JP2004244339A - Adamts4の機能阻害剤 - Google Patents
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Abstract
【課題】ADAMST4の機能を抑制する薬剤、およびADAMST4を標的分子とする医薬品のためのスクリーニング方法の提供を課題とする。
【解決手段】ADAMTS4の生理学的意義を明らかにするために、ADAMTS4遺伝子欠損マウスを作製し解析を行った結果、ADAMTS4が発生の初期段階で決定的な役割を果たしていることが明らかになった。ADAMTS4タンパク質は、ADAMTS4タンパク質の発現の抑制あるいは活性の抑制に基づいた避妊薬となるものと考えられる。また、ADAMST4を標的分子とすることにより、上記避妊のための医薬品のスクリーニングが可能である。
【選択図】 なし
【解決手段】ADAMTS4の生理学的意義を明らかにするために、ADAMTS4遺伝子欠損マウスを作製し解析を行った結果、ADAMTS4が発生の初期段階で決定的な役割を果たしていることが明らかになった。ADAMTS4タンパク質は、ADAMTS4タンパク質の発現の抑制あるいは活性の抑制に基づいた避妊薬となるものと考えられる。また、ADAMST4を標的分子とすることにより、上記避妊のための医薬品のスクリーニングが可能である。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【従来の技術】
ほぼ30種類のADAM(ディスインテグリンおよびメタロプロテアーゼ)ファミリーの分子が分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)からヒトに至る各種生物で同定されている。いずれの分子も保存された特徴的なドメイン構造を有している。N末端のシグナル配列の後に、プロドメイン、メタロプロテアーゼドメイン、ディスインテグリンドメインおよびEGFリピートを含むシステインに富んだ領域が続く。ほとんどのメンバーは膜貫通性ドメインを有し、その後にC末端細胞質テールを含んでいる。
【0002】
ADAMは細胞接着や細胞表面分子のタンパク質分解プロセッシング等の多様な過程に関係することが示されている。精子のヘテロ二量体タンパク質であるファーティリン(fertilin)αおよびβ(ADAM1およびADAM2)ならびにcyritestin(ADAM3)は、受精中の精子−卵融合に必須である(非特許文献1参照)。メルトリン(Meltrin)α(ADAM12)は、筋肉発生における筋芽細胞融合に何らかの役割を担っている(非特許文献2参照)。TNFα変換酵素(TACE、ADAM17)は、細胞外TNFα等の細胞表面膜貫通性増殖因子における活性領域のタンパク質分解・放出に関係している(非特許文献3参照)。ショウジョウバエ(Drosophila)のメタロプロテアーゼディスインテグリンKUZ(kuzbanian、線虫のSUP−17、哺乳動物のADAM10)(非特許文献4参照)は、ノッチ(Notch)およびノッチリガンドDelta(非特許文献5および6参照)のプロセッシングが関連した神経発生に重要である。MDCはヒト乳癌の腫瘍サプレッサー分子の候補であり、MS2はマクロファージ表面抗原である。しかしながら、ADAMファミリーの大部分のメンバーに関しては、生理学的機能が未解明のままである。
【0003】
ADAMTS(トロンボスポンジンモチーフを有するディスインテグリンおよびメタロプロテアーゼ)は、ADAMのサブファミリーであり、哺乳動物および無脊椎動物のいずれにも見いだされる新規な細胞外プロテアーゼファミリーである。現在のところ、哺乳動物のADAMTSファミリーは14種のメンバーからなる。このファミリーのメンバーは、トロンボスポンジン1様の繰り返し配列を複数コピー含み、C末端領域(非特許文献7参照)の膜貫通性ドメインが欠けている等の性質から、他のADAMファミリーメンバーとは異なっている。従って、ほとんどが細胞表面に局在するADAMファミリーメンバーとは異なり、ADAMTSファミリーメンバーは、細胞外マトリックスタンパク質を構成していると考えられる(非特許文献8参照)。
【0004】
ADAMTS1を最初に発見したのは久野らである。これは、癌悪液質を誘起するマウス大腸癌細胞株で選択的に発現する遺伝子である。リポ多糖(LPS)で誘導されるマウスの全身性炎症によって、心臓および腎臓でADAMTS1の選択的発現が高まった(非特許文献9参照)。このことは、ADAMTS1の役割が炎症反応に関係している可能性を示唆するものである。
【0005】
哺乳動物細胞で調製した組換えヒトADAMTS1およびその近縁の相同体であるADAMTS8は、角膜ポケットアッセイにおいてFGF−2誘導性の血管形成を抑制した。また、漿尿膜アッセイにおいてVEGF誘導性血管形成を阻害した。また、いずれのタンパク質も、内皮細胞の増殖を阻害したが、線維芽細胞もしくは平滑筋細胞の増殖を阻害することはなかった(非特許文献10参照)。
【0006】
マウスADAMTS1遺伝子の破壊によって、さらに生理学的機能が明らかになった。ADAMTS1−/−マウスでは、著しい成長遅滞と脂肪組織の形成不全を示した。また、子宮と卵巣が組織学的に変化しており、雌の受精能が低下した。さらに、毛細血管形成を伴わない異常な副腎髄質構造がみられた。さらに著しいのは、腎杯が肥大し、尿管腎盂移行部から尿管にかけて繊維化が起こっていたことである(非特許文献11参照)。このような特異的な形質は、ADAMTS1の転写産物が腎臓に豊富に存在することと一致し、器官形成中に起こる細胞外マトリックスのリモデリングにプロテアーゼ活性が重要であることを支持する。さらに、最近、ADAMTS1が、ディファレンシャルディスプレー法を用いてラット内皮細胞からクローン化された。この転写産物のレベルは、肝硬変状態にある肝臓内皮細胞において下方制御される。このことは、ADAMTS1が肝臓の線維化の過程でも重要であることを示唆するものである。
【0007】
ヒトのエーラース−ダンロス症候群(Ehlers−Danlos Syndrome;EDS)は、皮膚、関節、血管および靱帯等の生体力学的性質の変化によって特徴付けられる一群の先天性結合組織疾患である。VIIC型EDSおよびウシの皮膚剥離症(dermatosparasis)、ウシおよびヒツジにおける類似した疾患は、I型プロコラーゲンのN末端プロセッシング異常による皮膚の重度の脆弱性によって特徴付けられる。ADAMTS2はプロコラーゲンNプロテアーゼであることが報告されている。Coligeらは、ヒトADAMTS2遺伝子をクローン化し、複数のVIIC型EDS患者の変異、および皮膚剥離疾患の仔牛における対応する変異を同定した(非特許文献12参照)。こうして、ADAMTSファミリーの中でも、ADAMTS2は、その生理学的基質、および対応する遺伝的疾患が初めて同定されたメンバーである。
【0008】
最近、ADAMTSファミリーの他のメンバーが関係する遺伝性疾患が明らかにされた。Galliaらは、ヒト先天性血栓性血小板減少性紫斑(TTP)の4家系についてゲノムの連鎖解析を実施し、ADAMTS13の欠損がTTPの分子論的機序であることを示す12種類の変異を、ADAMTS13遺伝子中に同定した(非特許文献13参照)。
【0009】
ADAMTS4およびADAMTS5は、ADAMTS1に非常によく似た相同体であり、インターロイキン1で刺激したウシの関節軟骨細胞の培養培地から精製された(非特許文献14参照)。これらは、軟骨アグリカンを切断するので、アグリカナーゼ1およびアグリカナーゼ2と命名されている(非特許文献15参照)。最近の報告よれば、ヒト抗ADAMTS4抗体のみでアグリカン切断活性の75%を阻害することから(非特許文献16参照)、ADAMTS4はアグリカン切断に最も重要なプロテアーゼであると考えられている。慢性関節リウマチ(RA)および変形性関節症(OA)の場合には、ADAMTS4はアグリカンを球間ドメイン(IGD)のGlu373−Ala374結合部位で切断し、軟骨を分解する(非特許文献17参照)。さらに、最近では、内因性TIMP−3阻害因子が、ADAMTS4活性を阻害することが報告されている(非特許文献18参照)。
【0010】
アグリカン(aggrecan)は単に、ADAMTS4の生理学的基質であるだけではない。ブレビカン(brevican)は、脳特異的細胞外マトリックスとしてのプロテオグリカンであり、ヒトおよびラットの神経膠腫細胞株ではその発現が大幅に増加している。最近の報告では、高度に浸潤的なCNS−1神経膠腫細胞株の脳内移植片の浸潤においてブレビカンの合成と切断が一定の役割を果たしており(非特許文献19参照)、ADAMTS4はブレビカンの切断活性に重要であることが示されている。ADAMTS4は、バーシカン(versican)等の他のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンをインビトロで切断することもできる(非特許文献20参照)。ADAMTS4の転写産物のレベルに関しては、成体の組織では遍在性であり、脳、心臓および肺でより多く発現している。例えば、軟骨細胞および軟骨の外植培養片では、レチノイン酸およびフィブロネクチンの断片(非特許文献21参照)、およびIL−1、TNFα、IL−6(非特許文献22参照)、IL−17(非特許文献23参照)等の複数のサイトカイン類によってADAMTS4による切断が誘導される(非特許文献24参照)。FLS(線維芽細胞様の滑膜細胞)では、TGFβによって、ADAMTS4の遺伝子発現が大幅に増加する(非特許文献25参照)。βアミロイドで処理した場合にも、ラットの星状細胞でADAMTS4の転写産物レベルが亢進した(非特許文献26参照)。このことは、脳の細胞外マトリックスの分解によってアルツハイマー疾患が増悪することと関連があることを示唆する。さらに、管状構造に分化しつつあるヒト内皮細胞の遺伝子の差分発現プロフィールを調べるための新規のmRNA包括プロフィール化技術を用いることによって、内皮管状形成中にADAMTS4が上方制御されることが明らかになった(非特許文献27参照)。このことは、この酵素が血管のプロテオグリカンの代謝に潜在的な役割を持つことを示唆するものであり、つまり血管形成に関係することを示唆するものである。
【0011】
このように、ADAMTS4は、細胞外マトリックスタンパク質に結合する広範な活性と機能を備えたメタロプロテアーゼであると考えられているものの、生理学的意義は不明のままであった。
【0012】
【非特許文献1】
Blobel, C.P.ら著、「A potential fusion peptide and an integrin ligand domain in a protein active in sperm−egg fusion.」、Nature、1992年、Vol.356、p.248−52
【非特許文献2】
Yagami−Hiromasa, Tら著、「A metalloprotease−disintegrin participating in myoblast fusion.」、Nature、1995年、Vol.377、p.652−6.
【非特許文献3】
Black, R.A.ら著、「A metalloproteinase disintegrin that releases tumour−necrosis factor− alpha from cells.」、Nature 1997年、Vol.385、p.729−33
【非特許文献4】
Wen, C.外2名著、「SUP−17, a Caenorhabditis elegans ADAM protein related to Drosophila KUZBANIAN, and its role in LIN−12/NOTCH signalling.」、Development、1997年、Vol.124、p.4759−67
【非特許文献5】
Pan, D. および Rubin, G.M著、「Kuzbanian controls proteolytic processing of Notch and mediates lateral inhibition during Drosophila and vertebrate neurogenesis.」、Cell、1997年、Vol.90、p.271−80
【非特許文献6】
Qi, H.ら著、「Processing of the notch ligand delta by the metalloprotease Kuzbanian.」、Science、1999年、Vol.283、p.91−4
【非特許文献7】
Kuno, K.ら著、「Molecular cloning of a gene encoding a new type of metalloproteinase− disintegrin family protein with thrombospondin motifs as an inflammation associated gene.」、J Biol Chem 、1997年、Vol.272、p.556−62
【非特許文献8】
Kuno, K. および Matsushima, K.著、「ADAMTS−1 protein anchors at the extracellular matrix through the thrombospondin type I motifs and its spacing region.」、J Biol Chem 、1998年、Vol.273、p.13912−7
【非特許文献9】
Kuno, K.外3名著、「The exon/intron organization and chromosomal mapping of the mouse ADAMTS−1 gene encoding an ADAM family protein with TSP motifs.」、Genomics 、1997年、Vol.46, p.466−71
【非特許文献10】
Vazquez, F.ら著、「METH−1, a human ortholog of ADAMTS−1, and METH−2 are members of a new family of proteins with angio−inhibitory activity.」、J Biol Chem 、1999年、Vol.274、p.23349−57
【非特許文献11】
Shindo, T.ら著、「ADAMTS−1: a metalloproteinase−disintegrin essential for normal growth, fertility, and organ morphology and function.」、J Clin Invest 、2000年、Vol.105、p.1345−52
【非特許文献12】
Colige, A.ら著、「Human Ehlers−Danlos syndrome type VII C and bovine dermatosparaxis are caused by mutations in the procollagen I N−proteinase gene.」、Am J Hum Genet 、1999年、Vol.65、p.308−17
【非特許文献13】
Levy, G.G.ら著、「Mutations in a member of the ADAMTS gene family cause thrombotic thrombocytopenic purpura.」、Nature 、2001年、Vol.413, p.488−94
【非特許文献14】
Tortorella, M.D.ら著、「Purification and cloning of aggrecanase−1: a member of the ADAMTS family of proteins.」、Science 、1999年、Vol.284、p.1664−6
【非特許文献15】
Tortorella, M.D.外3名著、「The role of ADAM−TS4 (aggrecanase−1) and ADAM−TS5 (aggrecanase−2) in a model of cartilage degradation.」、Osteoarthritis Cartilage 、2001年、Vol.9、p.539−52
【非特許文献16】
Nakamura, H.ら著、「Brevican is degraded by matrix metalloproteinases and aggrecanase−1 (ADAMTS4) at different sites.」、J Biol Chem 、2000年、Vol.275、p.38885−90
【非特許文献17】
Sandy, J.D.外3名著、「Catabolism of aggrecan in cartilage explants. Identification of a major cleavage site within the interglobular domain.」、J Biol Chem 、1991年、Vol.266、p.8683−5
【非特許文献18】
Kashiwagi, M.外3名著、「TIMP−3 is a potent inhibitor of aggrecanase 1 (ADAM−TS4) and aggrecanase 2 (ADAM−TS5).」、J Biol Chem、2001年、Vol. 276、p.12501−4
【非特許文献19】
Matthews, R.Tら著、「 Brain−enriched hyaluronan binding (BEHAB)/brevican cleavage in a glioma cell line is mediated by a disintegrin and metalloproteinase with thrombospondin motifs (ADAMTS) family member.」、2000年、J Biol Chem、Vol. 275、p.22695−703
【非特許文献20】
Sandy, J.D.ら著、「Versican V1 proteolysis in human aorta in vivo occurs at the Glu441− Ala442 bond, a site that is cleaved by recombinant ADAMTS−1 and ADAMTS− 4.」、J Biol Chem 、2001年、Vol.276、p.13372−8
【非特許文献21】
Homandberg, G.A.外3名著、「Cartilage chondrolysis by fibronectin fragments causes cleavage of aggrecan at the same site as found in osteoarthritic cartilage.」、Osteoarthritis Cartilage、1997年、Vol.5、p.450−3.
【非特許文献22】
Flannery, C.R.ら著、「IL−6 and its soluble receptor augment aggrecanase−mediated proteoglycan catabolism in articular cartilage.」、Matrix Biol 、2000年、Vol.19、p.549−53
【非特許文献23】
Cai, L.ら著、「Pathways by which interleukin 17 induces articular cartilage breakdown in vitro and in vivo.」、Cytokine、2001年、Vol.16、p.10−21
【非特許文献24】
Arner, E.C.外4名著、「Cytokine−induced cartilage proteoglycan degradation is mediated by aggrecanase.」、Osteoarthritis Cartilage 、1998年、Vol.6、p.214−28
【非特許文献25】
Yamanishi, Y.ら著、「Expression and regulation of aggrecanase in arthritis: the role of TGF− beta.」、J Immunol 、2002年、Vol.168、p.1405−12
【非特許文献26】
Satoh, K.,外2名著、「ADAMTS−4 (a disintegrin and metalloproteinase with thrombospondin motifs) is transcriptionally induced in beta−amyloid treated rat astrocytes.」、Neurosci Lett、2000年、Vol. 289、p.177−80
【非特許文献27】
Kahn, J. ら著、「Gene expression profiling in an in vitro model of angiogenesis.」、Am J Pathol、2000年、Vol. 156, p.1887−900
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、ADAMST4の生理学的および病理学的な役割を解明することにある。さらに本発明は、この解明された知見を基に、ADAMST4タンパク質の機能阻害物質を有効成分として含有する薬剤、およびADAMST4タンパク質をターゲットとする医薬品のためのスクリーニング方法の提供を目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者らはADAMTS4の生理学的意義を明らかにするために、ADAMTS4遺伝子欠損マウスを作製し解析を行った。ADAMTS4のヘテロ接合体は外見でも異常がなく生殖も正常だったが、ヘテロ同士を交配しサザンブロットで解析した結果、187匹の子供のうちにホモ接合体は観られなかった。ホモ接合体の致死時期を各妊娠段階で調べた結果、妊娠8.5日目の段階でも胚子の存在がなく、子宮には吸収された残留物もないことが分かった。最終的にI−PEP−PCRの技術で、8細胞期や2細胞期でホモ接合体を見つけることができた。しかし、胚子の形態が異常で未分裂や断片化を呈していた。さらに受精に関わる他の細胞も調べたところ、ADAMTS4が受精卵と続発する発生段階の胚子に特異的に発現していることが分かった。さらに受精卵でADAMTS4発現の局在を蛍光免疫染色で明らかにした。インビトロの実験系では受精卵の分裂が抗ADAMTS4抗体によって用量依存的に阻害され、発育阻害された卵子は未分裂や断片化を呈し、形態上はADAMTS4ホモ接合体の表現と一致していることが分かった。
【0015】
ADAMファミリーメンバーのファーティリンαおよびβやcyritestinが受精に関与していることがよく知られているが、糖鎖のある細胞外基質を構成するプロテオグライカンを分解するタンパク質としてのADAMTS4が発生の初期段階で決定的な役割を果たしていることが本発明者らにより初めて明らかになった。
【0016】
本発明者らによって今回見出された知見に基づけば、ADAMTS4タンパク質を標的とすることにより、ADAMTS4タンパク質の発現の阻害あるいは活性の阻害に基づいた医薬品候補化合物をスクリーニングすることが可能である。このスクリーニングにより得られる化合物は、避妊薬となるものと大いに期待される。
【0017】
例えば、ADAMTS4の機能阻害剤あるいは発現阻害剤を受精卵に対して適用することにより、受精卵の発育阻害作用が期待されるため、避妊作用が考えられる。本発明の薬剤はヒトに対して使用する以外に、野生動物または家畜に対しても適用可能である。
【0018】
即ち、本発明は、ADAMST4タンパク質の機能阻害物質を有効成分として含有する薬剤、およびADAMST4タンパク質をターゲットとする医薬品のためのスクリーニング方法に関し、より具体的には、
〔1〕 ADAMTS4タンパク質の機能阻害物質を有効成分として含有する、受精卵の発育阻害作用を有する薬剤、
〔2〕 ADAMTS4タンパク質の機能阻害物質を有効成分として含有する、避妊用薬剤、
〔3〕 ADAMTS4タンパク質の機能阻害物質が、以下の(a)〜(c)からなる群より選択される化合物を含む、〔1〕または〔2〕に記載の薬剤、
(a)ADAMTS4タンパク質に対してドミナントネガティブの性質を有するADAMTS4タンパク質変異体
(b)ADAMTS4タンパク質に結合する抗体
(c)ADAMTS4タンパク質に結合する低分子化合物
〔4〕 ADAMTS4タンパク質の発現阻害物質を有効成分として含有する、受精卵の発育阻害作用を有する薬剤、
〔5〕 ADAMTS4タンパク質の発現阻害物質を有効成分として含有する、避妊用薬剤、
〔6〕 ADAMTS4タンパク質の発現阻害物質が、以下の(a)〜(c)からなる群より選択される化合物を含む、〔4〕または〔5〕に記載の薬剤、
(a)ADAMTS4遺伝子の転写産物、またはその一部に対するアンチセンス核酸
(b)ADAMTS4遺伝子の転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有する核酸
(c)ADAMTS4遺伝子の発現を、RNAi効果による阻害作用を有する核酸
〔7〕 以下の(a)〜(c)のいずれかを有効成分として含有する、不妊症治療のための薬剤、
(a)ADAMTS4タンパク質
(b)ADAMTS4タンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含む、ADAMTS4変異体タンパク質であって、ADAMTS4タンパク質と機能的に同等なタンパク質
(c)前記(a)または(b)に記載のタンパク質をコードするDNA
〔8〕 ADAMTS4タンパク質がマウス由来である、〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の薬剤、
