以下、実施形態の船舶推進用電動機駆動装置について説明する。なお、以下の説明では、電動機の制御状態を、回転座標系を用いて表す。その回転座標系の座標軸と静止座標系の座標軸とが成す角度を基準位相θref又は位相θとして示す。基準位相θrefが第1基準位相の一例であり、位相θが第2基準位相の一例である。基準位相θrefと位相θの違いは後述する。電気的に接続されることを、単に「接続される」ということがある。なお、座標変換に係る座標系として直交座標系を例示するが、これに限定されることはなく、上記の直交座標系に代わる座標系が、2つの軸の成分を独立に扱える2つの軸を有する座標系であってもよい。実施形態における微小な固定値には、0が含まれてもよい。なお、本明細書で言う「XXに基づく」とは、「少なくともXXに基づく」ことを意味し、XXに加えて別の要素に基づく場合も含む。さらに、「XXに基づく」とは、XXを直接に用いる場合に限定されず、XXに対して演算や加工が行われたものに基づく場合も含む。「XX」は、任意の要素(例えば、任意の情報)である。実施形態における「電動機の制動状態」とは、電動機に対してトルクを掛けて電動機を制動させる状態のことである。例えば、上記の状態には、直流制動により生じる場合が含まれる。実施形態における「電動機の再稼働状態」とは、電動機の制動状態から電動機を再び稼働させるようにトルクを掛けて駆動させる状態のことである。実施形態における「制動指令」とは、電動機を制動状態にする要求を示す指令のことである。
(第1の実施形態)
図1は、実施形態の電動機駆動装置100の構成図である。図1に示す電動機駆動装置100は、船舶推進用電動機駆動装置の一例である。
図1に示す電動機駆動システム1は、船舶2に設けられ、船舶2に推力を供給する。電動機駆動システム1は、例えば、電動機20と、プロペラ50と、発電機60と、電動機駆動装置100と、上位制御装置200とを備える。
電動機20は、例えば3相交流型の誘導電動機である。電動機20の軸21は、図示されないクラッチ、減速機などを介して主軸51が連結されている。主軸51にはプロペラ50が設けられている。電動機20には、速度センサ24が設けられている。速度センサ24は、電動機20の軸21の回転速度を検出して、電動機20の軸21の回転速度を示す電動機速度ωMを出力する。以下の説明における電動機速度ωMの単位は、(ラジアン/秒)である。
発電機60は、発電した交流電力を、発電機60の出力から電動機駆動装置100に供給する。電動機駆動装置100は、発電機60から供給される電力を電動機20の駆動に利用する。
電動機駆動装置100は、例えば整流器101とインバータ102とを備える。
整流器101の交流入力には発電機60が接続されている。整流器101の直流出力にはインバータ102の直流入力が接続されている。例えば、整流器101は、図示しない複数のダイオードを要素に含むブリッジとして形成されている。整流器101は、発電機60から供給される交流電力を直流電力に変換し、変換した直流電力を、整流器101の出力からインバータ102に供給する。
インバータ102は、後述するゲート制御部140が生成したゲート信号(ゲート制御信号GCM)等によって制御される複数の半導体スイッチ(不図示)を備える。インバータ102は、「電力変換ユニット」の一例である。インバータ102の交流出力には電動機20が接続されている。インバータ102は、ゲート制御部140からの制御により複数の半導体スイッチの導通状態が調整される。インバータ102は、整流器101側から供給される直流電力を変換することで、3相交流電力を生成する。インバータ102は、生成した3相交流電力を電動機20に供給する。
電動機駆動装置100は、電動機駆動システム1の状態を検出するための各種検出器として、例えば、電流センサ103と、直流電圧検出部104とを、さらに備える。電流センサ103は、インバータ102が電動機20の巻線(不図示)に供給する電流を検出する。例えば、電流センサ103は、3相のうち少なくとも複数の相の相電流を検出する。直流電圧検出部104は、整流器101とインバータ102との間の直流リンク部分の電圧VDCを検出する。
電動機駆動装置100は、さらにインバータ制御部105(制御部)を備える。インバータ制御部105は、例えば、電流制御部110と、ゲート制御部140とを備える。
なお、インバータ制御部105と上位制御装置200は、例えば、プロセッサを含み、そのプロセッサ(コンピュータ)がプログラムを実行することにより実現される機能部であってもよく、その一部又は全部がハードウェアであってもよい。上記の各部に関する詳細については後述する。
上位制御装置200は、電動機駆動システム1の各部に関する各種情報を収集する。上位制御装置200は、各種情報と、予め定められる諸条件とに基づいて、電動機20を制御して船舶2の推力を調整する。
例えば、上位制御装置200は、速度指令ω_COMと、ゲートブロックGB_COMと、直流制動指令DCB_COMとを電動機駆動装置100に通知する。速度指令ω_COMは、電動機20の回転子の回転数を指定するための指令値である。ゲートブロックGB_COMは、インバータ102をゲートブロックするための指令であり、例えばHレベルにあるときにゲートブロックの指令を有効とする。直流制動指令DCB_COMは、電動機20に直流制動を掛けるための指令であり、例えばHレベルにあるときに直流制動の指令を有効とする。
