JPH1017934A - マルテンサイト系ステンレス鋼管の製造方法 - Google Patents

マルテンサイト系ステンレス鋼管の製造方法

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JPH1017934A
JPH1017934A JP17616096A JP17616096A JPH1017934A JP H1017934 A JPH1017934 A JP H1017934A JP 17616096 A JP17616096 A JP 17616096A JP 17616096 A JP17616096 A JP 17616096A JP H1017934 A JPH1017934 A JP H1017934A
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cooling
temperature
point
quenching
stainless steel
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JP17616096A
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English (en)
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Kazuo Okamura
一男 岡村
Kunio Kondo
邦夫 近藤
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Nippon Steel Corp
Original Assignee
Sumitomo Metal Industries Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【課題】高耐食性高強度マルテンサイト系ステンレス鋼管の焼き割れ
を生じにくい製造方法の提供。 【解決手段】(1)重量%でC:0.1〜0.3%、Cr:11〜15%を
含むステンレス鋼管を、焼入温度から〔Ms-30℃ 〕より低く
〔MsとMfの中間温度〕より高い温度まで空冷後、Mf以下
まで管内面冷却速度8℃/s以上にて外面を強冷却し80%以
上のマルテンサイトとし、焼戻す方法。 (2)上記(1)の化学組成の鋼管を、焼入開始から外
面温度が〔Ms+400℃〕より低くMsより高い温度まで強冷
却後、冷却終了時の1/2 以下の平均熱伝達係数にてMs未
満で〔MsとMfの中間温度〕より高い温度まで冷却後、Mf
以下まで管内面平均冷却速度8℃/秒以上で冷却し、80%
以上のマルテンサイト組織とし、焼戻す方法。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、マルテンサイト系
ステンレス鋼管、とくに耐炭酸ガス腐食性と耐硫化物応
力腐食割れ性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼管
を、焼き割れを発生させることなく製造する方法に関す
る。
【0002】
【従来の技術】マルテンサイト系ステンレス鋼は容易に
高強度が得られるため、強度と耐食性が要求される種々
の用途に広く使用されており、とくに近年においては石
油や天然ガス採取用の油井管として大いに使用されてい
る。石油や天然ガスを採取する油井環境はますます過酷
なものとなっており、採掘深さの増大にともなう高圧化
に加えて湿潤な炭酸ガスや硫化水素、塩素イオンなどの
腐食性成分を高濃度で含む井戸も多くなっている。それ
にともない、高強度化の要求とともに、腐食性成分によ
る腐食やそれによる材料の脆化が大きな問題となり、耐
食性の優れた高強度油井管の必要性が高まってきた。
【0003】こうした背景の下、マルテンサイト系ステ
ンレス鋼は硫化水素による硫化物応力腐食割れに対する
抵抗性は十分ではないものの、炭酸ガス腐食に対しては
優れた抵抗性をもつため、比較的低温の湿潤な炭酸ガス
を含む環境下で広く用いられてきた。その代表的なもの
として、API(米国石油協会)が定めるL80グレー
ドの13%のCrを含有する化学組成の油井管が挙げら
れる。これは重量%で、C:0.15〜0.22%、S
i:1.00%以下、Mn:0.25〜1.00%、C
r:12.0〜14.0%、P:0.020%以下、
S:0.010%以下、Ni:0.50%以下およびC
u:0.25%以下を含む油井管であり、主に硫化水素
分圧が0.003気圧以下の比較的低温の湿潤な炭酸ガ
スを含む環境下で広く用いられている。
【0004】マルテンサイト系ステンレス鋼は、上記A
PIのL80グレードの13%Cr鋼も含めて、一般に
焼入れ焼戻しを施して使用される。しかし、この13%
のCrを含む鋼のマルテンサイト変態開始温度(以後、
Ms点と記す)は300℃程度と低合金鋼に比べて低
く、加えて硬化能が大きいために焼き割れに対する感受
性が高い。とくに、鋼管を焼入れた場合には、板材や棒
材の場合に比べて複雑な応力分布を生じ、通常の水焼入
れを行うと焼き割れを起こす場合が多い。このため、空
冷、強制空冷あるいはミスト冷却といった冷却速度の非
常に遅い方法を採る必要がある。しかし、この方法では
焼き割れは防止できても冷却速度が遅いため、生産性が
悪いことに加えて、耐硫化物応力腐食割れ性をはじめと
して種々の特性が劣化してしまうという問題があった。
【0005】そこでこのような問題を解決するため、特
定の化学組成を有するマルテンサイト系ステンレス鋼を
特定の冷却条件で焼入れたり、マルテンサイト系ステン
レス鋼の化学組成を改善する発明が提案されてきた(特
開昭63−149320号公報、特公平1−14290
