JP7256714B2 - ベーカリー製品の口どけ評価方法 - Google Patents
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Description
しかしながら、人による感覚は、先入観や個性、嗜好性あるいは食習慣などの個人の特性(個人差)に依存し、体調や感情の変化、評価する際の環境雰囲気の影響(評価変動要因)を受けるため、客観性に欠けるという問題があった。
このような問題を解決するために、各種装置を利用して得られる測定データによりベーカリー製品の口どけを客観的に評価する試みがなされている。特許文献1(特開2014-038025)には、硬口蓋と舌の成型体を使用して咀嚼を再現し、硬口蓋と舌の成型体で圧縮された被検食品の圧縮面積により食感(口どけ感)を評価する装置が開示されている。特許文献2(特開2017-078672)では、動的粘弾性装置を用いて応力制御及び/またはひずみ制御測定により得られた値(貯蔵弾性率、損失弾性率、損失正接、流動点、流動応力、降伏点、降伏応力、法線応力差)を解析することにより、パン類喫食時にヒトが感じる口どけ特性を客観的に評価する方法が開示されている。何れも口どけ評価における主観を排除して客観性を担保した優れた技術であるが、特殊な装置や高価な装置を要するものである。
一方、ベーカリー製品の食感を評価する場合、レオロジー特性評価装置(例えばテクスチャーアナライザー)を使用して、一定の圧縮率になるようにベーカリー製品の内層(パン類であればクラム)を圧縮した際の最大荷重を測定する方法が用いられることがある(非特許文献1)。しかしながら、この方法は、基本的にベーカリー製品の内層の硬さ(あるいは柔らかさ)を測定することにより食感を評価しているものである。硬さと口どけにある程度の相関はあるものの、前記方法は必ずしもヒトが感じる口どけを反映しているとは言えず、また、硬さが近似しているベーカリー製品の口どけの優劣を評価することはできなかった。
すなわち、本発明は以下を提供する。
<1>2又はそれ以上のベーカリー製品の口どけの優劣を機械的に評価する方法であって、
以下の工程:
(1)各ベーカリー製品の試料に対し、その試料体積の30~150体積%の範囲で一定量の水を添加する、
(2)レオロジー特性評価装置を用いて、各ベーカリー製品の試料の当初厚さに対し2~20%の範囲の一定の厚さになるまで試料を圧縮して最大荷重を求め、その後圧縮を開放する、
(3)最大荷重が予め定めた基準ベーカリー製品の咀嚼物嚥下直前の荷重より小さくなるまで工程(2)を繰り返して、圧縮回数と各最大荷重との相関グラフを作成する、
(4)工程(3)で求めた各ベーカリー製品の相関グラフから、予め定めた基準ベーカリー製品の咀嚼物嚥下直前の荷重に相当する圧縮回数xを求める、
を含み、工程(4)において求めた圧縮回数xが少ないほど口どけがより良いと判断する、2又はそれ以上のベーカリー製品の口どけの優劣を機械的に評価する方法。
<2>工程(4)における「予め定めた基準ベーカリー製品の咀嚼物嚥下直前の荷重」として、下記方法により求めたヒトの嚥下直前の荷重に近似した値を用いる、<1>に記載の方法:
評価する2又はそれ以上のベーカリー製品から、基準とするベーカリー製品を選択し、前記基準ベーカリー製品の試料をヒトにより咀嚼して、嚥下直前の咀嚼物を咀嚼前の形状と相似になるように成形し、工程(2)の圧縮時の一定の厚さになるまで圧縮して最大荷重を測定し、ヒトの嚥下直前の荷重に近似した値を求める。
<3>ベーカリー製品が、パン類、スポンジケーキ類、バターケーキ類、パンケーキ類、ワッフル類、ケーキドーナツ類、及びイーストドーナツ類からなる群より選択される、<1>または<2>に記載の方法。
<4>ベーカリー製品の試料の圧縮を、5~15mm/secの速度で行う、<1>~<3>のいずれか一に記載の方法。
<5>ベーカリー製品の試料の当初厚さを、10~30mmの範囲に設定する、<1>~<4>のいずれか一に記載の方法。
<6>口どけ評価が既に知られている基準となる基準ベーカリー製品に対して、口どけの優劣を機械的に評価することにより、対象ベーカリー製品をスクリーニングする方法であって
