(システム構成)
図1は、本発明の一実施形態に係る電動機動装置の適用例としてのインバータ100のシステム構成を示す図である。図1に示すインバータ100は、P母線端子1を介して不図示のバッテリの正極側に接続されるP母線101と、N母線端子2を介してバッテリの負極側に接続されるN母線102とを有している。このバッテリにより、P母線101とN母線102の間に直流電圧Edが供給される。また、インバータ100とバッテリの間で直流電力が相互にやり取りされる。なお、インバータ100とバッテリの間に、システムの動作状態に応じてオンオフを切り替えるための不図示のリレーを設けてもよい。
インバータ100はまた、交流モータ(以下、単にモータと称する)200と接続するためのAC端子3,4,5,6,7および8を有している。このAC端子3〜8を介してインバータ100がモータ200に接続されることで、インバータ100とモータ200の間で直流電力が相互にやり取りされる。モータ200は機械出力軸300を備えており、この機械出力軸300に不図示の負荷が接続されることで、モータ200と負荷の間で機械出力が相互にやり取りされる。
インバータ100において、P母線101とN母線102の間には、バッテリから流れるバッテリ電流Ibを平滑化するための平滑キャパシタ110が接続されている。この平滑キャパシタ110の下流側には、3つの単相インバータ160,170および180がP母線101とN母線102の間に接続されており、各単相インバータとP母線101およびN母線102との間で、インバータ電流Idu,Idv,Idwがそれぞれやり取りされる。なお、インバータ電流Idu,Idv,Idwの極性は、図1に示したように、P母線101からN母線102に向かう方向を正極性とし、これと逆方向を負極性として定められている。
P母線101およびN母線102において、平滑キャパシタ110から単相インバータ160に分岐されるまでの部分は、単相インバータ160,170および180に対して共通に用いられる。この共通母線を流れる電流Idと、平滑キャパシタに流れる電流Icと、前述のバッテリ電流Ibとの極性は、それぞれ図1に示したように定められている。これらの電流の間には、以下の式(1)の関係が成り立つ。
Id = Ib + Ic ・・・(1)
式(1)において、平滑キャパシタ電流Icの平均値はゼロであるため、共通母線の電流Idの平均値は、バッテリ電流Ibに略一致する。すなわち、共通母線の電流Idとその平均値との差は、平滑キャパシタ電流Icのリプルに略一致する。
また、上記の共通母線の電流Idと、各単相インバータ160,170,180に流れるインバータ電流Idu,Idv,Idwとの間には、以下の式(2)の関係が成り立つ。
Id = Idu + Idv + Idw ・・・(2)
モータ200は、固定子に3相の独立巻線210,220,230を有する。図1に示すように、U相の独立巻線210は、AC端子3,4を介して単相インバータ160と接続され、V相の独立巻線220は、AC端子5,6を介して単相インバータ170と接続され、W相の独立巻線230は、AC端子7,8を介して単相インバータ180と接続されている。なお、独立巻線210,220および230は、互いに電気的な接続がなく、相互に電流が流出入しない巻線である。すなわち、モータ200内で各独立巻線を経由した電流は、他の独立巻線を経由することなく、モータ200の外に流れ出る。
単相インバータ160,170,180とAC端子3,4,5,6,7,8との間には、図示のごとく、電流センサ141,142,143がそれぞれ設けられている。電流センサ141,142,143は、モータ200の各独立巻線210,220,230に流れる巻線電流Iu,Iv,Iwをそれぞれ測定し、その測定値Iu^,Iv^,Iw^を制御器150にそれぞれ出力する。
制御器150は、電流センサ141,142,143からそれぞれ入力された巻線電流の測定値Iu^,Iv^,Iw^に基づいて、各相のゲート信号Gu,Gv,Gwを生成し、単相インバータ160,170,180にそれぞれ出力する。たとえば、図示しない上位の制御装置から入力されたモータ200の運転指令と、電流センサ141,142,143からの電流測定値Iu^,Iv^,Iw^とに基づいて、周知の演算手法により、U相の独立巻線210に対する目標電圧Vu*と、V相の独立巻線220に対する目標電圧Vv*と、W相の独立巻線230に対する目標電圧Vw*とを算出する。そして、算出した目標電圧Vu*,Vv*,Vw*に応じて、ゲート信号Gu,Gv,Gwを生成する。
なお、制御器150では、目標電圧Vu*,Vv*,Vw*に応じたゲート信号Gu,Gv,Gwを生成する際に、巻線電流の測定値Iu^,Iv^,Iw^を用いて、共通母線の電流Idのリプルを改善するための処理を行う。この点については、後で詳しく説明する。
(単相インバータの動作)
図2は、単相インバータ160と独立巻線210の電気構成を示す図である。なお、単相インバータ170と独立巻線220、および単相インバータ180と独立巻線230についても、これと同一の電気構成となっている。したがって以下では、図2に示した単相インバータ160と独立巻線210の電気構成を代表例に用いて、単相インバータ160,170,180の動作について説明する。
単相インバータ160は、スイッチ素子Q1,Q2,Q3,Q4と、各スイッチ素子Q1,Q2,Q3,Q4にそれぞれ接続された帰還ダイオード121,122,123,124とを有している。これらにより、図2に示すようなブリッジ回路が構成されている。このブリッジ回路は、独立巻線210の両端子間に接続されており、各スイッチ素子Q1,Q2,Q3,Q4の状態に応じて、独立巻線210に電圧Vuを印加する。なお、電圧Vuの極性は、図に示すような向きとする。
