ところで、インクジェット式記録ヘッドの分野では、近年、多数のノズルを二次元的に配列し、ヘッドサイズの大型化を抑えつつノズルの高密度実装を実現するための記録ヘッド(以下、マトリクス状配列ヘッドと呼ぶ)が考えられている。上記従来例に記載の手法では、単に一次元状に配列された複数の圧電素子は記載されているものの、マトリクス状配列ヘッドの高密度で二次元配列された多数の圧電素子を得ることは記載されていない。
本発明は、上記に鑑み、圧電プレートを任意の形状に形成しながらも、簡易な製造プロセスによって、マトリクス状配列ヘッドの高密度で二次元配列された多数の圧電素子を容易に製造できるインクジェット式記録ヘッドの製造方法、及びそのような製造方法で製造したインクジェット式記録ヘッド、並びにこのようなインクジェット式記録ヘッドを搭載したインクジェット式記録装置を提供することを目的とする。
また、本発明は、圧電プレートにパターニング、特にサンドブラスト加工を施す際に研削状態の良好なインクジェット式記録ヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明に係る第1視点のインクジェット式記録ヘッドの製造方法は、夫々がインク室に連通し二次元的に配列された複数の圧力室と、該圧力室の壁面の一部を形成する振動板と、前記圧力室に対応するように前記振動板に接合された複数の圧電素子とを備え、該圧電素子の作動で前記圧力室内のインクを加圧し、該圧力室に連通するノズルからインク滴を吐出する形式のインクジェット式記録ヘッドを製造する製造方法であって、基板に剥離可能に圧電プレートを接着する工程と、前記圧電プレートにマスクフィルムを貼り付ける工程と、前記マスクフィルムを、前記圧電素子ユニットとなる領域を形成するための圧電素子マスクパターンに形成する工程と、前記パターンマスク上からサンドブラスト加工を施し、前記圧電プレートをパターニングして、複数の圧電素子が前記基板上に二次元的に配列された圧電素子ユニットを形成する工程と、前記圧電素子ユニットの各圧電素子を前記振動板に接着してから、前記基板を各圧電素子から剥離する工程とを備えることを特徴とする。
本明細書で言う「圧電プレート」は、圧電素子の作製前の圧電セラミック板等の圧電素子材料を意味している。
本発明に係る第1視点のインクジェット式記録ヘッドの製造方法では、圧電プレートを基板に剥離可能に接着した状態でパターニングするだけで、圧電プレートを任意形状に容易に切断し、基板から個々に剥離可能な多数の圧電素子を簡便に得ることができる。更に、複数の圧電素子が基板上に二次元的に配列された圧電素子ユニットとして形成できるので、簡易な製造プロセスにより、マトリクス状配列ヘッドの高密度で二次元配列された多数の圧電素子を容易に製造することができる。
ここで、前記圧電プレートのパターニングでは、サンドブラスト加工を施すことにより、圧電素子の個数や配列形状に拘わらず、圧電プレートへのパターニングを容易に行うことができる。
ところで、特許文献3、4、及び5には夫々、形成した複数の圧電素子を一括転写する技術が記載されている。しかし、これらの技術は何れも、サンドブラスト加工を行わずに、フォトリソグラフィ、スクリーン印刷等を用いて基板上に複数の圧電素子を形成するものであり、製造工程が容易ではない。これに対し、本発明の製造方法では、サンドブラスト加工等のパターニングによって基板上に形成した複数の圧電素子をユニット単位で一括して取り扱うことができるので、比較的廉価な装置を用いながらも、多数の圧電素子を形成する工程と共に、圧電素子を各圧力室の壁に接着する工程が簡便になる。このように、本製造方法によると、製造プロセスが簡便になり、多数の圧電素子を高密度実装したマトリクス状配列ヘッドの量産化が容易になる。
本発明に係る第2視点のインクジェット式記録ヘッドの製造方法は、夫々がインク室に連通し二次元的に配列された複数の圧力室と、該圧力室の壁面の一部を形成する振動板と、前記圧力室に対応するように前記振動板に接合された複数の圧電素子とを備え、該圧電素子の作動で前記圧力室内のインクを加圧し、該圧力室に連通するノズルからインク滴を吐出する形式のインクジェット式記録ヘッドを製造する製造方法であって、圧電プレートにマスクフィルムを貼り付ける工程と、前記マスクフィルムを、前記圧電素子ユニットとなる領域を形成するための圧電素子マスクパターンと、前記圧電素子ユニットの外周となる外周ダミーパターンを形成するための外周ダミーマスクパターンとを備えたパターンマスクに形成する工程と、前記パターンマスク上からサンドブラスト加工を施して、前記圧電プレートをパターニングする工程とを備えることを特徴とする。
本発明に係る第2視点のインクジェット式記録ヘッドの製造方法では、上記第1視点のインクジェット式記録ヘッドの製造方法と同様の効果を得ることができる。また、圧電素子ユニットの外周領域に外周ダミーパターンが形成されるため、サンドブラスト加工時に発生するサイドエッチングの影響を防止し、圧電素子に高い寸法均一性を確保することが可能となる。
すなわち、圧電プレートをサンドブラスト加工すると、圧電プレートの厚さ方向に対する加工(エッチング)の進行と並行して、圧電プレートの幅方向へも加工が進行する。これを本明細書ではサイドエッチングと呼ぶ。このサイドエッチングは、サンドブラスト加工を行う際に、ブラスト粒子が圧電プレートの側面に対しても衝突するために発生する。
