【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、微生物を用いたチオジグリコール類の分解方法、ならびに該方法を利用したイペリット等の有機硫黄化合物を含む有害物質の処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
イペリット(ビス(2−クロロエチルスルフィド):(C2H4Cl)2S)は、マスタードガスまたはサルファーマスタードともよばれ、第一次世界大戦で初めて化学兵器として用いられた有毒ガスである。マスタード系ガスは、医薬品をはじめ、有機系化合物の合成原料等としても用いられているが、人体に対して有害であるため、そのまま大気中に排出することはできず、何らかの除害処理を施す必要がある。
【0003】
一方、化学兵器禁止条約に基づき、締約国は老朽化した化学兵器および他の締約国の領域内に遺棄した化学兵器を適切に廃棄することが定められている。この条約は1997年に発効し、各締約国は発効後10年以内に化学兵器を安全に廃棄しなければならないため、その技術を早急に開発することが望まれている。
【0004】
現在、最も保有量が多い化学兵器であるイペリットやルイサイトについては、その無害化分解方法としていくつかの方式が知られている。例えば、1)燃料の燃焼により1400℃以上の高温雰囲気を作り、この高温燃焼領域で分解する方式、2)溶液系において紫外線照射下で活性化する物質(例えば銀)により分解する方式、3)溶融した金属により分解する方式などである。しかし、これらの分解方式には次のような欠点がある。まず、完全な無害化のためにはクローズドシステム化等が必要で、分解装置が大きくなること。また、過去に使用され、かつ現在保管されている膨大な量の化学兵器用毒性化合物を処理するには、これらの方式は分解処理量が小さく、きわめて非効率的であること。さらに、化学兵器の弾頭部材の腐食部分から漏れだした毒性化合物等の化学兵器用毒性化合物で汚染されている周囲の土壌等を処理することが、これらの方式ではきわめて困難であることなどである。しかも、これらの欠点に加えて、1)の方式はエネルギー多消費型、炭酸ガス多発生型であり、地球環境保全の観点からも望ましくない。
【0005】
こうした中で、微生物による酵素反応を利用して比較的穏和な条件下で分解反応を行う方法が有効な分解法として注目される。微生物を用いた分解方法では、酵素の高い基質特異性により、化学的分解方法とは異なり常温常圧条件下での分解が可能となる。
【0006】
一方、イペリットは加水分解により、容易にチオジグリコールに変換する。このチオジグリコールは、イペリットの前駆体(原料)ともなりうる化合物であることから、Chemical Weapon Convention (化学兵器条約)により管理されるべき化学品リスト(http://www.nacwc.gov.sg)に含まれており、イペリットの無害化行程においても必ず分解しなければならない化合物である。
【0007】
これまでに、イペリットあるいはその分解産物であるチオジグリコールの微生物による分解について、いくつかの検討が行われている。例えば、イペリットの分解に関しては、白色腐朽菌であるCoriorus versicolor IFO30340、Tyromyces palustris IFO30339による分解(特開平11−235172、Wariishi, N.Ito, M. Yoshida, H.Tanaka, Biotechnology Letters 24, 501−505 (2002))が報告されている。この報告では、イペリットは培地中で自発的に加水分解され、チオジグリコールを生成した後、微生物により分解される。また、イペリットの加水分解によって得られるチオジグリコールの分解については、前述の白色腐朽菌の他に、酵母Candida rugosa IFO1364 (H. Kawashima, Bioscience Biotechnology and Biochemistry, 59, 934−935 (1995))、細菌 Alkaligenes xylosoxydans ssp.xylosoxydans SH91株(T−S Lee, S−H Chan, W.A. Weigand, W.E.Bentley, Biotechnology Progress, 16, 363−367 (2000))、Rhodococcus rhodochrous IGTS8 (Journalof Chemical Technology and Biotechnology, 65, 370−374 (1996))を用いた報告がある。しかしながら、これまでにゴルドニア属の細菌を用いてチオジグリコールやイペリットを分解したという報告はない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、チオジグリコール類に特異的に作用し、分解する能力を有する微生物を見出し、該微生物を用いたチオジグリコール類の分解方法、および該方法を利用した有害物質の処理方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、土壌からのスクリーニングによって単離したゴルドニア(Gordonia)属 T08株およびT21株に、チオジグリコール類等の有機硫黄化合物を分解する能力があることを見出した。そして、これらの微生物を利用することにより、イペリット等を含む有害物質の効率的な分解処理が可能になることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(9)を提供する。
(1) ゴルドニア属に属する微生物または該微生物が産生する酵素を作用させることにより、下式(1)で示されるチオジグリコール類を分解する方法。
【0011】
【化3】
RおよびR’はアシル基、アルキル基を示す。
【0012】
(2) チオジグリコール類の分解が、これらを含有する培地中で微生物を培養することによって行われる、上記(1)記載の方法。
(3) 微生物が休止菌体である、上記(1)または(2)記載の方法。
(4) 微生物がゴルドニア属 T08株(FERM P−18921)、T21株(FERM P−18922)およびこれらと実質的に同等の菌学的性質を有する菌株から選ばれる少なくとも1以上である、上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の方法。
(5) 上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の方法を利用した、有機硫黄化合物を含有する有害物質の処理方法。
(6) 以下の工程を含む、有機硫黄化合物を含有する有害物質の処理方法。
1)有害物質中の有機硫黄化合物を加水分解して、下式(1)で示されるチオジグリコール類を生成させる工程
【0013】
【化4】
RおよびR’はアシル基、アルキル基を示す。
【0014】
2)上記工程で生成したチオジグリコール類を、ゴルドニア属に属する微生物または該微生物が産生する酵素を作用させることにより、分解する工程
【0015】