上位制御装置200は、回転している電動機20に制動を掛けた後に、電動機20の動力を利用する要求(以下、「再稼働要求」と称する)が生じた場合には、再稼働要求を受け付けて、再稼働要求に応じて電動機駆動装置100を制御する。このような再稼働要求は、船舶2の転回や、船舶2の緊急制動の要求に起因することがある。電動機駆動装置100は、電動機20に電気的に制動を掛けた後に、電動機20が回転している状況にあっても、上記の要求に応じて電動機20を再稼働させる。これに関する詳細な説明を後述する。
次に、電流制御部110の一例について説明する。電流制御部110は、例えば、減算器115と、速度制御部116と、オア回路117と、磁束演算部121と、除算器122と、選択器123と、減算器124と、Q軸電流制御部125と、磁化電流演算部126と、選択器127A、127Bと、減算器128と、D軸電流制御部129と、直流制動電流指令部130と、積分器131と、位相値保持部132と、座標変換器133と、逆座標変換器134と、滑り周波数推定部135と、積分器136と、加算器137とを備える。
減算器115は、上位制御装置200から供給される速度指令ω_COMから電動機速度ωMを減算し、その差分を速度制御部116に出力する。
速度制御部116は例えば比例積分回路である。速度制御部116は、減算器115の減算によって導出された差分に基づいて、電動機速度ωMを速度指令ω_COMに追従させるような算定トルク値Tcalを算出する。速度制御部116の出力には除算器122の第1入力が接続されている。
オア回路117は、論理和回路である。オア回路117の第1入力には上位制御装置200からゲートブロックGB_COMが供給されている。オア回路117の第2入力には上位制御装置200から直流制動指令DCB_COMが供給されている。オア回路117は、ゲートブロックGB_COMと直流制動指令DCB_COMの論理和をとる。上記論理和を減速指令DEC_COMと呼ぶ。オア回路117の出力は、選択器123の制御入力に接続されている。
磁束演算部121の入力には速度センサ24の出力が接続されている。磁束演算部121は、速度センサ24によって検出された電動機20の軸21の速度に対応する電動機速度ωMに基づいて、電動機20の磁束の状態を示す磁束Φを導出する。磁束演算部121の出力には除算器122の第2入力と磁化電流演算部126の入力と後述の滑り周波数推定部135の第1入力とが接続されている。
除算器122は、前述の算定トルク値Tcalを、磁束演算部121によって導出された磁束Φの値で除算する。除算の結果である商をQ軸の電流指令値Iqcと呼ぶ。除算器122の出力には選択器123の第1入力が接続されている。なお、上記のQ軸の電流指令値Iqcの基となる算定トルク値Tcalは、電動機速度ωMと、速度指令ω_COMとに基づいたトルク制御に用いられる要求トルクである。
選択器123の第2入力には固定値が供給されている。選択器123の制御入力にはオア回路117から減速指令DEC_COMが供給されている。選択器123の出力には減算器124の第1入力が接続されている。選択器123は、除算器122によって導出されたQ軸の電流指令値Iqcと固定値とのうちの何れかを、減速指令DEC_COMに従い選択して、電流基準Iqrとして減算器124に出力する。上記の固定値は、例えば、0又は0近傍の微小値である。このような固定値のことを単に固定値0ということがある。
例えば、電動機20が稼働状態にある場合を初期状態とする。この場合、減速指令DEC_COMの信号レベルは、L(ロー)レベルである。選択器123の制御入力はLレベルになる。この場合に、選択器123は、第1入力を選択して、Q軸の電流指令値Iqcを電流基準Iqrとして出力する。
その後、減速指令DEC_COMが発せられて、減速指令DEC_COMの信号レベルがH(ハイ)レベルになる。これにより、選択器123の制御入力はHレベルになる。この場合に、選択器123は、第2入力を選択して、固定値0を電流基準Iqrとして出力する。
減算器124は、選択器123から出力されたQ軸の電流基準Iqrから、座標変換器133によって導出されたQ軸電流Iqを減算し、その減算の結果である差分値ΔIqをQ軸電流制御部125に出力する。
Q軸電流制御部125は、減算器124の減算によって導出された差分値ΔIqに基づいてQ軸の電圧基準Vqrを導出して、Q軸の電圧基準Vqrを逆座標変換器134のQ軸入力に出力する。Q軸電流制御部125は、比例積分回路を含み、Q軸電流IqがQ軸の電流基準Iqrに追従するようにQ軸の電圧基準Vqrを制御する。
磁化電流演算部126は、磁束演算部121によって導出された磁束Φに基づいて、D軸の電流指令値Irunを導出し、その導出の結果を選択器127Aの第1入力に出力する。
選択器127Aの第2入力には直流制動電流指令部130の出力が接続されている。選択器127Aの制御入力には上位制御装置200から直流制動指令DCB_COMが供給される。選択器127Aは、D軸の電流指令値Irunと、直流制動電流指令部130の出力である直流制動電流指令Ibrkとのうちの何れかを、直流制動指令DCB_COMに従い選択して、選択の結果を電流基準Idcとして出力する。上記の直流制動電流指令Ibrkは、電動機20の直流制動時の電流値を規定する。
例えば、電動機20が稼働状態にある初期状態の場合、直流制動指令DCB_COMはLレベルである。選択器127Aは、制御入力がLレベルである場合に、第1入力を選択して、D軸の電流指令値IrunをD軸の電流指令値Idcとして出力する。選択器127Aは、制御入力がHレベルである場合に、第2入力を選択して、直流制動電流指令IbrkをD軸の電流指令値Idcとして出力する。
