JP2004283028A - 植物における活性窒素ストレスの抑制方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】植物における活性窒素ストレスの抑制手段を提供すること。
【解決手段】ペルオキシレドキシンの発現を増大させる、植物における活性窒素ストレスの抑制方法;植物細胞に、ペルオキシレドキシンをコードする核酸を導入し、形質転換植物細胞を得るステップ、得られた形質転換植物細胞から植物体を再生するステップ、及び得られた植物体を、導入された核酸に由来するペルオキシレドキシンの発現に適した条件下に生育させるステップを含む、活性窒素ストレス抑制能を有するトランスジェニック植物の製造方法;及び該製造方法により得られるトランスジェニック植物又はその種子。
【選択図】 なし
【解決手段】ペルオキシレドキシンの発現を増大させる、植物における活性窒素ストレスの抑制方法;植物細胞に、ペルオキシレドキシンをコードする核酸を導入し、形質転換植物細胞を得るステップ、得られた形質転換植物細胞から植物体を再生するステップ、及び得られた植物体を、導入された核酸に由来するペルオキシレドキシンの発現に適した条件下に生育させるステップを含む、活性窒素ストレス抑制能を有するトランスジェニック植物の製造方法;及び該製造方法により得られるトランスジェニック植物又はその種子。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、植物における活性窒素ストレスの抑制方法、活性窒素ストレス抑制能を有する植物及びその製造方法、並びに植物の生育環境における活性窒素ストレス抑制剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
哺乳動物において、一酸化窒素、そのレドックス活性型であるS−ニトロソグルタチオン(GSNO)などの活性窒素分子種は、活性酸素分子種、ヘム酵素群、タンパク質を含めた生体チオール分子種などの標的分子と速やかに反応し、免疫、細胞シグナル伝達、種々のホメオスタチック制御プロセスなど、生理学的現象及び病理学的現象の両方において、種々の役割を果たすことが知られている。
【0003】
また、植物においては、一酸化窒素は、病原菌への防御応答の活性化シグナル分子として働き、おそらく、その他の生理プロセスや発生プロセスをも調節していると考えられている(非特許文献1)。
【0004】
例えば、前記一酸化窒素及びその機能的に同等な誘導体の生物活性は、代謝酵素、イオンチャネル、シグナル伝達分子、転写因子などの標的分子の触媒機能及び調節機能を担うチオール基及び遷移金属中心の酸化還元修飾に関与することが報告されている(非特許文献2)。
【0005】
しかしながら、一酸化窒素及びその機能的に同等な誘導体は、DNAを変異させ、タンパク質を酸化、ニトロ化し、脂質酸化を開始させ、細胞傷害等を引き起こす場合がある(非特許文献3及び非特許文献4)。
【0006】
植物には,硝酸から亜硝酸を経て一酸化窒素を生成する経路がある(非特許文献5)。植物における前記活性窒素分子種によるストレス(活性窒素ストレス)の例としては、植物への過剰な亜硝酸塩の存在は、生育阻害や葉の白化現象を引き起こすなどが挙げられるが、該活性窒素ストレスに対する応答機構は、不明な点が多いのが現状である。
【0007】
【非特許文献1】
ウェンデーン(Wendehenne),Trends Plant
Sci.,6,177−183(2001)
【非特許文献2】
ステイムラー(Stamler)ら,Cell,106,675−683頁,2001
【非特許文献3】
コッペノル(Koppenol)ら,Chem.Res.Toxicol.,5,834−842,1992
【非特許文献4】
ナザン(Nathan)ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、97、8841−8848、2000
【非特許文献5】
ロケル(Rockel)ら、J.Exp.Bot.、53、103−110、2002
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記従来の技術に鑑みてなされたものであり、本発明は、植物における活性窒素ストレスを抑制すること、活性窒素ストレスの要因となる一酸化窒素・パーオキシナイトライト等の活性窒素種や、活性窒素源である硝酸態窒素により汚染された土壌のレメディエーションのための手段を提供すること等を可能にする、植物における活性窒素ストレスの抑制方法を提供することを目的とする。また、本発明は、活性窒素ストレス抑制能を発揮し、活性窒素ストレスの要因となる一酸化窒素・パーオキシナイトライト等の活性窒素種や、活性窒素源である硝酸態窒素により汚染された土壌のレメディエーションに有用なトランスジェニック植物又はその種子を提供することを目的とする。さらに、本発明は、活性窒素ストレス抑制能を発揮し、活性窒素ストレスの要因となる一酸化窒素・パーオキシナイトライト等の活性窒素種や、活性窒素源である硝酸態窒素により汚染された土壌のレメディエーションに有用なトランスジェニック植物又はその種子を供給することができる、活性窒素ストレス抑制能を有する植物の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、活性窒素ストレスの要因となる一酸化窒素・パーオキシナイトライト等の活性窒素種や、活性窒素源である硝酸態窒素により汚染された土壌のレメディエーション等に有用な、植物の生育環境における活性窒素ストレス抑制剤を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は、
〔1〕 ペルオキシレドキシンの発現を増大させることを特徴とする、植物における活性窒素ストレスの抑制方法、
〔2〕 該ペルオキシレドキシンが、植物由来の2−Cysペルオキシレドキシンである、前記〔1〕記載の抑制方法、
〔3〕 該2−Cysペルオキシレドキシンが、
(i) 配列番号:1に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド、
(ii) 配列番号:1に示されるアミノ酸配列において、少なくとも1残基のアミノ酸の置換、欠失、付加若しくは挿入を有するアミノ酸配列を有し、かつ、パーオキシナイトライト消去能を有するポリペプチド、及び
(iii) 配列番号:1に示されるアミノ酸配列と少なくとも20%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、パーオキシナイトライト消去能を有するポリペプチド、
からなる群より選ばれた1種のポリペプチドである、前記〔1〕又は〔2〕記載の抑制方法、
〔4〕 (a)植物細胞に、ペルオキシレドキシンをコードする核酸を導入し、形質転換植物細胞を得るステップ、
(b)前記(a)で得られた形質転換植物細胞から植物体を再生するステップ、及び
(c)前記(b)で得られた植物体を、導入された核酸に由来するペルオキシレドキシンの発現に適した条件下に生育させるステップ、
を含む、活性窒素ストレス抑制能を有するトランスジェニック植物の製造方法、
〔5〕 該Cysペルオキシレドキシンが、植物由来の2−Cysペルオキシレドキシンである、前記〔4〕記載の製造方法、
〔6〕 該ペルオキシレドキシンをコードする核酸が、誘導可能なプロモーターの制御下に配置された核酸である、前記〔5〕記載の製造方法、
〔7〕 該ペルオキシレドキシンをコードする核酸が、
(I) 配列番号:1に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする核酸、
(II) 配列番号:1に示されるアミノ酸配列において、少なくとも1残基のアミノ酸の置換、欠失、付加又は挿入を有するアミノ酸配列を有し、かつ、パーオキシナイトライト消去能を有するポリペプチドをコードする核酸、
(III) 前記(I)の核酸の塩基配列と少なくとも20%の配列同一性を有し、かつコードされるポリペプチドが、パーオキシナイトライト消去能を有するポリペプチドである核酸、及び
(IV) 前記(I)の核酸とストリンジェントな条件下にハイブリダイズする核酸であり、かつコードされるポリペプチドが、パーオキシナイトライト消去能を有するポリペプチドである核酸、
からなる群より選ばれた1種の核酸である、前記〔5〕又は〔6〕記載の製造方法、並びに
〔8〕 前記〔4〕〜〔7〕いずれか1項に記載の製造方法により得られるトランスジェニック植物又はその種子、
に関する。
【0010】
【発明の実施の形態】
本明細書において、「活性窒素ストレス」とは、土壌の硝酸体窒素や大気中の窒素酸化物に由来する活性窒素種、例えば、一酸化窒素、パーオキシナイトライト、プロトン型亜硝酸塩等により生じるニトロソ化及び酸化障害の結果としてもたらされる活性窒素誘導細胞傷害等ストレスをいう。
【0011】
本発明は、予想外にも、植物、例えば、シロイヌナズナのクロロプラスト ペルオキシレドキシンにより、パーオキシナイトライトが消去され、活性窒素ストレスによる酸化傷害を減少させるという本発明者らの知見に基づものであり、かかる知見により、植物における活性窒素ストレスの抑制手段、土壌のレメディエーション手段等が提供される。
【0012】
本発明の植物における活性窒素ストレスの抑制方法は、ペルオキシレドキシンの発現を増大させることに1つの大きな特徴がある。本発明の抑制方法においては、植物内におけるペルオキシレドキシンの発現を増大させるため、活性窒素ストレスによる酸化傷害を低減させることができるという優れた効果を発揮する。
【0013】
本発明の抑制方法に用いられるペルオキシレドキシンとしては、パーオキシナイトライトを捕捉して、消去する活性(パーオキシナイトライト消去能)を呈するものであればよい。前記ペルオキシレドキシンとしては、具体的には、2−Cysペルオキシレドキシン、1−Cysペルオキシレドキシン等が挙げられる。植物における活性を十分に発揮させる観点から、植物由来2−Cysペルオキシレドキシンが好ましく、具体的には、シロイヌナズナ由来2−Cysペルオキシレドキシン、イネ由来2−Cysペルオキシレドキシン、オオムギ由来2−Cysペルオキシレドキシン、ホウレンソウ由来2−Cysペルオキシレドキシン等が挙げられる。
【0014】
前記2−Cysペルオキシレドキシンとしては、より具体的には、(i) 配列番号:1に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドが挙げられる。なお、前記(i)のポリペプチドは、シロイヌナズナクロロプラストの2−Cysペルオキシレドキシンであり、本発明者らにより、パーオキシナイトライト消去能を有することが見出されたものである。
【0015】
前記配列番号:1に示されるアミノ酸配列を有する2CPRXは,266アミノ酸残基からなる前駆体タンパク質として生産され、葉緑体に輸送される。その後、アミノ末端側の68残基からなると推定される輸送シグナル配列が切断され、成熟型タンパク質を生じる。
【0016】
また、本発明の抑制方法に用いられる2−Cysペルオキシレドキシンは、パーオキシナイトライト消去能を有するものであれば、配列番号:1に示されるアミノ酸配列により限定されるものではなく、(ii) 配列番号:1に示されるアミノ酸配列において、少なくとも1残基のアミノ酸の置換、欠失、付加若しくは挿入を有するアミノ酸配列を有し、かつ、パーオキシナイトライト消去能を有するポリペプチド、又は
(iii) 配列番号:1に示されるアミノ酸配列と少なくとも20%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、パーオキシナイトライト消去能を有するポリペプチド、
であってもよい。
【0017】
前記(ii)のポリペプチドは、天然に存在するバリアントであってもよく、人為的に変異(置換、欠失、付加若しくは挿入)を導入して得られた変異体であってもよい。前記人為的な変異の導入は、配列番号:1のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする核酸に対し、慣用の部位特異的変異導入方法〔例えば、gapped duplex法(Nucleic Acids Research,12,9441−9456,1984)、Kunkel法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,82,488−492,1985)等〕により変異を導入することにより行なわれうる。
【0018】
前記変異としては、例えば、配列番号:1に示されるアミノ酸配列中の少なくとも1残基のアミノ酸の保存的置換;配列番号:1のアミノ酸番号:110〜122、140〜155、及び240〜245を除く領域におけるアミノ酸の置換、欠失、付加若しくは挿入;配列番号:1のアミノ酸番号:110〜122、140〜155、及び240〜245を除く領域の少なくとも1つのおけるアミノ酸の保存的置換等が挙げられる。ただし、配列番号:1のアミノ酸番号:119
及び241のシステイン残基の置換は除かれる。
【0019】
本明細書において、「保存的置換」は、生理的に同等な物理化学的性質を与えるアミノ酸との置換をいう。前記「生理的に同等な物理化学的性質を与えるアミノ酸」としては、ポリペプチドの有する生理活性を維持し、かつ生体において、立体構造における形状の特徴、疎水性、電荷、pK等に関して同等の物理化学的性質を示しうるアミノ酸が挙げられる。より具体的には、下記グループ1〜6:
グループ1 グリシン、アラニン;
グループ2 バリン、イソロイシン、ロイシン;
グループ3 アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン;
グループ4 セリン、スレオニン;
グループ5 リジン、アルギニン;
グループ6 フェニルアラニン、チロシン;
のいずれかのグループに属するアミノ酸と、同じグループに属する他のアミノ酸との置換が挙げられる。
【0020】
