本発明は、光ファイバ特性測定装置及び光ファイバ特性測定方法に関し、特に被測定対象としての光ファイバ内に生じるブリルアン散乱が示す歪み依存性を利用して、光ファイバに加わる歪みなどの分布状況をセンシングする光ファイバ特性測定装置及び光ファイバ特性測定方法に関する。
光ファイバ中で生じるブリルアン散乱は、光ファイバに加わる歪みによって変化する。こうした現象を利用して、光ファイバの長さ方向に沿う歪みを分布的に測定する技術が構築されてきた。この測定技術は、ブリルアン散乱光の周波数変化を測定することで、歪みの大きさを測定できると共に、ブリルアン散乱光が戻ってくるまでの時間を測定することで、光ファイバの歪み箇所を特定することが可能なため、橋梁・橋脚,ビル,ダムなどの構造物や、航空機の翼・燃料タンクなどの材料に光ファイバを張り巡らせることで、これらの構造物や材料に加わる歪みの分布を知ることができる。そして、こうした光ファイバ神経網によって、構造物や材料の劣化や経年変化が分かることから、防災や事故防止に役立つ技術として注目されている。
これまで知られていた歪み分布量の測定方法は、光パルスを光ファイバに入射し、後方に散乱されるブリルアン散乱光を時間分解で測定するものであった。しかし、このような光パルスによる時間領域の測定方法では、測定時間(数分から数十分掛かる)が長く、空間分解能(1mが限界)に制限があることから、様々な構造物を動的に管理するような用途には不十分である。そのため、空間分解能が高く、より短時間に歪みなどが生ずる箇所を特定できるブレークスルー技術がユーザーから求められていた。
こうした要求に応えるべく、本願発明者らは特許文献1や特許文献2において、従来の光パルスの時間分解測定方法とは異なり、連続光の干渉状態を制御することによって、光ファイバの長さ方向に沿うブリルアン散乱の分布測定技術を提案し、特許も取得した。この技術は、BOCDA(Brillouin Optical Correlation Domain Analysis:ブリルアン散乱光相関領域解析)法として知られており、1cmの空間分解能と約60Hzのサンプリング速度が達成され、注目されている。
図12は、特許文献1に提案された光ファイバ特性測定装置の構成図である。同図において、101は所望の変調周波数で変調された光を出力する光源で、これは信号発生器102で発生した周期的信号により、半導体レーザ(LD)103の注入電流を変調することで、当該半導体レーザ103から周波数変調または位相変調された光を発生する構成となっている。半導体レーザ103の出力光は、第1の光分岐器104で二分され、その一方の光が光周波数変換器105に入力される。光周波数変換器105は、マイクロ波発生器107で発生するマイクロ波を光強度変調器108に入力し、振幅変調を印加することで、入力光の中心周波数に対してマイクロ波周波数に等しい周波数差を有する側帯波を低周波側に発生させ、被測定光ファイバFUTの一端からプローブ光として入射する。また、第1の光分岐器104で分岐した他方の光は、光遅延器110および第2の光分岐器111を順に通過後、被測定光ファイバFUTの他端からポンプ光として入射する。なお、光遅延器110は、ポンプ光とプローブ光との間に所定の遅延時間を設定するためのものである。被測定光ファイバFUTからの出射光は、第2の光分岐器111で分岐され、光波長フィルタ112で低周波側の側帯波のみが選択され、光検出器113でそのパワーが測定される。
ここで、ブリルアン散乱の原理について説明すると、一般的な光ファイバに光を入射した場合、光ファイバ材料の硝子分子が熱振動することにより発生する超音波のうち、波長が入射光波長の半分となる超音波が生じる。この超音波がもたらす硝子の周期的な屈折率の変化は、入射光に対してブラッグ回折格子として作用し、光を後方に反射する。これがブリルアン散乱現象である。反射光は超音波の速度に依存してドップラーシフトを受けるが、この周波数シフト量は光ファイバに加わる伸縮歪みで変化するので、当該シフト量を測定すれば、歪みを検知することができる。
そこでBOCDA法では、被測定光ファイバFUTの両側から、ブリルアン周波数シフトに相当する周波数差で、二つの周波数の異なる伝搬波、すなわち強いポンプ光と弱いプローブ光を入射し、これらの各光を被測定光ファイバFUT内で対向して伝搬させる。このとき、ポンプ光とプローブ光との間で特別な位相の適合状態が満足すると(fpump=fprobe+fB:fpumpはポンプ光の中心周波数、fprobeはプローブ光の中心周波数、fBはブリルアン周波数である)、両光の周波数差に基づくビートにより熱振動を強めて、ポンプ光からプローブ光へ光子を散乱する音響フォノンが発生する。これは、誘導ブリルアン散乱として、プローブ光の増幅をもたらす。但し、ポンプ光とプローブ光の周波数差が大きく揺らぐと、誘導は抑圧される。
特許文献1などにも記述されているように、BOCDA法の基本的な原理は、対向して伝搬するポンプ光とプローブ光に対して同じ周波数変調を与えることにより、被測定光ファイバFUTに沿うある位置でのみ、強い誘導ブリルアン散乱を発生させることにある。そのためBOCDA法では、光源101からの光を連続発振光とし、その発振周波数を信号発生器102により正弦波状の繰り返し波形により変化させつつ、プローブ光の中心周波数f
probeとポンプ光の中心周波数f
pumpとの差が、ブリルアン周波数f
Bの近傍になるように、光周波数変換器105がプローブ光の中心周波数f
probeを変化させる。これにより、ポンプ光とプローブ光の周波数が非同期であり、両光の相関が低い殆どの位置では、誘導が抑圧されるが、ポンプ光とプローブ光の周波数が同期し、両光の相関が高い特別なcm程度の狭い領域(相関位置)では、誘導ブリルアン散乱が発生する。そして、この相関位置は変調周波数を変化させることで掃引でき、それによりブリルアン散乱による歪みの分布測定が可能になる。
特許第3667132号公報
特許第3607930号公報
上述したBOCDA法では、被測定光ファイバ中に誘導ブリルアン散乱を発生させるために、当該被測定光ファイバの両側から異なる周波数の光をそれぞれ入射する必要がある。そのため、例えば光ファイバレーザなどの一端子デバイスや、光ファイバ神経網で内部に断線が生じた場合などには、正しい診断を行なうことができず、その利用範囲が限定されていた。
またBOCDA法では、ポンプ光に対してプローブ光の周波数を精度高く下げるために、単一側波帯光変調器(SSBM:SSB変調器)を用いている。しかし、ここでのSSBMは、プローブ光として不要な高域の周波数成分を抑制し、且つポンプ光を基準として安定した周波数差を維持できるように、装置を作動させる度にそのバイアス電圧を正確に調整する必要があった。
この点について、従来は被測定光ファイバの片側だけから光を入射する片端入射型の光ファイバ分布量測定方法として、「光ファイバブリルアン散乱光時間領域リフレクメトリ法(Brillouin Optical Time-Domain Reflectmetry:以下、BOTDR法という)」が知られている。これは、光パルスを被測定光ファイバの片側から入射して、当該被測定光ファイバ内で後方に散乱されるブリルアン散乱光を時間分解により測定するものである。このBOTDR法では、被測定光ファイバに入射する光パルスの幅によって、空間分解能が決定される。
