JP2004189831A - 導電性有機膜およびそれを用いた光機能素子 - Google Patents

導電性有機膜およびそれを用いた光機能素子 Download PDF

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信雄 斎藤
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Abstract

【課題】包接化合物を用いて高い電気伝導度を得ることができる、導電性有機膜およびそれを用いた光機能素子を提供する。
【解決手段】導電性有機膜10は、ホスト分子12に導電性高分子14を包接させた包接化合物16を用いて、ホスト分子12の箇所を頂点とする導電性高分子14のネットワークを形成し、膜を配向処理したものである。導電性有機膜10は、導電性高分子14が膜の平面方向(図1中X方向)に延出して配列されるとともに、形成されるネットワークが膜厚方向(図1中Y方向)に引き伸ばされた構造を有する。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、導電性有機膜およびそれを用いた光機能素子、ならびに発光素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
導電性有機膜は、電界発光(EL)素子、光導電素子等の光・電子機能材料、電磁シールド材料、帯電防止材料などへの利用が進められている。
【0003】
一般に、導電性有機膜は、電気伝導度が10〜10S/cm程度であり、金属材料の電気伝導度に比べて低い。
【0004】
導電性有機膜の電気伝導度を向上させるひとつの方法として、導電性有機膜を構成する高分子を配向させる方法が行われている。高分子を配向させる方法として、LB法や延伸法が用いられる。
【0005】
このうち、LB法は、水面上に展開した高分子の単分子膜を基板に転写することにより高分子の配向を得る方法であり、このとき、多くが疎水性である高分子の末端に親水基を結合させることが必要である(例えば、非特許文献1参照。)。しかしながら、用いる高分子の種類によっては、高分子に親水基を結合させることが必ずしも容易ではなく、また、結合が実際上不可能なものもある。
【0006】
一方、延伸法は、可溶性があり、あるいは溶融可能な高分子を物理的に引き伸ばす方法であり、これにより、高分子を延伸方向に配向させることができる(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、可溶性が低く、あるいは溶融しにくい高分子には延伸法は適用することができず、また、延伸して配向させた高分子においてもミクロレベルの配向制御は困難である。
【0007】
これに対して、光エネルギ移動素子要素としての包接化合物およびそれを用いた光エネルギ素子が最近提案されている(特許文献2)。
【0008】
上記の提案は、芳香環が結合したシクロデキストリンにポリ鎖を包接させた包接化合物を光エネルギ移動素子として用いるものであり、光吸収機能を有する芳香環に給した光エネルギを光エネルギ受容骨格を有するシクロデキストリンへ移動させる機能を有するものであるとされている。
【0009】
【特許文献1】
特開平7−304890号公報
【0010】
【特許文献2】
特開2000−26505号公報
【非特許文献1】
清水剛夫、吉野勝美監修、分子機能材料と素子開発、NTS、p352−362
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の光エネルギ移動素子の提案では、1つの包接化合物自体のエネルギ移動特性については触れられているが、その包接化合物を用いて具体的にどのような導電性有機膜を構成し、さらにはどのような発光素子や受光素子を構成するのかという点については定かではない。このため、導電性有機膜や素子としてどのような電気伝導特性が得られるかという点も不明である。
