JP5808102B2 - 抗原を含有する経皮免疫製剤およびその製造方法 - Google Patents
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Description
破傷風やジフテリアは感染法上の指定感染症であり、世界的には毎年多数の死者が出ており、その予防にはワクチンが欠かせない。
また、抗原は高分子物質であり、皮膚表面に塗布あるいは貼付することにより投与することはきわめて困難である。
本発明の解決しようとする課題は、注射法や表面塗布法といった従来法の欠点に鑑み、皮膚表層及び/又は皮膚角質層に折れることなく容易且つ均一に刺入でき、皮膚表層及び/又は皮膚角質層において速やかに溶解し、その素材が長期にわたり多数回投与しても安全な物質からなる医療用マイクロニードルとマイクロニードルアレイを開発し、抗原を含有させ、予防医学に有用なワクチン用マイクロニードルを提供することにある。
しかし、コラーゲン、ゼラチン、などの物質は免疫原性があり、これらをマイクロニードル材質として用いると、体内にこれらの物質に対する抗体が産生する恐れがある。そのためこれらの物質を主成分とするマイクロニードルを長期にわたり投与することは望ましくない。しかしワクチン用マイクロニードルは、通常1回ないし2回の投与で終了するので、これらの化合物を添加することを不可とはしない。
(1)マイクロニードルの形状が穿設された型に、マイクロニードル素材に医薬成分を添加した水溶液を流延し、室温下又は加熱して水分を蒸発して乾燥する。その上にマイクロニードル素材のみの水溶液を流延して基板を積層した後剥離し、基板上にマイクロニードルを転写する。この方法によればマイクロニードルにのみ医薬成分が含有されたマイクロニードルアレイが得られ、医薬成分の利用効率がよい。
(2)上記型表面上に上記水溶液を流延し、室温下又は加熱して水分を蒸発して乾燥した後剥離してもよい。この方法によればマイクロニードルに加えて基板にも医薬成分が添加されたマイクロニードルアレイが得られる。医薬成分が安価で大量に得られるとき便利な方法である。
(3)また、薬物が貴重・高価である場合には溶着法と呼ばれる方法が適当である。
a)上記方法(2)により生体内溶解性高分子を素材として医薬成分を含まないマイクロニードルアレイを作成し、
b)薬物と該生体内溶解性高分子の溶液を作成し、
c)該マイクロニードルアレイの先端を該溶液に浸漬させ、
d)該マイクロニードルアレイを該溶液から引き上げ、
e)該マイクロニードルアレイを乾燥させて、マイクロニードル先端にのみ薬物を付着させたマイクロニードルアレイを製造する。
従って、水溶性の薬物を用い、薬物水溶液に該生分解性高分子を予め十分に含有させておくならば、マイクロニードル先端部を薬物溶液に浸したとき、先端部が部分的に溶解し薬物は生体内溶解性高分子と一体的にマイクロニードル先端に取り込まれる。このように一体化すれば、マイクロニードルに薬物を単に塗布・付着させる場合と異なり、マイクロニードル刺入の際薬物が剥がれ落ちることなく、薬物が体内に完全に取り込まれることとなる。
この結果、皮膚表層及び/又は皮膚角質層の特定の場所にマイクロニードル素材やそれに含有される抗原を確実に供給することができる。
また、破傷風やジフテリアのワクチン用マイクロニードルはそれらの予防注射と同等以上の効果を有している。
本発明が実用化すれば予防注射が不要となり、投与量がより少ないため副作用を低減でき、乳幼児に注射恐怖症を発生させることがない。
図1に本実施例のマイクロニードルの断面図を示す。本実施例で用いたマイクロニードルの材質とマイクロニードルに含めた薬物をまとめて表1に示す。マイクロニードルの材質は、マイクロニードルを構成する3成分の重量比で示す。抗原の濃度は、マイクロニードル重量に対する重量%で示す。
