ところで近年、自動車用のディーゼルエンジン等では、1燃焼サイクル中において出力トルクを生成するためのメイン噴射を行う前又は後に、該メイン噴射よりも少量の噴射量にてサブ噴射を行う噴射方式、いわゆる多段噴射方式が採用されるようになってきている。例えば今日、燃料燃焼時の騒音やNOx排出量の増大が問題視されており、その改善のため、メイン噴射の前に少量の噴射量にてプレ噴射やパイロット噴射を行うことがある。また、メイン噴射の後においても、拡散燃焼の活性化、ひいてはPM排出の低減等を目的として、アフター噴射(噴射時期はメイン噴射に近接)を行ったり、あるいは排気温度の昇温や還元成分供給による触媒の活性化等を目的として、ポスト噴射(噴射時期はメイン噴射に対して大きく遅角)を行ったりすることがある。近年のエンジン制御では、これら各種の噴射の1つ又は任意の組み合わせ等をもって、様々な状況に対してより適した噴射態様(噴射パターン)で、エンジンに対する燃料の供給が行われている。
ただしこの場合、すなわち上記多段噴射を行う場合には、短いインターバル(間隔)で連続的に噴射が行われることによる影響で、単段噴射の場合と比べて、目標のエンジン運転状態に対する制御誤差がより大きくなってしまうことが、発明者によって確認されている。例えば連続的に噴射された各噴射(特にメイン噴射以外の微量のサブ噴射)は、その噴射の前後で別の噴射を行ったことにより様々な影響を受ける。
しかしながら従来、上記特許文献1に記載の装置等によっては、こうした多段噴射(1燃焼サイクル中での複数回の連続噴射)に係る噴射特性、詳しくはその多段噴射パターン中の所定噴射によって生じる圧力変動態様(うねり特性)を高い精度で検出することは困難であった。
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、例えば噴射特性の取得や補正等を可能とすべく、所定の噴射により生じる圧力変動態様(うねり特性)を高い精度で検出することのできる燃料噴射装置及びその調整方法を提供することを主たる目的とするものである。
以下、上記課題を解決するための手段、及び、その作用効果について記載する。
第1の発明では、エンジンのコモンレール式燃料噴射システムを構成する燃料噴射装置において、コモンレール燃料吐出側配管の、コモンレールから一定距離だけ離間した箇所から、該配管につながる燃料噴射弁の燃料噴射口までの燃料通路に対して配設され、その配設位置にて燃料圧力を測定する一乃至複数の燃料通路圧力センサと、前記燃料通路圧力センサのセンサ出力に基づき、前記燃料噴射弁の噴射動作、及び該噴射動作を通じて実際に行われた実噴射の少なくとも一方による圧力変動についてその圧力変動態様を検出する圧力変動検出手段と、を備えることを特徴とする。
このように、コモンレールの燃料吐出側配管(ただしコモンレール近傍を除く)から燃料噴射弁の燃料噴射口までの燃料通路内の圧力を測定する態様で、上記燃料通路圧力センサを配設することにより、所定の噴射に係る燃料噴射弁の噴射動作及び実噴射(該噴射動作を通じて実際に行われた噴射)の少なくとも一方による圧力変動態様を的確に検出することが可能になる。詳しくは、上記特許文献1に記載の装置では、基本的には、コモンレール内の圧力(レール圧)を測定するレール圧センサのみにより上記燃料噴射弁の噴射圧力を制御している。この装置において、噴射(噴射動作も含む)による圧力変動は、燃料噴射弁の燃料噴射口からコモンレールに到達するまでに減衰してしまい、レール圧の変動としては現れない。このため、こうした装置では、上記噴射により生じた圧力変動を精度よく検出することは困難である。これに対し、上記第1の発明の装置では、レール圧センサ(又はコモンレール近傍に設けられたセンサ)よりも燃料噴射口に近い位置で噴射圧力を測定する燃料通路圧力センサを備える。そのため、この圧力センサにより、噴射(噴射動作も含む)による圧力変動が減衰する前に、これを的確に捉えることが可能になる。したがって、このような装置によれば、例えば噴射特性の取得や補正等を可能とすべく、所定の噴射に係る燃料噴射弁の噴射動作及び実噴射の少なくとも一方による圧力変動態様(うねり特性)を高い精度で検出することが可能になる。
ちなみに、上記噴射動作及び実噴射による圧力変動がだいぶ減衰されるとはいえ、コモンレール内の圧力(レール圧)によっても、ある程度の圧力変動態様を検出することは可能である。具体的には、例えば圧力推移の傾き(圧力の時間微分値)を算出することにより、所定の噴射に係る噴射率をその微分値に基づいて推定することが可能である。しかしこの構成は、いわば減衰前の圧力値を微分値として推定するものであり、上記噴射率の推移、ひいてはその噴射率の積分値に相当する噴射量を、高い精度で検出することは難しい。これに対し、上記第1の発明の装置では、上記燃料通路圧力センサにより減衰前の圧力値を直接的に測定することが可能である。このため、例えば所定の噴射に係る噴射率の推移や噴射量を求める場合には、その圧力測定値から直接的に噴射率の推移、ひいては噴射量を求めることで、上記微分値を介した構成よりも高い精度でそれら噴射特性を検出することが可能になる。
また、エンジンのコモンレール式燃料噴射システムを構成する燃料噴射装置においては、例えばコモンレール内の圧力脈動を低減して安定した圧力により燃料噴射弁へ燃料を供給するなどの目的で、コモンレールに対して、コモンレール燃料吐出側配管を介して燃料噴射弁を接続するとともに、該コモンレールと前記コモンレール燃料吐出側配管との接続部分に対して、該配管を通じて前記コモンレールへ伝播される燃料脈動を軽減する燃料脈動軽減手段を設けることがある。この場合には、噴射(噴射動作も含む)による圧力変動が、燃料噴射弁の燃料噴射口で生じ、コモンレール燃料吐出側配管を通じてコモンレールへ向かって伝播してゆき、燃料脈動軽減手段にてそのうちの燃料脈動が軽減(減衰)される。したがって、こうした構成では、コモンレール内の圧力(レール圧)で噴射(噴射動作も含む)による圧力変動態様を正確に検出することがより困難になる。
この点、第2の発明では、こうした構成において、前記燃料脈動軽減手段よりも前記燃料噴射弁側に配設され、その配設位置にて燃料圧力を測定する一乃至複数の燃料通路圧力センサと、前記燃料通路圧力センサのセンサ出力に基づき、前記燃料噴射弁の噴射動作、及び該噴射動作を通じて実際に行われた実噴射の少なくとも一方による圧力変動についてその圧力変動態様を検出する圧力変動検出手段と、を備えることを特徴とする。こうした構成であれば、上記燃料脈動軽減手段により燃料脈動が軽減される前に、上記燃料通路圧力センサにて圧力変動態様を検出することが可能になり、ひいてはより高い精度で圧力変動態様を検出することが可能になる。
またこの場合、前記燃料脈動軽減手段としては、第3の発明のように、オリフィス(絞り部)、フローダンパ、又はそれらの組合せによって構成されるものを用いることが有益である。こうした構成であれば、上記目的を好適に達成することができる。また、オリフィスやフローダンパで燃料脈動を軽減する技術は、既に実用化され実績のある技術であるため、実用性や信頼性も高い。
上記第1〜第3のいずれかの発明の装置において、前記圧力変動検出手段についてはこれを、第4の発明のように、前記燃料通路圧力センサのセンサ出力を、該センサ出力で圧力推移波形の軌跡が描かれる程度に短い間隔にて逐次取得することにより、前記燃料噴射弁の噴射動作及び実噴射の少なくとも一方による圧力変動態様を、前記圧力推移波形として検出するものとする構成が有効である。
所定の噴射に係る燃料噴射弁の噴射動作及び実噴射の少なくとも一方による圧力変動態様は通常、圧力推移波形として検出することができる。そして、こうした圧力推移波形(圧力変動態様)を高い精度で的確に検出するためには、上記構成のように、前記燃料通路圧力センサのセンサ出力を、その圧力推移波形が把握可能な程度に短い間隔で逐次取得する構成が有益である。
具体的には、第5の発明のように、上記第1〜第4のいずれかの発明の装置において、前記圧力変動検出手段を、前記燃料通路圧力センサのセンサ出力を「50μsec」よりも短い間隔で逐次取得することにより、前記燃料噴射弁の噴射動作及び実噴射の少なくとも一方による圧力変動態様を検出するものとする構成が有効である。
現状採用されている一般的なコモンレールシステムに上記第1〜第4のいずれかの発明の装置を適用する場合には、上記構成のように、「50μsec」よりも短い間隔で上記センサ出力を逐次取得する構成が、上述した圧力変動の傾向を的確に捉える上で特に有効である。ただし、高い精度で上記圧力変動態様を得る上では、より短い間隔でセンサ出力を逐次取得する構成がより好ましい。したがって通常、上記センサ出力(燃料圧力信号)の取得間隔は、センサ出力の取得回数が増えることによる不都合、例えば演算負荷の増大等の不都合を加味しつつ、より短い間隔に設定することが望ましい。
ここで、上記第2〜第5のいずれかの発明の装置に関しては、第6の発明のように、前記センサ出力の逐次取得を行う期間であるセンサ出力取得期間を、少なくとも前記燃料噴射弁の実噴射による圧力変動の生じている期間である圧力変動期間を含む所定の期間として限定的に設定する期間設定手段を備える構成とすることが有効である。
こうした構成であれば、期間設定手段により、センサ出力取得期間を、少なくとも圧力変動期間を含む所定の期間として限定的に設定することができるようになる。そして、このように限定された期間であっても、基本的には、所望のデータ(噴射に係る圧力変動態様)が得られる。このことは、上記期間設定手段による期間限定で除外された部分が、検出対象外の期間、すなわち通常では必要としないデータしか取得されない期間であることによる。そして、こうしてセンサ出力取得期間を限定してより短い期間として設定することで、演算部分の処理負荷を軽減したり、一時記憶メモリ(一般にはRAMを使用)の使用記憶領域を小さくしたりすることができるようになる。
ここで、上記所定の期間(少なくとも圧力変動期間を含む期間)は、実験等により求めた固定値として設定するようにしても、あるいはマップ等を用いて時々の状況(特にエンジン運転状態)に応じた可変値として設定するようにしてもよい。しかしながら、より好ましくは、より容易且つ的確に、この期間を適切な期間に設定することのできる構成が望ましい。そこで、上記第6の発明の装置において、前記期間設定手段についてはこれを、第7の発明のように、前記エンジンの1燃焼サイクル中に前記燃料噴射弁により行われる1乃至複数の噴射のうち、最先の噴射に係る噴射開始指令により指示される前記燃料噴射弁の噴射開始指示タイミング(例えば通電開始タイミング)に対して、前記センサ出力取得期間の開始タイミングを設定するとともに、同サイクル中の最後の噴射について前記圧力変動検出手段により検出される、該最後の噴射を実行した後の圧力変動態様に基づいて、前記センサ出力取得期間の終了タイミングを設定するものとすることが有効である。
実噴射による圧力変動は通常、噴射開始指示タイミングの少し後に開始され、燃焼サイクル中の最後の噴射による圧力変動の終了(収束)をもって終了する。したがって、第7の発明の構成によれば、上記センサ出力取得期間を、より容易且つ的確に、前記「燃料噴射弁の実噴射による圧力変動の生じている期間(圧力変動期間)」として設定することが可能になる。
さらに、上記第2〜第7のいずれかの発明の装置に関しては、第8の発明のように、前記センサ出力の逐次取得を行う期間であるセンサ出力取得期間のうち、前記燃料通路圧力センサの配設位置における燃料圧力が安定している期間である圧力安定期間の一部に対して、同センサ出力の取得を一時的に休止する期間である休止期間を設ける休止期間設定手段を備える構成とすることが有効である。
こうした構成であれば、休止期間設定手段により休止期間を設けて、センサ出力取得期間を、より限定された期間とすることができるようになる。そして、こうしてセンサ出力取得期間を限定してより短い期間として設定することで、演算部分の処理負荷の軽減を図ったり、一時記憶メモリ(一般にはRAMを使用)の使用記憶領域を小さくしたりすることができるようになる。ただし、上記休止期間は、データを必要としない期間に設けることが好ましい。
具体的には、例えば第9の発明のように、前記圧力変動検出手段により検出される圧力変動態様に基づいて、前記圧力安定期間の開始タイミングを検出する安定開始検出手段を備える構成とし、前記休止期間設定手段についてはこれを、前記休止期間の開始タイミングを、前記安定開始検出手段により検出された前記圧力安定期間の開始タイミング又はその所定時間後に設定するとともに、前記休止期間の終了タイミングを、前記燃料噴射弁に対する噴射終了指令の指示する噴射終了指示タイミングに設定するものとする。こうした構成であれば、限定後の期間であっても、基本的には、所望のデータ(噴射に係る圧力変動態様)が得られるようになる。このことは、上記休止期間設定手段による期間限定で除外された部分が、燃料圧力の安定している期間(大きな変動のない期間)であり、基本的には、休止期間前後の圧力値に基づく補間演算等により予測可能であることによる。
第10の発明では、上記第1〜第9のいずれかの発明の装置において、前記エンジンが、多気筒エンジンであり、該エンジンの全シリンダに対して、それぞれ前記燃料通路圧力センサが設けられており、同エンジンの備える全シリンダのうち、前記燃料噴射弁の実噴射による圧力変動の生じている期間である圧力変動期間が重複し得るシリンダ同士をグループ化するグループ化手段を備え、前記圧力変動検出手段が、前記グループ化手段によりグループ化されたグループごとに該グループ内の各シリンダについてそれぞれ前記圧力変動態様を検出し、該グループ内の少なくとも1つのシリンダに係る検出を終了させながらグループを順次切り替えてゆくことで、前記エンジンの各シリンダについて、それぞれ前記圧力変動態様を検出するものであることを特徴とする。
また、第11の発明では、上記第1〜第9のいずれかの発明の装置において、前記エンジンは、複数のシリンダを備えて各シリンダで順に燃焼を行う多気筒エンジンであり、該エンジンの全シリンダに対して、それぞれ前記燃料通路圧力センサが設けられており、同エンジンの備える全シリンダのうち、燃焼順序で隣接する2つ又は3つのシリンダを選択するシリンダ選択手段を備え、前記圧力変動検出手段が、前記シリンダ選択手段により選択された2つのシリンダについて、それぞれ前記圧力変動態様を検出するものであることを特徴とする。
ところで、エンジンの全シリンダに対してそれぞれ前記燃料通路圧力センサの設けられたシステムにおいて、それら複数のセンサを切り換えて使用する場合、その信号処理系の構成としては、例えばそれらセンサ出力についてそれぞれ信号処理用の演算回路を設ける(図30(b)参照)ことが考えられる。しかしながら、このような構成の場合、信号処理用の演算回路がシリンダの数と同じ数だけ必要になる。この点、上記第10又は第11の発明の構成であれば、グループ化手段又はシリンダ選択手段により、エンジンの備える全シリンダのうち、その時に圧力変動期間が重複し得るシリンダ同士(第11の発明においては特に圧力変動期間が重複し易いシリンダ、すなわち燃焼順序で隣接する2つ又は3つのシリンダ)をグループ化する(又は選択する)ことができる。そして、前記圧力変動検出手段により、そのグループ化された(又は選択された)グループごとに前記圧力変動態様を検出するとともに、それらグループを切り替えつつ、エンジンの各シリンダについて、それぞれ前記圧力変動態様を検出することが可能になる。こうすることで、そのグループに含むシリンダの数だけの演算回路により、エンジンの全シリンダについてそれぞれ前記圧力変動態様を検出することが可能になる。こうすることで、必要な演算回路の数を減らすことができる。
ここで、上記第11の発明の装置における前記シリンダ選択手段としては、その時に選択していたシリンダのうちのいずれかのシリンダの検出が完了するごとに、又は次に検出すべきシリンダの検出開始タイミングが訪れるごとに、その時に選択していた2つ又は3つのシリンダの1つを、次に検出すべき別のシリンダに切り替えるものとすることが有効である。具体的には、各シリンダの燃焼サイクルの開始タイミング、及び、各シリンダの1燃焼サイクル中で最初の噴射開始タイミング、及び、各シリンダの1燃焼サイクル中で最後の噴射に係る圧力変動終了タイミング、のいずれかのタイミングにて、選択シリンダを切り替える構成が有効である。またこの場合、所定の条件に基づいて上記3つのタイミングの中から上記切替タイミングとして採用する一のタイミングを選択する手段を設けることも有効である。そして、上記各タイミングを検出する場合には、「燃焼サイクルの開始タイミング」は気筒判別信号(いわゆる気筒判別センサのセンサ出力)に基づいて、「1燃焼サイクル中で最初の噴射開始タイミング」は前記燃料噴射弁に対する噴射指令に基づいて、また「1燃焼サイクル中で最後の噴射に係る圧力変動終了タイミング」は前記圧力変動検出手段による圧力変動態様に基づいて、それぞれ検出することが有効である。こうした構成であれば、適切なタイミングで適切なシリンダを選択することが可能になる。
さらに、この第11の発明の装置に関しては、第12の発明のように、前記シリンダ選択手段を、複数の入力信号の中から所定の信号を選択する選択回路(例えばマルチプレクサ)とし、前記圧力変動検出手段を、前記シリンダ選択手段により選択された2つ又は3つのシリンダについて同時に前記圧力変動態様を検出するための演算を行うことができるように、各シリンダについてそれぞれその演算用の回路を備えて構成されるものとすることが有効である。こうした装置であれば、先の第11の発明の構成を、ハードウェア(特に回路)上で、容易且つ的確に実現することができる。ちなみに、上記第10の発明の装置についても、これに準ずる回路構成を適用することが有効である。
また上記装置について、その実用性を考えた場合には、例えば第13の発明のように、
・前記圧力変動検出手段により検出された圧力変動態様に基づいて、前記燃料噴射弁の噴射特性を推定する噴射特性推定手段を備える構成。
あるいは第18の発明のように、
・前記圧力変動検出手段により検出された圧力変動態様に基づいて、前記燃料噴射弁の噴射に係る補正を行う噴射特性補正手段を備える構成。
あるいは第27の発明のように、
・前記圧力変動検出手段により検出された圧力変動態様に基づいて、前記コモンレール式燃料噴射システムの異常の有無を判定する異常判定手段と、前記異常判定手段により異常である旨判定された場合に所定のフェイルセーフ処理を行うフェイルセーフ手段と、を備える構成。
といった構成を採用することが有益である。これらの構成であれば、上記噴射特性推定手段、噴射特性補正手段、フェイルセーフ手段等を通じて、上記燃料噴射弁の噴射特性の推定や、上記燃料噴射弁の噴射に係る補正、上記適宜のフェイルセーフ処理などを、自動的に行うことが可能になる。なお、上記フェイルセーフ処理としては、例えば代替値の設定や、異常の発生を示すダイアグコードの設定、あるいは警告灯の点灯等が有効である。
ここで、上記第13の発明の装置に関しては、第14の発明のように、前記噴射特性推定手段により推定された噴射特性と、前記エンジンの運転に係る所定の第1パラメータを検出するセンサのセンサ出力とに基づいて、第1パラメータとは別の、前記エンジンの運転に係る第2パラメータを推定する手段を備える構成とすることが有効である。
前記噴射特性推定手段によれば、噴射特性(エンジンの運転に係るパラメータの1つに相当)を高い精度で推定することが可能になる。そのため、高い精度で推定されたその噴射特性と、同じくセンサを通じて高い精度で検出される第1パラメータ(センサ出力)とを用いることで、別の第2パラメータを高い精度で推定することが可能になる。具体的には、例えば前記噴射特性推定手段により噴射率(噴射特性の1つに相当)を推定するとともに、酸素濃度センサ(例えばA/Fセンサ)により空燃比を検出することで、それら噴射特性とセンサ出力とに基づいて、シリンダへの吸入空気量を高い精度で求める(例えば「空燃比=吸入空気量/噴射量」なる関係式より算出する)ことができ、ひいては吸気通路に設けられたエアフロメータの検出誤差の補正を行うことなどが可能になる。あるいは、前記噴射特性推定手段により燃料噴射時期(噴射特性の1つに相当)を推定するとともに、筒内圧センサ(CPS)によりシリンダ内の圧力変動態様を検出(例えば圧力推移を逐次検出)することで、それら噴射特性とセンサ出力とに基づいて、燃料性状(例えばオクタン価やセタン価)を高い精度で求めることができる。詳しくは、筒内圧力と燃焼状態との相関関係により、筒内圧センサのセンサ出力(ひいては圧力変化)から着火時期を算出することができる。そして、ここで着火時期は、主に燃料噴射時期と燃料性状とに依存する。このため、着火時期と燃料噴射時期とを高い精度で検出することで、それら着火時期と燃料噴射時期とに基づいて、燃料性状を高い精度で求めることができる。
また、上記第13又は第14の発明の装置において、前記噴射特性推定手段により推定される噴射特性についてはこれを、第15の発明のように、単位時間あたりに噴射される燃料量に相当する噴射率とする構成が有効である。一般に噴射率は、燃料圧力とは反対の傾向を示す。すなわち、燃料圧力が大きくなるほど噴射率は小さくなり、燃料圧力が小さくなるほど噴射率は大きくなる。このため、噴射時の圧力変動態様を検出することで、その噴射の噴射率を的確に求めることが可能になる。しかもこうした構成によれば、前述したようなセンサ出力の時間微分値(推定値)としてではなく、前記燃料通路圧力センサのセンサ出力(圧力測定値)そのものとして直接的に噴射率を捉えることができるため、申し分のない検出精度が得られる。なお、こうした噴射率の時間積分値として噴射量を求める構成も有効である。
さらに上記第13又は第14の発明の装置における、前記噴射特性推定手段により推定される噴射特性についてはこれを、第16の発明のように、前記燃料噴射弁の噴射期間における噴射率の変動態様とする構成も有効である。
近年、エミッションに関する規制強化等に伴い、燃料噴射態様としてより精密な制御が求められるようになってきている。そのため、燃料噴射時期や噴射率といったエンジンの運転に関わる基本的なパラメータに加えて、燃料噴射弁の噴射期間における噴射率の変動態様(例えば噴射率の昇降速度の大小、安定期間の長短、あるいは段階的な昇降を行う場合の昇降タイミング、等々)についてもこれを、精密に制御(調整)することが重要になってきている。この点、上記第16の発明の装置によれば、前記噴射特性推定手段により噴射率の変動態様を、前記燃料通路圧力センサのセンサ出力(圧力測定値)そのものとして直接的に高い精度で推定することが可能になり、ひいては同パラメータの精密な制御(調整)したり、燃料噴射弁の噴射特性に関して噴射弁ごとに個別のデータ管理を行ったりすることができるようになる。
さらにこの場合、第17の発明のように、前記噴射特性推定手段により推定された噴射期間における噴射率の変動態様に基づいて、前記燃料噴射弁の噴射条件、又は前記燃料噴射弁に対する噴射指令を調整する手段を備えることで、上記噴射期間における噴射率の変動態様を容易且つ的確に所望の態様に制御(調整)することが可能になる。
また、上記第18の発明の装置については、第19の発明のように、前記噴射特性補正手段により補正を行った後に検出された前記圧力変動検出手段による圧力変動態様に基づいて、前記燃料噴射弁の噴射特性を推定する補正後噴射特性推定手段を備える構成とすることが有効である。
こうした構成であれば、上記燃料噴射弁の噴射に係る補正と、上記燃料噴射弁の噴射特性の検出とを交互に繰り返し行うことで、補正済みの噴射特性に基づく噴射を通じて、より正確なうねり特性を推定することが可能になる。
第20の発明では、上記第18又は第19の発明の装置において、前記エンジンが、多気筒エンジンであり、同エンジンの所定シリンダに係る所定パラメータについて前記噴射特性補正手段により行われた補正の1つのシリンダに係る補正量、及び複数シリンダに係る各補正量の1シリンダあたりの平均値の一方に基づいて、他のシリンダの少なくとも1つに係る同一パラメータを補正するシリンダ特性反映手段を備えることを特徴とする。
このように、所定の1つのシリンダ又は複数シリンダについて求めた補正量(例えば予め実験等により求めた初期の適合値(基準値)とのずれ度合に相当)を他のシリンダにも利用する(反映させる)ことで、圧力センサの数や演算負荷を極力抑えつつ、多くのシリンダについて、上記燃料噴射弁の噴射に係る補正を行うことが可能になる。
またこの場合、前記シリンダ特性反映手段についてはこれを、第21の発明のように、前記所定パラメータについての補正量又は平均値と同一の符号でより小さな値を、他のシリンダの少なくとも1つに係る同一パラメータについての補正係数とするものとして構成することが有効である。
前記所定パラメータについての補正量又は平均値をそのまま他のシリンダに適用した場合には、シリンダ別の個体差により逆に目標値(真値)との誤差が大きくなってしまうことが懸念される。この点、上記構成では、同一の符号(補正の方向が正側か負側かを示す符号)の補正係数を用いて所定シリンダの補正の傾向を他のシリンダに反映させながら、補正量についてはこれを、所定シリンダの補正の場合よりも小さな値としている。こうすることで、シリンダ別の個体差(ばらつき)を超えない範囲で誤差増大の可能性を低く抑えつつ、少なくとも所定シリンダの補正量に準ずる一定量だけは、他のシリンダの経年変化等に起因した噴射特性のずれを改善することが可能になる。
また、この第21の発明の装置において、前記所定パラメータについての補正量又は平均値と同一の符号でより小さな値についてはこれを、第22の発明のように、前記所定パラメータについての補正量又は平均値に「1」よりも小さな所定の係数を乗じた値とすることが有効である。
こうした構成であれば、シリンダ別の個体差(ばらつき)に対応した所定係数(例えば「0.7」等)を用いることで、所定シリンダの補正結果を利用してより容易且つ的確に他のシリンダの噴射特性ずれを改善することが可能になる。
第23の発明では、上記第22の発明の装置において、前記コモンレール式燃料噴射システムの劣化度合を示すパラメータがより大きな劣化度合を示すようになるほど前記所定の係数をより小さな値に可変設定する係数可変設定手段を備えることを特徴とする。
通常、前記コモンレール式燃料噴射システムの劣化度合が大きくなるほどシリンダ別の個体差に起因した噴射特性ずれのばらつきが大きくなる。このため、所定シリンダの補正結果を他のシリンダへ反映させる度合、すなわち前記所定の係数を、前記コモンレール式燃料噴射システムの劣化度合が大きくなるほどより小さな値に設定することが望ましい。こうすることで、前述した誤差増大の可能性をより的確に低く抑えることが可能になる。
また、この第23の発明の装置において、前記コモンレール式燃料噴射システムの劣化度合を示すパラメータとしては、第24の発明のように、同システムの使用時間の長短を示すパラメータを用いることが有効である。
通常、前記コモンレール式燃料噴射システムの劣化度合は、同システムの使用時間の長短に応じたものとなる。また、こうしたシステムの使用時間の長短は一般に、例えば所定のタイマ(計時手段)やイグニッションスイッチのオン回数等により、その検出が容易である。このため、上記第23の発明の装置を実現する上では、こうした構成が有効である。
さらに、この第24の発明の装置において、前記システムの使用時間の長短を示すパラメータとしては、第25の発明のように、前記エンジンの搭載された車両の走行距離を用いることが有効である。
コモンレール式燃料噴射システムの使用時間の長短については、直接的に時間の経過を見ることによっても勿論確認することは可能であるが、これに限られることなく、例えば当該装置を自動車等の車両に搭載した場合には、車両の走行距離によって間接的にこれを確認することができる。特に自動車等の車両においては通常、他の制御でも走行距離の値を使用しているため、走行距離がプログラム上で算出(又は取得)されている。このため、上記第24の発明の装置を自動車等の車両に搭載した場合には、こうした構成が特に有効となる。