制御器150から出力されたゲート信号Guは、単相インバータ160内の信号セパレータ126により、各スイッチ素子Q1,Q2,Q3,Q4に対するゲート信号G1,G2,G3,G4に分解される。各スイッチ素子Q1,Q2,Q3,Q4の状態は、ゲート信号G1,G2,G3,G4によってそれぞれ決定される。
図3は、図2に示したブリッジ回路におけるスイッチ素子Q1,Q2,Q3,Q4の状態と、独立巻線210への印加電圧Vuと、この電圧Vuに応じて単相インバータ160に流れるインバータ電流Iduとの関係を示す表である。この表では、スイッチ素子Q1,Q2,Q3,Q4がそれぞれ取り得る状態の組み合わせを、スイッチモードM1,M2,M3,M4として表している。なお、図3の表において、独立巻線210に流れる巻線電流Iuの極性と、独立巻線210への印加電圧Vuの極性とは、図2に示したようにそれぞれ定められているものとする。また、図3の表において2列目には、「0」をオフ、「1」をオンとして、各スイッチ素子Q1,Q2,Q3,Q4の状態を0と1の組み合わせで表している。たとえば、スイッチモードM1は(1001)であり、これはスイッチ素子Q1がオン、スイッチ素子Q2がオフ、スイッチ素子Q3がオフ、スイッチ素子Q4がオンであることを表している。
図3の表に示した各スイッチモードのうち、スイッチモードM1またはM2が選択されている期間は、いわゆる非還流期間である。この期間では、印加電圧Vuの極性に応じて、巻線電流Iuまたはその極性を反転した電流ーIuが、P母線101およびN母線102を経由したインバータ電流Iduとして単相インバータ160に流れる。一方、スイッチモードM3またはM4が選択されている期間は、還流期間である。この期間では、単相インバータ160には電流が流れず、したがってインバータ電流Iduはゼロとなる。
図2に示した仮想グランド電位125は、P母線101の電位が+Ed/2、N母線102の電位が−Ed/2となるように仮想的に定められた基準電位である。この仮想グランド電位125を基準に、独立巻線210の左側、すなわちスイッチ素子Q1とQ2の間の電位を電圧Vulとし、独立巻線210の右側、すなわちスイッチ素子Q3とQ4の間の電位を電圧Vurとする。これらの電圧と独立巻線210の印加電圧Vuとの間には、以下の式(3)の関係が成立する。
Vu = Vul − Vur ・・・(3)
ここで、独立巻線210に対する印加電圧Vuの瞬時値は、モータ制御において一般的に利用されるPWM(Pulse Width Modulation)によって決定されるものとする。具体的には、独立巻線210に電圧レベル+Edが生じる期間と、電圧レベルゼロが生じる期間と、電圧レベル−Edが生じる期間とを、それぞれ所定の時間ユニットの中で目標電圧Vu*に応じて時間配分することで、電圧Vuの瞬時値が決定される。このとき、各時間ユニット内での電圧Vuの平均値が目標電圧Vu*と一致するように、各期間の長さが定められる。
図3に示すように、PWM制御では、独立巻線210の電圧Vuを+EdにするためにスイッチモードM1が使用され、電圧レベルをゼロにするためにスイッチモードM3またはM4が使用され、電圧レベルを−EdとするためにスイッチモードM2が使用される。これらのスイッチモードが目標電圧Vu*に応じて各時間ユニット内で逐次切り替えられる。そのため、一つの時間ユニット内には非還流期間と還流期間が混在することとなる。ただし、目標電圧Vu*によっては、一つの時間ユニットがすべて非還流期間で埋まる場合もあるし、逆に還流期間で埋まる場合もある。
なお、上記の時間ユニットの長さは、PWM制御で用いられる搬送波の周期に応じて決定される。具体的には、搬送波の1周期分が1つの時間ユニットに相当する。すなわち、搬送波として鋸波が用いられる外縁変調方式または内縁変調方式のPWM制御の場合、その鋸波の1つ1つがそれぞれ時間ユニットに相当する。また、搬送波として三角波が用いられる両縁変調方式のPWM制御の場合、その三角波の1つ1つ、または三角波の登り期間と下り期間の1つ1つがそれぞれ時間ユニットに相当する。
一般的にPWM制御では、目標電圧Vu*が正の電圧である場合は、独立巻線210の電圧Vuを+Edにする期間とゼロにする期間の2つの期間のみが使われ、時間ユニット内でこれらの期間を目標電圧Vu*に応じて時間配分する。逆に、目標電圧Vu*が負の電圧である場合は、独立巻線210の電圧Vuをゼロにする期間と−Edにする期間の2つの期間のみが使われ、時間ユニット内でこれらの期間を目標電圧Vu*に応じて時間配分する。したがって、目標電圧Vu*の正負が切り替わるタイミングを除けば、非還流期間において単相インバータ160を流れるインバータ電流Iduの極性は、正負のどちらかで固定となる。
以上の内容を踏まえて、電圧目標Vu*、巻線電流Iuおよびインバータ電流Iduの各波形について以下に説明する。図4は、電圧目標Vu*、巻線電流Iuおよびインバータ電流Iduの各波形の代表例を示す図である。図4において、上段には巻線電流Iuと電圧目標Vu*の波形例を示しており、下段にはこれらと同じタイミングでのインバータ電流Iduの波形例を示している。
図4の上段に示すように、(1)の期間では、巻線電流Iuと電圧目標Vu*が共に正である。このときのインバータ電流Iduは、非還流期間では+Iuとなり、還流期間ではゼロとなる。そのため、インバータ電流Iduの波形は、図4の下段に示すように、正の略短冊状の波形となる。
