以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
先ず、図1および図2に、本発明の第一の実施形態に係る可動型伝送装置としての可動型トランス10を示す。可動型トランス10は、コア部材12に第一のコイル部材としての電力用コイル14aが組み付けられて構成されたコイルヘッド18aと、コア部材12に第一のコイル部材としての電力用コイル14bが組み付けられて構成されたコイルヘッド18bとの一対が対向位置せしめられた構造とされている。これらコイルヘッド18a,18bは互いに略同様の構造とされていることから、以下は、コイルヘッド18aを例に説明し、コイルヘッド18bについては、図中に対応する符号を付することにより、その詳細な説明を省略する。
コイルヘッド18aを構成するコア部材12は、例えばフェライト等の強磁性材から形成された所謂ポット型コアとされており、中心軸上を貫通する貫通孔20を備えた全体として略円環形状とされている。更に、コア部材12には、軸方向(図2中、上下方向)の一方の端面に開口して全周に亘って延びる周溝としてのリード溝22が形成されることによって、リード溝22の底壁部24と、リード溝22の内側を全周に亘って延びる内周壁部26と、リード溝22の外側を全周に亘って延びる外周壁部28が形成されている。
そして、リード溝22内に銅などによって形成されたリード線が所定回数巻回せしめられることによって、電力用コイル14aが形成されている。これにより、図3に示すように、電力用コイル14aは、内周壁部26と外周壁部28との間をリード溝22に沿ってコア部材12の周方向に延びるようにコア部材12に組み付けられている。なお、本実施形態においては、電力用コイル14aを構成するリード線はコア部材12に直接に巻回せしめられているが、例えば、コア部材12と別途に用意したボビンにリード線を巻回せしめて電力用コイル14aを形成して、かかる電力用コイル14aを備えたボビンをリード溝22内に取り付けることによって、電力用コイル14aをコア部材12に組み付ける等しても良い。
なお、図3は、電力用コイル14aの延び出し方向を明らかにするためにモデル的に示したものであり、電力用コイル14aの巻数は、要求される伝送特性等を考慮して適宜に設定され得るものである。例えば、電力用コイル14aをコア部材12の半周のみ巻回せしめる等しても良いし、或いはリード溝22内に略隙間の無い程度に幾重にも重ねて巻回する等しても良い。
このような構造とされたコイルヘッド18a,18bは、例えば一方のコイルヘッド18aが互いに相対回動せしめられる部材30a,30b(図4参照)の一方の部材30aに装着されると共に、他方のコイルヘッド18bが他方の部材30bに装着されて、互いにリード溝22の開口側の端面を所定距離を隔てて向き合わせた状態で、同軸上に配設される。これにより、図1および図2に示すように、両コイルヘッド18a,18bにおける内周壁部26、26の開口側の端面32、32および外周壁部28、28の開口側の端面34,34が互いにコイルヘッド18a,18bの軸方向で所定距離を隔てた非接触状態で対向位置せしめられると共に、コイルヘッド18a,18bが中心軸周りで相対的に回動可能とされている。
さらに、本実施形態においては、対向位置せしめられたコイルヘッド18a,18bにおけるコア部材12,12の貫通孔20,20に、銅などによって形成されたリード線が挿通されてコア部材12,12に跨って所定回数巻回せしめられることによって、第二のコイル部材としての一対の信号用コイル36a,36bが組み付けられている。これにより、一対の信号用コイル36a,36bが、コイルヘッド18a,18bのコア部材12,12によって互いに連結されている。これら信号用コイル36a,36bは、例えば一方の信号用コイル36aが一方の部材30aに固定的に取り付けられると共に、他方の信号用コイル36bが他方の部材30bに固定的に取り付けられて、部材30a,30bの相対回動に伴って、コア部材12,12の中心軸回りで相対的に回動可能とされる。なお、図1および図2においては、理解を容易とするために、信号用コイル36a,36bの巻数は一周に満たない巻数とされているが、信号用コイル36a,36bの巻数は要求される伝送特性等を考慮して適宜に設定され得るものであり、例えば、幾重にも重ねて複数回巻回する等しても良い。