(7) 前記方法において、工程2)がチオジグリコール類を含有する培地中で微生物を培養することによって行われる、上記(6)記載の方法。
(8) 有機硫黄化合物がイペリットである、上記(7)記載の方法。
(9) ゴルドニア属に属する微生物 T08株(FERM P−18921)またはT21株(FERM P−18922)。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、ゴルドニア属に属する微生物または該微生物が産生する酵素を作用させることにより、チオジグリコール類を分解する方法を提供する。
【0017】
1. チオジグリコール類
本発明にかかるチオジグリコールとは、化学式:(HOCH2CH2)2Sで示される有機硫黄化合物であって、2、2’−チオジエタノール、あるいはチオジエチレングリコールとも呼ばれる。チオジグリコールは、無色粘性の液体で、イペリットの原料として用いられるほか、印刷インキの溶媒等として用いられている。
【0018】
本明細書中において、「チオジグリコール類」とは、下式(1)で示される化合物を意味する。
【0019】
【化5】
【0020】
ここで、RおよびR’はアシル基またはアルキル基であって、好ましくはC1〜8、より好ましくはC1〜5、さらに好ましくはC1〜3の脂肪族アシルまたは脂肪族アルキル基である。
【0021】
2. 微生物
2.1 微生物の特性
本発明の方法で用いられる微生物は、ゴルドニア属に属し、前記チオジグリコール類を分解する能力を有する微生物であれば特に限定されない。そのような微生物としては、例えば、ゴルドニア(Gordonia)属 T08株やT21株、およびそれらと実質的に同等の菌学的性質を有する菌株を挙げることができる。ここで、「実質的に同等の菌学的性質を有する菌株」とは、T08株やT21株を起源とし、これら菌株と同様にチオジグリコール類を分解する能力を有しているが、その起源である菌株とは他の1つ以上の性質において異なっている菌株を意味する。そのような菌株としては、T08株やT21株の変異株や形質転換体を挙げることができる。
【0022】
本発明において、T08株やT21株には、このような「それらと実質的に同等の菌学的性質を有する菌株」をも含むものとする。
【0023】
本発明のゴルドニア属に属する微生物は、従来の白色腐朽菌に比べて増殖速度が速く、したがって、より効率的にチオジグリコール類を分解することができる。また、該微生物は酵母に比べて遺伝子工学的改良が容易であるため、活性の高いプロモーターを導入するなど、分解効率を高めるための種々の改変も可能である。
【0024】
2.2 ゴルドニア属 T08株(FERM P−18921)、T21株(FERM P−18922)
次に、本発明で用いられる微生物の好適な例である、ゴルドニア属 T08株(FERM P−18921)およびT21株(FERM P−18922)について説明する。
【0025】
このゴルドニア(Gordonia)属 T08株およびT21株は、本発明者が日本各地より採取した多種類の土壌をスクリーニングすることによって見出したもので、その菌学的性質は後述する実施例1の表1記載のとおりである。
【0026】
なお、後述する実施例1に示すとおり、T08株およびT21株はいずれもベンゾチオフェンの脱硫を指標としたスクリーニングによって得られた菌株であり、さらなる研究によって、チオジグリコールの分解能力があることが確かめられたものである。
【0027】
T08株およびT21株は、それぞれゴルドニア属と同定され、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に平成14年7月5日付で寄託され、それぞれ、受託番号FERM P−18921(T08株)およびFERM P−18922(T21株)を得ている。
【0028】
2.3 微生物が産生する酵素
本発明の分解方法では、微生物に代えて、該微生物が産生するチオジグリコール類分解活性を有する酵素を単離し、この酵素を直接基質に作用させてもよい。そのような酵素は、当該分野で周知の技術を用いて、該微生物あるいは該微生物の培養液から容易に調製することができる。例えば、上記微生物の菌体を含む培養液から、その酵素活性を指標としてクロマトグラフィー等を利用して単離精製することができる。酵素が一旦単離精製されれば、公知の方法にしたがい、該酵素の遺伝子を単離し、これを導入した形質転換体を作製することにより、酵素を大量生産して用いることも可能である。
【0029】
3. チオジグリコール類の分解
チオジグリコール類の分解は、以下に記載するような培地にチオジグリコール類を添加し、チオジグリコール類を含有する培地中で前記微生物を培養することにより実施することができる。
【0030】
3.1 微生物の培養条件
微生物の培養は、微生物の通常の培養法にしたがって行われる。培養の形態は固体培養でも液体培養でもよいが、液体培養が好ましい。培地の栄養源としては通常用いられているものを広く用いることができる。すなわち、炭素源としては、利用可能な炭素化合物であれば特に限定されず、例えば、グルコース、スクロース、ラクトース、フルクトース、エタノールなどを使用することができる。窒素源としては、利用可能な窒素化合物であれば特に限定されず、例えば、ペプトン、ポリペプトン、肉エキス、酵母エキス、大豆粉、カゼイン加水分解物、などの有機栄養物質を使用できる。チオジグリコール類の分解反応に影響を与える可能性のある硫黄化合物を含まない培地で培養することが望ましい場合には、塩化アンモニウムのような無機窒素化合物も使用できる。そのほか、リン酸塩、炭酸塩、マグネシウム、カルシウム、カリウム、ナトリウム、鉄、マンガン、亜鉛、モリブデン、タングステン、銅、ビタミン類、などを必要に応じて用いてもよい。培養は、pH6〜8、温度は、25〜37℃、好ましくは約30℃付近で、振とう又は通気条件下で好気的に行うことが好ましい。
【0031】
3.2 休止菌体の調整
チオジグリコールの分解反応に供される微生物はどのような状態のものであってもよいが、休止菌体を用いることが好ましい。休止菌体は、例えば、以下のようにして調製することができる。まず、新鮮な培地に対し適当量、例えば1〜2%容量の種菌を接種し、pH6〜8、25〜37℃、好ましくは約30℃付近で、1〜2日間往復あるいは回転振とう培養を行う。この際、種菌としては対数増殖期初期から定常期のいずれの状態の菌でも構わないが、対数増殖期後期のものが好適である。また、接種量は必要に応じて増減してもよい。
【0032】
培地としては、特に限定するものではないが、A培地(Izumi Y.,Ohshiro T.,Ogino H.,Hine Y.,Shimao M., Applied and Environmental Microbiology, 223−226 (1994))を用いるのが好適である。培養後、菌体を培地から分離集菌し、洗浄することにより休止菌体が得られる。ここで、集菌は、培養菌体が対数増殖期初期から定常期までのいずれの状態にある時に行ってもよいが、対数増殖期中期から後期の状態にある時に行うことが好ましい。また、集菌は、遠心分離の他、濾過、沈降分離等のいかなる方法で行ってもよい。菌体の洗浄には、生理食塩水、リン酸緩衝液、トリス緩衝液等の任意の緩衝液を使用することができ、また、水を用いて洗浄することもできる。
