JP2004198150A - 薬物の肝代謝速度予測方法及び薬物間相互作用の予測方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】肝細胞を用いて薬物動態学上のパラメータを算出する際に、効率よく且つ正確に当該算出を行うと共に、かかる算出方法により薬物間相互作用を予測することを目的とする。
【解決手段】標準化合物、血清及び複数ロットの肝細胞を用いて当該肝細胞の各ロットの標準化合物の代謝能を測定する工程と、標準化合物の既知の体内動態パラメータ及び代謝能よりスケーリングファクターを算出する工程と、スケーリングファクターに基き、後の工程で代謝能の測定に使用する肝細胞のロットを選択する工程と、選択された肝細胞のロットを用いて被験化合物の代謝能を測定する工程と、代謝能及び前記スケーリングファクターより肝臓における被験化合物の代謝速度を予測する工程とを含むことを特徴とする薬物の肝代謝速度予測方法、及び、上記方法において、2薬剤以上を同時に添加することにより、薬物間相互作用を予測することを特徴とする薬物間相互作用予測方法。
【選択図】 なし
【解決手段】標準化合物、血清及び複数ロットの肝細胞を用いて当該肝細胞の各ロットの標準化合物の代謝能を測定する工程と、標準化合物の既知の体内動態パラメータ及び代謝能よりスケーリングファクターを算出する工程と、スケーリングファクターに基き、後の工程で代謝能の測定に使用する肝細胞のロットを選択する工程と、選択された肝細胞のロットを用いて被験化合物の代謝能を測定する工程と、代謝能及び前記スケーリングファクターより肝臓における被験化合物の代謝速度を予測する工程とを含むことを特徴とする薬物の肝代謝速度予測方法、及び、上記方法において、2薬剤以上を同時に添加することにより、薬物間相互作用を予測することを特徴とする薬物間相互作用予測方法。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、薬物の肝代謝速度の予測方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、コンビナトリアルケミストリーに代表される化合物の合成・スクリーニング技術の急速な発展に伴い、創薬研究の比較的初期の段階で化合物の薬物動態に関する知見を得ることが重要となっている。
【0003】
一方、生体内の薬物動態に関する研究は時間と手間がかかるため、予め試験管内で測定した薬物動態学上のパラメータから生体における知見を予測することが望ましい。
【0004】
すなわち、薬物の代謝クリアランスや代謝速度等を予め試験管内で測定し、その測定結果に基づいて生体内でのパラメータ(肝クリアランス値や肝アベイラビリティ値)を推算する必要がある。
【0005】
ここで、生体内における薬物のクリアランスは、血清における当該薬物の非結合画分及び当該非結合画分の固有クリアランスの影響を受ける。従って、従来は、血清中タンパク質結合率の測定と肝細胞又は肝ミクロソームにおける非結合型薬物濃度における固有クリアランスの測定とを別々に行い、得られた数値各々から生体内における薬物のクリアランスを予測計算していた。また、非結合型薬物濃度における固有クリアランスの測定には反応系中のマトリックスに対する結合率をも考慮する必要があるため、この点を考慮して最終的な肝クリアランスの予測値を算出することは非常に煩雑であった。
【0006】
かかる問題点を克服すべく、本発明者らは、ラット血清に予めラット遊離肝細胞を懸濁した反応系を用いることにより、非常に簡易な工程で薬物の肝クリアランス及び肝アベイラビリティを算出する方法を見出し、報告した(非特許文献1参照)。
【0007】
【非特許文献1】
Yoshihiro Shibata, Hiroyuki Takahashi, and Yasuyuki Ishii (2000) A convenient in vitro screening method for predicting in vivo drug metabolic clearance using isolated hepatocytes suspended in serum. Drug Metabolism and Disposition, Vol. 28, No. 12, 1518-1523.
【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、通常、医薬の開発にはヒト由来の肝試料を使用する場合が多い。前述の非特許文献1は、ラットの肝細胞を用いたものであり、ヒト肝細胞を用いた予測方法については述べられていない。また、非特許文献1では、SDラットから新鮮な肝細胞を採取し利用しているが、ヒトを対象に同様の処理を行うことは困難である。さらに、SDラットは遺伝的にも環境的にも均一と考えてよい種であるから肝細胞の代謝能に個体差はないとみなせるが、ヒトの場合は個人毎に遺伝的及び環境的要因から肝細胞の薬物代謝能が異なることが知られている。
【0009】
また、ヒトの新鮮な肝細胞の代わりに、凍結肝細胞を利用することができるが、これは凍結保存の影響も予想される上、ロット間で薬物の代謝能等の種々の性質に差が見られる。故に、前述の非特許文献1に記載の方法をそのままヒトの凍結肝細胞に適用する場合、最終的に算出された肝代謝パラメータの予測値に信頼性を確保できないという問題点が生じていた。
【0010】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、ヒト凍結肝細胞を用いて薬物動態学上のパラメータを算出する際に、効率よく且つ正確に当該算出を行うことを目的とするとともに、かかる算出方法により複数の薬物間の相互作用を効率よく且つ正確に予測することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ヒト凍結肝細胞を用いて薬物動態学上のパラメータを算出する際に、各ロットの薬物代謝能検査試験と、その結果に基づく肝細胞の混合及びスケーリングファクター値による活性補正工程を加える工夫(以下、バリデーション試験と呼ぶ)により、当該ヒト肝細胞を予め血清に懸濁しておいた溶液に被験化合物を加えて活性測定を行う試験から、定量的なヒト肝代謝パラメータの予測値を算出できることを見出し、本発明を完成した。以下、バリデーション試験により選択したヒト肝細胞を単一ロットで用いる場合を「第1の方法」、異なるロットを混合して用いる場合を「第2の方法」として解説する。
【0012】
本発明の肝代謝速度予測方法(第1の方法)は、標準化合物、血清及び複数ロットの肝細胞を用いて前記肝細胞の各ロットにおける前記標準化合物の代謝能を測定する第1の工程と、前記標準化合物における既知の体内動態パラメータ及び前記代謝能よりスケーリングファクターを算出する第2の工程と、前記スケーリングファクターに基き、後の工程において代謝能の測定に使用する肝細胞のロットを選択する第3の工程と、被験化合物、血清及び第3の工程で選択された肝細胞のロットを混合してインキュベーションし、インキュベーション後の溶液に含まれる該被検化合物の残存量を測定して該被験化合物の代謝能を測定する第4の工程と、前記代謝能及び第2の工程で算出されたスケーリングファクターより肝臓における前記被験化合物の代謝速度を予測する第5の工程とを含むことを特徴とする。これらの工程を経て肝代謝速度の予測を行うことにより、定量的な予測値を得ることが可能となる。
【0013】
ここで、本発明の肝代謝速度予測方法は、前記第5の工程で予測した肝臓における被験化合物の代謝速度が、実際の肝臓に流入する血清又は血漿中薬物濃度に対する予測値であることを特徴とする。
【0014】
また、前記第2の工程におけるスケーリングファクターは、下記式(1)
SF=CLH,int,in vivo/CLint, in vitro …(1)
(式中、SFはスケーリングファクターを表し、CLH,int,in vivoはin vivo肝固有クリアランスを表し、CLint, in vitroはin vitro固有クリアランスを表す。ここで、両クリアランス値は、血清中の結合型及び非結合型薬物濃度の和、すなわち、血清中薬物濃度を基準に算出された値である。)に示す関係に基いて算出されることが好ましく、スケーリングファクター値が標準化合物によらずほぼ一定の値となることが好ましい。
【0015】
また、本発明の肝代謝速度予測方法(第2の方法)は、標準化合物、血清及び複数ロットの肝細胞を用いて該肝細胞の各ロットにおける該標準化合物の代謝能を測定する第1の工程と、該標準化合物における既知の体内動態パラメータ及び該代謝能よりスケーリングファクターを算出する第2の工程と、該スケーリングファクターに基き、後の工程において代謝能の測定に使用する肝細胞のロットを複数選択し、該ロット間の混合比を決定して混合する第3の工程と、第3の工程で得られた肝細胞、標準化合物及び血清を混合し、該肝細胞固有のスケーリングファクターを算出する第4の工程と、被験化合物、血清及び第3の工程で得られた肝細胞の混合物を混合してインキュベーションし、インキュベーション後の溶液に含まれる該被験化合物の残存量を測定して被験化合物の代謝能を測定する第5の工程と、該代謝能及び第4の工程で算出されたスケーリングファクターより肝臓における該被験化合物の代謝速度を予測する第6の工程と、を含むことを特徴とする。これらの工程を経て肝代謝速度の予測を行うことにより、複数の肝細胞ロットを用いる場合に、ロット間の薬物代謝能等の性質の差を補正し、より正確な予測値を得ることが可能となる。
【0016】
ここで、本発明の肝代謝速度予測方法は、前記第6の工程で予測した肝臓における被験化合物の代謝速度が、実際の肝臓に流入する血清又は血漿中薬物濃度に対する予測値であることを特徴とする。
【0017】
また、前記第2及び/又は第4の工程におけるスケーリングファクターは、下記式(2)
SF=CLH,int,in vivo/CLint, in vitro …(2)
(式中、SFはスケーリングファクターを表し、CLH,int,in vivoはin vivo肝固有クリアランスを表し、CLint, in vitroはin vitro固有クリアランスを表す。ここで、両クリアランス値は、血清中の結合型及び非結合型薬物濃度の和、すなわち、血清中薬物濃度を基準に算出された値である。)に示す関係に基いて算出されることが好ましく、スケーリングファクター値が標準化合物によらずほぼ一定の値となることが好ましい。
【0018】
また、上記の肝代謝速度予測方法において、対象となる種がヒトである場合は、前記肝細胞がヒト由来であることが好ましい。ヒト肝細胞を用いることにより、ヒト体内で生じる代謝反応をより正確に反映した予測値を得ることが可能となる。
【0019】
さらに、前記肝細胞が凍結肝細胞であることが好ましい。凍結肝細胞を用いることにより、評価毎に同一の試料を利用することが可能となる。
【0020】
さらに、前記血清がヒト血清であることが好ましい。ヒト血清そのものを用いることにより、ヒト血清中蛋白結合率を正確に反映した予測値を得ることが可能となる。
【0021】
また、本発明の薬物間相互作用の予測方法は、上記の肝代謝速度の予測方法における被験化合物の代謝能の測定の際に、2種以上の被験化合物を実質的に同時に添加して代謝能を測定することにより当該被験化合物間の相互作用を予測することを特徴とする。すなわち、本発明の肝代謝速度の予測方法は、被験化合物の活性測定の際に、複数の薬物を共存させるだけで、当該薬物間の相互作用に関する知見を得ることが可能となる。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0023】
先ず、本発明の第1の肝代謝速度予測方法(第1の方法)について説明する。
【0024】
本発明の第1の方法は、標準化合物、血清及び複数ロットの肝細胞を用いて該肝細胞の各ロットにおける該標準化合物の代謝能を測定する第1の工程と、
該標準化合物における既知の体内動態パラメータ及び該代謝能よりスケーリングファクターを算出する第2の工程と、
該スケーリングファクターに基き、後の工程において代謝能の測定に使用する肝細胞のロットを選択する第3の工程と、
被験化合物、血清及び第3の工程で選択された肝細胞のロットを混合してインキュベーションし、インキュベーション後の溶液に含まれる該被験化合物の残存量を測定して該被験化合物の代謝能を測定する第4の工程と、
該代謝能及び第2の工程で算出されたスケーリングファクターより肝臓における該被験化合物の代謝速度を予測する第5の工程と、
を含むことを特徴とする。
先ず、本発明の第1の方法にかかる第1の工程について説明する。
【0025】
第1の工程は、標準化合物、血清及び複数ロットの肝細胞を用いて肝細胞の各ロットにおける標準化合物の代謝能を測定する工程である。
【0026】
本発明の第1の方法にかかる標準化合物は、その固有クリアランスが既知であるか又は測定可能であるものであれば特に制限されないが、ヒトにおける排泄経路が主に肝臓における代謝による化合物であることが好ましい。このような標準化合物としては、具体的には、例えば、ナロキソン(naloxone)、バスピロン(buspirone)、ベラパミル(verapamil)、リドカイン(lidocaine)、イミプラミン(imipramine)、メトプロロール(metoprolol)、チモロール(timolol)が挙げられる。
【0027】
なお、標準化合物の肝固有クリアランス(CLH,int,in vivo)の算出方法としては特に制限はなく、公知の方法を用いて算出することができる。また、文献等に当該標準化合物の固有値として記載されている値をそのまま用いてもよい。このような算出方法としては、具体的には、例えば、標準化合物のin vivo肝血漿クリアランス値(CLp)から、Well-stirred model、tube model又はdispersion model等の肝モデルで等式が成り立つようなCLH,int値を、Goal seek method (Microsoft Excel(Microsoft社)に付属の機能)に適用することにより算出することができる。
【0028】
ここで、Well-stirred modelとは、臓器又は血清中に分布している薬物は完全に攪拌されており、臓器又は血清中の薬物濃度は均一であり、且つ、臓器毛細血管中の薬物濃度と流出血液中の薬物濃度とは等しいとの仮定の下で数学的近似を行い、可能な限り単純化した条件でクリアランス値を算出するモデルである。また、tube modelとは、組織中の薬物濃度は、組織の入り口で高く、薬物の喪失により次第に低下していくとの仮定の下でクリアランス値を算出するモデルである。また、dispersion modelとは、tube modelに流れの方向の混合拡散を付加したモデルである。
【0029】
以下にdispersion modelによりCLH,int,in vivoを算出する具体例を示す。肝血流量(liver blood flow rate)をQH、ディスパージョンナンバー(dispersion number)をDN、血球分配値(blood-to-plasma concentration ratio)をRBとすると、
CLH,int,in vivoは、式(3)〜(6)
