【発明の詳細な説明】
高性能細胞培養バイオリアクターおよび方法
〔発明の分野〕
本発明は、中空繊維バイオリアクターに関する。さらに詳しくは、本発明は新
規な高性能バイオリアクターおよびその利用方法に関する。
〔発明の背景〕
先行技術のバイオリアクターは、通常、一本のタイプの中空繊維を介して培地
を灌流する。このようなバイオリアクターの様々な欠点には、細胞塊が不均一な
こと、代表的細胞増殖サンプルの調達が困難なこと、酸素添加が不十分なため低
性能であること、および酸素レベルをコントロールできないことなどが含まれる
。さらに、ミクロ環境因子たとえばpHを効率的にコントロールできない。また、
細胞の混合または同時培養が不可能である。
定義
明細書および請求の範囲において、次の用語は以下の意味を有する。
HPBr- 高性能バイオリアクター
毛管外スペース(ESC)--中空繊維により占拠されないバイオリアクターカー
トリッジ内のスペース。
毛管内スペース(ICS)--バイオリアクターにおける中空繊維の内腔により画
成されるスペースの合計。
OXY-1--カリフォルニア州92680、タスチン、シュート 106、フランクリンアベ
ニュー 14272のユニシンテクノロジー社(UniSyn Technologies Inc.,14272 Fr
anklin Avenue,Suite 106,Tustin,California 92680)から入手可能である中
空繊維酸素添加器。OXY-1バイオリアクターは、マット状に編まれた0.2 μm孔径
のポリエチレン中空繊維を有する。ガス交換のための活性表面積は、1ft2である
。
BR110--ユニシンテクノロジー社から市販されている小さな中空繊維バイオリ
アクター。BR110中空繊維の材質はセルロースであり、分子量カットオフ(MWc)は
10kDである。細胞増殖のための活性表面積は1.5ft2である。
ミクロマウス(Micro Mouse)BR110--ユニシンテクノロジー社から市販されてい
る、ガス交換のためのICSループに一定の長さのシリコーンチューブを有するBR1
10バイオリアクターを備えた滅菌使い捨てバイオリアクター装置。
セル-ファーム(Cell Pharm)1000--ユニシンテクノロジー社から市販されてい
る中空繊維バイオリアクター装置。セル-ファーム1000システムは、コントロー
ラー、pHセンサ、ガス混合コントロール能力、培地貯蔵部、ヒーターおよび蠕動
性ポンプおよびピンチバルブを含む。
MAb--モノクロナール抗体
三菱酸素添加繊維--日本の三菱から入手可能な中空繊維の0.2 μm孔径ポリプ
ロピレン一本ストランド。
グルコース利用速度(GUR)−当該サンプルを取得する一日前のバッチ式供給シ
ステム中の栄養培地からグルコースが消費される速度(単位は、単位時間当たり
の量、たとえばgm/日)。これは、以下のように導かれる:
GUR=F(Gf−G)+V(G1−G),G=(G1+G2)/2
ここで、GfはIC培地供給におけるグルコース濃度(すなわち、-4.1g/L); G1
は、当該サンプルを取得する前日のIC再循環培地におけるグルコース濃度(g/L
);G2は、当該サンプル取得日IC再循環培地におけるグルコース濃度(g/L);F
は、IC培地供給速度(L/日);Vは、貯蔵部におけるIC培地の容量(L)である。
乳酸塩生成速度(LPR)−グルコースを消費しながら、乳酸塩(またはむしろ乳酸
)が嫌気的に生成する速度。したがって、酸素は反応に関係することなく、グル
コース一分子が乳酸塩二分子を作る。乳酸塩生成速度(LPR),g/日は、次のように
定義される:
LPR=[F(L−Lf)+V(L−L1)]x0.09,L=(L1+L2)/2
ここで、Lfは毛管内(IC)培地における乳酸塩濃度(すなわち、0.1mM)であり;L1
は当該サンプルを取得した前日のIC再循環培地における乳酸塩濃度(mM)であり;
L2はIC再循環培地における乳酸塩濃度(mM)である。
〔発明の概要〕
非効率的な酸素添加によって、中空繊維細胞培養装置の効率は集中的に制約さ
れることがわかった。本発明は、先行技術の装置と比べて著しく向上した栄養培
地への酸素添加を達成する、新規なバイオリアクターを提供するものである。
本発明よれば、栄養培地は、酸素添加中空繊維の外側束で囲まれた、これと同
軸の内部通路を介して供給される。内側培地通路は、一本の培地多孔性チューブ
