JP2004219234A - 鋳鉄の磁気的評価方法 - Google Patents

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利彦 阿部
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Abstract

【課題】鋳鉄のチル化組織の有無、フェライト基地若しくはパーライト基地の判定又はフェライト/パーライト率を正確に測定できる鋳鉄の磁気的評価方法を提供する。
【解決手段】鋳鉄のチル化組織の磁気的性質又はフェライト・パーライト相の磁気的性質の差異に基づいて、鋳鉄のチル化組織の有無、フェライト基地若しくはパーライト基地の判定又はフェライト/パーライト率の同定を、渦電流信号の磁気増幅で発生する歪み信号を用いて行うことを特徴とする鋳鉄の磁気的評価方法。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、鋳鉄基地による渦電流の磁気増幅作用を利用して、鋳鉄のチル化組織の有無、フェライト基地若しくはパーライト基地の判定又はフェライト/パーライト率の同定を正確に測定できる鋳鉄の磁気的評価方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
鋳鉄は、自動車(ガソリン車)用エンジン・部品、船舶用又は車両用ジーゼルエンジン、産業機械などの構造用材料として広く使用されている。
鋳鉄は、内部の黒鉛の形状から大きくねずみ鋳鉄(片状黒鉛鋳鉄)と球状黒鉛鋳鉄の2つに分けられる。前者は内部に片状黒鉛を多数含み、これが内部切り欠きとして作用し、一般に低強度で強度にばらつきを示す信頼性の低い材料である。しかし、鋳造性はよく、バランスのとれた工業的性質を持つため、広く鋳造材として使用されている一般向け材料である。
これに対して、後者は片状黒鉛を球状化したものであり、高強度かつ高靭性を示す。
【0003】
鋳鉄のマトリックスとなる基地の種類は、完全なパーライト地から完全なフェライト地があり、およその地の比率は製造条件により変えることができる。
一方のフェライト基地は、延性に優れ、鋳鉄材料の靭性を向上させるが、強度を低下させるという性質がある。他方、パーライト基地は硬く、鋳鉄材料の強度を上昇させるが、靭性を低下させるというフェライトとは反対の性質をもつ。
前記球状黒鉛又は片状黒鉛という黒鉛の形状とともに、鋳鉄中のフェライト基地とパーライト基地の面積比率は鋳鉄の機械的な性質を決める重要なパラメータである。
鋳鉄には、さらに製造過程で急冷される箇所に大きなセメンタイトFeC組織が発生する場合がある。このセメンタイト組織は、鋳鉄組織の中で最も硬くて脆くて割れやすい性質がある。従って、一般に強度の高い構造部材用鋳鉄には、チル化組織があれば不良品として扱われる。
【0004】
一般に製造工程が同一であれば殆ど同じ製品ができるものであるが、鋳造品の場合は、その製造上の性格から、かなり変動がある。このため、鋳造品は工程の管理を厳密にすると同時に、材質や欠陥存否の検査が重要である。
しかし、現在鋳造品の材質、欠陥に関する包括的な非破壊評価は確立しておらず、破壊試験に頼っているのが現状である。
以上から、鋳造品の製造法改良、品質保証、供用中検査を真の意味で実現するためには、簡便かつ信頼性のある非破壊評価手法を確立する必要がある。
【0005】
鋳鉄の基地組織を非破壊的に評価できる装置は実用化されておらず、鋳造現場では被測定物を切断・研磨して組織観察を行う、あるいは、硬さを測定することによって鋳鉄のチル化組織の有無、フェライト基地若しくはパーライト基地の判定又はフェライト/パーライト率を推定している。本出願の発明者らは先に「鋳鉄の非破壊評価法及び装置」として、渦電流を用いる鋳鉄の基地組織評価法を開発した。この方法ではコイルのインピーダンスが基地組織の透磁率と導電率に依存する性質を利用することによって高精度の非破壊評価が可能となった。しかし、複素数で表されるインピーダンスの実部や虚部を分離して測定するために比較的複雑な電子回路を必要とする(特許文献1参照)。
【0006】
また、「球状黒鉛鋳鉄部材の検査方法」として6種類以上の周波数による渦電流を測定して、測定周波数と渦電流出力との関係からフェライト層厚さを推定する方法が開示されている。この発明はフェライト層の有無と、その厚さを測定することが目的であって、フェライト/パーライト率は測定できない(特許文献2参照)。
【0007】
さらに「靭性値非破壊評価方法及び装置」としてバルクハウゼンノイズとアコースティックエミッションを用いて圧力容器鋼の靭性値を非破壊的に評価する方法が開示されている。この方法は被検査体を交流磁化させて信号を得る点は本発明と類似しているが、バルクハウゼンノイズは磁壁の移動によって生じる信号であり、本発明とは本質的に異なる原理に基づいたものである(特許文献3参照)。
