以下、本発明に係るタンパク質分離デバイスについて詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更、実施することができる。
なお、本明細書において、範囲を示す「A〜B」は、A以上B以下であることを表す。また、本明細書中に記載された特許文献および非特許文献は、本明細書中において参考として援用される。
〔1.タンパク質分離デバイス〕
本発明に係るタンパク質分離デバイスは、高マンノース型糖鎖を有するタンパク質を、高マンノース型糖鎖の構造の違いによって分離可能なタンパク質分離デバイスであって、高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチドが固定化された固定化担体を備え、上記ポリペプチドは、タイプIAレクチン、タイプIBレクチン、タイプIIレクチン、タイプIIIレクチンおよびタイプIVレクチンからなる群より選ばれる1種または2種以上のレクチンである。
(1)高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチド
高マンノース型糖鎖とは、N型糖鎖に共通する「トリマンノシルコア」と呼ばれる〔Manα1-6(Manα1-3)Manβ1-4GlcNAcβ1-4GlcNAc〕からなる共通母核構造に加え、分岐構造部分にα−マンノース残基のみを含んでおり、〔Manα1-6(Manα1-3)Manα1-6(Manα1-3)Manβ1-4GlcNAcβ1-4GlcNAc〕という七糖を共通の母核として含む糖鎖である。
「高マンノース型糖鎖に特異的に結合する」とは、高マンノース型糖鎖に対する結合性を有し、かつ、複合型糖鎖および混成型糖鎖に対する結合性を有さないことをいう。
上述したようにウイルスのエンベロープタンパク質、原生生物の表面タンパク質、各種の癌表面タンパク質、並びに、癌細胞から分泌されるエクソソーム、免疫細胞から分泌されるエクソソーム、および、母乳中のエクソソームの表面タンパク質等は、高マンノース型糖鎖を有している。
本発明に係るタンパク質分離デバイスは、高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチドを備えているため、様々な成分が含有されている検体からであっても、当該ポリペプチドに対応する高マンノース型糖鎖を有するタンパク質を特異的に分離することができる。また、例えば全血等の生体由来の検体と接触した場合、上記タンパク質を有する微生物、癌細胞、エクソソーム等が検体中に含まれていると、上記タンパク質の高マンノース型糖鎖に特異的に結合するため、検体中の他の成分に与える影響は非常に小さい。しかも、本発明に係るタンパク質分離デバイスは、上記ポリペプチドが固定化担体に固定されているため、上記ポリペプチドが上記糖タンパク質と接触しやすい状態になっており、極めて効率的に上記タンパク質を検体から分離することができる。
以上のことから、本発明に係るタンパク質分離デバイスは、検体中に含有される高マンノース型糖鎖を有するタンパク質を極めて効率的に分離することができる。
ここで、高マンノース型糖鎖の「糖鎖」とは、直鎖または分岐したオリゴ糖または多糖を意味する。オリゴ糖とは、単糖または単糖の置換誘導体が2〜10個脱水結合して生じたものをいう。さらに多数の単糖が結合している糖質を多糖という。
本発明では、高マンノース型糖鎖と特異的に結合するポリペプチドとして、分岐オリゴマンノシドの認識部位と一次構造の違いとに基づいて下記の5つのタイプに分類されるレクチン、つまり、タイプIAレクチン、タイプIBレクチン、タイプIIレクチン、タイプIIIレクチンおよびタイプIVレクチンからなる群より選ばれる1種または2種以上のレクチンを用いる。図4は、高マンノース型糖鎖の構造の一例を示す図である。図中、D1〜D3は、それぞれD1アーム〜D3アームを表す。
(a)タイプIA:高マンノース型糖鎖のD2アームの非還元末端にα(1−3)Man残基を有するものと強く結合し、当該残基にα(1−2)Manが付加したものでは結合力が著しく低下するタイプIレクチンのうち、糖鎖結合部位が4つある4リピート構造を持つ。また、Manα1−6(Manα1−3)Manα1−6(Manα1−3)‐Man構造を認識部位とする。
(b)タイプIB:タイプIレクチンのうち糖鎖結合部位が2つある2リピート構造を持つ。また、Manα1−6(Manα1−3)Manα1−6(Manα1−3)‐Man構造を認識部位とする。
(c)タイプII:D1アームの非還元末端のα(1−2)Man残基、D2アームの非還元末端のα(1−2)Man残基、およびD3アームの非還元末端のα(1−2)Man残基を認識部位とし、α(1−2)Man残基数が多い高マンノース型糖鎖に対してより強く結合する。非還元末端にα(1−2)Man残基をもたない高マンノース型糖鎖とは結合しない。
(d)タイプIII:分岐糖鎖部分の構造の違いを認識せず、全ての高マンノース型糖鎖と遊離トリマンノシルコア構造(Manα1-6(Manα1-3)Manβ1-4GlcNAcβ1-4GlcNAc-PA)とに結合する。遊離トリマンノシルコア構造への結合性よりも、高マンノース型糖鎖への結合性の方がより高い。
(e)タイプIV:D3アームの非還元末端にα(1−2)Man残基を持つものとのみ結合する。
本発明では、高マンノース型糖鎖と特異的に結合するポリペプチドとして、上記(a)〜(e)のいずれのタイプのレクチンを用いてもよく、当該レクチンから選ばれる1種または2種以上のレクチンを用いてもよい。
上記(a)〜(e)のいずれかに属するレクチンとしては、海藻類または藍藻類から単離可能なレクチンである藻類由来レクチンを挙げることができる。なお、「レクチン」とは、分子内に糖結合ドメインをもつタンパク質で、抗体を除くものの総称である。
上記(a)〜(e)のいずれかに属する藻類由来レクチンとしては、例えば、以下のレクチンを挙げることができる:
(a)タイプIA:海藻ミリン(Solieria pacifica)由来のSolnin(Solnin A、Solnin B、Solnin C)、海藻トゲキリンサイ(Eucheuma serra)由来のESA(ESA−1、ESA−2(GenBank Accession No.: P84331;アミノ酸配列を配列番号13に示す))、海藻アマクサキリンサイ(Eucheuma amakusaensis)由来のEAA(EAA−1、EAA−2、EAA−3)、海藻Eucheuma denticulatum由来のEDA(EDA−1、EDA−2(GenBank Accession No.: LC007085;アミノ酸配列を配列番号17に示す)、EDA−3)、海藻Kappaphycus alvarezii由来のKAA(KAA−1(GenBank Accession No: LC007080;アミノ酸配列を配列番号6に示す。ECA−1としても知られる)、KAA−2(GenBank Accession No: LC007081;アミノ酸配列を配列番号14に示す。ECA−2としても知られる)、KAA−3)、海藻Kappaphycus striatum由来のKSA(KSA−1、KSA−2)、海藻トサカノリ(Meristotheca papulosa)由来のMPA(MPA−1(GenBank Accession No: LC008514;アミノ酸配列を配列番号18に示す)、MPA−2(GenBank Accession No: LC008515;アミノ酸配列を配列番号19に示す))、海藻シラモ(Gracilaria bursa-pastoris)由来のGranin−BP、海藻Agardhiella subulata由来のASL(ASL−1(GenBank Accession No: LC007083;アミノ酸配列を配列番号15に示す)およびASL−2(GenBank Accession No: LC007084;アミノ酸配列を配列番号16に示す))等。
(b)タイプIB:淡水産藍藻Oscillatoria agardhii由来のOAA(UniProtKB/Swiss-Prot Accession No.: P84330;アミノ酸配列を配列番号5に示す)等。
(c)タイプII:海藻アオモグサ(Boodlea coacta)由来のBCA(GenBank Accession No: BAK23238;アミノ酸配列を配列番号7に示す)等。
(d)タイプIII:海藻ハネモ(Bryopsis plumosa)由来のBPL−17(GenBank Accession No: BAI43482;アミノ酸配列を配列番号8に示す)および海藻オオハネモ(Bryopsis maxima)由来のBML−17(GenBank Accession No: BAI94585;アミノ酸配列を配列番号20に示す)等。
(e)タイプIV:海藻Meristhotheca papulosa由来のMPL(MPL−1(GenBank Accession No: LC007082;アミノ酸配列を配列番号9に示す)、MPL−P2、MPL−P3およびMPL−P4)等。なお、配列番号9に示すアミノ酸配列において、N末端はピログルタミン酸である。
また、タイプIAのレクチンとしては、細菌Myxococcus xanthus由来のMBHA(GenBank Accession No: M13831;アミノ酸配列を配列番号21に示す)、細菌Burkholderia oklahomensis由来のBOA(GenBank Accession No: AIO69853;アミノ酸配列を配列番号22に示す)等も用いることができる。タイプIBのレクチンとしては、細菌Pseudomonas fluorescens由来のPFL(GenBank Accession No: ABA72252;アミノ酸配列を配列番号23に示す)等も用いることができる。
さらに、本発明者は、タイプIのレクチンのアミノ酸配列と共通する配列を有するtheoretical proteinsが、他生物種(細菌、藍藻)にも存在することをデータベース(GenBank)検索から見出しているが、上記theoretical proteinsを用いることもできる。上記theoretical proteinsとしては、例えば、Lyngbya sp. PCC 8106 (Accession No. ZP_01622218)の配列番号24に示す演繹アミノ酸配列を有するタンパク質(タイプIA)、Stigmatella aurantiaca DW4/3-1(Accession No. ZP_01464390) の配列番号25に示す演繹アミノ酸配列を有するタンパク質(タイプIA)、Herpetosiphon aurantiacus ATCC 23779(Accession No. YP_001544456)の配列番号26に示す演繹アミノ酸配列を有するタンパク質(タイプIB)、等を挙げることができる。
