JP6853983B2 - 生物物理学的解析に適した膜小胞の調製方法 - Google Patents

生物物理学的解析に適した膜小胞の調製方法 Download PDF

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Description

本発明は、生物物理学的解析に適した膜小胞の調製方法に関する。
エキソソームなどの細胞から分泌される膜小胞は、その表面および内部にタンパク質やmiRNAなどの様々な生体分子を含んでおり、血液、尿、唾液などの体液中に安定的に存在する。また、エキソソームが細胞間の情報伝達ツールとして重要な役割を担っていることも明らかにされている。そのため、エキソソームなどの膜小胞はバイオマーカーのリソースとして注目されており、膜小胞に含まれる生体分子情報を解析することにより、がんなどの疾患を診断しようとする研究が盛んに行われている(非特許文献1)。また、膜小胞は、生体物質から構成されているため細胞毒性がなく、かつ、安定な構造を有することから、標的組織や疾患部位へ特異的に薬物を送達するための薬物送達システム(DDS)としての利用も期待されている。
膜小胞を単離精製する方法としては、超遠心分離法が確立されている。また、近年では、膜表面上の抗原を認識する抗体や、膜を構成する脂質を認識する因子を用いるアフィニティー法により、回収効率や操作性のさらなる改善が試みられている。一方、すでに確立されたプロトコールではいずれも、膜小胞を分離するためのサンプルの調製は、リン酸緩衝液(PBS)を用いて行われている(非特許文献2、3)。細胞質基質にはタンパク質や核酸などの生体分子が混雑過密状態で存在しており(非特許文献4)、こうした細胞内環境を再現するために開発されたPBSが、膜小胞に含まれる生体分子を取り扱う上で適したものとして従来使用されている。
上記いずれの従来方法によって単離精製されたエキソソーム群も、100 nm前後の単一ピークに分布する。しかし、最近の研究により、細胞から分泌される直前または直後のエキソソームが約50 nmの粒径を有していることが電子顕微鏡解析により確認された(非特許文献5、6)。したがって、この報告からは、従来の方法により単離精製された膜小胞は、細胞から分泌された直後の状態を維持しているものではない、すなわち、インタクトではない可能性が示唆された。
"Glypican-1 identifies cancer exosomes and detects early pancreatic cancer.", Melo, S.A. et al, Nature, Vol. 523, pp. 177-182 (2015) "Isolation and characterization of exosomes from cell culture supernatants and biological fluids.", Curr. Protoc. Cell Biol., Supplement 30, Unit 3.22 (2006) 「エクソソーム解析マスターレッスン」、落谷孝広編、実験医学別冊、最強のステップUPシリーズ、羊土社、2014年 "Inside a living cell", Goodsell, D.S., Trends Biochem. Sci., Vol. 16, pp. 203-206 (1991) "Extracellular vesicles release by cardiac telocytes: electron microscopy and electron tomography", Fertig, E.T. et al., J. Cell. Mol. Med., Vol. 18, No. 10, pp. 1938-1943 (2015) "Emerging roles of exosomes in neuron-glia communication",Fruhbeis C. et al., Front. Physiol., Vol. 3, Article 119 (2012)
膜小胞は、単に生体脂質膜としての性質を有するだけでなく、固有の荷電や粒径などの物理化学的特性を有するナノコロイド粒子としての性質も有する。従来の研究は、膜小胞の構成成分を解明することを主要な目的としていたために、膜小胞のナノコロイド粒子としての特性には何ら配慮することなく膜小胞の精製単離が行われてきた。そのため、従来の研究においては、新規高感度疾患マーカーの探索や早期疾患診断方法の開発などに資する、膜小胞が有する有用かつ膨大な物理化学的情報が失われてしまっていたことは想像に難くない。
本発明は、物理化学的特性を維持したインタクトな膜小胞を分離・精製するための、膜小胞の調製方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、膜小胞のナノコロイド粒子としての特性に着目し、鋭意検討の結果、コロイド凝集剤を含まない緩衝液を用いた密度勾配遠心分離法によって、インタクトな膜小胞の分離精製が可能であることを初めて見出した。
すなわち、本発明は、一実施形態によれば、以下の方法を提供するものである:
〔1〕(1)膜小胞を含む試料溶液を限外濾過処理する工程と、
(2)膜小胞を含む緩衝溶液を調製するために、前記(1)の工程により得られた試料溶液を、コロイド凝集剤を含まない緩衝液により置換する工程と、
(3)前記(2)の工程により得られた緩衝溶液に含まれる膜小胞を、密度勾配遠心により分離する工程と
を含む、膜小胞集団の調製方法。
〔2〕前記膜小胞を含む試料溶液が、生体液試料または培養液である、上記〔1〕に記載の方法。
〔3〕前記コロイド凝集剤を含まない緩衝液が、塩を実質的に含まない緩衝液である、上記〔1〕または〔2〕に記載の方法。