以下の工程:
(1)基準及び対象の各ベーカリー製品の試料に対し、その試料体積の30~150体積%の範囲で一定量の水を添加する、
(2)レオロジー特性評価装置を用いて、各ベーカリー製品の試料の当初厚さに対し2~20%の範囲の一定の厚さになるまで試料を圧縮して最大荷重を求め、その後圧縮を開放する、
(3)最大荷重が予め定めた基準ベーカリー製品の咀嚼物嚥下直前の荷重より小さくなるまで工程(2)を繰り返して、圧縮回数と各最大荷重との相関グラフを作成する、
(4)工程(3)で求めた各ベーカリー製品の相関グラフから、予め定めた基準ベーカリー製品の咀嚼物嚥下直前の荷重に相当する圧縮回数xを求める、
を含み、工程(4)において求めた対象ベーカリー製品の圧縮回数x1を、基準ベーカリー製品の圧縮回数x2と比較し、x2>x1となる対象ベーカリー製品を口どけの良いベーカリー製品と判断し、x2<x1となる対象ベーカリー製品を口どけの悪いベーカリー製品と判断して、対象ベーカリー製品をスクリーニングする方法。
<7>工程(4)における「予め定めた基準ベーカリー製品の咀嚼物嚥下直前の荷重」として、下記方法により求めたヒトの嚥下直前の荷重に近似した値を用いる、<6>に記載の方法:
基準ベーカリー製品試料をヒトにより咀嚼して、嚥下直前の咀嚼物を咀嚼前の形状と相似になるように成形し、工程(2)の圧縮時の一定厚さになるまで圧縮して最大荷重を測定し、ヒトの嚥下直前の荷重に近似した値を求める。
2又はそれ以上のベーカリー製品の口どけの優劣を機械的に評価する方法であって、
以下の工程:
(1)各ベーカリー製品の試料に対し、その試料体積の30~150体積%の範囲で一定量の水を添加する、
(2)レオロジー特性評価装置を用いて、各ベーカリー製品の試料の当初厚さに対し2~20%の範囲の一定の厚さになるまで試料を圧縮して最大荷重を求め、その後圧縮を開放する、
(3)最大荷重が予め定めた基準ベーカリー製品の咀嚼物嚥下直前の荷重より小さくなるまで工程(2)を繰り返して、圧縮回数と各最大荷重との相関グラフを作成する、
(4)工程(3)で求めた各ベーカリー製品の相関グラフから、予め定めた基準ベーカリー製品の咀嚼物嚥下直前の荷重に相当する圧縮回数xを求める、
を含み、工程(4)において求めた圧縮回数xが少ないほど口どけがより良いと判断する、2又はそれ以上のベーカリー製品の口どけの優劣を機械的に評価する方法。
ベーカリー製品として具体的には、パン類、スポンジケーキ類、バターケーキ類、パンケーキ類、ワッフル類、ケーキドーナツ類、イーストドーナツ類等のベーカリー製品が挙げられる。好ましくはグルテンネットワークが形成されたものである。また、生地がイースト発酵されているソフト系パン類、ハード系パン類、イーストドーナツ類、蒸しパン類等が好ましく、ソフト系パン類、イーストドーナツ類がより好ましい。
本発明では、ベーカリー製品の示す物性として特に、ベーカリー製品を圧縮する際の最大荷重を用いることを一つの特徴としており、かかる最大荷重を測定することができる装置を用いる方法である。具体的な装置については後述する。
咀嚼とは、食物を適度な大きさに前歯で噛み切る、奥歯で噛み砕きつつ臼磨する、舌と口蓋との動きにより押し潰す、分泌された唾液と混合する、といった口の一連の動作の組み合わせにより、食物を飲み込める(嚥下できる)状態にすることである。咀嚼により、食物は、破断や変形を受け、水分(唾液)と混和され、嚥下直前の咀嚼物は嚥下するに足る適当量の水分を含有する塊になる。本発明の方法では、レオロジー特性評価装置に供するベーカリー製品試料の前処理として、あらかじめベーカリー製品試料に水分を浸透させる。これは、水分を浸透させたベーカリー製品試料を反復圧縮することにより、口腔中でベーカリー製品が唾液と混和されて咀嚼(特に押し潰す作用)されることを再現するためである。
本発明においてレオロジー特性評価装置を用いて測定される「最大荷重」とは、ベーカリー製品の試料を圧縮した時の最大応力のことである。