【0033】
3.3 休止菌体による分解反応
休止菌体による分解反応は、休止菌体を適当な緩衝液に懸濁して調製した菌懸濁液に、基質であるチオジグリコール類を添加して培養・増殖させることにより行う。
【0034】
前記緩衝液としては、リン酸緩衝液、トリス緩衝液等、種々の緩衝液を使用することができる。緩衝液のpHは特に限定されないが、pH6〜8が好適である。また、緩衝液の代わりに、水や培地等を使用することもできる。菌体懸濁液の濃度は、OD660が1〜100の間が好適であり、必要に応じて増減できる。基質であるチオジグリコール類の培地中の濃度は、好ましくは5〜10,000ppmであり、より好ましくは 25〜100ppmであるが、必要に応じて増減できる。反応温度は25〜37℃、好ましくは30℃付近が好適であるが、特に限定されない。また反応時間は1〜5時間が好適であるが、必要に応じて増減できる。また、基質を添加する前に反応温度と同じ温度に反応液を予備加熱してから行ってもよい。
【0035】
また、休止菌体による反応は、n−テトラデカン等の有機溶媒を添加した油水2相系で行うこともできる。この場合、使用可能な有機溶媒としては、n−テトラデカンの他、C8 〜C20のn−パラフィンやケロシン、軽油、重油などが挙げられる。また、必要に応じて反応液上方の気相を酸素で置換封入してもよい。
以上の分解反応は、休止菌体に代えて、微生物が産生する酵素を用いて同様に行ってもよい。
【0036】
3.4 分解率および分解産物の同定
前記微生物によるチオジグリコール類の分解率は、例えば、高速液体クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー/質量スペクトル、ガスクロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー/質量スペクトル分析などを使用して測定することができる。
【0037】
また、前記微生物によるチオジグリコール類の分解産物は、例えば、以下のようにして同定することができる。まず、チオジグリコール類を唯一の硫黄源として含む培地でT08株またはT21株を前項にしたがって培養し、この培養液中から分解産物を抽出する。抽出方法は、公知の方法にしたがい、例えば、培養液を適当なpH調整した後、酢酸エチル等を用いて撹拌抽出する。抽出に使用する溶媒は、酢酸エチルに限定されるものではなく、目的とする反応生成物が抽出できるものであればいずれの溶媒を用いても構わない。抽出溶媒の量は反応液に対して等量程度が好適であるが、必要に応じて増減できる。
【0038】
次に、抽出物を適当な方法を用いて分離する。分離方法は、分解産物が分離できる方法であればいかなる方法を用いても構わない。分解産物の分析は、液体クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー/質量スペクトル分析、ガスクロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー/質量スペクトル分析、ガスクロマトグラフィー/原子発光検出分析、ガスクロマトグラフィー/フーリエ変換赤外分光分析、1H−核磁気共鳴スペクトル分析、紫外線吸収スペクトル分析などを使用して行うことができる。また、必要に応じて他の分析方法を併せて利用しても構わない。こうして得られた分析データを解析することによって、チオジグリコール類の分解産物を同定することができる。
【0039】
4. 有害物質の処理方法
本発明はまた、ゴルドニア属に属する微生物または該微生物が産生する酵素による、チオジグリコール類の分解反応を利用した、有機硫黄化合物を含有する有害物質の処理方法を提供する。
【0040】
4.1 処理工程
本発明にかかる有害物質の処理方法において、「有害物質」とは、人体にとって有害な作用をもたらす物質を意味し、そのような有害な「有機硫黄化合物」としては、特にイペリットを挙げることができる。イペリットは、化学名をビス(2−クロロエチルスルフィド)といい、化学式:(C2H4Cl)2Sで示される。イペリットは、マスタードガスまたはサルファーマスタードともよばれ、その液体および蒸気は皮膚に対して強い腐食作用や刺激を有するため、化学兵器として用いられた。なお、本明細書中において、前記イペリットには、イペリットと実質的に同等の性質を有する、イペリット類縁体およびイペリット誘導体も含むものとする。
【0041】
本発明の有害物質の処理方法は、具体的には以下の工程を含む。
1)有害物質中の有機硫黄化合物を加水分解して、下式(1)で示されるチオジグリコール類を生成させる工程
【化6】
RおよびR’はアシル基、アルキル基を示す。
2)上記工程で生成したチオジグリコール類を、ゴルドニア属に属する微生物または該微生物が産生する酵素を作用させることにより、分解する工程
【0042】
工程1:有機硫黄化合物の加水分解
工程1)における有機硫黄化合物の加水分解は、例えば、該有機硫黄化合物を含む有害物質(例えば、化学兵器で汚染された土壌など)を、公知の方法にしたがい、加水分解処理を行って、チオジグリコール類に変換する。例えば、イペリットの場合は、水を加えるだけで容易に加水分解されてチオジグリコールに変換されることがわかっている(Wariishi, N.Ito, M. Yoshida, H.Tanaka, Biotechnology Letters 24, 501−505 (2002)等)。
【0043】
このチオジグリコールは、イペリットの前駆体(原料)ともなりうる化合物であることから、Chemical Weapon Convention (化学兵器条約)により管理されるべき化学品リスト(http://www.nacwc.gov.sg)に含まれており、イペリットの無害化行程においても必ず分解しなければならない化合物である。
【0044】
なお、有害物質中には、既に有機硫黄化合物が自然分解してチオジグリコール類に変換しているもの、生成したチオジグリコールが有害物質中の他の物質と反応して、すみやかに式(1)で示されるチオジグリコールのエーテル、エステルに変換されているものもあるかもしれない。工程1)におけるチオジグリコール類にはこのようなチオジグリコール類も含むものとする。
【0045】
工程2:微生物によるチオジグリコール類の分解
工程2)におけるチオジグリコール類の分解は、チオジグリコール類を含有する培地中で微生物を培養することによって行うことが好ましい。微生物の培養は、3.に記載した方法にしたがって行えばよい。
【0046】
4.2 汚染土壌の無害化処理
本発明の有害物質の処理方法を利用すれば、化学兵器イペリット等に汚染された土壌を、物理化学的手法によりチオジグリコール類に変換した後、該チオジグリコール類を分解して無害化することができる。
【0047】