または培地供給中空繊維の内部束により提供される。外側繊維束、すなわち酸素
添加繊維束の外面は、細胞物質の混合、生成細胞のサンプリングまたは採取を容
易にするために、バイオリアクターハウジングの内壁から離間されている。
本発明の高性能バイオリアクターは特に、商業目的での生体分子の製造に使用
される昆虫細胞のような、高度の酸素感受性細胞の増殖に適している。
〔高性能バイオリアクターの構成〕
本明細書のこの部分は、図1-10を参考にして、本発明を実施するバイオリアク
ターの構成について本発明者が現在知っている最も良い形態を記載する。
〔図面の簡単な説明〕
図1は、本発明のバイオリアクターの模式図である。
図2は、図1で示すバイオリアクターの、実質的に同一である二つの端部の一
方の断面図である。
図3は、効率的および寸法合わせ可能な組立(scaleable fabrication)を可能
にする、高性能バイオリアクターの中空繊維ハウジングおよび重要な部品を表し
ている。
図3Aは、図3の中空繊維ハウジングの側面図である。
図4は、注封材料(potting compound)を用いた金型内での図3の組立を示す。
図5は、金型から取り出した後のカートリッジの注封端部を示し、過剰の接着
剤および繊維の除去のために、指示された二つのカットマークを有する。マスク
成分は犠牲にされ、過剰の接着剤とともに除去されることは注意すべきである。
中空繊維ガイドは、中空繊維ハウジングの端部シールの永久部品として接着剤中
に埋め込まれたままである。
図6は、バイオリアクターカートリッジの切断端部を示す。
図7は、二重口ヘッダーを含む最終組立品であり、これは繊維の内部束へ培地
を供給し、繊維の外側同軸環へ酸素含有ガスを供給するための手段を提供するも
のである。
図8は、繊維ガイドの詳細な尺度図である。この部品は二つのタイプの繊維を
まとめる手段を提供するもので、中心繊維束を、繊維の外部束のものとは別の口
部へ封入することができる。
図9は、犠牲となるマスクの詳細な尺度図であり、これは繊維ガイドの口部に
わたって嵌合して、中心繊維束口部を封止するためのきれいな表面を提供する。
図10は、繊維の中心束へ培地を供給し、これとは別に外側繊維へ酸素含有ガス
を供給するための二重口ヘッダーの詳細な尺度図である。
〔発明の詳細な説明〕
図1を参照して説明すると、バイオリアクター10は、その導入端部および取出
端部に、ほぼ同一のヘッダー12および13を備えたハウジング11を含んでいる。ヘ
ッダー12および13は、酸素含有ガスおよび培地を導入し、取出すための口部14、
15、16および17を有する。
図2は、内側培地供給繊維束23と同軸の、外側酸素添加繊維束22を示している
。酸素添加束22の外周は、ハウジング11の内壁から間隔24をあけて離間されてい
る。ヘッダー口部14および16は、酸素添加束22へ酸素含有ガスを導入し、また酸
素含有ガスを取出すように適合されている。ヘッダー口部15および17は、栄養培
地供給束22へ栄養培地を通過させ、またここから栄養培地を除去するように適合
されている。
生成細胞またはたんぱく質を、口部18,19,20または21を通してスペースからサ
ンプリングおよび回収する。播種細胞を、口部18,19,20または21を通して導入す
ることもできる。
本発明を実施するバイオリアクターを組み立てる好ましい方法は、主要な6工
程を含んでいる。これを図3-10を参照しながら説明する。
1.必要な本数のストランドを有する繊維トウ(fiber tows)から、長さ43/4
インチの繊維束を作る。各束の端をテープで包み、これにより繊維をしっかり固
定する。
2.図3で示すように、繊維ガイド(10a)およびマスク(10b)を有するジャケ
ット(10)を組み立てる。
3.セルロース繊維束を、1800 RPMおよび52℃で20分間予備加熱および予備
紡糸して、過剰のグリセリン加工助剤を除去する。セルロース繊維を、図3Aで示
すジャケット組立品の各端部において、繊維ガイドの中心の孔へ注意深く挿入す
る。同様に、繊維ガイドの三つの側面の孔を通して、酸素添加繊維の三つの束を
入れ、確実にこれらが緩く収容されるようにする。さらに、束を65℃で14-18時
間乾燥する。
4.温かいジャケット/束組立品を、図4で示すように注封金型に入れて束
の固定していない端部を包む。この組立品を、アプリケーターにおいて予め混合
したポリウレタン樹脂とともに、遠心分離機へ入れる。組立品全体を、1500RPM
