本実施形態の計測装置によれば、後に具体的な数式を用いて詳述するように、試料に何らかの特殊な部材を接触させることなく、複数の照射位置に対応する複数の第1時間及び複数の第2時間に並びに試料の屈折率の仮想値に基づいて、試料の屈折率が適切に計測(つまり、算出)可能となる。特に、試料の屈折率が仮想値であると仮定した状況下で算出される仮想データ(つまり、試料の何らかの特性を示す仮想データ)に基づいて屈折率が計測されるため、第1及び第2時間の精度が相対的に悪化した場合においても、相応に高い精度で屈折率が計測可能となる。
この態様によれば、表面の仮想的な形状に関する仮想形状データと裏面の仮想的な形状に関する仮想形状データとの間の相関係数又は回帰係数に基づいて、屈折率が適切に計測される。
この態様によれば、試料の厚さが異なる複数の照射位置にテラヘルツ波が照射されることで、計測装置は、試料の屈折率を好適に計測する(つまり、算出する)ことができる。
尚、本実施形態の計測装置が採用する各種態様に対応して、本実施形態のコンピュータプログラムも、各種態様を採用してもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されていてもよい。
以上説明したように、本実施形態の計測装置は、取得手段と、第1算出手段と、第2算出手段とを備える。本実施形態の計測方法は、取得工程と、第1算出工程と、第2算出工程とを備える。本実施形態のコンピュータプログラムは、コンピュータに上述した本実施形態の計測方法を実行させる。従って、試料に何らかの特殊な部材を接触させない場合であっても、試料の屈折率が計測される。
以下、図面を参照しながら、計測装置、計測方法及びコンピュータプログラムの実施例について説明する。特に、以下では、計測装置、計測方法及びコンピュータプログラムの実施例が、テラヘルツ波THzを試料10に照射することで当該試料10の屈折率nを計測するテラヘルツ波計測装置100に適用された例を用いて説明を進める。但し、計測装置、計測方法及びコンピュータプログラムの実施例は、任意の電磁波を試料10に照射することで当該試料10の屈折率n(或いは、その他の特性)を計測する任意の計測装置に適用されてもよい。
(1)テラヘルツ波計測装置100の構成
初めに、図1を参照しながら、本実施例のテラヘルツ波計測装置100の構成について説明する。図1は、本実施例のテラヘルツ波計測装置100の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、テラヘルツ波計測装置100は、テラヘルツ波THzを試料10に照射すると共に、試料10が反射したテラヘルツ波THz(つまり、試料10に照射されたテラヘルツ波THz)を検出する。
テラヘルツ波THzは、1テラヘルツ(1THz=1012Hz)前後の周波数領域(つまり、テラヘルツ領域)に属する電磁波成分を含む電磁波である。テラヘルツ領域は、光の直進性と電磁波の透過性を兼ね備えた周波数領域である。テラヘルツ領域は、様々な物質が固有の吸収スペクトルを有する周波数領域である。従って、テラヘルツ波計測装置100は、試料10に照射されたテラヘルツ波THzを解析することで、試料10の特性を計測することができる。本実施例では、テラヘルツ波計測装置100は、試料10に照射されたテラヘルツ波THzを解析することで、試料10の特性の一例である試料10の屈折率nを計測することができる。
ここで、テラヘルツ波THzの周期は、サブピコ秒のオーダーの周期であるがゆえに、当該テラヘルツ波THzの波形を直接的に検出することが技術的に困難である。そこで、テラヘルツ波計測装置100は、時間遅延走査に基づくポンプ・プローブ法を採用することで、テラヘルツ波THzの波形を間接的に検出する。以下、このようなポンプ・プローブ法を採用するテラヘルツ波計測装置100についてより具体的に説明を進める。
図1に示すように、テラヘルツ波計測装置100は、パルスレーザ装置101と、「照射手段」の一具体例であるテラヘルツ波生成素子110と、ビームスプリッタ161と、反射鏡162と、反射鏡163と、ハーフミラー164と、光学遅延機構120と、「検出手段」の一具体例であるテラヘルツ波検出素子130と、バイアス電圧生成部141と、I−V(電流−電圧)変換部142と、制御部150と、ステージ170と、ディスプレイ181と、入力装置182とを備えている。
パルスレーザ装置101は、当該パルスレーザ装置101に入力される駆動電流に応じた光強度を有するサブピコ秒オーダー又はフェムト秒オーダーのパルスレーザ光LBを生成する。パルスレーザ装置101が生成したパルスレーザ光LBは、不図示の導光路(例えば、光ファイバ等)を介して、ビームスプリッタ161に入射する。
ビームスプリッタ161は、パルスレーザ光LBを、ポンプ光LB1とプローブ光LB2とに分岐する。ポンプ光LB1は、不図示の導光路を介して、テラヘルツ波生成素子110に入射する。一方で、プローブ光LB2は、不図示の導光路及び反射鏡162を介して、光学遅延機構120に入射する。その後、光学遅延機構120から出射したプローブ光LB2は、反射鏡163及び不図示の導光路を介して、テラヘルツ波検出素子130に入射する。
テラヘルツ波生成素子110は、テラヘルツ波THzを出射する。具体的には、テラヘルツ波生成素子110は、ギャップを介して互いに対向する一対の電極層を備えている。ギャップには、一対の電極層を介して、バイアス電圧生成部141が生成したバイアス電圧が印加されている。有効なバイアス電圧(例えば、0Vでないバイアス電圧)がギャップに印加されている状態でポンプ光LB1がギャップに照射されると、ギャップの下側に形成されている光伝導層にもまたポンプ光LB1が照射される。この場合、ポンプ光LB1が照射された光伝導層には、ポンプ光LB1による光励起によってキャリアが発生する。その結果、テラヘルツ波生成素子110には、発生したキャリアに応じたサブピコ秒オーダーの又はフェムト秒オーダーのパルス状の電流信号が発生する。発生した電流信号は、一対の電極層に流れる。その結果、テラヘルツ波生成素子110は、当該パルス状の電流信号に起因したテラヘルツ波THzを出射する。
テラヘルツ波生成素子110から出射したテラヘルツ波THzは、ハーフミラー164を透過する。その結果、ハーフミラー164を透過したテラヘルツ波THzは、試料10(特に、試料10の表面10a)に照射される。試料10に照射されたテラヘルツ波THzは、試料10によって(特に、試料の表面10a及び裏面10bの夫々によって)反射される。試料10によって反射されたテラヘルツ波THzは、ハーフミラー164によって反射される。ハーフミラー164によって反射されたテラヘルツ波THzは、テラヘルツ波検出素子130に入射する。
テラヘルツ波検出素子130は、テラヘルツ波検出素子130に入射するテラヘルツ波THzを検出する。具体的には、テラヘルツ波検出素子130は、ギャップを介して互いに対向する一対の電極層を備えている。ギャップにプローブ光LB2が照射されると、ギャップの下側に形成されている光伝導層にもまたプローブ光LB2が照射される。この場合、プローブ光LB2が照射された光伝導層には、プローブ光LB2による光励起によってキャリアが発生する。その結果、キャリアに応じた電流信号が、テラヘルツ波検出素子130が備える一対の電極層に流れる。プローブ光LB2がギャップに照射されている状態でテラヘルツ波検出素子130にテラヘルツ波THzが照射されると、一対の電極層に流れる電流信号の信号強度は、テラヘルツ波THzの光強度に応じて変化する。テラヘルツ波THzの光強度に応じて信号強度が変化する電流信号は、一対の電極層を介して、I−V変換部142に出力される。
光学遅延機構120は、ポンプ光LB1の光路長とプローブ光LB2の光路長との間の差分(つまり、光路長差)を調整する。具体的には、光学遅延機構120は、プローブ光LB2の光路長を調整することで、光路長差を調整する。光路長差が調整されると、ポンプ光LB1がテラヘルツ波生成素子110に入射するタイミング(或いは、テラヘルツ波生成素子110がテラヘルツ波THzを出射するタイミング)と、プローブ光LB2がテラヘルツ波検出素子130に入射するタイミング(或いは、テラヘルツ波検出素子130がテラヘルツ波THzを検出するタイミング)との時間差が調整される。テラヘルツ波計測装置100は、この時間差を調整することで、テラヘルツ波THzの波形を間接的に検出する。例えば、光学遅延機構120によってプローブ光LB2の光路が0.3ミリメートル(但し、空気中での光路長)だけ長くなると、プローブ光LB2がテラヘルツ波検出素子130に入射するタイミングが1ピコ秒だけ遅くなる。この場合、テラヘルツ波検出素子130がテラヘルツ波THzを検出するタイミングが、1ピコ秒だけ遅くなる。テラヘルツ波検出素子130に対して同一の波形を有するテラヘルツ波THzが数十MHz程度の間隔で繰り返し入射することを考慮すれば、テラヘルツ波検出素子130がテラヘルツ波THzを検出するタイミングを徐々にずらすことで、テラヘルツ波検出素子130は、テラヘルツ波THzの波形を間接的に検出することができる。つまり、後述するロックイン検出部151は、テラヘルツ波検出素子130の検出結果に基づいて、テラヘルツ波THzの波形を検出することができる。
テラヘルツ波検出素子130から出力される電流信号は、I−V変換部142によって、電圧信号に変換される。