号公報、特開平2−236257号公報、特開平2−2
47360号公報、特開平4−224656号公報な
ど)。
【0006】このうち、特開昭63−149320号公
報には、低温靭性の向上のためマルテンサイト系ステン
レス鋼管の熱処理において溶体化後、空冷以上の冷却速
度で焼入れる方法が提案されている。しかしながらこの
提案の実施例では依然として空気を冷却媒体とする冷却
方法が採用されているだけであり、また、急冷したとき
の焼き割れ対策について全く言及されていない。
【0007】また、上記の特公平1−14290号公報
には油井管を溶体化処理後、1〜20℃/秒の冷却速度
で冷却すると応力腐食割れ感受性が低下することが開示
されている。しかし、この冷却速度は、焼入れ組織をマ
ルテンサイト組織とせずに、均一なフェライトと炭化物
の混合組織にするためのものであり、したがって、マル
テンサイトの硬さを活用できないために強度が低いとい
う問題があった。さらに、この発明の実施例に示されて
いる急冷は、マルテンサイト系ステンレス鋼棒の熱処理
としてJISG4304(1981)に規定されている
油焼入れ(油冷)をそのまま用いたものである。油焼入
れ方法は、800℃〜500℃付近の「高温領域」では
水ほどではないにしても比較的大きな冷却能をもつが、
300℃程度以下のいわゆる「低温領域」での冷却能は
小さいという欠点をもつ。そのため耐食性、とくに耐硫
化物応力腐食割れ性が劣るという問題がある。また、急
冷したときの焼き割れ対策については言及されていな
い。
【0008】さらに、上記の特開平2−236257号
公報、特開平2−247360号公報および特開平4−
224656号公報などにおいては、焼入れ方法によら
ずに耐硫化物応力割れや焼き割れの問題を解決するため
に、従来のマルテンサイト系ステンレス鋼を改良した低
Cの化学組成を有する、いわゆる「スーパー13Cr」
と称される各種の鋼やその製造方法が提案されている。
しかしながら、このような方法はいずれも高価な合金元
素を添加するのでコストの上昇が著しいという問題があ
る。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、とく
に高価な合金元素を添加しなくとも、耐炭酸ガス腐食性
と耐硫化物応力腐食割れ性(以下、これらをあわせて単
に「耐食性」という場合がある)をともに備えたマルテ
ンサイト系ステンレス鋼管を焼き割れの発生なしに製造
する方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明者は、上記の課題
を解決するため研究を重ねた結果、化学組成は従来の成
分系のままでも熱処理方法を変更すれば、高い耐炭酸ガ
ス腐食性と耐硫化物応力腐食割れ性を付与しながら、同
時に焼き割れを生じない高強度マルテンサイト系ステン
レス鋼管の製造が可能であることを確認した。
【0011】本発明は下記のマルテンサイト系ステンレ
ス鋼管の製造方法を要旨とする。
【0012】(1)重量%で、C:0.1〜0.3%お
よびCr:11〜15%を含有するマルテンサイト系ス
テンレス鋼管の焼入れにおいて、焼入れ開始温度から外
面温度が、〔Ms点−30℃〕より低く〔Ms点とMf
点の中間温度〕より高い任意の温度になるまで空冷する
第1冷却と、そののち引き続いて外面温度がMf点以下
になるまでの温度域を管内面の平均冷却速度が8℃/秒
以上となるように管外面を強冷却する第2冷却とからな
る2段階の冷却を行い、組織の80%以上をマルテンサ
イトとし、そののち焼戻しを行うマルテンサイト系ステ
ンレス鋼管の製造方法(〔発明1〕とする)。
【0013】(2)重量%で、C:0.1〜0.3%お
よびCr:11〜15%を含有するマルテンサイト系ス
テンレス鋼管の焼入れにおいて、焼入れ開始温度から外
面温度が〔Ms点+400℃〕より低くMs点より高い
任意の温度になるまで管外面を強冷却する第1冷却を行
い、そののち引き続いて、外面での第2冷却における平
均熱伝達係数を第1冷却終了時の1/2以下として、外
面温度がMs点未満で〔Ms点とMf点の中間温度〕よ
り高い任意の温度になるまで第2冷却を行い、引き続い
て外面温度がMf点以下になるまでの温度域を管内面の
平均冷却速度が8℃/秒以上となるように管外面を強冷
却する第3冷却を行う3段階の冷却を行い、組織の80
%以上をマルテンサイトとし、そののち焼戻しを行うマ
ルテンサイト系ステンレス鋼管の製造方法(〔発明2〕
とする)。
【0014】ここで、熱伝達係数とは焼入れ中に鋼管外
面から奪われる熱流束(J/ (秒・m2)=W/m2 )を
外面温度と冷却媒体温度との差で割った値をいい、焼入
れ装置、焼入れ媒体(水、油など)と鋼管外面の状態で
決まり、また温度にも依存し、一般に低温ほど大きくな
る。平均熱伝達係数とは、対象とする温度域、すなわち
〔発明2〕の第2冷却の開始温度〜停止温度での熱伝達
係数の平均値をいう。
【0015】熱伝達係数あるいは平均熱伝達係数は、冷
却において単位面積・単位時間あたりの水量によって制
御することができる。
【0016】図1(a)は、上記の〔発明1〕の焼入れ
における鋼管の外面温度の変化を模式的に表した図面で
ある。また、図1(b)は、上記〔発明2〕の焼入れに
おける鋼管の外面温度の変化を模式的に表した図面であ
る。
【0017】図2は、〔発明2〕の焼入れにおける管内
面および管外面の冷却曲線を例示する図面である。
【0018】次ぎに本発明の技術的背景について説明す
る。その内容は下記の〜に集約される。
【0019】硫化物応力腐食割れ感受性は引張強さが
高いほど増大し、降伏強さには依存しない。したがっ
て、引張強さを高めることなく降伏強さを向上できれ
ば、降伏強さに基づいて設計する油井管の高強度化を実