にて50-60分間、38-45℃にて回転する。
樹脂を、口部18および20、または19および21のいずれかを介してジャケット組
立品(10)へ入れる。
5.図5に示す二本の切断線に沿って、ジャケット/束組立品の注封した端
部で温かい硬化樹脂を切断する。マスク(図3における10b)に沿って切断片を除
去し、繊維ガイド(図3に示す10a)の清潔な表面を暴露する。この表面はヘッダ
ーを止めるのに関係する。
6.ヘッダーは、マスクを除去することにより暴露する清潔な表面およびジ
ャケット(10)の外側リムへ、ポリウレタン樹脂を施した後に取り付けられる。室
温で24時間硬化を行う。
培地供給繊維タイプ
中空繊維は、本発明の範囲内であるチューブ状製品の特定の群に対応する。し
たがって、外側で増殖する細胞への栄養培地の灌流を可能にしつつ、再循環(ICS
)ループへ組み込まれることのできる何れかの多孔性チューブまたは繊維も、本
発明に含まれる。以下は、本発明に使用するのに好ましいチューブまたは繊維の
例
である:
(i)透析、限外濾過およびミクロ濾過特性を有する中空繊維およびチューブ
、すなわち(a)分子量カットオフ(MWc)が1kDから1,000kD;および(b)孔径範囲が0
.01μm-5.0μmのもの。
最も好ましい範囲は、10 kD MWcおよび約1μmまでの孔径である。
(ii)構造物の材料には、ポリマー、グラファイト、セラミック(多孔性ガラ
スファイバーを含む)および金属(たとえば、ステンレススチール)が含まれる。
一般的には、ポリマーには良好な物理的特性(たとえば、引っ張り強度、溶融温
度およびガラス転移温度)を有することが要求される。これらにはセルロース、
ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスルホン(および他の機械工業用熱可塑性
樹脂)、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、様々なポリマーブ
レンド等が含まれる。
特に好ましい培地供給繊維は、10-1,000kDのMWcおよび孔径0.01-1.0μmのセル
ロースポリマーから得たものである。
酸素添加繊維タイプ
中空繊維は、本発明における酸素添加のために選択されるただひとつの環形状
物である。これらの中空繊維は、多孔性または非多孔性の何れであってもよい。
酸素添加のための多孔性中空繊維は、代表的には疎水性(ポリエチレン、ポリプ
ロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(テフロン)等)である。非多孔性中空繊
維の例(これらに限定するものではないが)には、シリコーンおよびシリコーンコ
ポリマーチューブが含まれる。これらは、典型的には中実(solid)の壁構造体を
通過する高いガス透過性を有する。
多孔性の疎水性中空繊維は、孔径が0.01-0.5μmの範囲である場合に、ガス交
換に関して最も効果的である。最適には、孔径は0.1-0.2 μmの範囲である。
特に好ましい酸素添加繊維はポリプロピレンから作られ、孔径は0.15μmであ
る。
操作の検討
HPBrは、バイオリアクタージャケットの中心に位置する中空繊維束または他の
環状構造体の内腔(またはICS)を介して、栄養培地を再循環する手段を備えてい
る。これらの中空繊維またはチューブは、その透過性について選択され、また場
合によってはその表面特性(たとえば、親水性または疎水性)について選択される
。これら構造体の多孔性壁を通って灌流された培地は、ECS内に播種した細胞を
浸す。
O2/CO2ガス混合物を、中心に配置した中空繊維またはチューブと同軸に位置す
る内腔チューブまたは中空繊維の束を介して、HPBrへ供給する。ガス混合物は、
培地の流れと反対に流れる。一つの重要な操作パラメーターは、酸素添加繊維に
おけるガス圧である。最適圧力は使用する繊維のストランドの数、およびECS中
を灌流する培地の圧力の関数である。たとえば、180本の三菱製ポリプロピレン
繊維を有する実施例で記載されているバイオリアクターの実施態様は、泡立ち点
>2.5-3 psiを示した。540本の酸素添加繊維を有するHPBrについては、泡立ち点
は約2psiに近かった。細胞の塊が増加し、細胞が繊維に直接付着するにつれて
、泡立ち点は増加する傾向になるであろう。
表1は、例IIで記載したHPBrの二つのタイプ(すなわち、タイプIおよびII)に
