以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明が適用されたハイブリッド駆動装置10を説明する概略構成図である。図1において、このハイブリッド駆動装置10では、車両において、主動力源である第1動力源12のトルクが出力部材として機能する出力軸14に伝達され、その出力軸14から差動歯車装置16を介して左右一対の駆動輪18にトルクが伝達されるようになっている。また、このハイブリッド駆動装置10には、走行のための駆動力を出力する力行制御およびエネルギを回収するための回生制御を選択的に実行可能な第2モータジェネレータMG2が第2動力源として設けられており、この第2モータジェネレータMG2は自動変速機22を介して上記出力軸14に連結されている。したがって、第2モータジェネレータMG2から出力軸14へ伝達されるトルク容量が、その自動変速機22で設定される変速比γs (=MG2の回転速度NMG2/出力軸14の回転速度NOUT )に応じて増減されるようになっている。
上記自動変速機22は、変速比γs が「1」より大きい複数段を成立させることができるように構成されており、第2モータジェネレータMG2からトルクを出力する力行時にはそのトルクを増大させて出力軸14へ伝達することができるので、第2モータジェネレータMG2が一層低容量もしくは小型に構成される。これにより、例えば高車速に伴って出力軸14の回転速度NOUT が高くなった場合には、第2モータジェネレータMG2の運転効率を良好な状態に維持するために、変速比γs を小さくして第2モータジェネレータMG2の回転速度NMG2を低下させ、また、出力軸14の回転速度NOUT が低下した場合には、変速比γs を大きくして第2モータジェネレータMG2の回転速度NMG2を増大させる。
第1動力源12は、エンジン24と、第1モータジェネレータMG1と、これらエンジン24と第1モータジェネレータMG1との間でトルクを合成もしくは分配するための遊星歯車装置26とを主体として構成されている。上記エンジン24は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃料を燃焼させて動力を出力する公知の内燃機関であって、マイクロコンピュータを主体とするエンジン制御用の電子制御装置(E−ECU)28によって、スロットル弁開度や吸入空気量、燃料供給量、点火時期などの運転状態が電気的に制御されるように構成されている。上記電子制御装置28には、アクセルペダル27の操作量θacc を検出するアクセル操作量センサAS、ブレーキペダル29の操作の有無を検出するためのブレーキセンサBS等からの検出信号が供給されている。
上記第1モータジェネレータMG1は、たとえば同期電動機であって、駆動トルクを発生させる電動機としての機能と発電機としての機能とが選択的に得られるように構成され、インバータ30を介してバッテリー、コンデンサなどの蓄電装置32に接続されている。そして、マイクロコンピュータを主体とするモータジェネレータ制御用の電子制御装置(MG−ECU)34によってそのインバータ30が制御されることにより、第1モータジェネレータMG1の出力トルクあるいは回生トルクが調節或いは設定されるようになっている。上記電子制御装置34には、シフトレバー35の操作位置を検出する操作位置センサSS等からの検出信号が供給されている。
前記遊星歯車装置26は、サンギヤS0と、そのサンギヤS0に対して同心円上に配置されたリングギヤR0と、これらサンギヤS0およびリングギヤR0に噛み合うピニオンギヤP0を自転かつ公転自在に支持するキャリアC0とを三つの回転要素として備えて、公知の差動作用を生じるシングルピニオン型の遊星歯車機構である。遊星歯車装置26は、エンジン24および自動変速機22と同心に設けられている。遊星歯車装置26および自動変速機22は中心線に対して略対称的に構成されているため、図1ではそれらの下半分が省略されている。
本実施例では、エンジン24のクランク軸36はダンパー38を介して遊星歯車装置26のキャリアC0に連結されている。これに対してサンギヤS0には第1モータジェネレータMG1が連結され、リングギヤR0には出力軸14が連結されている。このキャリアC0は入力要素として機能し、サンギヤS0は反力要素として機能し、リングギヤR0は出力要素として機能している。
上記トルク合成分配機構として機能するシングルピニオン型の遊星歯車装置26の各回転要素の回転速度の相対的関係は、図2の共線図により示される。この共線図において、縦軸S、縦軸C、および縦軸Rは、サンギヤS0の回転速度、キャリアC0の回転速度、およびリングギヤR0の回転速度をそれぞれ表す軸であり、縦軸S、縦軸C、および縦軸Rの相互の間隔は、縦軸Sと縦軸Cとの間隔を1としたとき、縦軸Cと縦軸Rとの間隔がギヤ比ρ(サンギヤS0の歯数ZS /リングギヤR0の歯数ZR )となるように設定されたものである。
上記遊星歯車装置26において、キャリアC0に入力されるエンジン24の出力トルクに対して、第1モータジェネレータMG1による反力トルクがサンギヤS0に入力されると、出力要素となっているリングギヤR0には、エンジン24から入力されたトルクより大きいトルクが現れるので、第1モータジェネレータMG1は発電機として機能する。また、リングギヤR0の回転速度(出力軸回転速度)NOUT が一定であるとき、第1モータジェネレータMG1の回転速度NMG1を上下に変化させることにより、エンジン24の回転速度NEを連続的に(無段階に)変化させることができる。図2の破線は、MG1の回転速度NMG1を実線で示す値から下げたときにエンジン24の回転速度NEが低下する状態を示している。すなわち、エンジン24の回転速度NEを例えば燃費が最もよい回転速度に設定する制御を、第1モータジェネレータMG1を制御することによって実行することができる。この種のハイブリッド形式は、機械分配式あるいはスプリットタイプと称される。
図1に戻って、前記自動変速機22は、一組のラビニヨ型遊星歯車機構によって構成されている。すなわち自動変速機22では、第1サンギヤS1と第2サンギヤS2とが設けられており、その第1サンギヤS1にショートピニオンP1が噛合するとともに、そのショートピニオンP1がこれより軸長の長いロングピニオンP2に噛合し、そのロングピニオンP2が前記各サンギヤS1、S2と同心円上に配置されたリングギヤR1に噛合している。上記各ピニオンP1、P2は、共通のキャリアC1によって自転かつ公転自在にそれぞれ保持されている。また、第2サンギヤS2がロングピニオンP2に噛合している。
前記第2モータジェネレータMG2は、前記モータジェネレータ制御用の電子制御装置(MG−ECU)34によりインバータ40を介して制御されることにより、電動機または発電機として機能させられ、アシスト用出力トルクあるいは回生トルクが調節或いは設定される。第2サンギヤS2には、その第2モータジェネレータMG2が連結され、上記キャリアC1が出力軸14に連結されている。第1サンギヤS1とリングギヤR1とは、各ピニオンP1、P2と共にダブルピニオン型遊星歯車装置に相当する機構を構成し、また第2サンギヤS2とリングギヤR1とは、ロングピニオンP2と共にシングルピニオン型遊星歯車装置に相当する機構を構成している。