前記パーオキシナイトライト消去能は、ブライク(Bryk)ら〔Nature 407,211−215,2000〕に記載の技術により、パーオキシナイトライト−感受性プローブであるジヒドロローダミン123を用いて評価されうる。具体的には、測定対象のポリペプチドを、50mM リン酸カリウム(pH7.0)と、20μM ジヒドロローダミン123と20μM ジエチレントリアミン五酢酸とを含有した溶液中、25℃でインキュベートする。パーオキシナイトライトを添加し、ついで、1分間強く攪拌させて、ジヒドロローダミン123のローダミンへの酸化を開始させる。また、使用に先立ち、パーオキシナイトライトの濃度を、0.1M NaOH中302nm(ε302=1,670M−1cm−1)での吸光度から決定しておく。ローダミン123の形成を、500nmで、分光光度法によりモニターする。なお、パーオキシナイトライトの存在下では、ジヒドロローダミン123は、高蛍光ローダミン123に酸化される。
【0021】
また、本発明に用いることができる2−Cysペルオキシレドキシンの機能は、過酸化水素還元ペルオキシダーゼ活性の発現によっても評価されうる。前記過酸化水素還元ペルオキシダーゼ活性は、H2O2あるいはtert−ブチルハイドロペルオキシド(t−BuOOH)を基質とし、組換タンパク質の再生のための酵母由来のTrx/NADPH:Trxオキシドレダクターゼ(TR)共役系とを用いた山本(Yamamoto)ら〔FEBS Lett. 447, 269−273,1999〕の方法の改変法により評価されうる。具体的には、20mM リン酸カリウム(pH 7.0)と、200μM NADPHと、6μMTR〔カルバイオケム(Calbiochem)社製〕と0.6−6μM 組換タンパク質とを含有した溶液を、25℃でプレインキュベートする。その後、基質(70μM t−BuOOH又は100μM H2O2)を添加し、ついで、8μM Trx〔カルバイオケム(Calbiochem)〕を添加することにより反応を開始させる。NADPH(ε340=6,310M−1cm−1)の酸化による340nmにおける吸光度の減少を、25℃で連続的に記録し、モニターすることにより、活性を測定する。なお、活性は、1mgのタンパク質あたり、1分間に酸化される NADPH(nmol)であらわされる。
【0022】
なお、測定対象のポリペプチドが、本発明に用いることができる2−Cysペルオキシレドキシンであることの評価は、該測定対象のポリペプチドをコードする核酸を保持するベクターをサッカロマイセス・セルビジエ(S.cerevisiae) tsa1Δ−tsa2Δ二重変異体に導入し、得られた形質転換酵母細胞を、1mM 亜硝酸ナトリウムを含む培地(pH5.2)で培養し、該形質転換酵母が、tsa1Δ−tsa2Δ二重変異体又は該核酸を保持しないベクターが導入されたtsa1Δ−tsa2Δ二重変異体に比べ、生育が良好であることを指標として評価することもできる。
【0023】
前記(ii)のポリペプチドは、前記したように、変異を導入し、得られた変異体の中から、前記した評価により、前記パーオキシナイトライト消去能、さらには、前記ペルオキシダーゼ活性、さらには、亜硝酸ナトリウム存在下における良好な生育を呈するものを選別することにより、容易に得ることができる。
【0024】
また、前記(iii)のポリペプチドは、配列番号:1に示されるアミノ酸配列と少なくとも20%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するもののなかから、前記パーオキシナイトライト消去能、さらには、前記ペルオキシダーゼ活性、さらには、亜硝酸ナトリウム存在下における良好な生育を呈するものを選別することにより、容易に得ることができる。
【0025】
なお、前記配列同一性は、少なくとも20%、好ましくは、30%以上、より好ましくは、40%以上、さらに好ましくは、50%以上、よりさらに好ましくは、60%以上、より一層好ましくは、70%以上であればよい。
【0026】
前記配列同一性は、2つの分子における比較対象の配列の領域にわたって、最適な状態にアラインメントされた2つの配列を配列同一性の算出に適したアルゴリズムに基づき比較することにより決定されうる。ここで、比較対象の配列は、2つの配列の最適なアラインメントのための参考配列(例えば、コンセンサス配列等)と比べて、付加又は欠失(例えば、ギャップ等)を有していてもよい。なお、本明細書において、配列同一性は、BLASTアルゴリズム〔期待値10、ワードサイズ3、ギャップコスト(Existence:11、Extension:1)〕を用いることにより算出された値であり、例えば、ホームページアドレスhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/において、一般に利用可能なBLAST等を用いて算出されうる。したがって、他のアルゴリズムに基づく手法、例えば、スミス(Smith)らの局所ホモロジーアルゴリズム〔Add. APL. Math.,2,482,1981〕、ニードルマン(Needleman)らのホモロジーアラインメントアルゴリズム〔J. Mol. Biol.,48,443,1970]、パールソン(Pearson)らの相同性検索法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA,85,2444,1988〕で算出した場合と数値が異なる場合があってもよい。
【0027】
2−Cysペルオキシレドキシンの発現の増大は、該2−Cysペルオキシレドキシンに対する発現誘導剤の使用、該2−Cysペルオキシレドキシンに対する発現に適した条件下での生育、酸化ストレスを誘引する環境要因(例えば、強光条件)、活性酸素の適用(例えば、過酸化水素の添加)等により行なわれうる。
【0028】
なお、前記発現誘導剤は、例えば、前記ペルオキシレドキシンが導入された細胞、例えば、酵母(例えば、前記tsa1Δ−tsa2Δ二重変異体等)、植物細胞、昆虫細胞、細菌細胞等に前記2−Cysペルオキシレドキシンをコードする核酸を導入して得られた細胞を、該発現誘導物質の存在下に培養し、2−Cysペルオキシレドキシンの発現の増大、亜硝酸ナトリウム存在下における生育の改善などを指標として、容易に選別し、得ることもできる。
【0029】
本発明者らの知見によれば、活性窒素ストレス抑制能を有するトランスジェニック植物又はその種子及びその製造方法も提供されうる。かかるトランスジェニック植物又はその種子及びその製造方法も本発明に含まれる。
【0030】
本発明のトランスジェニック植物の製造方法は、(a)植物細胞に、ペルオキシレドキシンをコードする核酸を導入し、形質転換植物細胞を得るステップ、
(b)前記(a)で得られた形質転換植物細胞から植物体を再生するステップ、及び
(c)前記(b)で得られた植物体を、導入された核酸に由来するペルオキシレドキシンの発現に適した条件下に生育させるステップ、
を含む方法である。
【0031】
前記ペルオキシレドキシンは、前記と同様である。
【0032】
前記ステップ(a)において、植物細胞への核酸の導入は、生物的導入法、直接的導入法等により行なわれうる。
【0033】
前記生物的導入法としては、例えば、慣用のアグロバクテリウムを用いる方法等が挙げられる。かかるアグロバクテリウムを用いる方法においては、Tiプラスミド等の慣用のベクターを介して前記核酸が導入されうる。
【0034】
なお、前記核酸は、誘導可能なプロモーターの制御下に配置された核酸であってもよい。
【0035】
前記ベクターは、マーカーとなる遺伝子、例えば、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子等、前記2CPRXの発現制御可能なプロモーター、例えば、カリフラワーモザイクウイルス35S RNAプロモーター、イネアクチン遺伝子プロモーター、トウモロコシユビキチン遺伝子プロモーター等、前記2CPRXの発現を調節しうるエレメント、例えば、アグロバクテリウムのノパリンシンターゼ遺伝子のターミネーター等を含有していてもよい。
【0036】
前記直接的導入法としては、エレクトロポレーション法、パーティクルガンを用いたボンバードメント法等が挙げられる。かかる直接的導入法においては、前記核酸又は該核酸を含有した発現可能な構築物が用いられうる。また、前記直接的導入法においては、前記核酸又は該核酸を含有した発現可能な構築物を、植物のプロトプラスト、ディスク状の葉切片(リーフディスク)等に導入する。
【0037】
前記ペルオキシレドキシンをコードする核酸としては、
(I) 配列番号:1に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする核酸、
(II) 配列番号:1に示されるアミノ酸配列において、少なくとも1残基のアミノ酸の置換、欠失、付加又は挿入を有するアミノ酸配列を有し、かつ、パーオキシナイトライト消去能を有するポリペプチドをコードする核酸、
(III) 前記(I)の核酸とストリンジェントな条件下にハイブリダイズする核酸であり、かつコードされるポリペプチドが、パーオキシナイトライト消去能を有するポリペプチドである核酸、
(IV) 前記(I)の核酸の塩基配列と少なくとも20%の配列同一性を有し、かつコードされるポリペプチドが、パーオキシナイトライト消去能を有するポリペプチドである核酸、
が挙げられる。
【0038】
ここで、前記「ストリンジェントな条件」としては、モレキュラー・クローニング:ア・ラボラトリーマニュアル第2版〔ザンブルーク(Sambrook)ら編、コールドスプリングハーバーラボラトリープレス刊、1989〕等に記載の条件が挙げられる。具体的には、例えば、
▲1▼ 6×SSC(1×SSCの組成:0.15M NaCl、0.015M クエン酸ナトリウム、pH7.0)と0.5% SDSと5×デンハルトと100μg/ml 変性断片化サケ精子DNAと50% ホルムアミド(含有しなくてもよい)を含む溶液中、プローブとともに42℃(ホルムアミドを含まない場合は、65℃)で一晩保温するステップ、
▲2▼ 非特異的にハイブリダイズしたプローブを洗浄により除去するステップ、ここで、より精度を高める観点から、より低イオン強度、例えば、2×SSC、より厳しくは、0.1×SSC等の条件及び/又はより高温、例えば、用いられる核酸のTm値の40℃下、より厳しくは、30℃下、さらに厳しくは、25℃下、よりさらに厳しくは、10℃下、具体的には、用いられる核酸のTm値により異なるが、25℃以上、より厳しくは、37℃以上、さらに厳しくは、42℃以上、よりさらに厳しくは、50℃以上、より一層厳しくは、60℃以上等の条件下での洗浄を行なうことにより、例えば、前記(I)の核酸の塩基配列と少なくとも約20%、好ましくは、30%以上、より好ましくは、40%以上、さらに好ましくは、50%以上、よりさらに好ましくは、60%以上、より一層好ましくは、70%以上の配列同一性を有する核酸を得ることができる。なお、Tmは、例えば、下記式:
Tm=81.5−16.6(log10[Na+])+0.41(%G+C)−(600/N)
(式中、Nはオリゴヌクレオチドの鎖長であり、%G+Cはオリゴヌクレオチド中のグアニン及びシトシン残基の含有量である)
により求められる。
【0039】
植物細胞としては、プロトプラスト等が挙げられる。
【0040】
植物細胞の由来は、特に限定されるものではなく、例えば、シロイヌナズナ、イネ、タバコ等が挙げられる。
【0041】
核酸が導入された形質転換細胞の選別は、例えば、マーカー遺伝子を用いた場合には、該マーカー遺伝子の発現を指標とすることもでき、さらには、遺伝子特異的プライマーを用いたPCRにより、導入遺伝子の特異的増幅を指標として行なわれうる。
【0042】
前記ステップ(b)において、形質転換植物細胞からの植物体の再生は、例えば、プロトプラストの場合、該プロトプラストを栄養培地で5〜10日程度培養して、細胞壁を合成させ、ついで、液体培地中で、激しく攪拌させながら、培養し、カルスを得、得られたカルスをオーキシンおよびサイトカイニンの存在下に培養することにより行なわれうる。なお、カルスからの植物体の再生は、
(1)低濃度のオーキシンと高濃度のサイトカイニンを最初に用いた場合には、枝に該当する部分が再生され、ついで、高濃度のオーキシンの存在下に生育させること、
(2)高濃度のオーキシンと低濃度のサイトカイニンを最初に用いた場合には、枝に該当する部分が再生され、ついで、高濃度のサイトカイニンの存在下に生育させること、
により植物体を得ることができる。
【0043】
前記ステップ(c)においては、ペルオキシレドキシンの発現に適した条件は、例えば、導入した核酸が誘導可能なプロモーターの制御下に配置されている場合、該プロモーターの誘導条件を適用すればよい。
【0044】
前記製造方法により得られたトランスジェニック植物又はその種子は、例えば、種々の強度の亜硝酸ストレス下での培養、化学窒素肥料(硝酸塩又はアンモニウム塩) 過剰施肥下での生育の評価をバイオマス増加量(根や茎葉の生長量)・クロロフィル含有量(ともに個体レベル)や光合成活性(細胞レベル)を指標とすること、二酸化窒素などの窒素酸化物を含む大気中での生育等により評価されうる。
【0045】
また、本発明者らの知見により、植物の生育環境における活性窒素ストレス抑制剤も提供されうる。
【0046】
前記活性窒素ストレス抑制剤は、2−Cysペルオキシレドキシンを保持した支持体を含有することに1つの大きな特徴がある。本発明の活性窒素ストレス抑制剤は、2−Cysペルオキシレドキシンの機能が利用されているため、パーオキシナイトライトを消去することができ、それにより、植物における活性窒素ストレスを抑制すること、活性窒素ストレスの要因となる一酸化窒素・パーオキシナイトライト等の活性窒素種や,活性窒素源である硝酸態窒素により汚染された土壌のレメディエーション等を行なうことができるという優れた効果を発揮する。また、本発明の活性窒素ストレス抑制剤は、2−Cysペルオキシレドキシンを保持した支持体を用いられているため、より安定に、長期にわたり、効率よく、パーオキシナイトライト消去能を発現させることができるという優れた効果を発揮する。
【0047】
前記活性窒素ストレス抑制剤は、より安定に、長期にわたり、効率よく、パーオキシナイトライト消去能を発現させる観点から、好ましくは、酸化されたCys残基を還元しうる系(システイン還元系)をさらに保持していることが望ましい。なお、かかるシステイン還元系は、好ましくは、2−Cysペルオキシレドキシンによるパーオキシナイトライト消去能を発現させるに適した量となるように保持されていることが望ましい。