【0012】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、包接化合物を用いて高い電気伝導度を得ることができる、導電性有機膜およびそれを用いた光機能素子を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明に係る導電性有機膜は、ホスト分子にゲスト分子としての導電性高分子が包接された包接化合物を主成分として含む導電性有機膜であって、該ホスト分子1個に該導電性高分子の複数本が包接され、該導電性高分子が包接箇所を頂点とするネットワークを形成し、配向処理されてなることを特徴とする。
【0014】
ここで、ネットワークは、無欠陥のもの、すなわち、全てのホスト分子のそれぞれに2本以上の導電性高分子が包接された構造であると、理想的であるが、これに限らず、本発明の効果を奏する限り、欠陥を有するもの、すなわち、導電性高分子が包接されていないホスト分子を一部含む構造や、1本の導電性高分子のみが包接されたホスト分子を一部含む構造であってもよい。以下の他の発明のネットワークについても同様である。
【0015】
この場合、前記ホスト分子が少なくとも2個以上架橋され、該架橋されたホスト分子架橋物に前記導電性高分子が複数本包接されるように構成してもよい。ここで、導電性有機膜は、ホスト分子架橋物を構成するホスト分子のそれぞれに少なくとも1本以上の導電性高分子が包接された構造であってもよく、また、ホスト分子架橋物を構成するホスト分子のいずれか1個のみに複数本の導電性高分子が包接された構造であってもよい。
【0016】
これにより、高分子が略規則正しく配列されることで、電荷の移動度の大きな、あるいは強度に優れる導電性有機膜を得ることができる。
【0017】
また、この場合、該導電性高分子が膜平面方向に延出するとともに該ネットワークが膜厚方向に引き伸ばされるように配向される第1の配向構造および該導電性高分子が膜厚方向に延出するように配向される第2の配向構造のうちのいずれか1つの配向構造または双方が混成した配向構造を有すると、高分子が略規則正しく配列されることで、電荷の移動度の大きな、言い換えれば、電気伝導度が高い導電性有機膜を得ることができる。
【0018】
上記の導電性有機膜において、上記第1の配向構造をとるときは、膜厚方向に隣り合う導電性高分子間の電荷のホッピングによる移動回数が少ないことにより、また、上記第2の配向構造をとるときは、膜厚方向に延出する1つの導電性高分子の鎖内、および膜厚方向に実質的に連鎖状に形成される複数の導電性高分子の鎖内を電荷が移動することにより、それぞれ大きな電荷の移動度が得られる。
【0019】
また、この場合、前記ホスト分子および前記導電性高分子の何れか一方または双方に機能性有機材料が結合されてなると、より高い電気伝導度を得ることができる。
【0020】
また、本発明に係る光機能素子は、上記の導電性有機膜を有し、発光機能または受光機能を備えてなることを特徴とする。
【0021】
これにより、高い発光効率または受光効率を有する素子を得ることができる。
【0022】
この場合、前記導電性高分子がキャリア輸送性高分子からなると、より好適である。
【0023】
また、本発明に係る発光素子は、上記の導電性有機膜の2層が発光層の両面側にそれぞれ配置され、そのうちの1つの導電性有機膜が電子輸送性高分子からなり、他の1つの導電性有機膜が正孔輸送性高分子からなると、高い発光効率を有する素子を得ることができる。
【0024】
【発明の実施の形態】
本発明に係る導電性有機膜およびそれを用いた光機能素子の好適な実施の形態について、図を参照して、以下に説明する。
【0025】
包接とは、原子または分子が結合して形成される三次元構造物(以下、ホスト分子という。)の内部に有する空孔に別の原子や分子(以下、ゲスト原子、ゲスト分子という。)が入り込む現象をいい、このようにして形成される包接構造物を包接化合物という。
【0026】
例えば、従来技術の説明において挙げたシクロデキストリンは、代表的なホスト分子であり、6〜10個のグルコースが環状に繋がったグルコースオリゴマーである。シクロデキストリンは、環の外側が親水性で内側が疎水性であることから、種々の疎水性高分子を環内に取り込むことができる。
【0027】
