JPWO2018100690A1 - 圧縮着火式エンジンの制御方法及び制御装置 - Google Patents
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Abstract
圧縮着火式エンジンの制御装置は、nサイクル目の燃焼によって到達するエンジン回転数を検出または推定する回転数取得部(102)と、クランキングを開始した後の始動期間内において、インジェクタ(6)による(n+1)サイクル目の燃料噴射量を設定する噴射量設定部(105)とを備える。噴射量設定部(105)は、nサイクル目の燃焼によって到達するエンジン回転数が共振領域(Br)内に至ったときには、該共振領域(Br)の上限値(R2)以上のときよりも(n+1)サイクル目の燃料噴射量を多く設定する。
Description
ここに開示する技術は、圧縮着火式エンジンの制御方法及び制御装置に関する。
特許文献1には、エンジンの制御装置が開示されている。具体的に、この特許文献1に係る制御装置(点火時期制御装置)は、エンジンの始動直後から、エンジン回転数が共振回転数域(車両共振帯)を通過するまでの期間内において、点火時期をアイドル時よりも進角させるよう構成されている。これによれば、点火時期を進角させた分、エンジンのトルク(出力)が高くなる。したがって、エンジン回転数の上昇速度が高まって、ひいては、共振回転数域を素早く通過することが可能となる。
ところで、ディーゼルエンジンをはじめとする圧縮着火式エンジンにおいて、前記特許文献1のように始動時にトルクを高める方法としては、例えば、エンジン始動(クランキング開始)から始動完了(アイドル回転数到達)までの期間内において、燃料噴射量を相対的に多く設定することが考えられる。この場合、燃料噴射量を多く設定した分、エンジンのトルクが高まって、共振回転数域を素早く通過することが可能になる。このことは、始動を早期に完了し、ひいては共振の影響を抑制する上で有効である。しかしながら、圧縮着火式エンジンの場合、一般的な火花点火式エンジンよりも圧縮比が大きいため、トルク変動が相対的に大きくなる。トルク変動が大きくなると、それに起因した車両全体の振動が大きくなる。したがって、始動を早期に完了するようにしたことと引き替えに、短時間ではあるものの、車両全体としては振動が十分に抑制されない虞がある。また、燃料噴射量を多めに設定したままアイドル回転数まで立ち上げてしまうと、燃焼騒音が大きくなってしまうため好ましくない。
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、圧縮着火式エンジンの始動時において、共振回転数域を素早く通過すると共に、トルク変動に起因した車両の振動、及び、燃焼騒音を抑制することにある。
ここに開示する技術は、燃焼室の中に燃料を供給する燃料噴射弁を備えた圧縮着火式エンジンの制御方法に係る。この制御方法は、エンジン回転数を所定のアイドル回転数まで上昇させるエンジン始動工程と、nを正の整数としたときに、nサイクル目の燃焼によって到達するエンジン回転数である現エンジン回転数を検出または推定する回転数取得工程と、前記エンジン回転数が前記アイドル回転数に至るまでの期間内において、前記現エンジン回転数に基づいて、前記燃料噴射弁による(n+1)サイクル目の燃料噴射量を設定する噴射量設定工程と、を備える。
そして、前記噴射量設定工程は、前記現エンジン回転数が、前記アイドル回転数よりも低回転側に設定された共振回転数域内に至ったときには、該共振回転数域の上限値以上のときにおける前記燃料噴射量よりも、前記燃料噴射量を多く設定する。
ここで、「圧縮着火式エンジン」には、ディーゼルエンジンと、例えば圧縮着火式のガソリンエンジンとの両方が含まれる。
また、ここでいう「燃焼室」は、ピストンが圧縮上死点に至ったときに形成される空間の意味に限定されない。「燃焼室」の語は広義で用いる。
また、ここでいう「サイクル」は、燃料が燃焼したときに限定されない。例えばクランキングによって、ピストンが吸気行程、圧縮行程、膨張行程、及び、排気行程に対応する往復動を1セット行ったとき、1つのサイクルが行われたものとみなす。つまり、ここでいう「サイクル」には、燃料噴射量がゼロの場合も含まれる。
さらに、ここでいう「サイクル」は、気筒毎に別々に数え上げられるのではなく、全気筒にわたって数え上げられるものである。例えば4気筒エンジンの場合、クランクシャフトが180度回転するたびに、サイクルの回数が1回分ずつカウントアップされることになる。
加えて、ここでいう「共振回転数域」は、例えば、前記圧縮着火式エンジンを備えたパワートレインの共振周波数に対応するエンジン回転数を含みかつ、アイドル回転数よりも低回転側に設定された回転数域を示す。
前記の方法によると、(n+1)サイクル目の燃料噴射量を設定するときには、その直前のnサイクル目の燃焼によって到達するエンジン回転数である現エンジン回転数を考慮する。
具体的に、現エンジン回転数が共振回転数域内に至ったときには、その回転数域の上限値以上のときよりも、(n+1)サイクル目の燃料噴射量を多く設定する。燃料噴射量を多くした分、共振回転数域を素早く通過することが可能になる。
また、前記の工程を換言すれば、燃料噴射量を多めに設定したままアイドル回転数まで立ち上げるのではなく、現エンジン回転数が共振回転数域の上限値以上のときには、共振回転数域内に至ったときよりも、燃料噴射量を少なく設定することになる。燃料噴射量を少なくした分、トルク変動を低減し、ひいてはトルク変動に起因した強制振動を抑制することが可能になる。このことは、燃焼騒音を抑制する上でも有効である。
したがって、前記の方法によれば、共振回転数域を素早く通過すると共に、トルク変動に起因した車両の振動、及び、燃焼騒音を抑制することができる。
また、前記燃焼室の中の温度を検出または推定する筒内温度取得工程を備え、前記噴射量設定工程は、前記現エンジン回転数が前記共振回転数域内に至ったときには、前記燃料噴射量を、前記燃焼室の中の温度に応じて規定された制限値に設定する、としてもよい。
筒内温度に応じて、燃料の気化特性が定まっている。例えば筒内温度が低いときには、燃料の気化が抑制される分、筒内温度が高いときよりも相対的に多量の燃料を噴射することが許容される。燃料噴射量には、そうした気化特性に対応した上限としての制限値が規定されている。噴射量設定工程は、現エンジン回転数が共振回転数域内に至ったときには、燃焼噴射量を、その制限値まで高める。こうすることで、例えば燃料噴射量を制限値未満に設定したときと比べると、燃料噴射量を多くした分だけ共振回転数域を素早く通過する上で有利になる。