【0048】
前記2−Cysペルオキシレドキシンを保持した支持体としては、前記2−Cysペルオキシレドキシンが導入された微生物(例えば、酵母、細菌等に前記2−Cysペルオキシレドキシンをコードする核酸を導入して得られた微生物)、前記2−Cysペルオキシレドキシンが固定化された担体(例えば、慣用の固定化酵素に用いられる担体等)等が挙げられる。
【0049】
なお、前記微生物は、好ましくは、土壌微生物、特に植物の生育を妨げない土壌微生物であることが望ましい。
【0050】
また、本発明の活性窒素ストレス抑制剤は、適宜、支持体の維持、2−Cysペルオキシレドキシンの機能の維持・発現に適した助剤を含有していてもよい。
【0051】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0052】
また、以下の実施例において、一般的な遺伝子操作等は、特に明記しない限り、モレキュラークローニング ア ラボラトリーマニュアル第2版〔ザンブルーク(Sambrook)ら、1989〕に記載の方法に準じた。大腸菌(Escherichia coli)を、LB培地〔組成:1%(w/v) トリプトン、0.5%(w/v) 酵母エキス、0.5%(w/v) NaCl(pH7.0)〕中、37℃で培養した。PCRで増幅されたDNAの操作には、大腸菌DH5α株を用い、かかる操作の際には、TA−クローニングベクターは、pT7Blue〔ノバージェン(Novagen)社製〕を用いた。サッカロマイセス・セルビジエ(Saccharomyces cerevisiae)は、特に明記しない限り、YPD培地[1%(w/v) 酵母エキス,2%(w/v)バクトペプトン,2%(w/v) グルコース]中、pH5.8で30℃で培養した。
【0053】
実施例1
クロロプラスト局在型2CPRXであるオオムギBAS1〔バイエル(Baier)ら,Plant Physiol.,111,651,1996〕に対するシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)における推定成熟型ホモログをコードするcDNA(597bp長)をクローン化するため、シロイヌナズナ エコタイプ コロンビアの緑色栄養生長組織について構築されたcDNAライブラリーを鋳型とし、Ex TaqTM DNAポリメラーゼ〔タカラバイオ社製〕を用い、PCRを行なった。
【0054】
なお、シロイヌナズナにおける成熟型2CPRXタンパク質のN末端アミノ酸配列の情報がないため、スピナシア オレナシア(Spinacia oleracea)由来の成熟型クロロプラスト2CPRXのN末端配列に対するホモロジーに基づき、前駆体の輸送ペプチドの切断部位を割り当てた。用いたプライマーは、NdeI制限酵素部位(下線)を有するセンスプライマー(5’−catatggccgatgatcttccactggtt−3’;配列番号:2)とBamHI制限酵素部位(下線)を有するアンチセンスプライマー(5’−ggatccctaaatagctgagaagtactc−3’;配列番号:3)である。かかるプライマー対を用いることにより、得られる産物においては、輸送ペプチドを構成すると考えられる前駆体Atc2CPRXのN末端68アミノ酸に対応する領域が除去され、これに代わりメチオニン1残基に対応するコドンが創出される。
【0055】
PCRの反応条件は、前処理94℃/5分のあと,94℃/1分(変性),56℃/1分(アニーリング),72℃/1分(鎖伸長)のサイクルを30回繰り返したものである。
【0056】
ついで、得られた増幅断片をpT7Blueに連結し、クローニングプロセスで変異が導入されていないことを確認するためにシークエンスした。ついで、前記cDNAをNdeI/BamHI断片として、T7プロモーターによる制御が可能な発現ベクターpET16bに連結し、pET−AtPRXを得た。
【0057】
得られたpET−AtPRXを用い。Escherichia coli BL21(DE3)pLysS株を形質転換し、60μg/ml クロラムフェニコールと80μg/ml アンピシリンとを含有したLB培地で培養した。得られた形質転換体について、60μg/ml クロラムフェニコールと80μg/ml アンピシリンとを含有したLB培地中37℃で培養し、培地の濁度が0.5に達した時点で、該培地に、0.4mM イソプロピル−1−チオ−β−D−ガラクトピラノシド(IPTG)を添加し、さらに4時間培養して、N末端6ヒスチジン(His)タグ融合タンパク質として、推定成熟タンパク質(以下、Atc2CPRXと表示する)の発現を誘導した。
【0058】
ついで、得られた培養物のHisタグ組換タンパク質含有可溶性画分について、Ni2+−アフィニティーカラム〔商品名:BugBuster His・Bind purification kit;ノバージェン(Novagen)社製〕で、キットにより提供されたマニュアルの説明に従い精製した。精製タンパク質を脱塩し、限外ろ過〔商品名:NanosepTM 10K;ポールジェルマンラボラトリー(Pall Gelman Laboratory)社製〕で濃縮した。
【0059】
得られたタンパク質を、12%(w/v) 変性ポリアクリルアミドゲルでのドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)で分離し、クマシーブルーで染色した。タンパク質濃度は、BSAを標準として用いて、ブラッドフォード法〔Coomassie(登録商標) Plus Protein Assay Reagent;ピアス(Pierce)社製〕で決定した。
【0060】
図1のパネルaに、ニッケル−アフィニティークロマトグラフィーを用いた、細菌細胞の可溶性画分からの組換Atc2CPRXの精製を示す。図1のパネルa,レーン4に示されるように、SDS−PAGE上での精製融合タンパク質の見かけの分子量(27 kDa)は、Hisタグとリンカー配列とを含む組換タンパク質の推定分子量(23kDa)よりも大きかった。同様な所見が、他の生物由来の2CPRXについて報告されており、SDS−PAGEにおける移動度の遅延は、おそらく、種々の供給源由来の2CPRXの共通の性質であろうと思われる。
【0061】
2CPRXファミリーの典型的な性質は、2つのサブユニットの触媒システイン残基間のジスルフィドで結合した二量体の形成能である。そこで、Atc2CPRXがこの性質を維持しているかどうかを調べるため、5mM ジチオスレイトール(DTT)又は5mM H2O2で単独で処理し、Atc2CPRXを、ゲルろ過により精製して還元剤及び酸化剤を除去し、変性/非還元条件でSDS−PAGEで解析した。なお、非還元条件下でのSDS−PAGEには、還元剤を含まないSDS−PAGEサンプルバッファーを用いた。
【0062】
その結果、図1のパネルbのレーン3に示されるように、Atc2CPRXは、酸化による二量体化で50−kDaタンパク質を形成するが、レーン1に示されるように、還元後、単量体として存在した。これらの結果は、Atc2CPRXが、2CPRXに共通の報告された構造的性質を保持した形で、細菌内で生産されたことを示す。
【0063】
実施例2
Atc2CPRXが大腸菌内で活性を保持した形で生産されているかどうかを決定するため、以下のように、インビトロで過酸化水素還元ペルオキシダーゼ活性を測定した。
【0064】
H2O2あるいはtert−ブチルハイドロペルオキシド(t−BuOOH)を基質とし、組換タンパク質の再生のための酵母由来のTrx/NADPH:Trxオキシドレダクターゼ(TR)共役系とを用いた山本(Yamamoto)ら〔FEBS Lett. 447, 269−273,1999〕の方法の改変法により、組換Atc2CPRXのペルオキシダーゼ活性を測定した。
【0065】
20mM リン酸カリウム(pH7.0)と、200μM NADPHと、6μM TR〔カルバイオケム(Calbiochem)社製〕と0.6−6μM組換タンパク質とを含有した溶液を、25℃でプレインキュベートした。その後基質(70μM t−BuOOH又は100μM H2O2)を添加し、ついで、8μM Trx〔カルバイオケム(Calbiochem)〕を添加することにより反応を開始させた。
【0066】
活性は、NADPH(ε340=6,310M−1cm−1)の酸化による340nmにおける吸光度の減少を、25℃で連続的に記録し、モニターすることにより測定した。活性は、1mgのタンパク質あたり、1分間に酸化される NADPH(nmol)であらわされる。
【0067】
その結果、図2のパネルaに示されるように、精製Atc2CPRXは、酵素的に活性であり、基質(H2O2又はt−BuOOH)及びTrx/TR系の両方の存在に完全に依存してNADPHの酸化を触媒した。H2O2及びt−BuOOHに対する比活性は、それぞれ263±5及び202±7nmol 酸化NADPH分−1mg−1タンパク質(各値について、n=3)であった。NADPHの酸化は、基質、Trx又はそれら両方の非存在下では、ほとんど起こらないので無視できる。
【0068】
したがって、Hisタグ融合タンパク質として生産されたAtc2CPRXは、インビトロで触媒機能を発揮し、酵母Trx/TR系により、過酸化水素基質を還元すると思われる。
【0069】
実施例3
Trx−依存性ペルオキシダーゼ活性を確認するため、以下のように、パーオキシナイトライト−感受性プローブであるジヒドロローダミン123を用いて、Atc2CPRXについて、インビトロでのパーオキシナイトライト消去能を調べた。
【0070】
ブライク(Bryk)ら〔Nature 407,211−215,2000〕に記載の技術を用いて、パーオキシナイトライト消去活性を評価した。
【0071】
種々の濃度の還元型又は酸化型の組換Atc2CPRXを、50mM リン酸カリウム(pH7.0)と、20μM ジヒドロローダミン123〔モレキュラープローブ(Molecular Probes)社製〕と20μM ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)とを含有した溶液中、25℃でインキュベートした。パーオキシナイトライト(8μM;Dojindo社製)を添加し、ついで、1分間強く攪拌させて、ジヒドロローダミン123のローダミンへの酸化を開始させた。
【0072】
使用に先立ち、パーオキシナイトライトの濃度を、0.1M NaOH中302nm(ε302=1,670M−1cm−1)での吸光度から決定した。ローダミン123の形成を、500nmで、分光光度法によりモニターした。なお、パーオキシナイトライトの存在下では、ジヒドロローダミン123は、高蛍光ローダミン123に酸化される。
【0073】
Atc2CPRXの2つの標品:(1)DTT処理で得られた還元タンパク質及び(2)H2O2処理による酸化型を、アッセイに用いた。還元型の組換Atc2CPRXは、50mM リン酸カリウム(pH7.0)及び10mM DTT中25℃で10分間インキュベートし、ついで、クロマトグラフィーカラム〔Micro Bio−Spin(登録商標) 6;バイオラッド ラボラトリーズ(Bio−Rad Laboratories)〕でのゲルろ過で、DTTを除去することにより調製した。また、前記において、H2O2(10mM)をDTTに置換し、酸化型Atc2CPRXを得た。対照として、ウシ血清アルブミン(BSA)を同様に還元又は酸化させ、アッセイに用いた。
【0074】
その結果、図2のパネルbに示されるように、還元型Atc2CPRXは、パーオキシナイトライト−誘導酸化からジヒドロローダミンを保護し、濃度依存的にローダミンの形成を抑制した。また、BSAは、アッセイに先立って還元された場合、パーオキシナイトライトに対し多少保護を提供しうるが、保護の程度は、還元Atc2CPRXに比べて非常に低かった。対照的に、酸化型では、Atc2CPRX及びBSAの両方とも、ジヒドロローダミンの酸化をほとんど妨げなかった。これらの結果により、Atc2CPRXは、インビトロで、有効なパーオキシナイトライトスカベンジャーとして作用し、この能力は、おそらく、サブユニットの二量体化に反応しうる触媒システイン残基の酸化還元状態に依存することが示唆される。
【0075】
実施例4
サッカロマイセス・セルビジエ(S.cerevisiae) tsa1Δ−tsa2Δ二重変異体は、活性酸素ストレス及び活性窒素ストレスに対して過敏性であり、細胞質に局在する2CPRXをコードするTSA1及びTSA2の2つのほぼ同じ構造を持つ遺伝子の標的変異により、酸化ストレス及び活性窒素ストレスの両方に対するその耐性を大幅に損なう。
【0076】
そこで、活性窒素ストレス耐性及び酸化ストレス耐性におけるAtc2CPRXの機能的関連性を調べるため、シロイヌナズナ(Arabidopsis) クロロプラスト2CPRXにより、酵母における活性酸素ストレスに対する過敏感応答性を相補するかどうかを調べた。機能相補は、ワン(Wong)ら〔J.Biol.Chem.,277,5385−T394,2002〕に記載の方法に準じて、細胞質ゾルの2CPRXのnull変異体である酵母変異体tsa1Δ−tsa2Δを用いて行なった。親株であるBY4741を野生型コントロールとして用いた。相補試験には、発現ベクターは、オウレオバシジン−A耐性を与える選択マーカー遺伝子を保持するpAUR123〔タカラバイオ社製〕用いた。
【0077】
Atc2CPRXについてPCRで得られたcDNAを保持したpT7Blueを、NdeIで消化し、平滑末端化し、ついで、SacIで切断した。切り離されたcDNAを、ついで、pAUR123のSmaI制限部位とSacI制限部位との間に挿入した。pAtPRXと名づけられたこのプラスミドは、サッカロマイセス・セルビジエ(S.cerevisiae)のADH1プロモーターの制御下、前記cDNAの発現を可能にする。ギエッツ(Gietz)ら〔Nucleic Acids Res. 20,1425,1992〕に従い、酵母変異体tsa1Δ−tsa2Δのコンピテントセルを調製し、pAtPRXを用いて形質転換した。なお、挿入断片を含まないベクター(空ベクター)で形質転換した前記変異体細胞を、コントロールとして用いた。
【0078】
