JP2001291042A - 生命システムシミュレータ及び生命システムシミュレーション方法並びに記録媒体 - Google Patents

生命システムシミュレータ及び生命システムシミュレーション方法並びに記録媒体

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JP2001291042A
JP2001291042A JP2000106295A JP2000106295A JP2001291042A JP 2001291042 A JP2001291042 A JP 2001291042A JP 2000106295 A JP2000106295 A JP 2000106295A JP 2000106295 A JP2000106295 A JP 2000106295A JP 2001291042 A JP2001291042 A JP 2001291042A
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Hiroyuki Kurata
博之 倉田
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    • G06COMPUTING; CALCULATING OR COUNTING
    • G06FELECTRIC DIGITAL DATA PROCESSING
    • G06F17/00Digital computing or data processing equipment or methods, specially adapted for specific functions
    • G06F17/10Complex mathematical operations

Abstract

(57)【要約】 【課題】 計算速度を向上して大規模な生命システムの
計算を可能とする生命システムシミュレータ及び生命シ
ステムシミュレーション方法並びに記録媒体を提供す
る。 【解決手段】 この発明に係る生命システムシミュレー
タは、酵素反応を表す式を受ける入力部と、前記酵素反
応を表す式を、酵素(E)と基質(S)が結合して複合
体(ES)が生じる結合相と、前記複合体(ES)から
生成物(P)が遊離する反応相とに分割する式分解部
と、前記結合相に連立方程式用の数式変換処理を適用す
る連立方程式用数式変換部と、前記反応相に微分方程式
用の数式変換処理を適用する微分方程式用数式変換部
と、変換された数式に基づき前記結合相及び前記反応相
のシミュレーションを行うシミュレーション実行部と、
シミュレーション結果を出力する出力部と、を備える。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、生命システムシ
ミュレータ及び生命システムシミュレーション方法並び
に記録媒体に関わる。
【0002】
【従来の技術】生命システム全体を分子レベルで記述す
る化学反応式に基づき、生命システムの分子間ネットワ
ークを計算によりシミュレーションすることが試みられ
ている。酵素反応においては、生成物の生成速度は、酵
素(E)と基質(S)が結合し複合体(E:S)を形成する
速度k1、その複合体が解離して、酵素と基質に解離する
速度k-1、複合体が反応して、生成物(P)を遊離する速
度k2を含む時間微分方程式で記述される。速度定数k1
k-1、k2を用いて記述する方法をここでは速度パラメー
タ法と命名する。
【0003】しかしながら、それらの速度を測定するこ
とは困難であり、実用上は実験によって測定できる速度
定数Vmax(= k2 [EO])(EOは遊離、複合体の状態を含
む全酵素濃度)、ミカエリス定数Km (= k1 / (k-1 +
k2) )を用いたMichaelis-Menten 式によって酵素反応
を記述することが通常であった。また、速度パラメータ
法を用いる場合、すべての反応速度パラメータを用いた
時間微分方程式によって計算された。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】Michaelis-Menten 式
を用いた場合、複合体濃度は定常状態であること、[E]
≪ [S]であることが仮定され、式中に複合体の濃度につ
いての情報は記述に表れない。しかしながら、生命シス
テムの反応においては、反応速度が遅いので、タンパク
―タンパクの活性複合体が生成される時間は十分にあ
り、その複合体濃度は無視できるものではい。また、複
合体同士を介した相互作用の連鎖はたいへん長い。よっ
て、Michaelis-Menten 式、および、その修飾型の式で
は多数の複合体を含む複雑な相互作用を記述することは
難しい。正確に言えば、少数の競争反応などを含む小規
模な相互作用の反応はMichaelis-Menten 式を修飾する
ことによって記述できるが、大規模で相互作用の連鎖の
長い反応系を記述することは困難である。
【0005】一方、速度パラメータ法は正確に分子間相
互作用の計算が行えるが、計算速度に関わる問題があっ
た。細胞内においては、分子のモル濃度はタンパクなど
比較的モル濃度が小さいものとATPのようにモル濃度の
高い物質の濃度差は108以上になる。また、速度定数の
差も大きく、1010以上になることもある。このようにモ
ル濃度、速度定数の差が非常に大きい場合、これらを時
間微分方程式で計算するとき、時間刻み幅を非常に小さ
くしなければならない。現在のスーパーコンピュータを
要しても計算時間は膨大なものとなり、実用上意味をな
さなかった。
【0006】この発明は係る課題を解決するためになさ
れたもので、計算速度を向上して大規模かつ相互作用連
鎖の長い生命の分子間ネットワークの計算を可能にする
生命システムシミュレータ及び生命システムシミュレー
ション方法並びに記録媒体を提供することを目的とす
る。
【0007】
【課題を解決するための手段】この発明は係る課題を解
決するためになされたもので、この発明に係る生命シス
テムシミュレーション方法は、酵素反応を表す式を、酵
素(E)と基質(S)が結合して複合体(E:S)が生
じる結合相と、前記複合体(E:S)から生成物(P)
が遊離する反応相とに分割するステップと、前記結合相
に連立方程式用の数式変換処理を適用するステップと、
前記反応相に微分方程式用の数式変換処理を適用するス
テップと、変換された数式に基づき前記結合相のシミュ
レーションを行うステップと、変換された数式に基づき
前記反応相のシミュレーションを行うステップと、を備
える。
【0008】好ましくは、前記結合相に連立方程式用の
