WO2016147812A1 - 生物材料の観察方法および透明化方法 - Google Patents

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Abstract

 本発明の一態様では、生物材料の微細な形態を保持し、蛍光物質の蛍光を保持しながら、生物材料の光散乱を減らして透明化し、かつ顕微鏡観察における球面収差を減らすために、界面活性剤と非イオン性有機ヨウ素化合物とを含む溶液に生物材料を浸漬して透明化し、次いで、透明化された生物材料を、非イオン性有機ヨウ素化合物を含み屈折率が1.48超である溶液に浸漬した状態で顕微鏡観察する。

Description

生物材料の観察方法および透明化方法

 本発明は、生物材料の観察方法および透明化方法等に関する。

 近年、生物組織を透明にすることで深部蛍光観察を可能にする技術が次々に開発されている。しかしながら、深部を高分解能で観察することは容易ではない。超解像顕微鏡をはじめとする高解像蛍光イメージングにおいては、サンプルによる散乱および球面収差の影響を極めて受けやすく、深部の観察が特に難しかった。そのため、生物組織の深部蛍光観察において、光散乱を減らすための透明化方法および透明化後に球面収差を減らすマウント剤のさらなる開発が求められてきた。

 組織の透明化方法としては、例えば、尿素を用いるScale法(非特許文献1)およびCUBIC法(非特許文献2)、ならびに組織をアクリルアミドゲルに架橋したのち脂質を取り除くCLARITY法(非特許文献3)などが知られている。また、FocusClearTMという試薬が市販されている(特許文献1)。また、フルクトースを用いるSeeDB法(非特許文献4)が知られている。

 一方、マウント剤としては、これまでグリセリンを用いたものがよく用いられてきたが、屈折率は1.46程度にとどまっていた。CLARITY法の変法では、ヒドロゲルモノマーに架橋して脂質を除去した後で屈折率調整を行うための試薬RIMS(イオヘキソール、リン酸バッファー、および界面活性剤Tween20を含む)が知られている(非特許文献5)。しかしながら、高分解能を達成することができる油浸対物レンズ(イマージョンオイルの屈折率は1.518)と屈折率1.518のカバーガラスとを用いて蛍光イメージングする際には、組織サンプルを同程度の高い屈折率の液体にマウントすることが望ましい。屈折率の高いマウント剤としては、2,2’-チオジエタノール(TDE)を含むもの(屈折率1.52)が知られている(非特許文献6)。

米国特許第6472216号明細書(特許日2002年10月29日)

Hama, H., Kurokawa, H., Kawano, H., Ando, R., Shimogori, T., Noda, H., Fukami, K., Sakaue-Sawano, A. & Miyawaki, A. (2011) Nat. Neurosci., 14, 1481-1488. Susaki, E.A., Tainaka, K., Perrin, D., Kishino, F., Tawara, T., Watanabe, T.M., Yokoyama, C., Onoe, H., Eguchi, M., Yamaguchi, S., Abe, T., Kiyonari, H., Shimizu, Y., Miyawaki, A., Yokota, H. & Ueda, H.R. (2014) Cell, 157, 726-739. Chung, K., Wallace, J., Kim, S.Y., Kalyanasundaram, S., Andalman, A.S., Davidson, T.J., Mirzabekov, J.J., Zalocusky, K.A., Mattis, J., Denisin, A.K., Pak, S., Bernstein, H., Ramakrishnan, C., Grosenick, L., Gradinaru, V. & Deisseroth, K. (2013) Nature, 497, 332-337. Ke, M.T., Fujimoto, S. & Imai, T. (2013) Nat. Neurosci., 16, 1154-1161. Yang, B., Treweek, J.B., Kulkarni, R.P., Deverman, B.E., Chen, C.K., Lubeck, E., Shah, S., Cai, L. & Gradinaru, V. (2014) Cell, 158, 945-958. Staudt, T., Lang, M.C., Medda, R., Engelhardt, J. & Hell, S.W. (2007) Microsc. Res. Tech., 70, 1-9.

 しかしながら、非特許文献1~3の透明化方法は、透明度に優れるが、組織の微細な形態を変化させてしまう可能性がある。

 特許文献1の透明化試薬を用いた場合は、サンプルが収縮するという問題がある。

 非特許文献4の透明化方法は、微細な形態を保持したイメージングが可能であるが、蛍光タンパク質の長期安定性に関しては改良の余地があり、また高解像イメージングに関してはフルクトースの溶解度の制約から十分な効果が得られない可能性がある。

 非特許文献5において、サンプルのマウントに用いているRIMSでは、屈折率は1.38~1.48であり、イマージョンオイルおよびカバーガラスと同程度の屈折率は得られない。したがって、サンプル深部においては高い分解能および明るさを得ることができない。

 非特許文献6のマウント剤は、蛍光タンパク質などを褪色させてしまうため、蛍光イメージングにおいて制約がある。

 本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、生物材料の微細な形態を保持し、蛍光物質の蛍光を保持しながら、生物材料の光散乱を減らして透明化する方法、および顕微鏡観察における球面収差を減らす方法等を提供することにある。

 本発明に係る生物材料の透明化方法は、界面活性剤と非イオン性有機ヨウ素化合物とを含む溶液に生物材料を浸漬して、当該生物材料を透明化する透明化工程Aを含む。

 本発明に係る生物材料の観察方法は、生物材料を、非イオン性有機ヨウ素化合物を含み屈折率が1.48超である溶液に浸漬した状態で、顕微鏡によって観察する観察工程を含む。

 本発明に係る透明化試薬は、生物材料用の透明化試薬であって、界面活性剤と非イオン性有機ヨウ素化合物とを含む溶液である。

 本発明に係るマウント剤は、生物材料を顕微鏡によって観察する際に用いるマウント剤であって、非イオン性有機ヨウ素化合物を含み屈折率が1.48超である溶液である。

 本発明に係る生物材料の観察用キットは、生物材料を透明化して顕微鏡によって観察するために用いるキットであって、界面活性剤と非イオン性有機ヨウ素化合物とを含む第一の溶液と、非イオン性有機ヨウ素化合物を含み屈折率が1.48超である第二の溶液とを備える。

 本発明は、生物材料の微細な形態を保持し、蛍光物質の蛍光を保持しながら、生物材料の光散乱を減らして透明化する方法、および顕微鏡観察における球面収差を減らす方法等を提供することができる。

