以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。図1は、本発明のモータの一実施の形態を示す図であり、車両用の補機モータ、例えば電動パワーステアリングに用いられるモータ100の外観図を示したものである。このモータ100はシャフト3の反対側に駆動回路(不図示)が配置されている。モータ100はハウジング1とブラケット2とを備えており、ブラケット2からは出力軸であるシャフト3が突出している。ハウジング1の反対側(すなわち、ブラケット取り付け側とは反対の側)からは、複数のコイル口出し線50が延出している。
図2は、モータ100の断面図である。ハウジング1とブラケット2の間にはOリング6が設けられている。ブラケット2には、シャフト3の一端側を支持するフロントベアリング5がベベル型トメワ4で固定されている。一方、ハウジング1には、シャフト3の他端側を支持するリアベアリング10が設けられている。シャフト3は、これらのベアリング5,10により回転可能に支持されている。シャフト3に設けられたロータ16は、ロータコア8の中に永久磁石7が設けられた埋め込み構造となっている。
ハウジング1の内周側にはステータコア9が設けられ、ステータコア9のスロットには、電気的に独立した3相の第1系統巻線20および第2系統巻線21が配置されている。後述するように、本実施の形態では、第1系統巻線20はスロットの内周側に配置され、第2系統巻線21は第1系統巻線20の外周側に配置されている。内周側の第1系統巻線20のコイルエンド部と外周側の第2系統巻線21のコイルエンド部との間には、系統間の短絡を防止する目的で円筒形状のコイルエンド絶縁部材11が設けられている。コイルエンド絶縁部材11は、出力軸側(ブラケット2側)および反出力側(コイル口出し線50側)の両コイルエンド部に設けられている。複数のコイル口出し線50は反出力側のコイルエンド部側に引き出され、ハウジング1から図示右側の制御回路側に突出している。
図3は、第1系統巻線20および第2系統巻線21が配置されたステータの斜視図である。ステータコア9の軸方向上側に配置されたコイルエンド部からは、複数のコイル口出し線50(50a,50b)が引き出されている。ステータコア9の軸方向上側に配置された第1系統巻線20のコイルエンド部と第2系統巻線21のコイルエンド部との間には、円筒形状のコイルエンド絶縁部材11が配置されている。図示はしていないが、ステータコア9の反対側(すなわち軸方向下側)に配置された第1系統巻線20のコイルエンド部と第2系統巻線21のコイルエンド部との間にも、コイルエンド絶縁部材11が配置されている。ステータコア9の反対側には巻線を構成するセグメントコイルの接続部17が設けられている。
コイル口出し線50は12本設けられており、第1系統巻線20のUVW入力線および中性線に関する6本のコイル口出し線50aと、第2系統巻線21のUVW入力線および中性線の6本のコイル口出し線50bとで構成されている。さらに、コイル口出し線50が引き出されているコイルエンド部側には、第1系統巻線20の渡り線18aと第2系統巻線21の渡り線18bとが配置されている。
図3に示す第1系統巻線20および第2系統巻線21のそれぞれは、複数のセグメントコイルを波巻で接続した分布巻の3相巻線である。詳細は後述するが、波巻き構造の第1および第2系統巻線20,21は、複数のセグメントコイルを直列接続して成る周回コイルにより形成される。各セグメントコイルはステータコア9の軸方向上側からスロットに挿入され、挿入されたセグメントコイルの端部はスロットの反対側(軸方向下側)から突出している。スロットの反対側(軸方向下側)から突出したセグメントコイルの端部は半田、Tig溶接およびレーザー溶接等により接続され接続部17を構成している。
図4は、スロット内導体の配置を説明する図である。以下では、系統巻線においてスロット内に配置される導体部分を、スロット内導体と称することにする。図4は、10極60スロットの場合のスロット内導体の配置を示す。1つのスロットには、内周側から外周側へと4本のスロット内導体が挿入されている。
図4において、上段の図はスロット番号1からスロット番号24までを示し、中段の図はスロット番号25からスロット番号48までを示し、下段の図はスロット番号49からスロット番号60までを示す。なお、各段の図の下側に示した数字はスロット番号を示している。各段の図において図示上側がスロットの外周側であって、図示下側が内周側である。スロットには4本のスロット内導体が配置されており、以下では、スロットにおけるスロット内導体の位置を内周側からレイヤ1、レイヤ2、レイヤ3、レイヤ4と称することにする。第1系統巻線20および第2系統巻線21のそれぞれは、セグメントコイルをステータコア9の周方向に複数接続して成る周回コイルを4つ直列接続した構成とされる。
第1系統巻線20のU相巻線を構成する4つの周回コイルの内、入力側のコイル口出し線50aを有する第1の周回コイル(後述する図16の符号1U14で示す周回コイル)は、図4の符号1U14,1u12,1U24,1u22,1U34,1u32,1U44,1u42,1U54,1u52で示す10本のスロット内導体を順に接続したものであり、スロット内導体1U14からスロット外へ引き出された巻線がコイル口出し線50aを構成している。なお、図4に示す括弧付きの数字は接続順を示す。
周回コイル1U14に接続される第2の周回コイル(後述する図16の符号1U13で示す周回コイル)は、符号1U13,1u11,1U23,1u21,1U33,1u31,1U43,1u41,1U53,1u51で示す10本のスロット内導体を順に接続したものであり、スロット内導体1U13が周回コイル1U14のスロット内導体1u52に接続される。
周回コイル1U13に接続される第3の周回コイル(後述する図16の符号1U11で示す周回コイル)は、符号1U11,1u53,1U51,1u43,1U41,1u33,1U31,1u23,1U21,1u13で示す10本のスロット内導体を順に接続したものであり、スロット内導体1U11が周回コイル1U13のスロット内導体1u51に接続される。