例えば、汚染土壌中のイペリット等を加水分解処理することにより、イペリット等をチオジグリコール類に加水分解する。前述のように、イペリットは水を添加するだけで容易に加水分解してチオジグリコールを生成する。次いで、加水分解処理した汚染土壌を菌体(休止菌体)を含む培養液に懸濁した後、本発明の微生物を加えて培養・増殖させる。あるいは、イペリット等を加水分解してチオジグリコール類に変換した汚染土壌に、培養した菌体の懸濁液または凍結乾燥物を直接散布し、定期的に土壌を攪拌したり、培地成分を含む水溶液を散布したりしながら、汚染土壌中のチオジグリコール類を微生物によって分解させてもよい。この場合、汚染土壌そのものが微生物増殖のための培地となる。
【0048】
本発明の処理方法は、微生物を用いて行われるため、常温常圧下で有害物質の処理を行うことができ、経済的にも、環境的にも優れた方法といえる。
【0049】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例の範囲に限定されるものではない。
【0050】
〔実施例1〕 ゴルドニア属 T08株およびT21株の単離と同定
1.微生物の単離
目的の微生物の分離には、ベンゾチオフェンを唯一の硫黄源として含むAG培地(T. Matsui et al Appl Microbiol Biotechnol Lett.)を使用した。まず、シリコン栓付試験管(容量27ml、直径18mm×長さ180mm)に培地5ml、10g/lのベンゾチオフェン/ジメチルホルムアミド溶液を0.01ml、および日本各地より採集した土壌1スパーテル(約0.5g)を加え、30℃で一週間振盪培養(振盪速度240rpm)し集積培養を行った。培地に濁りの認められた試料については、その培養液0.2mlを新鮮な同培地に加え、集積培養を3〜4回繰り返した。これらの集積培養により菌体の増殖が認められた試料について、培養物を生理食塩水にて希釈した。得られた希釈液を、NAG培地(Difco社 Nutrient Agar 23g/L, グルコース 10g/L)上に塗布し、30℃で靜置培養してコロニーを形成させた。形成したコロニーの一部をベンゾチオフェンを含む培地に植菌し、ベンゾチオフェンの分解を調べた。ベンゾチオフェンの分解が認められたコロニーを選択し、前述の一連の操作を2回〜3回繰り返すことにより目的の菌株を単離した。
【0051】
2.微生物の同定
生育の確認されたサンプルから2株、T08株およびT21株を分離し、その菌学的性質を調べたところ、表1のとおりであった。
【0052】
【表1】
【0053】
T08株は、上記菌学的性質をBergey’s Manual of Systematic Bacteriology vol.2(1986)およびBergey’s Manual of Determinative Bacteriology 第9版 (1994)と照合し、ゴルドニア属に属するものと同定された。また、T21株も16SrRNA配列の高い相同性からゴルドニア属と同定された。
【0054】
そこで、これらの菌株を、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に平成14年7月5日付で寄託し、それぞれ、受託番号FERM P−18921(T08株)およびFERM P−18922(T21株)を得た。
【0055】
〔実施例2〕 T08株およびT21株によるチオジグリコール分解
チオジグリコール100mg/l、グルコース10g/1を含むA培地(Izumi Yら、Appliedand Environmental Microbiology, 223−226 (1994))2mlに、1白菌耳量のロドコッカス属T08株およびT21株を植菌し、30℃で72時間培養した。
【0056】
得られた培養液の660nmにおける吸光度(OD660)を測定し、さらにこの培養液を7000rpm 10分の条件で遠心分離し、菌体を除去した後、得られた上清をWaters社製 高速液体クロマトグラフィー(カラムNova−Pak C18(Waters社)、溶出液 3mMリン酸水溶液:メタノール=95:5、溶出液流速 1ml/min、検出波長 210nm)を用いて分析した。対照として、微生物を植菌しないチオジグリコール含有培地を、上記培養液と同一時間、同一温度で振とうした。表2に、保持時間2.6分の位置に検出されるチオジグリコール量を定量した結果を示す。なお、チオジグリコールは東京化成社製のものを用いた。
【0057】
【表2】
【0058】
上記の結果から、T08株およびT21株はチオジグリコールを硫黄源として分解、生育することが確認された。また、これらの菌のチオジグリコール分解についての至適作用条件は、温度30℃前後、pH6〜8であった。
【0059】
〔実施例3〕 休止菌体によるチオジグリコールの分解
1.反応用菌体の調製
チオジグリコール100mg/l、グルコース10g/1を含むA培地(Izumi Yら、Appliedand Environmental Microbiology, 223−226 (1994))100mlに、1白菌耳量のゴルドニア属T08株、T21株をそれぞれ植菌し、30℃で96時間培養した。
得られた培養液を4℃、10,000rpm,5min の条件で遠心分離し、沈殿を滅菌水およびpH7.0の1/15M リン酸緩衝液にて各1回洗浄し、同緩衝液に懸濁して反応用菌体(休止菌体)とした。この反応用菌体の測定波長660nmでの濁度は10であった。
【0060】
2.チオジグリコールの分解
分解反応は、反応用菌体2mlの入った20ml容の試験管にチオジグリコール、グルコースをそれぞれ、最終濃度約0.2mM、10g/lになるように加え、30℃にて往復振とうすることにより行った。残存するチオジグリコール量は、一定時間反応後の反応液を15,000rpm、2分間、遠心分離した後、その上清を実施例1と同様の方法で高速液体クロマトグラフィーにかけて定量した。この際、チオジグリコールの菌体表面への付着による検出チオジグリコールの減少量を把握するために、反応用菌体を75℃、30分処理して分解酵素系を失活させたものを用いて同様の反応を行った。また、チオジグリコールの水中での自発的分解量を把握するため、チオジグリコール0.2mMを分解反応と同じ緩衝液に溶解したものを用いて同様の反応を行った。
【0061】
上記分解反応における残存チオジグリコール量の経時変化を図1に示す。チオジグリコールは菌体への付着もなく、菌体により分解され、3時間後には70%以上消失したことが確認された。
【0062】
【発明の効果】
本発明によれば、化学兵器であるイペリットが加水分解されて生じるチオジグリコールをゴルドニア属に属する微生物を用いて穏和な条件で効果的に分解することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、T08株およびT21株による分解反応における残存チオジグリコール量の経時変化を示すグラフである。[0001]
TECHNICAL FIELD OF THE INVENTION
The present invention relates to a method for decomposing thiodiglycols using a microorganism, and a method for treating a harmful substance containing an organic sulfur compound such as ipert using the method.
