JPWO2020045155A1 - 免疫寛容誘導剤及びアレルギー性疾患の治療又は予防剤 - Google Patents

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Abstract

本発明の課題は、アナフィラキシーを含む即時型アレルギーの発症リスクを抑えながら、アレルギー性疾患を治療又は予防するためのアレルゲンワクチンを提供することにある。本発明者らは、(1)アレルギー性疾患を有する対象に、特定の抗原(アレルゲン)とSF10とを含む組成物を経口接種することにより、該抗原の感作による即時型アレルギーの発症を抑制できること、また、(2)アレルギー性疾患を有さない対象に、特定の抗原(アレルゲン)とSF10とを含む組成物を経口接種すると、該抗原に対する感作成立を阻害できることを見出いし、本発明を完成するに至った。

Description

本発明は、肺サーファクタント由来人工合成粘膜アジュバントSF10(特許文献、非特許文献にSF−10と記載されることもある)と、抗原とを含む、経口投与用の免疫寛容誘導剤やアレルギー性疾患の治療又は予防剤に関する。本発明の免疫寛容誘導剤やアレルギー性疾患の治療又は予防剤は、アレルギー性疾患、特に食物アレルギーの治療又は予防のための経口免疫療法に用いることができる。
アレルギーとは、原因物質(アレルゲン)への暴露よって起きる、生体に不利益を与える免疫反応の一つである。ヒトは異種生物を食料として消化・吸収することにより生命を維持しているので、消化しきれていない未消化異物が絶えず体内に取り込まれる状態にあるが、かかる未消化異物に対して生体の防御反応(アレルギー反応)が起きないように、免疫寛容(免疫トレランス)が通常働いているとされている。しかし、現在は出生人口の5−10%の乳児において、生後1年までに食物アレルギー等の何らかのアレルギー性疾患に罹患しており、またその多くは5〜6歳までに自然治癒するものの、治癒しない場合には、アトピー性皮膚炎、喘息など伴う重度のアレルギー症状(アレルギーマーチ)に進行することがある。一方、環境中のアレルゲン(花粉、カビ、ハウスダスト等)に対しては、年齢が増すとともに、それまでの免疫寛容状態が破綻して、アレルギーが発症することがある。先進国では、このようなアレルギーは年々増加の傾向をたどっており、全人口の約30%が何かしらのアレルギー性疾患に罹患しているとも言われており、その対策が強く望まれている。
従来、アレルギー性疾患に対する有効な治療法は存在せず、アレルギー症状の軽減を目的とした対症療法が一般的であった。しかし近年、アレルギー性疾患の根治療法として、アレルゲン免疫療法(減感作療法とも呼ばれる)が開発され注目を集めている。アレルゲン免疫療法とは、医師の管理下でアレルゲン(抗原)を患者に投与し、免疫寛容を誘導しようとするものであり、食物アレルギーに対する経口免疫療法(特許文献1及び2)、花粉やダニアレルギーに対する舌下免疫療法(特許文献3)、及び経皮免疫療法(特許文献4)が知られている。
アレルゲン免疫療法では、安全に免疫療法を実施するために低いアレルゲン投与量から開始し、徐々に投与量を増やすが、その際、閾値を超える量のアレルゲンを投与することで重篤な即時型アレルギー症状を起こす危険性がある。そのため、アレルゲン免疫療法では、標準化されたアレルゲンワクチンが使用される。アレルゲンワクチンは、天然アレルゲンを加工(成分抽出、加熱処理、化学的修飾、徐放性製剤化など)することによって、免疫寛容を誘導できるようなアレルゲン性を維持しながら、即時型症状の誘発リスクを低下させたものである。アレルゲンワクチンの例としては、卵を加熱変性して粉末化した卵アレルギー治療用組成物や(特許文献5及び6)、修飾β−ラクトグロブリンを含む牛乳アレルギー治療用組成物が開示されている(特許文献7)。また、スギ花粉の主要なアレルゲンタンパク質とされるCryj1とCryj2との融合タンパク質を用いたスギ花粉症治療用組成物や(特許文献8)、それら以外のスギ花粉アレルゲンタンパク質を利用したスギ花粉症治療用組成物も開示されている(特許文献9)。
しかし、このようなアレルゲンワクチンを用いた場合でも、減感作療法によって重篤なアレルギー発症を完全に防ぐことは困難であることが知られている(非特許文献1〜3)。特に、食物アレルギー患者には乳児や幼児も多く含まれるため、減感作療法のリスクはさらに高いものとなる。実際、日本では、経口免疫療法によって、心肺停止を含む重篤なアレルギー症状(アナフィラキシー)を呈した数件の事例が報告されている。以上のことから、より安全性の高い経口免疫療法用のアレルゲンワクチン(免疫寛容誘導剤)の開発が強く求められている。
他方、ヒトの肺胞II型細胞から分泌される「肺サーファクタント」は、新生児呼吸窮迫症候群の特効薬として知られている。本発明者らは、「肺サーファクタント」のアジュバントとしての利用可能性に早くから注目し、大量生産が可能な人工合成肺サーファクタント(Synthetic pulmonary surfactant;SSF)を開発した(特許文献10〜12)。さらに、本発明者らは、増粘剤のカルボキシビニルポリマー(Carboxyvinyl polymer;CVP)を添加することにより、SSFによる抗原の運搬時間が延長できることを突き止め、SSFとCVPと含む人工合成粘膜アジュバントSF10を開発した(特許文献13、非特許文献4、及び非特許文献5)。
また発明者らは、経鼻接種用インフルエンザワクチンのアジュバントとしてSF10を用いた結果、Th1及びTh2免疫系がバランス良く誘導され、血中だけでなく、鼻腔洗浄液や気管支肺胞洗浄液中でもインフルエンザ抗原特異的IgAが増加すること、また、炎症反応を含むいかなる副作用も起こらなかったことを明らかにした(非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6)。しかし、SF10の経口投与はこれまで全く試みられておらず、その効果は全く不明である。
特許第4843792号 特許第5028627号 特許第5473899号 特許第5804278号 特開2015−105234号 特開2015−104331号 特表2011―525891号 国際公開WO2007/080977号 特開2008−141993号 国際公開WO2005/097182号 国際公開WO2007/018152号 国際公開WO2009/123119号 国際公開WO2011/108521号
Ventura MT et al. Immunopharmacol Immunotoxicol. 30: 153-61,2008 Rezvani M et al. Immunol Allergy Clin North Am. 27: 295-307,2007 Bernstein DI. Allergy. 63:374, 2008 Kimoto T et al. Influenza and Other Resp. Viruses 7(6): 1218-1226, 2013. Mizuno D et al. Vaccine 34(16): 1881-1888, 2016. Kim H, et al. PLOS ONE 13(1):e0191133, 2018.