周回コイル1U11に接続される第4の周回コイル(後述する図16の符号1U12で示す周回コイル)は、符号1U12,1u54,1U52,1u44,1U42,1u34,1U32,1u24,1U22,1u14で示す10本のスロット内導体を順に接続したものであり、スロット内導体1U12が周回コイル1U11のスロット内導体1u13に接続される。
第1系統巻線20のV相巻線およびW相巻線に関しても、U相巻線における符号U,uをV相の場合は符号V,vで置き換え、W相の場合には符号W,wで置き換えたものとなる。また、説明は省略するが第2系統巻線21についても同様の構成となっている。図4に示す構成では、第1系統巻線20のU相と第2系統巻線21のU相は同一のスロット番号にスロット内導体が配置されているので、第1系統巻線20のU相と第2系統巻線21のU相とは電気的な位相差が無い。V相、W相についても同様である。
図4から分かるように、第1系統巻線20は内周側のレイヤ1およびレイヤ2に配置され、第2系統巻線21は外周側のレイヤ3およびレイヤ4に配置されている。そのため、第1系統巻線20のコイルエンド部と第2系統巻線21のコイルエンド部とは内周側と外周側とに分離され、それらの隙間に円筒形状(図3参照)のコイルエンド絶縁部材11を配置することができる。すなわち、1つのコイルエンド絶縁部材11で、片方のコイルエンド部における第1系統巻線20と第2系統巻線21との接触を防止する構造とすることができる。
図5は、スロット内に配置された周回コイル1U14および1U13を模式的に示す図である。丸枠で囲まれた数字はスロット番号を示す。例えば、符号SCを付した周回コイル1U14のセグメントコイルは、図示上側からスロット番号8のスロットおよびスロット番号14のスロットに挿入される。そして、スロットの反対側に突出した導体部分はそれぞれ隣接するセグメントコイル方向に折り曲げられ、折り曲げられた各導体の接続部17が隣接するセグメントコイルの接続部17にそれぞれ接続される。スロットに挿入されるスロット内導体の内、レイヤ1に配置されるものは実線で示し、レイヤ2に配置されるものは破線で示した。セグメントコイルSCは2本のスロット内導体1u12および1U24を備えており、スロット内導体1u12はスロット番号8のスロットのレイヤ1に配置され、スロット内導体1U24はスロット番号14のスロットのレイヤ2に配置されている。
周回コイル1U14はスロット番号2からスロット番号56方向に周回するように波巻で巻かれ、周回コイル1U13はスロット番号1からスロット番号55方向に周回するように波巻で巻かれている。そして、周回コイル1U14,1U13の20本のスロット内導体1U14〜1u51は、交互にレイヤ2,レイヤ1に配置されている。
3番目の周回コイル1U11の最初のスロット内導体1U11はスロット番号1のレイヤ1に配置されており、周回コイル1U13のスロット内導体1u51と周回コイル1U11のスロット内導体1U11とを接続する渡り線18aは、スロット番号55のレイヤ1からスロット番号1のレイヤ1へ跨るように設けられている。周回コイル1U11の10本のスロット内導体1U11〜1u13は交互にレイヤ1,レイヤ2に配置され、周回コイル1U11は周回コイル1U14,1U13とは逆方向に周回するように巻かれている。4番目の周回コイル1U12に関しても、周回コイル1U11と同様に逆方向に周回するように巻かれている。
なお、図3、4に示す構成では、第1系統巻線20および第2系統巻線21のU相、V相およびW相巻線のそれぞれは、直列接続された2つの周回コイルを渡り線18a,18bで接続した構成となっている。ここで、スロットの内周側に配置された4直列の周回コイルをn個に分離して形成されるn個の系統巻線と、スロットの外周側に配置された4直列の周回コイルをm個に分離して形成されるm個の系統巻線とすることで、系統数を増加できる。ここで、n,mは2〜4の整数である。例えば、4直列の周回コイルを渡り線18a,18bの部分で切り離し、切り離した2つのコイル(2直列の周回コイル)を並列接続したり独立させたりすることで、第1系統巻線20および第2系統巻線21のそれぞれを新たに2系統化することができる。すなわち、図4に示すスロット内導体の構成で、4系統とすることができる。さらに、2直列の周回コイルの接続部を切り離せば、最大で8系統の巻線とすることが可能となる。
図4に示すように、第1系統巻線20のスロット内導体をスロットの内周側のレイヤ1,2に配置し、第2系統巻線21のスロット内導体をスロットの外周側のレイヤ3,4に配置することで、異なる系統巻線20,21をステータコア9の内周側および外周側に分離して配置することができる。そして、第1系統巻線20のコイルエンド部と第2系統巻線21のコイルエンド部とを、隙間を介して内周側と外周側とに分離して配置することが可能となる。その結果、コイルエンド部において異なる系統巻線が接触するのを防止することができ、異なる系統巻線間の絶縁性能向上を図ることができる。
(コイルエンド絶縁部材11の説明)
図6は、図3に示したステータの一部を拡大して示した図である。ステータコア9のティース9aとそれに隣接するティース9aとの間には、セグメントコイルのスロット内導体が挿入されるスロット9bが形成される。上述したように、各スロット9bの内周側の2本のスロット内導体は、第1系統巻線20を構成するセグメントコイルのスロット内導体である。また、各スロット9bの外周側の2本のスロット内導体は、第2系統巻線21を構成するセグメントコイルのスロット内導体である。
スロット9b内には、挿入されたスロット内導体とステータコア9との間の絶縁向上を図るために、スロット内絶縁部材15が設けられている。後述するように、本実施の形態では、スロット内絶縁部材15は第1系統巻線20のスロット内導体と第2系統巻線21のスロット内導体との絶縁向上を図る部材としても機能している。さらに、上述したように、ステータコア9の軸方向両端から突出している第1系統巻線20および第2系統巻線21のコイルエンド部には、第1系統巻線20と第2系統巻線21とが機械的にもまた電気的にも接触しないようにコイルエンド絶縁部材11(図2も参照)が設けられている。
