JP2001131093A - 絶対不斉合成方法 - Google Patents

絶対不斉合成方法

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JP2001131093A JP2000071244A JP2000071244A JP2001131093A JP 2001131093 A JP2001131093 A JP 2001131093A JP 2000071244 A JP2000071244 A JP 2000071244A JP 2000071244 A JP2000071244 A JP 2000071244A JP 2001131093 A JP2001131093 A JP 2001131093A
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Hideo Nishino
英雄 西野
Asao Nakamura
朝夫 中村
Yoshihisa Inoue
佳久 井上
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 出発物質と生成物質の双方でのエナンチオマ
ー等の一方の濃縮を可能とする、円偏光の照射による新
しい絶対不斉合成法を提供する。 【解決手段】 光化学的に可逆な反応系であって、出発
物質がエナンチオマーどうしまたはジアステレオマーど
うしの混合物であり、光化学的もしくは熱的にエナンチ
オマーどうしまたはジアステレオマーどうしの相互変換
を生じない反応系とし、r −もしくはl−円偏光を照射
することにより、出発物質のみ、または出発物質と生成
物質の双方が励起され、出発物質のうちのエナンチオマ
ーの一方またはジアステレオマーの一方が濃縮され、生
成物質では、出発物質のうちで濃縮されない他方に対応
するエナンチオマーの一方またはジアステレオマーの一
方が濃縮されるようにする。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本願発明は、絶対不斉合成方
法に関するものである。さらに詳しくは、本願発明は、
化学的もしくは熱的にエナンチオマーどうし、またはジ
アステレオーマーどうしの相互交換を生じない反応系に
おいて出発物質と生成物質の双方におけるエナンチオマ
ー等の一方の濃縮を行うことを可能とする新しい絶対不
斉合成方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術とその課題】不斉合成は、医薬品や農薬、
香料、化粧料およびそれらの合成中間体等の各種の光学
活性な化学物質を提供する手段として重要な役割を担っ
てきている。また、19世紀後半にr−もしくはl−円
偏光(r−CPLもしくはl−CPL)の有用性がvan'
t Hoffによって確認されて以来、円偏光(CPL)を使
って光学的に活性な化学物質を得る様々な試みがなされ
てきている。
【0003】このようなCPLを使って光学的に活性な
物質を得ることは一種の「絶対不斉合成(AAS)」で
ある。つまり、不斉の誘導を、r−もしくはl−CPL
の照射によって、エナンチオマーの一方をより優先的に
励起することで実現しようとするものである。この場合
の選択励起の程度はg値としても知られている異方性因
子によって決まると考えられている。異方性因子のg値
は、任意の波長でのr−もしくはl−CPLに対する光
学異性体間のモル吸光係数の差としてKuhnにより次のよ
うに定義されたものである。
【0004】 g=(εl −εr )/ε=Δε/ε (1) このとき ε=(εl +εr )/2、そして0≦g<2
である(Trans.Faraday.Soc. 1930, 293-309; Z.Phys.
Chem. B. Abt. 1930, 7, 292-310)。
【0005】絶対不斉合成(AAS)は、三つのカテゴ
リーに分けられる。(a)不斉光分解、(b)光化学的
脱ラセミ化、そして(c)光化学的不斉固定である。
【0006】不斉光分解では、出発物質のそれぞれのエ
ナンチオマーは任意の波長でのr−およびl−CPLに
よる選択的励起の度合いに応じて光化学的に分解され
る。式[1]は、この不斉光分解を示したものである。
【0007】
【化1】
【0008】ここではεr とεl のかわりにεR とεS
が使われており、これらはそれぞれのエナンチオマーの
r−あるいはl−CPLに対するモル吸光係数である。
ここでr−あるいはl−CPLによって少ししか励起さ
れない方のエナンチオマーは残り、出発物質中の光学純
度を増加させ、他方のエナンチオマーは分解される。こ
のタイプの絶対不斉合成においては、光化学的プロセス
は不可逆である。このような不斉光分解に関してはこれ
までにも多くの報告があり、典型的な例は樟脳(Z.Phy
s.Chem., Abt. B, 1930, 292-310)とトランス−ビシク
ロ〔4,3,2〕ノナン−8−オン(J.Chem.Soc.,Chem.