本発明の課題は、SF10をアジュバントとして利用したアレルゲン免疫寛容誘導剤(「免疫寛容誘導ワクチン」と称することもある)を開発して、アナフィラキシーを含む即時型アレルギーの発症リスクを抑えながら、アレルギー性疾患を治療又は予防するための免疫寛容誘導剤や、アレルギー性疾患の治療又は予防剤を提供することにある。
ヒト肺サーファクタントは、胎生34週以後肺胞II型細胞から盛んに産生され、羊水中では胎脂−肺サーファクタント複合体を形成して蓄積される。胎児は、この胎脂−肺サーファクタント複合体を絶えず飲み込んでいるが、肺サーファクタントは上部消化管粘膜で選択的に吸収され、吸収部位の腸管粘膜の成熟を促進することが知られている(Nishijima K, et al. Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol. 2012; 303: L208-L214.)。このような報告から、本発明者らは、アレルゲン(抗原)とSF10とを含む複合体(以下、「アレルゲン−SF10」又は「抗原−SF10」)を経口投与すれば、上部消化管粘膜でSSF(とそれに結合したアレルゲン)が選択的に吸収されて効率的な腸管免疫応答が起こり、アレルゲンの単独投与と比較して、より少ない量のアレルゲン(すなわち、反応閾値以下のアレルゲン)で免疫応答を誘導することが可能ではないかと考えた。
そして、本発明者らは、種々のアレルゲンとSF10とを含む複合体をアレルゲン免疫寛容誘導剤として作製して、その効果をアレルゲン経皮感作モデルマウス(体重約20g)を用いて検討した。その結果、i)オボムコイド(OVA)経皮感作アレルギーマウスに、OVAとSF10との複合体(OVM−SF10)を治療用アレルゲン免疫寛容誘導剤として投与すると、OVA経口投与負荷試験によるアナフィラキシーの発症がほぼ完全に抑制されること、ii)治療用アレルゲン免疫寛容誘導剤として投与したOVM−SF10のワクチン効果はOVM含有量がマウス1匹当たり0.01μg(すなわち、単独ではマウスの免疫応答に影響を及ぼさない量)のときが最も高いこと、iii)健常(アレルゲン非感作)マウスに、カゼインとSF10との複合体(カゼイン−SF10)を予め予防用アレルゲン免疫寛容誘導剤として経口接種すると、その後カゼイン経皮感作を行ってもカゼインアレルギーを発症しないことを明らかにした。
抗原−SF10複合体の経鼻接種によって該抗原に対する免疫応答が誘導されることが知られている状況において、本発明者らは、抗原(アレルゲン)−SF10複合体を経口接種することによって該抗原(アレルゲン)に対する免疫寛容が誘導されるという予想外の結果を見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は(1)肺サーファクタント由来人工合成粘膜アジュバントSF10と、抗原とを含む、経口投与用の免疫誘導剤や、(2)抗原が、オボムコイド、オボアルブミン、及びカゼインから選択される1又は2以上の抗原である、上記(1)に記載の免疫寛容誘導剤や、(3)肺サーファクタント由来人工合成粘膜アジュバントSF10と抗原とを含む、経口投与用の免疫寛容誘導剤を有効成分として含有するアレルギー性疾患の治療又は予防剤や、(4)治療又は予防が、経口免疫療法である、上記(3)に記載の治療又は予防剤や、(5)アレルギー性疾患が、食物アレルギーである、上記(3)又は(4)に記載の治療又は予防剤や、(6)食物アレルギーが、牛乳アレルギー又は卵アレルギーである、上記(5)に記載の治療又は予防剤に関する。
本発明の免疫寛容誘導剤を経口投与すると、SF10のアジュバント効果により、アナフィラキシー反応閾値より少ない量の抗原であっても、免疫寛容を誘導・成立させることができる。したがって、本発明の免疫寛容誘導剤をアレルゲンワクチンとして利用すれば、アレルギー性疾患を有する対象において経口免疫療法を安全且つ効率的に行うことができる。また、本発明の免疫寛容誘導剤を、アレルギー性疾患を有さない対象に投与することによって、アレルギー性疾患の予防を行うことができる。
本発明のアレルギーモデルマウスを用いた、アナフィラキシー誘発実験のプロトコールを示す図である。アナフィラキシー誘発の30分前にアスピリンをマウスに服用させることで、経口アレルゲン(抗原)チャレンジによるアナフィラキシー誘発が増幅され、免疫寛容誘導剤によるアナフィラキシー反応の抑制効果を確実に評価することができる。 本発明の経皮感作アレルギーモデルマウス(体重約20g)を用いた、アナフィラキシー誘発実験の結果を示す図である。経皮感作アレルギーモデルマウスは、週5回、2週間アレルゲン(OVA)を経皮感作した後、1〜2週間を経てアナフィラキシー誘発状態になってから実験に用いる。グラフの縦軸はマウス直腸温の変化を示し、横軸はアレルゲン(OVA)経口チャレンジ後の時間を示す。ASA: アスピリン(50%エタノールに溶解)は、OVAチャレンジの30分前に経口投与する。OVA: オボアルブミン インフルエンザワクチン抗原(HAv)とSF10との複合体を経鼻接種した2週間後の、マウス(体重約20g)の各免疫器官に含まれるHAv特異的IgA抗体の誘導促進効果を示す図である。グラフの縦軸は、マウス1匹当たりの気管支肺胞洗浄液、鼻腔洗浄液、膣液、及び腸管液(小腸液、大腸液(便)、小腸液+大腸液)に含まれるHAv特異的IgA抗体量を示す。また、グラフの横軸の「saline」はコントロール溶媒として用いた生理食塩水のみの投与群を、「HAv」はHAv単独投与群、「HAv−Poly(I:C)」はHAvとPoly(I:C)との組合せ投与群を、「HAv−SF10」はHAvとSF10との複合体投与群をそれぞれ示す。 図4Aは腸管構造の模式図を示し、図4B〜Eは本発明の複合体(蛍光標識OVAとSF10との複合体)の樹状細胞への取込みをヒストグラム解析した結果を示す。これらの図で、樹状細胞は、MHCII+CD11c+抗体で染色される細胞集団として示される。また、かかる樹状細胞集団をさらにCD11b陽性、CD103陽性細胞(MHCII+CD11c+CD11b+CD103+)とCD11b陽性、CD103陰性細胞(MHCII+CD11c+CD11b+CD103-)との2種に分け、合計3種の樹状細胞集団に分けて解析した結果を示す。灰色表示は無処理群の結果を、点線表示は蛍光標識OVAの単独経口投与群の結果を、実線表示は蛍光標識OVA−SF10経口投与群の結果を示す。図4F〜Hは、これら3種類の樹状細胞集団の中で、蛍光標識OVAを取り込んだ樹状細胞の割合を%で示す。SF10アジュバントと蛍光標識OVAとの複合体を形成することで、樹状細胞に取り込まれた蛍光標識OVAは、経口投与12時間後にいずれの樹状細胞においても、蛍光標識OVA単独投与群に比べて有意に取り込み量の増加が認められた。24時間後では、このSF10の取り込み増強効果は消失していた。 インフルエンザ抗原(HAv)とSF10との複合体(HAv−SF10)を経口免疫した後の、マウス(体重約20g)の全身リンパ組織におけるHAv特異的IgA及びIgG産生細胞量の増加を示した図である。図5中で、Aは肺リンパ節、Bは脾臓、Cは頸部リンパ節、Dは胸縦隔リンパ節、Eはパイエル板、及びFは胃所属リンパ節由来のリンパ球の中で、HAv特異的IgA及びIgG産生細胞集団(コロニー)数を示した結果である。HAv単独経口免疫群に比べて、HAv−SF10経口免疫群では、有意にIgA及びIgG産生コロニー数の増加が認められる。各図右のグラフにおいて、「塗りつぶした●」はHAv特異的IgA分泌細胞コロニー数の平均値を、「塗りつぶした■」はHAv特異的IgG分泌細胞コロニー数の平均値を示す。 インフルエンザ抗原(HAv)とSF10との複合体を、マウス(体重約20g)に皮下、経鼻、又は経口免疫した後に採取したマウス脾臓細胞の培養条件下において、HAv刺激の有無でTh1、Th2,Th17サイトカイン分泌量応答を示している。図中、「s.c.」は皮下接種群を、「i.n.」は経鼻接種群を、「p.o.」は経口投与群をそれぞれ示す。Th1サイトカインとして、IL−1とIFN−γを、Th2サイトカインとしてIL−4,IL−5を、Th17サイトカインとしてIL−17AとIL−22を測定した。HAv(s.c.)免疫ではTh1とTh2サイトカインを優位に誘導したが、HAv−SF10(p.o.)免疫では、最も強力なTh17とTh1サイトカインの誘導と、比較的温和なTh2サイトカイン誘導が示された。 インフルエンザ抗原(HAv)とSF10との複合体を皮下、経鼻、又は経口免疫した後の、マウス(体重約20g)の各器官におけるHAv特異的IgA及びIgG産生量増強効果を示した図である。図7中で、Aは血液、Bは気管支肺胞洗浄液、Cは鼻腔洗浄液、Dは胃抽出液、及びEは糞便抽出液の結果をそれぞれ示す。グラフの縦軸は、サンプル中のHAv特異的抗体濃度(白カラム:IgA、黒カラム:IgG)を示す。