本実施の形態例に係る導電性有機膜10は、図1に部分的に示すように、このようなホスト分子12に導電性高分子14を包接させた包接化合物16を用いて、ホスト分子12の箇所、言いかえれば包接箇所を頂点(結束点)とする導電性高分子14のネットワークを形成し、膜を配向処理したものである。このとき、好ましくは膜厚方向への配向処理を行う。これにより、導電性高分子14が膜の平面方向(図1中X方向)に延出して配列されるとともに、形成されるネットワークが膜厚方向(図1中Y方向)に引き伸ばされた構造(第1の配向構造)を有する。
【0028】
また、本実施の形態例に係る導電性有機膜10は、図2に部分的に示すように、導電性高分子14が膜の厚み方向(図2中、Y方向)に延出するように配向させた(分子鎖を延出させた)構造(第2の配向構造)を有してもよい。
【0029】
また、本実施の形態例に係る導電性有機膜10は、上記図1および図2に示す構造が混成した構造であってもよい。なお、図1および図2において、図中、白丸は1本の導電性高分子14の末端を示す。
【0030】
上記のように構成した導電性有機膜10は、ネットワークを構成する導電性高分子14が規則正しく配列されるため、電荷の移動度が良好な導電性有機膜を得ることができる。
【0031】
また、導電性有機膜10が、図1の配向構造をとる場合は、ネットワークが膜厚方向に引き伸ばされていることにより膜厚方向に隣り合う導電性高分子間の電荷のホッピング(図1中、矢印Aで示す。)による移動回数が少ないため、膜厚方向への大きな電荷の移動度が得られる。この点については、さらに後述する。また、導電性有機膜10が、図2の配向構造をとる場合は、膜厚方向に延出する1つの導電性高分子の鎖内、および膜厚方向に実質的に連鎖状に形成される複数の導電性高分子の鎖内を直接にあるいはホッピングにより(図2中,矢印Aで示す。)電荷が移動することにより、膜厚方向への大きな電荷の移動度が得られる。
【0032】
このため、導電性有機膜10を、例えば有機EL素子の電界注入層に用いる場合、導電性有機膜10の一面側から注入される電荷は、導電性高分子のネットワークに沿って膜の厚み方向に速やかにかつ効率的に導電性有機膜10の他の一面側に伝達される。すなわち、導電性有機膜10は、高い電気伝導度を有する。ここで、電荷とは、正の電荷、すなわち正孔および負の電荷、すなわち電子の双方を含む意である。
【0033】
導電性有機膜10は、包接化合物16のみで構成してもよく、また、後述する機能性有機材料をさらに含んだものや、あるいは強度を向上させるためにポリカーボネート樹脂等の不活性樹脂を添加したもの等であってもよい。
【0034】
上記の構造を有する導電性有機膜10は、例えば、通常の包接化合物の形成方法を用いて形成した包接化合物を含む導電性有機膜材料を塗布法により成膜した後、面延伸配向法で配向(第47回応用物理学関係連合講演会予稿集29a−T−11参照。)させることにより形成することができる。
【0035】
包接化合物および包接化合物を用いた導電性有機膜は、例えば以下の方法で形成する。
【0036】
例えば、ホスト分子である架橋γシクロデキストリン100mgを10mlの蒸留水に溶解した水溶液にゲスト分子であるポリジエチルシラン100mgを添加し、スターラーで30分間よく攪拌する。
【0037】
このとき、シクロデキストリンを重量比率で10倍程度以上の蒸留水に溶解して希薄溶液としてもよく、また、0.3〜10倍程度の蒸留水に溶解してスラリー状トしてもよい。ゲスト分子は、シクロデキストリン1モルに対して高分子の1単位ユニット(1個の高分子鎖)換算で3〜10モル程度添加する。ゲスト分子は、そのまま添加してもよいが、ごく少量のエタノール、クロロホルム、トルエン等の溶液に溶解したものを添加してもよい。攪拌は、スターラー等を用い、例えば30分以上行う。
【0038】
上記の包接化合物を含む、あるいは包接化合物からなる導電性有機膜材料の溶液0.5mlを、一般的な塗布法により、例えば20mm×30mmのガラス基板上に塗布して成膜する。
【0039】