一方、図4の上段に示すように、(2)の期間では、巻線電流Iuが正であり、電圧目標Vu*が負である。このときのインバータ電流Iduは、非還流期間では−Iuとなり、還流期間ではゼロとなる。そのため、インバータ電流Iduの波形は、図4の下段に示すように、負の略短冊状の波形となる。
また、図4の上段に示すように、(3)の期間では、巻線電流Iuと電圧目標Vu*が共に負である。このときのインバータ電流Iduは、非還流期間では−Iuとなり、還流期間ではゼロとなる。そのため、インバータ電流Iduの波形は、(1)の期間と同様に、正の略短冊状の波形となる。
一方、図4の上段に示すように、(4)の期間では、巻線電流Iuが負であり、電圧目標Vu*が正である。このときのインバータ電流Iduは、非還流期間では+Iuとなり、還流期間ではゼロとなる。そのため、インバータ電流Iduの波形は、(2)の期間と同様に、負の略短冊状の波形となる。
なお、PWM制御の性質上、(1)〜(4)の各期間において還流期間と非還流期間がそれぞれ現れる位置は、PWMに用いる搬送波に同期する。
(PWM制御の問題点)
以上説明したようなPWM制御では、非還流期間に各単相インバータ160,170,180を流れるインバータ電流Idu,Idv,Idwがすべて同極性となり、かつ、各相の非還流期間や還流期間が互いに重なる場合がある。このような場合、各単相インバータ160,170,180が接続されている共通母線に流れる電流Idのリプルのレベルが過大に大きくなる。そのため、平滑キャパシタ110の過大な充放電を引き起こし、平滑キャパシタ110の温度上昇を不必要に招くという問題がある。
図5は、共通母線に流れる電流Idと平滑キャパシタ110に流れる電流Icとの関係を示す図である。図5において、上段には電流Id、下段には電流Icの変化の様子を、2周期分の時間ユニットについてそれぞれ示している。
図5上段において、最初の時間ユニット内でハッチングされた3つのブロックB1,B2,B3と、次の時間ユニット内でハッチングされた3つのブロックB4,B5,B6とは、非還流期間中に各単相インバータ160,170,180を流れるインバータ電流Idu,Idv,Idwをそれぞれ表している。これらは、図4に例示した短冊形状の波形にそれぞれ相当するものである。また、図中の太い破線は、時間ユニット中の平均電流を示している。
図5上段では、ブロックB1,B2,B3の右端の位置は、いずれも最初の時間ユニットの終了時刻(次の時間ユニットの開始時刻)t2であり、ブロックB4,B5,B6の右端の位置は、いずれも次の時間ユニットの終了時刻t3である。すなわち、すべての単相インバータ160,170,180について、非還流期間の終了時刻が各時間ユニットの終了時刻t2,t3に固定されている。そのため、各ブロックの幅が示す非還流期間の長さに関わらず、各時間ユニットの終了時刻付近において、共通母線の電流Idがピークとなる期間T1,T2がそれぞれ存在する。
一方、最初の時間ユニットのうち開始時刻t1からの期間TT1は、ブロックB1,B2,B3がいずれも存在しない期間であり、次の時間ユニットのうち開始時刻t2からの期間TT2は、ブロックB4,B5,B6がいずれも存在しない期間である。すなわち、これらの期間では、すべての単相インバータ160,170,180の還流期間が重なっており、その開始時刻は時間ユニットの開始時刻に固定されている。そのため、各時間ユニットの開始時刻で共通母線の電流Idがゼロとなる。
以上説明したように、共通母線に流れる電流Idは各時間ユニット内で大きく増減し、これに応じて図5下段に示すように、平滑キャパシタ110の充放電電流Icの変動も大きくなる。そのため、平滑キャパシタ110の充放電量が増加し、平滑キャパシタ110の発熱が加速する。従来のPWM制御では、このような問題が生じる可能性がある。特に、単相インバータ160,170,180の搬送波が揃っているときには、こうした現象が発現しやすくなる。
なお、図5上段に破線で示した電流Idの値は、ブロックB1,B2,B3とブロックB4,B5, B6とを時間ユニット内でそれぞれならしたときの高さを表しており、これは電流Idの平均値を示している。この平均値と共通母線上の電流Idの瞬時値との差が、平滑キャパシタ110に流れる電流Icに相当する。
(本発明の概要)
上記のように、従来のPWM制御では、各相の非還流期間や還流期間が同じタイミングにそれぞれ集中した場合に、平滑キャパシタ110の過大な温度上昇につながるという問題がある。そこで、本発明では、こうした従来のPWM制御の問題点を解決するために、各相の非還流期間を互いにずらして再配置し、複数の相について非還流期間が重なり合う期間を減らすことで、各相の非還流期間や還流期間がなるべく同じタイミングに集中しないようにする。これにより、共通母線の電流Idのリプルを改善し、それによって平滑キャパシタ110の充放電量を減らして、平滑キャパシタ110の温度上昇を抑える。
図6は、本発明による非還流期間の再配置方法の一例を説明するための図である。図6上段には、図5上段に示したブロックB1,B2,B3を最初の時間ユニット内で再配置すると共に、ブロックB4,B5,B6を次の時間ユニット内で再配置した様子を示している。具体的には、最初の時間ユニットでは、ブロックB3を元の位置に固定して、これに対する残りの還流期間内にブロックB1,B2をそれぞれ移動している。一方、次の時間ユニットでは、ブロックB6を元の位置に固定して、これに対する残りの還流期間内にブロックB4,B5をそれぞれ移動している。なお、ブロックB5については、還流期間内に再配置できない分を分割して、ブロックB4,B6にそれぞれ重ねている。