以上、タイプIAからタイプIVのレクチンを例示したが、本発明で用いる高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチドは、上記例示したレクチンに限定されるものではない。2種以上の上記レクチンを用いる場合、使用量の比は任意であってよい。
本明細書中で使用される場合、用語「ポリペプチド」は、「ペプチド」または「タンパク質」と交換可能に使用される。上記藻類由来レクチンを初めとする「高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチド」は、天然供給源より単離されても、化学合成されてもよい。
なお、上記藻類由来レクチンは、従来公知の方法によって海藻類または藍藻類から単離することができる。例えば、Solnin A、Solnin BおよびSolnin Cは文献(Hori et al., Phytochemistry 27, 2063-2067(1988))に開示の方法、ESA−1およびESA−2は文献(Kawakubo et al., J. Appl. Phycol. 9, 331-338(1997))に開示の方法、EAA−1、EAA−2およびEAA−3は文献(Kawakubo et al., J. Appl. Phycol. 11, 149-156(1999))に開示の方法、EDA−1、EDA−2およびEDA−3は文献(Hung et al., J. Appl. Phycol. in press(DOI 10.1007/s10811-014-0441-0))に開示の方法、KAA−1、KAA−2およびKAA−3は文献(Hung et al., Fish. Sci. 75, 723-730(2009))に開示の方法、KSA−1およびKSA−2は文献(Hung et al., Phytochemistry 72, 855-861(2011))に開示の方法、Granin−BPは文献(Okamoto et al., Experientia. 46, 975-977(1990))に開示の方法によってそれぞれ単離することができる。OAAは文献(Sato, Y. et al., Comp. Biochem. Physiol. B Biochem. Mol. Biol., 125, 169-177(2000))に開示の方法によって単離することができる。BCAは文献(Sato, Y. et al., J. Biol. Chem. 286, 19446-19458(2011))に開示の方法によって単離することができる。BML−17は特許第4876258号明細書に開示の方法によって単離することができる。MPL−1、MPL−P2、MPL−2およびMPL−P4は特開2012‐213382号公報に開示の方法によって単離することができる。
また、BOAは文献(Whitley, M. J. et al., FEBS J. 280, 2056-2067, 2013)に開示の方法、PFLは文献(Sato, Y. et al., PLoS One 7, e45922, 2012)に開示の方法によって大腸菌発現系を用いてそれぞれ単離することができる。MBHAは文献(Cumsky, M. G., Zusman, D. R., J. Biol. Chem. 256, 12581-12588, 1981)に開示の方法によって単離することができる。
MPA−1およびMPA−2は、海藻Meristotheca papulosa生藻体を液体窒素下で粉末とした後、0.85% NaClを含む20 mMリン酸塩緩衝液(pH7.0)で抽出操作し、その後、硫安塩析、イオン交換クロマトグラフィーに順次供することで単離することができる。ASL−1およびASL−2は海藻Agardhiella subulata生藻体を液体窒素下で粉末とした後、0.85% NaClを含む20 mMリン酸塩緩衝液(pH7.0)で抽出操作し、その後、硫安塩析、イオン交換クロマトグラフィーおよびゲルろ過に順次供することで単離することができる。BPL−17は、海藻Bryopsis plumosaから、特許第4876258号明細書に開示される海藻Bryopsis maxima由来のBML−17の単離方法と同様の手法によって単離することができる。
用語「単離された」ポリペプチドまたはタンパク質としては、その天然の環境から取り出されたポリペプチドまたはタンパク質が意図される。例えば、宿主細胞中で発現された組換え産生されたポリペプチドおよびタンパク質は、任意の適切な技術によって実質的に精製されている天然または組換えのポリペプチドおよびタンパク質と同様に、単離されていると考えられる。
合成ペプチドは、化学合成の公知の方法を使用して合成され得る。例えば、Houghtenは、4週間未満で調製されそして特徴付けられたHA1ポリペプチドセグメントの単一アミノ酸改変体を示す10〜20mgの248の異なる13残基ペプチドのような多数のペプチドの合成のための簡単な方法を記載している(Houghten,R.A.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:5131−5135(1985))。この「Simultaneous Multiple Peptide Synthesis(SMPS)」プロセスは、さらにHoughtenら(1986)の米国特許第4,631,211号に記載される。この手順において、種々のペプチドの固相合成のための個々の樹脂は、別々の溶媒透過性パケットに含まれ、固相法に関連する多くの同一の反復工程の最適な使用を可能にする。完全なマニュアル手順は、500〜1000以上の合成が同時に行われるのを可能にする(Houghtenら、前出、5134)。これらの文献は、本明細書中に参考として援用される。
上記高マンノース型糖鎖と特異的に結合するポリペプチドは、天然の精製産物、化学合成手順の産物、および原核生物宿主または真核生物宿主(例えば、細菌細胞、酵母細胞、高等植物細胞、昆虫細胞、および哺乳動物細胞を含む)から組換え技術によって産生された産物を含む。組換え産生手順において用いられる宿主に依存して、上記ポリペプチドは、グリコシル化され得るか、または非グリコシル化され得る。さらに、上記ポリペプチドはまた、いくつかの場合、宿主媒介プロセスの結果として、開始の改変メチオニン残基を含み得る。
例示した上記(a)〜(e)のいずれかに属する藻類由来レクチンのアミノ酸配列および塩基配列は公知である。一実施形態において、上記藻類由来レクチンは、それぞれの公開されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであってもよいし、当該ポリペプチドの変異体であってもよい。
変異体としては、欠失、挿入、逆転、反復、およびタイプ置換(例えば、親水性の残基の別の残基への置換)を含む変異体が挙げられる。
ポリペプチドのアミノ酸配列中のいくつかのアミノ酸が、このポリペプチドの構造または機能に有意に影響することなく容易に改変され得ることは、当該分野において周知である。さらに、人為的に改変させるだけではく、天然のタンパク質において、当該タンパク質の構造または機能を有意に変化させない変異体が存在することもまた周知である。当業者は、周知技術を使用してポリペプチドのアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸を容易に変異させることができる。
好ましい変異体は、保存性もしくは非保存性アミノ酸置換、欠失、または挿入を有する。好ましくは、サイレント置換、挿入、および欠失であり、特に好ましくは、保存性置換である。これらは、本発明にかかるポリペプチド活性を変化させない。
代表的に保存性置換と見られるのは、脂肪族アミノ酸Ala、Val、Leu、およびIleの中での1つのアミノ酸の別のアミノ酸への置換;ヒドロキシル残基SerおよびThrの交換、酸性残基AspおよびGluの交換、アミド残基AsnおよびGlnの間の置換、塩基性残基LysおよびArgの交換、ならびに芳香族残基Phe、Tyrの間の置換である。
上記藻類由来レクチンは、それぞれの公開されたアミノ酸配列からなるポリペプチド;または、上記アミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、もしくは付加されたアミノ酸配列、からなるポリペプチドであることが好ましい。
上記「1個もしくはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、もしくは付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ポリペプチド作製法により置換、欠失、挿入、もしくは付加できる程度の数(好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、最も好ましくは5個以下)のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されていることを意味する。このような変異ポリペプチドは、上述したように、公知の変異ポリペプチド作製法により人為的に導入された変異を有するポリペプチドに限定されるものではなく、天然に存在するポリペプチドを単離精製したものであってもよい。
一方、本発明に係るタンパク質分離デバイスに用いる「高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチド」は、配向制御して固定化担体に固定化することが好ましい。つまり、上記ポリペプチドは、ペプチド鎖の一端で上記固定化担体に固定化されていることが好ましい。この点については後述するが、配向制御して固定化担体に固定化するためには、(1)高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチドの天然由来のアミノ酸配列が、システイン残基を1個以下有すること;(2)高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチドの天然由来のアミノ酸配列が、システイン残基を含まないこと;もしくは、(3)高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチドの天然由来のアミノ酸配列が、システイン残基およびリジン残基を含まないこと、がより好ましい。そのため、上述したアミノ酸置換またはアミノ酸添加を行うことは可能であるが、あるアミノ酸のシステインまたはリジンへの置換は行わないことがより好ましい。
なお、本発明に係るタンパク質分離デバイスに用いる「高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチド」は、アミノ酸がペプチド結合しているポリペプチドであればよいが、これに限定されるものではなく、ポリペプチド以外の構造を含む複合ポリペプチドであってもよい。本明細書中で使用される場合、「ポリペプチド以外の構造」としては、糖鎖やイソプレノイド基等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。