SeeDB2において微細形態および蛍光が維持されることを示す図である。(A)様々な透明化媒体の、可視光波長における透過曲線。(B)様々な透明化プロトコルにより透明化された、マウス脳(生後21~24日(P21~24)、それぞれn=3~6)の大脳皮質の透過曲線。代表的な透明化画像を右に示す。RIMSでは、サンプルの透明性が向上することなく収縮した。赤外線領域を含む全走査データは図6のDおよびEに示す。(C)CLARITY、CUBIC、ScaleSおよびSeeDB2による光学的透明化における、透明化計画およびサンプルの大きさの変化。右に示す通り、マウス成体の脳切片(P49~56、1.5mm厚、それぞれn=3)を使用した。CLARITY、CUBICおよびScaleSは、一時的な組織膨張を伴った。対照的に、SeeDB2は透明化の過程において、サンプルの大きさの劇的な変化を伴わなかった。(D)様々なサンプルのSeeDB2による透明化前および後。マウス胚(E12.5)、全脳(P5)、半脳(P70)、および鼻骨(P84)の、SeeDB2による光学的透明化の前および後は各図で示す通りである。(E)神経微細構造の変形。僧帽細胞の側方樹状突起部分のねじれを定量し、ボックスプロット(3~5匹から、それぞれn=43、81、68、58、および80)に示した。歪んだ樹状突起を矢頭で示した。バーは5~95パーセンタイルを表す。***P<0.001(クラスカル・ウォリス検定)。N.S.は有意ではないの意である。透明化画像のマス目は2.6×3.2mmである。スケールバーは50μmを表す。(F)様々な透明化媒体における蛍光タンパク質の蛍光励起(Ex、破線)および放射(Em、実線)スペクトル。蛍光レベルはPBSにおける最高強度に標準化した。TDEは全ての蛍光タンパク質の蛍光を消失させた。ProLong Goldは部分的にEGFPおよびEYFPのシグナルを消失させた。対照的に、全ての蛍光タンパク質はSeeDB2S中で安定であった。それぞれn=3。(G)Thy1-YFP-Gマウスの脳切断面におけるEYFPの安定性。CUBICによる消光は図7のDで評価される。(H)様々な光学的透明化法後のThy1-YFP-Hマウス(P72~84)大脳皮質の共焦点イメージング(代表的な画像)。画像は20×空気対物レンズを用いた同じ条件でのイメージングにより、半脳サンプルの表面から得られた。SeeDB2Gは自家蛍光シグナルを低く保っている一方で、蛍光シグナルを最もよく保存していた。( SeeDB2による種々の組織の透明化および染色を示す図である。(A)SeeDB2Gで透明化した成体Thy1-YFP-Hマウス(P58)の脳の光シート顕微鏡観察。1.39mm×2.04mm×1.49mmの容積を、2×3ブロック(それぞれ745枚の画像からなる)から再構成した。この画像を得るのに要した時間は~6分であり、共焦点顕微鏡および二光子顕微鏡(数時間)よりもかなり速かった。(B)R26-H2B-EGFPマウス胚(E9.5)の二光子イメージ。胚全体の画像は4×5のブロックから再構成された。(C)R26-H2B-EGFPマウスの成体の腸および肝臓の光学的透明化。共焦点イメージを右に示す。(D)Thy1-YFP-Hマウスの1.5mm厚の脳切片(大脳皮質)のDAPI染色(P56)。(E)Thy1-YFP-Hマウスの脳切片(海馬)の抗GAD67免疫染色。(F)嗅球ホールマウント試料(P56)の抗Reelin免疫染色。(D)~(F)はSeeDB2Gで透明化したサンプルの共焦点画像である。L5は第V層を表し、DGは歯状回を表し、GLは球状層を表し、MCLは僧帽細胞を表す。スケールバーは、(B)においては1mmを表し、(C)~(F)においては100μmを表す。 SeeDB2Sにおける改善された分解能および明るさを示す図である。(A)様々な透明化およびマウント媒体における、蛍光ビーズ(直径100nm)の点拡がり関数(PSF)解析。共焦点顕微鏡(ピンホールサイズ、1AU)および油浸対物レンズ(100×、NA 1.40、WD 0.13mm)を用いて得られた蛍光ビーズの蛍光画像を示す。(B)横方向およびz軸方向についての半値全幅(FWHM)における全長を示す。最良の分解能は、カバーガラスおよびイマージョンオイルと一致する屈折率のSeeDB2Sにより得られた。z軸分解能はより屈折率の不一致に敏感であることに着目すること。それぞれn=20。(C)カバーガラス界面からのローダミン染料溶液の共焦点軸走査。屈折率が一致しない場合、球面収差のため、PMTにより検出される光子は深度が増すとともに減少する。対照的に、染料がSeeDB2Sに溶解している場合、蛍光強度は深度に依らず一定である。強度曲線は各条件における最も強い強度に標準化した。屈折率の不一致はカバーガラスと媒体の界面における光の屈折をも増大させ、明るさを減少させることに着目すべきである。(D、E)油浸対物レンズ(100×、NA 1.40、WD 0.13mm)を用いたThy1-YFP-Hマウスの脳切片(大脳皮質)の高解像共焦点イメージング。PBS中(D)およびSeeDB2S中(E)のサンプルを示す。SeeDB2Sは高NA対物レンズによるイメージング可能な深度を拡張する。(F)IRES-ECFPで標識された遺伝子組み換え嗅覚受容体I7を発現する、嗅覚神経の軸索収束(参考文献:Imai et al. (2006). Science 314, 657-661)。嗅球サンプル(2月齢)をSeeDB2Gを用いて透明化し、63×グリセロール浸対物レンズ(NA 1.30、WD 0.30mm)を用いてイメージングした。Zスタックイメージ(262μm厚、3×3タイル)を示す。(G)Thy1-YFP-Hマウスの脳切片の海馬CA1領域(238μm×127μm×130μm)の、100×油浸対物レンズ(NA 1.40、WD 0.13mm)を用いたイメージング。側面上および軸上両方の分解能が、EYFP標識された個々のニューロンをトレースするのに十分であった。(H)(G)に示す3Dイメージからの4つの錐体ニューロンの再構成。半自動のトレースソフトウェアであるNeurolucidaを用い、我々は高密度に標識された脳切片から完全に近い配線パターンを得た。マウスはP48~56であった。スケールバーは、(A)においては200nm、(D、左)、(E、左)、(F)においては50μm、(D、右)、(E、右)においては2μmを表す。 SeeDB2Sで透明化された成体マウスの脳切片における樹状突起スパインの超解像イメージングを示す図である。(A)SeeDB2Sで透明化されたThy1-YFP-Hマウスの脳切片のSTED顕微鏡観察。皮質の錐体ニューロンの神経突起スパインが示されている(Zスタックイメージ)。共焦点イメージおよびSTEDイメージを比較した。STEDイメージはさらに右にデコンボリュートされた。典型的には回折限界を超えてしまうスパイン頸部の配置もSTED顕微鏡により良好に解像された。代表的なスパイン頸部のFWHM(点線)は右に示される。(B)皮質の錐体ニューロンの樹状突起スパインはFV-OSR超解像システムを用いて実施した(Z-スタック)。油浸対物レンズ(100×、NA 1.40、WD 0.13mm)を使用した。FV-OSRはSeeDB2Sで透明化されたサンプルについいては分解能を向上させることができるが、ProLong Goldで透明化されたサンプルについては透明化できない。このことは、超解像画像を得るため、理論PSFを維持しなけなければならないことを意味する。(C)樹状突起スパインおよび軸索ブトンの微細構造を、Airyscan超解像システムを用いてイメージングした(Thy1-YFP-Hマウスの大脳皮質、Z-スタック)。油浸対物レンズ(100×、NA 1.46、WD 0.13mm)。ボリュームレンダリングを左に示す。再構成を右に示す。(D)(C)の一部についての3DレンダリングおよびVAST再構成。スケールバーは、(A)、(B)、(D、右)においては1μmを表し、(C)、(D、左)においては10μmを表す。 SeeDB2Sを用いた深部組織の超解像イメージングを示す図である。(A)様々なマウント媒体における蛍光ビーズ(直径40nm)のPSF解析を、油浸レンズ(100×、NA 1.46、WD 0.13mm)を備えるSTED顕微鏡を用いて行った。2D STEDを用いて得られた側面FWHMを示す。それぞれn=20。(B)SeeDB2Sで透明化したThy1-YFP-Hマウスの脳切片のSTED顕微鏡観察。皮質の錐体ニューロンの樹状突起スパインを示す(Zスタックイメージ)。共焦点イメージおよびSTEDイメージを比較している。STEDイメージはさらに右にデコンボリュート(DC)した。SeeDBにおいて、STED顕微鏡を用いて100μmまでの微細なスパインの形態が完全に解像された。それに対して、ProLong Goldでは、~10μmの深度においてでさえ、超解像画像を得ることができなかった。(C)皮質の錐体ニューロンの代表的なSTED画像(~60μmの深度)。矢印はスパイン頭部から伸びるフィロポディアを示す。(D)表面領域(20~30μm)および深部領域(109~122μm)におけるSTED顕微鏡の分解能を評価するために、スパイン頸部直径(回折限界以下であることが知られている)を定量した。スパイン頸部直径の側面FWHMを2つの深度の間で比較したところ(~120nm、データは平均±標準偏差;N.S.はWelch’s検定において有意でないことを表す、それぞれn=20)、STED顕微鏡の均一な分解能が示唆された。マウスはP56~64であった。(E)膜EGFPを発現しているHEK293T細胞をDAPI(核)およびMitoTracker(ミトコンドリア)を用いて染色し、3D SR-SIMを用いてイメージングした。光学的x-zまたはx-y断面(1μmスタックイメージ)を示す。油浸対物レンズ(63×、NA=1.40)を使用した。それゆえ、屈折率1.33のPBSサンプルにおいてはz軸スケールを拡張した。調整した深さを図に示す。細胞膜から伸びる微細なフィロポディアは、SeeDB2Sで透明化したサンプルにおいてPBSよりも良好に解像したことに着目すべきである。ProLong GoldおよびTDEで透明化したサンプルでは、EGFPシグナルが消光したため、SR-SIM画像を連続的に得ることができなかった。マウス脳切片のSR-SIMイメージを、図9のCに示す。スケールバーは、(A)においては100nm、(B)~(D)においては1μm、(E)においては2μmを表す。 SeeDB2の最適化を示す図である。(A)SeeDB2の原理。高解像イメージングにおいて、光の散乱および球面収差は、深部領域の画像の分解能を減少させる。サンプルをSeeDB2Sで透明化すると、イマージョンオイル、カバーガラス、およびサンプルの屈折率が一致する(1.518)。これにより、収差のない高解像イメージングが可能になる。(B)X線造影剤として使用される非イオン性トリヨードベンゼンである、イオヘキソールの化学構造。(C)様々な濃度におけるイオヘキソール溶液の屈折率。濃度は%(w/w)で表されることに着目すること。(D)透明化試薬の可視光および赤外領域における透過曲線。(E)透明化された脳サンプル(生後21~24日、大脳皮質)の可視光および赤外領域における透過曲線。(F)様々な界面活性剤のイオヘキソールによる透明化の補助に関する効果。サポニンが最も効果的であった。それに対し、以前にRIMSにおいて使用されたTween20は透明化を促進しなかった。(G)バッファーに関する、脳サンプル透明化の改善効果。特に屈折率1.518において、Tris-EDTAバッファーは透明化を促進した。屈折率1.518において、透明度を透明化直後(第3日)および2週間保存の後に測定した。バッファーなしでSeeDB2Sを用い透明化した脳サンプルは、長期保存の後には透明度を維持できなかった。それぞれn=3。 SeeDB2における明るさおよび分解能を示す図である。(A)様々な透明化媒体における、4種のAlexa染色剤の蛍光スペクトル。蛍光レベルはPBSにおける最大強度で標準化した。励起および放射波長は各パネルに示す。これらの染色剤は、超解像顕微鏡観察において一般的に使用されるマウント媒体である97%TDE中と比較して、SeeDB2中においてより安定であることに着目すること。Alexa555の蛍光は3つの透明化/マウント媒体において増加した。SeeDB2SおよびTDE中におけるAlexa647のスペクトルシフトを発見した。それぞれn=3。(B)SeeDBまたはSeeDB2G中で7日間インキュベートした野生型マウス脳切片における自家蛍光シグナル。大脳皮質の画像は同じ条件で撮影された。自家蛍光はSeeDBにおいては蓄積したが、SeeDB2においては蓄積しなかった。(C)SeeDB2Gを用いて透明化されたThy1-YFP-Gマウスの脳サンプルにおける、EYFP蛍光シグナル(第0日および第50日、室温保存)。僧帽細胞のZスタックイメージ(20μm)を示す。イメージングの条件はこれらの画像間で同じである。(D)SeeDB2G(室温)およびCUBIC(37℃)による透明化過程における蛍光変化の時間経過(それぞれn=14ROI)。Thy1-YFP-Gマウスの凍結切片を分析した。CUBICでは蛍光レベルが徐々に減少したが、SeeDB2Gでは減少しなかった。(E)SeeDB2S中において45日間室温で保存した後の蛍光タンパク質の蛍光スペクトル。それぞれn=3。 海馬CA1領域における錐体ニューロンの共焦点イメージングを示す図である。(A)Thy1-YFP-Hマウスの脳切片(大脳皮質,SeeDB2Sにより透明化)における樹状突起スパインの蛍光イメージ。最も高い分解能は、理論的な予想の通り、高NAの対物レンズを用いた共焦点イメージングにより得られた(d=0.61λ/NA)。スケールバーは2μmを表す。(B)図3のGに示す再構成(海馬CA1の錐体ニューロン)の高倍率画像。樹状突起の分岐の定量およびスパインの定量を示す。 大脳皮質錐体ニューロンの超解像イメージングを示す図である。(A)Airyscanおよび100×油浸対物レンズ(NA=1.46、WD=0.13mm)を用いて得られる超解像イメージ(2μm Zスタック)。SeeDB2Sで透明化したThy1-YFP-Hマウスの脳切片における、皮質錐体ニューロンの樹状突起スパインを解析した。ProLong Goldでマウントしたサンプルからは超解像イメージを得られなかったことに着目すること。(B)Airyscanおよび63×油浸対物レンズ(NA=1.40、WD=0.19mm)を用いて得られる超解像イメージ(Zスタック)。(C)SR-SIMを用いて得られる超解像イメージ(2~9μmのZスタック)。マウス皮質切片を用いて40μmまでよく解像した画像を得た。スケールバーは1μmを表す。 (A)SD-OSRを用いて得られた超解像イメージ。(B)SP8 HyVolutionで得られた超解像イメージ。(C)SP8 HyVolutionを用いて得られた嗅覚ニューロンについての軸索の多色超解像イメージ。(D)抗Bassoon(シナプス前マーカー)および抗Homer1(シナプス後マーカー)で免疫染色したマウス脳切片(大脳皮質)を、FV-OSRを用いてイメージングした。深度は2.45~3.50μmであった。これら2つのタンパク質は、既報(Dani, A., et al. (2010). Neuron 68, 843-856)のように超解像イメージにおいて分離した。(E)PALMイメージングについてのLifeAct-mEos2のブリンキングイメージのスナップショット。LifeAct-mEos2を発現するHEK293T細胞をイメージングした。(F)PALMを用いてイメージングしたLifeAct-mEos2。超解像画像は10000枚の画像から再構成した。アクチンフィラメントはPALMによって良好に解像されている。(G)SeeDB2について試験した種々の顕微鏡の有用性。スケールバーは、(A)、(B)においては1μm、(D、左)においては5μm、(E、右)においては200nm、(C)、(F、左)においては10μm、(F、右)においては1μmを表す。 SeeDB2Sによるニューロンのトレーシングの向上した性能を示す図である。(A)Airyscan超解像顕微鏡でイメージングした蛍光ビーズ(直径100nm)の点拡がり関数(PSF)解析。横方向および軸方向のFWHMを示す。それぞれn=20である。(B)二光子顕微鏡、共焦点顕微鏡、およびAiryscan顕微鏡を用いて得られた解像の比較(Thy1-YFP-H、大脳皮質、P48~64)。二光子顕微鏡で見られた“短くて太い”スパインは、Airyscanでは“短くて太い”ものではなかった(左の2つの矢印)。Airyscanで検出されたいくつかのスパインは、二光子顕微鏡で見られなかった(右の2つの矢印)。(C)PBS、ProLong GoldおよびSeeDB2S中の成体Thy1-YFP-Hマウスの(P181)の脳切片を、Airyscan超解像顕微鏡でイメージングした。樹状突起のx-yおよびx-z投影画像を示す。SeeDB2Sによって軸方向の解像がかなり向上している。(D)脳梁における高密度に標識された軸索のトレーシング(Airyscan)。子宮内エレクトロポレーションを用いて、Layer 2/3錐体ニューロンをtdTomatoで標識した。交点のx-z断面を下のボックスに示している。軸索シグナルの軸方向FWHMは、平均±SEMである。Dは背側、Vは腹側、Lは外側、Mは内側を表す。(E)嗅覚ニューロンの軸索のトレーシングおよび定量(Airyscan)。軸索の直径データは平均±標準偏差である。背側嗅覚上皮および軸索束を、トランスジェニックMOR29B-IRES-EYFPマウスから切り分け、SeeDB2Sで透明化した。全ての標識した軸索を右側に再構成した。スケールバーは、(A)においては200nm、(B)においては5μm、(C)においては10μm、(D、左)においては100μm、(D、中央、右)においては2μm、(E、左)においては1μm、(E、右)においては10μmを表す。 超解像顕微鏡を用いた、野生型ニューロンおよびNMDAR欠損ニューロンにおける興奮性シナプスおよび抑制性シナプスの3次元的定量解析を示す図である。(A、B)子宮内エレクトロポレーションを用いて、L5ニューロンを細胞質tdTomatoおよびEYFP-ゲフィリンで標識し、P22において分析した(Airyscan)。L5錐体ニューロンの尖端樹状突起の基部の幹から伸びている、分岐のない斜めの樹状突起(100~200μm長)を分析した。代表的な超解像画像をVAST Liteを用いて再構築し、ParaViewを用いて可視化した(解析の流れについては図13を参照)。樹状突起スパインの微細構造ははっきりと解像され、樹状突起の軸とスパインとのゲフィリンの斑点は明瞭に画定される。野生型ニューロン(A)およびNR-1欠損ニューロン(B)の両方を解析した。(C)スパイン頭部のサイズに基づく3つのタイプのスパイン(filopodia、thin、mushroom)の定義。(D)野生型およびNMDAR欠損ニューロンのスパイン頭部の密度の定量、(E)スパインの長さ、(E)スパインの直径。(G)野生型およびNMDAR欠損ニューロンにおけるEYFP-ゲフィリンの斑点の密度。(H)ゲフィリン陽性のスパイン頭部のサイズ。(I)樹状突起スパインにおけるゲフィリンの斑点のサイズ。P<0.05、**P<0.01、****P<0.0001(マン―ホイットニーU検定)。(D)および(E)においてN=503および1068スパイン。(F)および(G)においてN=5(野生型)および8(欠損型)樹状突起。(H)および(I)においてN=22(野生型)および97(欠損型)スパイン。データは平均±SEM。スケールバーは2μmを表す。 超解像コネクトミクスのための透明化および解析の流れを示す図である。(A)透明化プロトコルの概略図。(B)マウス脳切片のためのマウント手順。(C)神経回路の解析のためのイメージング、再構成、および定量の流れ。

 本願発明者らは鋭意検討を行った結果、界面活性剤と非イオン性有機ヨウ素化合物とを含む溶液を用いることによって、生物材料を透明化することができること、またその際に生物材料の形態が良く保たれていること、および蛍光物質の蛍光強度が保たれていること等を見出した。さらに、非イオン性有機ヨウ素化合物を含む溶液を顕微鏡のマウント剤として用いることによって、そのような状態を保ちつつ顕微鏡によって深部まで超解像イメージングすることができること等も見出した。これらの発見によって本発明に想到するに至った。

 〔1.生物材料の透明化方法〕
 (概要)
 本発明に係る生物材料の透明化方法は、界面活性剤と非イオン性有機ヨウ素化合物とを含む溶液(以下、「透明化試薬A」とする)に生物材料を浸漬して、当該生物材料を透明化する工程(以下、「透明化工程A」とする)を含む。本発明に係る生物材料の透明化方法は、透明化された生物材料を、非イオン性有機ヨウ素化合物を含み屈折率が1.48超である溶液(以下、「マウント剤」とする)に浸漬した状態で、顕微鏡によって観察する工程(以下、「観察工程A」とする)をさらに含んでいてもよい。また、本発明に係る生物材料の透明化方法は、透明化工程Aの前に、生物材料を、界面活性剤と透明化試薬Aよりも低い濃度の非イオン性有機ヨウ素化合物とを含む1以上の溶液(以下、「透明化試薬B」とする)に浸漬して、当該生物材料を透明化する工程(以下、「透明化工程B」とする)をさらに含むことが好ましい場合がある。透明化工程Bにおいて、界面活性剤と透明化試薬Aよりも低い濃度の非イオン性有機ヨウ素化合物とを含む溶液を2以上使用する場合は、非イオン性有機ヨウ素化合物の濃度が低いものから順に生物材料の浸漬に供することが好ましい。

 (透明化試薬)
 透明化試薬Aおよび透明化試薬Bをまとめて「透明化試薬」と称して以下に説明する。

 透明化試薬は、界面活性剤と非イオン性有機ヨウ素化合物とを含む溶液である。

 界面活性剤としては、例えば、サポニン、Triton X-100(登録商標)、およびNonidet P-40(商品名)等が挙げられる。界面活性剤は、透明化の効果の高さ、生物材料の変形の低減および蛍光物質(蛍光タンパク質または蛍光性化学物質)の蛍光喪失の低減などの観点から、サポニン、Triton X-100およびNonidet P-40からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましく、サポニンまたはTriton X-100からなる群より選択される少なくとも一種であることがより好ましく、透明化の効果の高さおよび蛍光物質の蛍光喪失の低減の観点からサポニンであることがさらに好ましい。また、界面活性剤は、Tween20ではないことが好ましい。また、界面活性剤は、SDSではないことが好ましい。Triton X-100は、比較的小さな生物材料(例えば、ショウジョウバエの脳および培養細胞など)に特に好適に用いることができる。サポニンは、トリテルペンまたはステロイドの配糖体である。本発明の透明化試薬において、サポニンの種類は特に限定されないが、例えば、キラヤ科由来サポニン、大豆由来サポニン、カラヤガム由来サポニンおよびジギタリス由来サポニン(ジギトニン)等が挙げられ、好適な一例として、カラヤ科のQuillaja sapponaria由来サポニンが挙げられる。

 非イオン性有機ヨウ素化合物としては、例えば、トリヨードベンゼン環を有するモノマー型の非イオン性有機ヨウ素化合物およびダイマー型の非イオン性有機ヨウ素化合物等が挙げられ、モノマー型の非イオン性有機ヨウ素化合物が好ましい。また、非イオン性有機ヨウ素化合物としてより具体的には、イオヘキソール、イオパミドール、イオペントール、イオビトリオール、イオプロミド、イオメプロール、イオベルソールおよびイオキシラン等のモノマー型の非イオン性トリヨードベンゼン化合物;ならびにイオトロランおよびイオジキサノール等のダイマー型の非イオン性トリヨードベンゼン化合物等が挙げられる。非イオン性有機ヨウ素化合物は、透明化の効果の高さおよび粘稠度の低さの観点から、モノマー型の非イオン性トリヨードベンゼン化合物が好ましく、中でも、イオヘキソールは安価で入手し易すいためより好ましい。

 溶媒の種類は、非イオン性有機ヨウ素化合物が可溶な限り特に限定されないが、水を主溶媒として用いることが好ましく、水のみを溶媒として用いることが特に好ましい。透明化試薬Aは水溶液であることが好ましく、また、必要に応じて用いる透明化試薬Bも水溶液であることが好ましい。透明化試薬Aおよび、必要に応じて用いる透明化試薬Bの何れもが水溶液であることがより好ましい。なお、本発明において、「水を主溶媒として用いる」とは、使用される全溶媒に占める水の体積の割合が他の溶媒と比較して最も多いことを指し、好ましくは使用される全溶媒の体積の合計の50%を超え100%以下の量の水を用いることを指す。また、本発明において、「水溶液」とは、水を主溶媒として用いた溶液を指す。