制御部150は、テラヘルツ波計測装置100の全体の動作を制御するための制御動作を行う。制御部150は、CPU(Central Processing Unit))と、メモリとを備える。メモリには、制御部150に制御動作を行わせるためのコンピュータプログラムが記録されている。当該コンピュータプログラムがCPUによって実行されることで、CPUの内部には、制御動作を行うための論理的な処理ブロックが形成される。但し、メモリにコンピュータプログラムが記録されていなくてもよい。この場合、CPUは、ネットワークを介してダウンロードしたコンピュータプログラムを実行してもよい。
制御部150は、制御動作の一例として、テラヘルツ波検出素子130の検出結果(つまり、I−V変換部142が出力する電圧信号)に基づいて、試料10の特性を計測する計測動作を行う。計測動作を行うために、制御部150は、CPUの内部に形成される論理的な処理ブロックとして、ロックイン検出部151と、信号処理部152とを備えている。
ロックイン検出部151は、I−V変換部142から出力される電圧信号に対して、バイアス電圧生成部141が生成するバイアス電圧を参照信号とする同期検波を行う。その結果、ロックイン検出部151は、テラヘルツ波THzのサンプル値を検出する。その後、ポンプ光LB1の光路長とプローブ光LB2の光路長との間の差分(つまり、光路長差)を適宜調整しながら同様の動作が繰り返されることで、ロックイン検出部151は、テラヘルツ波検出素子130が検出したテラヘルツ波THzの波形(時間波形)を検出することができる。ロックイン検出部151は、テラヘルツ波検出素子130が検出したテラヘルツ波THzの波形を示す波形信号を、信号処理部152に対して出力する。つまり、ロックイン検出部151は、I−V変換部142から出力される電圧信号(つまり、テラヘルツ波THzの検出信号)から参照信号とは異なる周波数のノイズ成分を除去する。即ち、ロックイン検出部151は、検出信号と参照信号とを用いて同期検波をすることによって、波形信号を相対的に高い感度で且つ相対的に高精度に検波する。尚、テラヘルツ波計測装置100がロックイン検出を用いない場合は、テラヘルツ波生成素子110には、バイアス電圧として直流電圧が印加されればよい。
信号処理部152は、制御動作の一例として、ロックイン検出部151から出力される波形信号に基づいて、試料10の特性を計測する計測動作を行う。例えば、信号処理部152は、テラヘルツ時間領域分光法を用いてテラヘルツ波THzの周波数スペクトルを取得すると共に、当該周波数スペクトルに基づいて試料10の特性を計測する計測動作を行う。
本実施例では特に、信号処理部152は、ロックイン検出部151から出力される波形信号に基づいて、試料10の特性の一具体例である試料10の屈折率nを計測する計測動作を行う。更に、信号処理部152は、ロックイン検出部151から出力される波形信号に基づいて、試料10の特性の一具体例である試料10の厚さd(つまり、試料10に対してテラヘルツ波THzが入射する方向に沿った厚さd)を計測する計測動作を行う。尚、ここでいう厚さdは、「表面10aと裏面10bとの間の物理的な距離」を意味する。計測動作を行うために、信号処理部152は、CPUの内部に形成される論理的な処理ブロックとして、検出時間取得部1521と、屈折率算出部1522と、厚さ算出部1523とを備える。尚、検出時間取得部1521、屈折率算出部1522、厚さ算出部1523の動作の具体例については、後に詳述するためここでの説明を省略する。
ステージ170は、試料10を保持する。図1に示す例では、ステージ170は、試料10の裏面10bがステージ170側を向くように、試料10を保持している。ステージ170は、試料10を保持したまま、所定の移動方向に沿って移動可能である。ステージ170が移動すると、テラヘルツ波THzの試料10上での照射位置が変わる。
ステージ170の移動は、制御部150によって制御される。具体的には、制御部150は、CPUの内部に形成される論理的な処理ブロックとして、照射位置変更部153を備える。照射位置変更部153は、テラヘルツ波THzの照射位置を調整する(例えば、所望位置に変更する)ように、ステージ170の移動を制御する。
尚、照射位置変更部153は、ステージ170を移動させることに加えて又は代えて、テラヘルツ波生成素子110及びテラヘルツ波検出素子130のうちの少なくとも一方を移動させることで、テラヘルツ波THzの照射位置を調整してもよい。
ディスプレイ181は、所望の画像を表示可能である。本実施例では特に、後に詳述するように、ディスプレイ181は、屈折率算出部1522の制御下で、試料10の屈折率nがある仮想値nvであると仮定した場合における試料10に関する仮想データを表示する。
入力装置182は、ユーザの操作を受け付ける。入力装置182は、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル、操作ボタン、操作ダイヤル及びその他任意の操作機器を含む。
(2)テラヘルツ波計測装置100が行う屈折率n及び厚さdを計測する計測動作
続いて、図2から図15を参照しながら、テラヘルツ波計測装置100が行う屈折率n及び厚さdを計測する計測動作について説明する。本実施例では、テラヘルツ波計測装置100は、屈折率n及び厚さdを計測する計測動作として、5種類の計測動作(第1計測動作から第5計測動作)のうちの少なくとも一つを行う。以下、第1計測動作から第5計測動作について順に説明する。
(2−1)屈折率n及び厚さdを計測する第1計測動作
はじめに、図2を参照しながら、テラヘルツ波計測装置100が行う屈折率n及び厚さdを計測する第1計測動作について説明する。図2は、テラヘルツ波計測装置100が行う屈折率n及び厚さdを計測する第1計測動作の流れの一例を示すフローチャートである。
図2に示すように、照射位置変更部153は、テラヘルツ波THzの照射位置が、試料10の表面10a上の第1位置P#1(1)になるように、ステージ170を制御する(ステップS101)。
その後、テラヘルツ波生成素子110は、テラヘルツ波THzを試料10の表面10aに向けて出射する(ステップS102)。つまり、テラヘルツ波生成素子110は、テラヘルツ波THzを、試料10の表面10a上の第1位置P#1(1)に照射する(ステップS102)。
試料10aに照射されたテラヘルツ波THzは、試料10によって反射される。ここで、図3を参照しながら、試料10によるテラヘルツ波THzの反射について説明する。図3は、試料10に照射されるテラヘルツ波THzの光路及び試料10によって反射されたテラヘルツ波THzの光路を示す試料10の断面図である。
図3に示すように、試料10に照射されたテラヘルツ波THzの一部は、試料10の表面10aによって反射される。表面10aによって反射されたテラヘルツ波THzは、試料10からテラヘルツ波検出素子130に伝搬していく。
一方で、試料10に照射されたテラヘルツ波THzの一部は、表面10aによって反射されることなく、試料10の内部を透過していく。その後、試料10の内部を透過したテラヘルツ波THzは、試料10の裏面10bに到達する。その結果、試料10の内部を透過したテラヘルツ波THzの一部は、試料10の裏面10bによって反射される。裏面10bによって反射されたテラヘルツ波THzは、再び試料10の内部を透過していく。その後、試料10の内部を透過したテラヘルツ波THzは、試料10の表面10aに到達する。その結果、裏面10bによって反射されたテラヘルツ波THzの一部は、試料10からテラヘルツ波検出素子130に伝搬していく。
尚、本実施例において、表面10a及び裏面10bは、試料10内でのテラヘルツ波THzの伝搬方向(図1及び図3で言えば、図面横方向)に沿って対向する試料10の2つの外面を意味する。この場合、表面10aは、2つの外面のうちテラヘルツ波生成素子110及びテラヘルツ波検出素子130に近い一方の外面に相当する。一方で、裏面10bは、2つの外面のうちテラヘルツ波生成素子110及びテラヘルツ波検出素子130から遠い他方の外面に相当する。
また、試料10の裏面10bによるテラヘルツ波THzの反射を促進するべく、試料10の裏面10bに接する又は密着するように反射部材が配置されていてもよい。
再び図2において、試料10によって反射されたテラヘルツ波THzは、テラヘルツ波検出素子130によって検出される(ステップS102)。その結果、テラヘルツ波検出素子130が検出したテラヘルツ波THzの波形を示す波形信号が、信号処理部152に入力される。
その後、検出時間取得部1521は、信号処理部152に入力された波形信号に基づいて、第1検出時間ta1及び第2検出時間tb1を取得する(ステップS103)。つまり、テラヘルツ波計測装置100は、第1位置P#1(1)に照射されたテラヘルツ波THzの検出結果に基づいて、第1検出時間ta1及び第2検出時間tb1を取得する。検出時間取得部1521は、テラヘルツ波THzを第1位置P#1(1)に照射した場合に取得された第1検出時間ta1及び第2検出時間tb1を、屈折率算出部1522に出力する。尚、第1検出時間ta1及び第2検出時間tb1は、夫々、「第1時間」及び「第2時間」の一具体例である。