Commun. 1978, 983-4.) の光分解である。
【0009】また、光化学的脱ラセミ化のプロセスで
は、式〔2〕に示すように、エナンチオマーの合計濃度
は光反応によって変化しないが、エナンチオマーの一方
が他方に比べてより優先的に励起されることによって、
光化学的平衡のシフトが起こり、光照射を止めた時点
で、その時点でのエナンチオマー比が固定される。しか
しながら、光化学的脱ラセミ化についての報告は、いく
つかの無機化合物に対するもの(Mol.Photochem. 1969,
1, 271; Chem.Commun. 1996, 2627-2628) を除いてわず
かであって、光化学的脱ラセミ化のみを受ける有機化合
物はほとんど報告されていない。実際、常に副反応が生
じるようである。
【0010】
【化2】
【0011】さらに、不斉固定の光化学的プロセスは不
斉分解に非常によく似ている。ここでは、出発物質の熱
的ラセミ化が起こり、そしてエナンチオマー選択的な光
反応が、式[3]に示されるように、r−あるいはl−
CPLにより誘導され、その後光学的に活性な生成物が
得られる。生成物質のR/S比はモル吸光係数の比、ε
R /εS に等しい。このような光化学的不斉固定の例は
少ないが、ジヒドロヘリセンを経由してヘキサヘリセン
への1−(2−ベンゾ〔c〕フェナントリル)−2−フ
ェニルエチレンの酸化的光環化(J.Am.Chem.Soc. 1971,
93, 2353; J.Am.Chem.Soc. 1973, 95, 527-32)は、この
種の光化学的不斉固定といえる。
【0012】
【化3】
【0013】なお、最近G.B.Schuster等による提案され
た、1,1′−ビナフチルピランの可逆的な絶対不斉合
成法は、光化学的脱ラセミ化のバリエーションである
(J.Am.Chem.Soc. 1998, 120, 12619-12625) 。
【0014】以上のように、円偏光を用いた従来の絶対
不斉合成法は、主に円偏光の照射による優先的分解やエ
ナンチオマー比のシフトを利用して、出発物質のエナン
チオマーの一方を他方より過剰に得るための方法であっ
た。
【0015】そこで、本願発明は、以上の通りの事情に
鑑みてなされたものであり、従来顧みられることのなか
った反応生成物質に着目し、光化学的にもしくは熱的に
エナンチオマーどうしまたはジアステレオーマー(一つ
の不斉炭素に着目してR体とS体を考える)の相互変換
が生じない反応系において、出発物質と生成物質の双方
におけるエナンチオマー等の一方の濃縮を可能とする新
しい絶対不斉合成方法を提供することを課題としてい
る。
【0016】
【課題を解決するための手段】本願発明は、上記の課題
を解決するものとして、以下の通りの発明を提供する。
すなわち、まず第1には光化学的に可逆な反応系であっ
て、出発物質がエナンチオマーどうしまたはジアステレ
オーマーどうしの混合物であり、光化学的もしくは熱的
にジアステレオーマーどうしまたはジアステレオーマー
どうしの相互変換を生じない反応系とし、r −もしくは
l−円偏光を照射することにより、出発物質のみ、また
は出発物質と生成物質の双方が励起され、出発物質のう
ちのエナンチオマー一方またはまたはジアステレオマー
の一方が濃縮され、生成物質では、出発物質のうちで濃
縮されない他方に対応するエナンチオマーの一方または
ジアステレオマーの一方が濃縮されるようにすることを
特徴とする絶対不斉合成方法を提供する。
【0017】また、本願発明は、第2には、前記方法に
おいて、出発物質と生成物質がエナンチオマーどうしの
混合物であって、出発物質のみが励起される場合におい
て、出発物質と生成物質のエナンチオマーの一方の濃縮
を出発物質のr−およびl−円偏光それぞれに対する選
択励起の度合いを示す異方性因子gの値によって制御し
て行うことを特徴とする絶対不斉合成方法を提供する。
さらに本願発明は、第3には、前記方法において、出発
物質と生成物質のエナンチオマーどうしの混合物であっ
て、出発物質と生成物質の双方が励起される場合におい
て、出発物質と生成物質のエナンチオマーの一方の濃縮
が、出発物質と生成物質双方のr−およびl−円偏光そ
れぞれに対する選択励起の度合いを示す異方性因子gの
値またはgの符号、もしくは反応の光化学的平衡状態を
示すK値のうちの1種または2種以上を制御して行うこ
とを特徴とする絶対不斉合成方法を提供する。
【0018】
【発明の実施の形態】本願発明は、上記のとおりの特徴
を有するものであるが、以下にその実施の形態について
説明する。
【0019】本願の第1の発明の絶対不斉合成方法にお
いては、光化学的に可逆な反応系であって、出発物質が
エナンチオマーどうしまたはジアステレオマーどうしの
混合物であり、光化学的もしくは熱的にエナンチオマー
どうしまたはジアステレオマーどうしの相互変換を生じ
ない反応系とし、r−もしくはl−円偏光を照射し、出
発物質のみ、または出発物質と生成物質の双方を励起す
ることで、出発物質と生成物質の双方において、エナン
チオマーまたはジアステレオーマーの一方の濃縮(出発
物質および/または生成物質として、エナンチオマーま
たはジアステレオーマーの一方の濃縮が既に行われてい
るものを使用する場合にはさらなる濃縮)を可能とす
る。ここで、光化学的に可逆な反応系は、同種で同じ波
長の光を照射した場合において可逆的である反応、並び
に異種の光もしくは同種で異る波長の光を照射した場合
において可逆的である反応を含むものである。