CLH=QH×RB×(1-4a/((1+a)2exp[(a-1)/(2×DN)]-(1-a)2exp[-(a+1)/(2×DN)]) …(3)
RN=(CLH,int)/(QH×RB) …(4)
a=(1+4×RN×DN)(1/2) …(5)
FH=1-EH=1-CLH/(QH×RB) …(6)
から算出することができる。
(補足;式(4)のCLH, intは、実際の体内動態データ(in vivo)をもとに算出された値である場合は、CLH, int, in vivoとも表記する。)
ここで、in vivoの体内動態試験から得られる血漿クリアランスは、肝血漿クリアランス以外のクリアランスを含む場合がある。従って、腸管吸収性に問題のない化合物の場合、経口バイオアベイラビリティ値(FPO)が、肝アベイラビリティ値と等しくなることを利用して、式(7)からCLHを算出し、式(3)〜(5)を用いたGoal seek methodからCLH,int,in vivoを算出することができる。
【0030】
CLH=FPO×QH×RB …(7)
本発明の第1の方法にかかる血清は、その由来となる動物は特に制限はないが、具体的には、例えば、ヒト血清、サル血清、イヌ血清、ラット血清、マウス血清が挙げられる。しかしながら、ヒトの肝代謝速度を予測するためには、被検化合物のヒト血清中蛋白結合率を正確に反映させる必要があるため、ヒト血清を使用することが好適である。また、精製したアルブミンや、精製した各種血清構成蛋白(アルブミン、α−アシッドグリコプロテイン、γ−グロブリン、リポプロテイン類)を再混合して、血清に相当する試料を再構成したものでも実施可能と考えられるが、ヒト血清中タンパク質結合率を正確に反映するために、ヒト血清を用いることがより好ましい。
【0031】
また、前記血清の濃度は比較的高濃度であれば具体的な濃度は特に限定されないが、50〜100%であることが好ましく、80〜100%であることがより好ましく、100%の血清に肝細胞が懸濁されている状態であることが特に好ましい。
【0032】
また、本発明の第1の方法にかかる肝細胞は、その由来は特に制限されず、具体的には、例えば、ヒト肝細胞、サル肝細胞、イヌ肝細胞、ウサギ肝細胞、ラット肝細胞、マウス肝細胞が挙げられるが、薬物のヒト体内での動態をより正確に再現できるとの観点からはヒト肝細胞であることが最も好ましい。さらに、前記肝細胞は肝臓組織より分離された生細胞の状態であっても、保存の為に凍結された状態であってもよい。
【0033】
このような肝細胞は、通常、遊離細胞の状態で使用されるが、その調製方法としては特に制限はなく、既知の方法で実施すればよい。このような方法としては、具体的には、例えば、肝組織のコラゲナーゼ処理が挙げられる。
【0034】
しかし、通常、試験用の肝細胞は凍結された状態で市販されている場合が殆どであるため、本発明においてはヒト凍結肝細胞を用いる場合が多いものと考えられる。
【0035】
本発明の第1の方法においては、このような肝細胞を複数ロット用いてバリデーション試験を実施することを特徴とする。すなわち、肝細胞は、ヒトであればその由来となる個々人に応じて個性があり、薬物の代謝能をはじめ、種々の点でそのロット独自の性質を有する。このような肝細胞を単一のロットのみ用いて薬物の肝代謝速度の測定を行った場合、当該ロットに固有の性質に立脚した結果が得られる。このような結果は本来の肝代謝速度を正確に反映していない可能性がある。かかる問題点を解消すべく、本発明の第1の方法においては複数ロットの肝細胞を用いてバリデーション試験を実施し、そこから肝代謝速度の測定に好適な肝細胞を選択することとしている。
【0036】
前述の標準化合物、血清及び複数ロットの肝細胞を用いて肝細胞の各ロットにおける標準化合物の代謝能を測定する方法は以下のとおりである。すなわち、先ず、血清を準備し、そこに肝細胞を懸濁する。血清は希釈せずに用いることが好ましいが、希釈して用いる場合は、例えば、リン酸緩衝液等の緩衝液を用いて希釈すればよい。また、当該肝細胞が凍結されたものである場合には、定法に従って融解し、実験に供すればよい。懸濁の方法としては、肝細胞が血清に均一に攪拌される手段であれば特に限定されない。
【0037】
次に、肝細胞が懸濁された血清に標準化合物を混合する。この際の混合方法としても、特に制限はなく、標準化合物が血清に均一に攪拌される手段であれば特に限定されない。また、混合後は、代謝反応を進行させるために、例えば、1分あたり150回の振とうを行うことが好ましいが、一定時間静置してもよい。このような静置の条件としては、反応系中で代謝酵素が活性化するような条件であれば特に制限はなく、混合する標準化合物によって好適な条件を適宜設定すればよい。このような条件としては、具体的には、例えば、一般的な細胞培養の条件である、35〜40℃、3〜7%二酸化炭素存在下といった条件や、30〜40℃、3〜7%二酸化炭素及び93〜97%酸素存在下と行った条件が挙げられる。
【0038】
以上の反応が終了した後、溶液に含まれる標準化合物の残存量を測定することにより、代謝された標準化合物の量を算出することができる。標準化合物の残存量の測定は、化合物の定量に通常使用されているような方法であれば特に制限はなく、標準化合物の種類に応じて適宜好適な方法を採用すればよい。このような測定の方法としては、具体的には、例えば、液体クロマトグラフィー(LC)とUV、蛍光、電気化学検出器を用いる検出法、LC-MS/MSのSIMまたはMRM検出法、バイオロジカルアッセイが挙げられる。
【0039】
第1の工程にかかる代謝能は、具体的には肝固有クリアランス(CLH,int,in vivo)を表し、薬物の残存率(R)、酵素密度(D)及び反応時間(T)より以下の式(8)を用いて算出することができる。
【0040】
CL=(-logeR)/(D×T) …(8)
以下に、式(8)を導く工程を示す。
【0041】
In vitro系でのクリアランス値(CLint, in vitro)は、クリアランスの定義より
CLint, in vitro=rate of metabolism/C …(9)
(式(9)中、rate of metabolismはIn vitro系での代謝速度を表し、Cは酵素が利用可能な血清中薬物濃度を表す。)と表すことができる。ここで、本発明においては、In vitroにおける代謝実験は血清存在下で行っているため、Cは血清中の薬物濃度であり、CLint, in vitroは血清中の薬物濃度に対するCL値となる。
【0042】
一方、ミカエリスメンテン式で酵素反応の速度を表現すると、
rate of metabolism=C×Vmax/(C+Km) …(10)
(式(10)中、Vmaxは最大反応速度を表し、Kmはミカエリス定数を表す。)
と表すことができるが、C << Kmを仮定すると、式(10)は、
rate of metabolism=C×(Vmax/Km) …(11)
と近似可能である。
【0043】
したがって、式(9)及び(11)より、CLint, in vitro=(Vmax /Km)と表現されCLint, in vitroは一定の定数となる。ここで、式(9)を微分方程式で表現すると、
rate of metabolism=dC/dt …(12)
(式(12)中、Cは薬物濃度を表し、tは反応時間を表す。)となるから、酵素密度(代謝酵素密度、細胞密度など)をDとしてin vitro試験を実施した場合、式(11)は、
dC/dt=-CLint, in vitro×D×C(t) …(13)
(式(13)中、C(t)は反応時間tでの薬物濃度を表す。)
と表すことができる。この微分方程式を解くと、経過時間Tにおける薬物濃度C(T)は、
C(T)=C(0)×e(-CL × D × T) …(14)
と表される。ここで、
C(T)/C(0)=R …(15)
(式(15)中、Rは、時間T後の時間0に対する薬物の残存率を表す。)と置き換えると
R=e(-CL × D × T) …(16)
となり、両辺へlogeを適用することにより、
CL=(-logeR)/(D×T) …(8)
と表すことができる。
【0044】
従って、CE<<Kmを仮定することにより、In vitroにおけるクリアランス値(CLint, in vitro)は、薬物の残存率(R)、酵素密度(D)、反応時間(T)を用いて式(8)で表現可能である。
一方、CE<<Kmでない場合でも、R≒1であれば、
CL=(1-R)/(D×T) …(17)
と近似可能である。
【0045】
なお、薬物代謝の試験では、一般的に基質濃度(CE)は1 オM以下の低濃度である。したがって、特別な場合を除き、CE<<Kmと仮定した式(8)で、In vitroにおけるCLを計算すればよい。なお、in vitroにおけるCL値の算出方法は、式(8)に限定したものではなく、他の適切な計算方法によってもかまわない。
【0046】
次に、本発明の第1の方法にかかる第2の工程について説明する。
第2の工程は、前記標準化合物における既知の体内動態パラメータ及び前記代謝能よりスケーリングファクターを算出する工程である。
【0047】
第2の工程にかかる標準化合物における既知の体内動態パラメータとしては、具体的には、例えば、当該標準化合物の肝固有クリアランスが挙げられる。ここで、「肝固有クリアランス」とは、単位時間あたりに肝臓で消失した薬物量を、その薬物量を含有する血清(肝臓に流入する前の血清中薬物濃度が基準)の体積に換算した数値をいう。
【0048】
第2の工程にかかる代謝能は、第1の工程で測定した代謝能、すなわちin vitro系での固有クリアランス(CLint,in vitro)であり、当該標準化合物のin vivoでの肝固有クリアランス(CLH,int,in vivo)は、スケーリングファクター(SF)を用いて以下の式(18)で表すことができる。
【0049】
CLH,int,in vivo=CLint,in vitro×SF …(18)
ここで、式(18)を書き換えると、
SF=CLH,int,in vivo/CLint,in vitro …(19)
となり、使用した肝細胞に対する既知化合物のスケーリングファクター値が算出できる。
【0050】
ここで、第2の工程で使用する標準化合物は1種類であってもよいが、最終的な薬物の肝代謝速度予測の精度を高めるためにも、2種類以上であることが好ましい。
【0051】
次に、本発明の第1の方法にかかる第3の工程について説明する。
【0052】
第3の工程は、前記スケーリングファクターに基き、後の工程において代謝能の測定に使用する肝細胞のロットを選択する工程である。
【0053】
上述したように、複数のロットを用いて薬物の代謝速度を測定した場合、肝細胞のロット毎に保持している代謝能が均質でないことがあるため、該標準化合物毎のスケーリングファクター値に差異が生じる場合がある。第3の工程では、かかる差異を最小限に抑えるため、後の工程で代謝能の測定に使用する肝細胞のロットを選択する。以下、かかる選択方法の具体例について説明する。
【0054】
先ず、第2の工程において、肝細胞のロット毎に標準化合物毎のスケーリングファクター値を算出する。次に、ある肝細胞のロットにおいて、各標準化合物について得られたスケーリングファクター値の標準化合物間の差異が少ないロットを見出す。ここで、当該差異の大小を判断する手法としては特に制限はなく、例えば、標準化合物間のスケーリングファクター値の標準誤差や標準偏差に基づいて判断することができる。ここで、スケーリングファクター値における「標準化合物間の差異が小さい」と言える差異の幅は、最終的な肝代謝速度の予測精度に応じて適宜決定することができるが、具体的には、例えば、あるロットに対する複数の標準化合物のスケーリングファクター値(109cells/kg)の標準誤差(CV%)が100%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましく、25%以下であることが特に好ましい。また、当該平均値に代えて標準偏差を指標にしてもよく、この場合、標準偏差が0〜10であることが好ましく、0〜5であることがより好ましく0〜2.5であることが特に好ましい。このようにして見出された肝細胞のロットは、化合物種によって種々のパラメータに影響を受けにくいロットであると言える。従って、かかるロットを用いて以下の工程に進むことにより、より精度の高い肝代謝速度の予測が可能となる。
【0055】
ここで、好適であると考えられるロットが複数ある場合、または、2種類以上のロットを一定の割合で混合することにより好適となる場合には、かかる複数のロットを混合したものを使用して以下の工程に進んでもよいが、この場合の具体的な手順については、後述の第2の方法において詳細に説明する。
【0056】
次に、本発明の第1の方法にかかる第4の工程について説明する。
第4の工程は、被験化合物、血清及び第3の工程で選択された肝細胞のロットを混合してインキュベーションし、インキュベーション後の溶液に含まれる当該被験化合物の残存量を測定して当該被験化合物の代謝能を測定する工程である。
本工程にかかる被験化合物としては、その代謝速度の測定を目的とする被験化合物であればその基本骨格、化学的性質及び物理的性質等は特に制限はない。また、第1の工程で使用した標準化合物における基本骨格、化学的性質及び物理的性質等と、被験化合物におけるこれらの性質が一致、近似している必要もない。
本工程にかかる被検化合物の代謝能の測定は、前記肝細胞のロットを血清に懸濁し、そこに被験化合物を混合することにより行えばよい。ここで、前記血清は、その由来となる動物は特に制限はないが、具体的には、例えば、ヒト血清、サル血清、イヌ血清、ラット血清、マウス血清が挙げられる。しかしながら、ヒトの肝代謝速度を予測する目的には、被検化合物のヒト血清中蛋白結合率を正確に反映する目的のため、ヒト血清を使用することが好適である。また、精製したアルブミンや、精製した各種血清構成蛋白(アルブミン、α−アシッドグリコプロテイン、γ−グロブリン、リポプロテイン類)を再混合して、血清に相当する試料を再構成したものでも実施可能と考えられるが、ヒト血清中タンパク質結合率を正確に反映するために、ヒト血清を用いることがより好ましい。また、その濃度は比較的高濃度であれば具体的な濃度は特に制限されないが、50〜100%であることが好ましく、80〜100%であることがより好ましく、100%の血清に肝細胞が懸濁されている状態であることが特に好ましい。
【0057】
また、血清及び肝細胞を用いて被験化合物の代謝能を測定する方法は以下のとおりである。すなわち、先ず、血清を準備し、そこに肝細胞を懸濁する。血清は希釈せずに用いることができるが、希釈して用いる場合は、例えば、リン酸緩衝液等の緩衝液を用いて希釈すればよい。また、当該肝細胞が凍結されたものである場合には、定法に従って融解し、実験に供すればよい。懸濁の方法としては、肝細胞が血清に均一に攪拌される手段であれば特に限定されない。
【0058】
次に、肝細胞が懸濁された血清に被検化合物を混合する。この際の混合方法としても、特に制限はなく、被検化合物が血清に均一に攪拌される手段であれば特に限定されない。また、混合後は、代謝反応を進行させるために振とうしたり、一定時間静置してもよい。このような条件としては、反応系中で代謝酵素が活性化するような条件であれば特に制限はなく、混合する被検化合物によって好適な条件を適宜設定すればよい。このような条件としては、具体的には、例えば、一般的な細胞培養の条件である、35〜40℃、3〜7%二酸化炭素存在下といった条件や、30〜40℃、3〜7%二酸化炭素及び93〜97%酸素存在下と行った条件が挙げられる。