過敏感表現型の遺伝子相補は、以下のように行なった。野生型及び変異体の形質転換株をそれぞれ一晩培養した(OD600=0.5)。ついで、培養後の野生型及び変異体の形質転換株それぞれを、新しいYPD培地でOD600=0.03まで希釈させ、培養を再開させた。活性酸素耐性の評価のために、希釈細胞を、0.3mM H2O2を入れたYPDで培養した。弱酸性条件(pH5.2)で、1mM NaNO2を含むYPDで細胞を生育させることにより活性窒素ストレスを与えた。参照として、亜硝酸毒性を抑制するために、同じYPD/NaNO2培地中、pH6.6で実験を行なった。細胞生育を。3時間毎OD600で記録した。OD600 が0.4を超えた場合、培養物の画分を適当に希釈し、精度をチェックするために、ODを再記録した。
【0079】
酵母でのAtc2CPRXの異種発現を確認するため、組換タンパク質に対するウサギ抗体を用いてイムノブロット解析を行なった。
【0080】
ウサギポリクローナル抗体を、Ni2+−アフィニティークロマトグラフィーを用い、ついで、ゲルろ過(商品名:Superdex 75HR gel;アマシャム・ファルマシア バイオテック社製)を行ない、4M 尿素の存在下変性条件下で精製された組換Atc2CPRXに対して生じさせた。
【0081】
イムノブロット解析のために、酵母由来の10μgの可溶性タンパク質を15% SDS−PAGEで分離した。分離後、ゲル上のタンパク質をポリビニリデンフルオリド膜(商品名:ImmobilonTM−P;ミリポア社製)に転写した。膜をPBS中3%(w/v) BSA含有でブロックした。免疫したウサギの血液血清(PBSで1:5000希釈)とビオチン化抗ウサギIgG抗体とをそれぞれ、一次抗体及び二次抗体として用いた。4−クロロ−1−ナフトールをインディゴ生成基質として用いて、アビジン−ビオチン化ペルオキシダーゼ複合体とインキュベーションして、抗原−抗体複合体を視覚化させた。なお、前記抗体については、シロイヌナズナ(Arabidopsis)抽出物中の植物クロロプラスト2CPRXと同様のサイズである26kDaタンパク質の検出能により信頼できることを確認した。
【0082】
その結果、図3のパネルaのレーン3に示されるように、pAtPRXにより形質転換された細胞(ATPRXと表示)は、シロイヌナズナ(Arabidopsis)に存在する26kDaタンパク質と共移動する免疫反応性タンパク質を生じた。一方、図3のパネルaのレーン2及び4のそれぞれに示されるように、そのようなシグナルは、野生型株(WT)又は空ベクターにより形質転換された変異体(ベクターコントロール)では検出されなかった。
【0083】
したがって、シロイヌナズナ(Arabidopsis) cDNAで形質転換された変異体は、Atc2CPRXを生産することがわかった。
【0084】
ついで、遺伝子導入により生産されたAtc2CPRXが、tsa1Δ−tsa2Δ変異体の活性酸素ストレスに対する過敏感反応を相補しうるかどうかを調べた。その結果を図3のパネルb〜dに示す。
【0085】
図3のパネルbに示されるように、WTの生育は、0.3mM H2O2の存在下にほとんど影響を受けなかったが、ベクターコントロールは、同じ条件下で、大幅に遅い生育表現型を示した。Atc2CPRX cDNAの発現は、図3のパネルbに示されるように、ATPRXの生育により示されるように、変異体の生育を、十分ではないが、回復した。図3のパネルcに示されるように、非ストレス条件下、これらの3つの株は、ATPRXに、軽い生育遅延が観察されたが、ほんのわずかに違っただけであった。図3のパネルdに示されるように、非ストレス条件下に対するストレス条件下での9時間培養における各株の生育は、それぞれ、WTで90%、ATPRXで70%及びベクターコントロールで19%であった。
【0086】
これらの結果により、Atc2CPRXが、インビボで機能し、酸化ストレスから酵母細胞を保護すること及び表現型相補が、実際に、シロイヌナズナ(Arabidopsis)タンパク質によるものであることが示された。
【0087】
実施例5
亜硝酸塩は、プロトン化型のみが、NO及びその反応性誘導体を生じるため、中性でなく弱酸性で細胞傷害効果を発揮することが知られている活性窒素ストレス因子である。
【0088】
そこで、亜硝酸塩のpH−依存性毒性を利用して、酵母株について、5.2又は6.6のどちらかのpHで、1mM 亜硝酸ナトリウムを含む培地で培養することにより、活性窒素ストレスに対する耐性を調べた。結果を図4のパネル(a)〜(c)に示す。
【0089】
その結果、図4のパネル(a)に示されるように、pH5.2で亜硝酸ナトリウムの存在下、ベクターコントロールの生育は、実質的に阻害され、亜硝酸毒性が、細胞に傷害を与えることを示した。対照的に、ATPRXは、ベクターコントロールよりも顕著によく生育し、実際、生育は、ストレス条件下で野生型とATPRXとの間で差異がつかなかった。また、図4のパネル(b)に示されるように、pH5.2で亜硝酸の非存在下、前記のような生育異常は、ベクターコントロールでは検出されなかった。
【0090】
一方、pH6.6で培養した場合、亜硝酸毒性は、亜硝酸塩の存在〔図4のパネル(c)〕又は非存在にもかかわらず、同様に生育する3株全てで、明らかに抑制された。かかるコントロール実験により、亜硝酸毒性は、より低いpH条件に特異的であることが示唆された。
【0091】
図4のパネル(d)に示されるように、生育を9時間で比べた場合、ベクターコントロールの亜硝酸ストレスをうけた生育は、非ストレス条件下の生育の60%にすぎなかったが、WT及びATPRXの両方は、実際に、ストレス処理により影響を受けなかった。
【0092】
これらの結果により、Atc2CPRXが、インビボで活性窒素媒介ストレスの悪影響を緩和したことを示し、ATPRXにおいて観察された耐性が、インビボでパーオキシナイトライトなどの活性窒素ストレスを除去するAtc2CPRXの能力に起因するであろうことが示唆される。
【0093】
活性窒素ストレスに対するAtc2CPRXの保護機能のさらなる証拠を得るため、細胞内オキシダントの存在下で高蛍光DCFに酸化される膜透過性化合物であるオキシダント感受性プローブである2’,7’−ジクロロジヒドロフルオレセイン ジアセテート(H2DCF−DA)〔モレキュラープローブズ(Molecular Probes)社製〕を用いて、インビボにおける該H2DCF−DAの蛍光2’,7’−ジクロロフルオレセイン(DCF)への活性窒素ストレス誘導酸化を妨げる酵母株の能力を調べた。
【0094】
定常状態の細胞内オキシダントレベルを、蛍光測定により評価した。
【0095】
YPD培地中30℃で対数増殖期中期まで増殖させた場合、酵母細胞(OD600=0.4−0.6)を、NO−放出剤であるジエチルアミン/NO複合体DEANO〔シグマケミカルズ(Sigma Chemicals)社製〕を終濃度0.5mMで処理し、活性窒素ストレスを与えた。さらに1時間培養後、細胞を回収し、リン酸緩衝化生理的食塩水(PBS)で3回洗浄し、PBSに再懸濁させた。H2DCF−DA(終濃度10μM)を細胞懸濁液に添加し、30℃で60分間、さらにインキュベートして、H2DCF−DAのインビボ酸化を行なった。細胞をペレット化し、洗浄し、PBS中ガラスビーズで溶菌させた。等分量の細胞溶解物(タンパク質300μg相当量)を、488nm及び525nmの励起及び発光波長で蛍光光度計(商品名:RF−5000;島津製作所社製)により蛍光強度を解析した。既知濃度で調製されたDCF〔ポリサイエンシーズ(PolySciences)社製〕をキャリブレーションに用いた。細胞内オキシダントレベルは、タンパク質1mgあたりに形成されたDCF(pmol)として表す。
【0096】
その結果、図5に示されるように、NO放出剤の処理の際、DCF蛍光が、ベクターコントロールで有意(2倍)に増加したが、WT及びATPRXの両方ではほとんど変化しなかったことがわかる。したがって、0.5mM DEANO存在下で、WT及びATPRXの両方が、細胞内オキシダントレベルを維持しうるが、ベクターコントロールは、NO−媒介酸化を抑制できないことがわかる。これらの結果は、酵母変異体におけるAtc2CPRXの異種発現が、インビボでの活性窒素ストレス媒介酸化傷害を著しく減少させ、さらに、活性窒素ストレスに対する耐性におけるAtc2CPRXの機能を支持したことを示唆する。
【0097】
配列表フリーテキスト
配列番号:2は、Atc2CPRX遺伝子の増幅用プライマーの配列である。
【0098】
配列番号:3は、Atc2CPRX遺伝子の増幅用プライマーの配列である。
【0099】
【発明の効果】
本発明の植物における活性窒素ストレスの抑制方法によれば、植物における活性窒素ストレスを抑制し、活性窒素ストレスの要因となる一酸化窒素・パーオキシナイトライト等の活性窒素種や、活性窒素源である硝酸態窒素により汚染された土壌のレメディエーションを可能にするという優れた効果を奏する。また、本発明のトランスジェニック植物又はその種子によれば、活性窒素ストレス抑制能を発揮し、活性窒素ストレスの要因となる一酸化窒素・パーオキシナイトライト等の活性窒素種や、活性窒素源である硝酸態窒素により汚染された土壌のレメディエーションに用いることができるという優れた効果を奏する。さらに、本発明の活性窒素ストレス抑制能を有する植物の製造方法によれば、活性窒素ストレス抑制能を発揮し、活性窒素ストレスの要因となる一酸化窒素・パーオキシナイトライト等の活性窒素種や、活性窒素源である硝酸態窒素により汚染された土壌のレメディエーションに有用なトランスジェニック植物又はその種子を製造することができ、安定して供給することができるという優れた効果を奏する。また、本発明の植物の生育環境における活性窒素ストレス抑制剤によれば、より安定に、長期にわたり、効率よく、パーオキシナイトライト消去能を発現させることができ、それにより、植物における活性窒素ストレスを抑制し、活性窒素ストレスの要因となる一酸化窒素・パーオキシナイトライト等の活性窒素種や、活性窒素源である硝酸態窒素により汚染された土壌のレメディエーション等を行なうことができ、るという優れた効果を奏する。
【0100】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、組換Atc2CPRXの解析の結果を示す。図中、パネル(a)は、大腸菌で過剰発現された組換Atc2CPRXの精製度を調べた結果である。分子サイズ(kDa)を左に示す。レーン1は、分子サイズ標準マーカー、レーン2は、空ベクターで形質転換されたIPTG誘導細胞のライゼート(10μg相当量)、レーン3は、pET−AtPRXで形質転換されたIPTG誘導細胞のライゼート(10μg相当量)、レーン4は、精製後の組換Atc2CPRXタンパク質(5μg相当量)である。パネル(b)は、5mM DTT(レーン1)又は5mM H2O2(レーン3)で前処理した精製Atc2CPRX(3μg相当量)について、ゲル濾過後に非還元条件下にSDS−PAGE(12%ゲル)を行なった結果を示す。分子サイズ(kDa)を左に示す。
【図2】図2は、組換Atc2CPRXのインビトロでの活性を調べた結果を示す。パネル(a)は、NADPHを還元剤として用いて、間接的にペルオキシダーゼ活性を測定した結果を示す。パネル(b)は、パーオキシナイトライトスカベンジャー活性を、ジヒドロローダミン123からローダミンへのパーオキシナイトライト媒介酸化に対する組換Atc2CPRXの阻害能として評価した結果を示す。図中、白丸は、酸化型Atc2CPRX、白四角は、酸化型BSA、黒丸は、還元型Atc2CPRX、黒四角は、還元型BSAを示す。データは、3回の実験の平均±SDで示す。
【図3】図3は、Atc2CPRXによるtsa1Δtsa2Δ変異体の酸化ストレス過敏感反応性の相補を調べた結果を示す。パネル(a)は、酵母各株由来の可溶性タンパク質のイムノブロットの結果を示す。レーン1は、アラビドプシスの可溶性タンパク質(2μg相当量)、レーン2は、野生型酵母、レーン3は、ATPRX、レーン4は、対照を示す。パネル(b)は、0.3mM 過酸化水素存在下に細胞を培養した結果を示し、パネル(c)は、過酸化水素非存在下に細胞を培養した結果を示す。パネル(b)及びパネル(c)において、白丸は、WT、白三角は、ベクター対照、白四角は、ATPRXを示す。データは、3回の実験の平均±SDで示す。パネル(d)は、パネル(b)及びパネル(c)における9時間培養時のデータをもとにした細胞生長の相対値である。
【図4】図4は、Atc2CPRXによるtsa1Δtsa2Δ変異株における活性窒素ストレス過敏感反応の相補を調べた結果を示す。パネル(a)は、1mM 亜硝酸ナトリウム(pH5.2)存在下、パネル(b)は、亜硝酸ナトリウム非存在下(pH5.2)、パネル(c)は、1mM 亜硝酸ナトリウム(pH6.6)存在下に、細胞を培養した結果を示す。パネル(a)〜(c)において、白丸は、WT、白三角は、ベクター対照、白四角は、ATPRXを示す。データは、3回の実験の平均±SDで示す。パネル(d)は、パネル(a)及びパネル(b)における9時間培養時のデータをもとにした細胞生長の相対値である。
【図5】図5は、Atc2CPRXを発現するtsa1Δtsa2Δ変異株における活性窒素ストレス媒介細胞内酸化の抑制を調べた結果を示す。データは、3回の実験の平均±SDで示す。
【発明の属する技術分野】
本発明は、植物における活性窒素ストレスの抑制方法、活性窒素ストレス抑制能を有する植物及びその製造方法、並びに植物の生育環境における活性窒素ストレス抑制剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
哺乳動物において、一酸化窒素、そのレドックス活性型であるS−ニトロソグルタチオン(GSNO)などの活性窒素分子種は、活性酸素分子種、ヘム酵素群、タンパク質を含めた生体チオール分子種などの標的分子と速やかに反応し、免疫、細胞シグナル伝達、種々のホメオスタチック制御プロセスなど、生理学的現象及び病理学的現象の両方において、種々の役割を果たすことが知られている。
【0003】
また、植物においては、一酸化窒素は、病原菌への防御応答の活性化シグナル分子として働き、おそらく、その他の生理プロセスや発生プロセスをも調節していると考えられている(非特許文献1)。