しかし、光パルスの幅を空間分解能が1mに相当する10nS以下にすることは原理的に困難であり、高い空間分解能を実現することは不可能である。また、1発の光パルスに対する被測定光ファイバからの反射光が極めて小さいため、何発も光パルスを入射して反射光を積分する必要がある。そのため、測定時間が数分〜数十分かかってしまい、構造物や材料の安全性を監視するには不十分であった。
そこで、本発明は上記問題点に鑑み、作動の度に時間をかけて調整を行なうことなく、被測定光ファイバの片端から光を入射するだけで、当該被測定光ファイバの特性分布を高い空間分解能で且つ短時間に測定できる新規な光ファイバ特性測定装置及び光ファイバ特性測定方法を提供することを、その目的とする。
上記目的を達成するために、本発明における光ファイバ特性測定装置は、周波数変調された連続光を出力する光源部と、前記光源部からの出力光を、被測定光ファイバの片端からポンプ光として入射させるポンプ光生成手段と、前記光源部からの出力光を、参照光として生成する参照光生成手段と、前記被測定光ファイバ内のブリルアン散乱により生じた反射光と前記参照光とを干渉させ、前記出力光の周波数変調を利用して、前記被測定光ファイバ内のある位置で発生した散乱による反射光を干渉出力として選択的に抽出する検出手段と、前記検出手段からの干渉出力により、前記位置でのブリルアン周波数シフトを測定し、前記被測定光ファイバの特性を測定する測定手段とを備えている。
この場合、前記反射光を増幅する第1の光増幅器と、前記第1の光増幅器により得られた増幅光から不要な光成分を除去し、これを前記検出手段で前記参照光と干渉させる第1のフィルタとを備えることが好ましい。
また、前記参照光生成手段は、前記光源部からの出力光を増幅する第2の光増幅器と、前記第2の光増幅器により得られた増幅光から不要な光成分を除去し、これを前記参照光として生成する第2のフィルタとを備えてもよい。
さらに、前記検出手段により電気信号に変換された前記干渉出力を増幅して、前記測定手段に出力する電気アンプを備えてもよい。
上記何れか一つの構成において、前記ポンプ光生成手段は、前記ポンプ光をパルス状にして前記被測定光ファイバの片端に出力する第1の時間ゲート手段を備えると共に、前記被測定光ファイバに設定された範囲内において、一つの位置で発生した散乱による反射光のみを干渉出力として抽出するタイミングで、前記干渉出力を前記測定手段に出力する第2の時間ゲート手段を備えてもよい。
代わりに、前記ポンプ光生成手段は、前記ポンプ光をパルス状にして前記被測定光ファイバの片端に出力する第1の時間ゲート手段を備えると共に、前記参照光生成手段は、前記被測定光ファイバに設定された範囲内において、一つの位置で発生した散乱による反射光のみを干渉出力として抽出するタイミングで、前記参照光を前記検出手段に出力する第2の時間ゲート手段を備えてもよい。
本発明における光ファイバ特性測定方法は、光源部から周波数変調された連続光を出力する第1のステップと、この光源部からの出力光を、被測定光ファイバの片端からポンプ光として入射させる第2のステップと、前記光源部からの出力光を、参照光として生成する第3のステップと、前記被測定光ファイバ内のブリルアン散乱により生じた反射光と前記参照光とを干渉させ、前記出力光の周波数変調を利用して、前記被測定光ファイバ内のある位置で発生した散乱による反射光を干渉出力として選択的に抽出する第4のステップと、前記干渉出力により測定手段が前記位置でのブリルアン周波数シフトを測定し、前記被測定光ファイバの特性を測定する第5のステップとを行なうことからなる。
この場合、前記反射光を第1の光増幅器で増幅し、この第1の光増幅器により得られた増幅光から、第1のフィルタにより不要な光成分を除去して、これを前記第4のステップで前記参照光と干渉させるのが好ましい。
また、前記第3のステップで、前記光源部からの出力光を第2の光増幅器で増幅し、この第2の光増幅器により得られた増幅光から、第2のフィルタにより不要な光成分を除去し、これを前記参照光として生成してもよい。
さらに、前記第4のステップで、電気信号に変換された前記干渉出力を電気アンプにより増幅し、これを前記測定手段に出力してもよい。
上記何れか一つの方法において、前記第2のステップで、第1の時間ゲート手段により、前記ポンプ光をパルス状にして前記被測定光ファイバの片端に出力し、第2の時間ゲート手段により、前記被測定光ファイバに設定された範囲内において、一つの位置で発生した散乱による反射光のみを干渉出力として抽出するタイミングで、前記干渉出力を前記測定手段に出力してもよい。
代わりに、前記第2のステップで、第1の時間ゲート手段により、前記ポンプ光をパルス状にして前記被測定光ファイバの片端に出力し、前記第3のステップで、第2の時間ゲート手段により、前記被測定光ファイバに設定された範囲内において、一つの位置で発生した散乱による反射光のみを干渉出力として抽出するタイミングで、前記参照光を出力してもよい。
本発明の請求項1における光ファイバ特性測定装置、および請求項7における光ファイバ特性測定方法によれば、光源からの出力光を周波数変調しつつ、被測定光ファイバの片端だけからポンプ光を入射して、被測定光ファイバ内のブリルアン散乱により生じた反射光と参照光とを干渉させることにより、被測定光ファイバ中の数cm程度の狭い領域でのブリルアン散乱による反射光を、ある位置に対応した干渉出力として選択的に抽出することができ、しかもその位置を移動させて、被測定光ファイバ中のブリルアン散乱による特性分布を測定できる。したがって、従来のBOTDR法よりも高い空間分解能が実現できる。また、光パルスではなく連続光を被測定光ファイバの片端に入射するため、被測定光ファイバからの反射光は比較的大きく、積分の必要もない。そのため、短時間で測定を行なうことができ、構造物や材料の動的監視にも適している。さらに、反射光と参照光との周波数差を利用して、特定のある位置で発生した散乱による反射光を干渉出力として取り出しているため、BOCDA法のようなSSBMは不要であり、装置を作動させる度に時間をかけて調整を行なう必要もない。
本発明の請求項2における光ファイバ特性測定装置、および請求項8における光ファイバ特性測定方法によれば、被測定光ファイバからの反射光を増幅しつつ、不要な光成分を除去することができるので、参照光と干渉させる反射光のS/N比を改善することができる。
本発明の請求項3における光ファイバ特性測定装置、および請求項9における光ファイバ特性測定方法によれば、光源部からの出力光を増幅しつつ、不要な光成分を除去したものを、参照光として利用することができるので、反射光と干渉させる参照光のS/N比を改善することができる。
本発明の請求項4における光ファイバ特性測定装置、および請求項10における光ファイバ特性測定方法によれば、干渉出力をそのまま測定手段に送出するのではなく、電気アンプにより増幅してから測定手段に送出することで、干渉出力としてのS/N比を改善することができる。