第1系統巻線20のコイル口出し線50aはコイルエンド絶縁部材11の内周側から引き出され、第2系統巻線21のコイル口出し線50bはコイルエンド絶縁部材11の外周側から引き出される。なお、本実施の形態では、2系統巻線(第1系統巻線20および第2系統巻線21)は機械的な接触を避けるため、図3に示すようにコイル口出し線50aとコイル口出し線50bとを左右の反対側から取り出すように設計されている。また、第1系統巻線20の渡り線18aはコイルエンド絶縁部材11の内周側に位置しており、第2系統巻線21の渡り線18bはコイルエンド絶縁部材11の外周側に位置している。渡り線18aはレイヤ1のスロット内導体同士を接続しており、渡り線18bはレイヤ3のスロット内導体同士を接続している。
図7はコイルエンド絶縁部材11の形状を説明する図であり、図7(a)は平面図、図7(b)はA−A断面図、図7(c)は折り返し部111の変形例を示す。コイルエンド絶縁部材11は、内周側の円筒部110と、円筒部110の下端部(すなわち、ステータコア側の端部)に形成された折り返し部111とを備えている。なお、図7(a),(b)では折り返し部111はV字形状に折り返されているが、図7(c)に示すように略円形状に折り返されていても良い。折り返し部111の径方向寸法L1は、第1系統巻線20および第2系統巻線21の径方向隙間寸法よりも大きく設定されるのが好ましい。
コイルエンド絶縁部材11は、例えば、絶縁紙で形成される。先ず、帯状の絶縁紙の片方の長辺部分を折り返して折り返し部111を形成する。その後、折り返し部111が形成された帯状の絶縁紙を、図7(a)のように絶縁紙端部114が突き合わされるように円筒状に丸める。
図8は、第1および第2系統巻線20,21の隙間へのコイルエンド絶縁部材11の設置方法の一例を示す図である。コイルエンド絶縁部材11を異なる系統巻線間の隙間へ挿入する際には、図8(a)に示すような薄板状の治具170を折り返し部111の凹部に挿入して、コイルエンド絶縁部材11を隙間に押し込む。その際に、折り返し部111は矢印のように内周側へ変形し、図8(b)のように折り返し部111が第2系統巻線21の内周側に接触した状態となる。なお、折り返し部111が図7(c)のような形状の場合には、断面形状が略円形から径方向に押し潰されるように変形して第2系統巻線21の内周側に接触した状態となる。
このように、コイルエンド絶縁部材11の挿入側に折り返し部111を形成することで、折り返し部111が第2系統巻線21の内周側に接触して引っ掛かり、コイルエンド絶縁部材11が第1系統巻線20と第2系統巻線21との隙間から抜け落ち難くなる。また、折り返し部111を利用して図8(a)のように治具170で押し込むことで、コイルエンド絶縁部材11を第1系統巻線20と第2系統巻線21との隙間に容易に挿入することができる。
上述のように、内周側および外周側に分離された第1系統巻線20のコイルエンド部と第2系統巻線21のコイルエンド部との間にコイルエンド絶縁部材11を配置することで、コイルエンド部における異なる系統巻線の接触を完全に防止することができ、コイルエンド部における系統巻線間の絶縁性能の更なる向上を図ることができる。
図9,10は、コイル口出し線引き出し側のコイルエンド部に配置されるコイルエンド絶縁部材の変形例を示す図である。ここでは、コイル口出し線引き出し側のコイルエンド絶縁部材を符号11Rで表すことにする。図9はコイルエンド絶縁部材11Rの形状を示す図であり、(a)は平面図、(b)はB−B断面図である。また、図10は、コイルエンド絶縁部材11Rをコイル口出し線引き出し側のコイルエンド部に配置した図である。図9に示すように、コイルエンド絶縁部材11Rは、円筒部110および折り返し部111に加えて、円筒部110の上端すなわち円筒部110の折り返し部111とは反対側の端部に、複数の鍔部115a,115bを備えている。なお、鍔部115aは内周側に折れ曲がっており、鍔部115bは外周側に折れ曲がっている。
図10に示すように、コイルエンド絶縁部材11の場合と同様に第1系統巻線20と第2系統巻線21との隙間に、折り返し部111からコイルエンド絶縁部材11Rを挿入する。そして、内周側に折れ曲がった鍔部115aを、内周側に配置された第1系統巻線20の渡り線18aの下側(すなわち、渡り線18aと第1系統巻線20のコイルエンド部との隙間)に挿入する。外周側に折れ曲がった鍔部115bは、外周側に配置された第2系統巻線21の渡り線18bの下側(すなわち、渡り線18bと第2系統巻線21のコイルエンド部との隙間)に挿入する。このように鍔部115a,115bを渡り線18a,18bの下側に挿入することにより、コイルエンド絶縁部材11Rが第1系統巻線20と第2系統巻線21との隙間から外れるのを防止している。
なお、図6,10に示す例では、コイルエンド部における第1系統巻線20の巻線這い回し形状と、第2系統巻線21の巻線這い回し形状とが同一形態である場合を例に示した。一方、図11に示すように、第1系統巻線20の巻線這い回し形状と第2系統巻線21の巻線這い回し形状とがコイルエンド絶縁部材11Rの位置(系統巻線間境界)に対して対称な形状となるように、第1系統巻線20の巻線這い回し形状を変更しても良い。
例えば、図4の配置図において、第1系統巻線20のレイヤ1のスロット内導体とレイヤ2のスロット内導体とを入れ替えることで、図11に示すような対称形状のコイルエンド部となる。図示は省略するが、入れ替えた配置図においては、外周側の第2系統巻線21のスロット番号2のレイヤ4に配置されているスロット内導体2U14はスロット番号8のレイヤ3に配置されているスロット内導体2u12に接続され、一方、内周側の第1系統巻線20のスロット番号2のレイヤ1のスロット内導体1U14はスロット番号8のレイヤ2のスロット内導体1u12に接続されることになる。その結果、スロット内導体同士を接続する巻線の配置形状はコイルエンド絶縁部材11,11Rに関して対称な形状となり、コイルエンド部の隙間へのコイルエンド絶縁部材11,11Rの挿入が容易となる。
(スロット内絶縁部材15の説明)
図12はスロット9b内の絶縁を説明する図であり、スロット9bの部分をスロットコア軸方向に対して垂直に断面した場合の模式図である。なお、図12では、図4のスロット番号1のスロットに関して図示した。スロット9bの内周側には第1系統巻線20のスロット内導体が2本配置されており、スロット9bの外周側には第2系統巻線21のスロット内導体が2本配置されている。スロット内絶縁部材15は、第1系統巻線20の2本のスロット内導体1U11,1U13の周囲および第2系統巻線21の2本のスロット内導体2U11,2U13の周囲をそれぞれ囲むようにスロット9b内に配置される。スロット内絶縁部材15には、例えば、絶縁紙を図12の形状のように折り曲げた絶縁紙が用いられる。
