WO2012133948A1 - 生体組織から単離できるssea-3陽性の多能性幹細胞を含む他家移植用細胞治療用組成物 - Google Patents
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Abstract
本発明は多能性幹細胞を含む他家移植用細胞治療用組成物の提供を目的とする、生体組織から単離できる、SSEA-3陽性であって、HLA class II抗原を発現しない多能性幹細胞を含む、他家移植用細胞治療用組成物である。
Description
本発明は、生体組織由来のSSEA−3陽性の多能性幹細胞を含む他家移植用細胞治療用組成物に関する。
近年、組織再生に貢献し得る成人幹細胞又は組織幹細胞が注目されている。
成体から得られる分化能を有する細胞として、例えば分化誘導をかけることによって骨、軟骨、脂肪細胞、神経細胞、骨格筋等への多様な細胞への分化能を有する骨髄間葉系細胞画分(MSC:Bone marrow stromal cell)が報告されている(非特許文献1及び2を参照)。しかしながら、骨髄間葉系細胞画分は複数の細胞種を含む細胞群であり、誘導をかけたときの分化効率は高いものではない。MSCの中の一部の細胞が分化を担っていると想定されてきたが、そのような細胞の本体は明らかではなく、長い間議論となっていた。また特定の細胞に分化させるために特定の化合物による刺激や遺伝子導入等が必要であり、分化誘導システムを構築する必要があった。
さらに、成体由来の多能性幹細胞として体細胞から人為的に作成するiPS細胞(induced pluripotent stem cell)(特許文献1、特許文献2、非特許文献3等を参照)が報告されていた。しかしながら、iPS細胞の樹立には、間葉系細胞である皮膚線維芽細胞画分(dermal fibroblast)に特定の遺伝子や特定の化合物を体細胞に導入するという特定の物質を用いた誘導操作が必要であった。
また、生体組織から単離できるstage specific embryonic antigen−3(SSEA−3)陽性の多能性幹細胞であって、それまで知られていなかった生体由来の幹細胞についての報告があった(特許文献3及び非特許文献4等を参照)。
成体から得られる分化能を有する細胞として、例えば分化誘導をかけることによって骨、軟骨、脂肪細胞、神経細胞、骨格筋等への多様な細胞への分化能を有する骨髄間葉系細胞画分(MSC:Bone marrow stromal cell)が報告されている(非特許文献1及び2を参照)。しかしながら、骨髄間葉系細胞画分は複数の細胞種を含む細胞群であり、誘導をかけたときの分化効率は高いものではない。MSCの中の一部の細胞が分化を担っていると想定されてきたが、そのような細胞の本体は明らかではなく、長い間議論となっていた。また特定の細胞に分化させるために特定の化合物による刺激や遺伝子導入等が必要であり、分化誘導システムを構築する必要があった。
さらに、成体由来の多能性幹細胞として体細胞から人為的に作成するiPS細胞(induced pluripotent stem cell)(特許文献1、特許文献2、非特許文献3等を参照)が報告されていた。しかしながら、iPS細胞の樹立には、間葉系細胞である皮膚線維芽細胞画分(dermal fibroblast)に特定の遺伝子や特定の化合物を体細胞に導入するという特定の物質を用いた誘導操作が必要であった。
また、生体組織から単離できるstage specific embryonic antigen−3(SSEA−3)陽性の多能性幹細胞であって、それまで知られていなかった生体由来の幹細胞についての報告があった(特許文献3及び非特許文献4等を参照)。
M.DEZAWA et al.,The Journal of Clinical Investigation,113,12,pp.1701−1710,(2004)
M.DEZAWA et al.,SCIENCE,2005 July 8,309,pp.314−317,(2005)
Okita K.et al.SCIENCE,2008 Nov 7,322(5903),pp.949−953
Proc.Natl.Acad.Sci USA,107(19):8639−43,2010
本発明は、SSEA−3陽性であり、HLA class II抗原を発現しない、多能性幹細胞を含む他家移植用細胞治療用組成物の提供を目的とする。
本発明者らは、皮膚あるいは骨髄、ないし皮膚線維芽細胞あるいは骨髄間葉系細胞よりSSEA−3陽性であり、従来の幹細胞には認められない抗原発現パターンを有する幹細胞を単離し、Muse(Multilineage−differentiating Stress Enduring cells)細胞と名付けた(国際公開第WO2011/007900号国際公開パンフレット、Proc.Natl.Acad.Sci USA,107(19):8639−43,2010)。
本発明者等は、得られたMuse細胞の特性を解析した結果、該細胞がHLA抗原のうち、class I抗原をは発現しているが、class II抗原は発現していないことを見出し、他家移植した場合に免疫抑制剤を併用しなくても、拒絶されない可能性があると考え鋭意検討を行った。
その結果、Muse細胞を他家移植に用い得ることを見出し、Muse細胞を含む他家移植用細胞治療用組成物である本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] 生体組織から単離できる以下の(i)~(iv)のすべての性質を有する、SSEA−3陽性であって、HLA class II抗原を発現しない多能性幹細胞を含む、他家移植用細胞治療用組成物:
(i) テロメラーゼ活性が低いか又は無い;
(ii) 三胚葉のいずれの胚葉の細胞へも分化する能力を持つ;
(iii) 腫瘍性増殖を示さない;及び
(iv) 自己複製能(セルフリニューアル能)を持つ。
[2] さらに、多能性幹細胞が単球から樹状細胞への誘導及びT細胞の活性化を抑制し得る、[1]の他家移植用細胞治療用組成物。
[3] さらに、多能性幹細胞がCD105陽性である、[1]又は[2]の他家移植用細胞治療用組成物。
[4] さらに、多能性幹細胞がCD117陰性及びCD146陰性である、[1]~[3]のいずれかの他家移植用細胞治療用組成物。
[5] さらに、多能性幹細胞がCD117陰性、CD146陰性、NG2陰性、CD34陰性、vWF陰性及びCD271陰性である、[1]~[3]のいずれかの他家移植用細胞治療用組成物。
[6] さらに、多能性幹細胞がCD34陰性、CD117陰性、CD146陰性、CD271陰性、NG2陰性、vWF陰性、Sox10陰性、Snail陰性、Slug陰性、Tyrp1陰性及びDct陰性である、[1]~[3]のいずれかの他家移植用細胞治療用組成物。
[7] さらに、多能性幹細胞がストレス耐性である、[1]~[6]のいずれかの他家移植用細胞治療用組成物。
[8] さらに、多能性幹細胞が貪食能が高い、[1]~[6]のいずれかの他家移植用細胞治療用組成物。
[9] さらに、多能性幹細胞が間葉系組織由来である、[1]~[8]のいずれかの他家移植用細胞治療用組成物。
[10] さらに、多能性幹細胞が臍帯又は脂肪組織由来である。[1]~[8]のいずれかの他家移植用細胞治療用組成物。
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2011−076643号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
本発明者らは、皮膚あるいは骨髄、ないし皮膚線維芽細胞あるいは骨髄間葉系細胞よりSSEA−3陽性であり、従来の幹細胞には認められない抗原発現パターンを有する幹細胞を単離し、Muse(Multilineage−differentiating Stress Enduring cells)細胞と名付けた(国際公開第WO2011/007900号国際公開パンフレット、Proc.Natl.Acad.Sci USA,107(19):8639−43,2010)。
本発明者等は、得られたMuse細胞の特性を解析した結果、該細胞がHLA抗原のうち、class I抗原をは発現しているが、class II抗原は発現していないことを見出し、他家移植した場合に免疫抑制剤を併用しなくても、拒絶されない可能性があると考え鋭意検討を行った。
その結果、Muse細胞を他家移植に用い得ることを見出し、Muse細胞を含む他家移植用細胞治療用組成物である本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] 生体組織から単離できる以下の(i)~(iv)のすべての性質を有する、SSEA−3陽性であって、HLA class II抗原を発現しない多能性幹細胞を含む、他家移植用細胞治療用組成物:
(i) テロメラーゼ活性が低いか又は無い;
(ii) 三胚葉のいずれの胚葉の細胞へも分化する能力を持つ;
(iii) 腫瘍性増殖を示さない;及び
(iv) 自己複製能(セルフリニューアル能)を持つ。
[2] さらに、多能性幹細胞が単球から樹状細胞への誘導及びT細胞の活性化を抑制し得る、[1]の他家移植用細胞治療用組成物。
[3] さらに、多能性幹細胞がCD105陽性である、[1]又は[2]の他家移植用細胞治療用組成物。
[4] さらに、多能性幹細胞がCD117陰性及びCD146陰性である、[1]~[3]のいずれかの他家移植用細胞治療用組成物。
[5] さらに、多能性幹細胞がCD117陰性、CD146陰性、NG2陰性、CD34陰性、vWF陰性及びCD271陰性である、[1]~[3]のいずれかの他家移植用細胞治療用組成物。
[6] さらに、多能性幹細胞がCD34陰性、CD117陰性、CD146陰性、CD271陰性、NG2陰性、vWF陰性、Sox10陰性、Snail陰性、Slug陰性、Tyrp1陰性及びDct陰性である、[1]~[3]のいずれかの他家移植用細胞治療用組成物。
[7] さらに、多能性幹細胞がストレス耐性である、[1]~[6]のいずれかの他家移植用細胞治療用組成物。
[8] さらに、多能性幹細胞が貪食能が高い、[1]~[6]のいずれかの他家移植用細胞治療用組成物。
[9] さらに、多能性幹細胞が間葉系組織由来である、[1]~[8]のいずれかの他家移植用細胞治療用組成物。
[10] さらに、多能性幹細胞が臍帯又は脂肪組織由来である。[1]~[8]のいずれかの他家移植用細胞治療用組成物。
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2011−076643号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
図1は、ヒト骨髄間葉系細胞由来のSSEA−3陽性細胞のHLA class I及びHLA class II抗原の発現を示す図である。
図2は、ヒト線維芽細胞由来のSSEA−3陽性細胞のHLA class I及びHLA class II抗原の発現を示す図である。
図3は、Muse細胞及び非Muse細胞におけるHLA Class Iの発現を示す図である。
図4は、Muse細胞及び非Muse細胞におけるHLA Class IIの発現を示す図である。
図5は、Muse細胞及び非Muse細胞における二次抗体—Alexa568との反応性(ネガティブコントロール)を示す図である。
図6は、リンパ球試験に使用するためにヒト末梢血から採取した細胞をFACSで解析した結果を示す図である。
図7は、単球から単球由来樹状細胞(MoDC)前駆細胞への分化誘導を行った後の細胞をFACSにて解析した結果を示す図である。
図8は、Muse細胞による単球から単球由来樹状細胞(MoDC)前駆細胞への分化誘導の抑制を示す図である。
図9は、単球由来樹状細胞(MoDC)前駆細胞から樹状細胞への分化誘導を行った後の細胞をFACSにて解析した結果を示す図である。
図10は、Muse細胞による単球由来樹状細胞(MoDC)前駆細胞から樹状細胞への分化誘導の抑制を示す図である。
図2は、ヒト線維芽細胞由来のSSEA−3陽性細胞のHLA class I及びHLA class II抗原の発現を示す図である。
図3は、Muse細胞及び非Muse細胞におけるHLA Class Iの発現を示す図である。
図4は、Muse細胞及び非Muse細胞におけるHLA Class IIの発現を示す図である。
図5は、Muse細胞及び非Muse細胞における二次抗体—Alexa568との反応性(ネガティブコントロール)を示す図である。
図6は、リンパ球試験に使用するためにヒト末梢血から採取した細胞をFACSで解析した結果を示す図である。
図7は、単球から単球由来樹状細胞(MoDC)前駆細胞への分化誘導を行った後の細胞をFACSにて解析した結果を示す図である。
図8は、Muse細胞による単球から単球由来樹状細胞(MoDC)前駆細胞への分化誘導の抑制を示す図である。