数式変換処理を適用するステップにおいて、結合定数Kb
を用いて式を記述するステップと、前記結合相の記述に
現れるこれ以上分割できない要素に対する物質収支の式
を生成させるステップとを備える。
【0009】好ましくは、前記反応相に微分方程式用の
数式変換処理を適用するステップにおいて、前記反応相
を時間微分方程式に展開するステップを備える。
【0010】好ましくは、酵素(E)と基質(S)の濃度
差が大きい、すなわち、[E] ≪ [S]、の場合、有機酸、
アミノ酸などの代謝に関わる酵素反応においては、酵素
反応式(1)を結合相と反応相に分割することなく、従
来型のMichaelis-Menten式に展開、反応相に割り当てる
ステップを備える。
【0011】好ましくは、さらに、遺伝子の情報がmR
NAに転写され、これが翻訳されてタンパク質が形成さ
れる過程を示す式から、転写翻訳速度式を生成するステ
ップと、タンパク量の増減に関する反応を酵素反応を分
割して生じた反応相中の式から抽出して前記転写翻訳速
度式に加えるステップと、前記転写翻訳速度式を反応相
に割り当てるステップと、を備える。
【0012】この発明に係る生命システムシミュレータ
は、酵素反応を表す式を受ける入力部と、前記酵素反応
を表す式を、酵素(E)と基質(S)が結合して複合体
(E:S)が生じる結合相と、前記複合体(E:S)から
生成物(P)が遊離する反応相とに分割する式分解部
と、前記結合相に連立方程式用の数式変換処理を適用す
る連立方程式用数式変換部と、前記反応相に微分方程式
用の数式変換処理を適用する微分方程式用数式変換部
と、変換された数式に基づき前記結合相及び前記反応相
のシミュレーションを行うシミュレーション実行部と、
シミュレーション結果を出力する出力部と、を備える。
【0013】この発明に係るコンピュータ読み取り可能
な記録媒体は、酵素反応を表す式を、酵素(E)と基質
(S)が結合して複合体(E:S)が生じる結合相と、
前記複合体(E:S)から生成物(P)が遊離する反応
相とに分割するステップと、前記結合相に連立方程式用
の数式変換処理を適用するステップと、前記反応相に微
分方程式用の数式変換処理を適用するステップと、変換
された数式に基づき前記結合相のシミュレーションを行
うステップと、変換された数式に基づき前記反応相のシ
ミュレーションを行うステップと、を備える生命システ
ムシミュレーション方法をコンピュータに実行させるた
めのプログラムを記録したものである。
【0014】媒体には、例えば、フロッピー(登録商
標)ディスク、ハードディスク、磁気テープ、光磁気デ
ィスク、CD−ROM、DVD、ROMカートリッジ、
バッテリバックアップ付きのRAMメモリカートリッ
ジ、フラッシュメモリカートリッジ、不揮発性RAMカ
ートリッジ等を含む。
【0015】また、電話回線等の有線通信媒体、マイク
ロ波回線等の無線通信媒体等の通信媒体を含む。インタ
ーネットもここでいう通信媒体に含まれる。
【0016】媒体とは、何等かの物理的手段により情報
(主にデジタルデータ、プログラム)が記録されている
ものであって、コンピュータ、専用プロセッサ等の処理
装置に所定の機能を行わせることができるものである。
要するに、何等かの手段でもってコンピュータにプログ
ラムをダウンロードし、所定の機能を実行させるもので
あればよい。
【0017】
【発明の実施の形態】以下、この発明の実施の形態につ
いて詳細に説明する。この発明の実施の形態に係る生命
システムシミュレータについて説明する。この発明の実
施の形態に係る生命システムシミュレータの目的は、生
命システム全体を分子レベルで記述する化学反応式を入
力して生命システムのシミュレーションを行うときに、
生命システムの分子間ネットワークの計算を高速に行う
ことである。前記化学反応式として、例えば次の酵素反
応式がある。
【0018】
【数1】 Eは酵素、Sは基質、E:Sは酵素―基質複合体であ
る。k1、k-1、k2は速度定数である。化学反応式(2)
は、遺伝子の情報がmRNAに転写され、これが翻訳さ
れてタンパク質が形成される過程を示す式である。
【0019】この発明の実施の形態に係るプログラム
は、上記化学反応式(1)を、結合部分(左)と反応部
分(右)に分解する、すなわち、分子間ネットワークを
結合相と反応相に分割するとともに、それぞれについて
最適な方法を用いてシミュレーションを行うことを特徴
とする。それにより、シミュレーションに要する計算速
度を大幅に短くすることができる。
【0020】従来技術では、化学反応式(1)はミカエ
リス・メンテン(Michaelis−Menten)型の式に変換さ
れるが、この方法は、複合体濃度が定常であること、
[E] ≪[S]を仮定する。また、物質の複合体の項が記述
に表れない。従来のこの種のMichaelis−Menten型の式
を中心に記述したプログラムは、結合相という概念を取
り入れていないので、分子間相互作用が長い連鎖を生成
する生命システムの記述を行うことに適していなかっ
た。一方、速度パラメータ法による場合、正確な計算は
可能であるが、生命システムのように分子モル濃度、速
度定数の差が非常に大きい場合、これらを時間微分方程
式で計算するとき、時間刻み幅を非常に小さくしなけれ
ばならなかった。現在のスーパーコンピュータを要して
も計算時間は膨大なものとなり、実用上意味をなさなか
った。
【0021】また、この発明の実施の形態では、生命シ
ステム中の膨大なパラメータの値を調節するプログラム
を、遺伝的アルゴリズムを用いて作成した。遺伝的アル
ゴリズムは既知であるが、生命システムパラメータ調節
に応用された例はほとんどない。方程式系に登場するパ
ラメータはすべて自動的に命名される。
【0022】この発明の実施の形態によれば、次のよう
な効果が得られる。 1.計算速度が劇的に向上し、大規模な生命システムの
計算が可能となった。 2.化学反応式の追加、修正が簡単に行える。 3.動力学パラメータの値が時間依存する場合でも、こ
れに対応できる。 4.並列処理計算機への移植が容易である。 5.ユーザーがプログラムを共有することによって、各
自のシステムをもちより、統一することができる。
【0023】図1は、この発明の実施の形態に係る生命
システムシミュレータの機能ブロック図を示す。入力部
1は、外部から処理すべき式を受け入れて式分解部2に
送る。式分解部2は、与えられた式を結合相(例えば、
化学反応式(1)の左辺)と反応相(例えば、化学反応
式(1)の右辺)に分解するとともに、それぞれを連立
方程式用数式変換部3と微分方程式用数式変換部4に送