〔9〕 以下の(a)〜(c)の工程を含む、避妊用薬剤のための候補化合物のスクリーニング方法、
(a)ADAMTS4タンパク質またはその部分ペプチドと被検化合物を接触させる工程
(b)前記ADAMTS4タンパク質またはその部分ペプチドと被検化合物との結合活性を測定する工程
(c)ADAMTS4タンパク質またはその部分ペプチドと結合する化合物を選択する工程
〔10〕 以下の(a)〜(c)の工程を含む、避妊用薬剤のための候補化合物のスクリーニング方法、
(a)ADAMTS4遺伝子を発現する細胞に、被検化合物を接触させる工程
(b)該ADAMTS4遺伝子の発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物を接触させない場合と比較して、該発現レベルを低下させる化合物を選択する工程
〔11〕 以下の(a)〜(c)の工程を含む、避妊用薬剤のための候補化合物のスクリーニング方法、
(a)ADAMTS4遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞または細胞抽出液と、被検化合物を接触させる工程
(b)該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、該発現レベルを低下させる化合物を選択する工程
〔12〕 以下の(a)〜(c)の工程を含む、避妊用薬剤のための候補化合物のスクリーニング方法、
(a)ADAMTS4遺伝子を発現する細胞へ被検化合物を接触させる工程
(b)該細胞におけるADAMTS4タンパク質の発現量または活性を測定する工程、
(c)被検化合物に非存在下において測定した場合と比較して、ADAMTS4タンパク質の発現量または活性を低下させる化合物を選択する工程
〔13〕 以下の(a)〜(c)の工程を含む、ADAMTS4プロテアーゼ活性阻害剤のスクリーニング方法、
(a)プロテオグリカンと、ADAMTS4タンパク質および被検化合物とを接触させる工程
(b)ADAMTS4タンパク質のプロテオグリカンを基質とする切断活性を測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、前記切断活性を低下させる化合物を選択する工程
〔14〕 プロテオグリカンが、アグリカン、ブレビカン、またはバーシカンである、〔13〕に記載のスクリーニング方法、
〔15〕 ADAMTS4遺伝子の発現が人為的に抑制されていることを特徴とする哺乳動物細胞、を提供するものである。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明者らによって、ADAMTS4遺伝子ノックアウトマウスは、初期胚分化が正常に行われず、初期段階で死亡することが見出された。即ち、ADAMTS4が発生初期段階で決定的な役割を果たしていることが明らかになった。また、ADAMTS4タンパク質は受精卵と続発する発育段階の胚子に特異的に発現しており、さらに、ADAMTS4タンパク質の機能を阻害することにより受精卵の発育が阻害されることが示された。従ってADAMTS4タンパク質の機能阻害物質を有効成分として含有する薬剤は、受精卵の発育を阻害する作用を有するものと考えられる。
【0020】
本発明は、ADAMTS4タンパク質の機能阻害物質を有効成分として含有する、受精卵の発育を阻害する作用を有する薬剤を提供する。受精卵の発育阻害によって、妊娠の進行が止まり人工的な早産(流産)が誘起されると考えられる。従って、本発明の上記薬剤は、例えば避妊用薬剤として有効である。所謂、中絶用薬剤あるいは堕胎用薬剤もまた、本発明の避妊用薬剤に含まれる。また、本発明の避妊用薬剤は、初期胚分化の段階において適用されることが好ましい。本発明における「初期」の胚とは、通常、8細胞期以前の段階の胚を指すが、必ずしもこの段階に限定されるものではない。
【0021】
さらに本発明は、ADAMTS4タンパク質の機能阻害物質を有効成分として含有する薬剤を提供する。該薬剤は、受精卵の発育阻害作用を有する薬剤であり、例えば、避妊用薬剤である。本発明のADAMTS4タンパク質の機能を阻害する物質は、
(a)ADAMTS4タンパク質に対してドミナントネガティブの性質を有するADAMTS4タンパク質変異体、
(b)ADAMTS4タンパク質に結合する抗体、
(c)ADAMTS4タンパク質に結合する低分子化合物、からなる群より選択される。
【0022】
「ADAMTS4タンパク質に対してドミナントネガティブの性質を有するADAMTS4タンパク質変異体」とは、該タンパク質をコードする遺伝子を発現させることによって、内在性の野生型タンパク質の活性を消失もしくは低下させる機能を有するタンパク質を指す。
【0023】
また、本発明者らは、ADAMTS4タンパク質に結合する抗体によって受精卵の分裂が用量依存的に阻害されることを見出した。従って、本発明は、ADAMTS4タンパク質に結合する抗体を有効成分として含有する、受精卵の発育を阻害する作用を有する避妊用薬剤を提供する。
【0024】
ADAMTS4タンパク質に結合する抗体(抗ADAMTS4抗体)は、当業者に公知の方法により調製することが可能である。ポリクローナル抗体であれば、例えば、次のようにして得ることができる。天然のADAMTS4タンパク質、あるいはGSTとの融合タンパク質として大腸菌等の微生物において発現させたリコンビナントADAMTS4タンパク質、またはその部分ペプチドをウサギ等の小動物に免疫し血清を得る。これを、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、ADAMTS4タンパク質や合成ペプチドをカップリングしたアフィニティーカラム等により精製することにより調製する。また、モノクローナル抗体であれば、例えば、ADAMTS4タンパク質若しくはその部分ペプチドをマウスなどの小動物に免疫を行い、同マウスより脾臓を摘出し、これをすりつぶして細胞を分離し、該細胞とマウスミエローマ細胞とをポリエチレングリコール等の試薬を用いて融合させ、これによりできた融合細胞(ハイブリドーマ)の中から、ADAMTS4タンパク質に結合する抗体を産生するクローンを選択する。次いで、得られたハイブリドーマをマウス腹腔内に移植し、同マウスより腹水を回収し、得られたモノクローナル抗体を、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、ADAMTS4タンパク質や合成ペプチドをカップリングしたアフィニティーカラム等により精製することで、調製することが可能である。
【0025】
本発明の抗体の形態には、特に制限はなく、本発明のADAMTS4タンパク質に結合する限り、上記ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のほかに、ヒト抗体、遺伝子組み換えによるヒト型化抗体、さらにその抗体断片や抗体修飾物も含まれる。
【0026】
抗体取得の感作抗原として使用される本発明のADAMTS4タンパク質は、その由来となる動物種に制限されないが哺乳動物、例えばマウス、ヒト由来のタンパク質が好ましく、特にヒト由来のタンパク質が好ましい。ヒト由来のタンパク質は、本明細書に開示される遺伝子配列又はアミノ酸配列を用いて得ることができる。
【0027】
本発明において、感作抗原として使用されるタンパク質は、完全なタンパク質あるいはタンパク質の部分ペプチドであってもよい。タンパク質の部分ペプチドとしては、例えば、タンパク質のアミノ基(N)末端断片やカルボキシ(C)末端断片が挙げられる。本明細書における「抗体」とはタンパク質の全長又は断片に反応する抗体を意味する。
【0028】
また、ヒト以外の動物に抗原を免疫して上記ハイブリドーマを得る他に、ヒトリンパ球、例えばEBウィルスに感染したヒトリンパ球をin vitroでタンパク質、タンパク質発現細胞又はその溶解物で感作し、感作リンパ球をヒト由来の永久分裂能を有するミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、タンパク質への結合活性を有する所望のヒト抗体を産生するハイブリドーマを得ることもできる。
【0029】
本発明のADAMTS4タンパク質に結合する抗体は、例えば、避妊を目的とした使用が考えられる。得られた抗体を人体に投与する目的(抗体治療)で使用する場合には、免疫原性を低下させるため、ヒト抗体やヒト型抗体が好ましい。
【0030】
さらに、本発明は、ADAMTS4タンパク質の機能を阻害し得る物質として、ADAMTS4タンパク質に結合する低分子量物質も含有する。本発明のADAMTS4タンパク質に結合する低分子量物質は、天然または人工の化合物であってもよい。通常、当業者に公知の方法を用いることによって製造または取得可能な化合物である。また本発明の化合物は、後述のスクリーニング方法によって、取得することが可能である。低分子化合物には、例えば、低分子プロテアーゼ阻害剤が挙げられる。
【0031】
また、本発明は、ADAMTS4タンパク質の発現を阻害する物質を有効成分として含有する薬剤を提供する。該薬剤は、受精卵の発育を阻害する作用を有する薬剤であり、例えば、避妊用薬剤となるものと考えられる。ADAMTS4タンパク質の発現を阻害する物質は、例えば、
(a)ADAMTS4遺伝子の転写産物、またはその一部に対するアンチセンス核酸、
(b)ADAMTS4遺伝子の転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有する核酸、
(c)ADAMTS4遺伝子の発現をRNAi効果による阻害作用を有する核酸、からなる群より選択される。
【0032】
本発明における「核酸」とはRNAまたはDNAを意味する。特定の内在性遺伝子の発現を阻害する方法としては、アンチセンス技術を利用する方法が当業者によく知られている。アンチセンス核酸が標的遺伝子の発現を阻害する作用としては、以下のような複数の要因が存在する。すなわち、三重鎖形成による転写開始阻害、RNAポリメラーゼによって局部的に開状ループ構造が作られた部位とのハイブリッド形成による転写阻害、合成の進みつつあるRNAとのハイブリッド形成による転写阻害、イントロンとエキソンとの接合点におけるハイブリッド形成によるスプライシング阻害、スプライソソーム形成部位とのハイブリッド形成によるスプライシング阻害、mRNAとのハイブリッド形成による核から細胞質への移行阻害、キャッピング部位やポリ(A)付加部位とのハイブリッド形成によるスプライシング阻害、翻訳開始因子結合部位とのハイブリッド形成による翻訳開始阻害、開始コドン近傍のリボソーム結合部位とのハイブリッド形成による翻訳阻害、mRNAの翻訳領域やポリソーム結合部位とのハイブリッド形成によるペプチド鎖の伸長阻害、および核酸とタンパク質との相互作用部位とのハイブリッド形成による遺伝子発現阻害などである。このようにアンチセンス核酸は、転写、スプライシングまたは翻訳など様々な過程を阻害することで、標的遺伝子の発現を阻害する(平島および井上, 新生化学実験講座2 核酸IV遺伝子の複製と発現, 日本生化学会編, 東京化学同人, 1993, 319−347.)。
【0033】
本発明で用いられるアンチセンス核酸は、上記のいずれの作用によりADAMTS4遺伝子の発現を阻害してもよい。一つの態様としては、ADAMTS4遺伝子のmRNAの5’端近傍の非翻訳領域に相補的なアンチセンス配列を設計すれば、遺伝子の翻訳阻害に効果的と考えられる。また、コード領域もしくは3’側の非翻訳領域に相補的な配列も使用することができる。このように、ADAMTS4遺伝子の翻訳領域だけでなく非翻訳領域の配列のアンチセンス配列を含む核酸も、本発明で利用されるアンチセンス核酸に含まれる。使用されるアンチセンス核酸は、適当なプロモーターの下流に連結され、好ましくは3’側に転写終結シグナルを含む配列が連結される。このようにして調製された核酸は、公知の方法を用いることで、所望の動物へ形質転換できる。アンチセンス核酸の配列は、形質転換される動物が持つ内在性遺伝子またはその一部と相補的な配列であることが好ましいが、遺伝子の発現を有効に抑制できる限りにおいて、完全に相補的でなくてもよい。転写されたRNAは、標的遺伝子の転写産物に対して好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相補性を有する。アンチセンス核酸を用いて標的遺伝子の発現を効果的に抑制するには、アンチセンス核酸の長さは少なくとも15塩基以上であり、好ましくは100塩基以上であり、さらに好ましくは500塩基以上である。
【0034】
また、ADAMTS4遺伝子の発現の阻害は、リボザイム、またはリボザイムをコードするDNAを利用して行うことも可能である。リボザイムとは触媒活性を有するRNA分子を指す。リボザイムには種々の活性を有するものが存在するが、中でもRNAを切断する酵素としてのリボザイムに焦点を当てた研究により、RNAを部位特異的に切断するリボザイムの設計が可能となった。リボザイムには、グループIイントロン型やRNase Pに含まれるM1 RNAのように400ヌクレオチド以上の大きさのものもあるが、ハンマーヘッド型やヘアピン型と呼ばれる40ヌクレオチド程度の活性ドメインを有するものもある(小泉誠および大塚栄子, タンパク質核酸酵素, 1990, 35, 2191.)。
【0035】
例えば、ハンマーヘッド型リボザイムの自己切断ドメインは、G13U14C15という配列のC15の3’側を切断するが、その活性にはU14とA9との塩基対形成が重要とされ、C15の代わりにA15またはU15でも切断され得ることが示されている(Koizumi, M. et al., FEBS Lett, 1988, 228, 228.)。基質結合部位が標的部位近傍のRNA配列と相補的なリボザイムを設計すれば、標的RNA中のUC、UUまたはUAという配列を認識する制限酵素的なRNA切断リボザイムを作出することができる(Koizumi, M. et al., FEBS Lett, 1988, 239, 285.、小泉誠および大塚栄子, タンパク質核酸酵素, 1990, 35, 2191.、Koizumi, M. et al., Nucl Acids Res, 1989, 17, 7059.)。
【0036】
また、ヘアピン型リボザイムも本発明の目的に有用である。このリボザイムは、例えばタバコリングスポットウイルスのサテライトRNAのマイナス鎖に見出される(Buzayan, JM., Nature, 1986, 323, 349.)。ヘアピン型リボザイムからも、標的特異的なRNA切断リボザイムを作出できることが示されている(Kikuchi, Y. & Sasaki, N., Nucl Acids Res, 1991, 19, 6751.、菊池洋, 化学と生物, 1992, 30, 112.)。このように、リボザイムを用いて本発明におけるADAMTS4遺伝子の転写産物を特異的に切断することで、該遺伝子の発現を阻害することができる。
【0037】
内在性遺伝子の発現の阻害は、さらに、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有する二本鎖RNAを用いたRNA干渉(RNA interferance;RNAi)によっても行うことができる。RNAiとは、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有する二重鎖RNAを細胞内に導入すると、導入した外来遺伝子および標的内在性遺伝子の発現がいずれも阻害される現象のことを指す。RNAiの機構の詳細は明らかではないが、最初に導入した二本鎖RNAが小片に分解され、何らかの形で標的遺伝子の指標となることにより、標的遺伝子が分解されると考えられている。RNAiに用いるRNAは、ADAMTS4遺伝子もしくは該遺伝子の部分領域と完全に同一である必要はないが、完全な相同性を有することが好ましい。
【0038】
さらに本発明は、不妊症治療のための薬剤を提供する。該薬剤に含まれる有効成分は、例えば、
(a)ADAMTS4タンパク質、
(b)ADAMTS4タンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含む、ADAMTS4変異体タンパク質であって、ADAMTS4タンパク質と機能的に同等なタンパク質、
(c)前記(a)または(b)に記載のタンパク質をコードするDNA、のいずれかを含む。
【0039】
本発明の薬剤の有効成分である「ADAMTS4タンパク質」は、天然のタンパク質の他、遺伝子組み換え技術を利用した組換えタンパク質として調製することができる。天然のタンパク質は、例えばADAMTS4タンパク質が発現していると考えられる細胞外マトリックス等の組織の抽出液に対し、ADAMTS4タンパク質に対する抗体を用いたアフィニティークロマトグラフィーを用いる方法により調製することが可能である。一方、組換えタンパク質は、ADAMTS4タンパク質をコードするDNAで形質転換した細胞を培養することにより調製することが可能である。
【0040】
本発明において、「機能的に同等なタンパク質」とは、ADAMTS4タンパク質において明らかにされている活性と同様の活性を備えたタンパク質である。
【0041】
あるいはADAMTS4タンパク質のアミノ酸配列に対して、たとえば90%以上、望ましくは95%以上、更に望ましくは99%以上の相同性を有するタンパク質は、ADAMTS4タンパク質と機能的に同等なタンパク質として示すことができる。
【0042】
本発明のADAMTS4タンパク質は、その由来する生物に特に制限はなく、例えば、マウス、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、鳥など、ペット、家畜等を挙げることができる。ヒトの疾患の治療や予防に用いる場合には、好ましくは哺乳動物由来であり、最も好ましくはヒト由来である。
【0043】
また、本発明の薬剤の有効成分であるADAMTS4タンパク質をコードするDNAもまた、本発明に含まれる。本発明のADAMTS4タンパク質をコードするDNAは、染色体DNAであっても、cDNAであってもよい。ADAMTS4タンパク質をコードする染色体DNAは、例えば、細胞等から染色体DNAのライブラリ−を調製し、ADAMTS4タンパク質をコードするDNAにハイブリダイズするプローブを用いた、該ライブラリーのスクリーニングにより取得することができる。またADAMTS4タンパク質をコードするcDNAは、ADAMTS4タンパク質が発現していると考えられる細胞外マトリックス等の組織からRNA試料を抽出し、ADAMTS4タンパク質をコードするDNAにハイブリダイズするプライマーを用いたRT−PCR法等の遺伝子増幅技術により取得することができる。
【0044】
本発明のADAMTS4タンパク質または該タンパク質をコードするDNAは、ADAMTS4タンパク質と機能的に同等であれば、その塩基配列やアミノ配列が改変された変異体であってもよい。このような変異体は、天然のものでも人工のものでもよい。人工的に変異体を調製するための方法は当業者に公知である。例えば、Kunkel法(Kunkel, T. A. et al., Methods Enzymol. 154, 367−382 (1987))、ダブルプライマー法(Zoller, M. J. and Smith, M., Methods Enzymol. 154, 329−350 (1987))、カセット変異法(Wells, et al., Gene 34, 315−23 (1985))、メガプライマー法(Sarkar, G. and Sommer, S. S., Biotechniques 8, 404−407 (1990))などが知られている。
【0045】
本発明の上記薬剤は、例えば、不妊症に対する治療効果を有するものと考えられる。
【0046】
本発明におけるADAMTS4タンパク質をコードする遺伝子は、マウスをはじめ、種々の哺乳動物、例えば、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、鳥など、ペット、家畜等において存在することが知られている。
【0047】
本発明のADAMTS4タンパク質のアミノ酸配列、および該タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列についての情報は、当業者においては、GenBank等の公共の遺伝子データベースを利用して、容易に取得することができる。例えば、マウスADAMTS4遺伝子のGenBankのアクセッション番号は、NM_172845である。また、マウスADAMTS4遺伝子の塩基配列を配列番号:1に、また該遺伝子によってコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号:2に示す。
【0048】
また本発明は、避妊用薬剤のための候補化合物のスクリーニング方法を提供する。
【0049】
その一つの態様は、ADAMTS4タンパク質またはその部分ペプチドと被検化合物との結合を指標とする方法である。通常、ADAMTS4タンパク質またはその部分ペプチドと結合する化合物は、ADAMTS4タンパク質の機能を阻害する効果を有することが期待される。本発明の上記方法においては、まず、ADAMTS4タンパク質またはその部分ペプチドと被検化合物を接触させる。ADAMTS4タンパク質またはその部分ペプチドは、被検化合物との結合を検出するための指標に応じて、例えば、ADAMTS4タンパク質またはその部分ペプチドの精製された形態、細胞内または細胞外に発現した形態、あるいはアフィニティーカラムに結合した形態であり得る。この方法に用いる被検化合物は必要に応じて適宜標識して用いることができる。標識としては、例えば、放射標識、蛍光標識等を挙げることができる。
【0050】
本方法においては、次いで、ADAMTS4タンパク質またはその部分ペプチドと被検化合物との結合を検出する。ADAMTS4タンパク質またはその部分ペプチドと被検化合物との結合は、例えば、ADAMTS4タンパク質またはその部分ペプチドに結合した被検化合物に付された標識によって検出することができる。また、細胞内または細胞外に発現しているADAMTS4タンパク質またはその部分ペプチドへの被検化合物の結合により生じるADAMTS4タンパク質の活性の変化を指標として検出することもできる。
【0051】
本方法においては、次いで、ADAMTS4タンパク質またはその部分ペプチドと結合する被検化合物を選択する。
【0052】
本方法により単離される化合物は、受精卵の発育阻害作用を有することが期待され、例えば、避妊用薬剤として有用である。また、不妊症のメカニズム解明の研究等に有用である。
【0053】
本発明のスクリーニング方法の他の態様は、ADAMTS4遺伝子の発現を指標とする方法である。ADAMTS4遺伝子の発現量を低下させるような化合物は、避妊のための医薬品候補化合物となることが期待される。
【0054】
本方法においては、まず、ADAMTS4遺伝子を発現する細胞に、被検化合物を接触させる。用いられる「細胞」の由来としては、ヒト、マウス、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、鳥など、ペット、家畜等に由来する細胞が挙げられるが、これら由来に制限されない。「ADAMTS4遺伝子を発現する細胞」としては、内因性のADAMTS4遺伝子を発現している細胞、または外因性のADAMTS4遺伝子が導入され、該遺伝子が発現している細胞を利用することができる。外因性のADAMTS4遺伝子が発現した細胞は、通常、ADAMTS4遺伝子が挿入された発現ベクターを宿主細胞へ導入することにより作製することができる。該発現ベクターは、一般的な遺伝子工学技術によって作製することができる。
【0055】
本方法に用いる被検化合物としては、特に制限はない。例えば、天然化合物、有機化合物、無機化合物、タンパク質、ペプチドなどの単一化合物、並びに、化合物ライブラリー、遺伝子ライブラリーの発現産物、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
ADAMTS4遺伝子を発現する細胞への被検化合物の「接触」は、通常、ADAMTS4遺伝子を発現する細胞の培養液に被検化合物を添加することによって行うが、この方法に限定されない。被検化合物がタンパク質等の場合には、該タンパク質を発現するDNAベクターを、該細胞へ導入することにより、「接触」を行うことができる。
【0057】
本方法においては、次いで、該ADAMTS4遺伝子の発現レベルを測定する。ここで「遺伝子の発現」には、転写および翻訳の双方が含まれる。遺伝子の発現レベルの測定は、当業者に公知の方法によって行うことができる。例えば、ADAMTS4遺伝子を発現する細胞からmRNAを定法に従って抽出し、このmRNAを鋳型としたノーザンハイブリダイゼーション法またはRT−PCR法を実施することによって該遺伝子の転写レベルの測定を行うことができる。また、ADAMTS4遺伝子を発現する細胞からタンパク質画分を回収し、ADAMTS4タンパク質の発現をSDS−PAGE等の電気泳動法で検出することにより、遺伝子の翻訳レベルの測定を行うこともできる。さらに、ADAMTS4タンパク質に対する抗体を用いて、ウェスタンブロッティング法を実施することにより該タンパク質の発現を検出することにより、遺伝子の翻訳レベルの測定を行うことも可能である。ADAMTS4タンパク質の検出に用いる抗体としては、検出可能な抗体であれば、特に制限はないが、例えばモノクローナル抗体、またはポリクローナル抗体の両方を利用することができる。
【0058】
本方法においては、次いで、被検化合物を接触させない場合(対照)と比較して、該発現レベルを低下させる化合物を選択する。このようにして選択された化合物は、避妊のための医薬品候補化合物となる。さらに、上記発現レベルを上昇させる化合物は、不妊症の治療のための薬剤となることが期待される。