また、上記「高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチド」は、付加的なポリペプチドを含むものであってもよい。付加的なポリペプチドとしては、例えば、HisやMyc、Flag等のエピトープ標識ポリペプチドが挙げられる。
上記「高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチド」は、融合タンパク質のような改変された形態で組換え体として発現され得る。後述するように、固定化担体としてシリカモノリス等のモノリスゲルを用いる場合、上記ポリペプチドのカルボキシ末端にリンカー配列、固定化反応用配列、および精製タグ配列を付加した組換え体として発現させることが好ましい。上記精製タグ配列は、融合タンパク質の簡便な精製に寄与することができ、ポリペプチドの最終調製の前に除去され得る。
精製タグ配列としては、例えばヘキサヒスチジンペプチド(例えば、pQEベクター(Qiagen,Inc.)において提供されるタグ)、インフルエンザ赤血球凝集素(HA)タンパク質由来のエピトープに対応する精製のために有用な「HA」タグ等を利用することができる。
(2)ポリペプチドを固定する固定化担体
本発明に係るタンパク質分離デバイスは、上記「高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチド」が固定された固定化担体を備える。上記固定化担体としては、例えば、モノリスゲル、ガラスビーズ等の無機質固定化担体、天然または合成高分子からなるラテックスやビーズ、天然または合成高分子からなる繊維、織布、不織布、中空糸等の有機質固定化担体等を使用することができる。これらの固定化担体は、後述する配向制御を行いやすくする観点から、一級アミノ基を有する固定化担体であることが好ましい。
一級アミノ基を有する市販の固定化担体としては、例えばアミノ-セルロファイン(商品名:生化学工業で販売)、AF-アミノトヨパール(商品名:TOSOHで販売)、EAH-セファローズ4B及びリジン-セファローズ4B(商品名:アマシャムファルマシアで販売)、ポラス20NH(商品名:ベーリンガーマンハイムで販売)などが利用可能である。また、シラン化合物で一級アミノ基を有する化合物(例えば、3-アミノプロピルメトキシシランなど)を用いてガラスビーズなどに一級アミノ基を導入し、利用することも可能である。
中でも、溶液の流路となるマクロポア(マクロ細孔)と、分離の場となるメソポア(メソ細孔)とを備え、上記ポリペプチドを固定しやすく、かつ、全血をも処理可能であり、上記ポリペプチドと検体中のウイルスが含有する高マンノース型糖鎖との結合を効率的に行うことができることから、固定化担体としては、モノリスゲルを用いることが好ましい。
モノリスゲルとは、モノリス材料(モノリス型ポリマー)でできたゲルをいう。モノリス材料は、単一の連続的な構造体から構成され、その構造を貫通する連続的な流路となる孔を有する。モノリスゲルは、水溶液ゾルを作成するゾル化ステップ、得られたゾルを加温してゲルにするゲル化ステップ、得られたゲルを焼成する焼成ステップにより製造することができる。
モノリスゲルは、例えば、シリカを主成分とする反応溶液を、相分離を伴うゾル−ゲル転移を起こさせることにより得られる。ゾル−ゲル反応に用いられるゲル形成を起こす網目成分の前駆体としては、金属アルコキシド、錯体、金属塩、有機修飾金属アルコキシド、有機架橋金属アルコキシド、およびこれらの部分加水分解生成物、部分重合生成物である多量体を用いることができる。水ガラスほかケイ酸塩水溶液のpHを変化させることによるゾル−ゲル転移も、同様に利用することができる。
さらに具体的に、モノリスゲルは、水溶性高分子、熱分解性の化合物を酸性水溶液に溶かし、それに加水分解性の官能基を有する金属化合物を添加して加水分解反応を行い、生成物が固化した後、次いで湿潤状態のゲルを加熱することにより、ゲル調製時にあらかじめ溶解させておいた低分子化合物を熱分解させ、次いで乾燥し加熱して製造することが好ましい。
ここで、上記水溶性高分子は、理論的には適当な濃度の水溶液と成し得る水溶性有機高分子であって、加水分解性の官能基を有する金属化合物によって生成するアルコールを含む反応系中に均一に溶解し得るものであれば良い。具体的には、高分子金属塩であるポリスチレンスルホン酸のナトリウム塩またはカリウム塩、高分子酸であって解離してポリアニオンとなるポリアクリル酸、高分子塩基であって水溶液中でポリカチオンを生ずるポリアリルアミンおよびポリエチレンイミン、あるいは中性高分子であって主鎖にエーテル結合を持つポリエチレンオキシド、側鎖にカルボニル基を有するポリビニルピロリドン等が好適である。また、有機高分子に代えてホルムアミド、多価アルコール、界面活性剤を用いてもよく、その場合多価アルコールとしてはグリセリンが、界面活性剤としてはポリオキシエチレンアルキルエーテル類が最適である。
上記加水分解性の官能基を有する金属化合物としては、金属アルコキシド又はそのオリゴマーを用いることができ、これらのものは例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等の炭素数の少ないものが好ましい。また、その金属としては、最終的に形成される酸化物の金属、例えばSi、Ti、Zr、Alが使用される。この金属としては1種又は2種以上であっても良い。一方オリゴマーとしてはアルコールに均一に溶解分散できるものであればよく、具体的には10量体程度まで使用できる。
また、上記酸性水溶液としては、通常塩酸、硝酸等の鉱酸0.001モル濃度以上のもの、あるいは酢酸、ギ酸等の有機酸0.01モル濃度以上のものが好ましい。
相分離・ゲル化は、溶液を室温40〜80℃で0.5〜5時間保存することにより達成できる。相分離・ゲル化は、当初透明な溶液が白濁してシリカ相と水相との相分離を生じついにゲル化する過程を経る。この相分離・ゲル化で水溶性高分子は分散状態にありそれらの沈殿は実質的に生じない。
あらかじめ共存させる、上記熱分解性の化合物の具体的な例としては、尿素あるいはヘキサメチレンテトラミン、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等の有機アミド類を利用できるが、加熱後の溶媒のpH値が重要な条件であるので、熱分解後に溶媒を塩基性にする化合物であれば特に制限はない。
共存させる上記熱分解性化合物は、化合物の種類にもよるが、例えば尿素の場合には、反応溶液10gに対し、0.05〜0.8g、好ましくは0.1〜0.7gである。また、加熱温度は、例えば尿素の場合には40〜200℃で、加熱後の溶媒のpH値は、6.0〜12.0が好ましい。
また、熱分解によってフッ化水素酸のようにシリカを溶解する性質のある化合物を生じるものも、同様に利用できる。
上記方法では、水溶性高分子を酸性水溶液に溶かし、それに加水分解性の官能基を有する金属化合物を添加して加水分解反応を行うと、溶媒リッチ相と骨格相とに分離したゲルが生成する。生成物(ゲル)が固化した後、適当な熟成時間を経た後、湿潤状態のゲルを加熱することによって、反応溶液にあらかじめ溶解させておいたアミド系化合物が熱分解し、骨格相の内壁面に接触している溶媒のpHが上昇する。そして、溶媒がその内壁面を浸食し、内壁面の凹凸状態を変えることによって細孔径を徐々に拡大する。
シリカを主成分とするゲルの場合には、酸性あるいは中性領域においては変化の度合は非常に小さいが、熱分解が盛んになり水溶液の塩基性が増すにつれて、細孔を構成する部分が溶解し、より平坦な部分に再析出することによって、平均細孔径が大きくなる反応が顕著に起こるようになる。
巨大空孔を持たず3次元的に束縛された細孔のみを持つゲルでは、平衡条件としては溶解し得る部分でも、溶出物質が外部の溶液にまで拡散できないために、元の細孔構造が相当な割合で残る。これに対して巨大空孔となる溶媒リッチ相を持つゲルにおいては、2次元的にしか束縛されていない細孔が多く、外部の水溶液との物質のやり取りが十分頻繁に起こるため、大きい細孔の発達に並行して小さい細孔は消滅し、全体の細孔径分布は顕著に広がることがない。
なお、加熱過程においては、ゲルを密閉条件下に置き、熱分解生成物の蒸気圧が飽和して溶媒のpHが速やかに定常値をとるようにすることが有効である。
溶解・再析出反応が定常状態に達し、これに対応する細孔構造を得るために要する、加熱処理時間は、巨大空孔の大きさや試料の体積によって変化するので、それぞれの処理条件において実質的に細孔構造が変化しなくなる、最短処理時間を決定することが必要である。
加熱処理を終えたゲルは、溶媒を気化させることによって、溝内において、管壁に密着した乾燥ゲルとなる。この乾燥ゲル中には、出発溶液中の共存物質が残存する可能性があるので、適当な温度で熱処理を行い、有機物等を熱分解することによって、目的の無機系多孔質体を得ることができる。なお、乾燥は、30〜80℃で数時間〜数十時間放置して行い、熱処理は、200〜800℃程度で加熱する。
モノリスゲルとしては、例えば、アクリルアミド系、メタクリル酸エステル系、スチレン-ジビニルベンゼン系などの有機系モノリス、シリカモノリス等を用いることができ、後述する一級アミノ基を導入しやすいため、シリカモノリスが特に好適に用いられるが、これに限られるものではない。モノリスゲルの製造方法は、例えば特公平08‐029952号公報、特開平07‐041374号公報に記載されている。ケイ素を含むシリカモノリスの場合、酢酸、ポリエチレングリコール、テトラメトキシシランを混合し、混合溶液を例えば40℃で24時間焼成すればよい。
上記モノリスゲルは、マクロポア径が1μm以上200μm以下であり、メソポア径が10nm以上200nm以下であることが好ましい。上記構成によれば、マクロポア径が血球を通過させうる大きさであると共に、メソポア径が微生物(ウイルスを含む)、癌細胞、エクソソーム等を通過させ得る大きさとなっている。そのため、上記モノリスゲルに上記「高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチド」を固定することによって、微生物、癌細胞、エクソソーム等が有する高マンノース型糖鎖と上記ポリペプチドとを特異的に結合させることができる。したがって、微生物、癌細胞、エクソソーム等に発現している、高マンノース型糖鎖を有するタンパク質を効率よく検体から分離することができる。
なお、メソポア径が200nmを超えると、ゲルの強度が著しく低下し、実使用に耐えないものとなるため好ましくない。