そして、このサイドエッチングの加工速度(加工レート)は、圧電プレートに形成する加工溝の幅に依存する。つまり、圧電素子の脇に形成される加工溝の幅が大きいほど、ブラスト粒子が圧電プレートの側面に衝突しやすくなるため、サイドエッチングの進行速度が大きくなる。サンドブラスト加工にはこのような特性があるため、圧電素子ユニットの外周部に位置した圧電素子では、サイドエッチングが激しく発生してしまう。すなわち、外周部の圧電素子の脇には、ブラスト粒子の側面衝突を防止する障害物が全く存在しないため、サイドエッチングが極めて速い速度で進行する。そのため、外周部の圧電素子は寸法精度が著しく悪化してしまう。圧電素子のサイズは、吐出特性(滴体積、滴速など)に大きく影響を及ぼすため、上記のような不均一なサイドエッチングは防止する必要がある。
そこで、本発明のインクジェット式記録ヘッドの製造方法では、圧電ユニットを取り囲むように外周ダミーパーンを配設する。これにより、外周部の圧電素子に激しいサイドエッチングが発生することを防止することができ、高い寸法均一性をもった圧電ユニットを形成することが可能となる。
なお、圧力室の圧力付与に寄与しないダミー圧電素子を形成する技術が、例えば特許文献6、7、及び8に夫々記載されている。しかし、これらの公報に記載の技術は、圧電素子を設けた基台等を振動板に接合した際の機械的強度を単に向上させるためだけのものであり、「切削状態が良好な圧電素子のみを作製する」という、本発明における上記効果は期待できない。
ここで、前記マスクフィルムの貼付け工程に先立って、前記圧電プレートを基板に剥離可能に接着し、複数の圧電素子が前記基板上に二次元的に配列された圧電素子ユニットを形成し、前記圧電素子ユニットの各圧電素子を前記振動板に接着してから、前記基板を各圧電素子から剥離することが望ましい。これにより、サンドブラスト加工によって基板上に形成した複数の圧電素子をユニット単位で一括して取り扱うことができるので、比較的廉価な装置を用いながらも、多数の圧電素子を形成する工程と共に、圧電素子を各圧力室の壁に接着する工程が簡便になる。このように、本製造方法によると、製造プロセスが簡便になり、多数の圧電素子を高密度実装したマトリクス状配列ヘッドの量産化が容易になる。
本発明に係る第3視点のインクジェット式記録ヘッドの製造方法は、夫々がインク室に連通し二次元的に配列された複数の圧力室と、該圧力室の壁面の一部を形成する振動板と、前記圧力室に対応するように前記振動板に接合された複数の圧電素子とを備え、該圧電素子の作動で前記圧力室内のインクを加圧し、該圧力室に連通するノズルからインク滴を吐出する形式のインクジェット式記録ヘッドを製造する製造方法であって、圧電プレートにマスクフィルムを貼り付ける工程と、前記マスクフィルムを、前記圧電素子ユニットとなる領域を形成するための圧電素子マスクパターンと、前記圧電素子ユニット内に、各圧電素子の周囲の隙間を全てほぼ同じ寸法にするための残存ダミーパターンとを備えたパターンマスクに形成する工程と、前記パターンマスク上からサンドブラスト加工を施して、前記圧電プレートをパターニングする工程とを備えることを特徴とする。
これにより、圧電素子ユニット内の圧電素子についても、上記サイドエッチングの進行速度を均一化することができ、圧電素子の寸法均一性を更に向上することができる。すなわち、上述したように、サイドエッチングの進行速度は圧電素子を取り囲む加工溝の幅によって変化するため、各圧電素子の間に残存ダミーパターンを形成し、各圧電素子の周囲の隙間を全てほぼ同一とする。これにより、サイドエッチングの進行速度を全ての圧電素子において均一化でき、寸法均一性の高い圧電素子を得ることが可能となる。
ここでも、前記マスクフィルムの貼付け工程に先立って、前記圧電プレートを基板に剥離可能に接着し、複数の圧電素子が前記基板上に二次元的に配列された圧電素子ユニットを形成し、前記圧電素子ユニットの各圧電素子を前記振動板に接着してから、前記基板を各圧電素子から剥離することが望ましい。
なお、本発明の第2視点の製造方法で述べた外周ダミーパターンと、第3視点の製造方法で述べた残存ダミーパターンとの双方を備えれば、さらに好ましい態様となる。
更に好ましくは、前記圧電素子ユニットの各圧電素子を前記振動板に接着するに際し位置決めのための目印となるマークを、前記基板及び/又は前記圧電プレートに前記サンドブラスト加工と同時に形成する工程を備える。
位置決めのための目印となるマークとして、以下の工程で形成したマークを使用することができる。この工程では、例えば、前記基板に第1の貫通孔を、前記圧力室の壁を成す振動板に第2の貫通孔を、前記圧力室を有する圧力室プレート上に位置決めマークを夫々形成し、前記圧電素子ユニットを形成する際に、前記第1の貫通孔の位置にほぼ合致する前記第1の貫通孔より小サイズの目合わせマークと、各圧電素子を相互に分離する二次元配列分離溝とをサンドブラスト加工で前記圧電プレートに同時に形成する。更に、前記目合わせマークを基準として、前記第1の貫通孔、前記目合わせマーク、前記第2貫通の孔及び前記位置決めマークを合致させつつ、前記圧力室プレート上の圧電素子を前記振動板に接合する。この場合、基板に目合わせマークのピッチに対応して目合わせマークより大きい第1の貫通孔が形成されるので、基板の裏面から容易に目合わせを行うことができる。