図12に示す構成では、スロット内絶縁部材15の両端が第1系統巻線20のスロット内導体1U13と第2系統巻線21のスロット内導体2U11との間に挿入され、スロット内絶縁部材15が2枚重なるように配置されている。ここでは、この挿入部分を絶縁部材挿入部15aと称することにする。すなわち、図12の構成では、第1系統巻線20と第2系統巻線21との間に2枚の絶縁部材挿入部15aが配置されることになる。もちろん上下の絶縁部材挿入部15aの内の一方のみを設けるようにしても良いが、絶縁部材挿入部15aを2重に配置することでスロット9b内における系統間の電気的絶縁の更なる向上を図ることができる。
さらに、コイルエンド部の系統間に配置されるコイルエンド絶縁部材11,11Rの厚さ寸法をTz2とし、スロット9b内に配置されるスロット内絶縁部材15の厚さ寸法をTz1とした場合に、系統巻線20,21間におけるスロット内絶縁部材15の部分の厚さ寸法2Tz1と、コイルエンド絶縁部材11,11Rの折り返し部111が設けられている部分の全体厚さ寸法2Tz2とを2Tz1<2Tz2のように設定することで、すなわち、Tz1<Tz2と設定することで、スロット9b内における異なる系統巻線のスロット内導体間の距離をより広くすることができ、異なる系統巻線間の短絡防止に有効である。なお、図12では系統巻線間20,21間に系統巻線間20側の絶縁部材挿入部15aと系統巻線間21側の絶縁部材挿入部15aとが設けられて絶縁部材が二層になっているが、片側だけに絶縁部材挿入部15aを設けた一層構成の場合(不図示)には、Tz1<2Tz2のように設定することで、スロット9b内における異なる系統巻線のスロット内導体間の距離をより広くすることができる。
図13は、スロット内絶縁部材15の他の例を示す図である。図13では、絶縁部材挿入部15aに折り返し150を形成して絶縁部材挿入部15aの絶縁部材の層数を2層とすることで、系統の異なるスロット内導体1U13とスロット内導体2U11との間に4枚(4層)の絶縁部材を配置する構造とした。このように、異なる系統巻線間の境界部分で絶縁紙を折り返すことでスロット内導体間の隙間をより大きく確保することができ、スロット9bの内周側および外周側に異なる系統巻線のスロット内導体が配置されるモータにおいて、系統巻線間の絶縁性をさらに向上できる効果がある。また、系統巻線20,21のコイルエンド部における隙間をより大きく確保することができるので、コイルエンド絶縁部材11,11Rを省略することも可能である。
(比較例)
図14は比較例を示す図であり、従来のようにスロットのレイヤ1からレイヤ4までの全てのレイヤに同一系統巻線のスロット内導体を配置する場合を示したものである。スロット番号1のスロットには第1系統巻線20のスロット内導体1U11、1U12、1U13、1U14が配置され、スロット番号2のスロットには第2系統巻線21のスロット内導体2U11、2U12、2U13、2U14が配置される。
図15は、比較例におけるスロット内絶縁部材25の一例を示す図である。図15ではスロット番号1のスロット9bに関して図示した。図14に示したようにスロット9b内には同一系統巻線のスロット内導体が配置され、スロット番号1には第1系統巻線20のスロット内導体1U11,1U12,1U13、1U14が配置されている。そのため、スロット9b内に配置されるスロット内絶縁部材25には、図15に示すように4本のスロット内導体1U11〜1U14を一体で囲むような絶縁紙が用いられる。
このように、図14、図15に示す比較例の場合には、スロット内には同一系統巻線のスロット内導体が配置されるので、スロット内導体に関して系統間の絶縁に関して考慮する必要がなく、図15に示すようにスロット内導体とステータコア9との間の絶縁のみを考慮した形状とすることができた。しかしながら、コイルエンド部においては本実施の形態のように第1系統巻線と第2系統巻線とを内周側および外周側に分離して配置することができないので、絶縁部材による絶縁が困難であった。そのため、コイルエンド部において第1系統巻線20と第2系統巻線21とが接触しやすく、振動等によって系統の異なるコイル同士が擦れたりすると短絡が生じるおそれがあった。
図16は、図4に示した2系統巻線のコイル接続回路を示す図である。図4において説明したように第1系統巻線20のU相の周回コイル1U11,1U13については、巻き始め(すなわち入力側)のスロット内導体1U11,1U13がスロット番号1に配置されているので、周回コイル1U11と周回コイル1U13との間に電気的な位相差は無い。しかし、周回コイル1U12,1U14の巻き始めのスロット内導体1U12,1U14はスロット番号2に配置され、10極60スロットの場合には2極分の電気角360度が6スロット分に対応するので、1スロット分の電気角は30度となる。そのため、スロット番号1を基準にするとU相コイル(図16のU1相)の位相は、図16に示すように電気角で15度となる。
同様に、第2系統巻線21のU相のスロット内導体は第1系統巻線20のU相のスロット内導体と同じスロットに配置されているので、巻線図としては第1系統巻線20のU相と同じ15度の位相ずれとなる。その結果、第1系統巻線20と第2系統巻線21との間では電気的な位相差は無い。U相以外のその他の相は電気的に120度の位相ずれとなっており、詳細な説明は省略する。
図17は、第1系統巻線20に対して第2系統巻線21を1スロットずれた状態で配置した場合のスロット配置図を示したものである。第1系統巻線20に関しては、スロット番号1のレイヤ1,2に周回コイル1U11,1U13のスロット内導体1U11,1U13が配置され、スロット番号2のレイヤ1,2に周回コイル1U12,1U14のスロット内導体1U12,1U14が配置されている。一方、第2系統巻線21に関しては、スロット番号2のレイヤ3,4に周回コイル2U11,2U13のスロット内導体2U11,2U13が配置され、スロット番号3のレイヤ3,4に周回コイル2U12,2U14のスロット内導体2U12,2U14が配置されている。