【0020】また、前記のエナンチオマーどうしの混合
物には等量混合物であるラセミ体も含まれる。ジアステ
レオマーの場合には、不斉中心どうしの相互作用がない
場合など、分子構造の一つの不斉炭素に着目してR体と
S体を考えることができ、この点において、本願発明の
対象物質となる。
【0021】そして、光学的に可逆な反応系としては次
の式[4]の二つのクラスに区分することができる。
【0022】
【化4】
【0023】クラス(A)では、出発物質は円偏光、す
なわちCPLで励起されるが、生成物は励起されない。
クラス(B)では、出発物質と生成物質の双方が励起さ
れることになる。
【0024】本願発明における出発物質−生成物質の反
応系の代表的なものを例示すると、ノルボナジェン誘導
体−クワドリシクラン誘導体の反応系が挙げられる。
【0025】しかしながら、本願発明の絶対不斉合成法
においては、出発物質および生成物質の種類は特に限定
されることはない。
【0026】ノルボルナジエンとクワドリシクランはク
ワドリシクランに対するノルボルナジエンの光異性化は
太陽エネルギー貯蔵システムとして応用できると考えら
れ、すでに詳細な研究が進められているものである。ク
ワドリシクランは熱的に安定な化合物で、構造的には、
高度に歪んだシクロブタンの誘導体であると考えられ、
光励起されたノルボルナジエンの〔2+2〕分子内環化
付加を経由して光化学的に合成することが可能である。
また、クワドリシクランの光反応あるいは熱反応により
ノルボルナジエンを生成させる逆反応もまた可能であ
る。
【0027】一方非対称な置換基の導入によりキラルと
なったノルボルナジエン誘導体とクワドリシクラン誘導
体の光異性化は、光化学的もしくは熱的にエナンチオマ
ーどうし又はジアステレオーマーどうしの相互交換が生
じない反応系であり、円偏光(CPL)照射による出発
物質と生成物質の双方におけるエナンチオマー等の一方
の濃縮を行うことを可能とする本願発明の絶対不斉合成
法の一例として示すことができる。
【0028】興味深いことに、ノルボルナジエンとクワ
ドリシクランの骨格がプロキラルであることは、これま
でほとんど知られていないのが実状である。ノルボルナ
ジエン誘導体のキラル光学特性については、これまでに
数例報告されているのみで、この出願の発明者らが知る
限り、キラルなクワドリシクラン誘導体の光学的な特性
はこれまでに報告されていない。加えて、キラルなノル
ボルナジエンとクワドリシクランの光化学的変換に関す
る系統的な検討は行われておらず、光環化における立体
化学的影響はまだ明らかになっていないのである。
【0029】もちろん、本願発明は、ノルボルナジエン
誘導体−クワドリシクラン誘導体の系に何ら限定される
こものでない。
【0030】各種の出発物質−生成物質の反応系におい
て、前記のとおり、出発物質と生成物質との双方におけ
るエナンチオマー等の一方の濃縮を可能としている。
【0031】つまり、本願発明では、前記式〔4〕のク
ラス(A)およびクラス(B)について、出発物質と生
成物質のエナンチオマーの一方の濃縮をより効果的に高
度に制御して行うことを可能としてもいる。
【0032】以下、このクラス(A)および(B)につ
き順次説明する。クラス(A) クラス(A)では、本願の第2の発明のとおり、出発物
質と生成物質がエナンチオマーどうしの混合物であっ
て、出発物質のみが励起される場合において、出発物質
と生成物質のエナンチオマーの一方の濃縮が、出発物質
のr−およびl−円偏光それぞれに対する選択励起の度
合いを示す異方性因子であるg値の制御により行われ
る。そしてこの際のg値の制御は、以下に記載するとお
りのKaganの式等の適用により行われる。
【0033】クラス(A)の場合として、次式[5]の
ノルボルナジエン誘導体とクワドリシクラン誘導体の反
応系を例示することができる。
【0034】
【化5】
【0035】この反応系では、メチルビシクロ〔2.
2.1〕ヘプタ−2,5−ジエン−2−カルボキシレー
ト(HN)のCPL(290nm)照射によって一方向
の光環化反応が起こり、メチルテトラシクロ〔3.2.
2,7 .04,6 〕ヘプタン−1−カルボキシレート(H
Q)が生成する。
【0036】理論的には、出発物質の光学純度:%opと
転化率:%conversionの関係は、次式(2)で表され
る。
【0037】
【数1】
【0038】このとき、xは転化率:%conversionを、
yは出発物質の光学純度:%opまたは%eeを、また、g
は出発物質の異方性因子を表す。この式は、Kagan によ
って不斉光分解プロセスの解析のために提示されたもの
(Tetrahedron Lett. 1971, 2479-82) であるが、本願発
明の絶体不斉合成法のクラス(A)の出発物質において
適用されるものである。
【0039】一方、生成物質の光学純度(y′):%op
または%eeと前記の転化率(x):% conversion と
の関係については、次式(3)、(4)で表される。
R’およびS’は、出発物質のエナンチオマーRおよび
Sそれぞれから得られる生成物質を示す。
【0040】
【数2】
【0041】図1(a)は、前記式(2)から任意のg
値を用いて計算した出発物質の光学純度(y):%opと
転化率(x):% conversion の関係を示した図であ
る。
【0042】これより、g=0の場合、つまり、r−お
よびl−円偏光それぞれに対しての選択励起が認められ
ない場合を除いては、あらゆるg値において、出発物質