また、エンジン冷却水の温度を検出する冷却水温取得工程を備え、前記筒内温度取得工程は、前記冷却水温取得工程による検出値に基づいて、前記筒内温度を検出または推定する、としてもよい。
また、前記噴射量設定工程は、前記現エンジン回転数が前記共振領域内に至ったときには、前記燃料噴射量を、前記圧縮着火式エンジンがアイドル運転を行うときよりも多くなるように設定する、としてもよい。
この方法によると、燃料噴射量を多くした分だけ、共振回転数域を素早く通過する上で有利になる。
ここに開示する別の技術は、燃焼室の中に燃料を供給する燃料噴射弁を備えた圧縮着火式エンジンの制御装置に係る。この制御装置は、エンジン回転数を所定のアイドル回転数まで上昇させるエンジン始動部と、nを正の整数としたときに、nサイクル目の燃焼によって到達するエンジン回転数である現エンジン回転数を検出または推定する回転数取得部と、前記エンジン回転数が前記アイドル回転数に至るまでの期間内において、前記現エンジン回転数に基づいて、前記燃料噴射弁による(n+1)サイクル目の燃料噴射量を設定する噴射量設定部と、を備える。
そして、前記噴射量設定部は、前記現エンジン回転数が、前記アイドル回転数よりも低回転側に設定された共振回転数域内に至ったときには、該共振回転数域の上限値以上のときにおける前記燃料噴射量よりも、前記燃料噴射量を多く設定する。
この構成によると、共振回転数域を素早く通過すると共に、トルク変動に起因した車両の振動、及び、燃焼騒音を抑制することができる。
また、前記燃焼室の中の温度を検出または推定する筒内温度取得部を備え、前記噴射量設定部は、前記燃料噴射量を、前記燃焼室の中の温度に応じて規定された制限値以下になるように設定すると共に、前記現エンジン回転数が前記共振回転数域内に至ったときには、前記燃料噴射量を前記制限値に設定する、としてもよい。
この構成によると、例えば燃料噴射量を制限値未満に設定したときと比べると、燃料噴射量を多くした分だけ共振回転数域を素早く通過する上で有利になる。
また、エンジンの冷却水温を検出する冷却水温取得部を備え、前記筒内温度取得部は、前記冷却水温取得部による検出値に基づいて、前記筒内温度を検出または推定する、としてもよい。
また、前記噴射量設定部は、前記現エンジン回転数が前記共振回転数域内に至ったときには、前記燃料噴射量を、前記圧縮着火式エンジンがアイドル運転を行うときよりも多くなるように設定する、としてもよい。
この方法によると、燃料噴射量を多くした分だけ、共振回転数域を素早く通過する上で有利になる。
以上説明したように、前記の圧縮着火式エンジンの制御方法及び制御装置によれば、共振回転数域を素早く通過すると共に、トルク変動に起因した車両の振動、及び、燃焼騒音を抑制することができる。
以下、圧縮着火式エンジンの制御方法及び制御装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の説明は例示である。図1は、圧縮着火式エンジンが搭載された車両の前部を示す後面図を示している。また、図2は、圧縮着火式エンジンの構成を例示する図であり、図3は、圧縮着火式エンジンの制御に係るブロック図である。
本実施形態に係る圧縮着火式エンジン(以下、「エンジン」という)1は、フロントエンジン・フロントドライブタイプの4輪自動車(以下、「車両」という)Vに搭載されている。エンジン1は、車両VのパワートレインPTを構成している。
最初に、パワートレインPTに係る構成、特に、その支持構造について説明する。
(パワートレインの構成)
パワートレインPTは、エンジン1と、変速機2とを備えている。パワートレインPTは、エンジン1の出力を変速機2において変速すると共に、変速した出力を車両Vの前輪201へ伝えるよう構成されている。
パワートレインPTは、エンジン1と、変速機2とを備えている。パワートレインPTは、エンジン1の出力を変速機2において変速すると共に、変速した出力を車両Vの前輪201へ伝えるよう構成されている。
車両Vの車体は、複数のフレームから構成されている。例えば、パワートレインPTの車幅方向両側には、車両Vの前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレーム202が配設されていると共に、そのフロントサイドフレーム202の下方には、車幅方向にわたってサブフレーム203が架設されている。
パワートレインPTの説明に戻ると、図1に示すように、本実施形態に係るパワートレインPTには、ペンデュラム方式の支持構造が適用されている。すなわち、パワートレインPTの車幅方向両端の上部(具体的には、パワートレインPTの重心Gよりも上方に位置する部分)は、それぞれ、エンジンマウント204を介してフロントサイドフレーム202に支持されている。各エンジンマウント204は、弾性力を有していると共に、パワートレインPTの両端を吊り下げるように支持している。
ペンデュラム方式を適用した場合、パワートレインPTは、例えばエンジン1が運転したときのトルク変動を起振力として、略車幅方向に延びるロール軸Aまわりに回転するように振動する。そうした振動を制振するべく、パワートレインPTの下部(具体的には、パワートレインPTの重心Gよりも下方に位置する部分)は、トルクロッド205を介してサブフレーム203に連結されている。
尚、パワートレインPTが振動するときの共振周波数は、パワートレインPTのハード構成や、その支持構造に応じて定まっている。詳細は省略するが、本実施形態に係る共振周波数は、その共振周波数に対応するエンジン回転数(以下、「共振回転数」という)Rrが、少なくともエンジン1のアイドル回転数Riよりも小さくなるように調整されている。ここで、アイドル回転数Riは、例えば車両Vの非走行時かつ、アクセルペダルの非踏込時にエンジンストールを招くことの無いように設定されたエンジン回転数である。
次に、エンジン1の全体構成について説明する。
(エンジンの全体構成)
エンジン1は、直列4気筒かつ、4サイクルのディーゼルエンジンである。但し、エンジン1はディーゼルエンジンに限られない。ここに開示する技術は、例えば圧縮着火式のガソリンエンジンに適用してもよい。
エンジン1は、直列4気筒かつ、4サイクルのディーゼルエンジンである。但し、エンジン1はディーゼルエンジンに限られない。ここに開示する技術は、例えば圧縮着火式のガソリンエンジンに適用してもよい。