質上実現できる。これは結果的に、降伏比(降伏強さ/
引張強さ)を高めることになる。
【0020】同じマルテンサイト鋼であっても、マル
テンサイト系ステンレス鋼の降伏比は低合金鋼に比べて
低い場合があるが、これはマルテンサイト系ステンレス
鋼の場合には焼入れ後に残留オーステナイトが微量存在
し、焼戻しによってこの残留オ−ステナイトが柔らかい
フェライトに分解するためである。また、分解時に同時
に生成する炭化物は、耐食性を劣化させる。
【0021】この残留オーステナイトを低減するため
には、焼入れ速度を従来の空冷に比べ大幅に増大させる
必要がある。
【0022】焼入れにおいてオーステナイトをほとん
ど残留させずにマルテンサイト変態させるためには、M
s点からMf点(マルテンサイト変態終了温度を指す。
以後、同じ。)までの温度域における平均冷却速度を8
℃/s以上とする必要がある。Ms点からMf点までの
温度域のうち、とくにオーステナイトの残留に影響する
のは、〔Ms点とMf点の中間温度〕である〔(Ms点
+Mf点)/2〕からMf点までの温度域であり、鋼管
をその外面から強制冷却する場合には、この温度域を鋼
管の内面の平均冷却速度にて8℃/秒以上で冷却する必
要がある。〔(Ms点+Mf点)/2〕を、単に、中間
温度という場合がある。
【0023】この温度域を強冷することにより、オース
テナイトの残留を防止でき、同時に耐食性劣化も防止す
ることができる。
【0024】上記の鋼管内面での冷却速度8℃/秒と
いう値は、油焼入れによって通常のマルテンサイト系ス
テンレス鋼管を冷却したのでは得られない。
【0025】つぎに、マルテンサイト系ステンレス鋼管
を、上記の冷却条件(内面の冷却速度8℃/秒以上)
を満足させるような焼入れ方法、例えば水焼入れのよう
な強冷処理によっても焼き割れを起こすことなく焼入れ
を行うためには、下記に示す方法が適切であることを確
認した。
【0026】鋼管がマルテンサイト変態する温度域に
て鋼管の肉厚方向の温度差をできるだけ小さくして、マ
ルテンサイト変態に伴って発生する応力(この場合変態
応力)をできるだけ小さくする。
【0027】そのためには外面温度がMs点より高い
温度域から鋼管を強冷却しないことが必要である。ま
た、たとえMs点以下となってもMs点直下から強冷を
開始した場合には、厚肉鋼管では変態応力を十分に低減
できず、より低い温度まで強冷却の開始を遅くする必要
がある。しかし、鋼管をこれらの低温度域にまで空冷す
ることは焼入れ時間を増加させるので、望ましいとはい
いがたい。ただし、焼き割れ感受性が非常に高い鋼、例
えばCが高めの鋼の焼入れには、焼入れに時間がかかっ
てもやむを得ない場合もある。
【0028】鋼管の残留応力を低減し、かつ、焼入れ
冷却時間を短縮するためには、焼入れ開始時に鋼管外面
を強冷却し、鋼管外面温度が〔Ms+400℃〕以下で
Ms点より高い任意の温度にまで低下した時点で停止
し、そののち弱冷却し、外面温度がMs点以下で中間温
度より高い任意の温度になった時点から再び強冷却する
ことが有効である。
【0029】さらに鋼管の外面からの冷却において鋼
管を回転させながら冷却することによって、温度の均一
性が得られ、焼き入れで生じる管の曲がりを防止でき
る。
【0030】本発明は上記〜の事項を組み合わせる
ことにより完成された。
【0031】
【発明の実施の形態】つぎに、本発明の作用効果につい
て説明する。なお、成分元素量における「%」は「重量
%」を意味する。
【0032】1.化学組成 耐炭酸ガス腐食性と耐硫化物応力腐食割れ性をともに具
備したマルテンサイト系ステンレス鋼管の化学組成とし
て、C量とCr量のみを下記の範囲に制限する。その他
の合金成分およびその含有量は、後記するようにマルテ
ンサイト組織が80%以上を占め、耐食性が良好なマル
テンサイト系ステンレス鋼であるかぎり任意でよい。
【0033】C:0.1〜0.3% C量が0.1%未満ではδフェライトが多量に生成して
所望の強度と耐食性が得られず、一方、C量が0.3%
を超えると、本発明の方法によって焼入れしてもオ−ス
テナイトの残留が避けられず耐食性が劣化するばかり
か、本発明方法を適用しても焼き割れを阻止できなくな
るので、0.1〜0.3%とする。
【0034】Cr:11〜15% Cr量は11%未満では耐食性が劣化し、一方、15%
を超えるとδフェライトが生成して所望の組織が得られ
ず強度と耐食性がともに劣化するので11〜15%とす
る。
【0035】2.組織 所望の強度と耐食性をともに具備するためには、マルテ
ンサイト系ステンレス鋼管の組織は80%以上のマルテ
ンサイトから成ることが必要である。マルテンサイトが
80%未満では所望の降伏強さを得ることができないか
らである。ここで組織の量(%)は光学顕微鏡観察によ
る面積率のことをいう。ところで「組織がマルテンサイ
ト80%以上である」というのは、全組織がマルテンサ
イト(マルテンサイト100%)であっても良く、20
%未満の他の組織が存在しても良いことを指す。なお本
発明は前記したように残留オ−ステナイトを抑制したも
のであり、したがって、マルテンサイト以外の組織とは
大部分のδフェライトとC量増加に伴い増える少量の残
留オーステナイトを指す。
【0036】組織が80%以上のマルテンサイトから成
るマルテンサイト系ステンレス鋼管を得るための化学組
成としてのCおよびCr以外の他の化学成分の組成につ
いては、例えば、Si:0.01〜1%、Mn:0.0
1〜1%、Mo:0〜3%、Ni:0〜5%、solA
l:0.001〜0.1%、N:0〜0.1%、Nb:
0〜0.5%、Ti:0〜0.5%、V:0〜0.8
%、Cu:0〜2%、Ca:0〜0.01%、Mg:0
〜0.01%およびB:0〜0.01%を含有し、残部