【0059】
本発明のスクリーニング方法の他の態様は、本発明のADAMTS4遺伝子の発現量を低下させるような化合物を、レポーター遺伝子を利用して同定する方法に関する。
【0060】
本方法においては、まず、ADAMTS4遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞または細胞抽出液と、被検化合物を接触させる。ここで「機能的に結合した」とは、ADAMTS4遺伝子の転写調節領域に転写因子が結合することにより、レポーター遺伝子の発現が誘導されるように、ADAMTS4遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが結合していることをいう。従って、レポーター遺伝子が他の遺伝子と結合しており、他の遺伝子産物との融合タンパク質を形成する場合であっても、ADAMTS4遺伝子の転写調節領域に転写因子が結合することによって、該融合タンパク質の発現が誘導されるものであれば、上記「機能的に結合した」の意に含まれる。ADAMTS4遺伝子のcDNA塩基配列に基づいて、当業者においては、ゲノム中に存在するADAMTS4遺伝子の転写調節領域を周知の方法により取得することが可能である。
【0061】
本方法に用いるレポーター遺伝子としては、その発現が検出可能であれば特に制限はなく、例えば、CAT遺伝子、lacZ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、およびGFP遺伝子等が挙げられる。「ADAMTS4遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞」として、例えば、このような構造が挿入されたベクターを導入した細胞が挙げられる。このようなベクターは、当業者に周知の方法により作製することができる。ベクターの細胞への導入は、一般的な方法、例えば、リン酸カルシウム沈殿法、電気パルス穿孔法、リポフェタミン法、マイクロインジェクション法等によって実施することができる。「ADAMTS4遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞」には、染色体に該構造が挿入された細胞も含まれる。染色体へのDNA構造の挿入は、当業者に一般的に用いられる方法、例えば、相同組み換えを利用した遺伝子導入法により行うことができる。
【0062】
「ADAMTS4遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞抽出液」とは、例えば、市販の試験管内転写翻訳キットに含まれる細胞抽出液に、ADAMTS4遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを添加したものを挙げることができる。
【0063】
本方法における「接触」は、「ADAMTS4遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞」の培養液に被検化合物を添加する、または該DNAを含む上記の市販された細胞抽出液に被検化合物を添加することにより行うことができる。被検化合物がタンパク質の場合には、例えば、該タンパク質を発現するDNAベクターを、該細胞へ導入することにより行うことも可能である。
【0064】
本方法においては、次いで、該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する。レポーター遺伝子の発現レベルは、該レポーター遺伝子の種類に応じて、当業者に公知の方法により測定することができる。例えば、レポーター遺伝子がCAT遺伝子である場合には、該遺伝子産物によるクロラムフェニコールのアセチル化を検出することによって、レポーター遺伝子の発現量を測定することができる。レポーター遺伝子がlacZ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による色素化合物の発色を検出することにより、また、ルシフェラーゼ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による蛍光化合物の蛍光を検出することにより、さらに、GFP遺伝子である場合には、GFPタンパク質による蛍光を検出することにより、レポーター遺伝子の発現量を測定することができる。
【0065】
本方法においては、次いで、測定したレポーター遺伝子の発現レベルを、被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、低下させる化合物を選択する。このようにして選択された化合物は、避妊のための医薬品候補化合物となる。
【0066】
また、本発明のADAMTS4タンパク質は、アグリカン(aggrecan)、ブレビカン(brevican)、バーシカン(versican)等のプロテオグリカンを基質として切断するプロテアーゼ活性を有する。従って、ADAMTS4のプロテオグリカンに対する切断活性を指標とすることにより、ADAMTS4プロテアーゼ活性阻害剤のスクリーニングを行うことが可能である。即ち、切断活性を低下させるような化合物は、プロテアーゼ阻害剤となるものと期待される。本発明は、以下の(a)〜(c)の工程を含む、ADAMTS4プロテアーゼ活性阻害剤のスクリーニング方法を提供する。
(a)プロテオグリカンと、ADAMTS4タンパク質および被検化合物とを接触させる工程、
(b)ADAMTS4タンパク質のプロテオグリカンを基質とする切断活性(プロテアーゼ活性)を測定する工程、
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、前記切断活性を低下させる化合物を選択する工程
【0067】
通常、ペプチドの切断(プロテアーゼ活性)を検出することは、当業者においては簡便に行い得ることであり、上記工程(b)の切断活性の測定は、一般的な方法、例えば、アクリルアミドゲル電気泳動法、または質量分析装置等を利用した方法により、適宜、実施することが可能である。
【0068】
本発明の方法のADAMTS4のプロテアーゼ活性の基質となり得るプロテオグリカンとしては、好ましくはコンドロイチン硫酸プロテオグリカンを挙げることができる。本発明のプロテオグリカンの具体例としては、例えば、アグリカン、ブレビカン、バーシカンを好適に例示することができる。これらのプロテオグリカンは、ADAMTS4が切断し得る部位(領域)を含むものであれば、上記プロテオグリカンを構成する部分断片(部分ペプチド)であってもよい。例えば、本発明の方法においてアグリカンの部分断片を用いる場合には、球間ドメイン(IGD)のGlu373−Ala374を含む部分断片であることが好ましい。
【0069】
また、上記方法に使用するADAMTSタンパク質は、変異を含まない全長タンパク質であることが好ましいが、プロテアーゼ活性を有するものであれば、ADAMTSタンパク質の一部のアミノ酸配列が置換・欠失されたタンパク質であってもよい。
【0070】
本発明の上記方法によって取得されるADAMTS4プロテアーゼ活性阻害剤は、避妊用薬剤となるものと期待される。従って、上記工程(a)〜(c)を含む避妊用薬剤の候補化合物のスクリーニング方法もまた、本発明に含まれる。
【0071】
本発明の薬剤の製剤化にあたっては、常法に従い、必要に応じて薬学的に許容される担体を添加することができる。例えば界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等が挙げられるが、これらに制限されず、その他常用の担体を適宜使用することができる。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、
ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を挙げることができる。
【0072】
上記薬剤の剤型の種類としては、例えば経口剤として錠剤、粉末剤、丸剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、軟・硬カプセル剤、フィルムコーティング剤、ペレット剤、舌下剤、ペースト剤等、非経口剤として注射剤、坐剤、経皮剤、軟膏剤、硬膏剤、外用液剤等が挙げられ、当業者においては投与経路や投与対象等に応じた最適の剤型を選ぶことができる。また、ADAMTS4タンパク質をコードするDNAを生体内に投与する場合には、レトロウイルス、アデノウイルス、センダイウイルスなどのウイルスベクターやリポソームなどの非ウイルスベクターを利用することができる。投与方法としては、in vivo法およびex vivo法を例示することができる。
【0073】
本発明の薬剤の投与量は、剤型の種類、投与方法、患者の年齢や体重、患者の症状等を考慮して、最終的には医師または獣医師の判断により適宜決定することができる。
【0074】
さらに、本発明は、ADMATS4遺伝子の発現が人為的に抑制されている哺乳動物細胞に関する。本発明者らは、ADAMTS4遺伝子の発現が人為的に抑制されている遺伝子改変哺乳動物細胞の解析を行うことで、ADAMTS4遺伝子の人為的な抑制が、初期胚の分裂異常および胚の致死に対して関連性があることを見出した。従って、本発明は、ADAMTS4タンパク質の発現の抑制あるいは活性の抑制に関連する疾患のモデル細胞として有用なADAMTS4遺伝子の発現が人為的に抑制されている遺伝子改変哺乳動物細胞を提供する。このような遺伝子改変哺乳動物細胞は、不妊症治療のための薬剤のスクリーニングに用いることが可能であり、また、不妊症のメカニズム解明の研究等に有用である。
【0075】
本発明の上記細胞を利用したスクリーニング方法においては、まず被検化合物をADAMTS4遺伝子の発現を人為的に抑制した哺乳動物細胞と接触させる。次いで、該細胞におけるADAMTS4タンパク質の発現の抑制あるいは活性の抑制に関連する変化を検出し、被検化合物を投与していない場合(対照)と比較して、そのような変化を起こさせない化合物を選択する。
【0076】
本方法において「遺伝子の発現を人為的に抑制」とは、完全な抑制および部分的な抑制の両方が含まれる。また遺伝子対の一方の発現が抑制されている場合も含まれる。抑制する方法として、当業者においては一般的に公知の方法によって行うことができる。例えば、遺伝子改変技術(標的遺伝子部位の組み換えを促進する酵素、例えば、Cre−loxにおけるCre、の導入による条件的遺伝子改変技術も含む)を用いた方法、アンチセンスDNAを用いた方法、または、RNAi技術を用いた方法等が挙げられる。
【0077】
本方法における「哺乳動物細胞」とは、ヒトを含む脊椎動物や無脊椎動物の細胞を意味する。具体的には、ヒト、またはマウスやラット等のげっ歯類由来の細胞を挙げることができるが、最も好適にはマウス由来の細胞である。
【0078】
遺伝子改変動物の作製は、例えば次にようにして行うことができる。まず、標的遺伝子を含むDNA断片をクローニングして、これを基に、内在性の標的遺伝子改変のための相同組み換え用ベクターを構築する。該相同組み換え用ベクターには、標的遺伝子またはその発現制御領域の少なくとも1部を欠失および/または変異させた核酸配列、標的遺伝子またはその発現制御領域にヌクレオチドやポリヌクレオチドが挿入された核酸配列、標的遺伝子またはその発現制御領域に他の遺伝子が挿入された核酸配列を含むが、標的遺伝子の活性が失われる核酸配列であれば、前記の欠失および/または変異部位および挿入部位は限定されない。
【0079】
挿入される遺伝子としては、例えば、ネオマイシン耐性遺伝子、チミジンキナーゼ遺伝子、ジフテリア毒素遺伝子等が挙げられる。また、これらの組み合わせも考えられる。該相同組み換え用ベクターの基本骨格は、特に、制限はなく、pKONeo(レキシコン)等を用いることができる。
【0080】
構築した相同組み換え用ベクターを、個体へ分化させることが可能な哺乳動物細胞(例えば、胚性幹細胞(ES細胞))に導入し、内因性の標的遺伝子との相同組み換えを行うことで、遺伝子改変哺乳動物細胞を作製する。遺伝子対の双方の発現が抑制されている該細胞を作製するには、例えば、高濃度のネオマイシンで細胞を選択する方法で得ることが可能である。相同組み換え用ベクターの細胞への導入は、当業者に公知の方法によって行うことができる。具体的には、エレクトロポレーション法等を例示することができる。
【0081】
本方法において個体へ分化させることが可能な動物細胞としてES細胞を用いた場合は、例えば、該細胞を胚盤胞に注入することによりキメラ胚を作製し、偽妊娠させた動物の子宮に移植して産仔を得る。遺伝子改変ES細胞由来の組織を有するキメラ動物を選別できるようにするために、より好適には、作製された個体の外部的特徴(例えば、毛色)が、遺伝子改変ES細胞由来の組織と胚盤胞由来の組織とで異なるように、胚盤胞を選択する。また、遺伝子改変ES細胞由来の生殖組織を有するキメラ動物であるか否かの判定は、一般的には、該キメラ哺乳動物と適当な系統の同種哺乳動物との交配により得られた仔の毛色で行うが、その他の方法として、例えば、該キメラ哺乳動物の生殖細胞から抽出したDNAを鋳型としたPCR反応を行い、挿入された遺伝子の有無を検出する方法を用いることも可能である。
【0082】
該キメラ動物と適当な系統の同種動物との交配により得られた仔が、ヘテロ接合型遺伝子改変動物であるか否かは、例えば、該動物細胞から抽出したDNAを鋳型とするPCRやサザンハイブリダイゼーションで判定することができる。また、ヘテロ接合型遺伝子改変動物同士の交配により、ホモ接合型遺伝子改変動物細胞を作製することができる。交配により得られた細胞が、ホモ接合型遺伝子を有する改変動物細胞であるか否かも上記の判定法に従い実施することができる。
【0083】
遺伝子改変動物細胞の作製は、上記の方法に制限されない。例えば、体細胞クローン動物の作製技術に従って遺伝子改変動物細胞を作製することもできる。具体的には、ES細胞以外の体細胞(例えば、皮膚細胞等)を用いて、ES細胞の場合と同様な方法に従って遺伝子改変動物細胞を作製することができる。
【0084】
さらに本発明は、不妊症の検査方法に関する。本実施例においてADAMTS4タンパク質の機能が阻害されると、胚発生の初期段階で細胞分裂に異常を示した。従って、ADAMTS4遺伝子の変異や発現状態を指標とすることにより、不妊症の検査を行うことが可能である。
【0085】
また本発明は、不妊症の検査方法に用いられる検査薬に関する。その一つの態様は、ADAMTS4遺伝子または該遺伝子の制御領域にハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチドを含む検査薬である。
【0086】
該オリゴヌクレオチドは、好ましくはADAMTS4遺伝子または該遺伝子制御領域の塩基配列に特異的にハイブリダイズするものである。ここで「特異的にハイブリダイズする」とは、通常のハイブリダイゼーション条件下、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下(例えば、サムブルックら, Molecular Cloning,Cold Spring Harbour Laboratory Press,New York,USA,第2版1989に記載の条件)において、他のタンパク質をコードするDNAとクロスハイブリダイゼーションを有意に生じないことを意味する。
【0087】
該オリゴヌクレオチドは、上記本発明の検査方法におけるプローブやプライマーとして用いることができる。該オリゴヌクレオチドをプライマーとして用いる場合、その長さは、通常15bp〜100bpであり、好ましくは17bp〜30bpである。プライマーは、ADAMTS4遺伝子または該遺伝子制御領域の少なくとも一部を増幅しうるものであれば、特に制限されない。上記の領域としては、例えば、ADAMTS4遺伝子のエクソン領域、イントロン領域、プロモーター領域、エンハンサー領域等を挙げることができる。
【0088】
また、上記オリゴヌクレオチドをプローブとして使用する場合、該プローブは、ADAMTS4遺伝子または該遺伝子制御領域の少なくとも一部に特異的にハイブリダイズするものであれば、特に制限されない。該プローブは、合成オリゴヌクレオチドであってもよく、通常少なくとも15bp以上の鎖長を有する。プローブがハイブリダイズする領域としては、例えば、ADAMTS4遺伝子のエクソン領域、イントロン領域、プロモーター領域、エンハンサー領域等が挙げられる。
【0089】
本発明のオリゴヌクレオチドは、例えば市販のオリゴヌクレオチド合成機により作製することができる。プローブは、制限酵素処理等によって取得される二本鎖DNA断片として作製することもできる。
【0090】
本発明のオリゴヌクレオチドをプローブとして用いる場合は、適宜標識して用いることが好ましい。標識する方法としては、T4ポリヌクレオチドキナーゼを用いて、オリゴヌクレオチドの5’端を32Pでリン酸化することにより標識する方法、およびクレノウ酵素等のDNAポリメラーゼを用い、ランダムヘキサマーオリゴヌクレオチド等をプライマーとして32P等のアイソトープ、蛍光色素、またはビオチン等によって標識された基質塩基を取り込ませる方法(ランダムプライム法等)を例示することができる。
【0091】
本発明の検査薬の他の一つの態様として、ADAMTS4タンパク質に結合する抗体を含む検査薬を挙げることができる。抗体は、検査に用いることが可能な抗体であれば、特に制限はないが、例えばポリクローナル抗体やモノクローナル抗体が挙げられる。抗体は必要に応じて標識される。これら抗体は上述の方法によって作製することができる。
【0092】
本発明の検査薬においては、有効成分であるオリゴヌクレオチドや抗体以外に、例えば、滅菌水、生理食塩水、植物油、界面活性剤、脂質、溶解補助剤、緩衝剤、タンパク質安定剤(BSAやゼラチンなど)、保存剤等が必要に応じて混合されていてもよい。
【0093】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
〔実施例1〕 ADAMTS4のゲノムクローンの単離
ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)により、ADAMTS4の680塩基対からなるプローブをマウス13.5日胚のcDNAから増幅した。用いた2つのプライマーを以下に示す。
・フォーワードプライマー:5’−tttgacacagccattctgtt(配列番号:3)
・リバースプライマー:5’−tggagcagtcaccccatgg(配列番号:4)
【0094】
上記プライマーの塩基配列は公開済みのヒトADAMTS4の配列(EST AB014588)に基づいて設計した。PCR産物は、pCRTMII−TOPO TAベクター(インビトロジェン、米国)にクローン化した。QIAprep Spin Miniprepキットを用いてプラスミドを精製し、M13フォーワードプライマーおよびM13リバースプライマーを用いてABI PRISM 310遺伝子解析装置により配列を決定した。クローン番号12のcDNAクローンの配列は、AB014588に対し87%の相同性を示した。このことは、実際に得られたクローンがマウスADAMTS4遺伝子に対応することを示している。
【0095】
クローン番号12のプラスミドを制限酵素EcoRIで消化し、QIAEXII Gel Extractionキットを用いて、DNA断片を0.7%アガロースから抽出し、プローブとして用いた。このcDNAプローブを32P−dCTP(アマシャム・ファルマシア・バイオテック)で標識し、λFIXIIベクター(ストラタジーン)に挿入された129svj株に由来するマウスのゲノムライブラリーのスクリーニングに用いた。1 x 107個のプラークから陽性クローンが1個得られた。標準的なアルカリ溶解法を用いて、ファージDNAを単離した。ファージDNAを、EcoRI、BamHI、HindIII、ApoI、XhoI(宝酒造、Japan)で消化し、制限酵素地図を作製した。このゲノムクローンの制限酵素地図を図1に示す。上記のプローブを用いたサザンブロット分析で、エクソンを含むと考えられる断片を同定した。さらに配列解析を行うために、EcoRI、BamHI、HindIII等の制限酵素によって得られた消化断片を、pBluescript SK+ ベクター(ストラタジーン)にサブクローニングし、配列を決定した。ゲノムクローンはそのサイズが約13.9kbであった。この配列をヒトおよびラットのADAMTS4 cDNA配列およびゲノム配列と比較し、エクソン−イントロン境界の正確な位置を決定した。表1に、マウスADAMTS4のエクソン/イントロン境界を示す。エクソン配列を大文字で示す。イントロンのスプライス部位のヌクレオチドコンセンサス配列は太文字で示す。この表1から分かるようにエクソン/イントロン境界の配列は、報告されているスプライスドナー(GT)およびアクセプター(AG)のコンセンサス配列と合致する。このゲノムDNAは、エクソン1〜9を含む領域を含んでいた。
【0096】
【表1】
【0097】
マウスADAMTS4のオープンリーディングフレーム(ORF)は、エクソンをつなぎ合わせ、ヒトADAMTS4の配列と比較して構築した。この配列は、長さが2502塩基対であり、834アミノ酸をコードする(図2、配列番号:1および2)。このORFは、典型的なシグナル配列をN末端に含み、その後ろにcys190にシステインスイッチと推定されるプロペプチドドメイン、および触媒ドメインの前に潜在的furin開裂部位を含む。触媒ドメインは、MMPとADAMに存在するzinc結合に類似したモチーフであるHEXXHXXGXXH モチーフを含む。また、ADAMTS4はディスインテグリン様ドメインを含むが、膜貫通性ドメインもしくは細胞質テールは有していない。その代わり、COOH末端ドメインにADAMTS1に存在するものと類似したトロンボスポンジンのI型モチーフを有している。
【0098】
また、ADAMTS4アミノ酸配列のメタロプロテイナーゼドメインとADAMTS1およびADAMTS5のアミノ酸配列を比較したところ、それぞれ同一性が50%および40%という結果になった(図3)。
【0099】
〔実施例2〕 ADAMTS4遺伝子ターゲティング
マウスADAMTS4遺伝子のゲノム構造および機能性ドメインに基づき、機能的にプロテオグリカンを切断するメタロプロテアーゼドメインがエクソン3に存在することが分かった。図4に示すように、ADAMTS4遺伝子を破壊するターゲティングベクターは、エクソン2〜4を含む2.0kbのApaI−HindIII断片をネオマイシン耐性遺伝子およびそれと隣接したチミヂンキナーゼ遺伝子で置換することによって構築した。NotIによりこのプラスミドを線状化し、エレクトロポレーションで胚性幹(ES)細胞129/SM−1に導入した。ES細胞を、200μg/mlのG418および2μmol/lのガンシクロビルを含む培地で選択した。ES細胞のゲノムDNAを単離し、XhoIで消化して電気泳動を行った。プローブ1もしくはプローブ2のいずれかを用いて、得られた相同組換え体をサザンブロット分析によって確認した。
【0100】
さらに、ターゲティングしたES細胞クローンをC57BL/6の胚盤胞に注入して、キメラを作製した。次に、キメラをC57BL/6マウスと交配した。ヘテロ接合体ADAMTS4 +/−マウスは生存可能であり、成体に至るまで生存し、見かけ上は正常でかつ受精可能であった。
【0101】
〔実施例3〕 ADAMTS+/−マウス交配より得た仔の遺伝子型分析
マウス発生におけるADAMTS4遺伝子欠失の効果を明らかにする目的で、ホモ接合体ADAMTS4−/−の仔を得るために、ADAMTS4+/−マウス同士を交配した。ADAMTS+/−マウス同士の異種交配あるいは野生型マウスとADAMTS+/−マウスの交配により得た仔マウスのゲノムDNA20μgを、サザンブロット分析に供した。
【0102】
しかしながら、離乳時に遺伝子型を調べた個体187匹中には1匹もADAMTS4−/−マウスはいなかった。得られた仔の遺伝的分布については、ヘテロ接合体と野生型同腹子間の出生率の比が約2対1(127/60)で、雄対雌の分布は同等(90/97)(表2)であり、このことはヌル変異が劣性で胚性致死であり、この致死率が精子・卵融合によるものではないことを示唆している。
【0103】
【表2】
【0104】
更に、ターゲッティングによるADAMTS4の破壊効果を調べるために、実施例4に示すようにマウスゲノムDNAのサザンブロット分析(図5A)、実施例5に示すように新生仔マウス脳より抽出したトータルRNAのノーザンブロット分析(図5B)、および実施例7に示すように新生仔マウス脳から抽出したタンパク質のウエスタンブロット分析(図5C)を行った。
【0105】
〔実施例4〕 サザンブロット分析
0.2mg/mlのプロテイナーゼKを含む500μlのゲノム溶解緩衝液(1 x SSC、10mM Tris−HCl、pH7.5、1mM EDTA、1% SDS)中で、1センチメートル角のマウスの尾を55℃で一昼夜インキュベートした。ゲノムDNAをフェノール−クロロホルム処理により二回抽出し、1容量の2−プロパノールで沈殿させた。これを75%のエタノールで洗浄し、20分間乾燥させた。4℃で一昼夜かけて完全に溶解させた後、20μgのゲノムDNAを100UのXhoIで37℃にて一昼夜消化した。0.9%アガロースで電気泳動した制限酵素処理断片をナイロン(登録商標)膜ハイボンドN+(アマシャム・ファルマシア・バイオテック)に転写した。
【0106】
