network)により推定した特徴量から使用者の運動意図・状態の事後確率情報の流れ)に基づいて運動軌道などを計算する人体モデル部と、人体モデル部で計算された運動(5:使用者の運動意図をもとに人体モデルを用いて計算された運動軌道の流れ)の様子を示す3次元コンピュータグラフィクス、および計算中の各部の処理状況(10:計測した生体信号,特徴量,事後確率,識別結果,および3Dコンピュータグラフィックスに関する情報の流れ)を使用者に提示する(11:fMRI環境内の使用者への視覚フィードバック情報の流れ)フィードバック(Bio−feedback(BF))部と、各部で使用するパラメータ(6:使用する生体信号やチャンネル数に関するパラメータ情報の流れ、7:特徴抽出における信号処理に関するパラメータ情報の流れ、8:NNの構造や適応学習に関するパラメータ情報の流れ、9:人体モデルの構造と物理パラメータに関する情報の流れ)を保存・読み出し可能なパラメータ保存部とを備えている。ここで、生体信号として用いるのは、筋肉や心臓の運動状態を反映する筋電位信号(Electromyogram (EMG) signal)あるいは脳の磁界信号などの生体生理情報であり、それらを選択/組み合わせ使用する。
【0017】
図2は本発明の一実施例であるfMRI環境用筋電位制御型仮想義手システムを説明するための概観図である。筋電位信号計測部、動作パターン抽出部(Feature extraction part), 動作識別部(Motion classification part), 識別判定部(Discrimination rule part)、仮想義手制御部(Virtual hand control part)、バイオフィードバック部から構成される。使用者は個々の筋に筋電位信号計測用電極を装着してスキャンルーム(scan room)内でスクリーンに投影される3次元グラフィックスで作成したバーチャル義手の操作を行う。
【0018】
図3は本発明の一実施例における筋電位信号計測部を説明するための概観図である。筋電位信号計測部では,計測された筋電位信号(EMG signal)をfMRI環境外に設置した筋電図検査装置へ伝送した後、high−pass (10Hz) およびlow−pass (500Hz) のアナログフィルタを通過後、EMGアンプで500倍に増幅され、A/Dボードを介してパーソナルコンピュータに取り込まれる (サンプリング周波数1[kHz]、量子化ビット数12bit) 。MRI装置として、例えば、SIEMENS製MAGNETOM SYMPHONY (静止磁場強度は1.5 [T]、最大傾斜磁場強度は34 [mT/m]、超伝導タイプ) を使用し、筋電位信号の計測には、例えば、表面電極と筋電図検査装置 (MEM−4204、日本光電製) を使用している。
【0019】
図4は、背屈動作を行った時の筋電位信号の一例を示す図である。被験者は23才の男子大学生で、尺側手根伸筋 (Extensor Carpi Ulnaris) に1対の電極を取り付け計測した (電極間距離 3 [cm]) 。図4(a)、(b)は、それぞれscan room内外で計測した筋電位信号である。scan room内で計測した場合、傾斜磁場の変動によるノイズが約8 [mV] 発生しており、筋電位信号と比較してノイズ信号は非常に大きいことが分かる。したがって、fMRI環境において筋電位信号を解析するためには、このノイズ信号を除去する必要がある。
【0020】
FMRI計測において、電磁波、傾斜磁場が発生、変動する時間間隔や回数は、fMRIの測定パラメータの一つである繰り返し時間(repetition time 、以下、TRと略記) と撮像時間(acquisition time 、以下、TAと略記)、スライス枚数によって決定される。ここで、TRとは複数回に渡って脳画像を撮像する際の繰り返し時間、TAとは全ての脳の断層画像を撮像するのに要する時間、スライス枚数とは1回の撮像で脳から得る断層画像の枚数である。
【0021】