また、前記圧力室の壁が振動板から成り、該振動板には、前記圧電素子ユニットとの接合時の基準である位置決めマークが予め形成され、前記基板には、前記位置決めマークと光学的に目合わせするための開口がサンドブラスト加工時に同時に形成されることが好ましい。この場合、後続の工程で必要になる開口を、圧電素子の分離工程時のサンドブラスト等によるパターニング時に同時に形成することができる。これにより、目合わせ精度のバラツキを累積させることなく、圧力室に対面する振動板に対応する各圧電素子を一括して高精度に位置決め接合することができる。
更に好ましくは、前記基板に熱発泡性接着フィルムを介して前記圧電プレートを接着し、前記圧電素子ユニットから基板を剥離する際には、前記基板を加熱して前記熱発泡性接着フィルムの接着力を低減する。これにより、圧電素子ユニットと基板との接着工程と、接着後の基板の剥離工程とが極めて容易になる。
また、前記圧電素子ユニットの形成工程と前記振動板への圧電素子の接着工程との間に、各圧電素子の側面に絶縁性樹脂膜を蒸着形成する蒸着工程を備え、前記蒸着工程では、前記圧電素子ユニットの表面を前記マスクフィルムで覆った前記基板を鉛直方向から所定角度傾けて自転運動させつつ蒸着源の周りを公転運動させることも好ましい態様である。この場合、各圧電素子の側面に絶縁性樹脂膜をムラ無く良好に蒸着形成することができ、各圧電素子の側面の絶縁性樹脂膜によって、空気中の水分吸収による圧電素子の絶縁破壊を確実に防止し、信頼性を向上させることができる。
好ましくは、前記圧電素子ユニットと前記振動板とを導電性接着剤で前記圧力室壁に接着する。この場合、各圧電素子の圧力室壁に接する面に金属薄膜が形成されていても、金属薄膜を有する圧電素子を、良好な導電性を損なうことなく圧力室壁に確実に固着することができる。
また、前記サンドブラスト加工を、前記圧電プレートの厚みに応じて最小限必要な通常加工時間よりも長い時間行うことも好ましい態様である。この場合、例えば、通常加工時間の2〜4倍の時間をかけてサンドブラスト加工することができる。これにより、サンドブラスト加工で切り離した各圧電素子の相互間の分離溝の形状を均一にした良好な二次元配列の圧電素子ユニットを得ることができる。
前記サンドブラスト加工で、行列方向に延在し各圧電素子を相互に分離する略同一幅の分離溝を形成することができる。この場合、各圧電素子のサンドブラストによる加工溝(分離溝)の断面形状を均一に形成することができる。
好ましくは、前記圧電素子の少なくとも一端を前記圧力室の壁上に、且つ他端を前記圧力室上に夫々位置させた状態で各圧電素子を接合する。これにより、圧電素子の一端を圧力室プレート部の振動板に固定でき、該圧電素子の伸縮によって開口上の振動板に変位を生じさせることができる。
更に好ましくは、前記圧力室の壁上における前記圧電素子の表面に、半田バンプを介してフレキシブル配線板を機械的且つ電気的に結合する。この場合、圧力室の壁上に位置させて接合した圧電素子の表面に半田バンプを介して接続するので、半田バンプ接続時の圧力を大きく設定することができ、接合強度を向上させることができる。更に、半田バンプを、フレキシブル配線板を介して制御部に接続することができるので、半田バンプの高さにバラツキがある場合でも確実な接続が可能になる。
本発明に係るインクジェット式記録ヘッドは、夫々がインク室に連通し二次元的に配列された複数の圧力室と、該圧力室の壁面の一部を形成する振動板と、前記圧力室に対応するように前記振動板に接合された複数の圧電素子とを備え、該圧電素子の作動で前記圧力室内のインクを加圧し、該圧力室に連通するノズルからインク滴を吐出する形式のインクジェット式記録ヘッドであって、各圧電素子の側面に絶縁性樹脂膜が形成されていることを特徴とする。
本発明に係るインクジェット式記録ヘッドでは、二次元配列の圧電素子を高密度で実装した構成が得られると共に、各圧電素子の側面に絶縁性樹脂膜が夫々形成されるので、空気中の水分吸収による圧電素子の絶縁破壊を防止し、信頼性を向上させることができる。
本発明に係る第1視点のインクジェット式記録ヘッドは、夫々がインク室に連通し二次元的に配列された複数の圧力室と、該圧力室の壁面の一部を形成する振動板と、前記圧力室に対応するように前記振動板に接合された複数の圧電素子とを備え、該圧電素子の作動で前記圧力室内のインクを加圧し、該圧力室に連通するノズルからインク滴を吐出する形式のインクジェット式記録ヘッドであって、前記圧電素子が前記圧力室の壁を成す振動板上に二次元的に配列され、前記圧電素子の周囲に外周ダミーパターンが形成されていることを特徴とする。
本発明に係る第1視点のインクジェット式記録ヘッドでは、二次元配列の圧電素子の外周に外周ダミーパターンが形成され、サンドブラスト加工のサイドエッチングによって多く加工される部分を外周ダミーパターンで受け持つことができるので、寸法精度の良い圧電素子を作製することができる。
本発明に係る第2視点のインクジェット式記録ヘッドは、夫々がインク室に連通し二次元的に配列された複数の圧力室と、該圧力室の壁面の一部を形成する振動板と、前記圧力室に対応するように前記振動板に接合された複数の圧電素子とを備え、該圧電素子の作動で前記圧力室内のインクを加圧し、該圧力室に連通するノズルからインク滴を吐出する形式のインクジェット式記録ヘッドであって、前記圧電素子が前記圧力室の壁を成す振動板上に二次元的に配列され、相互に隣接する前記圧電素子の間に、各圧電素子の周囲の隙間を全てほぼ同じ寸法にするための残存ダミーパターンが形成されていることを特徴とする。