図18は、図17に示したスロット配置図の場合のコイル接続回路を示す図である。第1系統巻線20については図16に示したものと同じになるが、図17に示したように第2系統巻線21は第1系統巻線20に対して1スロットずれて配置されているので、結果的に電気的で30度の位相差が設けられている。U相以外のその他の相は電気的に120度のずれとなっており、詳細な説明は省略する。
図19は、図17,18のように構成した第1および第2系統巻線20,21に最大トルクが発生できる電流位相角で電流をそれぞれ供給した場合の、トルク波形(第1系統のトルクT1、第2系統のトルクT2)と、トルクT1とトルクT2とを重ね合わせた合成トルクToutの波形とを示す図である。3相モータのトルクリプルは基本波の6次成分となるため、トルクリプルの周期は電気角で60度となる。
第2系統巻線21は第1系統巻線20に対して電気角30度の位相差があるので(図18参照)、第1系統巻線20の発生するトルクT1に対して第2系統巻線21の発生するトルクT2は電気的に30度位相がずれる。その結果、60度周期で繰り返すトルクT1とトルクT2とを加え合わせると互いのトルクリプルが打ち消されるように合成され、合成トルクToutの波形はトルクリプルの小さい波形となる。そのため、電動パワーステアリング用のモータに適用した場合、非常に良い性能を出すことができる。
(駆動装置に関する説明)
図20は、2系統巻線のモータを駆動する駆動装置の一例を示す回路ブロック図である。以下では、第1系統巻線20と第2系統巻線21との間にトルクリプルを小さくできる位相差を設けた構造(例えば、図17,18に示す構造)を例に説明する。第1系統巻線20には駆動回路40が接続され、第1系統巻線20に対して電気角で30度の位相差を持って構成される第2系統巻線21には駆動回路41が接続される。
駆動回路40は、インバータ61と、インバータ61のゲート信号71を発生する制御用ECU(Electronic Control Unit)81とを備えている。同様に駆動回路41は、インバータ64と、インバータ64のゲート信号74を発生するECU82とを備えている。また、駆動回路40,41には各相の電流をフィードバックできるように相電流検出部CtU1〜CtW2をそれぞれ有しており、電流指令に対して実際に流れている電流を測定することで2系統間のアンバランスを補正している。駆動回路40,41は前述したように基本的に30度の位相差を持って通電するので、トルクリプルは最少となる。しかし、埋め込み磁石ロータ構造で発生するリラクタンストルクがある場合には若干位相を30度より大きくした方が良い場合があるので、その場合には第2系統巻線の電流位相を調整することでトルクリプルを最小にすることができる。
駆動回路40にはバッテリーBat1が接続され、駆動回路41にはバッテリーBat2が接続されている。更にバッテリーBat1,Bat2を充電するための発電機42は、独立した系統端子を有している。すなわち、駆動回路40,41は、系統巻線20,21に対して独立して電力を供給できるような構成となっている。なお、図20では、発電機42は1つの筐体から独立した発電電圧を供給する構造としているが、完全に2系統を分けられるように2個の発電機を設けるようにしても良い。
また、駆動回路40と駆動回路41との間には通信手段43が設けられており、駆動回路40,41は通信手段43により互いに相手方の状況を把握できる。そして、駆動回路40,41は、異常発生時に不具合側のモータ駆動の低下分を助けるように動作できるようになっている。
図21は2系統巻線モータを駆動する駆動装置の他の例を示す図であり、モータ出力をブーストできる手段を内蔵している場合の回路構成を示したものである。図20に示す構成との相違点は、独立した2つのバッテリーBat1,Bat2が一つのバッテリーBat1に統一され、更に駆動回路40から発電機42に対して発電指令電圧Vrefが出せるような構成となっている。
次に動作について説明する。通常、発電機42は使用されるバッテリーBat1の公称電圧に対して若干高い電圧で発電している。例えば、12V系のバッテリーに対しては、発電機は14V程度で発電している。モータ駆動の途中で、出力を増加させたいモードが発生することが分かっている場合、そのモードの発生前に発電機42の発電電圧指令Vrefを上昇させ、バッテリー電圧を高めに充電する。このようにモータが使える電圧を高くすることで短時間でのパワーアップが可能になる。
なお、図21ではバッテリーBat1のみで電力を充電する構成としたが、バッテリーBat1による充電では充電電圧を高めるために時間がかかるので、コンデンサーやキャパシターを並列に接続してバッテリーと一旦切り離すことで、短時間で電圧を上げるような構成としても良い。
図22は、2系統巻線モータを駆動する駆動装置のさらに他の例を示す図である。モータは、電気角で位相差を持った第1系統巻線20と第2系統巻線21からなる2個の巻線構造で構成される。第1系統巻線20に接続される駆動回路40には、第1系統巻線20に並列に接続される3つのインバータ61〜63と、インバータ61〜63のゲート信号71〜73を発生するECU81が設けられている。同様に、第2系統巻線21に接続される駆動回路41には、第2系統巻線21に並列に接続される3つのインバータ64,65,66と、インバータ64〜66のゲート信号74〜76を発生するECU82が設けられている。ECU81,82は、複数個のインバータに対して個別にゲート信号を出力する。図20の場合と同様に、駆動回路40と駆動回路41との間には通信手段43が設けられている。
第1系統巻線20には複数のインバータ61〜63が並列接続されているので、インバータ61〜63のいずれかに故障が発生した場合でも、故障したインバータのみを切り離すことでモータ運転の継続が可能である。ただし、故障したインバータの分だけトルクが減少するので、内蔵するインバータの数が増えれば増えるだけトルク低下分の影響を小さくできる。また、インバータの故障時に短時間であれば残りのインバータの電流を増加させて、故障前のトルクを出すことも可能になる。
上述のようにインバータの故障時にはトルクの低下が発生するが、図4,5に示すような全周に亘る巻線の場合にはトルク低下は全周で発生するため、集中巻で部分的に系統を作成した分割方式の巻線に比べて振動の抑制効果があり、電動パワーステアリングモータに適用した場合に好適な構造である。
