JP2003286200A - 遺伝子の徐放材料及び繊維化組織分解剤 - Google Patents

遺伝子の徐放材料及び繊維化組織分解剤

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JP2003286200A
JP2003286200A JP2002088902A JP2002088902A JP2003286200A JP 2003286200 A JP2003286200 A JP 2003286200A JP 2002088902 A JP2002088902 A JP 2002088902A JP 2002088902 A JP2002088902 A JP 2002088902A JP 2003286200 A JP2003286200 A JP 2003286200A
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Yasuhiko Tabata
泰彦 田畑
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Asahi Kasei Medical Co Ltd
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Asahi Medical Co Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 遺伝子を所望の期間にわたって調節して放出
させるための遺伝子の徐放材料を提供すること。 【解決手段】 遺伝子を含有する、35%以上50%以下の
導入率でカチオン性基を有する含水性ゲルを含むことを
特徴とする遺伝子徐放材料、及び繊維化消化分解酵素遺
伝子を含有する上記遺伝子徐放材料を含むことを特徴と
する繊維化組織分解剤。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、遺伝子の徐放材料及び
繊維化組織分解剤に関する。
【0002】
【従来の技術】疾患の治療を目的に、治療薬や生理的活
性を有する化合物を生体内に投与して、治療薬や生理的
活性物質を徐々に放出させることで、治療を行うことが
検討されている。すなわち、速度を制御してこれらの物
質を放出する種々のドラッグデリバリーシステムが開発
されている。例えば、ポリエステル、ポリ(ε-カプロラ
クトン)、ポリ(ε-カプロラクトン-co-DL-乳酸)、ポリ
(DL-乳酸、ポリ(DL-乳酸-co-グリコール酸)、又はポリ
(ε-カプロラクトン-co-グリコール酸)等のフィルム化
技術又はカプセル化技術を用いることにより、上記物質
の拡散を制御して徐放化できることが知られている。
【0003】タンパク質薬物の徐放化で問題となるの
は、生理活性が減少又は消失してしまうことである。徐
放化されたタンパク質薬物の活性が失われては徐放の意
味がない。生理活性を維持させるために種々の方法が試
みられているが、未だ有効な方法が見出されていない。
一方、繊維化消化分解酵素については徐法化の研究はま
ったくなされておらず、また、生体内では繊維化消化分
解酵素の生物作用を阻害する物質が存在しており、単に
繊維化消化分解酵素タンパク質の徐放ではその生物作用
は期待できない。
【0004】この生体内で繊維化消化分解酵素の生物作
用阻害の問題を解決する手段として、遺伝子を導入した
細胞から繊維化消化分解酵素を徐放させる方法が考えら
れる。しかし単に遺伝子を水溶液として細胞に投与して
も、遺伝子の導入は極めて難しく、遺伝子発現は実質的
に期待できない。更に遺伝子の導入と発現の効率を高め
るために、種々のベクターの研究が成されているが、実
際の生体内で、細胞に効果的に遺伝子を導入して発現さ
せる方法は見出されていない。
【0005】遺伝子の徐放は、周辺の細胞に遺伝子を導
入することが目的であり、導入できた後は余分な遺伝子
が更にその周辺の細胞に導入されないことが、過剰な生
体反応を生じさせず好ましいとされている。また、遺伝
子の徐放材料は、薬剤とは異なり、周辺の細胞に一定の
期間のみ遺伝子を放出することが求められ、多くの場
合、この放出は、薬剤より極めて短期間でよい。また放
出後は、徐放材料が速やかに分解されることが求められ
る。遺伝子の放出がより短時間で完了してしまうと必要
な量の導入ができず、より長時間であれば期待以上の反
応を引き起こす可能性がある。従って、遺伝子の徐放材
料は、至適な時間の放出ができかつその後は直ちに放出
を終えることが求められる。
【0006】遺伝子の徐放に関する研究では、遺伝子を
組み込んだベクター又は遺伝子を、コラーゲンやゼラチ
ン等の生体親和性材料からなる担体に担持させたもの
(特開平9-71542号公報)や、添加剤としてグリコサミ
ノグリカンを含有するコラーゲンを担体とする徐放性製
剤(特開平10-167987号公報)が知られている。しかし
これら発明は、遺伝子の拡散による徐放であって、担体
の形状や大きさによって、徐放量は変化してしまう。更
に、これら発明には、繊維化消化分解酵素の遺伝子への
利用は記載されておらず、繊維化消化分解酵素遺伝子を
徐放して近傍の細胞に遺伝子を導入し、繊維化消化分解
酵素を生産せしめて繊維化組織を分解消失させ、組織再
生を促進させることによる慢性疾患の治療への応用につ
いては記載されていない。カプセルの材料については、
上記の合成高分子材料だけでなく、生体由来材料を用い
ることも試みられている。例えば抗生物質であるマイト
マイシンCを、直径5〜30μのゼラチンの微小球担体中
に封入し、静脈内に投与することでマイトマイシンCを
放出する方法等である(Yoshioka, T., Hashida, M.,Mu
ranishi, S., Sezaki, H., "Specific Delivery of Mit
omycin C to Liver,Spleen and Lung : Nano- and Micr
ospherical Carriers of Gelatin", Intern.J. Pharm.,
81, 131 (1981))。
【0007】カプセルの構造についても検討がなされて
おり、例えば、米国特許第4,818,542号は、連続通路の
球状微小加工重合網状構造からなる徐放性ドラッグデリ
バリーシステムを記載している。ドラッグデリバリーシ
ステムは、治療薬等の放出が実質的に終了した後、体液
等により分解するように調製できることも知られてい
る。例えばポリエステルはエステル結合の加水分解によ
り分解される。しかし、分解とともに分解速度で徐放速
度を制御して、遺伝子を生理活性を有する状態で徐放し
ようとする試みはなされていない。従って、遺伝子の徐
放に関して、担体の形状や大きさによらずに安定した徐
放能力を有する徐放材料の開発が望まれていた。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、遺伝子を所
望の期間にわたって調節して放出させるための遺伝子の