本発明に係る第2視点のインクジェット式記録ヘッドによると、圧電素子ユニット内の全ての圧電素子においてサイドエッチングの進行速度を均一化でき、寸法均一性に優れた圧電素子を得ることが可能となる。
また、本発明に係る第3視点のインクジェット式記録ヘッドは、夫々がインク室に連通し二次元的に配列された複数の圧力室と、該圧力室の壁面の一部を形成する振動板と、前記圧力室に対応するように前記振動板に接合された複数の圧電素子とを備え、該圧電素子の作動で前記圧力室内のインクを加圧し、該圧力室に連通するノズルからインク滴を吐出する形式のインクジェット式記録ヘッドであって、前記圧力室を有する圧力室プレートと、前記複数の圧電素子が形成された圧電プレートとを有し、前記圧力室プレート上には位置決めマークが、前記振動板には前記位置決めマークに位置合わせされた貫通孔が、前記圧電プレートには目合わせマークが夫々形成されていることを特徴とする。
本発明に係る第3視点のインクジェット式記録ヘッドによると、圧力室と圧電素子とを振動板を介して精度良く位置合わせすることができるという効果を得ることができる。
また、本発明に係るインクジェット式記録装置は、上記記載のインクジェット式記録ヘッドを搭載したことを特徴としている。これにより、圧電素子の形状均一性が極めて高く、イジェクタ間の特性ばらつきが防止でき、高画質の画像出力を実行できるインクジェット式記録装置を得ることができる。
以上説明したように、本発明によると、圧電プレートを任意の形状に形成しながらも、簡潔な製造プロセスによって、マトリクス状配列ヘッドの高密度で二次元配列された多数の圧電素子を容易に製造することができる製造方法、及びそのような製造方法で製造したインクジェット式記録ヘッド、並びにこのようなインクジェット式記録ヘッドを搭載したインクジェット式記録装置を得ることができる。
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施形態例に係るインクジェット式記録ヘッドの要部を示す断面図である。
第1実施形態例
本実施形態例では、圧力室と同じ正方形状を有する圧電素子を備えたインクジェット式記録ヘッドの例を挙げる。本インクジェット式記録ヘッドは、複数のノズル11aが二次元的に形成されたノズルプレート11を有しており、このノズルプレート11上に、各ノズル11aに連通する複数の圧力室12aが形成された圧力室プレート12と、各圧力室12aに対面するように接着された振動板13とを備えている。
振動板13の圧力室12aと逆側の面には、複数の圧電素子14aが各圧力室12aに対向して二次元的にマトリクス状に配列されている。各圧電素子14aの側面には絶縁性樹脂膜15が形成され、上面及び下面には、第1及び第2の電極層34a、34bが夫々形成されている。各圧力室12aは、振動板13側からノズル11aに向かって徐々に細くなる略四角錐形状を呈している。各圧電素子14aは、第1の電極層34aが半田ボールバンプ16を介して配線層17に機械的且つ電気的に結合され、第2の電極層34bが導電性接着剤で振動板13に接着されており、図示しない制御部からの駆動電圧が配線層17及び半田ボールバンプ16を介して印加される。
図2は、二次元配列された複数の圧電素子14aとノズル11aとの位置関係を示す図1のII−II線に沿った平面図である。複数のノズル11aがノズルプレート11にマトリクス状に配列され、これらノズル11aに対向する複数の圧電素子14aが振動板13上にマトリクス状に配列されている。各圧電素子14aは、正方形状を有し、4つの側面の絶縁性樹脂膜15に囲まれた中心位置にノズル11aが位置するように位置決めされている。
次に、上記構成のインクジェット式記録ヘッドを製造する製造方法について説明する。先ず、圧電素子14aを作製するにあたり、図3に示すように、一枚の矩形状の圧電プレート21(図4)を準備し、この圧電プレート21上に圧電素子マスクパターン及び外周ダミーマスクパターンを形成する。図3は、圧電素子マスクパターン及び外周ダミーマスクパターンの形成による圧電素子パターン及び外周ダミーパターンの形成状態を概略的に示す図である。
上記パターン形成工程では、先ず、圧電プレート21の全体に感光性フィルム24を貼り付け、感光性フィルム24を碁盤目状のマスク(図示せず)で覆った状態で露光し現像する。現像により硬化・残存した升目状部分の感光性フィルム24によって、圧電素子パターン19aを形成するための圧電素子マスクパターンと、圧電素子パターン19aを囲む外周ダミーパターン19bを形成するための外周ダミーマスクパターンとが得られる。圧電素子マスクパターン及び外周ダミーマスクパターンを有するパターンマスクで覆われない領域が除去されることにより、行列方向に延在する溝パターン19cが得られる。
図4は圧電プレートの段階的に異なる形状を示し、(a)は、圧電素子パターンを形成した図3の状態に対応する側面断面図であり、(b)は、(a)に示した圧電プレートにサンドブラスト加工を行った後の圧電プレートを示す側面断面図である。