〔4〕前記コロイド凝集剤を含まない緩衝液のイオン強度が0〜135 mMである、上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の方法。
〔5〕前記コロイド凝集剤を含まない緩衝液がpH 5.5〜11.1の範囲で緩衝作用を有する、上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の方法。
〔6〕前記コロイド凝集剤を含まない緩衝液が、Bis-Tris緩衝液、MES緩衝液およびPIPES緩衝液からなる群より選択される、上記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の方法。
〔7〕前記(1)の限外濾過処理が、分画分子量3〜100 kDaの限外濾過膜を用いて行われる、上記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の方法。
また、本発明は、一実施形態によれば、以下の膜小胞集団を提供するものである:
〔8〕膜小胞を含む試料溶液から分離精製された膜小胞集団であって、前記膜小胞集団に含まれる膜小胞が分散されており、かつ、
(i)前記膜小胞集団に含まれる膜小胞が、分離精製前の前記試料溶液中に存在したときの表面電荷を維持している、
(ii)前記膜小胞集団に含まれる膜小胞が、分離精製前の前記試料溶液中に存在したときの形態を維持している、および/または
(iii)前記膜小胞集団が、分離精製前の前記試料溶液中に存在したときの粒径分布パターンを維持している、
膜小胞集団。
〔9〕前記試料溶液が、生体液試料または培養液である、上記〔8〕に記載の膜小胞集団。
〔10〕60 nm以下の粒径を有する膜小胞を少なくとも5%含む、上記〔8〕または〔9〕に記載の膜小胞集団。
〔11〕上記〔1〕〜〔7〕のいずれか1項に記載の方法により調製されたものである、膜小胞集団。
また、本発明は、一実施形態によれば、以下の組成物を提供するものである:
〔12〕コロイド凝集剤を含まない緩衝液中に、上記〔8〕〜〔11〕のいずれかに記載の膜小胞集団を含む組成物。
〔13〕前記コロイド凝集剤を含まない緩衝液が、塩を実質的に含まない緩衝液である、上記〔12〕に記載の組成物。
〔14〕前記コロイド凝集剤を含まない緩衝液のイオン強度が0〜135 mMである、上記〔12〕または〔13〕に記載の組成物。
〔15〕前記コロイド凝集剤を含まない緩衝液がpH 5.5〜11.1の範囲で緩衝作用を有する、上記〔12〕〜〔14〕のいずれかに記載の組成物。
〔16〕前記コロイド凝集剤を含まない緩衝液が、Bis-Tris緩衝液、MES緩衝液およびPIPES緩衝液からなる群より選択される、上記〔12〕〜〔15〕のいずれかに記載の組成物。
〔17〕前記コロイド凝集剤を含まない緩衝液が、アミノ酸をさらに含む、上記〔12〕〜〔16〕のいずれかに記載の組成物。
本発明に係る膜小胞集団の調製方法は、従来の膜小胞精製法と比較して、以下の点で優れており、有用である。
(1)インタクトな膜小胞(例えばエキソソーム)を分離精製できる。
(2)インタクトな膜小胞(例えばエキソソーム)の生物物理学的特性(電荷、形態、粒径分布パターンなど)を解析できる。
(3)インタクトな膜小胞(例えばエキソソーム)の分子生物学的・生化学的特性を解析できる。
(4)簡便、迅速かつ安価に膜小胞(例えばエキソソーム)を分離精製できる。
(5)追加の処理を行うことなく多様な用途にそのまま使用できる膜小胞(例えばエキソソーム)を調製できる。
また、本発明に係る分離精製された膜小胞集団は、従来方法により調製された膜小胞集団と比較して、以下の点で優れており、有用である。
(1)分子生物学的・生化学的にも生物物理学的にもインタクトである。
(2)分子生物学的・生化学的指標と生物物理化学的指標とを組み合わせた、膜小胞の統合的プロファイリング分析を可能とする。
(3)早期疾患診断方法の開発を可能とする。
(4)高感度な新規疾患分子マーカーの同定・開発を可能とする。
(5)疾患治療方法の開発を可能とする。
(6)改良されたDDSの開発を可能とする。
また、本発明に係る膜小胞集団を含む組成物は、膜小胞集団のインタクトな状態を長期間にわたり安定的に維持することができる。
図1は、本発明の方法の一実施の形態を示す概要図である。 図2は、本発明の方法によりHEK293細胞由来の膜小胞を12分画に分離精製後、各種エキソソーム分子マーカーに対する抗体を用いてDot Blot解析した結果を示す。 図3は、本発明の方法により複数の細胞種由来の膜小胞をそれぞれ12分画に分離精製後、エキソソーム分子マーカーであるCD63に対する抗体を用いてDot Blot解析した結果を示す。 図4は、本発明の方法によりHEK293細胞由来の膜小胞を12分画に分離精製後、Fraction#9およびFraction#10として得られた膜小胞を透過型電子顕微鏡(TEM)下で撮像した画像を示す。 図5は、本発明の方法によりHEK293細胞由来の膜小胞を密度勾配遠心分離法により分画後、膜小胞を含む分画についてナノ粒子径計測システムDelsaMax COREを用いて膜小胞の粒径と粒径分布パターンとを解析した結果を示すグラフである。 図6は、本発明の方法によりHEK293細胞由来の膜小胞を密度勾配遠心分離法により分画後、膜小胞を含む分画について、抗CD63抗体を用いた免疫電子顕微鏡解析の結果を示す画像である。 図7は、本発明の方法によりHEK293細胞由来の膜小胞を密度勾配遠心分離法により分画後、膜小胞を含む分画について電子顕微鏡を用いて膜小胞粒径分布を測定した結果を示すグラフである。 図8は、HEK293細胞由来の膜小胞を、25 mM Bis-Tris(pH 6.5)、140 mM NaClを含む25 mM Bis-Tris(pH 6.5)、またはPBS(-)を用いて、密度勾配遠心分離法により分画した際の膜小胞の粒径と粒径分布パターンとを解析した結果を示すグラフである。 図9は、アミノ酸を含む/含まない25 mM Bis-Tris(pH 6.5)を用いて密度勾配遠心分離法により得られた分画について、抗CD63抗体を用いてDot Blot解析した結果を示す。