る。連立方程式用数式変換部3は、与えられた式を、例
えば、Newton-Raphson法を用いて解くことができるよう
に数式変換を行う。微分方程式用数式変換部4は、与え
られた式を、例えば、Runge-Kutta法を用いて解くこと
ができるように数式変換を行う。シミュレーション実行
部5は、連立方程式用数式変換部3及び微分方程式用数
式変換部4から変換後の数式を受けてシミュレーション
を実行する。出力部6はシミュレーション結果を出力す
る。
【0024】酵素反応においては、生成物の生成速度
は、酵素(E)と基質(S)が結合し複合体(E:S)を形
成する速度(結合速度)k1、その複合体が解離して、酵
素と基質に解離する速度(解離速度)k-1、複合体が反
応して、生成物(P)を遊離する反応速度k2を含む時間
微分方程式で記述される。
【0025】従来の方法では、Vmax(= k2 [EO])(EO
は遊離、複合体の状態を含む全酵素濃度)とKm (= k1
/ (k-1 + k2) )を用いてMichaelis-Menten 式によっ
て酵素反応を記述することが通常であった。この場合、
複合体濃度は定常状態であること、[E] ≪ [S]であるこ
とが仮定され、Michaelis-Menten 式では複合体の濃度
についての情報は記述に表れない。しかしながら、生命
システムの反応においては、反応速度が遅いので、タン
パク―タンパクの活性複合体が生成される時間は十分に
あり、その複合体濃度は無視できるものではい。また、
複合体同士を介した相互作用の連鎖はたいへん長い。よ
って、Michaelis-Menten 式および、その修飾型の式で
は大規模かつ複雑な生命分子間の相互作用を記述するこ
とは困難であった。正確に言えば、少数の競争反応など
を含む小規模な相互作用の反応はMichaelis-Menten 式
を修飾することによって記述できるが、大規模で相互作
用の連鎖の長い反応系を記述することはできなかった。
【0026】一方、k1、k-1、k2のすべての速度定数を
用いれば、生命システムの正確な記述が行えるが、計算
速度に関わる問題があった。細胞においては、タンパク
など比較的モル濃度が小さいものとATPのようにモル濃
度の高い分子が共存し、その濃度差は108以上になる。
また、速度定数の差も同様に1010以上になっている。こ
のように濃度、速度定数の差が非常に大きい場合、これ
らを時間微分方程式で計算するとき、時間刻み幅を非常
に小さくしなければならない。現在のスーパーコンピュ
ータを要しても計算時間は膨大なものとなり、実際上計
算は不可能であった。
【0027】これに対してこの発明の実施の形態に係る
システム/方法によれば、化学反応式を結合相と反応相
に分けて処理することにより、微分方程式の時間刻みを
大きくとることができる。これは、きわめて速度定数の
差の大きい基質、酵素の結合反応に関わる結合速度パラ
メータk1と解離速度パラメータk-1を結合定数(Kb =k1
/ k-1)としてまとめてしまう方法である。その結果,
分子間の相互作用による分子同士の結合状態を微分方程
式ではなく、連立方程式として解くことができる。分子
同士の複合体形成に関わる段階を高速に計算することが
可能になる。
【0028】図2は、この発明の実施の形態に係るシス
テム/方法の処理のフローチャートである。まず、化学
反応式を入力し(S1)、連立方程式の系と微分方程式
の系に分けて、それぞれ数式変換を行う。そして、変数
動力学パラメータの名前を付ける(S2)。全ての変
数、動力学パラメータをプログラムで使いやすいように
配列変数に変換する(S3)。連立方程式はNewton-Rap
hson法、微分方程式はRunge-Kutta法などで解けるよう
に数式変換する(S4)。そして、変換された数式をコ
ンパイルしてシミュレーションを実行する(S5)。多
変数連立方程式の解が必ず求められことを示す方法を記
す。遺伝的アルゴリズムを用いて、複数のパラメータの
値を調節する。
【0029】多変数連立方程式の解が必ず求められこと
を示す方法について簡単に説明を加える。結合相におい
ては基質、酵素のモル濃度、結合定数から記述される連
立方程式となる。対象の生命システムの規模によって異
なるが、式数は百、千以上の膨大なものになることが予
想される。よって、このような連立方程式の解を求める
方法が必要である。
【0030】結合相の連立方程式は、結合定数(Kb)を
結合速度(k1)、解離速度(k-1)に分解することによって
速度パラメータ法による微分方程式に書きなおすことが
できる。この場合、微分方程式の定常解が連立方程式の
解となる。このとき、微分方程式の計算時間が膨大なも
のにならないように、結合定数として本来値より小さい
ものを与えれば、k1とk-1の差は小さくなるので、時間
刻みを大きくとることができる。定常解が与えられたな
らば、その値を初期値とし、結合定数の値を少しずつ本
来の目標値に近づけながら、連立方程式を繰り返し解く
ことによって、目的の連立方程式の解を求めることがで
きる。
【0031】遺伝的アルゴリズムを用いて、複数のパラ
メータの値を調節する点について簡単に説明を加える。
生命システムに含まれるすべての分子のモル濃度は、速
度定数(転写速度、翻訳速度を含む)、結合定数によっ
て計算される。生命システムの目的が達成されるような
速度定数、結合定数パラメータをチューニングすること
が必要である。そのチューニング方法として遺伝的アル
ゴリズムを用いる。パラメータセット(クロモゾームと
呼ぶ)を複数用意し、それらのパラメータセットの中か
ら目的に近いもの、すなわち適応度の高いものを選択す
る。選択されたもの同士のランダムな交叉、あるいは、
ランダムに選んだパラメータの値の突然変異を行って、
より適応度の高いパラメータセットを探索する。
【0032】図3は、図2のフローチャートの一部をさ
らに詳しく説明するためのフローチャートである。図3
は化学反応式(1)を数学式へ変換する手順を示す。ま
ず、化学反応式(1)を結合相と反応相に分解する(S
10)。生命システムにおいては、分子同士の結合によ
る複合体の形成、その複合体の反応による物質の変換が
絶えず進行している。結合反応速度に関わる解離速度k
-1が物質の変換をともなう反応速度k2に較べて、非常に
速いと仮定すると、結合相による複合体の形成とその複
合体の反応による物質変換の部分を分割することができ
る。結合反応においては物質の変換は伴わないので、分
子の分配と考えることができる。よって時間を含まない
連立方程式系で解法することができる。反応相は、結合
相で生じた酵素基質複合体が反応を行い、生成物を遊離