サザン用のプローブ1および2(図4)は、PCRによって増幅し、配列解析によって確認した。メガプライムDNA標識システム(MegaprimeTM DNA labeling systems;Amersham Life Science)で、プローブをランダム標識し、Centri−SEPスピンカラム(Princeton Separations, Adelphia, NJ)で精製した。Perfect HybTM Hybridization Solution(東洋紡、Japan)で30分間プレハイブリダイゼーションを実施したのち、熱変性させたプローブ(2.0x105cpm/ml)を用いて膜を68℃で6時間ハイブリダイズした。次に、68℃にて、膜を2xSSC/0.1%SDSで15分間、および0.1xSSC,0.1%SDSで5分間、順次洗浄した後、コダック(Kodak)フィルムに−70℃で2日間露光した。
【0107】
ADAMTS4の発現は、野生型同腹子マウスと比較して約2分の1であったが、成長速度およびサイズは野生型同腹子とほぼ同等であった。
【0108】
〔実施例5〕 ADAMTS4の発現に関するノーザンブロット分析
トータルRNA20μgを新生仔マウスの脳から調製し、6.6%のホルムアルデヒドを含む1.2%アガロースゲルで電気泳動を行った。毛細管反応で、RNAを一昼夜ナイロン(登録商標)膜に転写し、ベイキングにより固定した。メガプライムDNA標識システム(MegaprimeTM DNA labeling systems;アマシャム・ライフサイエンス)を用いて、クローン番号12のcDNAプローブを32P−dCTP(3000 Ci/mmol、アマシャム・ファルマシア・バイオテック)で標識し、Centri−SEPスピンカラム(Princeton Separations, Adelphia, NJ)で精製した。Perfect HybTM Hybridization Solution(東洋紡、Japan)で30分間プレハイブリダイゼーションを実施したのち、熱変性させたプローブ(2.0 x 105 cpm/ml)を用いて膜を68℃で6時間ハイブリダイズした。次に、68℃にて、膜を2 x SSC, 0.1% SDSで15分間、および0.1 x SSC, 0.1% SDSで15分間、順次洗浄した後、ADAMTS4に関してはコダックのフィルムに−70℃で14日間露光した。膜からプローブを除去した後、32P−dCTP標識したマウスGAPDH遺伝子で再ハイブリダイズし、12時間露光した。
【0109】
〔実施例6〕 ADAMTS4ポリクローナル抗体の調製
ADAMTS4のCOOH末端の特異的な部分(最も相同な遺伝子であるマウスADAMTS1遺伝子と比較して)をコードする2種類のcDNA断片をPCRによって増幅した。プライマーセットを以下に示す。
【0110】
PCR断片をTAベクターにサブクローンし、配列解析によって確認した。
【0111】
W1ではBamHI/SalI、およびW2ではEcoRI/XhoIを利用してTAベクターから切り出した。これを、GST融合タンパク質発現ベクターであるpGEX−4T−3(アマシャム・ファルマシア・バイオテック、Bucks、 UK)のBamHI/SalI、EcoRI/XhoI部位に挿入した。これらの発現ベクターを大腸菌BL21(DE3)細胞に導入した。融合タンパク質の調製は以前に発表された方法に従って実施した(Yasukawa, T. et al. Increase of solubility of foreign proteins in Escherichia coli by coproduction of the bacterial thioredoxin. J Biol Chem 270, 25328−31. (1995).)。融合タンパク質による免疫、ならびに融合タンパク質GST−W1およびGST−W2に対するポリクローナル抗体の作製は、以前に発表された方法に従って実施した(Su, S.B., Mukaida, N., Wang, J., Nomura, H. & Matsushima, K. Preparation of specific polyclonal antibodies to a C−C chemokine receptor, CCR1, and determination of CCR1 expression on various types of leukocytes. J Leukoc Biol 60, 658−66. (1996).)。
【0112】
簡単に説明すると、2匹の白色ウサギを、フロインド完全アジュバント(シグマ・アルドリッチ、USA)と混合したGST融合タンパク質400μgで初回免役し、各々をフロインド不完全アジュバント200μgで9回免役した。最終免疫から1週間後、ウサギを放血させ血清を採取した。
【0113】
次に、プロテインAセファロースTM(アマシャム・ファルマシア・バイオテック)カラムを用いて血清を分画し、IgG分画を得た。調製したADAMTS4抗体の特異性を、完全長のADAMTS4−GFPトランスフェクタントを用いて確認した。
【0114】
〔実施例7〕 ウエスタンブロット分析
野生型同腹子およびヘテロ接合体マウスから切り出した新生児の脳の一部を、10% SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供した。タンパク質をニトロセルロース膜(0.45μm)に、4mA/cm2で1時間転写した。膜をブロックACE(大日本製薬、Osaka, Japan))で一昼夜ブロッキングした後、TBS緩衝液(50 mM Tris−HCl (pH7.5), 150mM NaCl)中で、マウス抗ADAMTS4ポリクローナル抗体W1もしくは抗αチューブリン抗体(オンコジーン社)と室温にて1時間反応させ、次に、W1に関しては2000倍に希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ標識したヤギ抗ウサギIgGポリクローナル抗体(アマシャム・ファルマシア・バイオテック)、α−チューブリンに関してはあるいは2000倍に希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ標識した抗マウスIgG抗体と室温で30分間反応させた。TBS緩衝液で洗浄後、結合した西洋ワサビペルオキシダーゼ標識抗体を化学発光(ECL;アマシャム・ファルマシア・バイオテック)により検出し、オートラジオグラフィー用のコダックXARフィルムに露光した。
【0115】
〔実施例8〕 ポリメラーゼ連鎖反応による胚の遺伝子型分析
最近報告された改良型プライマー伸長−前増幅法(improved primer extension preamplification)(I−PEP)−PCR)(Heinmoller, E. et al. Toward efficient analysis of mutations in single cells from ethanol− fixed, paraffin−embedded, and immunohistochemically stained tissues. Lab Invest 82, 443−53. (2002).)のプロトコールを利用した。
【0116】
30μlのI−PEP混合液(Rocheの1x PCR緩衝液No.3において最終濃度:0.05 mg/mlゲラチン、20 mol/L(N)15ランダムプライマー、各1 mmol/LのdNTP、3UのTaq Expand High Fidelityポリメラーゼ、6mmol/LのMgCl2を含む)を、1個の胚を含む10μlの溶解緩衝液に添加してI−PEP−PCRを行った。PCRは以下の条件で50サイクル行った。
【0117】
ステップ1:95℃で2分間;
ステップ2:95℃で30秒間;
ステップ3:28℃で90秒間;
ステップ4:秒当たり0.1℃で55℃まで上昇;
ステップ5:55℃で2分間;
ステップ6:68℃で3分間;
ステップ7:ステップ2に戻り、49回繰り返す;
ステップ8:68℃で15分間;および
ステップ9:4℃。
【0118】
ネステッドPCR法でADAMTS4遺伝子を増幅した。第1ラウンドのPCRは、全プライマーの5’端に無関係な20塩基のキメラ配列を有するADAMTS4に特異的な上流および下流のプライマーを用いて、複合PCR法で実施した。プライマーセットの位置については図4に示す。
【0119】
フォーワードプライマーUTS:
5’−gccgtcccaaaagggtcagtcctcaacacccctaacgactca(配列番号:9)
リバースプライマーUTA:
5’−gcggtcccaaaagggtcagtggagcatgttgaagacatggc(配列番号:10)
【0120】
第2ラウンドのPCRは、以下のプライマーセットを用いてネステッド条件で実施した。
【0121】
フォーワードプライマーNTS: 5’−ctgaccactttgacacagcca(配列番号:11)
リバースプライマーNTA:5’−ccagttcatgagcagcagtga (配列番号:12)
【0122】
I−PEP−PCR産物を5μlずつ分注して25μlの特異的PCR第1ラウンドの混合液(それぞれの濃度が0.2mmol/LのdNTP、1.5mmol/L MgCl2、0.4μmol/Lプライマー、0.5UのTaq Expand High Fidelity Polymerase、および0.5Uの抗Taq抗体(インビトロジェン))に加えた。第1ラウンドPCR産物を3μlずつ分注して、1.5mmol/L MgCl2; それぞれの濃度が0.2 mmol/LのdNTP、0.4 mmol/Lプライマー、および0.3Uの Taq Expand High Fidelity Polymeraseを含む22μlの混合液に加えた。PCR条件は、第1ラウンドと第2ラウンドで同一であり:ステップ1が、95℃で2分間、ステップ2が95℃で30秒間、ステップ3が56℃で45秒間、ステップ4が72℃で1分間、ステップ5でステップ2に戻り、29回繰り返した後、ステップ6で、72℃で10分間、ステップ7で4℃である。各実験において、野生型ゲノムDNAによる陽性対照反応も実施した。2% アガロースゲルで分画してPCR産物の有無を調べた。野生型およびヘテロ接合体で394bpの産物が増幅される。
【0123】
ゲノムDNAの増幅を確認する目的で、対照としてGAPDHネステッドPCRを実施した。GAPDH対照のプライマー配列を以下に示す。
【0124】
第1ラウンドでは、
フォーワードプライマー:5’−ccttcattgacctcaacta(配列番号:13)、
リバースプライマー:5’−agtgatggcatggactgtggt(配列番号:14)
第2ラウンドでは、
フォーワードプライマー:5’−agtatgactccactcacggcaa(配列番号:15)
リバースプライマー:5’−agtgatggcatggactgtggt(配列番号:16)
であり、320bpの産物が増幅される。
【0125】
〔実施例9〕 致死時期の決定
複数の発育ステージにおける胚を調べて、致死のタイミングの決定を試みた。
【0126】
しかし、サザンブロット分析により、8.5日目の初期ステージの胚には、ホモ接合体を見いだすことができず、これらのステージの子宮では、吸収された残留物さえ観察されなかった。これらのデータは、胚が死に至るのは8.5日より前であることを示唆するものである。
【0127】
卵子着床前に死亡したのか後に死亡したのか調べるため、本発明者は、着床前の最終ステージである胚盤胞での遺伝子型を同定した。自然排卵および交配した3匹のマウスから得られた3.5日胚19個には、1個もホモ接合体は見つからなかった。
【0128】
〔実施例10〕 ADAMTS4欠損胚の遺伝子型
さらに、8細胞期の胚の遺伝子型を調べた。8細胞期の胚を、自然排卵および交配したマウスから調製した。遺伝子型を調べる前に個々の胚の顕微鏡像を撮像した。図4に示すプライマーセットにより、ゲノムDNAをI−PEP−PCR、ADAMTS4特異的ネステッドPCRによって増幅した。野生型およびヘテロ接合体について、395bpの産物を増幅し、ホモ接合体と比較した。野生型マウスの尾から得たゲノムDNAを陽性対照として用いた。また、GAPDH遺伝子の増幅を、I−PEP−PCRによりゲノムDNAが実際に増幅したことを確認するための対照とした。
【0129】
結果、異常な形態を示し、断片化あるいは細胞未分裂のホモ接合体ADAMTS−/−を見いだした(図6)。野生型もしくはヘテロ接合体の胚は8細胞期であった。ホモ接合体のADAMTS4−/−胚は8細胞期までしか存在せず、その形態から、ホモ接合体では分裂しないか断片化したことが分かる。この結果は、発育の超初期段階においてADAMTS−/−胚が死に至ることを示している。
【0130】
さらに本発明者は、2細胞期の胚を調べ、表3に示すように、ヌル胚に8細胞期同様の異常を検出した。つまり、これらの結果から、ADAMTS4遺伝子欠損卵子は、着床前に細胞分裂および生存に異常を来たすことが示唆される。
【0131】
【表3】
【0132】
〔実施例11〕 生殖細胞におけるADAMTS4の発現
初期発育ステージの生殖関連細胞(卵子、精子および卵丘細胞)におけるADAMTS4のmRNA発現を確認するために、RT−ネステッドPCRを実施し、DNA配列決定により増幅産物の確認を行った。
【0133】
25個の卵子、単一マウス個体に由来する精子各種ステージの胚20〜30個、単一マウス個体の卵丘細胞から、TRIzol試薬(インビトロジェン)を用いて製造元の説明書に従いトータルRNAを調製し、これをDNaseI処理した。ランダムプライマー(プロメガ、Madison、WI)を用いて製造元の説明書に従い20μlの反応混合液(インビトロジェン)にて42℃で50分間反応して、cDNAの第1ストランド合成を行った。
【0134】
得られたcDNAサンプルについてネステッドRT−PCRを実施した。cDNA産物を2μlずつ分注して、1.5 mmol/L MgCl2; 各濃度が0.2 mmol/LのdNTP、0.4 mmol/Lプライマー、および0.3UのTaq Expand High Fidelity Polymeraseを含む18μlの混合液に添加した。PCR条件は、第1ラウンドと第2ラウンドで同一であり:ステップ1が、95℃で2分間、ステップ2が95℃で30秒間、ステップ3が56℃で45秒間、ステップ4が72℃で1分間、ステップ5でステップ2に戻り、29回繰り返した後、ステップ6で、72℃で10分間、ステップ7で4℃である。ADAMTS4に対するプライマーは、イントロン配列をまたぐように設計されており、次のような配列からなる。
【0135】
第1ラウンド:
フォーワードプライマー:5’−tttgacacagccattctgtt(配列番号:17);
リバースプライマー:5’−ggatacagcggccctggaca(配列番号:18);
第2ラウンド:
フォーワードプライマー:5’−tgtcatggctcctgtcatgg(配列番号:19);
リバースプライマー:5’−gtgggcacttctccgtgttg(配列番号:20)
【0136】
これらのプライマーにより、560bpの産物が増幅する。これをTAベクターにサブクローニングし、配列を決定した。対照GAPDHのプライマーセットを以下に示す。
【0137】
第1ラウンド:
フォーワードプライマー:5’−ccttcattgacctcaacta(配列番号:21);
リバースプライマー:5’−agtgatggcatggactgtggt(配列番号:22);
第2ラウンド:
フォーワードプライマー:5’−agtatgactccactcacggcaa(配列番号:23);
リバースプライマー: 5’−agtgatggcatggactgtggt(配列番号:24)
【0138】
これらのプライマーにより、320bpの産物が増幅する。PCR産物を1%のアガロースゲル上で分画し、臭化エチジウムで染色して可視化した。同一の実験を再び繰り返した。
【0139】
結果、ADAMTS4は、0.5日卵子から胚盤胞までに発現したが、精子もしくは卵丘細胞では発現しなかった(図7)。従って、卵子以外の初期発育にADAMTS4が関与している可能性が否定された。
【0140】
さらに、ADAMTS+/−雄と野生型の雌、もしくはADAMTS+/−雌と野生型の雄の交配による受精は正常なので、ADAMTS4は直接精子・卵融合に関係するとは考えられない。
【0141】
〔実施例12〕 卵子の免疫蛍光染色
自然排卵および交配から0.5日後に、野生型C57/B6マウスを用いて、卵子を含む卵管膨大部を切り出し、PBSで洗浄した。これをTissue−Tek OCT compound (Miles Inc.、Elkhart、Indiana、USA)に包埋して液体窒素で凍結した。試料をクリオスタットで7μmの切片にした。Block Aceで内因性ペルオキシダーゼ活性を阻害後、切片を10μg/mlの濃度のウサギ抗マウスADAMTS4ポリクローナル抗体W1、もしくは対照ウサギIgGと1時間反応させた。それぞれをPBSで2分間2回洗浄し、0.05% Tween−20/PBSで2分間1回洗浄した後、1μg/ml濃度のAlexa Fluor 488ヤギ抗ウサギIgG(H+L)(Molecular Probes, Inc. USA)で30分間標識した。PBSで洗浄し、DAKO Fluorescent Mounting Medium(DAKO CORPORATION、USA)で封入した。蛍光顕微鏡を用いて観察した。
【0142】
結果、ADAMTS4は分泌タンパク質であることが報告されているが、抗ADAMTS4ポリクローナル抗体による免疫蛍光染色では、ADAMTS4タンパク質が、ほぼ卵子内に核周囲の網状パターンとして存在していた(図8)。
【0143】
〔実施例13〕 抗ADAMTS4抗体によるインビトロにおける卵子の阻害実験
ADAMTS4は、そのトロンボスポンジンドメインによりグリコサミノグリカンを認識し、IGDにおいて成体における生理学的機能を果たすためにプロテオグリカンを切断する分泌タンパク質であることが報告されている。ADAMTS4が卵子において生理学的役割を果たしているか否かを明らかにする目的で、抗ADAMTS4抗体を用いて触媒過程を阻害するインビトロ実験を行った。
【0144】
C57/BL6雌マウスに、5IUの妊馬血清(PMS)および5IUのヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)を48時間間隔で注射して、過排卵させ、すぐに交配した。hCG注射後13〜15時間で卵管膨大部から0.5日卵子を採取し、400μlのM2培地滴に入れた。300μg/ml濃度のIII型ヒアルロニダーゼ(シグマ)を用いて卵丘細胞を除去し、第2極体もしくは前核を有する卵子を採取した。卵子培養には、0μg/ml、20μg/ml、30μg/ml、および40μg/mlの濃度の抗ADAMTS4抗体、ならびに40μg/mlの濃度の抗GST抗体を含む、37℃ 5%CO2雰囲気化で平衡化したM16培地を用いた。
【0145】
卵子回収から24時間後に胚の形態を観察した結果、抗ADAMTS4抗体による処理では、卵子は断片化もしくは非分裂形態を呈したが、対照では卵子が2細胞期胚まで成長した(図9A)。
【0146】
また、卵子回収から24時間インキュベーション後、2細胞期胚の数を計数したところ、2細胞期の胚の数は、抗体の用量依存的に減少した(図9B)。2細胞期の胚の比率(%)は、抗ADAMTS4抗体を用いた場合、0μg/mlでは70.5%(n=119)、20μg/mlでは41.5%(n=212)、30μg/mlでは23.4%(n=141)、および40μg/mlでは5.2%(n=58)あったが、対照の抗GST抗体を用いた場合には、40μg/mlでは72.7%(n=99)であった。
【0147】
【発明の効果】
本発明により、ADAMTS4タンパク質の機能を制御する薬剤が提供された。また、本発明により、ADAMTS4タンパク質の発現の抑制(阻害)あるいは活性の抑制に基づいた避妊薬のスクリーニング方法が提供された。本発明の薬剤または本発明のスクリーニング方法によって取得される化合物は、例えば、早期の避妊に有用である。
【0148】
また本発明の薬剤は、ADAMTS4タンパク質の発現の異常あるいは活性の異常に関連する疾患のメカニズム解明のための研究用試薬としても有用である。
【0149】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】マウスADAMTS4遺伝子のゲノム構造を示す図である。
(A)マウスADAMTS4遺伝子の制限酵素地図。制限酵素部位:E(EcoRI);H(HindIII);B(BamHI);A(ApoI);X(XhoI)。
(B)マウスADAMTS4遺伝子のエクソン/イントロン構造。ボックスはエクソンを表し、間の直線はイントロンを表す。ボックスで囲まれたエクソン内の斜線の領域は、コーディング配列である。
(C)マウスADAMTS4遺伝子の機能性ドメイン。
【図2】ADAMTS4の推定アミノ酸配列を示す図である。furinによる推定切断部位を矢印で示す。トロンボスポンジンのI型モジュールを下線で示した。MMP様システインスイッチにおけるシステイン残基を黒丸印で示した。その他のシステイン残基については、星印で示した。furin切断部位までプレプロ領域が伸びており、触媒ドメインは、furin切断部位からディスインテグリン様配列までを含む。スペーサードメインの開始部位を示した。1文字アミノ酸コードを用いた。
【図3】ADAMTS4アミノ酸配列のメタロプロテイナーゼドメインの比較結果を示す図である。マウスADAMTS4(上段)およびADAMTS1あるいはADAMTS5(下段)に関するアミノ酸残基を示す。それぞれ、同一性は50%および40%であった。Zinc結合モチーフには下線を付した。
【図4】遺伝子ターゲッティング法に用いたゲノム制限酵素地図(A)ならびに野生型遺伝子座、ターゲッティングベクター、ターゲッティング後の遺伝子座(B)を表わした図である。
(A)ADAMTS4のゲノム制限酵素地図。エクソン2〜4(メタロプロテイナーゼドメイン)を含むApoI/HindIII断片は、ネオマイシン耐性遺伝子と置換されている。
B(BamHI);H(HindIII);A(ApoI);E(EcoRI);X(XhoI)。
(B)エクソンおよびイントロンは、それぞれ垂直および水平な線で示した。PGKプロモーター(PGK−neo’)で制御されるネオマイシン耐性遺伝子、およびPMC1プロモーター(PMC1−tk)で制御されるチミジンキナーゼ遺伝子を矢印で示した。サザンブロット分析用プローブを示した。Xで示した位置はXhoI制限酵素部位に対応する。
【図5】マウスADAMTS4のターゲティングによる破壊の効果を示す写真である。
(A)マウスゲノムDNAのサザンブロット分析の結果を表わす写真。11kbのXhoI消化断片は、プローブ1およびプローブ2における相同組換え対立遺伝子を示す。WTは野性型、+/−はヘテロ接合体である。
(B)各遺伝子型の新生仔マウス脳から抽出したトータルRNAのノーザンブロット分析の結果を表わす写真。
(C)各遺伝子型の新生仔マウス脳から抽出したタンパク質のウエスタンブロット分析の結果を表わす写真。
【図6】ADAMTS4欠損胚の遺伝子型および形質の分析を示す写真である。
【図7】生殖関連細胞におけるADAMTS4の発現を示す写真である。
トータルRNAを卵子(1)、2細胞期胚(2)、8細胞期胚(3)、未分化胚芽細胞(4)、精子(5)および卵丘細胞(6)より抽出した。RT−ネステッドPCRの結果、ADAMTS4は精子および卵丘細胞では発現が見られなかったが、卵子および胚では発現が観察された。トータルRNAを陰性対照、心臓由来のcDNAを陽性対照として利用した。下段に、GAPDHのRT−ネステッドPCRの結果を示す。
【図8】卵子におけるADAMTS4の免疫蛍光の結果を示す写真である。
野性型C57/B6マウス由来の自然排卵および交配後の0.5日胚をOCTコンパウンド中に包埋し、7μmの切片にした。切片標本は抗マウスADAMTS4抗体(B)およびウサギIgG(C)で染色し、Alexa Flior 488ヤギ抗ウサギIgGで標識した。ADAMTS4は、対照と比較したところ核の周辺領域に発現が見られた。光field照明下の卵子は、卵丘細胞周囲の透明帯を有していた(A)。
【図9】卵子発育における抗ADAMTS4抗体の効果を示す写真および図である。
0.5日の卵子は、過排卵後に交配したC57/BL6の雌から調製した。これを、抗ADAMTS4抗体および対照抗GST抗体を各種の濃度で含むM16培地でインキュベートした。24時間インキュベーションした後、卵子の形態を観察した。抗ADAMTS4抗体による処理では、卵子は断片化もしくは非分裂形態を呈したが、対照では卵子が2細胞期胚まで成長した(A)。24時間インキュベーション後、2細胞期胚の数を計数したところ、ADAMTS4の阻害効果は用量依存的であった(B)。
【従来の技術】
ほぼ30種類のADAM(ディスインテグリンおよびメタロプロテアーゼ)ファミリーの分子が分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)からヒトに至る各種生物で同定されている。いずれの分子も保存された特徴的なドメイン構造を有している。N末端のシグナル配列の後に、プロドメイン、メタロプロテアーゼドメイン、ディスインテグリンドメインおよびEGFリピートを含むシステインに富んだ領域が続く。ほとんどのメンバーは膜貫通性ドメインを有し、その後にC末端細胞質テールを含んでいる。
【0002】