そして、自動変速機22には、第1サンギヤS1を選択的に固定するためにその第1サンギヤS1と変速機ハウジング42との間に設けられた第1ブレーキB1と、リングギヤR1を選択的に固定するためにそのリングギヤR1と変速機ハウジング42との間に設けられた第2ブレーキB2とが設けられている。これらのブレーキB1、B2は摩擦力によって係合力を生じるいわゆる摩擦係合装置であり、多板形式の係合装置あるいはバンド形式の係合装置を採用することができる。そして、これらのブレーキB1、B2は、油圧アクチュエータ等により発生させられる係合圧に応じてそのトルク容量が連続的に変化するように構成されている。
以上のように構成された自動変速機22は、第2サンギヤS2が入力要素として機能し、またキャリアC1が出力要素として機能し、第1ブレーキB1が係合させられると「1」より大きい変速比γshの高速段Hが達成され、第1ブレーキB1に替えて第2ブレーキB2が係合させられると、その高速段Hの変速比γshより大きい変速比γslの低速段Lが設定されるように構成されている。これらの変速段HおよびLの間での変速は、車速Vや要求駆動力(もしくはアクセル操作量θacc )などの走行状態に基づいて実行される。より具体的には、変速段領域を予めマップ(変速線図)として定めておき、検出された運転状態に応じていずれかの変速段を設定するように制御される。その制御を行うためのマイクロコンピュータを主体とした変速制御用の電子制御装置(T−ECU)44が設けられている。
上記電子制御装置44には、作動油の温度TOIL を検出するための油温センサTS、第1ブレーキB1の係合油圧を検出するための油圧スイッチSW1、第2ブレーキB2の係合油圧を検出するための油圧スイッチSW2、ライン圧PLを検出するための油圧スイッチSW3等からの検出信号が供給されている。また、第2モータジェネレータMG2の回転速度NMG2を検出するMG2回転速度センサ43、車速Vに対応する出力軸14の回転速度NOUT を検出する出力軸回転速度センサ45からも、それ等の回転速度を表す信号が供給される。
図3は、上記自動変速機22を構成しているラビニヨ型遊星歯車機構についての各回転要素の相互関係を表すために4本の縦軸S1、縦軸R1、縦軸C1、および縦軸S2を有する共線図を示している。それら縦軸S1、縦軸R1、縦軸C1、および縦軸S2は、第1サンギヤS1の回転速度、リングギヤR1の回転速度、キャリアC1の回転速度、および第2サンギヤS2の回転速度をそれぞれ示すためのものである。
以上のように構成された自動変速機22では、第2ブレーキB2によってリングギヤR1が固定されると、低速段Lが成立し、第2モータジェネレータMG2の出力したアシストトルクがそのときの変速比γslに応じて増幅されて出力軸14に付加される。これに替えて、第1ブレーキB1によって第1サンギヤS1が固定されると、低速段Lの変速比γslよりも小さい変速比γshを有する高速段Hが成立する。この高速段Hにおける変速比γshも「1」より大きいので、第2モータジェネレータMG2の出力したアシストトルクがその変速比γshに応じて増大させられて出力軸14に付加される。
図4は、上記各ブレーキB1、B2の係合解放によって自動変速機22の変速を自動的に制御するための変速用油圧制御回路50を示している。この油圧制御回路50には、エンジン24のクランク軸36に作動的に連結されることによりそのエンジン24により回転駆動されるメカニカル式油圧ポンプ46と、電動機48aとそれにより回転駆動されるポンプ48bを備えた電動式油圧ポンプ48とを油圧源として備えており、それらメカニカル式油圧ポンプ46および電動式油圧ポンプ48は、図示しないオイルパンに還流した作動油をストレーナ52を介して吸入し、或いは還流油路53を介して直接還流した作動油を吸入してライン圧油路54へ圧送する。上記還流した作動油の油温TOIL を検出するための油温センサTSが、油圧制御回路50が形成されているバルブボデー51に設けられているが、他の部位に設けられても良い。
ライン圧調圧弁56は、リリーフ形式の調圧弁であって、ライン圧油路54に接続された供給ポート56aとドレン油路58に接続された排出ポート56bとの間を開閉するスプール弁子60と、そのスプール弁子60の閉弁方向の推力を発生させるスプリング62を収容すると同時にライン圧PLの設定圧を高く変更するときに電磁開閉弁64を介してモジュール圧油路66内のモジュール圧PMを受け入れる制御油室68と、スプール弁子60の開弁方向の推力を発生させる上記ライン圧油路54に接続されたフィードバック油室70とを備え、低圧および高圧の2種類のいずれかの一定のライン圧PLを出力する。上記ライン圧油路54には、ライン圧PLが高圧側の値であるときにオン作動し、低圧側の値以下であるときにオフ作動する油圧スイッチSW3が設けられている。
モジュール圧調圧弁72は、上記ライン圧PLを元圧とし、そのライン圧PLの変動に拘わらず、低圧側のライン圧PLよりも低く設定された一定のモジュール圧PMをモジュール圧油路66に出力する。第1ブレーキB1を制御するための第1リニアソレノイド弁SLB1および第2ブレーキB2を制御するための第2リニアソレノイド弁SLB2は、上記モジュール圧PMを元圧として電子制御装置44からの指令値である駆動電流ISOL1およびISOL2に応じた制御圧PC1およびPC2を出力する。
第1リニアソレノイド弁SLB1は、非通電時において入力ポートと出力ポートとの間が開弁(連通)される常開型(N/O)の弁特性を備え、図5に示すように、駆動電流ISOL1の増加に伴って出力される制御圧PC1が低下させられる。図5に示すように、第1リニアソレノイド弁SLB1の弁特性には、駆動電流ISOL1が所定値Ia を超えるまで出力される制御圧PC1が低下しない不感帯Aが設けられている。第2リニアソレノイド弁SLB2は、非通電時において入力ポートと出力ポートとの間が閉弁(遮断)される常閉型(N/C)の弁特性を備え、図6に示すように、駆動電流ISOL2の増加に伴って出力される制御圧PC2が増加させられる。図6に示すように、第2リニアソレノイド弁SLB2の弁特性には、駆動電流ISOL2が所定値Ib を超えるまで出力される制御圧PC2が増加しない不感帯Bが設けられている。
B1コントロール弁76は、ライン圧油路54に接続された入力ポート76aおよびB1係合油圧PB1を出力する出力ポート76bとの間を開閉するスプール弁子78と、そのスプール弁子78を開弁方向に付勢するために上記第1リニアソレノイド弁SLB1からの制御圧PC1を受け入れる制御油室80と、スプール弁子78を閉弁方向に付勢するスプリング82を収容し、出力圧であるB1係合油圧PB1を受け入れるフィードバック油室84とを備え、ライン圧油路54内のライン圧PLを元圧として、第1リニアソレノイド弁SLB1からの制御圧PC1に応じた大きさのB1係合油圧PB1を出力し、インターロック弁として機能するB1アプライコントロール弁86を通してブレーキB1に供給する。