グラフの横軸は異なる接種ルート群を示し、「s.c.」は皮下接種群を、「i.n.」は経鼻接種群を、「p.o.」は経口投与群をそれぞれ示す。 本発明経皮感作アレルギーモデルマウス(体重約20g)に、OVMとSF10との複合体(OVM−SF10)を免疫寛容誘導ワクチンとして経口免疫した後に、経口アレルゲンチャレンジによるアナフィラキシー誘発試験を行った結果を示した図である。グラフの縦軸はマウス直腸温を、横軸はOVM経口投与(チャレンジ試験)後の時間をそれぞれ示す。また、図中、「ワクチン」は本発明の免疫寛容誘導ワクチン(OVMとSF10との複合体)を示し、「感作」はOVMの経皮感作によるアナフィラキシー誘発状態への誘導を示す。すなわち、この図において、「感作無し」とは健常マウスにOVM経口チャレンジを行った群を示し、「感作のみ(ワクチン無し)」とはOVMの経皮感作によってアナフィラキシー誘発状態になったアレルギーモデルマウスに、OVM経口チャレンジを行った群を示し、「感作+ワクチン」とは上記アレルギーモデルマウスに、免疫寛容誘導ワクチン(本発明の複合体)を経口免疫した後に、OVM経口チャレンジを行った群をそれぞれ示す。 OVMとSF10との複合体(OVM−SF10)による免疫寛容誘導ワクチン効果に及ぼす、OVM含有量の影響を調べた結果を示す図である。グラフの縦軸は、体重約20gのマウスを対象としたOVMチャレンジ試験後のマウス直腸温の変化を、中央値と平均値で示す(負荷試験前の温度を基準値として算出した)。また、グラフの横軸は免疫寛容誘導ワクチンに含まれるOVM抗原量を示し、「(−)」はワクチン非投与群を、「0.001」はOVM(0.001μg)−SF10投与群を、「0.01」はOVM(0.01μg)−SF10投与群を、「0.1」はOVM(0.1μg)−SF10投与群を、「1」はOVM(1μg)−SF10投与群をそれぞれ示す。 本発明のOVM経皮感作アレルギーモデルマウス(体重約20g、n=10)に、0.01μgのOVMを単独で経口投与したときの、アナフィラキシー反応による直腸温変化を示す図である。グラフの縦軸は直腸温の変化を箱ひげグラフで、横軸はOVM単独投与後の時間をそれぞれ示す。なお、0.01μgOVMは、免疫寛容誘導効果が最も良く見られたOVM−SF10免疫寛容誘導ワクチンに含まれるOVM含量である。 カゼインの皮下注射による、経皮アレルゲン免疫療法の予防効果を調べた結果を示す図である。図11(A)は、カゼイン経皮感作アレルギーモデルマウスを用いて、カゼイン経口チャレンジによるアナフィラキシー誘発試験を実施した個別データとその平均値を示す(体重約20g、n=5)。図11(B)は、経皮アレルゲン免疫予防療法として、予めマウス(体重約20g)にカゼインを皮下注射した2週間後に、カゼインの経皮感作を実施し、感作終了2週間後に経口カゼインチャレンジによるアナフィラキシー誘発試験を実施した個別データとその平均値を示す(n=5)。また、図11(A)及び(B)の「皮下免疫無し、ワクチン接種無しの平均」は、健常マウス(カゼインの予防的皮下免疫なし、カゼインの経皮感作なし)の経口カゼインチャレンジ結果(細い点線)を示す。(B)における「皮下免疫後、経皮感作した群の平均」は、予め予防的にカゼインを2週間間隔で2回皮下免疫した後、カゼインの経皮感作を実施し、感作終了の2週間後に経口カゼインチャレンジ試験を実施した結果の平均値(太い点線、n=5)で示し、その個別データを細い実線で示す。グラフの縦軸は、カゼインチャレンジ試験後のアナフィラキシー反応によるマウス直腸温の変化を示し(チャレンジ試験前の温度を基準値として算出した)、横軸はチャレンジ試験後の時間を示す。 カゼインとSF10との複合体(カゼインーSF10免疫寛容誘導ワクチン)の予防的経口投与による、カゼインアレルギーへの予防効果を調べた結果を示す図である。図12は、カゼイン―SF10免疫寛容誘導ワクチンの経口接種を2回(体重約20gのマウスに、初回とその3日後)行い、最終免疫の2週間後にカゼインの経皮感作を実施したマウスを用いて、経口カゼインチャレンジ試験を実施した結果を示す(n=4)。図12の「経口免疫無し、経皮感作無しの平均」は、健常マウス(カゼインの予防的経口免疫無し、カゼインの経皮感作なし)におけるチャレンジ試験結果の平均を点線で示す。「経口免疫無しで経皮感作した群の平均」は、カゼイン―SF10の予防的経口接種無しのマウスにカゼインを経皮感作した後、経口カゼインチャレンジした結果の平均値を太い点線で示す(それぞれ、4例の平均値)。さらに、カゼイン―SF10免疫寛容誘導ワクチンを予防的に経口接種したマウスにカゼインを経皮感作した後、経口カゼインチャレンジした「個別データ」を細い実線で示す。グラフの縦軸は、アナフィラキシー誘発チャレンジ試験後のマウス直腸温の変化を示し(負荷試験前の温度を基準値として算出した)、横軸は負荷試験後の時間を示す。
本発明の「免疫寛容誘導剤」(本明細書においては「免疫寛容誘導ワクチン」と称する場合もある)としては、SF10と抗原とを含み、経口投与によって前記抗原に対する免疫寛容を誘導し得るものであれば特に制限されず、ここで「免疫寛容の誘導」とは、アレルギー性疾患を有する対象においては、アナフィラキシーを含む即時型アレルギー反応の(i)発症抑制、(ii)症状軽症化、(iii)進行遅延、又は(iv)回復促進を意味し、アレルギー性疾患を有さない対象においては、上記(i)〜(iv)に加えて、さらに(v)アレルゲン(抗原)に対する感作成立の阻害又は抑制を意味する。また、本願明細書においては、上記「免疫寛容誘導剤」を、アレルギー性疾患の治療に用いる場合には「治療用アレルゲン免疫寛容誘導剤」と称し、アレルギー性疾患の予防に用いる場合には「予防用アレルゲン免疫寛容誘導剤」と称する場合がある。
本発明に用いられる「SF10」とは、(a)KnLm(ただし、nは4〜8、mは11〜20)のアミノ酸配列からなる合成ペプチドと、脂質とからなる人工合成肺サーファクタント(SSF)、及び(b)カルボキシビニルポリマー(CVP)を含むアジュバントを意味し、上記「脂質」としては、ホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸などを好適に例示することができるが、なかでも、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール、及びパルミチン酸の組合せであることが特に好ましい。
また、本発明に用いられる「抗原」とは、アレルギー性疾患を引き起こすアレルゲンを意味し、食品、植物、動物、又は菌由来のどのようなアレルゲンであってもよい。具体的には、上記「食品由来のアレルゲン」の例としては、卵、牛乳、小麦、大豆、蕎麦、落花生、牛肉、鶏肉、豚肉、ゴマ、ゼラチン、ヤマイモ、マツタケ、イクラ、果物(例えば、オレンジ、キウイフルーツ、モモ、リンゴ、バナナ等)、甲殻類(例えば、エビやカニ)、魚類(例えば、サケやサバ)、貝類(例えば、アワビやイカ)、種実類(例えば、カシューナッツやクルミ)等に由来するアレルゲンを挙げることができるが、なかでも、卵又は牛乳に由来するアレルゲンであることが好ましく、オボムコイド(OVM)、オボアルブミン(OVA)、又はカゼインであることが特に好ましい。
また、上記「植物由来のアレルゲン」の例としては、樹木類の花粉(例えば、アカスギ、アカシア、ハンノキ、ビロードアオダイモ、セイヨウブナ、白樺、カエデ、ヤマスギ、ハコヤナギ、ヒノキ、アメリカニレ、アキニレ、トガサワラ、ゴムの木、ユーカリの木、エノキ、ヒッコリー、アメリカシナノキ、サトウカエデ、メスキート、カジノキ、コナラ属、オリーブ、ペカン、コショウ、マツ、イボタツキ、ロシアオリーブ、アメリカスズカケ、ニワウルシ、クロクルミ、クロヤナギ等の花粉)、草木類の花粉(ワタ、ギョウギシバ、ナガハグサ、スズメノチャヒキ、トウモロコシ、ヒロハウシノケグサ、セイバンモロコシ、カラスムギ、カモガヤ、コヌカグサ、ホソムギ、コメ、ハルガヤ、オオアワガエリ、ヒユ、アカザ、オナモミ、ギシギシ、セイタカアワダチソウ、イソホウキ、シロザ、キンセンカ、イラクサ、アオビエ、ヘラオオバコ、オオブタクサ、ブタクサ、ブタクサモドキ、ノハラヒジキ、ヤマヨモギ、エニシダ、ヒメスイバ等の花粉)等に由来するアレルゲンを挙げることができ、上記「動物由来のアレルゲン」の例としては、ダニ(イエダニ、チリダニ、ツメダニ、コナダニ、マダニ、ヒゼンダニ等)、哺乳動物(例えば、イヌ、ネコ、マウス等)、昆虫(例えば、ミツバチ、スズメバチ、アリ、ゴキブリ等)等に由来するアレルゲンを挙げることができ、上記「菌由来のアレルゲン」の例としては、アルテルナリア、アスペルギルス、ボツリヌス、カンジダ、セファロスポリウム、カーブラリア属、エピコッカム菌、表皮菌、フザリウム属、ヘルミントスポリウム属、連鎖クラドスポリウム、ケカビ、ペニシュリウム、ファーマ属、プルラリアプルランス、クモノスカビ等に由来するアレルゲンを挙げることができる。
