標的タンパク質の発現量の温度による調節方法
技術分野
[0001] 本発明は、温度依存的にリードスルーの起きる頻度が変化するナンセンス変異を有 する標的タンパク質の発現量の温度による調節方法に関する。また、本発明は、該タ ンパク質をコードする変異遺伝子と黄色ブドウ球菌に含まれるリードスルーに関与す る因子を共に含有する細胞を容易に作製し、標的タンパク質の機能解析を行う方法 に関する。その他、増殖必須タンパク質の同定を行う方法、及び、同定された増殖必 須タンパク質をターゲットとした抗菌剤のスクリーニング方法に関する。
背景技術
[0002] 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は巿中、及び病院内の各種感染症の主 要病原菌として重要である。また、多くの食中毒発生において原因因子として同定さ れてきた。近年ではメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に代表されるように、各 種抗菌薬に対して、耐性を獲得した株が増加してきている。これらの耐性菌による院 内感染はしばしば重篤化するため、臨床上大きな問題となっている。
[0003] 現在では黄色ブドウ球菌の全遺伝子の解読が終了し、塩基配列が一般公開されて いる(NCBI Accession No.NC_002745等)。これらの情報を基に、病気の診断及び治 療を目的に、タンパク質の機能解析が進められている。黄色ブドウ球菌のゲノム DN Aには二千数百のオープンリーディングフレーム(ORF)が存在し、それぞれが特定 のタンパク質をコードしている。大部分の遺伝子は、黄色ブドウ球菌の置かれた環境 の変化に対応するために機能するものであり、必ずしも必須ではない。事実、多くの 遺伝子について、それを欠損させても細胞が増殖することが知られている。黄色ブド ゥ球菌の増殖に必須の役割を演じているタンパク質がどれであるかが分かれば、該タ ンパク質が、抗菌剤のターゲットの候補になるが、該タンパク質を決定することは、従 来は困難であった。
[0004] 黄色ブドウ球菌の増殖必須遺伝子を検索する方法の一つとして温度感受性突然 変異株が利用されている (特許文献 1参照)。「温度感受性突然変異株」とは、低温(
例えば、 25〜34°C)では増殖することができる力 高温 (例えば、 35〜45°C)では野 生株と異なり増殖することができな 、突然変異株のことである。温度感受性突然変異 株は、細胞内のいずれかの遺伝子に温度感受性の原因となる突然変異を持ってい る。変異した遺伝子の産物である特定のタンパク質又は RNAは菌の生育又は増殖に 不可欠であり、該タンパク質が、ある温度以上で不安定となり、本来の機能を失うため に、菌の表現型が温度感受性になると考えられている。従って、温度感受性相補性 試験等の分子生物学的手法により、温度感受性突然変異株が持つ変異遺伝子を同 定すれば、すなわちそれが増殖必須遺伝子を同定したことになる。増殖必須遺伝子 の同定以外にも温度感受性突然変異株には様々な利用法がある。例えば、温度感 受性突然変異株は培養温度のみを変えることにより特定の増殖必須タンパク質の機 能を喪失させることができるので、それに伴う菌の表現型の変化を経時的に調べるこ とができ、それによつて遺伝子の機能解析が可能となる。又は抗菌活性を持つ化合 物を作用させた時と高温で培養した時とで菌の生理状態の変化と比較することによつ て該化合物が該タンパク質を標的にしている力否かの判定が可能となる。このように 温度感受性突然変異株を利用して、増殖必須タンパク質の機能を阻害する薬剤をス クリーニングすることにより、新規作用機序を持った抗菌剤を得ることが可能である。 また、例えば MurC等のペプチドダリカン合成酵素が温度感受性となった変異株の一 部では、高温培養によって UDP-N-ァセチルムラミン酸等の合成中間体が蓄積する ので、ペプチドダリカン合成酵素の基質の調製にも使用することができる (特許文献 2 参照)。
現時点で黄色ブドウ球菌の温度感受性突然変異株を分離する方法としては、低温 では増殖するが高温では増殖しない変異株をレプリカ法で見つけ出す方法がある( 特許文献 1参照)。しかし、このようにして得られた温度感受性変異株において、どの 遺伝子が変異しているかは偶然の賜物である。そのため、特定の遺伝子が変異した 温度感受性変異株を分離するには、多数の温度感受性変異株を分離した上でそれ らの株の中力 特定の遺伝子が変異した株を見出すしか方法がない。この方法は、 大変にタスクが力かる上、特定の遺伝子が変異した温度感受性変異株が分離できる 保証はなぐ非効率的である。
[0006] 温度感受性変異株では増殖必須タンパク質の機能が温度による制御を受けるが、 これに関連して、遺伝子の発現を温度で制御する方法として、温度感受性リブレッサ 一え cI857を用いる方法が知られている。例えば、 λファージプロモータ(λ Ρプロモ
L
ータ)を持つ発現ベクターにおいて、低温では λ Ρプロモータの下流にクローユング し
した遺伝子の発現は温度感受性リブレッサー λ cI857によって抑制されている力 高 温ではリブレッサーが失活するため、遺伝子発現が誘導される(非特許文献 1参照)
。しかし、本方法では、遺伝子本来の発現制御下にはないため自然の状態とはかけ 離れすぎており、使用目的も遺伝子を高温で高発現させることに重点が置かれてい る。一方、大腸菌変異株 L1では、リボソームタンパクに変異が生じると、ストップコドン のリードスルーが温度感受性となることが示唆されている(非特許文献 2参照)。しか し、リボソームに変異を生じた株でのみリードスルーが温度感受性となるだけであり、 任意の株にお 、てこの現象を利用することはできな 、。
特許文献 1:特開 2001— 309793号公報
特許文献 2:特願 2004— 186494号
非特許文献 1 :ジーン(Gene)、 22卷、 103— 113頁(1983)
非特許文献 2 :ジャーナル ォブ ビロロジー(J. Virol.)、 21卷、 1—6頁(1977) 発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0007] 本発明は、黄色ブドウ球菌に含まれるリードスルーに関与する因子を含有する細胞 にお 1ヽてコードする標的タンパク質の発現が温度感受性を示す遺伝子を容易に作 製し、該標的タンパク質の発現量を一定の条件下で調節する方法を提供する。同時 に、該方法を含む、標的タンパク質の機能解析を行う方法を提供する。その他、増殖 必須タンパク質の同定を行う方法、及び、同定された増殖必須タンパク質をターゲッ トとし、作製された温度感受性変異株を利用した抗菌剤のスクリーニング方法を提供 する。本発明は、力かるスクリーニング方法により、簡便かつ迅速に、作用機序が既 存の抗菌薬等とは異なる薬剤を見出すことを 1つの目的とする。 課題を解決するための手段
[0008] 本発明者らは、黄色ブドウ球菌の温度感受性致死変異株を解析し、遺伝子中のァ