図9は、単球由来樹状細胞(MoDC)前駆細胞から樹状細胞への分化誘導を行った後の細胞をFACSにて解析した結果を示す図である。
図10は、Muse細胞による単球由来樹状細胞(MoDC)前駆細胞から樹状細胞への分化誘導の抑制を示す図である。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は多能性幹細胞を含む他家移植のための細胞治療用組成物又は細胞治療剤である。
Muse細胞は、Muse細胞と呼ばれる多能性幹細胞である。本発明において、Muse細胞という場合、細胞画分も含み、Muse細胞画分はMuse細胞を少なくとも一定量含む細胞群のことをいう。例えば、Muse細胞画分は、Muse細胞を1%以上、10%以上、30%以上、50%以上、70%以上、90%以上、又は95%以上含む細胞群であり、Muse細胞の培養によって得られる細胞塊やMuse細胞を濃縮した細胞群を含む。また、前記Muse細胞画分を実質的に均一なMuse細胞画分ということもある。
Muse細胞は、生体組織から単離できるSSEA−3陽性の多能性幹細胞である。
生体は、哺乳動物の生体をいい、ある程度発生が進んだ動物体をいう。本発明において、生体には、受精卵や胞胚期より発生段階が前の胚は含まれないが、胎児や胞胚を含む胞胚期以降の発生段階の胚は含まれる。哺乳動物は限定されないが、例えばヒト、サル等の霊長類、マウス、ラット、ウサギ、モルモット等のげっ歯類、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ロバ、ヤギ、フェレット等が含まれる。Muse細胞は、生体の組織から直接得られる点で、胚性幹細胞(ES細胞)や胚性生殖幹細胞(EG細胞)と明確に区別される。
中胚葉系組織とは、動物の初期発生途上で現れる中胚葉起源の組織をいい、筋肉系組織、結合組織、循環系組織、排泄系組織、生殖系組織等が含まれる。例えば、Muse細胞は、骨髄液や真皮結合組織等の皮膚組織から得ることができる。
間葉系組織とは、骨、軟骨、脂肪、血液、骨髄、骨格筋、真皮、靭帯、鍵、心臓、などの組織をいう。例えば、Muse細胞は、骨髄や皮膚から得ることができる。また、臍帯や脂肪幹細胞から得ることもできる。
細胞が組織から直接得ることができるとは、組織から直接単離することができる、あるいは一旦これらの組織から間葉系細胞を培養し、そこから単離することができ、外来遺伝子や外来タンパク質の導入又は化合物の投与などの化合物処理等の人為的な誘導操作を経ずに得られることを意味する。ここで、外来遺伝子は、限定されないが、例えば体細胞の核を初期化し得る遺伝子をいい、例えば、Oct3/4遺伝子等のOctファミリー遺伝子、Klf遺伝子等のKlfファミリー遺伝子、c−Myc遺伝子等のMycファミリー遺伝子、Sox2遺伝子等のSoxファミリー遺伝子が挙げられる。また、外来タンパク質としてはこれらの遺伝子がコードするタンパク質やサイトカインが挙げられる。さらに、化合物としては、例えば、上記の体細胞の核を初期化し得る遺伝子の発現を誘導する低分子化合物やDMSO、還元剤として機能する化合物,DNAメチル化剤等が挙げられる。Muse細胞は、生体あるいは組織から直接得ることができるという点で、iPS(induced pluripotent stem cell)細胞及びES細胞とは明確に区別される。なお、本発明においては、細胞の培養、細胞の表面マーカーを指標に細胞又は細胞画分を単離すること、細胞を細胞ストレスに曝露すること、及び細胞に物理的衝撃を与えることは、人為的な誘導操作には含まれない。また、Muse細胞は、リプログラミング又は脱分化の誘導を必要とせずに得られることを特徴としてもよい。
Muse細胞は、生体の中胚葉系組織又は間葉系組織等に存在していると考えられ、本発明においては、これらの組織に存在している細胞又は細胞画分を単離する。Muse細胞は、例えば、骨髄に存在しており、骨髄から血液等を介して生体の各組織に供給される可能性がある。このため骨髄や、皮膚等の生体の各組織、さらには血液から単離することが可能である。
多能性幹細胞とは、pluripotencyを有している細胞をいい、以下の特性を有する。
(1) Nanog、Oct3/4、SSEA−3、PAR−4及びSox2等の多能性マーカー(Pluripotent marker)を発現する。
(2) 1細胞から増殖し、自己のクローンを作り続けるクローナリティー(Clonality)を有する。
(3) 自己複製(セルフリニューアル)能を有する。
(4) 3胚葉系(内胚葉系、中胚葉系及び外胚葉系)へin vitro及びin vivoで分化し得る。
(5) マウスの精巣や皮下に移植した場合、腫瘍を形成しない。
(6) アルカリフォスファターゼ染色で陽性となる。
Muse細胞は、pluripotencyを有している点で、通常知られている神経幹細胞や造血幹細胞のような成人幹細胞、組織幹細胞とは明確に区別される。また、Muse細胞は、pluripotencyを有している単一の又は複数の細胞として単離されている点で、骨髄間葉系細胞、脂肪由来間葉系細胞等の一般的な間葉系細胞画分とは明確に区別される。
さらに、Muse細胞は、以下の特性を有する。
(i) 増殖速度が比較的緩やかで、分裂周期が1日以上、例えば1.2~1.5日である。ただし、ES細胞やiPS細胞が示すような無限増殖は示さない。
(ii) 免疫不全マウスに移植した場合に内胚葉系、中胚葉系及び外胚葉系の要素を含む奇形腫形成を示す。ES細胞やiPS細胞では奇形腫が短期間で形成されるのに比べ、Muse細胞では半年以上奇形腫が形成されないことを特徴とする。
(iii) 浮遊培養により1細胞からMuse由来胚様体様細胞塊を形成する。
(iv) 浮遊培養にて胚様体様細胞塊を形成し、10~14日程度で増殖が停止する。その後、接着培養に移動させることにより再増殖する。
(v) 増殖の際に非対称分裂を伴う。
(vi) 核型は正常である。
(vii) テロメラーゼ活性が無いか又は低い。ここで、テロメラーゼ活性が無いか又は低いとは、例えばTRAPEZE XL telomerase detection kit(Millipore社)を用いてテロメラーゼ活性を検出した場合に検出できないか又は低いことをいう。テロメラーゼ活性が低いとは、例えば、ヒト線維芽細胞と同程度のテロメラーゼ活性を有しているか、あるいはHela細胞に比べて1/5以下、好ましくは1/10以下のテロメラーゼ活性を有していることをいう。
(viii) メチル化の状態については、Muse細胞から誘導したiPS細胞に関してはNanogおよびOct3/4のプロモータ領域の脱メチル化が高い。
(ix) 貪食能が高い。
(x) 腫瘍性増殖を示さない。ここで、腫瘍性増殖を示さないとは、浮遊培養を行った場合、一定の大きさの細胞塊(クラスター)に達すると増殖が止まり、無限増殖しないことをいう。また免疫不全マウスの精巣に移植しても奇形腫を形成しないことである。なお、上記(i)~(iv)等も腫瘍性増殖を示さないことに関連する。
すなわち、本発明の細胞は、例えば以下の多能性幹細胞である。
(A) 生体の中胚葉系組織又は間葉系組織等から得られる細胞であって、当該細胞内に化学物質、外来遺伝子又は外来タンパク質を導入することなく直接得ることができる多能性幹細胞。
(B) 生体の中胚葉系組織又は間葉系組織等が、骨髄、皮膚、血液、臍帯、脂肪などからなる群から選択される上記(1)の特性を有する多能性幹細胞。
(C) リプログラミングまたは脱分化を誘導することなく得ることができる、上記(A)又は(B)の多能性幹細胞。
(D) 精巣へ移植した場合に、少なくとも半年間は腫瘍形成しない、上記(A)又は(B)の多能性幹細胞。
(E) ES細胞、iPS細胞のように無限増殖を示さない、上記(A)又は(B)の多能性幹細胞。
(F) 生体の中胚葉系組織又は間葉系組織等由来の多能性幹細胞であって、生体の中胚葉系組織又は間葉系組織等の細胞をプロテアーゼで処理したときに生き残る、プロテアーゼに耐性である多能性幹細胞。
Muse細胞は、Muse細胞の表面に多く発現している細胞表面マーカーを利用して単離することができ、例えばSSEA−3の発現を指標に単離することができる。Muse細胞をSSEA−3陽性Muse細胞ということもある。さらに、Muse細胞は間葉系細胞マーカーであるCD105を発現しており、SSEA−3陽性であり、CD105陽性である。従って、SSEA−3及びCD105の両方の発現を指標に単離することができる。これらの細胞表面マーカーを利用することにより、Muse細胞を単一細胞として単離でき、単離した単一細胞を、培養により増殖させることができる。なお、本発明は、ヒト以外の哺乳動物の生体組織からSSEA−3に相当するマーカーによって単離できる多能性幹細胞をも含むものとする。
一方、Muse細胞は、NG2、CD34、vWF(フォンビルブランド因子)、c−kit(CD117)、CD146、CD271(NGFR)が陰性である。さらに、Sox10、Snai1、Slug、Tyrp1、Dctが陰性である。
NG2、CD34、vWF、CD117、CD146、CD271などの表面抗原が陰性かどうか、発現が弱いかどうかはこれらの抗原に対する抗体反応であって、発色酵素、蛍光化合物等で標識した抗体を用いて細胞が染色されたか否かを顕微鏡観察等により決定することができる。例えば、これらの抗体を用いて細胞を免疫染色して、表面抗原の有無を決定することができ、また該抗体を結合させた磁性ビーズを用いても決定することができる。また、FACS又はフローサイトメーターを用いても表面抗原があるかどうか決定することができる。フローサイトメーターとしては例えばFACSAria(ベクトン・ディッキンソン社製)、FACS vantage(ベクトン・ディッキンソン社製)、FACS Calibur(ベクトン・ディッキンソン社製)、MACS(磁気細胞分離法)等を用いることができる。
また、Sox10、Snai1、Slug、Tyrp1、Dctなどの転写因子に関してはRT−PCR等の手法により発現を調べることもできる。
これらの表面抗原が陰性とは、上記のようにFACSを用いて分析した場合に、陽性細胞としてソーティングされないこと、あるいはRT−PCRにより発現を調べた場合に、発現が認められないことをいい、これらの手法により検出できない程度発現していたとしても、本発明においては陰性とする。また、上記マーカーが陽性であることが公知の造血幹細胞等の細胞と同時に測定を行い、これらの陽性細胞と比較して、ほとんど検出されないか、あるいは有意に発現量が低い場合に陰性としてもよい。
Muse細胞は、これらの細胞表面の抗原特性に基づいて単離することができる。
上記のように、Muse細胞は、SSEA−3陽性を指標に単離することができ、さらにSSEA−3とCD105の共発現を指標に単離することができるが、さらに、NG2、CD34、vWF(フォンビルブランド因子)、c−kit(CD117)、CD146、CD271(NGFR)、Sox10、Snai1、Slug、Tyrp1及びDctからなる群から選択される11個のマーカーのうち少なくとも1個、例えば、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個又は11個のマーカーの非発現を指標に単離することができる。例えば、CD117及びCD146の非発現を指標に単離することができ、さらに、CD117、CD146、NG2、CD34、vWF及びCD271の非発現を指標に単離することができ、さらに、上記の11個のマーカーの非発現を指標に単離することができる。
表面マーカーを用いて単離する場合、生体組織から1個又は複数個のMuse細胞、培養等を経ることなく直接単離することが可能である。 また、上記のマーカーに加えて、Muse細胞は、他の特定の因子の高発現によっても特徴付けられる。
Muse細胞を培養することによりMuse細胞由来の胚様体(EB)様細胞塊が得られる。Muse細胞、Muse細胞の元集団である間葉系細胞、Muse由来胚様体様細胞塊及びヒトES細胞において発現している因子を比較検討することにより、Muse細胞で高発現している因子がわかる。ここで、因子とは遺伝子転写産物、タンパク質、脂質、糖を含む。
Muse細胞においては、以下の18個の因子が高発現している。
(i)SSEA−3
(ii)v−fos FBJ murine osteosarcoma viral oncogene homolog
(iii)solute carrier family 16,member 6(monocarboxylic acid transporter 7)
(iv)tyrosinase−related protein 1
(v)Calcium channel,voltage−dependent,P/Q type,alpha 1A subunit
(vi)chromosome 16 open reading frame 81
(vii)chitinase 3−like 1(cartilage glycoprotein−39)