最大荷重は、直線運動により物質の圧縮荷重(圧縮応力)を測定することが可能な機能を具備した装置であれば測定することができ、そのような機能を具備する市販のレオロジー特性評価装置を使用することができ、そのような装置としてテクスチャーアナライザーやレオメーター等が知られている。例えば、テクスチャーアナライザー、英弘精機株式会社製が使用できる。
最大荷重を測定する際に使用するプランジャー(プローブ、冶具とも称される)は各種市販されているが、ベーカリー製品の試料への接触部が扁平(ドーム状を含む)であることが好ましい。プランジャーのベーカリー製品試料への接触部の面積は、試料の底面面積の20%以上であればよく、好ましくは30%以上であり、より好ましくは50%以上であり、更に好ましくは60%以上である。プランジャーの底面が円である場合にはその直径が20~500mmであることが好ましい。
ベーカリー製品の試料を当初の厚さの2~20%の範囲の厚さになるまで圧縮したときに、官能評価との相関が良い結果が得られる。ベーカリー製品の試料を圧縮する際の厚さの下限は、当初厚さに対し、3%以上であることが好ましく、4%以上であることがさらに好ましく、5%以上であることがよりさらに好ましい。また上限は、当初厚さに対し、15%以下であることが好ましく、12%以下であることがより好ましく、10%以下であることがよりさらに好ましい。例えば、3~15%であることが好ましく、5~10%であることがさらに好ましい。
また、圧縮速度は、装置で設定できる圧縮速度であれば特に問題なく、最大荷重の測定に支障はない。圧縮速度は、例えば、0.01~40mm/sec、さらに好ましくは5~15mm/secであり、よりさらに好ましくは7~13mm/secである。
試験ステージへベーカリー製品試料を載置する場合、容器ごと載置してもよいし、容器から当該試料を試験ステージへ移載してもよいが、移載時に水分を浸透させたベーカリー製品試料の変形や崩れを防止する観点から容器ごと載置するのが好ましい。
工程(1)で水分を浸透させたベーカリー製品の試料をレオロジー特性評価装置の試験ステージ(滑り止め加工されていることが好ましい)に載置し、プランジャー(円筒型、直径36mm)を圧縮速度0.01~40mm/secで当該試料の平面視略中央に向かって鉛直下方向に降下させ、当該試料の圧縮率が2~20%になるように圧縮し、圧縮した際の最大荷重を測定する。測定後、プローブを直ちに装置の待機位置まで戻し、圧縮された当該試料を開放する。
工程(3)において、工程(2)の圧縮、最大荷重の測定及び開放を繰り返す。圧縮と開放を繰り返すことにより、水分を含むベーカリー製品試料は徐々に変形、破断されていき、最大荷重は徐々に小さくなる。水分を含むベーカリー製品試料への圧縮、開放の繰り返しが、ヒトの咀嚼を模したものになっていると考えられる。
本明細書における「予め定めた基準ベーカリー製品の咀嚼物嚥下直前の荷重」とは、ヒトの口内においてベーカリー製品を咀嚼した後、嚥下する直前の最大荷重に近似(相当)する値を意味する。例えば、通常の食パンでは1.5~2.0kgである。
評価する2又はそれ以上のベーカリー製品から、基準とするベーカリー製品を選択し、前記基準ベーカリー製品の試料をヒトにより咀嚼して、嚥下直前の咀嚼物を咀嚼前の形状と相似になるように成形し、工程(2)の圧縮時の一定の厚さになるまで圧縮して最大荷重を測定し、ヒトの嚥下直前の荷重に近似した値を求める。
なお、上記値を求めるためのヒトパネラーは、食品の咀嚼において、嚥下するまでの噛む回数、分泌する唾液の量、舌や頬の動き、嚥下能等には個人差があり、嚥下直前の食物の状態にも個人差があることを考慮して、例えば、年齢、性別の異なる健常な10名のパネラーとすることが好ましい。
具体的な決定例を以下に挙げる。
年齢、性別の異なる健常な10名のパネラーを用意し、パネラーに基準とするベーカリー製品の試料(一辺40mm、高さ15mmの略正四角柱)を嚥下直前まで咀嚼させる。嚥下直前の咀嚼物を咀嚼前の形状と略相似になるように成形したものを、レオロジー特性評価装置を用いて、試圧縮速度10mm/secでベーカリー製品試料を圧縮した際の厚さ(厚さ1mm(当初厚さの6.7%))と同じになるように圧縮して、最大荷重を求める。