選択器127Bの第1入力には選択器127Aの出力が接続されている。選択器127Bの第2入力には固定値0が供給されている。選択器127Bの制御入力には上位制御装置200からゲートブロックGB_COMが供給される。選択器127Bの出力には減算器128の第1入力が接続されている。選択器127Bは、D軸の電流指令値Irunに基づくD軸の電流指令値Idcと、直流制動電流指令Ibrkとのうちの何れかを、ゲートブロックGB_COMに従い選択して、選択の結果を電流基準Idrとして出力する。
例えば、前述したように、電動機20が稼働状態にある初期状態の場合、ゲートブロックGB_COMはLレベルである。選択器127Bは、制御入力がLレベルである場合に、第1入力を選択して、D軸の電流指令値Idcを電流基準Idrとして出力する。
選択器127Bは、ゲートブロックGB_COMが発せられて制御入力がHレベルである場合に、第2入力を選択して、固定値0を電流基準Idrとして出力する。
減算器128の第2入力には座標変換器133のD軸出力が接続されている。減算器128の出力にはD軸電流制御部129の入力が接続されている。減算器128は、選択器127Bから出力されるD軸の電流基準Idrから、座標変換器133によって導出されたD軸電流Idを減算し、その減算の結果である差分値ΔIdを出力する。
D軸電流制御部129の出力には逆座標変換器134のD軸入力が接続されている。D軸電流制御部129は、差分値ΔIdに基づいてD軸の電圧基準Vdrを導出して、D軸の電圧基準Vdrを逆座標変換器134のD軸入力に出力する。例えば、D軸電流制御部129は、比例積分回路を含み、D軸電流IdがD軸の電流基準Idrに追従するようにD軸の電圧基準Vdrを制御する。
直流制動電流指令部130は、直流制動電流指令Ibrkを出力する。直流制動電流指令Ibrkは、直流制動時の電流値を規定する指令値であり、例えば、予め定められた固定値でもよい。この直流制動電流指令Ibrkは、任意の値でもよい。なお、直流制動電流指令Ibrkの値は、固定値に限定されず、調整された値でもよい。例えば、電動機速度ωMの大きさに応じて直流制動電流指令Ibrkの値を規定してもよい。或いは、上位制御装置200が出力する値であってもよい。
積分器131の入力には速度センサ24の出力が接続されている。積分器131の出力には加算器137の第1入力が接続されている。積分器131は、電動機速度ωMに基づいて電動機20の回転子の電気角θMを導出する。例えば、積分器131は、電動機速度ωMを時間積分することにより機械角を求め、さらに電動機20の極数pを考慮し電動機20の回転子の電気角θMを導出する。
位相値保持部132の入力には加算器137を経て積分器131の出力が接続されている。位相値保持部132の制御入力には上位制御装置200から直流制動指令DCB_COMが供給される。位相値保持部132の出力には座標変換器133の基準位相入力と逆座標変換器134の基準位相入力とが接続されている。
例えば、位相値保持部132は、加算器137によって導出された位相θを、直流制動指令DCB_COMがLレベル時は透過的に出力するか、直流制動指令DCB_COMがHレベル時は位相θを保持して、保持した値を出力する。保持された位相θは、直流制動に利用される。
例えば、電動機20が稼働状態にある場合、直流制動指令DCB_COMは、Lレベルである。位相値保持部132は、制御入力がLレベルである場合に第1入力を選択して、加算器137によって導出された位相θを基準位相θrefとして出力する。位相値保持部132から出力される基準位相θrefは、後段の電流座標変換に利用される。
位相値保持部132は、減速指令DEC_COMが発せられて制御入力がHレベルである場合に、減速指令DEC_COMが発せられる直前の位相θを保持して、保持した位相θを基準位相θrefとして出力する。基準位相θrefは、例えば0以上2π(ラジアン)未満の範囲内の値をとる。なお、位相値保持部132は、基準位相θrefの値が例えば0以上2π(ラジアン)未満の範囲内になるように、2π(ラジアン)を基準に位相θの値を規格化してもよい。位相値保持部132のより具体的な例は後述する。
座標変換器133は、電流センサ103により検出されたインバータ102の3相の出力電流を位相値保持部132から出力される基準位相θrefを基準とした、互いに直交する2軸の電流成分の回転座標系の成分に変換する座標変換器である。ここで、Q軸電流成分Iqは基準位相θrefと同相成分であり、D軸電流成分Idはq軸電流成分Iqと直交する成分である。座標変換器133のQ軸出力には減算器124の第2入力が接続されている。座標変換器133のD軸出力には減算器128の第2入力が接続されている。
逆座標変換器134の出力にはPWM制御器141の入力が接続される。逆座標変換器134は、Q軸電流制御部125によって導出されたQ軸電圧基準Vqrと、D軸電流制御部129によって導出されたD軸電圧基準Vdrと、基準位相θrefとに基づいて逆座標変換を実施して、3相の電圧指令値Vrを導出する。逆変換は、回転座標系から固定座標系への座標変換である。
前述の滑り周波数推定部135の第1入力には、磁束演算部121の出力が接続されている。滑り周波数推定部135の第2入力には、選択器123の出力が接続されている。滑り周波数推定部135は、磁束演算部121により導出された磁束Φと、選択器123から出力される電流基準Iqrとに基づいて、電動機20の滑り周波数の推定値を導出する。