図6下段には、再配置後の平滑キャパシタ110の充放電電流Icを示している。これは、図中に破線で示した再配置前の充放電電流Ic(図5下段に示した充放電電流Ic)と比べて、全体的に変動幅が小さくなっている。したがって、平滑キャパシタ110の充放電を減らして、平滑キャパシタ110の温度上昇を抑えることができることが分かる。
なお、上記のような非還流期間の再配置は、たとえばPWMの搬送波の位相を進めること(進角)、または遅らせること(遅角)によって実現可能である。ただし、図6で説明したような非還流期間の再配置方法を実現するためには、時間ユニット毎にPWMの搬送波を調整する必要がある。
図7は、本発明による非還流期間の再配置方法の別の一例を説明するための図である。図7には、図6で説明したのとは別の方法により、図5上段に示したブロックB1,B2,B3を最初の時間ユニット内で再配置すると共に、ブロックB4,B5,B6を次の時間ユニット内で再配置した様子を示している。具体的には、最初の時間ユニットでは、ブロックB2の開始位置を時間ユニットの開始時刻に合わせると共に、ブロックB3の終了位置を時間ユニットの終了位置に合わせている。一方、次の時間ユニットでは、ブロックB5の開始位置を時間ユニットの開始時刻に合わせると共に、ブロックB6の終了位置を時間ユニットの終了位置に合わせている。
図7において、最初の時間ユニットでは、開始時刻を指定したブロックB2と終了時刻を指定したブロックB3との重なりはない。したがって、残りのブロックB1をどの位置に配置しても、3つのブロックB1,B2,B3が重なることはないので、図5上段に示したピーク期間T1のような状態は生じず、共通母線の電流Idの上側のピークを低く抑えられる。また、共通母線の電流Idがゼロとなる期間TT3について、図5上段に示した期間TT1よりも短くすることができる。これにより、電流Idの下側のリプル幅を狭めて、電流Idの変動を抑えることができる。
一方、次の時間ユニットでは、開始時刻を指定したブロックB5と終了時刻を指定したブロックB6との重なりが生じている。したがって、残りのブロックB4をさらに重ねるように配置しても、その重なり部分の幅が示すピーク期間T3について、図5上段に示したピーク期間T2よりも短くすることができる。これにより、電流Idの上側のリプル幅を狭めて、電流Idの変動を抑えることができる。また、共通母線の電流Idがゼロとなる期間がないため、電流Idの下側のピークを低く抑えられる。
以上説明したような方法でも、平滑キャパシタ110の充放電を減らして、平滑キャパシタ110の温度上昇を抑えることができる。
なお、上記のような非還流期間の再配置についても、図6で説明した方法と同様に、たとえばPWMの搬送波の進角または遅角によって実現可能である。さらに、図6で説明した方法とは異なり、時間ユニット毎にPWMの搬送波を調整する必要はなく、たとえば、システム起動時に搬送波の位相を一度決定すればよい。そのため、より簡易な制御で実現可能である。
本発明では、以上説明したように、3相全ての還流期間が重なって共通母線の電流Idがゼロとなる期間がある場合、いずれか1相または2相の非還流期間の少なくとも一部が当該期間に再配置されるにように、非還流期間を再配置する。これにより、共通母線の電流Idのリプルを減らして、平滑キャパシタ110の過大な温度上昇を防ぐようにする。なお、非還流期間の再配置には、図6、7でそれぞれ例示したもの以外にも、様々な方法を用いることができる。この点については、後で詳しく説明する。
(制御器の内部構成)
図8は、以上説明した非還流期間の再配置を実現するための制御器150の内部構成を示す図である。図1に示したインバータ100において、制御器150は図8に示すように、U相、V相、W相にそれぞれ対応するPWMカウンタ151,152,153と、PWMカウンタ151,152,153にそれぞれ接続された乗算器154,155,156と、搬送波生成器157と、搬送波進角調整器158とを有している。
制御器150において、PWMカウンタ151,152,153には、不図示の演算器で算出されたU相の目標電圧Vu*,V相の目標電圧Vv*,W相の目標電圧Vw*がそれぞれ入力される。また、これらの目標電圧Vu*,Vv*,Vw*は、搬送波進角調整器158にも入力される。
搬送波進角調整器158は、電流センサ141,142,143からそれぞれ入力された巻線電流の測定値Iu^,Iv^,Iw^と、目標電圧Vu*,Vv*,Vw*とに基づいて、前述のような非還流期間の再配置を行うための進角指示値Ta,Tb,Tcを算出し、これらを搬送波生成器157に出力する。進角指示値Taは、U相の非還流期間を調整するための指示値であり、進角指示値Tbは、V相の非還流期間を調整するための指示値であり、進角指示値Tcは、W相の非還流期間を調整するための指示値である。これらの指示値の具体的な算出方法については、後で詳細に説明する。
搬送波生成器157は、搬送波進角調整器158から入力された進角指示値Ta,Tb,Tcに基づいて、振幅が1であるPWM用の搬送波Ca,Cb,Ccを生成し、乗算器154,155,156にそれぞれ出力する。具体的には、進角指示値Ta,Tb,Tcを用いて、以下の式(4)、(5)、(6)に従って、搬送波Ca,Cb,Ccの位相をそれぞれ調整する。この搬送波Ca,Cb,Ccは、図8に示すように、互いに位相が半周期ずれている一対の三角波によって構成される。式(4)、(5)、(6)において、右辺のf(t+α)(ただしα=Ta,TbまたはTc)は、時間tを変数とする図中に示したような三角波の周期関数を表している。なお、ここでは搬送波に三角波を用いた場合を例示したが、三角波ではなく鋸波を用いてもよい。