 溶媒として水を用いる主な利点は、以下のとおりである。1)有機溶剤を主溶媒として用いる場合と比較して、処理時に処理対象となる生物材料の脱水を伴わない。そのため、生物材料が収縮するという問題を抑制可能となる。2)有機溶剤を主溶媒として用いる場合と比較して、蛍光タンパク質に損傷を与える可能性が著しく低減される。そのため、処理を受けた生物材料を、蛍光タンパク質を用いて観察可能となる。3)固定化された材料に限定されず、生材料にも適用可能となる。4)後述するように透明化処理が可逆的となり、透明化処理後の生物材料を必要に応じて透明化処理前の状態に戻すことができる。5)有機溶剤を主溶媒として用いる場合と比較して、取り扱いの安全性がより高くなる。

 透明化試薬は、対象となる生物材料に好適なpHの維持が可能な緩衝液を含んでいてもよい。緩衝液としては、例えば、トリス(Tris)、Tris-EDTA(トリスとエチレンジアミン四酢酸とからなる緩衝液)、およびトリス緩衝化生理食塩水(TBS)などのトリスバッファー(すなわち、トリス(トリス(ヒドキシメチル)アミノメタン)を含有し塩酸などの酸でpH調整された緩衝液);リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)、およびハンクス液(HBSS)などのリン酸バッファー(すなわち、リン酸塩を含む緩衝液);ならびにHEPES(ヒドロキシエチルピペラジンエタンスルホン酸)等が挙げられる。緩衝液は、中でも、トリスバッファーが好ましい。トリスバッファーに含まれるトリスの濃度は、例えば2~40mM、好ましくは5~20mM、より好ましくは約10mMであり得る。生物材料の透明度を保持する観点から緩衝液の塩濃度は低いことが好ましい。透明化試薬が緩衝作用を有することによって、脆弱な生物材料の破壊および蛍光物質の蛍光減弱をより防ぐことができる。また、緩衝液を含有する場合、より効果的に透明化の状態を維持することができる。緩衝液のpHは、生物材料の種類または目的に応じて適宜設定すればよいが、例えば、7~8であることが好ましく、7.4~7.6であることがより好ましい。なお、緩衝液は水溶液であり得、透明化試薬は水溶液であり得る。

 透明化試薬は、必要に応じて、添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、アジ化ナトリウムなどの防腐剤、DABCOなどの蛍光褪色防止剤、核染色のためのDAPI、およびサンプルの形態保持のための低融点アガロース等が挙げられる。

 2,2’-チオジエタノール(TDE)は蛍光を消失させる作用がある。したがって、一実施形態において、透明化試薬はTDEを含まない。

 (透明化工程A)
 透明化工程Aは、透明化試薬Aに生物材料を浸漬して、当該生物材料を透明化する工程である。より具体的には、例えば、透明化処理用の容器内において、透明化試薬Aに生物材料を浸漬する。

 透明化工程Aにおいて、生物材料は透明化する。ここで、「透明化」とは、本発明に係る生物材料の透明化方法(あるいは透明化工程)を適用する前の生物材料と比較して透明になることを指し、好ましくは本発明に係る生物材料の透明化方法(あるいは透明化工程)を適用する前の生物材料と比較して、400~1300μmの波長の光がより透過できるようになることを指す。

 透明化試薬Aに含まれる界面活性剤の濃度は特に限定されないが、生物材料が比較的厚いもの(例えば、マウスの胎児およびマウスの脳など)である場合、0.01%(w/v)~20%(w/v)の範囲内であることが好ましく、0.5%(w/v)~5%(w/v)の範囲内であることがより好ましく、2%(w/v)であることがさらに好ましい。生物材料が比較的薄いもの(例えば、培養細胞など)である場合、これよりも低い濃度とすることが好ましい。

 透明化試薬Aに含まれる非イオン性有機ヨウ素化合物の濃度は特に限定されず、顕微鏡観察において用いるイマージョン液の屈折率に近い屈折率が得られる濃度であることが好ましく、当該イマージョン液の屈折率と同じ屈折率が得られる濃度であることがより好ましい。透明化試薬Aの屈折率は、例えば、1.46以上、1.48超、1.49以上、1.50以上、または1.51以上であり、また、1.70以下、1.65以下、1.60以下、1.55以下、1.54以下、1、53以下、または1.52以下である。より好ましい一例では、透明化試薬Aの屈折率は約1.46または約1.518であり、さらに好ましい一例では、透明化試薬Aの屈折率は約1.518である。例えば、顕微鏡観察において屈折率1.518のイマージョン液(イマージョンオイル)を用いる場合、非イオン性有機ヨウ素化合物(特にはイオヘキソール)の濃度は、30%(w/w)~90%(w/w)の範囲内であることが好ましく、40%(w/w)~80%(w/w)の範囲内であることがより好ましく、70.4%(w/w)であることがさらに好ましい。なお、所望の屈折率を有する透明化試薬Aにおける非イオン性有機ヨウ素化合物の濃度は、例えば、図6のCを参考に算出することができる。

 なお、単位「%(w/v)」とは、溶液(透明化試薬等)の体積(v(ミリリットル))に対する、溶質(界面活性剤あるいは非イオン性有機ヨウ素化合物等)の重量(w(グラム))の百分率である。また、単位「%(w/w)」とは、溶液の重量(w(グラム))に対する、溶質の重量(w(グラム))の百分率である。

 透明化工程Aを行う際の温度は、特に限定されないが、微細な形態および蛍光色素を保持する観点から0℃以上で50℃以下の範囲内であることが好ましい。透明化工程Aを行う時間は、特に限定されず、生物材料の種類または厚さによって適宜設定すればよいが、例えば、1時間以上で90日以内の範囲内であることが好ましく、2時間以上で10日以内の範囲内であることがより好ましい。透明化工程Aを行う圧力は特に限定されず、生物材料の由来または目的に応じて適宜設定すればよいが、例えば、常圧とすることができる。

 (透明化工程B)
 必要に応じて行われる透明化工程Bは、透明化工程Aの前に、生物材料を、1以上の透明化試薬Bに浸漬して、生物材料を透明化する工程である。透明化工程Bにおいて、透明化試薬Bを2以上使用する場合は、非イオン性有機ヨウ素化合物の濃度が低いものから順に生物材料の浸漬に供することが好ましい。より具体的には、例えば、透明化処理用の容器内で、上記生物材料に対して1以上の透明化試薬Bを、非イオン性有機ヨウ素化合物の濃度が低いものから順に浸漬に供する。

 透明化工程Bにおいて、生物材料は透明化する。ただし、透明化工程Aよりも、達成される透明度は低い。非イオン性有機ヨウ素化合物の濃度が高くなるにつれて、透明度は高くなる。すなわち、透明化工程Bを行う場合、透明化工程Bから透明化工程Aへと徐々に非イオン性有機ヨウ素化合物の濃度を高くすることで、生物材料の透明度を徐々に高くする。透明化工程Bを透明化工程Aの前に行うことによって、非イオン性有機ヨウ素化合物の濃度の急激な上昇を抑えることができるため、生物材料へのダメージをより抑えることができる。

 各透明化試薬Bに含まれる非イオン性有機ヨウ素化合物の濃度は、透明化試薬Aに含まれる非イオン性有機ヨウ素化合物の濃度より低い限り特に限定されない。一実施形態において、互いに濃度が異なる2以上の透明化試薬Bを用いることが好ましく、互いに濃度が異なる3以上の透明化試薬Bを用いることがより好ましい。濃度をより細かく段階的に上げていくことによって、生物材料へのダメージをさらに抑えることができるからである。

 顕微鏡観察において屈折率1.518のイマージョンオイルを用いる場合、例えば、透明化試薬Bとして、非イオン性有機ヨウ素化合物(特にはイオヘキソール)が18.7%(w/w)、28.1%(w/w)および56.2%(w/w)の3つの溶液を用いることができる。この場合、続く透明化工程Aでは、透明化試薬Aとして、非イオン性有機ヨウ素化合物(特にはイオヘキソール)が70.4%(w/w)の溶液を用いることが好ましい。

 また、各透明化試薬Bに含まれる非イオン性有機ヨウ素化合物の種類は、屈折率の均一性を保持する観点から、透明化試薬Aと同じものとすることが好ましい。

 各透明化試薬Bに含まれる界面活性剤の種類および濃度、緩衝液の種類および濃度、ならびに透明化工程Bを行う際の温度の説明は、透明化工程Aについての説明と同様である。各透明化試薬Bに含まれる界面活性剤の種類および濃度、緩衝液の種類および濃度、ならびに透明化工程Bを行う際の温度は、透明化試薬Aおよび透明化工程Aと同じであることが好ましい。また、透明化試薬Bが2つ以上ある場合、各濃度の透明化試薬Bにおける処理時間は特に限定されない。一例として、非イオン性有機ヨウ素化合物が18.7%(w/w)の透明化試薬Bで6~10時間、28.1%(w/w)の透明化試薬Bで6~10時間、および56.2%(w/w)の透明化試薬Bで8~12時間処理することができる。透明化工程Bを行う圧力は特に限定されず、生物材料の由来または目的に応じて適宜設定すればよいが、例えば、常圧とすることができる。

 透明化工程Aおよび透明化工程Bにおいて、透明化処理用の容器内に「透明化試薬」と「生物材料」とを格納する順序は特に限定されない。透明化工程Aおよび透明化工程Bを同一の容器内で連続的に行う場合の一例では、まず非イオン性有機ヨウ素化合物の濃度が最も低い「透明化試薬B」を容器内に格納し、次いで「生物材料」を格納する。次いで、濃度が最も低い透明化試薬Bを廃棄し、非イオン性有機ヨウ素化合物の濃度が2番目に低い透明化試薬Bを容器へ格納する。次いで、濃度が2番目に低い透明化試薬Bを廃棄し、非イオン性有機ヨウ素化合物の濃度が3番目に低い透明化試薬Bを容器へ格納する。これを繰り返して、非イオン性有機ヨウ素化合物の濃度が最も高い透明化試薬Bを容器へ格納し、廃棄する。最後に、透明化試薬A(濃度が最も高い透明化試薬Bよりも濃度が高い)を容器へ格納し、廃棄する。透明化試薬の浸透性を高めるために生物材料を格納容器ごとシェーカーまたはローテータなどで混和してもよい。また、必要に応じて、濃度の異なる透明化試薬に変える間に、容器および/または生物材料を洗浄処理等する工程を設けてもよい。

 上記の各透明化工程で用いた、透明化処理された生物材料を格納した処理容器は、後述する観察工程に供されるまで、例えば、室温または低温環境下で保存してもよい(透明化試料保存工程)。当該処理容器では、生物材料が透明化試薬Aまたは透明化試薬Bに浸漬された状態であり得る。

 (マウント剤)
 マウント剤は、非イオン性有機ヨウ素化合物を含み屈折率が1.48超である溶液である。

 マウント剤に含まれる非イオン性有機ヨウ素化合物の種類の説明は、(透明化試薬)の項と同様である。マウント剤に含まれる非イオン性有機ヨウ素化合物の種類は、屈折率の均一性を保持する観点から、透明化試薬Aと同じものとすることが好ましい。

 マウント剤に含まれる非イオン性有機ヨウ素化合物の濃度は特に限定されず、顕微鏡観察において用いるイマージョン液の屈折率に近い屈折率が得られる濃度であることが好ましく、当該イマージョン液の屈折率と同じ屈折率が得られる濃度であることがより好ましい。例えば、顕微鏡観察において屈折率1.518のイマージョンオイルを用いる場合、非イオン性有機ヨウ素化合物(特にはイオヘキソール)の濃度は、30%(w/w)~90%(w/w)の範囲内であることが好ましく、40%(w/w)~80%(w/w)の範囲内であることがより好ましく、70.4%(w/w)であることがさらに好ましい。なお、所望の屈折率を有するマウント剤における非イオン性有機ヨウ素化合物の濃度は、例えば、図6のCを参考に算出することができる。

 溶媒の種類は、非イオン性有機ヨウ素化合物が可溶な限り特に限定されないが、水を主溶媒として用いることが好ましく、水のみを溶媒として用いることが特に好ましい。溶媒として水を用いる主な利点は、上述のとおりである。

 マウント剤は、対象となる生物材料に好適なpHの維持が可能な緩衝液を含んでいてもよい。緩衝液の説明は、(透明化試薬)の項と同様である。なお、緩衝液は水溶液であり得、マウント剤は水溶液であり得る。特に、高濃度の非イオン性有機ヨウ素化合物を使用する場合、マウント剤に含まれる緩衝液は、透明度の保持のために、透明化試薬Aの緩衝液と同じものとすることが好ましい。

 マウント剤は、必要に応じて、添加剤を含んでいてもよい。添加剤は、例えば、長期保存、褪色防止、核染色、またはサンプルの形態保持等の目的で添加されている。添加剤としては、例えば、アジ化ナトリウム、低融点アガロース、褪色防止剤、およびDAPI等が挙げられる。添加剤の濃度は特に限定されず、目的に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.1%(w/v)~5%(w/v)とすることができる。

 また、マウント剤は、上記で挙げたような界面活性剤を含んでいてもよいが、界面活性剤を含まなくてもよい。すなわち、マウント剤は、非イオン性有機ヨウ素化合物を含み界面活性剤を含まない溶液であってもよい。界面活性剤を含まない場合、泡立ちを抑えることができるという利点を有する。

 マウント剤の屈折率は、顕微鏡観察に用いるイマージョン液の屈折率に近いほど、より好ましい。マウント剤の屈折率は、非イオン性有機ヨウ素化合物自体の屈折率およびその濃度に依存する。マウント剤の屈折率は、例えば、1.48超、1.49以上、1.50以上、または1.51以上であり、かつ、1.70以下、1.65以下、1.60以下、1.55以下、1.54以下、1、53以下、または1.52以下である。より好ましくは、マウント剤の屈折率は約1.518である。特に、高濃度の非イオン性有機ヨウ素化合物を使用する場合、マウント剤に含まれる非イオン性有機ヨウ素化合物の濃度は、透明度の保持のために、透明化試薬Aに含まれる非イオン性有機ヨウ素化合物の濃度と実質的に同じであることが好ましい。

 2,2’-チオジエタノール(TDE)は蛍光を消失させる作用がある。したがって、一実施形態において、マウント剤はTDEを含まない。

 (観察工程A)
 観察工程Aは、透明化された生物材料を、マウント剤に浸漬した状態で、顕微鏡によって観察する工程である。観察工程Aは、透明化工程Aよりも後に行われる。より具体的には、例えば、透明化工程Aの後の生物材料を容器内においてマウント剤に浸漬して穏やかに転倒混和によって平衡化し、次いで新たな容器内において当該生物材料をマウント剤に浸漬して平衡化し、マウント剤に浸漬した状態でカバーガラスで封入して、顕微鏡観察を行う。

 顕微鏡の種類は特に限定されないが、例えば、共焦点レーザー顕微鏡、光シート顕微鏡、多光子励起顕微鏡(一般的には2光子励起型)、STED顕微鏡、RESOLFT顕微鏡、SIM顕微鏡、PALM/STORM顕微鏡、ベッセルビーム顕微鏡、および光格子シート顕微鏡等の光学顕微鏡、ならびに画像処理(デコンボリューション)を組み合わせた高解像画像取得等が挙げられる。また、油浸レンズ(または油浸対物レンズ)を用いた顕微鏡を使用することができる。本発明に係る透明化方法では、マウント剤の屈折率を1.518に調整することができ、かつ、蛍光タンパク質および蛍光性化学物質の褪色ならびに生物材料の微細な形態の変化を抑制することができるため、特に、近年開発が進んでいる、屈折率1.518のイマージョンオイルを用いる高解像イメージングあるいは超解像顕微鏡での観察にも好適に適用することができる。高解像イメージングとは、NAの高い(1以上)油浸レンズを用いたイメージングを指し、光の回折限界に近い、高い分解能を得られる。超解像顕微鏡とは、光学顕微鏡の理論限界値(平面方向約200nm)を超えた分解能での観察が可能な顕微鏡を指す。超解像顕微鏡としては、STED顕微鏡、SIM顕微鏡、PALM/STORM顕微鏡、およびAiryscan顕微鏡等が挙げられる。

