JP2004288852A - ホットエレクトロンボロメータ素子 - Google Patents
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Abstract
【課題】超伝導体を使用したHEBミキサーに関し、フォノン冷却型ホットエレクトロン素子のフォノン拡散効果を改良する。
【解決手段】誘電体基板と、該基板上に設けられた超伝導薄膜と、該超伝導薄膜に接続された電極により構成されるホットエレクトロンボロメータ素子において、超伝導薄膜の上部にホットエレクトロンと相互作用したフォノンを拡散させる誘電体を備える構成をもつ。
【選択図】 図1
【解決手段】誘電体基板と、該基板上に設けられた超伝導薄膜と、該超伝導薄膜に接続された電極により構成されるホットエレクトロンボロメータ素子において、超伝導薄膜の上部にホットエレクトロンと相互作用したフォノンを拡散させる誘電体を備える構成をもつ。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、超伝導薄膜を使用したホットエレクトロンボロメータ素子(以後、HEB素子と称する)に関するもので、特に、フォノン冷却型ホットエレクトロンボロメータ素子のフォノン拡散効果を改良したものである。
【0002】
【従来の技術】
電波天文学や地球環境計測等において、THz領域で低雑音、高感度に動作する受信機が必要とされている。そのような受信機として現在まで、超伝導−絶縁体−超伝導(SIS)ミキサーが実現されている。しかし、SIS素子は、ギャップ周波数以上の電磁波の照射を受けた時に超伝導性が破壊されるために超伝導ギャップ周波数以上の周波数で大きく性能が低下する。
【0003】
超伝導によるHEB素子は超伝導エネルギギャップの制限を受けないので、HEB素子を使用したミキサー(以後、HEBミキサーと称する)は、THz周波数帯より上で動作する低ノイズミキサーとして期待されている。ホットエレクトロンに対する冷却効果をもつ二つのタイプのHEBミキサーがあり、拡散冷却型(超伝導ストリップに発生したホットエレクトロンを電極で冷却するタイプ)とフォノン冷却型(ホットエレクトロンと超伝導ストリップのフォノンとの相互作用によりホットエレクトロンを冷却するタイプ)の二つのタイプのHEB素子が研究され、1THz以上の電磁波に対して低ノイズの性能のものが開発されている(例えば、非特許文献1参照)。HEBミキサーにおける問題は中間周波数IFの帯域が狭く、数GHz以下ということである。HEBミキサーのIF帯域幅は、ホットエレクトロンプロセスに依存するので、中間周波帯域IFを広げるためにはこれらのホットエレクトロンのエネルギを素早く拡散させることが必要である。フォノン冷却型HEB素子の場合、ホットエレクトロンは、格子との相互作用により冷却され、そして、エレクトロンからエネルギを受け取ったフォノンは基板に流れる。このようにしてホットエレクトロンを冷却することにより動作するHEBミキサーでは、広いIF帯域幅を得るためには、エレクトロン−フォノン緩和時間τe−phの短い超伝導体、例えば窒化ニオブ(NbN)のような超伝導転移温度Tcの高いものを使用しなければならない。また、フォノン拡散時間τesを短くするためにはHEB素子の膜厚を薄くする必要がある。
【0004】
図13は従来の超伝導HEB素子の構成を示す。図13(a)は従来のHEB素子の断面図を示し、図13(b)は平面図を示す。図13(a)、(b)において、1は基板であり、MgO等の誘電体により構成されるものである。2は超伝導ストリップであり、NbN等の超伝導薄膜である。21、22はログペリアンテナであり、例えばNbNにより構成されるものである。図13(a)、(b)の構成の動作は後述する(図1(b)参照)。
【0005】
【非特許文献1】
Y.Uzawa etc.”Performance of a quasi−optical NbN hot−electron
bolometric mixer at terahertz frequencies” Supercond. Sci. Technol 15 (2002) 141−145 .
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
前述したようにIF帯域幅を広帯域化するためには、外部電磁波の照射により励起された電子のエネルギを効率よく拡散させる必要がある。そのために、フォノン冷却型HEBミキサーの場合、電子−フォノン緩和時間の短縮とフォノン拡散時間を短縮しなければならない。電子−フォノン緩和時間を短縮するためには、高Tc超伝導材料を選択する必要がある。一方、フォノン拡散時間を短縮して、フォノンを効率的に基板に拡散させるためには、超伝導ストリップを薄くするとともに、基板と超伝導薄膜との界面の熱抵抗を小さくする必要がある。しかし、超伝導膜のTcは膜厚に依存し、膜厚を薄くするとTcが低下する。このように、電子−フォノン緩和時間の短縮とフォノン拡散時間の短縮は互いに矛盾する要素があり、高Tcでかつフォノン拡散時間の短いフォノン冷却効果の高い超伝導HEB素子を作成することは困難であった。本発明は、高Tcでかつフォノン拡散時間の短い冷却効率の高い超伝導HEB素子を提供することを目的にする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、超伝導ストリップの上部にフォノン拡散のためのヒートシンクとして誘電体膜を形成することにより超伝導ストリップ膜厚を減らすことなくフォノン拡散効率を向上させる。
HEBミキサーのIF帯域幅は、次のようになる。
【0008】
【数1】
【0009】
ここに、τ0 は、電子緩和時間であり、Cは動作バイアス点により定義される自己加熱パラメータである。フォノン冷却型HEBミキサーにおいて、τ0 は、次の式で表現される。
【0010】
【数2】
【0011】
ここに、τe−phは電子−フォノン緩和時間であり、τesはフォノン拡散時間である。ce は電子熱容量であり、cp はフォノン熱容量である。τe−phは電子温度Θに逆比例する。また、電子−フォノン緩和時間が短かくなるように高Tcの超伝導材料を使用する必要がある。NbN薄膜は短いτesをもつ材料として最善のものであり、数nmの厚さの薄膜でも比較的に高いTcをもつ。NbNは、Θ=10Kでτe−ph=12psである。それは、13GHzのIF帯域幅に相当する。