ついて、酸素添加繊維の数と培地繊維の数との間の関係を示す。比較のために、
さらに別の二つのHPBr構造(タイプIIIおよびIV)、およびOXY-1/BR110の組み合わ
せが含まれている。その数字は、酸素添加繊維表面積の培地繊維表面積に対する
比が増加すると、酸素添加効率もまた細胞培養に利用可能な毛管外スペースを犠
牲にして増加することを示す。
HBRタイプIVは、本発明に含まれるさらに極端な例であり、ここでは環状細胞
培養スペースは従来のBR110バイオリアクターの範囲内である。ECS11.8mlは、BR
110またはOXY-1について、約70%(最大)繊維充填密度から予測される範囲内で
ある(全く繊維が存在しない注封ジャケットにおける最大スペースは約22mLであ
る)。実施例IIに記載されている態様について、酸素添加繊維/培地繊維の表面積
比の範囲は、0.03から5.5の間である。好ましい範囲は0.7から2.6の間である。
このデータが示すように、本発明は、その中で細胞が培養され、そして比較的少
数の多孔性中空繊維または大きな多孔性チューブ(たとえばグラファイトチュー
ブ)により培地が供給される、酸素添加装置に関する。
ガス組成は、ECSで作られる細胞増殖のためのミクロ環境において、酸素添加
の効率性ならびにpHを定めるのに重要である。pHの効果を示す実証的データを実
施例IIに示す。本発明は、pHを、これまで可能であったよりも正確に、必要な最
適範囲にモニターしコントロールすることができる。
バイオリアクターにおいて、外側の大部分の酸素添加繊維とジャケットの内壁
との間に、環状スペースを準備する。このスペースは、細胞塊を含むために特別
に設計された、ECSの一部分である。この培養スペースは、バイオリアクターを(
最適に)定期的に前後に(120°まで)回転させる場合に、混合を促進する。さら
に、これにより生成物(特に、たとえば細胞治療用のための完全な生存細胞のサ
ンプリングおよび回収が容易になる。このスペースはまた、固定化依存性(ancho
rage dependent)細胞のための微粒子担体を、HPBrに含ませることを可能にする
。このことが重要である特定の場合としては、細胞治療用の造血幹細胞の培養が
挙げられる。幹細胞は、固定化依存性間質細胞(内皮細胞を含む)が存在するとよ
り良好
に増殖する。しかしながら、幹細胞は固定化非依存性である。それゆえ、微粒子
担体に固定された間質細胞は幹細胞と同時培養することができる。したがって、
このようにして作られたミクロ環境は、幹細胞の長期にわたる生体外増殖(ex-vi
vo expansion)という従来実現されなかった目的を促進するであろう。この細胞
培養スペースによって、細胞の高収率および生存性が達成される。
最後に、様々な細胞タイプの増殖および分化に重要な、高価な増殖因子および
サイトキンを比較的少量添加することにより、さらにミクロ環境に適合させるよ
うにすることができる。
本発明の重要で新しい特徴には、夫々独立または組み合わせた状態で、次のも
のが含まれる。即ち、一つのジャケットにおけるガス供給繊維vs培地供給繊維の
比較的高い比率;ガスの組成、圧力および流速による、酸素添加およびpHのコン
トロール;大きな細胞塊を増殖するため、並びに微粒子担体を含むための毛管外
スペースを提供するための、比較的低い繊維充填密度;多孔性チューブまたは中
空繊維を使用して培地を供給し、また多孔性または非多孔性中空繊維を同軸上に
配置して酸素添加ガスを供給する。
異なった材料から作られた二つの異なったタイプの中空繊維を使用する。これ
は本発明の実施例により提示される。
一つのタイプの繊維(たとえば微孔性ポリプロピレン)は、それぞれの束におけ
る培地灌流およびガス交換が圧力を調節することにより達成され、コントロール
される場合に利用される。固定化非依存性細胞が非常に高密度で培養される場合
の適用では、細胞が繊維上ではなく、主に懸濁液中で増殖するので、疎水性繊維
が好ましい。
培地供給が、一本の多孔性チューブまたは一つの中空繊維束により与えられる
ようにしてもよい。
中空繊維またはチューブ表面へコーティングを施すと、細胞の付着に影響を及
ぼす(陽性または陰性のいずれか)。たとえば、バイオリアクター繊維上にインビ
ボ被覆された、細胞間の結合組織に見られる細胞マトリックス分子は、内皮細胞