各組成の混合物を水に溶解させて10%固形分水溶液とした。この水溶液に破傷風トキソイド(財団法人阪大微生物病研究会、香川県観音寺市)を添加し、室温下マイクロニードル形成用凹部に充填し水分を蒸発して乾燥した後剥離してマイクロニードルアレイを作製した。
雄性ラット(12週齢)をネンブタール(30mb/kg)で麻酔後腹部皮膚を剃毛し、上記の各組成のマイクロニードルを1枚の保護絆創膏で裏打ちして投与した。投与時間は2時間であった。取出したマイクロニードルを顕微鏡観察し、先端部の溶解状況を観察した。各マイクロニードルの鉛筆硬度と投与後の観察結果を表2にまとめた。
この表より、マイクロニードルの組成はヒアルロン酸50〜80重量%、デキストラン10〜40重量%及びポリビニルピロリドン5〜20重量%が適当と結論できる。
使用抗原及びその起源
本発明の方法によるワクチンの有用性を検討するために、マウス(BALB/c、週齢は6週)を用いて免疫応答を調べた。用いたインフルエンザウイルスはA/ブリスベン/59/007株、A/ウルグアイ/716/2007株、及びB/フロリダ/4/2006株であり、それらのインフルエンザウイルス赤血球凝集素(HA)を抗原として用いた。上記3種の抗原は財団法人大阪大学微生物病研究所(香川県観音寺市)から提供を受けた。
上記本組成1の基剤の10%水溶液に、上記の3種の抗原を混合した抗原懸濁液0.5mlを均一に混合して抗原−基剤水溶液を得た。この水溶液適量を鋳型に流延し、その後抗原を含まない10%基剤水溶液を追加流延し、35℃で水分を蒸発させた後、鋳型から剥離して本発明のマイクロニードルアレイを得た。抗原はマイクロニードル部分にのみ含有され、基板部分には存在せず、貴重な抗原の有効利用を図った。本マイクロニードルは高さが0.8mm、根元の直径が0.16mm、先端直径が0.04mmである円錐台状である。1cm2の円板上に間隔0.6mmで格子状に配列されたマイクロニードルは計250本形成されている。各マイクロニードルアレイ1個あたりの抗原含有量は3種の抗原ともそれぞれ0.2μgであった。
BALB/cマウスに対して3種HA抗原封入マイクロニードルアレイ(各HA抗原0.2μg)を6時間貼付することで経皮免疫を実施した。
対照群として注射投与群は、27G針および1ml注射器を用いて、各0.9μgの3種HA抗原を100μgの水酸化アルミニウムゲルとともに100μlの容量でマウス背部皮下に注射投与した。
対象群としての経鼻投与群は、マイクロピペッターを用いて各0.9μgの3種HA抗原を10μgのコレラトキシンとともに5μlの容量で投与した。
ELISA法は次のようにして行った。マイクロタイタープレートに0.5μgのHA抗原を50μl播種し、4℃で一晩放置することで固相化した。2%スキムミルクを含むTBSを250μl添加し、室温で2時間ブロッキング操作を行った。その後血清あるいは糞便抽出液の連続希釈検体を50μl加え、室温で2時間反応させた。次いで各ウェルを0.05%Tweenを含むTBS(TBST)で洗浄し、5000倍希釈したペルオキシダーゼ標識抗マウスIgGまたはIgA抗体(Southern Biotechnology)を50μl添加した。室温で2時間放置した後に、各ウェルを0.05%Tweenを含むTBSで3回洗浄し、TMB基質を添加した。15分後に2N硫酸溶液を加えることによって反応を停止させ、吸光波長450nm、副波長655nmにおける吸光度を測定した。各検体の抗体価は0週に回収した検体よりも吸光度が0.1以上高い最大希釈倍率の逆数の対数をReciprocal log2 titerとして表わした。尚、検体ならびに抗体の希釈は全て0.2%スキムミルクを含むTBSTで行った。
使用抗原及びその起源
本発明の方法によるワクチンの有用性を検討するために、ヘアレスラット(週齢は6週)を用いて、破傷風及びジフテリアトキソイドを抗原として免疫応答を観察した。上記2種抗原は財団法人大阪大学微生物病研究所から提供を受けた。