する反応、Michaelis-Menten型の式で記述される反応、
転写翻訳反応式からなっている。これらは通常の時間微
分方程式で記述が可能なものである。
【0033】結合相について次の処理を行う(S1
1)。 1.結合定数Kbを用いて式を記述する。結合定数の名前
をKb(A+B A:B)のように付ける。 2.結合相の記述に現れるこれ以上分割できない要素に
対する物質収支の式を生成させる。 反応相について次の処理を行う(S12)。化学反応式
(1)の右側部分の反応速度式を生成するとともに、パ
ラメータの名前を付ける。結合相と反応相を分割整理す
る(S13)。結合相は連立方程式系に、反応相は微分
方程式系に変換する。パラメータ名は自動的に命名さ
れ、その反応の種類に応じて分類整理する(S14)。
【0034】図4は、図2のフローチャートの一部をさ
らに詳しく説明するためのフローチャートである。図4
は化学反応式(1)を数学式へ変換する、図3とは別の
手順を示す。化学反応式(1)をMichelis-Meten式の形
の微分法的式に展開する(S20)。
【0035】S20の処理について、さらに詳しく説明
を加える。例えば有機酸、アミノ酸などの代謝に関わる
酵素反応において、酵素(E)と基質(S)のモル濃度差
が大きい、すなわち、[E] ≪ [S]、の場合、酵素反応式
(1)を結合相と反応相に分割することなく、従来型の
Michaelis-Menten式に展開、反応相に割り当てることが
可能である。また、その方が計算上有利である。なぜな
ら、結合相を支配する連立方程式は極端にモル濃度差が
ある分子の相互作用を正確に計算することは得意ではな
いからである。この方法は結合相における物質収支に関
わる連立方程式から、酵素に較べモル濃度の高い基質に
関わる収支式を取り除くことを可能にし、連立方程式の
解法を容易にすることができる。
【0036】結合相と反応相を分割整理する(S1
3)。結合相は連立方程式系に、反応相は微分方程式系
に変換する。パラメータ名は自動的に命名され、その反
応の種類に応じて分類整理する(S14)。
【0037】図5は、図2のフローチャートの一部をさ
らに詳しく説明するためのフローチャートである。図5
は化学反応式(1)と(2)を数学式へ変換する手順を
示す。化学反応式(2)から、転写翻訳速度式を生成す
る(S30)。タンパク量の増減に関係する反応を化学
反応式(1)から見つけて式中に加える(S31)。転
写翻訳に関わるパラメータ名を付ける。例えば、タンパ
クpに対する転写速度パラメータの名前をkm(p)のよう
に付ける(S32)。結合相と反応相を分割整理する
(S13)。結合相は連立方程式系に、反応相は微分方
程式系に変換する。パラメータ名は自動的に命名され、
その反応の種類に応じて分類整理する(S14)。
【0038】分子レベルから生命システムを合成する場
合の問題は、すべての生化学パラメータ(速度定数、結
合定数、物質濃度など)を測定することがきわめて難し
いことである。細胞内外の条件の変化により、パラメー
タの値は時々刻々変化するようなパラメータの値を実験
的に求めることは量的、質的に困難な課題である。生命
システム解析において大切なことは生命システムの詳細
を記述することではなく、生命システムの設計原理とよ
べるようなものを抽出することである。生命の詳細にと
らわれている限り、このような根本的な問題解決になら
ない。生命の分子レベルの信号伝達経路を抽象的なアル
ゴリズムというレベルで考え、人工物のアルゴリズムと
比較することによって、生命システムの設計原理が現れ
てくると考えられる。本発明は分子の信号伝達回路のア
ルゴリズムを動的プロセスに忠実に変換する方法であ
る。
【0039】将来的には、設計原理仮説は生物学的実験
で検証することが求められる。コンピュータによるシス
テム予測と実験による検証というシステム生物学という
ような新しい方法論を提供することが可能になる。
【0040】本発明は、以上の実施の形態に限定される
ことなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内
で、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内
に包含されるものであることは言うまでもない。
【0041】また、本明細書において、手段とは必ずし
も物理的手段を意味するものではなく、各手段の機能
が、ソフトウェアによって実現される場合も包含する。
さらに、一つの手段の機能が、二つ以上の物理的手段に
より実現されても、若しくは、二つ以上の手段の機能
が、一つの物理的手段により実現されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明の実施の形態に係る生命システムシ
ミュレータの機能ブロック図を示す。
【図2】 この発明の実施の形態に係るシステム/方法
の処理のフローチャートである。
【図3】 図2のフローチャートの一部をさらに詳しく
説明するためのフローチャートである。
【図4】 図2のフローチャートの一部をさらに詳しく
説明するためのフローチャートである。
【図5】 図2のフローチャートの一部をさらに詳しく
説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
1 入力部 2 式分解部 3 連立方程式用数式変換部 4 微分方程式用数式変換部 5 シミュレーション実行部 6 出力部
─────────────────────────────────────────────────────
【手続補正書】
【提出日】平成12年4月25日(2000.4.2
5)
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正内容】
【書類名】 明細書
【発明の名称】 生命システムシミュレータ及び生
命システムシミュレーション方法並びに記録媒体
【特許請求の範囲】
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、生命システムシ
ミュレータ及び生命システムシミュレーション方法並び
に記録媒体に関わる。
【0002】
【従来の技術】生命システム全体を分子レベルで記述す
る化学反応式に基づき、生命システムの分子間ネットワ
ークを計算によりシミュレーションすることが試みられ
ている。酵素反応においては、生成物の生成速度は、酵
素(E)と基質(S)が結合し複合体(E:S)を形成する
速度k1、その複合体が解離して、酵素と基質に解離する
速度k-1、複合体が反応して、生成物(P)を遊離する速