本発明の請求項5における光ファイバ特性測定装置、および請求項11における光ファイバ特性測定方法によれば、被測定光ファイバ内の複数の位置で相関ピークが現れる場合であっても、第1の時間ゲート手段と第2の時間ゲート手段を付加するだけで、被測定光ファイバ内で一つの位置だけからの相関ピークを取り出すことが可能になり、高い空間分解能を維持したまま、被測定光ファイバ内の特性分布を測定できる。
本発明の請求項6における光ファイバ特性測定装置、および請求項12における光ファイバ特性測定方法によれば、被測定光ファイバ内の複数の位置で相関ピークが現れる場合であっても、第1の時間ゲート手段と第2の時間ゲート手段を付加するだけで、被測定光ファイバ内で一つの位置だけからの相関ピークを取り出すことが可能になり、高い空間分解能を維持したまま、被測定光ファイバ内の特性分布を測定できる。
以下、本発明における好ましい光ファイバ特性測定装置及び光ファイバ特性測定方法の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に示す各実施形態において、同一の箇所には同一の符号を付し、共通する箇所については可能な限り重複を避けて説明する。
図1は、本発明の第1実施形態による光ファイバ特性測定装置を示している。同図において、1は光源であり、これは信号発生器2と半導体レーザ3とにより構成される。半導体レーザ3は、例えば小型でスペクトル幅の狭いレーザ光を出射する分布帰還型レーザダイオード(DFB LD)が用いられる。信号発生器2は、半導体レーザ3から出射される中心周波数がfoのレーザ連続光を、例えば正弦波状に繰り返して周波数変調(位相変調を含む)するために、DC(直流)電流にAC(交流)電流を重畳させた所望の変調信号を、当該半導体レーザ3に注入電流として出力するものである。
4は、半導体レーザ3からのレーザ光を通過させるためのアイソレータである。ここでのアイソレータ4は、半導体レーザ3への不必要な戻り光により、当該半導体レーザ3の動作が不安定になるのを防止するために設けられる。
6は、前記半導体レーザ3からアイソレータ4を通過したレーザ光を、適当な強度比に二分する第1の光分岐器で、分岐された一方のレーザ光は、別な第2の光分岐器7を介して、被測定光ファイバFUTの一端からポンプ光として入射される。また、第1の光分岐器6で分岐された他方のレーザ光は、所定の長さの光ファイバからなる光遅延器8を通過し、光ヘテロダイン検波の参照光として後述する光カプラ11から光ヘテロダイン受信器12に出射される。なお、光遅延器8はポンプ光と参照光との間に所定の遅延時間を設定するためのもので、光ファイバ長を変えることで、遅延時間を適宜調整することができる。
前記被測定光ファイバFUTの一端からポンプ光を入射すると、光ファイバ材料の硝子分子が熱振動することにより発生する超音波のうち、波長が入射光(ポンプ光)波長の半分となる超音波が生じる。この超音波がもたらす硝子の周期的な屈折率の変化は、入射光に対してブラッグ回折格子として作用し、光を後方に反射する。この現象がいわゆる自然ブリルアン散乱であり、図1に示す装置では、被測定光ファイバFUT内のブリルアン散乱(基本的には自然ブリルアン散乱)により生じた反射光が、ストークス光として被測定光ファイバFUTの一端から出射される。このストークス光は、前記第2の光分岐器7と光カプラ11を介して、光ヘテロダイン受信器12に出射される。
前記ブリルアン散乱においては、それにより発生する音響フォノンが指数関数的に減衰することから、ブリルアンゲインスペクトル(BGS)として知られているブリルアン散乱による光スペクトルが、ローレンツ型関数の形状を呈する。また、超音波の速度に依存して、反射光であるストークス光はドップラーシフトを受けるので、前記スペクトルにおいて取得されるストークス光のピークパワーの周波数(中心周波数)は、入射光であるポンプ光の中心周波数foに対して11GHz程度ダウンシフトする。この周波数シフトの量は、ブリルアン周波数シフトfBと呼ばれるもので、被測定光ファイバFUTに加わる伸縮歪みや温度によって変動する。したがって、光ヘテロダイン受信器12が受信するストークス光の中心周波数は、ポンプ光ひいては半導体レーザ3からのレーザ光の中心周波数foよりも、ブリルアン周波数シフトfB分下がることになる(fo−fB)。
参照光とストークス光をそれぞれ受ける光ヘテロダイン受信器12は、2個のバランスフォトダイオード(PD:以下、バランスPDという)14,15と、検波部16とからなる光ヘテロダイン方式の検出(検波)手段で構成される。ここでの参照光は、光ヘテロダイン受信器12に対する光学的な局部発振器からの発振信号と見なすことができ、光ヘテロダイン受信器12は、周波数の異なる参照光とストークス光とを重ね合わせ、両光の周波数差に等しい電気的なビート信号を生成する。とりわけ、参照光とストークス光の間では、ブリルアン周波数シフトfBに相当する周波数差が有る。
18は、光ヘテロダイン受信器12から出力する電気的なビート信号の周波数特性を観測する周波数分析手段としてのスペクトラムアナライザ(ESA:electrical spectrum analyzer)である。前述したように、被測定光ファイバFUTに伸縮歪みや温度変化が生じると、こうした歪みや温度変化に比例して、ブリルアン周波数シフトfBが変動する。スペクトラムアナライザ18は、こうしたブリルアン周波数シフトfBの変動を、光ヘテロダイン受信器12からのビート信号のピーク周波数変動として測定するものである。スペクトラムアナライザ18の測定結果は、観測データとして処理手段であるパーソナルコンピュータ(以下、PCという)19に出力され、ここで種々のデータ処理が行なわれる。PC19は、スペクトラムアナライザ18から取得した観測データなどに基づいて、適切なAC電流を信号発生器2に供給できるように、例えばGPIB(General Purpose Interface Bus)の規格に準拠した接続手段を通して制御信号を出力する。
なお、上記構成において、第1の光分岐器6や第2の光分岐器7は、サーキュレータ,ビームスプリッタ,ハーフミラーなどを用いてもよい。さらに他の変形例として、光源部としての光源1は、参照光とポンプ光のそれぞれに独立して別なものが設けられていてもよく、その場合は各光源1からのレーザ光を同じ周波数で周波数変調させるのが好ましい。また測定手段として、スペクトラムアナライザ18にPC19の機能が組み込まれていてもよい。
そして本実施形態では、アイソレータ4,第1の光分岐器6,第2の光分岐器7を含む光源1から被測定光ファイバFUTに至る光路が、光源1の出力光からポンプ光を生成して、このポンプ光を被測定光ファイバFUTの一端に導くポンプ光生成手段21を構成し、アイソレータ4,第1の光分岐器6,光遅延器8,カプラ11を含む光源1から光ヘテロダイン受信器12に至る光路が、光源1の出力光から参照光を生成して、この参照光を光ヘテロダイン受信器12に導く参照光生成手段22を構成している。また、第2の光分岐器7,カプラ11を含む被測定光ファイバFUTから光ヘテロダイン受信器12に至る光路23によって、被測定光ファイバFUTの全ての位置から発生するブリルアン散乱によるストークス光を、光ヘテロダイン受信器12に導くようになっている。