 顕微鏡観察する際の温度は、特に限定されないが、透明化工程Aについて上述したのと同様の温度とすることができる。

 (前処理工程)
 本発明に係る生物材料の透明化方法の一実施形態では、透明化に先立って、界面活性剤を含み非イオン性有機ヨウ素化合物を含まない溶液(以下、「前処理溶液」とする)に上記生物材料を浸漬する工程(以下、「前処理工程」とする)をさらに含んでいてもよい。前処理工程は、透明化工程Bを行う場合には透明化工程Bの前に、透明化工程Bを行わない場合には透明化工程Aの前に行う。

 前処理工程を行うことによって、抗体染色およびin situハイブリダイゼーションなどの組織染色を行えるという利点がある。なお、前処理工程では、生物材料は透明化されない。

 前処理溶液に含まれる界面活性剤の種類および濃度の説明は、透明化試薬Aについての説明と同様である。前処理溶液に含まれる界面活性剤の種類および濃度は、透明化試薬Aと同じであることが好ましい。

 前処理溶液の溶媒の種類は、特に限定されないが、水を主溶媒として用いることが好ましく、水のみを溶媒として用いることが特に好ましい。

 前処理溶液は、対象となる生物材料に好適なpHの維持が可能な緩衝液を含んでいてもよい。緩衝液としては、(透明化試薬)の項で列挙した緩衝液が挙げられる。緩衝液は、中でも、タンパク質の性状保持の観点から、PBSが好ましい。緩衝液のpHは、生物材料の種類または目的に応じて適宜設定すればよいが、例えば、3~11であることが好ましく、7~8であることがより好ましい。なお、緩衝液は水溶液であり得、前処理溶液は水溶液であり得る。

 前処理工程を行う際の温度は、特に限定されないが、組織形態保持の観点から0℃以上で50℃以下の範囲内であることが好ましい。前処理工程を行う時間は、特に限定されず、生物材料の種類または厚さによって適宜設定すればよいが、例えば、1時間以上で30日以内の範囲内であることが好ましく、2時間以上で1日以内の範囲内であることがより好ましい。前処理工程を行う圧力は特に限定されず、生物材料の由来または目的に応じて適宜設定すればよいが、例えば、常圧とすることができる。

 前処理工程は、例えば、上述した透明化処理用の容器内で行うことができる。

 (可視化処理工程)
 観察工程Aに供される生物材料は、必要に応じて、透明化工程Aもしくは透明化工程B前に、または透明化工程A後で観察工程前に、染色またはマーキング等の可視化処理工程が施されてもよい。

 例えば、可視化処理工程に蛍光タンパク質を用いる場合には、透明化工程Aもしくは透明化工程Bの前に、生きた生物材料に対して蛍光タンパク質遺伝子を導入して、蛍光タンパク質を発現させる。蛍光タンパク質としては、例えば、CFP、YFP、GFP、およびtdTomato等が挙げられる。

 また、可視化処理工程として、蛍光性化学物質(蛍光タンパク質は除く)の生物材料への注入、または蛍光性化学物質を用いた生物材料の染色を行う場合には、透明化工程Aもしくは透明化工程Bの前に行うことが好ましいが、透明化工程Aの後に行うこともできる。さらに、可視化処理工程として、蛍光性化学物質以外の化学物質を用いた染色を行うこともできる。

 本発明に係る透明化方法によれば、深部においても染色またはマーキング等の褪色が低減される。そのため、より明瞭に生物材料に施された染色またはマーキング等を観察することができる。特に、本発明に係る透明化方法では分解能の低下が生じにくく、より深部のイメージングが可能であるため、生物材料の深部における染色またはマーキング等の観察が可能となる。一実施形態では、今までにはない深部での高分解能蛍光イメージングが可能である。

 (その他の工程)
 本発明に係る透明化方法の一実施形態では、上述の工程以外の工程をさらに含んでいてもよい。それ以外の工程としては、例えば、組織染色の効率を高める目的または脂質を除去する目的等で以下のような一般的な処理を行う工程が挙げられる。
1)エタノールやメタノール処理およびこれらと有機溶媒を組み合わせた処理(例えば、50%メタノール、80%メタノール、または100%メタノールで処理)、
2)組織の凍結融解処理(例えば、液体窒素で凍結したのち融解を3回繰り返す)、または、
3)組織の熱処理(例えば、クエン酸緩衝液中で120℃15分間処理する)
 このような工程を行うタイミングは、適宜設定することができる。

 本発明に係る透明化方法の一実施形態では、観察工程Aに代わりに、透明化された生物材料を、非イオン性有機ヨウ素化合物を含み屈折率が1.48以下である溶液に浸漬した状態で、顕微鏡によって観察する観察工程(観察工程A’)を行ってもよい。当該溶液の説明は、屈折率に関連する箇所を除き、上述のマウント剤の説明と基本的に同じである。一例において、当該溶液の屈折率は1.46である。この場合、透明化試薬Aにおける非イオン性有機ヨウ素化合物(特にはイオヘキソール)の濃度は56.2%(w/w)であることが好ましく、透明化試薬Bを用いる場合には、非イオン性有機ヨウ素化合物(特にはイオヘキソール)の濃度が18.7%(w/w)および28.1%(w/w)の2つの溶液を用いることが好ましい。

 (対象となる生物材料)
 本発明に係る透明化方法の対象となる生物材料の種類は特に限定されないが、生物材料の由来は、植物または動物であることが好ましく、魚類、両生類、爬虫類、鳥類または哺乳類(哺乳動物)等の動物であることがより好ましく、哺乳動物であることが特に好ましい。哺乳動物の種類は特に限定されないが、例えば、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ヒトを除く霊長類等の実験動物;イヌ、ネコ等の愛玩動物(ペット);ウシ、ウマ、ブタ等の家畜;ヒト;が挙げられる。

 また、生物材料は、個体そのものであってもよいし(生きているヒト個体そのものは除く)、多細胞生物(ヒトであってもよい)の個体から取得された或いは人工的に培養された、器官、組織、または細胞であってもよい。例えば、疾患の診断のためにヒトまたはそれ以外の動物由来の病理サンプルを生物材料とすることができる。病理サンプルは、器官、組織、または細胞であり得る。また、iPS細胞およびES細胞などの多能性細胞、ならびに多能性細胞から分化させた細胞および組織を生物材料として使用することもできる。本発明で用いる透明化試薬は優れた透明化処理能力を有するため、さらには、本発明のマウント剤はより深部のイメージングを可能とするため、生物材料が、多細胞動物由来の組織もしくは器官(例えば、脳全体または脳の一部)、またはヒトを除く多細胞動物の個体(例えば、胚等)そのものであっても、適用することが可能である。また、生物材料は脂質が除去されていないものであり得る。

 本発明で用いる透明化試薬およびマウント剤は、生物材料の膨潤および収縮がほとんどなく(実施例も参照)、生物材料の変形を抑制する効果が極めて大きいため、脆弱な生物材料の透明化に特に好適である。ここで脆弱な生物材料としては、例えば、新生児マウスの脳、多細胞動物由来の組織の切片、発生初期段階の動物胚、ゼブラフィッシュなど小型魚類の脳、ショウジョウバエ等の無脊椎動物の脳、および卵母細胞等が挙げられる。

 また、本発明で用いる透明化試薬およびマウント剤は、生物材料における微細な構造が破壊される虞が少なく、アーチファクトの可能性が抑えられる。そのため、神経回路等の微細な構造をより正確に観察することができる。したがって、本発明の方法は、神経回路を含んでいる組織(脳など)を生物材料とする場合にも、好適に利用され得る。

 また、上記生物材料は、上述のように、例えば、蛍光性化学物質を注入した生体組織、蛍光性化学物質で染色を行った生体組織、蛍光タンパク質を発現した細胞を移植した生体組織、または蛍光タンパク質を発現した遺伝子改変動物の生体組織等であってもよい。すなわち、上記生物材料は、蛍光タンパク質または蛍光性化学物質で標識されていてもよい。本発明に係る透明化方法では、例えば高解像顕微鏡あるいは超解像顕微鏡を用いると50~200μm程度の深度まで超解像イメージングが可能である。この深度は現在対物レンズの作動距離によって制約されているため、将来的にはさらに深部での観察も可能になる可能性がある。生物材料が膨潤しないため、同程度の深度のイメージングが可能な従来の方法(生物材料が膨潤する)と比較して、実質的には深度が深い。そのため、より深部の蛍光の局在をイメージングすることができる。

 また、生物材料は、顕微鏡観察用にパラホルムアルデヒド等で固定化(fixed)処理された材料であってもよいし、固定化処理されていない材料であってもよいが、固定化処理された材料であることが好ましい。固定化処理は、例えば、従来公知の方法で行うことができる。

 生物材料の厚みは特に限定されないが、例えば、1μm~10mmとすることができ、100μm~2mmであることが好ましい。本発明で用いる透明化試薬およびマウント剤は、より深部のイメージングを可能とするため、0.1mm以上の厚みであっても本発明を適用し得る。

 (利点)
 本発明の主な利点として、以下のことが挙げられる。

 1)後述の実施例で示したとおり、生物材料における微細な構造の破壊が生じる虞が少ない。2)生物材料の収縮が生じないため、従来の透明化試薬を用いた場合と比較して、透明度が高い。そのため、超深部組織に存在する種々の蛍光タンパク質および蛍光物質の観察が可能となる。また、生物材料における微細な構造の変化も生じにくい。3)生物材料の膨潤が生じないため、生物材料が破壊されにくい。そのため、脆弱な生物材料(例えば、新生児マウスの脳など)に適用することが可能となる。4)生物材料をPBS等の等張液に戻しても強度および細胞形態ともに影響を受けない。このように可逆性が高いため、透明化処理によるイメージングと組織染色とを組み合わせることが可能である。5)従来の透明化方法(例えば、CLARITY法およびCUBIC法等)よりもはるかに短い時間で生物材料を透明化し得る。6)生物材料の膨潤が生じないため、顕微鏡の対物レンズの作動距離が限られている場合に、従来の透明化試薬と比べて実質的により深くまで画像取得できる。7)様々な蛍光タンパク質および蛍光性化学物質の蛍光を保持したまま高解像イメージングすることができる。8)アクリルアミドゲル架橋および脂質除去過程など煩雑な工程を経ることなく良好な透明度を達成することができる。9)自家蛍光シグナルを産生しないため、蛍光タンパク質および蛍光性化学物質の蛍光をより正確に観察することができる。10)本発明のマウント剤は、従来の水溶性マウント剤(ProLong GoldおよびRIMSなど)と比べると、特に、深部において明るくかつ高解像顕微鏡または超解像顕微鏡の能力を最大限に引き出すことができるため、深部イメージングの発展に対する貢献度が高い。

 (その他の応用)
 本発明の透明化試薬を用いた透明化処理は可逆的である。そのため、透明化処理された生物材料は、例えば、平衡塩類溶液に浸漬することによって、透明化試薬の成分を取り除き、透明化処理前の状態に戻すことが可能である。平衡塩類溶液としては、例えば、PBS、HBSSなどリン酸塩によって緩衝液化された平衡塩類溶液;トリス塩酸塩によって緩衝液化された平衡塩類溶液(TBS);MEM、DMEM、Ham’s F-12などの細胞培養用の基礎培地;等が挙げられる。

 また、本発明のマウント剤は生物材料に与えるダメージが少ない。そのため、マウントされた生物材料は、例えば、平衡塩類溶液に浸漬することによって、マウント剤の成分を取り除き、マウント前の状態に戻すことが可能である。平衡塩類溶液としては、上記のものが挙げられる。

 本発明で用いる透明化試薬は、透明化処理の前後において、または、透明化処理後に透明化処理前の状態に戻す場合において、生物材料に含まれるタンパク質等の変性等を招来しない。そのため、生物材料に含まれるタンパク質等の抗原性も変化せずに保存される。その上、本発明のマウント剤は生物材料に与えるダメージが少ない。そのため、例えば、生物材料を透明化処理して顕微鏡による観察を行った後に、当該生物材料を透明化処理前の状態に戻して公知の組織染色または免疫染色の手法を用いた詳細分析を行うことも可能である。

 〔2.生物材料の観察方法〕
 本発明に係る生物材料の観察方法は、生物材料を、非イオン性有機ヨウ素化合物を含み屈折率が1.48超である溶液(マウント剤)に浸漬した状態で、顕微鏡によって観察する工程(以下、「観察工程B」とする)を含む。本発明に係る生物材料の観察方法の一実施形態では、透明化処理を行うことなく観察工程Bを行う。別の形態では、上記〔1.生物材料の透明化方法〕の項で説明した前処理工程の後に、観察工程Bを行う。さらに別の実施形態では、本発明の透明化方法以外の方法で透明化処理を行った後に、観察工程Bを行う。あるいは、またさらに別の実施形態における生物材料は、本発明の透明化方法で透明化処理を行った生物材料であってもよい。

 本発明における観察工程Bでは、上述のように、球面収差を減らすことができ、より深部までのイメージングが可能である。そのため、例えば、透明化が必要ではない生物材料の場合、透明化処理を行うことなく本発明の観察工程Bに供することで、当該生物材料の深部イメージングが可能となる。透明化が必要ではない生物材料としては、比較的薄い生物材料が挙げられ、例えば、細胞(培養細胞等)、卵母細胞(マウス等の哺乳動物の卵母細胞等)、無脊椎動物(ショウジョウバエ等)の脳、50μm程度以下にスライスした動物および植物の組織、ならびに酵母および大腸菌懸濁液等が挙げられる。

 また、本発明の透明化方法以外の方法で透明化処理を行った生物材料であっても、本発明の観察工程Bに供することで、球面収差を減らすことができ、当該生物材料の深部イメージングが可能となり得る。本発明の透明化方法以外の方法としては、例えば、非特許文献1~4および特許文献1に記載された方法等が挙げられる。対象となる生物材料は、本発明の透明化方法以外の方法で透明化を行えるものであれば、特に制限されない。

 マウント剤は、上記〔1.生物材料の透明化方法〕の項で説明したとおりである。すなわち、非イオン性有機ヨウ素化合物、溶媒、緩衝液、添加剤および屈折率などの説明は、生物材料の透明化方法において用いるマウント剤の説明と同じである。

 観察工程Bの説明は、上記〔1.生物材料の透明化方法〕の(観察工程A)の項での説明と同様である。

 また、観察工程Bに供される生物材料は、必要に応じて、観察工程前に、染色またはマーキング等の可視化処理工程が施されてもよい。可視化処理工程は、上記〔1.生物材料の透明化方法〕の(可視化処理工程)の項で説明したとおりである。また、上記〔1.生物材料の透明化方法〕の(その他の工程)の項で説明した工程が施されてもよい。

 〔3.透明化試薬〕
 本発明に係る透明化試薬は、生物材料用の透明化試薬であって、界面活性剤と非イオン性有機ヨウ素化合物とを含む溶液である。本発明に係る透明化試薬としては、上述の透明化試薬Aおよび透明化試薬Bが挙げられる。これらの透明化試薬については、上記〔1.生物材料の透明化方法〕の項で説明したとおりである。

 本発明に係る透明化試薬は、上述の「生物材料の透明化方法」に好適に用いることができる。

 〔4.マウント剤〕
 本発明に係るマウント剤は、生物材料を顕微鏡によって観察する際に用いるマウント剤であって、非イオン性有機ヨウ素化合物を含み屈折率が1.48超である溶液である。本発明に係るマウント剤としては、上述のマウント剤が挙げられる。当該マウント剤については、上記〔1.生物材料の透明化方法〕の項で説明したとおりである。