図4(a)では、平板状の基板23上に、熱発泡性を有する接着フィルム22を介して圧電プレート21が一方の面を接着固定されている。圧電プレート21の他方の面には、図3に示した感光性フィルム24により、圧電素子パターン19a及び外周ダミーパターン19bを形成するための圧電素子マスクパターン及び外周ダミーマスクパターンが夫々形成されている。熱発泡性接着フィルム22は、接着後に所定の温度で加熱されると、発泡して接着力が大幅に低下する性質を備える。
図4(b)は、感光性フィルム24上から、研磨材噴射装置(図示せず)を用いて微細な研磨材を吹き付けるサンドブラスト加工を行った後の状態であり、基板23上に接着固定された圧電プレート21が、圧電素子マスクパターン及び外周ダミーマスクパターンに従って研削されて、夫々が分離溝18で相互に分離された圧電素子14aとダミー素子14bとが得られている。また、外周ダミーパターン19(図3)を設けたことにより、外周部の圧電素子に発生しやすいサイドエッチングを防止することができ、均一な二次元配列の圧電素子14aが得られている。なお、ここでは圧電素子14aが4個、4個の圧電素子14aから成る圧電素子ユニット14を囲むダミー素子14bが12個とされているが、個数はこれらに限定されるものではない。
図5は、サンドブラスト加工で形成した圧電素子ユニット14を示す断面図であり、(a)はサンドブラスト加工を通常時間だけ行った結果を示し、(b)は通常時間の3倍の時間をかけてサンドブラスト加工した結果を示す。サンドブラスト加工を通常時間だけ行った際には、図5(a)に示すように、圧電素子14aの間の分離溝18が斜めに形成される。一方、サンドブラスト加工時間を3倍に設定した際には、図5(b)に示すように、図5(a)の分離溝18の傾斜形状が修正されて鉛直状の分離溝18に改善され、圧電素子14aが相互に良好に分離される。
本実施形態例では、後述の転写工程後に破棄可能な基板23に圧電プレート31を貼り付けるので、上記のようにサンドブラスト加工時間を3倍にしても、他の部材を損なうような問題を引き起こすことなく、充分にサンドブラスト加工を行って鉛直状の分離溝18を形成することができる。
図6は、圧電素子14aの4側面に絶縁性樹脂15(図1及び図2参照)を蒸着形成する際の形態を示す正面図である。この蒸着工程は、分離溝18で相互に分離した複数の圧電素子14aを圧電素子ユニット14として一括に扱いながら行うことができる。
蒸着工程は、圧電素子ユニット14の形成工程と振動板13への各圧電素子14aの接着工程との間で、以下に述べる蒸着装置を用いて行う。この蒸着装置は、ポリアミド等の蒸着材を収容した蒸着源31と、圧電素子ユニット14を固着した基板23を保持する円板状の基板保持体33と、蒸着源31及び基板保持体33を収容する真空チャンバ(図示せず)とを備えている。基板保持体33は、蒸着源31の開口31aに下ろした鉛直線Vに対し角度θだけ傾斜する第1軸30を中心として回転するもので、第1軸30から等距離に位置しその先端に基板23を保持する複数の第2軸32を備えている。
蒸着工程では、先ず、図6に示すように、圧電素子ユニット14の各圧電素子14aの表面を感光性フィルム24で覆ったままの基板23を第2軸32の先端に固定する。そして、真空チャンバ内を真空に保持した状態で、各第2軸32を同じ方向に回転させて自転運動させると共に、第1軸30を中心として基板保持体33を回転させて公転運動させる。これにより、圧電素子ユニット14の各圧電素子14aの4つの側面に、ムラ無く絶縁性樹脂膜15を蒸着形成する。この絶縁性樹脂膜15の形成により、空気中の水分吸収による圧電素子14aの絶縁破壊を確実に防止し、信頼性を向上させることができる。
図7は、絶縁性樹脂膜15が形成された圧電素子ユニット14を振動板13に接着した状態を示す断面図である。先ず、ノズルプレート11上に圧力室プレート12及び振動板13を順次に接合しておき、各圧電素子14aの基板23と逆側の面を振動板13に目合わせして接合する。この際に、振動板13には、圧電素子ユニット14と振動板13との接合時の基準である十字状の位置決めマーク36Aが予め形成され、基板23には、位置決めマーク36Aと光学的に目合わせするための開口37がサンドブラスト加工時に同時に形成されている。
従って、開口37を通して光学顕微鏡で位置決めマーク36Aを光学的に検知しつつ、二次元配列の圧電素子14aを、振動板13(圧力室12aの壁)上に一括して高精度に接合することができる。このとき、圧電素子14aの両面には夫々、電極層としての第1及び第2の電極層34a、34bがスパッタリング法で予め形成されており、第2の電極層34bを振動板13に導電性接着剤35で接着固定する。
続いて、振動板13に固定した各圧電素子14aから基板23を剥離するのであるが、その際には、基板23を加熱して熱発泡性接着フィルム22の接着力を低減させる。これにより、圧電素子ユニット14と基板23とを離間させる工程が極めて容易になる。
第1実施形態例の実施例
本実施例では、夫々が直径30±0.5μmで64行×4列の二次元配列として複数のノズル11aが形成されたノズルプレート11を準備し、図1に示すように、各ノズル11aに連通する圧力室12aと対面するように、ステンレス製の振動板13を接合した。