第26の発明では、上記第23〜第25のいずれかの発明の装置において、前記圧力変動検出手段が、前記燃料噴射弁の噴射動作及び実噴射の少なくとも一方による圧力変動態様として圧力推移波形の少なくとも一部を検出するものであり、該圧力変動検出手段により検出される圧力推移波形と所定の基準圧力推移波形との対応箇所を比較することにより両者の差異を求める基準比較差異取得手段を備え、前記係数可変設定手段が、該基準比較差異取得手段により取得される差異を、前記コモンレール式燃料噴射システムの劣化度合を示すパラメータとして、該差異がより大きな値であるほど前記所定の係数をより小さな値に可変設定するものであることを特徴とする。
通常、前記コモンレール式燃料噴射システムの劣化度合が大きくなるほど、時々の圧力変動態様は、初期のものからずれてゆく(初期値からの差異が大きくなる)。このため、前記圧力変動態様として圧力推移波形を検出する場合には、上記構成を採用して、例えば基準圧力推移波形に予め実験等により求めた初期の適合値(基準値)を設定し、且つ該基準圧力推移波形との差異(例えば両者の差分や比率等)がより大きな値になるほど前記所定の係数をより小さな値に可変設定することで、前記コモンレール式燃料噴射システムの劣化度合が大きくなるほど前記所定の係数をより小さな値に設定することが可能になる。
また、上記装置における前記燃料通路圧力センサの配設位置については、例えば第28の発明のように、
・前記燃料通路圧力センサの少なくとも1つが、前記燃料噴射弁の内部又は近傍に設けられた構成。
あるいは第30の発明のように、
・前記燃料通路圧力センサの少なくとも1つが、前記コモンレールの燃料吐出側配管において、前記コモンレールよりも前記燃料噴射弁の燃料噴射口の方に近い位置に設けられた構成。
といった構成を採用することが有益である。
前記燃料通路圧力センサの配設位置が前記燃料噴射弁の燃料噴射口に近い位置であるほどより高い精度で、その圧力センサのセンサ出力を通じて、同噴射弁の噴射動作及び実噴射の少なくとも一方による圧力変動態様を検出することができるようになる。したがって、こうした圧力変動態様を高い精度で検出する上では、上記第28の発明のように、前記燃料噴射弁の内部又は近傍に前記燃料通路圧力センサを設けるようにした構成とすることが有効である。またこの場合、第29の発明のように、前記燃料通路圧力センサの少なくとも1つが、前記燃料噴射弁の燃料取込口に設けられた構成とすることが有効である。こうした構成であれば、同燃料通路圧力センサの取付け性や保守性が容易になるとともに、比較的安定して高い精度で圧力を検出することが可能になる。
また一方、上記第30の発明のように、前記燃料通路圧力センサを前記コモンレールの燃料吐出側配管に配設する場合にはそのセンサを、前記コモンレールよりも前記燃料噴射弁の燃料噴射口の方に近い位置に設けた構成が有益である。上記構成においては、こうしたセンサの少なくとも1つを、燃料噴射弁で生じた圧力変動が減衰しきらない程度に、コモンレールよりも燃料噴射弁側へ近づけた位置に配設することが重要であり、そのためには、燃料噴射弁へ近い位置に配設することが好ましい。
第31の発明では、上記第1〜第30のいずれかの発明の装置において、前記燃料通路圧力センサに加え、前記コモンレール内の圧力を測定するレール圧センサをさらに備え、前記圧力変動検出手段が、前記燃料通路圧力センサのセンサ出力に加え、該レール圧センサのセンサ出力も加味して、前記燃料噴射弁の噴射動作及び実噴射の少なくとも一方による圧力変動態様を検出するものであることを特徴とする。
こうした構成であれば、上記燃料通路圧力センサによる圧力測定値に加え、コモンレール内の圧力(レール圧)も取得することができるようになる。すなわち、例えばこのレール圧に基づいて、上記燃料通路圧力センサの設けられていない他のシリンダの燃料圧力をより的確に検出することが可能になる。また、前記燃料噴射弁の噴射特性を検出する際には、このレール圧に基づいて基礎圧力値(ベース圧力値)を検出することなども可能になる。
第32の発明では、上記第1〜第31のいずれかの発明の装置において、前記圧力変動検出手段が、前記燃料通路圧力センサによる時々の圧力測定値に基づき、前記燃料噴射弁に対する噴射開始指令近傍又はそれ以降の所定タイミングを開始点とする所定期間(例えば噴射開始指令直後の所定期間)について、前記燃料噴射弁の噴射動作及び実噴射の少なくとも一方による圧力変動態様として所定の圧力降下態様を示す圧力降下点を検出するものであることを特徴とする。
前述したように、一般に噴射率は、燃料圧力と反対の傾向を示す。このため、前記燃料噴射弁の噴射動作及び実噴射の少なくとも一方による圧力降下態様に基づいて、噴射率の変化態様(上昇態様)、ひいては燃料噴射弁の駆動態様を推定することができる。特に前記燃料噴射弁に対する噴射開始指令直後の所定期間の圧力降下態様は、噴射開始時における前記燃料噴射弁の駆動態様を把握する上で重要となる。この点、上記構成を適用して、前記燃料噴射弁の特性に応じた所定の圧力降下態様を設定することとすれば、その圧力降下点を、前記燃料噴射弁の噴射特性を示すものとして検出することが可能になる。そしてこれにより、前記燃料噴射弁の噴射特性を的確に検出することができるようになる。
具体的には、第33の発明のように、この第32の発明の装置において、前記圧力変動検出手段による圧力降下点検出タイミングに基づいて、前記燃料噴射弁の噴射開始タイミング、噴射終了タイミング、及び噴射率が最大となるタイミングの少なくとも1つを求める圧力降下検出式噴射タイミング取得手段を備える構成とすることで、一般に燃料噴射弁の制御において重要となる上記各タイミングについてもこれを、的確に検出(自動検出)することが可能になる。そしてこの場合、特に噴射開始タイミング、及び噴射率が最大となるタイミングについてはこれを、噴射開始指令直後の圧力降下量(噴射率の上昇量)等に基づいて、容易且つ直接的に検出することができるようになる。
またこの場合、前記圧力降下検出式噴射タイミング取得手段により取得された上記噴射タイミングの少なくとも1つ(特に噴射開始タイミング)に基づいて、前記燃料噴射弁の噴射特性(特に噴射開始タイミング)を補正する手段(第18の発明の噴射特性補正手段に相当)を備える構成とすることが有効である。こうすることで、噴射タイミングに係る燃料噴射弁の噴射特性をより的確に補正することができるようになる。
また、第34の発明では、上記第32又は第33の発明の装置において、前記所定期間内で前記圧力変動検出手段により前記圧力降下点が検出されなかった場合に、無噴射である旨判断する無噴射判断手段を備えることを特徴とする。
前述のように、前記燃料噴射弁の噴射動作及び実噴射の少なくとも一方による圧力降下態様に基づいて、噴射率の変化態様(上昇態様)、ひいては前記燃料噴射弁の駆動態様を推定することが可能になる。詳しくは、例えば所定の圧力値(閾値)を下回った点として前記圧力降下点を設定することで、前記燃料噴射弁の噴射率が所定値以上になったことを検出することができる。そしてこれにより、同燃料噴射弁の駆動の有無や、実噴射の有無(実際に燃料が噴射されたか否か)等を検出することができるようになる。具体的には、例えば閾値を噴射開始指令直前の圧力値に設定して、同噴射開始指令直後の所定期間内で前記燃料通路圧力センサによる圧力測定値がその閾値を下回らなかった場合に前記圧力降下点が検出されなかったとして無噴射である旨判断するように構成することが有効である。こうすることで、前記燃料噴射弁による実噴射の有無を的確に検出することが可能になる。なお、ここで示した例はあくまで一例にすぎず、上記圧力降下点は、燃料噴射弁の特性に応じて任意に設定可能である。
第35の発明では、上記第32〜第34のいずれかの発明の装置において、前記燃料噴射弁が、噴射に係る動作を開始してから実際に噴射が開始されるまでの間に圧力リークを伴うものである場合に、前記圧力変動検出手段による前記圧力降下点検出時の圧力値と、前記圧力変動が発生した際の基礎圧力値との圧力差に基づいて、該圧力リークのリーク量を求めるリーク量取得手段を備えることを特徴とする。
圧力変動発生時の圧力値と、実際に噴射が開始された時の圧力値との圧力差は通常、上記圧力リークのリーク量と相関する。そして、実際に噴射が開始された時の圧力値は、圧力降下点検出時の圧力値として検出(推定)することができる。このため、上記構成であれば、前記圧力降下点検出時の圧力値と、上記噴射(噴射動作も含む)により圧力変動が発生した際の圧力値との圧力差に基づいて、上記圧力リークのリーク量が容易且つ的確に検出(推定)されるようになる。なお、このリーク量を高い精度で検出(推定)する上では、上記圧力変動が発生した際(圧力変動発生時)の基礎圧力値(ベース圧力値)として、前記燃料通路圧力センサによる直接的な圧力値、すなわち噴射開始指令タイミング近傍(例えば同タイミング直前)の圧力値を用いることが有効である。ただしこれには限定されず、例えばコモンレール内の圧力値や、単位期間(例えば4ストロークエンジンにおいて1ストロークに相当する「180°CA」)ごとの平均圧力値、等の間接的な圧力値も適宜に用いることができる。
第36の発明では、上記第32〜第35のいずれかの発明の装置において、前記圧力変動検出手段による圧力降下点検出時の圧力値と、前記燃料通路圧力センサによる時々の圧力測定値とに基づいて、単位時間あたりに噴射される燃料量に相当する時々の噴射率を求める噴射率取得手段を備えることを特徴とする。
前述したように、噴射率が大きくなるほど燃料圧力は小さくなる。したがって、前記燃料噴射弁の噴射率は、燃料圧力に基づいて的確に求めることが可能である。またこの場合、上記構成のように、上記圧力降下点検出時の圧力値を例えば基準圧力値(例えば「0」点)として用いることで、上述の圧力リークを伴う燃料噴射弁にも柔軟に対応して、各種の燃料噴射弁について高い精度で時々の噴射率を求めることが可能になる。
また、噴射率を求める噴射率取得手段としては、第37の発明のように、
・前記圧力変動検出手段による圧力降下点検出時の圧力値を基準にして、この基準圧力値と、前記燃料通路圧力センサによるその時の圧力測定値との乖離量に基づいて、その時の噴射率を求める噴射率取得手段。
あるいは第38の発明のように、
・前記圧力変動検出手段による圧力降下点検出時の圧力値を基準にして、この基準圧力値を固定したまま、この基準圧力値(いわばオフセット基準に相当)と、前記燃料通路圧力センサによる時々の圧力測定値との乖離量に基づいて、その時々の噴射率を逐次求める噴射率取得手段。
といった手段が有効である。
詳しくは、前記燃料通路圧力センサにより検出される時々の圧力値は、単位時間あたりの燃料量の収支により決まる。具体的には、「燃料通路圧力センサの圧力測定値=燃料供給による圧力増加量−燃料消費による圧力低下量」なる関係式で表せる。そして前述したように、前記燃料通路圧力センサは、コモンレールから一定距離だけ離間した箇所、すなわち燃料噴射弁により近い位置に設けられており、「燃料消費による圧力低下量」を、前述したようなセンサ出力の時間微分値(推定値)としてではなく、センサ出力(圧力測定値)そのものとして直接的に捉えることができるようになっている。またここで、燃料供給による圧力増加量は、コモンレール内の圧力(レール圧)により決まり、燃料ポンプの圧送タイミングを除いては略一定となる。したがって上記関係式より、所定の基準を定める(例えば「0」に設定してもよい)ことで、前記燃料通路圧力センサによる圧力測定値が、その基準からどれだけ乖離したかに基づいて、「燃料消費による圧力低下量」、ひいてはその時の噴射率を求めることが可能になる。なお、複数のデータを取得する場合には、上記第38の発明のように、基準値を固定させておくことが好ましい。データ取得の度に基準をずらしてしまうと、それら取得したデータ間の比較が困難になるからである。また、燃料噴射タイミングが燃料ポンプによる燃料圧送タイミングと重なってしまうことも考えられるため、こうした場合に不都合が予想されるのであれば、適宜の補正や演算禁止処理などを行う構成なども有効である。
第37又は第38の発明の装置に関しては、第39の発明のように、前記基準圧力値は、前記燃料噴射弁の実噴射による圧力降下開始直前の圧力値である。前記基準圧力値としてこのような圧力値を用いることで、「実噴射だけによる圧力降下量」を的確に検出することができるようになる。
またこの場合、第40の発明のように、前記燃料噴射弁が、噴射に係る動作を開始してから実際に噴射が開始されるまでの間に圧力リークを伴うものであり、前記基準圧力値が、無効噴射期間終了タイミングの圧力値である構成とすることで、容易且つ的確に、前記基準圧力値を、実噴射による圧力降下開始直前の圧力値に設定することが可能になる。
第37〜第40のいずれかの発明の装置に関しては、第41の発明のように、前記噴射率取得手段についてはこれを、「Qr=(Pqr2−Pqr1)×Kp」なる関係式に基づいて、その時の噴射率を算出するものとすることが有効である。なおここでは、前記圧力変動検出手段による圧力降下点検出時の圧力値をPqr1、前記燃料通路圧力センサによるその時の圧力測定値をPqr2、所定の補正係数をKp、その時の噴射率をQrとしている。こうした関係式によれば、容易且つ的確に、その時の噴射率を算出することが可能になる。なおここで、「Pqr2−Pqr1」は、上述の「燃料噴射だけによる圧力低下量」に相当する。そして、補正係数Kpは、その「燃料噴射だけによる圧力低下量」を噴射率(単位時間あたりに噴射される燃料量)に変換するものである。発明者の実験等によると、こうした補正係数Kpは、コモンレール内の圧力(レール圧)に応じて変化する。したがって、上記第41の発明の装置に関しては、第42の発明のように、前記補正係数Kpを、コモンレール内の圧力(レール圧)又はその相当値(例えば圧力値Pqr1)に応じて可変設定する手段を備える構成とすることがより有効である。
また、上記第36〜第42のいずれかの発明の装置に関しては、第43の発明のように、前記噴射率取得手段により取得される噴射率が前記燃料噴射弁の駆動時間に対して小さい場合に異常である旨判断する噴射率異常判断手段を備える構成とすることで、噴射つまり等の噴射異常を早期に且つ的確に検出することが可能になる。
第44の発明では、上記第32〜第43のいずれかの発明の装置において、前記燃料通路圧力センサによる時々の圧力測定値が、前記圧力変動検出手段による圧力降下点検出時の圧力値を下回って再び同圧力降下点検出時の圧力値に戻った回帰タイミングを検出する回帰タイミング検出手段と、該回帰タイミング検出手段により検出された回帰タイミングに基づいて、前記燃料噴射弁の噴射終了タイミングを求める噴射終了タイミング取得手段と、を備えることを特徴とする。
このように、上記圧力降下点検出時の圧力値(例えば前記圧力変動が発生した際の圧力値)を閾値として用いることで、噴射終了タイミング近傍の上記回帰タイミングを検出することができるようになる。そして、こうして検出した回帰タイミングに前記燃料噴射弁の噴射特性を適宜に反映させることによって、前記燃料噴射弁の噴射終了タイミングを高い精度で検出することが可能になる。
第45の発明では、上記第32〜第44のいずれかの発明の装置において、前記燃料噴射弁が、噴射に係る動作を開始してから実際に噴射が開始されるまでの間に圧力のリークを伴うものであり、前記圧力変動検出手段による圧力降下点検出時の圧力値を基準(例えば「0」基準)にして、前記燃料通路圧力センサによる時々の圧力測定値を積分することにより、前記圧力変動検出手段による圧力降下検出タイミングから、その時々の圧力測定値が前記圧力降下点検出時の圧力値を下回って再び同噴射開始タイミングの圧力値に戻ったタイミングまでの期間の時間積分値を取得する時間積分値取得手段と、該時間積分値取得手段により取得された時間積分値に基づいて、前記燃料噴射弁により実際に噴射された燃料量及び前記圧力リークのリーク量の少なくとも一方を求める噴射特性積分取得手段と、を備えることを特徴とする。
このような構成において、上記時間積分値取得手段により取得される時間積分値は、燃料噴射量とリーク量との総和によく相関する。したがって上記構成によれば、これら燃料噴射量とリーク量との総和を高い精度で求めることが可能となる。そして、この燃料噴射量とリーク量との総和における燃料噴射量とリーク量との割合は、基本的には、前記燃料噴射弁の噴射特性として一定値に定まる。したがって、上記構成によれば、例えば実験等により予めこの割合を求めておくことで、前記燃料噴射弁により実際に噴射された燃料量と前記圧力リークのリーク量との少なくとも一方を的確に求める(推定する)ことが可能になる。
第46の発明では、第1〜第45のいずれかの発明の装置において、前記圧力変動検出手段が、前記燃料通路圧力センサによる時々の圧力測定値に基づき、前記燃料噴射弁に対する噴射開始指令近傍又はそれ以降の所定タイミングを開始点とする所定期間(例えば噴射開始指令近傍のタイミングを開始点とする所定期間や、該噴射開始指令から所定時間だけ経過したタイミングを開始点とする所定期間等)について、前記燃料噴射弁の噴射動作及び実噴射の少なくとも一方による圧力変動態様として所定の圧力上昇態様を示す圧力上昇点を検出するものであることを特徴とする。
前述したように、一般に噴射率は、燃料圧力と反対の傾向を示す。このため、前記燃料噴射弁の噴射動作及び実噴射の少なくとも一方による圧力上昇態様に基づいて、噴射率の変化態様(降下態様)、ひいては燃料噴射弁の駆動態様を推定することができる。特に前記燃料噴射弁に対する噴射開始指令直後にいったん圧力が降下してから再び圧力が上昇し始めるタイミング後の所定期間において、この圧力上昇態様は重要となる。これは、前記燃料噴射弁による噴射が通常その圧力上昇期間にて終了するためであり、同期間における圧力上昇態様は、噴射終了時における前記燃料噴射弁の駆動態様を把握する上で特に重要となる。この点、上記構成を適用して、前記燃料噴射弁の特性に応じた所定の圧力上昇態様に上記圧力上昇点を設定することとすれば、その圧力上昇点を、前記燃料噴射弁の噴射特性を示すものとして検出することが可能になる。そしてこれにより、前記燃料噴射弁の噴射特性を的確に検出することができるようになる。
第47の発明では、上記第46の発明の装置において、前記圧力変動検出手段により前記所定期間内で前記圧力上昇点が検出されなかった場合に、所定のフェイルセーフ処理を実行するフェイルセーフ手段(第27の発明のフェイルセーフ手段に相当)を備えることを特徴とする。
上記第46の発明の装置において、圧力上昇点が常に前記燃料噴射弁の特性に応じた値に設定されているとは限らない。したがって、この圧力上昇点の設定の仕方や上記燃料噴射弁の経時的な劣化等によっては、想定外の圧力変動により圧力上昇点の検出漏れ等が生じることも懸念されるようになる。この点、上記構成によれば、こうした場合にも、上記フェイルセーフ手段により、例えば圧力上昇点の代替値として予め用意された所定値(デフォルト値)や前回値等を用いるなどして、検出精度の悪化を抑制することが可能になる。なお、上記フェイルセーフ手段によるフェイルセーフ処理としては、上記代替値の設定に限られず、異常の発生を示すダイアグコードをEEPROM等のバックアップメモリに記憶させる処理、あるいは警告灯を点灯させる処理など、任意の処理を予め設定しておくことができる。
第48の発明では、上記第46又は第47の発明に記載の装置において、前記圧力変動検出手段による圧力上昇点検出タイミングに基づいて、前記燃料噴射弁の噴射開始タイミング、噴射終了タイミング、及び噴射率が最大となるタイミングの少なくとも1つを求める圧力上昇検出式噴射タイミング取得手段を備えることを特徴とする。
前述した圧力降下検出式噴射タイミング取得手段の場合と同様、この圧力上昇検出式噴射タイミング取得手段によっても、上記各タイミングを的確に検出(自動検出)することが可能になる。そしてこの場合は、特に噴射終了タイミングや噴射率が最大となるタイミングを、容易且つ直接的に検出することができるようになる。
またこの場合、前記圧力上昇検出式噴射タイミング取得手段により取得された上記噴射タイミングの少なくとも1つ(特に噴射終了タイミング)に基づいて、前記燃料噴射弁の噴射特性(特に噴射終了タイミング)を補正する手段(第18の発明の噴射特性補正手段に相当)を備える構成とすることが有効である。こうすることで、噴射タイミングに係る燃料噴射弁の噴射特性をより的確に補正することができるようになる。
第49の発明では、上記第1〜第48のいずれかの発明の装置において、前記圧力変動検出手段が、前記燃料通路圧力センサによる時々の圧力測定値に基づき、前記燃料噴射弁に対する噴射開始指令近傍又はそれ以降の所定タイミングを開始点とする所定期間(例えば前記燃料噴射弁に対する噴射開始指令直後の所定期間等)について、前記燃料噴射弁の噴射動作及び実噴射の少なくとも一方による圧力変動態様として所定の圧力降下態様を示す圧力降下点を検出するとともに、同じく前記燃料通路圧力センサによる時々の圧力測定値に基づき、少なくとも前記圧力降下点を検出する所定期間の開始点よりも遅いタイミングを開始点とする所定期間(例えば圧力降下点検出タイミングを開始点とする所定期間、又は同タイミングから所定時間だけ経過したタイミングを開始点とする所定期間等)について、前記燃料噴射弁の噴射動作及び実噴射の少なくとも一方による圧力変動態様として所定の圧力上昇態様を示す圧力上昇点を検出するものであることを特徴とする。
こうした装置であれば、前述した圧力降下点及び圧力上昇点の両方を検出することが可能になり、ひいては前記燃料噴射弁の噴射特性をより的確に検出することができるようになる。
特にこの場合、第50の発明のように、前記圧力変動検出手段による圧力降下点検出タイミングと圧力上昇点検出タイミングとの両タイミングに基づいて、前記燃料噴射弁の噴射期間を求める噴射期間取得手段を備える構成とすることで、前記燃料噴射弁の噴射期間(噴射開始タイミング〜噴射終了タイミング)を自動的に取得することが可能になる。
さらに、第51の発明では、この第50の発明の装置において、前記噴射期間取得手段により取得される噴射期間と、前記燃料通路圧力センサによる時々の圧力測定値とに基づいて、前記燃料噴射弁の噴射量の推定及び補正の少なくとも一方を行う噴射量推定手段を備えることを特徴とする。
前述のように、前記燃料噴射弁の噴射率は燃料圧力と反対の傾向を示す。そのため、この噴射率は、前記燃料通路圧力センサによる時々の圧力測定値に基づいて推定することができる。そして、この噴射率(推定値)と、前記噴射期間取得手段により取得される噴射期間とを掛け合わせることによって、噴射量を算出(推定)することが可能になる。また、その噴射量(又は、この噴射量に相当する上記圧力測定値及び噴射期間)に基づいて、任意の噴射量に係る制御パラメータ(例えば燃料噴射弁の駆動量)を補正するようにすれば、前記エンジンに対して、より高い精度で燃料の供給(噴射供給)を行うことができるようになる。
第52の発明では、上記第49〜第51のいずれかの発明の装置において、前記圧力変動検出手段による圧力降下点検出時の圧力値と圧力上昇点検出時の圧力値との圧力差を求める圧力差取得手段を備えることを特徴とする。
前述のように、圧力降下点検出時の圧力値に基づいて、実際に噴射が開始された時の圧力値を求めることが可能になる。また同様に、圧力上昇点検出時の圧力値によれば、噴射が終了した時の圧力値を求めることができる。このため、それら圧力値に基づいて、噴射前後の圧力差を取得することが可能となる。またここで、その噴射前後の圧力差は、上述の燃料噴射量やリーク量に相関する。したがって、その噴射前後の圧力差に基づいて、前記燃料噴射弁の噴射量や前述のリーク量等を推定又は補正することも可能になる。
第53の発明では、上記第32〜第45及び第49〜第52のいずれかの発明の装置において、前記圧力変動検出手段が、前記燃料通路圧力センサによる時々の圧力測定値と、時間の関数として定まる閾値とを比較することにより、時々の圧力値が小さいか否かを逐次判断するとともに、この判断により圧力値が小さい旨判断された場合に前記圧力降下点が検出されたとするものであることを特徴とする。
また、第60の発明では、上記第46〜第52のいずれかの発明の装置において、前記圧力変動検出手段が、前記燃料通路圧力センサによる時々の圧力測定値と、時間の関数として定まる閾値とを比較することにより、時々の圧力値が大きいか否かを逐次判断するとともに、この判断により圧力値が大きい旨判断された場合に前記圧力上昇点が検出されたとするものであることを特徴とする。
前述の圧力降下点や圧力上昇点を検出する場合、例えば前記燃料通路圧力センサによる時々の圧力測定値と、固定値である閾値とを比較することにより、それら圧力降下点や圧力上昇点を検出する構成が考えられる。しかしながら、用途等によっては上記第53又は第60の発明の構成が、前述の圧力降下点や圧力上昇点を的確に検出する上で特に有益な構成となる。詳しくは、例えば前記燃料噴射弁の個体差を考慮して、その個体差の大小によらない全ての燃料噴射弁で前記圧力降下点を検出しようとすれば、その個体差に対応した幅(長さ)をもった検出期間で前記圧力降下点を検出する必要がある。しかし、このような幅の検出期間を設定する場合、上記閾値として固定値を用いる装置では、例えば目的とする所定の圧力降下のすぐ前に、別の小さな圧力降下を伴う圧力推移波形を検出対象とする状況(用途)において、目的とする圧力降下の前でその目的としない圧力降下が誤って検出されてしまう懸念が生じる。この点、上記第53の発明の構成であれば、上記検出期間内において、上記閾値を時間の関数として各タイミングごとに上記圧力降下点に対する検出感度の最適化を図ることができるようになり、前記燃料噴射弁の個体差が大きい場合であれ、より的確に上記圧力降下点を検出することが可能になる。そしてこのことは、上記圧力上昇点についても、基本的に同様のことがいえる。
なお、上記の例において用いる閾値としては、例えば時間の経過と共に高圧力値側にシフトする(圧力降下の検出され易さである検出感度が高くなる)ような閾値が有効である。上記閾値をこうした関数で設定することにより、早いタイミングにおいては、低感度であるとはいえ上記圧力降下点の検出を継続しつつ、上記目的としない圧力降下の誤検出される可能性を低く抑えることができるようになる。そして、時間の経過と共に閾値を高圧力値側にシフトさせることで、目的とする圧力降下の発生確率が特に高いと予想されるタイミングにおいては、高い感度でその圧力降下の検出を行うことができるようになる。またこの場合、前記圧力変動が発生した際の圧力値(ベース圧力)に応じて時間に対する閾値の傾きを変更する構成なども有効である。詳しくは、ベース圧力が大きくなるほど閾値の傾きも大きくすることで、上記誤検出がより生じにくくなる。ちなみに、上記目的としない圧力降下の発生原因としては、例えば前述の燃料噴射弁駆動開始時における圧力リークや、エンジン運転状態等に起因した外乱等が考えられる。
一方、第54の発明では、上記第32〜第45及び第49〜第53のいずれかの発明の装置において、前記圧力変動検出手段が、前記燃料通路圧力センサによる時々の圧力測定値に基づき、前記圧力変動が発生した際の圧力値からの圧力降下量に基づいて前記圧力降下点を検出するものであることを特徴とする。
また、第61の発明では、上記第46〜第52及び第60のいずれかの発明の装置において、前記圧力変動検出手段が、前記燃料通路圧力センサによる時々の圧力測定値に基づき、特定タイミングの圧力値からの圧力上昇量に基づいて前記圧力上昇点を検出するものであることを特徴とする。
前記圧力降下点や圧力上昇点を検出する構成としては、その検出条件として、前述した測定値に対する絶対的な閾値を用いる構成の他に、基準点からの相対的なずれ量(変化量)を用いる構成が考えられる。そしてこの場合、例えば圧力降下点を検出する構成にあっては、前記圧力変動が発生した際の圧力値(例えば前記噴射開始指令タイミング近傍の圧力値や前記コモンレール内の圧力値)を、また圧力上昇点を検出する構成にあっては、特定タイミングの圧力値(例えば圧力推移における極小点等)を、上記基準点として用いることが有効である。こうした基準点を用いることで、前記燃料噴射弁の噴射に係る各タイミング(例えば噴射開始タイミング、噴射終了タイミング、噴射率が最大となるタイミング等)を、より的確に検出(自動検出)することなどが可能になる。