ADAMは細胞接着や細胞表面分子のタンパク質分解プロセッシング等の多様な過程に関係することが示されている。精子のヘテロ二量体タンパク質であるファーティリン(fertilin)αおよびβ(ADAM1およびADAM2)ならびにcyritestin(ADAM3)は、受精中の精子−卵融合に必須である(非特許文献1参照)。メルトリン(Meltrin)α(ADAM12)は、筋肉発生における筋芽細胞融合に何らかの役割を担っている(非特許文献2参照)。TNFα変換酵素(TACE、ADAM17)は、細胞外TNFα等の細胞表面膜貫通性増殖因子における活性領域のタンパク質分解・放出に関係している(非特許文献3参照)。ショウジョウバエ(Drosophila)のメタロプロテアーゼディスインテグリンKUZ(kuzbanian、線虫のSUP−17、哺乳動物のADAM10)(非特許文献4参照)は、ノッチ(Notch)およびノッチリガンドDelta(非特許文献5および6参照)のプロセッシングが関連した神経発生に重要である。MDCはヒト乳癌の腫瘍サプレッサー分子の候補であり、MS2はマクロファージ表面抗原である。しかしながら、ADAMファミリーの大部分のメンバーに関しては、生理学的機能が未解明のままである。
【0003】
ADAMTS(トロンボスポンジンモチーフを有するディスインテグリンおよびメタロプロテアーゼ)は、ADAMのサブファミリーであり、哺乳動物および無脊椎動物のいずれにも見いだされる新規な細胞外プロテアーゼファミリーである。現在のところ、哺乳動物のADAMTSファミリーは14種のメンバーからなる。このファミリーのメンバーは、トロンボスポンジン1様の繰り返し配列を複数コピー含み、C末端領域(非特許文献7参照)の膜貫通性ドメインが欠けている等の性質から、他のADAMファミリーメンバーとは異なっている。従って、ほとんどが細胞表面に局在するADAMファミリーメンバーとは異なり、ADAMTSファミリーメンバーは、細胞外マトリックスタンパク質を構成していると考えられる(非特許文献8参照)。
【0004】
ADAMTS1を最初に発見したのは久野らである。これは、癌悪液質を誘起するマウス大腸癌細胞株で選択的に発現する遺伝子である。リポ多糖(LPS)で誘導されるマウスの全身性炎症によって、心臓および腎臓でADAMTS1の選択的発現が高まった(非特許文献9参照)。このことは、ADAMTS1の役割が炎症反応に関係している可能性を示唆するものである。
【0005】
哺乳動物細胞で調製した組換えヒトADAMTS1およびその近縁の相同体であるADAMTS8は、角膜ポケットアッセイにおいてFGF−2誘導性の血管形成を抑制した。また、漿尿膜アッセイにおいてVEGF誘導性血管形成を阻害した。また、いずれのタンパク質も、内皮細胞の増殖を阻害したが、線維芽細胞もしくは平滑筋細胞の増殖を阻害することはなかった(非特許文献10参照)。
【0006】
マウスADAMTS1遺伝子の破壊によって、さらに生理学的機能が明らかになった。ADAMTS1−/−マウスでは、著しい成長遅滞と脂肪組織の形成不全を示した。また、子宮と卵巣が組織学的に変化しており、雌の受精能が低下した。さらに、毛細血管形成を伴わない異常な副腎髄質構造がみられた。さらに著しいのは、腎杯が肥大し、尿管腎盂移行部から尿管にかけて繊維化が起こっていたことである(非特許文献11参照)。このような特異的な形質は、ADAMTS1の転写産物が腎臓に豊富に存在することと一致し、器官形成中に起こる細胞外マトリックスのリモデリングにプロテアーゼ活性が重要であることを支持する。さらに、最近、ADAMTS1が、ディファレンシャルディスプレー法を用いてラット内皮細胞からクローン化された。この転写産物のレベルは、肝硬変状態にある肝臓内皮細胞において下方制御される。このことは、ADAMTS1が肝臓の線維化の過程でも重要であることを示唆するものである。
【0007】
ヒトのエーラース−ダンロス症候群(Ehlers−Danlos Syndrome;EDS)は、皮膚、関節、血管および靱帯等の生体力学的性質の変化によって特徴付けられる一群の先天性結合組織疾患である。VIIC型EDSおよびウシの皮膚剥離症(dermatosparasis)、ウシおよびヒツジにおける類似した疾患は、I型プロコラーゲンのN末端プロセッシング異常による皮膚の重度の脆弱性によって特徴付けられる。ADAMTS2はプロコラーゲンNプロテアーゼであることが報告されている。Coligeらは、ヒトADAMTS2遺伝子をクローン化し、複数のVIIC型EDS患者の変異、および皮膚剥離疾患の仔牛における対応する変異を同定した(非特許文献12参照)。こうして、ADAMTSファミリーの中でも、ADAMTS2は、その生理学的基質、および対応する遺伝的疾患が初めて同定されたメンバーである。
【0008】
最近、ADAMTSファミリーの他のメンバーが関係する遺伝性疾患が明らかにされた。Galliaらは、ヒト先天性血栓性血小板減少性紫斑(TTP)の4家系についてゲノムの連鎖解析を実施し、ADAMTS13の欠損がTTPの分子論的機序であることを示す12種類の変異を、ADAMTS13遺伝子中に同定した(非特許文献13参照)。
【0009】
ADAMTS4およびADAMTS5は、ADAMTS1に非常によく似た相同体であり、インターロイキン1で刺激したウシの関節軟骨細胞の培養培地から精製された(非特許文献14参照)。これらは、軟骨アグリカンを切断するので、アグリカナーゼ1およびアグリカナーゼ2と命名されている(非特許文献15参照)。最近の報告よれば、ヒト抗ADAMTS4抗体のみでアグリカン切断活性の75%を阻害することから(非特許文献16参照)、ADAMTS4はアグリカン切断に最も重要なプロテアーゼであると考えられている。慢性関節リウマチ(RA)および変形性関節症(OA)の場合には、ADAMTS4はアグリカンを球間ドメイン(IGD)のGlu373−Ala374結合部位で切断し、軟骨を分解する(非特許文献17参照)。さらに、最近では、内因性TIMP−3阻害因子が、ADAMTS4活性を阻害することが報告されている(非特許文献18参照)。
【0010】
アグリカン(aggrecan)は単に、ADAMTS4の生理学的基質であるだけではない。ブレビカン(brevican)は、脳特異的細胞外マトリックスとしてのプロテオグリカンであり、ヒトおよびラットの神経膠腫細胞株ではその発現が大幅に増加している。最近の報告では、高度に浸潤的なCNS−1神経膠腫細胞株の脳内移植片の浸潤においてブレビカンの合成と切断が一定の役割を果たしており(非特許文献19参照)、ADAMTS4はブレビカンの切断活性に重要であることが示されている。ADAMTS4は、バーシカン(versican)等の他のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンをインビトロで切断することもできる(非特許文献20参照)。ADAMTS4の転写産物のレベルに関しては、成体の組織では遍在性であり、脳、心臓および肺でより多く発現している。例えば、軟骨細胞および軟骨の外植培養片では、レチノイン酸およびフィブロネクチンの断片(非特許文献21参照)、およびIL−1、TNFα、IL−6(非特許文献22参照)、IL−17(非特許文献23参照)等の複数のサイトカイン類によってADAMTS4による切断が誘導される(非特許文献24参照)。FLS(線維芽細胞様の滑膜細胞)では、TGFβによって、ADAMTS4の遺伝子発現が大幅に増加する(非特許文献25参照)。βアミロイドで処理した場合にも、ラットの星状細胞でADAMTS4の転写産物レベルが亢進した(非特許文献26参照)。このことは、脳の細胞外マトリックスの分解によってアルツハイマー疾患が増悪することと関連があることを示唆する。さらに、管状構造に分化しつつあるヒト内皮細胞の遺伝子の差分発現プロフィールを調べるための新規のmRNA包括プロフィール化技術を用いることによって、内皮管状形成中にADAMTS4が上方制御されることが明らかになった(非特許文献27参照)。このことは、この酵素が血管のプロテオグリカンの代謝に潜在的な役割を持つことを示唆するものであり、つまり血管形成に関係することを示唆するものである。
【0011】
このように、ADAMTS4は、細胞外マトリックスタンパク質に結合する広範な活性と機能を備えたメタロプロテアーゼであると考えられているものの、生理学的意義は不明のままであった。
【0012】
【非特許文献1】
Blobel, C.P.ら著、「A potential fusion peptide and an integrin ligand domain in a protein active in sperm−egg fusion.」、Nature、1992年、Vol.356、p.248−52
【非特許文献2】
Yagami−Hiromasa, Tら著、「A metalloprotease−disintegrin participating in myoblast fusion.」、Nature、1995年、Vol.377、p.652−6.
【非特許文献3】
Black, R.A.ら著、「A metalloproteinase disintegrin that releases tumour−necrosis factor− alpha from cells.」、Nature 1997年、Vol.385、p.729−33
【非特許文献4】
Wen, C.外2名著、「SUP−17, a Caenorhabditis elegans ADAM protein related to Drosophila KUZBANIAN, and its role in LIN−12/NOTCH signalling.」、Development、1997年、Vol.124、p.4759−67
【非特許文献5】
Pan, D. および Rubin, G.M著、「Kuzbanian controls proteolytic processing of Notch and mediates lateral inhibition during Drosophila and vertebrate neurogenesis.」、Cell、1997年、Vol.90、p.271−80
【非特許文献6】
Qi, H.ら著、「Processing of the notch ligand delta by the metalloprotease Kuzbanian.」、Science、1999年、Vol.283、p.91−4
【非特許文献7】
Kuno, K.ら著、「Molecular cloning of a gene encoding a new type of metalloproteinase− disintegrin family protein with thrombospondin motifs as an inflammation associated gene.」、J Biol Chem 、1997年、Vol.272、p.556−62
【非特許文献8】
Kuno, K. および Matsushima, K.著、「ADAMTS−1 protein anchors at the extracellular matrix through the thrombospondin type I motifs and its spacing region.」、J Biol Chem 、1998年、Vol.273、p.13912−7
【非特許文献9】
Kuno, K.外3名著、「The exon/intron organization and chromosomal mapping of the mouse ADAMTS−1 gene encoding an ADAM family protein with TSP motifs.」、Genomics 、1997年、Vol.46, p.466−71
【非特許文献10】
Vazquez, F.ら著、「METH−1, a human ortholog of ADAMTS−1, and METH−2 are members of a new family of proteins with angio−inhibitory activity.」、J Biol Chem 、1999年、Vol.274、p.23349−57
【非特許文献11】
Shindo, T.ら著、「ADAMTS−1: a metalloproteinase−disintegrin essential for normal growth, fertility, and organ morphology and function.」、J Clin Invest 、2000年、Vol.105、p.1345−52
【非特許文献12】
Colige, A.ら著、「Human Ehlers−Danlos syndrome type VII C and bovine dermatosparaxis are caused by mutations in the procollagen I N−proteinase gene.」、Am J Hum Genet 、1999年、Vol.65、p.308−17
【非特許文献13】
Levy, G.G.ら著、「Mutations in a member of the ADAMTS gene family cause thrombotic thrombocytopenic purpura.」、Nature 、2001年、Vol.413, p.488−94
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【非特許文献15】
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【非特許文献16】
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【非特許文献17】
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【非特許文献18】
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【非特許文献19】
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【非特許文献20】
Sandy, J.D.ら著、「Versican V1 proteolysis in human aorta in vivo occurs at the Glu441− Ala442 bond, a site that is cleaved by recombinant ADAMTS−1 and ADAMTS− 4.」、J Biol Chem 、2001年、Vol.276、p.13372−8
【非特許文献21】
Homandberg, G.A.外3名著、「Cartilage chondrolysis by fibronectin fragments causes cleavage of aggrecan at the same site as found in osteoarthritic cartilage.」、Osteoarthritis Cartilage、1997年、Vol.5、p.450−3.
【非特許文献22】
Flannery, C.R.ら著、「IL−6 and its soluble receptor augment aggrecanase−mediated proteoglycan catabolism in articular cartilage.」、Matrix Biol 、2000年、Vol.19、p.549−53
【非特許文献23】
Cai, L.ら著、「Pathways by which interleukin 17 induces articular cartilage breakdown in vitro and in vivo.」、Cytokine、2001年、Vol.16、p.10−21
【非特許文献24】
Arner, E.C.外4名著、「Cytokine−induced cartilage proteoglycan degradation is mediated by aggrecanase.」、Osteoarthritis Cartilage 、1998年、Vol.6、p.214−28
【非特許文献25】
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【非特許文献26】
Satoh, K.,外2名著、「ADAMTS−4 (a disintegrin and metalloproteinase with thrombospondin motifs) is transcriptionally induced in beta−amyloid treated rat astrocytes.」、Neurosci Lett、2000年、Vol. 289、p.177−80
【非特許文献27】
Kahn, J. ら著、「Gene expression profiling in an in vitro model of angiogenesis.」、Am J Pathol、2000年、Vol. 156, p.1887−900
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、ADAMST4の生理学的および病理学的な役割を解明することにある。さらに本発明は、この解明された知見を基に、ADAMST4タンパク質の機能阻害物質を有効成分として含有する薬剤、およびADAMST4タンパク質をターゲットとする医薬品のためのスクリーニング方法の提供を目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者らはADAMTS4の生理学的意義を明らかにするために、ADAMTS4遺伝子欠損マウスを作製し解析を行った。ADAMTS4のヘテロ接合体は外見でも異常がなく生殖も正常だったが、ヘテロ同士を交配しサザンブロットで解析した結果、187匹の子供のうちにホモ接合体は観られなかった。ホモ接合体の致死時期を各妊娠段階で調べた結果、妊娠8.5日目の段階でも胚子の存在がなく、子宮には吸収された残留物もないことが分かった。最終的にI−PEP−PCRの技術で、8細胞期や2細胞期でホモ接合体を見つけることができた。しかし、胚子の形態が異常で未分裂や断片化を呈していた。さらに受精に関わる他の細胞も調べたところ、ADAMTS4が受精卵と続発する発生段階の胚子に特異的に発現していることが分かった。さらに受精卵でADAMTS4発現の局在を蛍光免疫染色で明らかにした。インビトロの実験系では受精卵の分裂が抗ADAMTS4抗体によって用量依存的に阻害され、発育阻害された卵子は未分裂や断片化を呈し、形態上はADAMTS4ホモ接合体の表現と一致していることが分かった。
【0015】
ADAMファミリーメンバーのファーティリンαおよびβやcyritestinが受精に関与していることがよく知られているが、糖鎖のある細胞外基質を構成するプロテオグライカンを分解するタンパク質としてのADAMTS4が発生の初期段階で決定的な役割を果たしていることが本発明者らにより初めて明らかになった。
【0016】
本発明者らによって今回見出された知見に基づけば、ADAMTS4タンパク質を標的とすることにより、ADAMTS4タンパク質の発現の阻害あるいは活性の阻害に基づいた医薬品候補化合物をスクリーニングすることが可能である。このスクリーニングにより得られる化合物は、避妊薬となるものと大いに期待される。
【0017】
例えば、ADAMTS4の機能阻害剤あるいは発現阻害剤を受精卵に対して適用することにより、受精卵の発育阻害作用が期待されるため、避妊作用が考えられる。本発明の薬剤はヒトに対して使用する以外に、野生動物または家畜に対しても適用可能である。
【0018】
即ち、本発明は、ADAMST4タンパク質の機能阻害物質を有効成分として含有する薬剤、およびADAMST4タンパク質をターゲットとする医薬品のためのスクリーニング方法に関し、より具体的には、
〔1〕 ADAMTS4タンパク質の機能阻害物質を有効成分として含有する、受精卵の発育阻害作用を有する薬剤、
〔2〕 ADAMTS4タンパク質の機能阻害物質を有効成分として含有する、避妊用薬剤、
〔3〕 ADAMTS4タンパク質の機能阻害物質が、以下の(a)〜(c)からなる群より選択される化合物を含む、〔1〕または〔2〕に記載の薬剤、
(a)ADAMTS4タンパク質に対してドミナントネガティブの性質を有するADAMTS4タンパク質変異体
(b)ADAMTS4タンパク質に結合する抗体
(c)ADAMTS4タンパク質に結合する低分子化合物
〔4〕 ADAMTS4タンパク質の発現阻害物質を有効成分として含有する、受精卵の発育阻害作用を有する薬剤、
〔5〕 ADAMTS4タンパク質の発現阻害物質を有効成分として含有する、避妊用薬剤、
〔6〕 ADAMTS4タンパク質の発現阻害物質が、以下の(a)〜(c)からなる群より選択される化合物を含む、〔4〕または〔5〕に記載の薬剤、
(a)ADAMTS4遺伝子の転写産物、またはその一部に対するアンチセンス核酸
(b)ADAMTS4遺伝子の転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有する核酸
(c)ADAMTS4遺伝子の発現を、RNAi効果による阻害作用を有する核酸
〔7〕 以下の(a)〜(c)のいずれかを有効成分として含有する、不妊症治療のための薬剤、
(a)ADAMTS4タンパク質
(b)ADAMTS4タンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含む、ADAMTS4変異体タンパク質であって、ADAMTS4タンパク質と機能的に同等なタンパク質
(c)前記(a)または(b)に記載のタンパク質をコードするDNA
〔8〕 ADAMTS4タンパク質がマウス由来である、〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の薬剤、
〔9〕 以下の(a)〜(c)の工程を含む、避妊用薬剤のための候補化合物のスクリーニング方法、
(a)ADAMTS4タンパク質またはその部分ペプチドと被検化合物を接触させる工程
(b)前記ADAMTS4タンパク質またはその部分ペプチドと被検化合物との結合活性を測定する工程
(c)ADAMTS4タンパク質またはその部分ペプチドと結合する化合物を選択する工程
〔10〕 以下の(a)〜(c)の工程を含む、避妊用薬剤のための候補化合物のスクリーニング方法、
(a)ADAMTS4遺伝子を発現する細胞に、被検化合物を接触させる工程
(b)該ADAMTS4遺伝子の発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物を接触させない場合と比較して、該発現レベルを低下させる化合物を選択する工程
〔11〕 以下の(a)〜(c)の工程を含む、避妊用薬剤のための候補化合物のスクリーニング方法、
(a)ADAMTS4遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞または細胞抽出液と、被検化合物を接触させる工程
(b)該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、該発現レベルを低下させる化合物を選択する工程
〔12〕 以下の(a)〜(c)の工程を含む、避妊用薬剤のための候補化合物のスクリーニング方法、
(a)ADAMTS4遺伝子を発現する細胞へ被検化合物を接触させる工程
(b)該細胞におけるADAMTS4タンパク質の発現量または活性を測定する工程、
(c)被検化合物に非存在下において測定した場合と比較して、ADAMTS4タンパク質の発現量または活性を低下させる化合物を選択する工程
〔13〕 以下の(a)〜(c)の工程を含む、ADAMTS4プロテアーゼ活性阻害剤のスクリーニング方法、
(a)プロテオグリカンと、ADAMTS4タンパク質および被検化合物とを接触させる工程
(b)ADAMTS4タンパク質のプロテオグリカンを基質とする切断活性を測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、前記切断活性を低下させる化合物を選択する工程
〔14〕 プロテオグリカンが、アグリカン、ブレビカン、またはバーシカンである、〔13〕に記載のスクリーニング方法、
〔15〕 ADAMTS4遺伝子の発現が人為的に抑制されていることを特徴とする哺乳動物細胞、を提供するものである。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明者らによって、ADAMTS4遺伝子ノックアウトマウスは、初期胚分化が正常に行われず、初期段階で死亡することが見出された。即ち、ADAMTS4が発生初期段階で決定的な役割を果たしていることが明らかになった。また、ADAMTS4タンパク質は受精卵と続発する発育段階の胚子に特異的に発現しており、さらに、ADAMTS4タンパク質の機能を阻害することにより受精卵の発育が阻害されることが示された。従ってADAMTS4タンパク質の機能阻害物質を有効成分として含有する薬剤は、受精卵の発育を阻害する作用を有するものと考えられる。
【0020】
本発明は、ADAMTS4タンパク質の機能阻害物質を有効成分として含有する、受精卵の発育を阻害する作用を有する薬剤を提供する。受精卵の発育阻害によって、妊娠の進行が止まり人工的な早産(流産)が誘起されると考えられる。従って、本発明の上記薬剤は、例えば避妊用薬剤として有効である。所謂、中絶用薬剤あるいは堕胎用薬剤もまた、本発明の避妊用薬剤に含まれる。また、本発明の避妊用薬剤は、初期胚分化の段階において適用されることが好ましい。本発明における「初期」の胚とは、通常、8細胞期以前の段階の胚を指すが、必ずしもこの段階に限定されるものではない。
【0021】
さらに本発明は、ADAMTS4タンパク質の機能阻害物質を有効成分として含有する薬剤を提供する。該薬剤は、受精卵の発育阻害作用を有する薬剤であり、例えば、避妊用薬剤である。本発明のADAMTS4タンパク質の機能を阻害する物質は、
(a)ADAMTS4タンパク質に対してドミナントネガティブの性質を有するADAMTS4タンパク質変異体、
(b)ADAMTS4タンパク質に結合する抗体、