徐放材料を提供することを目的とする。さらに本発明
は、繊維化消化分解酵素遺伝子を徐放して近傍の細胞に
遺伝子を導入し、繊維化消化分解酵素を生産せしめて繊
維化組織を分解消失させて組織再生を促進させるための
繊維化組織分解剤、及び該繊維化組織分解剤を含む慢性
疾患を治療させるための慢性疾患治療剤を提供すること
を目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者は、上記課題を
解決するため鋭意研究を行った結果、カチオン性基を有
する含水性ゲルからなる遺伝子徐放材料において、カチ
オン性基の導入率を変化させたところ、徐放後の遺伝子
の発現がその導入率により変化することを見出し、また
遺伝子の徐放に適切なカチオン性基の導入率を決定する
ことができ、本発明を完成するに至った。
【0010】すなわち、本発明は、遺伝子を含有する、
35%以上50%以下の導入率でカチオン性基を有する含水
性ゲルを含むことを特徴とする遺伝子徐放材料である。
本発明の徐放材料において、含水性ゲルはコラーゲン及
び/又はその誘導体であることが好ましい。また、含有
させる遺伝子としては、例えば繊維化消化分解酵素遺伝
子が挙げられる。
【0011】また本発明は、繊維化消化分解酵素遺伝子
を含有する、上記遺伝子徐放材料を含むことを特徴とす
る繊維化組織分解剤である。本発明の繊維化組織分解剤
は、組織再生を促進するために投与することができる。
ここで組織化は、例えば慢性疾患によるものである。さ
らに本発明は、上記繊維化組織分解剤を含むことを特徴
とする慢性疾患治療剤である。
【0012】
【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の遺伝子徐放材料は、35%以上50%以下の導入率
でカチオン性基を有する含水性ゲルを含むことを特徴と
するものであり、遺伝子を所望の期間にわたって調節し
て放出させることができるものである。本発明において
「徐放」とは、本発明の徐放材料からの遺伝子の放出
が、持続的及び/又は遅延的に目的とする期間にわたっ
て起こることを意味する。本発明の遺伝子徐放材料は、
カチオン性基を導入することにより遺伝子が極短期間で
放出されて枯渇することを防ぎ、かつ含水性ゲル、特に
ゼラチンを用いることにより、ゼラチンからなる含水性
ゲルの分解と共に遺伝子が放出されるものである。この
ように遺伝子の放出とゲルの分解が同時進行するため、
放出後には徐放担体である含水性ゲルが残存しないこと
が特徴である。
【0013】1.カチオン性基を有する含水性ゲル カチオン性基を有する含水性ゲルは、カチオン性基を含
水性ゲルに導入することにより調製することができる。
本発明において「含水性ゲル」とは、水に不溶性又は水
に可溶性の親水性ゲルを指す。
【0014】本発明において、含水性ゲルは、カチオン
性基を導入することができ、かつゲル化可能な材料であ
れば特に限定されない。さらに含水性ゲルは、生分解性
材料からなるものが好ましい。例えば、含水性ゲルとし
ては、ウロン酸、ヒアルロン酸、アルギン酸、デンプ
ン、ペクチン等の多糖類、コラーゲン、フィブリン、ア
ルブミン等のタンパク質、及びそれらの誘導体等が挙げ
られる。特に、抗原性がないなどの理由から、生体成分
からなるコラーゲン及び/又はその誘導体が本発明の含
水性ゲルとして好ましい。コラーゲンは、黄紋構造を有
する繊維状のタンパク質であり、限定するものではない
が、主として軟骨以外の組織から得られるI型コラーゲ
ン、III型コラーゲン及びV型コラーゲン、主として軟骨
組織から得られるII型コラーゲン、並びに、網目状の会
合体を形成しているIV型コラーゲン及びVI型コラーゲン
等が例示できる。入手のしやすさ及びコラーゲンの立体
構造を壊しやすい点から、I型コラーゲンを利用するこ
とが好ましい。ここで「誘導体」とは、エステル、エー
テル、アミド、ウレタン、ウレアなどの化学結合によ
り、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、シアノ基、チ
オール基、飽和若しくは不飽和アルキル基、ベンゼン
環、又は複素環構造を有する基が導入されたものを指
す。
【0015】上記含水性ゲルの由来は特に限定されず、
ヒト、ブタ、ウシ等、種々の動物由来のものが用いられ
る。これらは天然に得られるものであっても、微生物を
用いた発酵法などにより人工的に得られるものであって
もよい。ヒトへの適用、特に遺伝子治療に用いる場合に
は、抗原性及び微生物感染の危険性を考慮して、ヒト由
来若しくはヒト由来の遺伝子組換え体であることが好ま
しい。
【0016】本発明においては、以下に記載する工程に
よって含水性ゲルにカチオン性基を導入して正の荷電を
高めるが、既に正に荷電している含水性ゲルを利用して
もよい。そのようなゲルにさらにカチオン性基を導入す
ることによって正の荷電が強まり、負に荷電している遺
伝子との結合力が増し、遺伝子のカチオン性基の解離に
伴う含水性ゲルからの拡散による徐放ではなく、含水性
ゲルの分解による徐放パターンによりゲルの分解をさら
に特定できるため、より安定した徐放を達成することが
できる。
【0017】カチオン性基の導入は、生理条件下でカチ
オン化する官能基を導入し得る方法であれば特に限定さ
れず、当技術分野で公知の方法で行うことができる。例
えば、含水性ゲルの有する水酸基又はカルボキシル基等
にカチオン性基を温和な条件下で導入する方法が好まし
い。例えばエチレンジアミン、N, N-ジメチル-1, 3-ジ
アミノプロパン等のアルキルジアミン、トリメチルアン
モニウムアセトヒドラジド、スペルミン、スペルミジン
又はジエチルアミド塩化物等を、種々の縮合剤を用いて
化学的に反応させる方法、ジメチルアミノエチルメタク
リレートやエチレンジアミンなどの存在下で電子線やガ
ンマ線を照射する放射線グラフト法が挙げられる。ここ
で上記縮合剤としては、例えば1-エチル-3-(3-ジメチル
アミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、塩化シアヌ
ル、N, N'-カルボジイミダゾール、臭化シアン、ジエポ
キシ化合物、トシルクロライド、ジエチルトリアミン-
N, N,N', N'', N''-ペンタン酸ジ無水物等のジ無水物化
合物、トリシルクロリド等が挙げられる。導入するカチ
オン性基の種類としては、1級、2級若しくは3級アミ
ノ基、又は4級アンモニウム基のいずれか、あるいはそ
れらの組み合わせでもよく、基の種類が徐放作用に有意
な影響を及ぼすことはない。
【0018】また、遺伝子中の核酸のリン酸基とのより
強固で安定な静電的結合が得られる点から、カチオン性
基の導入率は、含水性ゲルの水酸基又はカルボキシル基
に対して35%以上50%以下であることが望ましい。本発
明において「導入率」とは、カチオン性基導入前の含水
性ゲルが有する全ての水酸基又はカルボキシル基に対し
て、カチオン性基が導入された基の割合を示す。本発明