ここで、図4を参照しながら、第1検出時間ta1及び第2検出時間tb1の取得動作について説明する。図4は、テラヘルツ波検出素子130が検出したテラヘルツ波THzの波形信号を示すグラフである。
図4に示すように、波形信号には、表面10aで反射されたテラヘルツ波THzに相当する波形信号及び裏面10bで反射されたテラヘルツ波THzに相当する波形信号が含まれている。裏面10bで反射されたテラヘルツ波THzが試料10の内部を透過した後にテラヘルツ波検出素子130に到達する一方で、表面10aで反射されたテラヘルツ波THzは試料の10の内部を透過することなくテラヘルツ波検出素子130に到達する。このため、裏面10bで反射されたテラヘルツ波THzは、表面10aで反射されたテラヘルツ波THzよりも時間的に遅れてテラヘルツ波検出素子130に到達する。従って、波形信号上でも、裏面10bで反射されたテラヘルツ波THzに相当する波形信号は、表面10aで反射されたテラヘルツ波THzに相当する波形信号よりも時間的に遅れている。
第1検出時間ta1は、テラヘルツ波生成素子110がテラヘルツ波THzの照射を開始してから試料10の表面10aで反射されたテラヘルツ波THzがテラヘルツ波検出素子130に到達するまでに要する時間である。一方で、第2検出時間tb1は、テラヘルツ波生成素子110がテラヘルツ波THzの照射を開始してから試料10の裏面10bで反射されたテラヘルツ波THzがテラヘルツ波検出素子130に到達するまでに要する時間である。検出時間取得部1521は、波形信号を解析することで、第1検出時間ta1及び第2検出時間tb1を容易に取得する(言い換えれば、算出する又は特定する)ことができる。
再び図2において、その後、テラヘルツ波計測装置100は、照射位置を変更した後に、上述した動作(つまり、第1検出時間ta2及び第2検出時間tb2を取得する動作)を再度行う。具体的には、照射位置変更部153は、テラヘルツ波THzの照射位置が、試料10の表面10a上の第2位置P#1(2)(但し、第2位置P#1(2)は、第1位置P#1(1)とは異なる)になるように、ステージ170を制御する(ステップS111)。その結果、ステージ170は、所定の移動方向に沿って所定の移動量だけ移動する。
ここで、図5を参照しながら、テラヘルツ波THzが照射される第1位置P#1(1)及び第2位置P#1(1)について説明する。図5は、第1位置P#1(1)に照射されるテラヘルツ波THzの光路及び第2位置P#1(2)に照射されるテラヘルツ波THzの光路を示す試料10の断面図である。
図5に示すように、第1計測動作では、第1位置P#1(1)及び第2位置P#1(2)は、第1位置P#1(1)にテラヘルツ波THzが照射されている状況下でのテラヘルツ波生成素子110と裏面10bとの間の距離L11と、第2位置P#1(2)にテラヘルツ波THzが照射されている状況下でのテラヘルツ波生成素子110と裏面10bとの間の距離L21とが同一であるという第1条件を満たす。更に、第1位置P#1(1)及び第2位置P#1(2)は、第1位置P#1(1)にテラヘルツ波THzが照射されている状況下でのテラヘルツ波検出素子130と裏面10bとの間の距離L13と、第2位置P#1(2)にテラヘルツ波THzが照射されている状況下でのテラヘルツ波検出素子130と裏面10bとの間の距離L23とが同一であるという第2条件を満たす。つまり、照射位置変更部153は、第1及び第2条件を満たすように、ステージ170を制御する。言い換えれば、照射位置変更部153は、第1及び第2条件を満たす第1位置P#1(1)及び第2位置P#1(2)の夫々にテラヘルツ波THzが照射されるように、ステージ170を制御する。
第1及び第2条件を満たすようにステージ170を制御するために、照射位置変更部153は、ステージ170の移動方向が試料10の裏面10bと平行になるように、ステージ170を制御する。言い換えれば、第1及び第2条件を満たすようにステージ170を制御するために、照射位置変更部153は、試料10の裏面10bに平行な方向に沿ってステージ170が移動するように、ステージ170を制御する。その結果、テラヘルツ波THzの照射位置が変更される場合であっても、テラヘルツ波生成素子110と裏面10bとの間の距離が変わることはない。同様に、テラヘルツ波THzの照射位置が変更される場合であっても、テラヘルツ波検出素子130と裏面10bとの間の距離が変わることはない。
尚、ここでいう「裏面10bに平行な方向に沿ってステージ170が移動する」状態とは、「第1位置P#1(1)にテラヘルツ波THzが照射されている状況下でのステージ170と、第2位置P#1(1)にテラヘルツ波THzが照射されている状況下でのステージ170とが、裏面10bに平行な方向に沿って並ぶように、ステージ170が移動する」状態を意味する。このような状態は、裏面10bに平行な第1方向のみに沿ってステージ170が移動することによって実現される。或いは、このような状態は、裏面10bに平行な第1方向及び裏面10bに交わる第2方向に沿ってステージ170が移動する場合であっても、第2方向に沿ったステージ170の移動量がトータルでゼロになる(つまり、相殺される)限りは、実現される。
尚、照射位置変更部153が、ステージ170を移動させることに加えて又は代えて、テラヘルツ波生成素子110及びテラヘルツ波検出素子130のうちの少なくとも一方を移動させることで、テラヘルツ波THzの照射位置を調整してもよいことは上述したとおりである。この場合においても、照射位置変更部153が、第1及び第2条件を満たすように、テラヘルツ波生成素子110及びテラヘルツ波検出素子130のうちの少なくとも一方を移動させる。
加えて、図5に示すように、第1動作例では、第1位置P#1(1)及び第2位置P#1(2)は、第1位置P#1(1)における試料10の厚さd1が、第2位置P#1(2)における試料10の厚さd2とは異なるという第3条件を満たす。つまり、照射位置変更部153は、第3条件を満たすように、ステージ170を制御する。言い換えれば、照射位置変更部153は、第3条件を満たす第1位置P#1(1)及び第2位置P#1(2)の夫々にテラヘルツ波THzが照射されるように、ステージ170を制御する。
第3条件が満たされるためには、試料10は、試料10の厚さdにばらつきがあるという条件を満たすことが好ましい。厚さdのばらつきは、試料10の表面10aに意図的に形成された凹凸(例えば、段差や、曲面等)に起因した厚さdのばらつきを含んでいてもよい。或いは、厚さdのばらつきは、仕上げ加工の精度に依存する試料10の表面10aの粗さに起因した厚さdのばらつきを含んでいてもよい。
尚、試料10の裏面10bが平面である場合には、第1位置P#1(1)及び第2位置P#1(2)が上述した第1及び第2条件を満たしやすくなる。このため、第1計測動作においては、試料10の裏面10bは平面であることが好ましい。
その後、テラヘルツ波生成素子110は、テラヘルツ波THzを、試料10の表面10a上の第2位置P#1(2)に照射する(ステップS112)。その後、テラヘルツ波検出素子130は、試料10によって反射されたテラヘルツ波THzを検出する(ステップS112)。その結果、テラヘルツ波検出素子130が検出したテラヘルツ波THzの波形を示す波形信号が、信号処理部152に入力される。その後、検出時間取得部1521は、信号処理部152に入力された波形信号に基づいて、第1検出時間ta2及び第2検出時間tb2を取得する(ステップS113)。つまり、テラヘルツ波計測装置100は、第2位置P#1(2)に照射されたテラヘルツ波THzの検出結果に基づいて、第1検出時間ta2及び第2検出時間tb2を取得する。検出時間取得部1521は、テラヘルツ波THzを第2位置P#1(2)に照射した場合に取得された第1検出時間ta2及び第2検出時間tb2を、屈折率算出部1522に出力する。尚、第1検出時間ta2及び第2検出時間tb2は、夫々、「第1時間」及び「第2時間」の一具体例である。
その後、屈折率算出部1522は、第1検出時間ta1及び第2検出時間tb1、並びに、第1検出時間ta2及び第2検出時間tb2に基づいて、試料10の屈折率nを算出する(ステップS121)。具体的には、屈折率算出部1522は、数式1を用いて、屈折率nを算出する。尚、数式1中のΔt1は、第1位置P#1(1)にテラヘルツ波THzを照射した場合において、テラヘルツ波THzが試料10の内部を透過するために要する時間に相当する。つまり、数式1中のΔt1は、第1位置P#1(2)にテラヘルツ波THzを照射した場合において、テラヘルツ波THzが試料10の表面10aから裏面10bを介して再度表面10aに到達するために要する時間に相当する。このため、Δt1は、Δt1=tb1−ta1という数式から算出可能である。数式1中のΔt2は、第2位置P#1(2)にテラヘルツ波THzを照射した場合において、テラヘルツ波THzが試料10の内部を透過するために要する時間に相当する。つまり、数式1中のΔt2は、第2位置P#1(2)にテラヘルツ波THzを照射した場合において、テラヘルツ波THzが試料10の表面10aから裏面10bを介して再度表面10aに到達するために要する時間に相当する。このため、Δt2は、Δt2=tb2−ta2という数式から算出可能である。
その後、厚さ算出部1523は、第1検出時間t
a1及び第2検出時間t
b1、第1検出時間t
a2及び第2検出時間t