次いで、厚み30μmのチタン酸ジルコン酸鉛製の一枚の圧電プレート21を、熱発泡性接着フィルム(例えばリバアルファ(登録商標))22を用いて基板23に接着した後、圧電プレート21上に、ウレタン系の感光性フィルム24を用いてパターン処理を施した。このパターン処理では、圧電素子14aの4個分の圧電素子パターン19aを形成するための圧電素子マスクパターンと、圧電素子パターン19aの外周に外周ダミーパターン19bを形成するための外周ダミーマスクパターンとを備えたパターンマスクを形成した。
引き続き、上記パターンマスク上から炭化珪素砥粒(砥粒径:例えば20μm)を所定の圧力(例えば2kg/cm2)で吹き付け、圧電プレート21にサンドブラスト加工を施した。ここで、圧電プレート21の厚み方向でのサンドブラスト加工による溝貫通時間(通常加工時間)を2秒とした際に、その3倍の6秒を加工時間として設定した。その結果、通常加工時間で実施すると、図5(a)に示すように傾斜する分離溝18の形状が図5(b)に示すように修正されて、断面形状が幅80μmの鉛直溝に改善された。
これにより、一辺が500μm±10μmの正方形状を有し、厚みが30μm±1μmの圧電素子14aが得られた。外周ダミーパターンを配置しないでサンドブラストて形成してもかまわない。
次いで、サンドブラスト後の圧電素子ユニット14を基板23に接着したままの状態で、各圧電素子14aの4つの側面に厚み10μmのポリアミド製の絶縁性樹脂膜15を蒸着形成する。この際に使用する蒸着装置は、図6に示すように、ポリアミドを蒸着材とした蒸着源31と、蒸着源31に下ろした鉛直線Vに対して15°傾いた第1軸30を中心として回転する基板保持体33とを備えている。基板保持体33には、第1軸30から等しい距離にある複数の第2軸32が設けられている。
蒸着工程では、感光性フィルム24で覆ったままの基板23を第2軸32の先端に固定し、第2軸32を中心として自転運動させつつ、基板保持体33を第1軸30を中心として公転運動させることによって、各圧電素子14aの側面に、膜厚10μmの絶縁性樹脂膜15を均一に蒸着形成した。
次いで、圧電素子ユニット14の熱発泡性接着フィルム22と逆側の面を、振動板13上の位置決めマーク36Aと開口37を通して光学顕微鏡で目合わせしつつ振動板13に接合し、64行×4列の圧電素子14aの圧電素子ユニット14を、振動板13に一括して±15μm以内の高精度で接合した。ここで、各圧電素子14aの両面には予め、電極層34a、34bとして、Cr製の0.2μmの金属薄膜とAu製の0.1μmの金属薄膜とが順次にスパッタリング法で形成されている。振動板13には、導電性接着剤(ぺースト)35で電極層34bを接着した。
この後、基板23を加熱して熱発泡性接着フィルム22の接着強度を低減し、基板23を各圧電素子14aから剥離した。更に、各圧電素子14aを、半田ボールバンプ16及び配線17を介して制御部(図示せず)に接続した。このようにして作製したインクジェット式記録ヘッドでは、駆動電圧30V、周波数30kHzで、各圧電素子14aが良好に駆動し、対応するノズル11aからインク滴を吐出することができた。
第2実施形態例
次に、本発明に係る第2実施形態例について説明する。本実施形態例では、正方形状の圧力室とは異なる長方形状を有する圧電素子を備えたインクジェット式記録ヘッドの例を挙げる。図8は、本実施形態例のインクジェット式記録ヘッドの要部構成を示す断面図である。
本インクジェット式記録ヘッドは、複数のノズル11aが二次元的に形成されたノズルプレート11を有しており、このノズルプレート11上に、各ノズル11aに連通する複数の圧力室12aが形成された圧力室プレート12と、各圧力室12aに対面するように接着された振動板13とを備えている。
振動板13の圧力室12aと逆側の面には、複数の圧電素子14aが各圧力室12aに対向して二次元的に配列されている。各圧力室12aは、上方から見た開口が正方形状である。長方形状の圧電素子14aは、その表面端部が圧力室12aの壁、つまり圧力室プレート12部分に位置させて振動板13に接合されている。
各圧電素子14aの側面には絶縁性樹脂膜15が形成され、上面及び下面には、第1及び第2の電極層34a、34bが夫々形成されている。各圧力室12aは、振動板13側からノズル11aに向かって徐々に細くなる略四角錐形状を呈している。第1の電極層34aが半田ボールバンプ16を介してフレキシブル配線板50に機械的且つ電気的に結合され、第2の電極層34bが導電性接着剤で振動板13に接着されている。図示しない制御部からの駆動電圧が、フレキシブル配線板50及び半田ボールバンプ16を介して各圧電素子14aに印加される。
図9は、圧電素子パターンの形成状態を示す図8のIX−IX線に沿って見た際の平面図である。圧電プレート21では、複数のノズル11aが、ノズルプレート11に二次元的にマトリクス配列され、これらノズル11aに対向して複数の圧電素子14aが振動板13上にマトリクス状に配列されている。
次に、本実施形態例のインクジェット式記録ヘッドの製造方法について説明する。先ず、圧電素子14aを作製するにあたり、図9に示すように、一枚の矩形状の圧電プレート21を準備し、圧電プレート21上に圧電素子パターンを形成する。