エンジン1は、図2に示すように、4つの気筒11a(1つのみ図示)が設けられたシリンダブロック11と、その上に配設されたシリンダヘッド12と、シリンダブロック11の下側に配設され、潤滑油が貯留したオイルパン13と、を有している。各気筒11a内には、ピストン14が摺動自在に内挿されていて、このピストン14の頂面には、燃焼室14aを区画するキャビティが形成されている。ピストン14は、コンロッド14bを介してクランクシャフト15と連結されていると共に、そのクランクシャフト15は、前述の変速機2に連結されている。また、クランクシャフト15には、トリガープレート92が取り付けられている。トリガープレート92は、クランクシャフト15と一体的に回転する。
尚、「燃焼室」は、ピストン14が圧縮上死点に至ったときに形成される空間の意味に限定されない。「燃焼室」の語は広義で用いる場合がある。つまり、「燃焼室」は、ピストン14の位置に関わらず、ピストン14、気筒11a及びシリンダヘッド12によって形成される空間を意味する場合がある。
エンジン1の幾何学的圧縮比は、14に設定されている。この設定は一例であり、適宜変更してもよい。
シリンダブロック11には、エンジン1を始動するためのスタータモータ91(図3にのみ図示)が設けられている。スタータモータ91は、クランクシャフト15の一端部に連結されたリングギア(不図示)に対し、離接可能に噛合している。エンジン1を始動する際には、スタータモータ91を駆動する。そうすると、スタータモータ91がリングギアと噛合し、スタータモータ91の動力がリングギアに伝達されて、クランクシャフト15が回転駆動される。
シリンダヘッド12には、気筒11a毎に、2つの吸気ポート16と、2つの排気ポート17とが形成されている。吸気ポート16及び排気ポート17は、双方とも燃焼室14aに連通している。吸気ポート16には、その燃焼室14a側の開口を開閉する吸気弁21が配設されている。同様に、排気ポート17には、その燃焼室14a側の開口を開閉する排気弁22が配設されている。
シリンダヘッド12には、気筒11a毎にインジェクタ18が取り付けられている。インジェクタ18は、気筒11a内に燃料を直接噴射することにより、燃焼室14aの中に燃料を供給するように構成されている。インジェクタ18は、「燃料噴射弁」の例示である。
具体的に、インジェクタ18には、燃料供給システム51を介して燃料が燃料タンク52から供給されるようになっている。この燃料供給システム51は、燃料タンク52内に配設された電動の低圧燃料ポンプ(不図示)、燃料フィルタ53、高圧燃料ポンプ54及びコモンレール55を有している。高圧燃料ポンプ54は、エンジン1の回転部材(例えばカムシャフト)によって駆動される。この高圧燃料ポンプ54は、低圧燃料ポンプ及び燃料フィルタ53を介して燃料タンク52から供給されてきた低圧の燃料をコモンレール55に高圧で圧送し、このコモンレール55は、その圧送された燃料を、その高圧の圧力でもって蓄える。そして、インジェクタ18が作動することによって、コモンレール55に蓄えられている燃料がインジェクタ18から燃焼室14aの中に噴射される。尚、低圧燃料ポンプ、高圧燃料ポンプ54、コモンレール55及びインジェクタ18のそれぞれで生じた余剰の燃料は、リターン通路56を介して(低圧燃料ポンプで生じた余剰の燃料は直接)燃料タンク52へ戻される。尚、燃料供給システム51の構成は、前記の構成に限定されない。
シリンダヘッド12にはまた、気筒11a毎にグロープラグ19が設けられている。グロープラグ19は、エンジン1の冷間始動時に気筒11a内に吸入されたガスを暖めて、燃料の着火性を高めるよう構成されている。
エンジン1の一側面には吸気通路30が接続されている。吸気通路30は、燃焼室14aに導入するガスが流れる通路である。一方、エンジン1の他側面には排気通路40が接続されている。排気通路40は、燃焼室14aから排出された排気ガスが流れる通路である。これら吸気通路30及び排気通路40には、ガスの過給を行うターボ過給機61が配設されている。
詳しくは、吸気通路30は、各気筒11aの吸気ポート16に連通している。吸気通路30の上流端部には、新気を濾過するエアクリーナ31が配設されている。吸気通路30の下流端近傍には、サージタンク34が配設されている。サージタンク34よりも下流側の吸気通路30は、詳細な図示は省略するが、気筒11a毎に分岐する独立通路を構成している。各独立通路の下流端が、各気筒11aの吸気ポート16に接続されている。
吸気通路30におけるエアクリーナ31とサージタンク34との間には、上流側から順に、ターボ過給機61のコンプレッサ61aと、吸気シャッター弁36と、コンプレッサ61aにおいて圧縮されたガスを冷却するインタークーラ35とが配設されている。吸気シャッター弁36は、基本的には全開状態とされる。インタークーラ35は、電動ウォータポンプ37から供給された冷却水によって、ガスを冷却するよう構成されている。
一方、排気通路40は、各気筒11aの排気ポート17に連通している。詳しくは、排気通路40の上流側の部分は、詳細な図示は省略するが、気筒11a毎に分岐する独立通路を構成している。各独立通路の上流端が、各気筒11aの排気ポート17に接続されている。排気通路40における独立通路よりも下流側の部分は、各独立通路が集合する集合部を構成している。
排気通路40における前記集合部よりも下流側の部分には、上流側から順に、ターボ過給機61のタービン61bと、エンジン1の排気ガス中の有害成分を浄化する排気浄化装置41と、サイレンサ42とが配設されている。排気浄化装置41は、上流側から順に、酸化触媒41aと、ディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、「DPF」という)41bとを有している。酸化触媒41aは、白金、又は、白金にパラジウムを加えたもの等を担持した酸化触媒を有していて、排気ガス中のCO及びHCが酸化されてCO2及びH2Oを生成する反応を促すものである。また、DPF41bは、エンジン1の排気ガス中に含まれるスス等の微粒子を捕集するものである。尚、DPF41bに酸化触媒をコーティングしてもよい。
ターボ過給機61は、前述の如く吸気通路30に配設されたコンプレッサ61aと、前述の如く排気通路40に配設されたタービン61bとを有していて、このタービン61bが排気ガス流によって回転し、そのタービン61bの回転により、該タービン61bと連結されたコンプレッサ61aが作動する。コンプレッサ61aが作動すると、ターボ過給機61は、燃焼室14aに導入するガスを圧縮する。排気通路40におけるタービン61bの上流側近傍には、VGT絞り弁62が設けられており、このVGT絞り弁62の開度(絞り量)を制御することにより、タービン61bへ送る排気ガスの流速を調整することができる。
エンジン1は、その排気ガスの一部を排気通路40から吸気通路30へ還流させるようになされている。この排気ガスの還流のために、高圧EGR通路71と、低圧EGR通路81とが設けられている。