そして、スペーサを挟んで膜の上にもう1枚の上記基板と同じサイズの基板を張り合わせ、膜をガラス転位点以上の温度に加熱した状態で上方の基板に力を加えて基板を撓ませる。その後、上方の基板に加えた力を取り除くと、上方の基板の撓みが元に復元するときの力により、膜が厚み方向に配向処理され、本実施の形態例に係る導電性有機膜10が得られる。
【0040】
導電性有機膜10において、ホスト分子12は、包接能のある環状分子であれば特に限定することなく種々のものを用いることができる。例えば、上記のシクロデキストリンの他にも、クラウンエーテル、カリックスアレーン、デオキシコール酸、尿素、チオ尿素等を好適用いることができる。
【0041】
また、導電性高分子14は、用いるホスト分子に包接されうるものでれば特に限定することなく種々のものを用いることができる。例えば、ポリパラフェニレンビニレン類、ポリフルオレン類、ポリビニルカルバゾール類、ポリチオール類、ポリチオフェン類等のπ電子系導電性高分子や、ポリシラン類、ポリゲルマン類等のσ電子系高分子等を好適に用いることができる。
【0042】
このとき、導電性有機膜10は、図3に示すように、1個のホスト分子12に2本の導電性高分子14a、14bが包接される構造であってもよく、また、図3に示すように、2個のホスト分子12a、12bが架橋した架橋ホスト分子構造物18のそれぞれのホスト分子12a、12bに導電性高分子14a、14bが1本ずつ包接された構造であってもよい。
【0043】
また、これに限らず、前者の場合、1個のホスト分子12に3本以上の導電性高分子が包接されるものであってもよく、一方、後者の場合、3個以上のホスト分子12のそれぞれに導電性高分子が包接され、あるいは、2個以上のホスト分子12のうちの特定の1個に2本以上の導電性高分子が包接されるものであってもよい。
【0044】
ここで、2個のホスト分子が架橋した架橋ホスト分子構造物は、例えば、水酸基、アルデヒド基、イソシアネート基等を架橋剤とし、架橋剤が溶解可能な溶媒中で2個のホスト分子を反応させることにより得ることができ、また、包接化合物の上記した種々の形態は、例えば、ゲスト分子の長鎖の径に応じて、所定の環の径を有するホスト分子を選択して用い、あるいはホスト分子の環の径を制御する等の方法により、作り分けることができる。また、包接化合物の上記した種々の形態が得られたか否か、すなわち、得られる包接化合物の同定は、IRスペクトルの測定等により行うことができる。
【0045】
また、導電性有機膜10は、包接構造とした後に、導電性高分子14の末端にホスト分子12の環の内径よりも大きなサイズの置換基を付加することができ、これにより、一度包接された導電性高分子がホスト分子から抜け落ちることを防ぐことができる。
【0046】
導電性高分子(ゲスト分子)として例えばポリジエチルシランを、また、ホスト分子として例えばシクロデキストリンを用いる場合、ポリジエチルシランの末端をアミノ基で置換した上で、上記の置換基として、例えば、2,4−ジニトロフルオロベンゼン等を付加することができる。
【0047】
置換基の付加は、通常の有機化学反応の手法を用いて行うことができ、例えば、置換基または導電性高分子の末端のどちらかに水酸基、アミノ基、カルボキシル基等の官能基が導入されていれば、容易に結合反応が可能となる。置換基の導入は、ホスト分子とゲスト分子とを攪拌開始後、例えば30分以上経過した後に行う。置換基の添加量は、ゲスト分子1モルに対して少なくとも2モル以上とする。
【0048】
また、本発明の導電性有機膜10は、ホスト分子12および導電性高分子14のうちのいずれか一方または双方に機能性有機材料を結合させたものであってもよく、これにより、適宜の機能性を発揮することができる。なお、機能性有機材料を結合させることが包接化合物の構造その他の理由により難しいときは、包接化合物を用いて膜を形成するときに、膜内に機能性有機材料を添加してもよい。
【0049】
このような、機能性有機材料としては、発光性有機材料、光電変換有機材料、非線形光学有機材料、二色性有機材料、光化学変換有機材料等を挙げることができる。
【0050】