上記パターン形成工程では、先ず、基板23上に貼り付けた圧電プレート21上の全体に感光性フィルムを貼り付け、この感光性フィルムを碁盤目状のマスクで覆った状態で露光し現像する。現像により硬化・残存した升目状部分の感光性フィルム(図示せず)によって、8個の圧電素子14aを有する圧電素子パターン14Aを形成するための圧電素子マスクパターンと、圧電素子パターン14Aを囲む16個の外周ダミーパターン52を形成するための外周ダミーマスクパターンとを備えたパターンマスクが得られる。このパターンマスクには更に、残存ダミーパターン53を形成するための残存ダミーマスクパターンが形成される。
残存ダミーパターン53は、圧電素子ユニット14の内部側、つまり圧電素子パターン14Aと外周ダミーパターン52との境界部分に、各圧電素子14a周囲に形成される二次元配列の分離溝54が同じになるようにするために設けられる。上記パターンマスクで覆われない領域が、サンドブラスト加工で除去されることにより、行列方向に延在する溝パターンが得られる。
上記溝パターンは、残存ダミーパターン53の存在により得られる分離溝54aと、残存ダミーパターン53とは無関係に得られる分離溝54bを有しており、各圧電素子14aの周囲の隙間である分離溝54a及び54bは、全ての幅がほぼ同じ寸法(±20%)に形成される。このような溝パターンを含むパターンマスクを用いてサンドブラスト加工することにより、各加工溝の断面形状が均一な複数の圧電素子14aを得ることができる。
図10は図9のX−X線に沿った、基板23から剥離する前の状態を示す断面図である。上述の工程で基板23上の圧電素子ユニット14に形成した複数の圧電素子14aを圧力室12a上に実装する際には、先ず、ノズルプレート11上に、予め圧力室プレート12及び振動板13を順次に接合しておき、各圧電素子14aの基板23と逆側の面を振動板13に目合わせして接合する。
この場合、基板23には貫通孔56を予め形成しておき、この基板23に剥離可能に接着した圧電プレート21に、圧電素子14aを相互に分離する分離溝54a及び分離溝54b(図9)と、貫通孔56の位置にほぼ合致する目合わせマーク55とをサンドブラストで同時に加工しつつ、圧電素子ユニット14を形成する。更に、目合わせマーク55を基準として、基板23の貫通孔56、目合わせマーク55、圧力室12aの1つの壁面を成す振動板13の貫通孔57、及び、圧力室プレート12上に予め形成された位置決めマーク36Bを合致させつつ、圧力室プレート12上の振動板13に、パターンを180゜反転させた状態で各圧電素子14aを接合する。
この際、目合わせマーク55のピッチに対応して、目合わせマーク55より大きい貫通孔56が基板23に形成されているので、目合わせは基板23の裏面から容易に行われる。この目合わせでは、貫通孔56を通して光学顕微鏡で位置決めマーク36Bを光学的に検知しつつ、二次元配列の圧電素子14aを、振動板13(圧力室12aの壁)上に一括して高精度に接合する。なお、貫通孔56が無い場合には、基板23として透明なガラス基板を用いることができる。
続いて、振動板13に固定した各圧電素子14aから基板23を剥離するのであるが、この剥離は、第1実施形態例と同様に、基板23を加熱して熱発泡性接着フィルム22の接着力を低減させた上で行う。これにより、圧電素子ユニット14と基板23との接着工程と共に、接着後に双方を離間させる工程が極めて容易になる。
第2実施形態例の実施例
本実施例では、夫々が直径30μmで64行×4列の二次元配列とされた複数のノズル11aを形成したノズルプレート11を準備し、図8に示すように、各ノズル11aに連通する圧力室12aと対面するように、ステンレス製の振動板13を接合した。
次いで、厚み30μmのチタン酸ジルコン酸鉛製の一枚の圧電プレート21を、熱発泡性接着フィルム22を用いて基板23に接着した後、圧電プレート21上に、ウレタン系の感光性フィルム24を用いてパターン処理を施した。この際に、圧電素子パターン14Aの外周に圧電素子と同じ形状の外周ダミーパターン52を設けた。更に、圧電素子ユニット14の内部側に、各圧電素子12aの周囲の隙間が同じサイズ(例えば80μm)になるように、残存ダミーパターン53を設けた。
引き続き、第1実施形態例の実施例と同様に、圧電プレート21にサンドブラスト加工を施した。この場合にも、加工時間は通常加工時間の3倍の6秒とした。これにより、短辺が450μm±5μm、長辺が750μm±5μmの長方形状を有し、厚みが30μm±1μmの圧電素子14aが得られた。圧力室12aの開口は、一辺が500μm±10μmの正方形状を呈している。
次いで、サンドブラスト後の圧電素子ユニット14を基板23に接着したままの状態で、各圧電素子14aの4側面に厚み10μmのポリアミド製の絶縁性樹脂膜15を蒸着形成した。続いて、図10に示すように、圧電素子ユニット14の熱発泡性接着フィルム22(図7)と逆側の面を、振動板13の貫通孔57を通して、圧力室プレート12上の位置決めマーク36Bと圧電プレート21の目合わせマーク55とを貫通孔56から光学顕微鏡で目合わせしつつ、振動板13に接合した。この場合、64行×4列の圧電素子14aの圧電素子ユニット14を、振動板13に一括して±15μm以内の高精度で接合することができた。
ここで、各圧電素子14aの両面には予め、電極層34a、34bとして、Cr製の0.2μmの金属薄膜とAu製の0.1μmの金属薄膜とが順次にスパッタリング法で形成されている。振動板13には、導電性ぺースト35で電極層34bを接着した。