【0008】
磁気増幅において、入力信号が過大となり磁気飽和に達すると出力信号が歪む現象は古くから公知である(非特許文献1参照)。
しかしながら鋳鉄の磁気的特性がフェライト地とパーライト地では異なるために、同一の渦電流入力信号によって発生する磁気増幅歪みが基地組織に強く依存する現象については報告されていない。
【0009】
【特許文献1】
特願2002−061397
【特許文献2】
特開2002−156366
【特許文献3】
特開 昭60−194354
【非特許文献1】
「OPTはなぜひずむ」ラジオ技術1960年4月号160−165頁
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、基地組織による渦電流の磁気増幅作用を利用して、鋳鉄のチル化組織の有無、フェライト基地若しくはパーライト基地の判定又はフェライト/パーライト率を感度よく測定し、従来の非破壊評価の弱点を解決できる鋳鉄の磁気的評価方法を提供することを課題とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を行った結果、鋳鉄の基地組織による渦電流信号の磁気増幅作用に着目して、磁気増幅された信号の中から歪信号を検出することにより、鋳鉄のチル化組織の有無、フェライト基地若しくはパーライト基地の判定又はフェライト/パーライト率の同定を、より高感度で測定できるとの知見を得た。
【0012】
この知見に基づいて、
1.鋳鉄のチル化組織の磁気的性質又はフェライト・パーライト相の磁気的性質の差異に基づいて、鋳鉄のチル化組織の有無、フェライト基地若しくはパーライト基地の判定又はフェライト/パーライト率同定を渦電流信号と基地組織による磁気的増幅作用を検知することによって行うことを特徴とする鋳鉄の磁気的評価方法
2.鋳鉄のチル化組織の磁気的性質又はフェライト・パーライト相の磁気的性質の差異に基づいて、鋳鉄のチル化組織の有無、フェライト基地若しくはパーライト基地の判定又はフェライト/パーライト率同定を渦電流と、基地組織の磁気増幅作用により行う際に、鋳鉄の被検査体に近接させて励磁コイルを配置し、当該コイルに交流電流を流すことにより被検査体に渦電流を誘起させ、基地組織によって磁気増幅された渦電流信号を、検出コイルによって検出することを特徴とする鋳鉄の磁気的評価方法
3.磁気的に端部が開放された共通の磁心に励磁コイルと検出コイルを配置し、開いた磁路の一端を被検査体に押し当てて測定を行うことを特徴とする上記1又は2記載の鋳鉄の磁気的評価方法
4.磁気増幅された渦電流信号の中から歪信号を検出することを特徴とする上記1〜3のそれぞれに記載の鋳鉄の磁気的評価方法
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明は、励磁コイルに高周波の交流電流を流すことにより、被検査体である鋳鉄に渦電流を誘起させる。この渦電流によって被検体に交流磁場が発生し、その磁気的情報を、検出コイルの誘導起電力として取得する。鋳鉄の基地組織を構成するフェライト、パーライト、セメンタイトなどの強磁性体が交流磁化される場合には、被検査体は磁気増幅作用によって励磁信号が発生する磁場よりも強く磁化される。この時に被検査体が磁気飽和するまで励磁コイル電流を増すと、検出コイルには大きな歪電圧が発生して出力電圧が急増する。
【0014】
励磁による磁気的な飽和点は被検査体の磁気特性に強く依存するものであって、例えば、ソフト磁性体であるフェライトが磁気飽和する励磁電流では、よりハードな磁性体であるセメンタイトやパーライトは磁気飽和しない。従って、フェライトが磁気的に飽和する電流を励磁コイルに流して鋳鉄の磁気測定を行うと、セメンタイトやパーライトの場合は大きな歪みが発生しないので、検出コイルにはフェライトの場合よりも低い電圧が発生する。
【0015】
検出コイルに発生する交流電圧は、励磁コイルに印加した周波数と、磁気飽和によって発生した歪周波数の電圧の和である。従ってフィルター等により歪周波数のみを分離するならば、セメンタイトやパーライト被検査体に対するフェライト被検体の出力電圧比(検出感度)が向上する。磁気増幅における飽和のために出力波形が歪むと、印加した周波数よりも高い周波数の成分が増す。従って歪み電圧を取り出すには、印加周波数を遮断するハイパスフィルターを使用するか、あるいはFFTなどの周波数解析手法が有効である。
【0016】
具体的には、例えば図1に示すように、磁心にコイルを巻いた励磁コイル2と検出コイル4から構成されるプローブを鋳鉄(被検査体)5に接触させて配置し、該プローブに周波数発生器1から高周波の交流電流を流すことにより被検査体5に渦電流6を誘起させて、この渦電流6の磁気増幅によって誘起される出力信号からハイパスフィルター7を通して歪み成分を分離し、歪み成分の出力を交流電圧計8によって交流電圧として検出する。