B2コントロール弁90は、ライン圧油路54に接続された入力ポート90aおよびB2係合油圧PB2を出力する出力ポート90bとの間を開閉するスプール弁子92と、そのスプール弁子92を開弁方向に付勢するために上記第2リニアソレノイド弁SLB2からの制御圧PC2を受け入れる制御油室94と、スプール弁子92を閉弁方向へ付勢するスプリング96を収容し、出力圧であるB2係合油圧PB2を受け入れるフィードバック油室98とを備え、ライン圧油路54内のライン圧PLを元圧として、第2リニアソレノイド弁SLB2からの制御圧PC2に応じた大きさのB2係合油圧PB2を出力し、インターロック弁として機能するB2アプライコントロール弁100を通してブレーキB2に供給する。
B1アプライコントロール弁86は、B1コントロール弁76から出力されたB1係合油圧PB1を受け入れる入力ポート86aおよび第1ブレーキB1に接続された出力ポート86bとの間を開閉するスプール弁子102と、そのスプール弁子102を開弁方向に付勢するためにモジュール圧PMを受け入れる油室104と、そのスプール弁子102を閉弁方向へ付勢するスプリング106を収容し且つB2コントロール弁90から出力されたB2係合油圧PB2を受け入れる油室108とを備え、第2ブレーキB2を係合させるためのB2係合油圧PB2が供給されるまでは開弁状態とされるが、そのB2係合油圧PB2が供給されると閉弁状態に切り換えられて、第1ブレーキB1の係合が阻止される。
また、上記B1アプライコントロール弁86には、そのスプール弁子102が開弁位置(図4の中心線の右側に示す位置)であるときに閉じられ、逆にそのスプール弁子102が閉弁位置(図4の中心線の左側に示す位置)にあるときに開かれる一対のポート110aおよび110bが設けられている。この一方のポート110aにはB2係合油圧PB2を検出するための油圧スイッチSW2が接続され、他方のポート110bには第2ブレーキB2が直接接続されている。この油圧スイッチSW2は、B2係合油圧PB2が予め設定された高圧状態となるとオン状態となり、B2係合油圧PB2が予め設定された低圧状態以下となるとオフ状態に切り換えられるように構成されている。この油圧スイッチSW2は、B1アプライコントロール弁86を介して第2ブレーキB2に接続されているので、B2係合油圧PB2の異常と同時に、第1ブレーキB1の油圧系を構成する第1リニアソレノイド弁SLB1、B1コントロール弁76、B1アプライコントロール弁86等の異常も判定可能となっている。
B2アプライコントロール弁100も、B1アプライコントロール弁86と同様に、B2コントロール弁90から出力されたB2係合油圧PB2を受け入れる入力ポート100aおよび第2ブレーキB2に接続された出力ポート100bとの間を開閉するスプール弁子112と、そのスプール弁子112を開弁方向に付勢するためにモジュール圧PMを受け入れる油室114と、そのスプール弁子112を閉弁方向に付勢するスプリング116を収容し且つB1コントロール弁76から出力されたB1係合油圧PB1を受け入れる油室118とを備え、第1ブレーキB1を係合させるためのB1係合油圧PB1が供給されるまでは開弁状態とされるが、そのB1係合油圧PB1が供給されると閉弁状態に切り換えられて、第2ブレーキB2の係合が阻止される。
上記B2アプライコントロール弁100にも、そのスプール弁子112が開弁位置(図4の中心線の右側に示す位置)であるときに閉じられ、逆にそのスプール弁子112が閉弁位置(図4の中心線の左側に示す位置)にあるときに開かれる一対のポート120aおよび120bが設けられている。この一方のポート120aにはB1係合油圧PB1を検出するための油圧スイッチSW1が接続され、他方のポート120bには第1ブレーキB1が直接接続されている。この油圧スイッチSW1は、B1係合油圧PB1が予め設定された高圧状態となるとオン状態となり、B1係合油圧PB1が予め設定された低圧状態以下となるとオフ状態に切り換えられるように構成されている。この油圧スイッチSW1は、B2アプライコントロール弁100を介して第1ブレーキB1に接続されているので、B1係合油圧PB1の異常と同時に、第2ブレーキB2の油圧系を構成する第2リニアソレノイド弁SLB2、B2コントロール弁90、B2アプライコントロール弁100等の異常も判定可能となっている。
図7は、以上のように構成された油圧制御回路50の作動、すなわちリニアソレノイド弁SLB1、SLB2の励磁状態とブレーキB1、B2の作動状態との関係を説明する図である。図7では、○印が励磁状態或いは係合状態を示し、×印が非励磁状態或いは解放状態を示している。すなわち、第1リニアソレノイド弁SLB1および第2リニアソレノイド弁SLB2が共に励磁状態とされることによって、第1ブレーキB1が解放状態とされ且つ第2ブレーキB2が係合状態とされ、自動変速機22の低速段Lが達成される。そして、第1リニアソレノイド弁SLB1および第2リニアソレノイド弁SLB2が共に非励磁状態とされることによって、第1ブレーキB1が係合状態とされ且つ第2ブレーキB2が解放状態とされ、自動変速機22の高速段Hが達成される。
図8は、電子制御装置28、34および44の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図8において、ハイブリッド制御手段130は、たとえば、キーがキースロットに挿入された後、ブレーキペダル29が操作された状態でパワースイッチが操作されることにより制御が起動されると、アクセル操作量θacc に基づいて運転者の要求出力を算出し、低燃費で排ガス量の少ない運転となるようにエンジン24および/または第2モータジェネレータMG2から要求出力を発生させる。たとえば、エンジン24を最適燃費曲線上で作動させて駆動力を発生させるとともに、要求出力に対する不足分を第2モータジェネレータMG2でアシストするアシスト走行モード、エンジン24を停止し専ら第2モータジェネレータMG2を動力源とするモータ走行モード、エンジン24の動力で第1モータジェネレータMG1により発電を行いながら第2モータジェネレータMG2を動力源として走行する充電走行モード、エンジン24の動力を機械的に駆動輪18に伝えて走行するエンジン走行モード、等を走行状態に応じて切り換える。
上記ハイブリッド制御手段130は、エンジン24が最適燃費曲線上で作動するように第1モータジェネレータMG1によってエンジン24の回転速度NEを制御する。また、第2モータジェネレータMG2を駆動してトルクアシストする場合、車速Vが遅い状態では自動変速機22を低速段Lに設定して出力軸14に付加するトルクを大きくし、車速Vが増大した状態では、自動変速機22を高速段Hに設定して第2モータジェネレータMG2の回転速度NMG2を相対的に低下させて損失を低減し、効率の良いトルクアシストを実行させる。さらに、コースト走行時には車両の有する慣性エネルギーで第1モータジェネレータMG1或いは第2モータジェネレータMG2を回転駆動することにより電力として回生し、蓄電装置32にその電力を蓄える。