第55の発明では、上記第32〜第45及び第49〜第54のいずれかの発明の装置において、前記燃料通路圧力センサによる時々の圧力測定値に基づいて、その圧力の変化態様を示す所定パラメータを求める圧力変化取得手段を備え、前記圧力変動検出手段が、該圧力変化取得手段により取得される圧力の変化態様に基づいて、前記圧力降下点を検出するものであることを特徴とする。
また、第62の発明では、上記第46〜第52、第60、及び第61のいずれかの発明の装置において、前記燃料通路圧力センサによる時々の圧力測定値に基づいて、その圧力の変化態様を示す所定パラメータを求める圧力変化取得手段を備え、前記圧力変動検出手段は、該圧力変化取得手段により取得される圧力の変化態様に基づいて、前記圧力上昇点を検出するものであることを特徴とする。
これらの発明のように、前記圧力降下点や圧力上昇点を、圧力の変化(時間変化)態様に基づいて検出する構成も有効である。
具体的には、例えば第56や第63の発明のように、
・前記圧力変化取得手段が、前記圧力の変化態様を示す所定パラメータとして、圧力推移の傾きに相当する圧力の時間微分値を求めるものである構成。
あるいは第58や第65の発明のように、
・前記圧力変化取得手段は、前記圧力の変化態様を示す所定パラメータとして、前記燃料噴射弁の噴射動作及び実噴射の少なくとも一方による圧力変動態様の変曲点を求めるものである構成。
といった構成が有効である。噴射特性の特徴部分は、圧力の変化態様として、特に上記圧力の微分値の大小や変曲点によって示されることが多い。このため、上記構成によれば、前記燃料噴射弁の噴射特性をより的確に検出することができるようになる。
また、上記第56又は第63の発明において、前記圧力変動検出手段についてはこれを、第57又は第64の発明のように、前記燃料噴射弁に対する噴射開始指令近傍又はそれ以降の所定タイミングを開始点とする所定期間において、前記圧力変化取得手段により取得される微分値が最大又は最小となる点を、前記圧力降下点又は前記圧力上昇点として検出するものとすることが有効である。
また一方、噴射率が最大となるタイミングを検出する構成としては、第66の発明のように、
・上記第46〜第52及び第60〜第65のいずれかの発明の装置において、前記圧力変動検出手段が、噴射開始指令近傍又はそれ以降の所定タイミングを開始点とする所定期間において、前記燃料通路圧力センサによる時々の圧力が最小となる点を、前記圧力上昇点として検出するものである構成。
あるいは第67の発明のように、
・上記第46〜第52及び第60〜第66のいずれかの発明の燃料噴射装置において、前記圧力変動検出手段により検出される圧力上昇点が、前記燃料噴射弁の噴射により生じた圧力変動においてその噴射直後の圧力降下から圧力上昇へ転じる圧力極小点に相当するものである構成。
といった構成が有効である。前述のように、前記燃料噴射弁の噴射率は燃料圧力と反対の傾向を示すため、通常、燃料圧力が最小になった時に噴射率が最大となる。このため、噴射率が最大となるタイミングを検出する場合には、上記構成のように、圧力の最小点や極小点としてこれを検出する構成が有益である。なお、噴射率が最大となるタイミングは、噴射開始タイミングや噴射終了タイミングと一定の関係を有することが多い。このため、この噴射率最大のタイミング(又は、同タイミングに相当する上記圧力の最小点や極小点)に基づいて、それら噴射開始及び噴射終了タイミングを検出する、あるいは前記燃料噴射弁の噴射特性(例えば駆動時間や駆動開始タイミング等)を補正する構成なども有益である。
第59や第68の発明では、上記第32〜第45及び第49〜第58のいずれかの発明の装置や、上記第46〜第52及び第60〜第67のいずれかの発明の装置において、前記燃料通路圧力センサによる時々の圧力測定値から特定の周波数成分を抽出するフィルタ手段を備え、前記圧力変動検出手段が、該フィルタ手段により抽出された特定の周波数成分の圧力値に基づいて、前記圧力降下点や前記圧力上昇点を検出するものであることを特徴とする。
このように、フィルタ手段を通して特定の周波数成分(目的の周波数成分)以外を取り除くことで、外乱等が取り除かれ、上記圧力降下点や圧力上昇点の検出に際してその検出精度が高められることになる。
第69の発明では、上記第1〜第68のいずれかの発明の装置において、前記燃料通路圧力センサの所定の1つによる時々の圧力測定値に基づいて、特定のタイミングを検出するタイミング検出手段と、前記タイミング検出手段により検出される前記特定のタイミングを、該燃料通路圧力センサの所定の1つの配設位置と前記燃料噴射弁の燃料噴射口との距離の分だけ早める態様で補正するタイミング補正手段と、を備えることを特徴とする。
前述した燃料噴射弁の噴射動作及び実噴射の少なくとも一方による圧力変動態様は、基本的には、同燃料噴射弁の燃料噴射口で生じて、徐々に減衰しながらコモンレール側へ伝達されていく。したがって、上記燃料通路圧力センサの所定の1つにより得られる時々の圧力測定値には、その所定の1つのセンサの配設位置と前記燃料噴射弁の燃料噴射口との距離の分だけ遅れ(位相ずれ)が生じることになる。この点、上記構成であれば、上記タイミング補正手段により、その遅れを補償して、上記タイミング検出手段により、特定のタイミング(例えば噴射開始タイミングや噴射終了タイミング等)を高い精度で検出することが可能になる。なお、2つ以上のセンサを切り換えて使用する場合には、その切換えの都度、その切換えにより使用されるようになった1つのセンサの配設位置データを取得するように構成することが有効である。
第70の発明では、上記第1〜第69のいずれかの発明の装置において、前記燃料通路圧力センサによる時々の圧力測定値と所定の閾値とを比較することにより、特定のタイミングを検出するタイミング検出手段と、所定の期間において、前記タイミング検出手段により前記特定のタイミングが検出されなかった場合に、前記タイミング検出手段にて用いる所定の閾値を、そのタイミングがより検出され易くなる側へシフトする閾値変更手段と、を備えることを特徴とする。
前述したシリンダ別の個体差(ばらつき)や経時的な劣化等によっては、検出対象とするタイミングにおいて本来閾値まで到達するべき圧力値が、その閾値まで到達しない場合がある。そしてこの場合、上記タイミング検出手段により目的のタイミングが検出されなくなることが懸念されるようになる。この点、上記構成によれば、このような場合に上記閾値が、上記検出対象とするタイミングのより検出され易くなる側(換言すれば、より検出感度の高い値)へシフト(変更)されるようになる。このため、こうした構成にすることで、以後の検出期間(例えば次回又はそれ以降の検出等)においては、より確実にその目的とするタイミングを検出することができるようになる。
第71の発明では、上記第1〜第70のいずれかの発明の装置において、前記圧力変動検出手段が、前記燃料噴射弁の噴射動作及び実噴射の少なくとも一方による圧力変動態様として圧力推移波形の少なくとも一部を検出するものであり、該圧力変動検出手段により検出される圧力推移波形と所定の基準圧力推移波形との対応箇所を比較することにより両者の位相ずれ及び周期ずれの少なくとも一方を求める基準比較ずれ取得手段を備えることを特徴とする。
前述したシリンダ別の個体差(ばらつき)や経時的な劣化、あるいは上記燃料通路圧力センサの配設位置等によって、位相ずれ(タイミングずれ)や周期ずれの生じることがある。上記構成であれば、そうした位相ずれや周期ずれを求めることができるようになる。
そしてこの場合、位相ずれを求める具体的な構成としては、第72の発明のように、前記基準比較ずれ取得手段が、前記圧力変動検出手段により検出された又は検出中の圧力推移波形の、所定タイミングの圧力値又は圧力微分値と、前記基準圧力推移波形の対応する圧力値又は圧力微分値とを比較(例えば減算や除算)することにより、両者のずれ度合(例えば差分や比率等)を求めるものである構成が有効である。こうした構成であれば、容易且つ的確に上記位相ずれや周期ずれを求めることが可能になる。
また、位相ずれや周期ずれを常に監視する等の目的により、高い同時性で即時にそれら位相ずれや周期ずれを取得したい場合等には、上記第71又は第72の発明の装置において、前記基準比較ずれ取得手段についてはこれを、第73の発明のように、前記圧力推移波形に係る時々の圧力値又は該圧力値に基づく圧力微分値と、前記基準圧力推移波形の対応する圧力値又は圧力微分値とを逐次比較することにより、両者のずれ度合を逐次求めるものとする構成が有効である。こうした構成であれば、容易且つ的確に上記位相ずれや周期ずれを高い同時性で(リアルタイムに)取得することが可能になり、ひいては過剰な位相ずれや周期ずれ等を定常的に監視することなどが可能になる。
第75の発明では、上記各装置において、噴射パターンの別に識別可能に所定の基準圧力変動態様(例えば適合値又は学習値等)を保持する圧力変動保持手段と、前記燃料噴射弁による都度の噴射パターンに基づいて、前記圧力変動保持手段により保持されている基準圧力変動態様の1つを選択する圧力変動選択手段と、を備えることを特徴とする。
通常、噴射パターンの種類によって、その噴射(噴射動作も含む)による圧力変動態様が異なる。したがって、前述した基準圧力推移波形(第26及び第71〜第73のいずれかの発明)をはじめ、基準に用いる基準圧力変動態様としても、都度の噴射パターンに適したものを用いることが望ましい。この点、上記構成であれば、上記圧力変動選択手段により、前記燃料噴射弁による都度の噴射パターンに応じた基準圧力変動態様が自動的に選択されるようになる。これにより、予め用意しておいた基準圧力変動態様から、都度の噴射パターンに応じた圧力変動態様を選択して、それを任意の目的に使用することが可能になる。
具体的には、例えば上記第26及び第71〜第73のいずれかの発明の装置についてこの構成を適用した場合には、第74の発明のように、前記基準圧力推移波形(例えば適合値又は学習値等)の各々を、所定の噴射パターンに関連付けして該噴射パターンの別に識別可能に保持する波形保持手段と、前記燃料噴射弁による都度の噴射パターンに基づいて、前記波形保持手段により保持されている前記基準圧力推移波形の1つを選択する波形選択手段と、を備える構成とする。こうした構成にすることで、上記位相ずれや周期ずれをより的確に求めることが可能になる。
第76の発明では、上記第75の発明において、前記エンジンの所定シリンダが無噴射運転中である場合において前記燃料噴射弁により微小量の噴射を実行するとともに、その噴射動作及び実噴射の少なくとも一方による圧力変動態様に基づき前記基準圧力変動態様を学習する圧力変動学習手段を備えることを特徴とする。
前記圧力変動保持手段としては、例えば予め実験等により求めた所定の適合値を用いることができる。しかしながら、前述したシリンダ別の個体差(ばらつき)や経時的な劣化等がある場合には、適合時とは別の状況となり、必ずしもその適合値が実際の値と一致するとは限らなくなる。この点、上記構成によれば、上記圧力変動学習手段により無噴射運転(燃料カット)中に微小量の噴射を行って、時々の状況に応じた圧力変動態様を前記基準圧力変動態様として取得する(学習する)ことができるようになる。
第77の発明では、上記第75又は第76の発明の燃料噴射装置において、前記圧力変動選択手段が、前記圧力変動検出手段により所定の噴射パターンのn段目の噴射について前記圧力変動態様を検出する場合に同噴射パターンの「n−1」段目までの噴射パターンに係る基準圧力変動態様の1つを選択するものであり、前記圧力変動検出手段により検出された前記噴射パターンのn段目までの噴射による圧力変動態様から、該圧力変動選択手段により選択された「n−1」段目までの噴射パターンに係る基準圧力変動態様を減算することにより、両者の差分値を算出する差分値取得手段を備えることを特徴とする。
こうした構成であれば、上記差分値取得手段により、所定の噴射パターンにおけるn段目までの噴射による圧力変動態様と、同噴射パターンの「n−1」段目までの噴射パターンに係る基準圧力変動態様(圧力変動保持手段にて保持)との差分値が得られるようになる。そして、こうした差分値から、n段目の噴射のみによる圧力変動態様を高い精度で求めることができるようになり、ひいては上記各噴射タイミング等を高い精度で検出することが可能になる。特に「n−1」段目の噴射とn段目の噴射との噴射インターバルにばらつきがある場合には、その噴射インターバルに起因した圧力変動態様のばらつきを抑えられるようになり、上記n段目の噴射による圧力変動態様として、再現性の高い値(都度のばらつきの小さい値)が得られるようになる。
またこの場合、第78の発明のように、前記n段目の噴射は2段目の噴射であり、前記「n−1」段目までの噴射パターンが、単段噴射からなる噴射パターンである構成とすることが有効である。こうした構成であれば、多段噴射で特に重要となる2段目の噴射による圧力変動態様、ひいては同噴射の噴射特性を高い精度で求めることができるようになる。
また上記構成を実用する上では、上記第77又は第78の発明の装置において、前記差分値取得手段についてはこれを、第79の発明のように、前記圧力変動態様に係る時々の圧力値又は該圧力値に基づく圧力微分値と、前記基準圧力変動態様の対応する圧力値又は圧力微分値とを逐次減算することにより、両者の差分値を逐次求めるものとすることが有効である。実用上は、上記差分値を高い同時性で(リアルタイムに)取得することが望ましく、こうした構成が有効となる。
第80の発明では、上記第1〜第79のいずれかの発明の装置において、前記エンジンが、多気筒エンジンであり、前記燃料通路圧力センサが、2つ以上のセンサからなるとともに、前記エンジンの少なくとも2つのシリンダの燃料流通経路に対してそれぞれ設けられてなることを特徴とする。
このように2つ以上のセンサを設けるようにすれば、一方が故障した際に、その一方を他方で代用することなどが可能になる。また、それら2つ以上のセンサを2つ以上のシリンダの燃料流通経路に対してそれぞれ設けるようにすれば、前記圧力変動検出手段により各シリンダについてそれぞれ前記圧力変動態様が検出されることになり、ひいてはそれら圧力変動態様の各検出値に基づき所定噴射に係る噴射特性をシリンダごとに推定することが可能になる。さらに、それら圧力変動態様の各検出値を比較したり、あるいはそれらの平均をとったりすることで、噴射特性のシリンダ個体差を推定したり、あるいはより高い精度でその噴射特性を推定したりすることなどが可能になる。
また、複数のシリンダについてそれぞれ噴射特性を取得したい場合には、前述したように、所定シリンダで直接的に求めた前記圧力変動態様(噴射特性に相当)を、他のシリンダで使用することが考えられる。しかしこの場合、所定シリンダで求められた噴射特性は、別のシリンダでは、シリンダの個体差に起因して精度の劣るものとなる。この点についても、上記構成であれば、2つ以上のセンサが設けられていることにより、センサが1つしかない構成よりも高い精度で、シリンダ別の噴射特性を取得することができるようになる。さらに、第81の発明のように、上記第80の発明の装置において、前記燃料通路圧力センサが、前記エンジンの全シリンダに対してそれぞれ設けられた構成とすれば、全てのシリンダについて、それぞれ前記燃料通路圧力センサにより直接的に前記圧力変動態様を求めることができるようになる。そしてこれにより、それらシリンダごとに高い精度で、上記圧力変動態様、ひいては噴射特性を取得することが可能になる。
上記シリンダごとに検出された圧力変動態様の平均をとる(平均値を算出する)構成としては、第82の発明のように、上記第80又は第81の発明の装置において、前記エンジンの少なくとも2つのシリンダの燃料流通経路に対してそれぞれ設けられた複数のセンサが、それぞれ前記燃料噴射弁の燃料噴射口までの燃料流通距離が互いに略等しくなるような位置に配設された構成が有効である。
シリンダごとに圧力変動態様を検出するような構成であれば、それら検出値の平均をとる(平均値を算出する)ことにより個々のセンサの検出誤差を緩和して同圧力変動態様の検出精度を高めることができる。そしてこのような場合には、可能な限りセンサ個体差以外の誤差が生じ得ないような条件下でそれぞれ上記複数のセンサ出力を取得し、それらセンサ出力について上記平均値を算出することが望ましい。しかしながら、発明者の実験等によると、前記燃料通路圧力センサのセンサ出力は、前記燃料噴射弁の燃料噴射口までの燃料流通距離に応じて特に大きく相違する。このため、上記平均値を算出する構成とする場合には、個々のセンサの検出誤差を緩和すべく上記構成を採用して、前記燃料噴射弁の燃料噴射口までの燃料流通距離が互いに略等しくなるような位置に配設された複数のセンサのセンサ出力を取得し、それらセンサ出力について上記平均値を算出するような構成とすることが有効である。こうした構成であれば、センサ間の測定条件をより的確に揃えることが可能になり、上記圧力変動態様をより高い精度で検出することができるようになる。なお、同圧力変動態様の検出精度を高める上では、前記燃料噴射弁の燃料噴射口までの燃料流通距離が略等しいだけではなく、その燃料流通区間における燃料通路形状についてもこれが、上記複数のシリンダにそれぞれ配設されたセンサ同士で略等しい構成とすることがより有効である。
一方、上記シリンダごとに検出された圧力変動態様を比較する構成としては、第83の発明のように、上記第80又は第81の発明の装置において、前記エンジンの少なくとも2つのシリンダの燃料流通経路に対してそれぞれ設けられた複数のセンサが、それぞれ前記燃料噴射弁の燃料噴射口までの燃料流通距離で互いに相違するような位置に配設された構成が有効である。
前述のように、発明者の実験等において、前記燃料通路圧力センサのセンサ出力(圧力測定値)が、前記燃料噴射弁の燃料噴射口までの燃料流通距離に応じて特に大きく相違することが確認された。そしてこの際、その相違は、前述した位相ずれ、すなわち前記燃料噴射弁の燃料噴射口との距離の分だけの時間遅れとして現れることが多い。上記構成であれば、上記燃料噴射口までの燃料流通距離で互いに相違するセンサ間で、その距離の差に応じた位相ずれを求めることができる。なおこの場合、上記センサ間での距離の差(センサ配設位置の差)は、ユーザ自身で算出することも可能ではあるものの、実用性や利便性を考えた場合には、予め設計データ等を演算装置に入力しておき、同装置にて自動的に算出(取得)するように構成することが有効である。そして、こうして求めた(取得した)、それら距離の差と位相ずれとの関係は、例えば他のシリンダに係る噴射特性の補正等に用いることができる。
またこの場合、第84の発明のように、上記第83の発明の装置において、前記圧力変動検出手段を、前記相違する位置に配設された複数のセンサの各センサ出力に基づいて、それぞれ前記燃料噴射弁の噴射動作及び実噴射の少なくとも一方による圧力変動態様として圧力推移波形の少なくとも一部を検出するものとして、そうした圧力変動検出手段により前記相違する位置に配設された複数のセンサを通じてそれぞれ検出される2つの圧力推移波形を比較することにより、両者の位相ずれを求める手段を備える構成とすることが有効である。こうした構成であれば、上記位相ずれの検出を自動的に行うことが可能になる。
さらに、上記シリンダごとに検出された圧力変動態様を比較する構成については、第85の発明のように、上記第1〜第84のいずれかの発明の装置において、前記コモンレールから前記燃料噴射口までの燃料通路が、通路長又は通路形状の異なる2つの通路を含む複数の通路からなるものであるとともに、前記燃料通路圧力センサが、少なくともそれら燃料通路のうちの前記通路長又は通路形状の異なる2つの通路にそれぞれ設けられてなる構成が有効である。
発明者の実験等によると、前記燃料通路圧力センサのセンサ出力(圧力測定値)は、前記コモンレールから前記燃料噴射口までの燃料通路の通路長や通路形状によっても大きく相違する。具体的には、例えば通路長が長いほど、前記圧力変動として検出される圧力推移波形の周期が長くなる。また、例えば曲路部分の有無や、その形成態様、その曲がり度合、あるいは通路面積等といった各種の通路形状についてもこれが、燃料圧力の伝播のし易さ、すなわち圧力波形の伝播速度等に影響する。この点、上記構成であれば、該燃料通路の通路長又は通路形状で互いに相違する各センサにより、その相違度合に応じた圧力測定値の変化量(例えば圧力推移波形の周期ずれ等)を求めることができるようになる。なおこの場合も、実用性や利便性を向上させる上では、予め設計データ等を演算装置に入力しておき、同装置にて自動的に上記燃料通路ごとのセンサ間での通路長又は通路形状の相違度合を算出(取得)するように構成することが有効である。そして、こうして求めた(取得した)、センサ間での通路長又は通路形状の相違度合と圧力測定値の変化量(例えば周期ずれ等)との関係は、例えば他のシリンダに係る噴射特性の補正等に用いることができる。
また一方、第86の発明では、上記第1〜第85のいずれかの発明の装置において、前記コモンレールから前記燃料噴射口までの燃料通路が、複数の通路からなって、それら通路を通路長の長短又は通路形状の相違で分類した場合に2種類以上のグループに分けられるものであり、前記燃料通路圧力センサが、前記通路長又は通路形状の異なるグループごとに1つずつ設けられてなることを特徴とする。
こうした構成では、通路長又は通路形状で互いに相違する燃料通路ごとにセンサが設けられる。このため、それら燃料通路の通路長又は通路形状の相違度合と圧力測定値の変化量(例えば周期ずれ等)との関係を求めるために必要最低限の数のセンサだけ(ただし、他の目的で同一燃料通路に別途設けられたセンサは除く)で、効率的にその関係を求めることができるようになる。これにより、部品点数の削減、ひいてはスペース増大や低コスト化等が図られるようになる。
また、これら第85又は第86の発明の装置については、第87の発明のように、前記圧力変動検出手段を、前記通路長又は通路形状の異なる通路の少なくとも2つにそれぞれ設けられた燃料通路圧力センサの各センサ出力に基づいて、それぞれ前記燃料噴射弁の噴射動作及び実噴射の少なくとも一方による圧力変動態様として圧力推移波形の少なくとも一部を検出するものとして、そうした圧力変動検出手段により検出される2つの圧力推移波形を比較することにより両者の周期ずれを求める周期ずれ取得手段を備える構成とすることが有効である。こうした構成であれば、上記圧力推移波形の周期ずれ(周期差)の検出を自動的に行うことが可能になる。
また、第88の発明では、上記第85〜第87のいずれかの発明の装置において、前記圧力変動検出手段を、前記通路長又は通路形状の異なる通路の少なくとも2つにそれぞれ設けられた燃料通路圧力センサの各センサ出力に基づいて、それぞれ前記燃料噴射弁の噴射動作及び実噴射の少なくとも一方による圧力変動態様として圧力推移波形の少なくとも一部を検出するものとして、そうした圧力変動検出手段により検出された各圧力推移波形に基づいて、前記燃料の体積変化に伴う圧力変化の度合を示す流体特性である体積弾性係数を求める燃料通路係数取得手段を備えることを特徴とする。
ここで体積弾性係数は、所定の流体における圧力変化について、「ΔP=K・ΔV/V」(K:体積弾性係数、ΔP:流体の体積変化に伴う圧力変化量、V:体積、ΔV:体積Vからの体積変化量)なる関係式を満足させる係数Kであり、この係数Kの逆数は圧縮率に相当する。このパラメータ(係数K)は、ポンプ制御において重要となる。特に高圧燃料を対象とする高圧ポンプの制御においては、高圧部分における燃料の体積弾性係数が重要になる。なお、体積弾性係数は、燃料性状、燃料温度、燃料圧力(ベース圧力)等によって影響を受ける。
この点、上記構成によれば、上記燃料通路係数取得手段により、こうした体積弾性係数を高い精度で求めることが可能になる。具体的には、この体積弾性係数は、例えば前記圧力変動として検出される圧力推移波形の伝播速度と相関する。そしてこの伝播速度は、各燃料通路について、それぞれ上記通路長を当該圧力推移波形の周期で除算(割り算)した値(通路長/周期)に、例えば通路形状等に係る所定の係数を掛け合わせることによって求めることができる。このため、上記構成により、通路長又は通路形状の異なる複数種の燃料通路についてそれぞれ伝播速度を求めることが可能になる。また、そうして求めた複数種のデータの平均をとる(平均値を算出する)などして、圧力推移波形の伝播速度、ひいてはこの伝播速度と相関する上記体積弾性係数を高い精度で求めることが可能になる。
第89の発明では、上記第1〜第88のいずれかの発明の装置において、前記燃料通路圧力センサを、複数のセンサからなるものとしてその中に、前記エンジンの同一シリンダに関する一乃至複数の燃料流通経路のうちの少なくとも1つについて互いに所定の距離だけ離間するように設けられた2つのセンサを含むように構成する。
前述のように、上記燃料通路圧力センサの所定の1つにより得られる時々の圧力測定値には、その所定の1つのセンサの配設位置と前記燃料噴射弁の燃料噴射口との距離の分だけ遅れ(位相ずれ)が生じる。そして、1つの燃料流通経路におけるセンサ間隔(離間距離)は、センサの配設位置と前記燃料噴射弁の燃料噴射口との距離に対応したものとなる。この点、上記構成によれば、上記センサの配設態様に基づき、互いに離間した燃料通路圧力センサの間隔(離間距離)と、それらセンサ間の出力波形の位相ずれとの関係を求めることなどが可能になる。そしてこれにより、その位相ずれ、ひいては圧力推移波形の伝播速度等を求めることができるようになる。また、こうした位相ずれの検出によらず、2つ以上の配設位置で圧力値を測定することは、前記燃料噴射弁の噴射特性を制御する上で有益である。
またこの場合、第90の発明のように、前記燃料通路圧力センサを、複数のセンサからなるものとしてその中に、前記コモンレールよりも前記燃料噴射弁の燃料噴射口の方に近い位置に設けられたセンサと、前記燃料噴射弁の燃料噴射口よりも前記コモンレールの方に近い位置に設けられたセンサとを含むように構成する。
こうした構成であれば、コモンレール側の圧力値と、燃料噴射口側の圧力値とを測定することができるようになる。そしてこれにより、上記位相ずれ等をより高い精度で検出することができるようになる。
また上記装置について、その実用性を考えた場合には、例えば第91の発明のように、
・上記第89又は第90の発明の装置において、前記圧力変動検出手段が、前記燃料通路圧力センサのうちの、任意の1つである第1のセンサと、該第1のセンサよりも前記燃料噴射弁の燃料噴射口から遠い位置に設けられた第2のセンサとの各センサ出力に基づいて、それぞれ前記燃料噴射弁の噴射動作及び実噴射の少なくとも一方による第1の圧力変動態様及び第2の圧力変動態様を検出するものである構成。
あるいは第92の発明のように、
・この第91の発明の装置において、前記第1の圧力変動態様と前記第2の圧力変動態様とが、それぞれ圧力推移波形として検出されるものであって且つ、該第1及び第2の圧力変動態様としての2つの圧力推移波形を比較することにより両波形の位相ずれを求める波形比較位相ずれ取得手段を備える構成。
といった構成を採用することが有益である。これらの構成であれば、上記互いに離間したセンサの各センサ出力に基づく圧力変動態様の検出や、それら圧力変動態様(圧力推移波形として取得)の比較などを、自動的に行うことが可能になる。
第93の発明では、上記第92の発明の装置において、前記波形比較位相ずれ取得手段により取得された位相ずれ、及び前記第1のセンサと前記第2のセンサとの間の燃料流通距離に基づいて、前記燃料の体積変化に伴う圧力変化の度合を示す流体特性である体積弾性係数を求める位相ずれ係数取得手段を備えることを特徴とする。
前述したように、体積弾性係数は、ポンプ制御、特に高圧ポンプの制御において重要となる。そしてこの係数は、例えば前記圧力変動として検出される圧力推移波形の伝播速度と相関する。また、この伝播速度は、上記第1及び第2のセンサの出力位相ずれ(時間ずれ)とそれらセンサ間の燃料流通距離(配設間隔)とに相関する。
具体的には、波(特に音波のような圧力の疎密による波)の伝播速度は一般に、媒質となる物質の密度(=燃料密度)と弾性率(=体積弾性係数)によって決まり、「伝播速度=√(弾性率/密度)」なる関係式で表せる。ここで、上記第1及び第2のセンサ間の伝播速度は、それらセンサ間の距離(上記配設間隔に相当)を、圧力の波がその距離を進むためにかかった時間(上記位相ずれに相当)によって除算(距離/時間)することで求めることができる。また、燃料密度としては、既知の値を用いることができる。