上述した実施形態では2系統巻線の場合について説明したが、3系統巻線の場合を図23〜25に示す。図23は3系統巻線の場合のスロット配置図である。3系統巻線の場合においてトルクリプルを打ち消すためには、打ち消したい次数の電気角を1周期とした場合の1周期の1/3の位相差で打ち消すことになる。3相モータのトルクリプルは基本波の6次成分となるため、1周期は電気角で60度となる。この場合のトルクリプルを打ち消すための位相差は電気角で20度となる。1スロットで電気角20度の位相差を出すためには、2極分の電気角360度が18スロットになるので、10極のモータの場合のスロット数は90スロットとなる。また、3系統巻線なのでスロット内のレイヤ数は6となる。
図23に示すように、第1系統巻線20のスロット内導体はレイヤ1,2に配置され、第2系統巻線21のスロット内導体はレイヤ3,4に配置され、第3系統巻線22のスロット内導体はレイヤ5,6に配置される。第1系統巻線20の1U+相はスロット番号1,2および3のレイヤ1,2に配置され、第2系統巻線21の2U+相はスロット番号2,3および4のレイヤ3,4に配置され、第3系統巻線22の3U+相はスロット番号3,4および5のレイヤ5,6に配置される。すなわち、第1系統巻線20に対して、第2系統巻線21は1スロットだけ右側にずれて配置され、第3系統巻線22は2スロットだけ右側にずれて配置される。
図24は、図23に示した第1〜第3系統巻線20〜22のコイル接続回路を示す図である。第1系統巻線20の1U相は6本の周回コイル1U11〜1U16が直列に接続されている。周回コイル1U11,1U14に対して、周回コイル1U12,1U15は電気的に20度ずれており、周回コイル1U13,1U16は40度ずれている。そのため、U1相全体で見た場合には、スロット番号1を基準に平均的には電気角で20度の位相となる。第2系統巻線21においては第1系統巻線20に対して電気的に20度加えた結果となるため、U2相巻線は電気的に40度の位相になる。同様に、第3系統巻線22の場合にはさらに20度加えて、U3相巻線は60度の位相差となる。U相以外のその他の相は電気的に120度のずれとなっており、詳細な説明は省略する。
図25は、図24に示した第1〜第3系統巻線20〜22で構成されるモータのそれぞれの相巻線の発生トルク(第1系統のトルクT1、第2系統のトルクT2、第3系統のトルクT3)と、すべての系統巻線の合計トルクである合成トルクToutの波形を示す図である。図24のように系統巻線間で電気角20度の位相差を設けたことで、合成トルクToutのトルクリプルを小さくすることができる。なお、3系統のトルクバランスが崩れると合成したトルクのリプルが大きくなるので、本実施の形態のように多スロットに跨る巻線方式として各系統でのトルクリプルを小さくすることはトルクリプル低減に有効である。
図19,図25で説明したように、2系統巻線の場合には電気角で30度(図19参照)、3系統巻線では電気角20度(図25参照)の位相差でトルクリプルを最小にすることができるため、位相を考慮することが重要である。系統数と位相との関係は、トルクリプルの周期が電気角60度なので、その値を系統数で除した値が適正な位相差となる。すなわち、4系統の場合には15度、5系統の場合には12度、6系統の場合には10度となる。このように位相差を設定することで、トルクリプルを最小にすることができる。
また、4系統の場合には図26のような配置とすることで、2系統の場合と同様の位相差(電気角30度)とすることもできる。6系統の場合には図27のような配置とすることで、3系統の場合と同様の位相差(電気角20度)とすることもできる。
上述した実施の形態では、図4,17,23,26および27に示したように、複数の系統巻線がステータコア9の内周側から順次外周側に向けて配置される構成とした。図28は、4系統巻線の場合のコイル配置を模式的に示したものである。この場合、第1系統巻線20,第2系統巻線21,第3系統巻線22および第4系統巻線23はステータコア9の全周に亘って設けられ、隣接する系統巻線との隙間に円筒形状のコイルエンド絶縁部材11が配置される。
一方、図29に示すように、1周を2分割してそれぞれに異なる系統巻線を配置するようにしても良い。図29に示す例は4系統巻線の場合で、内周側に第1系統巻線20と第2系統巻線21とが上下に分かれて配置され、外周側に第3系統巻線22と第4系統巻線23とが左右に分かれて配置されている。
このように1周に亘って複数系統の巻線を配置することで、径方向の系統巻線の層数を減らすことができる。例えば、4系統の場合の図28,29の構成では、1系統巻線を全周に渡って配置する図28の場合には4層となるが、1周に2系統を配置する図29の構成では層数を2層に減らすことができる。また、図29のように内周側の切り替わり部と外周側の切り替わり部とをずらすことで、第1系統巻線20および第2系統巻線21で発生するトルクアンバランスを、第3系統巻線22および第4系統巻線23で発生するトルクアンバランスで緩和することが可能となる。
図30は、図29に示した第1〜第4系統巻線20〜23で構成されるモータにおいて、第1系統巻線20および第2系統巻線21により発生するトルクT12と、第3系統巻線22および第4系統巻線23により発生するトルクT34と、すべての系統巻線の合計トルクである合成トルクToutの波形を示す図である。第1系統巻線20および第2系統巻線21に対して第3系統巻線22および第4系統巻線23を電気角60度の1/2周期の位相でずらすことで、合成トルクToutのトルクリプルを小さくすることができる。
また、図29の構成で第2系統巻線21に接続される駆動回路に異常が発生して、運転が不可能になった場合、残りの第1系統巻線20、第3系統巻線22および第4系統巻線23の3系統で運転することになる。その場合、図30のトルクT12は、図31の実線で示すような第1系統巻線だけのトルクT1となる。トルクT1の波形の周期はトルクT12と同じであるが、振幅および平均値のレベルはトルクT12の半分に減少する。そのため、第3系統巻線22および第4系統巻線23により発生するトルクT34は図29の場合と同様であるが、合成トルクはTout1のように変化し、図29の合成トルクToutよりもトルクリプルが大きくなる。