およびチャイニーズハムスター(CHO)細胞のような固定化依存性細胞の付着を促
進する。活性アミノ酸配列[アルギニン-グリシン-アスパラギン酸]を含む他
の分子、いわゆるマトリックス分子に見られる″RGD″もまた、この利点を提供
する。HPBr表面に塗布された細胞マトリックス分子は、造血幹細胞への効率的遺
伝子導入を導くミクロ環境を促進する。
固定化依存性細胞のための表面積の追加は、ECSにおける培養スペースへ微粒
子担体を導入することにより達成される。異なった細胞種(たとえば幹細胞と間
質細胞)を同時培養して、相乗的利益を得ることができる。
ECS(またはICS)への酸素担体(特にヘモグロビンおよびペルフルオロ化学品エ
マルジョン)の添加によって、細胞への酸素供給を正確にコントロールし、かつ
細胞塊を迅速に増殖させる能力は著しく向上する。
実施例I
15日間の細胞培養実験二回を、ユニシンセルファーム1000中型バイオリアクタ
ーシステムにおいて、IgG1モノクロナール抗体を分泌する3C11ハイブリドーマ細
胞系を用いて実施した。実験1において、三つのユニシンBR110バイオリアクタ
ーカートリッジ(1.5ft2セルロース中空繊維)には、酸素マストランスファーのた
めにユニシンOXY-1酸素添加器(1ft2,0.2 μm孔径ポリエチレン酸素添加繊維)を
装備した。実験2において、三個の高性能バイオリアクター(HPBr)の同じ大きさ
のカートリッジ(#1、#2および#3)を、3C11細胞培養におけるHPBrの能力を評価
するために設けた。これらのHPBrは全て、450本のセルロース中空繊維(10kD M.W
.カット-オフ)を有するが、#1および#2は異なった量の酸素添加繊維(マット形状
、OXY-1において使用のように)を有し:また、#3は504本のポリエチレン酸素添
加繊維を有していた。
図11は、実験1で使用した、一つのOXY-1カートリッジを有する三個のBR110カ
ートリッジについての流路模式図である。培地再循環速度は、培地再循環蠕動性
ポンプのRPMを設定することにより確定された。CO2および空気を含む混合ガスを
、ガス蠕動性ポンプを用いることにより、向流酸素添加器を通して、バイオリア
クターのICSループ中で再循環している培地へ導入した。pHの検量線作成および
温度プローブを、操作マニュアルにしたがって行った。ICS培地のpHを7.0〜7.4
の範囲にコントロールするために、セルファーム1000のコントロールユニットに
よって、混合ガス中のCO2比率を自動的に調節した。また、このコント
ロールユニットは、一定温度37℃に維持した。図12は、実験2における三個のHP
Brカートリッジについての流路模式図である。実験2に関連するICS培地流路に
ついては何の変更もない。しかしながら、ガス流路の変更が計画された。これに
は、混合ガスの供給ラインを三個のHPBrおよび培地貯蔵部の両方に連結すること
が含まれる。現行のセルファーム1000のこの大まかな変更は、ガスの流れおよび
逆圧の最適コントロールをもたらさないことは注意すべきである。ガスの供給ラ
インをICS再循環培地貯蔵部と繋ぐと、セルファーム1000システムコントローラ
ーによるpHコントロールが容易になる。
すべてのチューブ、フィルター、プローブおよび貯蔵部、新規瓶および廃棄瓶
を含む全流路を、液状サイクルにおいて30分間120℃でオートクレーブした。最
終的な組立品には、バイオリアクターカートリッジをセルファーム1000システム
へ組み込むことが含まれる。汚染度チェックおよびシステムフラッシュを24時間
行うようにセットして、滅菌、グリセリンの除去(セルロース繊維のための加工
助剤)を確実に行い、システムの安定性に配慮する。
培地条件:
(i)ICS--5%牛胎児血清(FBS)+1%ペニシリン/ストレプトマイシン+2%
グルタミン、DMEM 1000 mL中
(ii)ECS--20% FBS+1%ペニシリン/ストレプトマイシン+2%グルタミン、D
MEM 1000 mL中
BR110およびHPBrを含む各バイオリアクターカートリッジに、18ゲージ針を付
けた二本の滅菌した10mLシリンジを用いて、ECSへ同じ3x108個の細胞(90%以上生
存)を播種した。一つのシリンジは、5mL ECS培地および細胞を含んでいる。第二
のシリンジは空で、播種の間に置換された培地を集めるのに使用する。
生成物を播種方法と同様の方法で採取した。採取は、一般的には一週間に三回