ミノ酸をコードするコドンが終止コドン、特にオパール (UGA)へ変異している株が多 数存在することを見出した。グラム陽性菌である枯草菌や黄色ブドウ球菌において、 UGAは終止コドンとして機能する力 高い頻度 (約 6%)でリードスルーが起ることが知 られている(Journal of bacteriology, 1991, Vol.173, No.5, p.1810- 1812)。その場合、 UGAはトリブトファンとしてリードスルーされる。このことから、本研究者らは、遺伝子中 のアミノ酸をコードするコドンが終止コドンへ変異することにより、該遺伝子において、 低温でリードスルーが起こり、高温ではリードスルーが起らないことを仮定し、鋭意研 究を行った。その結果、標的タンパク質をコードする遺伝子中の、アミノ酸をコードす るコドンの内、少なくとも 1つをストップコドンに置換することによって、標的タンパク質 をコードする変異遺伝子を作製し、該変異遺伝子を黄色ブドウ球菌に導入することに よって、温度感受性変異株を作製することができることを見出した。該温度感受性変 異株を用いることによって、標的タンパク質の発現量の調節、タンパク質の機能解析 、増殖必須タンパク質の同定等を容易に行うことが可能である。また、同定された増 殖必須タンパク質をターゲットとした抗菌剤のスクリーニングを行うことができる。
[0009] 標的タンパク質をコードする遺伝子中の、アミノ酸をコードするコドンをストップコドン へ置換した場合、大腸菌においてリードスルーは検出されず、枯草菌においてリード スルーは検出された力 温度感受性は示さな力つた。従って、ストップコドンのリード スルーが温度感受性を示すという現象は、黄色ブドウ球菌に特有の現象であり、黄 色ブドウ球菌に含まれるリードスルーに関与する因子が関連して 、る可能性がある。
[0010] すなわち、本発明は、
(1)標的タンパク質をコードする遺伝子中の、アミノ酸をコードするコドンの内、少なく とも 1つをストップコドンに置換した標的タンパク質をコードする変異遺伝子及び黄色 ブドウ球菌に含まれるリードスルーに関与する因子を含有する細胞を培養することを 特徴とする、より低温で培養した時に比べて該標的タンパク質の発現量を減少させる 方法、
(2)該細胞が、黄色ブドウ球菌である、(1)記載の標的タンパク質の発現量を減少さ せる方法、
(3)ストップコドンへの置換力 アルギニン、トリプトファン、システィン、グリシン、セリン
若しくはロイシンをコードするコドン力 オパールへの置換、又はトリプトファン、チロシ ン、ロイシン、セリン、グルタミン、リジン若しくはグルタミン酸をコードするコドンカもォ 一力一若しくはアンバーへの置換である、 (1)又は(2)記載の標的タンパク質の発現 量を減少させる方法、
(4)ストップコドンへの置換力 トリプトファンをコードするコドン力もオパール又はアン バーへの置換、アルギニンをコードするコドンからオパールへの置換、又はグルタミン をコードするコドン力もオーカ一又はアンバーへの置換である、 (3)記載の標的タン パク質の発現量を減少させる方法、
(5)ストップコドンへの置換力 トリプトファンをコードする TGGから TGA又は TAGへの 置換、アルギニンをコードする CGAから TGAへの置換、グルタミンをコードする CAGを TAGに置換する工程、又はグルタミンをコードする CAAを TAAへの置換である、(4) 記載の標的タンパク質の発現量を減少させる方法、
(6)ストップコドンへの置換力 トリプトファンをコードする TGGから TGAへの置換であ る、 (5)記載の標的タンパク質の発現量を減少させる方法、
(7)標的タンパク質が黄色ブドウ球菌のタンパク質である、 (1)〜(6) V、ずれかに記 載の標的タンパク質の発現量を減少させる方法、
(8) (1)〜(7) Vヽずれかに記載の標的タンパク質の発現量を減少させる方法を含む、 標的タンパク質の機能の解析方法、
(9) (1)〜(7)いずれかに記載の標的タンパク質の発現量を減少させる方法を含む、 該標的タンパク質を増殖必須タンパク質と同定する方法、
(10) (9)に記載の標的タンパク質を増殖必須タンパク質と同定する方法を含む、該 増殖必須タンパク質をターゲットとした抗菌剤のスクリーニング方法、
( 11 )黄色ブドウ球菌の増殖必須タンパク質をコードする遺伝子中の、アミノ酸をコー ドするコドンの内、少なくとも 1つをストップコドンに置換する工程を含む、黄色ブドウ 球菌の温度感受性致死変異株の作製方法、
(12)標的タンパク質をコードする遺伝子中の、アミノ酸をコードするコドンの内、少な くとも 1つをストップコドンに置換した標的タンパク質をコードする変異遺伝子及び黄 色ブドウ球菌に含まれるリードスルーに関与する因子を含有する細胞、
(13)該細胞が、黄色ブドウ球菌である、(12)記載の細胞、に関する。
発明の効果
[0011] 本発明は、黄色ブドウ球菌に含まれるリードスルーに関与する因子と共存している、 標的タンパク質をコードする遺伝子中の、アミノ酸をコードするコドンの内、少なくとも
1つをストップコドンに置換した標的タンパク質をコードする変異遺伝子を提供する。 該変異遺伝子はタンパク質発現に関して温度感受性を示す。
[0012] また、本発明は、標的タンパク質をコードする遺伝子中の、アミノ酸をコードするコド ンの内、少なくとも 1っをストップコドンに置換した標的タンパク質をコードする変異遺 伝子及び黄色ブドウ球菌に含まれるリードスルーに関与する因子を含有する細胞を 提供する。該細胞は変異遺伝子のタンパク質発現に関して温度感受性を示す。
[0013] さらに、本発明は、上記細胞を利用して、タンパク質の発現調節方法、機能解析方 法、増殖必須タンパク質の同定方法等を提供する。細菌の温度感受性変異株を作 製し、禾 IJ用することによって、同定された増殖必須タンパク質をターゲットとした新規 作用メカニズムを持つ抗菌剤をスクリーニングすることができる。また、作用メカニズム が不明であった既存の薬剤の作用機序を解明することもできる。
図面の簡単な説明
[0014] [図 1]オパール変異が挿入された pbp2温度感受性 (TS)変異株における PBP2タンパ ク質のウェスタンブロッテイングによる検出
[図 2]プラスミド pHY300Cm- trpT176及びプラスミド pTetl8- trpT176の構築
発明を実施するための最良の形態
[0015] 標的タンパク質をコードする遺伝子中の、アミノ酸をコードするコドンの内、少なくと も 1つをストップコドンに置換した標的タンパク質をコードする変異遺伝子を以下にお いて、「本発明の変異遺伝子」と称する事もある。該遺伝子は、黄色ブドウ球菌に含ま れるリードスルーに関与する因子と共存することによって、温度依存的にリードスルー の起きる頻度が変化する。特に、温度を上昇させるとリードスルーが起こりに《なると いう特徴を持つ。
[0016] 「標的タンパク質」とは、本発明において標的とするタンパク質であり、本発明により 、温度依存的に発現量を調節することができるタンパク質を意味する。すなわち、本
発明により、より低温で培養した時に比べて発現量が減少するタンパク質を意味する 。例えば、標的タンパク質として、遺伝子配列が公知の全てのタンパク質等を使用す ることができるが、特に限定されない。具体的には、黄色ブドウ球菌に含まれるリード スルーに関与する因子と共存し、該因子によるリードスルーが起こり得る遺伝子配列 を持ったタンパク質である。好ましくは、細菌のタンパク質、さらに好ましくは、黄色ブ ドウ球菌のタンパク質が挙げられる。また、プラスミド DNAの複製タンパク質、ファージ DNAの複製タンパク質、トランスポゾンのトランスポゼース等も挙げられる。