[0002]
[Prior art]
Iperit (bis (2-chloroethyl sulfide): (C 2 H 4 Cl) 2 S), also called mustard gas or sulfur mustard, is a toxic gas that was first used as a chemical weapon in World War I. Mustard-based gas is also used as a raw material for synthesis of organic compounds, including pharmaceuticals, but it is harmful to the human body, so it cannot be discharged into the air as it is There is a need.
[0003]
Meanwhile, under the Chemical Weapons Convention, States parties must properly dispose of aging chemical weapons and chemical weapons abandoned in the territories of other States parties. The treaty came into force in 1997, and it is hoped that the parties will have to safely dispose of their chemical weapons within 10 years of their entry into force, so the technology should be developed as soon as possible.
[0004]
At present, several methods are known for detoxifying and decomposing the most common chemical weapons, Iperit and Lewisite. For example, 1) a method in which a high-temperature atmosphere of 1400 ° C. or more is created by burning fuel, and decomposition is performed in this high-temperature combustion region. For example, it is a method of decomposing by molten metal. However, these decomposition methods have the following disadvantages. First, a closed system is required for complete detoxification, and the size of the decomposer must be large. In addition, these methods require low throughput and are extremely inefficient in treating the vast amount of toxic chemical warfare compounds used and stored in the past. Furthermore, it is extremely difficult with these methods to treat the surrounding soil and the like that are contaminated with toxic compounds for chemical weapons such as toxic compounds leaked from the corroded portions of the warhead members of chemical weapons. . Moreover, in addition to these drawbacks, the method 1) is an energy-consuming type and a carbon dioxide-generating type, which is not desirable from the viewpoint of global environmental protection.
[0005]
Under these circumstances, a method of performing a decomposition reaction under relatively mild conditions using an enzymatic reaction by a microorganism has attracted attention as an effective decomposition method. In the decomposition method using a microorganism, the decomposition under normal temperature and normal pressure conditions becomes possible, unlike the chemical decomposition method, due to the high substrate specificity of the enzyme.
[0006]
Iperit, on the other hand, is easily converted to thiodiglycol by hydrolysis. Since this thiodiglycol is a compound that can also be a precursor (raw material) of iperate, a chemical product list (http://www.nacwc.gov.sg) to be controlled by the Chemical Weapon Convention (Chemical Weapons Convention) is required. ), And must be decomposed without fail during the detoxification process of IPELLIT.
[0007]
So far, several studies have been made on the degradation of ipert or its degradation product, thiodiglycol, by microorganisms. For example, regarding the decomposition of ipert, decomposition by Coriorus versicolor IFO30340 and Tyromyces palustris IFO30339, which are white rot fungi (Japanese Patent Application Laid-Open No. 11-235172, Warishi, N.Ito, M. Yoshida, H.T. (2002)). In this report, iperate is spontaneously hydrolyzed in the medium to produce thiodiglycol and then degraded by microorganisms. Regarding the decomposition of thiodiglycol obtained by hydrolysis of ipert, in addition to the above-mentioned white-rot fungi, yeast Candida rugosa IFO1364 (H. Kawashima, Bioscience Biotechnology and Biochemistry 4-, 95, 93, 59, 93, 95, 93, 59, 93, and 95). The bacterium Alcaligenes xylosoxydans ssp. xyloxydans SH91 strain (TS Lee, SH Chan, WA Weigand, WE Bentley, Biotechnology Progress, 16, 363-367 (2000)), Rhodocoscologous trosco trosco trosco slogo trosco slogo trosco slogo trosco slogo trosco slogo slogo slogo slogo. , 370-374 (1996)). However, there is no report to date that thiodiglycol or ipert was decomposed using bacteria of the genus Gordonia.
[0008]
[Problems to be solved by the invention]
An object of the present invention is to find a microorganism capable of specifically acting on and decomposing thiodiglycols, a method for decomposing thiodiglycols using the microorganism, and a method for treating harmful substances using the method. Is to provide.
[0009]
[Means for Solving the Problems]
The present inventors have conducted intensive studies to solve the above-mentioned problems, and as a result, the ability to degrade organic sulfur compounds such as thiodiglycols to Gordonia sp. T08 and T21 strains isolated by screening from soil. I found something. Then, they have found that the use of these microorganisms makes it possible to carry out an efficient decomposition treatment of harmful substances including iperate and the like, and completed the present invention.
[0010]
That is, the present invention provides the following (1) to (9).
(1) A method for decomposing a thiodiglycol represented by the following formula (1) by reacting a microorganism belonging to the genus Gordonia or an enzyme produced by the microorganism.
[0011]
Embedded image
R and R 'represent an acyl group or an alkyl group.
[0012]
(2) The method according to (1) above, wherein the decomposition of thiodiglycols is performed by culturing the microorganism in a medium containing them.
(3) The method according to the above (1) or (2), wherein the microorganism is a quiescent cell.
(4) The microorganism described above, wherein the microorganism is at least one selected from the group consisting of Gordonia sp. T08 strain (FERM P-18921), T21 strain (FERM P-18922), and a strain having substantially the same mycological properties as those described above ( The method according to any one of 1) to (3).
(5) A method for treating a harmful substance containing an organic sulfur compound, using the method according to any one of the above (1) to (4).
(6) A method for treating harmful substances containing an organic sulfur compound, comprising the following steps.
1) a step of hydrolyzing an organic sulfur compound in a harmful substance to form a thiodiglycol represented by the following formula (1)
[0013]
Embedded image
R and R 'represent an acyl group or an alkyl group.
[0014]
2) a step of decomposing the thiodiglycols produced in the above step by the action of a microorganism belonging to the genus Gordonia or an enzyme produced by the microorganism;
[0015]
(7) The method according to (6) above, wherein step 2) is performed by culturing the microorganism in a medium containing thiodiglycols.
(8) The method according to the above (7), wherein the organic sulfur compound is iperate.
(9) A microorganism belonging to the genus Gordonia T08 strain (FERM P-18921) or T21 strain (FERM P-18922).
[0016]
BEST MODE FOR CARRYING OUT THE INVENTION
Hereinafter, the present invention will be described in detail.
The present invention provides a method for decomposing thiodiglycols by the action of a microorganism belonging to the genus Gordonia or an enzyme produced by the microorganism.