、各々10mLずつ行い、このセルファーム1000システムについての標準的操作手段
を細胞培養を維持するために毎日続けた。
細胞培養システムにおける方法パラメーターは、グルコース吸収、乳酸塩製造
、NH3製造、MAb製造およびICS培地の灌流速度をモニターするように設定された
。与えられたいずれかの時点で、中空繊維バイオリアクターに存在する細胞塊を
直
接判定することはできないので、MAb製造を、実験1および2における二つのタ
イプのバイオリアクター中での酸素マストランスファーの効果を測定するための
手段とみなしてもよい。採取物におけるMAb濃度は放射状免疫拡散分析(radial i
mmunodiffusion assay)により分析され、バイオリアクターのICSからサンプルと
して取り出したグルコース、乳酸塩およびNH3は、コダック社のエクタケムアナ
ライザー(Kodak Ektachem Analyzer)を用いて分析された。灌流速度は、新規瓶
の培地レベルを測定することにより決定された。初期灌流速度は240mL/日であり
、実験が終了するまでに、グルコース濃度(これが1.5 g/L程度に低くなるまで)
または乳酸塩濃度(これが20mM程度に達するまで)の何れかにしたがって、最大10
00ml/日まで段階的に増やした。
3C11細胞について、各HPBrカートリッジ(実験2)における累積的MAb生産を、図
13における各BR110(実験1)のものと比較する。乳酸塩製造速度のグルコース消費
速度に対する比は、酸素マストランスファーの効果を評価する指標として開発さ
れた。この比は、実験1に比べると実験2において著しく低かった(図4で示され
る)。これらの結果は、HPBrカートリッジにおける酸素添加繊維が、増殖細胞に
対する酸素マストランスファーの抵抗減少を補助することを示している。特に、
ポリエチレン酸素添加繊維を有する他の二つのHPBrにおけるものよりより高いMA
b製造レベルを与える、三菱製の酸素添加繊維を有するHPBrカートリッジについ
て該当する。ECSにおける比較的高濃度に溶解した酸素濃度により、細胞はより
効率的に増殖するものと思われる。
実施例II
25日間の細胞培養実験(実験1)を、IgG1モノクロナール抗体を分泌する3C11ハ
イブリドーマ細胞系で行なった。試験システムは、コントロールされた条件下で
、三個のHPBrカートリッジの性能を評価するように設計された。対照として、実
験2では、ユニシンOXY-1酸素添加器を有するユニシンミクロマウスBR110小型バ
イオリアクターを使用した。実験3は、拡散による酸素マストランスファーのた
めのシリコーンチューブを有する、ユニシンミクロマウスBR110小型バイオリア
クターからなるものである。
実験1で使用した試験システムは、手動で調節される培地流路およびガス流速
および圧力で、HPBrを動作させるように設定されたものである(図14参照)。三
個のポンプヘッドを有する蠕動ポンプ組立品を使用して、100mL/分の流速で、各
HPBrを介して同じ培地再循環を与える。各HPBrのECSにおける温度は、サーモス
タットで温度をコントロールした再循環水浴中に三個の培地貯蔵部を浸漬するこ
とにより、37℃にコントロールされた。ICS培地のpHは、空気75%〜85%中のCO2で
貯蔵部における培地の上部スペースを曝気することにより、7.00-7.30の範囲に
コントロールされた。この混合ガスはまた、38mL(標準)/分の一定流速および逆
圧1.5psiで、三個のHPBrカートリッジへガスを供給するためにも使用された。
三個のHPBrカートリッジの各々は、灌流により細胞へ培地を供給するために、
450本のセルロース中空繊維を有していた。HPBr#1および#2は両方とも、180本の
三菱製の酸素添加繊維を有した。HPBr #3における三菱製酸素添加繊維の数は、#
1および#2のものより三倍ほど多かった。実験1については、汚染度チェックお
よびシステムフラッシュを、ミクロマウス操作マニュアルに見られる手引き書に
従って実施した。
実験2は、一定温度(37℃)を維持するために、オーブン中で組み立てられた。
予め混合した空気およびCO2を、BR110バイオリアクターのICSにおけるループ再
循環培地の方向とは反対方向で、約70mL(標準)/分の速度でOXY-1酸素添加器に通
した。pHを7.0−7.4の範囲にコントロールするために、CO2の空気に対する比を