【0012】
IF帯域幅の理論的限界は、非平衡フォノンが基板に十分速く拡散し、フォノンエネルギが電子により再吸収されないという場合に達成できる。しかし、実際にはフォノンの拡散時間等が存在し、理論的限界まで達成することは難しい。τesはストリップの厚さ、ブリッジと基板の間のマッチング係数α、もしくは音速uにより決められる。
【0013】
【数3】
【0014】
そのため、きわめて薄い超伝導膜に良好に音響的にマッチングする基板を使用することがτesを小さくするために必要である。超伝導膜の厚さを減らすことはさらにτesを小さくすることになるが、それは同時にTcを低下させ、電子−フォノン緩和時間τe−phを大きくさせることになる。
【0015】
本発明はこのτesとτe−phを同時に小さくさせることができないことから生じるIF帯域幅の広帯域化を困難にさせる問題を解決するものである。本発明は、超伝導ストリップの上部にもフォノン冷却材料を置くことにより、超伝導ストリップのフォノンが基板だけでなく、上部誘電体ヒートシンクにも拡散するようにすることにより、Tcを低下させることなくフォノン拡散時間τesを小さくした。この場合フォノン拡散時間は次のようになる。
【0016】
【数4】
【0017】
ここに、τes,sは超伝導ストリップから基板へのフォノン拡散時間、τes,uは超伝導ストリップから上部誘電体ヒートシンクへのフォノン拡散時間である。
【0018】
上部誘電体ヒートシンクとしては、超伝導ストリップに音響的に良く整合する誘電体材料が、効率的にフォノン拡散するために使用されねばならない。また、フォノン拡散は拡散長がLより小さければ生じない。そのため、上部誘電体ヒートシンクの厚さは、フォノン拡散長、L=lph/ α’より厚くなければならない。但し、lphはフォノンの平均自由行程であり、そしてα’は超伝導ストリップと誘電体との間の音響的マッチングの程度を表す係数である。上部誘電体と超伝導ストリップの間の音響マッチングα’がストリップと基板の間の音響マッチングαに等しく、上部誘電体はヒートシンクとして十分に有効な厚さであるとするとすると、τesは超伝導ストリップの膜厚を減らすことなしに、理論的に半分になる。
【0019】
図1(a)は本発明のフォノン拡散の原理説明図であり、図1(b)は従来のフォノン拡散の原理を説明するものである。図1(a)において、1は基板であり、MgO等の誘電体により構成されるものである。2は超伝導ストリップであり、NbN等の超伝導薄膜である。3は上部誘電体である。21、22はログペリアンテナであり、NbN、Au 等により構成される。超伝導ストリップ2においてホットエレクトロンはフォノンと相互作用し、フォノンは誘電体の基板1と上部誘電体3に拡散し、ホットエレクトロンが冷却される。
【0020】
図1(b)において、1は基板であり、MgO等の誘電体により構成される。2は超伝導ストリップであり、NbN等の超伝導薄膜である。21、22はログペリアンテナである。超伝導ストリップ2においてホットエレクトロンはフォノンと相互作用し、エレクトロンからエネルギを受けとったフォノンは誘電体の基板1に拡散する。このような過程でホットエレクトロンが冷却される。
【0021】
本発明では図1(a)に示されるように誘電体基板1と上部誘電体3の双方からフォノンが拡散され、フォノン拡散時間τesが小さくなる。そのため効率的にフォノン冷却される。これに対し、従来のものは、図1(b)に示されるように、フォノンは下部の基板1から拡散されるだけでフォノン拡散効率は低いものであった。
【0022】
このように、従来のHEBミキサーは、Tcを高くするために超伝導ストリップを厚くするとフォノン拡散時間が長くなり、IF帯域幅を広くとることができなかった。しかし、本発明では十分に高いTcの超伝導ストリップでもその上下に設けたヒートシンクにフォノン拡散するので、超伝導薄膜と二つの誘電体界面での熱抵抗の合成熱抵抗が小さくなり、フォノン拡散時間を短かくできる。そのために、本発明のHEB素子を使用したミキサーはIF帯域幅を広くとることが可能になる。
【0023】
【発明の実施の形態】
本発明者等は、NbN上部に厚さ9ないし35μmの範囲で、SiO膜をもつHEBミキサーを設計し、作成した。そして、上部誘電体ヒートシンクの冷却効果を評価するために100GHzでHEBミキサーのIF帯域幅を測定した。
【0024】
図2(a)、(b)は本発明のIF特性評価用超伝導HEBミキサーを示す。図2(a)は本発明のHEB素子の断面図である。図2(a)において、1は基板であり、厚さ300μmのMgOである。2は超伝導ストリップであり、厚さ3.5nmのNbN超伝導薄膜である。3は上部誘電体であり、厚さ9ないし35μmのSiOである。8は超伝導ストリップのブリッジ部である。10は保護膜であり、厚さ10nmのMgO層である。21、22はログペリアンテナ、NbNにより超伝導ストリップ2に一体に形成したものである。
【0025】
図2(b)は本発明のHEB素子を使用したHEBミキサーであり、平面図を示す。図2(b)において図2(a)と同一参照番号は同一部分を表す。NbNの超伝導ストリップ2の幅は20μmであり厚さ150nmである。2はHEB素子の超伝導ストリップであり、そのブリッジ部は長さ2μm、幅2μmである。21、22はログペリアンテナである。
【0026】
HEBミキサーのIF帯域幅の測定から上部誘電体の効果を確認するために、HEB素子自体の特性が、上部誘電体膜を形成する前後で変化していないかを確認した。NbN超伝導ストリップが電極領域(ログペリアンテナ21と22の端部付近)で、電極と超伝導ストリップとの間の機械的ストレスにより破壊されるとHEBミキサーの特性を変えられる。そのため、ログペリアンテナ21、22の端部の幅に比較して超伝導ストリップ2の幅を小さくし、電極領域との結合部で超伝導ストリップが損傷を受けないようにした。
【0027】