者は、以下の実施例6において、カチオン性基の導入率
は遺伝子の徐放に影響を及ぼさないが、放出された遺伝
子の発現率には有意に影響を及ぼすことを確認した。こ
の点で、好ましいカチオン性基の導入率は、35%以上50
%以下であり、より好ましくは40%以上50%以下であ
る。カチオン性基の導入率を35%以上50%以下とするこ
とにより、本発明の徐放材料は、徐放された遺伝子をよ
り確実に生体内において発現させることができるという
利点がある。
【0019】カチオン性基導入率は、カチオン性基の導
入を行う際に、カチオン性基を付与する化合物、例えば
エチレンジアミン及び縮合剤の添加量を増減して反応時
間を変化させることにより調節することができる。この
カチオン性基の導入率は、例えばアミノ基を導入した場
合には、2, 4, 6-トリニトロベンゼンスルホン酸(TNB
S)を用いることにより評価することができる(TNBS
法)。TNBSは、アミノ基の修飾試薬であり、アミノ酸、
ペプチド、タンパク質などのアミノ基と特異的に反応し
て黄色のトリニトロフェニル(TNP)誘導体を与えるこ
とが知られている。このTNP誘導体は、黄色で340〜350n
m及び415μm付近に極大吸収を示すため、TNBSと反応し
たアミノ基を検出・定量することができる。従って、カ
チオン性基としてアミノ基を有する含水性ゲルとTNBSと
を混合し、得られた混合液の吸光度を測定することによ
り、導入されたアミノ基を定量することができる。この
ようにしてカチオン性基の導入率を測定することによっ
て、当業者であれば、導入率35〜50%を達成するため
に、カチオン性基の導入の際に使用するカチオン性基付
与化合物の添加量を決定することができる。カチオン性
基は、未処理の含水性ゲルの分子に、例えば放射線グラ
フトや化学反応などにより直接導入することもできる
が、水に可溶化することで反応性を高めたものに導入す
ることが望ましい。例えばコラーゲンはそのままでは水
に不溶なため、アルカリ若しくは酸処理又は熱処理など
をすることによってその三重螺旋構造を壊してゼラチン
とし、可溶化することで、カチオン性基の導入反応性を
高めることができる。更に、ゼラチン化することによっ
て、カプセル化操作を容易にすることもできる。また、
架橋処理などを行って再度不溶化してゲル化することに
よって、徐放材料の構造を安定化させることができる。
すなわち、ゼラチン化することで加工操作を容易にで
き、加工後は水に不溶な安定な構造(ゲル)を得ること
ができるため、本発明においては含水性ゲルとしてゼラ
チンを用いることが特に好ましい。
【0020】コラーゲンのゼラチン化は、上述したよう
に、アルカリ処理、酸処理、熱処理などにより行うこと
ができ、当技術分野では周知である。アルカリ処理によ
るゼラチン化は、例えば1〜5%濃度のCa(OH)2懸濁液
にコラーゲンを浸漬し、20℃以下にて約30〜100日間、
通常は40〜80日間処理し、その後水洗し、無機酸で中和
し、最後に残存する過剰の酸を除去することにより行
う。酸処理によるゼラチン化は、例えば5%以下の希薄
な酸溶液(リン酸若しくはその混合液など)にコラーゲ
ンを浸漬し、約10〜48時間処理してから過剰の酸を除去
することにより行う。また熱処理によるゼラチン化は、
例えば30℃以上で10分間以上、好ましくは60℃以上で10
分間以上コラーゲン溶液を熱処理することによって、不
可逆的な変性が起こり、コラーゲンのゼラチン化が達成
される。
【0021】本発明において、遺伝子のより優れた徐放
性を期待する場合には、含水性ゲルは水不溶性であるこ
とが好ましい。ここで水不溶性とは、分子間の化学的あ
るいは物理的な架橋により水中で溶解しないような性質
が付与されていることを意味し、日本薬局方の規定に準
じた場合、やや溶けにくい〜ほとんど溶けない状態をい
う。
【0022】従って、カチオン性基を導入した後に、遺
伝子の徐放制御を可能とすべく、含水性ゲルを架橋処理
等によって水不溶性とすることが好ましい。徐放材料が
水溶性である場合には、生体に投与した際に、一過性に
遺伝子が当該徐放材料から放出され、安定した局所的か
つ持続的な遺伝子の供給が困難となる。従って、本発明
では、含水性ゲルとして水不溶化されたものを用いるこ
とにより、当該含水性ゲルの生体での分解性に応じて遺
伝子の放出を自由に制御することが可能となる。すなわ
ち遺伝子の徐放速度を徐放材料の分解によって制御する
ことが可能となる。さらに徐放化により当該徐放材料の
局所における遺伝子発現効率の向上が可能となる。
【0023】本発明において使用される水不溶性の含水
性ゲルとしては、好ましくは架橋処理により水不溶化を
行なったゼラチンハイドロゲルである。生分解性高分子
の架橋化は、当技術分野で公知の方法に従って行なうこ
とができる。具体的には架橋剤を使用する方法、熱処理
法あるいは紫外線を使用する方法等が挙げられる。架橋
処理を行うことにより、含水性ゲルの含水率が低減す
る。
【0024】架橋剤は、使用する含水性ゲルの種類によ
り適宜好適なものが選択されるが、通常、ホルマリン、
グルタルアルデヒド、水溶性カルボジイミド[1-エチル
-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸
塩、1-シクロヘキシル-3-(2-モルホリノエチル)カルボ
ジイミド-メト-p-トルエンスルホナート等]、エポクロ
ロヒドリン、ジエポキシ化合物[ビスエポキシジエチレ
ングリコール、1,4-ビス-(2,3-エポキシプロポキシ)-ブ
タン等]、ジイソシアネート化合物、ジ酸無水物ジイソ
チオシアネート化合物等の架橋剤が用いられる。架橋反
応において含水性ゲルの濃度は1〜30重量%、好ましく
は5〜10重量%、架橋剤の濃度は10-3〜10重量%、好ま
しくは10-2〜1重量%であり、0〜40℃、好ましくは25
〜30℃にて、1〜48時間、好ましくは12〜24時間反応を
行なう。本発明者は、以下の実施例4及び5において、
含水性ゲルに添加する架橋剤の量を増加させるほど、含
水性ゲルの生体内における分解性が低くなり、遺伝子を
長期にわたって放出することが可能であることを確認し
ている。ゲル内の架橋度は含水率と関連があり、架橋度
が高くなると含水率は低下する。それと共に酵素による
被分解性が低減し、その結果、ゲルの生体吸収性は低下
する。従って、含水性ゲルの架橋の程度が増大するほど
生体内における分解性は低くなり、遺伝子の放出率も低
下するといえる。
【0025】含水性ゲルの架橋は熱処理によっても行な
うことができる。熱架橋の方法についてゼラチンの場合
を例にとって以下に具体的に説明する。ゼラチン水溶液
(10重量%程度が好ましい)をプラスチックシャーレに
流延し、風乾することによってゼラチンフィルムを得
る。そのフイルムを減圧下、好ましくは10mmHg程度で通
常110〜160℃、好ましくは120〜150℃、通常1〜48時
間、好ましくは6〜24時間放置することによって行な
う。また、紫外線により当該ゼラチンフィルムを架橋す