b2、並びに、ステップS121で算出した屈折率nに基づいて、試料10の厚さdを算出する(ステップS122)。第1計測動作では、上述したように第1位置P#1(1)における試料10の厚さd1と第2位置P#1(2)における試料10の厚さd2とが異なる。従って、厚さ算出部1523は、厚さd1及びd2の夫々を算出する。具体的には、厚さ算出部1523は、d1=(c/n)×Δt
1/2という数式を用いて、厚さd1を算出する。厚さ算出部1523は、d2=(c/n)×Δt
2/2という数式を用いて、厚さd2を算出する。
以上説明したように、本実施例のテラヘルツ計測装置100は、第1計測動作を実行することで、試料10の屈折率nを好適に計測する(つまり、算出する)ことができる。特に、本実施例のテラヘルツ計測装置100は、試料10の厚さdが異なる複数の照射位置にテラヘルツ波THzを照射することで、試料10に何らかの特殊な部材を接触させることなく、屈折率nを好適に計測することができる。更に、本実施例のテラヘルツ計測装置100は、屈折率nを好適に計測することができるがゆえに、試料10の厚さdもまた好適に計測することができる。
ここで、屈折率nを計測することなく試料10の厚さdを計測する比較例のテラヘルツ波計測装置の一例として、単一の照射位置にテラヘルツ波THzを照射することで厚さdを計測するテラヘルツ波計測装置が想定される。この場合、比較例のテラヘルツ波計測装置は、第1検出時間ta及び第2検出時間tbを取得する。更に、比較例のテラヘルツ波計測装置は、厚さd=c×(tb−ta)/2という数式を用いて、試料10の厚さdを計測する。しかしながら、試料10の内部でのテラヘルツ波THzの速度c’は、屈折率nに応じて変動する。このため、比較例のテラヘルツ波計測装置によって計測される厚さdは、試料10の本来の厚さd=(c/n)×(tb−ta)/2よりも大きな値となってしまう。
このため、比較例のテラヘルツ波計測装置100は、本来の厚さdを計測するためには、屈折率nを計測する必要がある。しかしながら、特許文献1及び2に記載されているように、屈折率nの計測には手間がかかるのが一般的である。しかしながら、本実施例のテラヘルツ波計測装置100は、比較的容易に屈折率nを計測することができると言う大きな利点を有している。
(2−2)屈折率n及び厚さdを計測する第2計測動作
続いて、図6を参照しながら、テラヘルツ波計測装置100が行う屈折率n及び厚さdを計測する第2計測動作について説明する。図6は、テラヘルツ波計測装置100が行う屈折率n及び厚さdを計測する第2計測動作の流れの一例を示すフローチャートである。
上述した第1計測動作では、ステージ170は、試料10の裏面10bに平行な方向に沿って移動している。つまり、テラヘルツ波THzの照射位置が変更される場合であっても、テラヘルツ波生成素子110と裏面10bとの間の距離及びテラヘルツ波検出素子130と裏面10bとの間の距離が変わらない。しかしながら、ステージ170の移動条件や、試料10の状態(特に、裏面10bの状態)によっては、ステージ170は、試料10の裏面10bに平行な方向に沿って移動することができない場合もある。つまり、テラヘルツ波THzの照射位置が変更されると、テラヘルツ波生成素子110と裏面10bとの間の距離及びテラヘルツ波検出素子130と裏面10bとの間の距離のうちの少なくとも一方が変わってしまう場合もある。
この場合には、テラヘルツ波計測装置100は、第1計測動作を行ったとしても、屈折率nを計測することは困難である。このため、ステージ170が試料10の裏面10bに平行な方向に沿って移動することができない場合には、テラヘルツ波計測装置100は、第2計測動作を行うことで屈折率nを計測する。但し、第2計測動作は、裏面10bが平面である(言い換えれば、裏面10bに意図的に凹凸が形成されていない)試料10に対して行われる。
具体的には、図6に示すように、照射位置変更部153は、テラヘルツ波THzの照射位置が、試料10の表面10a上の第1位置P#2(1)になるように、ステージ170を制御する(ステップS201)。テラヘルツ波生成素子110は、テラヘルツ波THzを、第1位置P#2(1)に照射する(ステップS202)。その後、テラヘルツ波検出素子130は、試料10によって反射されたテラヘルツ波THzを検出する(ステップS202)。その結果、テラヘルツ波検出素子130が検出したテラヘルツ波THzの波形を示す波形信号が、信号処理部152に入力される。その後、検出時間取得部1521は、信号処理部152に入力された波形信号に基づいて、第1検出時間ta1及び第2検出時間tb1を取得する(ステップS203)。尚、ステップS201、ステップS202及びステップS203の動作は、特段の説明がない場合には、夫々、第1計測動作のステップS101、ステップS102及びステップS103の動作と同一であってもよい。
その後、照射位置変更部153は、試料10の表面10a上の第2位置P#2(2)(但し、第2位置P#2(2)は、第1位置P#2(1)とは異なる)になるように、ステージ170を制御する(ステップS211)。その結果、ステージ170は、照射位置を第1位置P#2(1)から第2位置P#2(2)に変更するために、所定の第1移動量P1だけ所定の移動方向に沿って移動する。
但し、第2計測動作は、主としてステージ170が試料10の裏面10bに平行な方向に沿って移動することができない場合に行われる動作である。このため、照射位置変更部153は、照射位置を第2位置P#2(2)に変更する際には、上述した第1及び第2条件を満たすように、ステージ170を制御しなくてもよい。
その後、テラヘルツ波生成素子110は、テラヘルツ波THzを、第2位置P#2(2)に照射する(ステップS212)。その後、テラヘルツ波検出素子130は、試料10によって反射されたテラヘルツ波THzを検出する(ステップS212)。その結果、テラヘルツ波検出素子130が検出したテラヘルツ波THzの波形を示す波形信号が、信号処理部152に入力される。その後、検出時間取得部1521は、信号処理部152に入力された波形信号に基づいて、第1検出時間ta2及び第2検出時間tb2を取得する(ステップS213)。尚、ステップS211、ステップS212及びステップS213の動作は、特段の説明がない場合には、夫々、第1計測動作のステップS101、ステップS102及びステップS103の動作と同一であってもよい。
その後、照射位置変更部153は、試料10の表面10a上の第3位置P#2(3)(但し、第3位置P#2(3)は、第1位置P#2(1)及び第2位置P#2(2)とは異なる)になるように、ステージ170を制御する(ステップS221)。その結果、ステージ170は、照射位置を第2位置P#2(2)から第3位置P#2(3)に変更するために、所定の第2移動量P2だけ所定の移動方向に沿って移動する。
第2計測動作では特に、照射位置変更部153は、照射位置を第2位置P#2(2)から第3位置P#2(3)に変更する場合のステージ170の移動方向が、照射位置を第1位置P#2(1)から第2位置P#2(2)に変更する場合のステージ170の移動方向と同一になるように、ステージ170を制御する。つまり、照射位置変更部153は、照射位置を第1位置P#2(1)から第2位置P#2(2)を経由して第3位置P#2(3)に変更する場合のステージ170の移動方向が固定されるように、ステージ170を制御する。
また、第2計測動作が主としてステージ170が試料10の裏面10bに平行な方向に沿って移動することができない場合に行われる動作である。このため、照射位置変更部153は、照射位置を第3位置P#2(3)に変更する際には、上述した第1及び第2条件を満たすように、ステージ170を制御しなくてもよい。
その後、テラヘルツ波生成素子110は、テラヘルツ波THzを、第3位置P#2(3)に照射する(ステップS222)。その後、テラヘルツ波検出素子130は、試料10によって反射されたテラヘルツ波THzを検出する(ステップS222)。その結果、テラヘルツ波検出素子130が検出したテラヘルツ波THzの波形を示す波形信号が、信号処理部152に入力される。その後、検出時間取得部1521は、信号処理部152に入力された波形信号に基づいて、第1検出時間ta3及び第2検出時間tb3を取得する(ステップS223)。尚、ステップS221、ステップS222及びステップS223の動作は、特段の説明がない場合には、夫々、第1計測動作のステップS101、ステップS102及びステップS103の動作と同一であってもよい。
その後、屈折率算出部1522は、第1検出時間ta1及び第2検出時間tb1、第1検出時間ta2及び第2検出時間tb2、並びに、第1検出時間ta3及び第2検出時間tb3に基づいて、試料10の屈折率nを算出する(ステップS231)。具体的には、屈折率算出部1522は、数式2を用いて、屈折率nを算出する。尚、数式2中のΔt1及びΔt2は、第1計測動作の説明時に既に説明済みである。数式2中のΔt3は、第3位置P#2(3)にテラヘルツ波THzを照射した場合において、テラヘルツ波THzが試料10の内部を透過するために要する時間に相当する。つまり、数式2中のΔt3は、第3位置P#2(3)にテラヘルツ波THzを照射した場合において、テラヘルツ波THzが試料10の表面10aから裏面10bを介して再度表面10aに到達するために要する時間に相当する。このため、Δt3は、Δt3=tb3−ta3という数式から算出可能である。