の光学純度(y):%opが反応の最終段階で、100%
に近づくことが示される。したがって、HNをr−また
はl−CPL(290nm)で照射した場合には、反応
終点直前には100%に近い光学純度の(+)−および
(−)−HNがそれぞれ得られる。
【0043】一方、図1(b)には、様々なg値につい
て式(2)(3)(4)より求めたパラメータを用いて
得た生成物の光学純度(y′)%opと転化率(x)%の
関係が示される。図1(b)より、生成物の光学純度:
%opは、反応初期では、ほぼ(g/2)×100%とな
ることがわかる。
【0044】以上のことから、例えば、g値が1の場合
では、転化率が約50%において、出発物質と生成物質
の光学純度:%opは、各々、40%を超える結果となる
ことがわかる。
【0045】そこで、本願の第2の発明では、前記のよ
うな反応系を、g値の制御によって構成することにより
絶対不斉合成が実現されることになる。もちろん、その
際には、光学的に可逆な反応系(前記クラス(A))を
構成するための光の種類と波長が選択されることにな
る。クラス(B) クラス(B)では、本願の第3の発明のように、出発物
質と生成物質がエナンチオマーどうしの混合物であっ
て、出発物質と生成物質の双方が励起され、出発物質と
生成物質のエナンチオマーの一方の濃縮が、出発物質と
生成物質双方のg値の大きさまたはその符号もしくは反
応の光化学的平衡状態を表すK値のうちの1種または2
種以上を制御して行うことになる。出発物質と生成物質
は、光化学的に可逆であり、正逆両反応を光によって行
うことが可能である。反応式[6]は、メチルビシクロ
〔2.2.1〕ヘプタ−2,5−ジエン−2−カルボキ
シレート(HN)のCPL(245nm)照射によって
光環化反応が起こり、メチルテトラシクロ〔3.2.0
2,7 .04,6 〕ヘプタン−1−カルボキシレート(H
Q)が生成する可逆的な反応を例示したものである。
【0046】
【化6】
【0047】この系の光化学反応の速度式は、次の式
(6)で表される。
【0048】
【数3】
【0049】ここで、Cは反応成分の濃度であり、Iex
は吸収光の強度(I0 −I)、Absは試料の吸光度、
εは、試料のモル吸光係数、φは反応による収量、tは
反応時間を表している。Abs>1ならば、上記の式
(6)は、式(7)のようにまとめられる。
【0050】
【数4】
【0051】また、Absが反応中において、ほぼ一定
ならば、前記C以外の因子はすべてtに依存しなくなる
ため式(8)となる。
【0052】
【数5】
【0053】そして、上記の反応式[6]において、H
Qのエナンチオマー(HQR とHQ S )がCPL照射に
よって、HN(HNR とHNS )にそれぞれ変換される
ことから、上記式(6)、(7)におけるAbsは、 Abs=d(εQRQR+εQSQS+εNRNR+εNSNS) (9) として表される。ここで、dは、光路長、Cは各成分の
濃度である。質量保存則から考えれば、それぞれのCの
関係は、 C0 =CQ +CN =CQR+CQS+CNR+CNS (10) そして、 C0 /2=CQR+CNR=CQS+CNS (11) となる。RおよびS異性体のεがほぼ等しい場合(つま
り、g値が小さいとき) Abs=d{εN 0 +(εQ −εN )CQ } (12) となる。このとき、 εQ =1/2(εQR+εQS)およびεN =1/2(εNR+εNS)(13) である。一方、前記反応式[6]におけるHQR および
HQS 各々の速度式は、
【0054】
【数6】
【0055】となる。そこで、HQおよびHNの光学純
度:%opおよび転化率:xを次のように定義する。
【0056】
【数7】
【0057】
【数8】
【0058】HQのl−CPL照射によるR異性体(Q
R)のモル吸光係数は、HQにr−CPLを照射して得
られるS異性体(QS)のモル吸光係数と等しいので、
Qは以下のように書き換えられる。
【0059】
【数9】
【0060】式(14)で表される反応の進行につい
て、gQ 、gN 、K、L、Mなどのパラメーターを用い
ることにより、
【0061】
【数10】
【0062】の関係が得られる。
【0063】ただしここで、K、L、Mは以下のように
定義される。
【0064】
【数11】
【0065】
【数12】
【0066】以上より、HQおよびHNの光学純度:%
op、および転化率xは、それぞれ、以下のように表され
る。
【0067】
【数13】
【0068】
【数14】
【0069】以上のことから、クラス(B)の反応で
は、 ・出発物質と生成物質のg値 ・出発物質と生成物質のg値の符号 ・出発物質と生成物質の間の光化学的平衡状態(K) によって、出発物質と生成物質の光学純度:%opや転化
率:xの制御が可能な絶対不斉合成が実現されることが
わかる。
【0070】図2は、g値とその符号の光学純度:%op
との関係を例示したものである。
【0071】前記式(24)、(25)、(26)か
ら、様々なgQ およびgN 値におけるHQおよびHNの
光学純度:%opを求め、これを図2に示している。次の
(I)および(II)の2つのケースについて示してい
る。
【0072】(I)gQ ・gN >0;(gQ =1.0、
N =1.0:実線)又は、(gQ =−1.0、gN
−1.0:破線)、K=0.072 (II)gQ ・gN <0;(gQ =1.0、gN =−
1.0:破線)又は、(gQ =−1.0、gN =1.