、二つのガスフローメーターにおけるバルブを用いて調節した。
実験3は、一定の温度(37℃)を維持するためのCO2インキュベータ中で行われ
、またインキュベーター中ガス比をCO27%および空気93%に設定することにより、
IC培地中の一定のpH(7.0-7.2)が確立された。
培地条件:
(i)ICS--5% FBS+1%ペニシリン/ストレプトマイシン+2%グルタミン、
DMEM 1000 mL中
(ii)ECS--20% FBS+1%ペニシリン/ストレプトマイシン+2%グルタミン、
DMEM 1000 mL中
18ゲージ針を付けた二本の滅菌した10mLシリンジを用いて、ECSへ3x108個
の細胞(91%生存)を播種した。一つのシリンジは、5mL ES培地および細胞を含ん
でいる。第二のシリンジは空で、播種の間に置換された培地を集めるのに使用し
た。実験2および3の両方において、上記で説明した方法を用いて、ECSに4x108
個の細胞(95%生存)を播種した。実験2および3についての標準的操作方法が、
細胞培養を毎日維持するために続けられた。実験1については、逆圧およびガス
流速を毎日調節し、各ICS培地からサンプリングし、そして各カートリッジのECS
からの回収を行った。
細胞培養システムにおける方法パラメーターは、グルコース摂取、乳酸塩およ
びNH3の生成、並びにMAb生成をモニターするように設定された。累積MAb生成を
モニターして、実験1-3において例示した異なった酸素マストランスファー方法
の効果を測定した。
バイオリアクター用のICS培地は、グルコース濃度が2.0g/L未満に落ちたか、
或いは乳酸塩濃度が20mM以上になったときに、新しい培地と置換された。実験2
および3については、バイオリアクターのECSからのMAbの採取は、(ミクロマウ
スプロトコールにより定められているように)一週間に三回および各々につき10m
Lの量で行った。MAb生成は放射状免疫拡散分析により分析され、HPBrのECSの採
取物におけるグルコース、乳酸塩およびNH3濃度もまた分析された。HPBrのICSお
よびECSに見られるこれら細胞代謝物のレベル間の差を記録した。
図15は、各HPBrカートリッジおよび実験2および3で生成された累積IgG1を示
している。HPBr #3は、HPBr#1および#2と比較して、MAb生成に優れていることが
わかった。HPBrを実験2および3におけるBR110バイオリアクターと比較したと
きにも、同様な結論が導き出された。これは、HPBrにおける酸素添加繊維の増加
によって酸素供給が増加したために、細胞増殖およびMAb生成を著しく向上でき
ることを示唆する。また、LPRのGURに対する比がHPBr#3について計算され、他の
バイオリアクターよりもかなり低いことがわかった。これは、ECS中の増加した
酸素の存在下では、グルコースがより一層効果的に利用されることを示す。
図16は、様々なバイオリアクターについて、乳酸塩/グルコース比を比較して
いる。最も低い比はHPBr装置により示され、これらの低い値は、長期にわたる細
胞培養実験についての通常のバイオリアクターおよび酸素添加方法のものよりも
低いままである。理想的には、この比は、細胞培養実験を通して出来るかぎり0
に近くなければならず、これはグルコースの最適代謝利用を示す。
表2は、バイオリアクターおよび酸素添加器の特性の比較である。これにはま
た、これらの物理的特性の機能としての、バイオリアクター/酸素添加器の組み
合わせの相対的抗体産生能を含む。この実施態様において、酸素添加繊維の数(
または表面積)が増加し、また酸素添加器の培地繊維表面積に対する比が増加す
るにつれて、バイオリアクターの生産性もまた向上する。
図17は、HPBrで達成可能なpHコントロールのレベルを示している。表示された
特定のデータは、HPBr #3のものである。pHコントロールは、MAb生成に対するバ
イオマス生成を調節する。低pH、たとえば7.0は、細胞を指数関数的に増殖する
層に維持して、高いバイオマスを作ることを助長する傾向にある。高pH、たとえ
ば7.4は、細胞を安定な状態層に保ち、それゆえ高い生産性を示すことを助
長する傾向にある。
【手続補正書】特許法第184条の8
【提出日】1996年2月26日
【補正内容】
請求の範囲
1. バイオリアクターであって:
(a)実質的に管状の細胞培養チャンバ(該チャンバは、第一および第二