変速制御手段132は、たとえば図9に示す予め記憶された変速線図(変速マップ)から、車速Vおよび駆動力(要求出力)に基づいて自動変速機22の変速段を決定し、決定された変速段に切り換えるように第1ブレーキB1および第2ブレーキB2を制御する。図9の実線は、低速段Lから高速段Hへ切り換えるアップシフト線で、破線は高速段Hから低速段Lへ切り換えるダウンシフト線であり、所定のヒステリシスが設けられている。
ライン圧制御手段134は、前記算出された運転者の要求出力が予め設定された出力判定値よりも大きい場合、或いは自動変速機22の変速中すなわち変速過渡時である場合などでは、前記電磁開閉弁64を閉状態から開状態に切り換えてモジュール圧PMをライン圧調圧弁56の油室68内に供給してスプール弁子60が閉弁方向に向かう推力を所定値増加させることにより、ライン圧PLの設定圧を低圧状態から高圧状態へ切り換える。
ここで、前記変速制御手段132は、前記図9に示す変速線図に従って自動変速機14の変速すべき変速段が決定されると、現在の変速段からその変速すべき変速段への切換が実行されるように、ブレーキB1、B2の係合油圧を所定の変化パターンに従って変化させるように前記油圧制御回路50に信号(変速指令)を出力する。図10は、アクセルペダル27が踏込み操作されたパワーON状態(第2モータジェネレータMG2が駆動状態)で低速段Lから高速段Hへ変速するL→Hクラッチツークラッチアップシフトを行う場合の油圧制御パターンの一例を説明する図で、解放側油圧式摩擦係合装置である第2ブレーキB2の係合油圧PB2を低下させて第2ブレーキB2を解放するように、その係合油圧PB2を制御する前記第2リニアソレノイド弁SLB2に対して解放側油圧指令値SPB2 を出力するとともに、係合側油圧式摩擦係合装置である第1ブレーキB1の係合油圧PB1を上昇させて第1ブレーキB1を係合させるように、その係合油圧PB1を制御する第1リニアソレノイド弁SLB1に対して係合側油圧指令値SPB1 を出力する。解放側油圧指令値SPB2 および係合側油圧指令値SPB1 は制御指令値に相当し、これ等の油圧指令値SPB2 、SPB1 に応じてリニアソレノイド弁SLB2、SLB1の励磁電流が制御される。
そして、係合側油圧指令値SPB1 は、変速指令が出力された変速開始点t0 から所定時間経過後に所定時間tB1W の間だけ作動油を速やかに供給するファーストフィル指令値と、そのファーストフィルに続いて係合油圧PB1を第1ブレーキB1の係合開始圧よりも低く設定された所定の定圧待機圧PB1Wとする待機圧指令値SPB1Wと、入力回転速度である第2モータジェネレータMG2の回転速度NMG2が低速段Lの同期回転速度lodoki(=γsl×NOUT )より低くなってイナーシャ相の開始判定が為されたら(時間t2 )、その回転速度NMG2が予め設定された一定の変化率で連続的に降下するように係合油圧PB1をフィードバック制御するフィードバック指令値と、回転速度NMG2が高速段Hの同期回転速度hidoki(=γsh×NOUT )と一致して変速終了判定が為された後(時間t3 )に、係合油圧PB1を最大係合油圧まで上昇させて第1ブレーキB1を完全係合させる終了処理指令値(時間t4 )と、を備えている。なお、図10の係合側油圧指令値SPB1 は、係合油圧PB1に対応するもので、常開型(N/O)の弁特性を有する第1リニアソレノイド弁SLB1の励磁電流は逆の変化特性となる。
また、解放側油圧指令値SPB2 は、変速開始から時間tB2W の間だけ係合油圧PB2を変速開始前の最大係合油圧よりも低く且つ第2ブレーキB2の解放開始圧よりも高く設定された所定の定圧待機圧PB2Wとする待機圧指令値SPB2Wと、定圧待機後に係合油圧PB2を一定の変化率で減少させて第2ブレーキB2を徐々に解放するスウィープ指令値と、を備えている。上記時間tB2W は、所定の定圧待機圧PB2Wに維持する待機圧保持時間であるとともに、変速開始から係合油圧PB2を連続的に変化(減少)させるまでの時間すなわち変速開始から係合油圧PB2のスウィープ制御が開始されるまでのスウィープ制御開始時間でもある。図10の解放側油圧指令値SPB2 は、係合油圧PB2に対応するもので、常閉型(N/C)の弁特性を有する第2リニアソレノイド弁SLB2の励磁電流は同じ変化特性となる。
このように、パワーONの加速走行時におけるL→Hクラッチツークラッチアップシフトにおいて、前記変速制御手段132が、解放側油圧式摩擦係合装置である第2ブレーキB2の係合油圧PB2を低下させると同時に係合側油圧式摩擦係合装置である第1ブレーキB1の係合油圧PB1を上昇させるとき、第1ブレーキB1の係合と第2ブレーキB2の係合との重なり具合が小さい場合、例えば定圧待機圧PB1W或いはPB2Wが低いと、第2モータジェネレータMG2と出力軸14とが切り離された状態すなわちニュートラル傾向となり、第2モータジェネレータMG2の回転速度NMG2が上昇して吹き上がったり、その後の第1ブレーキB1の係合によってその回転速度NMG2が降下させられる際に変速ショックが発生したり、変速時間が長くなったりする。反対に、第2ブレーキB2の係合と第1ブレーキB1の係合との重なり具合が大きい場合、例えば上記定圧待機圧PB1W或いはPB2Wが高いと、前記自動変速機22が一時的にロックされてしまい、出力トルクが一時的に急低下するタイアップ状態となって変速ショックが発生し、またブレーキB1、B2の摩擦材の劣化を招く場合がある。
したがって、上記定圧待機圧PB1WやPB2Wを適当に調整することにより、吹き上がりを抑制したりタイアップを防止したり変速時間が所定の範囲内となるようにしたりすることができる。このため、本実施例では、図8に示す学習補正手段150により、係合側の定圧待機圧PB1Wに関する待機圧指令値SPB1Wを、変速開始(t0 )から変速終了(t3 )までの変速時間timshiftや、回転速度NMG2が予め設定された一定の変化率で降下するように係合油圧PB1をフィードバック制御した時の補正量などに基づいて学習補正するとともに、解放側の定圧待機圧PB2Wに関する待機圧指令値SPB2Wを、回転速度NMG2の吹き量nfuki(=NMG2−lodoki)や吹き時間timfuki(吹き検出からイナーシャ相検出までの時間)などに基づいて学習補正することにより、各部の個体差や経時変化に拘らず、吹き上がりを抑制するとともにタイアップを防止し、且つ変速時間timshiftが所定の範囲内となるようにしている。なお、ファーストフィル時間tB1W やスウィープ制御開始時間tB2W 、或いはそのスウィープ制御時の油圧の変化率など、係合油圧PB1、PB2に関する他の制御要素を学習補正するようにしても良い。
