JP2004103952A - 励起子を用いた量子論理素子および量子論理演算方法 - Google Patents

励起子を用いた量子論理素子および量子論理演算方法 Download PDF

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Kazuhiro Komori
小森 和弘
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Abstract

【課題】デコヒーレンス時間の大幅な増大と極超短パルスレーザ技術による基本演算時間の大幅な短縮を可能とする、励起子を用いた量子論理素子および量子論理演算方法を提供すること。
【解決手段】量子論理素子を互いに幅の異なる2つの半導体量子井戸構造(a,b)で構成し、半導体量子井戸構造を備える基板に所望の角度θで印加された磁場中でこれらの量子井戸構造の各々に光励起された分極を有する励起子相互間の自己分極間相互作用を利用するようにした。また、上記自己分極間相互作用の替わりに、半導体量子井戸構造を備える半導体基板に所望の角度θで印加された磁場中で半導体量子井戸構造aに照射された右回りの円偏光および半導体量子井戸構造bに照射された左回りの円偏光により半導体量子井戸構造の各々に生成された、互いに反対方向のスピンをもち、かつ、互いにエネルギーを同一とするスピン選択励起された励起子間のスピン交換相互作用を利用するようにした。
【選択図】    図7

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、量子論理素子および量子論理演算方法に関し、より詳細には、半導体量子構造中の励起子を用いた量子論理素子および量子論理演算方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
古典力学に基づいた現在のコンピュータに対して、量子力学の原理に基づくものとして量子コンピュータの提案がなされ、これまでは主として、量子計算のソフトウエアといえる理論面での研究が進められてきたものの、理論から要求されるハードウエア、すなわち物理系で量子論理素子を構成するための条件は非常に厳しくいまだ開発途上である。
【0003】
先ず、量子計算の原理を示す。従来の古典的デジタルコンピュータでは、「0」と「1」とからなるビットを基本的な計算要素としているのに対して、量子計算機では、重ねあわせ状態をとることができる量子状態|0>と量子状態|1>という2つの量子状態から構成される量子ビットを基本的な計算要素としている。
【0004】
たとえば、ある量子ビット|a>は、
|a>=cosθ|0>+sinθ・exp(iα)|1>   (1)
と表現することができる。ここで、αは、量子状態|0>と量子状態|1>との間の位相を表し、θは、量子状態|0>と量子状態|1>の確率的な分布を意味する。すなわち量子状態|a>を観測すると、cosθの割合で状態|0>が見出され、sinθの割合で状態|1>が見出されることとなる。
【0005】
「回転ゲート」と「制御ノットゲート」の2種類のゲートの組み合わせによって量子ビットに対するすべての論理演算が実行可能であることが知られている(非特許文献1参照。)。ここで、「回転ゲート」とは、図1に示すように、式(1)中の量子状態|0>と|1>の比率(θ)や位相αを任意に変化させるものである。また、「制御ノットゲート」とは、図2(a)に示すように2つの量子ビットに関する量子ゲートであり、一方の量子ビットを制御ビット|a>、他方の量子ビットを信号量子ビット|b>とする。なお、図2(b)は、この「制御ノットゲート」における入出力信号の論理値表であり、「制御ノットゲート」の動作は、制御量子ビットが|0>のときには信号量子ビットは変化しないが、制御量子ビットが|1>のときには、信号量子ビットに対して|0>と|1>とを入れ替えるノットゲートとして作用するものである。
【0006】
量子計算では、量子状態間の位相関係が量子力学的相関を持った「重ね合わせ状態」を利用して計算を行なうので、計算の間には「重ね合わせ状態」を保持している必要がある。しかし、実際の物理系では、位相関係(コヒーレンス)を乱すデコヒーレンス要因(緩和現象)によって重ね合わせ状態が崩される。緩和現象には、系の運動量が乱される位相緩和(横緩和)と系のエネルギーが乱されるエネルギー緩和(縦緩和)とがある。これらの緩和現象は、位相緩和が先に生じ次にエネルギー緩和が生じるが、エネルギー緩和が非常に早い系では、位相緩和はエネルギー緩和時間とほぼ同じになる。
【0007】
固体中におけるデコヒーレンス要因とは、主に位相緩和によるものであり、位相緩和時間の充分長い系を選ぶとともに位相緩和時間に比べて充分短い時間で量子計算を行なう必要がある。
【0008】
このような理由から、量子論理素子を実現するためには、第1に、コヒーレンス項が指数因子(e)分の1に減衰する時間であるデコヒーレンス時間の長い系を選ぶとともにデコヒーレンス時間(位相緩和時間)が量子演算の実行時間(基本ゲート時間×計算ステップ数)よりも充分長いこと、第2に、量子演算に必要不可欠な1量子論理ゲートである「位相シフター」と2量子論理ゲートである「制御ノット」を構成できること、が必要条件となる。
【0009】
これまでに、各種の物理系を利用した量子論理素子の提案がなされ、いくつかの系では初期的な1〜数量子ビットの実験例も報告されている。
【0010】
代表的なものとしては、(1)NMRを用いた量子計算(例えば、非特許文献2参照)、(2)イオントラップを用いた量子計算(例えば、非特許文献3参照)、(3)線形光学系を用いた量子計算(例えば、非特許文献4参照)、および、(4)半導体固体素子を用いた量子計算(例えば、非特許文献5参照)が上げられる。この中で、(1)NMRを用いた量子計算と(2)イオントラップを用いた量子計算についてはデコヒーレンス時間が非常に長い原子・分子系を利用しているという特長があり、1〜数量子ビットの実験例も報告されている(例えば、非特許文献6参照)。
【0011】