積分器136は、滑り周波数推定部135により導出された滑り周波数の推定値を積分して滑り周波数の位相を滑り量調整値θadjとして出力する。
加算器137は、積分器131から出力された電動機20の回転子の電気角θMと、積分器136から出力された滑り量調整値θadjとを加算して位相θを導出し、導出の結果の位相θを位相値保持部132に出力する。なお、位相θの値が例えば0以上2π(ラジアン)未満の範囲内になるように、加算器137は、2π(ラジアン)を基準に位相θの値を規格化してもよい。
次に、ゲート制御部140の一例について説明する。ゲート制御部140は、例えば、PWM(Pulse Width Modulation)制御器141(図中の記載はPWM)と、GB(Gate Block)制御部142(図中の記載はGB)とを備える。
PWM制御器141の入力には逆座標変換器134の出力が接続されている。PWM制御器141の出力にはGB制御部142の入力が接続されている。PWM制御器141は、逆座標変換器134によって導出された電圧指令値Vrに基づいて、インバータ102を駆動するためのPWMパルス信号GCを生成する。
GB制御部142の制御入力には上位制御装置200から減速指令DEC_COMが供給される。GB制御部142の出力にはインバータ102の入力が接続されている。GB制御部142は、PWM制御器141によって生成されたPWMパルス信号GCを、インバータ102にゲート制御信号GCMとして供給する。GB制御部142は、予め定められた運転規則に従い、ゲート制御信号GCMのインバータ102への供給を制限する。
図2を参照して、位相値保持部132について説明する。図2は、実施形態の位相値保持部132の構成図である。例えば、位相値保持部132は、離散時間系の状態変数モデルとして形成される。位相値保持部132の入力に供給される位相θの今回値をθ_kと示す。kは、時系列情報の識別子である。上記の通り、位相θは、電動機20の回転子の電気角θMと、滑り量調整値θadjとに基づいて導出される。
位相値保持部132は、例えば、変化量算出部1321と、切替器1322と、積算部1323と、を備える。
変化量算出部1321は、遅延要素1321Zと、減算器1321Dとを備える。
位相値保持部132の入力である変化量算出部1321の入力は、遅延要素1321Zの入力と、減算器1321Dの第1入力とに接続されている。
遅延要素1321Zは、遅延時間演算子(Z−1)であり、例えば、図示しないラッチインタフェースを含み、入力される信号を0次ホールドする。遅延要素1321Zは、位相θの今回値θ_kを所定の周期(所定の期間)の間保持する。例えば、位相θを保持した時点(k−1)から時点kになるまで遅延要素1321Zから出力される信号の値は、位相θを保持した時点(k−1)の値(位相θの前回値)になる。「今回値」と「前回値」は、同種の信号についての離散時間系における時系列情報のことである。「今回値」は、「前回値」に対応する時刻(時点)よりも後の時刻(時点)の値のことである。例えば、時点(k−1)から所定時間が経過すると時点kになる。時点(k−1)に位相θを保持した結果の値を(θ_(k−1))で示す。遅延要素1321Zの出力は、減算器1321Dの第2入力に接続されている。遅延要素1321Zによる遅延時間は、位相θの検出処理の1演算周期に設定される。
減算器1321Dは、遅延要素1321Zの出力から減算器1321Dの第2入力に供給される位相θの前回値(θ_(k−1))を、減算器1321Dの第1入力に供給される位相θの今回値θ_kから減算する。
減算器1321Dは、位相θの今回値θ_kから前回値(θ_(k−1))を減算して、その結果である偏差の今回値Δθ_kを得る。減算器1321Dの出力、すなわち変化量算出部1321の出力は、後述する切替器1322の第1入力に接続されている。減算器1321Dは、偏差の今回値Δθ_kを、減算器1321Dの出力から切替器1322の入力に供給する。
変化量算出部1321の上記の演算処理を、次の式(3)に示す。
(Δθ_k)=(θ_k)−(θ_(k−1)) …(3)
前述したように切替器1322の第1入力には、変化量算出部1321の出力から偏差の今回値ΔθM_kが供給される。切替器1322の第2入力には、固定値生成部1322Fから所望の固定値が供給される。例えば、所望の固定値は、固定値0である。切替器1322の制御入力には、直流制動指令DCB_COMが供給される。
例えば、直流制動指令DCB_COMは、直流制動指令の発令に連動する。直流制動指令が解除されている場合、つまり直流制動指令DCB_COMがLレベルである場合には、切替器1322の制御入力がLレベルになる。切替器1322の制御入力がLレベルであると、切替器1322は、第1入力を選択して、上記の偏差の今回値Δθ_kを出力する。また、直流制動指令が発せられた場合、つまり直流制動指令DCB_COMがHレベルである場合には、切替器1322の制御入力がHレベルになる。切替器1322の制御入力がHレベルであると、切替器1322は、第2入力を選択して、固定値0を出力する。
積算部1323は、加算器1323Aと、遅延要素1323Zと、を備える。
積算部1323の入力である加算器1323Aの第2入力は、遅延要素1323Zの出力に接続されている。加算器1323Aの出力は、積算部1323内で遅延要素1323Zの入力に接続され、さらに積算部1323としての出力になる。