本発明で提案する「光ファイバブリルアン散乱光相関領域リフレクトメトリ法(Brillouin Optical Correlation Domain Reflectometry:以下、BOCDR法という)」は、従来のBOCDA法のように被測定光ファイバFUTの両側から光を入射するのではなく、被測定光ファイバFUTの片端から光を入射するだけで、被測定光ファイバFUTの診断を可能にする。これを実現するために、BOCDR法では、前記ポンプ光生成手段21によって光ファイバFUTの片端からのみポンプ光を入射し、光ファイバFUT内の全ての位置で発生するブリルアン散乱(基本的には自然ブリルアン散乱)を、ストークス光として光ヘテロダイン受信器12で受光する。ここで、ストークス光と参照光を干渉させると、両光の周波数差に相当するビート周波数としてブリルアン周波数シフトfBが分かる。このブリルアン周波数シフトfBがどの程度変化しているのかを、スペクトラムアナライザ18で観測すれば、被測定光ファイバFUT中の歪みや温度の変化を測定できる。
またBOCDR法は、BOCDA法と同様に、光源1からの連続発振光の周波数を繰り返し波形で変化させている。しかし、BOCDA法とは異なり、被測定光ファイバFUT内のある位置でのみ誘導ブリルアン散乱を発生させるのではない。BOCDR法では、光源1からの連続発振光の周波数を変調して、受光器であるバランスPD14,15上でのストークス光と参照光との干渉状態を制御することで、被測定光ファイバFUT内の全ての位置で発生したブリルアン散乱の中から、ある位置で発生した散乱のみを光ヘテロダイン受信器12で抽出する。つまり、光源1からの出力光に周波数変調を施すことにより、前記ある位置を除く殆ど全ての位置から発生する自然ブリルアン散乱光と参照光との周波数差は変動するため、これをスペクトラムアナライザ18で観測すると、その信号強度は周波数軸上で拡がったものとなる。一方、特別なある位置からの散乱光は、参照光と同期して周波数が変化しており、両光の周波数差が一定となり、これがブリルアン周波数シフトfBを与える。そのため、この特別な位置からの散乱光による信号強度は、スペクトラムアナライザ18上でピーク状に現われ、このピーク周波数を観測することで、被測定光ファイバFUT内のある位置での特性情報を得ることができる。
さらにBOCDR法では、前記被測定光ファイバFUT内の特別なある位置が、出力光の変調周波数により決められる。したがって、この変調周波数を変化させることにより、被測定光ファイバFUT内の決められた位置のみではなく、被測定光ファイバFUT内に沿った様々な位置で発生したブリルアン散乱のピーク周波数を、観測データとしてスペクトラムアナライザ18からPC19に出力できる。PC19は、どのような周波数で光源1からの出力光に対し周波数変調を施しているのかを把握しているので、取得した観測データが被測定光ファイバFUT内のどの位置に相当するものなのかを判断できる。そのため、被測定光ファイバFUT内のある範囲に渡る特性情報を、スペクトラムアナライザ18とPC19とにより正確に処理解析できる。このように、BOCDR法による被測定光ファイバFUT内の分布測定原理は、BOCDA法のそれとは大きく異なる。
次に、上記図1に示す装置の動作を説明すると、信号発生器2からの注入電流により半導体レーザ3から周波数変調されたレーザ光が出射すると、このレーザ光はアイソレータ4を経て、第1の光分岐器6により所定の強度比に分岐され、一方の周波数変調光は別な第2の光分岐器7を通って、そのまま被測定光ファイバFUTの一端からポンプ光として入射される。また、第1の光分岐器6により分岐した他方の周波数変調光は、光遅延器8を通過して所定の遅延時間を与えられた後、光カプラ11から光ヘテロダイン受信器12に出射される。
こうして、被測定光ファイバFUT中にポンプ光が伝搬すると、被測定光ファイバFUT内の全ての位置で生じたブリルアン散乱による後方反射光が、ストークス光として被測定光ファイバFUTの一端から出射される。このストークス光は、前記第2の光分岐器7と光カプラ11を通して、光ヘテロダイン受信器12に出射される。また、当該ストークス光は、光ファイバ材料の硝子分子が熱振動することにより発生する超音波の速度に依存してドップラーシフトを受けているため、その中心周波数は、半導体レーザ3からのレーザ光の中心周波数foからブリルアン周波数シフトfB分を差し引いたものとなる(fo−fB)。
光ヘテロダイン受信器12は、前記ストークス光と参照光とを干渉させ、両光のビート周波数による干渉出力をスペクトラムアナライザ18に送出する。ここで、光源1からの出力光は、中心周波数foに対してその周波数を周期的に増減する周波数変調が施されており、被測定光ファイバFUT内における殆ど全ての位置から発生するブリルアン散乱光と参照光との周波数差は変動するため、その信号強度は周波数軸上で拡がる。しかし、特別なある位置からの散乱光は、参照光と同期して周波数が変化するので、両光の周波数差が一定となり、これがブリルアン周波数シフトfBを与える。そのため、この特別な位置からの散乱光による信号強度は、光ヘテロダイン受信器12からの干渉出力においてピーク状に現われる。こうして光ヘテロダイン受信器12は、光源1からの周波数変調された出力光により、受光する散乱光(ストークス光)と参照光との干渉状態が制御されることで、被測定光ファイバFUT内における全ての位置で発生したブリルアン散乱の中から、ある位置で発生した散乱のみを抽出し、これを干渉出力としてスペクトラムアナライザ18に送出することができる。
光ヘテロダイン受信器12からの干渉出力を受けたスペクトラムアナライザ18は、前記干渉出力におけるピーク周波数を観測表示し、PC19にデータ出力する。PC19は、ピーク周波数がどの程度シフトしているかによって、被測定光ファイバFUTの特別なある位置における歪みや温度の特性を取得することができる。また、光源1の変調周波数により前記特別なある位置が決められるので、この変調周波数を変化させることにより、被測定光ファイバFUT内のある範囲において、その被測定光ファイバFUTがどのような特性を有しているのかという特性分布を取得することができる。
ところでBOCDR法では、光源1に対して正弦波周波数変調が与えられると、被測定光ファイバFUT内における周波数ピークに対応した相関位置の間隔dmが、正弦波周波数変調の周波数fmに反比例する。したがって、被測定光ファイバFUTの測定範囲内において、一つの相関位置に対応した周波数ピーク(相関ピーク)だけが残るように、PC19が周波数変調の周波数fmを調整すれば、そのピークに対応した位置での反射光の情報を、唯一抽出することが可能になる。さらに、周波数変調の周波数fmを掃引することで、被測定光ファイバFUTに沿って相関ピークがスキャンされ、当該被測定光ファイバFUTにおける反射や散乱の分布情報を取得できる。
なお、BOCDR法における空間分解能Δzと測定範囲(隣接する相関位置の間隔)dmは、次の数1と数2によってそれぞれ与えられる。これは、先に提案したBOCDA法と同じである。