(viii)protease,serine,35
(ix)kynureninase(L−kynurenine hydrolase)
(x)solute carrier family 16,member 6(monocarboxylic acid transporter 7)
(xi)apolipoprotein E
(xii)synaptotagmin−like 5
(xiii)chitinase 3−like 1(cartilage glycoprotein−39)
(xiv)ATP−binding cassette,sub−family A(ABC1),member 13
(xv)angiopoietin−like 4
(xvi)prostaglandin−endoperoxide synthase 2(prostaglandin G/H synthase and cyclooxygenase)
(xvii)stanniocalcin 1
(xviii)coiled−coil domain containing 102B
Muse細胞又は多能性幹細胞画分は、上記因子の少なくとも2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10、11、12、13、14、15、16、17又は18が高発現していることを特徴として、少なくとも2つの因子が高発現していることを指標に単離することができる。
また、以下の20個の因子において、ヒトES細胞に対する本発明のMuse細胞の発現量の比が高い。
(a)matrix metallopeptidase 1(interstitial collagenase)
(b)epiregulin
(c)chitinase 3−like 1(cartilage glycoprotein−39)
(d)Transcribed locus
(e)chitinase 3−like 1(cartilage glycoprotein−39)
(f)serglycin
(g)MRNA full length insert cDNA clone EUROIMAGE 1913076
(h)Ras and Rab interactor 2
(i)lumican
(j)CLCA family member 2,chloride channel regulator
(k)interleukin 8
(l)Similar to LOC166075
(m)dermatopontin
(n)EGF,latrophilin and seven transmembrane domain containing 1
(o)insulin−like growth factor binding protein 1
(p)solute carrier family 16,member 4(monocarboxylic acid transporter 5)
(q)serglycin
(r)gremlin 2,cysteine knot superfamily,homolog(Xenopus laevis)
(s)insulin−like growth factor binding protein 5
(t)sulfide quinone reductase−like(yeast)
Muse細胞は、上記因子の少なくとも2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20が高発現していることを特徴として、少なくとも2つの因子が高発現していることを指標に単離することができる。
さらに、Muse細胞は、上記(i)~(xviii)の因子の少なくとも2つと上記(a)~(t)の因子の少なくとも2つが同時に高発現していてもよく、これらの遺伝子が高発現していることを指標に単離することができる。
さらに、Muse細胞は多能性マーカー以外のオドラント(odorant)受容体(オルファクトリーレセプター;olfactory receptor)群及びケモカイン(chemokine)受容体群の因子を発現していること、すなわち特定のオドラント受容体やケモカイン受容体陽性であることを特徴とする。
Muse細胞で発現しているオドラント受容体として例えば、以下の22個の受容体が挙げられる。
olfactory receptor,family 8,subfamily G,member 2(OR8G2);
olfactory receptor,family 7,subfamily G,member 3(OR7G3);
olfactory receptor,family 4,subfamily D,member 5(OR4D5);
olfactory receptor,family 5,subfamily AP,member 2(OR5AP2);
olfactory receptor,family 10,subfamily H,member 4(OR10H4);
olfactory receptor,family 10,subfamily T,member 2(OR10T2);
olfactory receptor,family 2,subfamily M,member 2(OR2M2);
olfactory receptor,family 2,subfamily T,member 5(OR2T5);
olfactory receptor,family 7,subfamily D,member 4(OR7D4);
olfactory receptor,family 1,subfamily L,member 3(OR1L3);
olfactory receptor,family 4,subfamily N,member 4(OR4N4);
olfactory receptor,family 2,subfamily A,member 7(OR2A7);
guanine nucleotide binding protein(G protein),alpha activating activity polypeptide,olfactory type(GNAL);
olfactory receptor,family 6,subfamily A,member 2(OR6A2);
olfactory receptor,family 2,subfamily B,member 6(OR2B6);
olfactory receptor,family 2,subfamily C,member 1(OR2C1);
olfactory receptor,family 52,subfamily A,member 1(OR52A1);
olfactory receptor,family 10,subfamily H,member 3(OR10H3);
olfactory receptor,family 10,subfamily H,member 2(OR10H2);
olfactory receptor,family 51,subfamily E,member 2(OR51E2);
olfactory receptor,family 5,subfamily P,member 2(OR5P2);及び
olfactory receptor,family 10,subfamily P,member 1(OR10P1)
Muse細胞で発現しているケモカイン受容体としては以下の5個の受容体が挙げられる。
chemokine(C−C motif)receptor 5(CCR5);
chemokine(C−X−C motif)receptor 4(CXCR4);
chemokine(C−C motif)receptor 1(CCR1);
Duffy blood group,chemokine receptor(DARC);及び
chemokine(C−X−C motif)receptor 7(CXCR7)
Muse細胞は、上記の嗅覚受容体の少なくとも1個を発現しており、あるいは、上記のケモカイン受容体の少なくとも1個を発現している。
これらのオドラント受容体やケモカイン受容体と受容体に結合する遊走因子の作用で多能性幹細胞であるMuse細胞は、損傷組織へ遊走し、生着し、その場に応じて分化する。例えば、肝臓、皮膚、脊髄、筋肉が損傷した場合、特定の遊走因子と細胞表面に発現しているオドラント受容体の働きで、それぞれの組織に遊走し、生着し、肝臓(内胚葉)、皮膚(外胚葉)、脊髄(外胚葉)、筋肉(中胚葉)細胞に分化し、組織を再生することができる。
さらに、Muse細胞において、Rex1、Sox2、KLF−4、c−Myc、DPPA2、ERAS、GRB7、SPAG9、TDGF1等の発現上昇が認められ、Muse細胞の細胞塊において、DAZL、DDX4、DPPA4、Stella、Hoxb1、PRDM1、SPRY2等の発現上昇が認められる。
また、Muse細胞においては、造血幹細胞マーカーであるCD34及びCD117の発現は認めらないかもしくは発現が極めて低い。
さらに、Muse細胞は、生体の中胚葉系組織又は間葉系組織等の細胞に細胞ストレスをかけ、生き残った細胞を回収することにより含有率を高めることができる。ここで、細胞ストレスとは外的ストレスをいい、プロテアーゼ処理、低酸素条件下での培養、低リン酸条件下での培養、血清飢餓状態での培養、糖飢餓状態での培養、放射線曝露下での培養、熱ショックへの曝露下での培養、有害物質存在下での培養、活性酸素存在下での培養、機械的刺激下での培養、圧力処理下での培養等によりストレスに曝露することをいう。この中でもプロテアーゼ処理、すなわちプロテアーゼ存在下での培養が好ましい。プロテアーゼは限定されず、トリプシン、キモトリプシン等のセリンプロテアーゼ、ペプシン等のアスパラギン酸プロテアーゼ、パパイン、キモパパイン等のシステインプロテアーゼ、サーモリシン等の金属プロテアーゼ、グルタミン酸プロテアーゼ、N−末端スレオニンプロテアーゼなどを用いることができる。プロテアーゼを培養に添加する際の添加濃度は限定されず、一般的にシャーレ等で培養した付着細胞を剥がすときに用いる濃度で用いればよい。本発明の多能性幹細胞であるMuse細胞は、上記外的ストレスに耐性を有する幹細胞、例えば、トリプシンに耐性を有する細胞ということができる。
生体の中胚葉系組織又は間葉系組織等は限定されず、骨髄単核細胞、皮膚細胞等の線維芽細胞画分、歯髄組織、眼球組織、毛根組織等が含まれる。細胞としては、培養細胞も組織から採取した細胞も用いることもできる。この中でも、骨髄細胞、皮膚細胞が望ましく、例えば、ヒト骨髄間葉系細胞(MSC)画分又はヒト皮膚線維芽細胞画分が挙げられる。骨髄間葉系細胞画分は、骨髄穿刺液を2~3週間培養することにより得ることができる。
上記の各種のストレスを受けた組織の細胞の大部分は死滅し、生き残った細胞中に本発明の多能性幹細胞であるMuse細胞が含まれる。細胞にストレスをかけたのち、死細胞を除去する必要があるが、プロテアーゼを用いた場合は、これらの死細胞はプロテアーゼの作用により分解される。
また、細胞にストレスをかけた後に、細胞に物理的衝撃を与え壊れ易くなった細胞を除去してもよい。物理的衝撃は、例えば激しいピペッティング、激しい攪拌、ボルテックス等により与えることができる。
細胞に細胞ストレスをかけ、必要に応じて物理的衝撃を与えた後に、細胞群を遠心分離にかけ、生き残った細胞をペレットとして得て回収することにより、本発明の多能性幹細胞であるMuse細胞の含有率を高めることができる。また、このようにして得られた細胞からさらに、下記の表面マーカーを指標にMuse細胞又は多能性細胞画分を単離することもできる。
また、外傷や火傷等のストレスを受けた生体の中胚葉系組織又は間葉系組織等を培養し、遊走した細胞を回収してもMuse細胞を単離することができる。傷害を受けた組織の細胞はストレスに曝露されるので、本発明においては、傷害を受けた生体の中胚葉系組織又は間葉系組織等を培養することも生体の中胚葉系組織又は間葉系組織細胞等に細胞ストレスをかけるという。
一例として、これらの細胞をトリプシン処理する方法について説明する。このときのトリプシン濃度は、限定されないが、例えば接着細胞の通常の培養において、培養容器に接着した接着培養を剥がすときに用いられる濃度範囲で用いればよく、0.1~1%、好ましくは0.1~0.5%が例示される。例えば、10~50万個の細胞を含む生体の中胚葉系組織又は間葉系組織等由来の細胞を上記濃度のトリプシン溶液5ml中でインキュベーションすることにより外的ストレスに曝すことができる。トリプシン処理時間は、5~24時間、好ましくは5~20時間程度である。本発明においては、8時間以上のトリプシン処理、例えば8時間又は16時間の処理を長時間トリプシン処理という。
トリプシン処理後、上記のように、ピペッティング、攪拌、ボルテックス等により物理的衝撃を与えることが望ましい。それは死んだ細胞あるいは死にかけている細胞を破壊除去するためである。