(c)ADAMTS4タンパク質に結合する低分子化合物、からなる群より選択される。
【0022】
「ADAMTS4タンパク質に対してドミナントネガティブの性質を有するADAMTS4タンパク質変異体」とは、該タンパク質をコードする遺伝子を発現させることによって、内在性の野生型タンパク質の活性を消失もしくは低下させる機能を有するタンパク質を指す。
【0023】
また、本発明者らは、ADAMTS4タンパク質に結合する抗体によって受精卵の分裂が用量依存的に阻害されることを見出した。従って、本発明は、ADAMTS4タンパク質に結合する抗体を有効成分として含有する、受精卵の発育を阻害する作用を有する避妊用薬剤を提供する。
【0024】
ADAMTS4タンパク質に結合する抗体(抗ADAMTS4抗体)は、当業者に公知の方法により調製することが可能である。ポリクローナル抗体であれば、例えば、次のようにして得ることができる。天然のADAMTS4タンパク質、あるいはGSTとの融合タンパク質として大腸菌等の微生物において発現させたリコンビナントADAMTS4タンパク質、またはその部分ペプチドをウサギ等の小動物に免疫し血清を得る。これを、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、ADAMTS4タンパク質や合成ペプチドをカップリングしたアフィニティーカラム等により精製することにより調製する。また、モノクローナル抗体であれば、例えば、ADAMTS4タンパク質若しくはその部分ペプチドをマウスなどの小動物に免疫を行い、同マウスより脾臓を摘出し、これをすりつぶして細胞を分離し、該細胞とマウスミエローマ細胞とをポリエチレングリコール等の試薬を用いて融合させ、これによりできた融合細胞(ハイブリドーマ)の中から、ADAMTS4タンパク質に結合する抗体を産生するクローンを選択する。次いで、得られたハイブリドーマをマウス腹腔内に移植し、同マウスより腹水を回収し、得られたモノクローナル抗体を、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、ADAMTS4タンパク質や合成ペプチドをカップリングしたアフィニティーカラム等により精製することで、調製することが可能である。
【0025】
本発明の抗体の形態には、特に制限はなく、本発明のADAMTS4タンパク質に結合する限り、上記ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のほかに、ヒト抗体、遺伝子組み換えによるヒト型化抗体、さらにその抗体断片や抗体修飾物も含まれる。
【0026】
抗体取得の感作抗原として使用される本発明のADAMTS4タンパク質は、その由来となる動物種に制限されないが哺乳動物、例えばマウス、ヒト由来のタンパク質が好ましく、特にヒト由来のタンパク質が好ましい。ヒト由来のタンパク質は、本明細書に開示される遺伝子配列又はアミノ酸配列を用いて得ることができる。
【0027】
本発明において、感作抗原として使用されるタンパク質は、完全なタンパク質あるいはタンパク質の部分ペプチドであってもよい。タンパク質の部分ペプチドとしては、例えば、タンパク質のアミノ基(N)末端断片やカルボキシ(C)末端断片が挙げられる。本明細書における「抗体」とはタンパク質の全長又は断片に反応する抗体を意味する。
【0028】
また、ヒト以外の動物に抗原を免疫して上記ハイブリドーマを得る他に、ヒトリンパ球、例えばEBウィルスに感染したヒトリンパ球をin vitroでタンパク質、タンパク質発現細胞又はその溶解物で感作し、感作リンパ球をヒト由来の永久分裂能を有するミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、タンパク質への結合活性を有する所望のヒト抗体を産生するハイブリドーマを得ることもできる。
【0029】
本発明のADAMTS4タンパク質に結合する抗体は、例えば、避妊を目的とした使用が考えられる。得られた抗体を人体に投与する目的(抗体治療)で使用する場合には、免疫原性を低下させるため、ヒト抗体やヒト型抗体が好ましい。
【0030】
さらに、本発明は、ADAMTS4タンパク質の機能を阻害し得る物質として、ADAMTS4タンパク質に結合する低分子量物質も含有する。本発明のADAMTS4タンパク質に結合する低分子量物質は、天然または人工の化合物であってもよい。通常、当業者に公知の方法を用いることによって製造または取得可能な化合物である。また本発明の化合物は、後述のスクリーニング方法によって、取得することが可能である。低分子化合物には、例えば、低分子プロテアーゼ阻害剤が挙げられる。
【0031】
また、本発明は、ADAMTS4タンパク質の発現を阻害する物質を有効成分として含有する薬剤を提供する。該薬剤は、受精卵の発育を阻害する作用を有する薬剤であり、例えば、避妊用薬剤となるものと考えられる。ADAMTS4タンパク質の発現を阻害する物質は、例えば、
(a)ADAMTS4遺伝子の転写産物、またはその一部に対するアンチセンス核酸、
(b)ADAMTS4遺伝子の転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有する核酸、
(c)ADAMTS4遺伝子の発現をRNAi効果による阻害作用を有する核酸、からなる群より選択される。
【0032】
本発明における「核酸」とはRNAまたはDNAを意味する。特定の内在性遺伝子の発現を阻害する方法としては、アンチセンス技術を利用する方法が当業者によく知られている。アンチセンス核酸が標的遺伝子の発現を阻害する作用としては、以下のような複数の要因が存在する。すなわち、三重鎖形成による転写開始阻害、RNAポリメラーゼによって局部的に開状ループ構造が作られた部位とのハイブリッド形成による転写阻害、合成の進みつつあるRNAとのハイブリッド形成による転写阻害、イントロンとエキソンとの接合点におけるハイブリッド形成によるスプライシング阻害、スプライソソーム形成部位とのハイブリッド形成によるスプライシング阻害、mRNAとのハイブリッド形成による核から細胞質への移行阻害、キャッピング部位やポリ(A)付加部位とのハイブリッド形成によるスプライシング阻害、翻訳開始因子結合部位とのハイブリッド形成による翻訳開始阻害、開始コドン近傍のリボソーム結合部位とのハイブリッド形成による翻訳阻害、mRNAの翻訳領域やポリソーム結合部位とのハイブリッド形成によるペプチド鎖の伸長阻害、および核酸とタンパク質との相互作用部位とのハイブリッド形成による遺伝子発現阻害などである。このようにアンチセンス核酸は、転写、スプライシングまたは翻訳など様々な過程を阻害することで、標的遺伝子の発現を阻害する(平島および井上, 新生化学実験講座2 核酸IV遺伝子の複製と発現, 日本生化学会編, 東京化学同人, 1993, 319−347.)。
【0033】
本発明で用いられるアンチセンス核酸は、上記のいずれの作用によりADAMTS4遺伝子の発現を阻害してもよい。一つの態様としては、ADAMTS4遺伝子のmRNAの5’端近傍の非翻訳領域に相補的なアンチセンス配列を設計すれば、遺伝子の翻訳阻害に効果的と考えられる。また、コード領域もしくは3’側の非翻訳領域に相補的な配列も使用することができる。このように、ADAMTS4遺伝子の翻訳領域だけでなく非翻訳領域の配列のアンチセンス配列を含む核酸も、本発明で利用されるアンチセンス核酸に含まれる。使用されるアンチセンス核酸は、適当なプロモーターの下流に連結され、好ましくは3’側に転写終結シグナルを含む配列が連結される。このようにして調製された核酸は、公知の方法を用いることで、所望の動物へ形質転換できる。アンチセンス核酸の配列は、形質転換される動物が持つ内在性遺伝子またはその一部と相補的な配列であることが好ましいが、遺伝子の発現を有効に抑制できる限りにおいて、完全に相補的でなくてもよい。転写されたRNAは、標的遺伝子の転写産物に対して好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相補性を有する。アンチセンス核酸を用いて標的遺伝子の発現を効果的に抑制するには、アンチセンス核酸の長さは少なくとも15塩基以上であり、好ましくは100塩基以上であり、さらに好ましくは500塩基以上である。
【0034】
また、ADAMTS4遺伝子の発現の阻害は、リボザイム、またはリボザイムをコードするDNAを利用して行うことも可能である。リボザイムとは触媒活性を有するRNA分子を指す。リボザイムには種々の活性を有するものが存在するが、中でもRNAを切断する酵素としてのリボザイムに焦点を当てた研究により、RNAを部位特異的に切断するリボザイムの設計が可能となった。リボザイムには、グループIイントロン型やRNase Pに含まれるM1 RNAのように400ヌクレオチド以上の大きさのものもあるが、ハンマーヘッド型やヘアピン型と呼ばれる40ヌクレオチド程度の活性ドメインを有するものもある(小泉誠および大塚栄子, タンパク質核酸酵素, 1990, 35, 2191.)。
【0035】
例えば、ハンマーヘッド型リボザイムの自己切断ドメインは、G13U14C15という配列のC15の3’側を切断するが、その活性にはU14とA9との塩基対形成が重要とされ、C15の代わりにA15またはU15でも切断され得ることが示されている(Koizumi, M. et al., FEBS Lett, 1988, 228, 228.)。基質結合部位が標的部位近傍のRNA配列と相補的なリボザイムを設計すれば、標的RNA中のUC、UUまたはUAという配列を認識する制限酵素的なRNA切断リボザイムを作出することができる(Koizumi, M. et al., FEBS Lett, 1988, 239, 285.、小泉誠および大塚栄子, タンパク質核酸酵素, 1990, 35, 2191.、Koizumi, M. et al., Nucl Acids Res, 1989, 17, 7059.)。
【0036】
また、ヘアピン型リボザイムも本発明の目的に有用である。このリボザイムは、例えばタバコリングスポットウイルスのサテライトRNAのマイナス鎖に見出される(Buzayan, JM., Nature, 1986, 323, 349.)。ヘアピン型リボザイムからも、標的特異的なRNA切断リボザイムを作出できることが示されている(Kikuchi, Y. & Sasaki, N., Nucl Acids Res, 1991, 19, 6751.、菊池洋, 化学と生物, 1992, 30, 112.)。このように、リボザイムを用いて本発明におけるADAMTS4遺伝子の転写産物を特異的に切断することで、該遺伝子の発現を阻害することができる。
【0037】
内在性遺伝子の発現の阻害は、さらに、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有する二本鎖RNAを用いたRNA干渉(RNA interferance;RNAi)によっても行うことができる。RNAiとは、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有する二重鎖RNAを細胞内に導入すると、導入した外来遺伝子および標的内在性遺伝子の発現がいずれも阻害される現象のことを指す。RNAiの機構の詳細は明らかではないが、最初に導入した二本鎖RNAが小片に分解され、何らかの形で標的遺伝子の指標となることにより、標的遺伝子が分解されると考えられている。RNAiに用いるRNAは、ADAMTS4遺伝子もしくは該遺伝子の部分領域と完全に同一である必要はないが、完全な相同性を有することが好ましい。
【0038】
さらに本発明は、不妊症治療のための薬剤を提供する。該薬剤に含まれる有効成分は、例えば、
(a)ADAMTS4タンパク質、
(b)ADAMTS4タンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含む、ADAMTS4変異体タンパク質であって、ADAMTS4タンパク質と機能的に同等なタンパク質、
(c)前記(a)または(b)に記載のタンパク質をコードするDNA、のいずれかを含む。
【0039】
本発明の薬剤の有効成分である「ADAMTS4タンパク質」は、天然のタンパク質の他、遺伝子組み換え技術を利用した組換えタンパク質として調製することができる。天然のタンパク質は、例えばADAMTS4タンパク質が発現していると考えられる細胞外マトリックス等の組織の抽出液に対し、ADAMTS4タンパク質に対する抗体を用いたアフィニティークロマトグラフィーを用いる方法により調製することが可能である。一方、組換えタンパク質は、ADAMTS4タンパク質をコードするDNAで形質転換した細胞を培養することにより調製することが可能である。
【0040】
本発明において、「機能的に同等なタンパク質」とは、ADAMTS4タンパク質において明らかにされている活性と同様の活性を備えたタンパク質である。
【0041】
あるいはADAMTS4タンパク質のアミノ酸配列に対して、たとえば90%以上、望ましくは95%以上、更に望ましくは99%以上の相同性を有するタンパク質は、ADAMTS4タンパク質と機能的に同等なタンパク質として示すことができる。
【0042】
本発明のADAMTS4タンパク質は、その由来する生物に特に制限はなく、例えば、マウス、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、鳥など、ペット、家畜等を挙げることができる。ヒトの疾患の治療や予防に用いる場合には、好ましくは哺乳動物由来であり、最も好ましくはヒト由来である。
【0043】
また、本発明の薬剤の有効成分であるADAMTS4タンパク質をコードするDNAもまた、本発明に含まれる。本発明のADAMTS4タンパク質をコードするDNAは、染色体DNAであっても、cDNAであってもよい。ADAMTS4タンパク質をコードする染色体DNAは、例えば、細胞等から染色体DNAのライブラリ−を調製し、ADAMTS4タンパク質をコードするDNAにハイブリダイズするプローブを用いた、該ライブラリーのスクリーニングにより取得することができる。またADAMTS4タンパク質をコードするcDNAは、ADAMTS4タンパク質が発現していると考えられる細胞外マトリックス等の組織からRNA試料を抽出し、ADAMTS4タンパク質をコードするDNAにハイブリダイズするプライマーを用いたRT−PCR法等の遺伝子増幅技術により取得することができる。
【0044】
本発明のADAMTS4タンパク質または該タンパク質をコードするDNAは、ADAMTS4タンパク質と機能的に同等であれば、その塩基配列やアミノ配列が改変された変異体であってもよい。このような変異体は、天然のものでも人工のものでもよい。人工的に変異体を調製するための方法は当業者に公知である。例えば、Kunkel法(Kunkel, T. A. et al., Methods Enzymol. 154, 367−382 (1987))、ダブルプライマー法(Zoller, M. J. and Smith, M., Methods Enzymol. 154, 329−350 (1987))、カセット変異法(Wells, et al., Gene 34, 315−23 (1985))、メガプライマー法(Sarkar, G. and Sommer, S. S., Biotechniques 8, 404−407 (1990))などが知られている。
【0045】
本発明の上記薬剤は、例えば、不妊症に対する治療効果を有するものと考えられる。
【0046】
本発明におけるADAMTS4タンパク質をコードする遺伝子は、マウスをはじめ、種々の哺乳動物、例えば、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、鳥など、ペット、家畜等において存在することが知られている。
【0047】
本発明のADAMTS4タンパク質のアミノ酸配列、および該タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列についての情報は、当業者においては、GenBank等の公共の遺伝子データベースを利用して、容易に取得することができる。例えば、マウスADAMTS4遺伝子のGenBankのアクセッション番号は、NM_172845である。また、マウスADAMTS4遺伝子の塩基配列を配列番号:1に、また該遺伝子によってコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号:2に示す。
【0048】
また本発明は、避妊用薬剤のための候補化合物のスクリーニング方法を提供する。
【0049】
その一つの態様は、ADAMTS4タンパク質またはその部分ペプチドと被検化合物との結合を指標とする方法である。通常、ADAMTS4タンパク質またはその部分ペプチドと結合する化合物は、ADAMTS4タンパク質の機能を阻害する効果を有することが期待される。本発明の上記方法においては、まず、ADAMTS4タンパク質またはその部分ペプチドと被検化合物を接触させる。ADAMTS4タンパク質またはその部分ペプチドは、被検化合物との結合を検出するための指標に応じて、例えば、ADAMTS4タンパク質またはその部分ペプチドの精製された形態、細胞内または細胞外に発現した形態、あるいはアフィニティーカラムに結合した形態であり得る。この方法に用いる被検化合物は必要に応じて適宜標識して用いることができる。標識としては、例えば、放射標識、蛍光標識等を挙げることができる。
【0050】
本方法においては、次いで、ADAMTS4タンパク質またはその部分ペプチドと被検化合物との結合を検出する。ADAMTS4タンパク質またはその部分ペプチドと被検化合物との結合は、例えば、ADAMTS4タンパク質またはその部分ペプチドに結合した被検化合物に付された標識によって検出することができる。また、細胞内または細胞外に発現しているADAMTS4タンパク質またはその部分ペプチドへの被検化合物の結合により生じるADAMTS4タンパク質の活性の変化を指標として検出することもできる。
【0051】
本方法においては、次いで、ADAMTS4タンパク質またはその部分ペプチドと結合する被検化合物を選択する。
【0052】
本方法により単離される化合物は、受精卵の発育阻害作用を有することが期待され、例えば、避妊用薬剤として有用である。また、不妊症のメカニズム解明の研究等に有用である。
【0053】
本発明のスクリーニング方法の他の態様は、ADAMTS4遺伝子の発現を指標とする方法である。ADAMTS4遺伝子の発現量を低下させるような化合物は、避妊のための医薬品候補化合物となることが期待される。
【0054】
本方法においては、まず、ADAMTS4遺伝子を発現する細胞に、被検化合物を接触させる。用いられる「細胞」の由来としては、ヒト、マウス、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、鳥など、ペット、家畜等に由来する細胞が挙げられるが、これら由来に制限されない。「ADAMTS4遺伝子を発現する細胞」としては、内因性のADAMTS4遺伝子を発現している細胞、または外因性のADAMTS4遺伝子が導入され、該遺伝子が発現している細胞を利用することができる。外因性のADAMTS4遺伝子が発現した細胞は、通常、ADAMTS4遺伝子が挿入された発現ベクターを宿主細胞へ導入することにより作製することができる。該発現ベクターは、一般的な遺伝子工学技術によって作製することができる。
【0055】
本方法に用いる被検化合物としては、特に制限はない。例えば、天然化合物、有機化合物、無機化合物、タンパク質、ペプチドなどの単一化合物、並びに、化合物ライブラリー、遺伝子ライブラリーの発現産物、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
ADAMTS4遺伝子を発現する細胞への被検化合物の「接触」は、通常、ADAMTS4遺伝子を発現する細胞の培養液に被検化合物を添加することによって行うが、この方法に限定されない。被検化合物がタンパク質等の場合には、該タンパク質を発現するDNAベクターを、該細胞へ導入することにより、「接触」を行うことができる。
【0057】
本方法においては、次いで、該ADAMTS4遺伝子の発現レベルを測定する。ここで「遺伝子の発現」には、転写および翻訳の双方が含まれる。遺伝子の発現レベルの測定は、当業者に公知の方法によって行うことができる。例えば、ADAMTS4遺伝子を発現する細胞からmRNAを定法に従って抽出し、このmRNAを鋳型としたノーザンハイブリダイゼーション法またはRT−PCR法を実施することによって該遺伝子の転写レベルの測定を行うことができる。また、ADAMTS4遺伝子を発現する細胞からタンパク質画分を回収し、ADAMTS4タンパク質の発現をSDS−PAGE等の電気泳動法で検出することにより、遺伝子の翻訳レベルの測定を行うこともできる。さらに、ADAMTS4タンパク質に対する抗体を用いて、ウェスタンブロッティング法を実施することにより該タンパク質の発現を検出することにより、遺伝子の翻訳レベルの測定を行うことも可能である。ADAMTS4タンパク質の検出に用いる抗体としては、検出可能な抗体であれば、特に制限はないが、例えばモノクローナル抗体、またはポリクローナル抗体の両方を利用することができる。
【0058】
本方法においては、次いで、被検化合物を接触させない場合(対照)と比較して、該発現レベルを低下させる化合物を選択する。このようにして選択された化合物は、避妊のための医薬品候補化合物となる。さらに、上記発現レベルを上昇させる化合物は、不妊症の治療のための薬剤となることが期待される。
【0059】
本発明のスクリーニング方法の他の態様は、本発明のADAMTS4遺伝子の発現量を低下させるような化合物を、レポーター遺伝子を利用して同定する方法に関する。
【0060】
本方法においては、まず、ADAMTS4遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞または細胞抽出液と、被検化合物を接触させる。ここで「機能的に結合した」とは、ADAMTS4遺伝子の転写調節領域に転写因子が結合することにより、レポーター遺伝子の発現が誘導されるように、ADAMTS4遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが結合していることをいう。従って、レポーター遺伝子が他の遺伝子と結合しており、他の遺伝子産物との融合タンパク質を形成する場合であっても、ADAMTS4遺伝子の転写調節領域に転写因子が結合することによって、該融合タンパク質の発現が誘導されるものであれば、上記「機能的に結合した」の意に含まれる。ADAMTS4遺伝子のcDNA塩基配列に基づいて、当業者においては、ゲノム中に存在するADAMTS4遺伝子の転写調節領域を周知の方法により取得することが可能である。
【0061】
本方法に用いるレポーター遺伝子としては、その発現が検出可能であれば特に制限はなく、例えば、CAT遺伝子、lacZ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、およびGFP遺伝子等が挙げられる。「ADAMTS4遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞」として、例えば、このような構造が挿入されたベクターを導入した細胞が挙げられる。このようなベクターは、当業者に周知の方法により作製することができる。ベクターの細胞への導入は、一般的な方法、例えば、リン酸カルシウム沈殿法、電気パルス穿孔法、リポフェタミン法、マイクロインジェクション法等によって実施することができる。「ADAMTS4遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞」には、染色体に該構造が挿入された細胞も含まれる。染色体へのDNA構造の挿入は、当業者に一般的に用いられる方法、例えば、相同組み換えを利用した遺伝子導入法により行うことができる。
【0062】
「ADAMTS4遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞抽出液」とは、例えば、市販の試験管内転写翻訳キットに含まれる細胞抽出液に、ADAMTS4遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを添加したものを挙げることができる。
【0063】
本方法における「接触」は、「ADAMTS4遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞」の培養液に被検化合物を添加する、または該DNAを含む上記の市販された細胞抽出液に被検化合物を添加することにより行うことができる。被検化合物がタンパク質の場合には、例えば、該タンパク質を発現するDNAベクターを、該細胞へ導入することにより行うことも可能である。
【0064】
本方法においては、次いで、該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する。レポーター遺伝子の発現レベルは、該レポーター遺伝子の種類に応じて、当業者に公知の方法により測定することができる。例えば、レポーター遺伝子がCAT遺伝子である場合には、該遺伝子産物によるクロラムフェニコールのアセチル化を検出することによって、レポーター遺伝子の発現量を測定することができる。レポーター遺伝子がlacZ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による色素化合物の発色を検出することにより、また、ルシフェラーゼ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による蛍光化合物の蛍光を検出することにより、さらに、GFP遺伝子である場合には、GFPタンパク質による蛍光を検出することにより、レポーター遺伝子の発現量を測定することができる。
