明 細 書 高温超伝導ジョセフソントンネル接合 技術分野
この出願の発明は、高温超伝導ジョセフソントンネル接合に関するも のである。 さらに詳しくは、 この出願の発明は、 プラズマ周波数が交差 角度に応じて変化する高温超伝導ジョセフソントンネル接合に関する ものである。 背景技術
超伝導体を用いたジョセフソントンネル接合素子(SIS-JJ素子)は超 伝導素子の基本素子であり、 高周波素子や SFQ素子 (磁力線の束を利用 してスイツチ動作を行う素子)、 SQUID磁気センサ一素子などとして応用 が進められてきているが、 このジョセフソントンネル接合素子が高温超 伝導体により作製されれば、 性能のさらなる向上が期待される。
この出願の発明の発明者らは、 先に、 高価な微細加工装置を必要とせ ず、簡便かつ迅速に高い特性を有するジョセフソン接合を形成すること を技術課題とし、 これを解決するものとして、 高温超伝導体のウイスカ —結晶を交差させて配置し、熱処理によりウイスカ一結晶の結合部又は その付近にジョセフソン接合を形成させることを提案している (特願 2000-250269)。 この出願は現在のところ公開されていないが、 この出願 では、 2本のビスマス 2 2 1 2高温超伝導体のウイスカー結晶を十字形 に交差させて MgO基板上に配置し、 MgO基板ごと炉中に入れ、温度 850¾、 酸素分圧 7 0 %、 焼成時間 3 0分という焼成条件の下で熱処理を行うこ とによりジヨセフソン接合が形成されることを具体的に提示している。 この出願の発明は、 以上の先願で提案した技術をさらに発展させ、 特 性制御が可能な高温超伝導ジヨセフソントンネル接合素子の創出を目 指し、 その先駆けとして、 プラズマ周波数が交差角度に応じて変化する
高温超伝導ジヨセフソントンネル接合を提供することを解決すべき課 題としている。 発明の開示
この出願の発明は、 以上の課題を解決するものとして、 高温超伝導体 の 2本の単結晶が、 基板上に、 交差角度 0度一 9 0度の範囲で交差して 結合し、その結合部に単一の高温超伝導ジョセフソントンネル接合が形 成され、 この高温超伝導ジョセフソントンネル接合は、 プラズマ周波数 が交差角度に応じて変化することを特徴とする高温超伝導ジヨセフソ ントンネル接合 (請求項 1 ) を提供する。
またこの出願の発明は、 2本の単結晶は、 ウイスカ一状、 細く加工し た単結晶若しくは薄膜のいずれか 1種又はこれらの内の 2種の組合せ であること (請求項 2 )、 高温超伝導体はビスマス系であり、 その超伝 導相が、 2 2 1 2相、 2 2 0 1相若しくは 2 2 2 3相のいずれか 1種又 はこれらの相の 2種以上の組合せであること (請求項 3 ) をそれぞれ一 態様として提供する。
以下、 実施例を示しつつ、 この出願の発明の高温超伝導ジョセフソン トンネル接合についてさらに詳しく説明する。 図面の簡単な説明
図 1は、 実施例 1で得られた高温超伝導ジョセフソントンネル接合に ついて、高温超伝導体単結晶の交差角度とプラズマ周波数の関係を示し たグラフである。
図 2は、 実施例 1で得られた高温超伝導ジヨセフソン卜ンネル接合に 2 0 GHzの高周波を照射した時に観測されたシャピロステップを示した グラフである。 ·
図 3は、実施例 1で得られた高温超伝導ジョセフソントンネル接合に 磁界を印加した時に観測されたフラウンフォーファーパターンを示し たグラフである。
図 4は、 実施例 2で得られた b面と c面の高温超伝導ジヨセフソント ンネル接合の電流電圧特性を示したグラフである。 発明を実施するための最良の形態
この出願の発明の高温超伝導ジョセフソントンネル接合は、 上述のと おり、 高温超伝導体の 2本の単結晶が、 基板上に、 交差角度 0度一 9 0 度の範囲で交差して結合し、その結合部に形成される単一の高温超伝導 ジョセフソントンネル接合である。
ジョセフソントンネル接合では、超伝導体の間に薄い絶縁体層がサン ドィツチされる必要があり、その絶縁体層は 2つの結晶の界面に形成さ れる。 したがって、 この出願の発明の高温超伝導ジョセフソントンネル 接合において 2本の単結晶を用いるのは、 一つに、 界面に適切な絶縁体 層を形成させるためである。 2本の単結晶の界面に形成された絶縁体層 を用いるからこそ単一のジョセフソントンネル接合が形成されるので ある。 もう一つは、 単結晶は、 多結晶と異なり、 その結晶方位が一方向 に向いている。 したがって、 以下に示すように、 2本の単結晶の交差角 度により臨界電流密度を変化させ、高温超伝導ジヨセフソントンネル接 合のプラズマ周波数 ίρを制御可能とするためである。 .