その後、厚さ算出部1523は、試料10の厚さd(つまり、厚さd1、d2及びd3)を算出する(ステップS232)。具体的には、厚さ算出部1523は、d1=(c/n)×Δt
1/2という数式を用いて、厚さd1を算出する。厚さ算出部1523は、d2=(c/n)×Δt
2/2という数式を用いて、厚さd2を算出する。厚さ算出部1523は、d3=(c/n)×Δt
3/2という数式を用いて、厚さd3を算出する。
以上説明したように、本実施例のテラヘルツ計測装置100は、第2計測動作を実行することで、第1計測動作を実行する場合に享受可能な効果と同様の効果を享受することができる。特に、テラヘルツ波計測装置100は、テラヘルツ波THzの照射位置が変更されることでテラヘルツ波生成素子110と裏面10bとの間の距離及びテラヘルツ波検出素子130と裏面10bとの間の距離のうちの少なくとも一方が変わってしまう場合であっても、試料10の屈折率nを好適に計測する(つまり、算出する)ことができる。
尚、照射位置を第1位置P#2(1)から第2位置P#2(2)に変更する場合のステージ170の移動量P1と照射位置を第2位置P#2(2)から第3位置P#2(3)に変更する場合のステージ170の移動量P2とが同一である場合には、上述した数式2は、数式3となる。従って、移動量P1と移動量P2とが同一になるように照射位置変更部153がステージ170を制御する場合には、屈折率算出部1522は、数式2に代えて、数式3を用いて、屈折率nを算出してもよい。
(2−3)屈折率n及び厚さdを計測する第3計測動作
続いて、テラヘルツ波計測装置100が行う屈折率n及び厚さdを計測する第3計測動作について説明する。上述した第1又は第2計測動作では、テラヘルツ波検出素子130が検出したテラヘルツ波THzの波形を示す波形信号に誤差が含まれてしまうと、第1検出時間t
a1からt
a3及び第2検出時間t
b1からt
b3のうちの少なくとも一つの精度が大きく悪化する可能性がある。その結果、上述した第1又は第2計測動作では、波形信号に誤差が含まれてしまうと、算出された屈折率n及び厚さdの精度が大きく悪化する(つまり、真の値から大きく乖離する)可能性がある。そこで、テラヘルツ波計測装置100は、第1及び第2計測動作に代えて、波形信号に誤差が含まれてしまう場合においても屈折率n及び厚さdを相応に高精度に計測可能な第3計測動作を行ってもよい。以下、図7を参照しながら、テラヘルツ波計測装置100が行う屈折率n及び厚さdを計測する第3計測動作について説明する。図7は、テラヘルツ波計測装置100が行う屈折率n及び厚さdを計測する第3計測動作の流れの一例を示すフローチャートである。
尚、波形信号に含まれる誤差は、例えば、テラヘルツ波THzそのものに重畳されるノイズ、波形信号の処理過程で重畳されるノイズ、テラヘルツ波検出素子130の検出精度の悪化の少なくとも一つに起因する誤差である。
図7に示すように、照射位置変更部153は、変数iを1に設定(つまり、初期化)する(ステップS301)。変数iは、第3計測動作においてテラヘルツ波THzが照射される照射位置を識別するための変数である。その後、照射位置変更部153は、テラヘルツ波THzの照射位置が、試料10の表面10a上の第i位置P#3(i)になるように、ステージ170を制御する(ステップS302)。テラヘルツ波生成素子110は、テラヘルツ波THzを、第i位置P#3(i)に照射する(ステップS303)。その後、テラヘルツ波検出素子130は、試料10によって反射されたテラヘルツ波THzを検出する(ステップS303)。その後、検出時間取得部1521は、信号処理部152に入力された波形信号に基づいて、第1検出時間tai及び第2検出時間tbiを取得する(ステップS304)。尚、ステップS302、ステップS303及びステップS304の動作は、特段の説明がない場合には、夫々、第1計測動作のステップS101、ステップS102及びステップS103の動作と同一であってもよい。
その後、照射位置変更部153は、変数iが閾値THiと一致しているか否かを判定する(ステップS305)。閾値THiは、第3計測動作においてテラヘルツ波THzが照射されるべき照射位置の総数を示す定数である。ステップS305の判定の結果、変数iが閾値THiと一致していないと判定される場合には(ステップS305:No)、変数iが1だけインクリメントされた上で、ステップS302からステップS304の動作が再度行われる。つまり、テラヘルツ波THzの照射位置が変更された後、第1検出時間tai及び第2検出時間tbiが再度取得される。従って、第3計測動作では、THi個の照射位置の夫々にテラヘルツ波THzが照射される。その結果、第1検出時間tai及び第2検出時間tbiを取得する動作がTHi回行われる。
尚、第3計測動作では、照射位置変更部153は、照射位置を変更する際には、上述した第1及び第2条件を満たすように、ステージ170を制御しなくてもよい。第3計測動作では、照射位置変更部153は、上述した第3条件に代えて、THi個の照射位置の全てにおいて試料10の厚さdが同一にならない(つまり、THi個の照射位置のうちの少なくとも2つの照射位置における試料10の厚さdが異なる)という第4条件を満たすように、ステージ170を制御する。
他方で、ステップS305の判定の結果、変数iが閾値THiと一致していると判定される場合には(ステップS305:Yes)、屈折率算出部1522は、試料10の屈折率nが仮想値nvであると仮定する(ステップS311)。その後、屈折率算出部311は、屈折率nが仮想値nvであると仮定した場合における試料10に関する仮想データを算出する(ステップS312)。
仮想データは、屈折率nが仮想値nvであると仮定した場合における試料10の形状(特に、THi個の照射位置の夫々における形状)に関する仮想データを含むことが好ましい。特に、仮想データは、屈折率nが仮想値nvであると仮定した場合における試料10の裏面10bの形状(特に、THi個の照射位置の夫々における裏面10bの形状)に関する仮想データを含むことが特に好ましい。このため、本実施例では、屈折率算出部1522は、屈折率nが仮想値nvであると仮定した場合におけるテラヘルツ波検出素子130から裏面10bまでの距離Bを、THi個の照射位置毎に算出する。具体的には、屈折率算出部1522は、数式4に基づいて、第i位置P#3(i)における距離Biを算出する。距離Bは、屈折率nが仮想値nvであると仮定した場合における試料10の形状(特に、裏面10bの形状)に関する仮想データの一具体例である。その結果、屈折率算出部1522は、第1位置P#3(1)における距離B1、第2位置P#3(2)における距離B2、・・・、及び、第THi位置P#3(THi)における距離BTHiを算出する。
加えて、屈折率算出部1522は、屈折率算出部1522は、屈折率nが仮想値n
vであると仮定した場合におけるテラヘルツ波検出素子130から表面10aまでの距離Aを、THi個の照射位置毎に算出する。具体的には、屈折率算出部1522は、数式5に基づいて、第i位置P#3(i)における距離A
iを算出する。距離Aは、屈折率nが仮想値n
vであると仮定した場合における試料10の形状(特に、表面10aの形状)に関する仮想データの一具体例である。その結果、屈折率算出部1522は、第1位置P#3(1)における距離A
1、第2位置P#3(2)における距離A
2、・・・、及び、第THi位置P#3(THi)における距離A
THiを算出する。
上述した数式4及び5は、各照射位置において、テラヘルツ波生成素子110と表面10aとの間の距離がテラヘルツ波検出素子130と表面10aとの間の距離と同一であり、且つ、テラヘルツ波生成素子110と裏面10bとの間の距離(例えば、図5の距離L11又はL21)がテラヘルツ波検出素子130と裏面10bとの間の距離(例えば、図5の距離L13又はL23)と同一である場合に用いることが好ましい数式である。この場合、屈折率nが仮想値n
vであると仮定した場合におけるテラヘルツ波検出素子130から表面10aまでの距離A
iは、屈折率nが仮想値n
vであると仮定した場合におけるテラヘルツ波生成素子110から表面10aまでの距離(但し、第i位置P#3(i)における距離)と同一である。同様に、屈折率nが仮想値n
vであると仮定した場合におけるテラヘルツ波検出素子130から裏面10bまでの距離B
iは、屈折率nが仮想値n
vであると仮定した場合におけるテラヘルツ波生成素子110から裏面10bまでの距離(但し、第i位置P#3(i)における距離)と同一である。従って、以下では、説明の簡略化のために、各照射位置において、テラヘルツ波生成素子110と表面10aとの間の距離がテラヘルツ波検出素子130と表面10aとの間の距離と同一であるものとする。同様に、各照射位置において、テラヘルツ波生成素子110と裏面10bとの間の距離がテラヘルツ波検出素子130と裏面10bとの間の距離と同一であるものとする。