NbN超伝導ストリップ2の厚さは3.5nmである。NbN超伝導ストリップのブリッジ部分の長さは2μm、幅2μmである。ログペリアンテナ21、22は厚さ100nmの厚さのNbNである。各NbN膜は、アルゴンと窒素の混合ガス中においてdc反応性スパッタリングにより形成した。超伝導ストリップ2であるNbN膜が基板1に良好にエピタキシャル成長するように基板1としては単結晶MgO基板が使用された。
【0028】
単結晶MgOは、熱導電性が良い上にNbN膜と良好に音響マッチングするので、上部ヒートシンクとして理想的である。しかし、MgO膜のフォノン拡散長Lを考慮するとその厚さは数μmより厚くする必要がある。そのようにMgOを厚く製膜することは難しいので、上部誘電体ヒートシンクとして厚く製膜しやすいSiO膜を使用した。
【0029】
Tcの劣化はτe−phの増大になり、IF帯域幅を狭めるので、SiOをつけたことにより、NbN超伝導ストリップに損傷をあたえてはならない。製造プロセスにおいて、SiO膜が形成される前に、NbN超伝導ストリップとSiOフィルムの間の界面を清浄にするためのプロセスが必要である。クリーニングプロセスにより超伝導ストリップがダメージを受けることを防ぐために、保護膜として10nmの厚さのMgO膜を、NbN超伝導ストリップの形成に引き続いて(in situ)形成した。最終的に、9ないし35μmの厚さのSiO膜を高真空蒸着によりMgO保護膜の上に形成した。
【0030】
図3は、IF特性の測定システムを示す。本発明のHEBミキサー322(図2のHEB素子)は、真空のクライオスタット311の中に置かれ、超低温に冷却される。LO発振源35により最大2dBの93.0〜99.9GHzの局部発振波(LO)が発振され、信号源36により12dBの100GHzの信号が発振される。それぞれの信号は、方向性結合器38により弱く結合され、HEBミキサー32に照射される。IF信号は、スペクトルアナライザー39により観測する。バイアスポイントはLO電力とDC電源により調整され、出力が最も大きくなるバイアスポイントに固定した。また、LO周波数を変えてもバイアスポイントが変わらないように、LO電力およびDCバイアスを調整しながらIF測定をした。
【0031】
超伝導ストリップの上部に形成するMgO保護膜自体により超伝導ストリップが損傷される程度を評価するために、MgO保護膜がある場合とない場合でのNbN超伝導ストリップの温度−抵抗特性を測定した。
【0032】
図4(a)は、rfスパッタリングにより3.5nmの厚さのNbN超伝導(薄膜)上に10nmの厚さのMgO膜を形成した場合の温度−抵抗の関係と、MgO膜を形成しなかった場合のNbN超伝導ストリップの温度−抵抗の関係を示す。MgO膜はそれぞれ以前の製膜に引き続いて(in situ)形成した。
【0033】
MgO保護膜をrfスパッタリングにより形成した場合、NbN超伝層ストリップのTcはMgO膜のない時のものより低いことが示されている。このTcの低下はrfスパッタリングの過程において逆スパッタリングによりNbN超伝導ストリップが損傷を受けたことによるものと考えられる。
【0034】
図4(b)はイオンビームスパッタリングによりNbN超伝導(薄膜)の上にMgO保護膜を形成した場合の温度−抵抗特性と、MgO保護膜がない場合の温度−抵抗特性を示す。図4(b)が示すようにイオンビームスパッタリングによりMgO膜を形成した場合には、NbN超伝導ストリップのTcは、MgO膜を形成しなかった場合とほとんど同じである。これは、イオンビームスパッタリングが超薄膜であるNbN超伝導ストリップの保護膜として有効な手段であることを意味する。
【0035】
本実施の形態において、様々な厚さの上部SiO膜について同じHEBミキサーを使用してIF帯域幅測定を行った。図5は本発明の評価用の超伝導HEBミキサーのI−V特性を示し、上部SiO膜のない場合、9μmと35μmの厚さのSiO膜を製膜する前後のものである。
【0036】
図5(a)はSiO膜を形成する前のHEBミキサーのI−V特性である。図5(b)および(c)は図5(a)と同じHEB素子について、上部誘電体の厚さを変えた場合の特性を比較したものである。図5(b)は9μmの厚さのSiO膜を形成した場合のHEBミキサーのI−V特性である。図5(c)は35μmの厚さのSiO膜を形成した場合のHEBミキサーのI−V特性である。図5(a)、(b)および(c)が示すようにSiO膜の形成前と、厚さが9μと35μmのSiO膜を形成した場合とでI−V特性は変化しない。従って、SiO膜の形成によりHEBミキサーへのダメージが生じていないことを示している。
【0037】
上部ヒートシンクとしてSiO膜を使用することによるフォノン拡散効率の改善を評価するために、SiO膜がない場合、9μmおよび35μmの厚さのSiO膜があるそれぞれの場合について、HEBミキサーのIF帯域幅を測定した。測定システムは図3で説明したものであり、HEBミキサーのブロックは、液体ヘリュームクライオスタットに置かれる。ローカル発振波と信号波は方向性結合器と減衰器により弱く結合される。信号波の周波数は100GHzであり、信号電力は一定値に固定される。LO発振源の周波数は94.0から99.9GHzまで変化させた。バイアス電圧と電流は、測定の間に各LO周波数において4mVと60μAに常にセットされるようにした。IF信号はスペクトルアナライザーを使用して観測された。
【0038】
図6は、作成されたHEBミキサーに対するIF特性の関数としての相対IF出力パワーを示す。SiO膜の厚さが0の場合(SiO膜がない場合)、SiO膜の厚さが9μmおよび35μmの厚さの3dBのロールオフ周波数(IF帯域幅として定義される)は、それぞれ0.4GHz、0.5GHzおよび0.7GHzであった。厚いSiO膜を持つHEBミキサーでは、IF帯域幅の顕著な増加が示された。これらの結果は、超伝導ストリップの上部に設けたSiO膜がHEBミキサーにおけるフォノン拡散のヒートシンクとして有効に作用していることを示している。
【0039】