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は本明細書中に説明した実施形態に限定されるものではない。
本発明は、第一の実施形態によれば、(1)膜小胞を含む試料溶液を限外濾過処理する工程と、(2)膜小胞を含む緩衝溶液を調製するために、前記(1)の工程により得られた試料溶液を、コロイド凝集剤を含まない緩衝液により置換する工程と、(3)前記(2)の工程により得られた緩衝溶液に含まれる膜小胞を、密度勾配遠心により分離する工程とを含む、膜小胞集団の調製方法である。
ここで、本明細書において「膜小胞」とは、細胞または組織から分泌される脂質二重膜小胞を意味する。本明細書における膜小胞には、以下に限定されないが、例えば、従来エキソソーム/エクソソームと呼ばれている20〜200 nm程度の粒径を有する膜小胞や、10〜1,000 nm程度の粒径を有するマイクロベシクルやアポトーシス小胞などが挙げられる。膜小胞を分泌する細胞または組織は、いかなる生物種由来のものであってよい。膜小胞を分泌する細胞または組織が由来する生物としては、以下に限定されないが、例えば、微生物、原虫、線虫、昆虫、魚類、は虫類、両生類、鳥類、哺乳類、植物などが挙げられる。哺乳動物としては、例えば、ヒト、サル、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類、マウス、ラット、ハムスター、モルモットなどのげっ歯類、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ウサギ、イヌ、ネコなどが挙げられる。膜小胞を分泌する細胞としては、例えば、神経細胞、免疫細胞、上皮細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、結合組織細胞、幹細胞、iPS細胞、ES細胞、腫瘍細胞などの疾患細胞、初代培養細胞(各種臓器由来)、株化培養細胞(各種臓器由来)などが挙げられる。膜小胞を分泌する組織としては、例えば、脳、心臓、肝臓、腎臓、膵臓、脾臓、胃、小腸、大腸などが挙げられる。
本実施形態において「膜小胞を含む試料溶液」とは、膜小胞を含む液体試料であれば特に限定されず、例えば、細胞または組織を培養して得られた培養液であってもよいし、血液、血清、血漿、リンパ液、尿、唾液、母乳、羊水、悪性腹水、髄液、脳室液などの生体液試料であってもよい。
本実施形態の膜小胞集団の調製方法では、膜小胞を含む試料溶液を限外濾過処理する(工程(1))。これにより、試料溶液から夾雑物を除去し、同時に、試料溶液を濃縮することができる。夾雑物とは、膜小胞の解析に支障を及ぼし得る細胞debris、脂質、タンパク質などを意味する。なお、本工程により夾雑物が完全に除去されることが好ましいが、最終的に得られた膜小胞の解析に支障が出ない程度であれば、夾雑物が多少残存しても構わない。
本実施形態における限外濾過処理は、分離精製したい膜小胞が通過せず、かつ、当該膜小胞よりもサイズの小さい、糖、タンパク質、核酸、タンパク質核酸複合体、タンパク質性凝集体などの低分子が通過するような分画分子量を有する限外濾過膜を用いて行うことができる。試料中に含まれるすべての膜小胞を分離精製する場合には、より小さい分画分子量を有する限外濾過膜を用いることが好ましい。本実施形態において使用できる限外濾過膜の分離性能は、好ましくは分画分子量3〜100 kDaであり、特に好ましくは分画分子量10 kDaである。このような限外濾過膜としては市販品を使用することができ、例えば、Amicon(商標) Ultra Centrifugal Filters (NMWL:10K)(Millipore)などを用いることができる。
限外濾過処理は、公知の方法により行うことができる。具体的には、例えば、膜小胞を含む試料溶液5 mlを限外濾過フィルターユニットに添加し、6,000 rpm、30分間遠心することにより限外濾過処理を行うことができ、これにより、夾雑物を除去するとともに、膜小胞を含む試料溶液の容量を300 μl程度まで濃縮することができる。
なお、上記限外濾過処理を行う前に、適宜、試料溶液中に含まれる成分に応じた前処理を行うことが好ましい。例えば、試料溶液が培養液である場合には、前処理として遠心分離やフィルター濾過により、試料溶液から細胞または細胞debrisを除去することが好ましい。また、例えば、試料溶液が母乳などの脂質成分を多量に含む生体液試料である場合には、前処理として脂質成分の除去を行うことが好ましい。また、例えば、試料溶液が血液である場合には、前処理として血性アルブミンの除去を行うことが好ましい。その他の試料についても、当業者は試料中に含まれる成分ごとに、好ましい前処理を適宜選択および実施することができる。
次いで、上記限外濾過処理後の試料溶液を、コロイド凝集剤を含まない緩衝液により置換し、これにより、膜小胞を含む緩衝溶液を調製する(工程(2))。膜小胞は、由来する細胞や組織により、それぞれ特有の表面電荷(プラスまたはマイナスの電荷)を有しており、そのため、コロイド粒子としての性質を有し、試料溶液中に分散して存在する。したがって、コロイド凝集剤を含まない緩衝液を用いることにより、分散状態が維持された膜小胞を含む緩衝溶液を調製することが可能となる。