高圧EGR通路71は、排気通路40における前記集合部とターボ過給機61のタービン61bとの間の部分(つまり、ターボ過給機61のタービン61bよりも上流側部分)と、吸気通路30におけるサージタンク34とインタークーラ35との間の部分(つまり、ターボ過給機61のコンプレッサ61aよりも下流側部分)とを接続している。高圧EGR通路71には、該高圧EGR通路71による排気ガスの還流量を調整する高圧EGR弁73が配設されている。
低圧EGR通路81は、排気通路40における排気浄化装置41とサイレンサ42との間の部分(つまり、ターボ過給機61のタービン61bよりも下流側部分)と、吸気通路30におけるターボ過給機61のコンプレッサ61aとエアクリーナ31との間の部分(つまり、ターボ過給機61のコンプレッサ61aよりも上流側部分)とを接続している。低圧EGR通路81には、その内部を通過する排気ガスを冷却する低圧EGRクーラ82と、該低圧EGR通路81による排気ガスの還流量を調整する低圧EGR弁83とが配設されている。
圧縮着火式エンジンの制御装置は、エンジン1、ひいてはパワートレインPT全体を制御するためのPCM(Powertrain Control Module)100として構成されている。PCM100は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラーであって、プログラムを実行する中央演算処理装置(Central Processing Unit:CPU)と、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)により構成されてプログラム及びデータを格納するメモリと、電気信号の入出力をする入出力バスとを備えている。
PCM100には、図2及び図3に示すように、各種のセンサSW1〜SW11が接続されている。センサSW1〜SW11は、それぞれ、検知信号をPCM100に出力する。センサSW1〜SW11には、以下のセンサが含まれる。
すなわち、吸気通路30におけるエアクリーナ31の下流に配置されかつ、吸気通路30を流れる新気の流量を検知するエアフローセンサSW2、及び、その新気の温度を検知する吸気温度センサSW3、インタークーラ35の下流側に配置されかつ、インタークーラ35を通過したガスの圧力を検知する吸気圧センサSW5、サージタンク34に取り付けられかつ、気筒11a内に供給されるガスの温度を検知する吸入ガス温度センサSW4、エンジン1に取り付けられかつ、エンジン冷却水の温度(以下、「冷却水温」という)を検知する水温センサSW8、及び、クランクシャフト15の回転角を検知するクランク角センサSW1、排気通路40における高圧EGR通路71との接続部付近に設けられかつ、燃焼室14aから排出した排気ガスの圧力を検知する排気圧センサSW6、DPF41bを通過する前後の排気ガスの差圧を検知するDPF差圧センサSW11、DPF41bを通過した後の排気ガスの温度を検知する排気温度センサSW7、アクセルペダルの踏込量に対応したアクセル開度を検知するアクセル開度センサSW9、並びに、変速機2の出力軸の回転速度を検出する車速センサSW10である。
PCM100は、これらの検知信号に基づいて、エンジン1の運転状態や車両Vの走行状態を判断すると共に、これに応じて、各アクチュエータの制御量を計算する。PCM100は、計算をした制御量に係る制御信号を、インジェクタ18、吸気シャッター弁36、電動ウォータポンプ37、排気シャッター弁43、高圧燃料ポンプ54、VGT絞り弁62、高圧EGR弁73、低圧EGR弁83、スタータモータ91等に出力する。
ここで、PCM100の機能のうち、特に、エンジン1の始動制御に関する機能について詳細に説明する。図5は、PCM100の構成を例示する図である。図5に示すように、PCM100は、エンジン1の始動制御に関する機能的要素として、エンジン回転数を所定のアイドル回転数Riまで上昇させるエンジン始動部101と、エンジン回転数を取得する回転数取得部102、エンジン冷却水の水温を取得する冷却水温取得部103と、その水温に基づき燃焼室14aの中の温度(以下、「筒内温度」という)を取得する筒内温度取得部104と、エンジン回転数、及び、筒内温度に基づき、インジェクタ6による燃料噴射量を設定する噴射量設定部105を備えている。
エンジン始動部101は、クランキングを行うと共に、クランキングが完了した後には、エンジン回転数をアイドル回転数Riまで上昇させるものである。具体的に、エンジン始動部101は、エンジン1を始動するときに、スタータモータ91に対し制御信号を入力する。エンジン始動部101から制御信号が入力されると、スタータモータ91がクランクシャフト15を回転駆動する。この回転により、エンジン1のクランキングが開始される。クランキングを行った結果、エンジン回転数が所定の回転数まで上昇すると、エンジン始動部101は、クランキングを完了してエンジン1の始動運転を行う。エンジン1の始動運転を行った結果、エンジン回転数がアイドル回転数Riまで高まると、エンジン始動部101は、エンジン1の始動運転を完了する。
回転数取得部102は、クランク角センサSW1の検知信号に基づいて、エンジン回転数を検出または推定すると共に、その検出値または推定値に対応する信号を噴射量設定部105に出力するものである。
具体的に、回転数取得部102は、エンジン1がアイドル運転を行うとき、及び、通常運転を行うとき(車両Vが走行するとき)には、例えばnを正の整数とすると、(n+1)サイクル目の燃料噴射を行う前に、それより前のサイクルでの燃焼(つまり、nサイクル目以前の燃焼)によって到達し得るエンジン回転数を取得すると共に、そのエンジン回転数に対応する信号を生成し、噴射量設定部105に出力する。
尚、以下の記載において、「サイクル」とは、燃焼室14aの中で燃料が燃焼したときに限定されない。例えばクランキングによって、ピストン14が吸気行程、圧縮行程、膨張行程、及び、排気行程に対応する往復動を1セット行ったとき、1つのサイクルが行われたものとみなす。つまり、ここでいう「サイクル」には、燃料噴射量がゼロのときも含まれる。
さらに、以下の記載における「サイクル」は、気筒毎に別々に数え上げられるのではなく、全気筒にわたって数え上げられるものである。1つの気筒11aにつき、クランクシャフト15が720度回転する度に1サイクルが完了することを考慮すると、例えば、180度ずつオフセットされた4気筒エンジンの場合、クランクシャフト15が180度回転する度に、サイクルの回数が1回分ずつカウントアップされるようになっている。