fMRIの撮像開始を外部トリガーによって制御し、入力するタイミングをTRに基づいて決定する。筋電位信号にノイズが発生する時間間隔(Noise inducing interval)をTi、全てのノイズが発生する時間をTa、ノイズ発生中とする一定時間(Noise inducing duration)をTdとすれば、fMRIの測定パラメータを用いて Ti = Ta/スライス枚数、Ta = TA となる。そこで、ノイズ発生時刻からの一定時間はノイズ発生中であるとし、計測信号の採取を中断する。
【0022】
図5はfMRI計測パラメータとノイズ成分の関係を示す時系列データの一例である.TR = 11 [sec]、TA = 8.8 [sec]、スライス枚数: 40としてscan room内で計測した。図5(a), (b)は、それぞれノイズとTaの関係、ノイズとTi , Tdの関係である。なお、図中の信号は生体電極をショートさせた状態で計測した。Ti,, Ta は、それぞれ約220 [msec]、約8.8 [sec]となっており、fMRIの測定パラメータに基づいていることが確認できた。また、Tdは約110 [msec] であり、TiにおいてTd以降、ノイズは確認されなかった。上述の処理を施すことにより、確実にノイズの発生時刻、時間がわかり、電磁波や傾斜磁場によるノイズを除去し、筋電位信号の解析をすることができる。
【0023】
図6に上記ノイズ除去法を用いて計測した実験結果の一例を示す。被験者は男子大学生 (23才)で、被験者の尺側手根伸筋 (Extensor Carpi Ulnaris) に1対、尺側手根屈筋 (Flexor Carpi Ulnaris) に1対、橈側手根屈筋 (Flexor Carpi Radialis)に2対の合計4対の電極を取り付け、サンプリング周波数は1[kHz]とした。被験者にはMR対応ヘッドフォンを着用させ、scan roomの外からインターホンを用いて、刻5.0[sec]から時刻10.0[sec]まで背屈動作を行うよう指示した。fMRIの測定パラメータは Ti = 220 [msec], Ta = 8.8 [sec], Td = 130[msec]とした。図6(a), (b), (c)は、それぞれ scan room の外で計測したEMG信号、scan room内で計測したEMG信号、本手法による計測結果である。図中のCh1〜Ch4は、それぞれ尺側手根伸筋(Ch1)、尺側手根屈筋(Ch2)、橈側手根屈筋(Ch3,4)から計測したEMG信号を示している。本手法を用いることにより、5.0[sec]から10.0[sec]まで筋収縮の様子を確認することができた。また、scan roomの外で計測したEMG信号と比較した場合でも、同程度の振幅情報、パターン情報を抽出することができた。
【0024】
本発明がfMRIに与える影響を検証するために、2種類のファントムを使用してMR信号のS/N比と、画像に現れる磁場の不均一性に関する評価を行った。MR信号のS/N比の評価実験で使用したファントムは、直径24[cm], 容積7.3 [l] のボトム形ファントムを用いた。コイルは頭部用コイルを使用した。撮像シーケンスにはシングルショットエコープラナー法 (シングルショットEPI) を採用し、スキャンパラメータを TR:11 [sec]、echo time (以下, TE と略記):60 [msec]、matrix:64 ×64、field of view (以下 FOV と略記):192 [mm]、スライス厚:3 [mm]、スライス枚数:40枚の撮像パラメータとした。ここで、TEとは励起パルスからその結果生じるエコーまでの時間、matrixとは収集データポイントの数、FOVとはスキャンするスライスの基本サイズ、スライス厚とはスキャンするスライスの厚さである。
【0025】
図7にMR信号のS/N比の評価に対する撮像結果を示す。図7(a), (b)は、それぞれ提案するシステムを設置しない場合と設置した場合において、電極をファントムに密着した状態で得た画像である。二つの画像を比較すると、画像の変形、画像の移動などは見られない。また、画像中央における S/N 比は、それぞれ (a) が 54.4±1.53、(b) が 53.2±0.99 であり大きな差は見られない (10試行の平均値±標準偏差) 。