[0017] 「コドン」とは、核酸の塩基配列力 タンパク質を構成するアミノ酸配列へと生体内で 翻訳される際に、各アミノ酸に対応する核酸の塩基配列(遺伝子コード)のことである 。 DNAの配列において、ヌクレオチド 3個の塩基の組み合わせ力 1個のアミノ酸を指 定する対応関係が存在する。
[0018] 「アミノ酸をコードするコドン」とは、ストップコドン以外の全てのコドンを意味し、 20種 の異なるタンパク質をコードして 、る。
「少なくとも一つ」とは、標的タンパク質をコードする遺伝子中の、アミノ酸をコードす るコドンが 1〜: LO個、ストップコドンに置換することを意味する。特に、 1〜2個がストツ プコドンに置換したものや、 1個がストップコドンに置換したものが好ましい。
[0019] 「ストップコドン」とは、遺伝コードを構成するコドンの内、対応するアミノ酸及び tRNA がなぐ最終産物であるタンパク質の生合成を停止させるために使われているコドン である。ストップコドンには、オパール(TGA; Opal)、オーカ一(TAA; Ocher)、アンバ - (TAG; Amber)があるが、本発明の変異遺伝子の作製において、いずれのストップ コドンも利用できる。
[0020] 本発明は、標的タンパク質中のアミノ酸をコードするコドンをストップコドンに置換す ることにより行うことができる力 標的タンパク質中のアミノ酸をコードするコドンとして は、特に制限はない。
[0021] 例えば、 1塩基置換により標的タンパク質中のアミノ酸をコードするコドンをストップ コドンに置換する場合、アルギニン、トリブトファン、システィン、グリシン、セリン又は口 イシンからオパールへの置換、トリプトファン、チロシン、ロイシン、セリン、グルタミン、 リジン、グルタミン酸力 オーカ一又はアンバーへの置換が利用できる。
[0022] 2塩基置換により標的タンパク質中のアミノ酸をコードするコドンをストップコドンに置 換する場合は、さらに利用できるアミノ酸は増え、 3塩基置換の場合は全てのコドンが 利用可能である。
[0023] 特に、 1塩基置換により標的タンパク質中のアミノ酸をコードするコドンをストップコド ンに置換する場合が好ましぐ上記の中でも特に、トリブトファン、アルギニン又はダル タミンをコードする遺伝子をストップコドンに置換する場合が好ましい。特に、トリプトフ アンをコードする遺伝子をストップコドンに置換する場合が好ましい。
[0024] 具体的には、トリプトファンをオパール又はアンバーに置換する場合、アルギニンを オパールに置換する場合、又はグルタミンをオーカ一又はアンバーに置換する場合 が好ましい。具体的には、トリプトファンをコードする TGGを TGA又は TAGに置換する 場合、アルギニンをコードする CGAを TGAに置換する場合、グルタミンをコードする C AGを TAGに置換する工程、又はグルタミンをコードする CAAを TAAに置換する場合 等が挙げられる。特に、トリブトファンをコードする TGGを TGAに置換する場合が好ま しい。
[0025] 「黄色ブドウ球菌株」としては、例えば、 RN4220、 Cowan, V8、 Newman, L12、 Reynolds, JL022, N315、 RN8846、 SRM551、 SRM563、 SR1587、 FDA 2 09P JC— 1、 ATCC25923, SMITH, NCTC8325, RN2677, RN451、 RN29 06、 MW2、 COL、 252、 476等力挙げられる。
[0026] 「リードスルー」とは、 mRNAの翻訳中の作業がストップコドンで終了せず、さらに下 流部分まで翻訳してしまうことを意味する。通常、サブレッサー tRNA (他の遺伝子に 起きた突然変異による翻訳過程の誤りを抑圧する tRNA。 mRNA上の特定のコドンの 読み方が変わる。)又はリボソームに生じた突然変異等によって引き起こされる。
[0027] 「黄色ブドウ球菌に含まれるリードスルーに関与する因子」とは、ストップコドンをアミ ノ酸コドンとして認識する際に関与する因子を意味する。例えば、 tRNA (例えば、トリ プトファン tRNA等)、リボソーム、 PriB (オパールを認識して翻訳を終結させるタンパク 質)、 EF-Tu等が挙げられる。特に好ましくは、ストップコドンをアミノ酸コドンとして認 識する tRNA、さらに好ましくはオパールをトリプトファンコドンとして認識する tRNAで ある。
[0028] 本発明の変異遺伝子と黄色ブドウ球菌に含まれるリードスルーに関与する因子を 共に含有する「細胞」(以下、「本発明の変異細胞」と称することもある。)としては、原 核細胞、酵母、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞等、標的タンパク質をコードする遺伝 子を発現できるものであればいずれも用いることができる。黄色ブドウ球菌には限定 されない。
[0029] 本発明の変異遺伝子と黄色ブドウ球菌に含まれるリードスルーに関与する因子を 共に含有する「細胞」を使用して本発明を行うことができる。黄色ブドウ球菌に含まれ るリードスルーに関与する因子は、当然のことながら黄色ブドウ球菌に含まれる因子 であるので、本発明は以下の態様も包含する。すなわち、本発明の変異遺伝子を含 有する黄色ブドウ球菌を培養することによって本発明を行うことができる。
[0030] 「黄色ブドウ球菌のタンパク質」とは、該タンパク質をコードする遺伝子として、 bir A
、 gcaD、 llm、 menE, pbp2、 SA0013、 SA0674、 SA1511、 tagA、 pgm、 dnaA、 dnaj、 hemA
、 SA1575、 murA等が挙げられる。ここで、遺伝子名は、 NCBIの S. aureus N315ゲノム データベースに登録されて 、るものを用いた。
[0031] 黄色ブドウ球菌の遺伝子は染色体上とプラスミド上に存在する。「プラスミド」は宿主 染色体とは物理的に独立して自律複製し、安定に遺伝することのできる染色体外遺 伝因子である。その大きさは 2〜3kb力 数百 kbに及ぶものまである。染色体上の遺 伝子のコピー数は常に 1コピーである力 プラスミド上の遺伝子のコピー数は細胞当 たり 1〜2コピーのものから、 100コピー程度のものまで知られている。また、外来のプ ラスミドを、特定の遺伝子をクローニングし、発現させるための遺伝子操作において 禾 IJ用することもある。そのため、本発明の変異遺伝子に関しては染色体上に存在す る場合とプラスミド上に存在する場合がある。例えば、細胞の増殖や生存に必須のタ ンパク質をコードしているほとんどの遺伝子は染色体上に存在するので、菌株を温度 感受性化させる変異遺伝子は染色体上にある。一方、プラスミド上の遺伝子は通常、 細胞の生存にとって必ずしも必須なものではな 、ので、本発明の変異遺伝子がブラ スミド上に存在する場合には、菌株は温度感受性ィ匕しない。しかし、そのような場合 でも、該遺伝子の発現を温度によって調節することができる。特に、該変異遺伝子が プラスミド DNAの複製に必須の遺伝子である場合には、プラスミドはその複製が温度
感受性となり、遺伝子操作の様々な場面で利用することができる。
[0032] 以下、本発明を詳細に説明する。なお、本明細書において、特に指示のない限り、 遺伝子組換え技術、細胞での組換えタンパク質の生産技術、発現タンパク質の分離 精製法、分析法、分子生物学的手法及び免疫学的手法等は公知の方法が採用され る。