なお、基準とするベーカリー製品は、特に限定されるものではなく、試験を行う対象ベーカリー製品群から任意に選択してもよい。また、対象ベーカリー製品と同じ種別の他のベーカリー製品を選択してもよい(例えば対象ベーカリー製品が食パンであれば市販又は自家製造に関わらず任意の食パンであれよく、対象ベーカリー製品がフランスパンであれば任意のフランスパンであってもよい)。好ましくは、咀嚼物の最大荷重がベーカリー製品の累乗近似曲線の最大荷重の範囲に入る、ベーカリー製品と同じ種別のベーカリー製品である。より好ましくは、口どけを評価する複数の対象ベーカリー製品から選択される何れか1つである。
より具体的には、例えば、圧縮回数を縦軸にとり、各圧縮時の最大荷重を横軸にとりプロットして相関グラフを作成する。好ましくは、圧縮回数と最大荷重の累乗近似曲線式を求める。
工程(3)で求めた相関グラフを用いて、予め定めた基準ベーカリー製品の咀嚼物嚥下直前の荷重に対応する各ベーカリー製品の圧縮回数xを求める。具体的には例えば、各累乗近似曲線式に、基準ベーカリー製品の嚥下直前まで咀嚼した咀嚼物を用いて測定したヒトの嚥下直前の荷重に近似した値を代入し、各対象ベーカリー製品の圧縮回数xを求める。
圧縮回数xを対象ベーカリー製品間で比較し、圧縮回数xが少ない製品ほど口どけがよりよいと判断することができる。
口どけ評価が既に知られている基準となる基準ベーカリー製品に対して、口どけの優劣を機械的に評価することにより、対象ベーカリー製品をスクリーニングする方法であって、
以下の工程:
(1)基準及び対象の各ベーカリー製品の試料に対し、その試料体積の30~150体積%の範囲で一定量の水を添加する、
(2)レオロジー特性評価装置を用いて、各ベーカリー製品の試料の当初厚さに対し2~20%の範囲の一定の厚さになるまで試料を圧縮して最大荷重を求め、その後圧縮を開放する、
(3)最大荷重が予め定めた基準ベーカリー製品の咀嚼物嚥下直前の荷重より小さくなるまで工程(2)を繰り返して、圧縮回数と各最大荷重との相関グラフを作成する、
(4)工程(3)で求めた各ベーカリー製品の相関グラフから、予め定めた基準ベーカリー製品の咀嚼物嚥下直前の荷重に相当する圧縮回数xを求める、
を含み、工程(4)において求めた対象ベーカリー製品の圧縮回数x1を、基準ベーカリー製品の圧縮回数x2と比較し、x2>x1となる対象ベーカリー製品を口どけの良いベーカリー製品と判断し、x2<x1となる対象ベーカリー製品を口どけの悪いベーカリー製品と判断して、対象ベーカリー製品をスクリーニングする方法。
第二の態様では、予め定めた基準ベーカリー製品の咀嚼物嚥下直前の荷重を測定するための基準とするベーカリー製品は、基準ベーカリー製品である。そして、工程(4)で求めた対象ベーカリー製品の圧縮回数x1を、基準ベーカリー製品の圧縮回数x2と比較し、x2>x1となる対象ベーカリー製品を口どけの良いベーカリー製品と判断し、x2<x1となる対象ベーカリー製品を口どけの悪いベーカリー製品と判断することにより、対象ベーカリー製品をスクリーニングする。
この方法により、既に口どけ評価が知られている製品との関係で、対象ベーカリー製品の口どけの優劣を機械的に評価することができる。官能試験は、個人の感覚によるところが大きく、体調や感情の変化、評価する際の環境雰囲気の影響(評価変動要因)も受けることがあるため、多数の製品についても同時に同じパネラーにより評価を行う必要があるが、本発明の方法では、かかる個人の影響を受けないため、製品群の試験を全て同時に行わなくても客観的で均一な評価を行うことができる。
試料調製
クラムの硬さが異なる厚さ15mmの市販8枚切り食パン(市販品A、市販品B、市販品C)を用意した。
各食パンの内層部(クラム)をパン切り包丁で断面が潰れないように4×4cmの大きさに切り出し、略直柱体切片(底面形状:略正方形;底面積:16平方cm;体積:24立方cm)を3片ずつ得た(該切片調製と試験との間に時間差がある場合には、当該切片をビニール袋で密封保管した)。各食パンの第1の切片を底面が上下になるようにプラスティックシャーレ(直径75mm、高さ20mm)の略中央に入れ、一方は35℃の蒸留水15立方cm(水体積率:試料の62.5体積%)を滴下して蓋をし、庫内温度35℃の恒温器内で5分間静置し、第2の切片は水分を滴下することなく蓋をし、室温(24℃)で5分間静置し、最大荷重測定用の試料を調製した。第3の切片は官能評価に使用した。