さらに、本発明に用いられる「抗原」は、食品、植物、動物、又は菌に含まれる「天然のアレルゲン成分」であってもよいし、そのような天然のアレルゲン成分の一部からなる「特定のアレルゲン分子」であってもよい。また、上記「特定のアレルゲン分子」は、天然のアレルゲン成分から単離・精製されものであっても、遺伝子組換え技術やペプチド合成技術を用いて人工的に合成されたものであってもよい。さらに、上記「天然のアレルゲン成分」又は「特定のアレルゲン分子」は、そのアレルギー誘発性が低下又は増加するように、変性処理(例えば、熱変性や化学的修飾)が施されたものであってもよい。
また、上記本発明の免疫寛容誘導剤は、上記抗原のうちの1つを含むものであってもよいし、2以上を組み合わせて含むものであってもよい。また、上記本発明の免疫寛容誘導剤における、上記抗原と上記脂質(SSFに含まれるリン脂質)の質量比(抗原/リン脂質)は、0.01〜100であることが好ましく、0.05〜10であることがより好ましく、0.07〜2であることがさらに好ましく、0.1〜1であることが特に好ましい。
上記本発明の免疫寛容誘導剤は、アレルギー性疾患の治療又は予防に用いることができることから、本発明は、本発明の免疫寛容誘導剤を有効成分として含有するアレルギー性疾患の治療又は予防剤にも関する。上記「アレルギー性疾患」とは、上記抗原への曝露によって引き起こされるアレルギー性疾患であれば特に制限されないが、具体的には、食物アレルギー、アレルギー性鼻炎(花粉症等)、アトピー性皮膚炎、アレルギー性結膜炎、アレルギー性胃腸炎、気管支喘息、喘息、蕁麻疹等を好適に例示することができるが、なかでも、経口免疫療法の対象となる食物アレルギーであることが好ましく、卵アレルギー又は牛乳アレルギーであることがより好ましい。上記「アレルギー性疾患の治療」においては、上記アレルギー性疾患を有する対象(ヒト、又はペットや家畜等の非ヒト動物)に、上記本発明の免疫寛容誘導剤を1回、好ましくは2回、より好ましくは3回、さらに好ましくは4回、特に好ましくは5回以上経口投与することによって、前記対象において前記抗原に対する免疫寛容を誘導し、症状を改善又は根治する。また、上記「アレルギー性疾患の予防」においては、アレルギー性疾患を有さない対象(ヒト、又はペットや家畜等の非ヒト動物)に、上記本発明の「免疫寛容誘導剤」を1回、好ましくは2回、より好ましくは3回、さらに好ましくは4回、特に好ましくは5回以上経口投与することによって、前記対象において前記抗原に対する免疫寛容を誘導し、その後の該抗原の暴露によるアレルギー性疾患の発症を予防することができる。
上記本発明の免疫寛容誘導剤やアレルギー性疾患の治療又は予防剤における「抗原の含有量」は、1回接種量当たり0.001〜1000μg/Kg体重であることが好ましく、0.01〜100μg/Kg体重であることがより好ましく、0.05〜50μg/Kg体重であることがさらに好ましく、0.05〜5μg/Kg体重であることがより好ましく、0.05〜0.5μg/Kg体重であることが特に好ましい。なかでもアレルゲン感作によりアナフィラキシーの発症リスクの高いケースを対象とした、治療用免疫寛容誘導剤を用いる場合では、抗原としてOVM又はOVAを用いる場合、これらを低濃度(例えば、1回接種量当たり50μg/Kg体重以下、好ましくは5μg/Kg体重以下、より好ましくは0.5μg/Kg体重以下)で含有することが好ましい。なお、接種量はアレルゲンの種類によっても異なるが、予め実施するアナフィラキシー誘発試験で明らかになったアナフィラキシー誘発抗原量の0.1倍以下、より好ましくは0.02倍以下で、上記の範囲に入ることが好ましい。上記の範囲に入らない微量抗原であっても、投与回数を増やすことで、免疫寛容誘導効果を増幅実現させることができる。上記本発明の免疫寛容誘導剤やアレルギー性疾患の治療又は予防剤は、胃液による抗原の消化や酸性環境下での不活性化を防ぐための弱アルカリ緩衝液(例えば、炭酸緩衝液やリン酸緩衝液)、さらにはカプセル封入、ゼリー状の消化酵素からの保護剤等を含むものであってもよい。
上記本発明の免疫寛容誘導剤やアレルギー性疾患の治療又は予防剤は、他のアレルゲン免疫療法用のアレルゲンワクチン(アレルゲン抽出物など)と同時に使用することもできるし、又は、他のアレルゲン免疫療法用のアレルゲンワクチンの使用前後に使用することもできる。また、上記本発明の免疫寛容誘導剤は、トラニラスト、フマル酸クレマスチン、塩酸シプロヘプタジン、ジフェンヒドラミン、メトジラミン、クレミゾール、メトキシフェナミン等の公知のアレルギー性疾患治療薬と組み合わせて用いることもできる。さらに、上記本発明の免疫寛容誘導剤やアレルギー性疾患の治療又は予防剤には、必要に応じて、薬理学的に許容し得る担体、賦形剤、結合剤、香料、矯味剤、甘味剤、着色剤、等張化剤、防腐殺菌剤、酸化防止剤、溶解剤、溶解補助剤、懸濁化剤、充填剤、pH調節剤、安定化剤、吸収促進剤、放出速度制御剤、可塑剤、架橋剤、粘着剤、又は界面活性剤等を添加することができる。
さらに、本発明は、アレルギー性疾患の治療又は予防や、SF10と抗原とを含む複合体(免疫寛容誘導ワクチン)を、それを必要とする対象に経口接種するステップを含む、免疫寛容誘導方法や、免疫寛容誘導剤としての使用のための、SF10と抗原とを含む複合体や、免疫寛容を誘導するための医薬の製造のためのSF10と抗原とを含む複合体の使用に関する。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
[食物アレルギーモデルマウスの作製]
Balb/cマウス(6〜7週齢、雌)の頭側背部の毛をバリカンで除去した後に、100μLのSDS水溶液(4%)を均一に塗布して皮膚バリアー機能に損傷を与え、さらに、10分後に、100μLのオボムコイド(OVM)(ナカライテスク社製)水溶液(10mg/mL)、100μLのオボアルブミン(OVA)(Sigma-Aldrich社製)水溶液(10mg/mL)、又は100μLのカゼイン(Sigma-Aldrich社製)水溶液(10mg/mL)を均一に塗布した。このようなアレルゲン塗布を合計10回(5回/週の頻度で2週間)行い、OVM、OVA、又はカゼインに対する経皮感作食物アレルギーモデルマウスを作製した。以下の実験には、経皮感作から10〜14日後のマウスを供した。
以下、それぞれのモデルマウスをそれぞれ「本発明のOVMアレルギーマウス」、「本発明のOVAアレルギーマウス」、及び「本発明のカゼイアレルギーマウス」と称する場合がある。また、これらの3種のマウスを「本発明のアレルギーマウス」と総称する場合がある。
[アスピリンを用いたアナフィラキシー誘発試験]
食物アレルギー患者では、経口摂取されたアレルゲンが腸管粘膜を介して体内に取り込まれることによって、アナフィラキシーを含むアレルギー反応が誘発される。しかし従来、感作モデルマウスにアナフィラキシーを発症させる方法としては、少量のアレルゲン(数十μg〜1mg/マウス1匹)の静脈又は腹腔内注射が一般的であった。これらの投与方法は重症アナフィラキシーを確実に発症させることが可能であるが、アレルゲンの取込み経路が経口とは異なるために、ヒトにおける食物アレルギーの発症機序を正確に反映したものとは言い難い。また、大量のアレルゲン(50〜100mg/マウス1匹)をモデルマウスに経口投与して、アナフィラキシーを誘発させる試みもなされているが、大量アレルゲン投与にも係わらずアナフィラキシー誘発の程度に大きなばらつきがあり、アナフィラキシー抑制効果の定量的評価が困難であることが知られている。これらのことから、モデルマウスに高い確率でアナフィラキシーを誘発させる経口アレルゲンチャレンジ法の開発が望まれていた。
一方、アスピリン(アセチルサリチル酸;ASA)は、食物アレルギーの症状を増強する物質として知られており、ヒトでは食物依存性運動誘発アナフィラキシー試験に使用されてもいる。具体的には、食物依存性運動誘発アナフィラキシー診断で、「アスピリンの前投与」と「食物+運動」の3種の負荷とを組み合わせて診断する方法の中で、アスピリンが誘発促進剤として使用されることがあった(Brockow K et al. J Allergy Clin Immunol. 2015; 135: 977-984.e4.)。
本発明者らは、図1に示すスケジュールに沿って、本発明のアレルゲン経皮感作モデルマウスに対して「ASA前投与」及び「アレルゲン経口投与」の2種の負荷を組み合わせて実施し、アナフィラキシーが確実に誘発されるか否かを調べた。以下の(1)〜(4)に、実験手順及び結果を示す。
(1)ASA前投与
本発明のOVA経皮感作モデルマウス(体重約20g)を2時間以上絶食させた後に、50%エタノールに溶解したASA(Sigma-Aldrich社製)を経口投与した(1.25mg/100μL/匹)。また、コントロールとして、ASAを含まない50%エタノールのみを経口前投与した群を設けた。