例えば、光電変換有機材料である有機色素を用いた導電性有機膜は、有機色素が光を吸収して生成した電荷が導電性高分子のポリ鎖内を移動するため、大きな電荷の移動度を得ることができる。
【0051】
機能性有機材料の付加は、通常の有機化学反応の手法を用いて行うことができる。
【0052】
以上説明した本実施の形態例に係る導電性有機膜10を用いて発光機能または受光機能を備えた光機能素子を形成すると、上記した導電性有機膜10の好適な特性を有する光機能素子を得ることができる。
【0053】
例えば、光機能素子としての発光素子の例について、図4を参照して説明する。
発光素子20は、発光層22の両面に導電性有機膜10a、10bを設け、最外面に電極24a、24bを設けた構造を有する。電極24a、24bは電源26に接続される。
【0054】
電極24a、24b間に電圧が印加されると、導電性有機膜10a、10bに注入される電荷が、膜厚方向に高速に移動し、発光層22に伝達される。したがって、導電性有機膜10a、10bに注入される電荷、すなわち、正孔および電子は、発光層22に急速に注入されて結合してエネルギを放出し、これにより、高効率の発光を得ることができる。
【0055】
光機能素子に用いる導電性有機膜は、導電性高分子が正孔輸送性または電子輸送性のキャリア輸送性高分子からなるものであってもよい。
【0056】
このとき、図5の発光素子20において、導電性有機膜10aが電子輸送性高分子からなり、導電性有機膜10bが正孔輸送性高分子からなる構成の発光素子とすると、電荷の分離が促進されて電荷の移動効率がさらに高く、したがって、発光効率の高い発光素子を得ることができる。
【0057】
また、光機能素子は、導電性有機膜が前記した図2又は図3の構造を有するものにおいて、例えば、導電性高分子14aが電子輸送性高分子であり、導電性高分子14bが正孔輸送性高分子であると、正孔と電子の両方の電荷を、電荷のバランスがとれた状態となり、好適である。
【0058】
また、光機能素子は、図6に示すように、架橋ホスト分子構造物18に光電変換用色素28を結合するとともに、架橋ホスト分子構造物18の1個のホスト分子12cに電子輸送性高分子14cを、および他の1個のホスト分子12dに正孔輸送性高分子14dを包接した構造とすると、正孔と電子の両方の電荷を、電荷のバランスがとれた状態で2本の導電性高分子14c、14dのポリ鎖に取り出すことができるため、より好適な受光素子としての光機能素子を得ることができる。
【0059】
また、光機能素子は、図7に示すように、架橋ホスト分子構造物18に発光性色素30を結合するとともに、架橋ホスト分子構造物18の1個のホスト分子12cに電子輸送性高分子14cを、および他の1個のホスト分子12dに正孔輸送性高分子14dを包接した構造とすると、2本の導電性高分子14c、14dのポリ鎖を移動してきた正電荷および電子が電荷のバランスがとれた状態で再結合することにより、より発光効率の高い発光素子としての光機能素子を得ることができる。
【0060】
ここで、図1に示した導電性有機膜10における電荷のホッピング挙動の一例をシミュレーションしてみる。
【0061】
導電性有機膜は、導電性高分子としてポリシランの一種であるポリジエチルシラン(以下、PDESという。)を用い、ホスト分子として架橋型γシクロデキストリンを用いる。
【0062】
PDESの重量平均分子量は、100万程度であり、これは、約1.5μmの鎖長のポリ鎖内にシリコンが約11,000個繋がった状態で存在することに相当する。PDES1分子(1本)は、平均で10個のシクロデキストリンによって包接される。
【0063】
このシクロデキストリンによって包接したPDESを膜平面に沿って延出させた状態で、ネットワークを膜の厚み方向に引き伸ばすように配向させて、厚み1μmの導電性有機膜を得る。
【0064】
上記のような構造を有する導電性有機膜において、PDESは、鎖内に電子の非局在化準位が形成されるため、鎖に沿って電荷が高速に移動するが、分子の折れ曲がり箇所、すなわち、PDESがシクロデキストリンによって包接される箇所において(図1中、Bの箇所)その非局在化が途切れる。すなわち、PDESは、図1中、最も近接する、言い換えれば隣り合う2つのシクロデキストリン間の鎖部分である辺AB(辺a)を基準単位とする非局在化領域(ドメイン)を形成しており、隣り合う非局在化領域間、すなわち辺ABと辺AD間の電荷移動もホッピングによって行われる。