る場合は、得られたゼラチンフィルムを波長200〜400nm
の殺菌ランプの下において通常室温、好ましくは0〜40
℃で放置する。
【0026】以上のように、含水性ゲルの架橋の程度を
増減することによって、5〜60日以上の期間にわたって
遺伝子を持続して放出できる。本発明において、含水性
ゲルの架橋の程度、すなわち含水率は、好ましくは85〜
99%、より好ましくは90〜98%である。含水性ゲルの含
水率が約90〜98%の場合に、本発明の遺伝子徐放材料
は、生体内において約7〜42日間にわたって遺伝子を持
続して放出する。また、2種類以上の異なる架橋の程度
を有する含水性ゲルを組み合わせることによって、数段
階の放出特性を与えることもできる。本発明の徐放材料
は、従来の拡散による放出を抑制して、徐放材料の生分
解による徐放を可能とする。従来の拡散による放出方法
では、徐放できる期間が徐放材料の形状や大きさによっ
て影響を受け、また徐放量も影響を受けるため徐放材料
の形状を任意に選択することができなかった。本発明の
徐放材料により、所望の徐放特性を設計することができ
るため、任意の徐放材料形状を自由に選択することが可
能となる。また、体積あたりの表面積の大きな、例えば
粒子状の徐放材料の場合にも、拡散徐放では困難であっ
た数日間以上にわたる徐放化が可能となる。使用するゼ
ラチンは、溶解性、安定性及び膨潤性等の物性の異なる
ゼラチンを混合して用いてもよい。一方、調製した架橋
ゼラチンは、単一又は必要に応じて物性の異なるものを
混合してもよい。
【0027】本発明の徐放材料に含められるカチオン性
基を有する含水性ゲルは、上述の特徴を有する含水性ゲ
ルを1種類単独で当該材料に含める以外に、2種類以上
の含水性ゲルを混合(単に混ぜて同一の徐放材料に含め
る)した状態で当該材料に含めることができ、また、あ
らかじめ2種類以上の含水性ゲルを化学結合させてから
当該材料に含めることもできる。
【0028】あらかじめ2種類以上の含水性ゲルを化学
結合させてから徐放材料に含める場合には、各含水性ゲ
ルを別個に水不溶性とした後で化学結合させることも、
各含水性ゲルを化学結合させた後で水不溶化処理を行な
うこともできるが、処理の簡便さの点から各含水性ゲル
を化学結合させた後で水不溶化処理を行なうことが好ま
しい。
【0029】2.含水性ゲルへの遺伝子の組み込み 続いて、上記カチオン性基を有する含水性ゲルに遺伝子
を含有させる(導入する)。本発明において「遺伝子」
とは、遺伝子治療で用いられる遺伝子を指し、特に限定
されるものではなく、当技術分野で利用されるあらゆる
形態で存在する。遺伝子治療に用いられる遺伝子の形態
としては、例えば、治療対象の遺伝子を含有する組換え
DNA及びターゲティングベクター、並びにアンチセンス
又はデコイ核酸及びウイルスベクターなどが挙げられ
る。また、これらを他の非ウイルスベクター(カチオン
性高分子、カチオン性リポソーム、カチオン性ポリマー
ミセル、カチオン性脂質複合体等)などと複合体化した
ものも適用できる。特に、遺伝子の発現のしやすさ、導
入後長期間にわたって導入遺伝子の機能が期待できる点
より、ヒト組換えDNA又はベクターの形態であることが
好ましい。
【0030】本発明のカチオン性基を有する含水性ゲル
に導入する遺伝子は、カチオン性基の導入率により徐放
をより正確に制御でき、かつ医療上、特に慢性疾患治療
の有用性の点より、例えば繊維化消化分解酵素遺伝子で
あることがより好ましい。これにより、慢性疾患におい
て繊維化した部分を消化分解する。繊維化した組織を消
化分解する酵素をコードする遺伝子である繊維化消化分
解酵素としては、例えば生体由来のコラゲナーゼが挙げ
られる。コラゲナーゼとしては、特にマトリックス・メ
タプロテアーゼ(MMP)が好ましい。マトリックスメタ
ロプロテアーゼ(MMP)は、細胞外マトリックスを基質
として分解する酵素であり、MMP-1(コラゲナーゼ)、M
MP-2(72kDaゼラチナーゼ)、MMP-9(92kDaゼラチナー
ゼ)などの他、多くのものが知られている。
【0031】以下に、一般的な遺伝子治療法に利用され
る遺伝子の形態として、ターゲット遺伝子、例えば繊維
化消化分解酵素遺伝子を組み込んだベクター(ターゲテ
ィングベクター)を例として本発明の好ましい一態様を
説明する。ターゲティングベクターとは、プロモーター
配列に連結した発現遺伝子の核酸配列を意味する。
【0032】一般的には、まず、ターゲット遺伝子の上
流に宿主細胞で機能可能なプロモーターを機能可能な形
で連結させ、これをウイルスベクターなどのベクターに
組み込むことにより、ターゲット遺伝子を宿主細胞中で
発現させることが可能なターゲティングベクターを構築
することができる。ここで、「機能可能な形で連結させ
る」とは、ターゲット遺伝子が導入される宿主細胞にお
いてプロモーターの制御下にターゲット遺伝子が発現さ
れるように、該プロモーターとターゲット遺伝子とを連
結させることを意味する。
【0033】宿主細胞で機能可能なプロモーターとして
は、例えば、宿主が動物細胞である場合には、ラウス肉
腫ウイルス(RSV)プロモーター、サイトメガロウイル
ス(CMV)プロモーター、シミアンウイルス(SV40)の
初期又は後期プロモーター、マウス乳頭腫ウイルス(MM
TV)プロモーター、CAGプロモーター等を挙げることが
できるが、これらに限定されるものではない。
【0034】ターゲット遺伝子及びプロモーターを組み
込むベクターは、宿主細胞において利用可能なベクタ
ー、例えば、宿主細胞中で複製可能な遺伝情報を含み、
自立的に増殖できるものであって、宿主細胞からの単
離、精製が可能であり、検出可能なマーカーを有するベ
クターである。そこで、ベクターには、ターゲット遺伝
子及びプロモーターの他、所望によりエンハンサーなど
のシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付
加シグナル、選択マーカー、リボソーム結合配列(SD配
列)などを連結することができる。なお、選択マーカー
としては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピ
シリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げら
れる。ベクターの例としては、哺乳動物を宿主とする場
合、pRC/RSV、pRC/CMV(Invitrogen社製)等のプラスミ
ド、ウシパピローマウイルスプラスミドpBPV(Amersham
Pharmacia社製)、EBウイルスプラスミドpCEP4(Invit
rogen社製)等のウイルス由来の自律複製起点を含むベ
クター、ワクシニアウイルス、レトロウイルス及びアデ
ノウイルス等のウイルスベクターを挙げることができる
が、これらに限定されるものではない。
【0035】また、宿主において機能可能なプロモータ
ーを予め保有するベクターを使用する場合には、該ベク
ター保有のプロモーターとターゲット遺伝子とが機能可