しかし、NMRを用いた量子計算では少数量子ビットの演算が限界であり、また、イオントラップを用いた量子計算においても数量子ビットの演算が限界であると考えられており、共に、量子計算の特徴を発揮する大規模演算には適さない。
【0012】
さらに、線形光学系を用いた量子計算においても、量子ビットの数に比例して光学系の規模が大きくなるために数量子ビットの演算が限界である。
【0013】
したがって、大規模量子計算の実現のためには、半導体固体素子を用いて量子計算を行なうことが有望であると考えられる。半導体固体素子を用いて量子計算を実行するものには、主に、(4−1)超伝導トンネル接合を用いた量子計算、(4−2)不純物核スピンを用いた量子計算、および、(4−3)半導体量子井戸構造の電子状態を用いた量子計算が考えられている。
【0014】
これらの量子計算のうち、半導体量子構造の電子状態を利用したものとしては「バレンコ提案」がある(非特許文献7参照)。以下にこの「バレンコ提案」について説明する。
【0015】
量子井戸構造とは、図3に示すように、エネルギーギャップの大きい半導体(たとえばAlGaAs)とエネルギーギャップの小さい半導体(たとえばGaAs)とを交互に積層させ、エネルギーギャップの小さい半導体をエネルギーギャップの大きい半導体によって挟むことによって、電子およびホールに対して井戸型のエネルギー障壁を設け、これにより、電子とホールをその井戸の中に閉じ込める構造である。この構造は、異なった半導体から構成されるので半導体へテロ構造と呼称され、これらの2つの半導体の成長界面はへテロ界面と呼ばれる。
【0016】
このような量子井戸構造は、電子を積層方向(z方向)の1次元だけに閉じ込める構造であり、電子の自由度はz方向が失われて2次元の自由度をもち、2次元半導体または量子薄膜構造と呼ばれる(図4(a))。
【0017】
また、もう一次元のxまたはy方向をエネルギーギャップの異なる半導体を用いて電子を閉じ込めると、自由度をもう一次元分だけ失うので1次元半導体または量子細線(量子ワイヤー)構造と呼ばれる(図4(b))。
【0018】
さらに、z方向のほかに、面内の2次元(xy)方向でエネルギーギャップの異なる半導体を用いて電子を閉じ込めると、電子はx、y、zのすべての方向に自由度を失うので0次元半導体または量子点(量子ドットまたは量子箱)構造とも呼ばれる(図4(c))。これらの構造は、3次元のバルクに対して、低次元量子井戸構造とも呼ばれる。
【0019】
量子ドット構造においては、電子を閉じ込めている井戸の幅(サイズ)を3次元方向とも非常に小さく(〜数nm)することによってx、y、z方向についてのすべての波動関数が高次の波動関数をもたなくすること(すなわち、高次波動関数をカットオフにすること)が可能になる。その場合は、一つの量子ドットに一つの電子を閉じ込めることが可能となる特長がある。また、ドットサイズを選ぶことによって基底準位と第一励起準位だけしかもたないような量子ドット構造を作製することもできる。
【0020】
図5は、「バレンコ提案」の内容を説明するための図で、先ず、図5(a)に示すように、2つの幅の異なる量子井戸構造a,bが隣り合った構造を用意する。特に、電子を一つだけ励起制御するためには、この量子井戸が3次元方向に電子が閉じ込められた量子ドットであることが望ましい。
【0021】
そのような量子井戸に閉じ込められた井戸aと井戸bの電子状態(量子状態)を、各々、|a>および|b>とし、基底状態を|0>aおよび|0>b、第1励起状態を|1>aおよび|1>bとする。この場合、エネルギー準位は、図5(b)のようになる。ここで、状態|0>a|0>bは、井戸aの電子が基底状態にあり井戸bの電子も基底状態にある場合を意味し、状態|0>a|1>bは、井戸aの電子が基底状態にあり井戸bの電子は第1励起状態にある場合を意味し、状態|1>a|0>bは、井戸aの電子が第1励起状態にあり井戸bの電子が基底状態にある場合を意味し、さらに、状態|1>a|1>bは、井戸aの電子が第1励起状態にあり井戸bの電子も第1励起状態にある場合を意味する。
【0022】
この状態で、状態|0>bと状態|1>bとのエネルギー差E(=hω/2π=hν)に相当する電磁波を、ある一定時間(πパルスに相当する時間)照射すれば、|b>を状態|0>bから状態|1>bに、またはその逆へと入れ替えることが可能であり、これによって「回転ゲート」の操作ができる。
【0023】
しかし、このままでは|a>の状態に応じて|b>の状態を変化させる「制御ノットゲート」の動作はできない。
【0024】
バレンコの提案では、量子井戸外の障壁層の両端の間に、電圧(図5(c)中のVext)を加えると、図5(c)に示すように、量子井戸のバンド構造が傾斜する。そして、量子井戸内では、量子閉じ込め効果によって基底準位と第1励起準位の波動関数はそれぞれ反対側に偏り、それぞれ逆向きの電気双極子をもつようになる。このような量子井戸が隣接して存在すると、これらの電気双極子間の相互作用によって、双極子の向きが互いに逆向きの状態|1>a|0>bと状態|0>a|1>bとは、双極子の向きが互いに同じ向きの状態|0>a|0>bと状態|1>a|1>bに比べてエネルギーが小さくなる。
【0025】
この相互作用によって、エネルギー準位は図5(d)に示すように変化し、状態|1>a|0>bと状態|1>a|1>bとの間のエネルギー差E’は、状態|0>a|0>bと状態|0>a|1>bとの間のエネルギー差E’’に比べて大きくなる。
【0026】
従って、エネルギー差E’(=hω’/2π=hν’)に相当する周波数ω’の電磁波を用いて励起することによって、|a>が|1>aの状態のときのみ、|b>の状態を選択的に反転させることが可能になる。
【0027】
【非特許文献1】
D.Deutsch, A.Barenco, and A.Ekert.,” Universality in quantum computation”  Proc. R. Soc. London, A449, 669−677, (1995)
【0028】
【非特許文献2】
N.A. Gershenfeld and I. Chuang: ” Bulk spin−resonance quantum computation” Science 275 (1997), 350.