【0065】
このとき、上記隣り合う2つのシクロデキストリンの幾何学的関係について、直角三角形ABCを考えると、上記の計算により、膜の厚み方向に略延出する辺AB(辺a)は約170nm程度になるため、膜の厚み方向の電荷の移動距離は、図1中角θを例えば60°とすると、辺AC(辺b)の長さ、すなわち、約150nmとなる。したがって、1μmの厚みの膜中を電荷が通過するときのホッピング回数は約7回と見積もることができる。
【0066】
これに対して、延伸等の配向処理を行わない通常のPDESでは1本の鎖長、言い換えれば非局在化領域の長さは、数nm程度である。それゆえ、通常のPDESを用いて1μmの厚みの導電性有機膜を形成した場合を考えると、膜中を電荷が通過するときのホッピング回数は、少なくとも数百回を超えることがわかる。
【0067】
また、例えば、PDESをシクロデキストリンに包接することなく、PDESのみを用いて、キャスト法、スピンコート法等の塗布法で成膜した後、通常の延伸法等により膜の平面に沿う方向にPDESが延出するように配向した1μmの厚みの導電性有機膜を形成する場合を考えると、膜厚方向に隣り合うPDES間の距離は約0.8nm(8Å)であるので、膜中を電荷が通過するときのホッピング回数は約1250回となる。
【0068】
また、上記と同様に、PDESのみを用いてLB法により単分子膜を複数層積層して1μmの厚みの導電性有機膜を形成する場合を考えると、すなわち、膜厚方向にPDESの単分子膜が積重ねられた構造を考えると、PDESの末端に結合されるカルボン酸等の親水基の大きさ約1nmにPDESの鎖長さ4nmを加えた非局在化領域の長さが約5nmとなり、したがって、膜中を電荷が通過するときのホッピング回数は約200回となる。なお、このように単分子膜を高次に積層することは実際には困難である。
【0069】
したがって、膜の構造上、膜中を電荷の移動速度がホッピング回数によって律速される場合、本実施の形態例に係る導電性有機膜は、従来のものに比べて、著しくホッピング回数が少なく、それゆえ、大きな電荷の移動度を得ることができ、高い電気伝導度が得られることがわかる。
【0070】
【発明の効果】
本発明に係る導電性有機膜によれば、ホスト分子にゲスト分子としての導電性高分子が包接された包接化合物を主成分として含む導電性有機膜であって、ホスト分子1個に該導電性高分子の複数本が包接され、該導電性高分子が包接箇所を頂点とするネットワークを形成し、配向処理されてなり、または、ホスト分子が少なくとも2個以上架橋され、架橋されたホスト分子架橋物に導電性高分子が複数本包接され、導電性高分子が包接箇所を頂点とするネットワークを形成し、配向処理されてなるため、電荷の移動度の大きな、あるいは強度に優れる導電性有機膜を得ることができる。
【0071】
また、本発明に係る導電性有機膜によれば、導電性高分子の複数本が包接箇所を頂点とするネットワークを形成し、導電性高分子が膜平面方向に延出するとともにネットワークが膜厚方向に引き伸ばされるように配向される第1の配向構造および導電性高分子が膜厚方向に延出するように配向される第2の配向構造のうちのいずれか1つの配向構造または双方が混成した配向構造を有するため、電荷の移動度の大きな、言い換えれば、電気伝導度が高い導電性有機膜を得ることができる。
【0072】
また、本発明に係る光機能素子によれば、、上記の導電性有機膜を有し、発光機能または受光機能を備えてなるため、高い発光効率または受光効率を有する素子を得ることができる。
【0073】
また、本発明に係る発光素子によれば、上記の導電性有機膜の2層が発光層の両面側にそれぞれ配置され、そのうちの1つの導電性有機膜が電子輸送性高分子からなり、他の1つの導電性有機膜が正孔輸送性高分子からなるため、高い発光効率を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施の形態例に係る導電性有機膜の概略構成を説明するための部分図である。