上記モノリスゲルは、マクロポア径が20μm以上200μm以下であり、メソポア径が40nm以上200nm以下であることがより好ましい。上記構成によれば、マクロポアへの負荷圧を軽減しつつ、血球を通過させ、かつ、高分離能を維持することができる。また、上記構成によれば、メソポアが分離対象である微生物、癌細胞、エクソソーム等をより通過させやすくできると共に、単位体積当たりの分離可能な微生物、癌細胞、エクソソーム等の量を高く維持することができる。したがって、微生物、癌細胞、エクソソーム等に発現している、高マンノース型糖鎖を有するタンパク質をより効率よく検体から分離することができ、全血等の検体の処理も容易に行うことができる。
モノリスゲルは上述のようにゾル−ゲル法によって調製することができる。1μm以上200μm以下、20μm以上200μm以下などの所望の大きさのマクロポア径を有するモノリスゲルは、相分離を誘起するために加える水溶性ポリマーの分子量および添加量、相分離のタイミングに影響を与えるブロックコポリマーの添加量等を調整し、ゾルの粘度を調整すること等によって得ることができる。
また、モノリスゲルのメソポア径は、ゲル化後のエージング条件によって制御することができる。例えば、エージングにおける溶媒組成、加熱温度、および加熱時間を調整することによって、10nm以上200nm以下、40nm以上200nm以下などの所望の大きさのメソポア径を有するモノリスゲルを得ることができる。
マクロポア径およびメソポア径は、例えば水銀圧入法等の従来公知の方法によって細孔径の分布を測定することや、モノリスゲルを顕微鏡で観察すること等によって確認することができる。
また、モノリスゲルは市販品を用いてもよい。市販品としては例えば、MonoBisカラム 低圧タイプ 未修飾 品番:3250L30SI マクロポア径1.4μm・メソポア径30nm((株)京都モノテック製)等を用いることができる。
上記「高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチド」は、固定化担体1mlあたり2μg以上固定されることが好ましく、10μg以上固定されることがより好ましく、100μg以上固定されることがさらに好ましく、1mg以上固定されることが特に好ましい。上記構成によれば、固定化担体の単位体積当たりに上記ポリペプチドが高密度に固定化されるため、検体中の微生物、癌細胞、エクソソーム等に発現している、高マンノース型糖鎖を有するタンパク質を検体から効率よく分離する上で好ましい。
なお、上記ポリペプチドの固定化担体1ml当たりの固定化量の上限値は、10mg以下であることが好ましい。
上記ポリペプチドが固定化担体に所望の量固定化されているか否かについては、例えば、反応前後の反応溶液中の上記ポリペプチドの濃度を280nmの吸光度を測定し、測定結果に基づき、反応で消費された上記ポリペプチドの量を求め、この量を固定化量とすることによって確認することができる。
(3)ポリペプチドを固定化担体に固定化する方法
上記ポリペプチドを固定化担体に固定化する方法は特に限定されないが、上記のように高密度に固定化するためには、上記ポリペプチドを配向制御して固定化担体に固定化することが好ましい。配向制御したポリペプチドの固定化とは、ポリペプチドをペプチド鎖の一端で上記固定化担体に固定化することをいい、例えばペプチド鎖のカルボキシ末端で固定化することをいう。配向制御してポリペプチドを固定化する方法としては、例えば特許第2517861号公報、特開2000−119300号公報、特開2003‐344396号公報に記載の方法が挙げられる。
上記固定化担体がモノリスゲルである場合、上記ポリペプチドを固定化するために、モノリスゲルにエポキシ基を導入し、続いてアミノ基含有ポリマーを導入することによって、一級アミノ基をモノリスゲルに高密度に導入することが好ましい。これによって、上記ポリペプチドを効率よく配向制御してモノリスゲルに固定化することができる。
モノリスゲルへのエポキシ基の導入は、例えば、モノリスゲルをエポキシシランの溶液中に浸漬することによって行うことができる。また、一級アミノ基の導入はアミノ基含有ポリマーをモノリスゲル表面に添加し、内部に浸透させればよい。これらの操作によりモノリスゲルにエポキシ基を導入し、さらにエポキシ基に一級アミノ基を共有結合により結合させることができる。
上記一級アミノ基への上記ポリペプチドの固定化の一例として、特開2000−119300号公報に開示の方法に基づく方法について説明する。
上記「高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチド」を、一般式(2)で表す。
NH2 -R1 -COOH・・・(2)
(式中、R1 は任意のアミノ酸残基を表す)
次に、一般式(2)で表されるポリペプチドに、以下の一般式(3)で表されるペプチドが結合した、以下の一般式(4)で表される融合ポリペプチドを作製し、この融合ポリペプチドのSH基をシアノ化することによって、以下の一般式(5)で示されるシアノ基含有ポリペプチドに転換し、これを、以下の一般式(6)に示される固定化担体に導入された一級アミノ基に結合させることによって、以下の一般式(1)で示されるポリペプチドとして固定化担体に固定化することができる。
NH2 -R2 -CO-NH-CH(CH2-SH)-CO-X・・・(3)
(式中、R2 は任意のアミノ酸残基、Xは、OHもしくは任意のアミノ酸残基を表す)
NH2 -R1 -CO-NH-R2-CO-NH-CH(CH2-SH)-CO-X・・・(4)
(式中、R1 及びR2 は任意のアミノ酸残基、Xは、OHもしくは任意のアミノ酸残基を表す)
NH2 -R1 -CO-NH-R2-CO-NH-CH(CH2-SCN)-CO-X・・・(5)
(式中、R1 及びR2 は任意のアミノ酸残基、Xは、OHもしくは任意のアミノ酸残基を表す)
NH2 -Y・・・(6)
(式中、Yは任意の固定化担体を表す)
NH2 -R1-CO-NH-R2-CO-NH-Y・・・(1)
(式中、R1 及びR2 は任意のアミノ酸残基、Yは任意の固定化担体を表す)
一般式(1)に示すように、R2は、固定化しようとする一般式(2)で表されるポリペプチドと、一級アミノ基との間のリンカーペプチド(リンカー配列)となる。R2は任意のアミノ酸残基であり、アミノ酸の種類、数ともに特に限定されないが、例えば、配列番号1に示すグリシン5残基からなる配列、配列番号2に示すグリシン6残基からなる配列などを用いることができる。なお、R1も任意のアミノ酸残基であり、アミノ酸の種類、数ともに特に限定されない。
一般式(3)中、-NH-CH(CH2-SH)-CO-Xで表される部分は、本明細書において固定化反応用配列と称され、一般式(5)に示すようにシアノ化され、シアノ基を有するポリペプチドを生成することによって、一般式(6)で示される固定化担体との反応を可能とする。
固定化反応配列には一般式(3)に示すように、一残基のシステインが含まれていることを要する。XはOHもしくは任意のアミノ酸残基(アミノ酸の種類、数ともに特に限定されない)であり、特に限定されないが、一般式(4)で示される物質の等電点は4〜5であることが好ましく、当該等電点を4〜5に調整することが容易であるため、Xとしてはアスパラギン酸やグルタミン酸を多く含む配列が好適である。例えば、アスパラギン酸6残基からなる配列や、アラニル−ポリアスパラギン酸を好適に用いることができる。アラニル−ポリアスパラギン酸は、一般式(5)に示されるシアノシステインの次位のアミノ酸をアラニンにすることにより、シアノシステイン残基を介したアミド結合形成反応を生じさせやすいことと、アミノ酸側鎖の中でアスパラギン酸のカルボキシル基が最も酸性であるため、上記等電点を4〜5に調整しやすいためである。
固定化反応配列としては、一残基のシステインが含まれていれば特に限定されるものではないが、例えば配列番号3に示す、システイン1残基を含む8残基のアミノ酸からなる配列(CADDDDDD)などを用いることができる。上記Xとしては、固定化反応配列のC末端側に、さらに、上述した精製タグ配列が付加されていることが好ましい。
一般式(2)で表されるポリペプチドの一般式(4)で表される融合ポリペプチドへの転換は、従来公知の組換えDNA手法を用いることによって行うことができる。すなわち、一般式(2)で示されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと、一般式(3)で示されるペプチド配列をコードするポリヌクレオチドとを結合することにより、一般式(4)で示される融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを作製し、これを大腸菌などの宿主生物で発現させ、その後、発現したポリペプチドを分離精製することにより、目的とする上記融合ポリペプチドを作製することができる。
一般式(4)で表される融合ポリペプチドから一般式(5)で表される融合ポリペプチドへの転換、いわゆるシアノ化反応は、シアノ化試薬を用いて行うことができる。シアノ化試薬としては、通常、2-ニトロ-5-チオシアノ安息香酸(2-nitro-5-thiocyanobennzoic acid (NTCB))(Y.Degani, A.Ptchornik,Biochemistry,13,1-11(1974)に記載)または、1-シアノ-4-ジメチルアミノピリジニウムテトラフルオロほう酸(1-cyano-4−dimethylaminopyridinium tetrafluoroborate(CDAP))などを用いる方法が簡便である。
NTCBおよびCDAPは市販のものをそのまま用いることができる。NTCBを用いたシアノ化は、pH7-9の間で効率よく行うことができ、かつ遊離するチオニトロ安息香酸の412nmの吸光度の増加(分子吸光係数=13,600M-1cm-1 )で反応効率を調べることができる。また、SH基のシアノ化は、例えば、文献(J.Wood & Catsipoolas, J.Biol.Chem. 233, 2887(1963))に記載の方法に従っても行うことができる。
一般式(5)で示されるシアノ化された融合ポリペプチドと、一般式(6)で示される固定化担体との反応は、弱アルカリ条件下(pH8〜10)に、室温で行うことができる。
固定化反応を行う溶媒としては、一般式(5)で示されるシアノ化した融合ポリペプチドが溶ける溶媒で、かつpHを調整できる溶媒であれば利用可能である。例えば、リン酸緩衝液、ほう酸緩衝液などの種々の緩衝液、メタノール、エタノールなどのアルコール類の他、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホオキサイドなどが利用可能である。反応温度は、室温で高い反応効率が得られるが、用いる溶媒が凍結もしくは沸騰しない範囲、及び一般式(5)で示されるシアノ化した融合ポリペプチドが変性の結果凝集しない温度範囲であれば問題なく用いることができる。