0:実線)、K=0.072 また、式(18)より、ケース(I)は、kR >kS
よびk-R>k-S、ケース(II)は、kR >kS および
-R<k-Sを示している。
【0073】図2(a)に見られるように、ケース
(I)の場合は、出発物質(HQ)の光学純度:%opは
転換の開始時から徐々に上昇し、反応の途中で低下して
いく。そして、光定常状態(pss)において、ゼロに
到達する。ケース(II)の場合は、出発物質(HQ)
の光学純度:%opは、転化率とともに増大し、光定常状
態(pss)において最大となる。
【0074】一方、図2(b)からは、ケース(I)の
場合、反応開始時から、生成物質(HN)の光学純度:
%opは減少し、光定常状態(pss)においてゼロとな
ることが示される。ケース(II)の場合には、生成物
質(HN)の光学純度:%opは、反応の進行とともに増
加し、(pss)において最大となる。
【0075】したがって、ケース(II)では、出発物
質(HQ)の光学純度:%opと生成物質(HN)の光学
純度:%opが反応の進行とともに増大する。つまり、一
般的には、g値の符号が出発物質と生成物質で反対のと
き、出発物質と生成物質の光学純度:%opは、増大する
ことが示される。
【0076】このように、本願発明の絶対不斉合成にお
いては、CPL照射波長での出発物質のg値の符号が生
成物質のそれと同じであるか否かが、出発物質および生
成物質の光学純度:%opと転化率との間の関係に著しい
影響を及ぼす。
【0077】また、図3は光学純度:%opとK値の関係
を例示したものである。
【0078】式(24)、(25)、(26)を基に、
Q ・gN <0、gQ =−1.0、gN =1.0のケー
スと、gQ =1.0、gN =−1.0のケースについて
得た結果である。
【0079】出発物質の光学純度:%op(HQ)は反応
の進行とともに増加することが示される。特に、Kの値
が小さいほど光学純度:%opの増加が急激である。
【0080】生成物質の光学純度:%op(HN)は、K
が1よりも小さければ、増加し、Kが大きくなるほど徐
々に減少することを示している。Kが∞の場合、生成物
質の光学純度:%opは反応の終わりで0%opとなる。こ
のように、関係は不可逆な反応における場合と同じ挙動
を示す。
【0081】以上のことからは、Kが1より小さけれ
ば、生成物質の光学純度は転化率の増加とともに上昇
し、クラス(A)の場合には、前記のように反応初期に
得られた値、すなわち、(g/2)×100%を超えら
れないが、クラス(B)の反応の場合はこれをはるかに
超える値となることがわかる。
【0082】以上説明したとおり、本願の第1の発明に
おいては、出発物質と生成物質の双方において、エナン
チオマーまたはジアステレオマーの一方の濃縮(出発物
質および/または生成物質として、エナンチオマーまた
はジアステレオマーの一方の濃縮が既に行われているも
のを使用する場合には更なる濃縮)が可能とされる。そ
して第2の発明では、前記クラス(A)の反応系とし
て、出発物質のg値によって、出発物質と生成物質のエ
ナンチオマーの一方の濃縮が制御されることになり、ま
た、第3の発明では、前記クラス(B)の反応系とし
て、出発物質と生成物質のエナンチオマーの一方の濃縮
が、出発物質と生成物質双方のg値の大きさ、その符号
および反応の光化学的平衡状態を表すK値のうちの1種
または2種以上を制御して行うことが可能とされる。
【0083】そこで以下に実施例を示し、さらに詳しく
本願発明について説明する。
【0084】
【実施例】(実施例1)次式で表わされるメチル・ビシ
クロ〔2.2.1〕ヘプタ−2,5−ジエン−2−カル
ボキシレート(HN)とメチル・テトラシクロ〔3.
2.0.02,7 .04,6 〕ヘプタン−1−カルボキシレ
ート(HQ)との反応系で絶対不斉合成を行った。
【0085】
【化7】
【0086】<1>HNおよびHQの光学特性 HNおよびHQについて、各々のUVスペクトルおよび
CDスペクトル(CH 3 CN中)測定し、その結果を、
これらのスペクトルから導き出されるg値とともに図4
に示した。
【0087】なお、比旋光度(CH3 CN中)は、 (−)−HN:〔α〕20 D =−41.5(c=0.06
24) (+)−HQ:〔α〕20 D =322(c=0.0037
5) であった。
【0088】HNのモデル化合物と見なされるノルボル
ナジエンやメチルアクリレートは約250nm以上の領
域に吸収帯を持たないが、図4(a)から明らかなよう
に、(±)−HNのUVスペクトルは、229.5と2
65nm付近に二つの吸収の極大を示す。また、図4
(c)のように、(+)および(−)−HNは200〜
340nmにわたってCDスペクトルを示す。図4
(e)からは、(+)および(−)−HNに対する異方
性因子g値もまたこの領域に二つの極大を示すことがわ
かる。
【0089】以上より、この領域の広い吸収が二つのバ
ンドから成り立っていることがわかる。
【0090】逆に、図4(b)のように、(±)−HQ
のUVスペクトルは約215nm付近に極大吸収を有
し、約250nmに向かって低下する一つの吸収を示
す。これは、250nmを超えた吸収を示さないメチル
アクリレートの場合と一致する。また、(+)および
(−)−HQのCDスペクトルは図4(d)に示される
ように約215nmに極大を示し、UVおよびCDの吸
収帯は、単一のバンドからなるようにみえる。しかし、
異方性因子g値が217.5と263.5nmに二つの
極大を示すことから、(+)および(−)−HQのUV
およびCDのスペクトルは、実際には二つのバンドから
なることがわかる。
【0091】<2>光環化の効率と立体化学 HNのHQへの光環化の効率と立体化学的側面は、
(−)−HNに対してHQが吸収しない波長の290n
mでの直線偏光(LPL)を照射して評価した。
【0092】図5(a)は、CH3 CN中の(−)−H
N(0.236mMに290nmの光を照射した時のU
Vスペクトルの変化を示した図である。図中には、照射