能な形で連結するように、該プロモーターの下流にター
ゲット遺伝子を挿入すればよい。例えば、前述のプラス
ミドpRC/RSV、pRC/CMV等は、動物細胞で機能可能なプロ
モーターの下流にクローニング部位が設けられており、
該クローニング部位にターゲット遺伝子を挿入して動物
細胞へ導入することにより、ターゲット遺伝子を発現さ
せることができる。ターゲット遺伝子及びプロモーター
をベクターに組み込むには、まず精製されたDNAを適当
なベクターDNAの制限酵素部位又はマルチクローニング
サイトに挿入してベクターに組み込む方法などが採用さ
れる。
【0036】本発明において、遺伝子の含水性ゲルへの
導入は、含水性ゲルと遺伝子とを混合することにより簡
単に行うことができる。含水性ゲルの正の電荷と、遺伝
子の有する負の電荷とが強力に結合(イオン結合)する
ことによって安定な複合体が形成される。例えば、遺伝
子を含む水溶液中に、予め凍結乾燥した含水性ゲルを浸
漬して、遺伝子を含水性に含浸させることができる。よ
り具体的には、架橋したゼラチンゲル内に遺伝子を導入
した徐放材料を調製する場合は、ゼラチンの5〜30重量
%水溶液に直接架橋剤を添加して調製した架橋ゼラチン
ゲル、又は架橋剤水溶液に未架橋ゼラチンゲルを浸漬し
て調製した架橋ゼラチンゲルを直接遺伝子含有溶液中に
浸漬するか、あるいは架橋ゼラチンゲルを乾燥した後、
それを遺伝子含有溶液中で再膨潤させることによって調
製できる。含水性ゲルと遺伝子との混合比は、使用する
含水性ゲルのカチオン性導入率によっても異なるが、通
常は遺伝子を適量用いて含水性ゲルと混合する。用いる
遺伝子量は、ゲル構成高分子の遺伝子結合部分が飽和す
るまでの量である。その量を超える場合には、遺伝子は
含水性ゲルよりも拡散によって放出されるため好ましく
ない。
【0037】遺伝子を導入するにあたり、安定性や遺伝
子放出持続性、放出された遺伝子の機能発現等の目的に
応じて、所望により徐放材料に他の成分を加えることも
できる。他の成分としては、例えば、アミノ糖又はその
高分子量体、キトサンオリゴマー、塩基性アミノ酸又は
そのオリゴマーや高分子量体、ポリアリルアミン、ポリ
ジエチルアミノエチルアクリルアミド、ポリエチレンイ
ミン等の塩基性高分子等が挙げられる。さらに、臓器特
異的に発現している受容体に結合するリガンドタンパク
質又は標的に特異的な抗体を加えることによって遺伝子
含有複合体の所望部位への送達、すなわち局所での遺伝
子放出を可能にする。
【0038】3.生体内への投与 本発明の遺伝子徐放材料によって、それが生体内に投与
された後、生体内で分解されるに従って遺伝子が徐放材
料の外部に徐々に放出される。本発明の徐放材料は、任
意の方法で生体に投与することができるが、目的とする
特定部位において遺伝子を持続的かつ局所的に放出させ
るためには、非経口投与が好ましい。本発明の徐放材料
に、更に必要に応じて製剤上許容し得る担体又は添加剤
(安定化剤、保存剤、可溶化剤、緩衝剤、pH調整剤、増
粘剤等)を配合することにより、本発明の徐放材料を有
効成分とする医薬を調製することができる。また必要に
応じて、遺伝子の安定化、遺伝子の細胞内若しくは核内
への導入促進、又は遺伝子の放出制御のための添加剤を
さらに配合してもよい。かかる添加剤としては、特に限
定するものではないが、ショ糖、グリシン、コンドロイ
チン硫酸、ゼラチン、アルブミン、サイトカイン、HMG1
-2混合物(High MobilityGroup-1,-2 Mixture;実験医
学, 12 184(1994)、BIOTHERAPY、8, 1265(1994))、ク
ロロキン、ポリリジン(Hepatology, 22, 847(199
5))、トランスフェクタム(登録商標、和光純薬工業株
式会社)等が挙げられる。
【0039】本発明の徐放材料を有効成分とする医薬
は、含まれる遺伝子の種類が異なる2種以上の徐放材料
を含めたものも包含される。このような複数の治療目的
を併せ持つ医薬は、多様化する遺伝子治療の分野で特に
有用である。本発明の徐放材料は、目的に応じて種々の
形状の製剤化が可能である。例えば、粒子状、円・角柱
状、フィルム状、ディスク状、スポンジ状、ペースト
状、不定形のチップ状等の固形、半固形製剤、あるいは
懸濁剤や乳剤等の液体製剤が挙げられる。目的とする特
定部位での徐放効果に優れ、また局所投与に好適である
点で、固形製剤が好ましい。例えば、粒子状に製剤化し
た徐放材料は、溶解剤で溶液にした後、注射等により生
体内に投与でき、かつ複雑な構造の投与部位にも適用で
きる。また、粒子状の徐放材料を投与した場合には遺伝
子の放出が遺伝子徐放材料の表面で均一に起こる点で好
ましい。また、再生医療においては、組織再生のための
細胞の足場となる材料が用いられることがあるが、本発
明の徐放材料は、この足場となる材料と共に利用するこ
ともできる。
【0040】本発明の徐放材料を粒子化する方法は、特
に限定するものではないが、例えば、攪拌しつつ油中に
ゼラチン水溶液を滴下してエマルジョンを調製し、温度
を下げてゲル化させた後で、架橋させるなどの方法が挙
げられる。徐放材料を粒子に製剤化する場合には、標準
的な企画の注射針又は他の慣例的な手段により投与する
ことを考慮して、粒径が1〜500μmであることが好まし
い。
【0041】注射剤は、例えば、筋肉内、皮下、皮内、
静脈内、動脈内、体腔(心膜腔、胸腔、腹腔、脳脊髄腔
等)内等に投与される。病変組織内に直接投与、すなわ
ち局所投与することも可能である。注射剤は、徐放材料
を溶液、懸濁液、乳液などに溶解又は懸濁して調製され
るものであり、通常単位投与量アンプル又は多投与量容
器の形態で提供される。
【0042】固形及び半固形製剤の場合は、遺伝子の放
出を期待する部位に本発明の徐放材料を直接埋め込む方
法、ペースト状製剤を注射器にて注入する方法、粒子状
製剤を懸濁注射により注入する方法、徐放材料の微粒子
をカテーテルにより注入し、遺伝子の放出を期待する部
位に局在させる方法等が挙げられる。
【0043】本発明の遺伝子徐放材料を含む医薬を投与
する対象としては、遺伝子治療を行う対象である限り特
に限定するものではないが、ヒトを含む哺乳動物であり
うる。本発明の遺伝子徐放材料を含む医薬に関して、動
物、特にヒトに投与される用量は、目的の遺伝子、使用
される含水性ゲル、投与方法、投与期間、治療される特
定部位などの種々の要因によって変更することができ、
当業者であれば適切な投与量を決定することができる。
例えば、遺伝子量は、1×10-6〜1×10-3g、好ましく
は1×10-5〜1×10-3gであり、例えば粒子状徐放材料
に含浸させ、それを適当な液体中に分散させた分散液を
注射器で投与する。
【0044】本発明の徐放材料は、最も好ましくは、繊
維化消化分解酵素遺伝子を含有する徐放材料であり、該
材料を含む繊維化組織分解剤を、繊維化した組織を分解
消化することが必要な部位に投与する。繊維化した組織
は、例えば慢性腎炎、肺繊維症、肝硬変、心筋症、動脈