なお、特に本実施形態においては、信号用コイル36a,36bはそれぞれ、コア部材12に対して接触することなく巻装せしめられているが、例えば、一方の信号用コイル36aをこれと一体的に変位せしめられるコイルヘッド18aのコア部材12にのみ固定すると共に、他方の信号用コイル36bをこれと一体的に変位せしめられるコイルヘッド18bのコア部材12にのみ固定する等しても良い。このようにしても、コイルヘッド18aと信号用コイル36aを、コイルヘッド18bと信号用コイル36bに対してコイルヘッド18a,18bの中心軸回りで回動可能とすることが出来る。
そして、本実施形態における可動型トランス10は、例えば図4に示すように、コイルヘッド18aにおける電力用コイル14aを形成するリード線が、部材30aに設けられたインバータ38と電気的に接続されると共に、信号用コイル36aを形成するリード線が、部材30aに設けられた通信用回路40と電気的に接続される。一方、コイルヘッド18bにおける電力用コイル14bを形成するリード線が、部材30bに設けられた整流安定化回路42と電気的に接続されると共に、信号用コイル36bを形成するリード線が、部材30bに設けられた通信用回路44と電気的に接続される。これにより、コイルヘッド18aとコイルヘッド18bとの間で、電力および信号の伝送が可能とされる。
先ず、コイルヘッド18aからコイルヘッド18bに供給される電力の伝送経路について説明する。コイルヘッド18aの電力用コイル14aが接続されたインバータ38としては、例えば、CVCF型やVVVF型の従来公知のインバータが適宜に採用可能である。そして、部材30aに設けられた図示しない電源回路等から供給される直流電圧が、インバータ38によって高周波電圧に変換される。ここにおいて、インバータ38によって変換された高周波電圧の周波数(出力周波数)は、供給する電力や使用環境等によって異なるものであるが、本実施形態においては、100Hz〜500MHz程度の範囲内で適当に設定されている。
そして、インバータ38によって変換された高周波電圧が電力用コイル14aに給電されることによって、電力用コイル14aを貫き、出力周波数に応じて変化する磁束BP(図2参照)が発生する。電力用コイル14aを貫く磁束BPは、コア部材12の内周壁部26、底壁部24、および外周壁部28を通ると共に、互いに対向位置せしめられた内周壁部26の端面32,32、および外周壁部28の端面34,34を出入りして、対向するコイルヘッド18bに設けられた電力用コイル14bと鎖交する。このように、本実施形態においては、コア部材12における内周壁部26の開口側の端面32および外周壁部28の開口側の端面34が送受面とされている。
これにより、電力用コイル14a,14bが電磁結合せしめられて、電力用コイル14bには、相互誘導作用による誘導起電力が生じることとなり、電力用コイル14aに供給された高周波電圧が、電力用コイル14bから取り出される。このようにして、電力用コイル14aから電力用コイル14bに電力が非接触の状態で伝送される。そして、電力用コイル14bから取り出された高周波電圧は、整流安定化回路42によって直流電圧に変換された後に、通信用回路44等に供給されることとなる。このように、本実施形態においては、電力用コイル14a,14bによって第一のコイル部材の一対が構成されており、これら電力用コイル14a,14bによって構成される第一の伝送路が、電力を伝送する電力用伝送路とされている。
次に、コイルヘッド18aとコイルヘッド18bとの間で送受信される信号の伝送経路について説明する。先ず、信号用コイル36aが接続された通信用回路40によって、部材30aに設けられた図示しない制御回路等によって生成された信号が高周波電圧に重畳された後に、信号用コイル36aに供給される。なお、信号が重畳される高周波電圧は、通信用回路40によって生成されるようになっており、その周波数は、信号のデータサイズや使用環境等によって異なるものであるが、本実施形態においては、100Hz〜10GHz程度の範囲内で適当に設定されている。
そして、信号用コイル36aに高周波電圧が給電されることによって、信号用コイル36aを貫き、出力周波数に応じて変化する磁束が発生する。ここにおいて、本実施形態においては、信号用コイル36a内にコア部材12,12が挿通されていることによって、信号用コイル36aを貫く磁束の略全てがコア部材12,12の中を通るようにされている。そして、コア部材12,12によって閉磁路が形成されており、信号用コイル36aに発生した磁束は、コア部材12,12の周方向に延びて、コア部材12,12に対して外挿せしめられている信号用コイル36bと鎖交することとなる。その結果、信号用コイル36a,36bが電磁結合せしめられて、信号用コイル36bに、相互誘導作用による誘導起電力が生じることとなり、信号用コイル36aに供給された高周波電圧が、信号用コイル36bから取り出される。