 本発明に係るマウント剤は、上述の「生物材料の透明化方法」および「生物材料の観察方法」に好適に用いることができる。

 〔5.生物材料の観察用キット〕
 本発明に係る生物材料の観察用キットは、生物材料を透明化して顕微鏡によって観察するために用いるキットであって、界面活性剤と非イオン性有機ヨウ素化合物とを含む第一の溶液(透明化試薬A)と、非イオン性有機ヨウ素化合物を含み屈折率が1.48超である第二の溶液(マウント剤)とを備える。本発明に係る生物材料の観察用キットは、界面活性剤と透明化試薬Aよりも低い濃度の非イオン性有機ヨウ素化合物とを含む1以上の溶液(透明化試薬B)をさらに備えることが好ましい場合がある。透明化試薬A、マウント剤および透明化試薬Bは、〔1.生物材料の透明化方法〕の項での説明したとおりである。

 また、本発明に係る生物材料の観察用キットは、「キットの取扱説明書」をさらに備えることが好ましい。「キットの取扱説明書」には、例えば、上記〔1.生物材料の透明化方法〕で記載したような、透明化試薬A、より好ましくはさらに透明化試薬Bを用いる生物材料の透明化工程、および、マウント剤を用いる生物材料の観察工程の手順等が記録されている。

 さらに、本発明に係る生物材料の観察用キットは、生物材料の透明化および観察に必要な道具または試薬等をさらに備えていてもよく、例えば、上述の透明化工程で用いる処理容器、生物材料把持器具(ピンセット等)、上述の前処理溶液、スライドガラス、カバーガラス、イマージョン液、および観察後の生物材料を透明化処理前の状態に戻す平衡塩類溶液から選択される少なくとも1つを備えていてもよい。

 本発明に係る生物材料の観察用キットは、上述の「生物材料の観察方法」に好適に用いられる。

 〔6.生物材料の透明化用キット〕
 本発明に係る生物材料の透明化用キットは、生物材料を透明化するためのキットであって、界面活性剤と非イオン性有機ヨウ素化合物とを含む溶液(透明化試薬A)を備える。本発明に係る生物材料の透明化用キットは、界面活性剤と透明化試薬Aよりも低い濃度の非イオン性有機ヨウ素化合物とを含む1以上の溶液(透明化試薬B)をさらに備えることが好ましい場合がある。透明化試薬Aおよび透明化試薬Bは、〔1.生物材料の透明化方法〕の項での説明したとおりである。

 また、本発明に係る生物材料の透明化用キットは、「キットの取扱説明書」をさらに備えることが好ましい。「キットの取扱説明書」には、例えば、上記〔1.生物材料の透明化方法〕の項で記載したような、透明化試薬A、より好ましくはさらに透明化試薬Bを用いる、生物材料の透明化方法の手順等が記録されている。

 さらに、本発明に係る生物材料の透明化用キットは、生物材料の透明化に必要な道具または試薬等をさらに備えていてもよく、例えば、上述の透明化工程で用いる処理容器、生物材料把持器具(ピンセット等)、上述の前処理溶液、および透明化処理後の生物材料を透明化処理前の状態に戻す平衡塩類溶液から選択される少なくとも1つを備えていてもよい。

 本発明に係る生物材料の透明化用キットは、上述の「生物材料の透明化方法」に好適に用いられる。

 〔7.まとめ〕
 本発明に係る生物材料の透明化方法は、界面活性剤と非イオン性有機ヨウ素化合物とを含む溶液に生物材料を浸漬して、当該生物材料を透明化する透明化工程Aを含む。

 本発明に係る生物材料の透明化方法は、透明化された生物材料を、非イオン性有機ヨウ素化合物を含み屈折率が1.48超である溶液に浸漬した状態で、顕微鏡によって観察する観察工程をさらに含んでいてもよい。

 本発明に係る生物材料の透明化方法は、上記透明化工程Aの前に、上記生物材料を、界面活性剤と上記透明化工程Aにおける溶液よりも低い濃度の非イオン性有機ヨウ素化合物とを含む1以上の溶液に浸漬して、当該生物材料を透明化する透明化工程Bをさらに含んでいてもよく、ここで、界面活性剤と上記透明化工程Aにおける溶液よりも低い濃度の非イオン性有機ヨウ素化合物とを含む溶液を2以上使用する場合は、非イオン性有機ヨウ素化合物の濃度が低いものから順に上記生物材料の浸漬に供する。

 本発明に係る生物材料の透明化方法は、透明化に先立って、界面活性剤を含み非イオン性有機ヨウ素化合物を含まない溶液に上記生物材料を浸漬する工程をさらに含んでいてもよい。

 本発明に係る生物材料の観察方法は、生物材料を、非イオン性有機ヨウ素化合物を含み屈折率が1.48超である溶液に浸漬した状態で、顕微鏡によって観察する観察工程を含む。

 本発明に係る生物材料の観察方法は、上記観察工程の前に、界面活性剤を含み非イオン性有機ヨウ素化合物を含まない溶液に上記生物材料を浸漬する工程をさらに含んでいてもよい。

 本発明に係る透明化試薬は、生物材料用の透明化試薬であって、界面活性剤と非イオン性有機ヨウ素化合物とを含む溶液である。

 本発明に係るマウント剤は、生物材料を顕微鏡によって観察する際に用いるマウント剤であって、非イオン性有機ヨウ素化合物を含み屈折率が1.48超である溶液である。

 本発明に係る生物材料の観察用キットは、生物材料を透明化して顕微鏡によって観察するために用いるキットであって、界面活性剤と非イオン性有機ヨウ素化合物とを含む第一の溶液と、非イオン性有機ヨウ素化合物を含み屈折率が1.48超である第二の溶液とを備える。

 以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2015-055325号の明細書および図面に記載される内容を取り入れるものとする。さらに本明細書で引用した全ての刊行物および特許をそのまま参照として本明細書に取り入れるものとする。

 〔手順〕
 (試薬)
 SeeDB2Gは、オムニパーク350(例えば、第一三共;75.5%(w/v)または56.2%(w/w)のイオヘキソール,Tris-EDTA緩衝液に溶解)を使用して調製した。SeeDB2Sは、10mMのTris-Cl(pH7.6)と0.267mMのEDTAとの混合溶液に、イオヘキソール粉末(Histodenz(シグマアルドリッチ)またはNycoden(Axis-shield社))を70.4%(w/w)の濃度で溶解して調製した。なお、SeeDB2Sは「w/v」ではなく「w/w」に基づき調製した点に留意が必要である。溶液1および溶液2は、オムニパーク350を水で希釈し、サポニン(ナカライテスクまたはシグマアルドリッチ)を2%(w/v)で加えることによって調製した。サポニンはロットにより褐変レベルが異なる。褐色の色素は光の透過性を減少させるため、褐色の弱いロットを用いた。CLARITY法のための試薬は和光純薬工業(株)から購入した。屈折率はアッベ屈折計(Erma Inc.)および白色光源を用いて測定した。SeeDB2GおよびSeeDB2SをまとめてSeeDB2と称する。

 (SeeDB2を用いたマウス脳組織の光学的透明化)
 PFAで固定したマウス脳サンプルを、5mLエッペンドルフチューブを用い、オーバーヘッドローテータ(TAITEC)を用いて室温(25℃)で穏やかに(~4rpm)回転させ、透明化した。まず、固定化された組織サンプルを、PBSに溶解した2%サポニン(シグマ)で一晩インキュベートした。次に、サンプルを、オムニパーク350(第一三共)と2%サポニンを溶解した水との1:2の混合物(溶液1)中で6~10時間インキュベートし、さらに、オムニパーク350と2%サポニンを溶解した水との1:1の混合物(溶液2)中で6~10時間インキュベートした。最後に、2%サポニンを溶解したオムニパーク350(溶液3)で、サンプルを12時間以上インキュベートした。薄い脳切片はより短いインキュベート期間で透明化することができた。いくつかのサンプル(例えば、脂質を多く含む組織、および大きなサンプル)は、溶液3におけるインキュベーションを延長してさらに透明化してもよい。SeeDB2Sを用いた透明化については、サンプルをさらに、2%サポニンを含むSeeDB2S(溶液4)中で12時間以上インキュベートした。透明化された組織を、イメージングのため、サポニンを含まないSeeDB2GまたはSeeDB2Sに移した。サンプルの長期保存のため、保存剤として0.01%のアジ化ナトリウムを加えてもよい。蛍光を消失させることがあるので、蛍光タンパク質サンプルに対し、化学的保存料(例えばDABCO)の添加は推奨されない。サンプルは暗所で常温保存可能である。水分の蒸発により表面がべとつくことがあるので、透明化されたサンプルを長時間空気に晒すのは避けることが好ましい。

 (SeeDB)
 SeeDB(80.2%(w/w)フルクトースおよび0.5%(v/v)α-チオグリセロールの水溶液)を、既報に記載のとおり調製した(参考文献:非特許文献4およびKe, M.T., and Imai, T. (2014). Curr Protoc Neurosci 66, Unit 2 22)。正立顕微鏡を用いた共焦点および二光子顕微鏡観察において、屈折率を一致させた2,2’-チオジエタノール水溶液をイマージョン液として使用した(参考文献:非特許文献4)。

 (CUBIC)
 ScaleCUBIC-1(25%(w/w)尿素、25%(w/w)N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、および15%(w/w)Triton X-100の水溶液)およびScaleCUBIC-2(50%(w/w)スクロース、25%(w/w)尿素、10%(w/w)2,2’,2’’-ニトリロトリエタノール、および0.1%(v/v)Triton X-100の水溶液)を既報に記載のとおり調製した(参考文献:非特許文献2)。

 (CLARITY)
 CLARITYの受動的透明化プロトコル(参考文献:Tomer et al. (2014). Nat Protoc 9, 1682-1697)を使用した。電気泳動による脂質除去に基づくオリジナルのプロトコル(参考文献:非特許文献3)よりも形態がよく保存されることが報告されているからである。麻酔したマウスに、20mLの氷冷PBSを、次いで20mLのHM溶液(4%アクリルアミド、0.05%ビスアクリルアミド、4%PFAおよび0.25%VA-044のPBS溶液)を経心的に潅流した。取り出した脳を20mLのHM溶液に移し、4℃で1~2日間インキュベートした。そして、重合をさせるために、サンプルを37℃で一晩インキュベートした。その後、脳をヒドロゲルから切り取り、SBCバッファー(4%SDSの200mMホウ酸バッファー溶液、pH8.5)で1日間洗浄した。脳切片を作製するため、サンプルを4%低融点アガロースに包埋し、ビブラトームマイクロスライサー(Dosaka EM)を用いてスライスした。透明化のために、サンプルを穏やかに震盪しながらSBCバッファーでインキュベートした。透明化したサンプルを0.1%Triton X-100のPBS溶液で洗浄し、FocusClear(CelExplorer Labs)を用いてマウントした。CLARITY用の試薬は、和光純薬工業から購入した。

 (ScaleS)
 ScaleS0(20%ソルビトール、5%グリセロール、1mMメチル-β-シクロデキストリン、1mMγ-シクロデキストリン、1%N-アセチル-L-ヒドロキシプロリン、および3%DMSO)、ScaleS1(20%ソルビトール、10%グリセロール、4M尿素、および0.2%Triton X-100)、ScaleS2(27%ソルビトール、2.7M尿素、0.1%Triton X-100、および8.3%DMSO)、ScaleS3(36.4%ソルビトール、2.7M尿素、および0.1%DMSO)、ならびにScaleS4(40%ソルビトール、10%グリセロール、4M尿素、0.2%Triton X-100、および20%DMSO)を既報に記載のとおり調製した(参考文献:Hama, H., et al. (2015). Nature neuroscience 18, 1518-1529)。

 (マウスの株)
 全ての動物実験は、理研神戸事業所の動物実験審査委員会に承認されている。C57BL/6Nバックグラウンドにおける、野生型(ICR, C57BL/6N、およびBDF1)、Thy1-YFP line G (JAX #014130)、Thy1-YFP line H (JAX #003782)(参考文献:Feng, G. et al. (2000). Neuron 28, 41-51)、MOR23プロモーター下I7-IRES-ECFP (RIKEN BRC #RBRC02931)(参考文献:Imai et al. (2006). Science 314, 657-661)、MOR29A-IRES-ECFP/MOR29B-EYFP BAC トランスジェニックライン line(参考文献:Tsuboi, A., et al. (2011). The European journal of neuroscience 33, 205-213)、およびR26-H2B-EGFP (Acc.No. CDB0238K; http://www.cdb.riken.jp/arg/reporter_mice.html)(参考文献:Abe et al. (2011). Genesis 49, 579-590)マウスを、イメージング実験に使用した。子宮内エレクトロポレーションのために、C57BL/6J (JAX #005246)と戻し交配したFloxed Grin1マウス(参考文献:Tsien, J.Z., et al. (1996). Cell 87, 1317-1326)を、ICRマウスと交配させた。メスおよびオスの両方をイメージング実験に使用した。

 (マウス脳サンプル)
 組織サンプルを得るため、過剰量のネンブタール(大日本住友ファーマ)を腹腔内投与することで、マウスを深く麻酔し、次いでリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解した4%パラホルムアルデヒド(PFA)を心臓から潅流した。取り出した脳または胚を、PBSに溶解した4%パラホルムアルデヒド(PFA)中において、4℃で一晩かけて固定した。脳切片(0.2~2mm厚)を、マイクロスライサー(Dosaka EM)を用いて切断した。

 (子宮内エレクトロポレーション)
 NR1(NMDAレセプター機能に不可欠なサブユニット)をコードするGrin1の単一細胞ノックアウト解析を行うために、C57BL/6J×ICRで交配したバックグラウンドにおけるホモのfloxed Grin1マウスおよび野生型マウスを用いた。E12において、pCAG-loxPNeo-loxP-tdTomato(1μg/μL)、pCAG-loxP-Neo-loxP-EYFP-Gephyrin(0.5μg/μL)、およびpCAG-Cre(0.5μg/μL)をL5錐体ニューロンに共エレクトロポレーションし、P22において解析した。子宮内エレクトロポレーションは、鉗子型電極(直径5mm)およびCUY21EXエレクトロポレータ(BEX)を用いて、既報に記載のとおり行った(参考文献:Ke, M.T., Fujimoto, S. & Imai, T. (2013). Nat Neurosci 16, 1154-1161)。バックボーンプラスミドベクターpCAG-CreERT2およびpCAFNF-DsRedは、C. Cepko (Addgene plasmid #14797および#13771)から入手した。

 (透明度の定量)
 透明度の定量は、生後21~24日の大脳皮質の光の透過を測定して行った。白質が不均等に光散乱するため、半前脳サンプルから視床および海馬を除去し、灰質の部分(大脳皮質)のみを使用した。透明化試薬および透明化された脳の光透過性は、スペクトロフォトメーター(日立、U-5100)を用いて決定した。半脳の皮質サンプルの中央-側面軸に沿った透明度が定量化された。

 (サンプルの大きさの変化の測定)
 光学的透明化のプロセスにおける、サンプルの大きさの変化は、既報のとおり(参考文献:非特許文献4)、成体マウスの半脳サンプルを用いて定量化した。脳の平らな面をディッシュに載せ、立体顕微鏡を用いて上面からイメージングを実施した。線形の膨張量を、領域の面積変化の平方根から決定した。