加算器1323Aは、位相θの変化量Δθと、後述の遅延要素1323Zにより保持された基準位相θrefとを加算する。これにより、加算器1323Aは、位相θの変化量Δθと、保持された基準位相θrefとを加算して、基準位相θrefを補正することができる。なお、位相値保持部132の遅延要素1323Zは、保持部の一例である。
遅延要素1323Zは、遅延時間演算子(Z−1)であり、例えば、図示しないラッチインタフェースを含み、入力される信号を0次ホールドする。加算器1323Aの演算結果Yの今回値をY_kと定める。遅延要素1323Zは、加算器1323Aの演算結果Yの今回値Y_kを所定の周期(所定の期間)の間保持する。例えば、演算結果Yを保持した時点(k−1)から時点kになるまで遅延要素1323Zは、演算結果Y_(k−1)を保持する。遅延要素1323Zによる遅延時間は、位相θの検出処理の1演算周期に設定される。
上記の通り、積算部1323の入力には、切替器1322を経て、変化量算出部1321から偏差の今回値Δθ_k又は固定値生成部1322Fから固定値0が供給される。
例えば、積算部1323の入力に偏差の今回値Δθ_kが供給される場合には、積算部1323は、偏差の今回値Δθ_kと、演算結果Y_(k−1)とを加算して、その結果Y_kを算出する。演算結果Y_(k−1)が基準位相の前回値(θ_(k−1))である場合の積算部1323の演算処理を、次の式(4)に示す。
(Y_k)=(θ_(k−1))+(Δθ_k) …(4)
上記の式(3)と式(4)に基づいて、次の式(5)を得る。
(Y_k)=(θ_k) …(5)
上記の式(5)に示すように、積算部1323の演算結果(Y_k)は、位相値保持部132の入力に供給された電気角θMの今回値θ_kになる。
上記の式(3)から式(5)に示す通り、変化量算出部1321は、位相θの第1時点の値θ_(k−1)と、位相θの第1時点よりも後の第2時点の値θ_kとに基づいて、位相θの変化量Δθを算出する。積算部1323は、変化量Δθと、制御状態が制動状態に遷移する前の基準位相θrefとに基づいて、基準位相θrefを算出する。これにより、平時における基準位相θrefの位相の連続性が確保される。
また、例えば、積算部1323の入力に、固定値0が供給される場合には、積算部1323は、固定値0と、演算結果Y_(k−1)である基準位相の前回値(θ_(k−1))とを加算して、その結果Y_kを算出する。
固定値0を0とすると、積算部1323による上記の演算処理を、次の式(6)に示す。
(Y_k)=(θ_(k−1))+0=(θ_(k−1)) …(6)
上記の式(6)に示されるように、結果Y_kは、前回値(θ_(k−1))に等しくなる。つまり、遅延要素1323Zが保持する値は結果Y_kであることから、結果Y_kは不変になる。以下、結果Y_kをθKと呼ぶ。θKは、固定値0がゼロであれば不変であり、固定値0が微小値であれば実質的に不変になる。
なお、直流制動指令が中断される場合には、位相値保持部132の制御入力がHレベルからLレベルに変化する。ここで、直流制動指令が中断される際の位相値保持部132の動作を整理する。
位相値保持部132は、直流制動指令が発せられて位相値保持部132の制御入力がLレベルからHレベルになる際に、直流制動指令が発せられる直前の位相θ、つまりθKを保持する。
位相値保持部132は、直流制動指令が発せられて位相値保持部132の制御入力がHレベルに維持されている間、自ら保持しているθKを基準位相θrefとして出力する。この期間の基準位相θrefは、不変になる。
上記の通り、位相値保持部132は、制御状態が制動状態に遷移する前の基準位相θrefを第1時点(k−1)から第2時点(k)になるまで保持する。
なお、位相値保持部132は、制御状態が解除される直前まで基準位相θrefを保持することから、制動状態が解除される直前の基準位相θrefと、制動状態が解除された直後の基準位相θrefの位相の連続性が確保される。
例えば、先のkが示す時点より十分後の時点をk’で示す。直流制動指令が中断されて制御入力がHレベルからLレベルに変化すると、切替器1322の第1入力が選択される。これが、k’の時点で実施されたとすると、積算部1323の入力には、切替器1322の出力から固定値0に代わり偏差の今回値(Δθ_k’)が供給される。通常k’が示す時点は、先のkが示す時点より十分に後になる。制御入力がHレベルの間一定の値に保たれていた基準位相θrefと、実際の電動機20の電動機速度ωMに基づいて生成される位相θとが乖離することがある。なお、インバータ制御部105は、基準位相θrefと上記の位相θとの間に差が生じたまま、ゲート制御信号GCMをインバータ制御部105からインバータ102に供給する。基準位相θrefと位相θとの間に差が生じたまま、インバータ102によって電動機20が駆動される。この基準位相θrefと位相θとの間に差が生じた状態は継続する。
図3を参照して、電動機20に対する再稼働制御について説明する。図3は、実施形態の電動機20に対する再稼働制御に係るタイミングチャートである。この図の上から順に、ゲートブロックGB_COMと、直流制動指令DCB_COMと、D軸の電流基準Idrと、基準位相θrefと、電動機20のU相の電流IUとが示されている。基準位相θrefは、周期性を有する三角波であり、例えば、その値は0から2π(ラジアン)の間で変化する。