はFeと不可避的不純物からなり、不純物としてのP:
0.1%以下、S:0.05%以下のものであれば良
い。
【0037】3.焼入れ時の冷却速度 焼入れ時にオーステナイトを残留させないためには、マ
ルテンサイト変態時の冷却速度を管理することが重要で
ある。より正確には、マルテンサイト変態が半ば進行し
た中間温度からMf点までの冷却速度が重要であり、オ
ーステナイトの残留を防ぐためには、少なくとも中間温
度からMf点までの温度域を内面での冷却速度8℃/秒
以上で冷却する必要がある。本発明の対象とするマルテ
ンサイト系ステンレス鋼のMs点は、200℃〜300
℃であり、Mf点はC含有量によって変化し、およそ常
温〜150℃である。残留オーステナイトの防止の観点
からは、上記の温度域を含めば、急冷する温度域を広げ
て、例えばMs点からMf点以下または常温以下までを
鋼管内面での冷却速度8℃/秒以上にて冷却しても、も
ちろんかまわない。
【0038】なお、前記のMs点からMf点までの温度
域での内面での平均冷却速度の上限はとくに制限される
ものではなく、冷却設備が許容する範囲で大きな冷却速
度で冷却してかまわない。
【0039】また、Ms点とMf点は、鋼の化学組成を
ベースにした計算値や実際に変態曲線を測定したデータ
から決定すれば良い。このようにして求めたMs点やM
f点は、実際の値と比較して大きな相違はなく、本発明
の実施上問題を生じることはない。
【0040】4.焼入れ前の加熱温度 焼入れ前の加熱温度はオ−ステナイト粒が粗大化せず、
しかも前記したδフェライトの量が20%に達しない温
度域、例えば900℃〜1100℃を選べば良い。焼入
れ開始温度は、通常、焼入れ前加熱温度と同じ温度か、
または、加熱装置から焼入れ装置に到るまでの温度降下
分(50℃以下)を差し引いた温度である。
【0041】焼入れ方法は、いわゆるオフラインでの焼
入れだけでなく、熱間加工後に素材の保有する熱を利用
して、あるいはライン中で再加熱して、そのまま焼入れ
を実施する、いわゆる直接焼入れによってもよい。
【0042】5.焼入れにおける冷却方法 つぎに、焼入れによる残留応力の発生機構について説明
する。鋼管の冷却パターンを以下の(イ)〜(ニ)の4
つに分けて説明する。
【0043】(イ)焼き入れ開始温度から常温まで強冷
却した場合 管外面を強冷却した場合、肉厚方向に温度勾配が発生す
る。高温から鋼管の外面を冷却した場合、上記肉厚方向
の温度差によって、外面側で引張り、内面側で圧縮の熱
応力を生じる。焼入れ初期の、材料がまだ高温の状態に
ある間に上記の熱応力が生じると、熱応力が材料の降伏
応力を超え、外面側に伸びの、また、内面側に圧縮の塑
性変形が発生する。その後冷却が進行するにつれて、肉
厚方向の温度差が減少するために、熱応力は外面側で圧
縮、内面側で引張りに転じる。
【0044】さらに、肉厚方向に温度差のついたまま外
面側がMs点以下になると、外面側のみ変態膨張が生じ
るために、外面側の圧縮応力および内面側の引張り応力
を増加させ、外面側に圧縮、内面側に引張りの塑性変形
を起こす。上記内外面の変態膨張の差によって生じる応
力を変態応力と呼ぶ。さらに焼入れが進行し、内面側が
外面側よりも遅れて変態膨張を開始すると、外面側は引
張り応力、内面側は圧縮応力に変化する。したがって、
外面側は焼入れままのマルテンサイトという靱性が低い
組織になったのち、大きな引張り応力を受けることにな
り、鋼管外面に割れが発生しやすくなる。
【0045】(ロ)Ms点より高い温度で強冷却を停止
し、そののち空冷した場合 焼入れ開始初期に強冷却し、Ms点より高い温度域で冷
却を停止した後空冷する場合は、強冷却停止後、復熱現
象によって内外面の温度差が消失するので、この段階で
外面圧縮、内面引張りの熱応力となる。このまま内外面
にほとんど温度差を発生させないままに小さな冷却速度
で変態温度域を通過し常温に至るので、この場合は変態
応力は発生せず、復熱時に発生した熱応力がほぼそのま
ま残留応力となる。この場合には焼き割れは発生しな
い。ただし、変態温度域、とくに変態低温域は空冷で通
過するので冷却速度が本発明の要件を満たさないため
に、従来の空冷焼き入れ材以上の耐食性の向上は期待す
ることはできない。
【0046】(ハ)Ms点直上まで空冷し、そののち強
冷却した場合 この場合、上記(イ)や(ロ)で生じた焼入れ初期の熱
応力による塑性変形は発生せず、鋼管の残留応力は変態
応力でほとんど決定される。この場合も、外面側が先に
変態膨張し、外面圧縮、内面引張りの塑性変形が発生
し、その後、内面側が遅れて変態膨張するために、最終
的に外面側に引張りの残留応力を生じる。このため焼き
割れの防止は期待できない。
【0047】(ニ)Ms点以下まで空冷し、そののち強
冷却した場合 この場合も、残留応力の発生形態は上記(ハ)と同様で
ある。しかし、Ms点以下にまで空冷しているために、
内外面で温度差のほとんど無いまま、ある程度変態が進
行することになり、内外面がほぼ均等に変態膨張する。
このあと強冷却によって変態応力が生じるが、既にある
程度マルテンサイト変態が進行しているために、内外面
の変態の進行差による膨張歪みの差は上記(ハ)の場合
に比べて小さく、最終残留応力の値も小さくなる。この
場合、“適切な強冷開始温度”を選べば、最終の残留応
力が小さくなり焼き割れの発生を防止することができ
る。また、強冷後の冷却速度が本発明の8℃/秒以上を
満たせば耐食性の確保も期待することができる。ただ
し、強冷開始温度まで空冷で冷却するために焼入れ時間
が増加するという欠点を持つ。
【0048】上記の“適切な強冷開始温度”は、実験の
結果、つぎの温度であることが判明した。
【0049】すなわち、“〔Ms点−30℃〕より低い