(2)OVA経口チャレンジ
ASA又はエタノールの前投与から30分後に、OVA水溶液(Sigma-Aldrich社製)を経口チャレンジした(20mg/100μL/匹)。また、コントロールとして、水のみ(OVAを含まない)を経口投与した群を設けた。
(3)直腸温モニタリング
直腸温はアナフィラキシー発症の指標として一般的に使用されており、アナフィラキシーの症状が重いほど直腸温が低下することが知られている。本実験では、OVA投与の10分前から、投与後90〜120分間の直腸温を10分間隔で測定した。そして、OVA投与10分前の温度を基準値として、OVA投与後の温度変化をモニタリングし、基準値よりも直腸温度が1度以上低下した場合、そのマウスがアナフィラキシーを発症していると判定した。
(4)結果
結果を図2に示す。また、以下の表1に、図2における表記がどの投与群に対応するかを示した。
Figure 2020045155
ASAを前投与した後に、OVAを経口投与した群では(図2の「ASA/50%エタノール+OVA」)、OVAのチャレンジから30分後には直腸温の急激な低下が起こり(約2.8度の低下)、90分後でも1.3℃の低下が認められた。この結果は、かかる投与群において、アナフィラキシーが誘発され、さらに、その症状は90分後でも回復には至らなかったことを明確に示すものである。
これに対し、ASAの前投与なしに、OVAを経口投与した群では(図2の「OVA単独」)、OVAのチャレンジから10分後にわずかに直腸温が低下(1.1℃程度)したが、短時間で回復したことから、アナフィラキシーの誘発は極めて軽度と判定した。
また、ASA前投与のみを行い、OVAをチャレンジしていない群(図2の「ASA/50%エタノール」)では、直腸温が30分後から上昇する傾向が認められた。同様に、50%エタノールの前投与を行い、OVAを経口チャレンジした群(図2の「50%エタノール+OVA」)でも、直腸温の上昇が30分後から認められた。これらの群における直腸温度上昇は、50%エタノール投与の影響によるものと推測され、アレルギー症状とは無関係であると考えられる。また「ASA/50%エタノール」群でも、同様の経時変化で直腸温の上昇が認められた。
以上の結果から、本発明のアレルギーマウスに予めASAを経口投与することによって、アレルゲン経口投与によるアナフィラキシーの誘発が促進されることが明らかとなった。
[インフルエンザ抗原(HAv)とSF10との複合体の経鼻接種による、全身粘膜のHAv特異的IgAの誘導]
上述の通り、インフルエンザ抗原(ヘマグルチニン;HAv)とSF10との複合体(HAv−SF10)は経鼻接種用ワクチンとして有用であることが既に知られている(Kimoto T, et al. Influenza and Other Resp. Viruses 7(6):1218-1226, 2013.;Mizuno D, et al. Vaccine 34(16): 1881-1888, 2016.;Kim H, et al. PLOS ONE 13(1):e0191133, 2018.)。またこれらの論文では、HAv−SF10を経鼻接種すると、血中だけでなく、鼻腔洗浄液や気管支肺胞洗浄液中でも、HAv特異的IgAが誘導されることが明らかになっている。
そこで、本発明者らは、経鼻接種HAv−SF10ワクチンの消化管を含む全身粘膜のIgA産生誘導に及ぼす影響を調べた。具体的には、HAv―SF10をマウス(体重約20g)に経鼻接種し、2週間後に、気管支肺胞洗浄液、鼻腔洗浄液、膣液、及び腸管液(小腸液、大腸液(便)、小腸液+大腸液)を採取して、それぞれに含まれるHAv特異的IgA量を測定した。また、SF10との比較のため、経鼻接種ワクチンの動物実験に一般的に使用される強力な粘膜アジュバントであるPoly(I:C)を用いて(Ichinohe T, et al. J Virol. 2005; 79: 2910-2919.)、同様の実験を行った。
結果を図3に示す。HAv−SF10の経鼻接種後、鼻腔洗浄液や気管支洗浄液だけでなく、膣や消化管の分泌液中でもHAv特異的IgA量が増加することが明らかとなった。salineとHAv単独投与群では、気管支洗浄液で示すようにHAv特異的IgA抗体量は検出限界値であり、この傾向は鼻腔洗浄液、膣液、及び腸管液でも同様であったため、表示を省略している。以上から、HAv単独経鼻接種に比べて、HAvとSF10の複合体の経鼻接種により、HAv特異的IgA産生量が大きく増加することが判明した。また、HAv−SF10ワクチンの経鼻接種が腸管のIgA産生に及ぼす効果が最も大きく、その効果はPoly(I:C)を含む経鼻接種ワクチンと同等か、それよりも高いことが示され、SF10のアジュバント効果が消化管で現れ易いことが示唆された。
[経口食物アレルゲン―SF10複合体接種による、消化管粘膜樹状細胞への食物アレルゲンの取込み促進効果]
実施例3の結果から、SF10アジュバントが消化管における抗体産生に影響を及ぼす可能性が強く示唆された。また、ウサギを用いた研究により、ヒト肺サーフェクタントと胎脂の複合体を羊水中に投与すると、ウサギ胎児消化管粘膜に選択的に吸収され、吸収部位の粘膜上皮の発育を促進することが報告されている(Nishijima K, et al. Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol. 2012; 303: L208-L214.)。これらのことから、本発明者らは、SF10が経鼻接種以外に経口接種用ワクチンでの抗原運搬体として利用できる可能性があると考え、OVAとSF10との複合体(以下、「OVA―SF10」と称する場合がある)をマウスに経口接種して小腸粘膜樹状細胞へのOVAの取込みを調べた。以下の(1)〜(4)に、実験手順及び結果を示す。
(1)蛍光標識OVA−SF10の作製
公知の手法(Mizuno D, et al. Vaccine 29(33):5368-5678, 2011.; Kimoto T, et al. Influenza and Other Resp. Viruses 7(6):1218-1226, 2013.; Mizuno D, et al. Vaccine 34(16): 1881-1888, 2016.; Kim H, et al. PLOS ONE 13(1):e0191133, 2018.)に従って、蛍光標識されたOVAとSF10との複合体を作製した。なお、蛍光色素標識OVAの小腸樹状細胞への取り込みを明確に測定するため、経口接種OVA―SF10に含まれるOVA量は、経口接種抗体誘導実験(通常の抗原量:0.2〜1μg/匹、体重約20g)に比較すると大量の抗原(100μg/匹、体重約20g)を用いた。
具体的には、蛍光色素のAlexa647で標識したOVA(Sigma-Aldrich社製)と上記の公知の手法で作成したSSFを混合して凍結乾燥し、蛍光標識OVAとSSFとの複合体(以下、「OVA−SSF」と称する場合がある)を作製した。上記混合の際には、SSF中のリン脂質:OVAが10:1(質量混合比)となるように調整した。経口接種の直前に、凍結乾燥済みOVA−SSF(凍結乾燥、5.5mg)当たり、生理食塩水で1.0%に調整したCVP(ハイビスワコー104、富士フィルム和光純薬社製)0.5mLを加えて均一に溶解し、さらに、胃酸による抗原の不活化を避けるために、等量の50mMの炭酸緩衝液(pH9.7)を加えて、最終蛍光標識OVA−SF10複合体(OVA−SF10)を作製した。この一連の操作により、1匹当たりに接種するワクチン液200μLには、100μgのOVA,0.5%CVP、25mM炭酸緩衝液が含まれる。
(2)マウスへの経口接種
ケタミン(62.6mg/kg体重)及びキシラジン(12.4mg/kg体重)の腹腔内注射により、マウスに麻酔を施した。マウス1匹(体重約20g)当たり、上記OVA−SF10溶液(200μL)を、経口ゾンデを用いてマウスの胃に直接接種した。また、コントロールとして、1匹当たりAlexa647標識OVA(100μg/200μL、25mM炭酸緩衝液)を、同様に経口接種した群を設けた。
(3)サンプル採取と解析
経口接種から12及び24時間後に、上記マウスから小腸粘膜を採取した。さらに、公知の手法(Harusato A, et al. Methods Mol Biol. 2016; 1422: 171-180.)に従って、2mMのEDTA,1.5mg/mLのコラゲナーゼtypeIV存在下で、小腸粘膜から粘膜上皮層細胞及び粘膜固有層細胞を単離した。
(4)フローサイトメトリー解析