【0029】
【非特許文献3】
J.I. Cirac and P.Zoller, ”Quantum Computations with Cold Trapped Ions”, Phys. Rev. Lett., 74, no.20, 4091, 1995
【0030】
【非特許文献4】
S.Takeuchi, ”Experimental demonstration of a three−qubit quantum computation algorithm using a single photon and linear optics”, Phys.Rev. A., vol.62, 032301, pp.1−4, 2000
【0031】
【非特許文献5】
B.E. Kane, ”A silicon−based nuclear spin quantum computer”, Nature, vol.393, pp. 133−136, 1998
【0032】
【非特許文献6】
C. Monroe, D.M.Meekhof, B.E.King, W.M.Itano, and D.J.Wineland, ” Demonstration of a fundamental quantum logic gate” Phys.Rev. Lett. 75, (1995) 4714
【0033】
【非特許文献7】
A.Barenco, D.Deutsch, and A.Ekert, ”Conditional Quantum Dynamics and Logic Gate”, Phys. Rev. Lett., vol. 74, no.20, pp. 4083, 1995
【0034】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような量子論理素子を実際の物理系で実現しようとすると、以下のようないくつかの問題および課題があり、そのために、これまでに「バレンコ提案」を実際の物理系を用いて実験的に実証した例はない。
【0035】
第1に、サブバンド内においては、フォノン散乱がデコヒーレンス要因となる。一般に、サブバンドでの第1励起準位から基底準位へのエネルギー緩和時間はピコ秒程度と非常に早く、この早い緩和時間が量子演算には問題となる。
【0036】
第2に、第1励起準位から基底準位への遷移波長(サブバンド間遷移の波長)は、伝導帯での量子井戸の深さ(2つの半導体間の伝導体でのエネルギーの不連続値ΔE)によって決まり、GaAsやInP等の半導体を用いた場合、その波長はおおよそ遠赤外(〜10μm:超長波長)になる。この場合、100フェムト秒以下で動作するフェムト秒レーザ技術がなく、超高速に励起制御することが困難である。
【0037】
第3に、量子計算の最大ステップ数Nsは、コヒーレンス項が指数因子(e)分の1に減衰するデコヒーレンス時間(位相緩和時間)τを基本ゲートの演算時間Tgで割ったものと見積もれる。Nsは少なくとも1000〜10000以上は必要と考えられるものの、τは数ピコ秒程度、Tgもピコ秒程度が限界と考えられるため、Nsは10以下となる。
【0038】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、デコヒーレンス時間(位相緩和時間)の大幅な増大と、極超短パルスレーザ技術による基本演算時間の大幅な短縮を可能とする、励起子を用いた量子論理素子および量子論理演算方法を提供することにある。
【0039】
【課題を解決するための手段】
本発明は、このような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、半導体量子構造の電子状態を利用した量子論理素子であって、互いに幅の異なる2つの半導体量子井戸構造(a,b)を備え、当該半導体量子井戸構造の基板に所望の角度θで印加された磁場中で当該2つの半導体量子井戸構造の各々に光励起された、自己分極を有する励起子相互間の分極間相互作用を利用することを特徴とする。
【0040】
また、請求項2に記載の発明は、半導体量子構造の電子状態を利用した量子論理素子であって、互いに幅の異なる2つの半導体量子井戸構造(a,b)を備え、当該半導体量子井戸構造の基板に所望の角度θで印加された磁場中で前記半導体量子井戸構造aに照射された右回りの円偏光および前記半導体量子井戸構造bに照射された左回りの円偏光により前記2つの半導体量子井戸構造の各々に生成された、互いに反対方向のスピンをもつスピン選択励起された励起子間のスピン交換相互作用を利用することを特徴とする。
【0041】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の量子論理素子において、前記半導体量子井戸構造は、量子薄膜構造、量子細線構造、または、量子ドット構造のいずれかであることを特徴とする。
【0042】
また、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の量子論理素子において、前記半導体量子井戸構造は、量子井戸層と障壁層とが交互に所望の層ずつ積層されて構成されており、当該量子井戸層の厚みがすべて異なるかまたは交互に厚みが異なるように設定されていることを特徴とする。
【0043】
請求項5に記載の発明は、互いに幅の異なる2つの半導体量子井戸構造(a,b)を用いて量子論理演算を実行するための方法であって、前記半導体量子井戸構造aとbとの間に磁場を印加することにより、当該半導体量子井戸構造aおよびbの電子を非局在化する一方、ホールを局在化して自己分極を有する励起子を生成する第1のステップと、|0>bと|1>bとのエネルギー差E(=hω/2π)に相当する周波数の電磁波を照射することにより、|b>の状態を|0>bから|1>bに、または、その逆へと入れ替えて回転ゲート操作する第2のステップと、|1>a|0>bと|1>a|1>bとの間のエネルギー差E’(=hω’/2π)に相当する周波数の電磁波を照射することにより、|a>が|1>aの状態のときのみ|b>の状態を選択的に反転させる制御ノットゲート操作する第3のステップと、を備えることを特徴とする(ここで、|a>:半導体量子井戸aの量子状態、|b>:半導体量子井戸bの量子状態、|1>a:aの量子井戸のホールとa,b両方の井戸にまたがる対称結合準位の電子から構成される励起子を励起した量子状態、|0>a:上記励起子を励起していない量子状態、|1>b:bの量子井戸のホールとa,b両方の井戸にまたがる反対称結合準位の電子から構成される励起子を励起した量子状態、|0>b:上記励起子を励起していない量子状態、|1>a|0>b:aに励起子がありbに励起子がない量子状態、|1>a|1>b:aに励起子がありbにも励起子がある量子状態)。