但し、テラヘルツ波生成素子110と表面10aとの間の距離がテラヘルツ波検出素子130と表面10aとの間の距離と同一でないか又はテラヘルツ波生成素子110と裏面10bとの間の距離がテラヘルツ波検出素子130と裏面10bとの間の距離と同一でない場合であっても、屈折率算出部1522は、距離Aとして、テラヘルツ波生成素子110から表面10aまでの距離、及び、テラヘルツ波検出素子130から表面10aまでの距離のうちの少なくとも一方を算出すればよい。同様に、屈折率算出部1522は、距離Bとして、テラヘルツ波生成素子110から裏面10bまでの距離、及び、テラヘルツ波検出素子130から裏面10bまでの距離のうちの少なくとも一方を算出すればよい。
ここで、図8を参照しながら、距離Ai及びBiについて更に説明を加える。図8は、実際の試料10と距離Ai及びBiとの関係を示す断面図である。
図8は、位置#3(1)における距離A1及びB1、並びに、位置#3(2)における距離A2及びB2を示す。図8に示すように、屈折率nが仮想値nvであると仮定した場合に算出された距離A1は、実際の距離A1(つまり、距離A1の真の値)と一致する。同様に、屈折率nが仮想値nvであると仮定した場合に算出された距離A2は、実際の距離A2(つまり、距離A2の真の値)と一致する。なぜならば、上述した数式5に示すように、距離Aiは、仮想値nvによって変動することがないからである。
一方で、図8に示すように、屈折率nが仮想値nvであると仮定した場合に算出された距離B1は、実際の距離B1(つまり、距離B1の真の値)と一致しないことが多い。同様に、屈折率nが仮想値nvであると仮定した場合に算出された距離B2は、実際の距離B2(つまり、距離B2の真の値)と一致しないことが多い。なぜならば、上述した数式4に示すように、距離Aiは、仮想値nvによって変動するからである。従って、仮想値nvが屈折率nの真の値と一致しない限りは、算出された距離Biは、実際の距離Biと一致しない。逆に言えば、仮想値nvが屈折率nの真の値と一致すれば、算出された距離Biは、実際の距離Biと一致する。
図8は、仮想値nvが真の値よりも小さい値(例えば、1)である場合に算出された距離Biを示す。図8に示すように、仮想値nvが屈折率nの真の値よりも小さい場合には、算出された距離Biが規定する裏面10bの形状(図8中の点線参照)は、表面10aの形状を反転させた形状と相似の関係にある。つまり、算出された距離Biが規定する裏面10bの形状と表面10aの形状とは、逆相関の関係にある。図8に示す状態で仮想値nvを徐々に大きくしていくと、算出された距離Biが規定する裏面10bの形状は、徐々に実際の裏面10bの形状に近づいていく。その結果、仮想値nvが屈折率nの真の値と一致すると、算出された距離Biが規定する裏面10bの形状は、表面10aの形状に関わらずに、徐々に実際の裏面10bの形状と一致する。従って、算出された距離Biが規定する裏面10bの形状と表面10aの形状とは、無相関の関係にある。一方で、仮想値nvが屈折率nの真の値と一致した状態において仮想値nvを更に大きくしていくと、算出された距離Biが規定する裏面10bの形状は、徐々に実際の裏面10bの形状から乖離していく。仮想値nvが屈折率nの真の値よりも大きい場合には、算出された距離Biが規定する裏面10bの形状は、表面10aの形状と相似の関係にある。つまり、算出された距離Biが規定する裏面10bの形状と表面10aの形状とは、正相関の関係にある。
そうすると、屈折率nが仮想値nvであると仮定した場合に算出された距離Biに基づいて、屈折率nの真の値を特定可能であることが分かる。つまり、算出された距離Biが規定する裏面10bの形状が実際の裏面10bの形状と一致する状態を実現可能な仮想値nvが、屈折率nの真の値に相当する。第3計測動作では、テラヘルツ波計測装置100は、このような距離Biと屈折率nの真の値との関係を利用して、屈折率nを決定(つまり、算出)する。特に、テラヘルツ波計測装置100は、算出された距離Biをユーザに提示した上で(つまり、実質的には、算出された距離Biが規定する裏面10bの形状をユーザに提示した上で)、算出された距離Biが規定する裏面10bの形状が実際の裏面10bの形状と一致しているか否かをユーザに判断させる。更に、テラヘルツ波計測装置100は、ユーザによる仮想値nvの調整操作を受け付けると共に、調整操作を受け付けた場合には、屈折率nが調整後の仮想値nvであると仮定した場合に算出された距離Biを再度ユーザに提示する。その結果、ユーザは、算出された距離Biが規定する裏面10bの形状が実際の裏面10bの形状と一致する状態を実現可能な仮想値nvを、屈折率nの真の値として決定することができる。以下、屈折率nの真の値として決定する動作について更にする。
再び図7において、距離Ai及びBiを算出した後、屈折率算出部1522は、算出した距離Ai及びBiを表示するようにディスプレイ181を制御する(ステップS313)。その結果、ディスプレイ181は、算出した距離Ai及びBiを表示する。その後、屈折率算出部1522は、ユーザが、入力装置182を用いた仮想値nvの調整操作を行っているか否かを判定する(ステップS314)。
ステップS314の判定の結果、ユーザが調整操作を行っていると判定される場合には(ステップS314:Yes)、屈折率算出部1522は、ユーザの調整操作に応じて、仮想値nvを調整する(ステップS315)。その後、屈折率算出部1522は、ステップS312以降の動作を繰り返す。つまり、屈折率算出部1522は、屈折率nが調整後の仮想値nvであると仮定した場合における距離Ai及びBiを算出する(ステップS312)。但し、距離Aiが仮想値nvによって変動しないため、屈折率算出部1522は、距離Aiを算出しなくてもよい。更に、屈折率算出部1522は、算出した距離Ai及びBiを表示するようにディスプレイ181を制御する(ステップS313)。更に、屈折率算出部1522は、ユーザが調整操作を行っているか否かを判定する(ステップS314)。
ここで、図9及び図10を参照しながら、距離Ai及びBiの表示例について説明する。図9に示すように、ディスプレイ181は、横軸が照射位置を示し、且つ、縦軸が距離Ai及びBiを示すグラフを表示する。距離Ai及びBiがTHi個の照射位置毎に算出されるパラメータであることを考慮すると、距離Ai及びBiの夫々は、横軸に沿って離散的に分布することになる。このため、ディスプレイ181は、離散的に分布する距離Aiを結ぶ平滑線を更に表示してもよい。同様に、ディスプレイ181は、離散的に分布する距離Biを結ぶ平滑線を更に表示してもよい。
図9に示す距離Aiは、屈折率nが仮想値nvであると仮定した場合に算出された距離Aiが規定する表面10aの形状を実質的に示す。但し、上述したように、屈折率nが仮想値nvであると仮定した場合に算出された距離Aiは、距離Aiの真の値と一致する。従って、図8に示す距離Aiは、実際の表面10aの形状を実質的に示す。
図9に示す距離Biは、屈折率nが仮想値nvであると仮定した場合に算出された距離Biが規定する裏面10bの形状を実質的に示す。図9は、算出された距離Biが規定する裏面10bの形状が、表面10aの形状と逆相関の関係にある例を示している。従って、ユーザは、仮想値nvが屈折率nの真の値よりも小さいと認識する。このため、ユーザは、仮想値nvを大きくするための調整操作を行う。ここで、ユーザによる仮想値nvの調整量が適切であった場合(つまり、調整後の仮想値nvが屈折率nの真の値と一致した場合)には、ディスプレイ181は、図10中に黒い四角マークで示すように、実際の裏面10bの形状と一致する形状を規定する距離Biを表示する。この場合、ユーザは、仮想値nvが屈折率nの真の値に一致したと認識する。他方で、ユーザによる仮想値nvの調整量が過度であった場合(つまり、調整後の仮想値nvが屈折率nの真の値よりも大きくなってしまった場合)には、ディスプレイ181は、図10中に黒い丸マークで示すように、実際の裏面10bの形状と一致しない形状(距離Aiが規定する表面10aの形状と正相関の関係にある形状)を規定する距離Biを表示する。この場合、ユーザは、仮想値nvが屈折率nの真の値よりも大きいと認識する。このため、ユーザは、仮想値nvを小さくするための調整操作を更に行う。
尚、仮想値nvが調整された場合には、ディスプレイ181は、屈折率nが調整前の仮想値nvであると仮定した場合に算出された距離Biに代えて、屈折率nが調整後の仮想値nvであると仮定した場合に算出された距離Biを表示してもよい。或いは、ディスプレイ181は、屈折率nが調整前の仮想値nvであると仮定した場合に算出された距離Biに加えて、屈折率nが調整後の仮想値nvであると仮定した場合に算出された距離Biを表示してもよい。
ユーザは、実際の裏面10bの形状と一致する(或いは、最も似ている又はある程度似ている、以下同じ)形状を規定する距離Biが表示されていると認識するまで、仮想値nvの調整操作を繰り返す。尚、ユーザが調整操作を行うためには、ユーザは、実際の裏面10bの形状を認識している必要がある。但し、ユーザは、実際の裏面10bの形状を厳密に認識していなくてもよい。つまり、ユーザは、実際の裏面10bの形状を大まかに認識してれば十分である。例えば、ユーザは、実際の裏面10bの形状が、概ね平面であるのか否か、ユーザから見て傾いているか否か等を大まかに認識してれば十分である。