本実施形態において「コロイド凝集剤」とは、膜小胞の表面電荷を中和することにより、膜小胞間の反発力を弱め、膜小胞の凝集を促進する化合物を意味する。本実施形態におけるコロイド凝集剤には、無機凝集剤および有機凝集剤のいずれも含まれる。無機凝集剤としては、以下に限定されないが、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸アルミニウムなどの金属塩;リン酸塩;アンモニウム塩、オキソニウム塩、スルホニウム塩などのオニウム塩;トリエタノールアミン塩やヒドロキシルアミン塩などのアミン塩などの塩が挙げられる。有機凝集剤としては、以下に限定されないが、例えば、ポリアミン、ポリアミド、アクリルアミドなどの合成高分子凝集剤や、キチン/キトサン、セルロースなどの天然高分子凝集剤などが挙げられる。
本実施形態において用いることができる「コロイド凝集剤を含まない緩衝液」は、コロイド凝集剤を全く含まないか、実質的に含まない緩衝液であれば、任意のものであってよい。本実施形態におけるコロイド凝集剤を含まない緩衝液は、好ましくは、塩を実質的に含まない緩衝液である。ここで、コロイド凝集剤を「実質的に含まない」とは、緩衝液に含まれるコロイド凝集剤の濃度が、膜小胞の凝集を引き起こす濃度未満であることを意味する。すなわち、本実施形態におけるコロイド凝集剤を含まない緩衝液は、イオン強度が0〜135 mMであることが好ましく、0〜65 mMであることがより好ましく、0〜30 mMであることが特に好ましい。また、本実施形態において用いることができるコロイド凝集剤を含まない緩衝液は、好ましくはpH 5.5〜11.1の範囲で緩衝作用を有し、より好ましくはpH 6〜8の範囲で緩衝作用を有する。
このようなコロイド凝集剤を含まない緩衝液としては、以下に限定されないが、例えば、Bis-Tris緩衝液、MES緩衝液、PIPES緩衝液などのグッド緩衝液を用いることができ、最も好ましくはBis-Tris緩衝液を用いることができる。なお、グッド緩衝液は、(1)水によく溶け、高濃度の緩衝液の作成が可能である、(2)化学的に安定であり、再結晶による高純度精製が可能である、(3)可視、紫外部に吸収を持たないために、目的成分の検出が容易である、(4)生体系に対して塩効果が小さい、(5)生体膜、細胞膜を透過しにくい、(6)酸解離定数が濃度、温度、イオン組成の影響を受けにくい、(7)金属イオンとの錯体形成能が小さいなどの多くの利点を有する(Norman E. Good, G. Douglas Winget, Wilhelmina Winter, Thomas N. Connolly, Seikichi Izawa, and Raizada M. M. Singh, "Hydrogen Ion Buffers for Biological Research", Biochemistry, Vol. 5, pp. 467-477, 1966)。
次いで、上記により得られた緩衝溶液に含まれる膜小胞を、密度勾配遠心により分離する(工程(3))。密度勾配遠心は、公知の方法により行うことができる。密度勾配溶液を作成するために用いられる溶質は、非イオン性物質であり、膜小胞を分散状態に保持できるものであれば、任意のものであってよく、以下に限定されないが、例えば、ショ糖、グリセロール、ポリサッカライド、Ficoll(GE Healthcare Bioscience社)、Nycodenz(AXS社)、OptiPrep(AXS社)などを用いることができる。当業者は、用いる溶質に応じて、好ましい密度勾配条件や遠心条件を適宜選択することができる。具体的には、例えば、ショ糖を用いた場合には、密度勾配を10〜60%に設定することができ、遠心条件は、21,000 rpm(75,600×g)で5時間とすることができる。なお、ショ糖を用いた場合、密度勾配遠心により分離されたサンプルを、膜小胞の解析のためのサンプルとして直接使用できるため、好ましい。
本実施形態の方法の概略を図1に示す。図1に示す非限定的な例では、コロイド凝集剤を含まない緩衝液としてBis-Tris緩衝液を用いて試料溶液を置換し(図1左)、次いで、ショ糖密度勾配超遠心分離法により膜小胞を分離する(図1中央)。分離された膜小胞サンプルは、各種解析のためのサンプルとしてそのまま使用できる(図1右)。本実施形態の方法は、上記工程を2〜3日で完了することができる。
本実施形態の方法によれば、試料溶液中にあったときと同様の、物理化学的特性を維持したインタクトな状態の膜小胞を含む膜小胞集団を調製することができる。ここで、本実施形態における「膜小胞集団」とは、実質的に分離精製された、2個以上の膜小胞を含む集団を意味する。「実質的に分離精製された」とは、膜小胞の解析または使用に影響しない程度にまで夾雑物が除去された状態を意味する。本実施形態における膜小胞集団は、単一種類の膜小胞のみを含んでいてもよいし、複数種類の膜小胞を含んでいてもよい。また、本明細書において「インタクトな状態」とは、タンパク質や脂質などの膜小胞の構成成分およびそれらの比率のような生化学的特性のみならず、表面電荷、大きさや形状などの形態、粒径分布パターン、分散状態のような膜小胞の生物物理学的特性についても、膜小胞が細胞または組織から放出された瞬間の在りのままで維持されており、試料溶液中にあったときの膜小胞の特性がすべて保全されている状態を意味する。
すなわち、本発明は、第二の実施形態によれば、膜小胞を含む試料溶液から分離精製された膜小胞集団であって、前記膜小胞集団に含まれる膜小胞が分散されており、かつ、(i)前記膜小胞集団に含まれる膜小胞が、分離精製前の前記試料溶液中に存在したときの表面電荷を維持している、(ii)前記膜小胞集団に含まれる膜小胞が、分離精製前の前記試料溶液中に存在したときの形態を維持している、および/または(iii)前記膜小胞集団が、分離精製前の前記試料溶液中に存在したときの粒径分布パターンを維持している、膜小胞集団である。