【0044】
また、請求項6に記載の発明は、互いに幅の異なる2つの半導体量子井戸構造(a,b)を用いて量子論理演算を実行するための方法であって、前記半導体量子井戸構造aに右回りの円偏光を照射するとともに前記半導体量子井戸構造bに左回りの円偏光を照射して当該半導体量子井戸構造aとbで互いに反対方向のスピンをもつ励起子の形成を制御する第1のステップと、|0>bと|1>bとのエネルギー差E(=hω/2π)に相当する周波数の電磁波を照射することにより、|b>の状態を|0>bから|1>bに、または、その逆へと入れ替えて回転ゲート操作する第2のステップと、|1>a|0>bと|1>a|1>bとの間のエネルギー差E’(=hω’/2π)に相当する周波数の電磁波を照射することにより、|a>が|1>aの状態のときのみ|b>の状態を選択的に反転させる制御ノットゲート操作する第3のステップと、を備え、前記第1のステップは、前記半導体量子井戸構造aとbとの間に磁場を印加することにより、当該半導体量子井戸構造aおよびbの電子を非局在化する一方ホールを局在化させた状態で実行されることを特徴とする(ここで、|a>:半導体量子井戸aの量子状態、、|b>:半導体量子井戸bの量子状態、|1>a:aの量子井戸にスピン偏向した励起子を励起した量子状態、|0>a:上記励起子を励起していない量子状態、|1>b:bの量子井戸にスピン偏向した励起子を励起した量子状態、|0>b:上記励起子を励起していない量子状態、|1>a|0>b:a下向きスピン偏向した励起子がありbに励起子がない量子状態、|1>a|1>b:aに下向きスピン偏向した励起子がありbに上向きスピン偏向した励起子がある量子状態)。
【0045】
【発明の実施の形態】
以下に、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0046】
サブバンド準位間の電子の緩和時間は上述したように非常に早い。一方、図3のバンド間遷移を考えると、バンド間エネルギーに相当するhν2の周波数の光を用いて電子を励起すると、伝導帯に励起された電子と、励起によって荷電子帯に電子の抜けた穴(ホール)とから励起子が形成される。この励起子は自由な電子やホールに比べて安定して存在するので非常に長いエネルギー緩和時間(数100ピコ秒以上)を有している。またその位相緩和時間も高品質の量子薄膜構造では10数ピコ秒程度と報告されている。さらに、量子薄膜や量子細線のヘテロ界面の凹凸を閉じ込めポテンシャルとして弱く閉じ込められた励起子(これを局在励起子と呼ぶ)は極低温では量子ドットと同じ非常に狭い発光線幅をもった発光特性を示し、その発光線幅から予想される位相緩和時間は数10ピコ秒から数100ピコ秒である。すなわち量子薄膜や量子細線の局在励起子や量子ドットの励起子は非常に長い位相緩和時間(数10ピコ秒から数100ピコ秒)を有している。
【0047】
以上のことから、サブバンド準位間の電子を用いる代わりに、量子井戸構造のバンド間の励起子を用いることによって、位相緩和時間は10〜100倍になり、上述した第1の問題を解決できる。
【0048】
また、バンド間励起子の波長は、GaAs材料系では800nm付近、InP材料系では1.1〜1.5μm付近となり、100フェムト秒以下のパルスが容易に得られる超短光パルスレーザ技術や波長変換の対応する波長帯である。特に800nm帯においては、パルス幅約5フェムト秒(約2光サイクル)のレーザも報告されている。これから励起子を用いることによって上述の第2の問題を解決することができる。
【0049】
さらに、量子ドットの100ピコ秒クラスの位相緩和時間、5〜100フェムト秒のパルス幅を有するレーザ技術の双方を用いることによって、量子計算の最大ステップ数Nsとして1000〜10000以上が可能となり、上述の第3の問題を解決できる。
【0050】
ただし、励起子系は電子系と異なるので、基底状態と励起状態の選び方、1量子ビットゲート(位相シフター)と2量子ビットゲート(制御ノットゲート)構成法は以下の様に行う。
【0051】
構成法としては主に(A)分極を持った2つの励起子間の双極子相互作用を用いる方法と、(B)スピン偏向した2つの励起子間のスピン交換相互作用を用いる方法とが考えられる。
【0052】
以下に、これらの方法の具体的な構成を説明する。
【0053】
図6は、本発明の量子論理素子に印加される磁場の方向を説明するための図である。基板61の面方向(Z方向)に対してθの角度、基板61面のX方向に対してφの角度で磁場が印加されている場合を考える。ここでは、基板61方向(Z方向)に量子井戸を積層した構造を考えているが、量子井戸の代わりにY方向に長手方向がある量子細線や、Z方向のみならずX方向やY方向にも量子化されている量子ドットにも適応できる。
【0054】
磁場を印加することによって、伝導体の電子と荷電子帯のホールの量子化準位がスピンの量子数に対応した2つの準位に分裂(ゼーマン分裂)する。本発明では、このゼーマン分裂によるエネルギー変化を利用して量子論理素子を構成する方法を採用している。なお、電子のエネルギー分裂およびホールのエネルギー分裂を選ぶには、磁場の強度と磁場の方向θ(=0〜360度)、φ(=0〜360度)を選ぶことによって制御可能である。
【0055】
以下に、(A)分極を持った2つの励起子間の双極子相互作用を用いる方法について説明する。