このようにして、信号用コイル36aから信号用コイル36bに電力が非接触の状態で伝送される。そして、信号用コイル36bから取り出された高周波電圧に重畳されている信号は、通信用回路44によって取り出された後に、部材36bに設けられた図示しない各種の制御回路等に送信される。このように、本実施形態においては、信号用コイル36a,36bによって第二のコイル部材の一対が構成されており、これら信号用コイル36a,36bによって構成される第二の伝送路が、信号を伝送する信号用伝送路とされている。
なお、例えば部材30bから部材30aに信号を送信することも可能である。そのような場合には、前述の如き部材30aから部材30bに信号を送信した場合とは逆に、部材30bに設けられた図示しない制御回路等によって生成された信号が、通信用回路44で高周波電圧に重畳されて信号用コイル36bから信号用コイル36aにコア部材12,12を介して無接触の状態で伝送された後に、通信用回路40によって高周波電圧から取り出されることとなる。
このような構造とされた可動型トランス10においては、対向位置せしめられたコア部材12,12に跨って一対の信号用コイル36a,36bを設けたことによって、ノイズの混入を可及的に軽減しつつ、電力と信号の2つの電気信号を共通のコア部材12,12を用いて伝送することが出来る。即ち、本実施形態においては、電力用コイル14a,14bの芯の延出方向がコア部材12の軸方向とされる一方、信号用コイル36a,36bの芯の延出方向がコア部材12の周方向とされることによって、電力用コイル14aから生ぜしめられる磁束と信号用コイル36aから生ぜしめられる磁束が互いに略直交せしめられている。これにより、電力用コイル14aから生ぜしめられた磁束が信号用コイル36bと鎖交して信号用コイル36bにノイズ起電力を生ぜしめたり、信号用コイル36aから生ぜしめられた磁束が電力用コイル14bと鎖交して電力用コイル14bにノイズ起電力を生ずるようなおそれが軽減乃至は回避されている。その結果、本実施形態における可動型トランス10においては、電力用コイル14aによって形成される磁路と信号用コイル36aによって形成される磁路とを区切る溝等のギャップをコア部材12に形成せずとも、ノイズの発生を抑えた電力および信号の伝送が可能とされており、電力と信号の伝送を行う可動型伝送装置の更なるコンパクト化を実現することが出来る。
さらに、本実施形態においては、電力の伝送路を形成する電力用コイル14a,14bがコア部材12のリード溝22内に配設されていることによって、電力用コイル14a,14bの内外両側にコア部材12の内周壁部26および外周壁部28が配設されている。これにより、信号の伝送に比してより大きな磁束が必要とされる電力の伝送路の略全体がコア部材12内に形成されるようになっており、多くの磁束を安定して確保して、電力の伝送を安定して行うことが可能とされている。
なお、本実施形態に従う構造とされた可動型伝送装置は、例えば図5に示すような駆動装置45に好適に適用される。駆動装置45は、基台46に対して、回転板47が回転可能に組み付けられた構造とされている。基台46には電動モータ48が設けられており、かかる電動モータ48の出力軸49に、回転板47が取り付けられている。これにより、回転板47は、基台46に対して所定距離を隔てた状態で出力軸49回りに回動可能とされている。
そして、基台46に、本実施形態における可動型トランス10の一方のコイルヘッド18aと一方の信号用コイル36aが設けられると共に、回転板47に、他方のコイルヘッド18bと他方の信号用コイル36bが設けられる。ここにおいて、これら両コイルヘッド18a,18bは、端面32,34を互いに対向位置せしめた状態で同軸上に配設されており、電動モータ48の出力軸49は、これらコイルヘッド18a,18bの貫通孔20、20に挿通されて回転板47に取り付けられている。これにより、両コイルヘッド18a,18bおよび両信号用コイル36a,36bが、中心軸回りで相対的に回動可能とされている。
このようにすれば、互いに非接触とされて相対回動せしめられる基台46と回転板47との間で、電力および信号の伝送を行うことが出来る。そして、本発明に従う構造とされた可動型トランス10を用いることによって、これら基台46と回転板47間の電気信号の伝送経路をよりコンパクトに構成することが可能となる。