このように、高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチドを固定化担体に固定することによって、上記ポリペプチドは、ペプチド鎖のカルボキシ末端で上記固定化担体に固定化される。つまり、配向制御して固定化担体に固定化されるため、当該担体に高密度に固定化される。それゆえ、高マンノース型糖鎖の結合効率を向上させることができるため、検体中に含まれる微生物、癌細胞、エクソソーム等に発現している、高マンノース型糖鎖を有するタンパク質をより効率的に検体から分離することができる。また、固定化された上記ポリペプチド同士が互いに衝突することができないため、上記ポリペプチドの変性を可逆的なものとすることができる。
(4)高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチドの構造
本願明細書では、天然から単離したポリペプチドを「天然由来のポリペプチド」と称する。また、天然由来のポリペプチドと同じアミノ酸配列を持つ組換え体を「野生型ポリペプチド」と称し、天然由来のポリペプチドのアミノ酸配列中、システインおよび/またはリジン以外の1個または数個のアミノ酸を他のアミノ酸に置換したポリペプチドも「野生型ポリペプチド」と称する。そして、天然由来のポリペプチドまたは野生型のポリペプチドが有する1以上のシステインおよび/またはリジンを他のアミノ酸に置換したアミノ酸配列を有するポリペプチドを「改変ポリペプチド」と称する。なお、上記「1個または数個」については既に説明したとおりである。
高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチドは、上述のように、ペプチド鎖のカルボキシ末端で上記固定化担体に固定化されていることが好ましい。
天然由来のKAA−1はシステインを1残基含み、リジンを11残基含むが、システインを含まず、リジンを11残基含む改変KAA−1と、上記システイン残基およびリジン残基をそのまま存置したKAA−1とは、ともに、「高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチド」に、リンカー配列、固定化反応用配列および精製タグ配列を付加したポリペプチドである「担体固定化用ポリペプチド」の調製に成功している。なお、担体固定化用ポリペプチドは、上述した一般式(4)に示すポリペプチドに相当する。
また、天然由来のBCAはシステインを1残基含み、リジンを10残基含むが、システインを含まず、リジンを9残基含む改変BCAと、野生型BCAとは、ともに、担体固定化用ポリペプチドの調製に成功している。
さらに、天然由来のOAAはシステインを含まず、リジンを1残基含むが、システインおよびリジンを含まない改変OAAも、担体固定化用ポリペプチドの調製に成功している。
以上のことから、担体固定化用ポリペプチドを調製するためには、(1)高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチドの天然由来のアミノ酸配列が、システイン残基を1個以下有すること;(2)高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチドの天然由来のアミノ酸配列が、システイン残基を含まないこと;もしくは、(3)高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチドの天然由来のアミノ酸配列が、システイン残基およびリジン残基を含まないこと、という条件のいずれかを満たすことがより好ましい。
なお、「高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチドの天然由来のアミノ酸配列」とは、天然から単離された上記ポリペプチドと同一のアミノ酸配列をいう。
上記一般式(2)に示す、天然由来の「高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチド」のR1がシステイン残基を含まない場合は、一般式(4)に示す担体固定化用ポリペプチド中のR1がシアノ化され、固定化用担体への固定化反応の際に加水分解されてしまうことを回避することができるため、上記R1がシステイン残基を含まないこと(上記条件の(2)(3))が最も好ましい。
上記R1がシステイン残基を1個含む場合は、システイン残基が外部に露出せずに存在し得るため、上記条件の(1)の場合も上記固定化反応を好適に行い得る。上記R1がシステイン残基を2個以上含む場合は、SS結合が存在する可能性があり、R1がシアノ化される可能性が高いため好ましくない。
なお、「高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチド」の天然由来のアミノ酸配列の一部が改変されたポリペプチドである、野生型のポリペプチドおよび改変ポリペプチドが、アミノ酸配列中にシステイン残基を含まないこと、等の上記条件を満たしていても、野生型のポリペプチドおよび改変ポリペプチドに対応する天然由来のポリペプチドのアミノ酸配列が上記条件を満たしていない場合は、担体固定化用ポリペプチドを調製する上で好ましくない。例えば、改変BPL−17、野生型BPL−17、改変MPL−1および野生型MPL−1の発現が不首尾であったという結果が得られている。
以上述べたように、高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチドを固定化用担体に配向制御して固定化するためには、上述したように、まず上記担体固定化用ポリペプチド(上記一般式(4)に示すポリペプチドに相当する)を調製することが好ましい。そのため、高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチドが上記条件のいずれかを満たす場合、上記配向制御を行う上で好適であると考えられる。
(5)検体およびタンパク質の分離
本発明に係るタンパク質分離デバイスは、高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチドが固定化担体に固定されているため、検体中に高マンノース型糖鎖を有するタンパク質が含有されていれば、これを効率よく検体から分離することができ、当該タンパク質を有する微生物(ウイルスを含む)、エクソソーム、癌細胞、ウイルスに感染した細胞等をも分離することができる。
例えば特許文献1にはGNA、NPA、ConAおよびシアノビリンからなる群より選択されるレクチンを、多孔性中空糸膜の多孔質性の外側部分に固定し、血液を当該多孔性中空糸に通過させることが開示されている(特許文献1の請求項7、9等)。
しかし、上記GNA、NPA、ConAは、文献および解析データ等から、高マンノース型糖鎖以外に単糖のマンノース、トリマンノシルコア構造(N−グリカンの共通構造のコアペンタサッカライド)、複合型糖鎖、および混成型糖鎖にも結合することが分かっている(GNA/NPAについては、レクチンフロンティアデーターベース(http://jcggdb.jp/rcmg/glycodb/LectinSearch)、ConAについては、Mega, T. et al., J.Biochem., 111, 396-400,(1992))。また、シアノビリン−N(CV−N)は遊離のマンノビオースおよび高マンノース型糖鎖と結合するが、高マンノース型糖鎖中の分岐マンノシドのD1およびD3アームの非還元末端のα(1−2)Man残基を認識部位とし、D2アームの非還元末端のα(1−2)Man残基は認識部位としない。
一方、上述したように、本願発明で用いる「高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチド」は、高マンノース型糖鎖に対する結合性を有し、かつ、複合型糖鎖および混成型糖鎖に対する結合性を有さないポリペプチドである。また、認識する高マンノース型糖鎖の分岐マンノシド構造は既知レクチンとは異なり新規性がある。具体的には、上記ポリペプチドは、上述したように、タイプIAレクチン、タイプIBレクチン、タイプIIレクチン、タイプIIIレクチンおよびタイプIVレクチンからなる群より選ばれる1種または2種以上のレクチンであり、当該レクチンの分岐マンノシドの認識部位は、上記(1)の(a)〜(e)に記載したとおりである。
そのため、本発明で用いる上記ポリペプチドは、特許文献1で用いられているCV−Nとは、高マンノース型糖鎖の分岐マンノシドの認識部位が異なる。また、GNA、NPA、ConAのように、複合型糖鎖、および混成型糖鎖を認識しない。
つまり、微生物、癌細胞、エクソソーム等に発現しているタンパク質が有する高マンノース型糖鎖を特異的に認識し、当該タンパク質を効率良く分離可能なデバイスは、これまでに存在していなかった。
一方、上記タンパク質分離デバイスには、高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチドが固定化担体に固定されているため、検体中に含有される微生物、癌細胞、エクソソーム等に発現している、高マンノース型糖鎖を有するタンパク質を、糖鎖構造特異的に分離することができる。換言すれば、本発明に係るタンパク質分離デバイスは、所望の構造の高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチドを用いることにより、目的のタンパク質を特異的に分離することができる。そのため、微生物(ウイルスを含む)、エクソソーム、癌細胞、ウイルスに感染した細胞等から、分離したいターゲットを、より特異的に分離することができる。例えば、様々な細胞に由来するエクソソームを含む検体から目的のタンパク質(および当該タンパク質を発現しているエクソソーム)を、高マンノース型糖鎖の構造に基づいて分離することができる。
本発明に係るタンパク質分離デバイスは、高マンノース型糖鎖を有するタンパク質を、高マンノース型糖鎖の構造の違いによって分離することができる。本明細書において、「タンパク質を、高マンノース型糖鎖の構造の違いによって分離する」とは、検体中に高マンノース型糖鎖を有するタンパク質が複数種類含まれている場合であっても、固定化担体に固定されたポリペプチドが特定の構造を有する高マンノース型糖鎖のみに結合し、当該特定の構造を有する高マンノース型糖鎖を有するタンパク質のみを検体から分離することを意味する。
例えば、上記ポリペプチドとして、タイプIAレクチンおよび/またはタイプIBレクチンを使用する場合、高マンノース型糖鎖のD2アームの非還元末端にα(1−3)Man残基を有するタンパク質を特異的に分離することができる。また、上記ポリペプチドとしてタイプIIレクチンを使用する場合、高マンノース型糖鎖のD1アーム、D2アームまたはD3アームの非還元末端にα(1−2)Man残基を有するタンパク質を特異的に分離することができる。さらに、上記ポリペプチドとしてタイプIVレクチンを使用する場合、高マンノース型糖鎖のD3アームの非還元末端にα(1−2)Man残基を有するタンパク質を特異的に分離することができる。