【0059】
以上の反応が終了した後、溶液に含まれる被検化合物の残存量を測定することにより、代謝された被検化合物の量を算出することができる。被検化合物の残存量の測定は、化合物の定量に通常使用されているような方法であれば特に制限はなく、被検化合物の種類に応じて適宜好適な方法を採用すればよい。このような測定の方法としては、具体的には、例えば、液体クロマトグラフィー(LC)とUV、蛍光、電気化学検出器を用いる検出法、LC-MS/MSのSIMまたはMRM検出法、バイオロジカルアッセイが挙げられる。
こうして得られた被験化合物の残存量からの代謝能の算出は、前記第1の工程における標準化合物の代謝能の算出と同様、薬物の残存量、細胞(酵素)密度及び反応時間よりin vitroの固有クリアランスを算出する方法(式(8))により実施すればよい。
【0060】
次に、本発明の第1の方法にかかる第5の工程について説明する。
【0061】
第5の工程は、第3の工程で選択された肝細胞のロットを用いて、第4の工程で測定した代謝能及び第2の工程で算出された該ロットの平均的なスケーリングファクターを用いて肝臓における該被験化合物の代謝速度を予測する工程である。平均的なスケーリングファクターとしては、各標準化合物のスケーリングファクターの平均値をもちいるが、範囲内のおおよその平均値を採用しても良い。
【0062】
本工程にかかる代謝能とは、第1の工程から第3の工程によって選択されたロットの肝細胞を用いて測定された被検化合物の代謝能を指す。また、本工程にかかるスケーリングファクターは、前記肝細胞ロットの各標準化合物の代謝能から得られた前述の平均的なスケーリングファクターを指す。ここで、前記代謝能をCLint,in vitroとし、前記の平均的なスケーリングファクターをSFとすると、生体内の肝固有クリアランスCLH,int,in vivoは、下記式(18)、
CLH,int,in vivo=CLint,in vitro×SF …(18)
より求めることができる。
【0063】
こうしてin vitroから外挿的に算出された生体内の肝固有クリアランスCLH,int,in vivoを、式(3)〜(6)へ代入することにより、ヒト肝代謝パラメータである、肝アベイラビリティ(FH)及び肝クリアランス(CLH)を予測することができる。
【0064】
次に、本発明の第2の肝代謝速度予測方法(第2の方法)について説明する。
【0065】
本発明の第2の方法は、標準化合物、複数ロットの肝細胞及び血清を用いて前記肝細胞の各ロットにおける前記標準化合物の代謝能を測定する第1の工程と、前記標準化合物における既知の体内動態パラメータ及び前記代謝能よりスケーリングファクターを算出する第2の工程と、前記スケーリングファクターに基き、後の工程において代謝能の測定に使用する肝細胞のロットを複数選択し、前記ロット間の混合比を決定して混合する第3の工程と、第3の工程で混合された肝細胞、標準化合物及び血清を混合し、スケーリングファクターを算出する第4の工程と、被験化合物、血清及び第3の工程で得られた肝細胞の混合物を混合してインキュベーションし、インキュベーション後の溶液に含まれる当該被験化合物の残存量を測定して被験化合物の代謝能を測定する第5の工程と、前記代謝能及び第4の工程で算出されたスケーリングファクターより肝臓における前記被検化合物の代謝速度を予測する第6の工程と、を含むことを特徴とする。
【0066】
先ず、本発明の第2の方法にかかる第1の工程について説明する。
【0067】
第1の工程は、標準化合物、血清及び複数ロットの肝細胞を用いて前記肝細胞の各ロットにおける前記標準化合物の代謝能を測定する工程である。本工程において使用される標準化合物、血清及び複数ロットの肝細胞は、いずれも本発明の第1の方法と同様のものが使用可能である。また、これらを用いて前記標準化合物の代謝能を測定する手順についても、本発明の第1の方法と同様に実施可能である。
【0068】
次に、本発明の第2の方法にかかる第2の工程について説明する。
【0069】
第2の工程は、前記標準化合物における既知の体内動態パラメータ及び前記代謝能よりスケーリングファクターを算出する工程である。本工程における既知の体内動態パラメータ及び代謝能は、いずれも本発明の第1の方法と同じものを指す。
【0070】
次に、本発明の第2の方法にかかる第3の工程について説明する。
【0071】
第3の工程は、前記スケーリングファクターに基き、第4の工程において代謝能の測定に使用する肝細胞のロットを複数選択し、前記ロット間の混合比を決定して混合する工程である。
【0072】
本工程は、第1の方法における第3の工程と同様の目的を有する工程であるが、後の工程で代謝能の測定に使用する肝細胞のロットを複数選択して混合することを特徴とする。
【0073】
すなわち、先ず、第2の方法における第2の工程において、肝細胞のロット毎に標準化合物毎のスケーリングファクター値を算出する。次に、ある肝細胞のロットを2つ以上混合することにより、各標準化合物について得られたスケーリングファクター値の標準化合物間の差異が少なくなるような組み合わせのロットを見出す。ここで、当該差異の大小を判断する手法としては特に制限はなく、例えば、標準化合物間のスケーリングファクター値の標準誤差や標準偏差に基づいて判断することができる。このようにして見出された肝細胞のロットは、化合物種によって種々のパラメータに影響を受けにくいロットであると言える。従って、かかるロットを用いて以下の工程に進むことにより、より精度の高い肝代謝速度の予測が可能となる。
【0074】
こうして見出されたスケーリングファクター値の標準化合物間の差異が小さいロットの組み合わせを後の工程で使用することにより、最終的な肝代謝速度の予測精度を向上させることが可能となる。ここで、スケーリングファクター値における「標準化合物間の差異が小さい」と言える差異の幅は、最終的な肝代謝速度の予測精度に応じて適宜決定することができるが、具体的には、例えば、あるロットに対する複数の標準化合物のスケーリングファクター値(109cells/kg)の標準誤差(CV%)が100%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましく、25%以下であることが特に好ましい。また、当該平均値に代えて標準偏差を指標にしてもよく、この場合、標準偏差が0〜10であることが好ましく、0〜5であることがより好ましく0〜2.5であることが特に好ましい。
次に、本発明の第2の方法にかかる第4の工程について説明する。
【0075】
第4の工程は、第3の工程で得られた肝細胞、標準化合物及び血清を混合し、当該肝細胞固有のスケーリングファクターを算出する工程である。
【0076】
本工程におけるスケーリングファクターの算出は、第3の工程で混合し、後の工程で使用することとなった肝細胞のロット混合物のスケーリングファクターを確認的に算出するものである。すなわち、第3の工程で選択した複数ロットの肝細胞の混合後の平均的なスケーリングファクター値を計算的に求めることで本工程におけるスケーリングファクター値とすることもできるが、実際に混合した後の肝細胞における標準化合物の代謝能を求めた上で、改めてスケーリングファクターを算出し、その平均値を当該肝細胞固有のスケーリングファクター値とすることで、最終的に得られる肝代謝速度の値の信頼性が高まる。
【0077】
ここで、第3の工程で得られた肝細胞、標準化合物及び血清を用いて当該標準化合物の代謝能を測定し、さらにスケーリングファクターを算出する方法は、複数ロットの肝細胞に代えて第3の工程で得られた肝細胞を使用する以外は第1の工程及び第2の工程と同様である。
【0078】
次に、本発明の第2の方法にかかる第5の工程について説明する。
【0079】
第5の工程は、被験化合物、血清及び第3の工程で得られた肝細胞の混合物を混合してインキュベーションし、インキュベーション後の溶液に含まれる当該被験化合物の残存量を測定して被験化合物の代謝能を測定する工程である。
【0080】
前記の第1〜第4の工程は、いわば被験化合物の代謝能の測定を行うに際して適切な肝細胞を選択する工程である。一方、第5の工程以降が、肝代謝速度の測定の対象となる被験化合物を用いた工程である。
【0081】
本工程にかかる被験化合物としては、その代謝速度の測定を目的とする被験化合物であればその基本骨格、化学的性質及び物理的性質等は特に制限はない。また、第1の工程で使用した標準化合物における基本骨格、化学的性質及び物理的性質等と、被験化合物におけるこれらの性質が一致、近似している必要もない。
【0082】
また、本工程にかかる被検化合物の代謝能の測定は、前記肝細胞の混合物を血清に懸濁し、そこに被験化合物を混合することにより行えばよい。ここで、前記血清は、その由来となる動物は特に制限はないが、具体的には、例えば、ヒト血清、サル血清、イヌ血清、ラット血清、マウス血清が挙げられる。しかしながら、ヒトの肝代謝速度を予測する目的には、被検化合物のヒト血清中蛋白結合率を正確に反映する目的のため、ヒト血清を使用することが好適である。また、精製したアルブミンや、精製した各種血清構成蛋白(アルブミン、α−アシッドグリコプロテイン、γ−グロブリン、リポプロテイン類)を再混合して、血清に相当する試料を再構成したものでも実施可能と考えられるが、ヒト血清中タンパク質結合率を正確に反映するために、ヒト血清を用いることがより好ましい。また、その濃度は比較的高濃度であれば具体的な濃度は特に制限されないが、50〜100%であることが好ましく、80〜100%であることがより好ましく、100%の血清に肝細胞が懸濁されている状態であることが特に好ましい。
【0083】
また、血清及び肝細胞を用いて被験化合物の代謝能を測定する方法は以下のとおりである。すなわち、先ず、血清を準備し、そこに肝細胞を懸濁する。血清は希釈せずに用いることができるが、希釈して用いる場合は、例えば、リン酸緩衝液等の緩衝液を用いて希釈すればよい。また、当該肝細胞が凍結されたものである場合には、定法に従って融解し、実験に供すればよい。懸濁の方法としては、肝細胞が血清に均一に攪拌される手段であれば特に限定されない。
【0084】
次に、肝細胞が懸濁された血清に被検化合物を混合する。この際の混合方法としても、特に制限はなく、被検化合物が血清に均一に攪拌される手段であれば特に限定されない。また、混合後は、代謝反応を進行させるために振とうしたり、一定時間静置してもよい。このような条件としては、反応系中で代謝酵素が活性化するような条件であれば特に制限はなく、混合する被検化合物によって好適な条件を適宜設定すればよく、具体的には、例えば、一般的な細胞培養の条件である、35〜40℃、3〜7%二酸化炭素存在下といった条件や、30〜40℃、3〜7%二酸化炭素及び93〜97%酸素存在下と行った条件が挙げられる。
【0085】
以上の反応が終了した後、溶液に含まれる被検化合物の残存量を測定することにより、代謝された被検化合物の量を算出することができる。被検化合物の残存量の測定は、化合物の定量に通常使用されているような方法であれば特に制限はなく、被検化合物の種類に応じて適宜好適な方法を採用すればよい。このような測定の方法としては、具体的には、例えば、液体クロマトグラフィー(LC)とUV、蛍光、電気化学検出器を用いる検出法、LC-MS/MSのSIM又はMRM検出法、バイオロジカルアッセイが挙げられる。
【0086】
こうして得られた被験化合物の残存量からの代謝能の算出は、前記第1の工程における標準化合物の代謝能の算出と同様、薬物の残存量、細胞(酵素)密度及び反応時間よりin vitroの固有クリアランスを算出する方法(式(8))により実施すればよい。
【0087】
次に、本発明の第2の方法にかかる第6の工程について説明する。
【0088】
第6の工程は、第5の工程で測定した代謝能及び第4の工程で算出された該ロット固有の平均的なスケーリングファクターより肝臓における該被験化合物の代謝速度を予測する工程である。平均的なスケーリングファクターとしては、各標準化合物のスケーリングファクターの平均値をもちいるが、範囲内のおおよその平均値を採用しても良い。
【0089】
本工程にかかる代謝能とは、第1の工程から第4の工程によって選択された複数ロットの肝細胞の混合物を用いて測定された被検化合物の代謝能を指す。また、本工程にかかるスケーリングファクターは、前記肝細胞の混合物の各標準化合物の代謝能から得られた前述の平均的なスケーリングファクターを指す。ここで、前記代謝能をCLint,in vitroとし、前記の平均的なスケーリングファクターをSFとすると、生体内の肝固有クリアランスCLH,int,in vivoは、下記式(18)、
CLH,int,in vivo=CLint,in vitro×SF …(18)
より求めることができる。
【0090】
こうしてin vitroから外挿的に算出された生体内の肝固有クリアランスCLH,int,in vivoを、式(3)〜(6)へ代入することにより、ヒト肝代謝パラメータである、肝アベイラビリティ(FH)及び肝クリアランス(CLH)を予測することができる。
【0091】
さらに、本発明においては、以上に説明したような肝代謝速度予測方法を応用することにより、複数の被検化合物存在下において、当該被験化合物間の相互作用を予測することが可能となる。
【0092】
以下に、本発明の薬物間相互作用の予測方法について説明する。
【0093】
本発明の薬物間相互作用の予測方法は、前記第1の方法における第4の工程又は第2の方法における第5の工程において、2種以上の被験化合物の代謝能を測定することにより当該被験化合物間の相互作用を予測することを特徴とする。
【0094】
2種以上の被検化合物の代謝能を測定するには、これらの薬物を代謝能の測定の際に共存させて代謝反応を進行せしめた後、薬物それぞれの代謝能を測定すればよい。また、複数の薬物の代謝能を測定する際に、それぞれの薬物の濃度を適宜変化させることにより、代謝時の薬物間の相互作用の程度を予測することができる。
【0095】
具体的には、例えば、化合物Aの代謝に化合物Bがどのように影響するかを予測したい場合、被験化合物Aの代謝能の測定系に化合物Bを共存させて測定を行う。この場合、化合物A及び化合物Bの血清中濃度は、ヒトの肝臓に流入する化合物A及び化合物Bの血清(血漿)中薬物濃度に対応する。従って、両化合物の血清中濃度を適宜変化させて代謝能の測定系における薬物間相互作用を検証することにより、肝臓の代謝における相互作用の様子を簡便且つ定量的に予測することが可能となる。
【0096】
以上説明したように、本発明の肝代謝速度予測方法及び薬物間相互作用の予測方法によれば、ヒト肝細胞を用いて薬物動態学上のパラメータを算出する際に、非常に簡易な工程で実施が可能となる。また、ロット間で種々の性質に差がある複数のロットの肝細胞を用いて肝代謝能を測定する場合でも、特異な性質を有する特定のロットに依存した結果ではなく、極めて信憑性の高い値を求めることができる。かかる複数ロットの肝細胞を用いた場合でも、非常に簡便な工程で肝代謝速度の算出ができるため、創薬研究のスピードアップに大いに寄与するものであり、ひいては画期的な新薬が待望される社会に大いなる貢献をするものである。