図7は本発明の超伝導HEBミキサーの実施の形態を示す。図7(a)は本発明のHEBミキサーの構造図の例を示す。図7(b)は平面図である。図7(a)と(b)とで、図面上での寸法の対応関係はない。図7(a)、(b)において、1は基板であって、厚さ300μmのMgOである。2は超伝導ストリップであって、厚さ3nmのNbNである。3は誘電体であって、厚さ30μmのSiOであり、上部誘電体である。4、5はで電極であって、厚さ50nmのNbNである。超伝導ストリップ2の電極間のブリッジの部の長さ(電極間の長さ)は0.4μmであり、ブリッジ部分の幅は3μmである。10は保護膜であり、厚さ10nmのMgO膜である。31、32はアンテナであって、厚さ150nmのアルミニュームである。アンテナ31と32はツインスロットアンテナである(図8参照)。
【0040】
図8は本発明のHEBミキサーの光学顕微鏡写真に基づく図である。図8において、図7(a)、(b)と共通の番号は共通部分を示す。図8では、HEBミキサーは、図7(a)、(b)と同じものであり、0.9THz用ツインスロットアンテナ31、32の間に配置されている。
【0041】
図9は本発明は超伝導HEBミキサーのIF特性を示す。図8の超伝導HEBミキサーのIF特性である。最大3.4GHzのIF帯域幅が得られ、本発明が有効であることを示している。
【0042】
図10は、本発明の雑音特性を測定したTHz帯雑音温度測定システムである。100は液体ヘリューム容器である。102は入力信号源であり、黒体輻射源である。103はBWOであって、LO(ローカル信号)源であり。104は厚さ9.0μmのマイラフィルムである。106は液体ヘリューム容器の窓である。108はIRフィルターである。109は凹面反射膜であって、入射電磁波をMgOレンズ110に焦点が合うように反射させるものである。110はMgOレンズであって、入射電磁波をHEBミキサー素子に焦点が合うようにするものである。112はHEBミキサー素子であって、本発明のミキサー素子である。114はバイアス−Teeであり、DCバイアス信号をHEBミキサーの電極間に印加するものである。116はDCバイアス源である。118は4.2Kで動作する半導体増幅器である。120は増幅器である。122はバンドパスフィルターである。124は電力計である。
【0043】
図10の構成で、入力信号源102は、77Kもしくは295Kの黒体輻射をする。黒体輻射はマイラフィルム104を透過する。LO源103から発生した電磁波はマイラフィルム104で反射し、黒体輻射と混合して、真空窓、IRフィルターを透過し、曲面(もしくは凹面)反射膜109で反射し、HEBミキサーに照射される。HEBミキサー素子112には、DCバイアス116とバイアス−Teeにより、直流電圧が電極間に印加される。ミキサー出力は半導体増幅器118により増幅され、さらに増幅器120で増幅される。その出力はバンドパスフィルターを透過し、電力計124で、HEBミキサーの応答特性が測定される。
【0044】
図11はLO周波数600GHzにおけるヘテロダイン応答特性である。バイアス電圧(横軸) −バイアス電流(縦軸)特性において、unpumped I−V特性HEBミキサーに電磁波の照射のない場合、pumped I−V特性は電磁波照射を行った場合である。バイアス電圧(横軸)I−F出力パワー(縦軸) の特性において、hot loadは入力信号源が295Kの場合であり、cold loldは入力信号源が77Kの場合である。受信機雑音温度は295Kと77Kの出力特性をもとに、Yファクター法により算出することが出来る。受信機雑音温度はバイアス電圧依存性を有しており、バイアス電圧0.6mV付近で最低雑音温度500Kを示した。この値は、現在までに報告されている結果と比べて同程度の低雑音を示している。
【0045】
図12は、LO周波数−受信機雑音温度特性を示す。0.75THz付近において雑音温度が急激に増大している領域が存在しているが、これは大気中の水分子の吸収スペクトルが存在している為に入力信号の減衰が起こったためであると思われる。この領域を無視すると、本発明のHEBミキサーは広周波数領域にわたって低雑音温度であることが分かり、従来のものと同等の雑音性能を有している。
【0046】
【発明の効果】
本発明によれば、HEBミキサーの超伝導ストリップの下部基板と上部誘電体により、HEBミキサーのフォノン拡散が効果的になされ、IF帯域幅を広帯域化することができる。また、超伝導ストリップと上部誘電体の間に超伝導ストリップとエピタキシャル成長における整合性のよい保護膜を設けることにより超伝導ストリップ膜が損傷されることなく上部誘電体を形成することができる。さらに、電極の幅に比較して超伝導ストリップの幅を小さくした。そのためNbN超伝導ストリップが電極領域の近傍付近で、電極とストリップとの間の機械的ストレスにより破壊されることがない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の原理説明図である。
【図2】本発明のIF特性評価用超伝導HEBミキサーを示す図である。
【図3】本発明のIF特性の測定システムであって、本発明の超伝導HEBミキサーのIF帯域幅を測定するためのシステムを示す図である。
【図4】本発明の超伝導膜の温度抵抗特性を示す図であって、本発明の保護膜がある場合とない場合の温度抵抗特性を示す図である。
【図5】本発明の評価用の超伝導HEBミキサーのI−V特性を示す図である。
【図6】本発明の超伝導HEB素子のIF特性を示す図である。
【図7】本発明の超伝導HEBミキサーを示す図である。
【図8】本発明の超伝導HEBミキサーの光学顕微鏡写真に基づく図、HEBミキサーの平面図である。
【図9】本発明の超伝導HEBミキサーのIF特性を示す図である。
【図10】THz帯雑音温度測定システムを示す図である。
【図11】本発明の超伝導HEBミキサーのヘテロダイン応答特性を示す図である。
【図12】本発明の超伝導HEBミキサーのLO周波数−受信機雑音温度特性を示す図である。
【図13】従来の超伝導HEB素子を示す図である。
【符号の説明】
1:基板
2:超伝導ストリップ
3:誘電体
21:ログペリアンテナ
22:ログペリアンテナ
【発明の属する技術分野】
本発明は、超伝導薄膜を使用したホットエレクトロンボロメータ素子(以後、HEB素子と称する)に関するもので、特に、フォノン冷却型ホットエレクトロンボロメータ素子のフォノン拡散効果を改良したものである。
【0002】
【従来の技術】