トリプシン処理後の浮遊培養の際には細胞同士の凝集を防ぐために、例えば、メチルセルロースゲル等のゲル中でインキュベーションするのが望ましい。また、細胞の培養容器への付着を防ぎ浮遊状態を維持するために、容器をPoly(2−hydroxyethyl methacrylate)等でコートしておくことが望ましい。
外的ストレスに曝した細胞を遠心分離により集め浮遊培養を行うと細胞塊(細胞クラスター)を形成する。この細胞塊の大きさは直径25μmから150μm程度である。Muse細胞は、この外的ストレスに曝して生き残った細胞集団中に濃縮した状態で含まれる。この細胞集団を富Muse細胞画分(Muse enriched population)と呼ぶ。富Muse細胞画分中のMuse細胞の存在割合は、ストレス処理の方法により異なる。
このようにMuse細胞がストレスをかけた後も生存することは、Muse細胞がストレス耐性であることを示している。
生体の中胚葉系組織又は間葉系組織等由来の細胞の培養に用いる培地、培養条件は通常の動物細胞の培養で用いる培地、培養条件を採用すればよい。また、公知の幹細胞培養用培地を用いてもよい。培地には、適宜ウシ胎児血清等の血清やペニシリン、ストレプトマイシン等の抗生物質及び種々の生理活性物質を添加してもよい。
さらに、Muse細胞は、Muse細胞の派生細胞又は誘導細胞である多能性幹細胞も含む。派生細胞又は誘導細胞とはMuse細胞を培養して得られる細胞又は細胞群、あるいはMuse細胞に外来遺伝子の導入等の人為的な誘導操作を行い得られる細胞をいい、子孫細胞も含む。なお、本発明時点において報告されているiPS細胞は、皮膚線維芽細胞などの生体組織の分化した細胞に外来遺伝子導入等することによりリプログラミングした結果、多能性幹細胞に誘導された細胞といわれており、本発明の組織から直接得ることができ、すでに多能性幹細胞としての性質を有する細胞に外来遺伝子導入等の人為的な誘導操作を行い得られた細胞は、iPS細胞と区別される。
Muse細胞は、Muse細胞を浮遊培養することにより得られる胚様体様(Embryoid body(EB body)−like)細胞塊も含む。胚様体は、Muse細胞を浮遊培養することにより、細胞塊として形成される。この際、Muse細胞を培養することにより得られる胚様体をMuse細胞由来胚様体様細胞塊と呼ぶことがある(Mクラスター(M−cluster)と呼ぶこともある)。胚様体様細胞塊を形成するための浮遊培養の方法として、メチルセルロース等の水溶性ポリマーを含有した培地を用いた培養(Nakahata,T.et al.,Blood 60,352−361(1982))やハンギングドロップ培養(Keller,J.Physiol.(Lond)168:131−139,1998)等が挙げられる。さらに、Muse細胞は、前記胚様体様細胞塊からセルフリニューアルして得られる胚様体様細胞塊及び胚様体様細胞塊に含まれる細胞及び多能性幹細胞も包含する。ここで、セルフリニューアルとは、胚様体様細胞塊に含まれる細胞を培養し、再度胚様体様細胞塊を形成させることをいう。セルフリニューアルは1~複数回のサイクルを繰り返せばよい。また、Muse細胞は前記いずれかの胚様体様細胞塊及び胚様体様細胞塊に含まれる細胞から分化した細胞及び組織も包含する。
他家移植とは、他人(別個体)の組織や細胞を移植することをいう。
Muse細胞は、表面にHLA(Human Lymphocyte antigen)のうち、HLA class I抗原は発現しているが、HLA classII抗原を発現していない。HLA classII抗原を有する組織や細胞を他家移植した場合、ドナー組織又は細胞のHLA class II抗原による抗原提示により細胞性免疫が活性化され拒絶される。従って、HLA class II抗原を発現していないMuse細胞を他家に移植した場合であっても、拒絶反応が起こりにくく、生着し得る。このため、移植時に免疫抑制剤を用いる必要がない。
また、Muse細胞は、免疫抑制効果を有する。すなわち、生体内で単球から単球由来樹状細胞(MoDC)前駆細胞への分化誘導を抑制し、また単球由来樹状細胞(MoDC)前駆細胞から樹状細胞への分化誘導を抑制する。このことは、Muse細胞を他家移植した場合、Muse細胞がドナーの免疫活性を抑制することにより、移植したドナーの免疫系により拒絶されることなく、生着し分化し得ることを示している。
Muse細胞は、pluripotencyを有しており、あらゆる組織へと分化し得る。従って、Muse細胞は、再生医療等に用いることができ、機能が損なわれた組織等にMuse細胞を補う細胞治療を施すことにより組織が再生し得る。例えば、各種組織、各種器官等の再生に用いることができる。具体的には皮膚、脳脊髄、肝臓、筋肉等が挙げられる。Muse細胞を損傷あるいは障害を受けた組織、器官等に直接あるいは近傍に投与することにより、Muse細胞はその組織、器官内に侵入し、その組織特有の細胞に分化し、組織、器官の再生、再建に貢献し得る。また、静脈投与等により全身投与してもよい。この場合、Muse細胞は、例えば、損傷を受けた組織や器官をホーミング等により指向し、そこに到達・侵入した上で、その組織や器官の細胞に分化し、組織、器官の再生、再建に貢献し得る。
すなわち、Muse細胞は再生医療のための他家移植用の細胞治療に用いることができる。
投与は、例えば皮下注、静注、筋注、腹腔内注等の非経口投与や経口投与、あるいは胚への子宮内注射等により行うことができる。また、局所投与でも全身投与でもよい。局所投与は例えばカテーテルを利用して行うことができる。投与量は、再生しようとする器官、組織の種類や、サイズにより適宜決定することができる。
再生しようとする器官は限定されず、骨髄、脊髄、血液、脾臓、肝臓、肺、腸管、眼、脳、免疫系、循環系、骨、結合組織、筋、心臓、血管、膵臓、中枢神経系、末梢神経系、腎臓、膀胱、皮膚、上皮付属器、乳房−乳腺、脂肪組織、角膜、および口、食道、膣、肛門を含む粘膜等を含む。また、治療対象となる疾患として、癌、心血管疾患、代謝疾患、肝疾患、糖尿病、肝炎、血友病、血液系疾患、脊髄損傷等の変性または外傷性神経疾患、自己免疫疾患、遺伝的欠陥、結合組織疾患、貧血、感染症、移植拒絶、虚血、炎症、皮膚や筋肉の損傷等が挙げられる。
細胞は医薬として許容される基材と共に投与してもよい。該基材は例えばコラーゲン等でできた生体親和性が高い物質や、生分解性の物質できており、粒子状、板状、筒状、容器状等の形状とすればよく、細胞を該基材に結合させあるいは該基材中に収容して投与すればよい。
また、Muse細胞をin vitroで分化誘導し、さらに分化した細胞を用いて組織を構築させ、該分化した細胞又は該組織を他家移植してもよい。Muse細胞は、腫瘍化しないので、移植した前記分化した細胞又は該組織にMuse細胞が未分化のまま含まれていても癌化の可能性が低く安全である。
さらに、Muse細胞を組織の変性や機能不全を原因とする疾患の治療に用いることができる。この場合、例えば、Muse細胞をex vivoで濃縮し、増殖させ、あるいは分化させて体内に戻せばよく、例えば、Muse細胞を特定の組織の細胞に分化させ、該細胞を治療しようとする組織に移植すればよい。また、細胞の移植により、in situ細胞治療を行うこともできる。この場合、対象細胞の例として、肝臓細胞、神経細胞やグリア細胞などの神経系細胞、皮膚細胞、骨格筋細胞などの筋肉細胞が挙げられ、Muse細胞をこれらの細胞に分化させ、移植し、in situで治療を行うことができる。該治療により、例えば、パーキンソン病、脳梗塞、脊髄損傷、筋変性疾患などを治療することができる。Muse細胞は、腫瘍化しないので、このような治療に用いても癌化の可能性が低く安全である。
また、Muse細胞を、分化させて血液や血液成分を形成させることにより、血液や血液成分をex vivo、in vitroで形成させることができる、血液成分として、赤血球、白血球、血小板等が挙げられる。このようにして形成させた血液や血液成分を、他家輸血に用いることができる。
上記のように、Muse細胞を治療に用いる場合、ex vivo、in vivo、in vitroのいずれで分化させてもよい。Muse細胞は、例えば、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、線維芽細胞、骨髄間質、骨格筋、平滑筋、心筋、眼、内皮、上皮、肝、膵、造血、グリア、神経細胞、稀突起膠細胞等に分化する。Muse細胞の分化は、分化因子の存在下で、培養することにより達成することができる。分化因子としては、塩基性繊維芽細胞成長因子(bFGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)およびイソプロテレノール;あるいは繊維芽細胞成長因子4(FGF4)、肝細胞成長因子(HGF)等が挙げられる。
Muse細胞を治療に用いる場合、タンパク質性の抗癌物質や生理活性物質等をコードする遺伝子を導入してもよい。これにより、Muse細胞は、治療薬のデリバリー機能も有することになる。このような物質として例えば、抗血管新生薬が挙げられる。
本発明は、Muse細胞、Muse細胞からできた胚様体様細胞塊、及びMuse細胞や前記胚様体様細胞塊から分化させて得られた細胞若しくは組織・器官を含む、他家移植用細胞治療用組成物若しくは他家移植用細胞治療用組成物を包含する。これらを他家移植用再生医療用材料若しくは他家移植用再生医療用組成物ということもできる。該組成物はMuse細胞、Muse細胞からできた胚様体様細胞塊、又はMuse細胞や前記胚様体様細胞塊から分化させて得られた細胞若しくは組織・器官に加えて、医薬的に許容される緩衝液や希釈液等を含む。
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
本発明は多能性幹細胞を含む他家移植のための細胞治療用組成物又は細胞治療剤である。
Muse細胞は、Muse細胞と呼ばれる多能性幹細胞である。本発明において、Muse細胞という場合、細胞画分も含み、Muse細胞画分はMuse細胞を少なくとも一定量含む細胞群のことをいう。例えば、Muse細胞画分は、Muse細胞を1%以上、10%以上、30%以上、50%以上、70%以上、90%以上、又は95%以上含む細胞群であり、Muse細胞の培養によって得られる細胞塊やMuse細胞を濃縮した細胞群を含む。また、前記Muse細胞画分を実質的に均一なMuse細胞画分ということもある。
Muse細胞は、生体組織から単離できるSSEA−3陽性の多能性幹細胞である。
生体は、哺乳動物の生体をいい、ある程度発生が進んだ動物体をいう。本発明において、生体には、受精卵や胞胚期より発生段階が前の胚は含まれないが、胎児や胞胚を含む胞胚期以降の発生段階の胚は含まれる。哺乳動物は限定されないが、例えばヒト、サル等の霊長類、マウス、ラット、ウサギ、モルモット等のげっ歯類、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ロバ、ヤギ、フェレット等が含まれる。Muse細胞は、生体の組織から直接得られる点で、胚性幹細胞(ES細胞)や胚性生殖幹細胞(EG細胞)と明確に区別される。
中胚葉系組織とは、動物の初期発生途上で現れる中胚葉起源の組織をいい、筋肉系組織、結合組織、循環系組織、排泄系組織、生殖系組織等が含まれる。例えば、Muse細胞は、骨髄液や真皮結合組織等の皮膚組織から得ることができる。
間葉系組織とは、骨、軟骨、脂肪、血液、骨髄、骨格筋、真皮、靭帯、鍵、心臓、などの組織をいう。例えば、Muse細胞は、骨髄や皮膚から得ることができる。また、臍帯や脂肪幹細胞から得ることもできる。
細胞が組織から直接得ることができるとは、組織から直接単離することができる、あるいは一旦これらの組織から間葉系細胞を培養し、そこから単離することができ、外来遺伝子や外来タンパク質の導入又は化合物の投与などの化合物処理等の人為的な誘導操作を経ずに得られることを意味する。ここで、外来遺伝子は、限定されないが、例えば体細胞の核を初期化し得る遺伝子をいい、例えば、Oct3/4遺伝子等のOctファミリー遺伝子、Klf遺伝子等のKlfファミリー遺伝子、c−Myc遺伝子等のMycファミリー遺伝子、Sox2遺伝子等のSoxファミリー遺伝子が挙げられる。また、外来タンパク質としてはこれらの遺伝子がコードするタンパク質やサイトカインが挙げられる。さらに、化合物としては、例えば、上記の体細胞の核を初期化し得る遺伝子の発現を誘導する低分子化合物やDMSO、還元剤として機能する化合物,DNAメチル化剤等が挙げられる。Muse細胞は、生体あるいは組織から直接得ることができるという点で、iPS(induced pluripotent stem cell)細胞及びES細胞とは明確に区別される。なお、本発明においては、細胞の培養、細胞の表面マーカーを指標に細胞又は細胞画分を単離すること、細胞を細胞ストレスに曝露すること、及び細胞に物理的衝撃を与えることは、人為的な誘導操作には含まれない。また、Muse細胞は、リプログラミング又は脱分化の誘導を必要とせずに得られることを特徴としてもよい。