Ca = f( t + Ta) ・・・(4)
Cb = f( t + Tb) ・・・(5)
Cc = f( t + Tc) ・・・(6)
乗算器154,155,156は、搬送波生成器157から入力された搬送波Ca,Cb, Ccに対して、バッテリ電圧Edを半分にした値Ed/2をそれぞれ乗算することにより、搬送波Ca,Cb,Ccの振幅をそれぞれ調整し、PWMカウンタ151,152,153にそれぞれ出力する。
PWMカウンタ151は、乗算器154によって振幅を調整された搬送波Caと目標電圧Vu*に基づいて、ゲート信号Guを生成する。同様に、PWMカウンタ152は、乗算器155によって振幅を調整された搬送波Cbと目標電圧Vv*に基づいて、ゲート信号Gvを生成する。また、PWMカウンタ153は、乗算器156によって振幅を調整された搬送波Ccと目標電圧Vw*に基づいて、ゲート信号Gwを生成する。生成されたゲート信号Gu,Gv,Gwは、図1の単相インバータ160,170,180にそれぞれ出力される。
PWMカウンタ151,152,153の動作についてさらに説明する。なお、PWMカウンタ151,152,153は、同様の動作により、ゲート信号Gu,Gv,Gwをそれぞれ生成する。そのため、以下ではPWMカウンタ151を代表例として、その動作を説明する。
前述したように、独立巻線210に対する印加電圧Vuの極性を図2に示した方向で定義した場合、独立巻線210の左端子側の目標電圧をVul*とし、右端子側の目標電圧をVur*とすると、印加電圧Vuに対する目標電圧Vu*は以下の式(7)で表される。
Vu* = Vul* − Vur* ・・・(7)
PWMカウンタ151は、乗算器154から入力される振幅調整後の搬送波Caを用いてゲート信号Guを生成する。このゲート信号Guに応じて、単相インバータ160のスイッチ素子Q1,Q2,Q3,Q4がそれぞれオンまたはオフされることで、独立巻線210の右端子側と左端子側に、上記の式(7)で表される目標電圧Vul*,Vur*に応じた電圧Vul,Vurが生じる。すなわち、PWMカウンタ151は、ゲート信号Guを介して単相インバータ160の各スイッチ素子Q1,Q2,Q3,Q4を点弧または消弧し、これによって目標電圧Vul*,Vur*に応じた電圧Vul,Vurを独立巻線210の両側に発生させる。このようにして、目標電圧Vu*に応じた電圧Vuを独立巻線210に印加する。
図9は、PWMカウンタ151によるゲート信号Guの決定方法を説明するために、目標電圧Vul*,Vur*に対して独立巻線210の両側にそれぞれ印加される電圧Vul,Vurの例を示した図である。上段の図9(a)は、PWMの搬送波と目標電圧Vul*,Vur*との関係を示しており、下段の図9(b)は、電圧Vul,Vurの変化の様子を示している。
図9(a)において、実線で示した三角波は、振幅調整後の搬送波CaとしてPWMカウンタ151に入力される一対の三角波のうち、電圧Vulの生成に用いられる方の三角波を表している。PWMカウンタ151は、目標電圧Vul*をこの三角波の電圧Va1と比較して、Vul*>Va1であれば、電圧Vulを+1/2Edとするために、スイッチ素子Q1をオン、スイッチ素子Q2をオフとするゲート信号Guを出力する。一方、Vul*≦Va1であれば、電圧Vulを−1/2Edとするために、スイッチ素子Q1をオフ、スイッチ素子Q2をオンとするゲート信号Guを出力する。
また、図9(a)において、破線で示したもう一方の三角波は、振幅調整後の搬送波CaとしてPWMカウンタ151に入力される一対の三角波のうち、電圧Vurの生成に用いられる方の三角波を表している。PWMカウンタ151は、目標電圧Vur*をこの三角波の電圧Va2と比較して、Vur*>Va2であれば、電圧Vurを+1/2Edとするために、スイッチ素子Q3をオン、スイッチ素子Q4をオフとするゲート信号Guを出力する。一方、Vur*≦Va2であれば、電圧Vurを−1/2Edとするために、スイッチ素子Q3をオフ、スイッチ素子Q4をオンとするゲート信号Guを出力する。
上記のようにして決定されたゲート信号GuがPWMカウンタ151から単相インバータ160に出力されることで、図9(b)に示すように、独立巻線210の両側における電圧Vul,Vurがそれぞれ変化する。その結果、独立巻線210の印加電圧Vuは、図9(b)において太線で示したように、+Ed、0、−Edの間で変化する。このときの印加電圧Vuの瞬時値は、電圧Vul,Vurを用いて、前述の式(3)で表すことができる。
ここで、以上説明したような方法では、搬送波Caの1周期中にスイッチ素子Q1,Q2,Q3,Q4の切り替えが合計で4回発生するため、スイッチング損失が大きくなる。そのため通常は、目標電圧Vul*,Vur*を全体的にシフトして、目標電圧Vul*またはVur*を搬送波Caの上端または下端側に固定することで、搬送波Caの1周期中に行われるスイッチ素子Q1,Q2,Q3,Q4の切り替え回数を2回に減らすことが好ましい。これを踏まえて、図10は、目標電圧Vur*を搬送波Caの下端側に固定した場合に、目標電圧Vul*,Vur*に対して独立巻線210の両側にそれぞれ印加される電圧Vul,Vurの例を示した図である。また、図11は、目標電圧Vul*を搬送波Caの上端側に固定した場合に、目標電圧Vul*,Vur*に対して独立巻線210の両側にそれぞれ印加される電圧Vul,Vurの例を示した図である。このようにしても、印加電圧Vuのパターンは同じであって差は生じない。