度k2を含む時間微分方程式で記述される。速度定数k1
k-1、k2を用いて記述する方法をここでは速度パラメー
タ法と命名する。
【0003】しかしながら、それらの速度を測定するこ
とは困難であり、実用上は実験によって測定できる速度
定数Vmax(= k2 [EO])(EOは遊離、複合体の状態を含
む全酵素濃度)、ミカエリス定数Km (= (k-1 + k2) /
k1 )を用いたMichaelis-Menten 式によって酵素反応
を記述することが通常であった。また、速度パラメータ
法を用いる場合、すべての反応速度パラメータを用いた
時間微分方程式によって計算された。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】Michaelis-Menten 式
を用いた場合、複合体濃度は定常状態であること、[E]
≪[S]であることが仮定され、式中に複合体の濃度につ
いての情報は記述に表れない。しかしながら、生命シス
テムの反応においては、反応速度が遅いので、タンパク
―タンパクの活性複合体が生成される時間は十分にあ
り、その複合体濃度は無視できるものではい。また、複
合体同士を介した相互作用の連鎖はたいへん長い。よっ
て、Michaelis-Menten 式、および、その修飾型の式で
は多数の複合体を含む複雑な相互作用を記述することは
難しい。正確に言えば、少数の競争反応などを含む小規
模な相互作用の反応はMichaelis-Menten 式を修飾する
ことによって記述できるが、大規模で相互作用の連鎖の
長い反応系を記述することは困難である。
【0005】一方、速度パラメータ法は正確に分子間相
互作用の計算が行えるが、計算速度に関わる問題があっ
た。細胞内においては、タンパクなど比較的モル濃度が
小さいものとATPのようにモル濃度の高い物質の濃度差
は108以上になる。また、速度定数の差も大きく、1010
以上になることもある。このようにモル濃度、速度定数
の差が非常に大きい場合、これらを時間微分方程式で計
算するとき、時間刻み幅を非常に小さくしなければなら
ない。現在のスーパーコンピュータを要しても計算時間
は膨大なものとなり、実用上意味をなさなかった。
【0006】この発明は係る課題を解決するためになさ
れたもので、計算速度を向上して大規模かつ相互作用連
鎖の長い生命の分子間ネットワークの計算を可能にする
生命システムシミュレータ及び生命システムシミュレー
ション方法並びに記録媒体を提供することを目的とす
る。
【0007】
【課題を解決するための手段】この発明は係る課題を解
決するためになされたもので、この発明に係る生命シス
テムシミュレーション方法は、酵素反応を表す式を、酵
素(E)と基質(S)が結合して複合体(E:S)が生
じる結合相と、前記複合体(E:S)から生成物(P)
が遊離する反応相とに分割するステップと、前記結合相
に連立方程式用の数式変換処理を適用するステップと、
前記反応相に微分方程式用の数式変換処理を適用するス
テップと、変換された数式に基づき前記結合相のシミュ
レーションを行うステップと、変換された数式に基づき
前記反応相のシミュレーションを行うステップと、を備
える。
【0008】好ましくは、前記結合相に連立方程式用の
数式変換処理を適用するステップにおいて、結合定数Kb
を用いて式を記述するステップと、前記結合相の記述に
現れるこれ以上分割できない要素に対する物質収支の式
を生成させるステップとを備える。
【0009】好ましくは、前記反応相に微分方程式用の
数式変換処理を適用するステップにおいて、前記反応相
を時間微分方程式に展開するステップを備える。
【0010】好ましくは、酵素(E)と基質(S)の濃度
差が大きい、すなわち、[E]≪[S]の場合、有機酸、アミ
ノ酸などの代謝に関わる酵素反応においては、酵素反応
式(1)を結合相と反応相に分割することなく、従来型
のMichaelis-Menten式に展開、反応相に割り当てるステ
ップを備える。
【0011】好ましくは、さらに、遺伝子の情報がmR
NAに転写され、これが翻訳されてタンパク質が形成さ
れる過程を示す式から、転写翻訳速度式を生成するステ
ップと、タンパク量の増減に関する反応を酵素反応を分
割して生じた反応相中の式から抽出して前記転写翻訳速
度式に加えるステップと、前記転写翻訳速度式を反応相
に割り当てるステップと、を備える。
【0012】この発明に係る生命システムシミュレータ
は、酵素反応を表す式を受ける入力部と、前記酵素反応
を表す式を、酵素(E)と基質(S)が結合して複合体
(E:S)が生じる結合相と、前記複合体(E:S)から
生成物(P)が遊離する反応相とに分割する式分解部
と、前記結合相に連立方程式用の数式変換処理を適用す
る連立方程式用数式変換部と、前記反応相に微分方程式
用の数式変換処理を適用する微分方程式用数式変換部
と、変換された数式に基づき前記結合相及び前記反応相
のシミュレーションを行うシミュレーション実行部と、
シミュレーション結果を出力する出力部と、を備える。
【0013】この発明に係るコンピュータ読み取り可能
な記録媒体は、酵素反応を表す式を、酵素(E)と基質
(S)が結合して複合体(E:S)が生じる結合相と、
前記複合体(E:S)から生成物(P)が遊離する反応
相とに分割するステップと、前記結合相に連立方程式用
の数式変換処理を適用するステップと、前記反応相に微
分方程式用の数式変換処理を適用するステップと、変換
された数式に基づき前記結合相のシミュレーションを行
うステップと、変換された数式に基づき前記反応相のシ
ミュレーションを行うステップと、を備える生命システ
ムシミュレーション方法をコンピュータに実行させるた
めのプログラムを記録したものである。
【0014】媒体には、例えば、フロッピーディスク、
ハードディスク、磁気テープ、光磁気ディスク、CD−
ROM、DVD、ROMカートリッジ、バッテリバック
アップ付きのRAMメモリカートリッジ、フラッシュメ
モリカートリッジ、不揮発性RAMカートリッジ等を含
む。
【0015】また、電話回線等の有線通信媒体、マイク
ロ波回線等の無線通信媒体等の通信媒体を含む。インタ
ーネットもここでいう通信媒体に含まれる。
【0016】媒体とは、何等かの物理的手段により情報
(主にデジタルデータ、プログラム)が記録されている
ものであって、コンピュータ、専用プロセッサ等の処理
装置に所定の機能を行わせることができるものである。
要するに、何等かの手段でもってコンピュータにプログ
ラムをダウンロードし、所定の機能を実行させるもので
あればよい。
【0017】