[0017]
1. Thiodiglycols
The thiodiglycol according to the present invention has the chemical formula: (HOCH 2 CH 2 ) 2 An organic sulfur compound represented by S, also called 2,2'-thiodiethanol or thiodiethylene glycol. Thiodiglycol is a colorless and viscous liquid, and is used as a raw material for iperate and as a solvent for printing inks.
[0018]
In the present specification, "thiodiglycols" means a compound represented by the following formula (1).
[0019]
Embedded image
[0020]
Here, R and R 'are an acyl group or an alkyl group, preferably a C1-8, more preferably a C1-5, and even more preferably a C1-3 aliphatic acyl or aliphatic alkyl group.
[0021]
2. Microorganism
2.1 Characteristics of microorganisms
The microorganism used in the method of the present invention is not particularly limited as long as it belongs to the genus Gordonia and has the ability to degrade the thiodiglycols. Such microorganisms include, for example, Gordonia strains T08 and T21, and strains having substantially the same mycological properties. Here, “strains having substantially the same mycological properties” refers to strains originating from strains T08 and T21 and having the ability to degrade thiodiglycols like these strains. A strain of origin refers to a strain that differs in one or more other properties. Examples of such strains include mutants and transformants of the T08 strain and the T21 strain.
[0022]
In the present invention, the T08 strain and the T21 strain include such "strains having substantially the same mycological properties as those".
[0023]
The microorganism belonging to the genus Gordonia of the present invention has a higher growth rate than conventional white-rot fungi, and therefore can degrade thiodiglycols more efficiently. In addition, since the microorganism is easier to improve by genetic engineering than yeast, various modifications to enhance the degradation efficiency, such as introduction of a highly active promoter, are also possible.
[0024]
2.2 Gordonia sp. T08 strain (FERM P-18921), T21 strain (FERM P-18922)
Next, Gordonia sp. Strain T08 (FERM P-18921) and T21 strain (FERM P-18922), which are preferable examples of the microorganism used in the present invention, will be described.
[0025]
The Gordonia genus strains T08 and T21 were found by screening the various types of soils collected from various parts of Japan by the present inventors, and their bacteriological properties are shown in Table 1 of Example 1 described later. It is as described.
[0026]
As shown in Example 1 described below, the T08 strain and the T21 strain were both strains obtained by screening using desulfurization of benzothiophene as an index. It has been confirmed.
[0027]
The T08 and T21 strains were each identified as Gordonia and deposited with the National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST) at the Patent Organism Depositary (1-1-1, Higashi 1-1, Tsukuba, Ibaraki Prefecture, Japan) on July 5, 2002. And accession numbers FERM P-18921 (strain T08) and FERM P-18922 (strain T21), respectively.
[0028]
2.3 Enzymes produced by microorganisms
In the decomposition method of the present invention, instead of the microorganism, an enzyme having a thiodiglycol-decomposing activity produced by the microorganism may be isolated, and the enzyme may directly act on the substrate. Such enzymes can be readily prepared from the microorganism or a culture of the microorganism using techniques well known in the art. For example, it can be isolated and purified from a culture solution containing cells of the above-mentioned microorganisms using chromatography or the like using the enzyme activity as an index. Once the enzyme is isolated and purified, the enzyme can be mass-produced and used by isolating the gene of the enzyme and preparing a transformant into which the gene has been introduced according to a known method.
[0029]
3. Decomposition of thiodiglycols
Decomposition of thiodiglycols can be carried out by adding thiodiglycols to a medium described below and culturing the microorganism in a medium containing thiodiglycols.
[0030]
3.1 Culture conditions for microorganisms
The cultivation of the microorganism is performed according to a usual culture method of the microorganism. The form of culture may be solid culture or liquid culture, but liquid culture is preferred. As the nutrient source of the medium, those commonly used can be widely used. That is, the carbon source is not particularly limited as long as it is a usable carbon compound, and for example, glucose, sucrose, lactose, fructose, ethanol and the like can be used. The nitrogen source is not particularly limited as long as it is a nitrogen compound that can be used. For example, organic nutrients such as peptone, polypeptone, meat extract, yeast extract, soybean powder, and casein hydrolyzate can be used. If it is desired to culture in a medium that does not contain a sulfur compound that may affect the decomposition reaction of thiodiglycols, an inorganic nitrogen compound such as ammonium chloride can also be used. In addition, phosphates, carbonates, magnesium, calcium, potassium, sodium, iron, manganese, zinc, molybdenum, tungsten, copper, vitamins, and the like may be used as necessary. Culture is preferably performed aerobically under shaking or aeration at pH 6 to 8 and at a temperature of 25 to 37 ° C, preferably around 30 ° C.
[0031]
3.2 Adjustment of dormant cells
The microorganisms subjected to the thiodiglycol decomposition reaction may be in any state, but it is preferable to use resting cells. Resting cells can be prepared, for example, as follows. First, a fresh medium is inoculated with an appropriate amount, for example, 1 to 2% by volume of a seed bacterium, and subjected to reciprocal or rotary shaking culture at pH 6 to 8, 25 to 37 ° C, preferably about 30 ° C for 1 to 2 days. Do. At this time, the inoculum may be any of bacteria in the initial logarithmic growth phase to the stationary phase, but those in the late logarithmic growth phase are preferred. Further, the inoculation amount may be increased or decreased as needed.
[0032]
The medium is not particularly limited, but an A medium (Izumi Y., Ohshiro T., Ogino H., Hine Y., Shimao M., Applied and Environmental Microbiology, 223-226 (1994)) is used. Is preferred. After the culture, the cells are separated and collected from the medium, and washed to obtain resting cells. Here, the collection of bacteria may be performed when the cultured cells are in any state from the early logarithmic growth phase to the stationary phase, but are preferably performed when the culture is in the middle to late logarithmic growth phase. In addition, the collection of bacteria may be performed by any method such as filtration and sedimentation separation, in addition to centrifugation. For washing the cells, any buffer such as physiological saline, phosphate buffer, Tris buffer and the like can be used, and washing can also be performed using water.
[0033]
3.3 Degradation reaction by resting cells
The decomposition reaction by the quiescent cells is carried out by adding thiodiglycols as a substrate to a cell suspension prepared by suspending the quiescent cells in an appropriate buffer, followed by culturing and growing.