【0056】
図7(a)〜(d)は、本発明の、自己分極を有する2量子ビットゲートの量子論理素子を説明するための図である。先ず、図7(a)に示すような、2つの幅の異なる量子井戸構造a,bが隣り合った構造を用意する。これらの量子構造は、特に、励起電子を一つだけ励起制御することと、位相緩和時間が長いという点で、3次元方向に電子が閉じ込められた量子ドット構造であることが望ましいが、量子井戸構造や量子細線構造でも構成可能である。
【0057】
まず、磁場を印加しない状態では、電子のエネルギー準位は幅広い量子井戸の方が幅の狭い方に比べて低くなる。また、ホールのエネルギー準位はこれとは逆に、幅広い量子井戸の方が幅の狭い方に比べて高くなる。遷移エネルギーについては、幅広い量子井戸aでのEは幅の狭い量子井戸bでのEよりも小さくなる。この場合、エネルギー準位は図7(c)のようになる。
【0058】
次に、磁場を印加すると、電子とホールのエネルギーはゼーマン分裂を起こし、電子系およびホール系のエネルギーは無磁場に比べて、aの井戸については+ΔEza/2と−ΔEza/2、bの井戸については+ΔEzb/2と−ΔEzb/2の、上下2つのエネルギー準位に分裂する。ここで、ΔEzaとΔEzbとは、それぞれ、量子井戸aと量子井戸bでの磁場によるゼーマン分裂エネルギーである。これを図7(a)に点線でしめす。
【0059】
無磁場のときの伝導帯でのa,bのエネルギー準位の差をΔEzとする。ΔEz=ΔEza/2+ΔEzb/2になるような適切な磁場をかけることによって2つの量子井戸の電子のエネルギーが一致する共鳴状態にすることができる。この場合は、図7(b)の井戸aの低いエネルギーの準位と井戸bの高いエネルギーの準位は、結合によって、対称準位(低いエネルギーの結合準位)と反対称準位(高いエネルギーの結合準位)の2つの結合準位へと変化する。この結合準位の波動関数は、2つの量子井戸のまたがっていること(非局在であること)が特長であり片方の井戸には局在しない。一方、ホールは2つの量子井戸間で共鳴的には結合しないのでそれぞれ片方の井戸に局在する。このときにaとbの量子井戸に局在したホール準位と、結合した非局在の電子の対称結合準位との間の遷移を考える。ここで対称準位の代わりに反対称結合準位を用いることも可能であるが以下では対称結合準位を用いた例を主に考える。
【0060】
このとき、aの量子井戸のホールと、a,b両方の井戸にまたがる対称結合準位の電子とから構成される励起子を励起した場合を|1>a、その励起子を励起していない場合を|0>aとする。また、bの量子井戸のホールと、a,b両方の井戸にまたがる反対称結合準位の電子から構成される励起子を励起した場合を|1>b、その励起子を励起していない場合を|0>bとする。
【0061】
これらの励起子は、非局在の電子と局在したホールから構成されるので、電子とホールの重心位置がずれて図7(b)の矢印に示されるような分極(自己分極)をもっている。
【0062】
ここで、|0>a|0>bは、aに励起子がなくbにも励起子がない場合、|0>a|1>bは、aに励起子がなくbに励起子がある場合、|1>a|0>bは、aに励起子がありbに励起子がない場合、そして、|1>a|1>bは、aに励起子がありbにも励起子がある場合である。ただし、a,bに励起子があるというのは、aに局在したホールによって形成される励起子、bに局在したホールによって形成される励起子を示す。
【0063】
この状態で、|0>bと|1>bのエネルギー差E(=hω/2π)に相当する電磁波をある一定の時間(πパルスに相当する時間)照射すれば、|b>の状態を|0>bから|1>bに、またはその逆へと入れ替えることができる。これによって回転ゲートの操作ができる。
【0064】
量子井戸には、電子が共鳴結合するのに必要な磁場が印加されているので、励起子を励起すると自己分極が形成され、図7(b)に示すように双極子が逆向きに向いている。2つの独立した励起子に対して、励起子が逆方向を向いて並んでいる場合は、励起子相互作用δ分だけエネルギーが小さくなる。したがって系のエネルギー準位は図7(d)のようになり、|1>a|0>bと|1>a|1>bとの間のエネルギー差E´は、|0>a|0>bと|0>a|1>bとの間のエネルギー差Eに比べて小さくなる。したがって、E´(=hω´/2π)に相当する周波数ω´の電磁波を用いて励起することによって、|a>が|1>aの状態のときのみ、|b>の状態を選択的に反転させることが可能になる。
【0065】
この2量子ビットゲートの構成法で、対称準位と反対称準位の選び方を変えることによって、もう一つの構成法も考えられる。aの量子井戸のホールと、a,b両方の井戸にまたがる非対称結合準位の電子から構成される励起子を励起した場合を|1>a、その励起子を励起していない場合を|0>aとする。また、bの量子井戸のホールとa,b両方の井戸にまたがる対称結合準位の電子から構成される励起子を励起した場合を|1>b、その励起子を励起していない場合を|0>bとして、同様に1量子ビットゲートと2量子ビットゲートを構成できる。
【0066】
次に、(B)スピン偏向した2つの励起子間のスピン交換相互作用を用いる方法について説明する。
【0067】
図8(a)および(b)は、スピン交換相互作用を利用した2量子ビットの構成法の一例である。量子井戸構造は、特に、励起電子を一つだけ励起制御することと、位相緩和時間が長いという点で、3次元方向に電子が閉じ込められた量子ドットであることが望ましいが、量子薄膜や量子細線でも原理的には構成が可能である。
【0068】
量子薄膜の場合はヘビーホールとライトホールが分離しているのでスピン選択励起が可能であるが、量子細線や量子ドットではスピン選択励起のために、X方向およびY方向に比べてZ方向(結晶成長方向)の厚さが薄い量子細線または量子ドットを積層(Z)方向に隣接(結合)させた構造から構成されている。また双方の量子井戸のサイズ(厚さWa,Wb:Z方向の厚さ)を変えてエネルギーは選択的に片方を励起できるように若干ずらしてある。双方の量子井戸の距離Wsは量子力学的に結合可能な距離(数nm以下)に選んである。この場合、磁場印加がない状態では図8(a)に示すように双方の量子井戸のエネルギーは異なる。