本実施形態における「膜小胞」、「膜小胞集団」および「試料溶液」は、第一の実施形態において定義したものと同様である。本実施形態の膜小胞集団は、第一の実施形態の方法により調製することができる。
「分散されている」とは、膜小胞集団に含まれる複数の膜小胞が、互いに干渉することなく分離している状態を意味する。ここで、「干渉」とは、膜小胞同士が相互作用することにより、膜小胞の生化学的特性および/または生物物理学的特性が不可逆的に変化することを意味する。したがって、「干渉することなく分離している」とは、膜小胞集団に含まれる複数の膜小胞が、互いにまったく接触していないか、瞬間的に接触したとしても、それが継続しない状態を意味する。なお、本実施形態における膜小胞集団は、完全に分散されていることが好ましいが、最終的に得られた膜小胞集団の解析および使用に支障が出ない程度であれば、分散していない膜小胞を含んでいてもよい。すなわち、本実施形態における膜小胞集団に含まれる膜小胞は、少なくとも90%以上が分散されていればよい。
「分離精製前の前記試料溶液中に存在したときの表面電荷を維持している」とは、培養液中に分泌された時点における膜小胞、または、生体液中に分泌された時点における膜小胞が有するコロイド粒子としての特性を維持できる程度に表面電荷が維持されていることを意味する。表面電荷は、膜小胞の由来する細胞や組織により、プラスまたはマイナスの電荷であり得る。
「分離精製前の前記試料溶液中に存在したときの形態を維持している」とは、培養液中に分泌された時点における膜小胞、または、生体液中に分泌された時点における膜小胞が有する大きさや形状などの形態が維持されていることを意味する。ここで、正常な細胞由来の正常な膜小胞は、基本的に球状であると考えられている一方、疾患細胞などの異常細胞から分離される膜小胞は球状ではない可能性が示唆されている。したがって、本実施形態の膜小胞集団が疾患細胞由来の膜小胞を含む場合には、本実施形態の膜小胞集団は、球状以外の形状の膜小胞を含んでいてもよい。
「分離精製前の前記試料溶液中に存在したときの粒径分布パターンを維持している」とは、試料溶液中にあったときの膜小胞の粒径分布の範囲および比率の両方が維持されていることを意味する。
すなわち、本実施形態の膜小胞集団は、60 nm以下の粒径を有する膜小胞を少なくとも5%含んでいることが好ましく、少なくとも10%含んでいることが特に好ましい。
本実施形態における膜小胞集団は、生化学的にも物理化学的にもインタクトな状態を維持している。そのため、新規高感度疾患マーカーの探索や早期疾患診断方法の開発に有用であり、また、改善されたDDSの開発のためにも有用である。
本発明は、第三の実施形態によれば、コロイド凝集剤を含まない緩衝液中に、上記の膜小胞集団を含む組成物である。本実施形態における「コロイド凝集剤」および「コロイド凝集剤を含まない緩衝液」は、第一の実施形態において定義したものと同様である。
本実施形態におけるコロイド凝集剤を含まない緩衝液は、アミノ酸をさらに含むことが好ましい。本実施形態におけるアミノ酸には、任意の天然アミノ酸を用いることができるが、好ましくは、フェニルアラニンなどの疎水性アミノ酸、またはスレオニンなどの極性無電荷アミノ酸を用いることができる。また、本実施形態におけるコロイド凝集剤を含まない緩衝液は、1種類のアミノ酸を含んでもよいし、2種類以上のアミノ酸を含んでもよい。
本実施形態における組成物は、試料溶液から分離精製された膜小胞集団をインタクトな状態のまま長時間維持することができるため有用である。
本発明は、第四の実施形態によれば、本発明の分離精製方法により得られた膜小胞について物理化学的または生化学的な手法で解析する工程を含む、膜小胞の解析方法である。
本発明の分離精製方法により得られた膜小胞の解析手法としては、特に制限されず、公知の物理化学的または生化学的な手法を用いることができる。具体的には、以下に限定されないが、i)miRNA、mRNA、遊離循環RNA、Non-coding RNA、Long non-coding RNA、Genomic DNA等の核酸因子などについてのマイクロアレイ解析、次世代シーケンス解析、PCR解析、トランスクリプトーム解析、ii)タンパク質、表面ペプチド等のタンパク性因子などについてのプロテオーム解析、ペプチドーム解析、抗体アレイ解析、Western Blot解析、Dot Blot解析、質量分析法(MALDI-MS)、iii)動的・静的光散乱解析、ナノ粒子トラッキング(軌跡)解析等の粒径分布解析、光散乱電気泳動解析等の電荷分布解析、単粒子構造解析、クライオ電顕解析、透過型電顕解析等の構造・形態解析、質量分析法(MALDI-MS)、プロテオーム解析等の膜脂質成分解析などを含む膜小胞の生物物理学的特性の解析を挙げることができる。
本実施形態における方法は、本発明の分離精製方法により得られた膜小胞を用いることにより、インタクトな状態の膜小胞の生物物理学的特性を解析することができるため有用である。
本発明は、第五の実施形態によれば、試料溶液中に分散した膜小胞を分離するための分離精製用溶媒であって、コロイド凝集剤を含まない緩衝液からなる分離精製用溶媒である。
本発明は、第六の実施形態によれば、コロイド凝集剤を含まない緩衝液からなる分離精製用溶媒を含む、膜小胞分離精製用キットである。当該キットには、膜小胞を試料溶液中から分離精製するために必要な公知の試薬や器材を含むことができる。このような試薬や器材としては、限外濾過膜や濾過膜、細胞等を培養するための培養液、培養皿、遠心分離用チューブ、密度勾配遠心法のための試薬(例えばショ糖)などを挙げることができる。
第五実施形態における分離精製用溶媒および第六実施形態における膜小胞分離精製用キットは、インタクトな状態の膜小胞を分離精製することができるため有用である。