得られた細胞を、樹状細胞マーカー抗体(抗マウスMHCクラスII(I−A/I−E)抗体、CD11b抗体、CD11c抗体、及びCD103抗体、BioLegend社製)によって染色した。フローサイトメトリー解析(BD FACSVerseフローサイトメーター;BD Bioscience社製)により、各種樹状細胞群における、Alexa647陽性細胞の割合を算出し、OVAの取込み細胞数を測定した。
(5)結果
図4B〜Eは、Aに示す小腸粘膜上皮層と粘膜固有層に含まれるMHC IICD11
細胞(MHC IICD11b樹状細胞)、MHC IICD11bCD11cCD103細胞(CD103樹状細胞)、MHC IICD11bCD11cCD103細胞(CD103樹状細胞)のそれぞれの樹状細胞集団における、蛍光標色素標識OVAの取込みをヒストグラム解析した結果である。図4B〜Eに対応するサンプルを以下の表2に示す。
Figure 2020045155
また、図4F〜Hは、Fに示すMHC IICD11b樹状細胞と、さらにこの樹状細胞をCD11b+、CD103樹状細胞とCD11b+、CD103樹状細胞に分けて、これら3種の樹状細胞それぞれにおける、蛍光色素標識OVAの取込み細胞数を棒グラフとして示した結果である。
図4F〜Hに示されるように、経口ワクチン接種から12時間後では、3種全ての樹状細胞(MHC IICD11b樹状細胞、CD11b+、CD103樹状細胞、及びCD11b+、CD103樹状細胞)において、OVA単独経口接種に比較して、OVA―SF10ワクチン接種群の方が有意に蛍光色素標識OVA取込み細胞数が増加していた。一方、経口投与から24時間後では、いずれの細胞においても樹状細胞に取り込まれたOVAシグナルが検出限界程度にまで減弱していた。
以上の結果から、抗原とSF10とを組み合わせて経口接種すると、小腸粘膜中の樹状細胞に抗原が効率的に取り込まれることが明らかとなった。これまで強力なアジュバントとして知られているPoly(I:C)やCpGなどが、樹状細胞を直接刺激して抗体産生を促進することを考えると、本実験で確認されたSF10のアジュバント作用は抗原運搬効果を促進するユニークなものと言える。なお、SF10やSSFの本となった肺サーファクタントのアジュバント効果においては、Poly(I:C)やCpGなどのような樹状細胞への直接的刺激効果を示さないことが明らかになっており、安全性の高いアジュバントと言える(Mizuno D, et al. J Immunol, 176: 1122-1130, 2006)。消化管で抗原情報を認識した樹状細胞は、その後全身のリンパ節へ移動して、抗原特異的IgG及びIgAの産生を全身で可能にすると考えられている。
[HAv−SF10ワクチン経口接種後の、全身リンパ節における抗原特異的IgG及びIgAの産生増加]
実施例3で、HAv−SF10の経鼻接種により消化管などでもHAv特異的IgA産生量が促進されることが示された。そこで、本発明者らは、全身のリンパ節におけるリンパ球の抗原特異的IgG及びIgA産生に、経口接種HAv−SF10ワクチンがどのような影響を及ぼすかを調べた。以下の(1)〜(4)に実験手順及び結果を示す。
(1)HAv−SF10ワクチンの経口接種
1μgのHAvを含むHAv−SF10(SSF中のリン脂質:HAvが10:1(質量混合比))を作製して、マウス(体重約20g)に経口接種した(1μg HAv/200μL/匹)。なお、HAv−SF10ワクチンの調整では、HAvが比較的胃酸の影響を受けにくいため、炭酸緩衝液は使用していない。HAv−SF10ワクチン接種は、最初の投与から、3日後、14日後、及び17日後の合計4回、同量のHAv−SF10を経口接種した(追加免疫)。また、コントロールとして、同様のスケジュールでHAを単独で経口接種した群を設けた。
(2)リンパ球の採取と培養
最終免疫(4回目のHAv−SF10の接種)から14日後に、肺、脾臓、頸部リンパ節、胸縦隔リンパ節、パイエル板、及び胃所属リンパ節からそれぞれリンパ球を採取した。HAv抗原でコーティングしたプレートに、得られたリンパ球(1×10〜1×10個)を播種して3日間培養した。培養には、1μg/mLのR848(Novus Biologicals社製)、10ng/mLのrmIL−2(BioLegend社製)、10mMのHEPES緩衝液、1mMのピルビン酸ナトリウム、1%非必須アミノ酸溶液、14.3μMの2−メルカプトエタノール、10μg/mLのゲンタマイシン、及び10%の加熱不活性化胎児血清を含む、RPMI1640培養液を用いた。
(3)免疫染色
HRP標識抗IgG抗体又はHRP標識抗IgA抗体(Sigma−Aldrich社製)を用いて、培養リンパ球の免疫染色を行い、ELISpotアッセイを行った。細胞数の測定は、LUNA−IITM Automated Cell Counter(Logos Biosystems社製)を用いて実施した。
(4)結果
図5A〜Fの左側に、各臓器由来のリンパ球の染色像(IgA及びIgG産生スポット写真)を示す(A:肺、B:脾臓、C:頸部リンパ節、D:胸縦隔リンパ節、E:パイエル板、F:胃所属リンパ節)。また、図5A〜Fの右側のグラフに、1×10個のリンパ球当たりのIgA又はIgG産生細胞数(IgA:○、IgG:□、塗りつぶしシンボルはそれぞれの平均値)を示す(N.D.:not-detected、P<0.05、**P<0.01)。
HAv単独投与群では、頸部リンパ節と脾臓由来のリンパ球においてIgG産生スポットが極わずかに検出されたが、それ以外の臓器由来のリンパ球においてスポットは検出されなかった。これに対して、HAv−SF10経口接種群では、全ての臓器由来のリンパ球において、多数のIgG及びIgA産生スポットが検出された。これらの結果から、SF10と抗原とを組み合わせて経口接種すると、全身の免疫応答が効果的に誘導され、抗原特異的IgG及びIgAの産生が強く促進されることが明らかとなった。
[脾臓細胞のサイトカイン分泌に及ぼすHAv−SF10の影響]
実施例5で認められた、HAv−SF10経口接種による抗体産生促進作用のメカニズムを探るために、HAv−SF10経口接種後の全身各組織のHAv特異的IgG及びIgA産生と、脾臓細胞のサイトカイン分泌の変化を調べた。以下の(1)〜(4)に実験手順及び結果を示す。
(1)ワクチン接種
HAv単独又はHAv−SF10を、マウス(体重約20g)に経鼻、経口接種した。比較対照としてHAvの皮下接種群を設けた。投与スケジュールは、実施例5における経口接種と同様であった(0日、3日目、14日目、及び17日目の計4回)。また、コントロールとして無処置群を設けた。それぞれの群についてn=6で実験を行った。
(2)脾臓細胞の培養とサイトカインの測定
最終免疫から2週間後に、各投与群のマウスから脾臓細胞を採取し、10μg/mLのHA存在下又は非存在下で3日間培養した。培養後に、培地中のIL−2、IFN−γ、IL−4、IL−5、IL−17A、及びIL−22の濃度をLEGENDplexTM(BioLegend社製)にて測定した。以下、IL−2及びIFN−γを「Th1サイトカイン」、IL−4及びIL−5を「Th2サイトカイン」、IL−17A及びIL−22を「Th17サイトカイン」とそれぞれ称する場合がある。
(3)HAv特異的抗体産生量の測定
上記(1)の各免疫群のマウスから、血液、気管支肺胞洗浄液、鼻腔洗浄液、及び胃抽出液、糞便抽出液を採取し、HAv特異的IgG及びIgAの濃度をこれまで記載の報告(Mizuno D, et al. J Immunol, 176: 1122-1130, 2006)に従って、ELISA(Enzyme-linked immunosorbent assay)にて測定した。
(4)結果
上記(2)の結果を図6に示す。調整したマウス脾臓細胞では、HAv刺激有の培養条件下でTh1、Th2,Th17サイトカインの分泌量の増加が、いずれの免疫系においても認められた。これらの中で、HAv単独免疫の場合、皮下投与群(s.c.)において、経鼻接種群(i.n.)又は経口接種群(p.o.)と比較して、Th2及びTh1サイトカインの産生が強く促進されることが明らかとなった。一方、HAv−SF10ワクチンを用いた場合、経口接種群では経鼻接種群と比較して、TH17サイトカインとIL−2の分泌が強く増加することが明らかとなった。特に、IL−17Aについては、HAv−SF10ワクチン経口接種群における分泌量が経鼻接種群と比較して6.6倍も高く、有意な分泌促進効果が明らかとなった。IL−17Aは粘膜のIgA分泌に関与することが報告されている(Jaffar Z, et al. Eur J Immunol. 2009; 39: 3307-3314.; Hirota K, et al. Nat Immunol. 2013; 14: 372-379.)が、HAv−SF10経口ワクチン接種は、IL−17A分泌増加を誘導するユニークなワクチンと推定された。HAv−SF10経口ワクチン接種の特に高いIgA産生促進作用は、このようなIL−17A分泌増加を介したものである可能性が考えられる。またHAv−SF10ワクチンの経口接種では、Th17以外に高いIL−2(Th1サイトカイン)産生と、中等度のIL−5(Th2サイトカイン)産生が認められ、これらの結果が、以下に示す全身での高いHAv特異的IgAとIgG誘導に現れていると推定された。