そこで、第2系統巻線21に接続される駆動回路に異常が発生した場合には、同じ周に配置されている第1系統巻線20の電流を増やして図31のトルクT1をトルクT10のように増加させることで、合成トルクTout2のようにトルクリプルを小さくさせることができる。
なお、上述した説明では、複数の系統巻線をそれぞれ分離して、その分離した隙間に絶縁部材を配置したが、複数の系統巻線の一部を分離してその隙間に絶縁部材を配置するようにしても良い。例えば、4系統巻線の場合に、図14に示す2つの系統巻線を内周側と外周側とに配置して4系統巻線とした場合、図32のような構成の4系統巻線となる。
図32に示すように、各スロットの内周側のレイヤ1〜4には、第1系統巻線20のスロット内導体と第2系統巻線21のスロット内導体とが1スロットずれて配置されている。各スロットの外周側のレイヤ5〜8には、第3系統巻線22のスロット内導体と第4系統巻線23のスロット内導体とが1スロットずれて配置されている。この場合、ステータコアに配置される巻線は、第1系統巻線20と第2系統巻線21とが配置される内周側と、第3系統巻線22と第4系統巻線23とが配置される外周側とに分離される。そのため、分離された系統間隙間にコイルエンド絶縁部材11,11Rを配置することができる。その結果、コイルエンド絶縁部材11,11Rを配置することにより、第1及び第2系統巻線20,21と第3及び第4系統巻線22,23との間の絶縁性能向上が図れる。
図14に示したスロット内導体の配置図は従来の波巻の2系統巻線に関して示したものであるが、重ね巻の2系統巻線の場合もスロット内導体の配置は図14に示したものと同様となる。重ね巻の場合、第1系統巻線20および第2系統巻線21のコイルエンド部の形状は図33に示すような形状となり、第1系統巻線20のコイルエンド部と第2系統巻線21のコイルエンド部とは周方向に交互に配置されている。このように、図33に示す重ね巻の場合と図3に示す本実施の形態の波巻の場合とではコイルエンド部における巻線の這い回しが異なっているので、図14に示す比較例の場合と同様に2系統で内周側と外周側とで分離して配置することができない。しかしながら、図32のように、図14,図33に示す2系統巻線を内周側および外周側に配置して4系統巻線とすることで、内周側の2系統の巻線と外周側の2系統の巻線との間を分離して配置することは可能である。
図34は、図32に示す配置の場合のスロット内絶縁部材15の一例を示す図である。スロット番号1のスロット9bには、内周側の第1系統巻線20のスロット内導体1U11〜1U14を一体で周囲を囲み、外周側の第3系統巻線22のスロット内導体3U11〜3U14を一体で周囲を囲むように、スロット内絶縁部材15が設けられている。同様に、スロット番号2のスロット9bには、内周側の第2系統巻線21のスロット内導体2U11〜2U14を一体で周囲を囲み、外周側の第4系統巻線23のスロット内導体4U11〜4U14を一体で周囲を囲むように、スロット内絶縁部材15が設けられている。系統の異なるスロット内導体1U14とスロット内導体3U11との間およびスロット内導体2U14とスロット内導体4U11との間には、スロット内絶縁部材15の2つの絶縁部材挿入部15aが配置されている。
図34におけるスロット内絶縁部材15の配置は図12の場合と同様の形態であるが、図12の場合には一体で囲まれるスロット内導体は2本であり図34の場合には4本となっている。系統の異なるスロット内導体1U14とスロット内導体3U11との間には、スロット内絶縁部材15の2つの絶縁部材挿入部15aが配置されている。なお、図13に記載のスロット内絶縁部材15を同様に適用しても良い。
図35は、本実施の形態のモータ100(図1,2参照)を用いた操舵装置200の斜視図である。ステアリングホイール201に連結されたステアリングシャフト202の下端には図示しないピニオンが設けられ、このピニオンは車体左右方向へ長い図示しないラックと噛み合っている。このラックの両端には前輪を左右方向へ操舵するためのタイロッド203が連結されており、ラックはラックハウジング204に覆われている。そして、ラックハウジング204とタイロッド203との間にはゴムブーツ205が設けられている。
ステアリングホイール201を回動操作する際のトルクを補助するため、電動パワーステアリング装置206が設けられている。即ち、ステアリングシャフト202の回動方向と回動トルクとを検出するセンサ207が設けられ、センサ207の検出値に基づいてラックにギヤ210を介して操舵補助力を付与するモータ100と、モータ100を制御する制御用ECU209とが設けられている。
このような構造において、制御用ECU209は、センサ207により検出された操舵角の変化率から操舵開始を検出し、操舵開始における操舵補助力として、内周側系統のモータ出力を使用するように制御することができる。
図36は操舵装置200の動作を説明するフロー図の例である。制御用ECU209は、センサ207により検出された操舵角の変化率から操舵開始を検出すると(S301)、操舵開始における操舵補助力として、内周側系統のモータ出力を使用するように設定する(S302)。この内周側系統とは、例えば第1系統巻線20である。これは、内周側系統のほうが電気的時定数が低く応答性が良い特性を利用したものであって、操舵開始から任意時間経過後は、通常の制御を行う。
一方、制御用ECU209は、センサ207により検出された操舵角の変化率から操舵開始を検出しない場合は(S301)操舵開始における操舵補助力として、外周側系統のモータ出力を使用するように設定する(S303)。この外周側系統とは、例えば第2系統巻線21である。なお、操舵開始を検出しない場合は、外周側系統だけではなく内周側系統も使用するように制御してもよい。
上記のようにすることで、操舵開始直後の操舵補助力付与の応答性が良くなり、操舵性を向上させることができる。上記は、特に、急な操舵の場合や、高速運転時に特に好適である。