【発明の実施の形態】以下、この発明の実施の形態につ
いて詳細に説明する。この発明の実施の形態に係る生命
システムシミュレータについて説明する。この発明の実
施の形態に係る生命システムシミュレータの目的は、生
命システム全体を分子レベルで記述する化学反応式を入
力して生命システムのシミュレーションを行うときに、
生命システムの分子間ネットワークの計算を高速に行う
ことである。前記化学反応式として、例えば次の酵素反
応式(1)がある。
【0018】
【数1】 Eは酵素、Sは基質、E:Sは酵素―基質複合体であ
る。k1、k-1、k2は速度定数である。化学反応式(2)
は、遺伝子の情報がmRNAに転写され、これが翻訳さ
れてタンパク質が形成される過程を示す式である。
【0019】この発明の実施の形態に係るプログラム
は、上記化学(酵素)反応式(1)を、結合部分(左)
と反応部分(右)に分解する、すなわち、分子間ネット
ワークを結合相と反応相に分割するとともに、それぞれ
について最適な方法を用いてシミュレーションを行うこ
とを特徴とする。それにより、シミュレーションに要す
る計算速度を大幅に短くすることができる。
【0020】従来技術では、化学反応式(1)はミカエ
リス・メンテン(Michaelis−Menten)型の式に変換さ
れるが、この方法は、複合体濃度が定常であること、
[E]≪[S]を仮定する。また、物質の複合体の項が記述に
表れない。従来のこの種のMichaelis−Menten型の式を
中心に記述したプログラムは、結合相という概念を取り
入れていないので、分子間相互作用が長い連鎖を生成す
る生命システムの記述を行うことに適していなかった。
一方、速度パラメータ法による場合、正確な計算は可能
であるが、生命システムのように分子モル濃度、速度定
数の差が非常に大きい場合、これらを時間微分方程式で
計算するとき、時間刻み幅を非常に小さくしなければな
らなかった。現在のスーパーコンピュータを要しても計
算時間は膨大なものとなり、実用上意味をなさなかっ
た。
【0021】また、この発明の実施の形態では、生命シ
ステム中の膨大なパラメータの値を調節するプログラム
を、遺伝的アルゴリズムを用いて作成した。遺伝的アル
ゴリズムは既知であるが、生命システムパラメータ調節
に応用された例はほとんどない。方程式系に登場するパ
ラメータはすべて自動的に命名される。
【0022】この発明の実施の形態によれば、次のよう
な効果が得られる。 1.計算速度が劇的に向上し、大規模な生命システムの
計算が可能となった。 2.化学反応式の追加、修正が簡単に行える。 3.動力学パラメータの値が時間依存する場合でも、こ
れに対応できる。 4.並列処理計算機への移植が容易である。 5.ユーザーがプログラムを共有することによって、各
自のシステムをもちより、統一することができる。
【0023】図1は、この発明の実施の形態に係る生命
システムシミュレータの機能ブロック図を示す。入力部
1は、外部から処理すべき式を受け入れて式分解部2に
送る。式分解部2は、与えられた式を結合相(例えば、
化学反応式(1)の左辺)と反応相(例えば、化学反応
式(1)の右辺)に分解するとともに、それぞれを連立
方程式用数式変換部3と微分方程式用数式変換部4に送
る。連立方程式用数式変換部3は、与えられた式を、例
えば、Newton-Raphson法を用いて解くことができるよう
に数式変換を行う。微分方程式用数式変換部4は、与え
られた式を、例えば、Runge-Kutta法を用いて解くこと
ができるように数式変換を行う。シミュレーション実行
部5は、連立方程式用数式変換部3及び微分方程式用数
式変換部4から変換後の数式を受けてシミュレーション
を実行する。出力部6はシミュレーション結果を出力す
る。
【0024】酵素反応においては、生成物の生成速度
は、酵素(E)と基質(S)が結合し複合体(E:S)を形
成する速度(結合速度)k1、その複合体が解離して、酵
素と基質に解離する速度(解離速度)k-1、複合体が反
応して、生成物(P)を遊離する反応速度k2を含む時間
微分方程式で記述される。
【0025】従来の方法では、Vmax(= k2 [EO])(EO
は遊離、複合体の状態を含む全酵素濃度)とKm (= (k
-1 + k2) / k1 )を用いてMichaelis-Menten 式によっ
て酵素反応を記述することが通常であった。この場合、
複合体濃度は定常状態であること、[E]≪[S]であること
が仮定され、Michaelis-Menten 式では複合体の濃度に
ついての情報は記述に表れない。しかしながら、生命シ
ステムの反応においては、反応速度が遅いので、タンパ
ク―タンパクの活性複合体が生成される時間は十分にあ
り、その複合体濃度は無視できるものではい。また、複
合体同士を介した相互作用の連鎖はたいへん長い。よっ
て、Michaelis-Menten 式および、その修飾型の式では
大規模かつ複雑な生命分子間の相互作用を記述すること
は困難であった。正確に言えば、少数の競争反応などを
含む小規模な相互作用の反応はMichaelis-Menten 式を
修飾することによって記述できるが、大規模で相互作用
の連鎖の長い反応系を記述することはできなかった。
【0026】一方、k1、k-1、k2のすべての速度定数を
用いれば、生命システムの正確な記述が行えるが、計算
速度に関わる問題があった。細胞においては、タンパク
など比較的モル濃度が小さいものとATPのようにモル濃
度の高い分子が共存し、その濃度差は108以上になる。
また、速度定数の差も同様に1010以上になっている。こ
のように濃度、速度定数の差が非常に大きい場合、これ
らを時間微分方程式で計算するとき、時間刻み幅を非常
に小さくしなければならない。現在のスーパーコンピュ
ータを要しても計算時間は膨大なものとなり、実際上計
算は不可能であった。
【0027】これに対してこの発明の実施の形態に係る
システム/方法によれば、化学反応式を結合相と反応相
に分けて処理することにより、微分方程式の時間刻みを
大きくとることができる。これは、きわめて速度定数の
差の大きい基質、酵素の結合反応に関わる結合速度パラ
メータk1と解離速度パラメータk-1を結合定数(Kb =k1
/ k-1)としてまとめてしまう方法である。その結果,
分子間の相互作用による分子同士の結合状態を微分方程
式ではなく、連立方程式として解くことができる。分子
同士の複合体形成に関わる段階を高速に計算することが
可能になる。
【0028】図2は、この発明の実施の形態に係るシス
テム/方法の処理のフローチャートである。まず、化学