上記各式において、Vgは被測定光ファイバFUT内における光の群速度であり、ΔνBは被測定光ファイバFUTのブリルアンゲイン線幅(30〜50MHz)であり、Δfは周波数変調の振幅である。上述したように、相関ピークが発生する位置(相関位置)を測定対象の範囲内で1つだけ存在させるために、数2の式を利用して測定範囲dmを調整する。この場合、光源1の周波数変調の速さである周波数変調周波数fmを下げて、その周波数変化を緩やかにすれば、0次〜n次の隣接する相関位置の間隔ひいては測定範囲dmを広げることができる。但し、周波数変調周波数fmを可変するだけでは、プローブ光とポンプ光との光路差が零となる0次の相関位置は変化しない。そこで、高次の相関位置を利用するために、前記光遅延器8を挿入するのが好ましい。なお、光遅延器8を参照光にではなく、ポンプ光の光路中に挿入してもよい。こうして、光源1の周波数変調周波数fmを可変することにより、ピーク周波数が発生する相関位置を変化させることができる。
また、測定範囲dmを広げるために、周波数変調周波数fmを下げてしまうと、今度は数1からも明らかなように、空間分解能Δzが劣化して大きな値となってしまう。そこで、測定範囲dmを広げつつ、空間分解能Δzを高く維持するには、PC19が光源1の周波数変調の振幅(変調振幅)Δfを、可能な限り大きく調整すればよい。
このように、本実施形態における光ファイバ特性測定装置は、周波数変調された連続光を出力する光源部としての光源1と、光源1からの出力光を、被測定光ファイバFUTの片端からポンプ光として入射させるポンプ光生成手段21と、光源1からの出力光を、参照光として生成する参照光生成手段22と、被測定光ファイバFUT内のブリルアン散乱により生じた反射光と参照光とを干渉させ、前記光源1からの出力光の周波数変調を利用して、被測定光ファイバFUT内のある位置で発生した散乱による反射光を干渉出力として選択的に抽出すると共に、前記位置を参照光の周波数変調により掃引してシフトさせる検出手段としての光ヘテロダイン受信器12と、光ヘテロダイン受信器12からの干渉出力により、前記位置でのブリルアン周波数シフトを測定し、被測定光ファイバFUTの特性を測定する測定手段としてのスペクトラムアナライザ18やPC19と、を備えている。
これに対応して、本実施形態における光ファイバ特性測定方法は、光源部である光源1からの周波数変調された連続光を出力する第1のステップと、この光源1からの出力光を、被測定光ファイバFUTの片端からポンプ光として入射させる第2のステップと、光源1からの出力光を、参照光として生成する第3のステップと、被測定光ファイバFUT内のブリルアン散乱により生じた反射光と参照光とを干渉させ、前記光源1からの出力光の周波数変調を利用して、被測定光ファイバFUT内のある位置で発生した散乱による反射光を干渉出力として選択的に抽出すると共に、前記位置を参照光の周波数変調により掃引してシフトさせる第4のステップと、この干渉出力によって前記位置でのブリルアン周波数シフトをスペクトラムアナライザ18やPC19で測定し、被測定光ファイバFUTの特性を測定する第5のステップと、からなる。
なお、ここでいう光源部とは、図1に示すように単独の光源1から参照光とポンプ光とを生成するものだけでなく、参照光とポンプ光のそれぞれに光源を設けたものなども含む。
上記装置や方法では、光源1からの出力光を周波数変調しつつ、被測定光ファイバFUTの片端だけからポンプ光を入射して、被測定光ファイバFUT内のブリルアン散乱により生じた反射光と参照光とを干渉させることにより、被測定光ファイバFUT中の数cm程度の狭い領域でのブリルアン散乱による反射光を、ある位置に対応した干渉出力として選択的に抽出することができ、しかもその位置を移動させて、被測定光ファイバFUT中のブリルアン散乱による歪などの特性分布を測定することができる。したがって、従来のBOTDR法のような例えば1mの原理的限界はなく、高い空間分解能が実現できる。また、光パルスではなく連続光を被測定光ファイバFUTの片端に入射するため、被測定光ファイバFUTからの反射光は比較的大きく、積分の必要もない。そのため、例えば1秒以下の短時間で測定を行なうことができ、構造物や材料の動的監視にも適している。さらに、光ヘテロダイン方式を採用し、反射光と参照光との周波数差を利用して、特定のある位置で発生した散乱による反射光を干渉出力として取り出しているため、BOCDA法のようなSSBMは不要であり、装置を作動させる度に時間をかけて調整を行なう必要もない。
そして、被測定光ファイバFUTの片端からポンプ光を入射するだけで、被測定光ファイバFUTの特性分布を測定できるので、一端子デバイスや内部に断線箇所がある場合でも測定が可能であることに加え、橋梁などの直線状巨大構造物に対して、より効果的な被測定光ファイバFUTの配線が可能になる。
図2は、本発明の第2実施形態による光ファイバ特性測定装置を示している。本実施形態では、第1実施形態におけるBOCDR法の基本システム構成に、光増幅器(Optical amplifier:以下、OAという)31,32,33と、光フィルタ34,35と、電気アンプ36とをそれぞれ組み込み、得られる信号のS/N比を改善させている。より具体的には、前記ストークス光の光路23中に、第1のOA31と第1の光フィルタ34が順に組み込まれ、参照光生成手段22における参照光の光路中に、第2のOA32と第2の光フィルタ35が順に組み込まれ、ポンプ光生成手段21におけるポンプ光の光路中に、このポンプ光を増幅するための第3のOA33が組み込まれる。また電気アンプ36は、光ヘテロダイン受信器12からスペクトラムアナライザ18に至る干渉出力の電気信号ライン中に組み込まれる。それ以外の構成および動作は、前記第1実施形態で説明したとおりである。
図1に示すBOCDR法の基本システムだけでは、被測定光ファイバFUT内のブリルアン散乱(基本的には自然ブリルアン散乱)による反射光(ストークス光)は極めて小さく、光ヘテロダイン受信器12によるヘテロダイン検波を施しても、S/N比は十分とはいえない場合もある。そこで本実施形態では、被測定光ファイバFUTからの反射光であるストークス光を第1のOA31で増幅する。一般に、OAによる光増幅には自然放出光(Amplified Spontaneous Emission:ASE)雑音が伴い、S/N比を劣化させる要因となるので、ここでは第1のOA31で増幅したストークス光のS/N比を改善するために、第1の光フィルタ34で不要なノイズ成分を除去する。その際、レイリー散乱による不要な反射光成分も、第1の光フィルタ34で同時に除去できる。また参照光についても、同様の手法により第2のOA32で増幅し、後段の第2の光フィルタ35で不要なノイズ成分を除去する。こうした信号処理により、ストークス光と参照光との干渉により得られるビート信号を増大させ、微弱なストークス光の検出を容易にできる。
さらに本実施形態では、バランスPD14,15により電気信号に変換されたビート信号を、電気アンプ36により増幅してからスペクトラムアナライザ18で観測する。このような工夫を施し、図2に示すような改良されたBOCDR法のシステム構成を用いることで、大幅なS/N比の向上が達成できる。