【0004】
例えば、前記一酸化窒素及びその機能的に同等な誘導体の生物活性は、代謝酵素、イオンチャネル、シグナル伝達分子、転写因子などの標的分子の触媒機能及び調節機能を担うチオール基及び遷移金属中心の酸化還元修飾に関与することが報告されている(非特許文献2)。
【0005】
しかしながら、一酸化窒素及びその機能的に同等な誘導体は、DNAを変異させ、タンパク質を酸化、ニトロ化し、脂質酸化を開始させ、細胞傷害等を引き起こす場合がある(非特許文献3及び非特許文献4)。
【0006】
植物には,硝酸から亜硝酸を経て一酸化窒素を生成する経路がある(非特許文献5)。植物における前記活性窒素分子種によるストレス(活性窒素ストレス)の例としては、植物への過剰な亜硝酸塩の存在は、生育阻害や葉の白化現象を引き起こすなどが挙げられるが、該活性窒素ストレスに対する応答機構は、不明な点が多いのが現状である。
【0007】
【非特許文献1】
ウェンデーン(Wendehenne),Trends Plant
Sci.,6,177−183(2001)
【非特許文献2】
ステイムラー(Stamler)ら,Cell,106,675−683頁,2001
【非特許文献3】
コッペノル(Koppenol)ら,Chem.Res.Toxicol.,5,834−842,1992
【非特許文献4】
ナザン(Nathan)ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、97、8841−8848、2000
【非特許文献5】
ロケル(Rockel)ら、J.Exp.Bot.、53、103−110、2002
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記従来の技術に鑑みてなされたものであり、本発明は、植物における活性窒素ストレスを抑制すること、活性窒素ストレスの要因となる一酸化窒素・パーオキシナイトライト等の活性窒素種や、活性窒素源である硝酸態窒素により汚染された土壌のレメディエーションのための手段を提供すること等を可能にする、植物における活性窒素ストレスの抑制方法を提供することを目的とする。また、本発明は、活性窒素ストレス抑制能を発揮し、活性窒素ストレスの要因となる一酸化窒素・パーオキシナイトライト等の活性窒素種や、活性窒素源である硝酸態窒素により汚染された土壌のレメディエーションに有用なトランスジェニック植物又はその種子を提供することを目的とする。さらに、本発明は、活性窒素ストレス抑制能を発揮し、活性窒素ストレスの要因となる一酸化窒素・パーオキシナイトライト等の活性窒素種や、活性窒素源である硝酸態窒素により汚染された土壌のレメディエーションに有用なトランスジェニック植物又はその種子を供給することができる、活性窒素ストレス抑制能を有する植物の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、活性窒素ストレスの要因となる一酸化窒素・パーオキシナイトライト等の活性窒素種や、活性窒素源である硝酸態窒素により汚染された土壌のレメディエーション等に有用な、植物の生育環境における活性窒素ストレス抑制剤を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は、
〔1〕 ペルオキシレドキシンの発現を増大させることを特徴とする、植物における活性窒素ストレスの抑制方法、
〔2〕 該ペルオキシレドキシンが、植物由来の2−Cysペルオキシレドキシンである、前記〔1〕記載の抑制方法、
〔3〕 該2−Cysペルオキシレドキシンが、
(i) 配列番号:1に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド、
(ii) 配列番号:1に示されるアミノ酸配列において、少なくとも1残基のアミノ酸の置換、欠失、付加若しくは挿入を有するアミノ酸配列を有し、かつ、パーオキシナイトライト消去能を有するポリペプチド、及び
(iii) 配列番号:1に示されるアミノ酸配列と少なくとも20%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、パーオキシナイトライト消去能を有するポリペプチド、
からなる群より選ばれた1種のポリペプチドである、前記〔1〕又は〔2〕記載の抑制方法、
〔4〕 (a)植物細胞に、ペルオキシレドキシンをコードする核酸を導入し、形質転換植物細胞を得るステップ、
(b)前記(a)で得られた形質転換植物細胞から植物体を再生するステップ、及び
(c)前記(b)で得られた植物体を、導入された核酸に由来するペルオキシレドキシンの発現に適した条件下に生育させるステップ、
を含む、活性窒素ストレス抑制能を有するトランスジェニック植物の製造方法、
〔5〕 該Cysペルオキシレドキシンが、植物由来の2−Cysペルオキシレドキシンである、前記〔4〕記載の製造方法、
〔6〕 該ペルオキシレドキシンをコードする核酸が、誘導可能なプロモーターの制御下に配置された核酸である、前記〔5〕記載の製造方法、
〔7〕 該ペルオキシレドキシンをコードする核酸が、
(I) 配列番号:1に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする核酸、
(II) 配列番号:1に示されるアミノ酸配列において、少なくとも1残基のアミノ酸の置換、欠失、付加又は挿入を有するアミノ酸配列を有し、かつ、パーオキシナイトライト消去能を有するポリペプチドをコードする核酸、
(III) 前記(I)の核酸の塩基配列と少なくとも20%の配列同一性を有し、かつコードされるポリペプチドが、パーオキシナイトライト消去能を有するポリペプチドである核酸、及び
(IV) 前記(I)の核酸とストリンジェントな条件下にハイブリダイズする核酸であり、かつコードされるポリペプチドが、パーオキシナイトライト消去能を有するポリペプチドである核酸、
からなる群より選ばれた1種の核酸である、前記〔5〕又は〔6〕記載の製造方法、並びに
〔8〕 前記〔4〕〜〔7〕いずれか1項に記載の製造方法により得られるトランスジェニック植物又はその種子、
に関する。
【0010】
【発明の実施の形態】
本明細書において、「活性窒素ストレス」とは、土壌の硝酸体窒素や大気中の窒素酸化物に由来する活性窒素種、例えば、一酸化窒素、パーオキシナイトライト、プロトン型亜硝酸塩等により生じるニトロソ化及び酸化障害の結果としてもたらされる活性窒素誘導細胞傷害等ストレスをいう。
【0011】
本発明は、予想外にも、植物、例えば、シロイヌナズナのクロロプラスト ペルオキシレドキシンにより、パーオキシナイトライトが消去され、活性窒素ストレスによる酸化傷害を減少させるという本発明者らの知見に基づものであり、かかる知見により、植物における活性窒素ストレスの抑制手段、土壌のレメディエーション手段等が提供される。
【0012】
本発明の植物における活性窒素ストレスの抑制方法は、ペルオキシレドキシンの発現を増大させることに1つの大きな特徴がある。本発明の抑制方法においては、植物内におけるペルオキシレドキシンの発現を増大させるため、活性窒素ストレスによる酸化傷害を低減させることができるという優れた効果を発揮する。
【0013】
本発明の抑制方法に用いられるペルオキシレドキシンとしては、パーオキシナイトライトを捕捉して、消去する活性(パーオキシナイトライト消去能)を呈するものであればよい。前記ペルオキシレドキシンとしては、具体的には、2−Cysペルオキシレドキシン、1−Cysペルオキシレドキシン等が挙げられる。植物における活性を十分に発揮させる観点から、植物由来2−Cysペルオキシレドキシンが好ましく、具体的には、シロイヌナズナ由来2−Cysペルオキシレドキシン、イネ由来2−Cysペルオキシレドキシン、オオムギ由来2−Cysペルオキシレドキシン、ホウレンソウ由来2−Cysペルオキシレドキシン等が挙げられる。
【0014】
前記2−Cysペルオキシレドキシンとしては、より具体的には、(i) 配列番号:1に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドが挙げられる。なお、前記(i)のポリペプチドは、シロイヌナズナクロロプラストの2−Cysペルオキシレドキシンであり、本発明者らにより、パーオキシナイトライト消去能を有することが見出されたものである。
【0015】
前記配列番号:1に示されるアミノ酸配列を有する2CPRXは,266アミノ酸残基からなる前駆体タンパク質として生産され、葉緑体に輸送される。その後、アミノ末端側の68残基からなると推定される輸送シグナル配列が切断され、成熟型タンパク質を生じる。
【0016】
また、本発明の抑制方法に用いられる2−Cysペルオキシレドキシンは、パーオキシナイトライト消去能を有するものであれば、配列番号:1に示されるアミノ酸配列により限定されるものではなく、(ii) 配列番号:1に示されるアミノ酸配列において、少なくとも1残基のアミノ酸の置換、欠失、付加若しくは挿入を有するアミノ酸配列を有し、かつ、パーオキシナイトライト消去能を有するポリペプチド、又は
(iii) 配列番号:1に示されるアミノ酸配列と少なくとも20%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、パーオキシナイトライト消去能を有するポリペプチド、
であってもよい。
【0017】
前記(ii)のポリペプチドは、天然に存在するバリアントであってもよく、人為的に変異(置換、欠失、付加若しくは挿入)を導入して得られた変異体であってもよい。前記人為的な変異の導入は、配列番号:1のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする核酸に対し、慣用の部位特異的変異導入方法〔例えば、gapped duplex法(Nucleic Acids Research,12,9441−9456,1984)、Kunkel法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,82,488−492,1985)等〕により変異を導入することにより行なわれうる。
【0018】
前記変異としては、例えば、配列番号:1に示されるアミノ酸配列中の少なくとも1残基のアミノ酸の保存的置換;配列番号:1のアミノ酸番号:110〜122、140〜155、及び240〜245を除く領域におけるアミノ酸の置換、欠失、付加若しくは挿入;配列番号:1のアミノ酸番号:110〜122、140〜155、及び240〜245を除く領域の少なくとも1つのおけるアミノ酸の保存的置換等が挙げられる。ただし、配列番号:1のアミノ酸番号:119
及び241のシステイン残基の置換は除かれる。
【0019】
本明細書において、「保存的置換」は、生理的に同等な物理化学的性質を与えるアミノ酸との置換をいう。前記「生理的に同等な物理化学的性質を与えるアミノ酸」としては、ポリペプチドの有する生理活性を維持し、かつ生体において、立体構造における形状の特徴、疎水性、電荷、pK等に関して同等の物理化学的性質を示しうるアミノ酸が挙げられる。より具体的には、下記グループ1〜6:
グループ1 グリシン、アラニン;
グループ2 バリン、イソロイシン、ロイシン;
グループ3 アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン;
グループ4 セリン、スレオニン;
グループ5 リジン、アルギニン;
グループ6 フェニルアラニン、チロシン;
のいずれかのグループに属するアミノ酸と、同じグループに属する他のアミノ酸との置換が挙げられる。
【0020】
前記パーオキシナイトライト消去能は、ブライク(Bryk)ら〔Nature 407,211−215,2000〕に記載の技術により、パーオキシナイトライト−感受性プローブであるジヒドロローダミン123を用いて評価されうる。具体的には、測定対象のポリペプチドを、50mM リン酸カリウム(pH7.0)と、20μM ジヒドロローダミン123と20μM ジエチレントリアミン五酢酸とを含有した溶液中、25℃でインキュベートする。パーオキシナイトライトを添加し、ついで、1分間強く攪拌させて、ジヒドロローダミン123のローダミンへの酸化を開始させる。また、使用に先立ち、パーオキシナイトライトの濃度を、0.1M NaOH中302nm(ε302=1,670M−1cm−1)での吸光度から決定しておく。ローダミン123の形成を、500nmで、分光光度法によりモニターする。なお、パーオキシナイトライトの存在下では、ジヒドロローダミン123は、高蛍光ローダミン123に酸化される。
【0021】
また、本発明に用いることができる2−Cysペルオキシレドキシンの機能は、過酸化水素還元ペルオキシダーゼ活性の発現によっても評価されうる。前記過酸化水素還元ペルオキシダーゼ活性は、H2O2あるいはtert−ブチルハイドロペルオキシド(t−BuOOH)を基質とし、組換タンパク質の再生のための酵母由来のTrx/NADPH:Trxオキシドレダクターゼ(TR)共役系とを用いた山本(Yamamoto)ら〔FEBS Lett. 447, 269−273,1999〕の方法の改変法により評価されうる。具体的には、20mM リン酸カリウム(pH 7.0)と、200μM NADPHと、6μMTR〔カルバイオケム(Calbiochem)社製〕と0.6−6μM 組換タンパク質とを含有した溶液を、25℃でプレインキュベートする。その後、基質(70μM t−BuOOH又は100μM H2O2)を添加し、ついで、8μM Trx〔カルバイオケム(Calbiochem)〕を添加することにより反応を開始させる。NADPH(ε340=6,310M−1cm−1)の酸化による340nmにおける吸光度の減少を、25℃で連続的に記録し、モニターすることにより、活性を測定する。なお、活性は、1mgのタンパク質あたり、1分間に酸化される NADPH(nmol)であらわされる。
【0022】
なお、測定対象のポリペプチドが、本発明に用いることができる2−Cysペルオキシレドキシンであることの評価は、該測定対象のポリペプチドをコードする核酸を保持するベクターをサッカロマイセス・セルビジエ(S.cerevisiae) tsa1Δ−tsa2Δ二重変異体に導入し、得られた形質転換酵母細胞を、1mM 亜硝酸ナトリウムを含む培地(pH5.2)で培養し、該形質転換酵母が、tsa1Δ−tsa2Δ二重変異体又は該核酸を保持しないベクターが導入されたtsa1Δ−tsa2Δ二重変異体に比べ、生育が良好であることを指標として評価することもできる。