[0034]
Various buffers such as a phosphate buffer and a Tris buffer can be used as the buffer. The pH of the buffer is not particularly limited, but pH 6 to 8 is preferable. Further, instead of the buffer solution, water, a medium and the like can be used. The concentration of the cell suspension is preferably between OD660 of 1 to 100 and can be increased or decreased as necessary. The concentration of thiodiglycols as substrates in the medium is preferably 5 to 10,000 ppm, more preferably 25 to 100 ppm, but can be increased or decreased as necessary. The reaction temperature is suitably from 25 to 37 ° C, preferably around 30 ° C, but is not particularly limited. The reaction time is preferably 1 to 5 hours, but can be increased or decreased as necessary. Further, the reaction may be performed after preliminarily heating the reaction solution to the same temperature as the reaction temperature before adding the substrate.
[0035]
The reaction with the quiescent cells can also be performed in an oil-water two-phase system to which an organic solvent such as n-tetradecane has been added. In this case, usable organic solvents include n-tetradecane, n-paraffins of C8 to C20, kerosene, light oil, heavy oil, and the like. If necessary, the gas phase above the reaction solution may be replaced and sealed with oxygen.
The above decomposition reaction may be similarly carried out using an enzyme produced by a microorganism instead of the resting cells.
[0036]
3.4 Degradation rate and identification of degradation products
The degradation rate of thiodiglycols by the microorganism can be measured using, for example, high performance liquid chromatography, high performance liquid chromatography / mass spectrum, gas chromatography, gas chromatography / mass spectrum analysis, and the like.
[0037]
The degradation products of thiodiglycols by the microorganism can be identified, for example, as follows. First, the T08 strain or the T21 strain is cultured in a medium containing thiodiglycols as a sole sulfur source according to the preceding paragraph, and a degradation product is extracted from the culture solution. The extraction is performed according to a known method, for example, after adjusting the pH of the culture solution to an appropriate value, and then performing stirring extraction using ethyl acetate or the like. The solvent used for the extraction is not limited to ethyl acetate, and any solvent may be used as long as the desired reaction product can be extracted. The amount of the extraction solvent is preferably equal to the reaction solution, but can be increased or decreased as necessary.
[0038]
Next, the extract is separated using a suitable method. As a separation method, any method may be used as long as the decomposition product can be separated. Analysis of the decomposition products is performed by liquid chromatography, liquid chromatography / mass spectrum analysis, gas chromatography, gas chromatography / mass spectrum analysis, gas chromatography / atomic emission detection analysis, gas chromatography / Fourier transform infrared spectroscopy, 1 It can be performed using H-nuclear magnetic resonance spectrum analysis, ultraviolet absorption spectrum analysis, or the like. Further, other analysis methods may be used together as needed. By analyzing the analytical data thus obtained, degradation products of thiodiglycols can be identified.
[0039]
4. Hazardous substance treatment method
The present invention also provides a method for treating a harmful substance containing an organic sulfur compound using a decomposition reaction of thiodiglycols by a microorganism belonging to the genus Gordonia or an enzyme produced by the microorganism.
[0040]
4.1 Processing steps
In the method for treating harmful substances according to the present invention, "harmful substances" means substances having a harmful effect on the human body, and such harmful "organosulfur compounds" include especially iperrit. . Iperit has the chemical name bis (2-chloroethyl sulfide) and a chemical formula: (C 2 H 4 Cl) 2 Indicated by S. Iperit, also known as mustard gas or sulfur mustard, has been used as a chemical weapon because its liquids and vapors have a strong corrosive effect and irritation on the skin. In the present specification, the above-mentioned ipellit shall also include an iperito analog and an iperito derivative having substantially the same properties as those of iperito.
[0041]
The method for treating harmful substances of the present invention specifically includes the following steps.
1) a step of hydrolyzing an organic sulfur compound in a harmful substance to form a thiodiglycol represented by the following formula (1)
Embedded image
R and R 'represent an acyl group or an alkyl group.
2) a step of decomposing the thiodiglycols produced in the above step by the action of a microorganism belonging to the genus Gordonia or an enzyme produced by the microorganism;
[0042]
Step 1: Hydrolysis of organic sulfur compound
In the hydrolysis of the organic sulfur compound in the step 1), for example, a harmful substance containing the organic sulfur compound (eg, soil contaminated with a chemical weapon) is subjected to a hydrolysis treatment according to a known method to give a thiol compound. Convert to diglycols. For example, it has been found that ipert is easily hydrolyzed and converted into thiodiglycol simply by adding water (Wariish, N. Ito, M. Yoshida, H. Tanaka, Biotechnology Letters 24, 501). -505 (2002) etc.).
[0043]
Since this thiodiglycol is a compound that can also be a precursor (raw material) of iperate, a chemical product list (http://www.nacwc.gov.sg) to be controlled by the Chemical Weapon Convention (Chemical Weapons Convention) is required. ), And must be decomposed without fail during the detoxification process of IPELLIT.
[0044]
Some harmful substances have already undergone spontaneous decomposition of organic sulfur compounds and converted them into thiodiglycols. The thiodiglycol produced reacts with other substances in the harmful substances, and the formula ( Some may have been converted to the ethers and esters of thiodiglycol shown in 1). The thiodiglycols in the step 1) include such thiodiglycols.
[0045]
Step 2: Decomposition of thiodiglycols by microorganism
The decomposition of thiodiglycols in step 2) is preferably performed by culturing the microorganism in a medium containing thiodiglycols. The cultivation of the microorganism is performed as follows: May be performed according to the method described in (1).
[0046]
4.2 Detoxification of contaminated soil
If the method for treating harmful substances of the present invention is used, soil contaminated with a chemical warfare weapon, etc., is converted into thiodiglycols by a physicochemical method, and then the thiodiglycols are decomposed and made harmless. be able to.
[0047]
For example, ipertit or the like in the contaminated soil is hydrolyzed to hydrolyze it or the like into thiodiglycols. As mentioned above, iperate readily hydrolyzes to form thiodiglycol simply by adding water. Next, the hydrolyzed contaminated soil is suspended in a culture solution containing microbial cells (resting microbial cells), and the microorganism of the present invention is added to the culture to grow and grow. Alternatively, a suspension or freeze-dried product of cultured cells is directly sprayed on contaminated soil obtained by hydrolyzing ipert or the like to convert into thiodiglycols, and the soil is periodically stirred or contains a medium component. The thiodiglycols in the contaminated soil may be decomposed by microorganisms while spraying an aqueous solution. In this case, the contaminated soil itself becomes a medium for microbial growth.