再び図7において、ステップS314の判定の結果、ユーザが調整操作を行っていないと判定される場合には(ステップS314:No)、ディスプレイ181が表示している距離Biが規定する裏面10bの形状が、実際の裏面10bの形状と一致しているとユーザが認識していると推定される。つまり、ディスプレイ181が表示している距離Biを算出する前提となった仮想値nvが屈折率nの真の値に一致している(或いは、最も近い又はある程度近い、以下同じ)とユーザが認識していると推定される。従って、この場合には、屈折率算出部1522は、現在の仮想値nvを屈折率nの真の値として決定する(ステップS321)。
その後、厚さ算出部1523は、試料10の厚さd(つまり、厚さd1、d2及びd3)を算出する(ステップS322)。具体的には、厚さ算出部1523は、di=(c/n)×Δti/2という数式を用いて、位置P#3(i)における厚さdiを算出する。尚、Δtiは、Δti=tbi−taiという数式から算出可能である。
以上説明したように、本実施例のテラヘルツ計測装置100は、第3計測動作を実行することで、第1計測動作を実行する場合に享受可能な効果と同様の効果を享受することができる。特に、テラヘルツ波計測装置100は、屈折率nが仮想値nvであると仮定した場合に算出される仮想データ(つまり、距離Ai及びBi)に基づいて、屈折率nの真の値に一致する仮想値nvをユーザに決定させる。従って、テラヘルツ波計測装置100は、波形信号に誤差が含まれてしまう場合においても、屈折率n及び厚さdを相応に高精度に計測することができる。
また、仮想値nvをユーザに決定させるがゆえに、裏面10bがどのような形状を有している場合であっても、テラヘルツ波計測装置10は屈折率nを計測することができる。例えば、裏面10bが曲面である、裏面10bに段差がある、又は、裏面10bがユーザから見て傾いている場合であっても、テラヘルツ波計測装置10は屈折率nを計測することができる。
(2−4)屈折率n及び厚さdを計測する第4計測動作
続いて、テラヘルツ波計測装置100が行う屈折率n及び厚さdを計測する第4計測動作について説明する。第4計測動作もまた、第3計測動作と同様に、屈折率nが仮想値nvであると仮定した場合に算出される仮想データ(つまり、距離Ai及びBi)に基づいて、屈折率nを算出する。但し、第4計測動作は、ユーザによる操作(つまり、上述した仮想値nvの調整操作)を必要とすることなく、屈折率nを算出する。以下、図11を参照しながら、テラヘルツ波計測装置100が行う屈折率n及び厚さdを計測する第4計測動作について説明する。図11は、テラヘルツ波計測装置100が行う屈折率n及び厚さdを計測する第4計測動作の流れの一例を示すフローチャートである。
図11に示すように、第4計測動作においても、第3計測動作と同様に、ステップS301からステップS306までの動作が行われる。その結果、THi個の照射位置にテラヘルツ波THzが照射される。更に、第1検出時間tai及び第2検出時間tbiを取得する動作が、THi回行われる。但し、第4計測動作では、照射位置が変更される際に、上述した第1条件から第3条件が満たされることが好ましい。更には、第4計測動作では、試料10の裏面10bは、平面であることが好ましい。
その後、屈折率算出部1522は、変数jを1に設定(つまり、初期化)する(ステップS411)。変数jは、第4計測動作において設定する仮想値nvを識別するための変数である。その後、屈折率算出部1522は、試料10の屈折率nが仮想値nvjであると仮定する(ステップS412)。その後、屈折率算出部311は、屈折率nが仮想値nvjであると仮定した場合における試料10に関する仮想データ(つまり、上述した距離Ai及びBi)を算出する(ステップS413)。
その後、屈折率算出部1522は、変数jが閾値THjと一致しているか否かを判定する(ステップS414)。閾値THjは、第4計測動作において用いるべき仮想値nvjの総数を示す定数である。ステップS414の判定の結果、変数jが閾値THjと一致していないと判定される場合には(ステップS414:No)、変数jが1だけインクリメントされた上で、ステップS412からステップS414の動作が再度行われる。つまり、屈折率算出部1522は、試料10の屈折率nが、これまでに利用した仮想値nvjとは異なる新たな仮想値nvjであると仮定する(ステップS412)。屈折率算出部311は、屈折率nが新たな仮想値nvjであると仮定した場合における距離Ai及びBiを算出する(ステップS413)。屈折率算出部1522は、変数jが閾値THjと一致しているか否かを判定する(ステップS414)。従って、第4計測動作では、距離Ai及びBiを算出する動作がTHj回行われる。
他方で、ステップS414の判定の結果、変数jが閾値THjと一致していると判定される場合には(ステップS414:Yes)、屈折率算出部1522は、仮想値nvj毎に、距離Aiと距離Biとの間の相関係数ρjを算出する(ステップS421)。具体的には、屈折率算出部1522は、屈折率nが仮想値nv1であると仮定した場合に算出された距離Aiと距離Biとの間の相関係数ρ1、屈折率nが仮想値nv2であると仮定した場合に算出された距離Aiと距離Biとの間の相関係数ρ2、・・・、及び、屈折率nが仮想値nvTHjであると仮定した場合に算出された距離Aiと距離Biとの間の相関係数ρTHjを算出する。尚、屈折率算出部1522は、例えば、数式6を用いて、相関係数ρjを算出する。尚、数式6中のAavgは、距離Aiの平均値(つまり(A1+A2+・・・+ATHi)/THi)である。数式6中のBavgは、距離Biの平均値(つまり(B1+B2+・・・+BTHi)/THi)である。但し、屈折率算出部1522は、数式6とは異なる演算手法を用いて、相関係数ρjを算出してもよい。
その後、屈折率算出部1522は、相関係数ρ
jの絶対値が閾値THρ以下になる状態を実現可能な仮想値n
vjを、屈折率nの真の値として特定する(ステップS422)。
上述したように、仮想値nvjが真の値よりも小さい値である場合には、算出された距離Biが規定する裏面10bの形状と表面10aの形状(つまり、算出された距離Aiが規定する表面10aの形状)とは、逆相関の関係にある。このため、図12に示すように、仮想値nvjが真の値よりも小さい値である場合には、距離Biと距離Aiとの間の相関係数ρjは、負の値(例えば、−1)になる。また、上述したように、仮想値nvjが真の値よりも大きい値である場合には、算出された距離Biが規定する裏面10bの形状と表面10aの形状とは、正相関の関係にある。このため、図12に示すように、仮想値nvjが真の値よりも大きい値である場合には、距離Biと距離Aiとの間の相関係数ρjは、正の値(例えば、+1)になる。また、上述したように、仮想値nvjが真の値と一致する場合には、算出された距離Biが規定する裏面10bの形状と表面10aの形状とは、無相関の関係にある。このため、図12に示すように、仮想値nvjが真の値と一致する場合には、距離Biと距離Aiとの間の相関係数ρjは、ゼロになる。従って、相関係数ρjがゼロとなる状態を実現可能な仮想値nvjは、屈折率nの真の値と一致していると推定される。或いは、相関係数ρjがゼロに近い値となる状態を実現可能な仮想値nvjは、屈折率nの真の値に近い値となっていると推定される。従って、閾値THρは、ゼロ又はゼロに近い任意の値に設定されていることが好ましい。
尚、相関係数ρjの絶対値が閾値THρ以下になる状態を実現可能な仮想値nvjが複数存在する場合には、屈折率算出部1522は、相関係数ρjの絶対値が最小になる仮想値nvjを、屈折率nの真の値として特定してもよい。相関係数ρjの絶対値が閾値THρ以下になる状態を実現可能な仮想値nvjが存在しない場合には、屈折率算出部1522は、相関係数ρjの絶対値が最小になる仮想値nvjを、屈折率nの真の値として特定してもよい。或いは、相関係数ρjの絶対値が閾値THρ以下になる状態を実現可能な仮想値nvjが存在しない場合には、屈折率算出部1522は、仮想値nvj及び相関係数ρjに基づいて、任意の仮想値nvから任意の相関係数ρを特定するための第1近似関数を特定してもよい。その後、屈折率算出部1522は、第1近似関数が特定する相関係数ρの絶対値が閾値THρ以下になる(或いは、ゼロとなる又は最小になる)状態を実現可能な仮想値nvを、屈折率nの真の値として特定してもよい。
その後、厚さ算出部1523は、第3計測動作と同様に、試料10の厚さdを算出する(ステップS322)。
以上説明したように、本実施例のテラヘルツ計測装置100は、第4計測動作を実行することで、第1計測動作を実行する場合に享受可能な効果と同様の効果を享受することができる。特に、テラヘルツ波計測装置100は、屈折率nが仮想値nvであると仮定した場合に算出される仮想データ(つまり、距離Ai及びBi)に基づいて、屈折率nを特定する。従って、テラヘルツ波計測装置100は、波形信号に誤差が含まれてしまう場合においても、屈折率n及び厚さdを相応に高精度に計測することができる。更に、テラヘルツ波計測装置100は、ユーザの操作を必要とすることなく、屈折率nを特定することができる。従って、ユーザの操作に対する負担が減少する。
(2−5)屈折率n及び厚さdを計測する第5計測動作