【0026】
図8に画像に現れる磁場の不均一性の評価に対する撮像結果を示す。使用したファントムは直径24 [cm], 容積 7.236 [l] の球形ファントムで、コイルは頭部用コイルを使用した。撮像シーケンスとスキャンパラメータに関しては、図7と同様な設定とした。コイルの開口部より30 [cm] の位置に電極を設置し、各座標軸 x, y, z (図3参照) に対して32箇所における磁場の歪み平均値を10試行計測したところ、x 軸が±0.2 [ppm] (ppm: part per million), y 軸が±0.1 [ppm]、z 軸が±0.1 [ppm]であった。一方、提案するシステムを設置しない通常の状態では x 軸が±0.1[ppm]、y 軸が±0.4 [ppm]、z 軸が±0.0 [ppm] であった。装置の仕様が±0.7 [ppm] のため、許容範囲内であり影響がないことが確認できた。以上の結果から、本発明では、fMRI計測中におけるscan room内で生体生理信号の計測を可能としている。
【0027】
動作パターン抽出部では、使用者に装着したL対の電極から得られたノイズを除去した筋電位信号をチャンネルごとに全波整流した後、2次のディジタルバタワースフィルタにより平滑化する。この時系列信号を EMGi(t ) とする。ただし平滑化する際、ノイズを除去した区間のフィルタリングには、0次ホールドを用いて計算した。次に、この信号の全チャンネルの和が1となるように正規化したものを特徴パターンベクトルとしてパターン識別に用いる。また、動作の発生を判定するために、次式によって定義される筋力情報 FEMG (t )
【数1】
を計算する。ただし、EMGl stは安静時に測定した の平均値である。
【0028】
動作識別部では、抽出した特徴パターンベクトルを利用して、訓練者が意図した動作を推定する。EMGのパターン識別には、Log−Linearized Gaussian Mixture Network (以下、LLGMNと略記)を用いる。LLGMNはその学習能力によって、個人差や電極位置、疲労や発汗などに伴う筋電位信号の変化に適応でき、精度の高い動作識別を可能とする。
【0029】
識別判定部では、動作識別部による識別結果が有効であるかどうかの判定を、LLGMNの出力、および、筋力情報 FEMG(t) をもとに行う。まず、LLGMNの出力から計算したエントロピー H(t) に基づいて識別保留を行うために、H(t)をあらかじめ設定したしきい値 Hd と比較する。この時 H(t) < Hd であれば、LLGMNの推定結果を識別動作とし、もし H(t) ≧ Hdであれば、あいまいな識別として識別を保留する。識別保留でないと判定された場合は次に、筋力情報に基づいて動作発生の有無を判定する。この際、識別動作に対する筋力情報である FEMG(t) と、あらかじめ設定した動作発生判定しきい値 Fd を比較する。そして、Fd < FEMG(t) となり、しきい値を超えて動作発生と判定された場合のみ、識別動作として決定する。
【0030】
バイオフィードバック部では、動作識別部からの出力動作クラス cと筋力情報 FEMG(t) をもとに図8に示すバーチャル義手の各関節 Ji をインピーダンス制御する。図中の j ( j = 1、2、…、22) はそれぞれ関節番号を示している。巧みな作業を実現する人間の手の運動は、慣性、剛性、粘性要素からなるインピーダンスモデルを使って表現することができる。したがって、人間のインピーダンス特性を反映したインピーダンス制御法を用いることにより、人間の手の動きに近い運動特性を持ったバーチャル義手のフィードバックができる。
【0031】