時間(0分、31分、60分、127分)毎のスペクト
ルと、(+)−HQのスペクトルを示している。(−)
−HNに対する228と256nmの吸収帯は、しだい
に消滅し、HQのUVスペクトルと似た形状の新しい吸
収帯が220nm付近に現れた。この光照射において、
二つの等吸収点が209と218nmに観測された。
【0093】反応混合物はガスクロマトグラフィーでビ
フェニルを内部標準として分析した。UVスペクトルと
ガスクロマトグラフィーから、HNとHQのトータルな
濃度はCPL照射後も保持されること、および副生物が
存在しないことが確認された。
【0094】これらのことから、光環化は定量的に進行
し、副反応は全く起こっていないことがわかった。ま
た、127分照射後のスペクトルはHQのスペクトルと
ほぼ一致していることから、光照射によってHNからH
Qへの一方向の異性化が効率よく進行することが確認で
きた。
【0095】図5(b)は、(−)−HNに290nm
の光を照射した時のCDスペクトルの変化を示してい
る。図中には、照射時間(0分、31分、60分、12
7分)毎のスペクトルと、(+)−HQのスペクトルを
示している。(−)−HNの229と271.5nmの
吸収極大は次第に減少し、新しい吸収極大が215nm
付近に現れた。また、等吸収点が207nmに観測され
た。
【0096】以上のようなUVおよびCDスペクトルの
変化は、生成物質が励起光を吸収できない290nmの
波長で行った場合のものであり、その結果から、副反応
等の影響が生じていないが確認された。また、127分
照射後のスペクトルは同濃度の(+)−HQのスペクト
ルと一致していることから、(−)−HNはラセミ化を
ともなうことなく、(+)−HQへ異性化することが確
認された。
【0097】<3>CPLによる絶対不斉合成 そこで(±)−HNに対し、290nmのCPLを照射
して絶対不斉合成を行った。
【0098】図6は、290nmのr−CPL照射時の
UVスペクトルの時間変化を示したものである。
【0099】270nm付近の吸収帯の強度は弱くな
り、UVスペクトルには、209と218nmに二つの
等吸収点が観測された。同様のUVスペクトルにおける
変化は、HNが290nmのl−CPL、あるいはLP
Lで照射された時にも観測された。
【0100】図7は、290nmでr−あるいはl−C
PLとLPLを照射した際の、(±)−HNに対する照
射時間と転化率の関係を示した図である。図中の白丸は
l−CPL照射の場合を、黒丸はr−CPL照射の場合
を、白三角はLPL照射の場合を示している。プロット
がお互いに重なり合うことから、入射する左右CPLど
うし、LPLの強度は、ほぼ同一であると考えられる。
【0101】図8(a)は、HN(アセトニトリル溶
液)を290nmのl−およびr−CPLで照射した際
の、CDスペクトル変化を示したものである。220お
よび280nm付近に観測される二つのピークが照射中
に時間とともにより強くなっていることがわかる。
【0102】図8(b)は、(±)−HNの照射に対す
るCDスペクトルの計算値を示したものである。これよ
り、(−)−HNが290nmのr−CPLにより選択
的に励起され、(+)−HN濃度が増大することが予想
される。
【0103】光環化が単分子反応であることはよく知ら
れている。したがって、HNの減少は、常にHQの濃度
の増加に等しい。HNの溶液が290nmのr−CPL
で照射された時、CDスペクトルは(+)−HNのCD
スペクトルと(+)−HQのΔεスペクトルの1:1の
混合となる。
【0104】図8(b)に示されたスペクトルはこのこ
とに基づく計算値であり、図8(a)の実験的に得られ
たスペクトルと完全に一致することが確認された。
【0105】図8(a)に示されている280nm付近
のCDの吸収帯は、HNのエナンチオマー濃縮を反映し
ている。280nmでは(±)−HQのΔεは0であ
り、280nmにおける楕円率(θ)の値からHNの光
学純度を求めることができる。220nm付近の吸収帯
は、HQエナンチオマーの濃縮を反映している。特に、
245nmは、(±)−HNのΔεが0であることか
ら、この波長におけるQの値を用いてHQの光学純度を
求めることができる。
【0106】図9(a)は、CDとUVスペクトルの測
定から得られる濃度値より計算したHNの光学純度:%
opと転化率の関係を示したものである。
【0107】図9(b)は、HQの光学純度:%opと転
化率との関係を示したものである。図9(a)(b)に
おいて、黒丸がr−CPL照射の場合を、白丸がl−C
PL照射の場合を示している。
【0108】図9(a)より、HNの光学純度:%opが
転化率に伴って増加することがわかる。
【0109】また、図9(a)(b)の実線は290n
mにおけるg値の観測値(g=0.012)を、Kagan
の式(前記、式(2))に入れて計算した理論値であ
る。そのカーブは実験データとよく一致している。
【0110】したがって、290nmのr−およびl−
CPLで照射された(±)−HNは、結果として(+)
−および(−)−HN濃度ををそれぞれ増大させ、%op
の挙動は前記の式(2)に従うことが確認された。 (実施例2)次式で表わされる光化学反応として絶対不
斉合成を行なった。
【0111】
【化8】
【0112】前出の図4(e)(f)に示されているよ
うに、HQは245nmのCPL照射によりエナンチオ
マー選択的に励起されるが、(+)−および(−)−H
Nのg値は、245nmでゼロであるため、HNの励起
には選択が有効でないことがわかる。
【0113】そこで、波長245nmのCPLのHQへ
の照射について検討する。
【0114】まず、図10は、245nmでl−CPL
により照射されたHQの溶液のUVスペクトル変化の測
定結果を示したものである。245nmでのl−CPL
による光照射により、約270nmでの吸収強度が上昇
し、UVスペクトル2つの等吸収点、208nmおよび
212nmが観測される。
【0115】HQの溶液を245nmでr−CPLおよ