上記(3)の結果を図7A〜Eに示す(A:血液、B:気管支肺胞洗浄液、C:鼻腔洗浄液、D:胃抽出液、E:糞便抽出液)。グラフの縦軸は、サンプル中のHAv特異的抗体濃度(白カラム:IgA、黒カラム:IgG)を示す(mean+SEM、P<0.05、**P<0.01)。また、グラフの横軸は各接種ルートの異なる免疫群を示す(s.c.:皮下接種群、i.n.:経鼻接種群、p.o.:経口接種群)。
図7の「s.c.」のデータを見ると分かるように、HAvの皮下接種群(日本での通常行われているインフルエンザワクチンの投与方法)では、IgG産生のみが誘導され、IgA抗体はほとんど産生誘導されていなかった。これに対して、HAv−SF10ワクチンの経口接種群(p.o.)では、全ての検体において抗原特異的IgG及びIgAの産生が強く促進された。血液検体においては、HAv皮下投与群(s.c.)と比較して、HAv−SF10ワクチンの経口接種群(p.o.)では、IgGで約6.7倍、IgAで約180倍に増加していた。IgAは、病原体の侵入経路となる粘膜で分泌され、交叉免疫性の強いことが報告されている(Tamura SI, et al. Eur J Immunol. 1992; 22: 477-481.)。このことから、本実施例によって示された、HAv−SF10ワクチンの経口接種によってIgA抗体の産生が促進されるという結果は、生体防御の観点から優れた特徴を有することを示唆している。
また、HAv−SF10ワクチンの経鼻接種では、血液(A)における抗原特異的IgG及びIgAの産生量はIgGの方が約6.7倍高く産生されたが、これに対して気管支肺胞洗浄液(B)、鼻腔洗浄液(C)、及び胃抽出液(D)等の粘膜分泌液では、逆にIgAの方がIgGに比べて10倍から200倍より強く産生促進されることが明らかとなった。HAv−SF10ワクチンの経鼻接種群と経口接種群を比較すると、全ての検体において経口接種の方が強いIgG及びIgA抗体産生誘導効果を示し、この違いは気管支肺胞洗浄液で最も大きく、経鼻接種群に比較してIgAで約700倍、IgGで約200倍の強い抗体産生を示した。なお、血液(A)では、経口接種は経鼻接種よりも、IgG及びIgA量は共に約20倍の高い抗体産生量を示した。
以上のように実施例5及び6の結果から、HAv−SF10ワクチンの経口接種は全身の様々な免疫器官においてHAv特異的IgG及びIgAの産生を強く誘導することが明らかとなった。特に全身の粘膜分泌液における、抗原特異的IgA産生の強い誘導は、未だ作用機序は不明であるが、脾臓細胞におけるHAv−SF10の強いIL−17A分泌促進作用が関与している可能性が示唆された。
[OVM−SF10治療用経口免疫寛容誘導ワクチン接種による免疫寛容誘導]
OVMは鶏卵中で最もアレルゲン性の高い成分であることが知られている。そこで、OVM経皮感作アレルギーマウスを用いて、OVMとSF10との複合体(以下、「OVM−SF10」)治療用ワクチンの経口接種による免疫寛容誘導効果を、アナフィラキシー抑制効果を指標に調べた。
(1)OVM−SF10治療用経口免疫寛容誘導ワクチンの作製
実施例4の(1)の手法に沿って、マウス1匹(体重約20g)当たりに接種する種々の濃度のOVM(1μg、0.1μg、0.01μg)を含む、OVM−SF10経口免疫寛容誘導ワクチンを作製した(以下、それぞれ「OVM(1μg)−SF10」、「OVM(0.1μg)−SF10」、及び「OVM(0.01μg)−SF10」と称する)。なお、治療用経口免疫寛容誘導ワクチンの作成にあたっては、実施例4と作成方法は同じであるが、抗原量が微量である点に特徴を示す。具体的には、OVM(1μg、0.1μg、又は0.01μg)と、その十倍量のリン脂質(10μg、1μg、又は0.1μg)を含むSSFとを混合して凍結乾燥した。経口投与直前に1.0%CVP/生理食塩水(100μL)を加えて溶解し、さらに、等量の50mMの炭酸緩衝液(pH9.7)を加えて、1匹に経口接種するOVM−SF10ワクチン溶液(200μL)を作製した。この一連の操作により、1匹当たりに接種する治療用経口ワクチン溶液200μLには、0.01〜1μgのOVM,0.5%CVP、25mM炭酸緩衝液が含まれた経口免疫寛容誘導ワクチンが作成される。
(2)OVM−SF10治療用経口免疫寛容誘導ワクチンの接種
予めアナフィラキシー誘発状態にした経皮感作OVMアレルギーマウスを2時間絶食させた後に、治療用OVM−SF10免疫寛容誘導ワクチン(200μL)を経口接種した。ワクチン接種は、最初の投与から、3日後、14日後、及び17日後に同量の治療用免疫寛容誘導OVM−SF10ワクチンを経口接種(合計4回接種)した。また、対照群として、ワクチン非投与群(感作のみ、経口ワクチン無し)を設けた。
(3)OVMによる経口チャレンジアナフィラキシー誘発試験
実施例2の手順に沿って、チャレンジ試験前の絶食とASA投与を行った後に、経口アレルゲンチャレンジ試験を行った。具体的には、最終免疫(4回目のOVM−SF10ワクチンの投与)から14日後のマウスを絶食した後、ASAを前投与し、その後OVMの経口チャレンジを実施し(10mgOVM/200μL/匹)、120分間に渡って直腸温をモニターした。また、コントロールとして、経皮感作していないマウス(無感作マウス)でも、同様にOVMを経口チャレンジして直腸温のモニターを実施した。
(4)結果
得られたデータは箱ひげ図として図8に示した。各投与群と図8における表記は、以下の表3の通りである。また、図8中の太い実線は「感作のみ(ワクチン無し)」群の直腸温の中央値を示し、太い点線は「感作+ワクチン0.01μg」群の直腸温の中央値をそれぞれ示す。
Figure 2020045155
図8に示されるように、無感作マウス群では、OVMチャレンジ後の直腸温変化は認められず、アナフィラキシーは誘発されないことが確認された。これに対して、「感作のみ(ワクチン無し)」群(太い実線)では、OVMチャレンジから30分後に1.7度を超える直腸温の低下のピークが認められ、アナフィラキシーを発症したことが明らかとなった。これらの結果は、本発明のOVM経皮感作アレルギーマウスが、OVMに対する即時型アレルギー症状を呈するモデルマウスとして使用できることを裏付けるものである。
一方、治療用経口免疫寛容誘導ワクチン投与群では、「感作+経口ワクチン0.01μg」群において、OVMチャレンジ後の直腸温の低下は認められず、アナフィラキシーの発症がほぼ完全に抑制されることが確認された。また、「感作+経口ワクチン0.1μg」群及び「感作+経口ワクチン1μg」群では、OVM投与後にわずかな直腸温の低下が認められ、「感作+経口ワクチン0.01μg」群に比べると、免疫寛容誘導効果において若干劣る傾向が示された。
以上のことから、OVM経皮感作アレルギーマウスに、治療用OVM−SF10免疫寛容誘導ワクチンを経口接種すると、免疫寛容を誘導すると考えられる。また、治療用OVM−SF10経口免疫寛容誘導ワクチンの作用は、OVM含有量が微量の場合により強い免疫寛容誘導効果を示すことが示された。
[OVM−SF10治療用経口免疫寛容誘導ワクチンにおける、最適OVM含有量の検討]
実施例7の結果から、治療用OVM−SF10免疫寛容誘導ワクチン効果(免疫寛容誘導作用)は、そのOVM含有量に依存して免疫寛容誘導効果が異なることが示唆された。そこで、実施例8では、治療用OVM−SF10経口免疫寛容誘導ワクチンにおける最適OVM含有量を検討した。
実施例7の手順に沿って、0.001μg〜1μgのOVMを含む治療用OVM−SF10免疫寛容誘導ワクチンを作製した(以下、それぞれ「OVM(1μg)−SF10」、「OVM(0.1μg)−SF10」、「OVM(0.01μg)−SF10」、及び「OVM(0.001μg)−SF10」と称する)。次に、それらを経皮感作OVMアレルギーマウス(体重約20g)に経口接種し、14日後にOVMによる経口チャレンジ試験を行った。チャレンジ試験に先立って、マウスの絶食、ASA投与は、実施例2に従って実施した。
OVMチャレンジ投与後約30分の直腸温の変化の箱ひげグラフを図9に示す。直腸温の平均値及び中央値は、OVM(0.01μg)−SF10経口免疫寛容誘導ワクチン投与群が最も高く、アナフィラキシー抑制効果が見られたことから、ワクチンに含まれるOVMの最適含有量は0.01μgであることが示された。通常の経口チャレンジ試験に使用されるOVM量が10mg/匹であることを考えると、チャレンジ試験に使用される抗原(OVM)の1/10,000,000という極めて微量な抗原で、SF10存在下に免疫寛容が誘導できることが明らかとなった。