図9に本発明の一実施例である仮想義手システムを操作した実験結果示す。被験者は男子大学生(23才)1名で、対象動作は握る/開く/背屈/嘗屈の4動作とした。被験者には、MR対応ヘッドフォンを着用させ、コンピュータからのビープ音により各動作の開始と終了を指示した。ノイズ除去に用いたパラメータは、Tr = 220[msec]、Ta = 8800[msec]、Td = 130[msec]とした。上からそれぞれ、各電極で計測した信号、ノイズを除去し、整流平滑 (カットオフ周波数1.0[Hz]) 処理を施した 筋電位信号、筋力情報 FEMG (t)、エントロピー H(t)、動作識別部による識別結果である。陰影をつけた領域は筋力情報 FEMG (t) により動作が起こっていないと判断した区間である。識別率は100%で、非常に高い識別率を実現することができた。
【0032】
バーチャル義手操作中のfMRIの計測及び、計測データの解析を行った。被験者は男子大学生 (23才、右利き) で、対象動作を開く、握るの2動作とした。電極は、被験者の右前腕の尺側手根伸筋 (Extensor Carpi Ulnaris) に1対、尺側手根屈筋 (Flexor Carpi Ulnaris) に1対、橈側手根屈筋 (Flexor Carpi Radialis) に2対の合計4対取り付けた。fMRIのコイルは、頭部用コイルを使用した。撮像シーケンスはシングルショットEPI法で、TR:11[sec]、TE:60 [msec]、マトリクス:64×64、FOV:192[mm]、スライス厚:3 [mm]、スライス枚数:40枚、撮像回数:30回の撮像パラメータとした。マトリクスとFOVとスライス厚の関係から、ボクセルサイズは3×3×3 [mm3] となった。ボクセルサイズは、画像の空間分解能に相当し、ボクセルサイズが小さければ空間分解能は高くなる。
【0033】
脳の高次機能を描出するためには特定の脳機能に関連する課題を設定しなければならず、その内容と呈示方法が重要となる。本システムを用いた際の脳機能を明確にするために、2種類のタスクを用意し、それぞれのタスクに対して3回実験を行った。タスク1は、バーチャル義手によるフィードバックを提示しない状態で、対象動作を行った。タスク2は、バーチャル義手によるフィードバックを提示した状態で、対象動作を行った。図10(a)、(b) に、タスク1、2のそれぞれのタイムチャートを示す。タスク1では、バーチャル義手によるフィードバックを提示せず、被験者には目を閉じて、前腕の運動を行わないように指示をした状態を安静状態と定義する。次に、バーチャル義手によるフィードバックを提示せず、被験者には目を閉じて、前腕の開閉運動を1.1秒間隔でなるビープ音に合わせて行うように指示した状態を運動呈示と定義する。一方、タスク2では、運動呈示の際にバーチャル義手によるフィードバックを提示し、被験者には目を開けて、運動を行うように指示した。被験者には1回の測定中に、タスク1、タスク2 のどちらとも、安静状態を110秒間、運動呈示を55秒間、安静状態を55秒間、運動呈示を55秒間、安静状態を55秒間行うように指示した。ただし、聴覚刺激の影響を無くすために、安静状態の時もビープ音を鳴らすこととした。
【0034】
計測データは、Statistical Parametric Mapping (SPM)によって解析を行った。SPMは、脳全体についてピクセルごとに血流変化を評価・検討することが可能であり、脳の各部位で関心領域が決定されていない場合の脳賦活試験に適している。使用したソフトウェアは、Matlab (Math Works) Ver. 5.3 上で作動するSPM99を用いた。まず、前処理として、被験者の体動により生じる画像位置のズレを修正するために位置補正を行った。次に、各被験者の脳の形にはかなり個体差があるため、被験者の脳の解剖学的標準化を行った。さらに、Gaussian filterによる平滑化 (FWHM : 8 [mm]) を行うことで、残存した個体差をなくした。そして、これらの処理をした結果を基にデータの統計解析を行った。
【0035】
タスク1、2の結果を、図11、12に示す。それぞれ、6方向から見た脳画像に賦活の得られた部位を表示した結果である。タスク1、タスク2それぞれで、1次運動野、1次感覚運動野の賦活が確認できた。加えて、タスク2では、両側1次視覚野、視覚連合野、背側運動前野、腹側運動前野、後部側頭葉の賦活が確認できた。