【0023】
前記(ii)のポリペプチドは、前記したように、変異を導入し、得られた変異体の中から、前記した評価により、前記パーオキシナイトライト消去能、さらには、前記ペルオキシダーゼ活性、さらには、亜硝酸ナトリウム存在下における良好な生育を呈するものを選別することにより、容易に得ることができる。
【0024】
また、前記(iii)のポリペプチドは、配列番号:1に示されるアミノ酸配列と少なくとも20%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するもののなかから、前記パーオキシナイトライト消去能、さらには、前記ペルオキシダーゼ活性、さらには、亜硝酸ナトリウム存在下における良好な生育を呈するものを選別することにより、容易に得ることができる。
【0025】
なお、前記配列同一性は、少なくとも20%、好ましくは、30%以上、より好ましくは、40%以上、さらに好ましくは、50%以上、よりさらに好ましくは、60%以上、より一層好ましくは、70%以上であればよい。
【0026】
前記配列同一性は、2つの分子における比較対象の配列の領域にわたって、最適な状態にアラインメントされた2つの配列を配列同一性の算出に適したアルゴリズムに基づき比較することにより決定されうる。ここで、比較対象の配列は、2つの配列の最適なアラインメントのための参考配列(例えば、コンセンサス配列等)と比べて、付加又は欠失(例えば、ギャップ等)を有していてもよい。なお、本明細書において、配列同一性は、BLASTアルゴリズム〔期待値10、ワードサイズ3、ギャップコスト(Existence:11、Extension:1)〕を用いることにより算出された値であり、例えば、ホームページアドレスhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/において、一般に利用可能なBLAST等を用いて算出されうる。したがって、他のアルゴリズムに基づく手法、例えば、スミス(Smith)らの局所ホモロジーアルゴリズム〔Add. APL. Math.,2,482,1981〕、ニードルマン(Needleman)らのホモロジーアラインメントアルゴリズム〔J. Mol. Biol.,48,443,1970]、パールソン(Pearson)らの相同性検索法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA,85,2444,1988〕で算出した場合と数値が異なる場合があってもよい。
【0027】
2−Cysペルオキシレドキシンの発現の増大は、該2−Cysペルオキシレドキシンに対する発現誘導剤の使用、該2−Cysペルオキシレドキシンに対する発現に適した条件下での生育、酸化ストレスを誘引する環境要因(例えば、強光条件)、活性酸素の適用(例えば、過酸化水素の添加)等により行なわれうる。
【0028】
なお、前記発現誘導剤は、例えば、前記ペルオキシレドキシンが導入された細胞、例えば、酵母(例えば、前記tsa1Δ−tsa2Δ二重変異体等)、植物細胞、昆虫細胞、細菌細胞等に前記2−Cysペルオキシレドキシンをコードする核酸を導入して得られた細胞を、該発現誘導物質の存在下に培養し、2−Cysペルオキシレドキシンの発現の増大、亜硝酸ナトリウム存在下における生育の改善などを指標として、容易に選別し、得ることもできる。
【0029】
本発明者らの知見によれば、活性窒素ストレス抑制能を有するトランスジェニック植物又はその種子及びその製造方法も提供されうる。かかるトランスジェニック植物又はその種子及びその製造方法も本発明に含まれる。
【0030】
本発明のトランスジェニック植物の製造方法は、(a)植物細胞に、ペルオキシレドキシンをコードする核酸を導入し、形質転換植物細胞を得るステップ、
(b)前記(a)で得られた形質転換植物細胞から植物体を再生するステップ、及び
(c)前記(b)で得られた植物体を、導入された核酸に由来するペルオキシレドキシンの発現に適した条件下に生育させるステップ、
を含む方法である。
【0031】
前記ペルオキシレドキシンは、前記と同様である。
【0032】
前記ステップ(a)において、植物細胞への核酸の導入は、生物的導入法、直接的導入法等により行なわれうる。
【0033】
前記生物的導入法としては、例えば、慣用のアグロバクテリウムを用いる方法等が挙げられる。かかるアグロバクテリウムを用いる方法においては、Tiプラスミド等の慣用のベクターを介して前記核酸が導入されうる。
【0034】
なお、前記核酸は、誘導可能なプロモーターの制御下に配置された核酸であってもよい。
【0035】
前記ベクターは、マーカーとなる遺伝子、例えば、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子等、前記2CPRXの発現制御可能なプロモーター、例えば、カリフラワーモザイクウイルス35S RNAプロモーター、イネアクチン遺伝子プロモーター、トウモロコシユビキチン遺伝子プロモーター等、前記2CPRXの発現を調節しうるエレメント、例えば、アグロバクテリウムのノパリンシンターゼ遺伝子のターミネーター等を含有していてもよい。
【0036】
前記直接的導入法としては、エレクトロポレーション法、パーティクルガンを用いたボンバードメント法等が挙げられる。かかる直接的導入法においては、前記核酸又は該核酸を含有した発現可能な構築物が用いられうる。また、前記直接的導入法においては、前記核酸又は該核酸を含有した発現可能な構築物を、植物のプロトプラスト、ディスク状の葉切片(リーフディスク)等に導入する。
【0037】
前記ペルオキシレドキシンをコードする核酸としては、
(I) 配列番号:1に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする核酸、
(II) 配列番号:1に示されるアミノ酸配列において、少なくとも1残基のアミノ酸の置換、欠失、付加又は挿入を有するアミノ酸配列を有し、かつ、パーオキシナイトライト消去能を有するポリペプチドをコードする核酸、
(III) 前記(I)の核酸とストリンジェントな条件下にハイブリダイズする核酸であり、かつコードされるポリペプチドが、パーオキシナイトライト消去能を有するポリペプチドである核酸、
(IV) 前記(I)の核酸の塩基配列と少なくとも20%の配列同一性を有し、かつコードされるポリペプチドが、パーオキシナイトライト消去能を有するポリペプチドである核酸、
が挙げられる。
【0038】
ここで、前記「ストリンジェントな条件」としては、モレキュラー・クローニング:ア・ラボラトリーマニュアル第2版〔ザンブルーク(Sambrook)ら編、コールドスプリングハーバーラボラトリープレス刊、1989〕等に記載の条件が挙げられる。具体的には、例えば、
▲1▼ 6×SSC(1×SSCの組成:0.15M NaCl、0.015M クエン酸ナトリウム、pH7.0)と0.5% SDSと5×デンハルトと100μg/ml 変性断片化サケ精子DNAと50% ホルムアミド(含有しなくてもよい)を含む溶液中、プローブとともに42℃(ホルムアミドを含まない場合は、65℃)で一晩保温するステップ、
▲2▼ 非特異的にハイブリダイズしたプローブを洗浄により除去するステップ、ここで、より精度を高める観点から、より低イオン強度、例えば、2×SSC、より厳しくは、0.1×SSC等の条件及び/又はより高温、例えば、用いられる核酸のTm値の40℃下、より厳しくは、30℃下、さらに厳しくは、25℃下、よりさらに厳しくは、10℃下、具体的には、用いられる核酸のTm値により異なるが、25℃以上、より厳しくは、37℃以上、さらに厳しくは、42℃以上、よりさらに厳しくは、50℃以上、より一層厳しくは、60℃以上等の条件下での洗浄を行なうことにより、例えば、前記(I)の核酸の塩基配列と少なくとも約20%、好ましくは、30%以上、より好ましくは、40%以上、さらに好ましくは、50%以上、よりさらに好ましくは、60%以上、より一層好ましくは、70%以上の配列同一性を有する核酸を得ることができる。なお、Tmは、例えば、下記式:
Tm=81.5−16.6(log10[Na+])+0.41(%G+C)−(600/N)
(式中、Nはオリゴヌクレオチドの鎖長であり、%G+Cはオリゴヌクレオチド中のグアニン及びシトシン残基の含有量である)
により求められる。
【0039】
植物細胞としては、プロトプラスト等が挙げられる。
【0040】
植物細胞の由来は、特に限定されるものではなく、例えば、シロイヌナズナ、イネ、タバコ等が挙げられる。
【0041】
核酸が導入された形質転換細胞の選別は、例えば、マーカー遺伝子を用いた場合には、該マーカー遺伝子の発現を指標とすることもでき、さらには、遺伝子特異的プライマーを用いたPCRにより、導入遺伝子の特異的増幅を指標として行なわれうる。
【0042】
前記ステップ(b)において、形質転換植物細胞からの植物体の再生は、例えば、プロトプラストの場合、該プロトプラストを栄養培地で5〜10日程度培養して、細胞壁を合成させ、ついで、液体培地中で、激しく攪拌させながら、培養し、カルスを得、得られたカルスをオーキシンおよびサイトカイニンの存在下に培養することにより行なわれうる。なお、カルスからの植物体の再生は、
(1)低濃度のオーキシンと高濃度のサイトカイニンを最初に用いた場合には、枝に該当する部分が再生され、ついで、高濃度のオーキシンの存在下に生育させること、
(2)高濃度のオーキシンと低濃度のサイトカイニンを最初に用いた場合には、枝に該当する部分が再生され、ついで、高濃度のサイトカイニンの存在下に生育させること、
により植物体を得ることができる。
【0043】
前記ステップ(c)においては、ペルオキシレドキシンの発現に適した条件は、例えば、導入した核酸が誘導可能なプロモーターの制御下に配置されている場合、該プロモーターの誘導条件を適用すればよい。
【0044】
前記製造方法により得られたトランスジェニック植物又はその種子は、例えば、種々の強度の亜硝酸ストレス下での培養、化学窒素肥料(硝酸塩又はアンモニウム塩) 過剰施肥下での生育の評価をバイオマス増加量(根や茎葉の生長量)・クロロフィル含有量(ともに個体レベル)や光合成活性(細胞レベル)を指標とすること、二酸化窒素などの窒素酸化物を含む大気中での生育等により評価されうる。
【0045】
また、本発明者らの知見により、植物の生育環境における活性窒素ストレス抑制剤も提供されうる。
【0046】
前記活性窒素ストレス抑制剤は、2−Cysペルオキシレドキシンを保持した支持体を含有することに1つの大きな特徴がある。本発明の活性窒素ストレス抑制剤は、2−Cysペルオキシレドキシンの機能が利用されているため、パーオキシナイトライトを消去することができ、それにより、植物における活性窒素ストレスを抑制すること、活性窒素ストレスの要因となる一酸化窒素・パーオキシナイトライト等の活性窒素種や,活性窒素源である硝酸態窒素により汚染された土壌のレメディエーション等を行なうことができるという優れた効果を発揮する。また、本発明の活性窒素ストレス抑制剤は、2−Cysペルオキシレドキシンを保持した支持体を用いられているため、より安定に、長期にわたり、効率よく、パーオキシナイトライト消去能を発現させることができるという優れた効果を発揮する。
【0047】
前記活性窒素ストレス抑制剤は、より安定に、長期にわたり、効率よく、パーオキシナイトライト消去能を発現させる観点から、好ましくは、酸化されたCys残基を還元しうる系(システイン還元系)をさらに保持していることが望ましい。なお、かかるシステイン還元系は、好ましくは、2−Cysペルオキシレドキシンによるパーオキシナイトライト消去能を発現させるに適した量となるように保持されていることが望ましい。
【0048】
前記2−Cysペルオキシレドキシンを保持した支持体としては、前記2−Cysペルオキシレドキシンが導入された微生物(例えば、酵母、細菌等に前記2−Cysペルオキシレドキシンをコードする核酸を導入して得られた微生物)、前記2−Cysペルオキシレドキシンが固定化された担体(例えば、慣用の固定化酵素に用いられる担体等)等が挙げられる。
【0049】
なお、前記微生物は、好ましくは、土壌微生物、特に植物の生育を妨げない土壌微生物であることが望ましい。
【0050】
また、本発明の活性窒素ストレス抑制剤は、適宜、支持体の維持、2−Cysペルオキシレドキシンの機能の維持・発現に適した助剤を含有していてもよい。
【0051】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0052】
また、以下の実施例において、一般的な遺伝子操作等は、特に明記しない限り、モレキュラークローニング ア ラボラトリーマニュアル第2版〔ザンブルーク(Sambrook)ら、1989〕に記載の方法に準じた。大腸菌(Escherichia coli)を、LB培地〔組成:1%(w/v) トリプトン、0.5%(w/v) 酵母エキス、0.5%(w/v) NaCl(pH7.0)〕中、37℃で培養した。PCRで増幅されたDNAの操作には、大腸菌DH5α株を用い、かかる操作の際には、TA−クローニングベクターは、pT7Blue〔ノバージェン(Novagen)社製〕を用いた。サッカロマイセス・セルビジエ(Saccharomyces cerevisiae)は、特に明記しない限り、YPD培地[1%(w/v) 酵母エキス,2%(w/v)バクトペプトン,2%(w/v) グルコース]中、pH5.8で30℃で培養した。
【0053】
実施例1
クロロプラスト局在型2CPRXであるオオムギBAS1〔バイエル(Baier)ら,Plant Physiol.,111,651,1996〕に対するシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)における推定成熟型ホモログをコードするcDNA(597bp長)をクローン化するため、シロイヌナズナ エコタイプ コロンビアの緑色栄養生長組織について構築されたcDNAライブラリーを鋳型とし、Ex TaqTM DNAポリメラーゼ〔タカラバイオ社製〕を用い、PCRを行なった。