検体としては、固定化担体に固定された上記ポリペプチドに接触させることができるものであれば、特に限定されない。例えば、血液(全血、血漿、血清等)、髄液、リンパ液、涙、尿、汗、精液、唾液、鼻粘膜、植物および動物のその他の体液、便、細胞培養上清、組織塊由来物等を挙げることができる。これらはそれ自体を検体として用いてもよいし、例えばMEM培地や生理食塩水等に添加して調製した液体として用いることもできる。
また、「細胞」とは、多細胞生物の細胞だけではなく、微細藻類等の単細胞性微生物も含まれる意味である。
また、検体が、上記ポリペプチドが凝集させるものでなければ、効率的にタンパク質の分離を行うことができるため、より好ましい。上記ポリペプチドと接触した場合にも特に凝集しにくい検体としては、ヒトの全血、血漿、血清、唾液、鼻粘膜、尿、その他の体液等を挙げることができる。
なお、上述の特許文献1では、レクチンが多孔性中空糸膜の多孔質性の外側部分に固定されている。つまり、当該レクチンは血球と接触しないようにされている。このことから、当該レクチンの血液適合性は高いものではないと推察される。
本発明に係るタンパク質分離デバイスは、上記検体がヒトの全血である場合も、上記全血を上記ポリペプチドに接触させることによって、上記全血に含有されるウイルスおよび/またはウイルスに感染した細胞上に発現しているタンパク質を上記全血から分離可能である。
例えば、上記特許文献1で用いられているレクチンは、赤血球凝集作用を有する。そのため、上記レクチンは、ヒトの全血を対象として血中ウイルスを分離するデバイス等には直接使用することができず、血漿分離後に接触させることなどの必要があった。つまり、ヒトの全血をポリペプチドに直接接触させてウイルスおよび/またはウイルスに感染した細胞を全血から分離することができるデバイスはこれまでに存在していなかった。
一方、上記タンパク質分離デバイスには、高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチドが固定化担体に固定化されているため、血液適合性が非常に高い。つまり、ヒト赤血球凝集作用は非常に低く、補体活性に与える影響も非常に小さい。それゆえ、ヒトの全血に上記ポリペプチドが直接接触しても何ら全血に与える影響はない。
したがって、ヒトの全血を検体とし、ヒトの全血に含有されるウイルスおよび/またはウイルスに感染した細胞に発現しているタンパク質を上記全血から分離することができる。
このように、本発明に係るタンパク質分離デバイスは、ヒトの全血を検体とすることができるので、例えば患者の全血を採取して、ペリスタポンプ等を用いて上記デバイスに導入し、高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチドに接触させて全血中のウイルスおよび/またはウイルスに感染した細胞等を全血から分離し、分離後の全血を再び患者の体内に戻すという体外循環の工程によって、患者の全血中に含まれているウイルスおよび/またはウイルスに感染した細胞に発現しているタンパク質を分離することができる。分離したウイルスおよび/またはウイルスに感染した細胞は、患者に戻すことなく廃棄すればよい。
もちろん、分離の態様は全血の体外循環に限られるものではなく、例えば、唾液の希釈液を上記デバイスに導入し、ウイルスを分離した後、上記ポリペプチドに結合したウイルスに発現しているタンパク質を解析して、患者がいかなるウイルスに感染しているかを確認することなどの用途に用いることもできる。
上記ポリペプチドを固定した固定化担体は、検体を導入しやすくし、かつ、上記ポリペプチドへの高マンノース型糖鎖の固定を円滑に行うために、カラム等に充填して用いることが好ましい。カラムとしては、例えば、従来公知のスピンカラム、液体クロマトグラフィー用のステンレスカラム等を用いることができる。
分離の対象となる高マンノース型糖鎖を有するタンパク質は、例えば、検体中に含まれる微生物、エクソソーム、癌細胞、ウイルスに感染した細胞等に発現しているものであればよい。例えば、高マンノース型糖鎖を有するタンパク質は、検体中に含まれる微生物、エクソソーム、癌細胞、ウイルスに感染した細胞の表面タンパク質として発現している。
本明細書において、「微生物」は、ウイルスを含む意味である。上記微生物としては、ウイルス、リーシュマニア、カンジダ・アルビカンス、マイコバクテリウムおよび住血吸虫等が挙げられる。
上記ウイルスとしては、例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、単純ヘルペスウイルス、C型肝炎ウイルス(HCV)、ウエストナイルウイルス、デングウイルス、エボラウイルス、マールブルグウイルス、黄熱ウイルス、サイトメガロウイルス、重症急性呼吸器症候群(SARS)ウイルス、インフルエンザウイルスおよび重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルスからなる群より選ばれる1種または2種以上のウイルスを挙げることができる。
上記エクソソームとしては、癌細胞に由来するエクソソーム、免疫細胞に由来するエクソソーム、および、母乳中のエクソソーム等が挙げられる。上記癌細胞としては、乳癌、前立腺癌、卵巣癌およびメラノーマからなる群より選ばれる1種または2種以上の癌の細胞が挙げられる。なお、高マンノース型糖鎖を有するタンパク質は、癌細胞上に発現しているものであってもよいし、癌細胞から分泌されたエクソソーム上に発現しているものであってもよい。
上記ウイルスに感染した細胞としては、例えば、レトロウイルスに感染した細胞が挙げられる。レトロウイルスとしては、HIV等が挙げられる。
本発明に係るタンパク質分離デバイスでは、上記固定化担体上に、上記ポリペプチドが2種以上、アレー状に配置されていることが好ましい。本明細書において「アレー状に配置」とは、上記固定化担体上に、上記ポリペプチドが、規則的に配列されていることを指す。例えば、「アレー状に配置」とは、上記固定化担体上に、上記ポリペプチドが、一定の間隔で、平行な複数の列状に配置されている場合が挙げられる。
上記固定化担体上に、上記ポリペプチドが2種以上配置されている場合、当該2種以上のポリペプチドのそれぞれが特異的に結合する高マンノース型糖鎖を有するタンパク質を検体から同時に分離可能であるため、好ましい。例えば、上記固定化担体上に、ポリペプチドAとポリペプチドBとが配置されている場合、ポリペプチドAが特異的に結合するタンパク質aと、ポリペプチドBが特異的に結合するタンパク質bとを検体から同時に分離することが可能である。
なお、上記デバイスによる、検体からのタンパク質の分離は、TCID50法、蛍光抗体法等の方法によって確認することができる。
(6)タンパク質を分離する方法
本発明に係る、高マンノース型糖鎖を有するタンパク質を、高マンノース型糖鎖の構造の違いによって分離する方法は、高マンノース型糖鎖を有するタンパク質を含んでいる検体を、高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチドに接触させる工程を含み、上記ポリペプチドは、タイプIAレクチン、タイプIBレクチン、タイプIIレクチン、タイプIIIレクチンおよびタイプIVレクチンからなる群より選ばれる1種または2種以上のレクチンである。
高マンノース型糖鎖を有するタンパク質を含んでいる検体を、高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチドに接触させる方法としては、上記「(5)検体およびタンパク質の分離」に記載の方法を用いることができる。
上記方法によれば、所望の構造の高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチドを用いることによって、目的のタンパク質を特異的に分離することができる。そのため、微生物(ウイルスを含む)、エクソソーム、癌細胞、ウイルスに感染した細胞等から、分離したいターゲットを、より特異的に分離することができる。例えば、様々な細胞に由来するエクソソームを含む検体から目的のタンパク質(および当該タンパク質を発現しているエクソソーム)を、高マンノース型糖鎖の構造に基づいて分離することができる。
また、本方法は、高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチドを、固定化担体に固定する工程を含んでいてもよい。高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチドを、固定化担体に固定する方法としては、上記「(3)ポリペプチドを固定化担体に固定化する方法」に記載の方法を用いることができる。
(7)高マンノース型糖鎖の構造を決定する方法
本発明に係る、高マンノース型糖鎖を有するタンパク質における高マンノース型糖鎖の構造を決定する方法は、
(i)高マンノース型糖鎖を有するタンパク質を含んでいる検体を、上記高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチドに接触させる工程と、
(ii)上記高マンノース型糖鎖を有するタンパク質と、上記高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチドとの結合性を評価することによって、上記高マンノース型糖鎖の構造を決定する工程とを含み、
上記ポリペプチドは、タイプIAレクチン、タイプIBレクチン、タイプIIレクチン、タイプIIIレクチンおよびタイプIVレクチンからなる群より選ばれる1種または2種以上のレクチンである。
工程(i)において、高マンノース型糖鎖を有するタンパク質を含んでいる検体を、高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチドに接触させる方法としては、上記「(5)検体およびタンパク質の分離」に記載の方法を用いることができる。
工程(ii)においては、上記ポリペプチドと分離されたタンパク質との結合性に基づき、当該タンパク質が有する高マンノース型糖鎖の構造を決定する。例えば、上記ポリペプチドとして、タイプIAレクチンおよび/またはタイプIBレクチンを使用する場合、分離されたタンパク質は、高マンノース型糖鎖のD2アームの非還元末端にα(1−3)Man残基を有していると決定することができる。また、上記ポリペプチドとしてタイプIIレクチンを使用する場合、分離されたタンパク質は、高マンノース型糖鎖のD1アーム、D2アームまたはD3アームの非還元末端にα(1−2)Man残基を有していると決定することができる。さらに、上記ポリペプチドとしてタイプIVレクチンを使用する場合、分離されたタンパク質は、高マンノース型糖鎖のD3アームの非還元末端にα(1−2)Man残基を有していると決定することができる。