以下に実施例を挙げ、本発明についてさらに説明する。なお、これらは本発明を何ら限定するものではない。
<1.材料および方法>
(1)細胞培養
膜小胞を分離精製するために、PC12細胞(ラット副腎髄質褐色細胞腫)、NG108-15細胞(神経芽腫雑種細胞)、C6Bu-1細胞(ラットグリオーマ細胞)、N18TG-2細胞(マウス神経芽腫細胞)、SK-N-SH細胞(ヒト神経芽腫細胞)、NIH/3T3細胞(マウス線維芽細胞)、COS7細胞(アフリカミドリザル腎細胞)、HCT116細胞(ヒト大腸癌細胞)、HEK293T細胞(ヒト胎児腎細胞)、Flp-In T-REx293細胞(ヒト胎児腎臓細胞)(本明細書および図面においては単に「HEK293細胞」と表記する)(いずれもInvitrogen)を使用した。上記細胞を、それぞれ、10%牛胎児血清(Gibco)を含むダルベッコ改変イーグル培地(Sigma-Aldrich)(以下、10% FCS-DMEM培地)10mlに懸濁し、直径9cmプラスチックシャーレ(Greiner Bio-One)に播種し、37℃、湿度100%、5% CO2雰囲気下で、細胞密度が90%程度に達するまで細胞を培養した。次いで、FCS由来の膜小胞を除去する目的で、10% FCS-DMEM培地を完全に吸引除去後、PBS(+)溶液5mlを加えて細胞を洗浄した。FCS由来の膜小胞をほぼ完全に除去するために本工程を5回繰り返した。洗浄後、無血清ダルベッコ改変イーグル培地(以下、DMEM培地)5 mlを細胞に添加し、37℃、湿度100%、5% CO2雰囲気下で24時間培養し、DMEM培地中に膜小胞を分泌させた。
(2)膜小胞含有試料の調製
上記培養後のDMEM培地を15 mlディスポーザブルチューブ(Greiner Bio-One)に回収し、滅菌済Millex-GV Filter Unit, 0.22 μm(Millipore)を用いて濾過した。これにより、DMEM培地中に含まれる細胞debrisを完全に除去した。次に、膜小胞の透過型電子顕微鏡解析や物理学的解析に影響を及ぼす不純物の除去と、試料の濃縮のために、限外濾過処理を行った。DMEM培地5 mlをAmicon(商標) Ultra Centrifugal Filters (NMWL:10K)(Millipore)に供し、6,000 rpm、30分間遠心し、試料の容量を約300 μlまで濃縮した。続いて、25 mM Bis-Tris(pH 6.5)を3 ml加え、再度6,000 rpm、30分間遠心し、試料の容量を約300 μlまで濃縮した。この工程を3回繰り返し、試料溶媒を25 mM Bis-Tris(pH 6.5)に完全に置換した。得られた約300 μlの試料を、ショ糖密度勾配超遠心分離法に供した。
(3)ショ糖密度勾配超遠心分離法
10%、20%、30%、40%、50%または60%ショ糖/25 mM Bis-Tris(pH 6.5)の6種類のショ糖溶液を調製し、12.5 ml Open Top超遠心チューブ(Beckman Coulter)中に各2 mlずつ、10〜60%ショ糖密度勾配を形成するように静かに重積し、4℃で1時間以上静置した。その後、上記(2)で調製した試料(約300 μl)を静かに重層し、超遠心分離機Optima L-100 XP(SW41-Tiローター)(Beckman Coulter)を用いて、21,000 rpm(75,600×g)で5時間の超遠心を行った。超遠心後、各濃度のショ糖溶液を濃度の高い順に1 mlずつチューブに分画し、1試料につき12分画の精製試料を取得した。得られた精製試料は、脱ショ糖操作を行うことなく、そのまま以下の生化学的解析および物理学的解析に供した。
(4)ショ糖密度測定
ショ糖密度は、携帯用砂糖屈折計(ハイコントラストタイプ)1号(解析糖度0〜32%)および2号(解析糖度28〜62%)(ピカ精工株式会社)を用いて測定した。
(5)Dot Blot解析
各精製試料100 μlを、96穴丸形ウェルマイクロフィルトレーション装置であるバイオドット(Bio Rad)を用いてニトロセルロース膜(Bio Rad)にブロットした後、各ウェルを100 μlのPBS(-)で3回洗浄した。バイオドットより取り外したニトロセルロース膜を、ブロッキング溶液(5%スキムミルク/PBS(-))に浸漬し、室温(25℃)で1時間緩やかに回転攪拌した。ブロッキング後のニトロセルロース膜を、膜小胞分子マーカーに対する1次抗体と4℃で一晩反応させた。翌日、ニトロセルロース膜を50 mlの洗浄液(0.1% Tween20/PBS(-))で3回洗浄後、Horse Radish Peroxidase(HRP)で標識した2次抗体と室温で2時間反応させた。ニトロセルロース膜を50 mlの洗浄液で3回洗浄後、Clarity(商標)Western ECL Substrate(Bio Rad)を使用して化学発光検出を行った。化学発光シグナルの検出には、LAS3000(Fuji Film)を用いた。
本解析において使用した1次抗体およびHRP標識2次抗体の種類と希釈率は下記の通りである。エキソソーム分子マーカー1次抗体:Mouse anti-CD63 IgG(Santa Cruz)(1:100希釈)、Mouse anti-CD9 IgG(Santa Cruz)(1:100希釈)、Mouse anti-TSG101 IgG(Santa Cruz)(1:100希釈)。HRP標識2次抗体:Rabbit anti-Mouse IgG HRP(Chemicon)(1:1,500希釈)。
(6)粒径および粒径分布パターンの解析