以上説明したように、図10、11に示した方法では、搬送波Caは二重の三角波で構成されているものの、PWMで実際に使用される三角波はそのうち1つのみである。図12は、この場合の搬送波と目標電圧Vu*の関係を示した図である。
次に、搬送波進角調整器158における進角指示値Ta,Tb,Tcの算出方法について説明する。搬送波進角調整器158は、U相、V相、W相の各非還流期間について、それぞれの幅Wu,Wv,Wwと高さHu,Hv,Hwとを、以下の式(8)、(9)、(10)により算出する。これらの式において、sign(β)(ただしβ=Vu*,Vv*またはVw*)は、符号関数を表している。
(Wu,Hu) = ( |Vu*|/Ed, sign(Vu*)×Iu^) ・・・(8)
(Wv,Hv) = ( |Vv*|/Ed, sign(Vv*)×Iv^) ・・・(9)
(Ww,Hw) = ( |Vw*|/Ed, sign(Vw*)×Iw^) ・・・(10)
ここで、前述の図12に示したように、搬送波Ca,Cb,Ccをそれぞれ構成する一対の三角波のうち、一方の三角波のみを実際に使用して、各相のPWM制御を実現できる。そのため、式(8)、(9)、(10)のように、目標電圧Vu*,Vv*,Vw*の絶対値をバッテリ電圧Edでそれぞれ割ることにより、各相の非還流期間の幅Wu,Wv,Wwを算出することができる。なお、式(8)、(9)、(10)で算出される非還流期間の幅Wu,Wv,Wwは、搬送波の周期すなわち時間ユニットに合わせて、0から1の間の値を取るように正規化されている。
また、前述の図3に示したように、非還流期間において単相インバータ160,170,180には、目標電圧Vu*,Vv*,Vw*の極性に応じた向きの実電流がそれぞれ流れる。そのため、式(8)、(9)、(10)のように、巻線電流の測定値Iu^,Iv^,Iw^に目標電圧Vu*,Vv*,Vw*の符号関数をそれぞれ掛けることにより、各相の非還流期間の高さHu,Hv,Hwを算出することができる。なお、各相の非還流期間の高さHu,Hv,Hwは、各相のインバータ電流Idu,Idv,Idwの大きさを表している。
以上説明したようにして、各相の非還流期間の幅Wu,Wv,Wwおよび高さHu,Hv,Hwを算出したら、搬送波進角調整器158は、これらの算出結果に基づいて、各相の非還流期間が適切な位置に再配置されるように、各相の進角指示値Ta,Tb,Tcを算出する。
各相の進角指示値Ta,Tb,Tcの算出方法について以下に説明する。各相の進角指示値Ta,Tb,Tcは、たとえば前述の図6、7で説明したような方法に従って各相の非還流期間を再配置するための値として算出されるが、非還流期間の再配置方法には、既に説明した以外にも様々なものが存在する。以下に説明する各実施形態では、様々な再配置方法に応じた進角指示値の算出方法をそれぞれ説明する。なお、以下の各実施形態では、いずれも搬送波に三角波を用いたPWM制御の場合を例として説明を行うこととする。
(第1の実施形態)
以下に説明する第1の実施形態では、各相の非還流期間の幅を考慮して、各相の非還流期間を互いにずらして再配置する例を説明する。
図13は、本発明の第1の実施形態による進角指示値の算出方法を説明するためのフローチャートを示す図である。
ステップS1において、搬送波進角調整器158は、U相の進角指示値Taをゼロに設定する。
ステップS2において、搬送波進角調整器158は、U相の非還流期間に続いてV相の非還流期間を配置できるかどうかの判断として、U相の非還流期間の幅WuとV相の非還流期間の幅Wvの合計値が1未満であるか否かを判定する。その結果、1未満であれば配置可能と判断してステップS3に進み、そうでなければ配置不可能と判断してステップS4に進む。
ステップS3において、搬送波進角調整器158は、U相の非還流期間に続いてV相の非還流期間を配置するために、V相の進角指示値Tbを以下の式(11)に従って設定する。式(11)において、Tは時間ユニットの長さを表している。ステップS3を実行したら、ステップS5に進む。
Tb = (Wu + Wv/2)×T ・・・(11)
ステップS4において、搬送波進角調整器158は、V相の非還流期間とW相の非還流期間をU相の非還流期間から180°ずらして配置するために、V相の進角指示値Tb、W相の進角指示値Tcを時間ユニットの長さTの半分にそれぞれ設定する。このときU相の非還流期間とV相の非還流期間には、互いに重なり合う部分が必ず存在する。そのため、共通母線に流れる電流Idが時間ユニット内でゼロとなることはない。ステップS4を実行したら、図13のフローチャートを終了する。
ステップS5において、搬送波進角調整器158は、U相およびV相の非還流期間に続いてW相の非還流期間を配置できるかどうかの判断として、U相の非還流期間の幅WuとV相の非還流期間の幅WvとW相の非還流期間の幅Wwとの合計値が1未満であるか否かを判定する。その結果、1未満であれば配置可能と判断してステップS6に進み、そうでなければ配置不可能と判断してステップS7に進む。
ステップS6において、搬送波進角調整器158は、U相、V相の非還流期間に続いてさらにW相の非還流期間を配置するために、W相の進角指示値Tbを以下の式(12)に従って設定する。ステップS6を実行したら、図13のフローチャートを終了する。
Tc = (Wu + Wv + Wv/2)×T ・・・(12)