この図に示す時刻t0から時刻t1までの初期状態は、インバータ102が電動機20を駆動させている状態にある。例えば、上位制御装置200によりゲートブロックGB_COMと直流制動指令DCB_COMの双方がLレベルに維持される。D軸の電流基準Idrとして規定される電流値は、磁化電流演算部126によって生成されたD軸の電流指令値Idcになっている。基準位相θrefは、位相θと滑り量調整値θadjとに基づいた周期で周期的に変化している。これにより、D軸の電流指令値Idcに応じた出力電流がインバータ102から流れる。例えば、電動機20のU相に交流電流の電流IUが流れている。図示しないV相の電流IVとW相の電流IWは、U相の電流IUとは位相が異なるが、同等の振幅値の電流になる。なお、以下の制御の過程で各相の電流値が変化するタイミングは同期する。
時刻t1になると、例えば、電動機20の回転子の速度を低減するように、上位制御装置200からゲートブロック指令が発せられて、ゲートブロックGB_COMがHレベルになる。
ゲートブロックGB_COMがHレベルになると、選択器123と、選択器127Bは、それぞれ第2入力を選択する。すると、選択器127Bによって選択されたD軸の電流基準Idrは、固定値0になる。D軸電流制御部129は、固定値0になったD軸の電流基準Idrに追従するようにD軸電圧基準Vdrを生成する。上記の場合、選択器123によって選択されたQ軸の電流基準Iqrも、固定値0になる。Q軸電流制御部125は、固定値0になったQ軸の電流基準Iqrに追従するようにQ軸電圧基準Vqrを生成する。
逆座標変換器134は、固定値0のQ軸電圧基準Vqrと、固定値0のD軸電圧基準Vdrと、基準位相θrefとに基づいてDQ逆変換を実施して、電圧指令値Vrを導出する。これにより、逆座標変換器134は、インバータ102の出力電流を0にするような電圧指令値Vrを、逆座標変換器134からPWM制御器141に供給する。
GB制御部142は、上位制御装置200のゲートブロック指令に応じて、ゲート制御信号GCMのインバータ102への供給を制限する。これにより、インバータ102の変換動作が停止される。よって、ゲートブロックにより、インバータ102の出力電流は略零となる(図3中の時刻t1から時刻t2までの期間のIUに相当)。したがって座標変換器133の出力であるQ軸電流IqとD軸電流Idも略零となる。よって、ゲートブロックGB_COMがHレベルの期間に、固定値0がQ軸電流制御部125とD軸電流制御部129とに供給されることにより、Q軸電流制御部125とD軸電流制御部129における積分演算の結果の積分値が次第に増加して、飽和することを抑制できる。
上記の状態は、時刻t2まで続く。なお、インバータ102からの動力が立たれた電動機20は、フリーランの状態にある。電動機20の電動機速度ωMは、徐々に低下する。
時刻t2になると、上位制御装置200は、ゲートブロックGB_COMをLレベルにして、ゲートブロック指令を中断する。ゲートブロックGB_COMがLレベルになったことにより、GB制御部142は、インバータ102内のスイッチング素子へゲート制御信号GCMの出力を許可する。
さらに、時刻t2において、上位制御装置200は、直流制動指令を発し、直流制動指令DCB_COMのレベルを、LレベルからHレベルに変える。直流制動指令DCB_COMがHレベルになると、前述の通り、位相値保持部132は、直流制動指令が発せられる直前の位相θの今回値θ_k、つまりθKを保持する。これにより基準位相θrefがθKに固定され、電動機20に対して直流制動が掛けられる。
また、直流制動指令DCB_COMがHレベルになると、選択器127Aは、直流制動電流指令IbrkをD軸の電流指令値Idcとして出力する。
また、直流制動指令DCB_COMがHレベルになるため、選択器123は、Q軸の電流指令値Iqcに代えて、固定値0を出力する。
上記のようにゲートブロックGB_COMがLレベルになったことにより、選択器127Bは、第1入力を選択する。なお、直流制動指令DCB_COMがHレベルであるため、選択器127Aは、直流制動電流指令IbrkをD軸の電流指令値Idcとして出力する。また、選択器127Bは、固定値0に代えて、選択器127Aを介して選択器127Bの第1入力に供給される直流制動電流指令Ibrkを出力する。
インバータ制御部105は、直流制動電流指令Ibrkに基づいたゲート制御信号GCMを、インバータ制御部105からインバータ102に供給する。インバータ102の出力電流は、直流制動電流指令Ibrkによって指定される電流値の直流になる。これにより直流制動が作用して、電動機速度ωMの減速傾向が強まり、電動機速度ωMがさらに低下する。
時刻t3になると、上位制御装置200は、電動機20の稼働を要求する指令を受けて、直流制動指令を中断し、直流制動指令DCB_COMをHレベルからLレベルに変える。
位相値保持部132は、位相値保持部132の制御入力である直流制動指令DCB_COMがLレベルになると、直流制動指令が発せられる直前の位相θの今回値θ_k、つまりθKの保持を中断して、今回値θ_kに対する積算を再開して、積算値に基づいた基準位相θrefを出力する。通常、変化量算出部1321により算出される偏差の今回値Δθ_kは、0ではない値になる。また、位相値保持部132が保持していたθKの値は、積算の再開時点の電動機速度ωMに基づいて算出される位相θの値とは異なるものになる。なお、位相値保持部132が保持していたθKの値と、積算の再開時点の電動機速度ωMに基づいて算出される位相θの値との差が生じているが、位相値保持部132は、今回値θ_kに対して今回値Δθ_kを加算する積算を再開して、その積算の結果を基準位相θrefにする。すなわち位相値保持部132は、基準位相θrefを急変させることなく、連続的に変化させることができる。