このように、本実施形態の光ファイバ特性測定装置は、前記被測定光ファイバFUTからの反射光であるストークス光を増幅する第1のOA31と、第1のOA31により得られた増幅されたストークス光から不要な光成分を除去し、これを光ヘテロダイン受信器12で参照光と干渉させる第1のフィルタとしての第1の光フィルタ34と、を備えている。
これに対応して本実施形態では、ストークス光を第1のOA31で増幅し、この第1のOA31により得られた増幅されたストークス光から、第1の光フィルタ34により不要な光成分を除去して、これを前記第4のステップで参照光と干渉させる光ファイバ特性測定方法を採用している。
こうすると、被測定光ファイバFUTからのストークス光を増幅しつつ、不要な光成分を除去することができるので、参照光と干渉させるストークス光のS/N比を改善することができる。
また、本実施形態の光ファイバ特性測定装置は、光源1からの出力光を増幅する第2のOA32と、第2のOA32により得られた増幅光から不要な光成分を除去し、これを前記参照光として生成する第2のフィルタとしての第2の光フィルタ35とを、参照光生成手段22がさらに備えている。
これに対応して本実施形態では、前記第3のステップで、光源1からの出力光を第2のOA32で増幅し、この第2のOA32により得られた増幅光から、第2の光フィルタ35により不要な光成分を除去し、これを前記参照光として生成する光ファイバ特性測定方法を採用している。
こうすると、光源1からの出力光を増幅しつつ、不要な光成分を除去したものを、参照光として利用することができるので、ストークス光と干渉させる参照光のS/N比を改善することができる。
さらに、本実施形態における光ファイバ特性測定装置は、光ヘテロダイン受信器12により電気信号に変換された干渉出力を増幅して、これを測定手段であるスペクトラムアナライザ18に出力する電気アンプ36を備えている。
これに対応して本実施形態では、前記第4のステップで、電気信号に変換された干渉出力を電気アンプ36により増幅し、これをスペクトラムアナライザ18に出力する光ファイバ特性測定方法を採用している。
こうすると、前記干渉出力をそのままスペクトラムアナライザ18に送出するのではなく、電気アンプ36により増幅してからスペクトラムアナライザ18に送出することで、干渉出力としてのS/N比を改善することができる。
次に、図2に示したBOCDR法のシステム構成を利用した実験例と、その結果について説明する。この実験例では、光源1の半導体レーザ3として1552nmの分布帰還型レーザダイオード(DFB LD)を利用し、試験用の被測定光ファイバFUT内で相関ピークを発生させるために、信号発生器2による正弦波周波数変調が与えられた。半導体レーザ3からの出力は、カプラである第1の分岐器6によって2つの光ビームに分割され、一方の光ビームは、周期的に発生する相関ピークの次数を制御するために、光遅延器8としての2kmの遅延用ファイバを通過し、次にヘテロダイン方式でのビート信号を強めるために、第2のOA32(エルビウムドープ光ファイバ増幅器:EDFA)を通過し、さらに自然放出光増幅雑音を抑圧するために、約10GHzで3dbの帯域幅を有するファイバブラッググレーティング(Fiber Bragg Grating:FBG)からなる第2の光フィルタ35を通過した後で、光ヘテロダイン検出の参照光として直接用いられた。また、他方の光ビームは、高出力EDFAである第3のOA33によって28dbmに増幅された後、ポンプ光として被測定光ファイバFUTに入射された。
前記被測定光ファイバFUTからの後方散乱による弱いストークス光は、(fo−fB)の周波数を有しており、これが別な第1のOA31で再度増幅された。第1のOA31の後方には、第1の光フィルタ34が挿入されるが、これは被測定光ファイバFUT内における周波数foでのレイリー散乱とフレネル反射を抑圧するためにある。
参照光とストークス光との光学的なビート信号が、バランスPD14,15により検出され、電気信号に変換された。この電気信号は、電気プリアンプに相当する電気アンプによって15db増幅され、その後当該信号がスペクトラムアナライザ18で観測された。
半導体レーザ3からの出力光の周波数変調周波数fmは、457.4〜458.4kHzとしており、これは前記数2によれば、228mの相関ピークの間隔すなわち測定範囲dmに対応する。周波数変調の振幅Δfは5.4GHzであり、前記数1から測定の空間分解能Δzは約40cmと計算される。
被測定光ファイバFUTは、図3に示すように、100mの全長を有する一般的なファイバ(SMF:単一モード光ファイバ)で構成され、エポキシ系接着剤を用いて図示しないトランスレーションステージに固定することで、0.2%の歪みを長さ50cmの歪み部分に付与した。被測定光ファイバFUTの一端は、サーキュレータである第2の光分岐器7に接続部41を介して接続され、また被測定光ファイバFUTの他端は、開放状態に保たれた。前記歪み部分の一端から被測定光ファイバFUTの一端までの長さは96.5mであり、また歪み部分の他端から被測定光ファイバFUTの他端までの長さは3mであった。単独の位置に対する測定の全サンプリングレートは、50Hzである。
図4は、スペクトラムアナライザ18で観測された被測定光ファイバFUT中の3ヶ所の位置におけるブリルアンゲインスペクトル(BGS)を示している。ここで、図中に示してある「94.75m」,「96.75m」,「97.95m」なる数字は、被測定光ファイバFUTの一端からの距離を示している。同図からも明らかなように、被測定光ファイバFUTの一端から96.75m離れた位置で、ブリルアンゲインスペクトルのピーク周波数が、他の部位に対し約100MHzシフトしていることがわかる。このシフト量から、被測定光ファイバFUTの歪み部分でどの程度の歪みが生じているのかを測定できる。
図5は、被測定光ファイバFUTに沿ったブリルアンゲインスペクトルの分布測定結果を三次元的に示しており、位置に対応する数字は、被測定光ファイバFUTの一端からの距離を示している。この図では、歪み部分に相当する被測定光ファイバFUTの一端から96.5m〜97mの部位で、ブリルアンゲインスペクトルのピーク周波数が他の部位と相違していることが分かる。よって、被測定光ファイバFUTにおける歪み部分を明確に特定できる。
図6は、被測定光ファイバFUTの位置に対するブリルアン周波数シフトの分布を二次元的に示しており、横軸の数字は、被測定光ファイバFUTの一端からの距離を示している。この図においても、歪み部分に相当する被測定光ファイバFUTの一端から96.5m〜97mの部位で、ブリルアン周波数シフトの量が他の部位と明確に相違していることが分かる。
以上の実験例とその結果から、50cm以下の優れた空間分解能が達成された。ここでのブリルアン周波数シフトの違いは約100MHzであり、これは歪み部分に与えられた0.2%の歪みと良く一致している。また、単独の位置での測定精度は約±10MHzであり、これは±0.02%の歪みに対応する。