図6〜7は、エンジン回転数の取得方法を説明する図である。図6において、4つの気筒11aを、気筒列方向の順に、1番気筒(#1)、2番気筒(#2)、3番気筒(#3)、及び、4番気筒(#4)と呼称する。すなわち、このエンジン1は、クランクシャフト15が720度回転する度に、#1→#3→#4→#2の順で燃焼が発生する。そして、図6に示すように、各気筒11aにおいて燃焼が生じるたびに、サイクルの回数が1回分ずつカウントアップされる。
回転数取得部102は、アイドル運転、及び、通常運転においては、図7に示すように、nサイクル目に燃焼する予定の気筒(例えば4番気筒)において、その気筒に係るクランク角が吸気行程の前半から、吸気下死点を経て、圧縮行程の前半まで進角したときの所要時間(図6のt1+t2+…+t6)に基づいて、エンジン回転数を取得する。ここで、ti(iは正の整数)は、図7に示すように、トリガープレート92が30度分回転するのに要する所要時間を示す。すなわち、図6〜7に示す例では、トリガープレート92が180度分回転するのに要する時間に基づき、エンジン回転数を取得する。このことは、通常の運転時においては、クランクシャフト15の回転速度が始動時よりも高くなることから、吸気行程における所要時間を考慮すると、圧縮行程のみを考慮した場合よりも、エンジン回転数の精度を確保する上で有効となるからである。
しかしながら、エンジン1の始動時においては、例えばアイドル運転時と比較すると、フライホールのイナ−シャの影響が大きくなる分、エンジン回転数の時間に対する変動量が相対的に大きくなる。そのため、前述のように、トリガープレート92が180度分回転するのに要する時間を用いたのでは、エンジン回転数の検出精度が低下してしまう。このことは、始動時において、nサイクル目の燃料噴射量を設定する前に、直前の(n−1)サイクル目の燃焼によって到達するエンジン回転数を取得するには不都合である。
そこで、回転数取得部102は、エンジン1がクランキングを開始した後、エンジン回転数が所定のアイドル回転数に至るまでの期間(以下、「始動期間」という)内においては、図6に示すように、圧縮行程の前半部において進角したときの所要時間(図6〜7のt1)に基づいて、エンジン回転数を取得する。圧縮行程の前半部は、燃料噴射を開始する直前であって、直前の燃焼によって生じた回転数の変動が収束するタイミングであるから、このタイミングにおける所要時間t1に基づいてエンジン回転数を取得すれば、その検出精度を確保する上で有利になる。
こうして、回転数取得部102は、始動期間内においては、(n+1)サイクル目の燃焼噴射を行う前に、直前のnサイクル目の燃焼によって到達するエンジン回転数(以下、「現エンジン回転数」という場合がある)を取得する。そして、回転数取得部102は、その現エンジン回転数に対応する信号を生成して、噴射量設定部105に出力する。
冷却水温取得部103は、水温センサSW8の検知信号に基づいて、エンジン冷却水の水温を検出すると共に、その検出値に対応する信号を筒内温度取得部104へ出力するものである。
筒内温度取得部104は、冷却水温取得部103による検出値に基づいて、筒内温度を検出または推定すると共に、その検出値または推定値に対応する信号を噴射量設定部105へ出力するものである。
噴射量設定部105は、前記の始動期間内において、回転数取得部102が検出または推定したエンジン回転数と、筒内温度取得部104が検出または推定した筒内温度とに基づき、インジェクタ6による次サイクル以降の燃料噴射量を設定するものである。
ところで、前述の如く、パワートレインPTの共振回転数Rrは、アイドル回転数Riよりも小さい。そのため、始動期間内において、エンジン回転数が共振回転数Rr付近を通過する虞がある。その場合、エンジン1、ひいてはパワートレインPT全体の振動が懸念される。
そこで、本願発明者等は、噴射量設定部105が行う処理を通じて、エンジン回転数が共振回転数Rr付近に到達しないように構成すると共に、仮に、共振回転数付近Rrに到達した場合であっても、それに伴う振動が可及的速やかに解消されるような構成を見出した。
図4に、燃料噴射に係る制御のフローを示す。図4に示すように、PCM100は、各センサから取得した検知信号に基づいて、各種の情報を取得する(ステップS101)。例えば、PCM100は、エンジン回転数、アクセル開度、及び、冷却水温等を取得する。続いて、PCM100は、ステップS101において取得した情報に基づいて、燃焼室14aの中に噴射する燃料の目標量(以下、「燃料噴射量」という)を設定する(ステップS102)と共に、その噴射を実行するときの噴射パターン及び噴射タイミングを設定する(ステップS103)。そして、PCM100は、ステップS102〜S103の設定に対応した制御信号を生成し、インジェクタ6に入力する(ステップS104)。
以下、エンジン1の始動制御のうち、特に燃料噴射量の設定に係る処理について詳細に説明する。
(燃料噴射量の設定手順)
図8は、燃料噴射量の設定手順を示すフローチャートである。図8に示すフローは、図6のステップS102に係る処理の例示である。また、図9は、始動時における、エンジン回転数の変化と、燃料噴射量の変化とを例示するタイムチャートである。図10は、エンジン回転数に対する、トルクの変化を例示する図である。
図8は、燃料噴射量の設定手順を示すフローチャートである。図8に示すフローは、図6のステップS102に係る処理の例示である。また、図9は、始動時における、エンジン回転数の変化と、燃料噴射量の変化とを例示するタイムチャートである。図10は、エンジン回転数に対する、トルクの変化を例示する図である。
図8に示すフローにおいて、噴射量設定部105は、燃料噴射量を所定の最大噴射量Fm以下になるように設定する。最大噴射量Fmは、燃料の気化特性、具体的には、前述の筒内温度に応じて規定されており、筒内温度が低いときには、高いときよりも大きくなる。詳しくは、筒内温度が低くなるにつれて、燃焼室14aの中に噴射した燃料が気化し難くなる。そのため、燃料が気化し難くなった分、筒内温度が低いときには、高いときよりも、より多くの燃料を噴射することが許容される。このことが、最大噴射量Fmの筒内温度に対する特性を規定している。
図8に示すフローがスタートすると、ステップS201において、噴射量設定部105は、クランキングが完了したか否かを判定する。この判定は、エンジン回転数が図9〜10に例示したクランキング判定値Rc以上か否かに基づいて行われるようになっている。クランキング判定値Rcは、エンジン1の構成等に応じて予め規定されている。例えば、エンジン回転数がクランキング判定値Rcを下回っている場合には、クランキングが完了していないものとして、NOと判定する。NOと判定した場合にはステップS207へ進む。ステップS207において、噴射量設定部105は燃料噴射量をゼロに設定し、クランキングを続行する。