したがって、上記構成によれば、上記波形比較位相ずれ取得手段による位相ずれと上記センサ間の燃料流通距離とに基づいて、ポンプ制御において重要となる体積弾性係数を高い精度で求めることができるようになる。なおこの場合も、実用性や利便性を向上させる上では、予めセンサ間の燃料流通距離や燃料密度等の設計データを演算装置に入力しておき、同装置にて自動的に上記体積弾性係数を算出(取得)するように構成することが有効である。
第94の発明では、上記第89〜第93のいずれかの発明の装置において、前記燃料通路圧力センサのうちの、任意の1つである第1のセンサと、該第1のセンサよりも前記燃料噴射弁の燃料噴射口から遠い位置に設けられた第2のセンサとの各センサ出力を、それぞれ異なる用途で使い分ける用途調停手段を備えることを特徴とする。
前述のように、上記燃料通路圧力センサの所定の1つにより得られる時々の圧力測定値には、その所定の1つのセンサの配設位置と前記燃料噴射弁の燃料噴射口との距離の分だけ遅れ(位相ずれ)が生じる。このため、前記燃料噴射弁の燃料噴射口に近いセンサほど高精度に、前記燃料噴射弁の噴射動作、及び該噴射動作を通じて実際に行われた実噴射の少なくとも一方による圧力変動態様を測定することができるようになる。このように、上記第89〜第93のいずれかの発明の装置においては、センサの配設位置によってその検出精度に差が生じる。そこで上記発明では、これら配設位置の異なるセンサを用途で使い分けるように構成する。こうすることで、前記燃料噴射弁の燃料圧力制御等をより適切に行うことが可能となる。
またこの場合、前記用途調停手段についてはこれを、第95の発明のように、前記第2のセンサ出力を、前記第1のセンサに異常が生じた場合のフェイルセーフの用途に用いるものとすることが有効である。こうした構成であれば、通常時はより高い精度での圧力変動態様の検出を可能としながら、その第1のセンサに故障等の異常が生じた場合にあっても、的確にそのフェイルセーフを行うことが可能になる。
また、上記第1〜第95のいずれかの発明の装置については、第96の発明のように、前記一乃至複数の燃料通路圧力センサについて、それぞれ該センサの配設位置から前記燃料噴射弁の燃料噴射口までの燃料流通距離の大きさを示すパラメータを保持する燃料流通距離保持手段を備える構成とすることが有効である。
前述のように、前記燃料噴射弁の燃料噴射口に近いセンサほど高精度に、前記燃料噴射弁の噴射動作、及び該噴射動作を通じて実際に行われた実噴射の少なくとも一方による圧力変動態様を測定することができる。このため、その圧力変動態様を高い精度で測定する上では、上記燃料噴射口までの燃料流通距離の大きさが重要となる。この点、上記構成であれば、こうした距離を保持するための手段を備えることで、そうした圧力変動態様を高い精度で測定することができるようになるとともに、前記燃料噴射弁の燃料圧力制御等をより適切に行うことが可能となる。なお、上記燃料流通距離保持手段としては、例えば予め設計値等の記憶された適宜の記憶装置や、センサ配設後に適宜に検出された値(燃料噴射口までの燃料流通距離の大きさ)が記憶される記憶装置などを用いることができる。
さらに、上記装置を実現するための装置として、第97の発明では、エンジンのコモンレール式燃料噴射システムにて燃料噴射圧力を検出する燃料噴射装置において、コモンレール(燃料を蓄圧する蓄圧配管)に接続された燃料噴射弁の燃料圧力信号を、その圧力推移波形の軌跡が描かれる程度に短い間隔で逐次取得する燃料圧力逐次取得手段を備えることを特徴とする。
また、第98の発明では、エンジンのコモンレール式燃料噴射システムにて燃料噴射圧力を検出する燃料噴射装置において、コモンレールに接続された燃料噴射弁の燃料圧力信号を「50μsec」よりも短い間隔で逐次取得する燃料圧力逐次取得手段を備えることを特徴とする。
これらの装置は、既存のマイクロコンピュータ等を用いて(例えば電子制御装置として)容易に実現することが可能である。そして、コモンレール燃料吐出側配管やその燃料噴射弁の近傍又は内部等に配設された燃料通路圧力センサのセンサ出力に基づき、前記燃料噴射弁の噴射動作、及び該噴射動作を通じて実際に行われた実噴射の少なくとも一方による圧力変動について、その圧力の変動態様を高い精度で検出することが可能になる。
また、こうした装置を調整する方法としては、第99の発明のように、コモンレールの燃料吐出側配管から該配管につながる燃料噴射弁の燃料噴射口までの燃料通路に対して、燃料圧力を測定する一乃至複数の燃料通路圧力センサが設けられたエンジンのコモンレール式燃料噴射システムにあって、前記燃料通路圧力センサのセンサ出力に基づいて、前記燃料噴射弁の噴射動作、及び該噴射動作を通じて実際に行われた実噴射の少なくとも一方による圧力変動態様を検出する燃料噴射装置に適用され、前記燃料噴射装置により、前記燃料通路圧力センサのセンサ出力を逐次取得して前記圧力変動態様を検出するとともに、そのセンサ出力の逐次取得を異なる取得間隔で順次行いつつ、同センサ出力を時間軸上にプロットして、同センサ出力によって圧力推移波形の軌跡が描かれる程度に短い前記センサ出力の取得間隔を求める方法が有益である。こうした方法であれば、当該装置の種類や用途ごとに適切なセンサ出力の取得間隔をその装置に対して設定することが可能になる。そして、その装置により、上述の噴射特性等を高い精度で推定することができるようになる。
以下、本発明に係る燃料噴射装置及びその調整方法を具体化した一実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、本実施形態の装置は、例えば自動車用エンジンとしてのレシプロ式ディーゼルエンジンを制御対象にしたコモンレール式燃料噴射システム(高圧噴射燃料供給システム)に搭載されている。すなわちこの装置も、先の特許文献1に記載の装置と同様、ディーゼルエンジン(内燃機関)のエンジン筒内の燃焼室に直接的に高圧燃料(例えば噴射圧力「1400気圧」程度の軽油)を噴射供給(直噴供給)する際に用いられる、いわばディーゼルエンジン用の燃料噴射装置である。
まず図1を参照して、本実施形態に係るコモンレール式燃料噴射システムの概略について説明する。なお、本実施形態のエンジンとしては、4輪自動車用の多気筒(例えば4気筒)エンジンを想定している。また、この図1において、各インジェクタ20は、燃料タンク10側から、それぞれシリンダ#1,#2,#3,#4用のインジェクタである。
同図1に示されるように、このシステムは、大きくは、ECU(電子制御ユニット)30が、各種センサからのセンサ出力(検出結果)を取り込み、それら各センサ出力に基づいて燃料供給装置の駆動を制御するように構成されている。ECU30は、燃料供給系を構成する各種装置の駆動を制御することで、例えばディーゼルエンジンの出力(回転速度やトルク)を制御すべく、同エンジンに対する燃料噴射圧力(本実施形態では、圧力センサ20aにて測定される時々の燃料圧力)を目標値(目標燃圧)にフィードバック制御している。
ここで、燃料供給系を構成する諸々の装置は、燃料上流側から、燃料タンク10、燃料ポンプ11、及びコモンレール12の順に配設されている。そして、燃料タンク10と燃料ポンプ11とは、燃料フィルタ10bを介して配管10aにより接続されている。また、配管10aの燃料ポンプ11上流側には、燃料温度を検出するためのセンサである燃温センサ10cが設けられている。
そして、燃料ポンプ11は、基本的には、低圧ポンプ11a及び高圧ポンプ11bを有して構成され、トロコイド式のフィードポンプからなる低圧ポンプ11aによって上記燃料タンク10から汲み上げられた燃料を、高圧ポンプ11bにて加圧して吐出するように構成されている。そして、高圧ポンプ11bに送られる燃料圧送量は、燃料ポンプ11の燃料吸入側に設けられた図示しない吸入調整弁(SCV:Suction Control Valve)によって調量されるようになっている。なお、低圧ポンプ11aは、クランク軸41と連動する図示しない駆動軸によって駆動されるようになっている。この駆動軸は、エンジンの出力軸であるクランク軸41の回転に伴い回転駆動され、例えばクランク軸41の1回転に対して「1/1」又は「1/2」等の比率で回転する。また、高圧ポンプ11bは、例えばプランジャポンプからなり、図示しない偏心カム(エキセントリックカム)にて所定のプランジャ(例えば3本のプランジャ)をそれぞれ軸方向に往復動させることにより加圧室に送られた燃料を逐次所定のタイミングで圧送するように構成されている。
すなわち、燃料タンク10内の燃料は、燃料ポンプ11により燃料フィルタ10bを介して汲み上げられ、配管(高圧燃料通路)11cを通じてコモンレール12へ加圧供給(圧送)される。そして、燃料ポンプ11から圧送された燃料は、コモンレール12により高圧状態で蓄圧され、その蓄圧された高圧燃料が、シリンダごとに設けられたコモンレール燃料吐出側配管(高圧燃料通路)14を通じて、各シリンダのインジェクタ20(燃料噴射弁)へそれぞれ供給されることになる。なお、コモンレール12と配管14との接続部分12aには、配管14を通じてコモンレール12へ伝播される燃料脈動(主に噴射時にインジェクタ20の燃料噴射口にて発生)を軽減するオリフィス(燃料脈動軽減手段に相当する配管14の絞り部)が設けられており、コモンレール12内の圧力脈動を低減して安定した圧力で各インジェクタ20へ燃料を供給することができるようになっている。
このシステムでは、燃料ポンプ11の駆動により圧送される燃料を各インジェクタ20により直接的にエンジンの各筒内(シリンダ内)へ噴射供給(直噴供給)するようになっている。なお、このエンジンは、4ストロークエンジンである。すなわち、このエンジンでは、吸入・圧縮・燃焼・排気の4行程による1燃焼サイクルが「720°CA」周期で逐次実行される。
このように、本実施形態に係る燃料供給系も、基本構成については、従来のシステムに準ずるものとなっている。ただし、本実施形態に係る燃料噴射装置では、所定のシリンダ(シリンダ#1)に対するインジェクタ20の近傍、特にその燃料取込口に対して、圧力センサ20a(燃料通路圧力センサ)が設けられている。そしてこうした構成により、所定の噴射に係るインジェクタ20の噴射動作や実噴射による圧力変動態様(うねり特性)を高い精度で検出することができるようになっている(詳しくは後述)。
ここで、図2を参照して、上記インジェクタ20の構造について詳述する。なお、図2は、同インジェクタ20の内部構造を模式的に示す内部側面図である。
同図2に示されるように、このインジェクタ20は、弁本体部22の先端側及び後端側にそれぞれ、燃料噴射口を通じて弁外へ燃料を噴射する部分であるノズル部(噴射部)21と、弁を駆動するための駆動部23とを有して構成されている。なお、ノズル部21は、例えば弁本体部22の先端に、別体のノズルが装着されて形成される。
また同図2に示されるように、このインジェクタ20の燃料噴射口(噴孔21c)は、弁先端側のノズル部21に設けられている。詳しくは、このノズル部21は、円筒状の外形を形成するノズルボディ21aを主体に構成され、該ノズルボディ21aが先端側へ向かうにつれて縮径されることにより、その最先端に先端部21bが形成されている。そして、この先端部21bには、例えば径「0.15mm」程度の噴孔21c(微小孔)が、弁内外を連通する燃料噴射口として必要な数だけ(例えば6〜8個)穿設されている。また、同ノズル部21には、噴孔21cへの燃料通路を開閉する円柱状のノズルニードル21dが収容されている。このノズルニードル21dは、弁後端側に設けられたスプリング22aにより弁先端側へ付勢されており、この付勢力に従って又は抗して、インジェクタ20内部を軸方向に摺動する。ただし、異常動作を防ぐ等の目的で、ニードル21dの弁後端側(リフト側)には、同ニードル21dの弁後端側への変位を所定位置で妨げる(規制する)ようなストッパ22bが設けられている。
そして、こうしたノズル部21の上記先端部21bに対して、上記コモンレール(蓄圧配管)12から、配管14(図1)及び燃料通路22cを通じて高圧燃料が送られてくる。そうして、上記噴孔21cを通じてその燃料が噴射される。ここで、その送られてくる高圧燃料の燃料圧力は、当該インジェクタ20の燃料取込口にて測定されている。詳しくは、その燃料取込口に配設された上記圧力センサ20a(図1も併せ参照)により、当該インジェクタ20の噴射動作や実噴射(実際の燃料噴射)による圧力変動態様を含めた時々の圧力値(インレット圧)が、逐次測定されている。また、燃料噴射に際しては、上記ニードル21dの軸方向上方への変位量(リフト量)の大小に応じて、噴孔21cへ供給される燃料量、ひいては該噴孔21cから噴射される単位時間あたりの燃料量(噴射率)が可変となる。例えばニードル21dが着座した状態(リフト量=「0」)では、燃料噴射は停止する。
次に、こうしたノズル部(噴射部)21の後端側の弁内部構造、すなわち上記弁本体部22の内部構造について説明する。
この弁本体部22は、同弁本体部22の円筒状の外形を形成するハウジング22d内に、上記ノズルニードル21dと連動するコマンドピストン22eを備える。このピストン22eは、ニードル21dよりも大きな径の円柱状からなり、プレッシャピン22f(連結シャフト)を介して上記ニードル21dに連結されている。そして、上記ニードル21dと同様、このピストン22eも、インジェクタ20内部を軸方向に摺動する。また、このピストン22eの弁後端側には、ハウジング壁面とピストン22e頂面とで区画されることにより、コマンド室Cdが形成されている。さらに、このコマンド室Cdには、燃料流入孔としての入口オリフィス22gが設けられている。すなわちこれにより、コモンレール12からの高圧燃料が、その入口オリフィス22gを通じてコマンド室Cdへ流入することになる。また、同ピストン22e下側の空間には、この空間を上記駆動部23の所定空間(詳しくは、電磁弁の開閉で燃料タンク10と連通されるリーク空間)と連通させるリーク通路22hが設けられている。このインジェクタ20では、こうしたリーク通路22hを設けることで、ピストン22e下側の余分な燃料(例えばニードル摺動部からのリーク燃料等)を燃料タンク10へ戻すようにしている。
一方、駆動部23は、この弁本体部22のさらに後端側に位置する。この駆動部23は、円筒状の外形を形成するハウジング23aを主体に構成され、このハウジング23a内に、二方電磁弁(TWV:Two Way Valve)、詳しくはアウターバルブ23b、スプリング23c(コイルばね)、及びソレノイド23dにより構成される二方電磁弁を備える。この二方電磁弁は、アウターバルブ23bの動作を通じて、燃料流出孔としての出口オリフィス23eを開閉するものである。すなわち、上記ソレノイド23dに通電がなされていない(非通電)状態では、スプリング23cの伸張力(軸方向に沿った伸張力)により、アウターバルブ23bが出口オリフィス23eを塞ぐ側へ付勢されている。他方、同ソレノイド23dへ通電(ソレノイド23dの磁化)がなされると、アウターバルブ23bは、その磁力により、スプリング23cの伸張力に抗して引き寄せられ、出口オリフィス23eを開放する側へ変位することになる。また、この駆動部23の後端側には、ハウジング23a内の燃料をタンクへ戻すために、円柱状の戻し孔23f(燃料戻し口)が設けられている。すなわち当該インジェクタ20においては、この戻し孔23fが、配管18(図1)を介して、上記燃料タンク10に接続されている。なお、駆動部23の通電を制御するための回路、及び、この回路を通じて噴射制御を行うためのプログラム等は、上記ECU30に搭載されている。
すなわち上記ECU30は、例えば駆動部23を主に構成する上記二方電磁弁の通電/非通電を2値的に(駆動パルスを通じて)制御することで、その通電時間により上記ノズルニードル21dのリフト量を可変とし、コモンレール12から燃料通路22cを通じて先端部21bへ逐次供給される高圧燃料を、上記噴孔21cを通じて噴射する。
詳しくは、二方電磁弁(より厳密にはソレノイド23d)が非通電(OFF)状態にある時には、アウターバルブ23bが弁先端側へ降下し、出口オリフィス23eを閉じる。そしてこの状態で、燃料通路22c及び入口オリフィス22gを通じてコモンレール12から先端部21b及びコマンド室Cdへそれぞれ高圧燃料が供給されると、ニードル21d下部の径よりも大きな径のコマンドピストン22eには、その受圧面積の差に基づき、弁先端側への力が働く。これにより、ピストン22eは弁先端側へ押し下げられ、スプリング22aにより弁先端側へ付勢されるニードル21dが、燃料供給経路を遮断することになる(ニードル着座状態)。このため、非通電時には、燃料の噴射が行われない(ノーマリクローズ)。また、ピストン22e下側の余分な燃料は、リーク通路22h及び戻し孔23fを通じて、燃料タンク10へ戻される。
他方、通電(ON)時には、アウターバルブ23bが、ソレノイド23dの磁力により弁後端側へ引き寄せられ、出口オリフィス23eを開く。こうして出口オリフィス23eが開放されることで、コマンド室Cd内の燃料は、出口オリフィス23e、戻し孔23f、リーク通路22hを通じて、燃料タンク10やピストン22e下側へ流れ出し、この燃料の流出で、コマンド室Cdの圧力、ひいてはピストン22eを押し下げようとする力が小さくなる。これにより、ピストン22eは、一体に連結されたニードル21dと共に、弁後端側へ押し上げられる。そして、ニードル21dが押し上げられる(リフトされる)と、ニードル21dが離座し、噴孔21cまでの燃料供給経路が開放され、高圧燃料が噴孔21cへ供給されるとともに、その燃料が噴孔21cを通じてエンジンの燃焼室へ噴射供給されることになる。
このインジェクタ20では、ニードル21dのリフト量に応じて、上記噴孔21cまでの燃料供給経路の流路面積が可変とされ、この流路面積に応じて噴射率も可変とされる。したがって、ニードル21dのリフト量に係るパラメータ(通電時間や燃料圧力)を可変制御することで、噴射率や噴射量を制御することができる。
以上、本実施形態のコモンレール式燃料噴射システムにおける燃料供給系の各種装置について説明した。以下、図1を再び参照して、同システムの構成について、さらに説明を続ける。
すなわちこのシステムにおいて、図示しない車両には、車両制御のための各種のセンサがさらに設けられている。例えばエンジンの出力軸であるクランク軸41には、所定クランク角毎に(例えば30°CA周期で)クランク角信号を出力するクランク角センサ42が、同クランク軸41の回転角度位置や回転速度等を検出するために設けられている。また、図示しないアクセルペダルには、同ペダルの状態(変位量)に応じた電気信号を出力するアクセルセンサ44が、運転者によるアクセルペダルの操作量(アクセル開度)を検出するために設けられている。
こうしたシステムの中で電子制御ユニットとして主体的にエンジン制御を行う部分がECU30である。そして、このECU30は、周知のマイクロコンピュータ(図示略)を備えて構成され、上記各種センサの検出信号に基づいてエンジンの運転状態やユーザの要求を把握し、それに応じて上記インジェクタ20等の各種アクチュエータを操作することにより、その時々の状況に応じた最適な態様で上記エンジンに係る各種の制御を行っている。また、このECU30に搭載されるマイクロコンピュータは、基本的には、各種の演算を行うCPU(基本処理装置)、その演算途中のデータや演算結果等を一時的に記憶するメインメモリとしてのRAM(Random Access Memory)、プログラムメモリとしてのROM(読み出し専用記憶装置)、データ保存用メモリ(バックアップメモリ)としてのEEPROM(電気的に書換可能な不揮発性メモリ)32やバックアップRAM(車載バッテリ等のバックアップ電源により給電されているRAM)、さらには外部との間で信号を入出力するための入出力ポート(上記圧力センサ20a等のセンサ出力を逐次取り込む部分を含む)などといった各種の演算装置、記憶装置、及び通信装置等によって構成されている。そして、ROMには、当該燃料圧力の学習に係るプログラムを含めたエンジン制御に係る各種のプログラムや制御マップ等が、またデータ保存用メモリ(例えばEEPROM32)には、エンジンの設計データをはじめとする各種の制御データ等が、それぞれ予め格納されている。
ところで、本実施形態に係る上記システムでは、時々の状況に応じた補正係数を逐次学習(更新)している。そしてこれにより、例えば同システムに用いられる部品(特にインジェクタ20)の個体差や経年変化等に起因して生じる制御誤差を、逐次補正(フィードバック補正)するようにしている。以下、図3を参照して、本実施形態に係る燃料噴射制御の基本的な手順について説明する。なお、この図3の処理において用いられる各種パラメータの値は、例えばECU30に搭載されたRAMやEEPROM32、あるいはバックアップRAM等の記憶装置に随時記憶され、必要に応じて随時更新される。そして、これら各図の一連の処理は、基本的には、ECU30でROMに記憶されたプログラムが実行されることにより、エンジンの各シリンダについて、それぞれ所定クランク角ごとに又は所定時間周期で逐次実行される。
同図3に示すように、この一連の処理においては、まずステップS11で、例えばエンジン回転速度(平均回転速度)やエンジン負荷等といったエンジン運転状態を示す各種のパラメータを読み込む。そして、続くステップS12では、ステップS11で読み込んだエンジン運転状態や、運転者によるアクセルペダル操作量等に基づいて(必要に応じて要求エンジン運転状態を別途算出して)噴射パターンを設定する。
なお、この噴射パターンは、例えば上記ROMに記憶保持された所定のマップ(数式でも可)等に基づいて取得される。詳しくは、例えば予め想定される各エンジン運転状態について実験等により最適パターン(適合値)を求め、そのマップに書き込んでおく。こうして、上記マップは、それらエンジン運転状態と最適パターンとの関係を示すものとなっている。
また、その噴射パターンは、例えば噴射段数(噴射回数)、噴射タイミング、噴射時間、噴射インターバル(多段噴射の場合の噴射間隔)等のパラメータにより定められるものであり、上記ステップS12では、都度のエンジン運転状態(ステップS11で取得)に応じた要求エンジン運転状態を満足するように、上記マップにより最適パターン(適合値)が設定される。例えば単段噴射の場合には噴射量(噴射時間)が、また多段噴射の噴射パターンの場合には各噴射の噴射量の総和が、それぞれ要求トルク等に応じて可変とされる。そして、その噴射パターンに基づいて、上記インジェクタ20に対する指令値(指令信号)が設定されることになる。これにより、車両の状況等に応じて、前述したプレ噴射、パイロット噴射、アフター噴射、ポスト噴射等が適宜メイン噴射と共に実行されることになる。
続くステップS13では、別途学習処理により更新されている補正係数を、上記EEPROM32から読み出し、続くステップS14で、その読み出した補正係数に基づき、上記インジェクタ20に対する指令値(指令信号)を補正する。そして、続くステップS15では、その補正された指令値(指令信号)に基づいて、上記噴射段数、噴射タイミング、噴射時間、噴射インターバル等に係る指令値を決定し、それら各指令値に基づいてインジェクタ20の駆動を制御する。
次に、図3〜図16を参照して、上記図3のステップS14にて用いられる補正係数の学習(更新)態様について詳述する。なお、図4、図7、図16に示す一連の処理において用いられる各種パラメータの値も、例えばECU30に搭載されたRAMやEEPROM32、あるいはバックアップRAM等の記憶装置に随時記憶され、必要に応じて随時更新される。そして、これら各図の一連の処理は、基本的には、ECU30でROMに記憶されたプログラムが実行されることにより、上記圧力センサ20aの設けられたシリンダ#1について、所定クランク角ごとに又は所定時間周期(本実施形態では「20μsec」周期を採用)で逐次実行される。
ところで、本実施形態の燃料噴射装置(ECU30)による補正係数の学習(更新)に係る処理は、大きくは、
・上記圧力センサ20a(図1)のセンサ出力を、「20μsec」間隔で逐次取得することにより、上記インジェクタ20(詳しくは図2参照)の噴射動作及び実噴射(該噴射動作を通じて実際に行われた噴射)による圧力変動について、その圧力の変動態様を検出、取得(詳しくは圧力推移波形として取得)しつつ、その取得した圧力推移波形を、その時々の噴射パターン等の噴射条件に対して関連付けながら所定の記憶装置(ここでは上記EEPROM32)に格納する処理(学習処理)。
・上記学習処理により記憶装置に格納された圧力推移波形に基づいて、予め所定の記憶装置(ここでは上記EEPROM32)に記憶されている燃料供給(燃料噴射)に係る補正係数を更新する処理(補正処理)。
の2種類の処理からなる。
なお、本実施形態では、上記学習処理に先立ち、当該燃料噴射装置(ECU30)の調整を行うようにしている。詳しくは、ECU30により、上記圧力センサ20aのセンサ出力を逐次取得して、所定の噴射(複数種の噴射パターンにて実行)により生じる圧力変動を検出するとともに、そのセンサ出力の逐次取得を異なる取得間隔で順次行いつつ、同センサ出力を時間軸上にプロットして、同センサ出力によって圧力推移波形の軌跡が描かれる程度に短い上記センサ出力の取得間隔を求めるようにしている。そして、こうして求めた間隔に基づいて、当該燃料噴射装置(ECU30)に係る上記センサ出力の取得間隔を決定するようにしている。ちなみに、発明者の実験等では、「50μsec」程度の間隔(及びこれよりも短い間隔)で、圧力推移波形の軌跡が把握可能になった。ただし本実施形態では、緻密なデータ(上記圧力変動に係るデータ)を取得する上でより好ましい間隔である「20μsec」を、上記センサ出力の取得間隔(図7に示す一連の処理の実行周期に相当)として採用することとする。基本的には、このセンサ出力の取得間隔をより短い間隔に設定するほど、緻密なデータが得られるようになる。
ここではまず、図4及び図7を主に参照して、上記学習処理について詳述する。なお、図4及び図7は、それぞれ当該学習処理の処理手順を示すフローチャートである。詳しくは、図4の処理で当該学習処理に係る実行条件(学習実行条件)の成否が判定され、その実行条件が成立する場合にのみ、図7に示す一連の処理として学習処理が実行されることになる。
同図4に示すように、この図4の処理では、まずステップS21で、以下の各条件についてそれぞれその成否を判定する。
・上記圧力センサ20a(図1)により測定される燃料圧力が所定範囲内にあること。なお、ここで検出される燃料圧力は、基礎圧力値(ベース圧力値)に相当するものである。・燃料温度が所定範囲内にあること。なお、この燃料温度は、上記燃温センサ10cにより検出されるものである。
・学習対象とするシリンダ(シリンダ#1)において所定の噴射パターンによる燃料噴射の指令が出され、その噴射パターンの実行中であること。且つ、その噴射量(指令値)が所定範囲内(例えば所定値以下)にあること。
・当該学習処理に係る各種センサが正常であること。
そして、このステップS21での判定結果に基づき、上記学習実行条件が成立しているか否かを判断する。詳しくは、このステップS21では、上記条件の全てを同時に満足するか否かを判断する。そして、このステップS21において、これら全ての条件を同時に満足すると判断された場合には、実行条件が成立しているとして、続くステップS211にて、学習許可フラグに「1」を設定(学習許可フラグ=1)した後、この図4の一連の処理を終了する。他方、ステップS21において、上記条件のうち1つでも満たさない旨判断された場合には、実行条件が成立していないとして、ステップS212にて、学習許可フラグに「0」を設定(学習許可フラグ=0)した後、この図4の一連の処理を終了する。
以下、図5及び図6を参照して、この図4の処理により設定される図7の処理に係る実行期間、及びその設定態様について説明する。なお、図5及び図6において、(a)はインジェクタ20に対する噴射指令信号(パルス信号)の推移を、(b)は噴射率(単位時間あたりに噴射される燃料量)の推移を、(c)は上記圧力センサ20a(図1)により検出される燃料圧力(インレット圧)の推移を、それぞれ示すタイムチャートである。