続いて、テラヘルツ波計測装置100が行う屈折率n及び厚さdを計測する第5計測動作について説明する。第5計測動作は、第4計測動作と比較して、相関係数ρjに代えて、回帰係数kjを用いるという点で異なっている。第5計測動作のその他の動作は、第4計測動作のその他の動作と同一であってもよい。以下、図13を参照しながら、テラヘルツ波計測装置100が行う屈折率n及び厚さdを計測する第5計測動作について説明する。図13は、テラヘルツ波計測装置100が行う屈折率n及び厚さdを計測する第5計測動作の流れの一例を示すフローチャートである。
図13に示すように、第5計測動作においても、第4計測動作と同様に、ステップS301からステップS414までの動作が行われる。その結果、各仮想値nvjに対応する距離Ai及びBiが算出される。その後、変数jが閾値THjと一致していると判定される場合には(ステップS414:Yes)、屈折率算出部1522は、仮想値nvj毎に、距離Aiと距離Biとの間の回帰係数kjを算出する(ステップS521)。具体的には、屈折率算出部1522は、屈折率nが仮想値nv1であると仮定した場合に算出された距離Aiと距離Biとの間の回帰係数k1、屈折率nが仮想値nv2であると仮定した場合に算出された距離Aiと距離Biとの間の回帰係数k2、・・・、及び、屈折率nが仮想値nvTHjであると仮定した場合に算出された距離Aiと距離Biとの間の回帰係数kTHjを算出する。尚、屈折率算出部1522は、数式7を用いて、回帰係数kjを算出する。但し、屈折率算出部1522は、数式7とは異なる演算手法を用いて、回帰係数kjを算出してもよい。
その後、屈折率算出部1522は、回帰係数k
jの絶対値が閾値THk以下になる状態を実現可能な仮想値n
vjを、屈折率nの真の値として特定する(ステップS522)。
ここで、回帰係数kjは、距離Biと距離Aiとの関係を規定する回帰直線(つまり、距離Aiから距離Biを特定可能な回帰直線)の傾きに相当する。従って、仮想値nvjが真の値よりも小さい値である場合には、距離Biと距離Aiとが負相関の関係にあるがゆえに(図12参照)、回帰係数kjは負の値になる。仮想値nvjが真の値よりも大きい値である場合には、距離Biと距離Aiとが正相関の関係にあるがゆえに(図12参照)、回帰係数kjは正の値になる。仮想値nvjが真の値に一致する場合には、距離Biと距離Aiとが無相関の関係にあるがゆえに(図12参照)、回帰係数kjはゼロになる。従って、回帰係数kjがゼロとなる状態を実現可能な仮想値nvjは、屈折率nの真の値と一致していると推定される。或いは、回帰係数kjがゼロに近い値となる状態を実現可能な仮想値nvjは、屈折率nの真の値に近い値となっていると推定される。従って、閾値THkは、ゼロ又はゼロに近い任意の値に設定されていることが好ましい。
尚、回帰係数kjの絶対値が閾値THρ以下になる状態を実現可能な仮想値nvjが複数存在する場合には、屈折率算出部1522は、回帰係数kjの絶対値が最小になる仮想値nvjを、屈折率nの真の値として特定してもよい。回帰係数kjの絶対値が閾値THρ以下になる状態を実現可能な仮想値nvjが存在しない場合には、屈折率算出部1522は、回帰係数kjの絶対値が最小になる仮想値nvjを、屈折率nの真の値として特定してもよい。或いは、回帰係数kjの絶対値が閾値THk以下になる状態を実現可能な仮想値nvjが存在しない場合には、屈折率算出部1522は、仮想値nvj及び回帰係数kjに基づいて、任意の仮想値nvから任意の回帰係数kを特定するための第2近似関数を特定してもよい。その後、屈折率算出部1522は、第2近似関数が特定する回帰係数kの絶対値が閾値THk以下になる(或いは、ゼロとなる又は最小となる)状態を実現可能な仮想値nvを、屈折率nの真の値として特定してもよい。
その後、厚さ算出部1523は、第4計測動作と同様に、試料10の厚さd算出する(ステップS322)。
以上説明したように、本実施例のテラヘルツ計測装置100は、第5計測動作を実行することで、第4計測動作を実行する場合に享受可能な効果と同様の効果を享受することができる。
尚、回帰係数kjの絶対値が閾値THk以下になる状態を実現可能な仮想値nvjが存在しない場合には、屈折率算出部1522は、仮想値nvj及び回帰係数kjに基づいて、任意の仮想値nvから任意の回帰係数kを特定するための第2近似関数を特定してもよいことは、上述したとおりである。しかしながら、図14に示すように、第2近似関数は、線形関数とならない可能性がある。この場合、第2近似関数が線形関数となる場合と比較して、第2近似関数の近似精度が悪化する可能性がある。つまり、第2近似関数が特定する回帰係数kの絶対値が閾値THk以下になる(或いは、ゼロとなる又は最小になる)状態を実現可能な仮想値nvが、屈折率nの真の値から大きくずれる可能性がある。そこで、屈折率算出部1522は、第2近似関数に基づいて屈折率nの真の値を特定することに代えて、仮想値nvj及び回帰係数kjに基づいて、所定係数mjを算出してもよい。所定係数mjは、mj=1/(1−kj)という数式から特定可能である。その後、屈折率算出部1522は、仮想値nvj及び回帰係数mjに基づいて、任意の仮想値nvから任意の所定係数mを特定するための第3近似関数を特定してもよい。その後、屈折率算出部1522は、第3近似関数が特定する所定係数mの絶対値が閾値THm以下になる(或いは、1となる又は最大となる)状態を実現可能な仮想値nvを、屈折率nの真の値として特定してもよい。図14に示すように、回帰係数の特性上、第3近似関数は、線形関数となる。この場合、第3近似関数が線形関数とならない場合と比較して、第3近似関数の近似精度が悪化する可能性は小さい。つまり、第3近似関数が閾値THm以下になる(或いは、1となる又は最大となる)状態を実現可能な仮想値nvが、屈折率nの真の値から大きくずれる可能性が小さくなる。
(2−6)第4及び第5計測動作の変形例
上述したように、第4及び第5計測動作では、照射位置が変更される場合であってもテラヘルツ波生成素子110と裏面10bとの間の距離が同じになるという第1条件、及び、照射位置が変更される場合であってもテラヘルツ波検出素子130と裏面10bとの間の距離が同じになるという第2条件が満たされることが好ましい。しかしながら、第2計測動作の説明で言及したように、試料10の状態等によっては、第1及び第2条件が満たされない場合もある。ここで、裏面10bが平面であり且つステージ170が裏面10bに交わる方向に沿って移動する例を想定する。つまり、ステージ170の移動方向に対して裏面10bが傾いている例を想定する。この例では、上述した距離Ai及びBiの双方に、裏面10bの傾き量に相当する同一量のオフセットが加算されることになる。従って、仮想値nvが屈折率nの真の値に一致している場合であっても、距離Biと距離Aiとは、無相関の関係ではなく、正相関の関係にある。このため、裏面10bが傾いている場合には、屈折率算出部1522は、第1検出時間tai及び第2検出時間tbiから算出される距離Ai及びBiをそのまま用いるだけでは、屈折率nの真の値を精度よく特定することが困難になる。
そこで、裏面10bが傾いている場合には、屈折率算出部1522は、距離Ai及びBiを算出した後(つまり、図11及び図13のステップS413の動作を行った後)に、以下の動作を行う。まず、屈折率算出部1522は、ステージ170の移動方向に沿った座標軸に対応するTHi個の照射位置の座標位置zを特定する。つまり、屈折率算出部1522は、第1位置P#3(1)の座標位置z1、第2位置P#3(2)の座標位置z2、・・・、及び、第THi位置P#3(THi)の座標位置zTHiを特定する。その後、屈折率算出部1522は、数式8を用いて、座標位置ziと距離Aiとの間の相関係数PAを算出する。更に、屈折率算出部1522は、数式9を用いて、座標位置ziと距離Biとの間の相関係数PBを算出する。尚、数式8及び数式9中のzavgは、座標位置ziの平均値(つまり(z1+z2+・・・+zTHi)/THi)である。
その後、屈折率算出部1522は、回帰係数PA及び距離A
iに基づいて、距離A’
iを算出する。具体的には、屈折率算出部1522は、A’
i=A
i−PA×z
iと言う数式を用いて、距離A’
iを算出する。更に、屈折率算出部1522は、回帰係数PB及び距離B
iに基づいて、距離B’
iを算出する。具体的には、屈折率算出部1522は、B’
i=B
i−PB×z
iと言う数式を用いて、距離B’
iを算出する。その後、屈折率算出部1522は、距離A
i及びB
iに代えて、距離A’
i及びB’
iを用いて、距離A
i及びB
iを算出した後に行うべき動作(つまり、図11及び図13のステップS413の動作を行った後に行うべき動作であり、ステップ521以降の動作)を行う。これにより、裏面10bが傾いている場合であっても、屈折率算出部1522は、屈折率nの真の値を精度よく特定することができる。
尚、第1計測動作、第2計測動作、第4計測動作又は第5計測動作では、ディスプレイ181及び入力装置182が必ずしも用いられるとは限らない。このため、第1計測動作、第2計測動作、第4計測動作又は第5計測動作を行うテラヘルツ波計測装置100は、ディスプレイ181及び入力装置182の少なくとも一方を備えていなくてもよい。
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う計測装置、計測方法、及び、コンピュータプログラムもまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。