【図2】本実施の形態例に係る導電性有機膜の図1とは異なる概略構成を説明するための部分図である。
【図3】本実施の形態例に係る導電性有機膜に含まれる包接化合物を模式的に示す図である。
【図4】本実施の形態例に係る導電性有機膜に含まれる包接化合物の図3とは異なる形態を模式的に示す図である。
【図5】本実施の形態例に係る導電性有機膜を用いた発光素子の概略構成を示す図である。
【図6】本実施の形態例に係る導電性有機膜に含まれる包接化合物の他の形態を模式的に示す図である。
【図7】本実施の形態例に係る導電性有機膜に含まれる包接化合物のさらに他の形態を模式的に示す図である。
【符号の説明】
10、10a、10b 導電性有機膜
12、12a〜12d ホスト分子
14、14a、14b 導電性高分子
16 包接化合物
20 発光素子
22 発光層
24a、24b 電極
26 電源
28 光電変換用色素
30 発光性色素

Claims (8)

  1. ホスト分子にゲスト分子としての導電性高分子が包接された包接化合物を主成分として含む導電性有機膜であって、
    該ホスト分子1個に該導電性高分子の複数本が包接され、
    該導電性高分子が包接箇所を頂点とするネットワークを形成し、
    配向処理されてなることを特徴とする導電性有機膜。
  2. ホスト分子にゲスト分子としての導電性高分子が包接された包接化合物を主成分として含む導電性有機膜であって、
    該ホスト分子1個に該導電性高分子の複数本が包接され、
    該導電性高分子が包接箇所を頂点とするネットワークを形成し、
    該導電性高分子が膜平面方向に延出するとともに該ネットワークが膜厚方向に引き伸ばされるように配向される第1の配向構造および該導電性高分子が膜厚方向に延出するように配向される第2の配向構造のうちのいずれか1つの配向構造または双方が混成した配向構造を有することを特徴とする導電性有機膜。
  3. ホスト分子にゲスト分子としての導電性高分子が包接された包接化合物を主成分として含む導電性有機膜であって、
    該ホスト分子が少なくとも2個以上架橋され、該架橋されたホスト分子架橋物に該導電性高分子が複数本包接され、
    該導電性高分子が包接箇所を頂点とするネットワークを形成し、
    配向処理されてなることを特徴とする導電性有機膜。
  4. ホスト分子にゲスト分子としての導電性高分子が包接された包接化合物を主成分として含む導電性有機膜であって、
    前記ホスト分子が少なくとも2個以上架橋され、該架橋されたホスト分子架橋物に前記導電性高分子が複数本包接され、
    該導電性高分子が包接箇所を頂点とするネットワークを形成し、
    該導電性高分子が膜平面方向に延出するとともに該ネットワークが膜厚方向に引き伸ばされるように配向される第1の配向構造および該導電性高分子が膜厚方向に延出するように配向される第2の配向構造のうちのいずれか1つの配向構造または双方が混成した配向構造を有することを特徴とする導電性有機膜。
  5. 前記ホスト分子および前記導電性高分子の何れか一方または双方に機能性有機材料が結合されてなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の導電性有機膜。
  6. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の導電性有機膜を有し、発光機能または受光機能を備えてなることを特徴とする光機能素子。
  7. 前記導電性高分子がキャリア輸送性高分子からなることを特徴とする請求項6記載の光機能素子。
  8. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の導電性有機膜の2層が発光層の両面側にそれぞれ配置され、そのうちの1つの導電性有機膜が電子輸送性高分子からなり、他の1つの導電性有機膜が正孔輸送性高分子からなることを特徴とする発光素子。
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