【0097】
【実施例】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
(混合ロットの調製)
ヒト凍結遊離肝細胞(Lot 64, 70, 73, 107及びNQT(それぞれ、ヒトから採取された肝細胞であり、全てIn vitro technologies社製))をメーカの定めた定法により調製し、以下の手順で実施した。また、これらの調製にはWilliam's E Medium (pH 7.4)を使用し、操作は全て氷浴中でロット毎に行った。
【0098】
先ず、各ロットの遊離肝細胞をヒト血清に懸濁し(生細胞密度:1×106 cells/ml)、1.5 ml容量のエッペンドルフチューブに380μlづつ分注した(計7本)。次に、各チューブに表1に示した化合物水溶液(それぞれ100μM)を、3.8μlづつ添加し、混合した。表1中、CLP, in vivoは、ヒトの実際の血漿クリアランス値(ml/min/kg)であり、FPO, in vivoは、ヒトの実際の経口バイオアベイラビリティ値を表す。また、CLH, int, in vivoは、式(7)からCLHを算出し、式(3)〜(5)を用いたGoal seek methodから算出した肝固有クリアランス値(ml/min/kg)である。また、RBは、ヒト血液中でのBlood-to-plasma concentration ratio(血球分配値)である。
(表1)
【0099】
この混合液を、2枚の96穴プレートへ50μl/wellになるよう、各3カ所へ分注した(計7種類)。一方の96穴プレートを、37度、95%酸素+5%二酸化炭素の気下で、150 rpmで振とうして120分間インキュベーションした。インキュベーション終了後、内標(400 nM Diazepam)入りエタノール溶液を150μl加えて混合し、0.5 mlのエッペンドルチューブへ移した。これを10,000gで10分間遠心後、上清中の化合物濃度をLC-MS/MSのMRM法で分析し、コントロール(インキュベーションしなかった方のプレート)に対するインキュベーション後の化合物の残存率(R)を算出した(表2)。
(表2)
【0100】
次に、各々のロットに対して各標準化合物のCLint, in vitro値(ml/min/109 cells)を式(8)から求めた(表3)。
(表3)
【0101】
さらに、表1に示した各化合物のIn vivoの肝固有クリアランス値(CLH, int,in vivo)から、(19)式を用いて、各標準化合物のSF値(109 cells/kg)を各々のロットに対して求めた(表4)。
(表4)
【0102】
その結果、Lot 73がもっとも化合物間のSFの差異が小さいことが判明した。もちろん、この平均値をSF値として、Lot 73単独でバリデーションされた試料としても良いが(第1の方法に相当)、より信頼性を向上するため、Lot 73と他のロットを等量混合し、さらに、SF値の化合物による差異(CV%)を小さくすることを試みた(第2の方法に相当)。異なる二つのロットを混合したときのSFの推測値を、SFx+y = (SFx+SFy)/2の計算式により求めたとき、Lot 73に対する、他の4ロットとの混合後のSF(109 cells/kg)の推測値を、表5に示した。
(表5)
【0103】
その結果、Lot 70とLot 73との混合ロットが最も化合物間のSFの標準誤差(CV%)が小さいことが認められた。この結果から、Lot 70とLot 73との混合ロットを行いて実際のSFを算出したところ、化合物間のSFの標準誤差(CV%)がさらに小さい試料であることを見いだすことができた。Lot 70とLot 73との混合ロットの場合、SFの平均値は、8.98×109 cells/kgと算出された(表6)。以降、Lot 70とLot 73の混合ロットの場合、このスケーリングファクターの平均値(8.98×109 cells/kg)をもちいて、被験化合物のヒト肝代謝速度を予測することが可能となる。
(表6)
【0104】
(実施例2)
(混合ロットを利用したヒト肝代謝クリアランス及び肝アベイラビリティ値の予測)
実施例1で調製された混合ロット(Lot 70+73)を用い、さらに、新たな7化合物(表7の化合物No.8-14)を評価をおこなった。なお、表7中、fuは血漿非結合画分を表し、RBは血球分配値(Blood-to-plasma concentration ratio)を表し、CLP, in vivoはヒトにおける血漿クリアランスを表し、FPO,in vivoは経口バイオアベイラビリティを表し、Dは血清中に懸濁した細胞密度を表し、Rは2時間インキュベーションした後の化合物の残存率を表し、CLint,in vitro,70+73は肝細胞のロット70と73とを混合した肝細胞混合物のin vitro固有クリアランスを表し、SF70+73は肝細胞のロット70と73とを混合した肝細胞混合物のスケーリングファクターを表し、average SF70+73は、ロット 70と73を実際に混合した場合の平均的なスケーリングファクター値(以降 SF70+73(平均値))を表し、CLH,predicted,70+73はCLint,in vitro,70+73とSF70+73(平均値)とから予測された肝クリアランスを表し、FH,predicted,70+73はCLint,in vitro,70+73とSF70+73(平均値)とから予測された肝アベイラビリティを表す。
(表7)
【0105】
(18)式に示したように、 CLint, in vitroをSFの平均値8.98×109 cells/kgと掛け合わせて算出したCLH, int値を式(3)〜(6)へ代入し、予測CLH及びFH値を得た。図1にはCLHの予測結果を、図2には、FHの予測結果を示した。また、図1及び図2の(a)のグラフには表1に記載の標準化合物1〜7の結果を、同じく(b)のグラフには、新たに評価した化合物8〜14の結果を示した。グラフ中、X軸はin vitroからの予測値であり、Y軸はin vivoにおける対応するパラメータである。
【0106】
結果として、凍結肝細胞を用いたSerum incubation methodをグラフ(a)の様にバリデーションしておき、その平均的なSFを未知化合物に適応することにより、グラフ(b)のように、in vivoの肝クリアランス(CLH)やアベイラビリティ(FH)を定量的に予測できることが示された。
(実施例3)
(薬物間相互作用の予測)
テルフェナジン(Terfenadine)は、主にCYP3A4で代謝される化合物であり、ケトコナゾール(Ketoconazole)はCYP3A4の強い阻害剤であることが知られている。以下にTerfenadine及びKetoconazoleを本発明のヒト薬物間相互作用の予測方法に適用した例を示す。
【0107】
本実施例では、Ketoconazole 0、0.04、0.2、0.6、2及び10μM存在下における、0.02、0.2及び2μMのTerfenadineのFHやCLHに及ぼす影響を予測した。本実施例では、バリデーションされた試料としてLot 97とLot 120を混合したもの(平均的なSF値=10.2×109 cells/kg)を用い、これをヒト血清に1×106cells/mlの細胞密度で懸濁してアッセイを行った。表8に120 min後の残存率(R)の測定値を、表9に各々のCLint, in vitro(ml/min/109cells)値の計算値を示した。
(表8)
【0108】
(表9)
【0109】
さらに、表10にFH(%)の予測結果を、表11にCLH(ml/min/kg)の予測結果を示した。
(表10)
【0110】
(表11)
【0111】
本手法での薬物間相互作用の予測は、評価に用いた血清中薬剤濃度が実際の肝臓に流入したときのCLHやFH値として算出される。このようにして、2種の薬剤が共存していても、簡単にTerfenadineの代謝にKetoconazoleの及ぼす影響を定量的に予測することができる。
【0112】
実際に、ヒトのデータでは、Ketoconazole(200mg)を1日2回、経口で連続投与中に、Terfenadine(60mg)の経口投与を受けると、Ketoconazoleの連続投与を受けていない場合の約37倍のAUCの増大が認められることが報告されている(Honig PK. et al.: Terfenadine-ketoconazole interaction. Pharmacokinetic and electrocardiographic consequences. JAMA. 269:1513-8(1993))。また、Ketoconazole連続投与中の血漿中濃度は約10μMと推定できる(Brass C. et al., Disposition of ketoconazole, an oral antifungal, in humans. Antimicrobial Agents & Chemotherapy. 21:151-8(1982))。さらに、Terfenadineの初回通過時に肝臓へ流入する平均血漿中濃度は約2μMと推定でき、全身へ流入後の肝臓へ流入する代表的血漿中濃度を約0.02μMと推定できる(von Moltke LL. Greenblatt DJ. Et al. In vitro prediction of the terfenadine-ketoconazole pharmacokinetic interaction. Journal of Clinical Pharmacology. 34:1222-7(1994))。
【0113】
Terfenadine 2μMに対してKetoconazole 10μM存在時の予測FHは63.7%とKetoconazoleの非存在時の4.4%に対し、約14.5倍である。また、Terfenadine 0.02μMに対してketoconazole 10μM存在時の予測CLHは8.6ml/min/kgとKetoconazoleの非存在時の20.4 ml/min/kgに対し、約2.4倍である。Terfenadineの排泄が肝臓だけで説明できると仮定すると、Ketoconazole投与時の、TerfenadineのAUC(血漿中濃度曲線下面積)は、肝アベイラビリティ値の阻害率×肝クリアランスの阻害率分増大するため、(14.5×2.4=)35倍と予測される。この結果は実際に、論文(Honig PK. et al.: Terfenadine-ketoconazole interaction. Pharmacokinetic and electrocardiographic consequences. JAMA. 269:1513-8(1993))に報告されている相互作用の程度とよく一致した。
【0114】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の肝代謝速度予測方法によれば、ヒト肝細胞を用いて薬物動態学上のパラメータを算出する際に、効率よく且つ正確に当該算出を行うことが可能となる。また、従来までは、非常に複雑かつ煩雑で信頼性に乏しかった肝臓における薬物間相互作用の予測が、極めて容易かつ高い信頼性をもって実施可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は、標準化合物1〜7における予測肝クリアランスとIn vivo血漿クリアランスとの関係を示したグラフである。
(b)は、標準化合物8〜14における予測肝クリアランスとIn vivo血漿クリアランスとの関係を示したグラフである。
【図2】(a)は、標準化合物1〜7における予測肝アベイラビリティと経口バイオアベイラビリティとの関係を示したグラフである。
(b)は、標準化合物8〜14における予測肝アベイラビリティと経口バイオアベイラビリティとの関係を示したグラフである。
【図3】(a)は、テルフェナジン(初濃度0.02μM)とケトコナゾールの相互作用における、各種ケトコナゾール濃度(0、0.04、0.2、0.6、2、10μM)共存下での、テルフェナジンの残存率とインキュベーション時間の関係を示すグラフである。
(b)は、テルフェナジン(初濃度0.2μM)とケトコナゾールの相互作用における、各種ケトコナゾール濃度(0、0.2、2、10μM)共存下での、テルフェナジンの残存率とインキュベーション時間との関係を示すグラフである。
(c)は、テルフェナジン(初濃度2μM)とケトコナゾールの相互作用における、各種ケトコナゾール濃度(0、0.04、0.2、0.6、2、10μM)共存下での、テルフェナジンの残存率とインキュベーション時間との関係を示すグラフである。
【発明の属する技術分野】本発明は、薬物の肝代謝速度の予測方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、コンビナトリアルケミストリーに代表される化合物の合成・スクリーニング技術の急速な発展に伴い、創薬研究の比較的初期の段階で化合物の薬物動態に関する知見を得ることが重要となっている。
【0003】
一方、生体内の薬物動態に関する研究は時間と手間がかかるため、予め試験管内で測定した薬物動態学上のパラメータから生体における知見を予測することが望ましい。
【0004】
すなわち、薬物の代謝クリアランスや代謝速度等を予め試験管内で測定し、その測定結果に基づいて生体内でのパラメータ(肝クリアランス値や肝アベイラビリティ値)を推算する必要がある。
【0005】
ここで、生体内における薬物のクリアランスは、血清における当該薬物の非結合画分及び当該非結合画分の固有クリアランスの影響を受ける。従って、従来は、血清中タンパク質結合率の測定と肝細胞又は肝ミクロソームにおける非結合型薬物濃度における固有クリアランスの測定とを別々に行い、得られた数値各々から生体内における薬物のクリアランスを予測計算していた。また、非結合型薬物濃度における固有クリアランスの測定には反応系中のマトリックスに対する結合率をも考慮する必要があるため、この点を考慮して最終的な肝クリアランスの予測値を算出することは非常に煩雑であった。
【0006】
かかる問題点を克服すべく、本発明者らは、ラット血清に予めラット遊離肝細胞を懸濁した反応系を用いることにより、非常に簡易な工程で薬物の肝クリアランス及び肝アベイラビリティを算出する方法を見出し、報告した(非特許文献1参照)。
【0007】
【非特許文献1】
Yoshihiro Shibata, Hiroyuki Takahashi, and Yasuyuki Ishii (2000) A convenient in vitro screening method for predicting in vivo drug metabolic clearance using isolated hepatocytes suspended in serum. Drug Metabolism and Disposition, Vol. 28, No. 12, 1518-1523.