温度”から強冷却すれば残留応力がほとんど発生せず、
したがって焼き割れを発生しない。いいかえれば、強冷
開始温度とMs点との差(以後、ΔTと表記)が30℃
を超えれば最終の残留応力はほとんどゼロとなり焼き割
れを発生しない。
【0050】図4は、外面周方向残留応力に及ぼす強冷
開始温度、したがって△Tの影響をあらわす図面であ
る。同図から△Tが30℃のとき残留応力は約200M
Paであり、30℃を超えれば外面周方向残留応力が殆
どゼロになることがわかる。
【0051】例えば、Ms点が290℃、またMf点が
100℃の13%Crマルテンサイト系ステンレス鋼と
すれば、Ms点とMf点の中間温度(=(Ms+Mf)
/2)は195℃である。したがって、中間温度での△
Tは、95℃であり、この温度付近から強冷却を開始し
ても残留応力を大きく発生させることはない。マルテン
サイト変態はMs点近傍で急速に進行するので、残留応
力を発生させない強冷開始温度が中間温度より高くなっ
てもMs点より十分低ければよい。
【0052】次に、上記した(イ)〜(ニ)に基づい
て、〔発明1〕および〔発明2〕の焼入れにおける残留
応力抑制機構について説明する。
【0053】(A)〔発明1〕の焼入れ法の場合(図1
(a)参照):〔発明1〕における残留応力の発生機構
は、上記の(ニ)において冷却開始温度とMs点との差
△Tを30℃より大きくとった場合に該当する。すなわ
ち図1(a)において、第1冷却(空冷)停止温度5は
〔Ms点−30℃〕より低い、温度5は同時に第2冷却
開始温度でもあり、中間温度2よりも高い。したがっ
て、上記のように残留応力はほとんど発生せず、焼き割
れが生じることはない。同時に、中間温度2より高い温
度5から第2冷却(強冷却)に移行するので、残留オー
ステナイトを抑制でき耐食性の劣化も防止できる。第2
冷却において、内面での冷却速度を8℃/秒以上とした
のは、それより小さな冷却速度では内面での残留オース
テナイトの抑制ができないからである。冷却速度の上限
はとくに設けず、冷却速度の許容する範囲で大きな冷却
速度で冷却してよいのは上記したとおりである。
【0054】(B)〔発明2〕の焼入れ法の場合(図1
(b)参照):〔発明2〕の場合、焼き入れ開始時の強
冷却(第1冷却)によって、(イ)に記載したように、
熱応力によって外面側に引張り塑性変形がまず生じる。
そのあと第2冷却として、Ms点よりも高い温度11で
強冷却を弱冷却に切り替えることにより復熱現象により
肉厚方向の温度差の低減を行う。冷却を第2冷却(弱
冷)に切り替える温度11は、外表面の温度が基準とな
る。すなわち、外表面がMs点を下回れば変態応力が発
生するので、その後復熱させても残留応力の低減は期待
できない。したがって、第2冷却に移る時の外表面の温
度11はMs点より高くする。
【0055】第1冷却において高温域で引張り塑性変形
を生じさせるために、焼入れ開始温度から〔Ms点+4
00℃〕より低い温度域まで外表面を冷却する必要があ
るので、第2冷却開始温度11は〔Ms点+400℃〕
より低くする。通常、本発明の対象となる鋼のMs点
は、200℃〜300℃であるので、第2冷却開始の外
表面温度11の上限は、大体700℃〜600℃の見当
となる。
【0056】さらに、第2冷却では第1冷却で発生した
温度差を復熱によって低減するために、平均熱伝達係数
を第1冷却終了時の1/2以下と限定する。このため、
第2冷却では鋼管の冷却速度は、とうぜん第1冷却より
も小さくなるので、第2冷却の開始時の外面温度11を
できるだけMs点に近づけることが、熱処理時間を短縮
するうえで望ましい。また、第2冷却の熱伝達係数の下
限は特に制限しないが、空冷よりも大きな冷却速度を得
る熱伝達係数とすることが熱処理時間の短縮にとって望
ましい。
【0057】〔発明2〕の場合、第1冷却で外面側に引
張り塑性変形を発生させた後、第2冷却での冷却速度を
空冷よりも大きな値として、肉厚方向にある程度の温度
差がついたままMs点を通過させる。このとき、第1冷
却で生じた塑性伸びが、第2冷却中に発生する変態応力
に起因する塑性変形を吸収する。このため短い焼入れ時
間にもかかわらず、残留応力を小さな範囲に抑えること
ができる。〔発明1〕と〔発明2〕の相違はここにあ
る。
【0058】第3冷却でふたたび強冷却を行うが、この
必要性はすでに述べた通りであり、第3冷却開始温度1
2はMs点よりも低く、同時に中間温度より高くなけれ
ばならない。ここで、第3冷却開始の上限温度が〔発明
1〕における第2冷却の上限よりも高くできる理由は第
1冷却で生じた塑性伸びが第3冷却中に発生する変態応
力による塑性変形を吸収するためである。
【0059】この第3冷却での冷却速度は、薄肉鋼管の
場合などのように第2冷却での冷却速度が8℃/秒以上
となる場合(薄肉であるために、平均熱伝達係数を第1
冷却終了時の1/2以下としても、なお内面での冷却速
度が8℃/秒以上となる場合)には、とくに第2冷却よ
りも強冷却する必要はなく、第2冷却と同じ冷却手段に
てそのまま冷却を継続しても良い。ただし、熱処理時間
の短縮のためには第3冷却の冷却速度を第2冷却のそれ
よりも増加させることが望ましい。〔発明2〕によれ
ば、以上の機構によって残留応力をきわめて小さく抑え
て焼き割れを防止するとともに、耐食性を確保し、しか
も熱処理時間を大幅に短縮することが可能である。
【0060】第2冷却や、第3冷却での好ましい平均熱
伝達係数は、下記のおよびを両方とも満足するかぎ
り、第1冷却の熱伝達係数の大きさとΔTとを考え併せ
て、鋼管の肉厚毎に自由に選ぶことができる。
【0061】第2冷却における外表面での平均熱伝達
係数が第1冷却のそれの1/2以下 第3冷却での内面の冷却速度が8℃/秒以上 図5は〔発明2〕における管外面周方向残留応力に及ぼ