次に、図7〜図9を参照しながら、別な実験例について、その結果を説明する。この実験例で利用したシステムは、上記実験例と同じものであるが、ここでは半導体レーザ3からの出力光の周波数変調周波数fmを、13.4624〜13.4672MHzに設定しており、これは前記数2によれば、7.6mの測定範囲dmに対応する。また、周波数変調の振幅Δfはこの実験例でも5.4GHzとなっており、前記数1から測定の空間分解能Δzは約13mmと計算される。実験に際しては、第128次の相関ピークを利用した。
図7は、被測定光ファイバFUTの構成を示すもので、ここでは5mの全長を有する一般的なファイバ(SMF)を用い、エポキシ系接着剤を用いて図示しないトランスレーションステージに固定することで、0.1%の歪みを長さ3cmの歪み部分に付与した。被測定光ファイバFUTの一端は、サーキュレータである第2の光分岐器7に接続部41を介して接続され、また被測定光ファイバFUTの他端は、フレネル反射を抑圧するためにマイクロベント処理された。前記歪み部分の一端から被測定光ファイバFUTの一端までの長さは420cmであり、また歪み部分の他端から被測定光ファイバFUTの他端までの長さは77cmであった。単独の位置に対する測定の全サンプリングレートは、50Hzである。なお、その他の実験条件は上述した実験例と共通している。
図8は、被測定光ファイバFUTに沿ったブリルアンゲインスペクトルの分布測定結果を三次元的に示しており、位置に対応する数字は、被測定光ファイバFUTの一端からの距離を示している。同図において、特に丸印で囲んだ部分に注目すると、歪み部分に相当する被測定光ファイバFUTの一端から420cm〜423cmの部位で、ブリルアンゲインスペクトルのピーク周波数が他の部位と相違していることが分かる。これにより、被測定光ファイバFUTにおける歪み部分を明確に認識できる。
図9は、被測定光ファイバFUTの位置に対するブリルアン周波数シフトの分布を示しており、横軸の数字は、被測定光ファイバFUTの一端からの距離を示している。この図においても、歪み部分に相当する被測定光ファイバFUTの一端から420cm〜423cmの部位で、ブリルアン周波数シフトの量が他の部位と明確に相違していることが分かる。以上の実験結果から、3cm以下の優れた空間分解能が達成された。ここでのブリルアン周波数シフトの違いは約50MHzであり、これは歪み部分に与えられた0.1%の歪みと良く一致している。また、単独の位置での測定精度は±10MHz以上であり、これは±0.02%の歪みに対応する。
この実験例は、BOCDR法に基づく一端アクセスによる歪み分布の測定が、13mmの空間分解能で行なえることを実証している。また、3cmのファイバ部分におけるブリルアン周波数シフトが、50Hzのサンプリングレートで上手く測定できている。このような高い分解能と高い測定スピードは、自然ブリルアン散乱に基づくリフレクトメトリによるシステムはもとより、誘導ブリルアン散乱を用いるBOTDA(Brillouin Optical Time Domain Analysis:ブリルアン散乱光時間領域解析)法によっても、今まで実現されることはなかった。ここで提案するBOCDR法は、実用的な分布センシング技術として、高い空間分解能と高い測定スピードを備えたより多くの可能性を有するものと期待される。
図10は、本発明の第3実施形態による光ファイバ特性測定装置を示している。本実施形態と次の第4実施形態は、特に被測定光ファイバFUTがある程度の全長を有する場合を考慮してなされたものである。前述したように、被測定光ファイバFUT内で一つの位置だけからの相関ピークを取り出すためには、光源1からのレーザ光の周波数変調周波数fmを下げて、測定範囲dmを広げざるを得ない。しかし、測定範囲dmを広げようとすると、空間分解能Δzが劣化するため、レーザ光の変調振幅Δfも大きくする必要があるが、この変調振幅Δfを無限に大きくすることはできない。したがって、こうした測定範囲dmや変調振幅Δfなどを適正に調整しても、第1実施形態や第2実施形態のようなシステム構成では、測定できる被測定光ファイバFUTの長さに制限があった。
本実施形態では、そうした問題に対応するために、第1の時間ゲート手段に相当する強度変調器51と、第2の時間ゲート手段に相当する電気スイッチ52とを、第1実施形態の基本システムに付加している。強度変調器51は、ポンプ光生成手段21の光路中に挿入され、PC19から駆動信号が供給される間のみ、パルス状の前記ポンプ光を被測定光ファイバFUTの片端に出力するものである。また電気スイッチ52は、光ヘテロダイン受信器12からスペクトラムアナライザ18に至る干渉出力の信号ラインに挿入され、PC19からの駆動信号を受けて、被測定光ファイバFUTに設定された範囲内で、一つの位置で発生した散乱による反射光のみを干渉出力として抽出するタイミングで、前記干渉出力をスペクトラムアナライザ18に出力するものである。なお、それ以外の構成および動作は、前記第1実施形態で説明したとおりであるが、これらの強度変調器51や電気スイッチ52を第2実施形態におけるシステム構成に組み込んでもよい。
上記構成において、PC19から強度変調器51に駆動信号が与えられると、パルス状のポンプ光が被測定光ファイバFUTの片端に入射される。ポンプ光が被測定光ファイバFUT内を伝搬するに伴い、全ての位置で時系列的にブリルアン散乱が生じ、その後方反射光が被測定光ファイバFUTの片端からストークス光として出射される。ここで被測定光ファイバFUT内に複数の相関ピークが存在する場合、PC19は、パルス状のポンプ光が強度変調器51から各相関ピークに対応した位置に到達するまでの時間と、これらの各位置からの反射光によって、光ヘテロダイン受信器12からの干渉出力が電気スイッチ52に到達するまでの時間を把握しているので、これらの時間を考慮して、強度変調器51に同期して電気スイッチ52に所定のタイミングで駆動信号を供給することにより、被測定光ファイバFUT内の設定された範囲内における一つの位置で発生した相関ピークを選択して、この選択した相関ピークを含む干渉出力を、光ヘテロダイン受信器12から電気スイッチ52を通してスペクトラムアナライザ18に送出することができる。
以上のように、本実施形態における光ファイバ特性測定装置は、上記第1実施形態や第2実施形態の構成に加えて、前記ポンプ光をパルス状にして被測定光ファイバFUTの片端に出力する第1の時間ゲート手段としての強度変調器51を、ポンプ光生成手段21に備えると共に、被測定光ファイバFUTに設定された範囲内において、一つの位置で発生した散乱による反射光のみを干渉出力として抽出するタイミングで、この干渉出力をスペクトラムアナライザ18に出力する第2の時間ゲート手段としての電気スイッチ52を備えている。
これに対応して、本実施形態では、前記第2のステップで、強度変調器51によりポンプ光をパルス状にして被測定光ファイバFUTの片端に出力し、電気スイッチ52により、被測定光ファイバFUTに設定された範囲内において、一つの位置で発生した散乱による反射光のみを干渉出力として抽出するタイミングで、この干渉出力をスペクトラムアナライザ18に出力する光ファイバ特性測定方法を採用している。