Muse細胞は、生体の中胚葉系組織又は間葉系組織等に存在していると考えられ、本発明においては、これらの組織に存在している細胞又は細胞画分を単離する。Muse細胞は、例えば、骨髄に存在しており、骨髄から血液等を介して生体の各組織に供給される可能性がある。このため骨髄や、皮膚等の生体の各組織、さらには血液から単離することが可能である。
多能性幹細胞とは、pluripotencyを有している細胞をいい、以下の特性を有する。
(1) Nanog、Oct3/4、SSEA−3、PAR−4及びSox2等の多能性マーカー(Pluripotent marker)を発現する。
(2) 1細胞から増殖し、自己のクローンを作り続けるクローナリティー(Clonality)を有する。
(3) 自己複製(セルフリニューアル)能を有する。
(4) 3胚葉系(内胚葉系、中胚葉系及び外胚葉系)へin vitro及びin vivoで分化し得る。
(5) マウスの精巣や皮下に移植した場合、腫瘍を形成しない。
(6) アルカリフォスファターゼ染色で陽性となる。
Muse細胞は、pluripotencyを有している点で、通常知られている神経幹細胞や造血幹細胞のような成人幹細胞、組織幹細胞とは明確に区別される。また、Muse細胞は、pluripotencyを有している単一の又は複数の細胞として単離されている点で、骨髄間葉系細胞、脂肪由来間葉系細胞等の一般的な間葉系細胞画分とは明確に区別される。
さらに、Muse細胞は、以下の特性を有する。
(i) 増殖速度が比較的緩やかで、分裂周期が1日以上、例えば1.2~1.5日である。ただし、ES細胞やiPS細胞が示すような無限増殖は示さない。
(ii) 免疫不全マウスに移植した場合に内胚葉系、中胚葉系及び外胚葉系の要素を含む奇形腫形成を示す。ES細胞やiPS細胞では奇形腫が短期間で形成されるのに比べ、Muse細胞では半年以上奇形腫が形成されないことを特徴とする。
(iii) 浮遊培養により1細胞からMuse由来胚様体様細胞塊を形成する。
(iv) 浮遊培養にて胚様体様細胞塊を形成し、10~14日程度で増殖が停止する。その後、接着培養に移動させることにより再増殖する。
(v) 増殖の際に非対称分裂を伴う。
(vi) 核型は正常である。
(vii) テロメラーゼ活性が無いか又は低い。ここで、テロメラーゼ活性が無いか又は低いとは、例えばTRAPEZE XL telomerase detection kit(Millipore社)を用いてテロメラーゼ活性を検出した場合に検出できないか又は低いことをいう。テロメラーゼ活性が低いとは、例えば、ヒト線維芽細胞と同程度のテロメラーゼ活性を有しているか、あるいはHela細胞に比べて1/5以下、好ましくは1/10以下のテロメラーゼ活性を有していることをいう。
(viii) メチル化の状態については、Muse細胞から誘導したiPS細胞に関してはNanogおよびOct3/4のプロモータ領域の脱メチル化が高い。
(ix) 貪食能が高い。
(x) 腫瘍性増殖を示さない。ここで、腫瘍性増殖を示さないとは、浮遊培養を行った場合、一定の大きさの細胞塊(クラスター)に達すると増殖が止まり、無限増殖しないことをいう。また免疫不全マウスの精巣に移植しても奇形腫を形成しないことである。なお、上記(i)~(iv)等も腫瘍性増殖を示さないことに関連する。
すなわち、本発明の細胞は、例えば以下の多能性幹細胞である。
(A) 生体の中胚葉系組織又は間葉系組織等から得られる細胞であって、当該細胞内に化学物質、外来遺伝子又は外来タンパク質を導入することなく直接得ることができる多能性幹細胞。
(B) 生体の中胚葉系組織又は間葉系組織等が、骨髄、皮膚、血液、臍帯、脂肪などからなる群から選択される上記(1)の特性を有する多能性幹細胞。
(C) リプログラミングまたは脱分化を誘導することなく得ることができる、上記(A)又は(B)の多能性幹細胞。
(D) 精巣へ移植した場合に、少なくとも半年間は腫瘍形成しない、上記(A)又は(B)の多能性幹細胞。
(E) ES細胞、iPS細胞のように無限増殖を示さない、上記(A)又は(B)の多能性幹細胞。
(F) 生体の中胚葉系組織又は間葉系組織等由来の多能性幹細胞であって、生体の中胚葉系組織又は間葉系組織等の細胞をプロテアーゼで処理したときに生き残る、プロテアーゼに耐性である多能性幹細胞。
Muse細胞は、Muse細胞の表面に多く発現している細胞表面マーカーを利用して単離することができ、例えばSSEA−3の発現を指標に単離することができる。Muse細胞をSSEA−3陽性Muse細胞ということもある。さらに、Muse細胞は間葉系細胞マーカーであるCD105を発現しており、SSEA−3陽性であり、CD105陽性である。従って、SSEA−3及びCD105の両方の発現を指標に単離することができる。これらの細胞表面マーカーを利用することにより、Muse細胞を単一細胞として単離でき、単離した単一細胞を、培養により増殖させることができる。なお、本発明は、ヒト以外の哺乳動物の生体組織からSSEA−3に相当するマーカーによって単離できる多能性幹細胞をも含むものとする。
一方、Muse細胞は、NG2、CD34、vWF(フォンビルブランド因子)、c−kit(CD117)、CD146、CD271(NGFR)が陰性である。さらに、Sox10、Snai1、Slug、Tyrp1、Dctが陰性である。
NG2、CD34、vWF、CD117、CD146、CD271などの表面抗原が陰性かどうか、発現が弱いかどうかはこれらの抗原に対する抗体反応であって、発色酵素、蛍光化合物等で標識した抗体を用いて細胞が染色されたか否かを顕微鏡観察等により決定することができる。例えば、これらの抗体を用いて細胞を免疫染色して、表面抗原の有無を決定することができ、また該抗体を結合させた磁性ビーズを用いても決定することができる。また、FACS又はフローサイトメーターを用いても表面抗原があるかどうか決定することができる。フローサイトメーターとしては例えばFACSAria(ベクトン・ディッキンソン社製)、FACS vantage(ベクトン・ディッキンソン社製)、FACS Calibur(ベクトン・ディッキンソン社製)、MACS(磁気細胞分離法)等を用いることができる。
また、Sox10、Snai1、Slug、Tyrp1、Dctなどの転写因子に関してはRT−PCR等の手法により発現を調べることもできる。
これらの表面抗原が陰性とは、上記のようにFACSを用いて分析した場合に、陽性細胞としてソーティングされないこと、あるいはRT−PCRにより発現を調べた場合に、発現が認められないことをいい、これらの手法により検出できない程度発現していたとしても、本発明においては陰性とする。また、上記マーカーが陽性であることが公知の造血幹細胞等の細胞と同時に測定を行い、これらの陽性細胞と比較して、ほとんど検出されないか、あるいは有意に発現量が低い場合に陰性としてもよい。
Muse細胞は、これらの細胞表面の抗原特性に基づいて単離することができる。
上記のように、Muse細胞は、SSEA−3陽性を指標に単離することができ、さらにSSEA−3とCD105の共発現を指標に単離することができるが、さらに、NG2、CD34、vWF(フォンビルブランド因子)、c−kit(CD117)、CD146、CD271(NGFR)、Sox10、Snai1、Slug、Tyrp1及びDctからなる群から選択される11個のマーカーのうち少なくとも1個、例えば、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個又は11個のマーカーの非発現を指標に単離することができる。例えば、CD117及びCD146の非発現を指標に単離することができ、さらに、CD117、CD146、NG2、CD34、vWF及びCD271の非発現を指標に単離することができ、さらに、上記の11個のマーカーの非発現を指標に単離することができる。
表面マーカーを用いて単離する場合、生体組織から1個又は複数個のMuse細胞、培養等を経ることなく直接単離することが可能である。 また、上記のマーカーに加えて、Muse細胞は、他の特定の因子の高発現によっても特徴付けられる。
Muse細胞を培養することによりMuse細胞由来の胚様体(EB)様細胞塊が得られる。Muse細胞、Muse細胞の元集団である間葉系細胞、Muse由来胚様体様細胞塊及びヒトES細胞において発現している因子を比較検討することにより、Muse細胞で高発現している因子がわかる。ここで、因子とは遺伝子転写産物、タンパク質、脂質、糖を含む。
Muse細胞においては、以下の18個の因子が高発現している。
(i)SSEA−3
(ii)v−fos FBJ murine osteosarcoma viral oncogene homolog
(iii)solute carrier family 16,member 6(monocarboxylic acid transporter 7)
(iv)tyrosinase−related protein 1
(v)Calcium channel,voltage−dependent,P/Q type,alpha 1A subunit
(vi)chromosome 16 open reading frame 81
(vii)chitinase 3−like 1(cartilage glycoprotein−39)
(viii)protease,serine,35
(ix)kynureninase(L−kynurenine hydrolase)
(x)solute carrier family 16,member 6(monocarboxylic acid transporter 7)
(xi)apolipoprotein E
(xii)synaptotagmin−like 5
(xiii)chitinase 3−like 1(cartilage glycoprotein−39)
(xiv)ATP−binding cassette,sub−family A(ABC1),member 13
(xv)angiopoietin−like 4
(xvi)prostaglandin−endoperoxide synthase 2(prostaglandin G/H synthase and cyclooxygenase)
(xvii)stanniocalcin 1
(xviii)coiled−coil domain containing 102B
Muse細胞又は多能性幹細胞画分は、上記因子の少なくとも2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10、11、12、13、14、15、16、17又は18が高発現していることを特徴として、少なくとも2つの因子が高発現していることを指標に単離することができる。
また、以下の20個の因子において、ヒトES細胞に対する本発明のMuse細胞の発現量の比が高い。
(a)matrix metallopeptidase 1(interstitial collagenase)
(b)epiregulin
(c)chitinase 3−like 1(cartilage glycoprotein−39)
(d)Transcribed locus
(e)chitinase 3−like 1(cartilage glycoprotein−39)
(f)serglycin
(g)MRNA full length insert cDNA clone EUROIMAGE 1913076
(h)Ras and Rab interactor 2
(i)lumican
(j)CLCA family member 2,chloride channel regulator
(k)interleukin 8
(l)Similar to LOC166075
(m)dermatopontin
(n)EGF,latrophilin and seven transmembrane domain containing 1
(o)insulin−like growth factor binding protein 1
(p)solute carrier family 16,member 4(monocarboxylic acid transporter 5)
(q)serglycin
(r)gremlin 2,cysteine knot superfamily,homolog(Xenopus laevis)
(s)insulin−like growth factor binding protein 5
(t)sulfide quinone reductase−like(yeast)
Muse細胞は、上記因子の少なくとも2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20が高発現していることを特徴として、少なくとも2つの因子が高発現していることを指標に単離することができる。
さらに、Muse細胞は、上記(i)~(xviii)の因子の少なくとも2つと上記(a)~(t)の因子の少なくとも2つが同時に高発現していてもよく、これらの遺伝子が高発現していることを指標に単離することができる。