【0069】
量子井戸構造に磁場を印加すると、図8(b)に示すように、ゼーマン分裂によって電子系およびホール系のエネルギーは無磁場に比べてaの井戸については+ΔEza/2と−ΔEza/2、bの井戸については+ΔEzb/2と−ΔEzb/2と、上下にエネルギー分裂する。ここでΔEzaとΔEzbとは、それぞれ、量子井戸aおよび量子井戸bでの磁場によるゼーマン分裂エネルギーである。
【0070】
無磁場のときの伝導帯でのa,bのエネルギー準位の差をΔEzとする。ΔEz=ΔEza/2+ΔEzb/2になるような適切な磁場をかけることによって2つの量子井戸の電子のエネルギーが一致する共鳴状態にすることができる。この場合は、図8(b)の井戸aの低いエネルギーの準位と井戸bの高いエネルギーの準位は結合によって、図8(c)のように、対称準位(低いエネルギーの結合準位)と反対称準位(高いエネルギーの結合準位)の2つの結合準位へと変化する。この結合準位の波動関数は2つの量子井戸のまたがっていること(非局在であること)が特長であり、片方の井戸には局在しない。一方、ホールは2つの量子井戸間で共鳴的には結合しないので、それぞれ片方の井戸に局在する。このときにaとbの量子井戸に局在したホール準位と、結合した非局在の電子の対称結合準位との間の遷移を考える。ここで対称準位の代わりに反対称結合準位を用いることも可能であるが、以下では対称結合準位を用いた例を主に考える。
【0071】
次に制御方法を説明する。制御光として左回りと右回りの円偏光を用いることと励起光の中心波長を選ぶことで、量子井戸aの電子準位について下向きの、量子井戸bの電子準位について上向きのスピンを持った励起子を選択励起する。ただし、共鳴結合状態なので電子は非局在なので量子井戸aの電子準位と量子井戸bの電子状態とは同じエネルギーであるが、スピンの方向が異なる準位を指している。
【0072】
なお、これとは逆に、量子井戸aの電子準位について上向きの、量子井戸bの電子準位について下向きのスピンをもった励起子を選択励起する方法も考えられる。以降では前者の場合を考えるが、後者の場合でも同様に量子論理素子を構成することが可能である。
【0073】
図9(a)および(b)は、スピン選択励起した2量子ビットゲートにおいて、スピン交換相互作用のない場合(図9(a))およびスピン交換相互作用のある場合(図9(b))のエネルギー準位状態を説明するための図である。
【0074】
量子井戸に閉じ込められた電子状態|a>および|b>について、その励起子がない状態(励起されていない状態)を|0>aおよび|0>bとし、それぞれ電子が完全に上に励起されて量子井戸aに下向きのスピン偏向した励起子が生成された状態を|1>a、量子井戸bに上向きのスピン偏向された励起子が生成された状態を|1>bとする。ここで、|0>a|0>bは、aに励起子がなくbにも励起子がない場合、|0>a|1>bは、aに励起子がなくbに上向きのスピン偏向した励起子がある場合、|1>a|0>bは、aに下向きのスピン偏向した励起子がありbに励起子がない場合、そして、|1>a|1>bは、aに下向きのスピン偏向した励起子がありbにも上向きのスピン偏向した励起子がある場合である。ただし、a,bに励起子があるというのは、aに局在したホールによって形成される励起子、bに局在したホールによって形成される励起子を示す。
【0075】
この状態で、|0>bと|1>bのエネルギー差E(=hω/2π)に相当する電磁波(bで指定されたスピン偏向を励起できる右回りまたは左回りの特定の偏向を持った電磁波)をある一定の時間(πパルスに相当する時間)照射すれば、|b>の状態を|0>bから|1>bに、またはその逆へと入れ替えることができる。これによって回転ゲートの操作ができる。
【0076】
2つの結合量子井戸のスピンが反対に向いて励起した場合は人工的な励起子分子を形成し、2つの独立の励起子に比べて系のエネルギーがΔだけ下がる。したがって、系のエネルギー準位準位は図9(a)のようになり、|1>a|0>bと|1>a|1>bとの間のエネルギー差E´は、|0>a|0>bと|0>a|1>bとの間のエネルギー差Eに比べて小さくなる。したがって、E´(=hω´/2π)に相当する周波数ω´の電磁波を用いて励起することによって、|a>が|1>aの状態のときのみ、|b>の状態を選択的に反転させることが可能になる。
【0077】
(実施例)
本発明の励起子を用いた量子論理素子は、図4(a)〜(c)に示すような、隣接した量子井戸構造、量子細線構造、または、量子ドット(点)構造で構成することが可能である。なお、これらの図において隣接しているのはいずれも結晶成長方向(z方向)であるが、他の方向に隣接させることも可能である。
【0078】
図4(a)に示した量子薄膜構造は、GaAs量子井戸層13とAlGaAs障壁層14とが順次積層されており、また、図4(b)および(c)において、GaAs量子細線19およびGaAs量子ドット20以外の部分はAlGaAs障壁層である。
【0079】
なお、これらの低次元量子井戸構造を、GaAs、AlGaAs、InGaAs、InAs、InP、InGaAsP、InAlGaAsの半導体材料のうちから2つまたは3つを選択し、バンドギャップの狭い材料を量子井戸、バンドギャップの広い材料を障壁として構成するようにしてもよい。
【0080】
図10は、本発明の量子論理素子の作成法の一例を説明するための図である。半導体基板21上に量子井戸層22と障壁層23とを交互に成長させることによって隣接した量子井戸構造を形成させた量子井戸型の量子論理素子が形成される。
【0081】
また、これに続いて、リソグラフィによってマスク24を形成後エッチングして図示するような隣接した量子細線構造を形成すれば、量子細線型の量子論理素子が形成される。
【0082】
さらに、この量子細線構造を、量子細線と直角方向に再度エッチングすると、隣接する量子ドットが得られ、これによって量子ドット型の量子論理素子が得られる。