[微量OVMのアナフィラキシー誘発試験]
実施例7及び8により、0.01μgのOVMをSF10と組み合わせた経口免疫寛容誘導ワクチンを経口接種したマウスでは、OVMに対する免疫寛容が成立することが明らかとなった。そこで、実施例9では、経口免疫寛容を誘導した0.01μgのOVMを、SF10アジュバント非存在下に単独経口接種した場合、アナフィラキシーが誘導され得るか否かを調べた。即ちOVMとSF10の複合体からOVMが遊離して、アナフィラキシーを誘発するリスクの有無の検討である。
具体的には、経皮感作OVMアレルギーモデルマウス(体重約20g、n=10)を、実施例2の手順に沿って、チャレンジ試験前の絶食とASA投与を行った後に、経口OVMチャレンジ試験を実施した。経口OVMチャレンジ試験は、0.01μgのOVMを1回経口チャレンジし、60分間の直腸温の変化を調べた。図10の箱ひげグラフに示すように、0.01μgのOVM投与後の直腸温は、試験した全てのマウスにおいて低下することは無かった。このことから、経皮感作OVMアレルギーマウスであっても、0.01μgの微量OVMの経口投与では、アナフィラキシーは誘導されないことが明らかとなった。
実施例7〜9の結果を考えあわせると、アナフィラキシー誘発準備状態にあるマウスであっても、アレルゲン単独の経口チャレンジでは免疫応答(アナフィラキシー)を誘導しない微量のOVMとSF10アジュバントを組み合わせ、これを治療用OVM−SF10経口免疫寛容誘導ワクチンとして経口接種することにより、免疫寛容を成立させることが可能であることが示された。また、微量抗原とSF10との複合体から成る治療用経口ワクチンの場合、例え抗原が複合体から遊離してもアナフィラキシー発症の危険性が低く、しかも効果的な免疫寛容を誘導することが示された。アレルギー治療・予防剤として優れた作用を有することを示唆している。
[カゼイン−SF10複合体免疫寛容誘導ワクチンの経口接種による、牛乳アレルギーの予防]
牛乳アレルギーは免疫寛容の誘導が困難で、経口免疫療法の過程でアナフィラキシーによる医療事故も多く報告されている。そこで本発明者らは、カゼインとSF10との複合体(以下、「カゼイン−SF10」と称する場合がある)を作製して、予防用カゼイン−SF10経口免疫寛容ワクチンによるアナフィラキシーの発症抑制予防効果を調べた。なお、予防用経口免疫寛容誘導ワクチンの場合、アレルギーの無い状態(アナフィラキシーの発症リスクの無い状態)時に接種することから、用いるアレルゲン量は実施例7に記載の治療用経口免疫寛容誘導剤に比べて多い方が効果的であり、含有アレルゲン量が多くても副反応のリスクは少ないと考えられる。
以下の(1)〜(4)に実験手順及び結果を示す。
(1)予防用カゼイン−SF10経口免疫寛容誘導ワクチンの作製
実施例4の手法に沿って、予防用カゼイン−SF10免疫寛容誘導ワクチンを作製した。具体的には、10mgのカゼイン(Sigma−Aldrich社製)及び公知の手法で作成したSSF(Kimoto T, et al. Influenza and Other Resp. Viruses 7(6):1218-1226, 2013.;Mizuno D, et al. Vaccine 34(16): 1881-1888, 2016.;Kim H, et al. PLOS ONE 13(1):e0191133, 2018.)100mgを混合して凍結乾燥し、カゼインとSSFとの複合体(カゼイン−SSF)を作製した。上記混合の際には、SSF中のリン脂質:カゼインが10:1(質量混合比)となるように調整した。経口投与直前に、凍結乾燥した1.1mgのカゼイン−SSFに100mLの1.0%CVP(ハイビスワコー104、富士フィルム和光純薬社製)/生理食塩水を加えて均一に溶解し、さらに、50mMの炭酸緩衝液(pH9.7)等量を加えて最終の予防用経口免疫寛容誘導ワクチン溶液(200mL)を調整した。この一連の操作により、1匹当たり経口接種する予防用免疫寛容誘導ワクチン溶液200μLには、1μgのカゼイン,0.5%CVP、25mM炭酸緩衝液が含まれる。
(2)予防用カゼイン−SF10免疫寛容誘導剤の接種
実施例4の手法に沿って、健常マウス(Balb/cマウス、体重約20g)に予防用カゼイン−SF10ワクチン溶液200μLを経口接種し、さらに、その3日後に同量のカゼイン−SF10ワクチンを経口接種した(合計2回接種)。最終免疫から1ヶ月後のマウスを、以下(3)の実験に供した。また、コントロールとして、カゼイン−SF10免疫寛容誘導ワクチンの非投与群を設けた。さらに、予防用カゼイン−SF10経口免疫寛容誘導ワクチンの接種群と予防効果を比較するために、カゼイン単独の皮下注射(1μgのカゼイン/100μLの生理食塩水;2回接種)群(既知の皮下免疫療法群)を設けた。最終免疫から1ヶ月後の免疫マウスを、以下(3)の実験に供した。
(3)カゼインの経皮感作
実施例1の手法に沿って、上記(2)のマウスに対するカゼインの経皮感作を行った。具体的には、マウスの背中に1回当たりカゼイン(1mg/100μL)水溶液を週5回、2週間に渡って塗布し(計10回塗布)、カゼインの経皮感作を行った。塗布感作から1ヶ月後に、以下のカゼイン腹腔内チャレンジ試験を行った。なお、このカゼインの経皮感作条件で、アナフィラキシー誘発状態になっていることは予め確認してある。
(4)カゼインの腹腔内チャレンジによるアナフィラキシー誘発試験
上記(3)のマウスに、カゼインを腹腔内投与して(1mg/匹)、その後100分間の直腸温をモニタリングした(n=4〜5)。アレルゲンの腹腔内投与、あるいは血管内投与によるアナフィラキシーの誘発は、アナフィラキシー誘発試験の中でも最も重症で激烈な免疫反応を発現する。予防用ワクチン接種の場合、経皮アレルゲン感作を含む全てのアレルゲン感作、例えば血管内感作の可能性をも考慮して、最も重度なアナフィラキシーに対しても予防効果を示すことが期待される。このような背景から、予防用カゼイン−SF10免疫寛容誘導ワクチンの接種効果は、カゼインの腹腔内チャレンジによるアナフィラキシー誘発抑制試験で評価した。
(5)結果
結果を図11及び12に示す。図11及び12における各投与群の表記は、以下の表4の通りである。
Figure 2020045155
図11及び12の「経皮感作あり、ワクチン接種無しの平均」群(太い点線表示)に示されるように、ワクチンの前投与なしにカゼインの経皮感作のみを行った群(5−4例のマウスの平均値)においては、カゼインの腹腔内チャレンジから約30−40分をピークに2.8度の著しい直腸温の低下が認められた。
また、図11(B)では、「皮下免疫後、経皮感作した群の個別データ」(細い実践表示)に示されるように、カゼイン皮下注射(皮下免疫療法に相当)の前投与を行った後にカゼイン経皮感作を行った群では、1例のみ腹腔内チャレンジ試験後の直腸温低下の改善が見られたが、他の4例ではむしろ顕著に直腸温が低下する増悪傾向が明らかとなった。これらの結果は、従来の皮下免疫療法は、牛乳アレルギー発症を予防する効果において、更なる検討が必要であることを示している。
一方、図12に示されるように、予防用カゼイン−SF10経口免疫寛容誘導ワクチンの接種後にカゼインの経皮感作を行った群(細い実践表示)では、4例のマウス全てにおいて、カゼインの腹腔内チャレンジを実施したのも関わらず直腸温の顕著な低下は認められなかった。これらの結果は、予防用カゼイン−SF10経口免疫寛容誘導ワクチン接種がカゼインアレルギーの発症予防に効果的であることを示している。
本発明の免疫寛容誘導剤は、近年増加しているアレルギー性疾患の根治治療に使用することができる他、アレルギー性疾患の予防にも使用することができる。

Claims (6)

  1. 肺サーファクタント由来人工合成粘膜アジュバントSF10と、抗原とを含む、経口投与用の免疫寛容誘導剤。
  2. 抗原が、オボムコイド、オボアルブミン、及びカゼインから選択される1又は2以上の抗原である、請求項1に記載の免疫寛容誘導剤。
  3. 肺サーファクタント由来人工合成粘膜アジュバントSF10と抗原とを含む、経口投与用の免疫寛容誘導剤を有効成分として含有するアレルギー性疾患の治療又は予防剤。
  4. 治療又は予防が、経口免疫療法である、請求項3に記載のアレルギー性疾患の治療又は予防剤。
  5. アレルギー性疾患が、食物アレルギーである、請求項3又は4に記載のアレルギー性疾患の治療又は予防剤。
  6. 食物アレルギーが、牛乳アレルギー又は卵アレルギーである、請求項5に記載のアレルギー性疾患の治療又は予防剤。
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