図9〜10に示す例では、1サイクル目から(n−2)サイクル目にかけてクランキングを行った結果、T1において、エンジン回転数がクランキング判定値Rc以上に至ったものとする。この場合、噴射量設定部105は、クランキングが完了したものとして、ステップS201においてYESと判定する。YESと判定した場合、ステップS201からステップS202へ進み、クランキングからファイヤリングへ移行する。
ところで、PCM100には、エンジン回転数が共振回転数Rr付近に到達したか否かを示す指標として、共振回転数Rrを含んだ領域(以下、「共振領域」という)Brが記憶されている。噴射量設定部105は、エンジン回転数が共振領域Br内に至ったときに、エンジン回転数が共振回転数Rr付近に到達したと判断するよう構成されている。尚、共振領域Brは、「共振回転数域」の例示である。
尚、共振領域Brの下限値R1と上限値R2は、双方とも、エンジン1、ひいてはパワートレインPTが振動したときの加速度が所定の範囲に納まるような閾値として規定されている。下限値R1は、前述のクランキング判定値Rcよりも大きい。上限値は、アイドル回転数Riよりも小さい。つまり、本実施形態に係る共振領域Brは、クランキング判定値Rcよりも高回転側に設定されかつ、アイドル回転数Riよりも低回転側に設定された回転数域を示す。
ステップS202において、噴射量設定部105は、エンジン回転数が所定の踏切判定値R0以上か否かを判定する。踏切判定値R0は予め規定されている。踏切判定値R0は、クランキング判定値Rcより大きくかつ、共振領域Brの下限値R1よりも小さい。尚、踏切判定値R0は、「基準回転数」の例示である。
ステップS202においてYESと判定した場合には、ステップS203へ進む。一方、NOと判定した場合にはステップS208へ進む。後者の場合、噴射量設定部105は、燃料噴射量を所定の踏出噴射量F1に設定してリターンする。詳細は省略するが、この踏出噴射量F1は、当該噴射量F1に基づく燃料噴射を行ったとき、その燃料噴射に係る燃焼によって到達するエンジン回転数が踏切判定値R0以上かつ、共振領域Brの下限値R1未満になるように設定されるものである。踏出噴射量F1は、前述の最大噴射量Fmよりも少量である(踏出噴射量<最大噴射量)。
図9〜10に示す例では、T1におけるエンジン回転数は、踏切判定値R0よりも小さい。そこで、噴射量設定部105はステップS208へ進み、(n−1)サイクル目の燃料噴射量を前記の踏出噴射量F1に設定する。この場合、(n−1)サイクル目(1着火目)の燃焼によって到達するエンジン回転数は、図9〜10のT2に示すように、基準回転数としての踏切判定値R0よりも大きくかつ、共振領域Brの下限値R1よりも小さい。そこで、噴射量設定部105は、nサイクル目(2着火目)の燃料噴射量を設定するときにはステップS203へ進む。
ステップS203において、噴射量設定部105は、エンジン回転数が共振領域Brの下限値R1以上か否かを判定する。YESと判定した場合にはステップS204へ進む一方、NOと判定した場合にはステップS209へ進む。後者の場合、噴射量設定部105は、燃料噴射量を所定の飛越噴射量F2に設定してリターンする。飛越噴射量F2は、「第1噴射量」の例示である。
本実施形態に係る飛越噴射量F2は、前述の最大噴射量Fmに一致する(飛越噴射量=最大噴射量)。よって、飛越噴射量F2は、前述の踏出噴射量F1よりも大きい(飛越噴射量>踏出噴射量)。燃料噴射量を飛越噴射量F2に設定すると、例えば踏出噴射量F1に設定したときと比較すると、燃料噴射量が多い分だけ、エンジン回転数が大きく増加するようになる。
図9〜10に示す例では、T2におけるエンジン回転数は、前述の如く、踏切判定値R0以上となりかつ、共振領域Brの下限値R1を下回っている。このとき、噴射量設定部105は、nサイクル目の燃料噴射量を飛越噴射量F2に設定する。その設定に基づく燃料噴射を実行し、噴射した燃料が燃焼すると、エンジン回転数は、(n−1)サイクル目の燃焼よりも大きく増加する。このことは、例えば図10のT2とT3を結んだ実線に示すように、エンジン回転数が、1サイクル分の燃焼によって、共振領域Brの下限値R1よりも小さな値から上限値R2よりも大きな値まで増加させる(以下、「共振領域Brの飛び越し」という)上で有効である。
しかしながら、T2とT3’を結んだ破線に示すように、飛越噴射量F2として最大噴射量Fmに設定した場合であっても、共振領域Brの飛び越しに成功するとは限らない。例えば、筒内温度に応じて最大噴射量Fmは増減する。また、最大噴射量Fmに基づく燃料噴射を実行したときに到達するエンジン回転数が、吸気温度に応じて増減したり(例えば吸気温度が高いときには、空気密度が相対的に低くなるので、筒内の酸素量が不足する場合がある。この場合、同じ燃料噴射量であっても得られるトルクが相対的に低くなるため、エンジン回転数が十分に上昇せず、ひいては、共振領域Brの飛び越しに失敗する虞がある。)、外部の環境に応じて共振領域Brの範囲が変わったりする。具体的に、外気温度が低くなると、エンジンマウント204に係る弾性特性が変化して、パワートレインPTが振動したときの加速度、ひいては共振領域Brの下限値R1と上限値R2とが変化する。こうした事情に起因して、nサイクル目の燃焼によって到達するエンジン回転数が、共振領域Br内に至る場合がある。
本実施形態に係る噴射量設定部105は、エンジン回転数が共振領域Br内に至った場合には、そのことに起因した振動を速やかに解消するための処理を実行する。
具体的に、ステップS204において、噴射量設定部105は、エンジン回転数が共振領域Brの上限値R2以上か否かを判定する。YESと判定した場合、つまり共振領域Brの飛び越しに成功した場合にはステップS205へ進む一方、NOと判定した場合、つまり共振領域Brの飛び越しに失敗した場合にはステップS210へ進む。後者の場合、噴射量設定部105は、燃料噴射量を飛越噴射量F2に設定してリターンする。前述の如く、飛越噴射量F2は、最大噴射量Fmに一致している。
燃料噴射量を飛越噴射量F2に設定することによって、前述のステップS209に係る処理と同様に、エンジン回転数が大きく増加するようになる。