また、上記ポリペプチドとして、2種以上のポリペプチドを使用した場合、より詳細に高マンノース型糖鎖の構造を決定することができるため、好ましい。例えば、糖鎖中の構造aに特異的に結合するポリペプチドAが固定されたデバイスと、糖鎖中の構造bに特異的に結合するポリペプチドBが固定されたデバイスを使用する場合について検討する。ここで、あるタンパク質が、ポリペプチドAが固定されたデバイスに結合し、ポリペプチドBが固定されたデバイスには結合しなかった場合、当該タンパク質が有する高マンノース型糖鎖は、構造aを有するが構造bを有しないと決定することができる。
また、本方法は、高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチドを、固定化担体に固定する工程を含んでいてもよい。高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチドを、固定化担体に固定する方法としては、上記「(3)ポリペプチドを固定化担体に固定化する方法」に記載の方法を用いることができる。
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
以下、実施例に従って本発明を説明するが、本発明は実施例に限定されて解釈されるものではない。
〔実施例1:ヒトヘルペスウイルスと藻類由来レクチンとの結合性の確認〕
ポリペプチドのヒトヘルペスウイルス結合能の指標とするために、各タイプの藻類由来レクチン(高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチド)による単純ヘルペスウイルス感染性中和能を測定した。
藻類由来レクチンを、1μM、316nM、100nM、31.6nM、10nM、3.16nM、1nMに希釈した。藻類由来レクチンとしては、タイプIAのKAA−1、タイプIBのOAA、タイプIIのBCA、タイプIVのMPL−1を用いた。
VR−3株100個程度を含む培養液10μLを、上記レクチンの希釈液90μLと混和して室温で10分間インキュベートした。その後、細胞培養液DMEMで10倍に希釈した。得られた希釈液50μLを、9x28mmガラスカバースリップ上に培養したヒト喉頭癌由来HEp−2細胞に感染させた。18時間後に3%パラホルムアミドで感染細胞を固定し、抗ヘルペスウイルス抗体(ウサギ抗血清)とDylight488標識抗ウサギIgG抗体(アブカム社)とを用いて蛍光染色した。感染の有無を判定し、ウイルス増殖を阻止する最小濃度(MIC:minimum inhibitory concentration)を求めた。試験は各レクチンについて3回以上行い、再現性のあるMICを決定した。
試験に供した藻類由来レクチンと、そのMIC(nM)とを表1にまとめた。
単純ヘルペスウイルスの感染は、タイプIAのレクチンによって強く阻害され、タイプIBのレクチンによって緩やかに阻害される。単純ヘルペスウイルスは、D2アームの非還元末端にα(1−3)Man残基を有する高マンノース型糖鎖を有するタンパク質を備えていることが明らかである。タイプIAおよびタイプIBにおける結合性の差は、糖鎖結合ドメイン部位が4つある4リピート構造をもつか、糖鎖結合ドメイン部位が2つある2リピート構造をもつかの差により生ずるものである。また、単純ヘルペスウイルスの感染はタイプIVのレクチンによっても強く阻害された。このことから、単純ヘルペスウイルスがD3アームの非還元末端にα(1−2)Man残基を有する高マンノース型糖鎖を有するタンパク質を備えていることが明らかである。また、単純ヘルペスウイルスは、D2アームの非還元末端にα(1−3)Man残基を有し、且つD3アームの非還元末端にα(1−2)Man残基を有する高マンノース型糖鎖を有するタンパク質を備えていることも予想される。
〔実施例2:HIVと藻類由来レクチンとの結合性の確認〕
ポリペプチドのHIV結合能の指標とするために、藻類由来レクチンによるHIV感染性中和能を測定した。
藻類由来レクチンを、細胞培養用平底96ウェルプレートで、ウイルス混和時のレクチン終濃度が1μMから1nMの範囲になるように2倍段階希釈を行った(1希釈あたり4あるいは8ウェルずつ)。藻類由来レクチンとしては、タイプIAのESA−2、KAA−1、KAA−2、タイプIBのOAA、タイプIIのBCA、タイプIVのMPL−1を用いた。
HIV−1 LAV株(pNL4−3由来)100個程度を各ウェルに添加して10分間インキュベートした。その後、Jurkat細胞を1ウェルあたり、5×104個加えて、1週間程度培養した。Jurkat細胞での膜融合の出現を指標にして、上記レクチンによって膜融合発現が50%阻止される希釈率をBehrens-Karber法で評価し、50%阻止濃度(IC50)を算出した。同時に、添加ウイルス量を定量し、ウイルス100個を50%阻止する濃度として補正した。実験は時期を変えて少なくとも3回行い、その平均値を得た。
試験に供した藻類由来レクチンと、その50%阻止濃度(nM)とを表2にまとめた。
HIVは、高マンノース型糖鎖を有する糖タンパク質GP120をTリンパ球のCD4に結合させて感染する。タイプIA、タイプIB、タイプII、タイプIVのレクチンを用いることによって、HIVの感染を阻害することができた。このことは、GP120がD2アームの非還元末端にα(1−3)Man残基を有する高マンノース型糖鎖およびD3アームの非還元末端にα(1−2)Man残基を有する高マンノース型糖鎖を有していることを示唆している。
タイプIVレクチンによる阻害活性が特に高いことは、GP120の高マンノース型糖鎖分子種(M5〜M9)の存在比に関して、D3アームの非還元末端にα(1−2)Man残基を有する分子種が多いことを示唆していると考えられる。
〔実施例3:QCMを用いた藻類由来レクチンとエクソソームとの結合性の確認〕
メラノーマ細胞A375を3日間培養し、培養上清を得た。当該培養上清を1,700Gで10分間遠心分離した。得られた上清を19,000Gで20分間遠心分離した。さらに、得られた上清を100,000Gで70分間遠心分離し、エクソソームのペレットを得た。これを再懸濁し、サンプル液とした。
日本電波工業製のQCM(NAPiCOS)とツインセンサーチップとを用いて、以下の様に、エクソソームとタイプIVレクチンであるMPL−1との結合性を検討した。
MPL−1としては、His−rMPL1を用いた。His−rMPL1の調製方法を以下に示す。まず、大腸菌コドンに最適化したMPL−1をコードする合成DNAを鋳型に、MPL−1翻訳領域をPCRによって増幅した。アガロースゲル電気泳動により、明りょうなPCR増幅産物のバンドが確認されたので、これを、FastgeneTMゲル/PCR抽出キット(日本ジェネティクス製)を用いて、マニュアルに従って精製した。
上記増幅産物を、酵素処理により線状化したプラスミドベクターpCold I(タカラバイオ製)に、In−fusion反応を利用して組み込み、発現用コンストラクトpCold I−MPL1を調製した。pCold Iは、図1に示すように、cspA(cold shock protein A)プロモーターの下流に5’非翻訳領域(5’UTR)、翻訳促進タグTEE(translation enhancing element)、Hisタグ配列およびFactor Xa切断配列などを含んでいる。In−fusion反応はIn−Fusion(登録商標) HD Cloning Kit(Clontech製)を用い、マニュアルに従って行った。
上記発現用コンストラクトを用いて大腸菌SHuffle Express株(New England Biolabs製)を形質転換した。得られたpCold I−MPL1/SHuffle Express株を600mLのLB/Amp+液体培地中で培養し、集菌後の可溶性画分を得た。この画分を、ニッケルキレートカラムを用いるアフィニティークロマトグラフィーに供し、His−rMPL1を得た。
センサーチップの金電極のch1に0.1mg/mLのHis−rMPL1、ch2に0.1mg/mLの抗CD63抗体を1時間、室温で固相化した。その後、フローセルにおいて、反応を行った。反応条件は以下の通りである。
センサー:30MHzツインセンサー(PSA-SE-3002T)
サンプル量:20μL
送液バッファー:リン酸塩緩衝液(PBS)
流速:5μL/min
ブロッキング:0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)
アナライト1:1mg/mL A375−MV(エクソソーム、タンパク質)
アナライト2:100μg/mL 抗CD63抗体
結果を図2および表3に示す。図2は、レクチンおよび抗体を固定したQCMにおける周波数の経時的変化を示すグラフである。QCMにおいては、電極上に結合した分子の重量の変化に伴い、電極の共振の周波数が変化する。図2に示すように、矢印(a)の時点でエクソソームを導入すると、周波数が変化した。矢印(1)で示される範囲における周波数変化は、各電極上に固定化された分子とエクソソームとの結合に伴うものである。QCMにおける周波数変化は、反応したサンプル中のエクソソーム量に比例する。図2に示すように、レクチンを固定化した電極においては、抗CD63抗体(エクソソームに対する抗体)を固定化した電極より多くのエクソソームが捕捉されることがわかった。捕捉された物質が、エクソソームであることを確認するために、図2中の矢印(b)の時点で抗CD63抗体をさらに反応させた。矢印(2)で示される範囲における周波数変化は、エクソソームと追加で導入した抗CD63抗体との結合に伴うものである。エクソソーム量におおよそ比例して抗CD63抗体が結合し、捕捉された物質がエクソソームであることが証明された。
この結果より、メラノーマ細胞由来のエクソソームは、高マンノース型糖鎖を発現しており、少なくとも、D3アームの非還元末端にα(1−2)Man残基を有する高マンノース型糖鎖を有することが明らかである。
〔実施例4:レクチンを固定化したカラムによるエクソソームの分離〕
スピンカラムに充填された固定化担体であるシリカモノリスに、タイプIBのレクチンであるOAAを固定化することによって得られたOAA固定化シリカモノリススピンカラム(タンパク質分離デバイス)を用いて、エクソソーム(およびエクソソーム上に発現したタンパク質)の分離を行った。
担体固定化用ポリペプチドのシリカモノリスへの固定化においては、固定化反応の場となる固相表面の表面官能基として1級アミノ基の導入を行った。1級アミノ基の導入にあたり、未修飾のシリカモノリス(未修飾シリカモノリスと称する)にエポキシ基を持つシランカップリング剤を反応させて、固相表面にエポキシ基が導入されたシリカモノリス(エポキシ化シリカモノリスと称する)を作製した。これに1級アミノ基を側鎖に持つアミノポリマーであるポリ−L−リジンを反応させることにより、固相表面に1級アミノ基が導入されたシリカモノリス(アミノ化シリカモノリスと称する)を作製した。