す第3冷却開始温度の影響をあらわす図面である。図5
に示すように、第3冷却開始温度が上昇するにつれ、す
なわち△Tが0に近づくにつれ残留応力は増加するが、
増加の勾配は〔発明1〕における第2冷却開始温度に対
する増加の勾配よりも緩やかである。
【0062】また、図5から肉厚が増加すれば残留応力
が増加することがわかる。同じ冷却条件の下では、残留
応力と肉厚はほぼ比例する。
【0063】図5において、残留応力を焼き割れの発生
を防止するのに十分な値である200MPa(図4に示
したように△T=30℃として〔発明1〕の方法を用い
た場合に生じる値でもある)以下に抑えるためには、肉
厚5.5mmの場合、第3冷却開始温度12を267℃
以下、また、肉厚6.5mmの場合、264℃以下にす
ればよいことがわかる。この第3冷却開始温度の上限は
第2冷却の平均熱伝達係数Hbまたは第3冷却平均熱伝
達係数Hcに応じて選定することができる。つぎにその
方法を肉厚5.5mmの場合を例にして説明する。な
お、第1冷却の熱伝達係数Haは、原則として第1冷却
の平均熱伝達係数を表すが、とくに第1冷却終了時の熱
伝達係数を表示する場合がある。
【0064】図6は、第2冷却開始温度を350℃と
し、第1冷却の熱伝達係数Haを7000W/(m2
K)として、種々の第2冷却および第3冷却の平均熱伝
達係数HbおよびHcで冷却した場合の残留応力が20
0MPaとなる第3冷却開始温度を有限要素法によって
計算した結果を示す。図6より、Hb(横軸)とHc
(縦軸)を決めれば外面周方向残留応力が200MPa
となる第3冷却開始温度が求められる。この第3冷却開
始温度を図6から回帰式として数式化すると、つぎのよ
うになる。
【0065】 残留応力200MPaとなる第3冷却開始温度(℃)=Ms(℃)+6.4−0. 0154Hb(W/(m2・K))−0.00276Hc(W/(m2・K)))・・・・・・・(a ) したがって、HbやHcを現実に可能な範囲内に設定し
て、図6またはその近似式である上記(a)式に基づい
て第3冷却開始温度を設定することができる。
【0066】図7は外面周方向残留応力に及ぼす第1冷
却の熱伝達係数の影響をあらわす図面である。ここで横
軸は7000W/(m2 ・K)を1として表示してあ
る。図7に示すように第1冷却の熱伝達係数を増加させ
れば外面周方向残留応力は減少するので、第1冷却の熱
伝達係数を増加させることにより第3冷却開始温度を図
6に示す温度より高くすることも可能である。
【0067】ただし、第1冷却の熱伝達係数は大きけれ
ば大きいほど第3冷却開始温度を高くでき冷却時間の短
縮を図れるからよいというものではなく、第1冷却から
第2冷却への冷却切り替えの制御の精度、鋼管を室温に
まで冷却し終えるまでの全冷却時間などを考慮すれば望
ましい範囲が定まる。すなわち、Haが大きすぎると管
外面を所定の温度にまで冷却する第1冷却の冷却時間は
必然的に短くなる。第1冷却終了時の管外面温度をMs
点以上に保つためには、制御の誤差を考慮して、第1冷
却時間とHaを決める必要がある。また、第1冷却は強
冷却なので終了時には管肉厚方向に大きな温度勾配を生
じている。Haが大きいほどこの温度勾配は大きくな
り、したがって、第1冷却において管外面を所定の温度
にまで冷却したとき、肉厚平均温度はHaが大きいほど
高くなる。したがって、Haが大きすぎるとかえって第
2〜3冷却を含めた全冷却時間を増加させるのである。
【0068】全冷却時間を短縮するためには、とくに第
2冷却の冷却時間を短くすることが重要である。したが
って、第2冷却開始温度として、(Ms+60℃)〜1
00℃の温度域、即ち第1冷却終了時の熱伝達係数Ha
として5000〜10000W/(m2 ・K)の範囲が
最も好ましく、この熱伝達係数は2列スリットラミナ冷
却で0.3〜1.0m3 /(min・m)の水量を供給
したときの熱伝達係数に相当する。
【0069】図8は第3冷却における管内面冷却速度に
及ぼす第3冷却開始温度と第3冷却における平均熱伝達
係数の影響を示す図面である。図8より、肉厚5.5m
mにおいて第3冷却の内面冷却速度で8℃/秒を確保す
るためには、Hcは1860W/(m2 ・K)以上必要
であることが分かる。
【0070】第2冷却においては、積極的に水冷を行わ
なくても空気の対流および放射冷却が存在し、Ms点近
傍では空冷によるこの熱伝達係数は35W/(m2
K)程度と見積もることができる。よって、前記(a)
式にHb=35W/(m2 ・K)、Hc=1860W/
(m2 ・K)を代入すれば、第3冷却開始温度の上限は
大略Ms点となることが分かる。
【0071】残留応力は肉厚に比例することから、肉厚
が5.5mmよりも小さい場合には残留応力を200M
Pa以下に抑えるための第3冷却開始温度の上限はMs
点よりも少し高く設定することは可能である。しかし、
肉厚5.5mmが現在のところの高強度油井管の最小肉
厚であること、将来的に更に薄肉の鋼管を焼入れること
があってもマルテンサイト変態応力の肉厚方向の均一性
をより向上させるということからは、第3冷却開始温度
をMs点以下に抑えることが望ましく、本発明の第3冷
却開始温度の上限をMs点とした。
【0072】なお鋼管を外面から強冷却する装置はとく
に限定されるものではなく、管の周方向に多数のノズル
を有するスプレーリングを管の長さ方向に多数配置した
装置や、管上方に配置したスリットラミナーノズルから
ラミナーフローを流下させて冷却する装置などを用いれ
ば良い。また、スプレーリングからなる冷却装置を用い
る場合、鋼管を回転させることは必ずしも必要ではない
が、ラミナーフロー冷却装置を用いる場合は、冷却によ
って生じる管周方向の温度むらを低減するために、前記