【0065】
本方法においては、次いで、測定したレポーター遺伝子の発現レベルを、被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、低下させる化合物を選択する。このようにして選択された化合物は、避妊のための医薬品候補化合物となる。
【0066】
また、本発明のADAMTS4タンパク質は、アグリカン(aggrecan)、ブレビカン(brevican)、バーシカン(versican)等のプロテオグリカンを基質として切断するプロテアーゼ活性を有する。従って、ADAMTS4のプロテオグリカンに対する切断活性を指標とすることにより、ADAMTS4プロテアーゼ活性阻害剤のスクリーニングを行うことが可能である。即ち、切断活性を低下させるような化合物は、プロテアーゼ阻害剤となるものと期待される。本発明は、以下の(a)〜(c)の工程を含む、ADAMTS4プロテアーゼ活性阻害剤のスクリーニング方法を提供する。
(a)プロテオグリカンと、ADAMTS4タンパク質および被検化合物とを接触させる工程、
(b)ADAMTS4タンパク質のプロテオグリカンを基質とする切断活性(プロテアーゼ活性)を測定する工程、
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、前記切断活性を低下させる化合物を選択する工程
【0067】
通常、ペプチドの切断(プロテアーゼ活性)を検出することは、当業者においては簡便に行い得ることであり、上記工程(b)の切断活性の測定は、一般的な方法、例えば、アクリルアミドゲル電気泳動法、または質量分析装置等を利用した方法により、適宜、実施することが可能である。
【0068】
本発明の方法のADAMTS4のプロテアーゼ活性の基質となり得るプロテオグリカンとしては、好ましくはコンドロイチン硫酸プロテオグリカンを挙げることができる。本発明のプロテオグリカンの具体例としては、例えば、アグリカン、ブレビカン、バーシカンを好適に例示することができる。これらのプロテオグリカンは、ADAMTS4が切断し得る部位(領域)を含むものであれば、上記プロテオグリカンを構成する部分断片(部分ペプチド)であってもよい。例えば、本発明の方法においてアグリカンの部分断片を用いる場合には、球間ドメイン(IGD)のGlu373−Ala374を含む部分断片であることが好ましい。
【0069】
また、上記方法に使用するADAMTSタンパク質は、変異を含まない全長タンパク質であることが好ましいが、プロテアーゼ活性を有するものであれば、ADAMTSタンパク質の一部のアミノ酸配列が置換・欠失されたタンパク質であってもよい。
【0070】
本発明の上記方法によって取得されるADAMTS4プロテアーゼ活性阻害剤は、避妊用薬剤となるものと期待される。従って、上記工程(a)〜(c)を含む避妊用薬剤の候補化合物のスクリーニング方法もまた、本発明に含まれる。
【0071】
本発明の薬剤の製剤化にあたっては、常法に従い、必要に応じて薬学的に許容される担体を添加することができる。例えば界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等が挙げられるが、これらに制限されず、その他常用の担体を適宜使用することができる。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、
ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を挙げることができる。
【0072】
上記薬剤の剤型の種類としては、例えば経口剤として錠剤、粉末剤、丸剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、軟・硬カプセル剤、フィルムコーティング剤、ペレット剤、舌下剤、ペースト剤等、非経口剤として注射剤、坐剤、経皮剤、軟膏剤、硬膏剤、外用液剤等が挙げられ、当業者においては投与経路や投与対象等に応じた最適の剤型を選ぶことができる。また、ADAMTS4タンパク質をコードするDNAを生体内に投与する場合には、レトロウイルス、アデノウイルス、センダイウイルスなどのウイルスベクターやリポソームなどの非ウイルスベクターを利用することができる。投与方法としては、in vivo法およびex vivo法を例示することができる。
【0073】
本発明の薬剤の投与量は、剤型の種類、投与方法、患者の年齢や体重、患者の症状等を考慮して、最終的には医師または獣医師の判断により適宜決定することができる。
【0074】
さらに、本発明は、ADMATS4遺伝子の発現が人為的に抑制されている哺乳動物細胞に関する。本発明者らは、ADAMTS4遺伝子の発現が人為的に抑制されている遺伝子改変哺乳動物細胞の解析を行うことで、ADAMTS4遺伝子の人為的な抑制が、初期胚の分裂異常および胚の致死に対して関連性があることを見出した。従って、本発明は、ADAMTS4タンパク質の発現の抑制あるいは活性の抑制に関連する疾患のモデル細胞として有用なADAMTS4遺伝子の発現が人為的に抑制されている遺伝子改変哺乳動物細胞を提供する。このような遺伝子改変哺乳動物細胞は、不妊症治療のための薬剤のスクリーニングに用いることが可能であり、また、不妊症のメカニズム解明の研究等に有用である。
【0075】
本発明の上記細胞を利用したスクリーニング方法においては、まず被検化合物をADAMTS4遺伝子の発現を人為的に抑制した哺乳動物細胞と接触させる。次いで、該細胞におけるADAMTS4タンパク質の発現の抑制あるいは活性の抑制に関連する変化を検出し、被検化合物を投与していない場合(対照)と比較して、そのような変化を起こさせない化合物を選択する。
【0076】
本方法において「遺伝子の発現を人為的に抑制」とは、完全な抑制および部分的な抑制の両方が含まれる。また遺伝子対の一方の発現が抑制されている場合も含まれる。抑制する方法として、当業者においては一般的に公知の方法によって行うことができる。例えば、遺伝子改変技術(標的遺伝子部位の組み換えを促進する酵素、例えば、Cre−loxにおけるCre、の導入による条件的遺伝子改変技術も含む)を用いた方法、アンチセンスDNAを用いた方法、または、RNAi技術を用いた方法等が挙げられる。
【0077】
本方法における「哺乳動物細胞」とは、ヒトを含む脊椎動物や無脊椎動物の細胞を意味する。具体的には、ヒト、またはマウスやラット等のげっ歯類由来の細胞を挙げることができるが、最も好適にはマウス由来の細胞である。
【0078】
遺伝子改変動物の作製は、例えば次にようにして行うことができる。まず、標的遺伝子を含むDNA断片をクローニングして、これを基に、内在性の標的遺伝子改変のための相同組み換え用ベクターを構築する。該相同組み換え用ベクターには、標的遺伝子またはその発現制御領域の少なくとも1部を欠失および/または変異させた核酸配列、標的遺伝子またはその発現制御領域にヌクレオチドやポリヌクレオチドが挿入された核酸配列、標的遺伝子またはその発現制御領域に他の遺伝子が挿入された核酸配列を含むが、標的遺伝子の活性が失われる核酸配列であれば、前記の欠失および/または変異部位および挿入部位は限定されない。
【0079】
挿入される遺伝子としては、例えば、ネオマイシン耐性遺伝子、チミジンキナーゼ遺伝子、ジフテリア毒素遺伝子等が挙げられる。また、これらの組み合わせも考えられる。該相同組み換え用ベクターの基本骨格は、特に、制限はなく、pKONeo(レキシコン)等を用いることができる。
【0080】
構築した相同組み換え用ベクターを、個体へ分化させることが可能な哺乳動物細胞(例えば、胚性幹細胞(ES細胞))に導入し、内因性の標的遺伝子との相同組み換えを行うことで、遺伝子改変哺乳動物細胞を作製する。遺伝子対の双方の発現が抑制されている該細胞を作製するには、例えば、高濃度のネオマイシンで細胞を選択する方法で得ることが可能である。相同組み換え用ベクターの細胞への導入は、当業者に公知の方法によって行うことができる。具体的には、エレクトロポレーション法等を例示することができる。
【0081】
本方法において個体へ分化させることが可能な動物細胞としてES細胞を用いた場合は、例えば、該細胞を胚盤胞に注入することによりキメラ胚を作製し、偽妊娠させた動物の子宮に移植して産仔を得る。遺伝子改変ES細胞由来の組織を有するキメラ動物を選別できるようにするために、より好適には、作製された個体の外部的特徴(例えば、毛色)が、遺伝子改変ES細胞由来の組織と胚盤胞由来の組織とで異なるように、胚盤胞を選択する。また、遺伝子改変ES細胞由来の生殖組織を有するキメラ動物であるか否かの判定は、一般的には、該キメラ哺乳動物と適当な系統の同種哺乳動物との交配により得られた仔の毛色で行うが、その他の方法として、例えば、該キメラ哺乳動物の生殖細胞から抽出したDNAを鋳型としたPCR反応を行い、挿入された遺伝子の有無を検出する方法を用いることも可能である。
【0082】
該キメラ動物と適当な系統の同種動物との交配により得られた仔が、ヘテロ接合型遺伝子改変動物であるか否かは、例えば、該動物細胞から抽出したDNAを鋳型とするPCRやサザンハイブリダイゼーションで判定することができる。また、ヘテロ接合型遺伝子改変動物同士の交配により、ホモ接合型遺伝子改変動物細胞を作製することができる。交配により得られた細胞が、ホモ接合型遺伝子を有する改変動物細胞であるか否かも上記の判定法に従い実施することができる。
【0083】
遺伝子改変動物細胞の作製は、上記の方法に制限されない。例えば、体細胞クローン動物の作製技術に従って遺伝子改変動物細胞を作製することもできる。具体的には、ES細胞以外の体細胞(例えば、皮膚細胞等)を用いて、ES細胞の場合と同様な方法に従って遺伝子改変動物細胞を作製することができる。
【0084】
さらに本発明は、不妊症の検査方法に関する。本実施例においてADAMTS4タンパク質の機能が阻害されると、胚発生の初期段階で細胞分裂に異常を示した。従って、ADAMTS4遺伝子の変異や発現状態を指標とすることにより、不妊症の検査を行うことが可能である。
【0085】
また本発明は、不妊症の検査方法に用いられる検査薬に関する。その一つの態様は、ADAMTS4遺伝子または該遺伝子の制御領域にハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチドを含む検査薬である。
【0086】
該オリゴヌクレオチドは、好ましくはADAMTS4遺伝子または該遺伝子制御領域の塩基配列に特異的にハイブリダイズするものである。ここで「特異的にハイブリダイズする」とは、通常のハイブリダイゼーション条件下、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下(例えば、サムブルックら, Molecular Cloning,Cold Spring Harbour Laboratory Press,New York,USA,第2版1989に記載の条件)において、他のタンパク質をコードするDNAとクロスハイブリダイゼーションを有意に生じないことを意味する。
【0087】
該オリゴヌクレオチドは、上記本発明の検査方法におけるプローブやプライマーとして用いることができる。該オリゴヌクレオチドをプライマーとして用いる場合、その長さは、通常15bp〜100bpであり、好ましくは17bp〜30bpである。プライマーは、ADAMTS4遺伝子または該遺伝子制御領域の少なくとも一部を増幅しうるものであれば、特に制限されない。上記の領域としては、例えば、ADAMTS4遺伝子のエクソン領域、イントロン領域、プロモーター領域、エンハンサー領域等を挙げることができる。
【0088】
また、上記オリゴヌクレオチドをプローブとして使用する場合、該プローブは、ADAMTS4遺伝子または該遺伝子制御領域の少なくとも一部に特異的にハイブリダイズするものであれば、特に制限されない。該プローブは、合成オリゴヌクレオチドであってもよく、通常少なくとも15bp以上の鎖長を有する。プローブがハイブリダイズする領域としては、例えば、ADAMTS4遺伝子のエクソン領域、イントロン領域、プロモーター領域、エンハンサー領域等が挙げられる。
【0089】
本発明のオリゴヌクレオチドは、例えば市販のオリゴヌクレオチド合成機により作製することができる。プローブは、制限酵素処理等によって取得される二本鎖DNA断片として作製することもできる。
【0090】
本発明のオリゴヌクレオチドをプローブとして用いる場合は、適宜標識して用いることが好ましい。標識する方法としては、T4ポリヌクレオチドキナーゼを用いて、オリゴヌクレオチドの5’端を32Pでリン酸化することにより標識する方法、およびクレノウ酵素等のDNAポリメラーゼを用い、ランダムヘキサマーオリゴヌクレオチド等をプライマーとして32P等のアイソトープ、蛍光色素、またはビオチン等によって標識された基質塩基を取り込ませる方法(ランダムプライム法等)を例示することができる。
【0091】
本発明の検査薬の他の一つの態様として、ADAMTS4タンパク質に結合する抗体を含む検査薬を挙げることができる。抗体は、検査に用いることが可能な抗体であれば、特に制限はないが、例えばポリクローナル抗体やモノクローナル抗体が挙げられる。抗体は必要に応じて標識される。これら抗体は上述の方法によって作製することができる。
【0092】
本発明の検査薬においては、有効成分であるオリゴヌクレオチドや抗体以外に、例えば、滅菌水、生理食塩水、植物油、界面活性剤、脂質、溶解補助剤、緩衝剤、タンパク質安定剤(BSAやゼラチンなど)、保存剤等が必要に応じて混合されていてもよい。
【0093】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
〔実施例1〕 ADAMTS4のゲノムクローンの単離
ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)により、ADAMTS4の680塩基対からなるプローブをマウス13.5日胚のcDNAから増幅した。用いた2つのプライマーを以下に示す。
・フォーワードプライマー:5’−tttgacacagccattctgtt(配列番号:3)
・リバースプライマー:5’−tggagcagtcaccccatgg(配列番号:4)
【0094】
上記プライマーの塩基配列は公開済みのヒトADAMTS4の配列(EST AB014588)に基づいて設計した。PCR産物は、pCRTMII−TOPO TAベクター(インビトロジェン、米国)にクローン化した。QIAprep Spin Miniprepキットを用いてプラスミドを精製し、M13フォーワードプライマーおよびM13リバースプライマーを用いてABI PRISM 310遺伝子解析装置により配列を決定した。クローン番号12のcDNAクローンの配列は、AB014588に対し87%の相同性を示した。このことは、実際に得られたクローンがマウスADAMTS4遺伝子に対応することを示している。
【0095】
クローン番号12のプラスミドを制限酵素EcoRIで消化し、QIAEXII Gel Extractionキットを用いて、DNA断片を0.7%アガロースから抽出し、プローブとして用いた。このcDNAプローブを32P−dCTP(アマシャム・ファルマシア・バイオテック)で標識し、λFIXIIベクター(ストラタジーン)に挿入された129svj株に由来するマウスのゲノムライブラリーのスクリーニングに用いた。1 x 107個のプラークから陽性クローンが1個得られた。標準的なアルカリ溶解法を用いて、ファージDNAを単離した。ファージDNAを、EcoRI、BamHI、HindIII、ApoI、XhoI(宝酒造、Japan)で消化し、制限酵素地図を作製した。このゲノムクローンの制限酵素地図を図1に示す。上記のプローブを用いたサザンブロット分析で、エクソンを含むと考えられる断片を同定した。さらに配列解析を行うために、EcoRI、BamHI、HindIII等の制限酵素によって得られた消化断片を、pBluescript SK+ ベクター(ストラタジーン)にサブクローニングし、配列を決定した。ゲノムクローンはそのサイズが約13.9kbであった。この配列をヒトおよびラットのADAMTS4 cDNA配列およびゲノム配列と比較し、エクソン−イントロン境界の正確な位置を決定した。表1に、マウスADAMTS4のエクソン/イントロン境界を示す。エクソン配列を大文字で示す。イントロンのスプライス部位のヌクレオチドコンセンサス配列は太文字で示す。この表1から分かるようにエクソン/イントロン境界の配列は、報告されているスプライスドナー(GT)およびアクセプター(AG)のコンセンサス配列と合致する。このゲノムDNAは、エクソン1〜9を含む領域を含んでいた。
【0096】
【表1】
【0097】
マウスADAMTS4のオープンリーディングフレーム(ORF)は、エクソンをつなぎ合わせ、ヒトADAMTS4の配列と比較して構築した。この配列は、長さが2502塩基対であり、834アミノ酸をコードする(図2、配列番号:1および2)。このORFは、典型的なシグナル配列をN末端に含み、その後ろにcys190にシステインスイッチと推定されるプロペプチドドメイン、および触媒ドメインの前に潜在的furin開裂部位を含む。触媒ドメインは、MMPとADAMに存在するzinc結合に類似したモチーフであるHEXXHXXGXXH モチーフを含む。また、ADAMTS4はディスインテグリン様ドメインを含むが、膜貫通性ドメインもしくは細胞質テールは有していない。その代わり、COOH末端ドメインにADAMTS1に存在するものと類似したトロンボスポンジンのI型モチーフを有している。
【0098】
また、ADAMTS4アミノ酸配列のメタロプロテイナーゼドメインとADAMTS1およびADAMTS5のアミノ酸配列を比較したところ、それぞれ同一性が50%および40%という結果になった(図3)。
【0099】
〔実施例2〕 ADAMTS4遺伝子ターゲティング
マウスADAMTS4遺伝子のゲノム構造および機能性ドメインに基づき、機能的にプロテオグリカンを切断するメタロプロテアーゼドメインがエクソン3に存在することが分かった。図4に示すように、ADAMTS4遺伝子を破壊するターゲティングベクターは、エクソン2〜4を含む2.0kbのApaI−HindIII断片をネオマイシン耐性遺伝子およびそれと隣接したチミヂンキナーゼ遺伝子で置換することによって構築した。NotIによりこのプラスミドを線状化し、エレクトロポレーションで胚性幹(ES)細胞129/SM−1に導入した。ES細胞を、200μg/mlのG418および2μmol/lのガンシクロビルを含む培地で選択した。ES細胞のゲノムDNAを単離し、XhoIで消化して電気泳動を行った。プローブ1もしくはプローブ2のいずれかを用いて、得られた相同組換え体をサザンブロット分析によって確認した。
【0100】
さらに、ターゲティングしたES細胞クローンをC57BL/6の胚盤胞に注入して、キメラを作製した。次に、キメラをC57BL/6マウスと交配した。ヘテロ接合体ADAMTS4 +/−マウスは生存可能であり、成体に至るまで生存し、見かけ上は正常でかつ受精可能であった。
【0101】
〔実施例3〕 ADAMTS+/−マウス交配より得た仔の遺伝子型分析
マウス発生におけるADAMTS4遺伝子欠失の効果を明らかにする目的で、ホモ接合体ADAMTS4−/−の仔を得るために、ADAMTS4+/−マウス同士を交配した。ADAMTS+/−マウス同士の異種交配あるいは野生型マウスとADAMTS+/−マウスの交配により得た仔マウスのゲノムDNA20μgを、サザンブロット分析に供した。
【0102】
しかしながら、離乳時に遺伝子型を調べた個体187匹中には1匹もADAMTS4−/−マウスはいなかった。得られた仔の遺伝的分布については、ヘテロ接合体と野生型同腹子間の出生率の比が約2対1(127/60)で、雄対雌の分布は同等(90/97)(表2)であり、このことはヌル変異が劣性で胚性致死であり、この致死率が精子・卵融合によるものではないことを示唆している。
【0103】
【表2】
【0104】
更に、ターゲッティングによるADAMTS4の破壊効果を調べるために、実施例4に示すようにマウスゲノムDNAのサザンブロット分析(図5A)、実施例5に示すように新生仔マウス脳より抽出したトータルRNAのノーザンブロット分析(図5B)、および実施例7に示すように新生仔マウス脳から抽出したタンパク質のウエスタンブロット分析(図5C)を行った。
【0105】
〔実施例4〕 サザンブロット分析
0.2mg/mlのプロテイナーゼKを含む500μlのゲノム溶解緩衝液(1 x SSC、10mM Tris−HCl、pH7.5、1mM EDTA、1% SDS)中で、1センチメートル角のマウスの尾を55℃で一昼夜インキュベートした。ゲノムDNAをフェノール−クロロホルム処理により二回抽出し、1容量の2−プロパノールで沈殿させた。これを75%のエタノールで洗浄し、20分間乾燥させた。4℃で一昼夜かけて完全に溶解させた後、20μgのゲノムDNAを100UのXhoIで37℃にて一昼夜消化した。0.9%アガロースで電気泳動した制限酵素処理断片をナイロン(登録商標)膜ハイボンドN+(アマシャム・ファルマシア・バイオテック)に転写した。
【0106】
サザン用のプローブ1および2(図4)は、PCRによって増幅し、配列解析によって確認した。メガプライムDNA標識システム(MegaprimeTM DNA labeling systems;Amersham Life Science)で、プローブをランダム標識し、Centri−SEPスピンカラム(Princeton Separations, Adelphia, NJ)で精製した。Perfect HybTM Hybridization Solution(東洋紡、Japan)で30分間プレハイブリダイゼーションを実施したのち、熱変性させたプローブ(2.0x105cpm/ml)を用いて膜を68℃で6時間ハイブリダイズした。次に、68℃にて、膜を2xSSC/0.1%SDSで15分間、および0.1xSSC,0.1%SDSで5分間、順次洗浄した後、コダック(Kodak)フィルムに−70℃で2日間露光した。
【0107】
ADAMTS4の発現は、野生型同腹子マウスと比較して約2分の1であったが、成長速度およびサイズは野生型同腹子とほぼ同等であった。
【0108】
〔実施例5〕 ADAMTS4の発現に関するノーザンブロット分析
トータルRNA20μgを新生仔マウスの脳から調製し、6.6%のホルムアルデヒドを含む1.2%アガロースゲルで電気泳動を行った。毛細管反応で、RNAを一昼夜ナイロン(登録商標)膜に転写し、ベイキングにより固定した。メガプライムDNA標識システム(MegaprimeTM DNA labeling systems;アマシャム・ライフサイエンス)を用いて、クローン番号12のcDNAプローブを32P−dCTP(3000 Ci/mmol、アマシャム・ファルマシア・バイオテック)で標識し、Centri−SEPスピンカラム(Princeton Separations, Adelphia, NJ)で精製した。Perfect HybTM Hybridization Solution(東洋紡、Japan)で30分間プレハイブリダイゼーションを実施したのち、熱変性させたプローブ(2.0 x 105 cpm/ml)を用いて膜を68℃で6時間ハイブリダイズした。次に、68℃にて、膜を2 x SSC, 0.1% SDSで15分間、および0.1 x SSC, 0.1% SDSで15分間、順次洗浄した後、ADAMTS4に関してはコダックのフィルムに−70℃で14日間露光した。膜からプローブを除去した後、32P−dCTP標識したマウスGAPDH遺伝子で再ハイブリダイズし、12時間露光した。
【0109】
〔実施例6〕 ADAMTS4ポリクローナル抗体の調製
ADAMTS4のCOOH末端の特異的な部分(最も相同な遺伝子であるマウスADAMTS1遺伝子と比較して)をコードする2種類のcDNA断片をPCRによって増幅した。プライマーセットを以下に示す。
【0110】
PCR断片をTAベクターにサブクローンし、配列解析によって確認した。
【0111】
W1ではBamHI/SalI、およびW2ではEcoRI/XhoIを利用してTAベクターから切り出した。これを、GST融合タンパク質発現ベクターであるpGEX−4T−3(アマシャム・ファルマシア・バイオテック、Bucks、 UK)のBamHI/SalI、EcoRI/XhoI部位に挿入した。これらの発現ベクターを大腸菌BL21(DE3)細胞に導入した。融合タンパク質の調製は以前に発表された方法に従って実施した(Yasukawa, T. et al. Increase of solubility of foreign proteins in Escherichia coli by coproduction of the bacterial thioredoxin. J Biol Chem 270, 25328−31. (1995).)。融合タンパク質による免疫、ならびに融合タンパク質GST−W1およびGST−W2に対するポリクローナル抗体の作製は、以前に発表された方法に従って実施した(Su, S.B., Mukaida, N., Wang, J., Nomura, H. & Matsushima, K. Preparation of specific polyclonal antibodies to a C−C chemokine receptor, CCR1, and determination of CCR1 expression on various types of leukocytes. J Leukoc Biol 60, 658−66. (1996).)。
【0112】