反応式を入力し(S1)、連立方程式の系と微分方程式
の系に分けて、それぞれ数式変換を行う。そして、変数
動力学パラメータの名前を付ける(S2)。全ての変
数、動力学パラメータをプログラムで使いやすいように
配列変数に変換する(S3)。連立方程式はNewton-Rap
hson法、微分方程式はRunge-Kutta法などで解けるよう
に数式変換する(S4)。そして、変換された数式をコ
ンパイルしてシミュレーションを実行する(S5)。多
変数連立方程式の解が必ず求められことを示す方法を記
す。遺伝的アルゴリズムを用いて、複数のパラメータの
値を調節する。
【0029】多変数連立方程式の解が必ず求められるこ
とを示す方法について簡単に説明を加える。結合相にお
いては基質、酵素のモル濃度、結合定数から記述される
連立方程式となる。対象の生命システムの規模によって
異なるが、式数は百、千以上の膨大なものになることが
予想される。よって、このような連立方程式の解を求め
る方法が必要である。
【0030】結合相の連立方程式は、結合定数(Kb)を
結合速度(k1)、解離速度(k-1)に分解することによって
速度パラメータ法による微分方程式に書きなおすことが
できる。この場合、微分方程式の定常解が連立方程式の
解となる。このとき、微分方程式の計算時間が膨大なも
のにならないように、結合定数として本来値より小さい
ものを与えれば、k1とk-1の差は小さくなるので、時間
刻みを大きくとることができる。定常解が与えられたな
らば、その値を初期値とし、結合定数の値を少しずつ本
来の目標値に近づけながら、連立方程式を繰り返し解く
ことによって、目的の連立方程式の解を求めることがで
きる。
【0031】遺伝的アルゴリズムを用いて、複数のパラ
メータの値を調節する点について簡単に説明を加える。
生命システムに含まれるすべての分子のモル濃度は、速
度定数(転写速度、翻訳速度を含む)、結合定数によっ
て計算される。生命システムの目的が達成されるような
速度定数、結合定数パラメータをチューニングすること
が必要である。そのチューニング方法として遺伝的アル
ゴリズムを用いる。パラメータセット(クロモゾームと
呼ぶ)を複数用意し、それらのパラメータセットの中か
ら目的に近いもの、すなわち適応度の高いものを選択す
る。選択されたもの同士のランダムな交叉、あるいは、
ランダムに選んだパラメータの値の突然変異を行って、
より適応度の高いパラメータセットを探索する。
【0032】図3は、図2のフローチャートの一部をさ
らに詳しく説明するためのフローチャートである。図3
は化学反応式(1)を数学式へ変換する手順を示す。ま
ず、化学反応式(1)を結合相と反応相に分解する(S
10)。生命システムにおいては、分子同士の結合によ
る複合体の形成、その複合体の反応による物質の変換が
絶えず進行している。結合反応速度に関わる解離速度k
-1が物質の変換をともなう反応速度k2に較べて、非常に
速いと仮定すると、結合相による複合体の形成とその複
合体の反応による物質変換の部分を分割することができ
る。結合反応においては物質の変換は伴わないので、分
子の分配と考えることができる。よって時間を含まない
連立方程式系で解法することができる。反応相は、結合
相で生じた酵素基質複合体が反応を行い、生成物を遊離
する反応、Michaelis-Menten型の式で記述される反応、
転写翻訳反応式からなっている。これらは通常の時間微
分方程式で記述が可能なものである。
【0033】結合相について次の処理を行う(S1
1)。 1.結合定数Kbを用いて式を記述する。結合定数の名前
をKb(A+B A:B)のように付ける。 2.結合相の記述に現れるこれ以上分割できない要素に
対する物質収支の式を生成させる。 反応相について次の処理を行う(S12)。化学反応式
(1)の右側部分の反応速度式を生成するとともに、パ
ラメータの名前を付ける。結合相と反応相を分割整理す
る(S13)。結合相は連立方程式系に、反応相は微分
方程式系に変換する。パラメータ名は自動的に命名さ
れ、その反応の種類に応じて分類整理する(S14)。
【0034】図4は、図2のフローチャートの一部をさ
らに詳しく説明するためのフローチャートである。図4
は化学反応式(1)を数学式へ変換する、図3とは別の
手順を示す。化学反応式(1)をMichelis-Meten式の形
の微分方程式に展開する(S20)。
【0035】S20の処理について、さらに詳しく説明
を加える。例えば有機酸、アミノ酸などの代謝に関わる
酵素反応において、酵素(E)と基質(S)のモル濃度差
が大きい、すなわち、[E]≪[S]、の場合、酵素反応式
(1)を結合相と反応相に分割することなく、従来型の
Michaelis-Menten式に展開、反応相に割り当てることが
可能である。また、その方が計算上有利である。なぜな
ら、結合相を支配する連立方程式は極端にモル濃度差が
ある分子の相互作用を正確に計算することは得意ではな
いからである。この方法は結合相における物質収支に関
わる連立方程式から、酵素に較べモル濃度の高い基質に
関わる収支式を取り除くことを可能にし、連立方程式の
解法を容易にすることができる。
【0036】結合相と反応相を分割整理する(S1
3)。結合相は連立方程式系に、反応相は微分方程式系
に変換する。パラメータ名は自動的に命名され、その反
応の種類に応じて分類整理する(S14)。
【0037】図5は、図2のフローチャートの一部をさ
らに詳しく説明するためのフローチャートである。図5
は化学反応式(1)と(2)を数学式へ変換する手順を
示す。化学反応式(2)から、転写翻訳速度式を生成す
る(S30)。タンパク量の増減に関係する反応を化学
反応式(1)から見つけて式中に加える(S31)。転
写翻訳に関わるパラメータ名を付ける。例えば、タンパ
クpに対する転写速度パラメータの名前をkm(p)のよう
に付ける(S32)。結合相と反応相を分割整理する
(S13)。結合相は連立方程式系に、反応相は微分方
程式系に変換する。パラメータ名は自動的に命名され、
その反応の種類に応じて分類整理する(S14)。
【0038】分子レベルから生命システムを合成する場
合の問題は、すべての生化学パラメータ(速度定数、結
合定数、物質濃度など)を測定することがきわめて難し
いことである。細胞内外の条件の変化により、パラメー
タの値は時々刻々変化するようなパラメータの値を実験
的に求めることは量的、質的に困難な課題である。生命
システム解析において大切なことは生命システムの詳細
を記述することではなく、生命システムの設計原理とよ
べるようなものを抽出することである。生命の詳細にと