したように鋼管を40回転/分(rpm)以上の回転速
度で回転させることが望ましい。
【0073】6.焼戻し 本発明の方法によって焼入れされたマルテンサイト系ス
テンレス鋼管は、APIのL80の規定により、593
℃以上Ac1 点以下の温度で焼戻しされて所望の特性を
付与される。なお良好な耐食性付与のためには焼戻しの
温度は650℃以上であることが望ましい。この焼戻し
後の冷却は空冷以上の冷却速度で行うことが望ましく、
冷却速度が大きければ大きいほど靭性が向上する。
【0074】さらに、焼戻しの後にホットストレートナ
で矯正する処理を行っても前記マルテンサイト系ステン
レス鋼管の特性に何ら問題は生じない。
【0075】
【実施例】つぎに実施例によって、本発明の効果を説明
する。
【0076】表1は実施例に用いた供試鋼管の化学組成
をあらわす表である。この鋼のMs点は290℃、Mf
点は100℃である。したがって、〔Ms点+400
℃〕は690℃、〔Ms点−30℃〕は260℃、また
中間温度(〔Ms点+Mf点〕/2)は195℃であ
る。同表に示す化学組成のマルテンサイト系ステンレス
鋼を溶製し、通常のマンネスマン製管法によって、外径
151mm、肉厚5.5mm、長さ15mのマルテンサ
イト系ステンレス鋼管を製造した。
【0077】表2のうち、「マルテンサイト量および焼
き割れ発生の本数」以外の欄は、この鋼管に焼入れを行
う際の冷却条件をまとめたものである。上記の鋼管から
長さ1mの試験鋼管を切り出し980℃に加熱した後、
これら表に示す各冷却条件につき100本ずつ焼入れを
実施した。表2において、試番1〜試番3(〔発明1〕
の例)の第1冷却の熱伝達係数Haは、空冷の熱伝達係
数であり、回転速度40〜80rpm、管内面温度25
0℃の場合、およそ35W/(m2 ・K)である。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】図3は、ラミナーフロー冷却装置により管
を焼入れている様子をあらわす管軸に垂直な断面図であ
る。図3(a)は強冷却を行う場合を、また、図3
(b)は〔発明2〕における弱冷却を行う場合をあらわ
す。焼入れは、同図に示すように、ラミナーフロー冷却
装置を用いて、鋼管を回転ロール24にて40rpmの
速度で回転させつつスリットラミナーノズル22に鋼管
1mあたり0.5m3 /(min・m)の水量を供給す
ることによって実施した。この水量での管外表面の平均
熱伝達係数は、表面温度300℃において約9000W
/(m2 ・K)、350℃において約7000W/(m
2 ・K)、400℃において約5800W/(m2
K)である。
【0081】下部スプレー25は〔発明2〕の焼入れに
おいて、第2冷却を実施するために使用する。〔発明
1〕における第2冷却と〔発明2〕における第1冷却お
よび第3冷却にはラミナーフロースプレー22を使用
し、下部スプレー25は使用しない。第1冷却と第2冷
却との切り替えは、管上部に配置したシャッター23で
ラミナーフロー冷却水を遮断すると同時に下部スプレー
に通水することによって行い、第2冷却と第3冷却の切
り替えはその逆を行うことによって実現した。
【0082】また、あらかじめ行った鋼管の冷却試験に
おいて、管内面に熱電対を貼り付け冷却中の管内面の温
度を実測した。この実測結果により精度検証を行い十分
な精度を有することを確認した数値解析方法により、個
々の焼き入れ条件における管外面の温度および内面の冷
却速度を予測した。〔発明2〕のように第1冷却におい
て強冷却を行う場合は、第1冷却から第2冷却(弱冷
却)への切り替え時点を、管外面温度が350℃になっ
た時点と定め、この予測した管外面温度変化に基づいて
切り替える時間を決定した。
【0083】また第2冷却と第3冷却(強冷却)の切り
替えも同様にして外面温度を予測し、△Tを種々変えて
実験を行った。また、冷却速度は、管内面での冷却速度
を実測し予測した冷却速度を確認した。表2に記載する
冷却速度は、実測値であり、第3冷却の温度域での平均
値である。
【0084】鋼管は焼入れ後、目視で焼き割れの有無を
判定され、その後730℃で焼戻し処理を施され強度と
耐食性が調査された。表2の焼き割れ発生の本数の欄
は、各焼入れ条件ごとの試験鋼管100本のうち焼き割
れを生じた本数を表す。
【0085】耐食性は、耐炭酸ガス腐食性と耐硫化物応
力腐食割れ性が同時に評価できるノッチ付き4点曲げ試
験にて実施した。
【0086】図9の(a)はその4点曲げ試験片を、ま
た、(b)は曲げ変形を負荷する治具に装着された4点
曲げ試験片の状態を示す。この曲げ変形はノッチ付き試
験片に試験片中央部で降伏強さの100%の曲げ応力を
付加するようにした。治具に装着された試験片を5%食
塩水に30気圧の炭酸ガスと0.005気圧の硫化水素
を飽和させた25℃の溶液中に200時間浸漬し、割れ
の有無を調査した。
【0087】表3は引張試験における降伏強さ、引張強
さおよびノッチ付き4点曲げ試験結果を表す一覧表であ
る。
【0088】
【表3】
【0089】同表において、本発明例である試番1〜試
番13は、中間温度からMf点までの温度域で内面での
平均冷却速度を8℃/秒以上とした焼入れを行ったた
め、焼き割れを発生することなく、降伏比が大きく、か
つ耐食性も良好な結果が得られている。本発明方法
(〔発明1〕および〔発明2〕)を適用することによ
り、焼き割れの防止と耐食性の飛躍的向上とを同時に達
成できることが明らかである。
【0090】一方、試番14および試番15のように、
焼入れ中、一定水量を供給して冷却した場合、焼き割れ
が発生する。また、試番15のように平均冷却速度が8
℃/秒を下回る水焼入れ方法では降伏比が低く、耐食性