電波天文学や地球環境計測等において、THz領域で低雑音、高感度に動作する受信機が必要とされている。そのような受信機として現在まで、超伝導−絶縁体−超伝導(SIS)ミキサーが実現されている。しかし、SIS素子は、ギャップ周波数以上の電磁波の照射を受けた時に超伝導性が破壊されるために超伝導ギャップ周波数以上の周波数で大きく性能が低下する。
【0003】
超伝導によるHEB素子は超伝導エネルギギャップの制限を受けないので、HEB素子を使用したミキサー(以後、HEBミキサーと称する)は、THz周波数帯より上で動作する低ノイズミキサーとして期待されている。ホットエレクトロンに対する冷却効果をもつ二つのタイプのHEBミキサーがあり、拡散冷却型(超伝導ストリップに発生したホットエレクトロンを電極で冷却するタイプ)とフォノン冷却型(ホットエレクトロンと超伝導ストリップのフォノンとの相互作用によりホットエレクトロンを冷却するタイプ)の二つのタイプのHEB素子が研究され、1THz以上の電磁波に対して低ノイズの性能のものが開発されている(例えば、非特許文献1参照)。HEBミキサーにおける問題は中間周波数IFの帯域が狭く、数GHz以下ということである。HEBミキサーのIF帯域幅は、ホットエレクトロンプロセスに依存するので、中間周波帯域IFを広げるためにはこれらのホットエレクトロンのエネルギを素早く拡散させることが必要である。フォノン冷却型HEB素子の場合、ホットエレクトロンは、格子との相互作用により冷却され、そして、エレクトロンからエネルギを受け取ったフォノンは基板に流れる。このようにしてホットエレクトロンを冷却することにより動作するHEBミキサーでは、広いIF帯域幅を得るためには、エレクトロン−フォノン緩和時間τe−phの短い超伝導体、例えば窒化ニオブ(NbN)のような超伝導転移温度Tcの高いものを使用しなければならない。また、フォノン拡散時間τesを短くするためにはHEB素子の膜厚を薄くする必要がある。
【0004】
図13は従来の超伝導HEB素子の構成を示す。図13(a)は従来のHEB素子の断面図を示し、図13(b)は平面図を示す。図13(a)、(b)において、1は基板であり、MgO等の誘電体により構成されるものである。2は超伝導ストリップであり、NbN等の超伝導薄膜である。21、22はログペリアンテナであり、例えばNbNにより構成されるものである。図13(a)、(b)の構成の動作は後述する(図1(b)参照)。
【0005】
【非特許文献1】
Y.Uzawa etc.”Performance of a quasi−optical NbN hot−electron
bolometric mixer at terahertz frequencies” Supercond. Sci. Technol 15 (2002) 141−145 .
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
前述したようにIF帯域幅を広帯域化するためには、外部電磁波の照射により励起された電子のエネルギを効率よく拡散させる必要がある。そのために、フォノン冷却型HEBミキサーの場合、電子−フォノン緩和時間の短縮とフォノン拡散時間を短縮しなければならない。電子−フォノン緩和時間を短縮するためには、高Tc超伝導材料を選択する必要がある。一方、フォノン拡散時間を短縮して、フォノンを効率的に基板に拡散させるためには、超伝導ストリップを薄くするとともに、基板と超伝導薄膜との界面の熱抵抗を小さくする必要がある。しかし、超伝導膜のTcは膜厚に依存し、膜厚を薄くするとTcが低下する。このように、電子−フォノン緩和時間の短縮とフォノン拡散時間の短縮は互いに矛盾する要素があり、高Tcでかつフォノン拡散時間の短いフォノン冷却効果の高い超伝導HEB素子を作成することは困難であった。本発明は、高Tcでかつフォノン拡散時間の短い冷却効率の高い超伝導HEB素子を提供することを目的にする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、超伝導ストリップの上部にフォノン拡散のためのヒートシンクとして誘電体膜を形成することにより超伝導ストリップ膜厚を減らすことなくフォノン拡散効率を向上させる。
HEBミキサーのIF帯域幅は、次のようになる。
【0008】
【数1】
【0009】
ここに、τ0 は、電子緩和時間であり、Cは動作バイアス点により定義される自己加熱パラメータである。フォノン冷却型HEBミキサーにおいて、τ0 は、次の式で表現される。
【0010】
【数2】
【0011】
ここに、τe−phは電子−フォノン緩和時間であり、τesはフォノン拡散時間である。ce は電子熱容量であり、cp はフォノン熱容量である。τe−phは電子温度Θに逆比例する。また、電子−フォノン緩和時間が短かくなるように高Tcの超伝導材料を使用する必要がある。NbN薄膜は短いτesをもつ材料として最善のものであり、数nmの厚さの薄膜でも比較的に高いTcをもつ。NbNは、Θ=10Kでτe−ph=12psである。それは、13GHzのIF帯域幅に相当する。
【0012】
IF帯域幅の理論的限界は、非平衡フォノンが基板に十分速く拡散し、フォノンエネルギが電子により再吸収されないという場合に達成できる。しかし、実際にはフォノンの拡散時間等が存在し、理論的限界まで達成することは難しい。τesはストリップの厚さ、ブリッジと基板の間のマッチング係数α、もしくは音速uにより決められる。
【0013】
【数3】
【0014】
そのため、きわめて薄い超伝導膜に良好に音響的にマッチングする基板を使用することがτesを小さくするために必要である。超伝導膜の厚さを減らすことはさらにτesを小さくすることになるが、それは同時にTcを低下させ、電子−フォノン緩和時間τe−phを大きくさせることになる。
【0015】
本発明はこのτesとτe−phを同時に小さくさせることができないことから生じるIF帯域幅の広帯域化を困難にさせる問題を解決するものである。本発明は、超伝導ストリップの上部にもフォノン冷却材料を置くことにより、超伝導ストリップのフォノンが基板だけでなく、上部誘電体ヒートシンクにも拡散するようにすることにより、Tcを低下させることなくフォノン拡散時間τesを小さくした。この場合フォノン拡散時間は次のようになる。