[0033] 本発明は、標的タンパク質をコードする遺伝子中の、アミノ酸をコードするコドンの 内、少なくとも 1つをストップコドンに置換した標的タンパク質をコードする変異遺伝子 及び黄色ブドウ球菌に含まれるリードスルーに関与する因子を含有する細胞を培養 することを特徴とする、該標的タンパク質の発現量を調節する方法である。
[0034] 「アミノ酸をコードするコドンをストップコドンに置換する」方法は、正確に変異を導入 する方法であれば使用可能であり、例えば、 cDNAライブラリーを利用した部位特異 的突然変異導入方法が挙げられる。部位特異的突然変異導入方法は、例えば、タ ンパク質の構造と機能における特定のアミノ酸残基の重要性を評価するための突然 変異体を作製する上で、強力なツールとして使用されている。この部位特異的突然 変異導入方法としては、ポリメラーゼ連鎖反応 (PCR法)を用いた様々なプロトコール が確立されている。
[0035] PCR法に基づくプロトコールのうち、 PCRと Dpnlを用いた 2段階法(Biotechniques.;
23(4): 588-592. (1997))は簡便で効率力 いため、現在頻用されている部位特異的 変異導入の方法である。この方法を用いて部位特異的変異を導入し、大腸菌に形質 転換した後、変異プラスミドを抽出精製し、該発現べクタ一に適合した宿主細胞に導 入する。必要な場合には、さらに組換えを利用して、染色体上の野生型遺伝子をプ ラスミド上のストップコドンを持つ変異遺伝子と置換する。
[0036] 該変異遺伝子と黄色ブドウ球菌に含まれるリードスルーに関与する因子を共に含 有する「細胞」を得る方法としては、細胞に DNAを導入する方法であれば 、ずれの 方法も用いることができ、例えば、エレクト口ポレーシヨン法 [Nucleic Acids Res. 16: 6 127 (1988)、 FEMS Microbiol. Lett. 94: 133 (1992)、 Cytotechnology, 3, 133 (1990)〕 、カルシウム法 0. Bacteriol. 115: 139 (1973)、リン酸カルシウム法(特開平 2-227075) 、リポフエクシヨン法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84, 7413 (1987)〕、 Virology, 52, 45
6 (1973)に記載の方法等の方法をあげることができる。細胞に導入する際の発現べク ターとしては、上記宿主細胞において自立複製が可能、又は染色体中への組込み が可能なもの、場合によっては本発明の変異遺伝子の転写に適した位置にプロモー ターを含有して ヽるものが用いられる。
[0037] 「細胞を培養する」条件としては、該細胞を培養することのできる条件であれば、公 知の条件を用いることができる。例えば、黄色ブドウ球菌の細胞培養条件は、温度等 の特記事項を除いて、「図解微生物実験マニュアル (技報堂、 1992年)」等に記載さ れている野生株を培養するための通常の培養条件を使用することができる。通常 pH 6〜8で、 1〜3日間培養する。また培養中必要に応じて、クロラムフエ-コール、テト ラサイクリン、ペニシリン、カナマイシン、ストレプトマイシン等の抗生物質を培地に添 カロしてもよい。培地は、一般に使用されている LB培地〔組成: 1重量0 /0 ノタトトリブト ン、 0. 5重量0 /0 酵母エキス、 1重量0 /0 塩化ナトリウム(pH7. 0)〕、スタフイロコッカ ス培地 110 (酵母エキス: 0. 25%、ペプトン: 1%,ゼラチン: 3%、乳糖: 0. 2%、マン ニット: 1%、塩ィ匕ナトリウム: 7. 5%、リン酸水素二カリウム: 0. 5%、脱脂カンテン: 1. 5% pH7. 0)、トリプトソィ寒天培地(トリプトン: 1. 5%、ソィペプトン: 0. 5%、塩ィ匕 ナトリウム: 0. 5%、カンテン: 1. 5% pH7. 3)、ミュラーヒントン培地 (牛肉抽出液: 3 0%、カゼイン水解物: 1. 75%、可溶性デンプン: 0. 15%、カンテン: 1. 7% pH7 . 3)等が用いられる。
[0038] 温度条件は、標的タンパク質によって異なる。本発明の変異遺伝子は、タンパク質 発現が高温感受性であり、ある温度条件下ではリードスルーが起こるが、温度を上昇 させると、温度の影響を受け、リードスルーが起こりにくくなることにより、標的タンパク 質が発現しなくなる。その結果、本発明の変異細胞は、温度を徐々に調節することに より、野生型から変異型へ、変異型から野生型への表現型の変化を経時的に調べる ことができる。そのため、該細胞の使用方法によって、温度条件は適切な温度に調節 し、培養することが必要である。
[0039] 温度条件において「ある温度条件下」とは、野生型遺伝子も本発明の変異遺伝子も 共にタンパク質を発現する温度をいう。特に、該遺伝子が増殖必須遺伝子の場合に は、野生型細胞も本発明の変異細胞も増殖できる温度をいう。例えば、黄色ブドウ球
菌の場合、 20〜37°Cである力 好ましくは 25〜34°Cであり、特に好ましくは 30°Cで ある。それに対して「温度を上昇させる」ということは、野生型遺伝子のタンパク質の発 現量に比較し、本発明の変異遺伝子では温度上昇の前後で菌の生理状態が著しく 変化する程度までタンパク質の発現量が低下する温度まで上昇させることを 、う。特 に、該遺伝子が増殖必須遺伝子の場合には、野生型細胞は増殖できるが本発明の 変異細胞は増殖できな 、、又は増殖速度が著しく遅 、温度まで上昇させることを 、う 。例えば、標的タンパク質が黄色ブドウ球菌のタンパク質である場合、 35〜45°Cまで 上昇させることであるが、好ましくは 40〜45°Cであり、特に好ましくは 43°Cまで上昇 させることである。
本発明にお 、ては、より低温で培養した時に比べて標的タンパク質の発現量が減 少することが特徴である。標的タンパク質の発現量は、例えば、抗体を用いた該タン パク量の測定、酵素活性値の測定等により、測定することができる。
また、本発明の標的タンパク質の発現量を減少させる方法を用いて、標的タンパク 質の機能を解析することができる。すなわち、温度を上昇させて、標的タンパク質の 発現を減少させた上で、本発明の変異細胞に生じた生理的変化を調べれば、その 標的タンパク質の機能を知ることができる。例えば、黄色ブドウ球菌の場合、高温 (例 えば、 35〜45°C)下で温度感受性変異株を培養し、代謝産物の蓄積又は合成前駆
、つた生理的変化等を調べればよ 、。例え ば、ペプチドダリカン合成前駆体の蓄積や
3 H—N—ァセチルダルコサミンのペプチド ダリカンへの取り込みの減少という生理的変化が現れる場合、その標的タンパク質は 、ペプチドダリカン合成機能を有すると言える。また、 —チミジンの DNAへの取り込 みの減少が認められれば、その標的タンパク質は DNA合成機能を持つと推測できる 。また、特定の抗菌薬に耐性の本発明の変異細胞を高温 (例えば、 35〜45°C)下で 培養した時、耐性度が低下すれば、その標的タンパク質は該抗菌薬に対して菌を耐 性ィ匕する機能を有すると言える。これらの生理的変化の内、ペプチドダリカン前駆体 の蓄積は、菌の粗抽出液を分子量 1万以上の物質をカットするフィルターで濾過し、 HPLCで濾過液に含まれる成分を分析すれば検出できる。 N—ァセチルダルコサミ ンゃチミジンの取り込みは、菌抽出液にトリクロル酢酸を加えて沈殿を生じさせ、沈殿