【0054】
なお、シロイヌナズナにおける成熟型2CPRXタンパク質のN末端アミノ酸配列の情報がないため、スピナシア オレナシア(Spinacia oleracea)由来の成熟型クロロプラスト2CPRXのN末端配列に対するホモロジーに基づき、前駆体の輸送ペプチドの切断部位を割り当てた。用いたプライマーは、NdeI制限酵素部位(下線)を有するセンスプライマー(5’−catatggccgatgatcttccactggtt−3’;配列番号:2)とBamHI制限酵素部位(下線)を有するアンチセンスプライマー(5’−ggatccctaaatagctgagaagtactc−3’;配列番号:3)である。かかるプライマー対を用いることにより、得られる産物においては、輸送ペプチドを構成すると考えられる前駆体Atc2CPRXのN末端68アミノ酸に対応する領域が除去され、これに代わりメチオニン1残基に対応するコドンが創出される。
【0055】
PCRの反応条件は、前処理94℃/5分のあと,94℃/1分(変性),56℃/1分(アニーリング),72℃/1分(鎖伸長)のサイクルを30回繰り返したものである。
【0056】
ついで、得られた増幅断片をpT7Blueに連結し、クローニングプロセスで変異が導入されていないことを確認するためにシークエンスした。ついで、前記cDNAをNdeI/BamHI断片として、T7プロモーターによる制御が可能な発現ベクターpET16bに連結し、pET−AtPRXを得た。
【0057】
得られたpET−AtPRXを用い。Escherichia coli BL21(DE3)pLysS株を形質転換し、60μg/ml クロラムフェニコールと80μg/ml アンピシリンとを含有したLB培地で培養した。得られた形質転換体について、60μg/ml クロラムフェニコールと80μg/ml アンピシリンとを含有したLB培地中37℃で培養し、培地の濁度が0.5に達した時点で、該培地に、0.4mM イソプロピル−1−チオ−β−D−ガラクトピラノシド(IPTG)を添加し、さらに4時間培養して、N末端6ヒスチジン(His)タグ融合タンパク質として、推定成熟タンパク質(以下、Atc2CPRXと表示する)の発現を誘導した。
【0058】
ついで、得られた培養物のHisタグ組換タンパク質含有可溶性画分について、Ni2+−アフィニティーカラム〔商品名:BugBuster His・Bind purification kit;ノバージェン(Novagen)社製〕で、キットにより提供されたマニュアルの説明に従い精製した。精製タンパク質を脱塩し、限外ろ過〔商品名:NanosepTM 10K;ポールジェルマンラボラトリー(Pall Gelman Laboratory)社製〕で濃縮した。
【0059】
得られたタンパク質を、12%(w/v) 変性ポリアクリルアミドゲルでのドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)で分離し、クマシーブルーで染色した。タンパク質濃度は、BSAを標準として用いて、ブラッドフォード法〔Coomassie(登録商標) Plus Protein Assay Reagent;ピアス(Pierce)社製〕で決定した。
【0060】
図1のパネルaに、ニッケル−アフィニティークロマトグラフィーを用いた、細菌細胞の可溶性画分からの組換Atc2CPRXの精製を示す。図1のパネルa,レーン4に示されるように、SDS−PAGE上での精製融合タンパク質の見かけの分子量(27 kDa)は、Hisタグとリンカー配列とを含む組換タンパク質の推定分子量(23kDa)よりも大きかった。同様な所見が、他の生物由来の2CPRXについて報告されており、SDS−PAGEにおける移動度の遅延は、おそらく、種々の供給源由来の2CPRXの共通の性質であろうと思われる。
【0061】
2CPRXファミリーの典型的な性質は、2つのサブユニットの触媒システイン残基間のジスルフィドで結合した二量体の形成能である。そこで、Atc2CPRXがこの性質を維持しているかどうかを調べるため、5mM ジチオスレイトール(DTT)又は5mM H2O2で単独で処理し、Atc2CPRXを、ゲルろ過により精製して還元剤及び酸化剤を除去し、変性/非還元条件でSDS−PAGEで解析した。なお、非還元条件下でのSDS−PAGEには、還元剤を含まないSDS−PAGEサンプルバッファーを用いた。
【0062】
その結果、図1のパネルbのレーン3に示されるように、Atc2CPRXは、酸化による二量体化で50−kDaタンパク質を形成するが、レーン1に示されるように、還元後、単量体として存在した。これらの結果は、Atc2CPRXが、2CPRXに共通の報告された構造的性質を保持した形で、細菌内で生産されたことを示す。
【0063】
実施例2
Atc2CPRXが大腸菌内で活性を保持した形で生産されているかどうかを決定するため、以下のように、インビトロで過酸化水素還元ペルオキシダーゼ活性を測定した。
【0064】
H2O2あるいはtert−ブチルハイドロペルオキシド(t−BuOOH)を基質とし、組換タンパク質の再生のための酵母由来のTrx/NADPH:Trxオキシドレダクターゼ(TR)共役系とを用いた山本(Yamamoto)ら〔FEBS Lett. 447, 269−273,1999〕の方法の改変法により、組換Atc2CPRXのペルオキシダーゼ活性を測定した。
【0065】
20mM リン酸カリウム(pH7.0)と、200μM NADPHと、6μM TR〔カルバイオケム(Calbiochem)社製〕と0.6−6μM組換タンパク質とを含有した溶液を、25℃でプレインキュベートした。その後基質(70μM t−BuOOH又は100μM H2O2)を添加し、ついで、8μM Trx〔カルバイオケム(Calbiochem)〕を添加することにより反応を開始させた。
【0066】
活性は、NADPH(ε340=6,310M−1cm−1)の酸化による340nmにおける吸光度の減少を、25℃で連続的に記録し、モニターすることにより測定した。活性は、1mgのタンパク質あたり、1分間に酸化される NADPH(nmol)であらわされる。
【0067】
その結果、図2のパネルaに示されるように、精製Atc2CPRXは、酵素的に活性であり、基質(H2O2又はt−BuOOH)及びTrx/TR系の両方の存在に完全に依存してNADPHの酸化を触媒した。H2O2及びt−BuOOHに対する比活性は、それぞれ263±5及び202±7nmol 酸化NADPH分−1mg−1タンパク質(各値について、n=3)であった。NADPHの酸化は、基質、Trx又はそれら両方の非存在下では、ほとんど起こらないので無視できる。
【0068】
したがって、Hisタグ融合タンパク質として生産されたAtc2CPRXは、インビトロで触媒機能を発揮し、酵母Trx/TR系により、過酸化水素基質を還元すると思われる。
【0069】
実施例3
Trx−依存性ペルオキシダーゼ活性を確認するため、以下のように、パーオキシナイトライト−感受性プローブであるジヒドロローダミン123を用いて、Atc2CPRXについて、インビトロでのパーオキシナイトライト消去能を調べた。
【0070】
ブライク(Bryk)ら〔Nature 407,211−215,2000〕に記載の技術を用いて、パーオキシナイトライト消去活性を評価した。
【0071】
種々の濃度の還元型又は酸化型の組換Atc2CPRXを、50mM リン酸カリウム(pH7.0)と、20μM ジヒドロローダミン123〔モレキュラープローブ(Molecular Probes)社製〕と20μM ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)とを含有した溶液中、25℃でインキュベートした。パーオキシナイトライト(8μM;Dojindo社製)を添加し、ついで、1分間強く攪拌させて、ジヒドロローダミン123のローダミンへの酸化を開始させた。
【0072】
使用に先立ち、パーオキシナイトライトの濃度を、0.1M NaOH中302nm(ε302=1,670M−1cm−1)での吸光度から決定した。ローダミン123の形成を、500nmで、分光光度法によりモニターした。なお、パーオキシナイトライトの存在下では、ジヒドロローダミン123は、高蛍光ローダミン123に酸化される。
【0073】
Atc2CPRXの2つの標品:(1)DTT処理で得られた還元タンパク質及び(2)H2O2処理による酸化型を、アッセイに用いた。還元型の組換Atc2CPRXは、50mM リン酸カリウム(pH7.0)及び10mM DTT中25℃で10分間インキュベートし、ついで、クロマトグラフィーカラム〔Micro Bio−Spin(登録商標) 6;バイオラッド ラボラトリーズ(Bio−Rad Laboratories)〕でのゲルろ過で、DTTを除去することにより調製した。また、前記において、H2O2(10mM)をDTTに置換し、酸化型Atc2CPRXを得た。対照として、ウシ血清アルブミン(BSA)を同様に還元又は酸化させ、アッセイに用いた。
【0074】
その結果、図2のパネルbに示されるように、還元型Atc2CPRXは、パーオキシナイトライト−誘導酸化からジヒドロローダミンを保護し、濃度依存的にローダミンの形成を抑制した。また、BSAは、アッセイに先立って還元された場合、パーオキシナイトライトに対し多少保護を提供しうるが、保護の程度は、還元Atc2CPRXに比べて非常に低かった。対照的に、酸化型では、Atc2CPRX及びBSAの両方とも、ジヒドロローダミンの酸化をほとんど妨げなかった。これらの結果により、Atc2CPRXは、インビトロで、有効なパーオキシナイトライトスカベンジャーとして作用し、この能力は、おそらく、サブユニットの二量体化に反応しうる触媒システイン残基の酸化還元状態に依存することが示唆される。
【0075】
実施例4
サッカロマイセス・セルビジエ(S.cerevisiae) tsa1Δ−tsa2Δ二重変異体は、活性酸素ストレス及び活性窒素ストレスに対して過敏性であり、細胞質に局在する2CPRXをコードするTSA1及びTSA2の2つのほぼ同じ構造を持つ遺伝子の標的変異により、酸化ストレス及び活性窒素ストレスの両方に対するその耐性を大幅に損なう。
【0076】
そこで、活性窒素ストレス耐性及び酸化ストレス耐性におけるAtc2CPRXの機能的関連性を調べるため、シロイヌナズナ(Arabidopsis) クロロプラスト2CPRXにより、酵母における活性酸素ストレスに対する過敏感応答性を相補するかどうかを調べた。機能相補は、ワン(Wong)ら〔J.Biol.Chem.,277,5385−T394,2002〕に記載の方法に準じて、細胞質ゾルの2CPRXのnull変異体である酵母変異体tsa1Δ−tsa2Δを用いて行なった。親株であるBY4741を野生型コントロールとして用いた。相補試験には、発現ベクターは、オウレオバシジン−A耐性を与える選択マーカー遺伝子を保持するpAUR123〔タカラバイオ社製〕用いた。
【0077】
Atc2CPRXについてPCRで得られたcDNAを保持したpT7Blueを、NdeIで消化し、平滑末端化し、ついで、SacIで切断した。切り離されたcDNAを、ついで、pAUR123のSmaI制限部位とSacI制限部位との間に挿入した。pAtPRXと名づけられたこのプラスミドは、サッカロマイセス・セルビジエ(S.cerevisiae)のADH1プロモーターの制御下、前記cDNAの発現を可能にする。ギエッツ(Gietz)ら〔Nucleic Acids Res. 20,1425,1992〕に従い、酵母変異体tsa1Δ−tsa2Δのコンピテントセルを調製し、pAtPRXを用いて形質転換した。なお、挿入断片を含まないベクター(空ベクター)で形質転換した前記変異体細胞を、コントロールとして用いた。
【0078】
過敏感表現型の遺伝子相補は、以下のように行なった。野生型及び変異体の形質転換株をそれぞれ一晩培養した(OD600=0.5)。ついで、培養後の野生型及び変異体の形質転換株それぞれを、新しいYPD培地でOD600=0.03まで希釈させ、培養を再開させた。活性酸素耐性の評価のために、希釈細胞を、0.3mM H2O2を入れたYPDで培養した。弱酸性条件(pH5.2)で、1mM NaNO2を含むYPDで細胞を生育させることにより活性窒素ストレスを与えた。参照として、亜硝酸毒性を抑制するために、同じYPD/NaNO2培地中、pH6.6で実験を行なった。細胞生育を。3時間毎OD600で記録した。OD600 が0.4を超えた場合、培養物の画分を適当に希釈し、精度をチェックするために、ODを再記録した。
【0079】
酵母でのAtc2CPRXの異種発現を確認するため、組換タンパク質に対するウサギ抗体を用いてイムノブロット解析を行なった。
【0080】
ウサギポリクローナル抗体を、Ni2+−アフィニティークロマトグラフィーを用い、ついで、ゲルろ過(商品名:Superdex 75HR gel;アマシャム・ファルマシア バイオテック社製)を行ない、4M 尿素の存在下変性条件下で精製された組換Atc2CPRXに対して生じさせた。
【0081】
イムノブロット解析のために、酵母由来の10μgの可溶性タンパク質を15% SDS−PAGEで分離した。分離後、ゲル上のタンパク質をポリビニリデンフルオリド膜(商品名:ImmobilonTM−P;ミリポア社製)に転写した。膜をPBS中3%(w/v) BSA含有でブロックした。免疫したウサギの血液血清(PBSで1:5000希釈)とビオチン化抗ウサギIgG抗体とをそれぞれ、一次抗体及び二次抗体として用いた。4−クロロ−1−ナフトールをインディゴ生成基質として用いて、アビジン−ビオチン化ペルオキシダーゼ複合体とインキュベーションして、抗原−抗体複合体を視覚化させた。なお、前記抗体については、シロイヌナズナ(Arabidopsis)抽出物中の植物クロロプラスト2CPRXと同様のサイズである26kDaタンパク質の検出能により信頼できることを確認した。
【0082】
その結果、図3のパネルaのレーン3に示されるように、pAtPRXにより形質転換された細胞(ATPRXと表示)は、シロイヌナズナ(Arabidopsis)に存在する26kDaタンパク質と共移動する免疫反応性タンパク質を生じた。一方、図3のパネルaのレーン2及び4のそれぞれに示されるように、そのようなシグナルは、野生型株(WT)又は空ベクターにより形質転換された変異体(ベクターコントロール)では検出されなかった。