 (形態的損傷の定量)
 光学的透明化の間の形態変化を定量するために、僧帽細胞の側方樹状突起(in vivoでは突起はわずかで滑らかであった)を利用した。僧帽細胞を低密度で標識するために、AlexaFlour 488-または647-dextram(10kDa)を、既報に記載のとおり、in vivoでマウスの嗅球にエレクトロポレーションした(参考文献:Ke, M.T., Fujimoto, S. & Imai, T. (2013). Nat Neurosci 16, 1154-1161)。in vivoイメージング(AlexaFlour 488)を、麻酔したマウスにおいて二光子顕微鏡を用いて取得した。嗅球を透明化および蛍光イメージング(AlexaFlour 647)した後、僧帽細胞の側方樹状突起を、perisomaticな部位、分岐点、末端点、および画像野の端において分けた。次いで、セグメントの2つの端の間の最小距離(D)およびトレースした樹状突起の長さ(d)を、Neurolucidaソフトウェア(MBF Bioscience)を用いて決定した。既報に記載のとおり、湾曲度を、d/Dと定義した(参考文献:Ke, M.T., Fujimoto, S. & Imai, T. (2013). Nat Neurosci 16, 1154-1161)。

 (脳組織薄片の蛍光の定量)
 組織内での蛍光タンパク質の安定性を定量化するため、Thy1-YFP-GまたはThy1-YFP-Hマウスの脳サンプルを使用した。20μm厚の脳薄片をクリオスタット(Leica、CM3050S)を用いて作製し、スライドガラスに収集した。薄片は4%PFAのPBS溶液で15分間固定し、PBSで洗浄した。その後薄片を光学的透明化試薬を用いて24時間までインキュベートした。組織内の蛍光タンパク質の蛍光強度を、冷却CCDカメラを備えた倒立蛍光顕微鏡(Leica、DMI6000B)を用いて定量化した。

 (組み換え蛍光タンパク質および化学蛍光色素のスペクトル解析)
 E.coli JM109(DE3)株を、pRSET-ECFP、EGFP、EYFP、またはtdTomatoベクターでトランスフェクトした。得られた細菌培養物を、アンピシリンを添加した2×YT培地中において30℃で16時間、次いで25℃で20時間培養した。細菌ペレットをリゾチーム(シグマアルドリッチ)およびベンゾナーゼ(Novagen)の存在下で4回の凍結融解サイクル処理を行い、組み換えタンパク質をNi-NTA Spin Kit(QIAGEN)を用いて精製した。精製された組み換えタンパク質を様々な透明化試薬で希釈し、室温で一晩インキュベートした。励起および放射スペクトルを、蛍光スペクトロフォトメーター モデルF2700(日立)を用いて定量化した。Alexa色素の定量化では、Alexa色素と共役させたロバ抗マウス抗体(Life Technologies)を使用した。励起および放射曲線の決定のために使用した励起および放射波長はそれぞれ以下の通り(単位はnm):ECFP (435, 480), EGFP (480, 515), EYFP (505, 535), tdTomato (545, 590), Alexa 488 (480, 530), Alexa 555 (540, 580), Alexa 647 (640, 675)。

 (マウス脳切片の免疫染色)
 SeeDB2による透明化の前に、免疫染色および対比染色を行ってもよい。抗体の浸透を容易にするため、サンプルを2%サポニンのPBS溶液中で、緩やかに回転(~4rpm)させながら4℃で24時間インキュベートした。サポニンは、免疫染色のための界面活性剤として一般的に用いられるTriton X-100よりも良好に形態を維持させる。サンプルを3mLのブロッキングバッファー(0.5%(w/v)スキムミルク、0.25%(w/v)フィッシュゼラチン、2%(w/v)サポニン、0.5%(w/v)Triton X-100(任意)、および0.05%(w/v)アジ化ナトリウムのPBS溶液)の入った5mLエッペンドルフチューブに移した。緩やかに回転させながら、ブロッキングを4℃で24時間実施した。一次抗体との反応(5mLエッペンドルフチューブを使用し、3mLのブロッキングバッファー中で)は、ローテータ上で、4℃、24時間かけて実施した。マウス抗GAD67(Millipore、MAB5406)、マウス抗Reelin(Millipore、MAB5364)、マウス抗Bassoon(Abcam、AB82958、およびウサギ抗Homer1(Synaptic Systems、160003)を1/200に希釈して使用した。洗浄バッファー(2%サポニン、0.5%Triton X-100のPBS溶液)を用いて3回洗浄(各2時間)した後、二次抗体を含む3mLのブロッキングバッファー中(抗体は1/200希釈)で、サンプルを、ローテータ上で、4℃で12~16時間インキュベートした。ロバ抗マウスAlexa647(Life Technologies)、および抗ウサギAlexa555(Life Technologies)を1/200希釈で使用した。DAPI(Life Technologies;1/500希釈)またはNeuroTrace 640/660 Deep-Red Fluorescent Nissl Stain(Life Technologies;1/200希釈)を必要に応じ、二次抗体の反応中に適用した。次いで、サンプルを、洗浄バッファーを用いて3回洗浄(各2時間)した。その後、抗体染色された脳サンプルを、上述のとおりSeeDB2で透明化およびマウントした。

 (SR-SIMのためのHEK293T細胞サンプル)
 10%FBSを含むFluoroBrite DMEM中で維持されたHEK293T細胞を、ポリ-D-リシンでコーティングされた35mmのガラス底ディッシュ(MatTek)に播種し、0.4μgのpCAG-CreERT2(addgene plasmid#14797、C. Cepkoから入手した)および3.6μgのpcDNA5/FRT-loxP-3×SV40 polyA-loxP-gapEGFPでトランスフェクトした。gapEGFPは、gap43のN末端20アミノ酸配列を含み、パルミトイル化反応に必要であり、細胞膜に偏在する(膜EGFP)。CreERはタモキシフェンを使用しない低頻度組み換えに使用した。トランスフェクションから24時間後、細胞に500nMのMitoTracker Red CMXRosを45分間ロードした。次いで、細胞を4%PFAで15分間固定し、0.2%Triton X-100のPBS溶液に溶解したDAPIで15分間染色した。細胞を溶液1で30分間、溶液2で30分間、溶液3で30分間、溶液4で30分間、SeeDB2Sで30分以上インキュベートし、SR-SIMイメージングを実施した。

 (PALMおよびdSTORMのためのHEK293T細胞サンプル)
 PALMイメージングについては、35mmのガラス底ディッシュ(MatTek)中のHEK293T細胞に、mEos2-Lifeact-7(addgene plasmid #54809、M. Davidsonから入手した)プラスミドをトランスフェクトした。トランスフェクションから24時間後、予熱した4%PFA in PBSで細胞を15分間固定し、上述のとおりSeeDB2Sで透明化した。dSTORMサンプルについては、予熱した4%PFA in PBSでHEK293T細胞を固定し、抗αチューブリン(DM1A、シグマ;1:500)で免疫染色し、次いでAlexaFluor 647 ロバ抗マウスIgG(Thermo Fisher、A31571)で免疫染色した。

 (倒立顕微鏡を用いた共焦点イメージング)
 イメージングの機構は既報のとおりである(参考文献:非特許文献4およびKe, M.T., and Imai, T. (2014). Curr Protoc Neurosci 66, Unit 2 22)。透明化されたホールマウント脳サンプルを、SeeDB2で満たしたガラス底ディッシュに浸した。脳切片をマウントするため、適切な厚さのシリコンゴムシート(十川ゴム)および0.170±0.005mm厚のカバーガラス(Marienfeld、No.1.5H)を使用した。共焦点イメージを、倒立顕微鏡FV1000(Olympus)、TCS SP8X(Leica Microsystems)、LSM780(Carl Zeiss)、またはLSM880(Carl Zeiss)を用いて得た。FV1000において、レーザーダイオード(405nm)、マルチArレーザーライン(457、488、および515nm)、およびHe-Ne(543および633nm)レーザーラインを使用した。20×(Olympus、UPLSAPO20X、NA 0.75、WD 0.60mm)空気対物レンズを使用した。光軸方向スケールはSeeDB2G(屈折率1.46)で短縮されるので、実際の深度は見かけの深度に1.46をかけることで求められる。校正した深度を全ての図に示している。高解像イメージングにおいて、100×(Olympus、UPLSAPO 100XO、NA 1.40、WD 0.13mm)油浸対物レンズを使用した。市販のイマージョンオイル、イマーソル518F(Carl Zeiss)またはイマージョンオイルタイプF(Olympus)をイメージングに使用した(屈折率1.518)。TCS SP8Xにおいて、白色光レーザーを励起に使用し、HyD検出器を蛍光シグナルの検出に使用した。40×油浸(Leica, HC PL APO 40x OIL CS2, NA 1.3, WD 0.24 mm)および63×グリセロール浸(Leica, HC PL APO 63x/1.30 Glyc CORR CS2, NA 1.3, WD 0.30 mm)対物レンズを使用した。タイプG(屈折率1.46)イマージョン媒体をSeeDB2Gサンプルに、タイプF(屈折率1.518)イマージョン媒体をSeeDB2Sサンプルに使用した。LSM780またはLSM880において、20×ドライレンズ(Plan-Apochromat 20x/0.8 M27, NA 0.80, WD 0.55)または40×水浸レンズ(P-Apochromat 63x Oil DIC, NA 1.40, WD 0.19)およびGaAsP検出器を用いてイメージを得た。

 (光シート顕微鏡による観察)
 透明化したマウス脳の光シート顕微鏡観察を、倒立共焦点顕微鏡に基づく市販の光シート顕微鏡、モデルTCS SP8 DLS(Leica Microsystems)を用いて行った。成体Thy1-YFP-Hマウス脳切片(厚さ2mm)をSeeDB2Gで透明化した後、カミソリ刃でより小さな断片に切断して、サンプルを用意した。2枚のカバーガラスを接着剤でガラス底ディッシュ上に垂直に立てて、切断した脳サンプルをその間に保持させた。イメージングのために、サンプルをSeeDB2Gに浸漬した。光シートの照射は514nm(Arレーザー)で行い、対物レンズ、TwinFlect反射鏡装置(HC APO L10x/0.30W DLS)およびsCMOSカメラを用いてEYFPシグナルを検出した。市販の対物レンズは水浸用に設計されている(屈折率1.33)ため、屈折率1.46のSeeDB2Gにおいて用いる場合と焦点面が異なる。したがって、特注の反射鏡装置(Leica Microsystems)を用いて、SeeDB2G溶液での焦点面における画像を検出した。

 (正立顕微鏡を用いた共焦点および二光子イメージング)
 正立顕微鏡のイメージングチャンバーを既報のとおり用意した(参考文献:Ke, M.T., and Imai, T. (2014). Curr Protoc Neurosci 66, Unit 2 22)。1~6mmの厚さのシリコンゴムシート(十川ゴム)をイメージングチャンバーの作製に使用した。サンプルおよびSeeDB2をチャンバーに入れ、ガラス底ペトリ皿で封をした(参考文献:Ke, M.T., and Imai, T. (2014). Curr Protoc Neurosci 66, Unit 2 22)。SeeDB2Gサンプルについては、イマージョン媒体(67%(v/v)2,2’-チオジエタノール水溶液、屈折率1.46)をガラス底ディッシュに加えた。自動ステージ(Sigma-Koki)付正立共焦点/二光子顕微鏡(Olympus, FV1000MPE)を蛍光イメージングに使用した。高屈折率サンプル用に最適化された、特注の25×対物レンズ(Olympus, NA 0.9, WD 8.0 mm、屈折率1.41~1.51用)をSeeDB2サンプルのイメージングに使用した(類似のレンズが現在XLSLPLN25XGMPとしてOlympusから発売されている)。LD473レーザーをEYFPの一光子励起に使用した。InSight DeepSee Dual(Spectra-Physics)をEGFP(920nm)およびEYFP(950nm)の二光子励起に使用した。

 (超解像蛍光顕微鏡による観察)
 STED顕微鏡観察は、市販のSTED顕微鏡、モデルTCS SP8 STED 3X(Leica Microsystems)および油浸対物レンズ(Leica、HC PL APO 100x/1.40 OIL STED WHITE、NA 1.40、WD 0.13mm)を使用して実施した。EYFPはマルチArレーザー(514nm)を用いて励起し、592nmSTEDレーザーを2D STEDに使用した。蛍光をHyD検出器を用いて、ゲーテッドSTED機能で検出した。SP8-HyVolutionを、TCS SP8X(Leica Microsystems)および63x油浸(Leica, HC PL APO 63x OIL CS2, NA 1.4, WD 0.14 mm)を用いて行った。ECFPおよびEYFPは、それぞれレーザーダイオード(442nm)およびWhite Light Laserを用いて励起した。蛍光シグナルは、HyD検出器を用いて検出し、Huygens(Scientific Volume Imaging B. V.)を用いて処理した。SR-SIMは市販のセットアップ、モデルELYRA PS.1(Carl Zeiss)、および100×油浸対物レンズ(Carl Zeiss, alpha Plan-Apochromat 100x / 1.46 oil, NA 1.46, WD 0.11 mm)を用いて実施した。グレーティングは3ローテーションで実施した。アベレージングの回数は2である。FV-ORS付FV1000(Olympus)においては、100×油浸対物レンズ(Olympus, UPLSAPO 100XO, NA 1.40, WD 0.13 mm)を用いた。GaAsP検出器を用いて蛍光を検出し、25~30回アベレージングを行った。CSU-W1(Yokogawa)に基づくSD-OSR(Olympus)においては、100×油浸対物レンズ(Olympus, UPLSAPO 100XO, NA 1.40, WD 0.13 mm)を用いた。EYFPは488nmレーザーで励起させた。Airyscan(Carl Zeiss)付LSM880においては、油浸対物レンズ63×オイル(NA 1.4, WD 0.19 m)および100×オイル(NA 1.46, WD 0.11 mm)を使用した。蛍光は、Airyscan検出器で超解像モード(ピンホールサイズ、1.25AU)により検出した。EGFP、EYFPおよびAlexa Fluor 488は488nmで励起し、tdTomatoは561nmで励起した。PALM/dSTORMのイメージングは、100×油浸対物レンズ(alpha Plan-Apochromat 100x Oil DIC M27, NA 1.46, WD 0.11 mm)およびTIRF、HILOまたはEpi照射モードを使用してELYRA PS.1(Carl Zeiss)により行った。屈折率が高いので、TIRF照射モードではSeeDB2SによるTIRFイメージングはできず、照射光がサンプル内に進入した。PALMイメージングでは、mEos2を405nmおよび561nmのレーザーで照射した。

 (PSF解析)
 PSFは、既報のとおり、0.1μm径(共焦点およびAiryscan)または0.04μm(STED顕微鏡)のFluoSpheres黄色-緑色蛍光ビーズ(Thermo Fisher, F8803およびF8795)を用いて決定した(参考文献:非特許文献4)。蛍光ビーズを1%(100nmビーズ)または4%(40nmビーズ)アガロースに埋め込み、透明化試薬を浸透させた。半値全幅(FWHM)をFiji plugin MetroloJを用いてガウスフィッティングによって決定した。サンプルのサイズは全てのPSF解析において20であった。

 (Sea応答解析)
 軸共焦点走査により蛍光強度を評価するため、透明化試薬にローダミン6G(東京化学工業)を溶解した。イメージングチャンバー内で染色液をカバーガラス(Marienfeld, No. 1.5H)で密封し、100×油浸レンズ(Olympus, UPLSAPO 100XO, NA 1.40, WD 0.13 mm)を用いて倒立共焦点顕微鏡(FV1000(Olympus))によりイメージングした。