ポリ−L−リジンは固相表面に導入されたエポキシ基と重合することにより、均一な膜を形成し固相表面を被覆することができる。これにより、固相表面に露出するシリカを減少させ、生体物質と非特異的に吸着することを防止する効果もある。このようにして作製したアミノ化シリカモノリスに、シアノシステイン化した改変レクチンタンパク質を反応させて固定化を行い、反応終了後に、未反応のまま残存したアミノ基を無水酢酸で処理した。アミノ化シリカモノリスの調製と担体固定化用ポリペプチドの調製、および、固定化についての詳細は以下のように実施した。
未修飾シリカモノリスへのエポキシ基の導入(即ち、エポキシ化シリカモノリスの作製)は、トルエンで20%に希釈したエポキシシラン(3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン)溶液の中に未修飾シリカモノリスを浸し、80℃で一晩放置することによって行った。
次に、アミノ基含有ポリマーであるポリ−L−リジン(分子量4,000〜15,000:シグマ社より購入)が0.2%(w/v)となるよう20mMのほう酸緩衝液(pH9.5)で溶かし、スピンカラムに充填されるシリカモノリスの体積の6倍量を調製した。この溶液全量を、上記で作製したエポキシ化シリカモノリスの表面に添加し、16時間穏やかに攪拌しながら反応させた。即ち、ポリ−L−リジンをエポキシ化シリカモノリス内に浸みこませ、エポキシ基に共有結合させて、アミノ基をエポキシ化シリカモノリスに導入(即ち、アミノ化シリカモノリスの作製)した。
その後、0.5M塩化ナトリウムを含む20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)でアミノ化シリカモノリスを洗浄し、引き続いて0.5M塩化ナトリウムを含む0.5Mモノエタノールアミン溶液(pH=8.5に塩酸で調節)に上記アミノ化シリカモノリス全体を浸し、12時間穏やかに攪拌することにより、残存エポキシ基をブロッキングするとともに未反応のポリ−L−リジンを除去した。この後、スピンカラムに充填されるシリカモノリスの体積の5倍量の超純水で数回洗浄することにより、モノエタノールアミンおよび未反応のポリ−L−リジンを除去した。その後上記アミノ化シリカモノリスを乾燥させた。得られたアミノ化シリカモノリス(マクロ細孔径2μm、メソ細孔径60nm)を径約4mm、厚さ2mmの円柱状に成型し、スピンカラムに充填した。
次に、OAAの調製方法を説明する。OAAとしては、天然由来のOAAを改変した改変OAAを用いた。天然由来のOAAのアミノ酸配列を配列番号5に示す。天然由来のOAAは、アミノ酸配列中にシステイン残基を含まず、N末端から128番目にリジン1残基を含む。ここで、アミノ酸配列中、128番目のリジンをアルギニンに置換し、82番目のプロリンをフェニルアラニンに置換して改変OAAを調製した。なお、本願明細書において、天然由来のポリペプチドのアミノ酸の一部が置換されたポリペプチドの調製は常法に従って行った。
改変OAAをアミノ化シリカモノリスに固定するに際しては、特開2000−119300に開示の方法を用い、上記改変OAAの組換え体である担体固定化用ポリペプチドを調製した。上記組換え体とは、レクチンのカルボキシ末端にリンカー配列、固定化反応用配列、および精製タグ配列を付加したものである。
上記リンカー配列としては、配列番号1に示すグリシン5残基からなる配列を用いた。また、上記固定化反応用配列としては、配列番号3に示す、システイン1残基を含む8残基のアミノ酸からなる配列を用いた。精製タグ配列としては、配列番号4に示すヒスチジン6残基からなる配列を用いた。
図3は、組換え体である担体固定化用ポリペプチドの構造の概略を示す模式図である。図中の藻類由来レクチンが、上記改変OAAに該当する。図に示すように、藻類由来レクチンのカルボキシ末端側にリンカー配列、固定化反応用配列および精製タグ配列が付加されている。
上記担体固定化用ポリペプチドの調製は、上記改変レクチンのポリペプチドをコードする塩基配列において、開始コドン(ATG)の上流側に所定の80塩基対からなる配列を導入し、終始コドン(TAA)の下流側にEcoRI配列(6塩基対)を導入して調製した合成DNA(TAAGAATTC)をpUC18のBamHI/EcoRI部位に挿入することによって得られた組換えプラスミドを用いて行った。上記80塩基対からなる配列および開始コドンを配列番号12に示す。
調製した上記担体固定化用ポリペプチドのアミノ酸配列を、配列番号10に示す。配列番号10は改変OAAのアミノ酸配列にリンカー配列、固定化反応用配列および精製タグ配列を付加した担体固定化用ポリペプチドのアミノ酸配列を表す。
配列番号10に示す上記担体固定化用ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列(開始コドンおよび終始コドンは記載せず)を、配列番号11に示す。
上記担体固定化用ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを増幅し、得られたポリヌクレオチドを制限酵素BamHIで切断後、BamHIで切断したクローニングベクターpUC19と結合し、得られた組み替えプラスミドを大腸菌に導入することにより、上記担体固定化用ポリペプチドを大腸菌の菌体中に発現できたか否かを確認した。その結果、上記担体固定化用ポリペプチドを大腸菌の菌体中に発現することができた。
得られた培養菌体を破砕後、遠心分離により不溶性物質を取り除いた上清から、クロマトグラフィーにより、上記担体固定化用ポリペプチドを精製した。クロマトグラフィーは、ニッケルキレートカラム、イオン交換、ニッケルキレートカラムの順に用いて行った。
上記精製タンパク質として得られた担体固定化用ポリペプチドを、以下「OAA−1」と称する(配列番号10)。OAA−1を配向制御して固定化担体に固定化するために、すなわち、OAA−1がカルボキシ末端のカルボキシル基で、固定化担体が有するアミノ基と共有結合することによって上記固定化担体に固定化される(OAA−1をカルボキシ末端の一箇所で、かつ主鎖を介して固定化担体に結合させる)ようにするために、システイン残基のシアノ化反応を行った。
まず、シアノ化反応を効率よく行うためにOAA−1を前処理に供した。具体的には、スピンカラムに充填されたシリカモノリスの体積1mLあたり12mgのOAA−1とジチオスレイトール4.5mgを、2.5mMのEDTAを含む10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)に溶かして、該シリカモノリス体積と等量の試料溶液を調製した。これを30℃の恒温槽で1時間反応させることで担体固定化用ポリペプチドに含まれているシステインによるジスルフィド結合を還元した。
その後脱塩カラム(GEヘルスケア社製、HiPrep 26/10 Desalting)を用いてバッファ交換を行い、該OAA−1のシアノ化を行った。具体的には、シアノ化試薬である2−ニトロ−5−チオシアノ安息香酸(NTCB)を1mM含む20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)で予め該脱塩カラムを平衡化しておき、これにジチオスレイトールを含む上記試料溶液を添加してバッファ交換することにより、該試料溶液に含まれている過剰量のジチオスレイトールを速やかに除くと同時に、該ポリペプチドの溶媒を該NTCB溶液に速やかに置換した。
このようにして上記OAA−1のシアノ化反応を行い、シアノ化された試料を、再び上記脱塩カラムを用いたバッファ交換に供し、NTCBおよび反応副産物を除去して20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)に置換した。このようにして得られたシアノ化された上記OAA−1を、上記の1級アミノ基が導入されたアミノ化シリカモノリスに添加して緩やかに振盪しながら30分間吸着させた。その後、0.5Mほう酸緩衝液(pH9.5)を、シアノ化された上記OAA−1の添加量の1/4倍量添加して反応系のpHを9.2とし、室温で緩やかに振盪しながら、OAA−1のアミノ化シリカモノリスへの固定化反応を開始した。固定化反応は20時間行って終了させた。
反応終了後に反応液を取り除き、固定化されなかった残存ポリペプチドに対して、0.5M塩化ナトリウムを含む20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)で洗浄した。具体的には、固定化後のシリカモノリスに、スピンカラムに充填されたシリカモノリスの体積の5倍量の上記塩化ナトリウムを含む緩衝液を添加して洗浄する操作を数回繰り返し、未反応の残存ポリペプチドを除去した(洗浄工程)。引き続いて、無水酢酸を1.5M酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.2)に溶かして1%(v/v)濃度に調製した溶液を、スピンカラムに充填されたシリカモノリスの体積の5倍量調製し、固定化後のシリカモノリスに添加して10分間反応させた後、溶液を取り除く、という一連の操作(洗浄工程)を5回繰り返し行うことで、未反応のまま残存した固相表面の一級アミノ基をアセチル化し、残存一級アミノ基の保護を行った。
次にサンプル液について、説明する。メラノーマ細胞A375を3日間培養し、培養上清を得た。得られた培養上清を1,700Gで10分間遠心分離した。さらに得られた上清を19,000Gで20分間遠心分離した。得られた上清を孔径0.22μmのフィルターを用いてろ過し、得られたろ液をサンプル液とした。
サンプル液のタンパク質濃度は、約1mg/mLであった。このサンプル液500μLを、ペリスタポンプを用いて5分間、スピンカラムをフロースルーさせた。
その後、500μLのPBSをアプライし、700rpmで遠心して、洗浄した。この洗浄を3回繰り返した。その後、カラムに吸着されたエクソソームから、500μLのSDSバッファーを用いてタンパク質を抽出した。抽出したサンプルの25μLをアプライして、ウエスタンブロットを行った。このOAA固定化シリカモノリススピンカラムから抽出されたタンパク質は、エクソソームマーカーであるAlix、CD63、Flotillin−1に対する各抗体を用いた免疫染色で染まった。このことから、メラノーマ細胞由来のエクソソームが、タイプIBのレクチンであるOAAが固定化されたシリカモノリススピンカラムを用いて捕捉できることを証明できた。
また、メラノーマ細胞由来のエクソソームは、少なくとも、D3アームの非還元末端にα(1−2)Man残基をもつ高マンノース型糖鎖およびD2アームの非還元末端にα(1−3)Man残基を有する高マンノース型糖鎖を有することが示唆された。このことから、高マンノース型糖鎖を有するタンパク質と、高マンノース型糖鎖に特異的に結合するポリペプチドとの結合性を評価することにより、高マンノース型糖鎖の構造を決定することが可能であると考えられる。