ステップS7において、搬送波進角調整器158は、W相の非還流期間をU相の非還流期間から位相を180°ずらして配置するために、W相の進角指示値Tcを時間ユニットの長さTの半分に設定する。このときU相またはV相の非還流期間とW相の非還流期間には、互いに重なり合う部分が必ず存在する。そのため、共通母線に流れる電流Idが時間ユニット内でゼロとなることはない。ステップS7を実行したら、図13のフローチャートを終了する。
以上説明したように、第1の実施形態では、各相の非還流期間の幅を考慮して、各相の非還流期間を互いにずらして再配置し、各相の進角指示値Ta,Tb,Tcを算出する。このように各相の非還流期間を扱うことで、共通母線上の直流電流Idがゼロとなる期間がある場合、2つ以上の相について非還流期間が重ならないようにモータ200を駆動することができる。その結果、平滑キャパシタ110の充放電を抑制して、過大な温度上昇を抑制できる。
(第2の実施形態)
以下に説明する第2の実施形態では、各相の非還流期間を固定の位置に再配置する例を説明する。
本実施形態では、たとえば、U相の進角指示値Taをゼロとし、W相の進角指示値Tcを時間ユニットの長さTの半分であるT/2に設定する。これにより、U相の非還流期間をそのままとして、W相の非還流期間を時間ユニットの開始時刻に合わせて再配置する。なお、V相の進角指示値Tbには、任意の値を設定することができる。
以上説明したように、第2の実施形態では、W相の非還流期間を選択し、その非還流期間を時間ユニットの終了時刻に合わせて再配置することで各相の非還流期間を互いにずらすように、各相の進角指示値Ta,Tb,Tcを算出する。その結果、U相の非還流期間とW相の非還流期間とが互いに重なり合う時間を最小化して、3相の非還流期間がなるべく重ならないようにモータ200を駆動することができる。したがって、平滑キャパシタ110の充放電を抑制して、過大な温度上昇を抑制できる。また、各相の進角指示値を時間ユニットごとに設定する必要がないため、第1の実施形態の場合と比べて、処理を簡素化できるという利点もある。
なお、上記の実施形態では、U相の進角指示値Taをゼロとする一方で、W相の進角指示値TcをT/2に設定する例を説明したが、このような進角指示値の設定をそれぞれ別々の相に対して行ってもよい。また、上記の実施形態では、いずれか1相(上記の例ではW相)の進角指示値をT/2に設定することで、その相の非還流期間を時間ユニットの開始時刻に合わせて再配置するようにした。しかし、いずれか1相の進角指示値を−T/2に設定することで、その相の非還流期間を時間ユニットの終了時刻に合わせて再配置することもできる。このようにしても、上記と同様の効果が得られる。すなわち、本実施形態では、いずれか1相の非還流期間を選択し、その非還流期間を時間ユニットの開始時刻または終了時刻に合わせて再配置することで、各相の非還流期間を互いにずらすことができる。
(第3の実施形態)
以下に説明する第3の実施形態では、各相のインバータ電流Idu,Idv,Idwの大きさを考慮して、各相の非還流期間を再配置する例を説明する。図14は、本発明の第3の実施形態による進角指示値の算出方法を示した表である。
本実施形態では、前述の式(8)、(9)、(10)で算出される各相の非還流期間の高さHu,Hv,Hwを比較することで、インバータ電流が最大となる相を特定する。その結果を踏まえて、図14の表に示したように、インバータ電流が最大となる相の進角指示値をT/2とし、他の相の進角指示値をゼロとして、各相の進角指示値Ta,Tb,Tcを設定する。これにより、インバータ電流が最大となる相の非還流期間を時間ユニットの開始時刻に合わせて再配置する。
以上説明したように、第3の実施形態では、インバータ電流が最大となる相の非還流期間を選択し、その非還流期間を時間ユニットの開始時刻に合わせて再配置することで各相の非還流期間を互いにずらすように、各相の進角指示値Ta,Tb,Tcを算出する。その結果、図6、7のようなブロックで示される高さが最大の非還流期間に他の非還流期間が重なり合う時間を最小化して、モータ200を駆動することができる。したがって、共通母線に流れる電流Idのピーク特性を改善し、平滑キャパシタ110の充放電を抑制して、過大な温度上昇を抑制できる。なお、インバータ電流が最大となる相は、モータ200の1回転、すなわち1電気角周期ごとに、6回ずつ入れ替わる。そのため、本実施形態では、搬送波の位相をモータ200の回転周期ごとに6回変化させる必要がある。
なお、上記の実施形態では、インバータ電流が最大となる相の進角指示値をT/2に設定することで、その相の非還流期間を時間ユニットの開始時刻に合わせて再配置するようにした。しかし、インバータ電流が最大となる相の進角指示値を−T/2に設定することで、その相の非還流期間を時間ユニットの終了時刻に合わせて再配置することもできる。このようにしても、上記と同様の効果が得られる。すなわち、本実施形態では、インバータ電流が最大となる相の非還流期間を選択し、その非還流期間を時間ユニットの開始時刻または終了時刻に合わせて再配置することで、各相の非還流期間を互いにずらすことができる。
(第4の実施形態)
以下に説明する第4の実施形態では、各相のインバータ電流Idu,Idv,Idwの大きさを考慮して、前述の第3の実施形態とは異なる方法で各相の非還流期間を再配置する例を説明する。図15は、本発明の第4の実施形態による進角指示値の算出方法を示した表である。