[0048]
Since the treatment method of the present invention is performed using microorganisms, it is possible to treat harmful substances at normal temperature and normal pressure, and it can be said that the method is economically and environmentally excellent.
[0049]
【Example】
Hereinafter, the present invention will be described specifically with reference to Examples, but the scope of the present invention is not limited to the Examples.
[0050]
[Example 1] Isolation and identification of Gordonia genus strains T08 and T21
1. Microbial isolation
An AG medium (T. Matsui et al Appl Microbiol Biotechnol Lett.) Containing benzothiophene as the sole sulfur source was used for isolation of the target microorganism. First, 5 ml of a medium and 0.01 ml of a 10 g / l benzothiophene / dimethylformamide solution were placed in a test tube with a silicon stopper (capacity: 27 ml, diameter: 18 mm × length: 180 mm), and 1 spatula of soil collected from all over Japan (about 0.1 ml). 5 g) was added, and shaking culture (shaking speed 240 rpm) was performed at 30 ° C. for one week to perform integrated culture. For samples in which turbidity was observed in the medium, 0.2 ml of the culture was added to fresh same medium, and the enrichment culture was repeated 3 to 4 times. For the samples in which the growth of bacterial cells was observed in these enrichment cultures, the cultures were diluted with physiological saline. The obtained diluted solution was applied on a NAG medium (Nutrient Agar 23 g / L from Difco, 10 g / L glucose), and allowed to stand at 30 ° C. to form colonies. A part of the formed colony was inoculated on a medium containing benzothiophene, and the degradation of benzothiophene was examined. A colony in which benzothiophene degradation was observed was selected, and the above-described series of operations was repeated twice or three times to isolate a target strain.
[0051]
2. Microbial identification
Two strains, T08 strain and T21 strain, were isolated from the sample whose growth was confirmed, and their microbiological properties were examined.
[0052]
[Table 1]
[0053]
The T08 strain exhibits the above mycological properties by using Bergey's Manual of Systematic Bacteriology vol. 2 (1986) and Bergey's Manual of Determinative Bacteriology, 9th edition (1994), and were identified as belonging to the genus Gordonia. The T21 strain was also identified as Gordonia from the high homology of the 16S rRNA sequence.
[0054]
Therefore, these strains were deposited at the National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, Patent Organism Depositary (1-1-1, Higashi 1-1, Tsukuba, Ibaraki Prefecture, Japan) on July 5, 2002, and the accession numbers FERM respectively. P-18921 (T08 strain) and FERM P-18922 (T21 strain) were obtained.
[0055]
[Example 2] Thiodiglycol degradation by strains T08 and T21
2 ml of A medium (Izumi Y et al., Applied Environmental Microbiology, 223-226 (1994)) containing 100 mg / l thiodiglycol and 10 g / 1 glucose was inoculated with one strain of Rhodococcus sp. And cultured at 30 ° C. for 72 hours.
[0056]
The absorbance at 660 nm (OD660) of the obtained culture was measured, and the culture was centrifuged at 7000 rpm for 10 minutes to remove the cells, and the resulting supernatant was subjected to High Performance Liquid Chromatography manufactured by Waters. The analysis was performed using chromatography (column Nova-Pak C18 (Waters), eluent 3 mM phosphoric acid aqueous solution: methanol = 95: 5, eluent flow rate 1 ml / min, detection wavelength 210 nm). As a control, a thiodiglycol-containing medium not inoculated with a microorganism was shaken at the same temperature and for the same time as the above culture solution. Table 2 shows the results of quantifying the amount of thiodiglycol detected at a position having a retention time of 2.6 minutes. The thiodiglycol used was manufactured by Tokyo Chemical Industry.
[0057]
[Table 2]
[0058]
From the above results, it was confirmed that the T08 strain and the T21 strain decompose and grow using thiodiglycol as a sulfur source. The optimum conditions for the thiodiglycol decomposition of these bacteria were a temperature of about 30 ° C. and a pH of 6 to 8.
[0059]
[Example 3] Decomposition of thiodiglycol by resting cells
1. Preparation of bacterial cells for reaction
Inoculation of 100 ml of A medium (Izumi Y et al., Applied Environmental Microbiology, 223-226 (1994)) containing 100 mg / l of thiodiglycol and 10 g / l of glucose, the strains of Gordonia sp. The cells were cultured and cultured at 30 ° C. for 96 hours.
The obtained culture solution was centrifuged at 4 ° C. and 10,000 rpm for 5 minutes, and the precipitate was washed once each with sterile water and a 1/15 M phosphate buffer of pH 7.0, and suspended in the same buffer. It became turbid and was used as reaction cells (resting cells). The turbidity of this reaction cell at a measurement wavelength of 660 nm was 10.
[0060]
2. Decomposition of thiodiglycol
For the decomposition reaction, thiodiglycol and glucose are added to a 20 ml test tube containing 2 ml of the reaction cells to a final concentration of about 0.2 mM and 10 g / l, respectively, and shaken at 30 ° C. It was done by doing. The amount of residual thiodiglycol was determined by centrifuging the reaction solution after reaction for a certain period of time at 15,000 rpm for 2 minutes, and then subjecting the supernatant to high performance liquid chromatography in the same manner as in Example 1. At this time, in order to determine the amount of thiodiglycol detected by the attachment of thiodiglycol to the cell surface, the reaction cells were treated at 75 ° C. for 30 minutes to deactivate the degrading enzyme system. A similar reaction was carried out. Further, in order to grasp the spontaneous decomposition amount of thiodiglycol in water, the same reaction was carried out using 0.2 mM thiodiglycol dissolved in the same buffer as the decomposition reaction.
[0061]
FIG. 1 shows the change over time in the amount of residual thiodiglycol in the above decomposition reaction. It was confirmed that thiodiglycol did not adhere to the cells, was decomposed by the cells, and disappeared by 70% or more after 3 hours.
[0062]
【The invention's effect】
ADVANTAGE OF THE INVENTION According to this invention, the thiodiglycol produced by hydrolyzing the chemical weapon Iperit can be effectively decomposed under mild conditions using a microorganism belonging to the genus Gordonia.
[Brief description of the drawings]
FIG. 1 is a graph showing the change over time in the amount of residual thiodiglycol in the degradation reaction by strains T08 and T21.