図9〜10に示す例では、前述の如く、T3’においてエンジン回転数が共振領域Br内に至っており、飛び越しに失敗している。このとき、噴射量設定部105は、(n+1)サイクル目(3着火目)の燃料噴射量を、飛越噴射量F2に再設定する。その設定に基づく燃料噴射を実行し、噴射した燃料が燃焼すると、エンジン回転数は、nサイクル目の燃焼と同様に大きく増加する。このことは、図10のT3’とT4を結んだ破線のように、エンジン回転数を、共振領域Br内から共振領域Brの上限値R2以上の値まで増加させる(以下、「共振領域Brからの脱出」という)上で有利となる。
尚、飛越噴射量F2は、最大噴射量Fmに一致していなくてもよい。飛越噴射量F2は、少なくとも、エンジン回転数が共振領域Brの上限値R2以上のときに設定される燃料噴射量よりも多く設定されていればよい。具体的に、共振領域Brの飛び越しに成功した次のサイクルに対して設定する燃料噴射量よりも多くしたり、共振領域Brから脱出した次のサイクルに対して設定する燃料噴射量よりも多くしたりすればよい。
ところで、共振領域Brの飛び越しに成功した場合であっても、共振領域Brを通過した直後(特に、エンジン回転数が前記の上限値R2に近いとき)には、トルク変動によって共振が誘発される虞がある。
本実施形態に係る噴射量設定部105は、共振領域Brの飛び越しに成功した場合には、共振領域Brを通過した後に、共振の誘発を抑制するための処理を実行する。
具体的に、ステップS205において、噴射量設定部105は、エンジン回転数がアイドル回転数Ri以上か否かを判定する。NOと判定した場合にはステップS211へ進む一方、YESと判定した場合にはステップS206へ進んでアイドル運転を開始する。後者の場合、噴射量設定部105は、燃料噴射量をアイドル運転に対応した量Fiに設定してリターンする。
ステップS205においてNOと判定した場合、つまり、つまり共振領域Brの飛び越しに成功したり、共振領域Brからの脱出に成功したりしたものの、アイドル状態には未達の場合、噴射量設定部105は、次サイクル目以降の燃料噴射量を所定の誘発抑制量F3に設定してリターンする。誘発抑制量F3は、少なくとも、共振領域Brを飛び越そうとしたときに設定した飛越噴射量F2よりも少ない(誘発抑制量<飛越噴射量)。誘発抑制量F3を少なくした分、トルク変動が小さくなるから、そのことで、共振の誘発を抑制する上で有利になる。
詳しくは、噴射量設定部105は、共振領域Brを通過した以降のサイクル(具体的には、共振領域Brを飛び越した以降のサイクル、又は、共振領域Brから脱出した以降のサイクル)において到達したエンジン回転数(図10のT3、T4を参照)と、共振領域Brの上限値R2との差分ΔRを算出すると共に、該差分ΔRが小さいときには、大きいときよりも誘発抑制量F3を少なく設定する。
つまり、誘発抑制量F3の設定は、共振領域Brを飛び越した直後のサイクル、又は、共振領域Brから脱出した直後のサイクルに限らず、エンジン回転数がアイドル状態に至るまで行われるようになっている。
図11は、共振領域Brを通過した以降の燃料噴射量(つまり誘発抑制量F3)を例示する図である。図11に示すように、差分ΔRがゼロから所定の誘発判定値Rtまで大きくなるときには、差分ΔRが大きくなるに従って誘発抑制量F3は増加して、最大噴射量Fmに至る。誘発抑制量F3が増加すると、その誘発抑制量F3に基づく燃焼によって生じるトルクもまた、図11の直線Lに沿って増加する。この直線Lは、パワートレインPTの振動特性に基づき規定されており、エンジン1の運転に伴い生じたトルクがこの直線Lを越えたときに、パワートレインPTの振動に係る加速度が許容範囲を超えるものと定められている。図11に示す特性にしたがって燃料噴射量を設定すれば、エンジン1から出力されるトルクは、直線Lに沿った値となるため、加速度を許容範囲に収めることが可能となる。
一方で、差分ΔRが誘発判定値Rtよりも大きくなると、誘発抑制量F3は、最大噴射量Fmのまま一定となる。
図9〜10に示す例では、nサイクル目の燃焼によって共振領域Brの飛び越しに成功した場合(図9〜10のT3を参照)、噴射量設定部105は、そのエンジン回転数と、共振領域Brの上限値R2との差分ΔRを算出すると共に、算出した差分ΔRに基づいて、(n+1)サイクル目(3着火目)の燃料噴射量として、飛越噴射量F2よりも少ない誘発抑制量F3に設定する。その設定に基づく燃料噴射を実行し、噴射した燃料が燃焼すると、エンジン回転数は、誘発抑制量F3を少なくした分、nサイクル目の燃焼よりも小さく増加する。その結果、図9〜10に示す例では、T3とT4を結ぶ実線に示すように、(n+1)サイクル目の燃焼によって到達するエンジン回転数は、アイドル回転数Riを依然として下回っている(図9〜10のT4を参照)。この場合、噴射量設定部105は、その時点におけるエンジン回転数に基づく差分ΔRを算出すると共に、その差分ΔRに基づいて(n+2)サイクル目(4着火目)の燃料噴射量(誘発抑制量F3)を設定する。(n+2)サイクル目の誘発抑制量F3は、エンジン回転数が増加した分、(n+1)サイクル目よりも多く設定される。
その一方で、nサイクル目の燃焼によって、共振領域Brの飛び越しに失敗した場合(図9〜10のT3’を参照)、前述の如く、噴射量設定部105は、(n+1)サイクル目の燃料噴射量を飛越噴射量F2に設定する。そして、噴射量設定部105は、その次の(n+2)サイクル目(4着火目)の燃料噴射量を、飛越噴射量F2よりも少ない誘発抑制量F3に設定する。つまり、共振領域Brの飛び越しに失敗した場合には、共振領域Brから脱出した以降のサイクルにおいて、誘発抑制量F3に基づく燃料噴射が実行されるようになっている。
(まとめ)
以上説明したように、噴射量設定部105は、nサイクル目の燃焼によって到達するエンジン回転数(現エンジン回転数)が、アイドル回転数Riよりも低回転側に設定された共振領域Br内に至ったときには、その共振領域Brの上限値R2以上のときにおける燃料噴射量よりも、(n+1)サイクル目の燃料噴射量を多く設定する。
以上説明したように、噴射量設定部105は、nサイクル目の燃焼によって到達するエンジン回転数(現エンジン回転数)が、アイドル回転数Riよりも低回転側に設定された共振領域Br内に至ったときには、その共振領域Brの上限値R2以上のときにおける燃料噴射量よりも、(n+1)サイクル目の燃料噴射量を多く設定する。
この構成によれば、
前記の構成によれば、(n+1)サイクル目の燃料噴射量を設定するときには、その直前のnサイクル目の燃焼によって到達するエンジン回転数である現エンジン回転数を考慮する。
前記の構成によれば、(n+1)サイクル目の燃料噴射量を設定するときには、その直前のnサイクル目の燃焼によって到達するエンジン回転数である現エンジン回転数を考慮する。