中の放射能を測定すれば検出できる。抗菌薬に対する耐性度は、該抗菌薬存在下 での菌の増殖の有無で判定できる。この際、培養条件としては、上記記載の培養条 件及び温度条件が挙げられる。また、温度を調節することにより、タンパク質の機能を 解析し、該機能に必要なタンパク質量を測定することができる。
[0041] 従来力も行われているタンパク質の機能解析方法として、温度条件に関わらず、遺 伝子を欠損させた変異株と野生株の比較から、黄色ブドウ球菌のタンパク質の機能 を調べる方法も存在する。但し、この従来法では、遺伝子が全く発現しない変異株と 通常通りに遺伝子が発現している野生株との比較であるため、タンパク質の発現量 の違いによる生理的変化を調べることができない。また、増殖必須タンパク質の場合 に適応できない。一般的に、タンパク質によって、機能を果たすための必要量が異な ると考えられており、本発明であれば、徐々に温度を上昇又は下降させることにより、 タンパク質の発現量を調節することができ、遺伝子の機能の量的な解析も可能である 。さらに増殖必須タンパク質にも適応できる。
また、キシロースのような低分子量ィ匕合物で誘導制御されるプロモータを持つブラ スミドを用い、該プロモータの下流に特定の遺伝子をクローユングして菌に導入し、 該低分子化合物を該菌株が増殖している培地に添加することによって該遺伝子の発 現を誘導することは従来から行われていた。しかし、この方法では遺伝子の発現を止 めるときには培地力 該低分子化合物を除力なくてはならず、煩雑な操作が必要で あった。本発明であれば、培地の温度を上昇させるだけで遺伝子の発現を止めること ができ、操作を簡便化することが可能である。
[0042] 本発明の標的タンパク質の発現量を減少させる方法を用いて、細胞の増殖必須タ ンパク質の同定を行うことができる。細胞の増殖に必須力否かを調べるには、必須性 を調べようとするタンパク質 (標的タンパク質)をコードする遺伝子にストップコドンを導 入する。このようにして作製した本発明の変異細胞が、温度を上昇させた際に生育で きる力否かを調べればよい温度を上昇させた際に該変異細胞が生育できなければ、 該標的タンパク質は増殖必須タンパク質として同定される。例えば、本発明の変異遺 伝子を含有する黄色ブドウ球菌を LB培地上で生育させ、温度を上昇させた場合、 L B培地上に黄色ブドウ球菌がコロニーを形成しなければ、該標的タンパク質は黄色ブ
ドウ球菌の増殖必須タンパク質であるとわかる。
さらに、同様の手法を使えば、特殊な環境下でのみ菌の生存、増殖に必須な遺伝 子の探索ができる。調べようとする非必須タンパク質 (標的タンパク質)をコードする遺 伝子にストップコドンを導入し、種々の環境下に菌を置いて温度感受性を調べる。菌 が特定の環境下で温度感受性となって 、れば、該標的タンパク質はその環境下では 菌の生存増殖に必須と言える。また、このことによって該標的タンパク質の機能を推 定することが可能となる。
[0043] 上記方法で同定された増殖必須タンパク質をターゲットとした抗菌剤のスクリーニン グを行うことができる。具体的には、本発明の変異細胞と野生型細胞に被検物質を 接触させ、許容温度下にて、標的タンパク質をコードする遺伝子を介して生じる事象 や標的タンパク質の動態を比較評価し、アンタゴ-スト又はインヒビターを選別するこ とができる。また、野生型細胞に当該被検物質を接触した場合に現れる生理的変化 と、温度を上昇させた場合に本発明の変異細胞に現れる生理的変化を比較すれば よい。すなわち、同じ生理的変化が現れていれば、当該被検物質は、標的タンパク 質に作用していると言える。本利用形態は、作用機序が不明の既存の薬剤の作用機 序を解明する上でも有用である。つまり、既存の薬剤を接触させた細胞と同様の生理 的変化を、温度を上昇させた時に現す本発明の変異細胞を探索することによって、 既存の薬剤の作用機序を解明することができる。また、抗菌薬の二次評価系を組み 立てる際に、標的となる遺伝子産物を失活させた時の菌の生理的変化を調べるのに 有益である。
[0044] 「被験物質」は、特に限定されな 、。例えば、化学的に合成されたィ匕合物のみなら ず、生物 (例えば、植物、動物、微生物)等の細胞抽出物や単離精製された化合物、 微生物の発酵液、タンパク質、ペプチド、ペプチドミメテイツタス、アミノ酸、核酸等を 使用することができる。
[0045] 「標的タンパク質をコードする遺伝子を介して生じる事象や標的タンパク質の動態」 としては、細胞増殖の遅延、阻害、細胞死、細胞の形態の変化、指標遺伝子以外の 遺伝子の転写の促進、細胞の代謝活性の変化等が挙げられる。細胞増殖阻害は、 例えば、 DNAへの3 H—チミジンの取り込み、 DNAへの BrdUの取り込み、培養中に
おける培養物の吸光度の変化、生菌数カウント、菌集落の有無等を指標として、評価 することができる。また、細胞死は、 DNAへの3 H—チミジンの取り込み、 DNAへの B rdUの取り込み、細胞の形態、生菌数カウント、コロニー形成能等を指標として、評価 することができる。
[0046] スクリーニングに使用される培地としては、 LB培地〔組成: 1重量0 /0 ノ クトトリプトン 、0. 5重量0 /0 酵母エキス、 1重量0 /0 塩化ナトリウム(pH7. 0)〕、L—broth (トリプト ン: 1%、酵母エキス: 0. 5%、塩化ナトリウム: 0. 5% pH7. 0)、スタフイロコッカス培 地 110 (酵母エキス: 0. 25%、ペプトン: 1%,ゼラチン: 3%、乳糖: 0. 2%、マン- ット: 1%、塩ィ匕ナトリウム: 7. 5%、リン酸水素二カリウム: 0. 5%、脱脂カンテン: 1. 5 % pH7. 0)、トリプトソィ寒天培地(トリプトン: 1. 5%、ソィペプトン: 0. 5%、塩ィ匕ナ トリウム: 0. 5%、カンテン: 1. 5% pH7. 3)、乳糖ブイヨン(肉エキス: 0. 3%、ぺプ トン: 0. 5%、乳糖: 0. 5% pH6. 9)、臨床用チォグリコレート培地(トリプトン: 1. 7 %、ソィペプトン: 0. 3%、ブドウ糖: 0. 6%、塩化ナトリウム: 0. 25%、チォダリコル酸 ナトリウム: 0. 05%、 L—シスチン: 0. 025%、亜硫酸ナトリウム: 0. 01%、寒天: 0. 07% pH7. 0)、ミュラーヒントン培地(牛肉抽出液: 30%、カゼイン水解物: 1. 75% 、可溶性デンプン: 0. 15%、カンテン: 1. 7% pH7. 3)、テトラチォネート液体培地 (ペプトン: 0. 25%、カゼインペプトン: 0. 25%、デソキシコール酸ナトリウム: 0. 1% 、チォ硫酸ナトリウム: 3%、炭酸カルシウム: 1% pH8. 4)、マンニット食塩培地(肉 エキス: 0. 25%、ペプトン: 1%、マンニット: 1%、塩化ナトリウム: 7. 5%、フエノーノレ レッド: 0. 0025%、カンテン: 1. 5% pH7. 4)、 PEAァザイド培地(肉エキス: 0. 5 %、トリプトン: 1. 5%、塩化ナトリウム: 0. 5%、フエ-ルエタノール: 0. 15%、窒化ナ トリウム: 0. 01%、カンテン: 1. 5% pH7. 4)、 YCC液体培地(酵母エキス: 0. 5% 、ペプトン: 1. 5%、ブドウ糖: 0. 45%、リン酸二カリウム: 0. 2%、亜硫酸ナトリウムお . 02% pH7. 2)、トリプトソィブイヨン培地(トリプトン: 1. 7%、ソィペプトン: 0. 3%、 ブドウ糖: 0. 25%、塩ィ匕ナトリウム: 0. 5%、リン酸二カリウム: 0. 25% pH7. 3)等 を使用することができる。