磁心の形状は棒状、コの字型、Uの字型、E型など適宜使用できる。ハイパスフィルターに替えて、周波数解析(例えばFFT)等を使用することもできる。
【0017】
基地組織が既知である多数の鋳鉄のフェライト/パーライト率と渦電流信号との相関の検量線は、データ−ベースとして保存する。一方、新たに測定の対象となった、被検査体である個々の鋳鉄に対して磁気増幅によって生じる渦電流の歪み信号を測定して検量線を求め、これを前記保存されたデータ−ベースの検量線との対比から、該鋳鉄のチル化組織の有無若しくは量又はフェライト/パーライトの有無若しくは量等をより高感度で決定することができる。
【0018】
【実施例及び比較例】
以下に本発明の実施例を示すが、これらはあくまで本発明の一例に過ぎず、下記の実施例の条件に本発明が制限されることはない。すなわち、本発明は明細書に記載する技術思想の範囲で、構成上の変更、変形又は他の実施例は当然含まれるものである。
【0019】
(実施例)
基地組織が異なる球状黒鉛鋳鉄試験片の中から、チルが生じたもの(ブリネル硬さ274)、完全パーライト地(ブリネル硬さ215)、完全フェライト地(ブリネル硬さ141)を被検査体とした。これらの試験片に対して、検出コイル印加電圧を3Vとして、周波数1.7KHzの正弦波を加えて、遮断周波数6KHzのハイパスフィルター(遮断特性−48dB/オクターブ)を通して検出コイルの出力電圧を交流電圧計により測定した。完全パーライト地試験片の出力電圧が1.0Vとなるようにハイパスフィルター出力を調整した場合の完全フェライト地試験片の出力電圧は1.52V(52%増)であり、チル化試験片は0.59V(41%減)となった。
【0020】
(比較例)
上記の試験片に対して、ハイパスフィルターを用いないで、検出コイルの電圧を直接測定した。完全パーライト地試験片の出力電圧が1.0Vとなるように入力電圧を調整した場合、完全フェライト地試験片の出力電圧は1.1V(10%増)であり、チル化試験片は0.9V(10%減)と感度が低下した。
【0021】
上記実施例と比較例に示すように、渦電流信号を磁気増幅した場合に、ハイパスフィルターによって歪み信号のみを取り出すと、フェライト地に対するチル化試験片の出力電圧比は2.6倍であり、ハイパスフィルターを使用しない場合の出力電圧比は1.2倍となって検出感度は46%低下した。
【0022】
【発明の効果】
本発明は、鋳鉄の渦電流測定において、被検査体のフェライト/パーライト率に応じて発生する特定の歪み成分信号を検出し、その電圧から鋳鉄の材質を評価するものである。これにより、チル化組織の有無、フェライト基地若しくはパーライト基地の判定又はフェライト/パーライト率の同定を非破壊評価により正確にかつ容易に得ることが可能となるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に使用する装置の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
1 周波数発生器
2 励磁コイル
3 磁心
4 検出コイル
5 鋳鉄
6 渦電流
7 ハイパスフィルター
8 交流電圧計

Claims (4)

  1. 鋳鉄のチル化組織の磁気的性質又はフェライト・パーライト相の磁気的性質の差異に基づいて、鋳鉄のチル化組織の有無、フェライト基地若しくはパーライト基地の判定又はフェライト/パーライト率同定を渦電流信号と基地組織による磁気的増幅作用を検知することによって行うことを特徴とする鋳鉄の磁気的評価方法。
  2. 鋳鉄のチル化組織の磁気的性質又はフェライト・パーライト相の磁気的性質の差異に基づいて、鋳鉄のチル化組織の有無、フェライト基地若しくはパーライト基地の判定又はフェライト/パーライト率同定を渦電流と、基地組織の磁気増幅作用により行う際に、鋳鉄の被検査体に近接させて励磁コイルを配置し、当該コイルに交流電流を流すことにより被検査体に渦電流を誘起させ、基地組織によって磁気増幅された渦電流信号を、検出コイルによって検出することを特徴とする鋳鉄の磁気的評価方法。
  3. 磁気的に端部が開放された共通の磁心に励磁コイルと検出コイルを配置し、開いた磁路の一端を被検査体に押し当てて測定を行うことを特徴とする請求項1又は2記載の鋳鉄の磁気的評価方法。
  4. 磁気増幅された渦電流信号の中から歪信号を検出することを特徴とする請求項1〜3のそれぞれに記載の鋳鉄の磁気的評価方法。
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