硬化症等の臓器の慢性疾患に特徴的なものであり、その
ような部位において疾患を治療するために組織を再生さ
せようとしても、組織が繊維化し硬化しているため、十
分に組織再生が誘導されない。従って、本発明の分解剤
により、臓器の慢性病変に伴って繊維化した組織を分解
消失させることによって、組織再生を促進させることが
できる。このような組織再生を促すことによって、上記
疾患に伴う臓器機能の急激な悪化、及び繊維化の進行を
抑制することが可能である。
【0045】本発明の遺伝子徐放材料は、例えば繊維化
分解消化酵素遺伝子を徐放でき、かつ、徐放の終了とと
もに生分解されるため、遺伝子治療において遺伝子と組
み合わせて生体内に投与することができる。繊維化組織
の分解消化により、繊維化組織を除去できる結果、臓器
機能の悪化を抑制することが可能となる。更には、繊維
化組織の分解消化により、生体内に再生の場が作られ、
生体組織の再生誘導が促され、組織の再生修復が実現で
きる。
【0046】
【実施例】以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に
説明するが、本発明はこれらに限定されるものではな
い。 〔実施例1〕ゼラチンへのアミノ基の導入 本実施例においては、ゼラチン(新田ゼラチン株式会社
製、豚皮由来、分子量10,000、等電点9)と、濃度の異
なるエチレンジアミン(EDA)、及び水溶性カルボジイ
ミド(WSC)を用いて、下記式Iに示すような反応によ
り、アミノ基の導入率の異なるカチオン性基導入ゼラチ
ン(CG)を作製した。
【0047】
【化1】
【0048】まず、ゼラチンを100mMリン酸緩衝液(pH
5.0)に溶解させ、20mg/mlのゼラチン水溶液を調製し
た。このゼラチン水溶液に、ゼラチンのカルボキシル基
に対してそれぞれモル比で0.5、1、3、5、10、25及
び50倍モル量のEDAを加えた後、5N塩酸にてpHを5.0に調
整した。さらに、ゼラチンのカルボキシル基に対してモ
ル比で3倍モル量のWSCを加え、37℃で18時間反応させ
た。
【0049】反応後、未反応のEDA及びWSCを除去するた
めに、セルロースチューブ(分画分子量 12,000〜14,00
0)を用いて超純水に対して48時間透析した。得られたC
G(加えたEDA量に対してそれぞれE-0.5、E-1、E-3、E-
5、E-10、E-25及びE-50と呼ぶ)は、凍結乾燥(FDU-83
0、株式会社東京理化)し、真空下で保存した。
【0050】〔実施例2〕アミノ基の導入率の評価 実施例1において調製した7種類のカチオン性基導入ゼ
ラチンにおけるアミノ基の導入率は、トリニトロベンゼ
ンスルホン酸ナトリウム(TNBS)法を用いて評価した。
まず、等張リン酸緩衝液(phosphate buffered salin
e:PBS)を用いて0.03mg/mlの濃度に調製したカチオン
性基導入ゼラチン水溶液1.0mlに4%(w/v)炭酸水素ナトリ
ウム水溶液を加えた。次いで、0.1%(w/v)2,4,6-トリニ
トロベンゼンスルホン酸ナトリウム(TNBS)を1ml加
え、40℃で2時間反応させた後、波長415μmにおける吸
光度を測定した。なお、標準試料としてβ-アラニンを
用い、それにより吸光度−濃度の検量線を作成した。こ
の検量線から各カチオン性基導入ゼラチン(E-0.5、E-
1、E-3、E-5、E-10、E-25及びE-50)におけるアミノ基
の導入率を求めた。図1に示す結果より、ゼラチンのカ
チオン性基導入反応の際に加えるEDAの濃度を変化させ
ることにより、ゼラチンのカルボキシル基に対するアミ
ノ基の導入率を変化させることができると考えられる。
【0051】〔実施例3〕カチオン性ゼラチンハイドロ
ゲルの作製 実施例1で調製した種々のカチオン性基の導入率を有す
るCGの10%CG水溶液(pH5.0)を4℃でゲル化させた
後、アセトン/0.01M塩酸溶液(7:3)中で、濃度の異な
るグルタルアルデヒド(GA;0.78、0.31及び0.16μg/m
L)を架橋剤として用いて架橋反応(4℃、24時間)を
行った。次いで、100mMグリシン水溶液で未反応のアル
デヒド基を不活化した(4℃、24時間)。さらに蒸留水
で洗浄した後、ゲル化させたカチオン性ゼラチンを凍結
乾燥し、真空下で保存した。
【0052】〔実施例4〕カチオン性ゼラチンハイドロ
ゲルの生体吸収性試験 本実施例においては、実施例3で作製した種々のCG(E-
3、E-10及びE-50)ハイドロゲルのin vivoにおける生体
吸収性について検討した。125Iボルトンハンター試薬
のベンゼン溶液(N-スクシンイミジル-3-(4-ヒドロキシ
-3,5-ジ125I ヨードフェニル)プロピオネート,147 MB q
/ml、パーキンエルマー製)を、窒素気流下でベンゼン
を揮発させた。これに蒸留水1.0mlを加え、125Iボルト
ンハンター試薬水溶液とした。この水溶液(20μl)を
凍結乾燥CGハイドロゲルに滴下し、12時間、4℃にて静
置することによりハイドロゲルを12 5I標識した。反応
後、4日間にわたり蒸留水で洗浄し、遊離125Iを除去
した。このようにして125Iで放射標識化したCGハイド
ロゲル5×5×1mm3を、ddYマウス(雌、6週令、日本
エスエルシー株式会社)の大腿筋内に埋入した。一定時
間ごとにマウスを犠牲死させ、CGハイドロゲル埋入部位
である大腿部における残存放射活性をγ−カウンター
(ARC-300,アロカ株式会社)で測定することにより、CG
ハイドロゲルの生体吸収性を評価した。図2に示す結果
から、ハイドロゲル作製時の架橋剤(GA)の濃度を変化
させることにより、CGハイドロゲルの生体吸収性をコン
トロールすることができるといえる。
【0053】〔実施例5〕カチオン性基導入ゼラチンハ
イドロゲルからの徐放試験 実施例3で作製した3種のCGハイドロゲル(E-5、E-10
及びE-50)に関して、徐放化担体としての機能を確認す
るために、in vivoにおけるpSV-LacZの徐放試験を行っ
た。
【0054】125Iボルトンハンター試薬のベンゼン溶
液を、窒素気流下でベンゼンを揮発させた。これにPBS
に溶解させた1.0mg/ml pSV-LacZ(Amersham Pharmacia
より入手) 1.0mlを加え、12時間、37℃で反応させた。
反応後、PD-10カラム(Amersham Pharmacia Biotech A
B)を用いて遊離125Iを除去した。このように放射標識
化したpSV-LacZ溶液(20μl)を凍結乾燥CGハイドロゲ
ル5×5×1mm3に滴下し、1時間、室温にて静置する
ことによりCGハイドロゲルにpSV-LacZを含浸させた。こ
のCGハイドロゲルをマウス大腿筋内に埋入し、一定時間
ごとにマウスを犠牲死させた。CGハイドロゲル埋入部位
である大腿部の残存放射活性をγ-カウンターで測定す
ることによりCGハイドロゲルからのpSV-LacZの徐放性を
評価した。また、コントロールとして放射標識化した1.