上述のように、本実施形態では、「噴射パターンの実行中であること(図4のステップS21)」を、図7の処理に係る実行条件としている。すなわち、この実行条件の成否により、図7の処理を通じて圧力センサ20aの出力の逐次取得を行う期間(センサ出力取得期間)が定められる。詳しくは、図5に示されるように、本実施形態では、エンジンの1燃焼サイクル中に複数の噴射(例えば図5に示すようなパイロット噴射Prt、メイン噴射Mn、ポスト噴射Pstの3段噴射)がインジェクタ20により行われることがある。センサ出力取得期間の設定に際しては、この燃焼サイクル中の最先の噴射(例えば図5中のパイロット噴射Prt)に係る噴射開始指令により指示される(換言すれば通電が開始される)インジェクタ20の噴射開始指示タイミング(タイミングt101)に対して、センサ出力取得期間(検出期間)の開始タイミングを設定することとする。さらに、同サイクル中の最後の噴射(例えば図5中のポスト噴射Pst)を実行した後の圧力変動態様に基づいて、より詳しくはポスト噴射Pstによる圧力変動が収束したタイミング(例えば閾値TH3aに基づき検出)に対して、上記検出期間の終了タイミング(タイミングt102)を設定することとする。こうすることで、上記検出期間を、少なくともパイロット噴射Prtによる圧力変動の開始からポスト噴射Pstによる圧力変動の終了までの期間、すなわちインジェクタ20の実噴射による圧力変動の生じている期間(圧力変動期間)を含む所定の期間(タイミングt101〜t102)に限定的に設定するようにしている。
このように限定された期間であっても、基本的には、所望のデータ(噴射に係る圧力変動の波形)が得られる。このことは、上記検出期間の限定により除外された部分が、検出対象外の期間、すなわち通常では必要としないデータしか取得(検出)されない期間であることによる。そして、こうして検出期間を限定してより短い期間として設定することで、ECU30の処理負荷を軽減したり、RAMの使用記憶領域を小さくしたりすることができるようになる。なお、本実施形態においては、この検出期間を限定的に設定するプログラムが「期間設定手段」に相当する。
さらに本実施形態では、図6に示すように、上記の態様で設定された圧力センサ20aの出力の逐次取得を行う期間(検出期間)のうち、同圧力センサ20aの配設位置における燃料圧力が安定している期間(圧力安定期間)の少なくとも一部に対して、センサ出力の取得を一時的に休止する期間(休止期間t101a〜t102a)を設けるようにしている。詳しくは、インジェクタ20のノズルニードル21d(図2)のリフト量が十分大きくなり、噴孔21c(図2)に対して十分な高圧燃料が供給されるようになると、噴孔21cの口径(燃料出口面積)による噴射限界で、噴射率が略一定に収束するようになる。したがってこの間は、噴射率の安定に伴い、圧力センサ20aにより検出される圧力、すなわち同センサ20aの配設された燃料通路内の燃料圧力も安定するようになる。本実施形態では、同センサ20aの時々のセンサ出力(圧力変動態様)に基づき、こうした圧力安定期間の開始タイミング(タイミングt101a)を検出して、休止期間の開始タイミングを、その検出された圧力安定期間の開始タイミングt101a(厳密にいえば圧力安定期間の開始タイミングが確定したタイミング)に設定することとする。さらに、この休止期間の終了タイミングについてはこれを、インジェクタ20に対する噴射終了指令の指示する噴射終了指示タイミング(タイミングt102a)に設定することとする。
このように、本実施形態では、休止期間t101a〜t102aを設けることにより上記検出期間をさらに限定するようにしている。ただし、こうしてさらに限定された検出期間t101〜t101a,t102a〜t102であっても、基本的には、所望のデータ(噴射に係る圧力変動の波形)が得られる。このことは、上記検出期間の限定により除外された部分が、燃料圧力の安定している期間であり、基本的には、休止期間t101a〜t102a前後の圧力値に基づく補間演算等により予測可能であることによる。そして、こうして検出期間を限定してより短い期間として設定することで、ECU30の処理負荷のさらなる軽減を図ったり、RAMの使用記憶領域をさらに小さくしたりすることができるようになる。なお、本実施形態においては、休止期間を設けるプログラムが「休止期間設定手段」に、圧力安定期間の開始タイミングを検出するプログラムが「安定開始検出手段」に、それぞれ相当する。
一方、図7の処理では、こうして設定された検出期間において、上記インジェクタ20の噴射動作及び実噴射(該噴射動作を通じて実際に行われた噴射)による圧力変動について、その圧力変動態様を検出、取得する。より具体的には、上記圧力センサ20a(図1)により、上記「20μsec」間隔で、噴射タイミング(開始及び終了の各タイミング)近傍を含めた時々の圧力値を逐次検出する。そして、これら逐次検出される時々の圧力値に基づいて、噴射開始点及び噴射終了点、並びにそれら噴射開始点及び噴射終了点の間の圧力変動態様(うねり特性)を検出する。以下、図7を参照して、この処理について詳述する。
図7に示されるように、この一連の処理においては、まずステップS31で、上記学習実行条件(図4のステップS21)が成立するまで、同実行条件の成否、すなわち学習許可フラグに「1」が設定されているか否かを繰り返し判断する。そして、上記図4の一連の処理により学習許可フラグに「1」が設定され、このステップS31にて学習許可フラグに「1」が設定されている旨判断されると、次のステップS32へ進むようになる。
続くステップS32では、上記圧力センサ20a(図1)のセンサ出力を取り込み、その時の圧力を測定する。そして、その測定タイミング及び圧力測定値を、噴射条件に対して関連付けて上記EEPROM32に格納(保存)する。なお、これら測定タイミング及び圧力測定値は、上記4つのシリンダのうち、所定シリンダ#1について求められ、そのシリンダ(シリンダ番号#1)が識別可能なように管理される。また、ここで各データ(測定タイミング及び圧力測定値)に関連付ける噴射条件としては、学習対象の噴射に係る各種の情報(例えば図3のステップS12で用いたマップに定められた情報や、図4のステップS21で検出された噴射時の基礎圧力(ベース圧力)等)を採用することが有効である。
続くステップS331では、ここで学習対象とする噴射が、所属する噴射パターンにおける2段目以降の噴射か否かを判断する。また、このステップS331で2段目以降の噴射ではない(1段目の噴射である)旨判断された場合には、続くステップS34で、学習対象の噴射について、噴射開始点が既に検出されているか否かを判断する。そして、例えばインジェクタ20の駆動開始時には、噴射開始点がまだ検出されていないため、このステップS34では噴射開始点が未検出である旨判断され、次のステップS35へ進む。
ここからは、同図7に加え、図8も併せ参照して、この処理について詳述する。なお、図8は、学習対象とする噴射の噴射タイミング近傍での圧力推移を示すタイムチャートである。そして、この図8において、(a)にはインジェクタ20に対する噴射指令信号(パルス信号)の推移が、(b)には学習対象とする噴射の噴射率(単位時間あたりに噴射される燃料量)の推移が、また(c)には上記圧力センサ20a(図1)により検出される燃料圧力(インレット圧)の推移が、それぞれ実線PL10,R10,P10により示されている。
ところで、例えば上記インジェクタ20の駆動開始時には、上記ステップS34(図7)に続き、ステップS35で、上記インジェクタ20の駆動開始から所定時間(例えば噴射量によって可変)内にあって、且つ、先のステップS32にて検出された時々の圧力値が所定の閾値TH1よりも小さい(圧力<閾値TH1)か否かを判断する。そして、このステップS35で上記条件を満足しない旨判断された場合には、いったん図7の一連の処理を終了した後、まだ上記学習実行条件が成立していれば、再びステップS31〜S34の処理を経て、同ステップS35で上記条件を満足するか否かを判断する。こうして、上記学習実行条件が成立している間は、繰り返し同ステップS35で上記条件の成否が判断されることになる。
詳しくは、図8において、(a)中に実線PL10にて示す1段目の噴射の噴射指令パルスの立ち上がりタイミング(1段目噴射「0msec」付近)が、上記インジェクタ20の駆動開始時に相当する。そして、上記ステップS32にて用いられる所定の閾値TH1を、例えば同図8(c)中に一点鎖線にて示される閾値TH1とする。また、同図8(c)中に実線P10にて示されるように、上記インジェクタ20の駆動開始直後の圧力推移(圧力推移波形)は、その大きな傾向として、まず圧力不変の短い期間があり、その期間を過ぎると、圧力が徐々に降下し始め、その後、あるタイミングで圧力が急峻に下がり始める、といった傾向を示す。
ここで、始めの圧力不変の期間、及びその後の圧力が徐々に降下する期間は、上記インジェクタ20の無効噴射時間(無効噴射期間)に相当する。詳しくは、この無効噴射時間は、通電(噴射指令パルスの立ち上がり)からソレノイド23d(図2)により正常な磁界が形成されるまでの遅れ、並びに、アウターバルブ23bやノズルニードル21d(図2)の慣性、燃料の慣性、及びノズル内部の壁面との摩擦等による動作遅れ、等々の各種の遅れの総和であり、いわば同インジェクタ20の駆動(通電)が開始されてから実際に燃料が噴射されるまでの時間に相当するものである。また、この無効噴射期間中、上記圧力不変の期間の後の期間では、圧力が徐々に降下している。これは、上記インジェクタ20の噴射動作により圧力のリークが発生していることを示しており、詳しくは同インジェクタ20が、噴射に係る動作を開始してから実際に噴射が開始されるまでの間に圧力リークを伴うタイプの噴射弁であることに起因している。具体的には、前述したように、このインジェクタ20では、通電(ON)時、ニードル21dを駆動するために、出口オリフィス23eを開放してコマンド室Cd内の燃料を燃料タンク10へ戻すようにしている。このため、コモンレール12による燃料圧力は、同インジェクタ20の噴射動作中に、上記入口オリフィス22g及び出口オリフィス23e(図2)を通じて漏れる(リークする)ことになる。すなわち、この時の圧力低下が、上記無効噴射期間における緩やかな圧力降下(圧力リーク)に相当する。そして、これらに対し、上記圧力の急峻に下がり始める圧力降下点は、当該インジェクタ20を通じて実際に噴射が開始されるタイミング、すなわち噴射開始点に相当する。
なお、上記閾値TH1は、この噴射開始点を検出するためのものであり、例えば予め実験等により求めた適合値に基づき、上記噴射開始点を示す圧力値(ここでは上記圧力が急峻に下がり始める圧力値付近)に設定される。しかしながらここで、上記噴射開始点を示す圧力値は、燃料噴射弁の種類や個体差等によって変わる。このため、上記噴射開始点を高い精度で検出する上では、上記閾値TH1の値を、燃料噴射弁ごと個別に(又は種類別に)それぞれ最適な値に設定することが好ましい。また、上記閾値TH1により噴射開始点を直接的に検出せずに、例えば上記閾値TH1によりその噴射開始点近傍の所定タイミングを検出するように構成して、その検出された所定タイミングに基づいて間接的に上記噴射開始点を検出するようにしてもよい。
次に、噴射後の時間の経過により、上記圧力センサ20aにより検出される時々の圧力値が上記閾値TH1を下回ると、先のステップS35で上記条件を満足する旨判断されるようになる。そしてこれにより、次のステップS351へ進むようになる。
同ステップS351では、先のステップS32で逐次保存される圧力値等に基づいて、上記圧力センサ20aによる時々の圧力測定値(図8の圧力推移波形P10)が閾値TH1を下回った時のタイミングを検出する。そして、さらに続くステップS38で、そのタイミング(噴射特性検出値)を、学習対象の噴射に係る噴射開始点として上記EEPROM32に格納(保存)する。なおこの場合も、上記噴射条件(例えば図3のステップS12で用いたマップに定められた情報に準ずるものや、噴射時のベース圧力等)に関連付けた状態で、その検出値(噴射開始点)を保存するようにする。
なお、本実施形態では、こうして噴射開始点が検出されてからは、先のステップS32において、上記圧力センサ20aによる時々の圧力測定値(図8の圧力推移波形P10)に基づいてその時々の噴射率も求める(算出する)ようにする。詳しくは、圧力降下点検出時の圧力値(閾値TH1)を例えば基準圧力値(例えば「0」点)として、その時の圧力測定値が小さいほど噴射率が大きいとする。以下、図9を参照して、この噴射率の算出態様について説明する。なお、図9において、(a)は噴射率の推移を、(b)は上記圧力センサ20a(図1)により検出される燃料圧力(インレット圧)の推移を、それぞれ示すタイムチャートである。
同図9に示されるように、この例では、上記圧力降下点検出時の圧力値Pqr1、すなわち閾値TH1にて検出される圧力値Pqr1を基準にして、この基準圧力値を固定したまま、この基準圧力値と、圧力センサ20aによる時々の圧力測定値Pqr21,Pqr22,Pqr23,…との乖離量(ここでは差分、ただし比率等でも可)に基づいて、その時々の噴射率Qr1,Qr2,Qr3,…を逐次求めるようにしている。より具体的には、所定の補正係数Kpを用いて「Qr=(Pqr2−Pqr1)×Kp」なる関係式(QrにはQr1,Qr2,Qr3,…を順に代入、Pqr2にはPqr21,Pqr22,Pqr23,…を順に代入)に基づいて、その時々の噴射率Qr1,Qr2,Qr3,…を求めるようにしている。なおここで、圧力値Pqr1は、インジェクタ20の実噴射による圧力降下開始直前の圧力値、換言すれば上述の無効噴射期間の終了タイミングにおける圧力値に相当する。ちなみに、圧力値Pqr1の検出タイミングは、上述したとおり、噴射開始点(噴射開始タイミング)に相当する。また、補正係数Kpは、例えばECU30内のROM等に格納された所定のマップ(数式でも可)に基づき、適宜のプログラムにより、圧力値Pqr1に応じて可変設定されるようになっている。そしてこのマップとしては、例えば予め実験等により、圧力値Pqr1の値(又は範囲)ごとに上記補正係数Kpの適合値(最適値)が書き込まれたものなどを用いることができる。
次に、図10を参照して、この検出原理について詳述する。
圧力センサ20a(図1)により検出される時々のインレット圧は、インジェクタ20における単位時間あたりの燃料量の収支により決まる。具体的には、「インレット圧=燃料供給による圧力増加量−燃料消費による圧力低下量」なる関係式で表せる。ここで、インジェクタ20に供給される単位時間あたりの燃料量は、レール圧Pc(コモンレール12内の圧力)により決まり、略一定となる。他方、インジェクタ20で消費される単位時間あたりの燃料量は、上述の噴射率に相当する。すなわち、噴射による燃料消費も燃料リークもない場合には、圧力センサ20aによる圧力測定値はレール圧Pcを示す。また、噴射による燃料消費はないが、燃料リークはある場合には、圧力センサ20aによる圧力測定値(圧力値Pqr1に相当)を、「Pc−(燃料リークによる圧力低下量)」なる関係式で表すことができる。また、噴射による燃料消費も燃料リークもある場合には、圧力センサ20aによる圧力測定値(圧力値Pqr21〜Pqr23に相当)を、「Pc−(燃料噴射及び燃料リークによる圧力低下量)」なる関係式で表すことができる。ここで、これらの関係に基づき、噴射による燃料消費がある場合について「燃料噴射だけによる圧力低下量」を求めることを考えると、この「燃料噴射だけによる圧力低下量」は、上記関係から、「Pc−(燃料噴射及び燃料リークによる圧力低下量)」と「Pc−(燃料リークによる圧力低下量)」との差分、すなわち「Pqr2−Pqr1」(Pqr2にはPqr21,Pqr22,Pqr23,…を順に代入)により求めることができると分かる。したがって、補正係数Kpを用いてその時々の「燃料噴射だけによる圧力低下量」を噴射率(単位時間あたりに噴射される燃料量)に変換することで、その時々の噴射率Qr1,Qr2,Qr3,…が得られることになる。
本実施形態では、こうしてその時々の噴射率が算出される。そして、ここで取得された噴射率がインジェクタ20の駆動時間(通電時間)に対して小さい場合には、異常(例えば噴射つまり)である旨判断する。なお、ここで異常である旨判断された場合には、異常の発生を示すダイアグコードの設定、あるいは運転者等に対する報知処理として警告灯の点灯等を行うようにする。本実施形態では、上記噴射率を求めるプログラムが、「噴射率取得手段」に、また上記異常判断を行うプログラムが、「噴射率異常判断手段」にそれぞれ相当する。
図7の処理の説明に戻る。噴射開始点が検出されると、次に先のステップS34で噴射開始点が既に検出されている旨判断されるようになり、続くステップS36で、今度は先のステップS351で検出したタイミング(噴射開始点)から所定時間(例えば噴射量によって可変)内にあって、且つ、先のステップS32にて検出された時々の圧力値が所定の閾値TH3よりも大きい(圧力>閾値TH3)か否かを判断する。ただし通常、上記噴射開始点が検出された直後の一定期間にあっては、上述の急峻な圧力降下が継続しており、このステップS36で上記条件を満足しない旨判断される。そのため、次のステップS37に進み、同ステップS37で、先のステップS351で検出したタイミング(噴射開始点)から所定時間(例えば噴射量によって可変)内にあって、且つ、先のステップS32にて検出された時々の圧力値が所定の閾値TH2よりも小さい(圧力<閾値TH2)か否かを判断する。そして、このステップS37でも上記条件を満足しない旨判断された場合には、いったん図7の一連の処理を終了した後、まだ上記学習実行条件が成立していれば、再びステップS31〜S34の処理を経て、同ステップS36,S37で上記条件を満足するか否かをそれぞれ判断する。こうして、上記学習実行条件が成立している間は、繰り返しそれらステップS36,S37でそれぞれ上記条件の成否が判断されることになる。
詳しくは、本実施形態では、上記ステップS36,S37にて用いられる所定の閾値TH3,TH2を、例えば図8(c)中に一点鎖線にて示される閾値TH3,TH2とする。そして、同図8(c)中に実線P10にて示されるように、上記噴射開始点後の圧力推移(圧力推移波形)は、その大きな傾向として、まず前述の急峻な圧力降下から圧力極小点を経て圧力上昇へ転じ、その後もその圧力は急峻に上昇し続け、やがて噴射前の圧力値(ゼロクロス点)に到達すると、その噴射前の圧力値の近傍で波打つようになる、といった傾向を示す。
ここで、上記圧力極小点は、噴射率が最大となるタイミングに相当する。また、時々の圧力値と噴射前の圧力値とが交わる上記ゼロクロス点は、当該インジェクタ20による噴射が停止するタイミング、すなわち噴射終了点に相当する。そして、図8に示されるように、当該インジェクタ20では、噴射開始時の無効噴射時間と同様、噴射終了時にも、断電(噴射指令パルスの立ち下がり)から噴射終了点までの間に遅れが生じることになる。
なお、上記閾値TH2,TH3は、それぞれ上記各タイミング(噴射率最大点、噴射終了点)を検出するためのものであり、上述の閾値TH1と同様、例えば予め実験等により求めた適合値に基づいて設定される。また、これら閾値TH2,TH3においては、燃料噴射弁ごと個別に(又は種類別に)それぞれ最適な値に設定することが好ましいことも、さらには上記各タイミングを間接的に検出するように構成することができることも、上記閾値TH1の場合と同様である。
すなわちこの例では、時間の経過により、まず、上記圧力センサ20aにより検出される時々の圧力値が上記閾値TH2を下回ることになる。そしてこれにより、先のステップS37で上記条件を満足する旨判断されるようになり、次のステップS371へ進むようになる。
同ステップS371では、先のステップS32で逐次保存される圧力値等に基づいて、上記圧力センサ20aによる時々の圧力測定値が閾値TH2を下回った時(圧力降下点)のタイミングを検出する。そして、さらに続くステップS38で、そのタイミング(噴射特性検出値)を、学習対象の噴射に係るうねり特性(所定噴射によって生じる噴射開始から噴射終了までの圧力変動態様)として上記EEPROM32に格納(保存)する。なおこの場合も、上記噴射条件(例えば図3のステップS12で用いたマップに定められた情報に準ずるものや、噴射時のベース圧力等)に関連付けた状態で、その検出値(うねり特性)を保存するようにする。
次いで、さらに時間が経過すると、今度は圧力が圧力極小点から上昇することにより、上記圧力センサ20aにより検出される時々の圧力値が上記閾値TH3を上回ることになる。そしてこれにより、先のステップS36で上記条件を満足する旨判断されるようになり、次のステップS361へ進むようになる。
同ステップS361では、先のステップS32で逐次保存される圧力値等に基づいて、上記圧力センサ20aによる時々の圧力測定値が閾値TH3を上回った時(圧力上昇点)のタイミングを検出する。ちなみに、このタイミングは、学習対象の噴射に係る噴射終了点に相当するものである。また、続くステップS362では、先のステップS32で逐次保存される圧力値等に基づいて、上記各種タイミング(噴射開始点、噴射終了点等)以外の噴射パラメータを検出する。具体的には、例えば上記噴射開始点と噴射終了点とに基づいて噴射期間(噴射時間)を算出したり、あるいは上記閾値TH2を下回った時(圧力極小点)のタイミングに基づいて、その時の圧力値を検出したりする。なおここで、上記圧力極小点の圧力値は、噴射率の最大値と相関するものである。したがってこの圧力値は、例えば噴射量(噴射率の時間積分値)の推定や補正等に用いることができる。また、上記噴射期間と、上記圧力センサ20aによる時々の圧力測定値とに基づいて、噴射量の推定や補正を行うようにする。具体的には、圧力センサ20aによる時々の圧力測定値に基づいて、噴射率を推定し、この噴射率(推定値)と噴射時間とを掛け合わせることによって、噴射量を算出(推定)する。ちなみに、本実施形態では、上記噴射開始点と噴射終了点とに基づいて噴射期間を求めるプログラムが、「噴射期間取得手段」に相当する。また、上記噴射期間と上記時々の圧力測定値とに基づいて噴射量の推定や補正を行うプログラムが、「噴射量推定手段」に相当する。
そして、さらに続くステップS38で、上記ステップS361,S362にてそれぞれ検出された噴射終了点及び噴射パラメータ(噴射特性検出値)を、上記EEPROM32に格納(保存)する。そしてこの場合も、上記噴射条件(例えば図3のステップS12で用いたマップに定められた情報に準ずるものや、噴射時のベース圧力等)に関連付けた状態で、これらの値(噴射終了点及び噴射パラメータ)を保存するようにする。
なお、上記ステップS35〜S37で、上記閾値TH1〜TH3が検出されなかった場合には、それぞれ各場合について予め定められた処理を行うようにする。例えば上記ステップS35において、閾値TH1が検出されないまま所定期間が経過してしまった場合には、所定の圧力降下点が検出されなかったとして無噴射である旨判断する。そして、その噴射パターンに対する学習を中止すべく、学習許可フラグに「0」を設定(学習許可フラグ=0)した後、上記閾値TH1を、これがより検出され易くなる側、すなわちより高い圧力値へシフトする(本実施形態では、この閾値のシフトを行うプログラムが「閾値変更手段」に相当する)。また、上記ステップS36,S37において、閾値TH2,TH3が検出されないまま所定期間が経過してしまった場合も同様に、学習許可フラグに「0」を設定した後、それら閾値TH2,TH3を、それぞれこれら閾値がより検出され易くなる側へシフトする。すなわち、閾値TH2はより高い圧力値へ、また閾値TH3はより低い圧力値へシフトする。また、これら閾値TH1〜TH3が上記シフトにより所定範囲を超えてしまった場合には、所定のフェイルセーフ処理として、例えば上記噴射開始点や噴射終了点に対する代替値(デフォルト値や前回値)の設定や、異常の発生を示すダイアグコードの設定、あるいは運転者等に対する報知処理として警告灯の点灯等を行うようにする。ちなみに、本実施形態では、図7のステップS35において、所定期間内で閾値TH1(圧力降下点)が検出されなかった場合に無噴射である旨判断するプログラムが、「無噴射判断手段」に相当する。また、上記ステップS35〜S37で所定期間内に上記閾値TH1〜TH3が検出されたか否かを判断するプログラムが、「異常判定手段」に相当する。また、このプログラムにより異常である旨判定された場合、すなわち閾値が検出されなかった旨判定された場合に、所定のフェイルセーフ処理を行うプログラムが、「フェイルセーフ手段」に相当する。
また、さらに時間が経過すると、上記1段目の噴射に次いで2段目の噴射が行われる。詳しくは、図8において、(a)中に実線PL10にて示す2段目の噴射の噴射指令パルスの立ち上がりタイミング(2段目噴射「1msec」付近)が、この2段目の噴射における上記インジェクタ20の駆動開始時に相当する。そしてこれが、次に学習の対象とする噴射になる。
すなわちこれにより、先のステップS331で、学習対象とする噴射が、所属する噴射パターンにおける2段目以降の噴射である旨判断されるようになる。そして、それ以降は、続くステップS332で所定の圧力補正処理を行った後に、上記ステップS34以降の処理を行うようになる。
詳しくは、上記ステップS332では、まず、学習対象とする噴射(ここでは2段目の噴射)までの噴射パターンに基づいて、所定の記憶装置(ここではEEPROM32)に記憶された複数種の圧力推移波形(基準圧力推移波形)の中から、その前段までの噴射パターンに係る圧力推移波形(ここでは前述した単段噴射)を選択する。次いで、この選択された圧力推移波形に基づいて、先のステップS32で検出された時々の圧力値から、そのタイミングに応じた所定の値を減算する。
具体的には、上記複数種の基準圧力推移波形は、例えば図11に示すように、その噴射パターンの最終段の噴射からの経過時間(タイミング)の各値についてそれぞれ所定の圧力値が関連付けられたテーブルとして、それぞれ記憶されている。そしてこのテーブルは、例えば実験等により各種の噴射パターンについて予めその圧力推移波形を測定することにより作成される。
上記ステップS332では、こうした基準圧力推移波形(例えばテーブルで規定される波形)に基づいて、先のステップS32で検出された時々の圧力値と、このテーブルの対応する圧力値(前述した単段噴射からの経過時間に応じた圧力値)との差分値を、この一連の処理の実行周期である「20μsec」周期で逐次算出している。そして、これ以降の処理(ステップS34以降の処理)では、前段である1段目の噴射と同様、上述の各処理により上記各種の噴射特性を検出する。なお、テーブルのデータ間隔が大きくて(粗くて)テーブル上に対応する圧力値がない場合などには、適宜そのデータ間を補間して足りない値を補うように構成することが有効である。
本実施形態では、上記燃料噴射装置(ECU30)のこうした処理により、当該学習対象とする噴射の所属する噴射パターンの、2段目までの噴射パターンによる圧力推移波形と、同噴射パターンの前段までの噴射パターン(ここでは、単段噴射からなる噴射パターン)に係る所定の基準圧力推移波形(図11参照)との差分値が得られるようになる。そして、こうした差分値から、当該噴射パターンでは最終段の噴射に相当する2段目の噴射のみによる圧力変動態様を高い精度で求めることができるようになる。またここでは、上記差分値を、圧力変化に対応した短い間隔で(「20μsec」周期で)逐次算出している。このため、その差分値は、高い同時性で(リアルタイムに)取得されることになる。
以下、図12〜図15を併せ参照して、この圧力補正処理の効果について詳述する。なお、これら図12〜図15は、それぞれ噴射インターバルの異なる複数の噴射(2段目の噴射)について、上記圧力補正処理を行う前と同処理を行った後との圧力推移を示すタイムチャートであり、図12及び図13は圧力補正処理の前の圧力推移を、図14及び図15は圧力補正処理の後の圧力推移をそれぞれ示している。これら各図には、発明者が行った実験及びシミュレーション等の結果の一例を示している。