上記の時刻t3以降、基準位相θrefは、電動機20の電動機速度ωMと滑り周波数の推定値が見込まれた周期になる。
また、時刻t3において、インバータ制御部105は、速度指令ω_COMに基づいた速度で電動機20を稼働させるようにインバータ102を制御する。電動機20に流れる電流は、直流制動中に流れていた直流の値から、速度指令ω_COMに基づいた電流の値に変化する。
上記のように、電動機駆動装置100は、直流制動中にあった電動機20を停止させることなく再稼働させることができる。
上記の実施形態によれば、インバータ制御部105は、基準位相θref(第1基準位相)に基づいてインバータ102を制御することで電動機20を稼働させ、回転している電動機20を直流制動によって制動させる。インバータ制御部105は、電動機20を直流制動によって制動させる制動状態から電動機20を再稼働させる再稼働状態にインバータ102の制御状態を遷移させる場合に、直流制動中の基準位相θrefを再稼働時の基準位相θrefの初期値にして、再稼働後の基準位相θrefを生成する。
インバータ制御部105は、制御状態が制動状態に遷移する前の基準位相θrefに少なくとも基づいて、再稼働時の基準位相θrefを生成することにより、再稼働時の基準位相θrefの連続性を保つように基準位相θrefを生成する。インバータ制御部105は、直流制動中の基準位相θrefと再稼働後の基準位相θrefの連続性を保つことで、回転している電動機20を再稼働させる制御の安定度を高めることが可能になる。
インバータ制御部105は、直流制動中の電動機20の回転が停止した状態にあるか否かを問わずに、電動機20を稼働させるようにインバータ102を制御してもよい。これにより、インバータ制御部105は、電動機20の再稼働要求に対する応答の安定性を高めることを可能にする。
また、切替器1322は、電動機20の制動指令が有効である場合であって、直流制動指令DCB_COMがHレベルである場合に、変化量Δθに代えて固定値0を選択し、選択した値を積算部1323に出力する。これにより、切替器1322は、電動機20の制動指令が有効な場合に、Hレベルの直流制動指令DCB_COMに基づいて、変化量Δθに代えて固定値0を積算部1323に出力し、積算部1323が保持する値の変化を抑制させることができる。
(第2の実施形態)
図4は、実施形態の電動機駆動装置100Aの構成図である。図4に示す電動機駆動装置100Aは、船舶推進用電動機駆動装置の一例である。
電動機駆動システム1Aにおける電動機駆動装置100Aと、インバータ制御部105Aと、電流制御部110Aは、前述の電動機駆動システム1における電動機駆動装置100と、インバータ制御部105と、電流制御部110とにそれぞれ対応する。
図4に示す電流制御部110Aには、図1に示す電流制御部110に対する幾つかの相違点がある。以下、これについて順に説明する。
第1の相違点は、電流制御部110Aは、図1における位相値保持部132を備えない。これに代えて、加算器137は、位相θを基準位相θrefとして出力して、基準位相θrefを座標変換器133および逆座標変換器134に供給する。
第2の相違点は、電流制御部110Aがさらに選択器132Aと選択器132Bとを備える。積分器131の前段に選択器132Aが設けられ、積分器136の前段に選択器132Bが設けられている点がある。選択器132Aの第1入力には速度センサ24の出力が接続され、選択器132Aの第2入力には固定値0が供給される。選択器132Bの第1入力には滑り周波数推定部135の出力が接続され、選択器132Bの第2入力には固定値0が供給される。
第3の相違点は、選択器132Aと選択器132Bの制御入力信号には直流制動指令DCB_COMが使用される点である。直流制動指令DCB_COMがLレベルの場合には、選択器132Aと選択器132Bは、ともに第1入力を選択する。直流制動指令DCB_COMがHレベルの場合には、選択器132Aと選択器132Bは、ともに第2入力を選択する。
上記以外は図1と同様である。
上記のように構成することで、例えば、電動機20が稼働状態にある場合、直流制動指令DCB_COMは、Lレベルである。積分器131は、直流制動指令DCB_COMがLレベルである場合には、電動機速度ωMに基づいて電動機20の回転子の電気角θMを導出する。積分器131は、直流制動指令DCB_COMがHレベルである場合には、固定値0を入力値とする積分の結果を電動機20の回転子の電気角θMとして出力する。
選択器132Bは、選択器132Bの制御入力がLレベルである場合に、第1入力を選択して、滑り周波数推定部135の出力値を出力する。選択器132Bは、制御入力がHレベルである場合に、第2入力を選択して、固定値0を出力する。
図4に示す実施の形態についても、図3のタイミングチャートを適用できる。