びLPLにより照射した場合にも、UVスペクトルに類
似の変化が観測された。
【0116】ビフェニルを内部標準としたガスクロマト
グラフィーを用いて、溶液を分析した。ガスクロマトグ
ラフィーのチャートには、HQとHNを除いて他の信号
は一切観測されず、HQとHNの総量が保持されること
が確認された。
【0117】このように、UVスペクトル2つの等吸収
点と溶液のガスクロマトグラフィー分析によって、HQ
がいかなる副反応も起こさずに、HNに光化学的に異性
化することがわかる。従って、HQは、245nmでの
光照射により、HNに異性化するため、HQからHNへ
の転換は、生成物質HNの濃度を反映する280nmで
のUV吸収の強度により測定されることになる。
【0118】図11は、245nmでl−およびr−C
PLにより照射されたHQの溶液についてのCDスペク
トルの変化の測定結果を示したものである。
【0119】CPL光照射により、2つの吸収極大が2
15nmと270nm付近に観測され、強度は時間とと
もに強くなる。
【0120】図12は、HQの溶液を245nmでr−
CPLにより照射した場合に、観測されるCDスペクト
ルを計算により求めた結果である。HQの溶液を245
nmでr−CPLにより照射した場合、(−)−HQが
優先的に励起され、(+)−HQが残り、(+)−HN
が(−)−HQに異性化するために、r−CPLにより
励起された(−)−HQは(+)−HNに異性化するこ
とになる。異性化はいかなる副反応も伴わない。また、
光異性化が一分子反応であることはよく知られている。
従って、HQの溶液は245nmでr−CPLにより照
射した場合のCDスペクトルは、(+)−HQのCDス
ペクトルと(+)−HNのCDスペクトルからなり、そ
の構成比は初期段階で1:1である。光異性化の継続
後、245nm付近では、HNのεはHQのそれよりも
大きく、HNはCPL照射により励起され始めるため、
約215nmのCD吸収は約270nmでのそれよりも
強い。いずれにせよ、245nmでr−CPLにより照
射されたHQの溶液の実際のCDスペクトルは、図12
の太線として描かれているものと類似のスペクトルを示
すと予想される。
【0121】同じ方法で、HQの溶液を245nmでl
−CPLにより照射した場合も、CDスペクトルは、
(−)−HQのCDスペクトルと(−)−HNのCDス
ペクトルからなり、計算により得られるCDスペクトル
の形状は、図12に示されるCDスペクトルに類似して
いる。
【0122】従って、上記のシミュレーションによっ
て、245nmのCPLで照射されたHQの異性化にお
ける約280nmでのCDスペクトルの変化は、HNの
変化を反映し、約220nmでの変化は、245nmの
CPLで照射されたHQの異性化によるHNの変化を反
映していることがわかる。
【0123】(+)−および(−)−HQが280nm
でいかなるCD吸収も持たないために、(+)−HNお
よび(−)−HNの光学純度は、280nmでの楕円率
(θ)から測定される。また、(+)−および(−)−
HNのΔεの大きさが245nmでゼロであるために、
(+)−HQおよび(−)−HQの光学純度は、245
nmでの楕円率(θ)から測定される。
【0124】そこで、245nmのCPLをHQ溶液に
照射し、絶対不斉合成を行う。図13は、実験結果とし
ての光学純度:%opと転化率との関係を示したものであ
る。図中の黒丸はr−CPL照射の場合を、白丸は、l
−CPL照射の場合を示し、また、実線はシミュレーシ
ョン計算により得られた値を示している。シュミレーシ
ョンは、gQ =±0.0074、gN =0,K=0.6
67とした時の結果である。
【0125】この図13から明らかなように、実験結果
とシミュレーションの結果は互いに良好な一致を示して
いる。このように、HQの光学純度:%opは転化率の増
大とともに増加し、HNの光学純度%opは減少する。そ
して光定常状態で、HQの光学純度:%opは最大に達
し、HNの光学純度:%opは最小になる。
【0126】次に、245nmのCPL照射により、H
NからHQへの可逆的光異性化について、出発物質およ
び生成物質の光学純度:%opと転化率の間の関係を検討
した。
【0127】245nmでCPLにより照射されたHN
の溶液のUVスペクトル変化は、実施例1に示されるも
のと極めて類似していた。245nmでのCPLによる
光照射により、270nm付近での吸収は更に弱くな
り、UVスペクトル2つの等吸収点も208nmと21
2nm付近に観測された。
【0128】これらの結果は、この光反応がいかなる副
反応も伴わないことを示している。そこで、HNからH
Qへの転化率は、280nmでのUV吸収の強度により
測定した。
【0129】CDスペクトルの変化は、図11のものと
極めて類似していた。従って、(+)−HNおよび
(−)−HNの光学純度:は、280nmでの楕円率か
ら測定し、(+)−HQおよび(−)−HQの光学純度
は、245nmでの楕円率から測定した。
【0130】なお、HNのg値は245nmでゼロであ
るため、CPL照射によるエナンチオマーの濃縮は、H
NからHQへの光異性化の初期段階では起こらない。し
かしながら、CPLは、HNの光異性化により生成する
HQの不斉源としては作用する。HNからHQへの転化
率の上昇にともない、生成したHQはCPLにより励起
され、HQのエナンチオマーの濃縮が進行する。結果と
して、HNのエナンチオマーの濃縮も進行することにな
る。
【0131】図14は、アセトニトリル中のHNに24
5nmCPLを照射した場合の光学純度:%opと転化率
との関係を実験値(黒丸r−CPL照射、白丸l−CP
L照射)およびシミュレーション計算値(実線)として
示したものである。シミュレーションは、gN =0,g
Q =±0.0074、K=1.5とした時の結果であ
る。実験値と計算値との間の良好な一致が観察された。
HNとHQの各々の光学純度:%opは転化率の上昇とと
もに同時に増加し、光定常状態では、これらの光学純
度:%opは互いにほぼ同じ値に達した。