すなわちこの例では、噴射インターバルの異なる複数の噴射の噴射率(噴射率推移波形R1〜R8)と、その噴射による燃料圧力(インレット圧)の圧力変動態様(圧力推移波形P1〜P8)とが、上記圧力補正処理(ステップS332)を行う前において、それぞれ図12(a)及び(b)に示されるような関係を有している。なお、この図12では、1段目の噴射開始タイミングを基準にして各波形を示しており、図中の実線P0は、単段噴射のみからなる噴射パターンで噴射を行った場合の圧力推移波形(上記基準圧力推移波形に相当)を示している。
また、同図12に示す各波形を2段目の噴射開始タイミング(破線Sは同タイミングでの噴射率に相当)を基準にして示したタイムチャートが、図13である。同図13(a)及び(b)に示されるように、上記圧力補正処理(ステップS332)を行う前においては、上記噴射インターバルの異なる各噴射について、それら各噴射による圧力推移波形P1〜P8のばらつきが大きくなっている。
一方、上記圧力補正処理(ステップS332)を行った後においては、上記噴射インターバルの異なる複数の噴射の噴射率(噴射率推移波形R1〜R8)と、その噴射による燃料圧力(インレット圧)の圧力変動態様(圧力推移波形P1〜P8)とが、それぞれ図14(a)及び(b)に示されるような関係を有する。これら図14(a)及び(b)に示される波形は、2段目までの噴射パターンによる圧力推移波形と、前段の単段噴射に係る所定の基準圧力推移波形(図11参照)との互いに対応する値を、逐次減算して得られる差分の波形に相当するものである。なお、この図14では、先の図12と同様、1段目の噴射開始タイミングを基準にして、上記各波形を示している。
同図14に示されるように、上記圧力補正処理を行うと、先の図12に例示した各波形R1〜R8,P1〜P8が変わる。そして、これらの波形について、補正前後での差異をさらに明確にするため、この関係を2段目の噴射開始タイミングを基準にして示すと、図15に示されるような関係になる。
同図15に示されるように、発明者の実験等では、上記圧力補正処理(ステップS332)を行うことにより、上記噴射インターバルの異なる各噴射について、それらの各噴射による圧力推移波形P1〜P8のばらつきが小さくなった。
このように、上記圧力補正処理を行うことで、前段との噴射インターバルにばらつきがある場合であれ、その噴射インターバルに起因した圧力変動態様のばらつきが抑制されるようになる。そして、圧力変動態様のばらつきが抑制されることにより、その都度、学習対象とする噴射(ここでは2段目の噴射)による圧力変動態様として、再現性の高い値(都度のばらつきの小さい値)が得られるようになる。
こうして学習対象の噴射パターンに含まれる全ての噴射が終了すると、図4の処理を通じて学習許可フラグに「0」が設定され、図7の一連の処理は実行されなくなる。そして、次の噴射が実行(図3のステップS15)されれば、図4の処理を通じて再び学習許可フラグに「1」が設定され、上記図7の一連の処理が実行される。本実施形態では、こうした処理の繰り返しにより、各噴射について、上述の噴射特性が取得、保存されることになる。なお、先には2段の噴射からなる噴射パターンについて例示したが、単段噴射や3段以上の噴射からなる噴射パターンについても、基本的には、上述と同様の処理が行われる。ただし、単段噴射からなる噴射パターンの場合は、上記ステップS332の処理が行われない。また一方、3段以上の噴射からなる噴射パターンの場合は、学習対象とする噴射がn段目の噴射であるときに、その噴射に対して、「n−1」段目までの噴射パターンに係る基準圧力推移波形を上記EEPROM32から読み出して、それぞれ上述の減算処理を行うようにする。すなわち、学習対象とする噴射が2段目の噴射であるときは、1段目までの噴射パターンに係る波形を、3段目の噴射なら2段目までの噴射パターンに係る波形を、4段目の噴射なら3段目までの噴射パターンに係る波形を、…といったように、各噴射についてそれぞれ対応する基準圧力推移波形を上記EEPROM32から読み出して、それぞれ上述の減算処理を行うようにする。ちなみに、本実施形態では、噴射パターンの別に識別可能に所定の基準圧力推移波形を保持するEEPROM32が、「圧力変動保持手段」に、またそのEEPROM32に記憶されている波形から都度の噴射パターンに対応する基準圧力推移波形を選択するプログラムが、「圧力変動選択手段」に、また上記減算処理を行うプログラムが、「差分値取得手段」にそれぞれ相当する。
次に、図16を主に参照して、上記補正処理について説明する。なお、図16は、当該補正処理の処理手順を示すフローチャートである。
同図16に示されるように、この一連の処理においても、まずステップS41で、所定の実行条件の成否を判断し、この条件が成立したことに基づいてステップS42へ移行する。この実行条件は、任意に設定可能であるが、ここでは一例として、1つの噴射パターンについて学習が完了したこと、すなわち補正(補正係数の更新)に使用するデータ(上記噴射特性検出値)が上記EEPROM32へ格納されたことを実行条件とする。したがって、本実施形態では、各噴射パターンについて学習が完了する都度、このステップS41に続くステップS42の補正処理が実行されることになる。
そして、このステップS42では、シリンダ番号(#1)に応じたメモリ領域から上記学習されたデータを読み出す。そして、そのデータ(噴射特性検出値)に関連付けられた上記噴射条件(噴射パターンや噴射時のベース圧力等)に基づいて、上記EEPROM32に記憶された補正係数のうち、その噴射条件に対応する補正係数(上記図3のステップS14にて用いられる補正係数)を更新(変更)する。これにより、この補正係数で補正された指令値に基づいて、そのシリンダ#1に対する燃料供給(燃料噴射)が行われることになる。また必要に応じて、このシリンダ#1に係る補正係数に基づいて、他のシリンダ#2〜#4に係る補正係数を更新(変更)する。
このように、本実施形態では、上記図7に示した学習処理により、経時的な特性変化も含めた時々の噴射特性、詳しくは所定の噴射により生じる圧力変動態様(うねり特性)を逐次学習することとした。また、上記図16に示した補正処理を実行することにより、その学習値(噴射特性)に基づいて所定の補正係数の更新を行いつつ、上記図3のステップS13,S14にて、その補正係数を用いて燃料噴射に係る補正を行うようにした。そうして、これら補正処理(図16)と学習処理(図7)とを交互に繰り返し実行するようにした。これにより、実施形態では、上記燃料供給系に係る時々の噴射特性としてその時々の補正係数を取得することが可能になる。そして、その補正係数により、前述したシステムに用いられる部品の個体差や経年変化等による制御誤差を、より的確に補正することが可能になる。
以上説明したように、本実施形態に係る燃料噴射装置及びその調整方法によれば、以下のような優れた効果が得られるようになる。
(1)エンジンのコモンレール式燃料噴射システムを構成する燃料噴射装置(燃料供給系)において、接続部分12a(オリフィス)よりもインジェクタ20側に相当するインジェクタ20の燃料取込口に配設され、その配設位置にて燃料圧力を測定する1つの圧力センサ20a(燃料通路圧力センサ)と、この圧力センサ20aのセンサ出力に基づき、インジェクタ20の噴射動作、及び該噴射動作を通じて実際に行われた実噴射による圧力変動についてその圧力の変動態様を検出するECU30、詳しくは該ECU30に内蔵される図7の処理を行うプログラム(圧力変動検出手段)と、を備える構成とした。これにより、噴射による圧力変動が減衰する前に、その圧力変動を的確に捉えることが可能になる。そして、所定の噴射に係る燃料噴射弁の噴射動作及び実噴射による圧力変動態様(噴射動作による圧力リークや実噴射によるうねり特性を含めた噴射に係る各種の圧力変動)を高い精度で検出することが可能になり、ひいては噴射特性の取得や補正等が可能となる。
(2)上記圧力センサ20aを接続部分12a(オリフィス)よりもインジェクタ20側に設けたことで、オリフィスにより燃料脈動が軽減される前に上記圧力センサ20aにて圧力変動態様を検出することが可能になり、ひいてはより高い精度で圧力変動態様を検出することが可能になる。
(3)一般にコモンレール12に取り付けられるレール圧センサを割愛したことで、コモンレール近傍のスペースを大きく確保することが可能になる。そして、上記圧力センサ20aを備える構成であれば、このようにレール圧センサを割愛した場合にも、圧力センサ20aのセンサ出力に基づいて、通常の燃料噴射制御を適切に行うことが可能となる。
(4)図7の処理において、上記圧力センサ20aのセンサ出力を、該センサ出力にて圧力推移波形の軌跡が描かれる程度に短い間隔で逐次取得するように構成した。これにより、上記圧力推移波形(圧力変動態様)を高い精度で的確に検出することができるようになる。
(5)図7の処理において、上記燃料通路圧力センサ20aのセンサ出力を「20μsec」間隔で逐次取得するように構成した。これにより、上記圧力推移波形(圧力変動態様)を的確に捉えることができるようになる。
(6)図7の処理により検出された圧力推移波形(圧力変動態様)に基づいて、上記インジェクタ20の噴射特性を推定するプログラム(噴射特性推定手段、図7のステップS351,S361,S362,S371)を備える構成とした。これにより、時々の噴射特性の取得が自動的に行われるようになり、ひいてはその時々の噴射特性の把握が容易となる。
(7)図7の処理により検出された圧力推移波形(圧力変動態様)に基づいて、上記インジェクタ20の噴射に係る補正を行うプログラム(噴射特性補正手段、図3のS13,S14及び図16のステップS42)を備える構成とした。これにより、時々の噴射特性に基づく燃料噴射に係る補正が自動的に行われるようになり、ひいては多段噴射を通じて狙いどおりのエンジン運転状態をより高い精度で得ることができるようになる。
(8)図7の処理により検出された圧力推移波形(圧力変動態様)に基づいて、上記コモンレール式燃料噴射システムの異常の有無を判定するプログラム(異常判定手段)と、このプログラムにより異常である旨判定された場合に所定のフェイルセーフ処理を行うプログラム(フェイルセーフ手段)と、を備える構成とした。こうすることで、適宜のフェイルセーフ処理を早期且つ適切に行うことが可能になる。
(9)図7のステップS362において、単位時間あたりに噴射される燃料量を推定するようにした。また、こうした噴射率の時間積分値として噴射量を求めるようにした。こうすることで、インジェクタ20の燃料圧力制御等をより適切に行うことが可能となる。
(10)図7の処理により補正を行った後に、図16の処理により検出された圧力変動態様に基づいて、インジェクタ20の噴射特性を推定するプログラム(補正後噴射特性推定手段)を備える構成とすることが有効である。こうした構成であれば、上記インジェクタ20の噴射に係る補正と、上記インジェクタ20の噴射特性の検出とを交互に繰り返し行うことで、補正済みの噴射特性に基づく噴射によって、より正確なうねり特性(所定噴射によって生じる圧力変動)等を推定することが可能になる。
(11)1つの燃料通路圧力センサ20aが、シリンダ#1に対するインジェクタ20の燃料取込口に設けられた構成とした。これにより、燃料通路圧力センサ20aの取付け性や保守性が容易になるとともに、比較的安定して高い精度で圧力を検出することが可能になる。
(12)図7のステップS35,S351,S37,S371の処理により、燃料通路圧力センサ20aによる時々の圧力測定値(図8の圧力推移波形P10)に基づき、インジェクタ20に対する噴射開始指令タイミング(駆動開始時)を開始点とする所定期間(噴射開始指令直後の所定期間)について、所定の圧力降下態様を示す圧力降下点を検出するようにした。これにより、インジェクタ20の噴射特性を的確に検出することができるようになる。
(13)図7のステップS35,S351,S37,S371の処理による圧力降下点検出タイミングに基づいて、インジェクタ20の噴射開始タイミング(噴射開始点)、及び噴射率が最大となるタイミングを求めるプログラム(圧力降下検出式噴射タイミング取得手段、図7のステップS35,S351,S37,S371)を備える構成とした。こうすることで、上記インジェクタ20の制御において重要となる上記各タイミングについてもこれを、的確に検出(自動検出)することが可能になる。
(14)図7のステップS35,S351,S37,S371の処理により取得された上記噴射タイミングに基づいて、インジェクタ20の噴射特性を補正するようにした。こうすることで、噴射タイミングに係るインジェクタ20の噴射特性をより的確に補正することができるようになる。
(15)図7のステップS35において、所定期間内で圧力降下点が検出されなかった場合に、無噴射である旨判断するプログラム(無噴射判断手段)を備えることを特徴とする。こうすることで、インジェクタ20による実噴射の有無を的確に検出することが可能になる。
(16)図7のステップS36,S361の処理により、燃料通路圧力センサ20aによる時々の圧力測定値(図8の圧力推移波形P10)に基づき、インジェクタ20に対する噴射開始指令タイミング(駆動開始時)を開始点とする所定期間(噴射開始タイミング直後の所定期間)について、所定の圧力上昇態様を示す圧力上昇点を検出するようにした。これにより、インジェクタ20の噴射特性を的確に検出することができるようになる。
(17)図7のステップS36,S361の処理により所定期間内で上記圧力上昇点が検出されなかった場合に、所定のフェイルセーフ処理を実行するプログラム(フェイルセーフ手段)を備える構成とした。これにより、例えば圧力上昇点の代替値として予め用意された所定値(デフォルト値)や前回値を用いるなどして、検出精度の悪化を抑制することが可能になる。
(18)図7のステップS36,S361の処理による圧力上昇点検出タイミングに基づいて、インジェクタ20の噴射終了タイミング(噴射終了点)を求めるプログラム(圧力上昇検出式噴射タイミング取得手段)を備える構成とした。これにより、上記噴射終了タイミングを的確に検出(自動検出)することが可能になる。
(19)図7のステップS36,S361の処理により取得された上記噴射タイミングの少なくとも1つ(特に噴射終了タイミング)に基づいて、前記燃料噴射弁の噴射特性(特に噴射終了タイミング)を補正するプログラムを備える構成とすることが有効である。こうすることで、噴射タイミングに係る燃料噴射弁の噴射特性をより的確に補正することができるようになる。
(20)上述のように、本実施形態では、圧力降下点を検出するプログラムと共に、圧力上昇点を検出するプログラムも備える構成とした。これにより、前述した圧力降下点及び圧力上昇点の両方を検出することが可能になり、ひいてはインジェクタ20の噴射特性をより的確に検出することができるようになる。
(21)図7のステップS35,S351,S36,S361の処理による圧力降下点検出タイミングと圧力上昇点検出タイミングとの両タイミングに基づいて、インジェクタ20の噴射期間を求めるプログラム(噴射期間取得手段)を備える構成とした。これにより、インジェクタ20の噴射期間を自動的に取得することが可能になる。
(22)また、このプログラムにより取得される噴射期間と、圧力センサ20aによる時々の圧力測定値(図8の圧力推移波形P10)とに基づいて、インジェクタ20の噴射量の推定及び補正の少なくとも一方を行うプログラム(噴射量推定手段)を備える構成とした。これにより、エンジンに対して、より高い精度で燃料の供給(噴射供給)を行うことができるようになる。
(23)圧力センサ20aによる時々の圧力測定値(図8の圧力推移波形P10)と閾値TH1とを比較することにより、特定のタイミング(噴射開始点)を検出するプログラム(タイミング検出手段)と、所定の期間において、このプログラムにより上記噴射開始点が検出されなかった場合に、閾値TH1を、その噴射開始点がより検出され易くなる側へシフトするプログラム(閾値変更手段)と、を備える構成とした。これにより、以後の検出期間(例えば次回又はそれ以降の検出等)においては、より確実にその目的とするタイミングを検出することができるようになる。
(24)上記図7のステップS35,S351の処理による圧力降下点検出時の圧力値(閾値TH1)と、圧力センサ20aによる時々の圧力測定値(図8の圧力推移波形P10)とに基づいて時々の噴射率を求めるプログラム(噴射率取得手段)を備える構成とした。より詳しくは、圧力降下点検出時の圧力値(閾値TH1)を例えば基準圧力値(例えば「0」点)として用いる構成とした。これにより、上述の圧力リークを伴うインジェクタ20にも柔軟に対応して、その噴射率を的確に求めることができるようになる。
(25)上記図7のステップS35,S351の処理による圧力降下点検出時の圧力値(閾値TH1に基づく圧力値Pqr1)を基準にして、この基準圧力値を固定したまま、この基準圧力値(いわばオフセット基準に相当)と、圧力センサ20aによる時々の圧力測定値との乖離量に基づいて、その時々の噴射率を逐次求めるプログラム(噴射率取得手段、図9及び図10)を備える構成とした。これにより、時々の噴射率を容易且つ的確に求めることが可能になる。しかも、基準値を固定したことで、各データの管理や比較等も容易になる。
(26)上記基準圧力値を、インジェクタ20の実噴射による圧力降下開始直前の圧力値とした。基準圧力値としてこのような圧力値を用いることで、「実噴射だけによる圧力降下量」、ひいては上記噴射率を、より的確に検出することができるようになる。
(27)基準圧力値を、インジェクタ20の無効噴射期間終了タイミングの圧力値とした。これにより、上記基準圧力値を、より容易且つ的確に、実噴射による圧力降下開始直前の圧力値に設定することが可能になる。
(28)噴射率を求める際には、「Qr=(Pqr2−Pqr1)×Kp」なる関係式(図9及び図10参照)に基づいて、その時の噴射率を算出するようにした。こうした関係式によれば、容易且つ的確に、その時の噴射率を算出することが可能になる。
(29)さらに、補正係数Kpを、コモンレール内の圧力(レール圧)の相当値である圧力値Pqr1に応じて可変設定するプログラムを備える構成とした。これにより、補正係数Kpがより適切な値に設定されるようになる。
(30)また、ここで取得された噴射率がインジェクタ20の駆動時間(通電時間)に対して小さい場合に異常である旨判断するプログラム(噴射率異常判断手段)を備える構成とした。こうすることで、噴射つまり等の噴射異常を早期に且つ的確に検出することが可能になる。
(31)圧力センサ20aによる時々の圧力測定値(図8の圧力推移波形P10)が、圧力変動が発生した際の(噴射前の)圧力値(ベース圧力)を下回って(図4の処理にて検出)再びその圧力値(ゼロクロス点)に戻った回帰タイミングを検出するプログラム(回帰タイミング検出手段、図7のステップS36)と、このプログラムにより検出されたゼロクロス点に基づいて、インジェクタ20の噴射終了タイミング(噴射終了点)を求めるプログラム(噴射終了タイミング取得手段、図7のステップS361)と、を備える構成とした。これにより、インジェクタ20の噴射終了タイミングを高い精度で求めることが可能になる。
(32)噴射パターンの別に識別可能に所定の基準圧力変動態様(基準圧力推移波形)を保持するEEPROM32(圧力変動保持手段、波形保持手段)と、所定の噴射パターンのn段目の噴射について上記圧力変動態様(圧力推移波形)を検出する場合に同噴射パターンの「n−1」段目までの噴射パターンに係る基準圧力変動態様の1つを選択するプログラム(圧力変動選択手段、波形選択手段)と、同噴射パターンのn段目までの噴射による圧力変動態様から、その「n−1」段目までの噴射パターンに係る基準圧力変動態様を減算することにより、両者の差分値を算出するプログラム(差分値取得手段)と、を備える構成とした。こうした構成であれば、上記差分値から、n段目の噴射のみによる圧力変動態様を高い精度で求めることができるようになる。特に「n−1」段目の噴射とn段目の噴射との噴射インターバルにばらつきがある場合には、その噴射インターバルに起因した圧力変動態様のばらつきを抑えられるようになり、上記n段目の噴射による圧力変動態様として、再現性の高い値(都度のばらつきの小さい値)が得られるようになる。
(33)単段噴射と該単段噴射に続く2段目までの噴射パターンとについて、それら噴射パターンによる圧力変動態様(圧力推移波形)の差分値を算出するように構成した。これにより、2段目の噴射による圧力変動態様、ひいては同噴射の噴射特性を高い精度で求めることができるようになる。
(34)上記図7のステップS332において、圧力変動態様(圧力推移波形)に係る時々の圧力値と、上記基準圧力変動態様(基準圧力推移波形)の対応する圧力値とを逐次減算することにより、両者の差分値を逐次求めるように構成した。これにより、上記差分値を高い同時性で(リアルタイムに)取得することができるようになる。
(35)ECU30として、コモンレール12に接続されたインジェクタ20の燃料圧力信号を、その圧力推移波形の軌跡が描かれる程度に短い間隔で逐次取得するプログラム(燃料圧力逐次取得手段、図7のステップS32)を備える構成とした。具体的には、そのインジェクタ20の燃料圧力信号を「20μsec」間隔で逐次取得するプログラム(燃料圧力逐次取得手段、図7のステップS32)を備える構成とした。こうした構成であれば、上記インジェクタ20の燃料取込口に配設された圧力センサ20aのセンサ出力に基づき、上記インジェクタ20の噴射動作による圧力変動、及び該噴射動作を通じて実際に行われた実噴射による圧力変動について、その圧力の変動態様(圧力リークやうねり特性等)を高い精度で検出することが可能になる。
(36)ECU30により、圧力センサ20aのセンサ出力を逐次取得して上記圧力変動態様(圧力推移波形)を検出するとともに、そのセンサ出力の逐次取得を異なる取得間隔で順次行いつつ、同センサ出力を時間軸上にプロットして、同センサ出力によって圧力推移波形の軌跡が描かれる程度に短い上記センサ出力の取得間隔を求めるようにした。これにより、上記燃料供給系(燃料供給システム)の種類や用途ごとに適切なセンサ出力の取得間隔を、上記ECU30に対して設定することが可能になる。そして、このECU30により、上記噴射特性等を高い精度で検出することが可能になる。
(37)ECU30に対して、上記センサ出力の逐次取得を行う期間(センサ出力取得期間)を、インジェクタ20の実噴射による圧力変動の生じている期間(圧力変動期間)を含む所定の期間(検出期間、図5)として限定的に設定するプログラム(期間設定手段)を設けるようにした。そして、このプログラムにより、エンジンの1燃焼サイクル中にインジェクタ20により行われる1乃至複数の噴射のうち、最先の噴射(例えば図5中のパイロット噴射Prt)に係る噴射開始指令により指示されるインジェクタ20の噴射開始指示タイミング(図5中のタイミングt101)に対して、検出期間の開始タイミングを設定するとともに、同サイクル中の最後の噴射(例えば図5中のポスト噴射Pst)について図7の処理により検出される、該最後の噴射を実行した後の圧力変動態様に基づいて、検出期間の終了タイミング(図5中のタイミングt102)を設定するようにした。こうして検出期間(センサ出力取得期間)を限定してより短い期間として設定することで、演算部分の処理負荷を軽減したり、一時記憶メモリ(ECU30内のRAM)の使用記憶領域を小さくしたりすることができるようになる。しかも、こうした限定の仕方であれば、基本的には、所望のデータ(噴射に係る圧力変動態様)を得ることができる。
(38)ECU30に対して、上記センサ出力の逐次取得を行う期間(センサ出力取得期間)のうち、圧力センサ20a(燃料通路圧力センサ)の配設位置における燃料圧力が安定している期間(圧力安定期間)の一部に対して、同センサ出力の取得を一時的に休止する期間である休止期間を設けるプログラム(休止期間設定手段)を備える構成とした。こうしたプログラムによれば、上記限定設定された検出期間(センサ出力取得期間)を、より限定された期間とすることができるようになる。そして、こうしてセンサ出力取得期間を限定してより短い期間として設定することで、演算部分の処理負荷の軽減を図ったり、一時記憶メモリ(ECU30内のRAM)の使用記憶領域を小さくしたりすることができるようになる。
(39)さらに、図7の処理により検出される圧力変動態様に基づいて、上記圧力安定期間の開始タイミングを検出するプログラム(安定開始検出手段)を備える構成とした。そして、上記休止期間の設定に際しては、休止期間の開始タイミングを、そのプログラム(安定開始検出手段)により検出された圧力安定期間の開始タイミング(図6中のタイミングt101a)に設定するとともに、休止期間の終了タイミングを、インジェクタ20に対する噴射終了指令の指示する噴射終了指示タイミング(図6中のタイミングt102a)に設定するようにした。こうした構成であれば、限定後の期間であっても、基本的には、所望のデータ(噴射に係る圧力変動態様)が得られるようになる。
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
・上記実施形態では、接続部分12aにオリフィスを設け、このオリフィスでコモンレール12内の圧力脈動を低減するようにした。しかし、このオリフィスに代えて、又はこのオリフィスと共に、フローダンパ(燃料脈動軽減手段)を設けることで、同コモンレール12内の圧力脈動を低減するようにしてもよい。
・上記実施形態では、図5及び図6に示した態様で、検出期間や休止期間を設定するようにした。しかしこれに限定されず、検出期間や休止期間の設定態様は任意である。これら検出期間及び休止期間は、例えば実験等により求めた固定値として設定するようにしても、あるいはマップ等を用いて時々の状況(特にエンジン運転状態)に応じた可変値として設定するようにしてもよい。
・上記実施形態では、図9及び図10に示した噴射率の算出において、基準圧力値を、インジェクタ20の無効噴射期間終了タイミングの圧力値とした。しかしこれに限定されず、基準圧力値は任意に設定することができる。例えばリークの少ないインジェクタ20であれば、上記基準圧力値に対して、その時(噴射動作時)のレール圧(ベース圧力)を設定するようにしてもよい。
・またこの場合、燃料噴射タイミングが燃料ポンプによる燃料圧送タイミングと重なることで基準圧力値が変動してしまうことも考えられる。このため、こうした事態も考慮して、そのタイミング重複による誤差の大きさや、燃料ポンプによる燃料圧送タイミングを検出して、適宜の補正や演算禁止処理などを行うプログラムを備える構成とすることも有効である。
・上記実施形態では、図7のステップS332において、圧力変動態様に係る時々の圧力値と、上記基準圧力変動態様の対応する圧力値とを逐次減算することにより、両者の差分値を逐次求めるように構成した。しかし、ここで減算するものは圧力値に限定されず、例えば上記圧力センサ20aによる時々の圧力測定値に基づいてその圧力微分値を逐次求め、その圧力微分値と、予め記憶しておいた圧力微分値推移波形(基準圧力変動態様)との差分値を、逐次求めるように構成することもできる。
・上記圧力降下点及び圧力上昇点、ひいては上記各タイミング(噴射開始タイミング、噴射終了タイミング、及び噴射率が最大となるタイミング)は、以下のような態様で検出することも可能である。
図17は、上記圧力降下点及び圧力上昇点の検出態様についてその一態様を示すタイムチャートである。図17において、(a)は、先の図8に示した圧力推移波形を模式化して示すタイムチャート、(b)は、(a)に示した圧力推移の傾きに相当する圧力時間微分値の推移を示すタイムチャートである。
まず上記実施形態では、所定期間内で噴射開始点(タイミングt1)が検出されなかった場合に、閾値TH1をその噴射開始点がより検出され易くなる側へシフトするようにした。すなわち、図17(a)中に実線にて示される圧力推移波形P10を想定して各閾値を設定したにもかかわらず、時々の圧力の真値が、例えば図17(a)中に二点鎖線P10aにて示されるような圧力推移であった場合(検出対象とするタイミングにおいて本来閾値TH1まで到達するべき圧力値が、その閾値TH1まで到達しない場合)には、噴射開始点(タイミングt1)が検出されない。しかし上記構成によれば、このような場合にあっても、閾値TH1を、より高い圧力値に対する閾値TH1aにシフトすることで、それ以降の検出においては上記噴射開始点を的確に検出することができるようになる。