簡単に説明すると、2匹の白色ウサギを、フロインド完全アジュバント(シグマ・アルドリッチ、USA)と混合したGST融合タンパク質400μgで初回免役し、各々をフロインド不完全アジュバント200μgで9回免役した。最終免疫から1週間後、ウサギを放血させ血清を採取した。
【0113】
次に、プロテインAセファロースTM(アマシャム・ファルマシア・バイオテック)カラムを用いて血清を分画し、IgG分画を得た。調製したADAMTS4抗体の特異性を、完全長のADAMTS4−GFPトランスフェクタントを用いて確認した。
【0114】
〔実施例7〕 ウエスタンブロット分析
野生型同腹子およびヘテロ接合体マウスから切り出した新生児の脳の一部を、10% SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供した。タンパク質をニトロセルロース膜(0.45μm)に、4mA/cm2で1時間転写した。膜をブロックACE(大日本製薬、Osaka, Japan))で一昼夜ブロッキングした後、TBS緩衝液(50 mM Tris−HCl (pH7.5), 150mM NaCl)中で、マウス抗ADAMTS4ポリクローナル抗体W1もしくは抗αチューブリン抗体(オンコジーン社)と室温にて1時間反応させ、次に、W1に関しては2000倍に希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ標識したヤギ抗ウサギIgGポリクローナル抗体(アマシャム・ファルマシア・バイオテック)、α−チューブリンに関してはあるいは2000倍に希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ標識した抗マウスIgG抗体と室温で30分間反応させた。TBS緩衝液で洗浄後、結合した西洋ワサビペルオキシダーゼ標識抗体を化学発光(ECL;アマシャム・ファルマシア・バイオテック)により検出し、オートラジオグラフィー用のコダックXARフィルムに露光した。
【0115】
〔実施例8〕 ポリメラーゼ連鎖反応による胚の遺伝子型分析
最近報告された改良型プライマー伸長−前増幅法(improved primer extension preamplification)(I−PEP)−PCR)(Heinmoller, E. et al. Toward efficient analysis of mutations in single cells from ethanol− fixed, paraffin−embedded, and immunohistochemically stained tissues. Lab Invest 82, 443−53. (2002).)のプロトコールを利用した。
【0116】
30μlのI−PEP混合液(Rocheの1x PCR緩衝液No.3において最終濃度:0.05 mg/mlゲラチン、20 mol/L(N)15ランダムプライマー、各1 mmol/LのdNTP、3UのTaq Expand High Fidelityポリメラーゼ、6mmol/LのMgCl2を含む)を、1個の胚を含む10μlの溶解緩衝液に添加してI−PEP−PCRを行った。PCRは以下の条件で50サイクル行った。
【0117】
ステップ1:95℃で2分間;
ステップ2:95℃で30秒間;
ステップ3:28℃で90秒間;
ステップ4:秒当たり0.1℃で55℃まで上昇;
ステップ5:55℃で2分間;
ステップ6:68℃で3分間;
ステップ7:ステップ2に戻り、49回繰り返す;
ステップ8:68℃で15分間;および
ステップ9:4℃。
【0118】
ネステッドPCR法でADAMTS4遺伝子を増幅した。第1ラウンドのPCRは、全プライマーの5’端に無関係な20塩基のキメラ配列を有するADAMTS4に特異的な上流および下流のプライマーを用いて、複合PCR法で実施した。プライマーセットの位置については図4に示す。
【0119】
フォーワードプライマーUTS:
5’−gccgtcccaaaagggtcagtcctcaacacccctaacgactca(配列番号:9)
リバースプライマーUTA:
5’−gcggtcccaaaagggtcagtggagcatgttgaagacatggc(配列番号:10)
【0120】
第2ラウンドのPCRは、以下のプライマーセットを用いてネステッド条件で実施した。
【0121】
フォーワードプライマーNTS: 5’−ctgaccactttgacacagcca(配列番号:11)
リバースプライマーNTA:5’−ccagttcatgagcagcagtga (配列番号:12)
【0122】
I−PEP−PCR産物を5μlずつ分注して25μlの特異的PCR第1ラウンドの混合液(それぞれの濃度が0.2mmol/LのdNTP、1.5mmol/L MgCl2、0.4μmol/Lプライマー、0.5UのTaq Expand High Fidelity Polymerase、および0.5Uの抗Taq抗体(インビトロジェン))に加えた。第1ラウンドPCR産物を3μlずつ分注して、1.5mmol/L MgCl2; それぞれの濃度が0.2 mmol/LのdNTP、0.4 mmol/Lプライマー、および0.3Uの Taq Expand High Fidelity Polymeraseを含む22μlの混合液に加えた。PCR条件は、第1ラウンドと第2ラウンドで同一であり:ステップ1が、95℃で2分間、ステップ2が95℃で30秒間、ステップ3が56℃で45秒間、ステップ4が72℃で1分間、ステップ5でステップ2に戻り、29回繰り返した後、ステップ6で、72℃で10分間、ステップ7で4℃である。各実験において、野生型ゲノムDNAによる陽性対照反応も実施した。2% アガロースゲルで分画してPCR産物の有無を調べた。野生型およびヘテロ接合体で394bpの産物が増幅される。
【0123】
ゲノムDNAの増幅を確認する目的で、対照としてGAPDHネステッドPCRを実施した。GAPDH対照のプライマー配列を以下に示す。
【0124】
第1ラウンドでは、
フォーワードプライマー:5’−ccttcattgacctcaacta(配列番号:13)、
リバースプライマー:5’−agtgatggcatggactgtggt(配列番号:14)
第2ラウンドでは、
フォーワードプライマー:5’−agtatgactccactcacggcaa(配列番号:15)
リバースプライマー:5’−agtgatggcatggactgtggt(配列番号:16)
であり、320bpの産物が増幅される。
【0125】
〔実施例9〕 致死時期の決定
複数の発育ステージにおける胚を調べて、致死のタイミングの決定を試みた。
【0126】
しかし、サザンブロット分析により、8.5日目の初期ステージの胚には、ホモ接合体を見いだすことができず、これらのステージの子宮では、吸収された残留物さえ観察されなかった。これらのデータは、胚が死に至るのは8.5日より前であることを示唆するものである。
【0127】
卵子着床前に死亡したのか後に死亡したのか調べるため、本発明者は、着床前の最終ステージである胚盤胞での遺伝子型を同定した。自然排卵および交配した3匹のマウスから得られた3.5日胚19個には、1個もホモ接合体は見つからなかった。
【0128】
〔実施例10〕 ADAMTS4欠損胚の遺伝子型
さらに、8細胞期の胚の遺伝子型を調べた。8細胞期の胚を、自然排卵および交配したマウスから調製した。遺伝子型を調べる前に個々の胚の顕微鏡像を撮像した。図4に示すプライマーセットにより、ゲノムDNAをI−PEP−PCR、ADAMTS4特異的ネステッドPCRによって増幅した。野生型およびヘテロ接合体について、395bpの産物を増幅し、ホモ接合体と比較した。野生型マウスの尾から得たゲノムDNAを陽性対照として用いた。また、GAPDH遺伝子の増幅を、I−PEP−PCRによりゲノムDNAが実際に増幅したことを確認するための対照とした。
【0129】
結果、異常な形態を示し、断片化あるいは細胞未分裂のホモ接合体ADAMTS−/−を見いだした(図6)。野生型もしくはヘテロ接合体の胚は8細胞期であった。ホモ接合体のADAMTS4−/−胚は8細胞期までしか存在せず、その形態から、ホモ接合体では分裂しないか断片化したことが分かる。この結果は、発育の超初期段階においてADAMTS−/−胚が死に至ることを示している。
【0130】
さらに本発明者は、2細胞期の胚を調べ、表3に示すように、ヌル胚に8細胞期同様の異常を検出した。つまり、これらの結果から、ADAMTS4遺伝子欠損卵子は、着床前に細胞分裂および生存に異常を来たすことが示唆される。
【0131】
【表3】
【0132】
〔実施例11〕 生殖細胞におけるADAMTS4の発現
初期発育ステージの生殖関連細胞(卵子、精子および卵丘細胞)におけるADAMTS4のmRNA発現を確認するために、RT−ネステッドPCRを実施し、DNA配列決定により増幅産物の確認を行った。
【0133】
25個の卵子、単一マウス個体に由来する精子各種ステージの胚20〜30個、単一マウス個体の卵丘細胞から、TRIzol試薬(インビトロジェン)を用いて製造元の説明書に従いトータルRNAを調製し、これをDNaseI処理した。ランダムプライマー(プロメガ、Madison、WI)を用いて製造元の説明書に従い20μlの反応混合液(インビトロジェン)にて42℃で50分間反応して、cDNAの第1ストランド合成を行った。
【0134】
得られたcDNAサンプルについてネステッドRT−PCRを実施した。cDNA産物を2μlずつ分注して、1.5 mmol/L MgCl2; 各濃度が0.2 mmol/LのdNTP、0.4 mmol/Lプライマー、および0.3UのTaq Expand High Fidelity Polymeraseを含む18μlの混合液に添加した。PCR条件は、第1ラウンドと第2ラウンドで同一であり:ステップ1が、95℃で2分間、ステップ2が95℃で30秒間、ステップ3が56℃で45秒間、ステップ4が72℃で1分間、ステップ5でステップ2に戻り、29回繰り返した後、ステップ6で、72℃で10分間、ステップ7で4℃である。ADAMTS4に対するプライマーは、イントロン配列をまたぐように設計されており、次のような配列からなる。
【0135】
第1ラウンド:
フォーワードプライマー:5’−tttgacacagccattctgtt(配列番号:17);
リバースプライマー:5’−ggatacagcggccctggaca(配列番号:18);
第2ラウンド:
フォーワードプライマー:5’−tgtcatggctcctgtcatgg(配列番号:19);
リバースプライマー:5’−gtgggcacttctccgtgttg(配列番号:20)
【0136】
これらのプライマーにより、560bpの産物が増幅する。これをTAベクターにサブクローニングし、配列を決定した。対照GAPDHのプライマーセットを以下に示す。
【0137】
第1ラウンド:
フォーワードプライマー:5’−ccttcattgacctcaacta(配列番号:21);
リバースプライマー:5’−agtgatggcatggactgtggt(配列番号:22);
第2ラウンド:
フォーワードプライマー:5’−agtatgactccactcacggcaa(配列番号:23);
リバースプライマー: 5’−agtgatggcatggactgtggt(配列番号:24)
【0138】
これらのプライマーにより、320bpの産物が増幅する。PCR産物を1%のアガロースゲル上で分画し、臭化エチジウムで染色して可視化した。同一の実験を再び繰り返した。
【0139】
結果、ADAMTS4は、0.5日卵子から胚盤胞までに発現したが、精子もしくは卵丘細胞では発現しなかった(図7)。従って、卵子以外の初期発育にADAMTS4が関与している可能性が否定された。
【0140】
さらに、ADAMTS+/−雄と野生型の雌、もしくはADAMTS+/−雌と野生型の雄の交配による受精は正常なので、ADAMTS4は直接精子・卵融合に関係するとは考えられない。
【0141】
〔実施例12〕 卵子の免疫蛍光染色
自然排卵および交配から0.5日後に、野生型C57/B6マウスを用いて、卵子を含む卵管膨大部を切り出し、PBSで洗浄した。これをTissue−Tek OCT compound (Miles Inc.、Elkhart、Indiana、USA)に包埋して液体窒素で凍結した。試料をクリオスタットで7μmの切片にした。Block Aceで内因性ペルオキシダーゼ活性を阻害後、切片を10μg/mlの濃度のウサギ抗マウスADAMTS4ポリクローナル抗体W1、もしくは対照ウサギIgGと1時間反応させた。それぞれをPBSで2分間2回洗浄し、0.05% Tween−20/PBSで2分間1回洗浄した後、1μg/ml濃度のAlexa Fluor 488ヤギ抗ウサギIgG(H+L)(Molecular Probes, Inc. USA)で30分間標識した。PBSで洗浄し、DAKO Fluorescent Mounting Medium(DAKO CORPORATION、USA)で封入した。蛍光顕微鏡を用いて観察した。
【0142】
結果、ADAMTS4は分泌タンパク質であることが報告されているが、抗ADAMTS4ポリクローナル抗体による免疫蛍光染色では、ADAMTS4タンパク質が、ほぼ卵子内に核周囲の網状パターンとして存在していた(図8)。
【0143】
〔実施例13〕 抗ADAMTS4抗体によるインビトロにおける卵子の阻害実験
ADAMTS4は、そのトロンボスポンジンドメインによりグリコサミノグリカンを認識し、IGDにおいて成体における生理学的機能を果たすためにプロテオグリカンを切断する分泌タンパク質であることが報告されている。ADAMTS4が卵子において生理学的役割を果たしているか否かを明らかにする目的で、抗ADAMTS4抗体を用いて触媒過程を阻害するインビトロ実験を行った。
【0144】
C57/BL6雌マウスに、5IUの妊馬血清(PMS)および5IUのヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)を48時間間隔で注射して、過排卵させ、すぐに交配した。hCG注射後13〜15時間で卵管膨大部から0.5日卵子を採取し、400μlのM2培地滴に入れた。300μg/ml濃度のIII型ヒアルロニダーゼ(シグマ)を用いて卵丘細胞を除去し、第2極体もしくは前核を有する卵子を採取した。卵子培養には、0μg/ml、20μg/ml、30μg/ml、および40μg/mlの濃度の抗ADAMTS4抗体、ならびに40μg/mlの濃度の抗GST抗体を含む、37℃ 5%CO2雰囲気化で平衡化したM16培地を用いた。
【0145】
卵子回収から24時間後に胚の形態を観察した結果、抗ADAMTS4抗体による処理では、卵子は断片化もしくは非分裂形態を呈したが、対照では卵子が2細胞期胚まで成長した(図9A)。
【0146】
また、卵子回収から24時間インキュベーション後、2細胞期胚の数を計数したところ、2細胞期の胚の数は、抗体の用量依存的に減少した(図9B)。2細胞期の胚の比率(%)は、抗ADAMTS4抗体を用いた場合、0μg/mlでは70.5%(n=119)、20μg/mlでは41.5%(n=212)、30μg/mlでは23.4%(n=141)、および40μg/mlでは5.2%(n=58)あったが、対照の抗GST抗体を用いた場合には、40μg/mlでは72.7%(n=99)であった。
【0147】
【発明の効果】
本発明により、ADAMTS4タンパク質の機能を制御する薬剤が提供された。また、本発明により、ADAMTS4タンパク質の発現の抑制(阻害)あるいは活性の抑制に基づいた避妊薬のスクリーニング方法が提供された。本発明の薬剤または本発明のスクリーニング方法によって取得される化合物は、例えば、早期の避妊に有用である。
【0148】
また本発明の薬剤は、ADAMTS4タンパク質の発現の異常あるいは活性の異常に関連する疾患のメカニズム解明のための研究用試薬としても有用である。
【0149】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】マウスADAMTS4遺伝子のゲノム構造を示す図である。
(A)マウスADAMTS4遺伝子の制限酵素地図。制限酵素部位:E(EcoRI);H(HindIII);B(BamHI);A(ApoI);X(XhoI)。
(B)マウスADAMTS4遺伝子のエクソン/イントロン構造。ボックスはエクソンを表し、間の直線はイントロンを表す。ボックスで囲まれたエクソン内の斜線の領域は、コーディング配列である。
(C)マウスADAMTS4遺伝子の機能性ドメイン。
【図2】ADAMTS4の推定アミノ酸配列を示す図である。furinによる推定切断部位を矢印で示す。トロンボスポンジンのI型モジュールを下線で示した。MMP様システインスイッチにおけるシステイン残基を黒丸印で示した。その他のシステイン残基については、星印で示した。furin切断部位までプレプロ領域が伸びており、触媒ドメインは、furin切断部位からディスインテグリン様配列までを含む。スペーサードメインの開始部位を示した。1文字アミノ酸コードを用いた。
【図3】ADAMTS4アミノ酸配列のメタロプロテイナーゼドメインの比較結果を示す図である。マウスADAMTS4(上段)およびADAMTS1あるいはADAMTS5(下段)に関するアミノ酸残基を示す。それぞれ、同一性は50%および40%であった。Zinc結合モチーフには下線を付した。
【図4】遺伝子ターゲッティング法に用いたゲノム制限酵素地図(A)ならびに野生型遺伝子座、ターゲッティングベクター、ターゲッティング後の遺伝子座(B)を表わした図である。
(A)ADAMTS4のゲノム制限酵素地図。エクソン2〜4(メタロプロテイナーゼドメイン)を含むApoI/HindIII断片は、ネオマイシン耐性遺伝子と置換されている。
B(BamHI);H(HindIII);A(ApoI);E(EcoRI);X(XhoI)。
(B)エクソンおよびイントロンは、それぞれ垂直および水平な線で示した。PGKプロモーター(PGK−neo’)で制御されるネオマイシン耐性遺伝子、およびPMC1プロモーター(PMC1−tk)で制御されるチミジンキナーゼ遺伝子を矢印で示した。サザンブロット分析用プローブを示した。Xで示した位置はXhoI制限酵素部位に対応する。
【図5】マウスADAMTS4のターゲティングによる破壊の効果を示す写真である。
(A)マウスゲノムDNAのサザンブロット分析の結果を表わす写真。11kbのXhoI消化断片は、プローブ1およびプローブ2における相同組換え対立遺伝子を示す。WTは野性型、+/−はヘテロ接合体である。
(B)各遺伝子型の新生仔マウス脳から抽出したトータルRNAのノーザンブロット分析の結果を表わす写真。
(C)各遺伝子型の新生仔マウス脳から抽出したタンパク質のウエスタンブロット分析の結果を表わす写真。
【図6】ADAMTS4欠損胚の遺伝子型および形質の分析を示す写真である。
【図7】生殖関連細胞におけるADAMTS4の発現を示す写真である。
トータルRNAを卵子(1)、2細胞期胚(2)、8細胞期胚(3)、未分化胚芽細胞(4)、精子(5)および卵丘細胞(6)より抽出した。RT−ネステッドPCRの結果、ADAMTS4は精子および卵丘細胞では発現が見られなかったが、卵子および胚では発現が観察された。トータルRNAを陰性対照、心臓由来のcDNAを陽性対照として利用した。下段に、GAPDHのRT−ネステッドPCRの結果を示す。
【図8】卵子におけるADAMTS4の免疫蛍光の結果を示す写真である。
野性型C57/B6マウス由来の自然排卵および交配後の0.5日胚をOCTコンパウンド中に包埋し、7μmの切片にした。切片標本は抗マウスADAMTS4抗体(B)およびウサギIgG(C)で染色し、Alexa Flior 488ヤギ抗ウサギIgGで標識した。ADAMTS4は、対照と比較したところ核の周辺領域に発現が見られた。光field照明下の卵子は、卵丘細胞周囲の透明帯を有していた(A)。
【図9】卵子発育における抗ADAMTS4抗体の効果を示す写真および図である。
0.5日の卵子は、過排卵後に交配したC57/BL6の雌から調製した。これを、抗ADAMTS4抗体および対照抗GST抗体を各種の濃度で含むM16培地でインキュベートした。24時間インキュベーションした後、卵子の形態を観察した。抗ADAMTS4抗体による処理では、卵子は断片化もしくは非分裂形態を呈したが、対照では卵子が2細胞期胚まで成長した(A)。24時間インキュベーション後、2細胞期胚の数を計数したところ、ADAMTS4の阻害効果は用量依存的であった(B)。
Claims (15)
- ADAMTS4タンパク質の機能阻害物質を有効成分として含有する、受精卵の発育阻害作用を有する薬剤。
- ADAMTS4タンパク質の機能阻害物質を有効成分として含有する、避妊用薬剤。
- ADAMTS4タンパク質の機能阻害物質が、以下の(a)〜(c)からなる群より選択される化合物を含む、請求項1または2に記載の薬剤。
(a)ADAMTS4タンパク質に対してドミナントネガティブの性質を有するADAMTS4タンパク質変異体
(b)ADAMTS4タンパク質に結合する抗体
(c)ADAMTS4タンパク質に結合する低分子化合物 - ADAMTS4タンパク質の発現阻害物質を有効成分として含有する、受精卵の発育阻害作用を有する薬剤。
- ADAMTS4タンパク質の発現阻害物質を有効成分として含有する、避妊用薬剤。
- ADAMTS4タンパク質の発現阻害物質が、以下の(a)〜(c)からなる群より選択される化合物を含む、請求項4または5に記載の薬剤。
(a)ADAMTS4遺伝子の転写産物、またはその一部に対するアンチセンス核酸
(b)ADAMTS4遺伝子の転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有する核酸
(c)ADAMTS4遺伝子の発現を、RNAi効果による阻害作用を有する核酸 - 以下の(a)〜(c)のいずれかを有効成分として含有する、不妊症治療のための薬剤。
(a)ADAMTS4タンパク質
(b)ADAMTS4タンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含む、ADAMTS4変異体タンパク質であって、ADAMTS4タンパク質と機能的に同等なタンパク質
(c)前記(a)または(b)に記載のタンパク質をコードするDNA - ADAMTS4タンパク質がマウス由来である、請求項1〜7のいずれかに記載の薬剤。
- 以下の(a)〜(c)の工程を含む、避妊用薬剤のための候補化合物のスクリーニング方法。
(a)ADAMTS4タンパク質またはその部分ペプチドと被検化合物を接触させる工程
(b)前記ADAMTS4タンパク質またはその部分ペプチドと被検化合物との結合活性を測定する工程
(c)ADAMTS4タンパク質またはその部分ペプチドと結合する化合物を選択する工程 - 以下の(a)〜(c)の工程を含む、避妊用薬剤のための候補化合物のスクリーニング方法。
(a)ADAMTS4遺伝子を発現する細胞に、被検化合物を接触させる工程
(b)該ADAMTS4遺伝子の発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物を接触させない場合と比較して、該発現レベルを低下させる化合物を選択する工程 - 以下の(a)〜(c)の工程を含む、避妊用薬剤のための候補化合物のスクリーニング方法。
(a)ADAMTS4遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞または細胞抽出液と、被検化合物を接触させる工程
(b)該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、該発現レベルを低下させる化合物を選択する工程 - 以下の(a)〜(c)の工程を含む、避妊用薬剤のための候補化合物のスクリーニング方法。
(a)ADAMTS4遺伝子を発現する細胞へ被検化合物を接触させる工程
(b)該細胞におけるADAMTS4タンパク質の発現量または活性を測定する工程、
(c)被検化合物に非存在下において測定した場合と比較して、ADAMTS4タンパク質の発現量または活性を低下させる化合物を選択する工程 - 以下の(a)〜(c)の工程を含む、ADAMTS4プロテアーゼ活性阻害剤のスクリーニング方法。
(a)プロテオグリカンと、ADAMTS4タンパク質および被検化合物とを接触させる工程
(b)ADAMTS4タンパク質のプロテオグリカンを基質とする切断活性を測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、前記切断活性を低下させる化合物を選択する工程 - プロテオグリカンが、アグリカン、ブレビカン、またはバーシカンである、請求項13に記載のスクリーニング方法。
- ADAMTS4遺伝子の発現が人為的に抑制されていることを特徴とする哺乳動物細胞。
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WO2015056808A1 (en) * | 2013-10-15 | 2015-04-23 | Genefrontier Corporation | Human antibody against aggrecanase-type adamts species for therapeutics of aggrecanase-related diseases |
JP2016053575A (ja) * | 2009-04-01 | 2016-04-14 | ガラパゴス・ナムローゼ・フェンノートシャップGalapagos N.V. | 変形性関節症の治療のための方法及び手段 |
-
2003
- 2003-02-12 JP JP2003034150A patent/JP2004244339A/ja active Pending
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