【0132】以上の結果により、絶対不斉合成における
前記のクラス(B)の反応系が構成されることがわかっ
た。
【0133】また、理論的および実験的な検討の結果か
ら、出発物質と生成物質のエナンチオマーの一方の濃縮
が、出発物質と生成物質双方のg値の大きさ、g値の符
号、そして反応の光化学的平衡状態を表わす前記のK値
によって制御可能とされ、出発物質および生成物質のg
値が充分に大きく、かつ、互いに符号が異なり、しかも
Kが1でない場合に、出発物質および生成物質の光学純
度:%opは転化率の上昇とともに同時に増加し、光定常
状態でかなりの値に達することが確認される。このこと
は、生成物質のエナンチオマーの純度は光反応の過程を
通じて減少するという前記のKagan の予測が、クラス
(B)の絶対不斉合成においては必ずしも妥当でないこ
とがわかる。ここでの実施例によって、出発物質および
生成物質双方のエナンチオマーの一方の濃縮は、CPL
照射を用いる光反応の進行により起こることが確認され
る。
【0134】
【発明の効果】以上詳しく説明したとおり、本願発明に
よって、出発物質と生成物質の双方でのエナンチオマー
等の一方の濃縮を行うことのできる、円偏光の照射によ
る新しい絶対不斉合成法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)CPL照射によるクラス(A)の反応系
での、出発物質のg値に対応した出発物質の光学純度:
%opと転化率との関係、並びに、(b)出発物質のg値
に対応した生成物の光学純度:%opと転化率の関係を示
した図である。
【図2】クラス(B)の反応系について光学純度:%op
並びに転化率と出発物質(HQ)及び生成物質(HN)
のg値の符号の関係を計算結果として示した図である。
【図3】クラス(B)の反応系について出発物質(H
Q)及び生成物質(HN)の光学純度:%op並びに転化
率と、K値との関係を計算結果として示した図である。
【図4】アセトニトリル中の(+)−と(−)−HNお
よび(+)−と(−)−HQの光学特性を示した図であ
る。
【図5】アセトニトリル中で(−)−HN(0.102
mM)が290nmのLPLで照射された時のUVスペ
クトルの変化とCDスペクトルの変化を示した図であ
る。
【図6】290nmのCPL光照射の場合のUVスペク
トルの変化を示した図である。
【図7】290nmのCPLおよびLPLで照射された
HN溶液の照射時間と転化率との間の関係を示した図で
ある。
【図8】(a)290nmのl−およびr−CPLをア
セトニトリル中のHN溶液に照射した時のそれぞれのC
Dスペクトルの変化と、(b)290nmのr−CPL
で照射された(+)−および(−)−HNのCDスペク
トルの計算結果を示した図である。
【図9】(a)出発物質(HN)の光学純度:%opと転
化率との関係と、(b)生成物(HQ)の光学純度:%
opと転化率との関係を示した図である。
【図10】245mのl−CPL照射されたHQの溶液
のUVスペクトル変化を示した図である。
【図11】HQの溶液に245nmのl−及びr−CP
Lを各々照射した場合のCDスペクトルの変化を示した
図である。0.29mMに希釈後(〔HQ〕0 =0.8
7mM)、CDスペクトルを測定。
【図12】245nmのr−CPL照射されたHQのC
Dスペクトルのシュミレーション計算結果を示した図で
ある。
【図13】HQを245nmのCPLにより励起した場
合のシュミレーション計算の結果と実験データを示した
図であり、(a)出発物質(HQ)の光学純度:%opと
転化率の関係、(b)生成物質(HN)の光学純度:%
opと転化率の関係を示している。
【図14】HNを245nmのCPLにより励起した場
合のシュミレーション計算の結果と実験データを示した
図であり、(a)出発物質(HN)の光学純度:%opと
転化率の関係、(b)生成物質(HQ)の光学純度:%
opと転化率の関係を示している。

Claims (3)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 光化学的に可逆な反応系であって、出発
    物質がエナンチオマーどうしまたはジアステレオマーど
    うしの混合物であり、光化学的もしくは熱的にエナンチ
    オマーどうしまたはジアステレオマーどうしの相互変換
    を生じない反応系とし、r −もしくはl−円偏光を照射
    することにより、出発物質のみ、または出発物質と生成
    物質の双方が励起され、出発物質のうちのエナンチオマ
    ーの一方またはジアステレオマーの一方が濃縮され、生
    成物質では、出発物質のうちで濃縮されない他方に対応
    するエナンチオマーの一方またはジアステレオマーの一
    方が濃縮されるようにすることを特徴とする絶対不斉合
    成方法。
  2. 【請求項2】 請求項1の方法において、出発物質と生
    成物質がエナンチオマーどうしの混合物であって、出発
    物質のみが励起される場合であって、出発物質と生成物
    質のエナンチオマーの一方の濃縮が、出発物質のr −お
    よびl−円偏光それぞれに対する選択励起の度合いを示
    す異方性因子gの値によって制御されるようにすること
    を特徴とする絶対不斉合成方法。
  3. 【請求項3】 請求項1の方法において、出発物質と生
    成物質がエナンチオマーどうしの混合物であって、出発
    物質と生成物質の双方が励起される場合であって、出発
    物質と生成物質のエナンチオマーの一方の濃縮が、出発
    物質と生成物質双方の、r−およびl−円偏光それぞれ
    に対する選択励起の度合いを示す異方性因子gの値また
    はgの符号、もしくは反応の光化学的平衡状態を表すK
    値のうちの1種または2種以上によって制御されるよう
    にすることを特徴とする絶対不斉合成方法。
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