【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、通常、医薬の開発にはヒト由来の肝試料を使用する場合が多い。前述の非特許文献1は、ラットの肝細胞を用いたものであり、ヒト肝細胞を用いた予測方法については述べられていない。また、非特許文献1では、SDラットから新鮮な肝細胞を採取し利用しているが、ヒトを対象に同様の処理を行うことは困難である。さらに、SDラットは遺伝的にも環境的にも均一と考えてよい種であるから肝細胞の代謝能に個体差はないとみなせるが、ヒトの場合は個人毎に遺伝的及び環境的要因から肝細胞の薬物代謝能が異なることが知られている。
【0009】
また、ヒトの新鮮な肝細胞の代わりに、凍結肝細胞を利用することができるが、これは凍結保存の影響も予想される上、ロット間で薬物の代謝能等の種々の性質に差が見られる。故に、前述の非特許文献1に記載の方法をそのままヒトの凍結肝細胞に適用する場合、最終的に算出された肝代謝パラメータの予測値に信頼性を確保できないという問題点が生じていた。
【0010】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、ヒト凍結肝細胞を用いて薬物動態学上のパラメータを算出する際に、効率よく且つ正確に当該算出を行うことを目的とするとともに、かかる算出方法により複数の薬物間の相互作用を効率よく且つ正確に予測することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ヒト凍結肝細胞を用いて薬物動態学上のパラメータを算出する際に、各ロットの薬物代謝能検査試験と、その結果に基づく肝細胞の混合及びスケーリングファクター値による活性補正工程を加える工夫(以下、バリデーション試験と呼ぶ)により、当該ヒト肝細胞を予め血清に懸濁しておいた溶液に被験化合物を加えて活性測定を行う試験から、定量的なヒト肝代謝パラメータの予測値を算出できることを見出し、本発明を完成した。以下、バリデーション試験により選択したヒト肝細胞を単一ロットで用いる場合を「第1の方法」、異なるロットを混合して用いる場合を「第2の方法」として解説する。
【0012】
本発明の肝代謝速度予測方法(第1の方法)は、標準化合物、血清及び複数ロットの肝細胞を用いて前記肝細胞の各ロットにおける前記標準化合物の代謝能を測定する第1の工程と、前記標準化合物における既知の体内動態パラメータ及び前記代謝能よりスケーリングファクターを算出する第2の工程と、前記スケーリングファクターに基き、後の工程において代謝能の測定に使用する肝細胞のロットを選択する第3の工程と、被験化合物、血清及び第3の工程で選択された肝細胞のロットを混合してインキュベーションし、インキュベーション後の溶液に含まれる該被検化合物の残存量を測定して該被験化合物の代謝能を測定する第4の工程と、前記代謝能及び第2の工程で算出されたスケーリングファクターより肝臓における前記被験化合物の代謝速度を予測する第5の工程とを含むことを特徴とする。これらの工程を経て肝代謝速度の予測を行うことにより、定量的な予測値を得ることが可能となる。
【0013】
ここで、本発明の肝代謝速度予測方法は、前記第5の工程で予測した肝臓における被験化合物の代謝速度が、実際の肝臓に流入する血清又は血漿中薬物濃度に対する予測値であることを特徴とする。
【0014】
また、前記第2の工程におけるスケーリングファクターは、下記式(1)
SF=CLH,int,in vivo/CLint, in vitro …(1)
(式中、SFはスケーリングファクターを表し、CLH,int,in vivoはin vivo肝固有クリアランスを表し、CLint, in vitroはin vitro固有クリアランスを表す。ここで、両クリアランス値は、血清中の結合型及び非結合型薬物濃度の和、すなわち、血清中薬物濃度を基準に算出された値である。)に示す関係に基いて算出されることが好ましく、スケーリングファクター値が標準化合物によらずほぼ一定の値となることが好ましい。
【0015】
また、本発明の肝代謝速度予測方法(第2の方法)は、標準化合物、血清及び複数ロットの肝細胞を用いて該肝細胞の各ロットにおける該標準化合物の代謝能を測定する第1の工程と、該標準化合物における既知の体内動態パラメータ及び該代謝能よりスケーリングファクターを算出する第2の工程と、該スケーリングファクターに基き、後の工程において代謝能の測定に使用する肝細胞のロットを複数選択し、該ロット間の混合比を決定して混合する第3の工程と、第3の工程で得られた肝細胞、標準化合物及び血清を混合し、該肝細胞固有のスケーリングファクターを算出する第4の工程と、被験化合物、血清及び第3の工程で得られた肝細胞の混合物を混合してインキュベーションし、インキュベーション後の溶液に含まれる該被験化合物の残存量を測定して被験化合物の代謝能を測定する第5の工程と、該代謝能及び第4の工程で算出されたスケーリングファクターより肝臓における該被験化合物の代謝速度を予測する第6の工程と、を含むことを特徴とする。これらの工程を経て肝代謝速度の予測を行うことにより、複数の肝細胞ロットを用いる場合に、ロット間の薬物代謝能等の性質の差を補正し、より正確な予測値を得ることが可能となる。
【0016】
ここで、本発明の肝代謝速度予測方法は、前記第6の工程で予測した肝臓における被験化合物の代謝速度が、実際の肝臓に流入する血清又は血漿中薬物濃度に対する予測値であることを特徴とする。
【0017】
また、前記第2及び/又は第4の工程におけるスケーリングファクターは、下記式(2)
SF=CLH,int,in vivo/CLint, in vitro …(2)
(式中、SFはスケーリングファクターを表し、CLH,int,in vivoはin vivo肝固有クリアランスを表し、CLint, in vitroはin vitro固有クリアランスを表す。ここで、両クリアランス値は、血清中の結合型及び非結合型薬物濃度の和、すなわち、血清中薬物濃度を基準に算出された値である。)に示す関係に基いて算出されることが好ましく、スケーリングファクター値が標準化合物によらずほぼ一定の値となることが好ましい。
【0018】
また、上記の肝代謝速度予測方法において、対象となる種がヒトである場合は、前記肝細胞がヒト由来であることが好ましい。ヒト肝細胞を用いることにより、ヒト体内で生じる代謝反応をより正確に反映した予測値を得ることが可能となる。
【0019】
さらに、前記肝細胞が凍結肝細胞であることが好ましい。凍結肝細胞を用いることにより、評価毎に同一の試料を利用することが可能となる。
【0020】
さらに、前記血清がヒト血清であることが好ましい。ヒト血清そのものを用いることにより、ヒト血清中蛋白結合率を正確に反映した予測値を得ることが可能となる。
【0021】
また、本発明の薬物間相互作用の予測方法は、上記の肝代謝速度の予測方法における被験化合物の代謝能の測定の際に、2種以上の被験化合物を実質的に同時に添加して代謝能を測定することにより当該被験化合物間の相互作用を予測することを特徴とする。すなわち、本発明の肝代謝速度の予測方法は、被験化合物の活性測定の際に、複数の薬物を共存させるだけで、当該薬物間の相互作用に関する知見を得ることが可能となる。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0023】
先ず、本発明の第1の肝代謝速度予測方法(第1の方法)について説明する。
【0024】
本発明の第1の方法は、標準化合物、血清及び複数ロットの肝細胞を用いて該肝細胞の各ロットにおける該標準化合物の代謝能を測定する第1の工程と、
該標準化合物における既知の体内動態パラメータ及び該代謝能よりスケーリングファクターを算出する第2の工程と、
該スケーリングファクターに基き、後の工程において代謝能の測定に使用する肝細胞のロットを選択する第3の工程と、
被験化合物、血清及び第3の工程で選択された肝細胞のロットを混合してインキュベーションし、インキュベーション後の溶液に含まれる該被験化合物の残存量を測定して該被験化合物の代謝能を測定する第4の工程と、
該代謝能及び第2の工程で算出されたスケーリングファクターより肝臓における該被験化合物の代謝速度を予測する第5の工程と、
を含むことを特徴とする。
先ず、本発明の第1の方法にかかる第1の工程について説明する。
【0025】
第1の工程は、標準化合物、血清及び複数ロットの肝細胞を用いて肝細胞の各ロットにおける標準化合物の代謝能を測定する工程である。
【0026】
本発明の第1の方法にかかる標準化合物は、その固有クリアランスが既知であるか又は測定可能であるものであれば特に制限されないが、ヒトにおける排泄経路が主に肝臓における代謝による化合物であることが好ましい。このような標準化合物としては、具体的には、例えば、ナロキソン(naloxone)、バスピロン(buspirone)、ベラパミル(verapamil)、リドカイン(lidocaine)、イミプラミン(imipramine)、メトプロロール(metoprolol)、チモロール(timolol)が挙げられる。
【0027】
なお、標準化合物の肝固有クリアランス(CLH,int,in vivo)の算出方法としては特に制限はなく、公知の方法を用いて算出することができる。また、文献等に当該標準化合物の固有値として記載されている値をそのまま用いてもよい。このような算出方法としては、具体的には、例えば、標準化合物のin vivo肝血漿クリアランス値(CLp)から、Well-stirred model、tube model又はdispersion model等の肝モデルで等式が成り立つようなCLH,int値を、Goal seek method (Microsoft Excel(Microsoft社)に付属の機能)に適用することにより算出することができる。
【0028】
ここで、Well-stirred modelとは、臓器又は血清中に分布している薬物は完全に攪拌されており、臓器又は血清中の薬物濃度は均一であり、且つ、臓器毛細血管中の薬物濃度と流出血液中の薬物濃度とは等しいとの仮定の下で数学的近似を行い、可能な限り単純化した条件でクリアランス値を算出するモデルである。また、tube modelとは、組織中の薬物濃度は、組織の入り口で高く、薬物の喪失により次第に低下していくとの仮定の下でクリアランス値を算出するモデルである。また、dispersion modelとは、tube modelに流れの方向の混合拡散を付加したモデルである。
【0029】
以下にdispersion modelによりCLH,int,in vivoを算出する具体例を示す。肝血流量(liver blood flow rate)をQH、ディスパージョンナンバー(dispersion number)をDN、血球分配値(blood-to-plasma concentration ratio)をRBとすると、
CLH,int,in vivoは、式(3)〜(6)
CLH=QH×RB×(1-4a/((1+a)2exp[(a-1)/(2×DN)]-(1-a)2exp[-(a+1)/(2×DN)]) …(3)
RN=(CLH,int)/(QH×RB) …(4)
a=(1+4×RN×DN)(1/2) …(5)
FH=1-EH=1-CLH/(QH×RB) …(6)
から算出することができる。
(補足;式(4)のCLH, intは、実際の体内動態データ(in vivo)をもとに算出された値である場合は、CLH, int, in vivoとも表記する。)
ここで、in vivoの体内動態試験から得られる血漿クリアランスは、肝血漿クリアランス以外のクリアランスを含む場合がある。従って、腸管吸収性に問題のない化合物の場合、経口バイオアベイラビリティ値(FPO)が、肝アベイラビリティ値と等しくなることを利用して、式(7)からCLHを算出し、式(3)〜(5)を用いたGoal seek methodからCLH,int,in vivoを算出することができる。
【0030】
CLH=FPO×QH×RB …(7)
本発明の第1の方法にかかる血清は、その由来となる動物は特に制限はないが、具体的には、例えば、ヒト血清、サル血清、イヌ血清、ラット血清、マウス血清が挙げられる。しかしながら、ヒトの肝代謝速度を予測するためには、被検化合物のヒト血清中蛋白結合率を正確に反映させる必要があるため、ヒト血清を使用することが好適である。また、精製したアルブミンや、精製した各種血清構成蛋白(アルブミン、α−アシッドグリコプロテイン、γ−グロブリン、リポプロテイン類)を再混合して、血清に相当する試料を再構成したものでも実施可能と考えられるが、ヒト血清中タンパク質結合率を正確に反映するために、ヒト血清を用いることがより好ましい。
【0031】
また、前記血清の濃度は比較的高濃度であれば具体的な濃度は特に限定されないが、50〜100%であることが好ましく、80〜100%であることがより好ましく、100%の血清に肝細胞が懸濁されている状態であることが特に好ましい。
【0032】
また、本発明の第1の方法にかかる肝細胞は、その由来は特に制限されず、具体的には、例えば、ヒト肝細胞、サル肝細胞、イヌ肝細胞、ウサギ肝細胞、ラット肝細胞、マウス肝細胞が挙げられるが、薬物のヒト体内での動態をより正確に再現できるとの観点からはヒト肝細胞であることが最も好ましい。さらに、前記肝細胞は肝臓組織より分離された生細胞の状態であっても、保存の為に凍結された状態であってもよい。
【0033】
このような肝細胞は、通常、遊離細胞の状態で使用されるが、その調製方法としては特に制限はなく、既知の方法で実施すればよい。このような方法としては、具体的には、例えば、肝組織のコラゲナーゼ処理が挙げられる。
【0034】
しかし、通常、試験用の肝細胞は凍結された状態で市販されている場合が殆どであるため、本発明においてはヒト凍結肝細胞を用いる場合が多いものと考えられる。
【0035】
本発明の第1の方法においては、このような肝細胞を複数ロット用いてバリデーション試験を実施することを特徴とする。すなわち、肝細胞は、ヒトであればその由来となる個々人に応じて個性があり、薬物の代謝能をはじめ、種々の点でそのロット独自の性質を有する。このような肝細胞を単一のロットのみ用いて薬物の肝代謝速度の測定を行った場合、当該ロットに固有の性質に立脚した結果が得られる。このような結果は本来の肝代謝速度を正確に反映していない可能性がある。かかる問題点を解消すべく、本発明の第1の方法においては複数ロットの肝細胞を用いてバリデーション試験を実施し、そこから肝代謝速度の測定に好適な肝細胞を選択することとしている。
【0036】