さらに、Muse細胞は多能性マーカー以外のオドラント(odorant)受容体(オルファクトリーレセプター;olfactory receptor)群及びケモカイン(chemokine)受容体群の因子を発現していること、すなわち特定のオドラント受容体やケモカイン受容体陽性であることを特徴とする。
Muse細胞で発現しているオドラント受容体として例えば、以下の22個の受容体が挙げられる。
olfactory receptor,family 8,subfamily G,member 2(OR8G2);
olfactory receptor,family 7,subfamily G,member 3(OR7G3);
olfactory receptor,family 4,subfamily D,member 5(OR4D5);
olfactory receptor,family 5,subfamily AP,member 2(OR5AP2);
olfactory receptor,family 10,subfamily H,member 4(OR10H4);
olfactory receptor,family 10,subfamily T,member 2(OR10T2);
olfactory receptor,family 2,subfamily M,member 2(OR2M2);
olfactory receptor,family 2,subfamily T,member 5(OR2T5);
olfactory receptor,family 7,subfamily D,member 4(OR7D4);
olfactory receptor,family 1,subfamily L,member 3(OR1L3);
olfactory receptor,family 4,subfamily N,member 4(OR4N4);
olfactory receptor,family 2,subfamily A,member 7(OR2A7);
guanine nucleotide binding protein(G protein),alpha activating activity polypeptide,olfactory type(GNAL);
olfactory receptor,family 6,subfamily A,member 2(OR6A2);
olfactory receptor,family 2,subfamily B,member 6(OR2B6);
olfactory receptor,family 2,subfamily C,member 1(OR2C1);
olfactory receptor,family 52,subfamily A,member 1(OR52A1);
olfactory receptor,family 10,subfamily H,member 3(OR10H3);
olfactory receptor,family 10,subfamily H,member 2(OR10H2);
olfactory receptor,family 51,subfamily E,member 2(OR51E2);
olfactory receptor,family 5,subfamily P,member 2(OR5P2);及び
olfactory receptor,family 10,subfamily P,member 1(OR10P1)
Muse細胞で発現しているケモカイン受容体としては以下の5個の受容体が挙げられる。
chemokine(C−C motif)receptor 5(CCR5);
chemokine(C−X−C motif)receptor 4(CXCR4);
chemokine(C−C motif)receptor 1(CCR1);
Duffy blood group,chemokine receptor(DARC);及び
chemokine(C−X−C motif)receptor 7(CXCR7)
Muse細胞は、上記の嗅覚受容体の少なくとも1個を発現しており、あるいは、上記のケモカイン受容体の少なくとも1個を発現している。
これらのオドラント受容体やケモカイン受容体と受容体に結合する遊走因子の作用で多能性幹細胞であるMuse細胞は、損傷組織へ遊走し、生着し、その場に応じて分化する。例えば、肝臓、皮膚、脊髄、筋肉が損傷した場合、特定の遊走因子と細胞表面に発現しているオドラント受容体の働きで、それぞれの組織に遊走し、生着し、肝臓(内胚葉)、皮膚(外胚葉)、脊髄(外胚葉)、筋肉(中胚葉)細胞に分化し、組織を再生することができる。
さらに、Muse細胞において、Rex1、Sox2、KLF−4、c−Myc、DPPA2、ERAS、GRB7、SPAG9、TDGF1等の発現上昇が認められ、Muse細胞の細胞塊において、DAZL、DDX4、DPPA4、Stella、Hoxb1、PRDM1、SPRY2等の発現上昇が認められる。
また、Muse細胞においては、造血幹細胞マーカーであるCD34及びCD117の発現は認めらないかもしくは発現が極めて低い。
さらに、Muse細胞は、生体の中胚葉系組織又は間葉系組織等の細胞に細胞ストレスをかけ、生き残った細胞を回収することにより含有率を高めることができる。ここで、細胞ストレスとは外的ストレスをいい、プロテアーゼ処理、低酸素条件下での培養、低リン酸条件下での培養、血清飢餓状態での培養、糖飢餓状態での培養、放射線曝露下での培養、熱ショックへの曝露下での培養、有害物質存在下での培養、活性酸素存在下での培養、機械的刺激下での培養、圧力処理下での培養等によりストレスに曝露することをいう。この中でもプロテアーゼ処理、すなわちプロテアーゼ存在下での培養が好ましい。プロテアーゼは限定されず、トリプシン、キモトリプシン等のセリンプロテアーゼ、ペプシン等のアスパラギン酸プロテアーゼ、パパイン、キモパパイン等のシステインプロテアーゼ、サーモリシン等の金属プロテアーゼ、グルタミン酸プロテアーゼ、N−末端スレオニンプロテアーゼなどを用いることができる。プロテアーゼを培養に添加する際の添加濃度は限定されず、一般的にシャーレ等で培養した付着細胞を剥がすときに用いる濃度で用いればよい。本発明の多能性幹細胞であるMuse細胞は、上記外的ストレスに耐性を有する幹細胞、例えば、トリプシンに耐性を有する細胞ということができる。
生体の中胚葉系組織又は間葉系組織等は限定されず、骨髄単核細胞、皮膚細胞等の線維芽細胞画分、歯髄組織、眼球組織、毛根組織等が含まれる。細胞としては、培養細胞も組織から採取した細胞も用いることもできる。この中でも、骨髄細胞、皮膚細胞が望ましく、例えば、ヒト骨髄間葉系細胞(MSC)画分又はヒト皮膚線維芽細胞画分が挙げられる。骨髄間葉系細胞画分は、骨髄穿刺液を2~3週間培養することにより得ることができる。
上記の各種のストレスを受けた組織の細胞の大部分は死滅し、生き残った細胞中に本発明の多能性幹細胞であるMuse細胞が含まれる。細胞にストレスをかけたのち、死細胞を除去する必要があるが、プロテアーゼを用いた場合は、これらの死細胞はプロテアーゼの作用により分解される。
また、細胞にストレスをかけた後に、細胞に物理的衝撃を与え壊れ易くなった細胞を除去してもよい。物理的衝撃は、例えば激しいピペッティング、激しい攪拌、ボルテックス等により与えることができる。
細胞に細胞ストレスをかけ、必要に応じて物理的衝撃を与えた後に、細胞群を遠心分離にかけ、生き残った細胞をペレットとして得て回収することにより、本発明の多能性幹細胞であるMuse細胞の含有率を高めることができる。また、このようにして得られた細胞からさらに、下記の表面マーカーを指標にMuse細胞又は多能性細胞画分を単離することもできる。
また、外傷や火傷等のストレスを受けた生体の中胚葉系組織又は間葉系組織等を培養し、遊走した細胞を回収してもMuse細胞を単離することができる。傷害を受けた組織の細胞はストレスに曝露されるので、本発明においては、傷害を受けた生体の中胚葉系組織又は間葉系組織等を培養することも生体の中胚葉系組織又は間葉系組織細胞等に細胞ストレスをかけるという。
一例として、これらの細胞をトリプシン処理する方法について説明する。このときのトリプシン濃度は、限定されないが、例えば接着細胞の通常の培養において、培養容器に接着した接着培養を剥がすときに用いられる濃度範囲で用いればよく、0.1~1%、好ましくは0.1~0.5%が例示される。例えば、10~50万個の細胞を含む生体の中胚葉系組織又は間葉系組織等由来の細胞を上記濃度のトリプシン溶液5ml中でインキュベーションすることにより外的ストレスに曝すことができる。トリプシン処理時間は、5~24時間、好ましくは5~20時間程度である。本発明においては、8時間以上のトリプシン処理、例えば8時間又は16時間の処理を長時間トリプシン処理という。
トリプシン処理後、上記のように、ピペッティング、攪拌、ボルテックス等により物理的衝撃を与えることが望ましい。それは死んだ細胞あるいは死にかけている細胞を破壊除去するためである。
トリプシン処理後の浮遊培養の際には細胞同士の凝集を防ぐために、例えば、メチルセルロースゲル等のゲル中でインキュベーションするのが望ましい。また、細胞の培養容器への付着を防ぎ浮遊状態を維持するために、容器をPoly(2−hydroxyethyl methacrylate)等でコートしておくことが望ましい。
外的ストレスに曝した細胞を遠心分離により集め浮遊培養を行うと細胞塊(細胞クラスター)を形成する。この細胞塊の大きさは直径25μmから150μm程度である。Muse細胞は、この外的ストレスに曝して生き残った細胞集団中に濃縮した状態で含まれる。この細胞集団を富Muse細胞画分(Muse enriched population)と呼ぶ。富Muse細胞画分中のMuse細胞の存在割合は、ストレス処理の方法により異なる。
このようにMuse細胞がストレスをかけた後も生存することは、Muse細胞がストレス耐性であることを示している。
生体の中胚葉系組織又は間葉系組織等由来の細胞の培養に用いる培地、培養条件は通常の動物細胞の培養で用いる培地、培養条件を採用すればよい。また、公知の幹細胞培養用培地を用いてもよい。培地には、適宜ウシ胎児血清等の血清やペニシリン、ストレプトマイシン等の抗生物質及び種々の生理活性物質を添加してもよい。
さらに、Muse細胞は、Muse細胞の派生細胞又は誘導細胞である多能性幹細胞も含む。派生細胞又は誘導細胞とはMuse細胞を培養して得られる細胞又は細胞群、あるいはMuse細胞に外来遺伝子の導入等の人為的な誘導操作を行い得られる細胞をいい、子孫細胞も含む。なお、本発明時点において報告されているiPS細胞は、皮膚線維芽細胞などの生体組織の分化した細胞に外来遺伝子導入等することによりリプログラミングした結果、多能性幹細胞に誘導された細胞といわれており、本発明の組織から直接得ることができ、すでに多能性幹細胞としての性質を有する細胞に外来遺伝子導入等の人為的な誘導操作を行い得られた細胞は、iPS細胞と区別される。
Muse細胞は、Muse細胞を浮遊培養することにより得られる胚様体様(Embryoid body(EB body)−like)細胞塊も含む。胚様体は、Muse細胞を浮遊培養することにより、細胞塊として形成される。この際、Muse細胞を培養することにより得られる胚様体をMuse細胞由来胚様体様細胞塊と呼ぶことがある(Mクラスター(M−cluster)と呼ぶこともある)。胚様体様細胞塊を形成するための浮遊培養の方法として、メチルセルロース等の水溶性ポリマーを含有した培地を用いた培養(Nakahata,T.et al.,Blood 60,352−361(1982))やハンギングドロップ培養(Keller,J.Physiol.(Lond)168:131−139,1998)等が挙げられる。さらに、Muse細胞は、前記胚様体様細胞塊からセルフリニューアルして得られる胚様体様細胞塊及び胚様体様細胞塊に含まれる細胞及び多能性幹細胞も包含する。ここで、セルフリニューアルとは、胚様体様細胞塊に含まれる細胞を培養し、再度胚様体様細胞塊を形成させることをいう。セルフリニューアルは1~複数回のサイクルを繰り返せばよい。また、Muse細胞は前記いずれかの胚様体様細胞塊及び胚様体様細胞塊に含まれる細胞から分化した細胞及び組織も包含する。
他家移植とは、他人(別個体)の組織や細胞を移植することをいう。
Muse細胞は、表面にHLA(Human Lymphocyte antigen)のうち、HLA class I抗原は発現しているが、HLA classII抗原を発現していない。HLA classII抗原を有する組織や細胞を他家移植した場合、ドナー組織又は細胞のHLA class II抗原による抗原提示により細胞性免疫が活性化され拒絶される。従って、HLA class II抗原を発現していないMuse細胞を他家に移植した場合であっても、拒絶反応が起こりにくく、生着し得る。このため、移植時に免疫抑制剤を用いる必要がない。