次に、図6に、本発明の第二の実施形態に係る可動型伝送装置としての可動型トランス50を示す。なお、以下の説明において、前述の実施形態と実質的に同じ部材については、前述の実施形態と同一の符号を付することによって、詳細な説明を省略する。
可動型トランス50は、前述の第一の実施形態と略同様の構造とされたコイルヘッド18a,18bを備えている。そして、特に本実施形態においては、コイルヘッド18a、18bそれぞれのコア部材12において送受面となる端面32,34を除く外周部分の略全体が、軸方向一方に開口する略有底円筒形状を有する低透磁率部材としてのギャップ部材52に覆われている。ここにおいて、ギャップ部材52の底部の中央部分には厚さ方向に貫通する貫通孔54が形成されており、コア部材12への装着状態において、かかる貫通孔54がコア部材12の貫通孔20と連通せしめられている。そして、信号用コイル36a,36bが、これら貫通孔20,54に挿通されて、ギャップ部材52の外側を周ってコア部材12,12に巻装されている。なお、ギャップ部材52としては、比透磁率の小さな従来公知の部材が適宜に採用可能であり、具体的には、ポリテトラフルオロエチレンやエポキシ樹脂などが例示される。より好適には、ギャップ部材52としては、非導電性を有する部材が採用される。本実施形態においては、ギャップ部材52としてポリテトラフルオロエチレンが用いられている。
このような構造とされた可動型トランス50によれば、コア部材12の外周面上に透磁率の低いギャップ部材52が配設されていることによって、電力用コイル14aから生ぜしめられた磁束がコア部材12の外に飛び出すことをより有利に抑えることが出来る。これにより、より安定した伝送を行なうことが出来る。
さらに、特に本実施形態においては、ギャップ部材52が非導電性材によって形成されている。これにより、磁力線の影響によって渦電流が生ぜしめられることも抑えられており、渦電流によって電力用コイル14a、14bや信号用コイル36a,36bの磁気エネルギーが減少せしめられるおそれも軽減されている。
なお、ギャップ部材52は、必ずしも両方のコイルヘッド18a,18bに設けられる必要は無く、コイルヘッド18a,18bの何れか一方にのみ設けても良い。また、本実施形態におけるギャップ部材52は有底円筒形状とされていたが、底部は必ずしも必要ではなく、ギャップ部材52を、軸方向両側に開口する円筒形状とする等しても良い。
次に、図7に、本発明の第三の実施形態に係る可動型伝送装置としての可動型トランス60を示す。可動型トランス60は、前述の第一の実施形態と略同様の構造とされた一対のコイルヘッド18a,18bが軸方向で所定距離を隔てて対向位置せしめられている。そして、特に本実施形態においては、銅などによって形成されたリード線が、コイルヘッド18a,18bにおけるそれぞれのコア部材12の外周面を構成する外周壁部28の外周面62上に所定回数巻回せしめられることによって、信号用コイル64a,64bが形成されている。これにより、信号用コイル64a,64bは、コア部材12の外周面62上でコア部材12の周方向に延びるようにして組み付けられている。なお、信号用コイル64a,64bの巻数は、要求される伝送特性等を考慮して適宜に設定され得るものであって、何等限定されるものではなく、例えば、コア部材12の半周のみ巻回せしめる等しても良いし、コア部材12を複数回に亘って重ねて巻回せしめる等しても良い。また、信号用コイル64a,64bの巻数は、互いに同じとされていても良いし、異ならされても良い。
さらに、コイルヘッド18bのコア部材12の外周面62には、ノイズ抑制用コイルとしてのキャンセルコイル66が組み付けられている。キャンセルコイル66は、信号用コイル64bと略同様に、銅などによって形成されたリード線が所定回数巻回せしめられることによって形成されており、これにより、キャンセルコイル66は、コア部材12の外周面62上でコア部材12の周方向に延びるようにして組み付けられている。なお、キャンセルコイル66の巻数は、信号用コイル64bに生じ得るノイズ起電力などを考慮して適宜に設定されるものであり、例えば、コア部材12の半周のみ巻回せしめる等しても良いし、コア部材12を複数回に亘って重ねて巻回せしめる等しても良い。
このような構造とされた可動型トランス60は、例えば信号用コイル64aが組み付けられた一方のコイルヘッド18aと一方の信号用コイル36aが互いに相対回動せしめられる部材68a,68b(図8参照)の一方の部材68aに装着されると共に、信号用コイル64bが組み付けられた他方のコイルヘッド18bと他方の信号用コイル36bが他方の部材68bに装着される。これにより、コイルヘッド18aと信号用コイル36a,およびコイルヘッド18bと信号用コイル36bがそれぞれ、コイルヘッド18a,18bの中心軸回りで回動可能とされている。