しかしながら、このような構成でも、例えば圧力リークによる圧力降下等に起因して、時々の圧力の真値が、例えば図17(a)中に二点鎖線P10bにて示されるような圧力推移であった場合には、上記噴射開始点(タイミングt1)が、正規のタイミングよりも早いタイミングで誤検出されてしまう懸念がある。そこで、このような場合には、例えば図17(a)中に破線にて示すように、時間の関数として定まる閾値TH1b、より詳しくは時間の経過と共に(この例では時間に比例して)高圧力値側にシフトする(圧力降下の検出され易さである検出感度が高くなる)ような閾値TH1bを用いる構成が有効である。
具体的には、図7のステップS35,S351の処理により、この閾値TH1bと、圧力センサ20aによる時々の圧力測定値とを比較することにより、時々の圧力値が小さい(閾値TH1bよりも小さい)か否かを逐次判断するとともに、この判断により圧力値が小さい旨判断された場合に圧力降下点(噴射開始点=タイミングt1)が検出されたとする。これにより、その検出期間内において、上記噴射開始点(タイミングt1)に対する検出感度の最適化を図ることができるようになり、インジェクタ20の個体差が大きい場合であれ、より的確に上記噴射開始点を検出することが可能になる。すなわち、早いタイミングにおいては、低感度であるとはいえ上記噴射開始点の検出を継続しつつ、上記目的としない圧力降下が誤検出される可能性を低く抑えることが可能になる。そして、時間の経過と共に閾値TH1bを高圧力値側にシフトさせることで、目的とする圧力降下(噴射開始点に対応した圧力降下)の発生確率が特に高いと予想されるタイミング(この例ではリーク期間以降)においては、高い感度でその圧力降下の検出を行うことができるようになる。
なお、上記圧力上昇点(タイミングt3=噴射終了点)を検出するための閾値TH3を、こうした時間の関数として定まるものとすることもできる。そしてこの場合も、基本的には、同様のことがいえる。また、関数の内容は、用途等に応じて任意に設定することができる。例えば上記構成において、圧力変動が発生した際の圧力値(ベース圧力)に応じて時間に対する閾値の傾きを変更する構成なども有効である。詳しくは、ベース圧力が大きくなるほど閾値の傾きをより大きくすることで、上記誤検出がより生じにくくなる。
・上記実施形態では、上記各閾値(閾値TH1〜TH3)を、圧力値として設定することとした。しかしこれに限られず、所定のタイミングからの圧力降下量や圧力上昇量により閾値を設定することもできる。例えば閾値TH1についてはこれを、図17(a)に示すように、圧力変動が発生した際(圧力変動発生直前)の圧力値(ベース圧力値PP)からの圧力降下量QT1として設定することができる。また、閾値TH3についてはこれを、特定タイミング(圧力極小点A2)の圧力値からの圧力上昇量QT2として設定することができる。用途等によっては、こうした基準点(ベース圧力値PPや圧力極小点A2)からの変化量を用いることで、インジェクタ20の噴射に係る各タイミングを、より的確に検出(自動検出)することなどが可能になる。
・上記各閾値によらず、所定の噴射により生じた圧力変動においてその噴射直後の圧力降下から圧力上昇へ転じる圧力極小点A2(図17(a))に基づいて上記各タイミングを検出することもできる。用途等によっては、例えば噴射率が最大となるタイミングt2を検出するための圧力上昇点を、上記圧力極小点A2として検出するように構成することで、同タイミングt2をより高い精度で検出することができるようになる。
・しかし、時々の圧力の真値が、例えば図18(図17(a)に対応したタイムチャート)中に二点鎖線P10cにて示されるような圧力推移となり、正規のタイミングよりも早いタイミングで圧力極小点A2aが形成されることもある。このような場合、上記圧力極小点A2により検出を行う構成では、上記タイミングt2が誤検出されてしまう懸念がある。
そこで、こうした場合には、上記圧力極小点によらず、インジェクタ20に対する噴射開始指令近傍又はそれ以降の所定タイミングを開始点とする所定期間(例えばタイミングt1〜t3)において、圧力センサ20aによる時々の圧力が最小となる点C2として上記圧力上昇点を検出する構成が有効である。こうした構成であれば、上記噴射率が最大となるタイミングt2をより高い精度で検出することができるようになる。
・圧力センサ20aによる時々の圧力測定値に基づいて、その圧力の変化態様を示す所定パラメータを求めるプログラム(圧力変化取得手段)を設け、その圧力の変化態様に基づいて上記圧力降下点や圧力上昇点を検出するようにしてもよい。こうした圧力の変化態様に対して上述の各閾値を設けることによっても、上記各タイミングを検出することは可能である。
例えば図17(b)に示すように、圧力推移の傾きに相当する圧力時間微分値の推移(波形D10)に対して、上記閾値TH1〜TH3に対応する閾値として、閾値TH11〜TH13を設けることによっても、上記各タイミングを検出することは可能である。また、これら閾値を時間の関数として定める構成としてもよい。例えば上記閾値TH11をこうした関数で設定する場合には、図17(b)中に破線にて示すように、時間の経過と共に(この例では時間に比例して)高圧力値側にシフトする(圧力降下の検出され易さである検出感度が高くなる)ような閾値TH11aなどが有効である。さらに、この微分値の極大点や極小点に相当する変曲点(変化点B1〜B3)によっても、上記各タイミングを検出することは可能である。そしてこの場合も、インジェクタ20に対する噴射開始指令近傍又はそれ以降の所定タイミングを開始点とする所定期間(固定値でも可変値でも可)において、上記微分値が最大又は最小となる点を、上記変化点B1〜B3として検出することが可能である。これらの構成によっても、上記インジェクタ20の噴射特性を的確に検出することができるようになる。
・図7のステップS362では、上記インジェクタ20の噴射特性を示す任意のパラメータを求めることが可能であり、例えば以下のような態様でこれを求めることができる。
図19も、先の図8に示した圧力推移波形を模式化して示すタイムチャートである。
同図19に示すリーク量RG1(上記インジェクタ20の噴射動作時の圧力リーク量)を算出(推定)する構成として、例えば図7のステップS35,S351の処理による圧力降下点検出時(タイミングt1)の圧力値(閾値TH1)と、圧力変動が発生した際の基礎圧力値(ベース圧力値PP)との圧力差に基づいて、該圧力リークのリーク量を求めるプログラム(リーク量取得手段)を備える構成とすることが有効である。こうした構成であれば、上記インジェクタ20の噴射動作時の圧力リーク量を容易に検出(推定)することができるようになる。ただし、より高い精度でこのリーク量を求める構成としては、ベース圧力値PPを基準にして、圧力センサ20aによる時々の圧力測定値(圧力推移波形P10)を積分することにより、例えば噴射開始指令近傍のタイミングから上記圧力降下点検出タイミングt1までの期間の時間積分値として、直接的に上記リーク量RG1を求める構成が有益である。
・また、例えば図7のステップS35,S351の処理による圧力降下点検出時の圧力値(閾値TH1)を基準(例えば「0」基準)にして、圧力センサ20aによる時々の圧力測定値を積分することにより、上記圧力降下点検出タイミング(タイミングt1)から、その時々の圧力測定値が上記圧力降下点検出時の圧力値(閾値TH1)を下回って再び同噴射開始タイミングの圧力値(閾値TH1)に戻ったタイミングt1aまでの期間の時間積分値RG2を取得するプログラム(時間積分値取得手段)と、このプログラムにより取得された時間積分値に基づいて、上記インジェクタ20により実際に噴射された燃料量及び上記圧力リークのリーク量の少なくとも一方を求めるプログラム(噴射特性積分取得手段)と、を備える構成とすることも有効である。ここで、時間積分値RG2は、基本的には、燃料噴射量とリーク量との総和に相関するものとなり、それら燃料噴射量とリーク量との割合は、基本的には一定値に定まる。したがって、上記構成によれば、時間積分値RG2にその割合を掛けることで、燃料噴射量やリーク量を求める(推定する)ことができるようになる。
・また、これら燃料噴射量やリーク量は、噴射前後の圧力差にも相関する。したがって、上記図7のステップS35,S351の処理による圧力降下点検出時の圧力値と、上記図7のステップS36,S361の処理による圧力上昇点検出時の圧力値との圧力差を求めるプログラム(圧力差取得手段)を備える構成とすることによっても、これら燃料噴射量やリーク量を求める(推定する)ことは可能である。
・図19中のタイミングt1aに基づいて、噴射終了タイミングを求めるようにしてもよい。そしてこの場合は、上記タイミングt1a(回帰タイミング)を検出するプログラムが、「回帰タイミング検出手段」に、そのタイミングt1aに基づいて噴射終了タイミングを求めるプログラムが、「噴射終了タイミング取得手段」に相当する。
・ところで、上記実施形態のシステム(燃料噴射装置)において、圧力センサ20aにより得られる時々の圧力測定値には、図20に示すような遅れ(位相ずれW1)が生じることがある。なお、この図20において、(a)は、実際の噴射率R10a(二点鎖線)と、上記圧力センサ20aのセンサ出力により推定される噴射率R10とをそれぞれ示すタイムチャート、(b)は、圧力センサ20aにて検出される圧力推移波形(圧力波形1)示すタイムチャート、(c)は、実際の圧力推移波形(圧力波形2)示すタイムチャートである。
同図20に示されるように、圧力センサ20aにて検出される圧力波形1は、実際の圧力波形2よりも位相ずれW1だけ遅れた波形となる。この位相ずれW1は、インジェクタ20の燃料噴射口(噴孔21c)で生じた圧力変動態様(圧力推移波形)が、圧力センサ20aの配設位置まで伝達される際にかかる時間に相当する。したがって、この位相ずれW1の長短は、圧力センサ20aの配設位置とインジェクタ20の燃料噴射口との距離(詳しくは燃料流通距離)に応じたものとなる。以下、図21を参照して、このことについて、さらに説明する。なお、図21(a)〜(c)は、各異なる配設位置に上記圧力センサ20aの設けられた複数種のインジェクタ20を示す模式図である。
例えば上記実施形態における圧力センサ20aは、図21(a)及び(b)に示されるように、インジェクタ20の燃料取込口に配設され、各インジェクタ20において、圧力センサ20aの配設位置とインジェクタ20の燃料噴射口との距離は、それぞれ距離LT1及び距離LT2になっている。そして、これら距離LT1,LT2は、インジェクタ20の形状(体格)の差異により、図21(b)に示すインジェクタ20の距離LT2の方が大きくなっている(LT1<LT2)。すなわち、燃料噴射口の圧力変動態様が上記圧力センサ20aまで到達するために必要な時間は、図21(a)に示したインジェクタ20よりも図21(b)に示したインジェクタ20の方が大きく(長く)なり、ひいては上記位相ずれW1も、図21(b)に示したインジェクタ20の方が大きくなる(長くなる)。
また一方、図21(c)に示すように、インジェクタ20の内部に(例えば図2の燃料通路22cに対して)圧力センサ20aを設けることも可能である。そしてこの場合、同センサ20aと燃料噴射口との距離LT3は、同センサ20aを燃料取込口に設けた場合よりも短くなり、例えば図21(a)に示すインジェクタ20と同一形状のインジェクタであれば、「LT3<LT1」となる。
このように、圧力センサ20aの配設位置とインジェクタ20の燃料噴射口との距離は、インジェクタの種類やセンサの配設位置によって変わる。そこで、用途等によらず、このような圧力センサ20aの配設位置に伴う位相ずれW1を的確に補正するため、圧力センサ20aによる時々の圧力測定値に基づいて、特定のタイミングを検出するプログラム(タイミング検出手段)と、このプログラムにより検出される特定のタイミングを、圧力センサ20aの配設位置とインジェクタ20の燃料噴射口(噴孔21c)との距離の分だけ早める態様で補正するプログラム(タイミング補正手段)と、を備える構成とすることが有効である。こうした構成であれば、例えば上記インジェクタの種類やセンサの配設位置等に応じて、上記位相ずれW1(遅れ)を補償して、噴射開始タイミングや噴射終了タイミング等(任意の特定タイミング)を高い精度で検出することが可能になる。またこの場合、圧力センサ20aの配設位置を容易且つ的確に把握可能とすべく、例えばEEPROM32の一部にて、圧力センサ20aの配設位置からインジェクタ20の燃料噴射口までの燃料流通距離の大きさを示すパラメータ(例えば上記距離LT1,LT2)を保持するための記憶領域(燃料流通距離保持手段)を備える構成とすることが有効である。
・また、図7のステップS32の処理により検出される圧力推移波形と所定の基準圧力推移波形との対応箇所を比較することにより両者の位相ずれ(上記位相ずれW1)を求めるプログラム(基準比較ずれ取得手段)を備える構成としてもよい。こうした構成であれば、位相ずれを求めることが可能になり、そのずれ補償を高い精度で行うことができるようになる。具体的には、それら圧力推移波形と基準圧力推移波形とについて、所定タイミングの圧力値又は圧力微分値を比較したり、又はそれら圧力値又は圧力微分値を逐次比較したりする構成が有効である。
・また、上記実施形態のシステム(燃料噴射装置)において、圧力センサ20aにより得られる時々の圧力測定値には、上記位相ずれだけでなく、図22に示すような周期ずれW2が生じることもある。なお、この図22(a)〜(c)は、先の図20(a)〜(c)に対応するものである。
同図22に示されるように、この例では、圧力センサ20aにて検出される圧力波形1の周期が周期W2aとなっており、実際の圧力波形2の周期W2bよりも長い周期となっている。なお、この周期ずれは様々な要因によって生じるものであり、この例とは逆に、実際の圧力波形2よりも検出波形(圧力波形1)の方が短い周期となることもある。そして、こうした周期ずれについても、位相ずれと同様、上記基準圧力推移波形との比較を行う構成とすることにより、これを的確に求めることが可能になる。そして、その求めた周期ずれに基づき、ずれ補償を高い精度で行うことができるようになる。
・上記図7及び図16の処理を通じて求めたシリンダ#1に係る補正係数に基づいて、他のシリンダ#2〜#4に係る補正係数を更新(変更)することができる。そして、このように所定シリンダについて求めた補正量を他のシリンダにも利用する(反映させる)ことで、圧力センサの数や演算負荷を極力抑えつつ、多くのシリンダについて、上記インジェクタ20の噴射に係る補正を行うことが可能になる。以下、所定シリンダ(例えばシリンダ#1)の補正係数を他のシリンダに適用した場合の構成を例示する。
図23は、上記実施形態における噴射開始タイミング検出態様の一例を示すタイムチャートである。この図23において、(a)は噴射指令(噴射指令パルス)を、(b)は噴射率を示している。
例えば上記図7及び図16の処理により、シリンダ#1に係る噴射特性として、同図23(b)中に実線R10にて示されるような噴射率の推移と、これに応じた噴射開始タイミング、すなわち噴射開始指令タイミングt11から時間T1だけ遅れたタイミングである噴射開始タイミングt12が検出されたとする。そして、これに対する基準値は、実線R10aにて示される噴射率の推移と、基準噴射開始タイミングt13であるとする。すなわちこの場合、シリンダ#1に係る補正量(補正係数による絶対的な補正量)は、タイミングt12とタイミングt13との差分に相当する時間T2となる。
こうした場合において、シリンダ#1に係る補正係数を他のシリンダに適用する構成としては、例えばこの時間T2に基づいて、シリンダ#1と全く同様に、他のシリンダ#2〜#4の少なくとも1つに係る同一パラメータ(この例では噴射開始タイミング)を補正するプログラム(シリンダ特性反映手段)を備える構成とすることができる。シリンダ別の個体差(シリンダ間のばらつき)の小さいシステムであれば、このような構成であっても高い精度で補正を行うことができる。
・しかしながら、シリンダ別の個体差の大きいシステムでは、他のシリンダをシリンダ#1と全く同様に補正した場合に、かえって目標値(真値)との誤差が大きくなってしまうことが懸念されるようになる。このため、上記シリンダ#1に係る補正係数を他のシリンダに適用する場合には、該シリンダ#1に係る補正係数と同一の符号でより小さな値を、他のシリンダに係る補正係数とする構成とすることが有効である。具体的には、例えばシリンダ#1に係る補正係数に「1」よりも小さな所定の係数(例えば「0.7」)を乗じた値を他のシリンダに係る補正係数とする構成などが有効である。こうした構成であれば、シリンダ別の個体差(ばらつき)を超えない範囲で誤差増大の可能性を低く抑えつつ、少なくともシリンダ#1の補正量に準ずる一定量だけは、他のシリンダの経年変化等に起因した噴射特性のずれを改善することが可能になる。
・また通常、コモンレール式燃料噴射システムの劣化度合が大きくなるほど、シリンダ別の個体差に起因した噴射特性ずれのばらつきが大きくなる。このため、上記「1」よりも小さな所定の係数を用いる構成については、コモンレール式燃料噴射システムの劣化度合を示すパラメータがより大きな劣化度合を示すようになるほど、その所定の係数をより小さな値に可変設定するプログラム(係数可変設定手段)を備える構成とすることが有効である。またここで、コモンレール式燃料噴射システムの劣化度合を示すパラメータとしては、例えば同システムの使用時間の長短を示すパラメータを用いることが有効である。具体的には、例えば所定のタイマ(計時手段)やイグニッションスイッチのオン回数等により、そのシステムの使用時間の長短を検出することができる。また、エンジンの搭載された車両の走行距離として、その使用時間を検出することもできる。ちなみに、この走行距離は、一般の車両制御において他の制御でも使用されているため、所定のプログラム上で随時算出されていることが多い。
ここで、図24を参照して、上記車両の走行距離に基づいて、他のシリンダの補正係数を算出する構成について説明する。なお、図24において、実線L1は全てのシリンダの中で最も劣化度合の小さいシリンダの劣化特性を、また実線L2は全てのシリンダの中で最も劣化度合の大きいシリンダの劣化特性をそれぞれ示している。
同図24に示されるように、通常、走行距離が長くなるほど、すなわち劣化度合が大きくなるほど、シリンダ間の劣化度合のばらつきは大きくなる。このため、所定シリンダ(シリンダ#1)の補正結果を他のシリンダへ反映させる度合、すなわち上記所定の係数も、その走行距離が長くなるほどより小さな値に設定することが望ましい。こうすることで、前述した誤差増大の可能性をより的確に低く抑えることが可能になる。
・また、図7のステップS32の処理により検出される圧力推移波形と所定の基準圧力推移波形(例えば初期の波形)との対応箇所を比較することにより両者の差異(例えば位相ずれや周期ずれの度合)を求めるプログラム(基準比較差異取得手段)を設け、その差異がより大きな値であるほど上記所定の係数をより小さな値に可変設定する構成も有効である。通常、前記コモンレール式燃料噴射システムの劣化度合が大きくなるほど、時々の圧力変動態様は、初期のものからずれてゆく(初期値からの差異が大きくなる)ため、基準圧力推移波形(初期の波形)との差異に基づいて、コモンレール式燃料噴射システムの劣化度合を求めることができる。そして、上述と同様、劣化度合が大きくなるほど、すなわち差異が大きくなるほど、上記所定の係数をより小さな値に可変設定することで、前述した誤差増大の可能性をより的確に低く抑えることが可能になる。
・ところで、上記位相ずれや周期ずれを補正する構成も含め、こうした基準圧力変動態様(基準圧力推移波形)を用いる構成については、例えばEEPROM32の一部として噴射パターンの別に識別可能に上記基準圧力変動態様(例えば基準圧力推移波形)を保持する記憶領域(圧力変動保持手段)と、インジェクタ20による都度の噴射パターンに基づいて上記基準圧力変動態様の1つを選択するプログラム(圧力変動選択手段)と、を備える構成とすることが有効である。通常、噴射パターンの種類によって、その噴射による圧力変動態様が異なる。そのため、基準として用いる基準圧力変動態様としても、都度の噴射パターンに適したものを用いることが望ましい。
なお、上記基準圧力変動態様としては、例えば予め実験等により求めた所定の適合値を用いることができる。しかし経年変化等も反映された基準圧力変動態様を要する場合には、所定シリンダが無噴射運転(燃料カット)中にインジェクタ20により微小量の噴射を実行するとともに、その噴射動作及び実噴射の少なくとも一方による圧力変動態様に基づいて上記基準圧力変動態様を学習するプログラム(圧力変動学習手段)を備える構成とすることが有効である。こうした構成であれば、無噴射運転中に微小量の噴射を行って、時々の状況に応じた圧力変動態様を上記基準圧力変動態様として取得する(学習する)ことが可能になる。
・1つのシリンダの補正係数を他のシリンダに適用する構成に限られず、例えば複数のシリンダに上記燃料通路圧力センサ(圧力センサ20a)を設けた場合には、それら複数シリンダに係る各補正量の1シリンダあたりの平均値を他のシリンダに適用するようにしてもよい。
・複数の燃料通路圧力センサを、エンジンの少なくとも2つのシリンダの燃料流通経路に対してそれぞれ設けるようにしてもよい。
図25は、上記コモンレール12を含めた燃料供給系(燃料供給システム)の構成を概略的に示す模式図である。ここで、各インジェクタ20は、それぞれ左からシリンダ#1,#2,#3,#4用のインジェクタである。また、各シリンダに対する全ての配管14を、互いに同一長及び同一形状の配管とする。
同図25に示されるように、このシステムでは、シリンダ#1,#2の燃料流通経路に対して、それぞれ圧力センサ20a,20bが設けられている。そしてこうした構成により、一方が故障した際に、その一方を他方で代用することなどが可能になる。すなわち、例えば両方のセンサが共に正常であれば、これらシリンダ#1,#2に係る各補正量の1シリンダあたりの平均値をそのまま又は上記所定の係数を乗じて、それぞれ他のシリンダ#3,#4に適用するようにする一方で、それら圧力センサ20a,20bのいずれか一方が故障した場合には、故障していない他方の補正係数を他のシリンダに適用するように構成することなどが可能になる。
また、上記図7及び図16の処理を上記シリンダ#1,#2についてそれぞれ実行することで、それらシリンダ#1,#2についてそれぞれ上記圧力変動態様(圧力推移波形)が検出されることになり、ひいてはそれら圧力変動態様の各検出値に基づき所定噴射に係る噴射特性をシリンダごとに推定することが可能になる。
またここで、上記圧力センサ20a,20bの配設位置について、それぞれその詳細を述べると、まず圧力センサ20aは、上記実施形態と同様、シリンダ#1のインジェクタ20の近傍、特にそのインジェクタ20の燃料取込口に配設されている。そして、この圧力センサ20aの配設位置とインジェクタ20の燃料噴射口との距離(燃料流通距離)LT1aは、同センサ20aの配設位置とコモンレール12との距離(燃料流通距離)LT2aよりも短く設定されている。一方、圧力センサ20bは、シリンダ#2のインジェクタ20の近傍ではあるものの、上記インジェクタ20の燃料取込口から一定距離だけ離れた配管14に配設され、同センサ20bとインジェクタ20の燃料噴射口との距離(燃料流通距離)は、図中の距離LT3aとなっている。そして、この圧力センサ20bの配設位置とインジェクタ20の燃料取込口との距離(燃料流通距離)LT4aは、同センサ20aの配設位置とコモンレール12との距離(燃料流通距離)LT5aよりも短く設定されている。
このように、2つのシリンダ#1,#2の燃料流通経路に対してそれぞれ設けられた圧力センサ20a,20bは、それぞれインジェクタ20の燃料噴射口(噴孔21c)までの燃料流通距離LT1a,LT3aで互いに相違するような位置に配設されている。すなわち、この構成によれば、それらセンサ間での距離の差(例えばEEPROM32に予め記憶)に応じた位相ずれ(前述した位相ずれW1、図20)を求めることができるようになる。そして、それら距離の差と位相ずれとの関係を、例えば他のシリンダに係る噴射特性の補正等に用いることができるようになる。
またこの場合、それら圧力センサ20a,20bを通じてそれぞれ検出される2つの圧力推移波形を比較することにより、両者の位相ずれを求めるプログラムを備える構成とすることが有効である。こうした構成であれば、上記位相ずれの検出を自動的に行うことが可能になる。
・また、上記圧力センサ20a(第1のセンサ)と、該センサ20aよりもインジェクタ20の燃料噴射口から遠い位置に設けられた圧力センサ20b(第2のセンサ)との各センサ出力を、それぞれ異なる用途で使い分けるプログラム(用途調停手段)を備える構成とすることも有効である。例えば所定条件の成立に基づき上記2つのセンサの用途を可変とするように構成する。こうすることで、上記インジェクタ20の燃料圧力制御等をより適切に行うことが可能となる。具体的には、例えば圧力センサ20bを、上記圧力センサ20aに異常が生じた場合のフェイルセーフの用途に用いるようにする。こうすることで、通常時はより高い精度での圧力変動態様の検出を可能としながら、その圧力センサ20aに故障等の異常が生じた場合にあっても、的確にそのフェイルセーフを行うことが可能になる。
・図26(a)及び(b)は、それぞれ先の図25に対応する図である。なお、このシステムでも、各シリンダに対する全ての配管14を、互いに同一長及び同一形状の配管とする。
同図26(a)及び(b)に示されるように、これらのシステムは、それぞれ同一シリンダに関する1つの燃料流通経路について互いに所定の距離だけ離間するように設けられた圧力センサを含んで構成されている。
例えば図26(a)に示されるシステムでは、シリンダ#1の燃料流通経路に対して、2つのセンサ、すなわち圧力センサ20a,20bが設けられている。そしてこのうち、1つ(センサ20a)がインジェクタ20の燃料取込口に、またもう1つ(センサ20b)がインジェクタ20の内部(例えば図2の燃料通路22c)に、それぞれ設けられている。
こうした構成では、圧力センサ20a,20bの間隔(離間距離)が、各圧力センサの配設位置とインジェクタ20の燃料噴射口との距離(燃料流通距離)の差に応じたものとなる。このため、上述の構成と同様、こうした構成によっても、両センサの離間距離(例えばEEPROM32に予め記憶)に応じた位相ずれ(前述した位相ずれW1、図20)を求めることができるようになる。またこの場合、同一シリンダの燃料流通経路で求めるようにしているため、シリンダ個体差の影響を受けず、より高い精度で位相ずれを検出することができるようになる。
一方、例えば図26(b)に示されるシステムでは、図26(a)のシステムと同様のセンサ20a,20bがシリンダ#1の燃料流通経路に設けられ、シリンダ#2の燃料流通経路に対してさらに、圧力センサ20c,20dが設けられている。そしてこのうち、1つ(センサ20c)がインジェクタ20の燃料取込口に、またもう1つ(センサ20d)がコモンレール燃料吐出側配管14に、それぞれ設けられている。また、これら圧力センサ20c,20dにおいては、センサ20cが、コモンレール12よりもインジェクタ20の燃料噴射口の方に近い位置に設けられ、センサ20dが、インジェクタ20の燃料噴射口よりもコモンレール12の方に近い位置に設けられている。