【0083】
図11は、隣接する量子構造の他の作製法を説明するためのもので、傾斜基板25上に、量子細線材料27と障壁材料26とを交互に成長させて多重結合量子細線構造を形成する。この隣接する量子細線構造を細線と直角方向にエッチングすれば、隣接する量子ドット構造が得られる。
【0084】
図12は、量子細線構造の更に他の作成方法を説明するための図である。先ず、半導体基板28にV溝29を形成し、このV溝29内に量子井戸層と障壁層とを交互に成長させて隣接する量子細線30を形成する。また、V溝29の変わりに、結晶面方位を選んで三角錘の溝を形成し、その中に量子井戸層と障壁層を交互に成長することによって隣接する量子ドット構造を形成するようにしてもよい。
【0085】
図13(a)〜(c)は、量子ドット構造の更に他の作成方法である。先ず、半導体基板31上に矩形のマスクを形成し、それ以外の部分をエッチングして、マスクをはずした後は半導体テラス32が形成される(図13(a))。次に、自己形成結晶成長法を用いて、テラス32の上に1つだけの量子ドット構造33を形成する(図13(b))。
【0086】
この量子ドット構造33の上に障壁層34を積層させると、量子ドット構造33の上だけに歪が残り、引き続き自己形成結晶成長法を用いて量子ドット構造33を形成すると下の量子ドット構造33の丁度上に、障壁層34を介して量子ドット構造33を形成できる。障壁層34の成長と量子ドット構造33の自己形成を繰り返すことによって層厚方向に隣接する多層量子ドット構造を形成することができる(図13(c))。
【0087】
例えば、図12に示した方法でGaAs基板上にV溝を形成し、その上にGaAsバッファ層、AlGaAsバッファ層を形成し、さらに、GaAs量子細線(量子井戸)層、AlGaAs障壁層を交互にn層(nは任意の自然数)成長させ、V溝の底部に厚さ5nm、幅30nm(実効幅15nm)の極微細なn層の量子細線と厚さ数nmの障壁層からなる隣接した多層の量子細線構造を作製するようにしてもよい。
【0088】
図14には、具体的な量子論理素子の実施例として量子ドットを用いた実施例を示す。ただし、量子ドットを量子細線、量子薄膜に置き換えても素子の構成は可能である。
【0089】
先ず、GaAs基板35上にエッチングストップ層36(Al組成0.5のGaAlAs)を成長し、その上に上述した方法によってGaAs/AlGaAs量子ドット構造37を形成(図14(b)に拡大図を示す)し、さらに、AlGaAsクラディング層38を形成する。このAlGaAsクラディング層38の表面にCr/Au半透明電極39を形成し、さらに基板35側には、円形に穴をあける部分をレジスト等でマスクして基板側電極40を形成する。その後に円形に穴をあける部分をウエットエッチングによってストップエッチ層36までエッチングする。このようにして、磁場印加が可能な量子ドット構造を埋め込んだ量子論理素子が作製できる(図14(a))。
【0090】
制御用パルスは、基板35に対して角度θ1で入射し、観測用プローブは角度θ2で入射させる。量子ドットのサイズをすべて異なって作製し、制御光パルスの波長を適当に選択することによって、特定の量子ドットの電子−ホール対(励起子)を励起することができる。なお、磁場は、図6に示すように、Z方向に対してθ、X方向に対してφの角度に印加する。
【0091】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、量子論理素子を、互いに幅の異なる2つの半導体量子井戸構造(a,b)を備え、これらの半導体量子井戸構造を備える半導体基板にθ方向に印加された磁場中で2つの半導体量子井戸構造の各々に光励起された、分極を有する励起子相互間の分極間相互作用を利用するように構成した。
【0092】
また、量子論理素子を、互いに幅の異なる2つの半導体量子井戸構造(a,b)を備え、これらの半導体量子井戸構造を備える半導体基板にθ方向に印加された磁場中で半導体量子井戸構造aに照射された右回りの円偏光および半導体量子井戸構造bに照射された左回りの円偏光により2つの半導体量子井戸構造の各々に生成された、互いに反対方向のスピンをもつスピン選択励起された励起子間のスピン交換相互作用を利用するように構成した。
【0093】
このような構成とすることにより、本発明により、デコヒーレンス時間(位相緩和時間)の大幅な増大と、極超短パルスレーザ技術による基本演算時間の大幅な短縮を可能とする、励起子を用いた量子論理素子および量子論理演算方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】量子論理素子の1量子ビット演算に対応する回転ゲートを説明するための図である。
【図2】量子論理素子の2量子ビット演算に対応する制御ノットゲートを説明するための図である。
【図3】量子井戸構造のエネルギーバンド図である。
【図4】低次元量子井戸構造を説明するための図で、(a)は量子薄膜構造、(b)は量子細線構造、(c)は量子ドット構造を示す図である。
【図5】バレンコが提案した従来の2量子ビットの量子論理素子の提案例を説明するための図で、(a)は電界を印加しない場合のエネルギーバンド図、(b)は双極子間相互作用がない場合の系のエネルギー図、(c)は電界を印加して電子準位を共鳴結合状態にした場合のエネルギーバンド図、そして、(d)は双極子間相互作用がある場合の系のエネルギー図である。
【図6】本発明の量子論理素子に印加される磁場の方向を説明するための図である。
【図7】本発明の、自己分極を有する2量子ビットゲートの量子論理素子を説明するための図である。
【図8】本発明の、スピン交換相互作用を利用した2量子ビットゲートの量子論理素子を説明するための図である。
【図9】スピン選択励起した2量子ビットゲートのエネルギー準位状態を説明するための図で、(a)はスピン交換相互作用のない場合、(b)はスピン交換相互作用のある場合である。