前述の標準化合物、血清及び複数ロットの肝細胞を用いて肝細胞の各ロットにおける標準化合物の代謝能を測定する方法は以下のとおりである。すなわち、先ず、血清を準備し、そこに肝細胞を懸濁する。血清は希釈せずに用いることが好ましいが、希釈して用いる場合は、例えば、リン酸緩衝液等の緩衝液を用いて希釈すればよい。また、当該肝細胞が凍結されたものである場合には、定法に従って融解し、実験に供すればよい。懸濁の方法としては、肝細胞が血清に均一に攪拌される手段であれば特に限定されない。
【0037】
次に、肝細胞が懸濁された血清に標準化合物を混合する。この際の混合方法としても、特に制限はなく、標準化合物が血清に均一に攪拌される手段であれば特に限定されない。また、混合後は、代謝反応を進行させるために、例えば、1分あたり150回の振とうを行うことが好ましいが、一定時間静置してもよい。このような静置の条件としては、反応系中で代謝酵素が活性化するような条件であれば特に制限はなく、混合する標準化合物によって好適な条件を適宜設定すればよい。このような条件としては、具体的には、例えば、一般的な細胞培養の条件である、35〜40℃、3〜7%二酸化炭素存在下といった条件や、30〜40℃、3〜7%二酸化炭素及び93〜97%酸素存在下と行った条件が挙げられる。
【0038】
以上の反応が終了した後、溶液に含まれる標準化合物の残存量を測定することにより、代謝された標準化合物の量を算出することができる。標準化合物の残存量の測定は、化合物の定量に通常使用されているような方法であれば特に制限はなく、標準化合物の種類に応じて適宜好適な方法を採用すればよい。このような測定の方法としては、具体的には、例えば、液体クロマトグラフィー(LC)とUV、蛍光、電気化学検出器を用いる検出法、LC-MS/MSのSIMまたはMRM検出法、バイオロジカルアッセイが挙げられる。
【0039】
第1の工程にかかる代謝能は、具体的には肝固有クリアランス(CLH,int,in vivo)を表し、薬物の残存率(R)、酵素密度(D)及び反応時間(T)より以下の式(8)を用いて算出することができる。
【0040】
CL=(-logeR)/(D×T) …(8)
以下に、式(8)を導く工程を示す。
【0041】
In vitro系でのクリアランス値(CLint, in vitro)は、クリアランスの定義より
CLint, in vitro=rate of metabolism/C …(9)
(式(9)中、rate of metabolismはIn vitro系での代謝速度を表し、Cは酵素が利用可能な血清中薬物濃度を表す。)と表すことができる。ここで、本発明においては、In vitroにおける代謝実験は血清存在下で行っているため、Cは血清中の薬物濃度であり、CLint, in vitroは血清中の薬物濃度に対するCL値となる。
【0042】
一方、ミカエリスメンテン式で酵素反応の速度を表現すると、
rate of metabolism=C×Vmax/(C+Km) …(10)
(式(10)中、Vmaxは最大反応速度を表し、Kmはミカエリス定数を表す。)
と表すことができるが、C << Kmを仮定すると、式(10)は、
rate of metabolism=C×(Vmax/Km) …(11)
と近似可能である。
【0043】
したがって、式(9)及び(11)より、CLint, in vitro=(Vmax /Km)と表現されCLint, in vitroは一定の定数となる。ここで、式(9)を微分方程式で表現すると、
rate of metabolism=dC/dt …(12)
(式(12)中、Cは薬物濃度を表し、tは反応時間を表す。)となるから、酵素密度(代謝酵素密度、細胞密度など)をDとしてin vitro試験を実施した場合、式(11)は、
dC/dt=-CLint, in vitro×D×C(t) …(13)
(式(13)中、C(t)は反応時間tでの薬物濃度を表す。)
と表すことができる。この微分方程式を解くと、経過時間Tにおける薬物濃度C(T)は、
C(T)=C(0)×e(-CL × D × T) …(14)
と表される。ここで、
C(T)/C(0)=R …(15)
(式(15)中、Rは、時間T後の時間0に対する薬物の残存率を表す。)と置き換えると
R=e(-CL × D × T) …(16)
となり、両辺へlogeを適用することにより、
CL=(-logeR)/(D×T) …(8)
と表すことができる。
【0044】
従って、CE<<Kmを仮定することにより、In vitroにおけるクリアランス値(CLint, in vitro)は、薬物の残存率(R)、酵素密度(D)、反応時間(T)を用いて式(8)で表現可能である。
一方、CE<<Kmでない場合でも、R≒1であれば、
CL=(1-R)/(D×T) …(17)
と近似可能である。
【0045】
なお、薬物代謝の試験では、一般的に基質濃度(CE)は1 オM以下の低濃度である。したがって、特別な場合を除き、CE<<Kmと仮定した式(8)で、In vitroにおけるCLを計算すればよい。なお、in vitroにおけるCL値の算出方法は、式(8)に限定したものではなく、他の適切な計算方法によってもかまわない。
【0046】
次に、本発明の第1の方法にかかる第2の工程について説明する。
第2の工程は、前記標準化合物における既知の体内動態パラメータ及び前記代謝能よりスケーリングファクターを算出する工程である。
【0047】
第2の工程にかかる標準化合物における既知の体内動態パラメータとしては、具体的には、例えば、当該標準化合物の肝固有クリアランスが挙げられる。ここで、「肝固有クリアランス」とは、単位時間あたりに肝臓で消失した薬物量を、その薬物量を含有する血清(肝臓に流入する前の血清中薬物濃度が基準)の体積に換算した数値をいう。
【0048】
第2の工程にかかる代謝能は、第1の工程で測定した代謝能、すなわちin vitro系での固有クリアランス(CLint,in vitro)であり、当該標準化合物のin vivoでの肝固有クリアランス(CLH,int,in vivo)は、スケーリングファクター(SF)を用いて以下の式(18)で表すことができる。
【0049】
CLH,int,in vivo=CLint,in vitro×SF …(18)
ここで、式(18)を書き換えると、
SF=CLH,int,in vivo/CLint,in vitro …(19)
となり、使用した肝細胞に対する既知化合物のスケーリングファクター値が算出できる。
【0050】
ここで、第2の工程で使用する標準化合物は1種類であってもよいが、最終的な薬物の肝代謝速度予測の精度を高めるためにも、2種類以上であることが好ましい。
【0051】
次に、本発明の第1の方法にかかる第3の工程について説明する。
【0052】
第3の工程は、前記スケーリングファクターに基き、後の工程において代謝能の測定に使用する肝細胞のロットを選択する工程である。
【0053】
上述したように、複数のロットを用いて薬物の代謝速度を測定した場合、肝細胞のロット毎に保持している代謝能が均質でないことがあるため、該標準化合物毎のスケーリングファクター値に差異が生じる場合がある。第3の工程では、かかる差異を最小限に抑えるため、後の工程で代謝能の測定に使用する肝細胞のロットを選択する。以下、かかる選択方法の具体例について説明する。
【0054】
先ず、第2の工程において、肝細胞のロット毎に標準化合物毎のスケーリングファクター値を算出する。次に、ある肝細胞のロットにおいて、各標準化合物について得られたスケーリングファクター値の標準化合物間の差異が少ないロットを見出す。ここで、当該差異の大小を判断する手法としては特に制限はなく、例えば、標準化合物間のスケーリングファクター値の標準誤差や標準偏差に基づいて判断することができる。ここで、スケーリングファクター値における「標準化合物間の差異が小さい」と言える差異の幅は、最終的な肝代謝速度の予測精度に応じて適宜決定することができるが、具体的には、例えば、あるロットに対する複数の標準化合物のスケーリングファクター値(109cells/kg)の標準誤差(CV%)が100%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましく、25%以下であることが特に好ましい。また、当該平均値に代えて標準偏差を指標にしてもよく、この場合、標準偏差が0〜10であることが好ましく、0〜5であることがより好ましく0〜2.5であることが特に好ましい。このようにして見出された肝細胞のロットは、化合物種によって種々のパラメータに影響を受けにくいロットであると言える。従って、かかるロットを用いて以下の工程に進むことにより、より精度の高い肝代謝速度の予測が可能となる。
【0055】
ここで、好適であると考えられるロットが複数ある場合、または、2種類以上のロットを一定の割合で混合することにより好適となる場合には、かかる複数のロットを混合したものを使用して以下の工程に進んでもよいが、この場合の具体的な手順については、後述の第2の方法において詳細に説明する。
【0056】
次に、本発明の第1の方法にかかる第4の工程について説明する。
第4の工程は、被験化合物、血清及び第3の工程で選択された肝細胞のロットを混合してインキュベーションし、インキュベーション後の溶液に含まれる当該被験化合物の残存量を測定して当該被験化合物の代謝能を測定する工程である。
本工程にかかる被験化合物としては、その代謝速度の測定を目的とする被験化合物であればその基本骨格、化学的性質及び物理的性質等は特に制限はない。また、第1の工程で使用した標準化合物における基本骨格、化学的性質及び物理的性質等と、被験化合物におけるこれらの性質が一致、近似している必要もない。
本工程にかかる被検化合物の代謝能の測定は、前記肝細胞のロットを血清に懸濁し、そこに被験化合物を混合することにより行えばよい。ここで、前記血清は、その由来となる動物は特に制限はないが、具体的には、例えば、ヒト血清、サル血清、イヌ血清、ラット血清、マウス血清が挙げられる。しかしながら、ヒトの肝代謝速度を予測する目的には、被検化合物のヒト血清中蛋白結合率を正確に反映する目的のため、ヒト血清を使用することが好適である。また、精製したアルブミンや、精製した各種血清構成蛋白(アルブミン、α−アシッドグリコプロテイン、γ−グロブリン、リポプロテイン類)を再混合して、血清に相当する試料を再構成したものでも実施可能と考えられるが、ヒト血清中タンパク質結合率を正確に反映するために、ヒト血清を用いることがより好ましい。また、その濃度は比較的高濃度であれば具体的な濃度は特に制限されないが、50〜100%であることが好ましく、80〜100%であることがより好ましく、100%の血清に肝細胞が懸濁されている状態であることが特に好ましい。
【0057】
また、血清及び肝細胞を用いて被験化合物の代謝能を測定する方法は以下のとおりである。すなわち、先ず、血清を準備し、そこに肝細胞を懸濁する。血清は希釈せずに用いることができるが、希釈して用いる場合は、例えば、リン酸緩衝液等の緩衝液を用いて希釈すればよい。また、当該肝細胞が凍結されたものである場合には、定法に従って融解し、実験に供すればよい。懸濁の方法としては、肝細胞が血清に均一に攪拌される手段であれば特に限定されない。
【0058】
次に、肝細胞が懸濁された血清に被検化合物を混合する。この際の混合方法としても、特に制限はなく、被検化合物が血清に均一に攪拌される手段であれば特に限定されない。また、混合後は、代謝反応を進行させるために振とうしたり、一定時間静置してもよい。このような条件としては、反応系中で代謝酵素が活性化するような条件であれば特に制限はなく、混合する被検化合物によって好適な条件を適宜設定すればよい。このような条件としては、具体的には、例えば、一般的な細胞培養の条件である、35〜40℃、3〜7%二酸化炭素存在下といった条件や、30〜40℃、3〜7%二酸化炭素及び93〜97%酸素存在下と行った条件が挙げられる。
【0059】
以上の反応が終了した後、溶液に含まれる被検化合物の残存量を測定することにより、代謝された被検化合物の量を算出することができる。被検化合物の残存量の測定は、化合物の定量に通常使用されているような方法であれば特に制限はなく、被検化合物の種類に応じて適宜好適な方法を採用すればよい。このような測定の方法としては、具体的には、例えば、液体クロマトグラフィー(LC)とUV、蛍光、電気化学検出器を用いる検出法、LC-MS/MSのSIMまたはMRM検出法、バイオロジカルアッセイが挙げられる。
こうして得られた被験化合物の残存量からの代謝能の算出は、前記第1の工程における標準化合物の代謝能の算出と同様、薬物の残存量、細胞(酵素)密度及び反応時間よりin vitroの固有クリアランスを算出する方法(式(8))により実施すればよい。
【0060】
次に、本発明の第1の方法にかかる第5の工程について説明する。
【0061】
第5の工程は、第3の工程で選択された肝細胞のロットを用いて、第4の工程で測定した代謝能及び第2の工程で算出された該ロットの平均的なスケーリングファクターを用いて肝臓における該被験化合物の代謝速度を予測する工程である。平均的なスケーリングファクターとしては、各標準化合物のスケーリングファクターの平均値をもちいるが、範囲内のおおよその平均値を採用しても良い。
【0062】
本工程にかかる代謝能とは、第1の工程から第3の工程によって選択されたロットの肝細胞を用いて測定された被検化合物の代謝能を指す。また、本工程にかかるスケーリングファクターは、前記肝細胞ロットの各標準化合物の代謝能から得られた前述の平均的なスケーリングファクターを指す。ここで、前記代謝能をCLint,in vitroとし、前記の平均的なスケーリングファクターをSFとすると、生体内の肝固有クリアランスCLH,int,in vivoは、下記式(18)、
CLH,int,in vivo=CLint,in vitro×SF …(18)
より求めることができる。
【0063】
こうしてin vitroから外挿的に算出された生体内の肝固有クリアランスCLH,int,in vivoを、式(3)〜(6)へ代入することにより、ヒト肝代謝パラメータである、肝アベイラビリティ(FH)及び肝クリアランス(CLH)を予測することができる。
【0064】
次に、本発明の第2の肝代謝速度予測方法(第2の方法)について説明する。
【0065】
本発明の第2の方法は、標準化合物、複数ロットの肝細胞及び血清を用いて前記肝細胞の各ロットにおける前記標準化合物の代謝能を測定する第1の工程と、前記標準化合物における既知の体内動態パラメータ及び前記代謝能よりスケーリングファクターを算出する第2の工程と、前記スケーリングファクターに基き、後の工程において代謝能の測定に使用する肝細胞のロットを複数選択し、前記ロット間の混合比を決定して混合する第3の工程と、第3の工程で混合された肝細胞、標準化合物及び血清を混合し、スケーリングファクターを算出する第4の工程と、被験化合物、血清及び第3の工程で得られた肝細胞の混合物を混合してインキュベーションし、インキュベーション後の溶液に含まれる当該被験化合物の残存量を測定して被験化合物の代謝能を測定する第5の工程と、前記代謝能及び第4の工程で算出されたスケーリングファクターより肝臓における前記被検化合物の代謝速度を予測する第6の工程と、を含むことを特徴とする。