こうすると、被測定光ファイバFUT内の複数の位置で周波数ピーク(相関ピーク)が現れる場合であっても、強度変調器51と電気スイッチ52を付加するだけで、被測定光ファイバFUT内で一つの位置だけからの周波数ピークを取り出すことが可能になり、高い空間分解能を維持したまま、被測定光ファイバFUT内の特性分布を測定できる。
図11は、本発明の第4実施形態による光ファイバ特性測定装置を示している。本実施形態では、第1の時間ゲート手段に相当する強度変調器51と、第2の時間ゲート手段に相当する別な強度変調器53とを、第1実施形態の基本システムに付加している。強度変調器51は、ポンプ光生成手段21の光路中に挿入され、PC19から駆動信号が供給される間のみ、パルス状の前記ポンプ光を被測定光ファイバFUTの片端に出力するものである。また強度変調器53は、参照光生成手段22の光路中に挿入され、PC19からの駆動信号を受けて、被測定光ファイバFUTに設定された測定範囲内で、一つの位置で発生した散乱による反射光のみを干渉出力として抽出するタイミングで、前記参照光を光ヘテロダイン受信器12に出力するものである。なお、それ以外の構成および動作は、前記第1実施形態で説明したとおりであるが、これらの強度変調器51,53を第2実施形態におけるシステム構成に組み込んでもよい。
上記構成において、PC19から強度変調器51に駆動信号が与えられると、パルス状のポンプ光が被測定光ファイバFUTの片端に入射される。ポンプ光が被測定光ファイバFUT内を伝搬するに伴い、全ての位置で時系列的にブリルアン散乱が生じ、その後方反射光が被測定光ファイバFUTの片端からストークス光として出射される。ここで被測定光ファイバFUT内に複数の相関ピークが存在する場合、PC19は、パルス状のポンプ光が強度変調器51から各相関ピークに対応した位置に到達するまでの時間と、これらの各位置からの反射光が光ヘテロダイン受信器12に到達するまでの時間を把握しているので、これらの時間を考慮して、強度変調器51に同期して強度変調器53に所定のタイミングで駆動信号を供給することにより、被測定光ファイバFUT内の設定された範囲内における一つの位置で発生した相関ピークを選択して、この選択した相関ピークを含む干渉出力を、光ヘテロダイン受信器12からスペクトラムアナライザ18に送出することができる。
以上のように、本実施形態における光ファイバ特性測定装置は、上記第1実施形態や第2実施形態の構成に加えて、前記ポンプ光をパルス状にして被測定光ファイバFUTの片端に出力する第1の時間ゲート手段としての強度変調器51を、ポンプ光生成手段21に備えると共に、被測定光ファイバFUTに設定された範囲内において、一つの位置で発生した散乱による反射光のみを干渉出力として抽出するタイミングで、参照光を光ヘテロダイン受信器12に出力する第2の時間ゲート手段としての強度変調器53を備えている。
これに対応して、本実施形態では、前記第2のステップで、強度変調器51によりポンプ光をパルス状にして被測定光ファイバFUTの片端に出力し、電気スイッチ52により、被測定光ファイバFUTに設定された範囲内において、一つの位置で発生した散乱による反射光のみを干渉出力として抽出するタイミングで、参照光を光ヘテロダイン受信器12に出力する光ファイバ特性測定方法を採用している。
こうすると、被測定光ファイバFUT内の複数の位置で周波数ピークが現れる場合であっても、強度変調器51,53を付加するだけで、被測定光ファイバFUT内で一つの位置だけからの周波数ピークを取り出すことが可能になり、高い空間分解能を維持したまま、被測定光ファイバFUT内の特性分布を測定できる。
なお、本発明は、上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更可能である。例えば、発明の詳細な説明中にある周波数変調とは、位相変調の技術も含んでいる。また、光源として周波数変調された光を出力可能なものであれば、半導体レーザ以外の手法による光を利用してもよい。さらに、光源1に含まれる半導体レーザ(レーザダイオード)3は、その周波数変調における速度と振幅が制限されるので、より変調特性の良好な光源1を利用すれば、更なる改善が可能になる。
また、上記各実施形態に記載される光ファイバは、単に光ファイバそのものだけでなく、例えば光半導体素子の光路となる光導波路,硝子光導波路,シリコン光導波路なども含まれる。
本発明で提案したBOCDR法は、多様な測定対象に対応すべく、従来のBOCDA法をさらに発展させた新規な技術である。BOCDA法は、従来に比べて空間分解能の限界を100倍改善し、また測定速度も1万倍改善して、世界的にも注目を集めており、高い空間分解能,高速測定,測定位置へのランダムアクセス機能を併せ持つ世界唯一の技術である。そのため、土木・建設,航空・宇宙,原子力・エネルギー,交通・運輸などの幅広い分野で、痛みのわかる材料・構造のための神経網として本技術が注目されている。とりわけ本発明で提案したBOCDR法は、被測定光ファイバへの片端入射を実現し、応用範囲の拡大や、扱い難いデバイスからの解放など、BOCDA法に優る特徴を実現させることができ、ブリルアン散乱による被測定光ファイバの特性分布測定技術の実用化を、さらに加速するものと期待できる。
本発明の第1実施形態における光ファイバ特性測定装置の構成を示すブロック図である。
本発明の第2実施形態における光ファイバ特性測定装置の構成を示すブロック図である。
図2の装置の実験例として使用した被測定光ファイバFUTの構造を示す説明図である。
図2の装置の実験例において、被測定光ファイバFUTの各位置におけるブリルアンゲインスペクトルを示すグラフである。
図2の装置の実験例において、被測定光ファイバFUTに沿ったブリルアンゲインスペクトルの分布測定結果を示すグラフである。
図2の装置の実験例において、被測定光ファイバFUTの位置に対するブリルアン周波数シフトの分布を示すグラフである。
図2の装置の別な実験例として使用した被測定光ファイバFUTの構造を示す説明図である。
図2の装置の別な実験例において、被測定光ファイバFUTに沿ったブリルアンゲインスペクトルの分布測定結果を示すグラフである。
図2の装置の別な実験例において、被測定光ファイバFUTの位置に対するブリルアン周波数シフトの分布を示すグラフである。
本発明の第3実施形態における光ファイバ特性測定装置の構成を示すブロック図である。
本発明の第4実施形態における光ファイバ特性測定装置の構成を示すブロック図である。
従来例における光ファイバ特性測定装置の構成を示すブロック図である。
符号の説明
1 光源(光源部)
12 光ヘテロダイン受信器(検出手段)
18 スペクトラムアナライザ(測定手段)
19 パーソナルコンピュータ(測定手段)
21 ポンプ光生成手段
22 参照光生成手段
31 第1の光増幅器
32 第2の光増幅器
34 第1の光フィルタ(第1のフィルタ)
35 第2の光フィルタ(第2のフィルタ)
36 電気アンプ
51 強度変調器(第1の時間ゲート手段)
52 電気スイッチ(第2の時間ゲート手段)
53 強度変調器(第2の時間ゲート手段)
FUT 被測定光ファイバ