【0036】
本実験で賦活が確認できた部位の機能に着目すると、1次運動野は、脳からの運動出力の中心的役割をなし、骨格筋の収縮を制御している。両側1次感覚運動野は、複雑な課題を連続して行う際にのみ認められ、課題の複雑さに依存する。両側1次視覚野は、目の網膜からの情報を受け取り、視覚情報の中で光刺激に依存する。視覚連合野は、視覚野より入力を受け、複雑な形態の特徴抽出を行う。背側運動前野は、運動の方向を音や光によって指示した際に、運動の実行時よりもその準備時に顕著な活動をする。腹側運動前野は、運動の出力に関する特性はあまりなく、視覚情報に対して運動開始直前に顕著に活動する。後部側頭葉は、3次元空間における物体の形態認知に関連している。したがって、タスク間における賦活部位の差異が、バーチャル義手操作システムを用いた際の脳機能であると考えられる。
【0037】
【発明の効果】
この発明は、生体信号の入力部と、計測した生体信号をfMRI環境外に伝送し、ノイズ成分を除去する計測部と、計測した生体信号から特徴パターンを抽出する特徴抽出処理部と、特徴パターンから使用者が意図する運動やその力などを推定する運動意図推定部と、運動意図推定部の出力に基づいて運動軌道などを計算する人体モデル部と、人体モデル部で計算された運動の様子を示す3次元コンピュータグラフィクス、および計算中の各部の処理状況を使用者に提示するフィードバック部と、各部で使用するパラメータを保存・読み出し可能なパラメータ保存部とを含む構成にしたので、高磁界を発生するfMRI環境下で計測した生体信号を利用した仮想運動装置を実現することができるようになり、fMRI計測中における使用者の運動意図や状態を推定することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の望ましい一般的な実施形態を説明するためのブロック概念図である。
【図2】本発明の一実施例であるfMRI環境用筋電位制御型仮想義手システムを説明するための概観図である。
【図3】本発明の実施例における筋電位信号計測部を説明するための概観図である。
【図4】本発明の実施例で、fMRI環境内外で背屈動作を行った時に計測した筋電位信号を示す図である。
【図5】本発明の実施例で、fMRI計測パラメータとノイズ発生区間の関係を示す図である。
【図6】本発明の実施例で、ノイズ成分の除去による筋電位信号の変化を示す図である。
【図7】本発明の実施例で、ファントムを用いたMR信号のS/N比と撮像画像に現れる磁場の不均一性の評価に関する撮像結果を示す図である。
【図8】本発明の実施例におけるバーチャル義手の概観と構造を説明する図である。
【図9】本発明の実施例で、仮想義手システムを操作した実験結果を示す図である。
【図10】本発明の実施例で、仮想義手操作中の脳機能解析で設定した二種類のタスクを説明する図である。
【図11】本発明の実施例で、タスク1に対する脳機能の活動領域を示す図である。
【図12】本発明の実施例で、タスク2に対する脳機能の活動領域を示す図である。
【符号の説明】
1・・・検出した生体信号をfMRI環境外への伝送
2・・・生体信号からノイズ成分を除去した信号の流れ
3・・・信号処理された生体情報から抽出された特徴量データの流れ
4・・・NNにより推定した特徴量から使用者の運動意図・状態の事後確率情報の流れ
5・・・使用者の運動意図をもとに人体モデルを用いて計算された運動軌道の流れ
6・・・使用する生体信号やチャンネル数に関するパラメータ情報の流れ
7・・・特徴抽出における信号処理に関するパラメータ情報の流れ
8・・・NNの構造や適応学習に関するパラメータ情報の流れ
9・・・人体モデルの構造と物理パラメータに関する情報の流れ
10・・・計測した生体信号,特徴量,事後確率,識別結果,および3Dコンピュータグラフィックスに関する情報の流れ
11・・・fMRI環境内の使用者への視覚フィードバック情報の流れ
Claims (11)