こうした構成によっても、上記構成と同様、両センサの離間距離(例えばEEPROM32に予め記憶)に応じた位相ずれを求めることができるようになる。またこの構成では、シリンダ#1の圧力センサ20a,20bと、シリンダ#2の圧力センサ20c,20dとにより、上記インジェクタ20の燃料噴射口からコモンレール12までの略全般にわたって圧力特性を検出することができるようになっている。これにより、より高い精度で上記位相ずれを求めることが可能になる。さらに、上記圧力センサ20c,20dにより、コモンレール12側の圧力値と、燃料噴射口側の圧力値とを測定することができるようになる。これによっても、上記位相ずれ等をより高い精度で検出することができるようになる。
そして、これらの構成については、圧力センサ20a,20b(又は圧力センサ20c,20d)の各センサ出力に基づいて、それぞれ圧力変動態様(第1及び第2の圧力変動態様)を検出するように構成することが有効である。さらに、これら圧力変動態様(第1及び第2の圧力変動態様)としての2つの圧力推移波形を比較することにより両波形の位相ずれを求めるプログラム(波形比較位相ずれ取得手段)を備える構成とすることが有効である。これらの構成であれば、上記互いに離間したセンサの各センサ出力に基づく圧力変動態様の検出や、それら圧力変動態様(圧力推移波形として取得)の比較などを、自動的に行うことが可能になる。
・またこの場合、こうしたプログラムにより取得された位相ずれ、及び上記圧力センサ20a,20b間(又は圧力センサ20c,20d間)の燃料流通距離に基づいて、燃料の体積変化に伴う圧力変化の度合を示す流体特性である体積弾性係数を求めるプログラム(位相ずれ係数取得手段)をさらに備える構成とすることが有効である。具体的には、位相ずれから圧力波形の伝播速度を求め、「伝播速度=√(体積弾性係数/密度)」なる関係式に基づき、体積弾性係数を算出する。ちなみに、燃料密度としては既知の値を用いることができる。このように、上記構成によれば、ポンプ制御において重要となる体積弾性係数(特に高圧部分における燃料の体積弾性係数)を高い精度で求めることができるようになる。なお、体積弾性係数は、燃料性状、燃料温度、燃料圧力(ベース圧力)等によって影響を受ける。このため、上記プログラムにより求めた体積弾性係数は、これらのパラメータと関連付けて保存することが望ましい。また、実用性や利便性を向上させる上では、予めセンサ間の燃料流通距離や燃料密度等の設計データを演算装置(ECU30)に入力しておき、同装置にて自動的に上記体積弾性係数を算出(取得)するように構成することが有効である。
・図27は、先の図25に対応する図である。ただし、このシステムでは、シリンダ#1,#3に対する配管14と、シリンダ#2,#4に対する配管14とが、異なる通路長(配管長)になっている。
同図27に示されるように、各シリンダの配管長は、シリンダ#1,#3に対する配管14の配管長が距離LT1b、シリンダ#2,#4に対する配管14の配管長が距離LT2bとそれぞれなっており、距離LT1bよりも距離LT2bの方が長くなっている(LT2b>LT1b)。そして、シリンダ#1,#2の燃料流通経路に対して、それぞれ圧力センサ20a,20bが設けられている。また、これら圧力センサ20a,20bは共にインジェクタ20の燃料取込口に設けられている。
このように、このシステムでは、通路長の異なる2つの通路にそれぞれ設けられた圧力センサ20a,20bを備える構成としている。発明者の実験等によると、配管長(通路長)が長いほど、圧力推移波形の周期が長くなる。このため、こうした構成によれば、配管長(例えばEEPROM32に予め記憶)に応じた周期ずれ(図22参照)を求めることができるようになる。そしてこの関係は、例えば他のシリンダに係る噴射特性の補正等に用いることができる。
また、配管長(通路長)の異なるグループ(シリンダ#1,#3とシリンダ#2,#4との2つのグループ)ごとに1つずつ、圧力センサ20a及び圧力センサ20bが設けられた構成としている。こうした構成であれば、必要最低限の数のセンサだけで、効率的にその関係を求めることができるようになる。これにより、部品点数の削減、ひいてはスペース増大や低コスト化等が図られるようになる。
・またこの場合、上記図7及び図16の処理を上記シリンダ#1,#2についてそれぞれ実行することで圧力推移波形を検出するとともに、それら2つの圧力推移波形を比較することにより両者の周期ずれを求めるプログラム(周期ずれ取得手段)を備える構成とすることが有効である。こうした構成であれば、上記圧力推移波形の周期ずれ(周期差)の検出を自動的に行うことが可能になる。
・また、上記図7及び図16の処理を上記シリンダ#1,#2についてそれぞれ実行することで圧力推移波形を検出するとともに、それら2つの圧力推移波形に基づいて、燃料の体積変化に伴う圧力変化の度合を示す流体特性である体積弾性係数を求めるプログラム(燃料通路係数取得手段)を備える構成とすることも有効である。具体的には、圧力推移波形の伝播速度は、各燃料通路について、それぞれ上記通路長を当該圧力推移波形の周期で除算(割り算)した値(通路長/周期)に、例えば通路形状等に係る所定の係数を掛け合わせることによって求めることができる。この点、上記構成であれば、通路長の異なる複数種の燃料通路について、それぞれ伝播速度を求めることが可能になる。このため、そうして求めた複数種のデータの平均をとる(平均値を算出する)などして、圧力推移波形の伝播速度、ひいてはこの伝播速度と相関する上記体積弾性係数を高い精度で求めることが可能になる。
・上記例では、通路長の異なる燃料流通経路について言及したが、通路形状の異なる燃料流通経路についても、基本的には同様のことがいえる。これは、例えば曲路部分の有無や、その形成態様、その曲がり度合、あるいは通路面積等といった各種の通路形状についてもこれが、燃料圧力の伝播のし易さ、すなわち圧力波形の伝播速度等に影響するためである。
・図28(a)及び(b)は、それぞれ先の図25に対応する図である。なお、このシステムでは、各シリンダに対する全ての配管14を、互いに同一長及び同一形状の配管とする。
まず同図28(a)に示すシステムでは、2つのシリンダ#1,#2の燃料流通経路における、インジェクタ20の燃料取込口に対して、それぞれ圧力センサ20a,20bが設けられている。すなわち、これら圧力センサ20a,20bは、インジェクタ20の燃料噴射口(噴孔21c)までの燃料流通距離が互いに略等しくなるような位置に配設されている。そして、このようなシステムに搭載されたECU30は、シリンダ#1,#2ごとに圧力変動態様を検出し、それら検出値の平均をとる(平均値を算出する)ことで、個々のセンサの検出誤差を緩和して同圧力変動態様の検出精度を高めている。さらに、この平均値を他のシリンダ#3,#4に適用することとする。こうした構成であれば、センサ間の測定条件(上記燃料噴射口までの燃料流通距離)を揃えることが可能になり、上記平均値としてより精度の高い値を得ることができるようになる。
・一方、図28(b)に示すシステムでは、エンジンの全シリンダに対してそれぞれ圧力センサ20a〜20dが設けられている。またこれら圧力センサ20a〜20dは、それぞれインジェクタ20の燃料取込口に対して設けられている。こうした構成であれば、例えば上記図7及び図16の処理を各シリンダについて実行することで、全てのシリンダについて、それぞれ上記圧力センサ20a〜20dにより直接的に圧力変動態様(圧力推移波形)を求めることが可能になる。そしてこれにより、それらシリンダごとに高い精度で、上記圧力変動態様、ひいては噴射特性を取得することが可能になる。また上述のように、シリンダごとの検出値の平均値を求める構成としても、その検出精度を高めることが可能になる。
・上記複数の燃料通路圧力センサを切り換えて使用する場合には、その切換えの都度、その切換えにより使用されるようになった1つのセンサの配設位置データを取得するような構成が有効である。上述のように、センサの配設位置に基づいて各種の噴射特性を求めることができるため、高精度に噴射特性を取得すべく、常にセンサの配設位置を把握可能とする構成であることが好ましい。
・ところで、上記複数の燃料通路圧力センサを切り換えて使用する場合には、通常、ECU30の内部にて、それらセンサの出力について信号処理を行うことになる。そしてこの場合、その信号処理系の構成としては、例えばそれらセンサ出力についてそれぞれ信号処理用の演算回路を設ける(図30(b)参照)ことが考えられる。しかしながら、この構成の場合、信号処理用の演算回路がシリンダの数と同じ数だけ必要になる。こうした点に鑑みて、ここでは、エンジンの備える全シリンダ(4つのシリンダ)のうち、その時にインジェクタ20の実噴射による圧力変動の生じている期間(圧力変動期間)が重複し得るシリンダ同士をグループ化し、そのグループに含むシリンダの数だけの演算回路によりグループごとに圧力変動態様(圧力センサ20a〜20dによる圧力波形)を検出するようにした上記実施形態の変形例について説明する。
以下、図29及び図30を参照して、図28(b)に示すシステムを採用した場合を例にとって、この変形例による圧力変動態様の検出について、より具体的に説明する。なおここでは、対象エンジンの吸排気弁のカム軸に設けられた気筒判別センサ(電磁ピックアップ)にてその時の対象シリンダが逐次判別され、対象エンジンの4つのシリンダ#1〜#4について、それぞれ吸入・圧縮・燃焼・排気の4行程による1燃焼サイクルが、「720°CA」周期で、詳しくは例えば各シリンダ間で「180°CA」ずらして、シリンダ#1,#3,#4,#2の順に逐次実行されているものとする。図29は、こうしたエンジンの備える全シリンダ(シリンダ#1,#3,#4,#2)について、それぞれ噴射特性を示すタイムチャートである。詳しくは、同図29において、(a−1)(b−1)(c−1)(d−1)はそれぞれシリンダ#1,#3,#4,#2のインジェクタに対する噴射指令信号(パルス信号)の推移を、(a−2)(b−2)(c−2)(d−2)はそれぞれシリンダ#1,#3,#4,#2の噴射率の推移を示している。一方、図30(a)は、この変形例について、ECU30の回路構成を模式的に示す構成図である。また比較のため、図30(b)には、シリンダ#1〜#4のセンサ出力についてそれぞれ信号処理用の演算回路を設けた例(比較例)を示す。
図29に示されるように、この例では、各シリンダでパイロット噴射、メイン噴射、ポスト噴射の3段噴射を実行することで、エンジンの備える全シリンダ(4つのシリンダ)のうち、燃焼対象のシリンダとその前後2つのシリンダとにおいて、互いに圧力変動期間が重複している。これに対し、ここでは、燃焼順序で隣接する2つのシリンダ(すなわちシリンダ#1,#3、シリンダ#3,#4、シリンダ#4,#2、シリンダ#2,#1)を逐次選択し、その選択された2つのシリンダについて、それぞれ圧力変動態様を検出するようにする。
具体的には、ECU30内には、図30(a)に示されるように、アナログ信号であるセンサ出力をデジタル信号に変換するA/D変換器301と、同A/D変換器301により変換されたデジタル信号を入力してハードウェア(回路)上でその入力信号の中から所定の2つを選択するマルチプレクサ302(選択回路)とが搭載されている。そして、マルチプレクサ302を通じて上記燃焼順序で隣接する2つのシリンダの選択を行い、その選択された2つのシリンダについて、それぞれ第1演算回路303a及び第2演算回路303bにより圧力変動態様を検出するようにしている。ちなみに、第1及び第2演算回路303a,303bは、例えばCPU304の前段で所定の演算(演算内容は固定)を高速処理できるように設計されたものであり、上記A/D変換器301及びマルチプレクサ302と共に、高速デジタル処理プロセッサ(DSP310)を構成している。また、こうしてシリンダごとに検出されたデータ(圧力センサ20a〜20dによる圧力波形)は、シリンダごとに識別可能(シリンダ#1〜#4のいずれであるか識別可能)な態様でEEPROM305(バックアップRAMなどでも代替可)に保存されるようになっている。
そして、こうした回路構成により、先の図29に示されるように、例えば第1演算回路でシリンダ#1、第2演算回路でシリンダ#3(検出期間1)を処理した後、次に第1演算回路でシリンダ#3、第2演算回路でシリンダ#4(検出期間2)、次に第1演算回路でシリンダ#4、第2演算回路でシリンダ#2(検出期間3)、次に第1演算回路でシリンダ#2、第2演算回路でシリンダ#1(検出期間4)、そして再び第1演算回路でシリンダ#1、第2演算回路でシリンダ#3(検出期間1)、…といったように、圧力変動期間が重複し得るシリンダ同士、すなわち燃焼順序で隣接する2つのシリンダをグループ化(抜粋的に選択)して、そのグループ内の各シリンダ(シリンダ#1,#3、シリンダ#3,#4、…)についてそれぞれ圧力変動態様(圧力センサ20a〜20dによる圧力波形)を検出(重複部分では同時に検出)する。そして、次に検出すべきシリンダの検出開始タイミングである同シリンダに係る燃焼サイクルの開始タイミング(例えば気筒判別信号にて検出)が訪れるごとに、そのグループ内の1つのシリンダの検出を終了させながら、上記マルチプレクサ302により、その検出を終了させたシリンダの代わりに(グループ内のもう1つのシリンダはそのまま)上記次に検出すべきシリンダを入れて、グループを順次切り替えてゆく。具体的には、例えば検出期間1から検出期間2に移行する場合には、上記次に検出すべきシリンダはシリンダ#4に、上記検出を終了させるシリンダはシリンダ#1に、上記そのままグループに残されるシリンダはシリンダ#3に、それぞれ相当する。こうすることで、そのグループに含むシリンダの数(2つ)だけの演算回路(第1及び第2演算回路)により全シリンダ#1〜#4の圧力変動態様を検出することができ、ひいては図30(b)に示す比較例の回路構成に比して、演算回路の数を削減することが可能になる。具体的には、図30(b)に示す4つの演算回路303a〜303dが、図30(a)に示す2つの演算回路303a,303bで済むようになる。なお、この変形例では、上記グループ化(シリンダの選択)を行う回路(マルチプレクサ)が「グループ化手段」及び「選択回路」に相当する。
・次に検出すべきシリンダの検出開始タイミングは、1燃焼サイクル中で最初の噴射開始タイミングとして検出するようにしてもよい。こうした噴射開始タイミングは、例えばインジェクタ20に対する噴射指令に基づいて検出することができる。
・上記グループの変更(選択シリンダの切替)は、図31に示すような態様で行うようにしてもよい。すなわちこの方式では、その時に選択していたシリンダのうちのいずれかのシリンダの検出が完了するごとに、詳しくは1燃焼サイクル中で最後の噴射に係る圧力変動終了タイミングにて逐次、その時に選択していた2つのシリンダの一方を、次に検出すべき別のシリンダに切り替える。こうすることによっても、基本的には、上記図30(a)に示した回路構成により、全シリンダ#1〜#4の圧力変動態様を検出することができる。
なお、図29に示した方式と図31に示した方式との両者を対比した場合、先の図29に示したような、次に検出すべきシリンダの検出開始タイミングが訪れるごとにシリンダを切り替える方式は、次のシリンダのデータを取得すべきタイミングになったらその後の噴射に係るデータは取得せずに次のシリンダの最初の噴射に係るデータを取得する、いわば早い時期の噴射に係るデータを重視するものである。他方、先の図31に示したような、シリンダの検出が完了するごとにシリンダを切り替える方式は、いったんデータ取得を開始したシリンダに関しては最後の噴射までデータを取得する、いわば遅い時期の噴射に係るデータを重視するものである。これらの方式は用途等によって使い分けることが望ましいが、一般には、早い時期の噴射(パイロット噴射など)に係るデータが重要となるため、前者の方式がより有益である。
・もっとも、必ずしもこれら方式のいずれか一方だけを選ばなければならないわけではなく、両者を組み合わせるようにした構成も有効である。例えば所定の条件に基づいてこれら方式の一方を選択するプログラムを設けることとする。具体的には、例えばその時に検出中のシリンダに係る検出が完了する前に次に検出すべきシリンダの検出開始タイミングが訪れた場合には、前者の方式により、その検出開始タイミングでシリンダを切り替える。他方、次に検出すべきシリンダの検出開始タイミングよりも前にその時に検出中のシリンダに係る検出が完了すれば、後者の方式により、その検出完了のタイミングでシリンダを切り替える。そして、その切替タイミングから検出開始タイミングまでの期間においては、同シリンダの検出を休止するようにする。こうすることで、センサ出力取得期間をより短い期間として、演算部分の処理負荷の軽減を図ったり、一時記憶メモリ(RAM)の使用記憶領域を小さくしたりすることができる。
・上記圧力変動期間が2つだけでなく3つのシリンダまで重複し得る場合には、上記各変形例についてグループに含めるシリンダの数(シリンダの選択数)を3つにした構成なども有効である。また、用途等によって必要があれば、4つ以上のシリンダをグループ化するような構成にすることもできる。
・図32も、先の図25に対応する図である。同図32に示されるように、このシステムでは、上記圧力センサ20a(燃料通路圧力センサ)に加え、コモンレール12内の圧力を測定するレール圧センサ20bがさらに設けられている。こうした構成であれば、上記圧力センサ20aによる時々の圧力測定値に加え、コモンレール12内の圧力(レール圧)も取得することができるようになる。すなわち、例えばこのレール圧に基づいて、上記圧力センサ20aの設けられていない他のシリンダの燃料圧力をより的確に検出することが可能になる。また、インジェクタ20の噴射特性を検出する際には、このレール圧に基づいて基礎圧力値(ベース圧力値)を検出することなども可能になる。ちなみに、この基礎圧力値(ベース圧力値)としては、単位期間(例えば4ストロークエンジンにおいて1ストロークに相当する「180°CA」)ごとの平均圧力値等を用いることもできる。
・図33も、先の図25に対応する図である。同図33に示されるように、このシステムでは、コモンレール12の両端に対して、それぞれ減圧弁51及びプレッシャリミッタ52が設けられている。
ところで、このようにコモンレール12に対して2つの部品が既に組み付けられたシステムにおいて、さらにレール圧センサを設ける場合には、もはやコモンレール12の端部には組み付けるスペースがないため、そのセンサはコモンレール12の中央部分に組み付けられることになる。しかし、このようにセンサを配設した場合には、そのセンサの配設部分が出っ張ることにより、コモンレール12の収容性が悪化してしまい、コモンレール12を配設するスペースの確保が難しくなる。この点、上記図33に示すシステムでは、上記圧力センサ20a(燃料通路圧力センサ)を備えることにより、上述の態様で、噴射圧力の検出、ひいてはその圧力による噴射制御が可能となる。また必要に応じて、他のシリンダについても上述の態様で、噴射圧力の検出、ひいてはその圧力による噴射制御を行うことができる。このように、上記実施形態又はその変形例に係る燃料噴射装置によれば、コモンレール12の両端に対して2つの部品が既に組み付けられたシステムにあっても、そのコモンレール12の配設に伴うスペース的な制約を大幅に緩和しながら、上記噴射制御を適切に行うことが可能となる。
・上記実施形態及びその変形例を適宜に組み合わせることも可能である。図34に、その2つを例示する。なお、図34(a)及び(b)も、先の図25に対応する図である。ただし、図34(a)に示すシステムでは、シリンダ#1,#3に対する配管14と、シリンダ#2,#4に対する配管14とが、異なる通路長(配管長)になっている。一方、図34(b)に示すシステムでは、各シリンダに対する全ての配管14が、互いに同一長及び同一形状の配管となっている。
図34(a)に示すシステムでは、配管長の異なるシリンダ#1,#2に対して、それぞれ互いに所定の距離だけ離間した圧力センサ20a,20b、及び圧力センサ20c,20dが設けられている。すなわちこれにより、上記位相ずれ(図20参照)及び周期ずれ(図22参照)を高い精度で求めることができるようになる。
一方、図34(b)に示すシステムでは、エンジンの全シリンダに対して、しかも各インジェクタ20の燃料取込口に対して、それぞれ圧力センサ20a,20c,20d,20fが設けられている。また、シリンダ#1,#3に対しては、それぞれ互いに所定の距離だけ離間した圧力センサ20a,20b、及び圧力センサ20d,20eが設けられている。これにより、シリンダごとに高い精度で、上記圧力変動態様、ひいては噴射特性を取得することが可能になるとともに、上記位相ずれ(図20参照)を高い精度で求めることもできるようになる。
・図7のステップS32において、圧力センサ20aによる時々の圧力測定値から特定の周波数成分を抽出する(目的の周波数成分以外を取り除く)フィルタリング処理を行った後、そのフィルタリング処理後の圧力値を保存するように構成することもできる。こうしたプログラム(フィルタ手段)により抽出された特定の周波数成分の圧力値に基づいて、圧力降下点や圧力上昇点を検出することで、外乱等が取り除かれ、上記圧力降下点や圧力上昇点の検出に際してその検出精度が高められることになる。
・上記圧力降下点や圧力上昇点には、用途等に応じて任意の態様(その用途に適した態様)の圧力降下又は圧力上昇を設定することができる。例えば燃料噴射弁ごとの特性等に応じて最適な圧力降下点や圧力上昇点を設定する(検出する)ように構成することが有効である。
・燃料通路圧力センサの数は任意であり、例えば1つのシリンダの燃料流通経路に対して3つ以上のセンサを設けるようにしてもよい。
・要は、少なくともその1つが、コモンレール燃料吐出側配管14のコモンレール12から一定距離だけ離間した箇所から、該配管14につながるインジェクタ20(燃料噴射弁)の燃料噴射口(噴孔21c)までの燃料通路に配設されていれば足りる。
・上記実施形態では、予め実験等により適合値を定めた適合マップ(図3のステップS11にて使用)を採用することを想定して、その適合マップによる噴射特性を補正するための補正係数を保存しておくために、同補正係数を不揮発に保持可能とするEEPROM32を備える構成とした。しかしこれに限られず、例えばその補正係数に代えて補正後の値(補正係数を反映させた値)を、上記EEPROM32に格納する構成としてもよい。そしてこうした構成として、その補正後の値に十分な信頼性が得られれば、上記適合マップを必要としない構成、いわゆる適合レスの構成を採用することも可能になる。また、これら補正係数又はその補正後の値を不揮発に保持可能とするものであれば、上記EEPROM以外の記憶装置も適宜採用可能であり、例えば他の不揮発性メモリやバックアップRAM等も採用することができる。また、上記基準圧力変動態様やセンサの配設位置等を保存するための記憶装置についても同様に、上記EEPROM以外の不揮発性メモリやバックアップRAM等を採用することができる。
・対象とする燃料噴射弁は、図2に例示したインジェクタに限られず、任意である。例えば図2に例示した電磁駆動式のインジェクタ20に代えて、ピエゾ駆動式のインジェクタを用いるようにしてもよい。また、圧力リークを伴わない燃料噴射弁、例えば駆動動力の伝達に油圧室(コマンド室Cd)を介さない直動式のインジェクタ(例えば近年開発されつつある直動式ピエゾインジェクタ)等を用いることもできる。すなわちこの場合には、実質、実噴射による圧力変動態様のみを検出するようになる。なお、直動式のインジェクタを用いた場合には、噴射率の制御が容易となる。
・上記プログラム(噴射特性推定手段)により、燃料噴射弁の噴射期間における噴射率の変動態様を推定するようにした構成も有効である。具体的には、例えば図35(a)〜(c)に示すような噴射率の変動態様(推移に相当)を推定する。そして、この推定した噴射率の変動態様に基づき、該噴射率の変動態様について、燃料噴射弁の噴射条件、又は燃料噴射弁に対する噴射指令を調整することにより、例えば噴射率の昇降速度の大小、安定期間の長短、あるいは段階的な昇降を行う場合の昇降タイミング、等々のパラメータを調整することとする。
図35(a)(b)に示す例では、台形状又は三角形状(デルタ型)の噴射率特性Qr11,Qr12について、噴射率の昇降速度の大小を調整するようにしている。詳しくは、これら図35(a)(b)において、噴射率特性Qr11a,Qr12aは、噴射率の昇降速度を大きくした例、噴射率特性Qr11b,Qr12bは、噴射率の昇降速度を小さくした例である。昇降速度の調整は、例えばコモンレール12内の圧力(燃料噴射弁の噴射条件の1つに相当)を調整(レール圧が大きくなるほど噴射率の昇降速度が速くなることを利用)することによって行うことができる。また、安定期間の長短を調整すべく、(a)に示す台形状から(b)に示す三角形状へ、又は(b)に示す三角形状から(a)に示す台形状へ、といったように、ベースとなる特性形状自体を変更するようにしてもよい。上述の直動式のインジェクタであれば、こうしたベース形状自体の変更も、燃料噴射弁に対する噴射指令を調整することによって容易に行うことができる。
図35(c)に示す例では、段階的な昇降を行うタイプ、いわゆるブーツ型の噴射率特性Qr13について、昇降タイミングの調整を行うようにしている。詳しくは、噴射率特性Qr13から噴射率特性Qr13aのように、噴射率上昇のタイミングを早めている。上述の直動式のインジェクタであれば、こうした昇降タイミングの調整も、燃料噴射弁に対する噴射指令を調整することによって容易に行うことができる。
なお、こうした噴射率特性(噴射率の変動態様)の推定や調整は、メイン噴射に限らず、多段噴射の場合はメイン噴射の前後に行われる噴射(例えばパイロット噴射やポスト噴射など)について行うようにしてもよい。
・上記プログラム(噴射特性推定手段)により推定された各種の噴射特性と、エンジンの運転に係る所定の第1パラメータを検出するセンサのセンサ出力とに基づいて、第1パラメータとは別の、同エンジンの運転に係る第2パラメータを推定するプログラムを備える構成とすることも有効である。上述のように、上記実施形態や変形例に係るプログラム(噴射特性推定手段)によれば、噴射特性(エンジンの運転に係るパラメータの1つに相当)を高い精度で推定することが可能になる。そのため、高い精度で推定されたその噴射特性と、同じくセンサを通じて高い精度で検出される第1パラメータ(センサ出力)とを用いることで、別の第2パラメータを高い精度で推定することが可能になる。具体的には、例えば上記プログラムにより噴射率(例えば図9や図10などを参照)を推定するとともに、酸素濃度センサ(例えばA/Fセンサ)により空燃比を検出することで、それら噴射率とセンサ出力とに基づいて、シリンダへの吸入空気量を高い精度で求める(例えば「空燃比=吸入空気量/噴射量」なる関係式より算出する)ことができ、ひいては吸気通路に設けられたエアフロメータの検出誤差の補正を行うことなどが可能になる。あるいは、上記プログラムにより燃料噴射時期(例えば図8や図17などを参照)を推定するとともに、筒内圧センサ(エンジンのシリンダ内に配設される圧力センサ)によりシリンダ内の圧力変動態様を検出(例えば圧力推移を逐次検出)することで、それら噴射特性とセンサ出力とに基づいて、燃料性状(燃料のセタン価)を高い精度で求めることができる。詳しくは、筒内圧力と燃焼状態との相関関係により、筒内圧センサのセンサ出力(ひいては圧力変化)から着火時期を算出することができる。そして、ここで着火時期は、主に燃料噴射時期と燃料性状とに依存する。このため、着火時期と燃料噴射時期とを高い精度で検出することで、それら着火時期と燃料噴射時期とに基づいて、燃料性状を高い精度で求めることができる。
・上記実施形態では、「20μsec」間隔(周期)で上記センサ出力を逐次取得する構成について言及したが、この取得間隔は、上述した圧力変動の傾向を捉えることができる範囲で適宜に変更可能である。ただし、発明者の実験によると、「50μsec」よりも短い間隔が有効である。
・上記実施形態及び変形例では、各種のソフトウェア(プログラム)を用いることを想定したが、専用回路等のハードウェアで同様の機能を実現するようにしてもよい。
12…コモンレール、14…配管(コモンレール燃料吐出側配管)、20…インジェクタ、20a〜20f…圧力センサ、21c…噴孔、30…ECU(電子制御ユニット)、32…EEPROM(電気的に書換可能な不揮発性メモリ)、51…減圧弁、52…プレッシャリミッタ。