図11の(a) は、係合側の待機圧指令値SPB1Wの基準値pB1k、および学習補正によって逐次書き換えられる学習補正値pB1hのマップの一例で、何れも入力トルクTINすなわち第2モータジェネレータMG2のモータトルクをパラメータとして記憶されている。基準値pB1kは、待機圧指令値SPB1Wの基礎となる値で、予め実験やシミュレーション等によって一定の値が定められる。学習補正値pB1hは、基準値pB1kを補正するためのもので、図8の学習補正手段150が機能的に備えている係合側学習補正手段152により、実際の変速時の変速動作、例えば変速時間timshiftや、回転速度NMG2が予め設定された一定の変化率で降下するように係合油圧PB1をフィードバック制御した時の補正量が、予め定められた許容範囲内になるように逐次書き換えられる。この学習補正値pB1hは、電源OFFでも記憶内容を保持できるSRAM等の記憶装置に記憶される。そして、前記変速制御手段132は、これ等の基準値pB1kと学習補正値pB1hとを加算することによって待機圧指令値SPB1Wを算出し、この待機圧指令値SPB1Wを用いて前記係合側の定圧待機圧PB1Wを制御する。なお、基準値pB1kそのものを学習補正値として逐次書き換えるようにしても良い。
図11の(b) は、解放側の待機圧指令値SPB2Wの基準値pB2k、および学習補正によって逐次書き換えられる学習補正値pB2hのマップの一例で、何れも入力トルクTINすなわち第2モータジェネレータMG2のモータトルクをパラメータとして記憶されている。基準値pB2kは、待機圧指令値SPB2Wの基礎となる値で、予め実験やシミュレーション等によって一定の値が定められる。学習補正値pB2hは、基準値pB2kを補正するためのもので、図8の学習補正手段150が機能的に備えている解放側学習補正手段156により、実際の変速時の変速動作、例えば回転速度NMG2の吹き量nfukiや吹き時間timfukiが、予め定められた許容範囲内になるように逐次書き換えられる。この学習補正値pB2hもSRAM等の記憶装置に記憶される。そして、前記変速制御手段132は、これ等の基準値pB2kと学習補正値pB2hとを加算することによって待機圧指令値SPB2Wを算出し、この待機圧指令値SPB2Wを用いて前記解放側の定圧待機圧PB2Wを制御する。なお、基準値pB2kそのものを学習補正値として逐次書き換えるようにしても良い。
上記学習補正に関して、本実施例の変速制御用の電子制御装置44は、学習補正手段150の他に吹き開始時間算出手段140、吹き原因側判定手段142、第1の修正手段144、推定吹き開始時間算出手段146、および吹き時間計測手段160を機能的に備えており、図12〜図14のフローチャートに従って信号処理を行うようになっている。図12において、ステップS2は推定吹き開始時間算出手段146に相当し、ステップS6は吹き開始時間算出手段140に相当し、ステップS7およびS9は吹き原因側判定手段142に相当し、ステップS8およびS10は第1の修正手段144に相当し、ステップS11は学習補正手段150に相当する。図13は図12のステップS11の処理内容を具体的に説明するフローチャートで、学習補正手段150によって実行されるものであり、ステップR1は係合側学習補正手段152に相当し、ステップR7は解放側学習補正手段156に相当する。学習補正手段150はまた、第2の修正手段154を機能的に備えており、図13のステップR2〜R6は、その第2の修正手段154に相当する。また、図14は前記吹き時間計測手段160の処理内容を具体的に説明するフローチャートである。吹き時間計測手段160は、計測規制手段162を機能的に備えており、図14のステップQ5〜Q8は計測規制手段162に相当する。上記第1の修正手段144は原因対応修正手段で、第2の修正手段154は変化抑制修正手段である。
図12のステップS1では変速中か否かを判断し、変速中であればステップS4以下を実行するが、変速中でない場合にはステップS2を実行する。ステップS2では、現在の入力トルクTINおよび解放側の学習補正値pB2hに基づいて、変速開始から解放側の第2ブレーキB2のトルク容量が入力トルクTIN未満になるまでの推定吹き開始時間timAを予め定められたマップや演算式等に従って算出するとともに、SRAM等の記憶装置に記憶する。この推定吹き開始時間timAは、入力トルクTINの変化に応じて逐次書き換えられる。解放側摩擦係合装置のトルク容量に関係する他のパラメータを考慮して推定吹き開始時間timAを算出するようにしても良い。また、ステップS3では、学習制御に用いられる各種のフラグを初期化する。
変速指令が出力されて変速中となり、ステップS1の判断がYES(肯定)になると、ステップS4を実行し、学習禁止条件がOFFで且つ学習実行条件がONの場合のみ、ステップS5以下の学習制御を実行する。学習禁止条件は、例えば(a) アクセル操作量θacc の変化量Δθacc が所定量以上、(b) 車速Vの変化量ΔVが所定量以上、(c) 作動油温度TOIL が所定値以下、(d) 第2モータジェネレータMG2の温度が所定値以上、などであり、これ等の条件を満足する場合は変速動作が影響を受けるため、適正な学習補正を期待できない。このため、それ等の何れか1つでも満足する場合は学習禁止条件が成立し、そのまま終了する。また、学習実行条件は、今回の変速時の変速動作が予め定められた許容範囲を超えている場合で、具体的には、前記吹き量nfukiや吹き時間timfuki、変速時間timshift、或いは回転速度NMG2が予め設定された一定の変化率で降下するように係合油圧PB1をフィードバック制御した時の補正量などが、予め定められた許容範囲を超えている場合である。
ステップS5では、吹き量nfukiが予め定められた所定値以上になったか否かを判断し、所定値以上になった場合にはステップS6以下を実行するが、所定値を超えないタイアップ等の時には直ちにステップS11の学習補正処理を実行する。吹き量nfukiは、第2モータジェネレータMG2の回転速度NMG2と変速前の低速段Lの同期回転速度lodoki(=γsl×NOUT )との差(=NMG2−lodoki)で、今回の変速時の吹き量nfukiの最大値が所定値よりも大きいか否かによって判断する。所定値は、例えば解放側の定圧待機圧PB2Wを学習補正する場合の閾値と同じ値が定められる。