【0066】
先ず、本発明の第2の方法にかかる第1の工程について説明する。
【0067】
第1の工程は、標準化合物、血清及び複数ロットの肝細胞を用いて前記肝細胞の各ロットにおける前記標準化合物の代謝能を測定する工程である。本工程において使用される標準化合物、血清及び複数ロットの肝細胞は、いずれも本発明の第1の方法と同様のものが使用可能である。また、これらを用いて前記標準化合物の代謝能を測定する手順についても、本発明の第1の方法と同様に実施可能である。
【0068】
次に、本発明の第2の方法にかかる第2の工程について説明する。
【0069】
第2の工程は、前記標準化合物における既知の体内動態パラメータ及び前記代謝能よりスケーリングファクターを算出する工程である。本工程における既知の体内動態パラメータ及び代謝能は、いずれも本発明の第1の方法と同じものを指す。
【0070】
次に、本発明の第2の方法にかかる第3の工程について説明する。
【0071】
第3の工程は、前記スケーリングファクターに基き、第4の工程において代謝能の測定に使用する肝細胞のロットを複数選択し、前記ロット間の混合比を決定して混合する工程である。
【0072】
本工程は、第1の方法における第3の工程と同様の目的を有する工程であるが、後の工程で代謝能の測定に使用する肝細胞のロットを複数選択して混合することを特徴とする。
【0073】
すなわち、先ず、第2の方法における第2の工程において、肝細胞のロット毎に標準化合物毎のスケーリングファクター値を算出する。次に、ある肝細胞のロットを2つ以上混合することにより、各標準化合物について得られたスケーリングファクター値の標準化合物間の差異が少なくなるような組み合わせのロットを見出す。ここで、当該差異の大小を判断する手法としては特に制限はなく、例えば、標準化合物間のスケーリングファクター値の標準誤差や標準偏差に基づいて判断することができる。このようにして見出された肝細胞のロットは、化合物種によって種々のパラメータに影響を受けにくいロットであると言える。従って、かかるロットを用いて以下の工程に進むことにより、より精度の高い肝代謝速度の予測が可能となる。
【0074】
こうして見出されたスケーリングファクター値の標準化合物間の差異が小さいロットの組み合わせを後の工程で使用することにより、最終的な肝代謝速度の予測精度を向上させることが可能となる。ここで、スケーリングファクター値における「標準化合物間の差異が小さい」と言える差異の幅は、最終的な肝代謝速度の予測精度に応じて適宜決定することができるが、具体的には、例えば、あるロットに対する複数の標準化合物のスケーリングファクター値(109cells/kg)の標準誤差(CV%)が100%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましく、25%以下であることが特に好ましい。また、当該平均値に代えて標準偏差を指標にしてもよく、この場合、標準偏差が0〜10であることが好ましく、0〜5であることがより好ましく0〜2.5であることが特に好ましい。
次に、本発明の第2の方法にかかる第4の工程について説明する。
【0075】
第4の工程は、第3の工程で得られた肝細胞、標準化合物及び血清を混合し、当該肝細胞固有のスケーリングファクターを算出する工程である。
【0076】
本工程におけるスケーリングファクターの算出は、第3の工程で混合し、後の工程で使用することとなった肝細胞のロット混合物のスケーリングファクターを確認的に算出するものである。すなわち、第3の工程で選択した複数ロットの肝細胞の混合後の平均的なスケーリングファクター値を計算的に求めることで本工程におけるスケーリングファクター値とすることもできるが、実際に混合した後の肝細胞における標準化合物の代謝能を求めた上で、改めてスケーリングファクターを算出し、その平均値を当該肝細胞固有のスケーリングファクター値とすることで、最終的に得られる肝代謝速度の値の信頼性が高まる。
【0077】
ここで、第3の工程で得られた肝細胞、標準化合物及び血清を用いて当該標準化合物の代謝能を測定し、さらにスケーリングファクターを算出する方法は、複数ロットの肝細胞に代えて第3の工程で得られた肝細胞を使用する以外は第1の工程及び第2の工程と同様である。
【0078】
次に、本発明の第2の方法にかかる第5の工程について説明する。
【0079】
第5の工程は、被験化合物、血清及び第3の工程で得られた肝細胞の混合物を混合してインキュベーションし、インキュベーション後の溶液に含まれる当該被験化合物の残存量を測定して被験化合物の代謝能を測定する工程である。
【0080】
前記の第1〜第4の工程は、いわば被験化合物の代謝能の測定を行うに際して適切な肝細胞を選択する工程である。一方、第5の工程以降が、肝代謝速度の測定の対象となる被験化合物を用いた工程である。
【0081】
本工程にかかる被験化合物としては、その代謝速度の測定を目的とする被験化合物であればその基本骨格、化学的性質及び物理的性質等は特に制限はない。また、第1の工程で使用した標準化合物における基本骨格、化学的性質及び物理的性質等と、被験化合物におけるこれらの性質が一致、近似している必要もない。
【0082】
また、本工程にかかる被検化合物の代謝能の測定は、前記肝細胞の混合物を血清に懸濁し、そこに被験化合物を混合することにより行えばよい。ここで、前記血清は、その由来となる動物は特に制限はないが、具体的には、例えば、ヒト血清、サル血清、イヌ血清、ラット血清、マウス血清が挙げられる。しかしながら、ヒトの肝代謝速度を予測する目的には、被検化合物のヒト血清中蛋白結合率を正確に反映する目的のため、ヒト血清を使用することが好適である。また、精製したアルブミンや、精製した各種血清構成蛋白(アルブミン、α−アシッドグリコプロテイン、γ−グロブリン、リポプロテイン類)を再混合して、血清に相当する試料を再構成したものでも実施可能と考えられるが、ヒト血清中タンパク質結合率を正確に反映するために、ヒト血清を用いることがより好ましい。また、その濃度は比較的高濃度であれば具体的な濃度は特に制限されないが、50〜100%であることが好ましく、80〜100%であることがより好ましく、100%の血清に肝細胞が懸濁されている状態であることが特に好ましい。
【0083】
また、血清及び肝細胞を用いて被験化合物の代謝能を測定する方法は以下のとおりである。すなわち、先ず、血清を準備し、そこに肝細胞を懸濁する。血清は希釈せずに用いることができるが、希釈して用いる場合は、例えば、リン酸緩衝液等の緩衝液を用いて希釈すればよい。また、当該肝細胞が凍結されたものである場合には、定法に従って融解し、実験に供すればよい。懸濁の方法としては、肝細胞が血清に均一に攪拌される手段であれば特に限定されない。
【0084】
次に、肝細胞が懸濁された血清に被検化合物を混合する。この際の混合方法としても、特に制限はなく、被検化合物が血清に均一に攪拌される手段であれば特に限定されない。また、混合後は、代謝反応を進行させるために振とうしたり、一定時間静置してもよい。このような条件としては、反応系中で代謝酵素が活性化するような条件であれば特に制限はなく、混合する被検化合物によって好適な条件を適宜設定すればよく、具体的には、例えば、一般的な細胞培養の条件である、35〜40℃、3〜7%二酸化炭素存在下といった条件や、30〜40℃、3〜7%二酸化炭素及び93〜97%酸素存在下と行った条件が挙げられる。
【0085】
以上の反応が終了した後、溶液に含まれる被検化合物の残存量を測定することにより、代謝された被検化合物の量を算出することができる。被検化合物の残存量の測定は、化合物の定量に通常使用されているような方法であれば特に制限はなく、被検化合物の種類に応じて適宜好適な方法を採用すればよい。このような測定の方法としては、具体的には、例えば、液体クロマトグラフィー(LC)とUV、蛍光、電気化学検出器を用いる検出法、LC-MS/MSのSIM又はMRM検出法、バイオロジカルアッセイが挙げられる。
【0086】
こうして得られた被験化合物の残存量からの代謝能の算出は、前記第1の工程における標準化合物の代謝能の算出と同様、薬物の残存量、細胞(酵素)密度及び反応時間よりin vitroの固有クリアランスを算出する方法(式(8))により実施すればよい。
【0087】
次に、本発明の第2の方法にかかる第6の工程について説明する。
【0088】
第6の工程は、第5の工程で測定した代謝能及び第4の工程で算出された該ロット固有の平均的なスケーリングファクターより肝臓における該被験化合物の代謝速度を予測する工程である。平均的なスケーリングファクターとしては、各標準化合物のスケーリングファクターの平均値をもちいるが、範囲内のおおよその平均値を採用しても良い。
【0089】
本工程にかかる代謝能とは、第1の工程から第4の工程によって選択された複数ロットの肝細胞の混合物を用いて測定された被検化合物の代謝能を指す。また、本工程にかかるスケーリングファクターは、前記肝細胞の混合物の各標準化合物の代謝能から得られた前述の平均的なスケーリングファクターを指す。ここで、前記代謝能をCLint,in vitroとし、前記の平均的なスケーリングファクターをSFとすると、生体内の肝固有クリアランスCLH,int,in vivoは、下記式(18)、
CLH,int,in vivo=CLint,in vitro×SF …(18)
より求めることができる。
【0090】
こうしてin vitroから外挿的に算出された生体内の肝固有クリアランスCLH,int,in vivoを、式(3)〜(6)へ代入することにより、ヒト肝代謝パラメータである、肝アベイラビリティ(FH)及び肝クリアランス(CLH)を予測することができる。
【0091】
さらに、本発明においては、以上に説明したような肝代謝速度予測方法を応用することにより、複数の被検化合物存在下において、当該被験化合物間の相互作用を予測することが可能となる。
【0092】
以下に、本発明の薬物間相互作用の予測方法について説明する。
【0093】
本発明の薬物間相互作用の予測方法は、前記第1の方法における第4の工程又は第2の方法における第5の工程において、2種以上の被験化合物の代謝能を測定することにより当該被験化合物間の相互作用を予測することを特徴とする。
【0094】
2種以上の被検化合物の代謝能を測定するには、これらの薬物を代謝能の測定の際に共存させて代謝反応を進行せしめた後、薬物それぞれの代謝能を測定すればよい。また、複数の薬物の代謝能を測定する際に、それぞれの薬物の濃度を適宜変化させることにより、代謝時の薬物間の相互作用の程度を予測することができる。
【0095】
具体的には、例えば、化合物Aの代謝に化合物Bがどのように影響するかを予測したい場合、被験化合物Aの代謝能の測定系に化合物Bを共存させて測定を行う。この場合、化合物A及び化合物Bの血清中濃度は、ヒトの肝臓に流入する化合物A及び化合物Bの血清(血漿)中薬物濃度に対応する。従って、両化合物の血清中濃度を適宜変化させて代謝能の測定系における薬物間相互作用を検証することにより、肝臓の代謝における相互作用の様子を簡便且つ定量的に予測することが可能となる。
【0096】
以上説明したように、本発明の肝代謝速度予測方法及び薬物間相互作用の予測方法によれば、ヒト肝細胞を用いて薬物動態学上のパラメータを算出する際に、非常に簡易な工程で実施が可能となる。また、ロット間で種々の性質に差がある複数のロットの肝細胞を用いて肝代謝能を測定する場合でも、特異な性質を有する特定のロットに依存した結果ではなく、極めて信憑性の高い値を求めることができる。かかる複数ロットの肝細胞を用いた場合でも、非常に簡便な工程で肝代謝速度の算出ができるため、創薬研究のスピードアップに大いに寄与するものであり、ひいては画期的な新薬が待望される社会に大いなる貢献をするものである。
【0097】
【実施例】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
(混合ロットの調製)
ヒト凍結遊離肝細胞(Lot 64, 70, 73, 107及びNQT(それぞれ、ヒトから採取された肝細胞であり、全てIn vitro technologies社製))をメーカの定めた定法により調製し、以下の手順で実施した。また、これらの調製にはWilliam's E Medium (pH 7.4)を使用し、操作は全て氷浴中でロット毎に行った。
【0098】
先ず、各ロットの遊離肝細胞をヒト血清に懸濁し(生細胞密度:1×106 cells/ml)、1.5 ml容量のエッペンドルフチューブに380μlづつ分注した(計7本)。次に、各チューブに表1に示した化合物水溶液(それぞれ100μM)を、3.8μlづつ添加し、混合した。表1中、CLP, in vivoは、ヒトの実際の血漿クリアランス値(ml/min/kg)であり、FPO, in vivoは、ヒトの実際の経口バイオアベイラビリティ値を表す。また、CLH, int, in vivoは、式(7)からCLHを算出し、式(3)〜(5)を用いたGoal seek methodから算出した肝固有クリアランス値(ml/min/kg)である。また、RBは、ヒト血液中でのBlood-to-plasma concentration ratio(血球分配値)である。
(表1)
【0099】
この混合液を、2枚の96穴プレートへ50μl/wellになるよう、各3カ所へ分注した(計7種類)。一方の96穴プレートを、37度、95%酸素+5%二酸化炭素の気下で、150 rpmで振とうして120分間インキュベーションした。インキュベーション終了後、内標(400 nM Diazepam)入りエタノール溶液を150μl加えて混合し、0.5 mlのエッペンドルチューブへ移した。これを10,000gで10分間遠心後、上清中の化合物濃度をLC-MS/MSのMRM法で分析し、コントロール(インキュベーションしなかった方のプレート)に対するインキュベーション後の化合物の残存率(R)を算出した(表2)。
(表2)
【0100】
次に、各々のロットに対して各標準化合物のCLint, in vitro値(ml/min/109 cells)を式(8)から求めた(表3)。
(表3)
【0101】
さらに、表1に示した各化合物のIn vivoの肝固有クリアランス値(CLH, int,in vivo)から、(19)式を用いて、各標準化合物のSF値(109 cells/kg)を各々のロットに対して求めた(表4)。