直径36mmの円筒型プランジャーを装着したレオロジー特性評価装置(テクスチャーアナライザー、英弘精機株式会社製)の試験ステージにシャーレごと上記試料を載置し、圧縮速度10mm/secでその切片の厚さが1mm(圧縮率:6.7%)になるまで圧縮して最大荷重を測定した。なお、各市販食パンを7パッケージずつ購入し、各パッケージに対して試料を調製して最大荷重を測定し、平均値±標準偏差を求めた(7平行試験)。
熟練のパネラー10名により、前記各食パンの第3の切片を水分浸透させていない状態で口どけを表1の評価基準に従って評価した。なお、市販品Bの口どけを3点として基準とした。±は標準偏差である。
結果を表2に示した。水分を浸透させなかった食パン切片を圧縮した際の最大荷重を測定したところ、試料1(市販品A)<試料2(市販品B)<試料3(市販品C)の順に大きくなった(最大荷重が大きいと「硬い」、小さいと「柔らかい」ことを表す)。これは、手の触感と一致した。水分を浸透させた食パン切片では、水分を浸透させたために食パン切片が全体的に柔らかくなり、何れも最大荷重は小さくなった。試料2を基準にした場合の最大荷重の比率は、水分非浸透で0.78:1.00:1.14、水分浸透で0.45:1.00:1.52となり、食パン切片に水を浸透させることにより食パンのクラムの硬さの差をより明確に示せることがわかった。食パン切片の口どけ官能評価は、試料1が最も良く、試料3が最も悪かった。
なお、図1は、市販食パンの最大荷重を図示したものである。
食パンの製造
下記手順により食パンを製造した。
(1)小麦粉70質量部、イースト2.2質量部、イーストフード0.1質量部、水40質量部を市販の製パン用ミキサー(エスケーミキサー製、商品名「SK200」)に投入し、低速2分、中速2分ミキシングした。
(2)この生地を温度27℃、相対湿度75%の環境下で4時間発酵させて、中種生地を得た。
(3)得られた中種生地全量、小麦粉30質量部、砂糖5質量部、食塩2質量部、脱脂粉乳2質量部、水25質量部を上記ミキサーに投入し、低速2分、中速3分、高速1分間ミキシングした。
(4)ショートニング5質量部を加え、さらに低速1分、中速3分、高速7分間ミキシングし、パン生地を得た。
(5)このパン生地を温度27℃、相対湿度75%の環境下で20分間フロアタイムを取った後、カッターを用いて質量230g/個の生地に分割した。
(6)分割後、室温で20分間のベンチタイムを取り、モルダー(成形機)を用いてパン生地を成型した。
(7)この成型生地を焼き型(120mm×260mm×120mm)に投入し、温度38℃、相対湿度85%の環境下でホイロ発酵させた。
(8)こうして得られたホイロ発酵済パン生地を210℃に予熱したオーブンに入れ、210℃で30分間焼成し、プルマン型食パンを得た。
小麦粉としてイーグル、特ペリカン、紫牡丹(何れも日本製粉社製)を使用して製造した各プルマン型食パンを、パン用スライサーにより厚さ15mm(8枚切りの厚さ)にスライスし、試験例1に従って最大荷重測定用の試料を調製した。
食パンの硬さ測定及び官能評価は、試験例1に従って行った。なお、特ペリカンを使用して製造した食パン(試料5)を口どけ官能評価の3点とした。
水を浸透しなかった食パンのクラムを被験試料とした場合、イーグルを使用した食パンと特ペリカンを使用した食パンとで最大荷重の差はほとんどなく、紫牡丹を使用した食パンでは最大荷重が他の2つよりもやや小さくなり、口どけの官能評価点数との相関は認められなかった。
それに対して、水を浸透させた食パンのクラムを被験試料とした場合、試料4から試料6へと次第に最大荷重が増大し、試料5を基準にした場合の最大荷重の比率は0.67:1.00:1.16となり、口どけの良い食パンで最大荷重が小さく、口どけの悪い食パンで最大荷重が大きくなり、口どけの官能評価点数と最大荷重との間である程度の相関が認められた。