ステップS6では、今回の変速時の変速開始から吹き上がりが検出されるまでの実際の吹き開始時間timB(図10参照)を算出する。これは、例えば変速開始時(図10の時間t0 )を起点として計時を開始するタイマやカウンタなどを用いて、吹き上がりが検出された時間(図10の時間t1 )を計測し、記憶装置等に記憶しておくようにすれば良い。そして、ステップS7では、その吹き開始時間timBが前記推定吹き開始時間timAに所定値α1を加算した時間よりも長いか否かを判断し、timB>(timA+α1)であれば、解放側の第2ブレーキB2は既にトルク容量が低下していると推定されるため、係合側の第1ブレーキB1のトルク容量不足が吹きの原因と判断し、ステップS8において、学習補正を速やかに進行させるために吹き原因側である係合側の定圧待機圧PB1Wに関する学習補正値pB1hを上方側、すなわちトルク容量を増大させる側へ修正するための処理を行う。この上方修正処理は、例えば学習補正で目標値と実際の値との偏差に対して所定の補正ゲインを掛け算して学習補正値pB1hを増減させる場合には、その補正ゲインを大きくすれば良く、学習補正で学習補正値pB1hを一定量ずつ増減させる場合には、その1回の増減幅を大きくすれば良い。また、図13のステップR1で学習補正値pB1hを算出する際に、通常の算出方法に従って求められた値に所定値を加算するようにしても良い。上記所定値α1は、油圧制御の制御精度やトルク容量の変化パターンなどを考慮して、係合側摩擦係合装置のトルク容量不足が吹きの原因であると判定できる一定値が予め定められる。
また、ステップS9では、吹き開始時間timBが推定吹き開始時間timAから所定値α2を減算した時間よりも短いか否かを判断し、timB<(timA−α2)であれば、係合側の第1ブレーキB1は未だ解放状態であると推定されるため、解放側の第2ブレーキB2のトルク容量不足が吹きの原因と判断し、ステップS10において、学習補正を速やかに進行させるために吹き原因側である解放側の定圧待機圧PB1Wに関する学習補正値pB2hを上方側、すなわちトルク容量を増大させる側へ修正するための処理を行う。この上方修正処理は、例えば学習補正で目標値と実際の値との偏差に対して所定の補正ゲインを掛け算して学習補正値pB2hを増減させる場合には、その補正ゲインを大きくすれば良く、学習補正で学習補正値pB2hを一定量ずつ増減させる場合には、その1回の増減幅を大きくすれば良い。また、図13のステップR7で学習補正値pB2hを算出する際に、通常の算出方法に従って求められた値に所定値を加算するようにしても良い。上記所定値α2は、油圧制御の制御精度やトルク容量の変化パターンなどを考慮して、解放側摩擦係合装置のトルク容量不足が吹きの原因であると判定できる一定値が予め定められる。
次のステップS11では、図13のフローチャートに従って学習補正処理を行う。図13のステップR1では、変速時間timshiftや、回転速度NMG2が予め設定された一定の変化率で降下するように係合油圧PB1をフィードバック制御した時の補正量が所定の許容範囲内になるように、係合側の定圧待機圧PB1Wに関する学習補正値pB1hを算出する。その場合に、前記ステップS8で上方修正処理が行われた場合は、例えば修正された補正ゲイン等を用いて学習補正が行われることにより、或いは所定値だけ加算されることにより、その上方修正処理に従って通常よりも大きな学習補正値pB1hが算出される。
ステップR2では、上記ステップR1で算出された新たな学習補正値pB1hから前回の学習補正値pB1hを引き算して変化量ΔXを算出し、ステップR3では、その変化量ΔXが予め定められた所定値β1よりも大きいか否かを判断する。所定値β1は、係合側のトルク容量が増大させられることにより一気にタイアップとなることが予想されるような比較的大きなプラス側の一定値であり、ΔX>β1の場合にはステップR4を実行し、そのような変速動作の急な変化(吹き上がり→タイアップ)が抑制されるように、解放側の定圧待機圧PB2Wに関する学習補正値pB2hを下方側、すなわちトルク容量を減少させる側へ修正するための処理を行う。この下方修正処理は、通常の算出方法に従って求められる値よりも低くするためのもので、係合側の学習補正値pB1hが増加する場合には一般に解放側の学習補正値pB2hも増加するため、その変化量を小さくしたりマイナス側へ変化させたりすれば良い。具体的には、前記補正ゲインや学習補正の1回の増減幅を小さくしたり、ステップR7で学習補正値pB2hを算出する際に、通常の算出方法に従って求められた値から所定値を減算したりする。
ステップR5では、上記変化量ΔXが予め定められた所定値β2よりも小さいか否かを判断する。所定値β2は、係合側のトルク容量が減少させられることにより一気に吹き上がりが発生することが予想されるような比較的大きなマイナス側の一定値であり、ΔX<β2の場合にはステップR6を実行し、そのような変速動作の急な変化(タイアップ→吹き上がり)が抑制されるように、解放側の定圧待機圧PB2Wに関する学習補正値pB2hを上方側、すなわちトルク容量を増大させる側へ修正するための処理を行う。この上方修正処理は、通常の算出方法に従って求められる値よりも高くするためのもので、係合側の学習補正値pB1hが減少する場合には一般に解放側の学習補正値pB2hも減少するため、その変化量を小さくしたりプラス側へ変化させたりすれば良い。具体的には、前記補正ゲインや学習補正の1回の増減幅を大きくしたり、ステップR7で学習補正値pB2hを算出する際に、通常の算出方法に従って求められた値に所定値を加算したりする。
そして、次のステップR7では、回転速度NMG2の吹き量nfukiや吹き時間timfukiが所定の許容範囲内になるように、解放側の定圧待機圧PB2Wに関する学習補正値pB2hを算出する。その場合に、前記ステップS10やステップR4、R6で上方修正処理或いは下方修正処理が行われた場合は、例えばその修正された補正ゲイン等を用いて学習補正が行われることにより、或いは所定値だけ加算或いは減算が行われることにより、その修正処理に応じて学習補正値pB2hが増減させられる。
ステップR8では、現在の学習回数nに「1」を加算して学習回数n+1を求め、ステップR9では、その学習回数n+1を新たな学習回数nとしてメモリ等に書き込み処理を行う。この学習回数nは、学習補正による学習補正値pB1h、pB2hのハンチングを抑制し、速やかに適正値に収束させるようにするためのもので、学習回数nが大きくなるに従って学習補正値pB1h、pB2hの増減幅を小さくする。具体的には、ステップR1、R7で学習補正値pB1h、pB2hを算出する際に用いられる前記補正ゲインや1回の学習補正の増減幅を、学習回数nに応じて徐々に減少させるようにすれば良い。そして、ステップR10で、前記図11に記載の補正値マップの対応部分の学習補正値pB1h、pB2hを、ステップR1、R7で算出した新たな学習補正値pB1h、pB2hに更新する。
また、前記ステップR7で解放側の学習補正値pB2hを算出する場合などに用いられる吹き時間timfukiを算出する図14のフローチャートのステップQ1では、吹き量nfukiが予め定められた所定値ε1を超えたか否かを判断し、nfuki>ε1になったらステップQ2を実行し、吹き時間カウンタのインクリメントを開始する。所定値ε1は、MG2回転速度センサ43や出力軸回転速度センサ45の測定精度などを考慮して、回転速度NMG2が同期回転速度lodokiを上回る吹き上がりであることを確実に判定できるできるだけ小さな一定値が定められる。