 (画像処理および定量)
 蛍光イメージのボリュームレンダリングを、Neurolucida(MBF Bioscience)およびIMARIS(bitplane)を用いて行った。Leica TCS SP8X用ハイジーンデコンボリューションソフトウエアをSTEDおよびSP8-HyVolutionイメージに使用した。連続電子顕微鏡画像のためにもともと開発されたVAST Lite(https://software.rc.fas.harvard.edu/lichtman/vast/)を、超解像画像の再構成に用いた(参考文献:Kasthuri, N., et al. (2015). Cell 162, 648-661)。トレースされた画像の積み重ねをMatlab(Mathworks)に出力し、表面メッシュを作成して、ParaView(http://www.paraview.org/)で可視化した。AutoNeuronおよびAutoSpine機能付NeurolucidaおよびNeurolucida360(MBF Bioscience)を、半自動ニューロントレースおよびマウス錐体ニューロンにおける樹状突起スパインの定量のために使用した。50μm長の神経突起部分について、神経突起の平均径をNeurolucidaを用いて決定した。これらの手順は図13にまとめた。

 (統計解析)
 Prism5ソフトウエア(GraphPad)およびR(http://www.r-project.org/)を統計解析に使用した。図2のCにおいて、正規分布を仮定して両側ウェルチ検定を用いた。図1のEにおいて、非正規分布に基づくノンパラメトリック検定を用いた。テクニカルレプリケートに基づくデータを、平均値±標準誤差で示している。平均値±標準偏差を、生物学的ばらつきを示すために用いた。サンプルのサイズ(図面の凡例に特定されている)は、予備実験におけるデータの分布に基づき決定した。ニューロンの形態の定量化は非盲目であったが、サンプルのタイプ間の何らかの潜在的な偏りを避けるために、図1のEでは全ての標識されたニューロンを定量化した。図12では、明るく標識されたニューロンを解析のために選択し、尖端樹状突起の基部から伸びている斜めの樹状突起をトレースし、樹状突起の全長を定量した。

 〔結果〕
 (非イオン性有機ヨウ素化合物を用いた迅速かつ効率的な光学的透明化)
 組織深部の高解像画像を得るため、光の散乱および球面収差の両方を最小にする必要がある(図6のA)。我々のグループおよびその他のグループの以前の研究により、透明化試薬の屈折率の最適な範囲は1.45~1.55であることが判明している(参考文献:非特許文献4)。球面収差を最小にするため、サンプルおよびイマージョン媒体の屈折率は同じでなければならない。理論的に識別可能な点間の最小距離(d)は開口数(NA)の増大に応じて上がり(d = 0.61λ/NA;レイリー基準による)、またNAはイマージョン媒体の屈折率(n)の増大に応じて上がるため(NA = n sinα;αは対象物の半開口角)、高解像イメージングのための対物レンズは多くの場合油浸(屈折率=1.518)用に設計されている。また、油浸オイルの屈折率は、カバーガラスの屈折率(屈折率=~1.52)と一致するように設計されている。そのため、高解像イメージングのための理想的な透明化試薬は、1.518の屈折率である必要がある。従来、屈折率1.515の97%TDEをこの目的でマウント媒体として使用されてきたが、TDEはほとんどの蛍光タンパク質および一般的に使用されるいくつかの化学染色液を消光させるので、TDEの実用性には限りがあった(参考文献:非特許文献6)。SeeDB法(屈折率1.49)(参考文献:非特許文献4)等の既存の透明化試薬においては、フルクトースの溶解性に上限があるため、この屈折率は達成されていない。グリセロール(屈折率1.47)を含んでいる一般的に使用されるマウント媒体も、この屈折率を達成できない。市販の高屈折率のマウント媒体は、収縮を引き起こす、および/または消光の問題を有する。したがって、大規模な容積の超解像イメージングは長年の挑戦であった。高屈折率の水溶性試薬のスクリーニングにおいて、我々はヨウ素含有化合物に着目した。例えば、我々は70.4%(w/w)イオヘキソール水溶液の屈折率が1.518に達することを発見した(図6のC)。したがって、我々は、イオヘキソール等の非イオン性有機ヨウ素化合物を用いて、新たな透明化試薬およびマウント剤を開発することを試みた。

 近年には、Tween-20およびリン酸バッファーを含むイオヘキソール溶液(屈折率1.46)が、FocusClearの安価な代替品として、CLARITYサンプルをマウントするために用いられている(RIMSと命名)(参考文献:非特許文献5)。しかしながら、イオヘキソールおよびRIMSは何れも単独で、厚い脳サンプルを、単純浸漬で効率良く透明化することはできず、サンプルの収縮を起こす(図1のA~C)。これは、イオヘキソール溶液がサンプル内に効率的には侵入しないからと考えられる。したがって、我々は、イオヘキソールの透明化能力を、0.5~2%の、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、Tween(登録商標)20、Nonidet(商標)P-40、Triton X-100(商標)、およびサポニンを含む、様々な界面活性剤と組み合わせて試験した。我々は、弱い非イオン性界面活性剤として知られる2%のサポニンが、形態損傷を引き起こすことのないイオヘキソールによる透明化を最も効果的に促進できることを発見した(図6のF)。Tween20、NonidetP-40、およびサポニンは、SDSおよびTriton X-100と比べて、サンプルの変形および/または蛍光タンパク質の消光/喪失が抑えられていた。また、低濃度のTriton X-100は比較的薄いサンプルに使用することができた。サポニンおよびTriton X-100はより効果的にイオヘキソールによる透明化を促進した。バッファーを添加していないイオヘキソール溶液に浸漬した脳サンプルは、未解明の理由により徐々に不透明に戻るため、脳サンプルの透明性を維持するかを様々なバッファーで試験した。その結果、低濃度のTris-EDTAバッファーが、イオヘキソールと組み合わせたときに、サンプルの高い透明度の維持により効果的であることを発見した(図6のG)。ここで、Tris-EDTAバッファーの代わりに水またはPBSを使用した場合には、高い透明度は得られず、時間の経過に伴って透明度が低下した。最適化された透明化プロトコルにおいては、2%サポニンおよびTrisバッファーに溶解した、低濃度から高濃度のイオヘキソール中で、サンプルを連続的にインキュベートし、最終的に、SeeDB2S(SはSuper-resolutionを表す)と命名された、70.4%(w/w)のイオヘキソールを含むTris-EDTAバッファー(屈折率1.518)で平衡させた(図1のC)。グリセロール浸対物レンズのために、屈折率1.46(56.2%(w/w)または75.5%(w/v)イオヘキソール溶液;SeeDB2Gと命名;Gはグリセロール浸レンズを表す)でサンプルを平衡させるプロトコルも作成した。より低い粘性と十分な透明度のため、SeeDB2Gは大きなサンプルに適するが、油浸レンズを用いる高解像イメージングにはSeeDB2Sの方がより適している。大脳皮質サンプルの透過曲線は、SeeDB2SおよびSeeDB2Gが、既知の透明化試薬であるSeeDBおよびマウント媒体であるRIMSと比較してよりよくサンプルを透明化することを示す(図1のB)。鼻骨でさえも、SeeDB2Sによって良好に透明化された(図1のD)。必要な合計のインキュベート時間は数時間(比較的薄いサンプル)から2日間(成体の半脳サンプル)であり、CLARITYおよびCUBIC等の他の透明化法よりはるかに短い(図1のC)。また、SeeDB2は、無害であり、且つ、組織に易損性を与えなかった。

 (SeeDB2は神経の微細構造を保持する)
 真の高解像の画像を得るためには、透明化の過程においてサンプルの微細な細胞構造を保持することが不可欠である。このことは他の透明化のプロトコルにおいていつでも考慮されているわけではない(参考文献:非特許文献4)。例えば、ScaleA2はサンプルの膨張を引き起こし、一方BABBは縮小を引き起こすが、両者とも神経突起の変形を引き起こす(参考文献:非特許文献4)。近年開発された透明化法であるCLARITY、CUBIC、およびScaleSもまた、最終的なサンプルの大きさは元と同等であるものの、一時的なサンプルの膨張を伴う(参考文献:非特許文献2~5;Hama, H., et al. (2015). Nature neuroscience 18, 1518-1529;Tomer, R., et al. (2014). Nat Protoc 9, 1682-1697)。対照的に、我々のSeeDB2G/Sプロトコルは、サンプルの大きさは透明化の過程で保存された(図1のC)。結果として、サンプルの完全性が種々のサンプルにおいて良好に保存された。

 透明化における微細形態の変化を評価するため、マウスの嗅球において低密度に標識された平滑な僧帽細胞の樹状突起の湾曲度を定量した(参考文献:非特許文献4)。CLARITY、CUBICまたはScaleSで透明化した後、サンプルの大きさは元に戻ったにもかかわらず、in vivoと比較して樹状突起の湾曲度は増加し、変形した(図1のE)。これは、細胞骨格等のタンパク質高次構造が等方位的に膨張および収縮しないことを考慮すれば、驚くべきことではない。対照的に、SeeDB2を用いて透明化されたサンプルは、形態変化の証拠を一切示さなかった(図1のE)。それゆえ、SeeDB2を用いることで、神経などのサンプルの微細形態の正確で定量的な解析が可能になる。

 (SeeDB2はより多くの蛍光を保存し、自家蛍光をほとんど生じない)
 高解像蛍光イメージングにおいて、低解像イメージングと比較して1ピクセルあたりより少ない量の光から光子を得る必要があり、そのため蛍光体は明るく、安定している必要がある。それゆえさまざまな蛍光体の、SeeDB2および現存するマウント剤中での安定性を実験により確認した。4つの蛍光タンパク質、ECFP、EGFP、EYFPおよびtdTomatoがSeeDB2Sにおいて安定で、かつPBS中と類似の励起および放射スペクトルを示した(図2のA)。さらに、SeeDB2Sでは、自家蛍光シグナルが蓄積せずに、蛍光シグナルが長期間(1ヶ月以上)にわたって非常に安定していた(図7のB~E)。それに対し、これらの蛍光タンパクは、屈折率の観点から現在の高解像顕微鏡のための最良のマウント剤である、97% 2,2-チオジエタノール(TDE)中において、劇的に蛍光が消失した(参考文献:非特許文献6)。市販のマウント剤であるProLong Goldもまた、EYFPの蛍光を相当に減少させた。3つの化学的蛍光体、Alexa Fluor 488、555、および647もまた、SeeDB2S中において安定であったが、97%TDEはAlexa Fluor 488の蛍光を顕著に減少させた(図7のA)。我々はEYFPを発現したマウスの脳切片を用いて類似の結果を得た(図2のB)。それゆえ、蛍光タンパク質および化学蛍光色素の両方が、一般的に使用される、共焦点および高解像顕微鏡用のマウント剤と比較して、SeeDB2Sにおいて安定である。

 我々は以前にフルクトースを基剤とする透明化試薬であるSeeDBが、内因性の様々なアミンと反応するために、組織内で徐々に自家蛍光を蓄積することを報告している(メイラード反応として知られる)(参考文献:非特許文献4)。対照的に、SeeDB2は自家蛍光シグナルを産生しない(図7のB)。加えて、蛍光シグナルはイオヘキソール溶液中での長期保存において非常に安定である(図7のC~E)。Thy1-YFPラインG(Thy1-YFP-G)マウスの脳サンプルは、SeeDB2G中で室温で1ヶ月以上保存した後でも、十分なレベルのEYFPシグナルを保った(図7のC)。組み換え蛍光タンパク質は、SeeDB2S中において、室温で少なくとも1ヶ月間安定である(図7のE)。

 これらの点は、大きな組織においてかすかな蛍光シグナルをイメージングする際に有利である。Thy1-YFPラインHの動物の大脳皮質において、第五層の錐体ニューロンから伸びた微細な樹状突起叢は、SeeDB2において、蛍光レベルの高さと自己蛍光シグナルの低さに起因して、SeeDB、CUBICおよびCLARITYと比較してより良いイメージングが可能である(図1のH、図7のB、図7のD)。光シート顕微鏡は、大脳皮質の迅速で大規模なイメージングを可能にした(図2のA)。SeeDB2Gはまた、自己蛍光シグナルが低いため、他のタイプのサンプル(例えば、R26-H2B-EGFPノックイン遺伝子座を保有し、H2B-EGFPを広範に比較的低レベルで発現している胚全体(E9.5))の、全ての核のイメージングを行うのに十分な力があった(図2のBおよびC)(参考文献:Abe et al. (2011). Genesis 49, 579-590)。他の臓器もまた蛍光イメージングのために適切に透明化された(図2のC)。サポニンが巨大分子の浸透を容易にするため、SeeDB2は組織切片の核対比染色および抗体染色と共用できる。DAPIは1.5mm厚の成体の脳切片に浸透し(図2のD)、抗体は200μm以下の深さまで成体マウスの脳切片を染色することができ(図2のE)、小スケールの高解像回路網マッピングに十分である。

 (SeeDB2S中において分解能および明るさは全ての深さにおいて維持される)
 高解像蛍光イメージングにおけるSeeDB2Sの性能を評価するため、我々はまず、油浸レンズ(NA 1.40, WD 0.13 mm)を備える共焦点顕微鏡を用いて、アガロースゲルに包埋された蛍光ビーズ(直径100nm)の点拡がり関数(PSF)解析により空間的分解能を定量した。以前に、厚い脳組織を二光子顕微鏡を用いてイメージングを実施した。しかしながら、分解能(d)は、励起波長(λ)に応じて増加するため(d = 0.61λ/NA)、同じNAにおいては、一光子励起は、二光子顕微鏡の2倍の分解能である(図8のA)。共焦点顕微鏡においては、NAはイマージョン媒体の屈折率の増加に応じて増加する(NA = n sinα)ため、油浸対物レンズは水浸対物レンズより分解能が高い(図8のA)。それゆえ、光学的透明化および一光子イメージングは二光子顕微鏡よりも分解能の点で有利である。

 次に、さまざまな透明化剤およびマウント剤において、分解能および明るさを、油浸対物レンズを用いて調査した。予想のとおり、PSF解析により、屈折率が適切に調節されたSeeDB2でマウントした場合、全ての深さにおいて高い分解能が保たれることが示された(図3のAおよびB)。しかしながら、屈折率が低い他のマウント剤においては、球面収差に起因して分解能は劣っていた。Z軸分解能は屈折率の不一致により、より強く影響を受ける。Z軸に沿った複数の繊維の交差の分析が容易になるため、SeeDB2SにおけるZ軸分解能の向上は、回路トレースにおいて重要である。深さに依存する蛍光強度の変化を評価するために、ローダミン6G染色溶液について、カバーガラス界面からの共焦点軸走査を実施した(Sea応答)(参考文献:Hell, S. et al. (1993). Journal of Microscopy 169, 391-405)。SeeDB2において、ローダミン蛍光レベルは全ての深さで維持された。しかしながら、最適化されていないマウント剤においては、球面収差のため、深さが増すのに従い徐々に明るさが減少した(図3のC)。ここで、SeeDB2Gの屈折率は1.46であり、SeeDB2Sの屈折率は1.518である。屈折率がカバーガラスおよび/またはイマージョンオイルと一致するSeeDB2Sを用いて高い分解能および明るさが示された。

 (高密度に標識された神経回路網の高解像共焦点イメージング)
 従来の共焦点顕微鏡および高NA油浸対物レンズを用いて、対物レンズの作動距離(WD)までの、SeeDB2Sで処理したマウスの脳断片の高解像画像を容易に得ることができた(図3のDおよびE)。SeeDB2Sにおいて全ての深さで分解能は一定であるので、微細な樹状突起スパインが全ての深さにおいて(200μmまで)鮮明に可視化された。より薄いサンプルについては、WDが大きい(NA 1.30, WD 0.30 mm)高NAグリセロール浸レンズと組み合わせたSeeDB2Gを用いることで、嗅球の糸球体に収束する嗅覚神経の軸索の、単軸索の分解能の高解像画像を得ることができた(図3のF)。