なお、図2は、硬さの差が小さい食パンの最大荷重を図示したものである。
試料調製
試験例2に従って食パンを製造した。試験例2の結果を受け、試験例1に従って最大荷重測定用の試料として水分を浸透させた試料のみを調製した。ただし、製パン原料に使用した小麦粉の原料小麦は、1CW(カナダ産ウェスタン・レッド・スプリングNo.1)(試料7)、DNS(アメリカ産ダーク・ノーザン・スプリング)(試料8)、SH(アメリカ産ハード・レッド・ウィンター(11.5))(試料9)である。
熟練のパネラー10名に、DNSを使用して製造した食パン(口どけ評価の基準)の略柱体切片(水分を浸透させていないもの、一辺40mm、高さ15mm)を嚥下直前になるまで咀嚼させ、咀嚼物をシャーレにいれて一辺4×高さ1.5の比になるように略正四角柱に成形し(咀嚼前試料の形状と略相似になるように成形し)、圧縮速度10mm/secでその咀嚼物の厚さが1mmになるまで圧縮して最大荷重を測定した。10名の咀嚼物の平均値±標準偏差を求めたところ、1.69±0.26kgであった(基準ベーカリー製品の咀嚼物嚥下直前の荷重)。
直径36mmの円筒型プランジャーを装着したレオロジー特性評価装置(テクスチャーアナライザー、英弘精機株式会社製)の試験ステージにシャーレごと上記試料7~9を載置し、圧縮速度10mm/secでその切片の厚さが1mm(圧縮率:6.7%)になるまで圧縮し、プランジャーを待機位置に戻した。基準ベーカリー製品の咀嚼物嚥下直前の荷重(1.69kg)より小さくなるまで5回反復圧縮し、各圧縮における最大荷重を測定した。食パンは各7斤ずつ製造し、試験例1同様に7並行試験し、最大荷重の平均値±標準偏差を求めた。
試験例1に従って官能評価を行った。なお、DNSを使用して製造した食パンの口どけを3点とした(口どけ評価の基準とした)。
各圧縮回数における最大荷重は表4に示し、各食パンの最大荷重と圧縮回数との累乗近似曲線式を表4の下に示した。
DNSを使用して製造した食パンの嚥下直前の咀嚼物の最大荷重は1.69±0.26kgであったので、この嚥下直前の咀嚼物の最大荷重の平均値を各累乗近似曲線式のyに代入した圧縮回数xを表4に示した。図3は表4における各食パンの最大荷重(縦軸)と圧縮回数(横軸)との関係グラフである。図4は、水分を浸透させた試料8を圧縮した状態を示す写真である。
1CW: y = 2156.7x-0.657、R2 = 0.9950
DNS: y = 2232.2x-0.614、R2 = 0.9982
SH: y = 2419.4x-0.621、R2 = 0.9909
試料調製~官能評価
試験例2に従い、食パンを製造し、最大荷重測定用の試料を調製し、最大荷重の測定及び官能評価を行った。なお、使用した小麦粉の銘柄(商品名)、砂糖及びショートニングの配合量は下記表5の通りである。嚥下直前のクラム咀嚼物の調製には試料12の食パンを使用し、口どけ官能評価の3点は試料12の食パンである(口どけ評価の基準とした)。
各圧縮回数における最大荷重を表6に示し、各食パンの最大荷重と圧縮回数との累乗近似曲線式を表6の下に示した。
試料12の嚥下直前の咀嚼物の最大荷重は1.78±0.40kgであった。この嚥下直前の咀嚼物の最大荷重の平均値を各累乗近似曲線式のyに代入した圧縮回数xを表6に示した。図5は表6における各食パンの最大荷重(縦軸)と圧縮回数(横軸)との累乗近似であり、図6は表6における各食パンの圧縮回数x(縦軸)と官能評価点数(横軸)との線形近似(本発明技術)、図7は表6における各食パンの1回圧縮時の最大荷重(縦軸)と官能評価点数(横軸)との線形近似(比較例)である。
食パン1: y = 3204.5x-0.740、R2 = 0.9985
食パン2: y = 4428.9x-0.762、R2 = 0.997
食パン3: y = 4072.8x-0.609、R2 = 0.9996
食パン4: y = 4200.2x-0.581、R2 = 0.9999
試料調製
クラムの硬さが異なる厚さ15mmの市販8枚切り食パン(市販品D、市販品E、市販品F、市販品G)を購入した。試験例1に従って最大荷重測定用の試料として水分を浸透させた試料のみを調製した。