(表4)
【0102】
その結果、Lot 73がもっとも化合物間のSFの差異が小さいことが判明した。もちろん、この平均値をSF値として、Lot 73単独でバリデーションされた試料としても良いが(第1の方法に相当)、より信頼性を向上するため、Lot 73と他のロットを等量混合し、さらに、SF値の化合物による差異(CV%)を小さくすることを試みた(第2の方法に相当)。異なる二つのロットを混合したときのSFの推測値を、SFx+y = (SFx+SFy)/2の計算式により求めたとき、Lot 73に対する、他の4ロットとの混合後のSF(109 cells/kg)の推測値を、表5に示した。
(表5)
【0103】
その結果、Lot 70とLot 73との混合ロットが最も化合物間のSFの標準誤差(CV%)が小さいことが認められた。この結果から、Lot 70とLot 73との混合ロットを行いて実際のSFを算出したところ、化合物間のSFの標準誤差(CV%)がさらに小さい試料であることを見いだすことができた。Lot 70とLot 73との混合ロットの場合、SFの平均値は、8.98×109 cells/kgと算出された(表6)。以降、Lot 70とLot 73の混合ロットの場合、このスケーリングファクターの平均値(8.98×109 cells/kg)をもちいて、被験化合物のヒト肝代謝速度を予測することが可能となる。
(表6)
【0104】
(実施例2)
(混合ロットを利用したヒト肝代謝クリアランス及び肝アベイラビリティ値の予測)
実施例1で調製された混合ロット(Lot 70+73)を用い、さらに、新たな7化合物(表7の化合物No.8-14)を評価をおこなった。なお、表7中、fuは血漿非結合画分を表し、RBは血球分配値(Blood-to-plasma concentration ratio)を表し、CLP, in vivoはヒトにおける血漿クリアランスを表し、FPO,in vivoは経口バイオアベイラビリティを表し、Dは血清中に懸濁した細胞密度を表し、Rは2時間インキュベーションした後の化合物の残存率を表し、CLint,in vitro,70+73は肝細胞のロット70と73とを混合した肝細胞混合物のin vitro固有クリアランスを表し、SF70+73は肝細胞のロット70と73とを混合した肝細胞混合物のスケーリングファクターを表し、average SF70+73は、ロット 70と73を実際に混合した場合の平均的なスケーリングファクター値(以降 SF70+73(平均値))を表し、CLH,predicted,70+73はCLint,in vitro,70+73とSF70+73(平均値)とから予測された肝クリアランスを表し、FH,predicted,70+73はCLint,in vitro,70+73とSF70+73(平均値)とから予測された肝アベイラビリティを表す。
(表7)
【0105】
(18)式に示したように、 CLint, in vitroをSFの平均値8.98×109 cells/kgと掛け合わせて算出したCLH, int値を式(3)〜(6)へ代入し、予測CLH及びFH値を得た。図1にはCLHの予測結果を、図2には、FHの予測結果を示した。また、図1及び図2の(a)のグラフには表1に記載の標準化合物1〜7の結果を、同じく(b)のグラフには、新たに評価した化合物8〜14の結果を示した。グラフ中、X軸はin vitroからの予測値であり、Y軸はin vivoにおける対応するパラメータである。
【0106】
結果として、凍結肝細胞を用いたSerum incubation methodをグラフ(a)の様にバリデーションしておき、その平均的なSFを未知化合物に適応することにより、グラフ(b)のように、in vivoの肝クリアランス(CLH)やアベイラビリティ(FH)を定量的に予測できることが示された。
(実施例3)
(薬物間相互作用の予測)
テルフェナジン(Terfenadine)は、主にCYP3A4で代謝される化合物であり、ケトコナゾール(Ketoconazole)はCYP3A4の強い阻害剤であることが知られている。以下にTerfenadine及びKetoconazoleを本発明のヒト薬物間相互作用の予測方法に適用した例を示す。
【0107】
本実施例では、Ketoconazole 0、0.04、0.2、0.6、2及び10μM存在下における、0.02、0.2及び2μMのTerfenadineのFHやCLHに及ぼす影響を予測した。本実施例では、バリデーションされた試料としてLot 97とLot 120を混合したもの(平均的なSF値=10.2×109 cells/kg)を用い、これをヒト血清に1×106cells/mlの細胞密度で懸濁してアッセイを行った。表8に120 min後の残存率(R)の測定値を、表9に各々のCLint, in vitro(ml/min/109cells)値の計算値を示した。
(表8)
【0108】
(表9)
【0109】
さらに、表10にFH(%)の予測結果を、表11にCLH(ml/min/kg)の予測結果を示した。
(表10)
【0110】
(表11)
【0111】
本手法での薬物間相互作用の予測は、評価に用いた血清中薬剤濃度が実際の肝臓に流入したときのCLHやFH値として算出される。このようにして、2種の薬剤が共存していても、簡単にTerfenadineの代謝にKetoconazoleの及ぼす影響を定量的に予測することができる。
【0112】
実際に、ヒトのデータでは、Ketoconazole(200mg)を1日2回、経口で連続投与中に、Terfenadine(60mg)の経口投与を受けると、Ketoconazoleの連続投与を受けていない場合の約37倍のAUCの増大が認められることが報告されている(Honig PK. et al.: Terfenadine-ketoconazole interaction. Pharmacokinetic and electrocardiographic consequences. JAMA. 269:1513-8(1993))。また、Ketoconazole連続投与中の血漿中濃度は約10μMと推定できる(Brass C. et al., Disposition of ketoconazole, an oral antifungal, in humans. Antimicrobial Agents & Chemotherapy. 21:151-8(1982))。さらに、Terfenadineの初回通過時に肝臓へ流入する平均血漿中濃度は約2μMと推定でき、全身へ流入後の肝臓へ流入する代表的血漿中濃度を約0.02μMと推定できる(von Moltke LL. Greenblatt DJ. Et al. In vitro prediction of the terfenadine-ketoconazole pharmacokinetic interaction. Journal of Clinical Pharmacology. 34:1222-7(1994))。
【0113】
Terfenadine 2μMに対してKetoconazole 10μM存在時の予測FHは63.7%とKetoconazoleの非存在時の4.4%に対し、約14.5倍である。また、Terfenadine 0.02μMに対してketoconazole 10μM存在時の予測CLHは8.6ml/min/kgとKetoconazoleの非存在時の20.4 ml/min/kgに対し、約2.4倍である。Terfenadineの排泄が肝臓だけで説明できると仮定すると、Ketoconazole投与時の、TerfenadineのAUC(血漿中濃度曲線下面積)は、肝アベイラビリティ値の阻害率×肝クリアランスの阻害率分増大するため、(14.5×2.4=)35倍と予測される。この結果は実際に、論文(Honig PK. et al.: Terfenadine-ketoconazole interaction. Pharmacokinetic and electrocardiographic consequences. JAMA. 269:1513-8(1993))に報告されている相互作用の程度とよく一致した。
【0114】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の肝代謝速度予測方法によれば、ヒト肝細胞を用いて薬物動態学上のパラメータを算出する際に、効率よく且つ正確に当該算出を行うことが可能となる。また、従来までは、非常に複雑かつ煩雑で信頼性に乏しかった肝臓における薬物間相互作用の予測が、極めて容易かつ高い信頼性をもって実施可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は、標準化合物1〜7における予測肝クリアランスとIn vivo血漿クリアランスとの関係を示したグラフである。
(b)は、標準化合物8〜14における予測肝クリアランスとIn vivo血漿クリアランスとの関係を示したグラフである。
【図2】(a)は、標準化合物1〜7における予測肝アベイラビリティと経口バイオアベイラビリティとの関係を示したグラフである。
(b)は、標準化合物8〜14における予測肝アベイラビリティと経口バイオアベイラビリティとの関係を示したグラフである。
【図3】(a)は、テルフェナジン(初濃度0.02μM)とケトコナゾールの相互作用における、各種ケトコナゾール濃度(0、0.04、0.2、0.6、2、10μM)共存下での、テルフェナジンの残存率とインキュベーション時間の関係を示すグラフである。
(b)は、テルフェナジン(初濃度0.2μM)とケトコナゾールの相互作用における、各種ケトコナゾール濃度(0、0.2、2、10μM)共存下での、テルフェナジンの残存率とインキュベーション時間との関係を示すグラフである。
(c)は、テルフェナジン(初濃度2μM)とケトコナゾールの相互作用における、各種ケトコナゾール濃度(0、0.04、0.2、0.6、2、10μM)共存下での、テルフェナジンの残存率とインキュベーション時間との関係を示すグラフである。
Claims (12)
- 標準化合物、血清及び複数ロットの肝細胞を用いて該肝細胞の各ロットにおける該標準化合物の代謝能を測定する第1の工程と、
該標準化合物における既知の体内動態パラメータ及び該代謝能よりスケーリングファクターを算出する第2の工程と、
該スケーリングファクターに基き、後の工程において代謝能の測定に使用する肝細胞のロットを選択する第3の工程と、
被験化合物、血清及び第3の工程で選択された肝細胞のロットを混合してインキュベーションし、インキュベーション後の溶液に含まれる該被験化合物の残存量を測定して該被験化合物の代謝能を測定する第4の工程と、
該代謝能及び第2の工程で算出されたスケーリングファクターより肝臓における該被験化合物の代謝速度を予測する第5の工程と、
を含むことを特徴とする薬物の肝代謝速度予測方法。 - 前記第5の工程で予測した肝臓における被験化合物の代謝速度が、実際の肝臓に流入する血清又は血漿中薬物濃度に対する予測値であることを特徴とする請求項1に記載の肝代謝速度予測方法。
- 前記第2の工程におけるスケーリングファクターが、下記式(1)
SF=CLH,int,in vivo/CLint, in vitro …(1)
(式中、SFはスケーリングファクターを表し、CLH,int,in vivoはin vivo肝固有クリアランスを表し、CLint, in vitroはin vitro固有クリアランスを表す。)に示す関係に基いて算出されることを特徴とする請求項1又は2に記載の薬物の肝代謝速度予測方法。 - 請求項1〜3のいずれか一項における第4の工程において、2種以上の被験化合物を実質的に同時に添加して代謝能を測定することにより該被験化合物間の相互作用を予測することを特徴とする薬物間相互作用の予測方法。
- 標準化合物、血清及び複数ロットの肝細胞を用いて該肝細胞の各ロットにおける該標準化合物の代謝能を測定する第1の工程と、
該標準化合物における既知の体内動態パラメータ及び該代謝能よりスケーリングファクターを算出する第2の工程と、
該スケーリングファクターに基き、後の工程において代謝能の測定に使用する肝細胞のロットを複数選択し、該ロット間の混合比を決定して混合する第3の工程と、
第3の工程で得られた肝細胞、標準化合物及び血清を混合し、該肝細胞固有のスケーリングファクターを算出する第4の工程と、
被験化合物、血清及び第3の工程で得られた肝細胞の混合物を混合してインキュベーションし、インキュベーション後の溶液に含まれる該被験化合物の残存量を測定して被験化合物の代謝能を測定する第5の工程と、
該代謝能及び第4の工程で算出されたスケーリングファクターより肝臓における該被験化合物の代謝速度を予測する第6の工程と、
を含むことを特徴とする薬物の肝代謝速度予測方法。 - 前記第6の工程で予測した肝臓における被験化合物の代謝速度が、実際の肝臓に流入する血清又は血漿中薬物濃度に対する予測値であることを特徴とする請求項5に記載の肝代謝速度予測方法。
- 前記第2及び/又は第4の工程におけるスケーリングファクターが、下記式(2)
SF=CLH,int,in vivo/CLint, in vitro …(2)
(式中、SFはスケーリングファクターを表し、CLH,int,in vivoはin vivo肝固有クリアランスを表し、CLint, in vitroはin vitro固有クリアランスを表す。)に示す関係に基いて算出されることを特徴とする請求項5又は6に記載の薬物の肝代謝速度予測方法。 - 請求項5〜7のいずれか一項における第5の工程において、2種以上の被験化合物を同時に添加して代謝能を測定することにより該被験化合物間の相互作用を予測することを特徴とする薬物間相互作用の予測方法。
- 前記肝細胞がヒト由来であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の薬物の肝代謝速度予測方法。
- 前記肝細胞が凍結肝細胞であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の薬物の肝代謝速度予測方法。
- 前記血清がヒト血清であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の薬物の肝代謝速度予測方法。
- 薬物の肝代謝速度予測方法であって、
ヒト肝細胞及びヒト血清を含む溶液と被験化合物とを混合し、混合後の溶液に含まれる該被験化合物の残存量を測定する工程を含むことを特徴とする請求項1又は5に記載の薬物の肝代謝速度予測方法。
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2002
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