ステップQ3では、イナーシャ相が開始したか否かを、例えば回転速度NMG2が低速段Lの同期回転速度lodokiより所定値以下まで低下したか否かによって判断し、イナーシャ相が開始するまではステップQ5以下を実行するが、イナーシャ相開始判定が成立した場合にはステップQ4を実行し、吹き時間カウンタのインクリメントを停止して、その計数値C1から吹き時間timfukiを算出するとともに、SRAM等の記憶装置に記憶する。そして、前記ステップR7では、その吹き時間timfukiを用いて解放側の学習補正値pB2hの学習補正を行う。
ステップQ5では、吹き量nfukiが予め定められた所定値ε2より小さくなったか否かを判断し、nfuki≧ε2であればそのまま終了してステップQ1以下を繰り返すが、nfuki<ε2になったらステップQ6を実行し、吹き無し時間カウンタのインクリメントを開始する。所定値ε2は、前記ステップQ1の所定値ε1より小さな値で、例えば0程度の値が定められる。ステップQ7では、吹き無し時間カウンタの計数値C2が予め定められた所定値ε3を超えたか否かを判断し、C2>ε3になったらステップQ8を実行し、これまでの吹き時間timfukiの計測を無効にするとともに吹き時間カウンタのインクリメントを停止して初期化(C1=0)する。
上記所定値ε3は、吹き上がった回転速度NMG2が変速の進行に伴って低下し、ステップQ3でイナーシャ相開始判定が為される前に一時的にステップQ5の判断がYESになり、吹き無し時間の計測が開始されるが、ステップQ3でイナーシャ相開始判定が為されるまでの時間よりも充分に長く、ステップQ4で吹き時間timfukiが算出されることを許容する一方、例えば変速開始直後に解放側の第2ブレーキB2の係合油圧PB2が定圧待機圧PB2Wまで低下させられる際に、第2ブレーキB2のトルク容量が一時的に低下して滑りが生じ、回転速度NMG2が吹き上がった場合に、その後定圧待機圧PB2Wに保持されることにより滑りが解消してNMG2=lodokiとなる場合があり、そのような場合にはステップQ7の判断がYES(肯定)となってステップQ8が実行されるように設定される。
なお、一旦ステップQ4が実行され、吹き時間カウンタの計数値C1に基づいて吹き時間timfukiを算出して記憶装置に記憶した後は、ステップQ8が実行されて無効とされることはない。
図15は、係合側のトルク容量が低いことに起因して吹きが発生した場合に、本実施例に従って係合側および解放側の学習補正を協調して行った場合の吹き量nfukiや変速時間timshift、係合側学習補正値pB1h、解放側学習補正値pB2hの変化を示すタイムチャートの一例である。係合側学習補正値pB1hおよび解放側学習補正値pB2hは、収束時の値を0として示した。
図15において、学習回数0〜4の期間f1は、解放側、係合側の学習補正値pB1h、pB2hが共に上昇するフェーズである。その場合に、吹き開始時間timBからステップS7で係合側がトルク容量不足であると判断され、ステップS8で係合側の学習補正値pB1hの上方修正処理が行われる。また、このように係合側の学習補正値pB1hの上方修正処理が行われると、学習補正値pB1hの変化量ΔXが大きくなるため、ステップR3の判断がYES(肯定)となり、ステッR4で解放側の学習補正値pB2hの下方修正処理が行われることにより、解放側の学習補正値pB2hの上昇が抑制されてタイアップが抑制される。
学習回数4〜8の期間f2は、係合側の学習補正値pB1hは依然として上昇するが、解放側の学習補正値pB2hは低下するフェーズである。すなわち、回転速度NMG2の吹き上がりは収まったが、変速時間timshiftは目標値よりも未だ長い状態である。解放側は、一度に下げ過ぎると大きな吹きが発生する恐れがあるため、1回の学習補正による下げ量は小さく設定されている。
学習回数8の期間f3は、係合側の学習補正値pB1hは収束するが、解放側の学習補正値pB2hは低下するフェーズである。解放側の学習補正値pB2hが収束値より高い分タイアップとなるが、期間f1で解放側の学習補正値pB2hの下方修正処理が行われているため、期間f3が短くなる。
学習回数8以降の期間f4は、解放側、係合側の学習補正値pB1h、pB2hが何れも収束したフェーズである。解放側の学習補正値pB2hが充分に低下してタイアップが解消(=弱吹きを検出)すれば収束状態となる。
これに対し、図16は吹き原因側を特定することなく解放側、係合側の学習補正値pB1h、pB2hをそれぞれ独立に学習補正する従来の場合、すなわち図12のステップS5〜S10、および図13のステップR2〜R6で修正処理を行うことなく学習補正を実施する場合で、期間f1〜f4は図15の本実施例と同じ基準で区分したものである。この図16と図15とを比較すると、図15の本実施例では、期間f1で吹き抑えするまでの学習回数が少ない。これは、係合側に吹き原因があるとして、ステップS8で係合側の学習補正値pB1hを積極的に上げているためである。このように、期間f1の学習回数が少ないことから、摩擦材のダメージが低減されるとともに、吹きによる変速フィーリングの悪化回数が低減される。
期間f2は、変速時間timshiftが短くなるまでのフェーズで、この期間f2の学習回数は同じであるが、本実施例の図15では期間f1の学習回数が少ない分だけ、変速時間timshiftが短くなるまでの全体の学習回数が少なくなり、摩擦材のダメージが低減される。
期間f3は、解放側の学習補正値pB2hが低下するフェーズであるが、本実施例の図15では学習回数が少ない。これは、期間f1で、係合側の学習補正値pB1hを積極的に上げることによる吹き抑え効果を考慮して、ステップR4で解放側の学習補正値pB2hの上昇が抑制されるためである。これにより、タイアップによる変速フィーリングの悪化回数が減少する。
期間f4は、係合側、解放側の学習補正値pB1h、pB2hが何れも収束したフェーズで、本実施例の図15では、この期間f4に到達するまでの学習回数が少ない。これは、トルク容量不足を起こした摩擦係合装置の特定(ステップS5〜S10)と、係合側および解放側の学習補正制御の協調(ステップR2〜R6)が効果的に働いたためである。これにより、学習補正による変速フィーリングの向上が従来よりも早くなる。また、学習補正速度が早くなった分、初期のハードばらつきが多く許容されるようになる。
このように、本実施例の自動変速機の制御装置においては、変速指令(時間t0 )から第2モータジェネレータMG2の吹き上がり開始(時間t1 )までの吹き開始時間timBを求め(ステップS6)、その吹き開始時間timBに基づいて吹き上がりが解放側摩擦係合装置および係合側摩擦係合装置の何れに起因するかを判定するとともに(ステップS7、S9)、その判定結果に基づいて吹き原因側の学習補正値pB1hまたはpB2hが大きくなるように上方修正処理を行うため(ステップS8、S10)、非原因側の摩擦係合装置に関する学習補正値pB1hまたはpB2hが不必要に増大して収束が遅延することが防止される。これにより、吹き上がりやタイアップが解消するまでの学習回数が少なくなり、短期間でクラッチツークラッチ変速が適切に行われるようになって、変速フィーリングの悪化や摩擦材の耐久性低下が抑制される。