直径36mmの円筒型プランジャーを装着したレオロジー特性評価装置(テクスチャーアナライザー、英弘精機株式会社製)の試験ステージにシャーレごと上記試料を載置し、圧縮速度10mm/secでその切片の厚さが0.15mm、0.75mm、1mm、1.5mm、4.5mm(それぞれ圧縮率1%、5%、6.7%、10%、30%)になるまで圧縮して最大荷重を測定した。なお、市販食パンを7パッケージずつ購入し、各パッケージに対して試料を調製して最大荷重を測定し、平均値±標準偏差を求めた(7平行試験)。
試験例1に従って官能評価を行った。なお、市販品Dの口どけを3点とした(口どけ評価の基準とした)。±は標準偏差である。
試験例3に従って求めた、各圧縮率における各食パンの圧縮回数xおよび官能評価点数を表7に示した。図8~12は表7における各食パンの圧縮回数x(縦軸)と官能評価点数(横軸)との関係のプロットである。
図9~11に示したとおり、圧縮率5%~10%の範囲で圧縮回数xと官能評価点数との関係(本発明)は略直線関係にあり、回帰式から求めた相関係数(R)は圧縮率5%で0.980、圧縮率6.7%で0.991、圧縮率10%で0.989であった。一方、圧縮率が1%や30%の時には法則性を見出すことができなかった。これは、水分を浸透させた各市販品のパンにおいて、圧縮率1%では著しく潰れて破断、変形したためであり、また圧縮率30%では十分に潰れて破断、変形しなかったためであると考えられた。このことから、本試験結果からは、圧縮率5%~10%の範囲で、官能評価との相関性があり精度高く客観的な評価ができることがわかった。レオロジー特性評価装置を用いて各圧縮率におけるパンの潰れる様子(変形、破断)の観察から、圧縮率は3~15%でも適用できると考えられた。
試料調製
クラムの硬さが異なる厚さ15mmの市販8枚切り食パン(市販品D、市販品E、市販品F、市販品G)を購入した。試験例1に従って最大荷重測定用試料を調製した(食パン片の体積は24立方cm)。なお、蒸留水の滴下量を4.8立方cm(20体積%)、12立方cm(50体積%)、15立方cm(62.5体積%)、19.2立方cm(80体積%)、48立方cm(200体積%)に変更した。
食パンの硬さ測定及び官能評価は、試験例1に従って行った。なお、市販品Dを口どけ官能評価の3点とした。
試験例3に従って求めた、各蒸留水の滴下量における各食パンの圧縮回数xおよび官能評価点数を表8に示した。図13~17は表8における各食パンの圧縮回数x(縦軸)と官能評価点数(横軸)との関係のプロットである。
図14~16に示したとおり、実験した水量において、滴下量が12立方cm~19.2立方cm、つまりの当初試料体積に対し50~80体積%の水分量の範囲で圧縮回数xと官能評価点数との関係(本発明)は略直線関係にあり、回帰式から求めた相関係数(R)は滴下量が12立方cm(50体積%)で0.989、滴下量が15立方cm(62.5体積%)で0.982、滴下量が19.2立方cm(80体積%)で0.987であった。一方、滴下量が4.8立方cm(20体積%)や48立方cm(200体積%)の時には法則性を見出すことができなかった。滴下量が4.8立方cm(20体積%)では、食パン切片(体積24立方cm)に水分が満遍なく行き渡らないために、水分を浸透させた食パンを圧縮しても変形、破断が不十分であっためであると考えられる。滴下量が食パン切片の体積を超える48立方cm(200体積%)では、食パン切片に吸水されずにシャーレ内に広がった余分な水分が摩擦力を低下させたために測定を阻害したためであると考えられた。これらの結果とレオロジー特性評価装置を用いて各水分滴下量におけるパンの潰れる様子(変形、破断)の観察から、食パン切片の当初体積当たり30~150体積%の水分滴下でも適用できる。特に、本試験結果発明の方法は、当初試料体積に対し、50~80体積%の水分量の範囲で、官能評価との良好な相関性があり精度高く客観的な評価ができることがわかった。
Claims (7)
- 2又はそれ以上のベーカリー製品の口どけの優劣を機械的に評価する方法であって、