らわれている限り、このような根本的な問題解決になら
ない。生命の分子レベルの信号伝達経路を抽象的なアル
ゴリズムというレベルで考え、人工物のアルゴリズムと
比較することによって、生命システムの設計原理が現れ
てくると考えられる。本発明は化学反応式からなる信号
伝達回路のアルゴリズムを動的プロセスに忠実に変換す
る方法である。
【0039】将来的には、設計原理仮説は生物学的実験
で検証することが求められる。コンピュータによるシス
テム予測と実験による検証というシステム生物学という
ような新しい方法論を提供することが可能になる。
【0040】本発明は、以上の実施の形態に限定される
ことなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内
で、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内
に包含されるものであることは言うまでもない。
【0041】また、本明細書において、手段とは必ずし
も物理的手段を意味するものではなく、各手段の機能
が、ソフトウェアによって実現される場合も包含する。
さらに、一つの手段の機能が、二つ以上の物理的手段に
より実現されても、若しくは、二つ以上の手段の機能
が、一つの物理的手段により実現されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明の実施の形態に係る生命システムシ
ミュレータの機能ブロック図を示す。
【図2】 この発明の実施の形態に係るシステム/方法
の処理のフローチャートである。
【図3】 図2のフローチャートの一部をさらに詳しく
説明するためのフローチャートである。
【図4】 図2のフローチャートの一部をさらに詳しく
説明するためのフローチャートである。
【図5】 図2のフローチャートの一部をさらに詳しく
説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】 1 入力部 2 式分解部 3 連立方程式用数式変換部 4 微分方程式用数式変換部 5 シミュレーション実行部 6 出力部
【手続補正2】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】全図
【補正方法】変更
【補正内容】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考) C12N 15/09 G06N 3/00 550C G06N 3/00 550 C12N 15/00 A

Claims (6)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 酵素反応を表す式を、酵素(E)と基質
    (S)が結合して複合体(ES)が生じる結合相と、前
    記複合体(ES)から生成物(P)が遊離する反応相と
    に分割するステップと、 前記結合相に連立方程式用の数式変換処理を適用するス
    テップと、 前記反応相に微分方程式用の数式変換処理を適用するス
    テップと、 変換された数式に基づき前記結合相のシミュレーション
    を行うステップと、 変換された数式に基づき前記反応相のシミュレーション
    を行うステップと、を備える生命システムシミュレーシ
    ョン方法。
  2. 【請求項2】 前記結合相に連立方程式用の数式変換処
    理を適用するステップにおいて、 結合定数Kbを用いて式を記述するステップと、 前記結合相の記述に現れるこれ以上分割できない要素に
    対する物質収支の式を生成させるステップとを備えるこ
    とを特徴とする請求項1記載の生命システムシミュレー
    ション方法。
  3. 【請求項3】 前記反応相に微分方程式用の数式変換処
    理を適用するステップにおいて、 前記反応相を時間微分方程式に展開するステップを備え
    ることを特徴とする請求項1記載の生命システムシミュ
    レーション方法。
  4. 【請求項4】 さらに、遺伝子の情報がmRNAに転写
    され、これが翻訳されてタンパク質が形成される過程を
    示す式から、転写翻訳速度式を生成するステップと、 タンパク量の増減に関する反応を、前記酵素反応を分割
    して得られた結合相中の式から抽出して前記転写翻訳速
    度式に加えるステップと、 前記転写翻訳速度式を反応相に割り当てるステップと、
    を備えることを特徴とする請求項1記載の生命システム
    シミュレーション方法。
  5. 【請求項5】 酵素反応を表す式を受ける入力部と、 前記酵素反応を表す式を、酵素(E)と基質(S)が結
    合して複合体(E:S)が生じる結合相と、前記複合体
    (E:S)から生成物(P)が遊離する反応相とに分割
    する式分解部と、 前記結合相に連立方程式用の数式変換処理を適用する連
    立方程式用数式変換部と、 前記反応相に微分方程式用の数式変換処理を適用する微
    分方程式用数式変換部と、 変換された数式に基づき前記結合相及び前記反応相のシ
    ミュレーションを行うシミュレーション実行部と、 シミュレーション結果を出力する出力部と、を備える生
    命システムシミュレータ。
  6. 【請求項6】 生命システムシミュレーションを行うた
    めのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な
    記録媒体であって、 酵素反応を表す式を、酵素(E)と基質(S)が結合し
    て複合体(E:S)が生じる結合相と、前記複合体(E:
    S)から生成物(P)が遊離する反応相とに分割するス
    テップと、 前記結合相に連立方程式用の数式変換処理を適用するス
    テップと、 前記反応相に微分方程式用の数式変換処理を適用するス
    テップと、 変換された数式に基づき前記結合相のシミュレーション
    を行うステップと、 変換された数式に基づき前記反応相のシミュレーション
    を行うステップと、を備える生命システムシミュレーシ
    ョン方法をコンピュータに実行させるためのプログラム
    を記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
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US20020022947A1 (en) 2002-02-21

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