[0047] 本発明の標的タンパク質の発現量を減少させる方法は、以下のように利用すること もできる。黄色ブドウ球菌に含まれるリードスルーに関与する因子を含有する細胞 (例
えば、黄色ブドウ球菌)中で複製することのできるプラスミド、該細胞中で感染増殖で きるファージの DNAの Repタンパク質又は複製開始タンパク質をコードする遺伝子、 該細胞中で転移できるトランスポゾン又は insertion sequence (ISエレメント)のトラン スポゼースをコードする遺伝子に、ストップコドンを導入する。こうして得られた変異プ ラスミドを該細胞に導入すると、該プラスミドは温度感受性となり、温度を上昇させるこ とによって容易に脱落させることが可能となる。変異ファージを該細胞に感染させると 、細胞内での該ファージの増殖を温度によって調節することが可能となる。変異トラン スポゾン若しくは変異 ISを、プラスミドに組み込んだ形で該細胞に導入する又は該細 胞の染色体上に導入すると、該プラスミドから染色体への転移又は染色体上での転 移は温度感受性となり、高温にすることによって転移を阻止することが可能となる。こ のようにして上記の変異プラスミド、変異ファージ、変異トランスポゾン、変異 ISはいず れも分子生物学的手法の有用なツールとなる。
また、本発明の標的タンパク質の発現量を減少させる方法は、変異遺伝子が代謝 経路の酵素をコードしている場合、該酵素、又は代謝経路の中で該酵素より上流に 位置する酵素の基質調製にも使用することができる。該酵素としては、例えば、 UDP- N-ァセチルムラミン酸等のペプチドダリカン合成酵素を挙げることができる(特願 200 4—186494)。例えば、本発明の変異遺伝子を含有する黄色ブドウ球菌の温度感 受性致死変異株を利用する場合、非許容温度で培養した場合に目的とする基質を 蓄積する温度感受性株を許容温度で培養して菌数を増加させた後、非許容温度で 培養することによりその基質を蓄積させ、基質の調製をすることが可能である。
上記のように、本発明の標的タンパク質の発現量を減少させる方法を利用して、一 部の標的タンパク質につ 、てはその基質を大量に生産することもできる。この大量生 産された基質を用いることにより、増殖必須タンパク質に対して阻害作用を持つ薬剤 をスクリーニングすることが可能になる。つまり、非許容温度で培養した場合に目的と する基質を蓄積する温度感受性変異株を作製し、許容温度で培養して菌数を増や す工程、該温度感受性変異株を、非許容温度で培養して該基質を菌体内に蓄積さ せる工程、及び菌体内から該基質を抽出する工程を含む、目的とする基質の調製方 法も存在する。
[0049] 既知の増殖必須タンパク質をコードする遺伝子中の、アミノ酸をコードするコドンの 内、少なくとも 1つをストップコドンに置換することにより、又は上記方法で黄色ブドウ 球菌の必須タンパク質を同定する過程で黄色ブドウ球菌の温度感受性致死変異株 を作成することができる。
[0050] また、本発明には、黄色ブドウ球菌に含まれるリードスルーに関与する因子と共存 している、標的タンパク質をコードする遺伝子中の、アミノ酸をコードするコドンの内、 少なくとも 1つをストップコドンに置換した標的タンパク質をコードする変異遺伝子も含 まれる。該遺伝子は、温度依存的にリードスルーの起きる頻度が変化する遺伝子で あり、温度を上昇させるとリードスルーが起こりに《なる遺伝子である。これらの変異 遺伝子及び黄色ブドウ球菌に含まれるリードスルーに関与する因子を含有する細胞 、例えば、これらの変異遺伝子を含有する黄色ブドウ球菌も、本発明に包含される。 実施例 1
[0051] 温度感受性変異株の分離
黄色ブドウ球菌 RN4220株を、 0. 4% ェチルメタンサルフェート を含む LB液体 培地〔組成: 1重量% バクトトリプトン、 0. 5重量% 酵母エキス、 1重量% 塩化ナト リウム (pH7. 0)〕中で一晩培養して変異処理し、 LB寒天培地〔組成: 1重量% バタ トトリプトン、 0. 5重量% 酵母エキス、 1重量% 塩化ナトリウム、 1. 5重量% 寒天
(pH7. 0)〕に塗布し、 30°Cで培養した。ついで、生じたコロニーを、前記 LB寒天 培地にレプリカ法で播種し、 2枚のレプリカプレートを作製した。
前記レプリカプレートの一方を 30°Cで一夜インキュベートし、他方を 43°Cで一夜ィ ンキュペートした。
その結果、 43°Cでのインキュベーションでは、生育せず、 30°Cでのインキュベーシ ヨンで生育したコロニーを、温度感受性変異株として得た。
実施例 2
[0052] 温度感受性遺伝子の解析
黄色ブドウ球菌 RN4220株から、慣用の方法で、ゲノム DNAを単離した。
[0053] 得られたゲノム DNAを、各種制限酵素又はデォキシリボヌクレアーゼ Iで消化し、 ついで、得られた消化 DNA断片を、シャトルベクター pSR515〖こ組込み、エレクト口
ポレーシヨン法で大腸菌 DH10B株に導入した。その大腸菌を寒天培地上で一晩培 養し、生じた形質転換体のコロニーを全て搔き取ってプールした。そこ力も慣用の方 法でプラスミドを調製し、ゲノム DNAプラスミドライブラリ一として使用した。
[0054] 得られたゲノム DNAプラスミドライブラリーを、エレクト口ポレーシヨン法で、前記実 施例 1で得られた変異株に導入した。得られた菌液を、 10%スクロースを含むブレイ ンハートインフュージョン培地で 30°Cにて 1時間培養後、クロラムフエ-コール含有 L B寒天培地〔組成: 1重量% バクトトリプトン、 0. 5重量% 酵母エキス、 1重量% 塩 化ナトリウム、 1. 5重量% 寒天 (pH7. 0)〕に塗布し、 43°Cで 1〜2日培養した。
[0055] 前記平板培地上、 43°Cで形成されたコロニーカゝらプラスミド DNAを抽出した。その 後、ゲノム DNAに由来する挿入断片の解析を行なった。
[0056] ゲノム DNAに由来する挿入断片の両端の塩基配列を決定した。ついで、決定され た塩基配列と相同な配列を、すでにゲノムプロジェクトにより全ゲノム DNAの塩基配 列が決定されている黄色ブドウ球菌 N315株の塩基配列中で探索した。前記 N315 株のゲノム DNAの塩基配列は、前記 RN4220株のゲノム DNAの塩基配列とほぼ 相同であると考えられている。そこで、前記探索の結果に基づき、 RN4220株のゲノ ム DNA由来の挿入断片の全塩基配列を推定した。
[0057] 解析することにより複数の挿入断片中に共通して見出された遺伝子は、前記変異 株の温度感受性を相補する遺伝子であると考えられる。
[0058] なお、挿入断片中に 2種以上の遺伝子が共通して見出された場合、 RN4220株の ゲノム DNAをテンプレートにしてそれぞれの遺伝子を PCR法により増幅し、得られた 各断片をそれぞれ別のプラスミドに組込み、単一の遺伝子を含有した組換えプラスミ ドを構築し、前記実施例 1で得られた温度感受性変異株に該組換えプラスミドを導入 して、 43°Cにおける増殖能の相補を評価することにより、相補性試験を行なった。
[0059] 前記相補性試験の方法は段落番号 (0054)記載の方法に準じた。ただし、菌液は 形質転換体を選択する二枚の LB寒天培地に塗布し、一方を 30°C、他方を 43°Cにィ ンキュペートした。