【0016】
【数4】
【0017】
ここに、τes,sは超伝導ストリップから基板へのフォノン拡散時間、τes,uは超伝導ストリップから上部誘電体ヒートシンクへのフォノン拡散時間である。
【0018】
上部誘電体ヒートシンクとしては、超伝導ストリップに音響的に良く整合する誘電体材料が、効率的にフォノン拡散するために使用されねばならない。また、フォノン拡散は拡散長がLより小さければ生じない。そのため、上部誘電体ヒートシンクの厚さは、フォノン拡散長、L=lph/ α’より厚くなければならない。但し、lphはフォノンの平均自由行程であり、そしてα’は超伝導ストリップと誘電体との間の音響的マッチングの程度を表す係数である。上部誘電体と超伝導ストリップの間の音響マッチングα’がストリップと基板の間の音響マッチングαに等しく、上部誘電体はヒートシンクとして十分に有効な厚さであるとするとすると、τesは超伝導ストリップの膜厚を減らすことなしに、理論的に半分になる。
【0019】
図1(a)は本発明のフォノン拡散の原理説明図であり、図1(b)は従来のフォノン拡散の原理を説明するものである。図1(a)において、1は基板であり、MgO等の誘電体により構成されるものである。2は超伝導ストリップであり、NbN等の超伝導薄膜である。3は上部誘電体である。21、22はログペリアンテナであり、NbN、Au 等により構成される。超伝導ストリップ2においてホットエレクトロンはフォノンと相互作用し、フォノンは誘電体の基板1と上部誘電体3に拡散し、ホットエレクトロンが冷却される。
【0020】
図1(b)において、1は基板であり、MgO等の誘電体により構成される。2は超伝導ストリップであり、NbN等の超伝導薄膜である。21、22はログペリアンテナである。超伝導ストリップ2においてホットエレクトロンはフォノンと相互作用し、エレクトロンからエネルギを受けとったフォノンは誘電体の基板1に拡散する。このような過程でホットエレクトロンが冷却される。
【0021】
本発明では図1(a)に示されるように誘電体基板1と上部誘電体3の双方からフォノンが拡散され、フォノン拡散時間τesが小さくなる。そのため効率的にフォノン冷却される。これに対し、従来のものは、図1(b)に示されるように、フォノンは下部の基板1から拡散されるだけでフォノン拡散効率は低いものであった。
【0022】
このように、従来のHEBミキサーは、Tcを高くするために超伝導ストリップを厚くするとフォノン拡散時間が長くなり、IF帯域幅を広くとることができなかった。しかし、本発明では十分に高いTcの超伝導ストリップでもその上下に設けたヒートシンクにフォノン拡散するので、超伝導薄膜と二つの誘電体界面での熱抵抗の合成熱抵抗が小さくなり、フォノン拡散時間を短かくできる。そのために、本発明のHEB素子を使用したミキサーはIF帯域幅を広くとることが可能になる。
【0023】
【発明の実施の形態】
本発明者等は、NbN上部に厚さ9ないし35μmの範囲で、SiO膜をもつHEBミキサーを設計し、作成した。そして、上部誘電体ヒートシンクの冷却効果を評価するために100GHzでHEBミキサーのIF帯域幅を測定した。
【0024】
図2(a)、(b)は本発明のIF特性評価用超伝導HEBミキサーを示す。図2(a)は本発明のHEB素子の断面図である。図2(a)において、1は基板であり、厚さ300μmのMgOである。2は超伝導ストリップであり、厚さ3.5nmのNbN超伝導薄膜である。3は上部誘電体であり、厚さ9ないし35μmのSiOである。8は超伝導ストリップのブリッジ部である。10は保護膜であり、厚さ10nmのMgO層である。21、22はログペリアンテナ、NbNにより超伝導ストリップ2に一体に形成したものである。
【0025】
図2(b)は本発明のHEB素子を使用したHEBミキサーであり、平面図を示す。図2(b)において図2(a)と同一参照番号は同一部分を表す。NbNの超伝導ストリップ2の幅は20μmであり厚さ150nmである。2はHEB素子の超伝導ストリップであり、そのブリッジ部は長さ2μm、幅2μmである。21、22はログペリアンテナである。
【0026】
HEBミキサーのIF帯域幅の測定から上部誘電体の効果を確認するために、HEB素子自体の特性が、上部誘電体膜を形成する前後で変化していないかを確認した。NbN超伝導ストリップが電極領域(ログペリアンテナ21と22の端部付近)で、電極と超伝導ストリップとの間の機械的ストレスにより破壊されるとHEBミキサーの特性を変えられる。そのため、ログペリアンテナ21、22の端部の幅に比較して超伝導ストリップ2の幅を小さくし、電極領域との結合部で超伝導ストリップが損傷を受けないようにした。
【0027】
NbN超伝導ストリップ2の厚さは3.5nmである。NbN超伝導ストリップのブリッジ部分の長さは2μm、幅2μmである。ログペリアンテナ21、22は厚さ100nmの厚さのNbNである。各NbN膜は、アルゴンと窒素の混合ガス中においてdc反応性スパッタリングにより形成した。超伝導ストリップ2であるNbN膜が基板1に良好にエピタキシャル成長するように基板1としては単結晶MgO基板が使用された。
【0028】
単結晶MgOは、熱導電性が良い上にNbN膜と良好に音響マッチングするので、上部ヒートシンクとして理想的である。しかし、MgO膜のフォノン拡散長Lを考慮するとその厚さは数μmより厚くする必要がある。そのようにMgOを厚く製膜することは難しいので、上部誘電体ヒートシンクとして厚く製膜しやすいSiO膜を使用した。
【0029】
Tcの劣化はτe−phの増大になり、IF帯域幅を狭めるので、SiOをつけたことにより、NbN超伝導ストリップに損傷をあたえてはならない。製造プロセスにおいて、SiO膜が形成される前に、NbN超伝導ストリップとSiOフィルムの間の界面を清浄にするためのプロセスが必要である。クリーニングプロセスにより超伝導ストリップがダメージを受けることを防ぐために、保護膜として10nmの厚さのMgO膜を、NbN超伝導ストリップの形成に引き続いて(in situ)形成した。最終的に、9ないし35μmの厚さのSiO膜を高真空蒸着によりMgO保護膜の上に形成した。
【0030】