また、Muse細胞は、免疫抑制効果を有する。すなわち、生体内で単球から単球由来樹状細胞(MoDC)前駆細胞への分化誘導を抑制し、また単球由来樹状細胞(MoDC)前駆細胞から樹状細胞への分化誘導を抑制する。このことは、Muse細胞を他家移植した場合、Muse細胞がドナーの免疫活性を抑制することにより、移植したドナーの免疫系により拒絶されることなく、生着し分化し得ることを示している。
Muse細胞は、pluripotencyを有しており、あらゆる組織へと分化し得る。従って、Muse細胞は、再生医療等に用いることができ、機能が損なわれた組織等にMuse細胞を補う細胞治療を施すことにより組織が再生し得る。例えば、各種組織、各種器官等の再生に用いることができる。具体的には皮膚、脳脊髄、肝臓、筋肉等が挙げられる。Muse細胞を損傷あるいは障害を受けた組織、器官等に直接あるいは近傍に投与することにより、Muse細胞はその組織、器官内に侵入し、その組織特有の細胞に分化し、組織、器官の再生、再建に貢献し得る。また、静脈投与等により全身投与してもよい。この場合、Muse細胞は、例えば、損傷を受けた組織や器官をホーミング等により指向し、そこに到達・侵入した上で、その組織や器官の細胞に分化し、組織、器官の再生、再建に貢献し得る。
すなわち、Muse細胞は再生医療のための他家移植用の細胞治療に用いることができる。
投与は、例えば皮下注、静注、筋注、腹腔内注等の非経口投与や経口投与、あるいは胚への子宮内注射等により行うことができる。また、局所投与でも全身投与でもよい。局所投与は例えばカテーテルを利用して行うことができる。投与量は、再生しようとする器官、組織の種類や、サイズにより適宜決定することができる。
再生しようとする器官は限定されず、骨髄、脊髄、血液、脾臓、肝臓、肺、腸管、眼、脳、免疫系、循環系、骨、結合組織、筋、心臓、血管、膵臓、中枢神経系、末梢神経系、腎臓、膀胱、皮膚、上皮付属器、乳房−乳腺、脂肪組織、角膜、および口、食道、膣、肛門を含む粘膜等を含む。また、治療対象となる疾患として、癌、心血管疾患、代謝疾患、肝疾患、糖尿病、肝炎、血友病、血液系疾患、脊髄損傷等の変性または外傷性神経疾患、自己免疫疾患、遺伝的欠陥、結合組織疾患、貧血、感染症、移植拒絶、虚血、炎症、皮膚や筋肉の損傷等が挙げられる。
細胞は医薬として許容される基材と共に投与してもよい。該基材は例えばコラーゲン等でできた生体親和性が高い物質や、生分解性の物質できており、粒子状、板状、筒状、容器状等の形状とすればよく、細胞を該基材に結合させあるいは該基材中に収容して投与すればよい。
また、Muse細胞をin vitroで分化誘導し、さらに分化した細胞を用いて組織を構築させ、該分化した細胞又は該組織を他家移植してもよい。Muse細胞は、腫瘍化しないので、移植した前記分化した細胞又は該組織にMuse細胞が未分化のまま含まれていても癌化の可能性が低く安全である。
さらに、Muse細胞を組織の変性や機能不全を原因とする疾患の治療に用いることができる。この場合、例えば、Muse細胞をex vivoで濃縮し、増殖させ、あるいは分化させて体内に戻せばよく、例えば、Muse細胞を特定の組織の細胞に分化させ、該細胞を治療しようとする組織に移植すればよい。また、細胞の移植により、in situ細胞治療を行うこともできる。この場合、対象細胞の例として、肝臓細胞、神経細胞やグリア細胞などの神経系細胞、皮膚細胞、骨格筋細胞などの筋肉細胞が挙げられ、Muse細胞をこれらの細胞に分化させ、移植し、in situで治療を行うことができる。該治療により、例えば、パーキンソン病、脳梗塞、脊髄損傷、筋変性疾患などを治療することができる。Muse細胞は、腫瘍化しないので、このような治療に用いても癌化の可能性が低く安全である。
また、Muse細胞を、分化させて血液や血液成分を形成させることにより、血液や血液成分をex vivo、in vitroで形成させることができる、血液成分として、赤血球、白血球、血小板等が挙げられる。このようにして形成させた血液や血液成分を、他家輸血に用いることができる。
上記のように、Muse細胞を治療に用いる場合、ex vivo、in vivo、in vitroのいずれで分化させてもよい。Muse細胞は、例えば、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、線維芽細胞、骨髄間質、骨格筋、平滑筋、心筋、眼、内皮、上皮、肝、膵、造血、グリア、神経細胞、稀突起膠細胞等に分化する。Muse細胞の分化は、分化因子の存在下で、培養することにより達成することができる。分化因子としては、塩基性繊維芽細胞成長因子(bFGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)およびイソプロテレノール;あるいは繊維芽細胞成長因子4(FGF4)、肝細胞成長因子(HGF)等が挙げられる。
Muse細胞を治療に用いる場合、タンパク質性の抗癌物質や生理活性物質等をコードする遺伝子を導入してもよい。これにより、Muse細胞は、治療薬のデリバリー機能も有することになる。このような物質として例えば、抗血管新生薬が挙げられる。
本発明は、Muse細胞、Muse細胞からできた胚様体様細胞塊、及びMuse細胞や前記胚様体様細胞塊から分化させて得られた細胞若しくは組織・器官を含む、他家移植用細胞治療用組成物若しくは他家移植用細胞治療用組成物を包含する。これらを他家移植用再生医療用材料若しくは他家移植用再生医療用組成物ということもできる。該組成物はMuse細胞、Muse細胞からできた胚様体様細胞塊、又はMuse細胞や前記胚様体様細胞塊から分化させて得られた細胞若しくは組織・器官に加えて、医薬的に許容される緩衝液や希釈液等を含む。
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
Muse細胞におけるHLA抗原の発現
ヒト骨髄間葉系細胞由来のSSEA−3陽性細胞のHLA class I及びHLA class II抗原の発現をフローサイトメトリーにより確認した。図1に結果を示す。図1に示すように、ヒト骨髄間葉系細胞においては、HLA1は陽性であったが、HLA2は陰性であった。
同様にヒト線維芽細胞由来のSSEA−3陽性細胞のHLA class I及びHLA class II抗原の発現を確信した。図2に結果を示す。図2に示すように、ヒト線維芽細胞においても、HLA1は陽性であったが、HLA2は陰性であった。
ヒト骨髄間葉系細胞由来のSSEA−3陽性細胞のHLA class I及びHLA class II抗原の発現をフローサイトメトリーにより確認した。図1に結果を示す。図1に示すように、ヒト骨髄間葉系細胞においては、HLA1は陽性であったが、HLA2は陰性であった。
同様にヒト線維芽細胞由来のSSEA−3陽性細胞のHLA class I及びHLA class II抗原の発現を確信した。図2に結果を示す。図2に示すように、ヒト線維芽細胞においても、HLA1は陽性であったが、HLA2は陰性であった。
抗ヒトHLA−ABC抗体(eBioscience)を用いた免疫細胞化学染色により(2次抗体としては、抗マウスIgG抗体(Alexa568標識を使用)、Muse細胞(SSEA−3陽性)及び非Muse細胞(SSEA−3陰性)におけるHLA Class Iの発現を調べた。結果を図3に示す。図3に示すように、Muse細胞及び非Muse細胞のいずれにおいても、HLA class Iの発現が認められた。
抗ヒトHLA−DR抗体(eBioscience)を用いた免疫細胞化学染色により(2次抗体としては、抗マウスIgG抗体(Alexa568標識を使用)、Muse細胞(SSEA−3陽性)及び非Muse細胞(SSEA−3陰性)におけるHLA Class IIの発現を調べた。結果を図4に示す。図4に示すように、Muse細胞及び非Muse細胞のいずれにおいても、HLA class IIの発現は認められなかった。
図5は、上記実験における非特異的反応を示す図である。図5に示すように、二次抗体−Alexa568による蛍光は認められなかった。これは、非特異的反応がないことを示す。
抗ヒトHLA−DR抗体(eBioscience)を用いた免疫細胞化学染色により(2次抗体としては、抗マウスIgG抗体(Alexa568標識を使用)、Muse細胞(SSEA−3陽性)及び非Muse細胞(SSEA−3陰性)におけるHLA Class IIの発現を調べた。結果を図4に示す。図4に示すように、Muse細胞及び非Muse細胞のいずれにおいても、HLA class IIの発現は認められなかった。
図5は、上記実験における非特異的反応を示す図である。図5に示すように、二次抗体−Alexa568による蛍光は認められなかった。これは、非特異的反応がないことを示す。
リンパ球刺激試験によるMuse細胞の免疫抑制効果の検討
Muse細胞が免疫抑制効果を有するか否かを、樹状細胞の誘導試験により確認した。すなわち、ヒト末梢血より単球を単離し、Muse細胞と共培養し、単球から樹状細胞が誘導されるか否かを検討した。
ヒト線維芽細胞よりSSEA−3陽性を指標に単離したMuse細胞(以下、Muse細胞とする)、ヒト線維芽細胞中のSSEA−3陰性細胞(以下、非Muse細胞とする)、及び末梢血より採取したヒト単球(monocyte)を用いた。
培地は、ヒト線維芽細胞から単離したMuse細胞及び非Muse細胞用として、α−MEM(+10% FBS,2mM L−glutamine,Kanamycin)を用い、ヒト単球用としてRPMI−1640(+10%FBS)を用い、樹上細胞誘導用としてRPMI−1640(+10% FBS,2mM L−glutamine,2mM sodium pyruvate,40ng/mL GM−CSF,20ng/mL IL−4,Kanamycin)を用いた。
詳細な方法は、以下のとおりであった。
(1)単球の採取
健常人の末梢血を採取し、Lymphoprep Tubes(Axis−Shield PoC AS)を使用して単核球成分のみを単離し、次いでRPMI培地(+10%FBS)に懸濁して10cmディッシュへ播いた。翌日、2回、ディッシュを洗浄して接着しなかった細胞を除去した。
接着していた細胞を0.25%トリプシン/2mM EDTAを用いてディッシュからはがした。抗ヒトCD14(ヒト単球のマーカー)抗体で染色してFACSにて解析した。結果を図6に示す。約90%がCD14陽性であることを確認した。
(2)単球から単球由来樹状細胞(MoDC)前駆細胞への分化誘導
単球をGM−CSF及びIL−4の存在下で数日間培養すると、単球はMoDC前駆細胞に分化し、その後TNF−αにより成熟樹状細胞となる。
(1)で採取した単球を培養した。単球を培養し、単球由来樹状細胞(MoDC)前駆細胞を誘導するのに用いた培地はRPMI−1640(+10% FBS,2mM L−glutamine,2mM sodium pyruvate,40ng/mL GM−CSF,20ng/mL IL−4,Kanamycinであった。この際、サイトカインの有無、Muse細胞若しくは非Muse細胞との共培養の有無の条件を変更し、(A)単球のみ、サイトカインによる誘導なし、Negative control(only monocyte(without cytokine)、(B)単球のみ、サイトカインによる誘導あり、Positive control(only monocytes(with cytokine))、(C)単球+Muse細胞、サイトカインによる誘導あり(Monocyte+SSEA−3(+)cells)、(D)単球+非Muse細胞、サイトカインによる誘導あり(Monocyte+SSEA−3(−)cells)という4条件下で培養を行った(「単球+Muse細胞」は単球とMuse細胞を共培養したことを示す)。5日後、0.25%トリプシン/2mM EDTAを用いて細胞をはがし、抗CD1a(ヒト単球由来樹状細胞(MoDC)前駆細胞のマーカー)抗体又は抗CD14(ヒト単球のマーカー)抗体で染色した後、FACSにて分析した。結果を図7に示す。図7A、B、C、Dは、それぞれ上記条件(A)、(B)、(C)及び(D)のFACS分析の結果を示す。各図中、左上(Q1)は単球、右上(Q2)は中間分化細胞(halfway−differentiated cells)、左下(Q3)は他の細胞、右下(Q4)はMoDC前駆細胞の存在を示す(図7E参照)。図8に各条件での培養後のCD1a陽性細胞(MoDC前駆細胞)のCD14陽性細胞(単球)に対する割合を示す。図に示すように、単球をサイトカイン非存在下で培養した場合(A)には、MoDC前駆細胞はほとんど出現しないが、単球とサイトカイン存在下で培養した場合(条件(B))はMoDC前駆細胞が出現した。単球と非Muse細胞を共培養した場合(条件(D))、MoDC前駆細胞は条件(B)に比べ若干少なかった。一方、単球とMuse細胞を共培養した場合(条件(C))、MoDC前駆細胞の出現は条件(B)に比べ著しく抑制された。この結果は、Muse細胞が単球から単球由来樹状細胞(MoDC)前駆細胞への分化誘導を抑制したことを示す。Muse細胞及び非Muse細胞ともに抑制効果が認められたが、Muse細胞の抑制効果がより大きかった。