 この分解能は高密度に標識された神経回路網をトレースするのに十分なものであった。我々は、SeeDB2Sを用いて透明化された、Thy1-YFP-Hマウスの脳切片サンプルから得られた283μm×127μm×132μmの大脳皮質ブロックから高解像蛍光イメージを得た(図3のG)。半自動の神経トレースソフトウェアを用いて、海馬CA1錐体ニューロンの樹状突起の回路構造を、ほぼ完全に抽出し、3Dに再構成した(図3のH、図8のB)。それゆえ、SeeDB2Sを用いることで、以前には時間のかかるアレイ断層撮影(AT)により行われていた(参考文献:Micheva, K.D., and Smith, S.J. (2007). Neuron 55, 25-36)、高解像神経マッピングを容易に行うことができる。

 (マウス脳切片の超解像顕微鏡観察)
 回折限界を超えて樹状突起スパインおよびシナプスの配置を解明するため、超解像顕微鏡の1つであるSTED顕微鏡がよく使用される。しかしながら、標準的なSTED顕微鏡は、球面収差のため標本の表面の超解像画像しか得ることができない。組織深部の超解像画像を得るためには、特別な光学的調整(参考文献:Urban, N.T. et al. (2011). Biophys J 101, 1277-1284)または二光子励起STED(参考文献:Ding, J.B. et al. (2009). Neuron 63, 429-437)が必要である。

 ここで、市販のSTED顕微鏡を用い、SeeDB2Sにより透明化したThy1-YFP-Hマウスの脳切片のイメージングを実施した。対物レンズの作動距離(WD)で定められる上限である、100μmの深さまでの超解像画像を得ることができた(図4のA)。実際に、スパイン頸部の直径は理論的な回折限界(~200nm)を下回ることが多く、以前にもそのように報告されてきた(参考文献:Tonnesen, J. et al. (2014). Nature Neuroscience 17, 678-+)。我々は神経の機能を理解する上で不可欠な情報である、樹状突起スパインおよびスパイン頸部の微細な配置を可視化した。一般的な市販のマウント剤である、ProLong Goldに浸漬したサンプルでは、球面収差のため、サンプルの表面領域を可視化できたに過ぎなかった。加えて、このサンプルにおいては蛍光シグナルが弱かったため、レーザーの出力を上げる必要があった。その結果、超解像のZスタック蛍光画像が得られる前に、サンプルが光退色を起こすことがしばしばあった。それゆえ、SeeDB2Sにより、STED顕微鏡を用いてイメージングが可能な深度が劇的に深くなった。

 Airy discイメージのデコンボリューション(FV-OSRおよびAiryscan)に基づく市販の超解像システムも検討した。その結果、再度、油浸対物レンズの作動距離が許す深度までの(~100μmまたは~170μm)樹状突起スパインの超解像画像を得ることができた(図4のBおよびC、図9のAおよびB)。光退色が最小限であるため、Airyscanシステムは大規模な3D超解像イメージを得るのに有用であった(図4のC)。

 (細胞生物学における3次元的な超解像顕微鏡観察)
 超解像顕微鏡観察は細胞生物学においてよく行われる手法である。しかしながら、細胞生物学における適用においても、球面収差は、イメージング可能な深度を表面近傍に制限する大きな問題である。例えば、市販の超解像構造化照明顕微鏡(SR-SIM)は、数μmまでのサブ回折画像を得ることができるが、細胞1つのみの厚み(10~20μm)を可視化するのにさえ十分ではない。DAPI、膜EGFP、およびMito Trackerで標識されたHEK293T細胞は、PBS中において、充分に解像された。ProLong GoldまたはTDEでマウントした同一サンプルは、これらの媒体においては蛍光レベルがはるかに低く、より強いレーザー出力が必要であるため、イメージング中に光退色が起きた。しかしながら、我々のSeeDB2Sでマウントした場合には、これらの細胞の全ての厚さにおいて構造の超解像画像を得ることができた(図5のE)。全ての深度において細胞膜から伸びる微細なフィロポディアが解像された。

 (SeeDB2Sを使用した深部組織超解像顕微鏡観察)
 我々は次に、超解像顕微鏡観察におけるSeeDB2Sの性能を評価した。我々は、油浸対物レンズ(NA 1.40,WD 0.13mm)を用い市販の誘導放出抑制(STED)顕微鏡を試験した。様々な深度における水平方向のPSFを決定するため、アガロースゲルに埋包された直径40nmの蛍光微粒子を用いた。SeeDB2Sおよび97%TDEにおいて、x-yにおける50~60nmのFWHMは深度100μmまで維持された。しかしながら、ProLong GoldおよびPBSにおいて、分解能は急激に低下し、蛍光微粒子は20μmより大きい深度においては視認できなかった(図5のA)。

 次に、Thy-YFP-Hマウス脳切片をSeeDB2Sを用い透明化し、同一のSTEDレーザー条件下でイメージングし、対物レンズのWDにより設定される上限である深度110μmまでのサブ回析イメージを得ることができた(図11のB)。我々は、シナプスの機能の理解に不可欠な情報である、樹状突起スパインの頭部および頸部の微細構造を可視化することができた(図5のC)。さらに、既存の顕微鏡を用いて解像するのが困難である、スパイン頭部から伸びているフィロポディアを時折観察した(図5のC)。脳組織の様々な深度における解像を評価するため、回折限界よりも小さいことが知られているスパイン頸部の直径(参考文献:Tonnesen, J., et al. (2014). Nature Neuroscience 17, 678-+)を決定した。我々は、脳切片の表面領域(~30μm)および深部領域(~110μm)において定量したスパイン頸部の直径に差が無いことを発見した(図5のD)。このように、SeeDB2Sは標準的なマウント条件下において以前より大きな深度のSTED顕微鏡観察を可能とするものである。なお、深部組織のSTED顕微鏡観察は二光子励起STED(参考文献:Ding, J.B., et al. (2009). Neuron 63, 429-437;Moneron, G., and Hell, S.W. (2009). Opt Express 17, 14567-14573)または手動光学較正(参考文献:Urban, N.T., et al. (2011). Biophys J 101, 1277-1284)によってのみ達成されたこと、および後者において、大規模3D画像を得るために手動で屈折率のミスマッチを各z位置において修正することは現実的ではないことに留意すべきである。

 (細胞生物学における容積測定超解像イメージング)
 種々のタイプの超解像顕微鏡、構造化照明顕微鏡(SIM)は、多色イメージングが可能であり、細胞生物学への応用にしばしば使用されていた。そこで、我々は、SeeDB2Sサンプルのイメージングのために、油浸対物レンズ(NA 1.46,WD 0.11mm)を備える市販の超解像(SR)SIMシステムを用いた。膜EGFP、MitoTracker、およびDAPIで標識されたHEK293T細胞(厚さ10μm以下)を、3D SR-SIMを用いてSeeDB2S中で完全に解像することができたが、PBS中においてはできなかった。例えば、細胞膜から伸長する微細フィロポディアは、SeeDB2S中においてより良好に解像された(図5のE)。

 (コネクトミクスにおけるボリュメトリック超解像イメージング)
 大規模超解像イメージングは蛍光タンパク質と組み合わせてコネクトミクスにおける応用において特に強力である可能性がある。そこで、マルチアレイGaAsP検出器およびピクセル再割り当てに基づく市販の新型の超解像顕微鏡Airyscan(参考文献:Huff, J. (2015). Nat Methods 12)を用いた。Airyscanは、様々な超解像顕微鏡のうちで、光子束が比較的高く、光退色が低いため、分解能はSTEDに及ばないものの、大規模イメージングに有用である。PSF解析において、油浸レンズ(NA 1.40,WD 0.19mm)を使用し、高分解能(xyにおいて~150nm、zにおいて~360nm)が全ての深度において維持された(図11のA)。

 我々は、二光子顕微鏡、共焦点顕微鏡、およびAiryscanを用いた、Thy1-YFP-Hマウス脳切片の同一の領域の画像を比較した。励起波長が長いほど分解能は低くなるため(d=0.61λ/NA)、二光子顕微鏡は高分解能イメージングに適さない。AiryscanはEYFPで標識された密な神経回路を最も良く解像した(図11のB)。二光子顕微鏡観察において見逃されることが多いフィロポディアおよび細いスパインは、Airyscanにおいて確実に同定することができた。二光子イメージング研究においてよく確認される“短くて太い”スパインは、Airyscanにおいては(少なくともL5ニューロンにおいては)観察されず、おそらく低い軸分解能に起因する細い/キノコ型スパインのアーチフェクトの投影である(参考文献:Tonnesen, J., et al. (2014). Nature Neuroscience 17, 678-+)。また、SD-OSR(参考文献:Hayashi, S., and Okada, Y. (2015). Mol Biol Cell 26, 1743-1751)およびSP8-HyVolutionを用いた大規模超解像画像も得られた(図10のA~C)。

 軸分解能が優れているため、z軸に伸びている樹状突起スパインは、SeeDB2Sで確実に検出できたが、他のマウント媒体では球面収差に起因して検出できなかった(図11のC)。SeeDB2Sは、細い軸索のトレーシングおよび定量にも有用であった。脳梁において、子宮内エレクトロポレーションで標識されたL2/3脳梁軸索はSeeDB2S中で良好に解像したが、ScaleS中では解像しなかった(図11のD)。SeeDB2Sにおける軸分解能の向上は、回路のトレーシングに特に重要である。x軸に沿った複数の繊維の交差を分析するのをより容易にするからである。嗅覚神経の軸索束において、MOR29B-IRES-EYFP導入遺伝子で標識された、ミエリン化されていない細い軸索繊維(直径200~300nmであり、先行の電子顕微鏡研究と一致する)が、SeeDB2S中で良好に解像されて、解析された(図11のEおよび図10のC)。大脳皮質(厚さ100μm、成体Thy1-YFP-Hマウス)の大規模な超解像画像において、全ての深度における樹状突起スパインおよび軸索束を確実に同定し(図4のC)、それらを3Dに再構成する(図4のD)ことができた。このように、SeeDB2Sと超解像顕微鏡との組み合わせは、大規模なシナプスのマッピングに有用である。

 (NMDA受容体欠損ニューロンの樹状突起における包括的なシナプスマッピング)
 多くの認知および精神障害はシナプスの異常によって引き起こされるため、シナプスの超解像マッピングは学習に関連するシナプスの変化およびその病理を理解するための強力なツールになり得る。我々は、野生型ニューロンおよびNMDA受容体欠損L5錐体ニューロン(不可欠なNR1サブユニットがノックアウトされている)の興奮性および抑制性シナプスを、子宮内エレクトロポレーションを用いてマッピングした(図12のAおよびB)(参考文献:Tsien, J.Z., et al. (1996). Cell 87, 1317-1326)。興奮性シナプスはL5ニューロンにおいて成熟した樹状突起スパインの先端に位置し、そのサイズはスパイン頭部の直径と相関することが知られている。スパイン頭部の直径に基づき、樹状突起スパインを3つのタイプに分類した:フィロポディア(<250nm)、細いスパイン(250~500nm)、およびキノコ型スパイン(>500nm)(図12のC)。抑制性シナプスのシナプス後の構造を可視化するため、EYFP-ゲフィリンを用いた(参考文献:Chen, J.L., et al. (2012). Neuron 74, 361-373)。EYFP-ゲフィリン斑点は樹状突起軸およびスパイン頭部のサブセットに見られ、この2つのタイプは我々の超解像イメージにおいて明確に区別された(図12のAおよびB)。我々は、定量における偏りを避けるために、近位端から遠位端まで全て、先端の樹状突起の胴部から伸びている100~200μm長の分岐のない斜めの樹状突起に焦点を当てた。

 NR-1欠損ニューロンにおいて、全スパイン密度および平均スパイン長に変化はなかった(図12のDおよびE)が、スパイン頭部の直径の分布は野生型と異なっていた(図12のC、DおよびF)。スパイン頭部直径の平均値の増加は、皮質特異的NR1ノックアウトマウスを用いた先行研究と一致する(参考文献:Ultanir, S.K., et al. (2007). Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 104, 19553-19558)。EYFP-ゲフィリン斑点について、軸における密度は有意な影響を受けなかったものの、スパイン頭部における密度はノックアウトにおいて増加した(図12のG)。また、EYFP-ゲフィリン斑点はNR1ノックアウトニューロンにおいて大きなスパイン頭部に蓄積する傾向があることを発見した(図12のHおよびI)。それゆえ、NMDA受容体ノックアウトは、直接的または間接的に、興奮性シナプスのみならず抑制性シナプスにも影響を与える。NR1欠損ニューロンにおける大きなスパインへの抑制性シナプスの漸増は、これらのシナプスにおける抑制性シナプス新生の、活性に依存する恒常性作用によるものであり得る(参考文献:Baho, E. & Di Cristo, G. (2012). Journal of Neuroscience 32, 911-918)。

 本発明は、例えば、生物材料を透明化して顕微鏡で観察する際に利用することができる。

Claims (9)

  1.  界面活性剤と非イオン性有機ヨウ素化合物とを含む溶液に生物材料を浸漬して、当該生物材料を透明化する透明化工程Aを含むことを特徴とする、生物材料の透明化方法。
  2.  透明化された生物材料を、非イオン性有機ヨウ素化合物を含み屈折率が1.48超である溶液に浸漬した状態で、顕微鏡によって観察する観察工程をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の生物材料の透明化方法。
  3.  上記透明化工程Aの前に、上記生物材料を、界面活性剤と上記透明化工程Aにおける溶液よりも低い濃度の非イオン性有機ヨウ素化合物とを含む1以上の溶液に浸漬して、当該生物材料を透明化する透明化工程Bをさらに含み、ここで、界面活性剤と上記透明化工程Aにおける溶液よりも低い濃度の非イオン性有機ヨウ素化合物とを含む溶液を2以上使用する場合は、非イオン性有機ヨウ素化合物の濃度が低いものから順に上記生物材料の浸漬に供することを特徴とする、請求項1または2に記載の生物材料の透明化方法。
  4.  透明化に先立って、界面活性剤を含み非イオン性有機ヨウ素化合物を含まない溶液に上記生物材料を浸漬する工程をさらに含む、請求項1~3の何れか一項に記載の生物材料の透明化方法。
  5.  生物材料を、非イオン性有機ヨウ素化合物を含み屈折率が1.48超である溶液に浸漬した状態で、顕微鏡によって観察する観察工程を含むことを特徴とする、生物材料の観察方法。
  6.  上記観察工程の前に、界面活性剤を含み非イオン性有機ヨウ素化合物を含まない溶液に上記生物材料を浸漬する工程をさらに含む、請求項5に記載の生物材料の観察方法。
  7.  生物材料用の透明化試薬であって、
     界面活性剤と非イオン性有機ヨウ素化合物とを含む溶液であることを特徴とする、透明化試薬。
  8.  生物材料を顕微鏡によって観察する際に用いるマウント剤であって、
     非イオン性有機ヨウ素化合物を含み屈折率が1.48超である溶液であることを特徴とする、マウント剤。
  9.  生物材料を透明化して顕微鏡によって観察するために用いるキットであって、
     界面活性剤と非イオン性有機ヨウ素化合物とを含む第一の溶液と、
     非イオン性有機ヨウ素化合物を含み屈折率が1.48超である第二の溶液とを備えることを特徴とする、生物材料の観察用キット。
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