図3は、IF特性の測定システムを示す。本発明のHEBミキサー322(図2のHEB素子)は、真空のクライオスタット311の中に置かれ、超低温に冷却される。LO発振源35により最大2dBの93.0〜99.9GHzの局部発振波(LO)が発振され、信号源36により12dBの100GHzの信号が発振される。それぞれの信号は、方向性結合器38により弱く結合され、HEBミキサー32に照射される。IF信号は、スペクトルアナライザー39により観測する。バイアスポイントはLO電力とDC電源により調整され、出力が最も大きくなるバイアスポイントに固定した。また、LO周波数を変えてもバイアスポイントが変わらないように、LO電力およびDCバイアスを調整しながらIF測定をした。
【0031】
超伝導ストリップの上部に形成するMgO保護膜自体により超伝導ストリップが損傷される程度を評価するために、MgO保護膜がある場合とない場合でのNbN超伝導ストリップの温度−抵抗特性を測定した。
【0032】
図4(a)は、rfスパッタリングにより3.5nmの厚さのNbN超伝導(薄膜)上に10nmの厚さのMgO膜を形成した場合の温度−抵抗の関係と、MgO膜を形成しなかった場合のNbN超伝導ストリップの温度−抵抗の関係を示す。MgO膜はそれぞれ以前の製膜に引き続いて(in situ)形成した。
【0033】
MgO保護膜をrfスパッタリングにより形成した場合、NbN超伝層ストリップのTcはMgO膜のない時のものより低いことが示されている。このTcの低下はrfスパッタリングの過程において逆スパッタリングによりNbN超伝導ストリップが損傷を受けたことによるものと考えられる。
【0034】
図4(b)はイオンビームスパッタリングによりNbN超伝導(薄膜)の上にMgO保護膜を形成した場合の温度−抵抗特性と、MgO保護膜がない場合の温度−抵抗特性を示す。図4(b)が示すようにイオンビームスパッタリングによりMgO膜を形成した場合には、NbN超伝導ストリップのTcは、MgO膜を形成しなかった場合とほとんど同じである。これは、イオンビームスパッタリングが超薄膜であるNbN超伝導ストリップの保護膜として有効な手段であることを意味する。
【0035】
本実施の形態において、様々な厚さの上部SiO膜について同じHEBミキサーを使用してIF帯域幅測定を行った。図5は本発明の評価用の超伝導HEBミキサーのI−V特性を示し、上部SiO膜のない場合、9μmと35μmの厚さのSiO膜を製膜する前後のものである。
【0036】
図5(a)はSiO膜を形成する前のHEBミキサーのI−V特性である。図5(b)および(c)は図5(a)と同じHEB素子について、上部誘電体の厚さを変えた場合の特性を比較したものである。図5(b)は9μmの厚さのSiO膜を形成した場合のHEBミキサーのI−V特性である。図5(c)は35μmの厚さのSiO膜を形成した場合のHEBミキサーのI−V特性である。図5(a)、(b)および(c)が示すようにSiO膜の形成前と、厚さが9μと35μmのSiO膜を形成した場合とでI−V特性は変化しない。従って、SiO膜の形成によりHEBミキサーへのダメージが生じていないことを示している。
【0037】
上部ヒートシンクとしてSiO膜を使用することによるフォノン拡散効率の改善を評価するために、SiO膜がない場合、9μmおよび35μmの厚さのSiO膜があるそれぞれの場合について、HEBミキサーのIF帯域幅を測定した。測定システムは図3で説明したものであり、HEBミキサーのブロックは、液体ヘリュームクライオスタットに置かれる。ローカル発振波と信号波は方向性結合器と減衰器により弱く結合される。信号波の周波数は100GHzであり、信号電力は一定値に固定される。LO発振源の周波数は94.0から99.9GHzまで変化させた。バイアス電圧と電流は、測定の間に各LO周波数において4mVと60μAに常にセットされるようにした。IF信号はスペクトルアナライザーを使用して観測された。
【0038】
図6は、作成されたHEBミキサーに対するIF特性の関数としての相対IF出力パワーを示す。SiO膜の厚さが0の場合(SiO膜がない場合)、SiO膜の厚さが9μmおよび35μmの厚さの3dBのロールオフ周波数(IF帯域幅として定義される)は、それぞれ0.4GHz、0.5GHzおよび0.7GHzであった。厚いSiO膜を持つHEBミキサーでは、IF帯域幅の顕著な増加が示された。これらの結果は、超伝導ストリップの上部に設けたSiO膜がHEBミキサーにおけるフォノン拡散のヒートシンクとして有効に作用していることを示している。
【0039】
図7は本発明の超伝導HEBミキサーの実施の形態を示す。図7(a)は本発明のHEBミキサーの構造図の例を示す。図7(b)は平面図である。図7(a)と(b)とで、図面上での寸法の対応関係はない。図7(a)、(b)において、1は基板であって、厚さ300μmのMgOである。2は超伝導ストリップであって、厚さ3nmのNbNである。3は誘電体であって、厚さ30μmのSiOであり、上部誘電体である。4、5はで電極であって、厚さ50nmのNbNである。超伝導ストリップ2の電極間のブリッジの部の長さ(電極間の長さ)は0.4μmであり、ブリッジ部分の幅は3μmである。10は保護膜であり、厚さ10nmのMgO膜である。31、32はアンテナであって、厚さ150nmのアルミニュームである。アンテナ31と32はツインスロットアンテナである(図8参照)。
【0040】
図8は本発明のHEBミキサーの光学顕微鏡写真に基づく図である。図8において、図7(a)、(b)と共通の番号は共通部分を示す。図8では、HEBミキサーは、図7(a)、(b)と同じものであり、0.9THz用ツインスロットアンテナ31、32の間に配置されている。
【0041】
図9は本発明は超伝導HEBミキサーのIF特性を示す。図8の超伝導HEBミキサーのIF特性である。最大3.4GHzのIF帯域幅が得られ、本発明が有効であることを示している。
【0042】