(3)単球由来樹状細胞(MoDC)前駆細胞から樹状細胞への分化誘導
上記(1)のRPMI−1640(+10% FBS,2mM L−glutamine,2mM sodium pyruvate,40ng/mL GM−CSF,20ng/mL IL−4,Kanamycin)を用いた培養で、単球由来樹状細胞(MoDC)前駆細胞を誘導し、単球培養開始5日後に、10ng/ml ヒト TNF−αを培地に添加した。この際、サイトカインの有無、Muse細胞若しくは非Muse細胞との共培養の有無の条件を変更し、さらに、シクロスポリンAが樹状細胞の成熟を阻害するので、コントロールとして1μg/mlのシクロスポリンAを加えたものを用いた。さらに、7日後(TNF−α処理開始より2日後)、抗ヒトCD86(樹状細胞には強く発現)抗体で染色し、FACSにて解析した。結果を図9に示す。図9(i)~図9(vii)は、それぞれ、(i)MoDC前駆細胞のみ(サイトカインによる誘導添加なし)(only MoDC progenitors(without cytokine)、(ii)MoDC前駆細胞のみ(サイトカイン添加あり)(only MoDC progenitors(with cytokine))、(iii)MoDC前駆細胞のみ(サイトカイン及びシクロスポリン添加あり)(only MoDC progenitors(with cytokine+Cyclosporine A))、(iv)MoDC前駆細胞+Muse細胞(MoDC progenitors+SSEA−3(+)cells)、(v)MoDC前駆細胞+Muse細胞、シクロスポリンA添加あり(MoDC progenitors+SSEA−3(+)cells+Cyclosporine A)、(vi)MoDC前駆細胞+非Muse細胞(MoDC progenitors+SSEA−3(−)cells)、(vii)MoDC前駆細胞+非Muse細胞、シクロスポリンA添加有り(MoDC progenitors+SSEA−3(−)cells+Cyclosporine A)、の条件の結果を示す。図10に上記条件(ii)~(vii)での培養後のCD86の発現を示す。すなわち、左から(ii)MoDC前駆細胞のみ(Positive control)、(iii)阻害剤シクロスポリンAを加えたもの(Negative Control)、(iv)MoDC前駆細胞+Muse細胞、(v)これに阻害剤シクロスポリンAを加えたもの、(vi)MoDC前駆細胞+非Muse細胞、(vii)これに阻害剤シクロスポリンAを加えたものの結果を示す。
図に示すように、Muse細胞をMoDC前駆細胞と共培養した場合に、CD86の発現が低下した。この結果は、Muse細胞が単球由来樹状細胞(MoDC)前駆細胞から樹状細胞への分化誘導を抑制したことを示す。Muse細胞及び非Muse細胞ともに抑制効果が認められたが、Muse細胞の抑制効果がより大きかった。
Muse細胞が免疫抑制効果を有するか否かを、樹状細胞の誘導試験により確認した。すなわち、ヒト末梢血より単球を単離し、Muse細胞と共培養し、単球から樹状細胞が誘導されるか否かを検討した。
ヒト線維芽細胞よりSSEA−3陽性を指標に単離したMuse細胞(以下、Muse細胞とする)、ヒト線維芽細胞中のSSEA−3陰性細胞(以下、非Muse細胞とする)、及び末梢血より採取したヒト単球(monocyte)を用いた。
培地は、ヒト線維芽細胞から単離したMuse細胞及び非Muse細胞用として、α−MEM(+10% FBS,2mM L−glutamine,Kanamycin)を用い、ヒト単球用としてRPMI−1640(+10%FBS)を用い、樹上細胞誘導用としてRPMI−1640(+10% FBS,2mM L−glutamine,2mM sodium pyruvate,40ng/mL GM−CSF,20ng/mL IL−4,Kanamycin)を用いた。
詳細な方法は、以下のとおりであった。
(1)単球の採取
健常人の末梢血を採取し、Lymphoprep Tubes(Axis−Shield PoC AS)を使用して単核球成分のみを単離し、次いでRPMI培地(+10%FBS)に懸濁して10cmディッシュへ播いた。翌日、2回、ディッシュを洗浄して接着しなかった細胞を除去した。
接着していた細胞を0.25%トリプシン/2mM EDTAを用いてディッシュからはがした。抗ヒトCD14(ヒト単球のマーカー)抗体で染色してFACSにて解析した。結果を図6に示す。約90%がCD14陽性であることを確認した。
(2)単球から単球由来樹状細胞(MoDC)前駆細胞への分化誘導
単球をGM−CSF及びIL−4の存在下で数日間培養すると、単球はMoDC前駆細胞に分化し、その後TNF−αにより成熟樹状細胞となる。
(1)で採取した単球を培養した。単球を培養し、単球由来樹状細胞(MoDC)前駆細胞を誘導するのに用いた培地はRPMI−1640(+10% FBS,2mM L−glutamine,2mM sodium pyruvate,40ng/mL GM−CSF,20ng/mL IL−4,Kanamycinであった。この際、サイトカインの有無、Muse細胞若しくは非Muse細胞との共培養の有無の条件を変更し、(A)単球のみ、サイトカインによる誘導なし、Negative control(only monocyte(without cytokine)、(B)単球のみ、サイトカインによる誘導あり、Positive control(only monocytes(with cytokine))、(C)単球+Muse細胞、サイトカインによる誘導あり(Monocyte+SSEA−3(+)cells)、(D)単球+非Muse細胞、サイトカインによる誘導あり(Monocyte+SSEA−3(−)cells)という4条件下で培養を行った(「単球+Muse細胞」は単球とMuse細胞を共培養したことを示す)。5日後、0.25%トリプシン/2mM EDTAを用いて細胞をはがし、抗CD1a(ヒト単球由来樹状細胞(MoDC)前駆細胞のマーカー)抗体又は抗CD14(ヒト単球のマーカー)抗体で染色した後、FACSにて分析した。結果を図7に示す。図7A、B、C、Dは、それぞれ上記条件(A)、(B)、(C)及び(D)のFACS分析の結果を示す。各図中、左上(Q1)は単球、右上(Q2)は中間分化細胞(halfway−differentiated cells)、左下(Q3)は他の細胞、右下(Q4)はMoDC前駆細胞の存在を示す(図7E参照)。図8に各条件での培養後のCD1a陽性細胞(MoDC前駆細胞)のCD14陽性細胞(単球)に対する割合を示す。図に示すように、単球をサイトカイン非存在下で培養した場合(A)には、MoDC前駆細胞はほとんど出現しないが、単球とサイトカイン存在下で培養した場合(条件(B))はMoDC前駆細胞が出現した。単球と非Muse細胞を共培養した場合(条件(D))、MoDC前駆細胞は条件(B)に比べ若干少なかった。一方、単球とMuse細胞を共培養した場合(条件(C))、MoDC前駆細胞の出現は条件(B)に比べ著しく抑制された。この結果は、Muse細胞が単球から単球由来樹状細胞(MoDC)前駆細胞への分化誘導を抑制したことを示す。Muse細胞及び非Muse細胞ともに抑制効果が認められたが、Muse細胞の抑制効果がより大きかった。
(3)単球由来樹状細胞(MoDC)前駆細胞から樹状細胞への分化誘導
上記(1)のRPMI−1640(+10% FBS,2mM L−glutamine,2mM sodium pyruvate,40ng/mL GM−CSF,20ng/mL IL−4,Kanamycin)を用いた培養で、単球由来樹状細胞(MoDC)前駆細胞を誘導し、単球培養開始5日後に、10ng/ml ヒト TNF−αを培地に添加した。この際、サイトカインの有無、Muse細胞若しくは非Muse細胞との共培養の有無の条件を変更し、さらに、シクロスポリンAが樹状細胞の成熟を阻害するので、コントロールとして1μg/mlのシクロスポリンAを加えたものを用いた。さらに、7日後(TNF−α処理開始より2日後)、抗ヒトCD86(樹状細胞には強く発現)抗体で染色し、FACSにて解析した。結果を図9に示す。図9(i)~図9(vii)は、それぞれ、(i)MoDC前駆細胞のみ(サイトカインによる誘導添加なし)(only MoDC progenitors(without cytokine)、(ii)MoDC前駆細胞のみ(サイトカイン添加あり)(only MoDC progenitors(with cytokine))、(iii)MoDC前駆細胞のみ(サイトカイン及びシクロスポリン添加あり)(only MoDC progenitors(with cytokine+Cyclosporine A))、(iv)MoDC前駆細胞+Muse細胞(MoDC progenitors+SSEA−3(+)cells)、(v)MoDC前駆細胞+Muse細胞、シクロスポリンA添加あり(MoDC progenitors+SSEA−3(+)cells+Cyclosporine A)、(vi)MoDC前駆細胞+非Muse細胞(MoDC progenitors+SSEA−3(−)cells)、(vii)MoDC前駆細胞+非Muse細胞、シクロスポリンA添加有り(MoDC progenitors+SSEA−3(−)cells+Cyclosporine A)、の条件の結果を示す。図10に上記条件(ii)~(vii)での培養後のCD86の発現を示す。すなわち、左から(ii)MoDC前駆細胞のみ(Positive control)、(iii)阻害剤シクロスポリンAを加えたもの(Negative Control)、(iv)MoDC前駆細胞+Muse細胞、(v)これに阻害剤シクロスポリンAを加えたもの、(vi)MoDC前駆細胞+非Muse細胞、(vii)これに阻害剤シクロスポリンAを加えたものの結果を示す。
図に示すように、Muse細胞をMoDC前駆細胞と共培養した場合に、CD86の発現が低下した。この結果は、Muse細胞が単球由来樹状細胞(MoDC)前駆細胞から樹状細胞への分化誘導を抑制したことを示す。Muse細胞及び非Muse細胞ともに抑制効果が認められたが、Muse細胞の抑制効果がより大きかった。
生体組織より得られたSSEA−3陽性であり、従来の幹細胞には認められない抗原発現パターンを有する多能性幹細胞であるMuse細胞は、HLA class II抗原を発現しない。そのため、細胞を他家移植しても拒絶されることがない。従って、Muse細胞を含む他家移植用細胞治療用組成物は、再生医療のための細胞治療に用いることができる。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
Claims (10)
- 生体組織から単離できる以下の(i)~(iv)のすべての性質を有する、SSEA−3陽性であって、HLA class II抗原を発現しない多能性幹細胞を含む、他家移植用細胞治療用組成物:
(i)テロメラーゼ活性が低いか又は無い;
(ii)三胚葉のいずれの胚葉の細胞へも分化する能力を持つ;
(iii)腫瘍性増殖を示さない;及び
(iv)セルフリニューアル能を持つ。 - さらに、多能性幹細胞が単球から樹状細胞への誘導を抑制し得る、請求項1記載の他家移植用細胞治療用組成物。
- さらに、多能性幹細胞がCD105陽性である、請求項1又は2に記載の他家移植用細胞治療用組成物。
- さらに、多能性幹細胞がCD117陰性及びCD146陰性である、請求項1~3のいずれか1項に記載の他家移植用細胞治療用組成物。
- さらに、多能性幹細胞がCD117陰性、CD146陰性、NG2陰性、CD34陰性、vWF陰性及びCD271陰性である、請求項1~3のいずれか1項に記載の他家移植用細胞治療用組成物。
- さらに、多能性幹細胞がCD34陰性、CD117陰性、CD146陰性、CD271陰性、NG2陰性、vWF陰性、Sox10陰性、Snail陰性、Slug陰性、Tyrp1陰性及びDct陰性である、請求項1~3のいずれか1項に記載の他家移植用細胞治療用組成物。
- さらに、多能性幹細胞がストレス耐性である、請求項1~6のいずれか1項に記載の他家移植用細胞治療用組成物。
- さらに、多能性幹細胞が貪食能が高い、請求項1~6のいずれか1項に記載の他家移植用細胞治療用組成物。
- さらに、多能性幹細胞が間葉系組織由来である、請求項1~8のいずれか1項に記載の他家移植用細胞治療用組成物。
- さらに、多能性幹細胞が臍帯又は脂肪組織由来である。請求項1~8のいずれか1項に記載の他家移植用細胞治療用組成物。
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