膜小胞の粒径(粒子サイズ)計測ならびに分布様式を、ナノ粒子径計測システムDelsaMax CORE(Beckman Coulter)によって解析した。なお、当該計測システムは、動的光散乱法(DLS)と静的光散乱法(SLS)の2つの異なる分析方法に基づく。DLSは、一般的に、液相に存在するナノ粒子の特性を評価する技術として用いられ、粒子サイズ等の流体力学的特性値(変数)を得ることができる。溶液中に分散した粒子はブラウン運動をしており、その動きは、大きな粒子では遅く、小さな粒子ほど早い。ブラウン運動している粒子にレーザー光を照射すると、粒子によって散乱された光に、個々の粒子のブラウン運動の速度に起因した揺らぎが観察される。また、散乱光強度は粒子のブラウン運動によって常に変動する。散乱光の強度を測定し、時間当たりの変化量に変換して、自己相関関数法を用い、ストークス−アインシュタインの式から、粒径を算出することができる。
上記(5)の結果に基づき、エキソソーム陽性分画(CD63陽性分画)について、試料4 μlを計測用ディスポーザブルセルに取り、波長660.9 nmのレーザー光により、4℃もしくは20℃で、5秒間の計測を3回行った。%Intensity(散乱強度の相対割合。試料中に存在する異なる粒径をもつ粒子集団からの散乱光強度の揺らぎから、自己相関関数の解析を経て、粒径ヒストグラムにおける各ヒストグラムビン(bin、binning)の散乱強度の総和(度数)が100%となるように、粒径ビン毎に相対的に割り振った値)を計算した。
(7)電子顕微鏡解析
膜小胞の形状および粒径を透過型電子顕微鏡により観察した。透過型電子顕微鏡Tecnai F20(FEI)を加速電圧120 kVで運転し、低電子線量照射モードで、倍率5,000、11,500、25,000、50,000倍で撮影を行った。画像データの取得は、顕微鏡に搭載されているスロースキャンCCDカメラ(Gatan)を使い、DigitalMicrograph(登録商標)(Gatan)によって操作した。
エキソソーム陽性分画の試料を、酢酸ウラニル(1〜2%)を用いてネガティブ染色し、複数枚の電子顕微鏡画像を取得した。ImageJ 1.48v(NIH)を使用して、主観を排した方法により、画像に写っている膜小胞の粒径ならびに個数を計測し、粒径分布解析を行った。度数分布計算はExcel(Microsoft)に装備されている関数を利用し、グラフは、KaleidaGraph 4.5(HULINKS)で描画した。
<2.Bis-Tris緩衝液を用いた膜小胞(エキソソーム)の分離精製>
種々の細胞を培養して得られたDMEM培地を上記(2)および(3)の手順により精製し、得られた精製サンプルを上記(5)の手順によりDot Blot解析した。
HEK293細胞由来の精製分画についての、種々のエキソソーム分子マーカー抗体によるDot Blot解析の結果を図2に示す。図2の結果から、培養液中に分泌されたエキソソームが精製されたこと、および、エキソソーム分子マーカーの種類ごとに分画分布パターンや発現量に相違があることが示された。また、種々の細胞由来の精製分画についての抗CD63抗体によるDot Blot解析の結果を図3に示す。図3の結果から、いずれの細胞由来の試料からもエキソソームを精製できたこと、および、細胞の種類によって、ユニークかつ特徴的なエキソソームの分布パターンを示すことが明らかになった。
<3.緩衝液の塩濃度が膜小胞の形態に与える影響>
上記Dot Blot解析の結果に基づき、エキソソーム陽性分画(CD63陽性分画)として特定されたFraction#9(ショ糖濃度:22.0〜23.6%)およびFraction#10(ショ糖濃度:18.0〜19.0%)に含まれる膜小胞を、上記(7)の手順により透過型電子顕微鏡により観察した。また、比較対照として、25 mM Bis-Tris(pH 6.5)に代えて、140 mM NaClを含む25 mM Bis-Tris(pH 6.5)を用いた以外は上記(2)および(3)の手順と同様にしてエキソソーム陽性分画を調製した。
結果を図4に示す。25 mM Bis-Tris(pH 6.5)を用いて調製したエキソソーム陽性分画は、種々の粒径を有する球状の膜小胞を、各分画に固有の比率で含むことが確認された(図4CおよびD)。なお、Fraction#9に対して、マウス抗CD63 IgG(1次抗体)と、金ナノ粒子(数nm)で標識されたヤギ抗マウスIgG(2次抗体)を用いた免疫電子顕微鏡解析を行ったところ、膜小胞がCD63陽性であることが確認され、上記Dot Blot解析との整合性が認められた(図6)。
一方、PBSと同程度の塩を含む140 mM NaCl/25 mM Bis-Tris(pH 6.5)を用いて調製したエキソソーム陽性分画には、100 nm以下の種々の粒径を有する膜小胞はほとんど見られず、膜小胞の形状も大きくくずれていることが確認された(図4AおよびB)。この結果から、緩衝液に含まれる塩が、膜小胞を凝集させることが示された。
<4.緩衝液の塩濃度が膜小胞の粒径分布に与える影響>
上記Dot Blot解析の結果に基づき、エキソソーム陽性分画(CD63陽性分画)として特定されたFraction#9およびFraction#10に含まれる膜小胞について、上記(6)の手順により、DelsaMax COREを用いた粒径および粒径分布パターンの解析を行った。
結果を図5および図8に示す。Fraction#9およびFraction#10のいずれも、%Intensityのグラフにおいて、Fraction#9においては1.1、7.5、129.2、585.6、14342.0 nmに、Fraction#10においては1.1、35.8、207.0 nmにピークをもつ互いに区別可能な複数の正規分布の重ね合わせからなる粒径分布様式が認められた(図5(a)および(b)、図8左)。この粒径分布パターンから、膜小胞の粒径(サイズ)が量子化されていることが明らかとなった。この結果は、Fraction#9およびFraction#10に存在する膜小胞の粒径と粒径分布を、上記(7)の手順により電子顕微鏡解析により調べた結果とほぼ完全に一致した(図7)。なお、1.1 nmのピークに対応する物体は電子顕微鏡解析では確認されず、また、緩衝液について上記解析を行った対照実験でも同様に1.1 nmのピークが観測されたことから、当該ピークは膜小胞に由来するものではなく、試薬由来の夾雑物やレーザー光照射によって発生した微小気泡による散乱光ノイズなどに起因するものであると考えられた。