【0083】
したがって、シロイヌナズナ(Arabidopsis) cDNAで形質転換された変異体は、Atc2CPRXを生産することがわかった。
【0084】
ついで、遺伝子導入により生産されたAtc2CPRXが、tsa1Δ−tsa2Δ変異体の活性酸素ストレスに対する過敏感反応を相補しうるかどうかを調べた。その結果を図3のパネルb〜dに示す。
【0085】
図3のパネルbに示されるように、WTの生育は、0.3mM H2O2の存在下にほとんど影響を受けなかったが、ベクターコントロールは、同じ条件下で、大幅に遅い生育表現型を示した。Atc2CPRX cDNAの発現は、図3のパネルbに示されるように、ATPRXの生育により示されるように、変異体の生育を、十分ではないが、回復した。図3のパネルcに示されるように、非ストレス条件下、これらの3つの株は、ATPRXに、軽い生育遅延が観察されたが、ほんのわずかに違っただけであった。図3のパネルdに示されるように、非ストレス条件下に対するストレス条件下での9時間培養における各株の生育は、それぞれ、WTで90%、ATPRXで70%及びベクターコントロールで19%であった。
【0086】
これらの結果により、Atc2CPRXが、インビボで機能し、酸化ストレスから酵母細胞を保護すること及び表現型相補が、実際に、シロイヌナズナ(Arabidopsis)タンパク質によるものであることが示された。
【0087】
実施例5
亜硝酸塩は、プロトン化型のみが、NO及びその反応性誘導体を生じるため、中性でなく弱酸性で細胞傷害効果を発揮することが知られている活性窒素ストレス因子である。
【0088】
そこで、亜硝酸塩のpH−依存性毒性を利用して、酵母株について、5.2又は6.6のどちらかのpHで、1mM 亜硝酸ナトリウムを含む培地で培養することにより、活性窒素ストレスに対する耐性を調べた。結果を図4のパネル(a)〜(c)に示す。
【0089】
その結果、図4のパネル(a)に示されるように、pH5.2で亜硝酸ナトリウムの存在下、ベクターコントロールの生育は、実質的に阻害され、亜硝酸毒性が、細胞に傷害を与えることを示した。対照的に、ATPRXは、ベクターコントロールよりも顕著によく生育し、実際、生育は、ストレス条件下で野生型とATPRXとの間で差異がつかなかった。また、図4のパネル(b)に示されるように、pH5.2で亜硝酸の非存在下、前記のような生育異常は、ベクターコントロールでは検出されなかった。
【0090】
一方、pH6.6で培養した場合、亜硝酸毒性は、亜硝酸塩の存在〔図4のパネル(c)〕又は非存在にもかかわらず、同様に生育する3株全てで、明らかに抑制された。かかるコントロール実験により、亜硝酸毒性は、より低いpH条件に特異的であることが示唆された。
【0091】
図4のパネル(d)に示されるように、生育を9時間で比べた場合、ベクターコントロールの亜硝酸ストレスをうけた生育は、非ストレス条件下の生育の60%にすぎなかったが、WT及びATPRXの両方は、実際に、ストレス処理により影響を受けなかった。
【0092】
これらの結果により、Atc2CPRXが、インビボで活性窒素媒介ストレスの悪影響を緩和したことを示し、ATPRXにおいて観察された耐性が、インビボでパーオキシナイトライトなどの活性窒素ストレスを除去するAtc2CPRXの能力に起因するであろうことが示唆される。
【0093】
活性窒素ストレスに対するAtc2CPRXの保護機能のさらなる証拠を得るため、細胞内オキシダントの存在下で高蛍光DCFに酸化される膜透過性化合物であるオキシダント感受性プローブである2’,7’−ジクロロジヒドロフルオレセイン ジアセテート(H2DCF−DA)〔モレキュラープローブズ(Molecular Probes)社製〕を用いて、インビボにおける該H2DCF−DAの蛍光2’,7’−ジクロロフルオレセイン(DCF)への活性窒素ストレス誘導酸化を妨げる酵母株の能力を調べた。
【0094】
定常状態の細胞内オキシダントレベルを、蛍光測定により評価した。
【0095】
YPD培地中30℃で対数増殖期中期まで増殖させた場合、酵母細胞(OD600=0.4−0.6)を、NO−放出剤であるジエチルアミン/NO複合体DEANO〔シグマケミカルズ(Sigma Chemicals)社製〕を終濃度0.5mMで処理し、活性窒素ストレスを与えた。さらに1時間培養後、細胞を回収し、リン酸緩衝化生理的食塩水(PBS)で3回洗浄し、PBSに再懸濁させた。H2DCF−DA(終濃度10μM)を細胞懸濁液に添加し、30℃で60分間、さらにインキュベートして、H2DCF−DAのインビボ酸化を行なった。細胞をペレット化し、洗浄し、PBS中ガラスビーズで溶菌させた。等分量の細胞溶解物(タンパク質300μg相当量)を、488nm及び525nmの励起及び発光波長で蛍光光度計(商品名:RF−5000;島津製作所社製)により蛍光強度を解析した。既知濃度で調製されたDCF〔ポリサイエンシーズ(PolySciences)社製〕をキャリブレーションに用いた。細胞内オキシダントレベルは、タンパク質1mgあたりに形成されたDCF(pmol)として表す。
【0096】
その結果、図5に示されるように、NO放出剤の処理の際、DCF蛍光が、ベクターコントロールで有意(2倍)に増加したが、WT及びATPRXの両方ではほとんど変化しなかったことがわかる。したがって、0.5mM DEANO存在下で、WT及びATPRXの両方が、細胞内オキシダントレベルを維持しうるが、ベクターコントロールは、NO−媒介酸化を抑制できないことがわかる。これらの結果は、酵母変異体におけるAtc2CPRXの異種発現が、インビボでの活性窒素ストレス媒介酸化傷害を著しく減少させ、さらに、活性窒素ストレスに対する耐性におけるAtc2CPRXの機能を支持したことを示唆する。
【0097】
配列表フリーテキスト
配列番号:2は、Atc2CPRX遺伝子の増幅用プライマーの配列である。
【0098】
配列番号:3は、Atc2CPRX遺伝子の増幅用プライマーの配列である。
【0099】
【発明の効果】
本発明の植物における活性窒素ストレスの抑制方法によれば、植物における活性窒素ストレスを抑制し、活性窒素ストレスの要因となる一酸化窒素・パーオキシナイトライト等の活性窒素種や、活性窒素源である硝酸態窒素により汚染された土壌のレメディエーションを可能にするという優れた効果を奏する。また、本発明のトランスジェニック植物又はその種子によれば、活性窒素ストレス抑制能を発揮し、活性窒素ストレスの要因となる一酸化窒素・パーオキシナイトライト等の活性窒素種や、活性窒素源である硝酸態窒素により汚染された土壌のレメディエーションに用いることができるという優れた効果を奏する。さらに、本発明の活性窒素ストレス抑制能を有する植物の製造方法によれば、活性窒素ストレス抑制能を発揮し、活性窒素ストレスの要因となる一酸化窒素・パーオキシナイトライト等の活性窒素種や、活性窒素源である硝酸態窒素により汚染された土壌のレメディエーションに有用なトランスジェニック植物又はその種子を製造することができ、安定して供給することができるという優れた効果を奏する。また、本発明の植物の生育環境における活性窒素ストレス抑制剤によれば、より安定に、長期にわたり、効率よく、パーオキシナイトライト消去能を発現させることができ、それにより、植物における活性窒素ストレスを抑制し、活性窒素ストレスの要因となる一酸化窒素・パーオキシナイトライト等の活性窒素種や、活性窒素源である硝酸態窒素により汚染された土壌のレメディエーション等を行なうことができ、るという優れた効果を奏する。
【0100】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、組換Atc2CPRXの解析の結果を示す。図中、パネル(a)は、大腸菌で過剰発現された組換Atc2CPRXの精製度を調べた結果である。分子サイズ(kDa)を左に示す。レーン1は、分子サイズ標準マーカー、レーン2は、空ベクターで形質転換されたIPTG誘導細胞のライゼート(10μg相当量)、レーン3は、pET−AtPRXで形質転換されたIPTG誘導細胞のライゼート(10μg相当量)、レーン4は、精製後の組換Atc2CPRXタンパク質(5μg相当量)である。パネル(b)は、5mM DTT(レーン1)又は5mM H2O2(レーン3)で前処理した精製Atc2CPRX(3μg相当量)について、ゲル濾過後に非還元条件下にSDS−PAGE(12%ゲル)を行なった結果を示す。分子サイズ(kDa)を左に示す。
【図2】図2は、組換Atc2CPRXのインビトロでの活性を調べた結果を示す。パネル(a)は、NADPHを還元剤として用いて、間接的にペルオキシダーゼ活性を測定した結果を示す。パネル(b)は、パーオキシナイトライトスカベンジャー活性を、ジヒドロローダミン123からローダミンへのパーオキシナイトライト媒介酸化に対する組換Atc2CPRXの阻害能として評価した結果を示す。図中、白丸は、酸化型Atc2CPRX、白四角は、酸化型BSA、黒丸は、還元型Atc2CPRX、黒四角は、還元型BSAを示す。データは、3回の実験の平均±SDで示す。
【図3】図3は、Atc2CPRXによるtsa1Δtsa2Δ変異体の酸化ストレス過敏感反応性の相補を調べた結果を示す。パネル(a)は、酵母各株由来の可溶性タンパク質のイムノブロットの結果を示す。レーン1は、アラビドプシスの可溶性タンパク質(2μg相当量)、レーン2は、野生型酵母、レーン3は、ATPRX、レーン4は、対照を示す。パネル(b)は、0.3mM 過酸化水素存在下に細胞を培養した結果を示し、パネル(c)は、過酸化水素非存在下に細胞を培養した結果を示す。パネル(b)及びパネル(c)において、白丸は、WT、白三角は、ベクター対照、白四角は、ATPRXを示す。データは、3回の実験の平均±SDで示す。パネル(d)は、パネル(b)及びパネル(c)における9時間培養時のデータをもとにした細胞生長の相対値である。
【図4】図4は、Atc2CPRXによるtsa1Δtsa2Δ変異株における活性窒素ストレス過敏感反応の相補を調べた結果を示す。パネル(a)は、1mM 亜硝酸ナトリウム(pH5.2)存在下、パネル(b)は、亜硝酸ナトリウム非存在下(pH5.2)、パネル(c)は、1mM 亜硝酸ナトリウム(pH6.6)存在下に、細胞を培養した結果を示す。パネル(a)〜(c)において、白丸は、WT、白三角は、ベクター対照、白四角は、ATPRXを示す。データは、3回の実験の平均±SDで示す。パネル(d)は、パネル(a)及びパネル(b)における9時間培養時のデータをもとにした細胞生長の相対値である。
【図5】図5は、Atc2CPRXを発現するtsa1Δtsa2Δ変異株における活性窒素ストレス媒介細胞内酸化の抑制を調べた結果を示す。データは、3回の実験の平均±SDで示す。
Claims (8)
- ペルオキシレドキシンの発現を増大させることを特徴とする、植物における活性窒素ストレスの抑制方法。
- 該ペルオキシレドキシンが、植物由来の2−Cysペルオキシレドキシンである、請求項1記載の抑制方法。
- 該2−Cysペルオキシレドキシンが、
(i) 配列番号:1に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド、
(ii) 配列番号:1に示されるアミノ酸配列において、少なくとも1残基のアミノ酸の置換、欠失、付加若しくは挿入を有するアミノ酸配列を有し、かつ、パーオキシナイトライト消去能を有するポリペプチド、及び
(iii) 配列番号:1に示されるアミノ酸配列と少なくとも20%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、パーオキシナイトライト消去能を有するポリペプチド、
からなる群より選ばれた1種のポリペプチドである、請求項1又は2記載の抑制方法。 - (a)植物細胞に、ペルオキシレドキシンをコードする核酸を導入し、形質転換植物細胞を得るステップ、
(b)前記(a)で得られた形質転換植物細胞から植物体を再生するステップ、及び
(c)前記(b)で得られた植物体を、導入された核酸に由来するペルオキシレドキシンの発現に適した条件下に生育させるステップ、
を含む、活性窒素ストレス抑制能を有するトランスジェニック植物の製造方法。 - 該ペルオキシレドキシンが、植物由来の2−Cysペルオキシレドキシンである、請求項4記載の製造方法。
- 該ペルオキシレドキシンをコードする核酸が、誘導可能なプロモーターの制御下に配置された核酸である、請求項5記載の製造方法。
- 該ペルオキシレドキシンをコードする核酸が、
(I) 配列番号:1に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする核酸、
(II) 配列番号:1に示されるアミノ酸配列において、少なくとも1残基のアミノ酸の置換、欠失、付加又は挿入を有するアミノ酸配列を有し、かつ、パーオキシナイトライト消去能を有するポリペプチドをコードする核酸、
(III) 前記(I)の核酸の塩基配列と少なくとも20%の配列同一性を有し、かつコードされるポリペプチドが、パーオキシナイトライト消去能を有するポリペプチドである核酸、及び
(IV) 前記(I)の核酸とストリンジェントな条件下にハイブリダイズする核酸であり、かつコードされるポリペプチドが、パーオキシナイトライト消去能を有するポリペプチドである核酸、
からなる群より選ばれた1種の核酸である、請求項5又は6記載の製造方法。 - 請求項4〜7いずれか1項に記載の製造方法により得られるトランスジェニック植物又はその種子。
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AU2008252852B2 (en) * | 2007-05-23 | 2014-08-07 | Crop Functional Genomics Center | Plants having enhanced yield-related traits and a method for making the same |
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