- 生体信号の入力部と、計測した生体信号をfMRI環境外に伝送し、ノイズ成分を除去する計測部と、計測した生体信号から特徴パターンを抽出する特徴抽出処理部と、特徴パターンから使用者が意図する運動やその力などを推定する運動意図推定部と、運動意図推定部の出力に基づいて運動軌道などを計算する人体モデル部と、人体モデル部で計算された運動の様子を示す3次元コンピュータグラフィクス、および計算中の各部の処理状況を使用者に提示するフィードバック部と、各部で使用するパラメータを保存・読み出し可能なパラメータ保存部とを含むことを特徴とするfMRI環境用仮想運動装置。
- 前記生体信号の入力部は、入力として筋電位、脳波、光学式力センサなどを選択・組み合わせて受けることが可能な構成を備えることを特徴とする請求項1に記載のfMRI環境用仮想運動装置。
- 前記計測部は、計測した生体信号をfMRI環境外へと伝送後に増幅し、磁場の影響によるノイズ成分を除去することを特徴とする請求項1に記載のfMRI環境用仮想運動装置。
- 前記特徴抽出処理部は、整流処理、フィルタリング処理、周波数解析処理、正規化処理、ピーク検出処理などを適切に実施することにより、計測した生体信号から特徴量や力情報を抽出することを特徴とする請求項1に記載のfMRI環境用仮想運動装置。
- 前記運動意図推定部は、使用する生体信号に含まれる個人差に適応するために、ニューラルネットを利用した学習機構を備えることを特徴とする請求項1に記載のfMRI環境用仮想運動装置。
- 前記運動意図推定部はニューラルネットを含み、それを用いて特徴パターンから使用者が意図する運動意図を推定し、その事後確率を計算することを特徴とする請求項1に記載のfMRI環境用仮想運動装置。
- 前記人体モデル部は、人間の機構特性、運動特性などを反映した人体モデルにおいて、運動意図推定部の出力に基づいた運動軌道などを計算することを特徴とする請求項1に記載のfMRI環境用仮想運動装置。
- 前記フィードバック部は、入力部での入力選択の状態、計測部でのノイズ除去状況、特徴抽出処理部における特徴パターンおよび力情報、運動意図推定部における事後確率値、人体モデル部で計算した運動状況などをコンピュータグラフィックや合成音などにより視覚、聴覚的に使用者に提示することを特徴とする請求項1に記載のfMRI環境用仮想運動装置。
- 前記パラメータ保存部は、入力部での入力選択の状態、計測部での増幅率やノイズ除去のパラメータ、特徴抽出処理部におけるフィルタなどのパラメータや最大筋力値、運動意図推定部におけるニューラルネットのパラメータ、人体モデル部における粘弾性や慣性などのパラメータなどを、使用者毎に保存・読み出しが可能な構成を有することを特徴とする請求項1に記載のfMRI環境用仮想運動装置。
- 計測した生体信号をfMRI環境外に伝送して、ノイズ成分を除去し、
ノイズ成分を除去した生体信号から特徴パターンを抽出して、使用者が意図する運動及びその力を推定し、
推定した運動及びその力に基づいて運動軌道を計算し、この計算された運動の様子を3次元コンピュータグラフィクスに示し、
計算中の処理状況を使用者にフィードバックして提示する、
各手順を含むことを特徴とするfMRI環境用仮想運動方法。 - 計測した生体信号をfMRI環境外に伝送して、ノイズ成分を除去し、
ノイズ成分を除去した生体信号から特徴パターンを抽出して、使用者が意図する運動及びその力を推定し、
推定した運動及びその力に基づいて運動軌道を計算し、この計算された運動の様子を3次元コンピュータグラフィクスに示し、
計算中の処理状況を使用者にフィードバックして提示する、
各手順をコンピュータに実行させることを特徴とするfMRI環境用仮想運動プログラム。
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-
2003
- 2003-04-21 JP JP2003115686A patent/JP2004321211A/ja active Pending
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