0mg/ml pSV-LacZ水溶液100μlを大腿筋内に投与し、同
様の試験を行った。
【0055】図3に示すように、pSV-LacZ水溶液投与と
比較して、CGハイドロゲルを用いることによりpSV-LacZ
の生体内残存期間を延長させることができ、その期間は
CGハイドロゲルの生体吸収性、すなわちゼラチンの架橋
の程度に依存していた。従って、pSV-LacZは、CGハイド
ロゲルの分解にともない徐放化されると考えられる。
【0056】〔実施例6〕遺伝子発現に及ぼすカチオン
性基導入率の影響 本実施例においては、遺伝子発現に及ぼすアミノ基の導
入率の影響を検討するために、pSV-LacZの遺伝子発現レ
ベルをβ-ガラクトシダーゼアッセイ法にて評価した。
まず、pSV-LacZ(100μg)を含浸させたカチオン性基導
入率の異なるCGハイドロゲル(E-5、E-10及びE-50)を
マウス大腿筋内に埋入した。1週間後にマウスを犠牲死
させ、CGハイドロゲル周囲の筋肉組織を摘出した。摘出
した組織を溶解バッファー(0.1 M Tris-HCl、2mM EDT
A、0.1% Triron X-100)中でホモジナイズし、凍結−溶
解を3度繰り返した後、15,000gで5分間遠心分離し
た。得られた上清(30μl)に、o-ニトロフェニルβ-D-
ガラクトピラノシド(ONPG)及び切断用バッファー(60
mM Na2HPO4-7H2O、40mM NaH2PO4-H2O、10mM KCl、1mM M
gSO4-7H2O)を加え、37℃で30分間反応させた。1M炭酸
ナトリウム溶液を加えて反応を停止させた後、420nmに
おける吸光度を測定した。
【0057】図4に示すように、pSV-LacZの発現にはゼ
ラチンへのアミノ基の導入率による違いがみられ、E-50
を用いた際に最大となった。また、E-10を用いた場合に
も対照との有意な差が認められた。プラスミドDNAの徐
放性は、アミノ基の導入率の違いに関係なく、含水性ゲ
ルの分解性によって制御されており、アミノ基導入率が
徐放性に与える影響はみられなかった。このことから、
プラスミドDNAが徐放される際には、プラスミドDNAと分
解されたCGとが複合体を形成し、CGが遺伝子の運び屋
(ベクター)として機能していることが示唆された。以
上の結果から、図1に示されるE-10及びE-50におけるア
ミノ基導入率を算出すると、CGのアミノ基の導入率が40
〜50%程度の場合に遺伝子を効率的に徐放し、該遺伝子
の発現を導くものと考えられる。
【0058】〔実施例7〕繊維化組織分解剤 (1)遺伝子の調製 ヒト組換え細胞外マトリックス分解酵素1(human recom
binant matrix metalloproteinase-1)のプラスミドDNA
(以下hrMMP-1と称す)は次のようにして得た。
【0059】正常ヒト繊維芽細胞の細胞質より作製した
cDNAライブラリー(京都大学医学部皮膚科 高橋建造助
手より提供を受けた)より、別に準備した既知の細胞外
マトリックス分解酵素1プライマーを用いてPCR法(ポ
リメラーゼ連鎖反応)によりhrMMP-1を増幅した。該細
胞外マトリックス分解酵素1(MMP-1)プライマーは、MMP
-1の公開されている遺伝子配列に基づいて、以下に示す
配列を設計し、GIBCO BRI Custumに作製を依頼した。 5'-CCCAAGCTTAAGGCCAGTATGCACAGCTTTCC-3'(配列番号
1) 5'-CCCGTCGACTCAATTTTTCCTGCAGTTGAACC-3'(配列番号
2) 得られたhrMMP-1は、シーケンサーで配列を確認した。
次に、hrMMP-1を、CVMプロモーターを含有しかつFLAGta
gを有するプラスミド(SIGMA社、E7773、pFLAG-CVM-5
c)に組み込んで大腸菌(大腸菌DH5a Complement Cell
s, Invitrogen)に投与した。hrMMP-1プラスミドを投与
した大腸菌を37℃で16時間培養した後、プラスミドを抽
出して大量のプラスミドhrMMP-1を得た。
【0060】(2)遺伝子徐放材料の調製 実施例1に記載した等電点9のゼラチンを、蒸留水中で
ゼラチンのカルボキシル基のモル比に対して50倍量のエ
チレンジアミンと、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロ
ピル)塩酸カルボジイミドと混合し、5N塩酸でpH5に調
整した後、37℃で18時間撹拌することによりカチオン性
基を導入した。精製は、シームレスセルロース透析膜
(サイズ30/32、ロット900201、VisKASE SALES CORP.