引き続き、基板23を加熱して熱発泡性接着フィルム22(図7)の接着強度を低減し、基板23を各圧電素子14aから剥離した。更に、各圧電素子14aを、半田ボールバンプ16及びフレキシブル配線板50を介して制御部(図示せず)に接続した。このようにして作製したインクジェット式記録ヘッドでも、第1実施形態例の実施例におけるインクジェット式記録ヘッドと同様の駆動能力を得ることができた。
以上のように、第1及び第2実施形態例では、基板23に接着した状態の圧電プレート21に圧電素子ユニット外周の外周ダミーパターンを設けてパターニングすることにより、基板23に固着した複数の圧電素子14aをユニット単位で一括して取り扱うことができる。これにより、圧電素子14aを各圧力室12aに対向させて振動板13に接着する工程が極めて容易になる。従って、ノズル11aをマトリクス状に高密度実装した小型のインクジェット式記録ヘッドを高効率で大量生産することができ、製造コストを低減して廉価な製品を得ることができる。具体的には、同じ個数のノズル11aを有する従来型のインクジェット式記録ヘッドに比して、製造コストがほぼ50%低減した。
また、第1及び第2実施形態例では、圧電素子14aを正方形状又は長方形状としたが、これに限らず、六角形状や円形状としても同様の効果を得ることができる。更に、圧電素子14aをマトリクス状に配列したが、これに限らず、全体で円形状をなすような二次元配列とすることもできる。また、絶縁性樹脂膜15としてポリアミドを用いたが、これ以外に、フッ素樹脂やシリコン樹脂等を用いることができる。
第3実施形態例
図12は、本発明に係るインクジェット式記録装置の実施形態例を示す斜視図である。本実施形態例のインクジェット式記録装置60は、インクジェット式記録ヘッドを搭載するキャリッジ61、キャリッジ61を主走査方向66に走査するための主走査機構63、及び、記録媒体としての記録用紙64を副走査方向67に搬送するための副走査機構65を含み構成されている。
インクジェット式記録ヘッド60は、ノズル面が記録用紙64と対向するようにキャリッジ61上に搭載され、主走査方向66に搬送されながら記録用紙64に対してインク滴を吐出することにより、一定のバンド領域68に対して記録を行う。次いで、記録用紙64を副走査方向67に搬送し、再びキャリッジ61を主走査方向66に搬送しながら次のバンド領域を記録する。このような動作を複数回繰り返すことにより、記録用紙64の全面にわたって画像記録を行うことができる。
実際に、本インクジェット式記録装置60を用いて画像記録を行い、記録速度及び画像品質の評価を行った。インクジェット式記録ヘッドには、上記第2実施形態例で述べたヘッド構造のものを使用した。イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色に対応させて、1色あたり256個(64行×4列)のイジェクタを有するマトリクス状配列ヘッドをキャリッジ61上に並べて配置し、記録用紙64上で4色のドットを重ねあわせることにより、フルカラーの画像記録を行った。その結果、各イジェクタから吐出されるインク滴体積に±3%以内の均一性が得られ、画像品質の高い出力画像を得ることができた。すなわち、本実施形態例のインクジェット式記録装置60では、圧電素子の形状均一性が極めて高いため、イジェクタ間の特性ばらつきを防止することができ、高画質の画像出力を実行できることが実証された。
なお、本実施形態例では、ヘッドをキャリッジによって搬送しながら記録を行う形態としたが、ノズルを記録媒体の全幅にわたって配置したライン型ヘッドを用い、ヘッドを固定して、記録媒体のみを搬送しながら記録を行うなど、別の装置形態に本発明を適用することも可能である。
以上、本発明をその好適な第1、第2実施形態例及びその各実施例、並びに第3実施形態例に基づいて説明したが、本発明のインクジェット式記録ヘッド及びその製造方法並びにインクジェット式記録装置は、上記実施形態例及び実施例の構成にのみ限定されるものではなく、上記実施形態例及び実施例の構成から種々の修正及び変更を施したインクジェット式記録ヘッド及びその製造方法並びにインクジェット式記録装置も、本発明の範囲に含まれる。
例えば、上記第1及び第2実施形態例では、基板に接着した圧電素子プレートに対してサンドブラスト加工を行って圧電素子ユニットを形成したが、これに代えて、圧電素子プレートを振動板上に接着した状態でサンドブラスト加工を行い、振動板上に直接圧電素子ユニットを形成することも可能である。
また、上記第1及び第2実施形態例では、ノズルの配置を略格子状の配列としたが、ノズル配列は略格子状のものに限定されるわけではなく、その他の2次元的配列方法を用いた場合においても本発明を適用することは可能である。
また、上記第1〜第3実施形態例では、記録紙上に着色インクを吐出して文字や画像などの記録を行うインクジェット記録ヘッド及びインクジェット記録装置を例に挙げたが、本明細書におけるインクジェット記録とは、記録紙上への文字や画像の記録に限定されるものではない。すなわち、記録媒体は紙に限定されるわけではなく、また、吐出する液体も着色インクに限定されるわけではない。例えば、高分子フィルムやガラス上に着色インクを吐出してディスプレイ用のカラーフィルターを作製したり、溶融状態のハンダを基板上に吐出して部品実装用のバンプを形成したりするなど、工業的に用いられる液滴噴射装置一般に対して、本発明を利用することも可能である。