図10は、本発明の雑音特性を測定したTHz帯雑音温度測定システムである。100は液体ヘリューム容器である。102は入力信号源であり、黒体輻射源である。103はBWOであって、LO(ローカル信号)源であり。104は厚さ9.0μmのマイラフィルムである。106は液体ヘリューム容器の窓である。108はIRフィルターである。109は凹面反射膜であって、入射電磁波をMgOレンズ110に焦点が合うように反射させるものである。110はMgOレンズであって、入射電磁波をHEBミキサー素子に焦点が合うようにするものである。112はHEBミキサー素子であって、本発明のミキサー素子である。114はバイアス−Teeであり、DCバイアス信号をHEBミキサーの電極間に印加するものである。116はDCバイアス源である。118は4.2Kで動作する半導体増幅器である。120は増幅器である。122はバンドパスフィルターである。124は電力計である。
【0043】
図10の構成で、入力信号源102は、77Kもしくは295Kの黒体輻射をする。黒体輻射はマイラフィルム104を透過する。LO源103から発生した電磁波はマイラフィルム104で反射し、黒体輻射と混合して、真空窓、IRフィルターを透過し、曲面(もしくは凹面)反射膜109で反射し、HEBミキサーに照射される。HEBミキサー素子112には、DCバイアス116とバイアス−Teeにより、直流電圧が電極間に印加される。ミキサー出力は半導体増幅器118により増幅され、さらに増幅器120で増幅される。その出力はバンドパスフィルターを透過し、電力計124で、HEBミキサーの応答特性が測定される。
【0044】
図11はLO周波数600GHzにおけるヘテロダイン応答特性である。バイアス電圧(横軸) −バイアス電流(縦軸)特性において、unpumped I−V特性HEBミキサーに電磁波の照射のない場合、pumped I−V特性は電磁波照射を行った場合である。バイアス電圧(横軸)I−F出力パワー(縦軸) の特性において、hot loadは入力信号源が295Kの場合であり、cold loldは入力信号源が77Kの場合である。受信機雑音温度は295Kと77Kの出力特性をもとに、Yファクター法により算出することが出来る。受信機雑音温度はバイアス電圧依存性を有しており、バイアス電圧0.6mV付近で最低雑音温度500Kを示した。この値は、現在までに報告されている結果と比べて同程度の低雑音を示している。
【0045】
図12は、LO周波数−受信機雑音温度特性を示す。0.75THz付近において雑音温度が急激に増大している領域が存在しているが、これは大気中の水分子の吸収スペクトルが存在している為に入力信号の減衰が起こったためであると思われる。この領域を無視すると、本発明のHEBミキサーは広周波数領域にわたって低雑音温度であることが分かり、従来のものと同等の雑音性能を有している。
【0046】
【発明の効果】
本発明によれば、HEBミキサーの超伝導ストリップの下部基板と上部誘電体により、HEBミキサーのフォノン拡散が効果的になされ、IF帯域幅を広帯域化することができる。また、超伝導ストリップと上部誘電体の間に超伝導ストリップとエピタキシャル成長における整合性のよい保護膜を設けることにより超伝導ストリップ膜が損傷されることなく上部誘電体を形成することができる。さらに、電極の幅に比較して超伝導ストリップの幅を小さくした。そのためNbN超伝導ストリップが電極領域の近傍付近で、電極とストリップとの間の機械的ストレスにより破壊されることがない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の原理説明図である。
【図2】本発明のIF特性評価用超伝導HEBミキサーを示す図である。
【図3】本発明のIF特性の測定システムであって、本発明の超伝導HEBミキサーのIF帯域幅を測定するためのシステムを示す図である。
【図4】本発明の超伝導膜の温度抵抗特性を示す図であって、本発明の保護膜がある場合とない場合の温度抵抗特性を示す図である。
【図5】本発明の評価用の超伝導HEBミキサーのI−V特性を示す図である。
【図6】本発明の超伝導HEB素子のIF特性を示す図である。
【図7】本発明の超伝導HEBミキサーを示す図である。
【図8】本発明の超伝導HEBミキサーの光学顕微鏡写真に基づく図、HEBミキサーの平面図である。
【図9】本発明の超伝導HEBミキサーのIF特性を示す図である。
【図10】THz帯雑音温度測定システムを示す図である。
【図11】本発明の超伝導HEBミキサーのヘテロダイン応答特性を示す図である。
【図12】本発明の超伝導HEBミキサーのLO周波数−受信機雑音温度特性を示す図である。
【図13】従来の超伝導HEB素子を示す図である。
【符号の説明】
1:基板
2:超伝導ストリップ
3:誘電体
21:ログペリアンテナ
22:ログペリアンテナ
Claims (7)
- 誘電体基板と、該基板上に設けられた超伝導薄膜と、該超伝導薄膜に接続された電極により構成されるホットエレクトロンボロメータ素子において、
該超伝導薄膜の上部にホットエレクトロンと相互作用したフォノンを拡散させる誘電体を備えることを特徴とするホットエレクトロンボロメータ素子。 - 該超伝導薄膜はNbNであることを特徴とするホットエレクトロンボロメータ素子。
- 該超伝導薄膜と該上部誘電体との間に保護膜を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のホットエレクトロンボロメータ素子。
- 該保護膜は、超伝導薄膜に損傷を与えない方法により製膜されたものであることを特徴とする請求項3に記載のホットエレクトロンボロメータ素子。
- 該保護膜を製膜する方法はイオンビームスパッタリング法であることを特徴とする請求項4に記載のホットエレクトロンボロメータ素子。
- 該保護膜はMgOであることを特徴とする請求項4又は5に記載のホットエレクトロンボロメータ素子。
- ホットエレクトロンボロメータ素子の幅に比較して該電極幅は十分大きいものであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載のホットエレクトロンボロメータ素子。
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- 2003-03-20 JP JP2003078581A patent/JP2004288852A/ja active Pending
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