製)を用いて、25℃にて48時間透析することにより行っ
た。得られたカチオン性基を有するゼラチンを用いて、
油性・水性攪拌法によって、直径およそ100μmのカチオ
ン性基導入ゼラチン粒子を得た。得られたカチオン性基
導入ゼラチン粒子材料のカチオン性基の量は、TNBS法に
従って測定したところ48.7%であった。このカチオン性
基導入ゼラチン粒子に、hrMMP-1を含むリン酸緩衝生理
食塩水を滴下して、4℃で一晩放置することにより遺伝
子を粒子内に含浸させて、遺伝子徐放材料を得た。
【0061】(3)マウスを用いた評価 8週齢のオスのマウス(C57Black6(SLC):日本エスエル
シー、静岡より入手)の尾静脈より、ストレプトゾトシ
ン(streptozotocin、SIGMA社S0130)を200mg/kg注入し
て、糖尿病性腎症を惹起させた。ストレプトゾトシン注
入の1週間後に、ペントバルビタール麻酔下で、左11肋
骨付近より切開して左腎の腎皮膜下に上記(2)で作製
した粒子状遺伝子徐放材料を1mg(50μgの遺伝子を含
有)注入した。
【0062】遺伝子徐放材料を注入した後、4週間後に
血液と左腎を採取した。血液を用いて、ELISA法により
血中尿素窒素(BUN)を測定した。また、血液左腎の一
部を用いて、Kivirikko-Laitinen-Prochop法により組織
1g中のハイドロキシプロリン量を測定した。
【0063】結果は、BUN量が20.0mg/dl、ハイドロキシ
プロリン量が25.0mg/gであり、どちらも比較例に比べて
有意(p<0.05)に低値であった。ハイドロキシプロリン
量の減少は繊維化の低下を示している。このことより、
MMPの遺伝子の徐放によって生体内で細胞からMMPが産生
され、腎臓内での繊維化が抑制された結果、腎機能を改
善できたことがわかる。
【0064】〔比較例1及び2〕比較例1として糖尿病
性腎症を惹起させただけのマウスを、比較例2としてカ
チオン性基導入ゼラチン粒子を用いて実施例7と同様に
糖尿病性腎症マウスを処置したマウスを用いてBUNとハ
イドロキシプロリン量を測定した。
【0065】結果は、比較例1及び比較例2それぞれ、
BUN量27.4mg/dl、ハイドロキシプロリン量32.2mg/g、及
びBUN量23.8mg/dl、ハイドロキシプロリン量40.6mg/g
であった。カチオン性ゼラチン粒子のみではBUN量及び
ハイドロキシプロリン量の低下は特に認められず、いず
れも高値であった。
【0066】
【発明の効果】本発明の、遺伝子を組み込んだ、35%以
上50%以下の導入率でカチオン性基を有する含水性ゲル
を含むことを特徴とする遺伝子徐放材料により、単なる
拡散ではない、担体の形状や大きさによらずに安定した
徐放能力を有する遺伝子の徐放材料が提供される。
【0067】更には、繊維化組織中及び/又はその近傍
に、繊維化消化分解酵素遺伝子を組み込んだ本発明の遺
伝子徐放材料を含むことを特徴とする繊維化組織分解剤
を投与することによって、繊維化組織を分解消失させて
組織再生を促進させ、繊維化組織を除去して臓器機能の
悪化を抑制することができ、また組織の再生修復が実現
できるようになる。
【0068】
【配列表】 SEQUENCE LISTING <110> Tabata, Yasuhiko Asahi Medical Co., Ltd. <120> A controlled-release material for gene and a composition for decomposing fibrous tissue <130> X14-282 <140> <141> <160> 2 <170> PatentIn Ver. 2.0 <210> 1 <211> 32 <212> DNA <213> Artificial Sequence <220> <223> Description of Artificial Sequence: synthetic oligonucleotide <400> 1 cccaagctta aggccagtat gcacagcttt cc 32 <210> 2 <211> 32 <212> DNA <213> Artificial Sequence <220> <223> Description of Artificial Sequence: synthetic oligonucleotide <400> 2 cccgtcgact caatttttcc tgcagttgaa cc 32
【0069】
【配列表フリーテキスト】配列番号1:合成オリゴヌク
レオチド 配列番号2:合成オリゴヌクレオチド
【図面の簡単な説明】
【図1】添加したEDA量とCGのアミノ基の導入率との関
係を示す図である。
【図2】CGハイドロゲルの生体吸収プロファイルを示す
図である。図中、○はCGハイドロゲル作製時に添加した
GA濃度が0.78μg/mlのCGハイドロゲルを表し、●はGA濃
度が0.31μg/mlのCGハイドロゲルを表し、△はGA濃度が
0.16μg/mlのCGハイドロゲルを表す。
【図3】CGハイドロゲルからのpSV-LacZの徐放プロファ
イルを示す図である。図中、○はCGハイドロゲル作製時
に添加したGA濃度が0.78μg/mlのCGハイドロゲルを表
し、●はGA濃度が0.31μg/mlのCGハイドロゲルを表し、
△はGA濃度が0.16μg/mlのCGハイドロゲルを表し、□は
pSV-LacZ水溶液投与群を表す。
【図4】pSV-LacZ発現レベルの比較を示す図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考) A61P 11/00 A61P 11/00 13/12 13/12 // C12N 15/09 C12N 15/00 A Fターム(参考) 4B024 AA01 BA11 CA01 EA10 HA08 HA17 4C076 AA09 CC11 CC15 CC16 CC17 EE42A EE43A FF31 4C084 AA13 NA12 ZA362 ZA452 ZA592 ZA752 ZA812

Claims (7)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 遺伝子を含有する、35%以上50%以下の
    導入率でカチオン性基を有する含水性ゲルを含むことを
    特徴とする遺伝子徐放材料。
  2. 【請求項2】 含水性ゲルがコラーゲン及び/又はその
    誘導体であることを特徴とする請求項1記載の遺伝子徐
    放材料。
  3. 【請求項3】 遺伝子が繊維化消化分解酵素遺伝子であ
    ることを特徴とする請求項1又は2記載の遺伝子徐放材
    料。
  4. 【請求項4】 請求項3記載の遺伝子徐放材料を含むこ
    とを特徴とする繊維化組織分解剤。
  5. 【請求項5】 組織再生を促進するために投与されるも
    のである請求項4記載の繊維化組織分解剤。
  6. 【請求項6】 繊維化が慢性疾患によるものである請求
    項4又は5記載の繊維化組織分解剤。
  7. 【請求項7】 請求項4〜6のいずれか1項に記載の繊
    維化組織分解剤を含むことを特徴とする慢性疾患治療
    剤。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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WO2021167056A1 (ja) * 2020-02-21 2021-08-26 国立大学法人京都大学 Usag-1を標的とするrna分子を含む歯の再生治療薬

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