上記のとおり、 この出願の発明の高温超伝導ジョセフソントンネル接 合において基板上で結合する 2本の高温超伝導体単結晶の交差角度、す なわち、交差する 2本のビスマス系高温超伝導体単結晶がなす 2種類の 大きさの角度の内、大きくない方の角度は、 0度一 9 0度の範囲にある。 この範囲内の交差角度で交差して結合する高温超伝導ジヨセフソント ンネル接合のプラズマ周波数 ίρは、 臨界電流密度 Jcが交差角度に依存 して変化することに起因して変化する。 つまり、 この出願の発明の高温 超伝導ジョセフソントンネル接合は、 プラズマ周波数 ίρが交差角度に 応じて変化するものであり、 したがって、 プラズマ周波数 fp は、 基板 上で結合させる 2本の高温超伝導体単結晶の交差角度を変化させるこ とにより制御可能となる。
高温超伝導体に固有のプラズマ周波数は、 一般に数百 GHzから数 THz であり、 このため、 高温超伝導体を用いた高温超伝導ジョセフソントン ネル素子は、 それより高い周波数には応答可能であるが、 それより低い 周波数に応答することはできなかった。 しかしながら、 上記のとおり、 この出願の発明の高温超伝導ジョセフソントンネル接合により、 プラズ マ周波数 ίρは、高温超伝導体に一般の固有のプラズマ周波数から数 GHz までの 2— 3桁以上の範囲で変化可能となる。後述する実施例のように、 これまでは応答不可能であった、 たとえば 2 0 GHzにおける高周波応答 (シャピロステップ) が観測される。 理論的には、 さらに低い周波数ま で可能であると見込まれる。
したがって、 一般に、 高温超伝導ジョセフソントンネル接合素子は、 高温超伝導近接効果素子に比べ、 IcRn (臨界電流値とシャント抵抗値の 積であり、 ジョセフソン接合の信号処理能力を示す量) が大きいため、 この出願の発明の高温超伝導ジヨセフソントンネル接合を利用する高 温超伝導ジョセフソントンネル接合素子は、 たとえば磁気センサーに応 用する場合、 SQUID出力は IcRnに比例することから SQUID出力が増加し、 出力ノ入力比、 すなわち、 感度が向上すると考えられる。 また、 高温超 伝導ジョセフソントンネル接合素子は、応答可能な最大動作周波数 imax も IcRnに比例するため、 IcRnが大きくなるほど imaxは高くなると考え られる。 このことから、 この出願の発明の高温超伝導ジョセフソントン ネル接合を'利用する高温超伝導ジヨセフソントンネル接合素子は、 たと えば高周波受信機へ応用する場合、 ίρから imaxに周波数特性の向上し た受信機の作製が可能となると考えられる。 さらに、 SFQ素子へ応用す る場合、 スイッチング時間て = l/iniaxで動作する高速素子となり、 SIS (超伝導体ノ絶縁体 Z超伝導体)接合を用いた量子コンピュータ一の作 製が可能ともなると期待される。
なお、 この出願の ¾明の高温超伝導ジョセフソントンネル接合を形成 させる際には、 高温超伝導体の 2本の単結晶を基板上に、 交差角度 0度 一 9 0度の範囲で配置し、 上述の先願と同様に、 熱処理により 2本の単
結晶を結合させることができる。 熱処理時の条件は、 温度を 0度から高 温超伝導体の融点までの範囲、 酸素分圧を 0—100 %の範囲とすること ができる。 2本の高温超伝導体単結晶の接合面は、 a面、 b面若しくは c面のいずれか一つの面又はこれらの面の 2面の組合せとすることが できる。 また、 2本の細い高温超伝導体単結晶は、 ゥイスカー状、 細く 加工した単結晶若しくは薄膜のいずれか 1種又はこれらの内の 2種の 組合せとすることができる。
この出願の発明の高温超伝導ジヨセフソントンネル接合が対象とす る高温超伝導体は、 特に系を選ばず、 高温超伝導体と一般に称する各種 のものから適宜選択可能である。 後述する実施例では、 ビスマス系の高 温超伝導体を選択しているが、 この場合、 超伝導相は、 2 2 1 2相、 2 2 0 1相若しくは 2 2 2 3相のいずれか 1種又はこれらの相の 2種以 上の組合せとすることができる。 しかも、 高温超伝導体には、 その超伝 導特性を損なわない範囲において組成の調整、元素付加若しくは元素置 換などを適宜行うことができる。 実 施 例
(実施例 1 )