の端部、長手軸および前記チャンバへのアクセスを与えるポートを有する)を限
定する内壁を備えたハウジングと;
(b)前記チャンバの長手軸を取り囲む中央の多孔性中空繊維束(該中央
束の各繊維はそれぞれ入口端および出口端を有し、これらの入口端は軸方向に演
出した共通の液体入口ポートと流体流通している)と;
(c)前記中央束と同心円的に且つこれを取り囲んで配置された、ガス透
過性中空繊維の環状束であって、前記環状束の各ガス透過性繊維はそれぞれ出口
端および入口端を有し、これらの出口端は軸方向に延出した液体入口ポートを取
り囲む共通の環状スペースと流体流通しており、ガス出口ポートは共通の環状ス
ペースと流体流通しているガス透過性中空繊維の環状束;
とを具備したバイオリアクター。
2. 請求項1に記載のバイオリアクターであって、細胞が異様のための環状
スペースを与えるために、前記環状束が前記細胞培養チャンバの内壁から離間し
ており、前記環状スペース内の液体の混合を容易にするために、前記バイオリア
クターはその軸の周りで回転することができるバイオリアクター。
3. 請求項2に記載のバイオリアクターであって、更に、前記細胞培養のた
めの環状スペース内に複数の微小担体を具備しているバイオリアクター。
4. 請求項1に記載のバイオリアクターであって、前記多孔性中空繊維の表
面積に対する前記ガス透過性中空繊維の表面積の比が、約0.03〜約5.5であるバ
イオリアクター。
5. 請求項1に記載のバイオリアクターであって、多孔性中空繊維の中央束
が、約70%の充填密度で設けられているバイオリアクター。
6. 請求項1に記載のバイオリアクターであって、前記ガス透過性中空繊維
の環状束が、約0.01〜約0.5ミクロンの孔径を有する疎水性繊維からなるバイオ
リアクター。
7. 請求項1に記載のバイオリアクターであって、前記中央束の多孔性中空
繊維が、10kD〜1000kDの範囲の分子量を有するセルロースポリマーからな
るバイオリアクター。
8. 請求項7に記載のバイオリアクターであって、前記中空繊維が、約0.01
〜1.0ミクロンの孔径を有するバイオリアクター。
9. 請求項1に記載のバイオリアクターであって、毛管外スペースが、該バ
イオリアクターの内部容積の55〜90容量%であるバイオリアクター。
10. バイオリアクターであって:
(a)実質的に管状の細胞培養チャンバ(該チャンバは、第一および第二
の端部、長手軸および前記チャンバへのアクセスを与えるポートを有する)を限
定する内壁を備えたハウジングと;
(b)前記チャンバの長手軸を取り囲む多孔性中空繊維からなる中央束と
;
(c)前記中央束と同心円的に且つこれを取り囲んで配置された、ガス透
過性中空繊維の環状束であって、バイオリアクターが前記長手軸の周りに回転す
るときに細胞培養および混合のための環状スペースを限定するように、前記環状
束の最も外側の繊維は前記内壁から離間している環状束と;
(d)前記第一および第二の端部に設けられた、前記多孔性中空繊維を通
して栄養培地を通過させるための手段と;
(e)前記第一および第二の端部に設けられた、前記ガス透過性中空繊維
を通して酸素含有ガスを通過させるための手段;
とを具備したバイオリアクター。
11. 請求項10に記載のバイオリアクターであって、更に、前記細胞培養
のための環状スペース内に複数の微小担体を具備しているバイオリアクター。
12. 請求項10に記載のバイオリアクターであって、前記多孔性中空繊維
の表面積に対する前記ガス透過性中空繊維の表面積の比が、約0.03〜約5.5であ
るバイオリアクター。
13. 請求項10に記載のバイオリアクターであって、多孔性中空繊維の中
央束が、約70%の充填密度で設けられているバイオリアクター。
14. 請求項10に記載のバイオリアクターであって、前記ガス透過性中空
繊維の環状束が、約0.01〜約0.5ミクロンの孔径を有する疎水性繊維からなるバ
イオリアクター。
15. 請求項10に記載のバイオリアクターであって、前記中央束の多孔性
中空繊維が、10kD〜1000kDの範囲の分子量を有するセルロースポリマーか
らなるバイオリアクター。
16. 請求項15に記載のバイオリアクターであって、前記中空繊維が、約
0.01〜1.0ミクロンの孔径を有するバイオリアクター。
17. 請求項10に記載のバイオリアクターであって、毛管外スペースが、
該バイオリアクターの内部容積の55〜90容量%であるバイオリアクター。