上述した実施の形態によれば、以下に説明するような作用効果を奏することができる。 図3,4,6に示すように、モータは、ステータコア9に分布巻で配置され、複数のインバータに個別に接続される独立した複数の系統巻線20,21と、ステータコア9のスロット9bに設けられ、異なる系統巻線20,21間に配置されるスロット内絶縁部材15と、を備え、複数の系統巻線20,21は、ステータコア9に形成されたスロット9bの内周側に配置される第1系統巻線20と、内周側に配置される第1系統巻線20よりもスロット9bの外周側に配置される第2系統巻線21とで構成される。
このように、異なる系統巻線20,21をステータコア9に形成されたスロット9bの内周側および外周側に配置することで、スロット内およびコイルエンド部のいずれにおいても第1系統巻線20と第2系統巻線21とを分離して配置することができる。そして、スロット内においてはスロット内絶縁部材15が系統巻線20,21間に配置されるので、系統巻線20,21がスロット内絶縁部材15の厚さ分だけ分離され、コイルエンド部において系統巻線20,21間に隙間を形成することが可能となる。その結果、コイルエンド部における系統巻線20,21間の絶縁性能の向上を図ることができる。
さらに、図13に示すように、スロット内絶縁部材15は絶縁紙で形成され、異なる系統巻線20,21間の絶縁部材挿入部15aに折り返し150が形成されることにより、異なる系統巻線20,21間において絶縁紙は複数の層を形成することになる。その結果、スロット内における系統巻線20,21間の絶縁性能をさらに向上させることができると共に、スロット内における系統巻線20,21間の距離がより大きくなり、コイルエンド部における系統巻線20,21間の隙間寸法をより大きくすることができる。
さらに、図3に示すように、内周側に配置される第1系統巻線20のコイルエンド部と外周側に配置される第2系統巻線21のコイルエンド部との間に挿入されるコイルエンド絶縁部材11を設けることで、コイルエンド部における異なる系統巻線20,21の接触を完全に防止することができる。
図7,8に示すように、コイルエンド絶縁部材11のステータコア側の端部に折り返し部111を形成することで、折り返し部111が第2系統巻線21の内周側に接触して引っ掛かり易い。その結果、コイルエンド絶縁部材11が第1系統巻線20と第2系統巻線21との隙間から抜け落ち難くなるという作用効果を奏する。
また、図9,10に示すように、内周側に配置される第1系統巻線20および外周側に配置される第2系統巻線21のそれぞれは、異なるスロット間に跨るようにコイルエンド部に配置された渡り線18a,18bを有し、コイルエンド絶縁部材11Rは、渡り線18a,18bとコイルエンド部との間に挟み込まれる鍔部115a,115bを有する。このように鍔部115a,115bを渡り線18a,18bとコイルエンド部との間に挟み込むことで、コイルエンド絶縁部材11Rが第1系統巻線20と第2系統巻線21との隙間から外れ難くなるという作用効果を奏する。
さらに、コイルエンド絶縁部材11,11Rの厚さ寸法Tz2をスロット内絶縁部材15の厚さ寸法Tz1よりも大きく設定することで、スロット内における異なる系統巻線20,21のスロット内導体間の距離をより広くすることができる。
図11に示すように、コイルエンド絶縁部材11Rの内周側に隣接する第1系統巻線20と外周側に隣接する第2系統巻線21とは、コイルエンド部における巻線這い回し形状が系統巻線間境界に関して対称形状とされる。それにより、コイルエンドの隙間へのコイルエンド絶縁部材11,11Rの挿入が容易となる。
図26〜28に示すように、複数の系統巻線のそれぞれを波巻の分布巻とすることで、スロットの内周側から外周側へと順に配置された各系統巻線をそれぞれ径方向に分離して配置することができる。
図17,23,26,27に示すように、複数の系統巻線の内の少なくとも一つを、電気的な位相差が生じるように1スロット以上ずらして配置することで、例えば、図26に示す例では第2系統巻線21および第4系統巻線23を1スロットずらすことで、トルクリップルの低減を図ることができる。
また、図29に示すように、波巻の分布巻の系統巻線20,21を内周側の同一周上に180度位相で分離して配置し、波巻の分布巻の系統巻線22,23を外周側の同一周上に180度位相で分離して配置するようにしても良い。このように構成することで、径方向の系統巻線の層数を減らすことができる。
また、図20のように、モータ装置は、複数の系統巻線20,21を備えるモータと、第1系統巻線20に接続されるインバータ61を有する駆動回路40と、第2系統巻線21に接続されるインバータ64を有する駆動回路41とを備える。そして、図37に示すように、駆動回路40には、第1系統巻線20の相巻線U1、V1、W1の中性点にそれぞれ接続されて中性点同士の接続および切り離しを行う切換部400と、異なる系統巻線間の短絡に応じて切換部400による接続および切り離しを制御するECU81とを設けるようにしても良い。駆動回路41についても同様の構成とされる。
モータを駆動する場合には、切換部400により各中性点同士が接続される。また、相巻線間に短絡等が生じた場合にはその系統巻線の駆動は停止されるが、その場合には、切換部400を制御して短絡している相巻線の中性点同士を切り離す。短絡している系統巻線の中性点同士が接続されていると、誘起電圧による電流が常に流れて正常な系統巻線に対してブレーキトルクが発生するという問題が生じてしまう。そのため、切換部400で中性点同士を切り離すことで、そのようなブレークトルクの発生を防止することができる。
また、図22に示すように、第1系統巻線20および第2系統巻線21に個別に接続され、第1系統巻線20に電力を供給する複数の駆動回路40,41と、を備え、駆動回路40に、第1系統巻線20に対して並列接続される複数のインバータ61,62,63を設けるようにしても良い。駆動回路41についても同様の構成とされる。このような構成とすることで、第1系統巻線20に並列接続されているインバータ61〜63のいずれかに故障が発生した場合でも、故障したインバータのみを切り離すことでモータ運転の継続が可能となる。
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。例えば、巻線にセグメントコイルを用いる場合について説明したが、セグメントコイルではなく連続線を用いる構成の場合にも、分布巻の巻線で構成されるモータであれば本発明を適用することができる。