このようにして見出された温度感受性を相補する遺伝子の配列と、該当する温度感 受性株の遺伝子の配列を比較し、温度感受性を相補する遺伝子中にストップコドン
が生じるナンセンス変異により温度感受性を獲得している株を見出した。結果を表 1 に示す。
[0061] 以上のことから、 bir A (配列番号: 1)、 gcaD (配列番号: 2)及び 11m (配列番号: 3)が 、黄色ブドウ球菌の増殖のための必須遺伝子であることがわかった。なお、前記遺伝 子によりコードされるポリペプチドのアミノ酸配列を、それぞれ、配列番号: 4、 5及び 6 に示す。
実施例 3
[0062] 温度感受性変異株の作製
実施例 2で得られた知見より、特定の遺伝子にストップコドンを導入することにより、 温度感受性が獲得されると考え、特定の遺伝子にストップコドンを導入した株 (以下 の表 2に示す)を得て、その菌株の温度感受性を調べた。温度感受性の確認は、実 施例 1と同様の培地を用い、 30°Cでのインキュベーションでは生育する力 43°Cで のインキュベーションでは生育しないこと、又は生育が著しく遅いことを基準とした。生 育状態は、各温度条件下において LB寒天培地上で 24時間培養した際に、コロニー を形成する力否か又は生じたコロニーの大きさで判断することが可能である。その結 果、表 2に示す株が温度感受性を獲得して ヽることを確認した。
[0063] [表 2]
[0064] 以上のことから、 menE (配列番号: 7)、 pbp2 (配列番号: 8)、 SA0013 (配列番号: 9)
、 SA0674 (配列番号: 10)、 SA1511 (配列番号: 11)、 tagA (配列番号: 12)、 pgm (酉己 列番号: 13)、 dnaj (配列番号: 14)及び hemA (配列番号: 15) ί 黄色ブドウ球菌の 増殖必須遺伝子であることがわ力つた。なお、前記遺伝子によりコードされるポリぺプ チドのアミノ酸配列を、それぞれ、配列番号: 16、 17、 18、 19、 20、 21、 22、 23及び 24に示す。
実施例 4
[0065] 温度感受性変異遺伝子の発現
ウェスタンプロット法により、 opal変異が導入された Pbp2高温感受性変異株における Ρ BP2タンパク質の発現を測定した。
[0066] 高温感受性 pbp2変異株 TS0059は、培地への NaCl (6%)の添加により増殖の高温感 受性が抑圧される。本実験では、 LB培地を用いて 30°Cで一晩培養した培養液を、 L B60 (6%NaCl添カロ LB)培地 5mlに 40 μ 1接種して、 30°Cと 43°Cで log phaseになるま で培養した培養液を用 Vヽた。
[0067] 細胞破砕によるサンプル調製方法、及びウェスタンブロッテイング法は主に Murakami らの方法(FEMS Microbiol Lett., 117, page 131-136.)に従った。培養液を遠心によ り集菌し、 PBSで洗浄した後、リゾスタフイン (200U)及び DNase(40U)を含む PBSを添カロ し 37°Cで 40分間インキュベーションした。サンプルバッファー (6%SDS、 15%merca ptoethanol, 0. 01%BPB、 30%g lycerol in 50mMTris— HCl (pH6. 8))を添カ卩後 5 分間ボイルしたものを、ウェスタンブロッテイングのための SDSポリアクリルアミドゲル電 気泳動用のサンプルとした。各レーンのサンプル量は、細胞の濁度(OD値)を合わ せて調整した。
[0068] ウェスタンブロット解析には、ラット抗 PBP2抗体 (抗血清)をプローブとして用いた。 RN 4220PBP2に対する本抗血清の特異性は、吸収抗体とラット抗 SRM710膜画分抗体( 抗血清)により確認した。ただし、抗 SRM710膜画分抗体 (抗血清)とは、 SRM710 株(PBP2欠失株) (Antimicrob Agents Chemother., 31, page 1423- 1425.)の膜画分 を抗原にして産生した抗血清のことであり、吸収抗体とは、抗 PBP2抗体を SRM710 株膜画分と混ぜ、遠心した後の上清のことである。
[0069] 抗 PBP2抗体 (抗血清)を用いたウェスタンブロットにより、低温(30°C)培養時の TS00
59細胞破砕液では PBP2タンパク質が検出された。一方、高温 (43°C)培養時の TS00 59細胞の PBP2タンパク質量は、 30°Cのそれに比べて著しく減少していた。 RN4220 株では高温と低温とで PBP2タンパク質量に大きな差はなかった。抗 SRM710 (PBP2 欠失株)膜画分抗体を用いると、抗 PBP2抗体を用いて検出されて 、た図 1に示した バンドは、激減した。従って、図 1で示したバンドは PBP2タンパク質を検出していると 判断される。
非特異的に検出されるタンパク質のバンドの発光強度をみると、各レーンで大差なか つた。従って、 PBP2タンパク質量の差はトータルタンパク質量の差すなわち、各レー ンのサンプル量の差ではな 、。
[0070] 以上の結果は、「低温では opal終止コドンがリードスルーされている力 高温ではリー ドスルーされな 、」ことを示して 、る。
実施例 5
[0071] 大腸菌のサブレッサー tRNAによる opalの高温感受性変異株の温度感受性の抑圧 大腸菌では tRNAtrpのアンチコドンに塩基置換が生じた opal (UGA)のサプレッサー 変異 (trpT176)が分離されて!、る。 TS0059株は pbp2遺伝子の 59番目のトリプトファン 力 Sopalに置換される変異をもつ高温感受性変異株である。この株の温度感受性が op al変異に基づくのであれば、その温度感受性は trpT176により抑圧されることが予想さ れる。そこで、 TS0059の温度感受性に対する trpT176の影響を調べた。
[0072] trpT176がクローンユングされているプラスミド pISM3000を用いた。ベクターはシャト ルベクター pHY300Cmを用いた。 pHY300Cmの EcoRIサイトに trpT176を含む DNA断 片 (pISM3000の EcoRI切断により生じる 0.3kbpの断片)を組込み、大腸菌に形質転換 し、 Amp耐性の形質転換体を得た。得られた形質転換体力ゝらプラスミドを抽出し、ブラ スミド p HY300Cm- trpT176を得た(図 2)。 pHY300Cmの EcoRIサイトを挟むように設計 したプライマーを用いて、 pHY300Cm-trpT176に trpT176が挿入されていることを確 認している。
同様の方法で pTetl8 (pHY300Cmの Tc遺伝子に変異(W18opal)をもつ)の EcoRIサ イトに trpT176を組み込んだプラスミド pTetl8-trpT176を構築した(図 2)。
[0073] 大腸菌で trpT176の影響を調べる場合には、 pTetl8-trpT176を塩ィ匕カルシウム法
により形質転換し Tc平板培地でのコロニー形成能を調べた。
TS0059株に対する trpT176の影響を調べる場合には、エレクト口ポレーシヨン法によ り pHY300Cm- trpT176を導入し、 Tc平板培地でのコロニー形成能を調べた。
[0074] pTetl8はこのプラスミド上の Tc遺伝子に opal変異が導入された変異 Tc遺伝子をもつ プラスミドで、 pTetl8を導入した大腸菌は Tc平板培地で増殖できな 、。