【図10】マスクを用いてエッチングによって低次元量子構造を作製する方法を説明するための図である。
【図11】ステップ状の基板の上に低次元量子井戸を作製する方法を説明するための図である。
【図12】V溝形状基板上に低次元量子井戸を作製する方法を説明するための図である。
【図13】テラスを形成した基板上に自己形成法によって量子ドット構造を作製する方法を説明するための図である。
【図14】量子論理素子の実施例を説明するための図で、(a)は素子構造を示し、(b)は結合量子井戸(一例として量子ドット)の拡大図である。
【符号の説明】
13 GaAs量子井戸層
14 AlGaAs障壁層
19 GaAs量子細線
20 GaAs量子ドット
21、28、31 基板
22 量子井戸層
23、34 障壁層
24 マスク
25 傾斜基板
26 障壁材料
27 量子細線材料
29 V溝
30 量子細線
32 半導体テラス
33 量子ドット構造
35 GaAs基板
36 エッチングストップ層
37 GaAs/AlGaAs量子ドット構造
38 AlGaAsクラディング層
39 Cr/Au半透明電極
40 基板側電極

Claims (6)

  1. 半導体量子構造の電子状態を利用した量子論理素子であって、
    互いに幅の異なる2つの半導体量子井戸構造(a,b)を備え、
    当該半導体量子井戸構造の基板に所望の角度θで印加された磁場中で当該2つの半導体量子井戸構造の各々に光励起された、自己分極を有する励起子相互間の分極間相互作用を利用することを特徴とする量子論理素子。
  2. 半導体量子構造の電子状態を利用した量子論理素子であって、
    互いに幅の異なる2つの半導体量子井戸構造(a,b)を備え、
    当該半導体量子井戸構造の基板に所望の角度θで印加された磁場中で前記半導体量子井戸構造aに照射された右回りの円偏光および前記半導体量子井戸構造bに照射された左回りの円偏光により前記2つの半導体量子井戸構造の各々に生成された、互いに反対方向のスピンをもつスピン選択励起された励起子間のスピン交換相互作用を利用することを特徴とする量子論理素子。
  3. 前記半導体量子井戸構造は、量子薄膜構造、量子細線構造、または、量子ドット構造のいずれかであることを特徴とする請求項1または2に記載の量子論理素子。
  4. 前記半導体量子井戸構造は、量子井戸層と障壁層とが交互に所望の層ずつ積層されて構成されており、当該量子井戸層の厚みがすべて異なるかまたは交互に厚みが異なるように設定されていることを特徴とする請求項3に記載の量子論理素子。
  5. 互いに幅の異なる2つの半導体量子井戸構造(a,b)を用いて量子論理演算を実行するための方法であって、
    前記半導体量子井戸構造aとbとの間に磁場を印加することにより、当該半導体量子井戸構造aおよびbの電子を非局在化する一方、ホールを局在化して自己分極を有する励起子を生成する第1のステップと、
    |0>bと|1>bとのエネルギー差E(=hω/2π)に相当する周波数の電磁波を照射することにより、|b>の状態を|0>bから|1>bに、または、その逆へと入れ替えて回転ゲート操作する第2のステップと、
    |1>a|0>bと|1>a|1>bとの間のエネルギー差E’(=hω’/2π)に相当する周波数の電磁波を照射することにより、|a>が|1>aの状態のときのみ|b>の状態を選択的に反転させる制御ノットゲート操作する第3のステップと、を備えることを特徴とする量子論理演算方法。
    (ここで、
    |a>:半導体量子井戸aの量子状態
    |b>:半導体量子井戸bの量子状態
    |1>a:aの量子井戸のホールとa,b両方の井戸にまたがる対称結合準位の電子から構成される励起子を励起した量子状態
    |0>a:上記励起子を励起していない量子状態
    |1>b:bの量子井戸のホールとa,b両方の井戸にまたがる反対称結合準位の電子から構成される励起子を励起した量子状態
    |0>b:上記励起子を励起していない量子状態
    |1>a|0>b:aに励起子がありbに励起子がない量子状態
    |1>a|1>b:aに励起子がありbにも励起子がある量子状態)
  6. 互いに幅の異なる2つの半導体量子井戸構造(a,b)を用いて量子論理演算を実行するための方法であって、
    前記半導体量子井戸構造aに右回りの円偏光を照射するとともに前記半導体量子井戸構造bに左回りの円偏光を照射して当該半導体量子井戸構造aとbで互いに反対方向のスピンをもつ励起子の形成を制御する第1のステップと、
    |0>bと|1>bとのエネルギー差E(=hω/2π)に相当する周波数の電磁波を照射することにより、|b>の状態を|0>bから|1>bに、または、その逆へと入れ替えて回転ゲート操作する第2のステップと、
    |1>a|0>bと|1>a|1>bとの間のエネルギー差E’(=hω’/2π)に相当する周波数の電磁波を照射することにより、|a>が|1>aの状態のときのみ|b>の状態を選択的に反転させる制御ノットゲート操作する第3のステップと、を備え、
    前記第1のステップは、前記半導体量子井戸構造aとbとの間に磁場を印加することにより、当該半導体量子井戸構造aおよびbの電子を非局在化する一方ホールを局在化させた状態で実行されることを特徴とする量子論理演算方法。
    (ここで、
    |a>:半導体量子井戸aの量子状態
    |b>:半導体量子井戸bの量子状態
    |1>a:aの量子井戸にスピン偏向した励起子を励起した量子状態
    |0>a:上記励起子を励起していない量子状態
    |1>b:bの量子井戸にスピン偏向した励起子を励起した量子状態
    |0>b:上記励起子を励起していない量子状態
    |1>a|0>b:a下向きスピン偏向した励起子がありbに励起子がない量子状態
    |1>a|1>b:aに下向きスピン偏向した励起子がありbに上向きスピン偏向した励起子がある量子状態)
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