実施例1の本組成1の10%基剤水溶液に、上記2種混合抗原懸濁液0.5mlを均一に混合して抗原−基剤水溶液を得、鋳型に適量を流延し、その後抗原を含まない10%基剤水溶液を追加流延し35℃で水分を蒸発させた後、鋳型から剥離して本発明のマイクロニードルアレイを得た。本マイクロニードルは高さが0.8mm、根元の直径が0.16mm、先端直径が0.04mmである円錐台状である。1cm2の円板上に間隔0.6mmで格子状に配列されたマイクロニードルは、計250個形成されている。各マイクロニードルアレイ1個あたりの抗原含有量は、破傷風及びジフテリアトキソイドの抗原それぞれ10μgであった。
ヘアレスラットに対して上記マイクロニードルアレイ(破傷風及びジフテリアトキソイドの抗原それぞれ10μg含有)を6時間貼付することで経皮免疫を実施した。また対照群として27G針および1cc注射器を用いて、各10μgの破傷風及びジフテリアトキソイドを100μlの容量でヘアレスラット背部皮下に注射投与した。これらの操作を2週間隔で5回(0、2,4,6,6週目)行い、0、2、4、6、8,10週目に回収した血清中のHA特異的IgG抗体をELISA法により測定した。これらの操作過程を図5に示す。ELISA法は抗原に破傷風及びジフテリアトキソイドを用いたほかは実施例2と同様であった。
前記本組成1の素材の薬物を含まないマイクロニードルを作成した。また、本組成1のマイクロニードル素材と組み替えHBsタンパク(シグマ社)500μgを500μlの水に溶解した溶液を作成した。
溶着法により、すなわち上記マイクロニードルの針の先端部100μmをを上記水溶液に5秒間浸漬して引き上げ乾燥させ、先端HBs溶着マイクロニードルアレイを得た。マイクロニードルアレイの裏面には皮膚への数時間の適用を安定化させるために絆創膏(マイクロポア、3M社)を直径2.5cmの円形に切り出した粘着フィルムを裏打ちしマイクロニードルパッチを得た。
免疫感作操作3週間後、ウサギの静脈血液試料を採取し、HBs抗原に特異的な抗体力価を測定したところ三羽とも陽性であった。尚、抗体力価の測定はバイオクリット−抗HBs(三光純薬製)を用いた。
Claims (7)
- マイクロニードルがヒアルロン酸50〜80重量%、デキストラン10〜40重量%及びポリビニルピロリドン5〜20重量%により構成され、抗原を含有するワクチン用マイクロニードルアレイ。
- 抗原が、インフルエンザ赤血球凝集素(HA)抗原、破傷風トキソイド、ジフテリアトキソイド及び組み替えHBsタンパクからなる群より選ばれた1の抗原であることを特徴とする請求項1に記載のワクチン用マイクロニードルアレイ。
- 前記抗原はマイクロニードルアレイのマイクロニードル部分にのみ存在していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のワクチン用マイクロニードルアレイ。
- 前記抗原は溶着法によりマイクロニードルに溶着させていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のワクチン用マイクロニードルアレイ。
- 前記ヒアルロン酸の分子量が50万以上、400万以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のワクチン用マイクロニードルアレイ。
- 前記マイクロニードルの形状が円錐型、円錐台型又はコニーデ型であり、その根元直径は0.15〜1.0mm、先端直径は0.01〜0.08mm、高さは0.1〜1.2mmであり、マイクロニードルとマイクロニードルのピッチが0.4〜1.0mmであることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のワクチン用マイクロニードルアレイ。
- アジュバンドを含有することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のワクチン用マイクロニードルアレイ。
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