も劣っている。さらにこの場合には、焼き割れも発生し
ている。
【0091】試番16および試番17の従来例では、焼
き割れは生じないが降伏比が低く耐食性は悪い。一方、
通常の浸漬処理により油焼入れした試番18の従来例で
も、焼き割れこそ生じないが、平均冷却速度が8℃/秒
を下回るため降伏比が低く、耐食性も劣っている。
【0092】
【発明の効果】本発明によれば、高価な合金元素を添加
しなくても優れた耐食性を有する高強度のマルテンサイ
ト系ステンレス鋼管を焼き割れを生じさせずに製造する
ことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は、〔発明1〕の焼入れにおける鋼管の
外面温度の変化を模式的に表した図面である。また、
(b)は、〔発明2〕の焼入れにおける鋼管の外面温度
の変化を模式的に表した図面である。
【図2】〔発明2〕の焼入れにおける管内面および管外
面の冷却曲線を例示する図面である。
【図3】ラミナーフロー冷却装置により管を焼入れてい
る様子をあらわす管軸に垂直な断面図である。図3
(a)は強冷却(〔発明1〕の第2冷却および〔発明
2〕の第1冷却および第3冷却)を行う場合を、また、
図3(b)は弱冷却(〔発明2〕の第2冷却)を行う場
合をあらわす。
【図4】〔発明1〕における管外面の周方向残留応力に
及ぼす第2冷却開始温度および外面水量の影響をあらわ
す。
【図5】〔発明2〕における管外面周方向残留応力に及
ぼす第3冷却開始温度および肉厚の影響をあらわす。
【図6】〔発明2〕において肉厚5.5mmの鋼管を冷
却したとき残留応力が200MPaとなる第2冷却平均
熱伝達係数Hb、第3冷却平均熱伝達係数Hcおよび第
3冷却開始温度の関係を示す。
【図7】〔発明2〕における肉厚5.5mmの管外面周
方向残留応力に及ぼす第1冷却平均熱伝達係数(700
0W/(m2 ・K)を1として表示)の影響を示す。
【図8】〔発明2〕における肉厚5.5mmの第3冷却
の管内面冷却速度に及ぼす第3冷却開始温度および第3
冷却平均熱伝達係数の影響を示す。
【図9】(a)はノッチ付き4点曲げ試験片を、また、
(b)は同試験片を4点曲げ試験治具に装着した状態を
示す。
【符号の説明】
1…温度〔Ms点−30℃〕 2…温度〔Ms点とMf点の中間温度〕 3…〔発明1〕における第1冷却 4…〔発明1〕における第2冷却 5…〔発明1〕における第1冷却の停止温度および第2
冷却の開始温度 6…温度〔Ms点+400℃〕 7…Ms点 8…〔発明2〕における第1冷却 9…〔発明2〕における第2冷却 10…〔発明2〕における第3冷却 11…〔発明2〕における第1冷却の停止温度および第
2冷却の開始温度 12…〔発明2〕における第2冷却の停止温度および第
3冷却の開始温度 21・・鋼管 22・・スリットラミナーノズル 23・・シャッター 24・・回転ロール 25・・下部スプレー

Claims (2)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】重量%で、C:0.1〜0.3%およびC
    r:11〜15%を含有するマルテンサイト系ステンレ
    ス鋼管の焼入れにおいて、焼入れ開始温度から外面温度
    が、〔Ms点−30℃〕より低く〔Ms点とMf点の中
    間温度〕より高い任意の温度になるまで空冷する第1冷
    却と、そののち引き続いて外面温度がMf点以下になる
    までの温度域を管内面の平均冷却速度が8℃/秒以上と
    なるように管外面を強冷却する第2冷却とからなる2段
    階の冷却を行い、組織の80%以上をマルテンサイトと
    し、そののち焼戻しを行うことを特徴とするマルテンサ
    イト系ステンレス鋼管の製造方法。
  2. 【請求項2】重量%で、C:0.1〜0.3%およびC
    r:11〜15%を含有するマルテンサイト系ステンレ
    ス鋼管の焼入れにおいて、焼入れ開始温度から外面温度
    が〔Ms点+400℃〕より低くMs点より高い任意の
    温度になるまで管外面を強冷却する第1冷却を行い、そ
    ののち引き続いて、外面での第2冷却における平均熱伝
    達係数を第1冷却終了時の1/2以下として、外面温度
    がMs点未満で〔Ms点とMf点の中間温度〕より高い
    任意の温度になるまで第2冷却を行い、引き続いて外面
    温度がMf点以下になるまでの温度域を管内面の平均冷
    却速度が8℃/秒以上となるように管外面を強冷却する
    第3冷却を行う3段階の冷却を行い、組織の80%以上
    をマルテンサイトとし、そののち焼戻しを行うことを特
    徴とするマルテンサイト系ステンレス鋼管の製造方法。
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CN97105475A CN1092239C (zh) 1996-06-05 1997-06-03 钢管的冷却方法
EP97401265A EP0811698B1 (en) 1996-06-05 1997-06-05 Method of cooling a steel pipe
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Cited By (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2003531731A (ja) * 2000-04-28 2003-10-28 エリオット ターボマシナリー カンパニー インコーポレイテッド ろう付け方法およびそれから製造された製品
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