よって、積分器131は、直流制動指令DCB_COMがLレベルである場合には、電動機速度ωMを積分して電気角θMを出力する。積分器136は、直流制動指令DCB_COMがLレベルである場合には、滑り周波数推定部135により導出された滑り周波数の推定値を積分して、滑り周波数の位相を滑り量調整値θadjとして出力する。よって時刻t0から時刻t2までは、第1の実施形態の場合と同様に、電気角θMと滑り量調整値θadjの和の値が基準位相θrefとして出力される。また、時刻t2において直流制動指令DCB_COMがHレベルに変化すると、積分器131および積分器136は、固定値0が入力されるため、それぞれが直前の結果を保持することとなる。したがって時刻t2から時刻t3までの直流制動指令DCB_COMがHである期間は積分器131および積分器136の出力は変化しない。よって、積分器131の出力と積分器136の出力の和である加算器137の出力である基準位相θrefも一定である。
次に時刻t3において直流制動指令DCB_COMがLレベルに復帰すると、再び積分器131は、直流制動指令DCB_COMがLレベルである期間に、電動機速度ωMを積分して電気角θMを出力する。また積分器136は、滑り周波数推定部135により導出された滑り周波数の推定値を積分して、滑り周波数の位相を滑り量調整値θadjとして出力する。この場合、積分器131と積分器136からそれぞれ出力される値は、時刻t3直前と時刻t3以降で急変することなく連続する。よって、積分器131の出力と積分器136の出力の和である加算器137の出力である基準位相θrefも、上記と同様に急変することなく連続する。時刻t3以降は加算器137によって、電動機速度ωMの積分値である位相θMと、滑り周波数の推定値の積分値との加算が再開する。よって時刻t3以降の基準位相θrefの周期は、電動機20の電動機速度ωMと滑り周波数の推定値とが見込まれた周期になる。
よって、本実施形態においてもインバータ制御部105は、制御状態が制動状態に遷移する前の基準位相θrefに少なくとも基づいて、再稼働時の基準位相θrefを生成することにより、再稼働時の基準位相θrefの連続性を保つように基準位相θrefを生成ことができる。インバータ制御部105は、直流制動中の基準位相θrefと再稼働後の基準位相θrefの連続性を保つことで、回転している電動機20を再稼働させる制御の安定度を高めることが可能になる。これにより、インバータ制御部105は、電動機20の再稼働要求に対して安定に応答することを可能にする。
上記の実施形態のインバータ制御部105、105Aは、その少なくとも一部を、CPUなどのプロセッサがプログラムを実行することにより機能するソフトウェア機能部で実現してもよく、全てをLSI等のハードウェア機能部で実現してもよい。
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、インバータ102と、インバータ制御部105とを持つ。インバータ102は、直流電力を交流電力に変換し、変換した交流電力を、インバータ102の出力から、船舶を駆動する電動機20に供給する。インバータ制御部105は、基準位相θrefに基づいてインバータ102を制御することで電動機20を稼働させ、回転している電動機20を直流制動によって制動させる。インバータ制御部105は、電動機20を直流制動によって制動させる制動状態から電動機20を再稼働させる再稼働状態にインバータ102の制御状態を遷移させる場合に、直流制動中の基準位相θrefを再稼働時の基準位相θrefの初期値にして、再稼働後の基準位相θrefを生成する。これにより、インバータ制御部105は、電動機20の再稼働要求に対する応答性を高めることを可能にする。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
例えば、船舶2として、少なくとも電動機20を推進用の動力源として利用する電気推進構造の一例としてアジマスラスター(azimuth thruster)が挙げられる。
なお、上記の実施形態において、船舶2として、少なくとも電動機20を推進用の動力源として利用する電気推進構造を備えるものを例示したが、これに制限されない。例えば、船舶2は、エンジンと電動機20とを備え、それぞれを推進用の動力源として利用するハイブリッド型の電気推進構造を備えるものであってもよい。
実施形態の船舶推進用電動機駆動装置は、電力変換ユニットと、制御部とを持つ。前記電力変換ユニットは、直流電力を交流電力に変換し、変換した交流電力を、船舶を駆動する誘導電動機に供給する。前記制御部は、第1基準位相に基づいて前記電力変換ユニットを制御することで前記誘導電動機を稼働させ、回転している前記誘導電動機を直流制動によって制動させる。前記制御部は、変化量算出部と、選択部と、積算部とを備える。変化量算出部は、前記誘導電動機の回転子の角度に関する第2基準位相に基づいて、前記第2基準位相の変化量を算出する。選択部は、前記誘導電動機の制動指令が無効な場合に前記第2基準位相の変化量を選択し、前記誘導電動機の制動指令が有効な場合にゼロ又は微小な固定値を選択し、前記選択した値を出力する。積算部は、前記選択部によって選択された値と、前記誘導電動機の制御状態が前記誘導電動機を制動させる制動状態に遷移する前の前記第1基準位相とに基づいて、前記第1基準位相を算出する。前記制御部は、前記誘導電動機を前記直流制動によって制動させる制動状態から前記誘導電動機を再稼働させる再稼働状態に前記電力変換ユニットの制御状態を遷移させる場合に、前記直流制動を解除する直前の前記第1基準位相を前記再稼働時の前記第1基準位相の初期値にして前記積算部によって前記第2基準位相の変化量を積算させることで、前記再稼働後の前記第1基準位相を生成する。