具体的に、現エンジン回転数が共振領域Br内に至ったときには、現エンジン回転数が共振領域Brの上限値R2以上のときよりも、(n+1)サイクル目の燃料噴射量を多く設定する。燃料噴射量を多くした分、共振領域Brを素早く通過することが可能になる。
また、前記の構成を換言すれば、燃料噴射量を多めに設定したままアイドル回転数Riまで立ち上げるのではなく、現エンジン回転数が共振領域Brの上限値R2以上のときには、共振領域Br内に至ったときよりも、燃料噴射量を少なく設定することになる。燃料噴射量を少なくした分、トルク変動を低減し、ひいてはトルク変動に起因した強制振動を抑制することが可能になる。このことは、燃焼騒音を抑制する上でも有効である。
このように、共振領域Brを素早く通過すると共に、トルク変動に起因した車両の振動、及び、燃焼騒音を抑制することができる。
また、噴射量設定部105は、現エンジン回転数が共振領域Br内に至ったときには、燃料噴射量を、燃焼室14aの中の温度に応じて規定された最大噴射量Fmに設定する。
この構成によれば、例えば燃料噴射量を最大噴射量Fm未満に設定したときと比べると、燃料噴射量を多くした分だけ共振領域Brを素早く通過する上で有利になる。
また、筒内温度取得部104は、冷却水温取得部103による検出値に基づいて、筒内温度を検出または推定する。
また、噴射量設定部105は、現エンジン回転数が共振領域Br内に至ったときには、燃料噴射量を、エンジン1がアイドル運転を行うときよりも多くなるように設定する。
この構成によれば、燃料噴射量を多くした分だけ、共振領域Brを素早く通過する上で有利になる。
《その他の実施形態》
前記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
前記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
前記エンジン1の構成は一例に過ぎず、これに限定されるものではない。例えば、前記実施形態では、エンジン1はターボ過給機61を備えていたが、ターボ過給機61を備えていなくてもよい。
1 エンジン(圧縮着火式エンジン)
14a 燃焼室
15 クランクシャフト
6 インジェクタ(燃料噴射弁)
91 スタータモータ
100 PCM(制御装置)
101 エンジン始動部
102 回転数取得部
103 冷却水温取得部
104 筒内温度取得部
105 噴射量設定部
Ri アイドル回転数
Rr 共振回転数
Br 共振領域(共振回転数域)
R2 共振領域の上限値(共振回転数域の上限値)
Fm 最大噴射量(制限値)
14a 燃焼室
15 クランクシャフト
6 インジェクタ(燃料噴射弁)
91 スタータモータ
100 PCM(制御装置)
101 エンジン始動部
102 回転数取得部
103 冷却水温取得部
104 筒内温度取得部
105 噴射量設定部
Ri アイドル回転数
Rr 共振回転数
Br 共振領域(共振回転数域)
R2 共振領域の上限値(共振回転数域の上限値)
Fm 最大噴射量(制限値)
Claims (8)
- 燃焼室の中に燃料を供給する燃料噴射弁を備えた圧縮着火式エンジンの制御方法であって、
エンジン回転数を所定のアイドル回転数まで上昇させるエンジン始動工程と、
nを正の整数としたときに、nサイクル目の燃焼によって到達するエンジン回転数である現エンジン回転数を検出または推定する回転数取得工程と、
前記エンジン回転数が前記アイドル回転数に至るまでの期間内において、前記現エンジン回転数に基づいて、前記燃料噴射弁による(n+1)サイクル目の燃料噴射量を設定する噴射量設定工程と、を備え、
前記噴射量設定工程は、前記現エンジン回転数が、前記アイドル回転数よりも低回転側に設定された共振回転数域内に至ったときには、該共振回転数域の上限値以上のときにおける前記燃料噴射量よりも、前記燃料噴射量を多く設定する圧縮着火式エンジンの制御方法。 - 請求項1に記載の圧縮着火式エンジンの制御方法において、
前記燃焼室の中の温度を検出または推定する筒内温度取得工程を備え、
前記噴射量設定工程は、前記現エンジン回転数が前記共振回転数域内に至ったときには、前記燃料噴射量を、前記燃焼室の中の温度に応じて規定された制限値に設定する圧縮着火式エンジンの制御方法。 - 請求項2に記載の圧縮着火式エンジンの制御方法において、
エンジン冷却水の温度を検出する冷却水温取得工程を備え、
前記筒内温度取得工程は、前記冷却水温取得工程による検出値に基づいて、前記燃焼室の中の温度を検出または推定する圧縮着火式エンジンの制御方法。 - 請求項1〜3のいずれか1項に記載の圧縮着火式エンジンの制御方法において、
前記噴射量設定工程は、前記現エンジン回転数が前記共振回転数域内に至ったときには、前記燃料噴射量を、前記圧縮着火式エンジンがアイドル運転を行うときよりも多くなるように設定する圧縮着火式エンジンの制御方法。 - 燃焼室の中に燃料を供給する燃料噴射弁を備えた圧縮着火式エンジンの制御装置であって、
エンジン回転数を所定のアイドル回転数まで上昇させるエンジン始動部と、
nを正の整数としたときに、nサイクル目の燃焼によって到達するエンジン回転数である現エンジン回転数を検出または推定する回転数取得部と、
前記エンジン回転数が前記アイドル回転数に至るまでの期間内において、前記現エンジン回転数に基づいて、前記燃料噴射弁による(n+1)サイクル目の燃料噴射量を設定する噴射量設定部と、を備え、
前記噴射量設定部は、前記現エンジン回転数が、前記アイドル回転数よりも低回転側に設定された共振回転数域内に至ったときには、該共振回転数域の上限値以上のときにおける前記燃料噴射量よりも、前記燃料噴射量を多く設定する圧縮着火式エンジンの制御装置。 - 請求項5に記載の圧縮着火式エンジンの制御装置において、
前記燃焼室の中の温度を検出または推定する筒内温度取得部を備え、
前記噴射量設定部は、前記現エンジン回転数が前記共振回転数域内に至ったときには、前記燃料噴射量を、前記燃焼室の中の温度に応じて規定された制限値に設定する圧縮着火式エンジンの制御装置。 - 請求項6に記載の圧縮着火式エンジンの制御装置において、
エンジン冷却水の温度を検出する冷却水温取得部を備え、
前記筒内温度取得部は、前記冷却水温取得部による検出値に基づいて、前記燃焼室の中の温度を検出または推定する圧縮着火式エンジンの制御装置。 - 請求項5〜7のいずれか1項に記載の圧縮着火式エンジンの制御装置において、
前記噴射量設定部は、前記現エンジン回転数が前記共振回転数域内に至ったときには、前記燃料噴射量を、前記圧縮着火式エンジンがアイドル運転を行うときよりも多くなるように設定する圧縮着火式エンジンの制御装置。
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