そして、本実施形態における可動型トランス60は、例えば図8に示すように、前述の第一の実施形態と同様に、コイルヘッド18aにおける電力用コイル14aを形成するリード線および信号用コイル36aを形成するリード線が、それぞれ、部材68aに設けられたインバータ38および通信用回路40と電気的に接続される一方、コイルヘッド18bにおける電力用コイル14bを形成するリード線および信号用コイル36bを形成するリード線が、それぞれ、部材68bに設けられた整流安定化回路42および通信用回路44と電気的に接続される。更に、コイルヘッド18aと一体的に変位せしめられる信号用コイル64aを形成するリード線が、部材68aに設けられた通信用回路70と電気的に接続される一方、コイルヘッド18bと一体的に変位せしめられる信号用コイル64bを形成するリード線が、部材68bに設けられた通信用回路72と電気的に接続されている。なお、これら通信用回路70,72は、前述の第一の実施形態における通信用回路40、44と略同様の構造とされたものである。
さらに、コイルヘッド18bと一体的に変位せしめられるキャンセルコイル66を形成するリード線が、部材68bに設けられたノイズ除去回路74と電気的に接続されている。ノイズ除去回路74は、周波数および電圧が予め設定された所定の高周波電圧をキャンセルコイル66に供給するものである。ここにおいて、ノイズ除去回路74によって供給される所定の高周波電圧としては、電力用コイル14aによって生ぜしめられる磁束に起因して信号用コイル64bに生ぜしめられるノイズ起電力を低減する逆起電力を信号用コイル64bに生ぜしめる磁束を、キャンセルコイル66への通電によって惹起し得る高周波電圧が採用される。また、ノイズ起電力を低減する逆起電力としては、ノイズ起電力に対する逆位相で同電圧の高周波電圧乃至はそれに近い高周波電圧が望ましい。なお、キャンセルコイル66へ供給する高周波電圧の周波数及び電圧の好適値は、例えば、信号用コイル64bから取り出される電気信号に混入するノイズ量を測定しつつ、キャンセルコイル66に供給する高周波電圧の周波数および電圧を次第に変化させてノイズ量の増減を測定することによって、好適な値にチューニングすることが出来る。
そして、前述の第一の実施形態と同様に、電力用コイル14a,14bの間で電力の伝送が行なわれると共に、信号用コイル36a,36bの間で信号の送受信が行なわれる。加えて、特に本実施形態においては、信号用コイル64a,64bの間でも信号の送受信が行なえるようにされている。
先ず、信号用コイル64aが接続された通信用回路70によって、部材68aに設けられた図示しない制御回路等によって生成された信号が、高周波電圧に重畳された後に、信号用コイル64aに供給される。なお、信号が重畳される高周波電圧は、通信用回路70によって生成されるようになっており、その周波数は、信号のデータサイズや使用環境等によって異なるものであるが、本実施形態においては、100Hz〜10GHz程度の範囲内で適当に設定されている。
そして、信号用コイル64aに高周波電圧が給電されることによって、信号用コイル64aを貫き、出力周波数に応じて変化する磁束が発生する。信号用コイル64aを貫く磁束は、コア部材12の外周壁部28における外側寄りの部位およびコア部材12の外部を通ると共に、互いに対向位置せしめられた外周壁部28の端面34,34および外周面62を出入りして、対向するコイルヘッド18bに設けられた信号用コイル64bと鎖交する。
これにより、信号用コイル64a,64bが電磁結合せしめられて、信号用コイル64bには、相互誘導作用による誘導起電力が生じることとなり、信号用コイル64aに供給された高周波電圧が、信号用コイル64bから取り出される。このようにして、信号用コイル64aから信号用コイル64bに電力が非接触の状態で伝送される。そして、信号用コイル64bから取り出された高周波電圧に重畳されている信号は、通信用回路72によって取り出された後に、部材68bに設けられた図示しない各種の制御回路等に送信される。このように、本実施形態においては、信号用コイル64a,64bによって第三のコイル部材の一対が構成されており、これら信号用コイル64a,64bによって構成される第三の伝送路が、信号を伝送する信号用伝送路とされている。