一方、25 mM Bis-Tris(pH 6.5)に代えて、140 mM NaClを含む25 mM Bis-Tris(pH 6.5)またはPBS(-)を用いた以外は上記(2)および(3)の手順と同様にして調製したエキソソーム陽性分画からは、100 nm以下の直径にピークを有する膜小胞の正規分布は消失していた(図8中央および右)。
これらの結果から、25 mM Bis-Tris(pH 6.5)を用いて調製した膜小胞集団は、インタクトな状態を維持していることが示され、一方で、塩を含む緩衝液を用いて調製された膜小胞は、インタクトな状態を維持できていないことが示された。さらに、膜小胞を構成するタンパク質のSDS−PAGE解析や、調製された膜小胞のレシピエント細胞に対する特異的結合活性解析によっても、上記結論を支持する結果が得られた(データは示さず)。
<5.膜小胞の安定性に対するアミノ酸の効果>
HEK293細胞を培養して得られたDMEM培地を、25 mM Bis-Tris(pH 6.5)に代えて、2 mMのフェニルアラニンまたはスレオニンを加えた25 mM Bis-Tris(pH 6.5)を用いた以外は、上記(2)および(3)と同様の手順により精製し、得られた精製サンプルを上記(5)の手順によりDot Blot解析した。
結果を図9に示す。アミノ酸を含まない25 mM Bis-Tris(pH 6.5)により精製したサンプルは、時間の経過とともに、エキソソーム陽性分画(CD63陽性分画)の分布パターンが変化しているのに対し、アミノ酸を加えた25 mM Bis-Tris(pH 6.5)により精製したサンプルは、精製後6週間以上経過しても、エキソソーム陽性分画の分布パターンに変化は見られなかった。この結果から、塩を含まない緩衝液に、さらにアミノ酸を加えることにより、長期間安定な膜小胞サンプルを調製できることが示された。

Claims (16)

  1. (1)膜小胞を含む試料溶液を限外濾過処理する工程と、
    (2)膜小胞を含む緩衝溶液を調製するために、前記(1)の工程により得られた試料溶液を、コロイド凝集剤を含まない緩衝液により置換する工程と、
    (3)前記(2)の工程により得られた緩衝溶液に含まれる膜小胞を、密度勾配遠心により分離する工程と
    を含む、膜小胞集団の調製方法。
  2. 前記膜小胞を含む試料溶液が、生体液試料または培養液である、請求項1に記載の方法。
  3. 前記コロイド凝集剤を含まない緩衝液が、塩を実質的に含まない緩衝液である、請求項1または2に記載の方法。
  4. 前記コロイド凝集剤を含まない緩衝液のイオン強度が0〜135 mMである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
  5. 前記コロイド凝集剤を含まない緩衝液がpH 5.5〜11.1の範囲で緩衝作用を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
  6. 前記コロイド凝集剤を含まない緩衝液が、Bis-Tris緩衝液、MES緩衝液およびPIPES緩衝液からなる群より選択される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
  7. 前記(1)の限外濾過処理が、分画分子量3〜100 kDaの限外濾過膜を用いて行われる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
  8. 請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法により調製されたものである、膜小胞集団。
  9. 記膜小胞集団に含まれる膜小胞が分散されており、かつ、
    (i)前記膜小胞集団に含まれる膜小胞が、分離精製前の前記試料溶液中に存在したときの表面電荷を維持しており、
    (ii)前記膜小胞集団に含まれる膜小胞が、分離精製前の前記試料溶液中に存在したときの形態を維持しており、かつ
    (iii)前記膜小胞集団が、分離精製前の前記試料溶液中に存在したときの粒径分布パターンを維持している、
    請求項8に記載の膜小胞集団。
  10. 60 nm以下の粒径を有する膜小胞を少なくとも5%含む、請求項8または9に記載の膜小胞集団。
  11. コロイド凝集剤を含まない緩衝液中に、請求項8〜10のいずれか1項に記載の膜小胞集団を含む組成物。
  12. 前記コロイド凝集剤を含まない緩衝液が、塩を実質的に含まない緩衝液である、請求項11に記載の組成物。
  13. 前記コロイド凝集剤を含まない緩衝液のイオン強度が0〜135 mMである、請求項11または12に記載の組成物。
  14. 前記コロイド凝集剤を含まない緩衝液がpH 5.5〜11.1の範囲で緩衝作用を有する、請求項1113のいずれか1項に記載の組成物。
  15. 前記コロイド凝集剤を含まない緩衝液が、Bis-Tris緩衝液、MES緩衝液およびPIPES緩衝液からなる群より選択される、請求項1114のいずれか1項に記載の組成物。
  16. 前記コロイド凝集剤を含まない緩衝液が、アミノ酸をさらに含む、請求項1115のいずれか1項に記載の組成物。
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