以下の工程:
(1)各ベーカリー製品の試料に対し、その試料体積の30~150体積%の範囲で一定量の水を添加する、
(2)レオロジー特性評価装置を用いて、各ベーカリー製品の試料の当初厚さに対し2~20%の範囲の一定の厚さになるまで試料を圧縮して最大荷重を求め、その後圧縮を開放する、
(3)最大荷重が予め定めた基準ベーカリー製品の咀嚼物嚥下直前の荷重より小さくなるまで工程(2)を繰り返して、圧縮回数と各最大荷重との相関グラフを作成する、
(4)工程(3)で求めた各ベーカリー製品の相関グラフから、予め定めた基準ベーカリー製品の咀嚼物嚥下直前の荷重に相当する圧縮回数xを求める、
を含み、工程(4)において求めた圧縮回数xが少ないほど口どけがより良いと判断する、2又はそれ以上のベーカリー製品の口どけの優劣を機械的に評価する方法。 - 工程(4)における「予め定めた基準ベーカリー製品の咀嚼物嚥下直前の荷重」として、下記方法により求めたヒトの嚥下直前の荷重に近似した値を用いる、請求項1に記載の方法:
評価する2又はそれ以上のベーカリー製品から、基準とするベーカリー製品を選択し、前記基準ベーカリー製品の試料をヒトにより咀嚼して、嚥下直前の咀嚼物を咀嚼前の形状と相似になるように成形し、工程(2)の圧縮時の一定の厚さになるまで圧縮して最大荷重を測定し、ヒトの嚥下直前の荷重に近似した値を求める。 - ベーカリー製品が、パン類、スポンジケーキ類、バターケーキ類、パンケーキ類、ワッフル類、ケーキドーナツ類、及びイーストドーナツ類からなる群より選択される、請求項1または2に記載の方法。
- ベーカリー製品の試料の圧縮を、5~15mm/secの速度で行う、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
- ベーカリー製品の試料の当初厚さを、10~30mmの範囲に設定する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
- 口どけ評価が既に知られている基準となる基準ベーカリー製品に対して、口どけの優劣を機械的に評価することにより、対象ベーカリー製品をスクリーニングする方法であって、
以下の工程:
(1)基準及び対象の各ベーカリー製品の試料に対し、その試料体積の30~150体積%の範囲で一定量の水を添加する、
(2)レオロジー特性評価装置を用いて、各ベーカリー製品の試料の当初厚さに対し2~20%の範囲の一定の厚さになるまで試料を圧縮して最大荷重を求め、その後圧縮を開放する、
(3)最大荷重が予め定めた基準ベーカリー製品の咀嚼物嚥下直前の荷重より小さくなるまで工程(2)を繰り返して、圧縮回数と各最大荷重との相関グラフを作成する、
(4)工程(3)で求めた各ベーカリー製品の相関グラフから、予め定めた基準ベーカリー製品の咀嚼物嚥下直前の荷重に相当する圧縮回数xを求める、
を含み、工程(4)において求めた対象ベーカリー製品の圧縮回数x1を、基準ベーカリー製品の圧縮回数x2と比較し、x2>x1となる対象ベーカリー製品を口どけの良いベーカリー製品と判断し、x2<x1となる対象ベーカリー製品を口どけの悪いベーカリー製品と判断して、対象ベーカリー製品をスクリーニングする方法。 - 工程(4)における「予め定めた基準ベーカリー製品の咀嚼物嚥下直前の荷重」として、下記方法により求めたヒトの嚥下直前の荷重に近似した値を用いる、請求項6に記載の方法:
基準ベーカリー製品試料をヒトにより咀嚼して、嚥下直前の咀嚼物を咀嚼前の形状と相似になるように成形し、工程(2)の圧縮時の一定厚さになるまで圧縮して最大荷重を測定し、ヒトの嚥下直前の荷重に近似した値を求める。
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WO2018021264A1 (ja) | 2016-07-28 | 2018-02-01 | 沢井製薬株式会社 | 口腔内崩壊性を有する被検物の食感評価方法及び食感評価装置 |
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