本実施例では、ステップS2で、現在の入力トルクTINおよび解放側の学習補正値pB2hに基づいて、変速開始から解放側の第2ブレーキB2のトルク容量が入力トルクTIN未満になるまでの推定吹き開始時間timAを算出し、この推定吹き開始時間timAと実際の吹き開始時間timBとを比較して吹き原因側の摩擦係合装置を判定するため、入力トルクTINの相違や学習補正値pB2hの変化に拘らず吹き原因側の摩擦係合装置を高い精度で判定できる。
また、本実施例では、係合側の学習補正値pB1hの変化量ΔXが所定値β1を超える場合には、変速動作の急な変化(吹き上がり→タイアップ)が抑制されるように、解放側の学習補正値pB2hが下方修正処理される一方(ステップR4)、変化量ΔXがマイナス側の所定値β2より低い場合、すなわちマイナス側に大きい場合には、変速動作の急な変化(タイアップ→吹き上がり)が抑制されるように、解放側の学習補正値pB2hが上方修正処理されるため(ステップR6)、吹き上がり時に係合側および解放側の学習補正値pB1h、pB2hが学習補正によって共に大きく上昇して一気にタイアップへ移行したり、タイアップ時に係合側および解放側の学習補正値pB1h、pB2hが学習補正によって共に大きく低下して一気に吹き上がりへ移行したりすることが抑制され、速やかに適正値に収束するようになる。
また、本実施例では解放側の学習補正値pB2hを学習補正する際に用いられる吹き時間timfukiを計測する際に、吹き量nfukiが予め定められた所定値ε2より小さい吹き無し時間を計測し、その吹き無し時間が長くなった場合には、それまでの吹き時間timfukiの計測を無効にするとともに吹き時間カウンタを初期化するため、例えば変速開始直後に解放側の係合油圧PB2が定圧待機圧PB2Wまで低下させられる際に第2ブレーキB2のトルク容量が一時的に低下して回転速度NMG2が一時的に吹き上がった場合に、その吹き上がりを起点として吹き時間timfukiが誤って計測され、その吹き時間timfukiに基づいて誤った学習補正が行われることが防止される。
なお、上記実施例の協調制御では、係合側の学習補正値pB1hの変化量ΔXに基づいて解放側の学習補正値pB2hを修正処理するようになっていたが、図17および図18に示すように、解放側の学習補正値pB2hの変化量ΔYに基づいて係合側の学習補正値pB1hを修正処理するようにしても良い。図17は前記図8に対応する機能ブロック線図で、学習補正手段170は解放側学習補正手段172、第2の修正手段174、係合側学習補正手段176を備えており、図18にフローチャートに従って学習補正の信号処理を行う。図18のフローチャートのステップR2−1は解放側学習補正手段172に相当し、ステップR2−2〜R2−6は第2の修正手段174に相当し、ステップR2−7は係合側学習補正手段176に相当する。なお、ステップR2−8〜R2−10では、前記ステップR8〜R10と同じ信号処理を行うため説明を省略する。上記第2の修正手段174は変化抑制修正手段である。
図18のステップR2−1では、回転速度NMG2の吹き量nfukiや吹き時間timfukiが所定の許容範囲内になるように、解放側の定圧待機圧PB2Wに関する学習補正値pB2hを算出する。その場合に、前記ステップS10で上方修正処理が行われた場合は、例えばその修正された補正ゲイン等を用いて学習補正が行われることにより、或いは所定値だけ加算されることにより、その上方修正処理に従って通常よりも大きな学習補正値pB2hが算出される。
ステップR2−2では、ステップR2−1で算出した新たな学習補正値pB2hから前回の学習補正値pB2hを引き算して変化量ΔYを算出し、ステップR2−3では、その変化量ΔYが予め定められた所定値β3よりも大きいか否かを判断する。所定値β3は、解放側のトルク容量が増大させられることにより一気にタイアップとなることが予想されるような比較的大きなプラス側の一定値であり、ΔY>β3の場合にはステップR2−4を実行し、そのような変速動作の急な変化(吹き上がり→タイアップ)が抑制されるように、係合側の定圧待機圧PB1Wに関する学習補正値pB1hを下方側、すなわちトルク容量を減少させる側へ修正するための処理を、前記ステップR4と同様にして行う。
また、ステップR2−5では、上記変化量ΔYが予め定められた所定値β4よりも小さいか否かを判断する。所定値β4は、解放側のトルク容量が減少させられることにより一気に吹き上がりが発生することが予想されるような比較的大きなマイナス側の一定値であり、ΔY<β4の場合にはステップR2−6を実行し、そのような変速動作の急な変化(タイアップ→吹き上がり)が抑制されるように、係合側の定圧待機圧PB1Wに関する学習補正値pB1hを上方側、すなわちトルク容量を増大させる側へ修正するための処理を、前記ステップR6と同様にして行う。
そして、次のステップR2−7では、変速時間timshiftや、回転速度NMG2が予め設定された一定の変化率で降下するように係合油圧PB1をフィードバック制御した時の補正量が所定の許容範囲内になるように、係合側の定圧待機圧PB1Wに関する学習補正値pB1hを算出する。その場合に、前記ステップS8や上記ステップR2−4、R2−6で上方修正処理或いは下方修正処理が行われた場合は、例えばその修正された補正ゲイン等を用いて学習補正が行われることにより、或いは所定値だけ加算或いは減算が行われることにより、その修正処理に応じて学習補正値pB1hが増減させられる。
このように、解放側の学習補正値pB2hの変化量ΔYに基づいて係合側の学習補正値pB1hを修正処理する協調制御においても、前記実施例と同様に吹き上がり時に係合側および解放側の学習補正値pB1h、pB2hが学習補正によって共に大きく上昇して一気にタイアップへ移行したり、タイアップ時に係合側および解放側の学習補正値pB1h、pB2hが学習補正によって共に大きく低下して一気に吹き上がりへ移行したりすることが抑制され、速やかに適正値に収束するようになる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
22:自動変速機 44:変速制御用の電子制御装置 132:変速制御手段 140:吹き開始時間算出手段 142:吹き原因側判定手段 144:第1の修正手段(原因対応修正手段) 150、170:学習補正手段 152、176:係合側学習補正手段 154、174:第2の修正手段(変化抑制修正手段) 156、172:解放側学習補正手段 MG2:第2モータジェネレータ(動力源) B1:第1ブレーキ(係合側摩擦係合装置) B2:第2ブレーキ(解放側摩擦係合装置) SPB1 :係合側油圧指令値(制御指令値) SPB2 :解放側油圧指令値(制御指令値) pB1h:係合側の学習補正値 pB2h:解放側の学習補正値 timB:吹き開始時間 ΔX:係合側学習補正値の変化量 ΔY:解放側学習補正値の変化量