そこで、まず、 trpTl 76が opalサプレッサー tRNAとして機能することを確認するため、 p TetlSを導入した大腸菌の Tc感受性に対する影響を調べた。
その結果、 pTetl8導入大腸菌株の Tc感受性は、 trpT176により抑圧された。この結果 は、 trpT176が opalサプレッサー tRNAとして機能することを示して!/、る。
[0075] TS0059株に trpT176を導入すると、 TS0059の温度感受性は抑圧された。結果を表 4 に示す。
[0076] [表 4] 大腸菌 opal tRNAサブレッサー (trpT176) による、 pbp2 (W59opal) 高温感受性変異株 TS0059 の高温感受性の抑圧 (表中、 数値は LB10Tc5培地でのコロニー数を示す。)
[0077] この結果は、 TS0059の温度感受性が opal変異に基づくことを示唆しており、黄色ブ ドウ球菌においては、「低温では opalがリードスルーされ、高温では終止コドンとして 機能する」ことを示している。
[0078] また、同様の方法により、 TS3820 (birA:W177opal)、 TS9218 (menE: W205opal)、 TS
7238 (SA151 l:W130opal)、 TS20010 (SA0013:R382opal)と TS20412 (pgm:W195opal) の高温感受性の抑圧が確認された。結果を表 5に示す。
[0079] [表 5]
種々の opal変異株の高温感受性に与える trpT176の影響
(表中、 数値は LB10Tc5培地でのコロニー数を示す。)
太字で示したコロニーは小〜微少サイズ
*印は極小サイズのコロニー
[0080] 以上の結果もまた、これら変異株の温度感受性が opal変異に基づくことを示唆してい る。
実施例 6
[0081] リードスルーの頻度
CAT (chloramphenicol acetyltransferase )活性の測定から、黄色ブドウ球菌におけ る opalのリードスルーの頻度を推定した。
[0082] 活性測定には、 11番目のトリブトファンが opalに変異した Cm耐性遺伝子を含む pC
AT11- Tcプラスミドと野生型 Cm耐性遺伝子を含む pSR515- Tcを RN4220に導入した 株及び、プラスミドを持たな ヽ RN4220株を用いた。
[0083] 培地は、プラスミドを導入した株にはテトラサイクリン(5 μ g/ml)を添加した LB培地を
、プラスミドを導入してな ヽ RN4220株は LB培地を使用した。
30°Cと 43°Cでー晚培養した培養液をそれぞれ 1Z200に希釈し、 30°Cと 43°Cで 0
D値が 0. 5になるまで培養した。菌液を遠心により集菌し、 PBSで洗浄した後、リゾス タフインを添加し凍結解凍して細胞抽出液を調製し、活性測定用サンプルとした。
[0084] CATアツセィは Seedらの方法に従!、 (Gene, 67, page 271)、 14Cでラベルした Cmと 補酵素 n-Butyryl CoAを用いて 37°Cで 1時間反応させた後、反応産物をキシレンで 抽出し、液体シンチレーシヨンカウントにより反応産物の放射活性を測定した。結果を 表 3に示す。
[0085] [表 3]
野生型又は opal変異 Cm'遺伝子を導入した RN4220株の CATの比活性
*実験は独立に 2回行い、 数値はその平均値を示す。
[0086] Cmに opal変異を持つ pCATl 1- Tcプラスミドを導入した黄色ブドウ球菌 RN4220株 での CATの比活性は 30°Cで 2. 8 pmol/min/ μ g of proteinと算出された。これは野 生型 Cm1"遺伝子を持つ RN4220/pSR515-Tc株の比活性の約 10%に相当した。この値 は、 opalのリードスルーが報告されて!、る黄色ブドウ球菌 RN450株に野生型 CAT-86 遺伝子を持つ株に対する、 opal変異導入 CAT- 86遺伝子を持つ株の CATの比活性 の比率(4%) (J. BacterioL, 173, page 1810-1812)と大差なかった。
[0087] 一方、 43°Cでの RN4220/pCATll- Tc株の比活性はバックグランドの数値以下であ つた。以上の結果は、黄色ブドウ球菌において、低温では opalがリードスルーされ、 高温では opalとして認識されることを示して!/、る。
実施例 7
[0088] opalが翻訳されるアミノ酸の決定
CATの 11番目のトリプトファンに opal変異を導入した CAT11に FLAGタグ(配列番号 : 25)を付カ卩した FLAG- CAT11タンパクを黄色ブドウ球菌で 30°Cで発現させ、 Anti-F LAG affinity gelを用いて精製した。その精製画分を SDS-ポリアクリルゲル電気泳動 後 PVDF膜に転写し、 CBB染色すると、 FLAG-CAT (FLAGタグを付カ卩した野生型 CA T)の分子量に相当する 27Kdaとほぼ一致するタンパク質が検出がされた。このタンパ ク質のバンドを切り出し、アミノ酸シークェンサ一により分析した。
解析したタンパク質の 18番目までのアミノ酸配列は塩基配列から予想される FLAG- CAT11タンパク質のアミノ酸配列と一致していた。さらに、 20番目以降の配列もまた F LAG- CAT11タンパク質のアミノ酸配列と一致していた。この解析結果から、 目的の!7 LAG-CAT11タンパク質のアミノ酸配列が解析できていると判断された。この時、 opal を導入した部位に相当する 19番目のアミノ酸はトリブトファンであった。
この結果は、黄色ブドウ球菌では、低温では opalがトリブトファンに翻訳される力 高
温では翻訳されず終止コドンとして機能することを示している。つまり、この高温感受 性の opalリードスルーの機構には、 tRNAtrpが関与することを示唆している。
実施例 8
[0089] 抗菌剤のスクリーニング方法
11m温度感受性変異株 TS2408と親株 RN4220をそれぞれ LB液体培地で 30°C でー晚培養し、同培地で 5 X 106CFUZmLになるように希釈した。一方、被験試料 として、化合物ライブラリーの化合物あるいは微生物の発酵液を 96穴プレート上で 2 倍系列希釈した。 96穴プレートの各穴にミュラーヒントン液体培地を 80 レ被験試 料の 2倍系列希釈液を 10 L、 5 X 106CFUZmLの菌液を 10 μ L加えてよく混ぜ、 約 20時間 35°Cでインキュベートした。
[0090] 培養後、培養液の吸光度によって菌の発育阻止を判定し、被験化合物の MIC、あ るいは被験発酵液の最大発育阻止希釈倍率を測定した。
[0091] その結果、親株 RN4220よりも温度感受性変異株 TS2408に対してより強い抗菌 力を示した該被験試料を 11m阻害剤の候補として選別した。
産業上の利用可能性
[0092] 本発明の標的タンパク質の発現量を減少させる方法により、標的タンパク質の発現 量を容易に調節することができ、標的タンパク質の機能解析等に応用できる。また、 増殖必須タンパク質の同定が可能であり、同定された増殖必須たんぱく質をターゲッ トとした抗菌剤のスクリーニング方法を提供する。さらに、標的タンパク質が増殖必須 遺伝子の場合は、産生した菌株は温度感受性となり、抗菌剤のスクリーニングに利用 できる。