さらに、特に本実施形態においては、部材68bに設けられたノイズ除去回路74からキャンセルコイル66に所定の高周波電圧が給電されて、キャンセルコイル66を貫き、出力周波数に応じて変化する磁束が発生する。そして、キャンセルコイル66から生ぜしめられた磁束が、信号用コイル64bと鎖交することによって、信号用コイル64bには電力用コイル14aから生ぜしめられる磁束に起因するノイズ起電力を軽減乃至は解消する誘導起電力が生ぜしめられる。これにより、信号用コイル64bから取り出される信号に混入するノイズを軽減乃至は解消することが可能とされている。
なお、例えば部材68bから部材68aに信号を送信することも可能である。そのような場合には、前述の如き部材68aから部材68bに信号を送信した場合とは逆に、部材68bに設けられた図示しない制御回路等によって生成された信号が、通信用回路72で高周波電圧に重畳されて信号用コイル64bから信号用コイル64aにコア部材12,12を介して無接触の状態で伝送された後に、通信用回路70によって高周波電圧から取り出されることとなる。
このような構造とされた可動型トランス60においては、コア部材12の外周壁部28の外側部分を用いて信号用コイル64a,64bが電磁結合せしめられるようになっており、これら信号用コイル64a,64bの間で信号の伝送を行なうことが可能とされている。即ち、本実施形態においては、コア部材12の外側に信号用コイル64a,64bが組み付けられており、信号用コイル64a,64bの外側にコア部材が設けられていないことによって、信号用コイル64a,64bの周りの比透磁率がコア部材12の比透磁率よりも十分に小さくされている。これと磁気抵抗が最小となる最短経路を採る磁力線の特性が協働して、電力用コイル14aから生ぜしめられる磁束は、殆どコア部材12における外周壁部28の外側部分を通ることなく外周壁部28の内側部分を通る一方、信号用コイル64aから生ぜしめられる磁束は、外周壁部28の外側部分を通ることとなる。これにより、本実施形態における可動型トランス60においては、電力用コイル14aによって形成される磁路と信号用コイル64aによって形成される磁路とを区切る溝等のギャップをコア部材12に形成せずとも、電力を伝送する磁束と信号を伝送する磁束との干渉を可及的に軽減して、ノイズの発生を抑えた電力および信号の伝送が可能とされている。その結果、第一乃至第三の3つの伝送路を共通のコア部材12を用いて形成することが可能とされており、第一の伝送路による電力の伝送路と、第二及び第三の伝送路による2chの信号の伝送路をコンパクトに形成することが出来る。
更にまた、本実施形態においては、コイルヘッド18bにキャンセルコイル66が設けられていると共に、ノイズ除去回路74からキャンセルコイル66に供給される高周波電圧によって、電力用コイル14aから生ぜしめられた磁束に起因して信号用コイル64bに生ぜしめられるノイズ起電力を軽減することが出来る。これにより、フィルタ回路などの複雑な構成を用いることなく、簡易な構成をもって信号用コイル64bから取り出される信号に混入するノイズをより有効に低減乃至は解消することが可能とされており、電力と信号を同時に伝送する場合でも、安定した信号の送受信を行うことが可能とされている。
次に、図9に、本発明の第四の実施形態としての可動型トランス80を示す。可動型トランス80は、前述の第一の実施形態に加えて、第二のコイル部材として更にもう一つの信号用コイル82がコイルヘッド18a,18bの貫通孔20、20を跨いで巻装されている。このようにすれば、3つの信号用コイル36a,36b,82の間で、信号の送受信が可能となる。ここにおいて、電気信号を送信するコイルおよび受信するコイルはこれら信号用コイル36a,36b,82の何れでも良い。また、これら信号用コイル36a,36b,82の何れか一つを送信用コイルとして、残りの二つのそれぞれで受信するなどしても良い。このように、本発明における第二のコイル部材の数は特に限定されるものではなく、更に多くの第二のコイル部材を設ける等しても良い。
また、図10に、本発明の第五の実施形態としての可動型トランス90を示す。可動型トランス90は、前述の第一の実施形態と同様のコイルヘッド18a,18bの組の2組に跨って、第二のコイル部材としての信号用コイル36a,36bが巻装されている。このようにすれば、一方のコイルヘッド18a,18bの間で電力の伝送が行えると共に、もう一方のコイルヘッド18a,18bの間でも電力の伝送を行うことが出来る。本実施形態から明らかなように、第二のコイル部材が巻装されるコイルヘッドの組は必ずしも1組に限定されるものではなく、複数のコイルヘッドの組に跨って巻装されても良い。