ビスマス系高温超伝導体である 2 2 1 2相の 2本のウイスカ一状単 結晶を MgO基板上に 0度— 9 0度の範囲で交差させて配置し、 これを電 気炉内で 850度、 酸素分圧 7 0 %の条件で熱処理して結合させ、 c面ど うしの接合を行った。
【0 0 1 6】
得られた高温超伝導ジヨセフソントンネル接合について臨界電流密 度 Jcを測定し、測定された Jcの変化から高温超伝導ジョセフソントン ネル接合のプラズマ周波数 ·ίρ の交差角度 aによる変化を見積もった。 その結果が図 1に示したグラフである。
この図 1に示したグラフから理解されるように、 2本のウイスカ一状 単結晶の交差角度の変化に応じて高温超伝導ジヨセフソントンネル接
合のプラズマ周波数 ίρが変化している。 高温超伝導ジョセフソントン ネル接合のブラズァ周波数 ίρ は 0度及び 9 0虔では高温超伝導体に固 有の高い値を示し、 4 5度付近で最も低くなり、 2 0 GHz程度となって いる。熱処理条件などによっては図 1に示したグラフ以上に大きなブラ ズマ周波数 ίρの変化が期待される。
以上の結果に基づき、得られた高温超伝導ジョセフソントンネル接合 に 2 0 GHzの高周波を照射した。 その結果、 図 2に示したように、 電流 一電圧特性に高周波応答に特有な階段状のステップ、 すなわち、 シャピ 口ステップが観察された。高温超伝導ジョセフソントンネル接合が高周 波に応答していることが確認され、 高周波の受信素子として機能可能で あることが確認される。また、約 4 0 V間隔でステップが現れており、 この事実は、 ただ一つのジョセフソントンネル接合が動作したこと、 い いかえるならば、 単一のジョセフソントンネル接合が形成されたことを 証明している。
さらに、 得られた高温超伝導ジョセフソントンネル接合について、 磁 界印加にともなう臨界電流 Ic の変化を調べた。 その結果を示したのが 図 3に示したグラフである。なお、磁場は、試料の面内方向に印加した。 図 3に示したグラフの縦軸及び横軸はともに規格化している。 たとえば、 縦軸は、 磁場がゼロであるときの臨界電流を 1として規格化している。 また、 図 3図中に示した Lは磁場と垂直方向の試料の幅、 I cは臨界電 流、 Φ 0は、 長さ Lに磁束が 1本挿入されるための磁場をそれぞれ示し ている。
臨界電流密度は、 規格化する前の電流値を面積で割ることにより求め られ、 図 3に示したグラフの縦軸に比例する値である。 したがって、 こ の図 3に示したグラフから、磁界を印加することにより臨界電流密度が 周期的に変化していることが確認される。 この現象はフラウンフォーフ ァ一パターンと呼ばれるものであり、 高温超伝導ジョセフソントンネル 接合が磁界に応答していることを示している。 このフラウンフォーファ 一パターンは、 SQUID磁気センサーの基本特性である。
(実施例 2 )
ビスマス系高温超伝導体である 2 2 1 2相の 2本のウイスカ一状単 結晶を MgO基板上に 9 0度の交差角で交差させて配置し、 これを電気炉 内で 850度、 酸素分圧 7 0 %の条件で熱処理して結合させ、 b面と c面 の接合を行った。
図 4は、 得られた b面と c面の高温超伝導ジヨセフソントンネル接合 の電流電圧特性を示したグラフである。 この図 4に示したグラフから確 認されるように、 単一の高温超伝導ジョセフソントンネル接合が得られ ている。すなわち、電流の弱いうちは電圧が発生していない領域があり、 これは、 接合を超伝導電流が流れていることを意味しているが、 一方、 臨界電流値を超えて電流を流すと、 突然電圧が発生する。 この電圧の発 生は、 図 4に示したグラフに現れている飛びに相当する。 この飛びが一 つであるので単一の高温超伝導トンネル接合が得られていることが確 認される。 このことから、 実施例 1で確認された各現象が、 当然、 b面 と c面の高温超伝導ジヨセフソントンネル接合についても同様に起こ ると合理的に考えられる。
もちろん、 この出願の発明は、 以上の実施形態及び実施形態によって 限定されるものではない。 高温超伝導体の種類、 単結晶の形態、 熱処理 条件などの細部については様々な態様が可能であることはいうまでも ない。 産業上の利用可能性
以上詳しく説明した通り、 この出願の発明によって、 プラズマ周波数 が交差角度に応じて変化する高温超伝導ジヨセフソントンネル接合が 実現される。