さらに、図11に、本発明の第六の実施形態としての可動型トランス100を示す。可動型トランス100は、前述の第一の実施形態と同様の構造とされたコイルヘッド18a,18bの組を2組備えると共に、これらコイルヘッド18a,18bの組の貫通孔20に跨って連結コイル部材としての連結コイル102が挿通されており、これらコイルヘッド18a,18bの組が相対変位可能に連結されている。そして、一方のコイルヘッド18a,18bの組の貫通孔20に、信号用コイル104aが挿通される一方、他方のコイルヘッド18a,18bの組の貫通孔20に、信号用コイル104bが挿通されている。これにより、一方の信号用コイル104aと連結用コイル102によって、一方の第二のコイル部材の一対が構成されると共に、他方の信号用コイル104bと連結コイル102によって、他方の第二のコイル部材の一対が構成されている。本実施形態によれば、例えば一方の信号用コイル104aから、かかる信号用コイル104aが巻装された一方のコイルヘッド18a,18bを介して連結コイル102に誘導起電力が生ぜしめられる。そして、連結コイル102に生ぜしめられた誘導起電力がもう一方のコイルヘッド18a,18bを介してもう一方の信号用コイル104bに伝送される。このようにすれば、信号用コイル104a,104bの相対変位の自由度をより高めることが出来る。
なお、上述の如き連結コイル102をより多数用いる等して、信号用コイル104a,104bの間に、より多数のコイルヘッド18a,18bの組を設けるなどしても良い。また、上述の連結コイル102は環状のコイルとされていたが、例えば図12に示す本発明の第七の実施形態としての可動型トランス110のように、連結コイル102を形成するリード線を図示しない電源回路や通信用回路に接続して、連結コイル102から電力や信号を取り出したり、連結コイル102から電力や信号を送信するようにしても良い。
また、図13に、本発明の第八の実施形態としての可動型トランス120を示す。可動型トランス120は、前述の第一の実施形態と同様の構造とされたコイルヘッド18a,18bの組を2組備えると共に、これらコイルヘッド18a,18bの組の軸方向が互いに直交せしめられている。そして、これらコイルヘッド18a,18bの組が、それぞれの貫通孔20に連結コイル122が挿通されることによって互いに連結されていると共に、一方のコイルヘッド18a,18bの組の貫通孔20に、信号用コイル124aが挿通される一方、他方のコイルヘッド18a,18bの組の貫通孔20に、信号用コイル124bが挿通されている。これにより、一方の信号用コイル124aと連結用コイル122によって、一方の第二のコイル部材の一対が構成されると共に、他方の信号用コイル124bと連結コイル122によって、他方の第二のコイル部材の一対が構成されており、これら信号用コイル124a,124bの芯の延出方向が互いに直交せしめられている。本実施形態によれば、前述の第六および第七の実施形態における可動型トランス100,110と同様に、信号用コイル124a,124bの相対変位の自由度を高めることが出来る。そして、本実施形態から明らかなように、コイルヘッドの組が複数設けられる場合において、それらコイルヘッドの組の軸方向は必ずしも等しい方向でなくても良い。
以上、本発明の幾つかの実施形態について詳述してきたが、これらはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものではない。
例えば、互いに対向位置せしめられる両コア部材12,12は同様の構造とされて、互いに略等しい内径寸法および外径寸法を有していたが、これらの寸法は必ずしも互いに等しくされている必要は無いのであって、伝送に支障が生じない程度に異ならされていても良い。
また、例えば前述の第三の実施形態におけるキャンセルコイル66は必ずしも必要ではないが、例えばリード溝22内にキャンセルコイルを設ける等しても良い。また、前述のノイズ除去回路74は予め設定した所定の高周波電圧をキャンセルコイル66に供給するようにされていたが、例えば、信号用コイル36bに生ぜしめられるノイズ起電力を検出して、かかる検出結果に応じてキャンセルコイル66に供給する高周波電圧の周波数や電圧を変化せしめる等しても良い。
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
10:可動型トランス、12:コア部材、14a,b:電力用コイル、18a,b:コイルヘッド、20:貫通孔、22:リード溝、24:底壁部、26:内周壁部、28:外周壁部、32:端面、34:端面、36a,b:信号用コイル