本実施形態では、前述の式(8)、(9)、(10)で算出される各相の非還流期間の高さHu,Hv,Hwを比較することで、インバータ電流が最大となる相と、2番目に大きくなる相とを特定する。その結果を踏まえて、図15の表に示したように、インバータ電流が最大となる相の進角指示値と2番目に大きくなる相の進角指示値とを、前述の式(8)、(9)、(10)で算出される各相の非還流期間の幅Wu,Wv,Wwに基づいて、それぞれ表中の数式に従って算出することで、各相の進角指示値Ta,Tb,Tcを設定する。なお、残りの相の進角指示値には、任意の値(たとえばゼロ)を設定することができる。これにより、インバータ電流が最大となる相の非還流期間の開始時刻を時間ユニットの開始時刻に合わせて再配置すると共に、インバータ電流が2番目に大きくなる相の非還流期間の終了時刻を時間ユニットの終了時刻に合わせて再配置する。
以上説明したように、第4の実施形態では、インバータ電流が最大となる相の非還流期間に加えて、インバータ電流が2番目に大きくなる相の非還流期間をさらに選択する。そして、これらの非還流期間を時間ユニットの開始時刻と終了時刻にそれぞれ合わせて異なる位置に再配置することで各相の非還流期間を互いにずらすように、各相の進角指示値Ta,Tb,Tcを算出する。その結果、高さが最大の非還流期間と次点の高さの非還流期間とが重なり合う時間を最小化して、モータ200を駆動することができる。したがって、共通母線に流れる電流Idのピーク特性を改善し、平滑キャパシタ110の充放電を抑制して、過大な温度上昇を抑制できる。なお、インバータ電流が最大となる相と2番目に大きくなる相との組み合わせは、モータ200の1回転、すなわち1電気角周期ごとに、12回ずつ入れ替わる。そのため、本実施形態では、搬送波の位相をモータ200の回転周期ごとに12回変化させる必要がある。
なお、上記の実施形態では、インバータ電流が最大となる相の進角指示値と、インバータ電流が2番目に大きくなる相の進角指示値とを、図15に示した表中の式に基づいてそれぞれ設定することで、これらの相の非還流期間を時間ユニットの開始時刻と終了時刻にそれぞれ合わせて再配置するようにした。しかし、表中の式の正負をそれぞれ逆転させることで、これらの相の非還流期間を時間ユニットの終了時刻と開始時刻にそれぞれ合わせて再配置することもできる。このようにしても、上記と同様の効果が得られる。すなわち、本実施形態では、インバータ電流が最大となる相と2番目に大きくなる相の非還流期間を選択し、これらを時間ユニットの開始時刻と終了時刻に分けてそれぞれに合わせて再配置することで、各相の非還流期間を互いにずらすことができる。
(第5の実施形態)
以下に説明する第5の実施形態では、各相のインバータ電流Idu,Idv,Idwの大きさを考慮して、前述の第3、第4の実施形態とは異なる方法で各相の非還流期間を再配置する例を説明する。図16は、本発明の第5の実施形態による進角指示値の算出方法を示した表である。
本実施形態では、前述の式(8)、(9)、(10)で算出される各相の非還流期間の高さHu,Hv,Hwを比較することで、インバータ電流が最小となる相を特定し、そのインバータ電流の極性と他の2相のインバータ電流の極性とが一致するか否かを判定する。なお、このとき他の2相のインバータ電流の極性は同一であるものとする。その結果、これらのインバータ電流の極性が一致すると判定した場合に、図16の表に示したように、インバータ電流が最大となる相の進角指示値と、2番目に大きくなる相の進角指示値と、最小となる相の進角指示値とを、前述の式(8)、(9)、(10)で算出される各相の非還流期間の幅Wu,Wv,Wwに基づいて、それぞれ表中の数式に従って算出することで、各相の進角指示値Ta,Tb,Tcを設定する。これにより、インバータ電流が最大となる相の非還流期間の開始時刻を時間ユニットの開始時刻に合わせて再配置すると共に、インバータ電流が2番目に大きくなる相の非還流期間および最小となる相の非還流期間の終了時刻を時間ユニットの終了時刻に合わせてそれぞれ再配置する。すなわち、インバータ電流が最小となる相の非還流期間を2番目に大きくなる相の非還流期間に合わせて、これらを共に時間ユニットの終了時刻に揃えて再配置する。
以上説明したように、第5の実施形態では、インバータ電流が最小となる相の非還流期間を選択し、その非還流期間でのインバータ電流の極性と他の2相の非還流期間でのインバータ電流の極性とが一致するか否かを判定する。これらが一致する場合、当該非還流期間をインバータ電流が2番目に大きくなる相の非還流期間に合わせて再配置することで各相の非還流期間を互いにずらすように、各相の進角指示値Ta,Tb,Tcを算出する。その結果、高さが最大の非還流期間を避けて、次点の高さの非還流期間に残りの非還流期間を重ねるようにして、モータ200を駆動することができる。したがって、共通母線に流れる電流Idのピーク特性を改善し、平滑キャパシタ110の充放電を抑制して、過大な温度上昇を抑制できる。また、インバータ電流が2番目に大きくなる相と最小となる相とで同じ進角指示値を設定すればよいため、第4の実施形態の場合と比べて、搬送波の位相を変化させる回数を減らして、処理を簡素化できるという利点もある。
なお、上記の実施形態では、インバータ電流が最大となる相の進角指示値と、インバータ電流が2番目に大きくなる相の進角指示値および最小となる相の進角指示値とを、図16に示した表中の式に基づいてそれぞれ設定することで、これらの相の非還流期間を時間ユニットの開始時刻と終了時刻にそれぞれ合わせて再配置するようにした。しかし、表中の式の正負をそれぞれ逆転させることで、これらの相の非還流期間を時間ユニットの終了時刻と開始時刻にそれぞれ合わせて再配置することもできる。このようにしても、上記と同様の効果が得られる。すなわち、本実施形態では、インバータ電流が最大となる相と2番目に大きくなる相の非還流期間を選択し、これらを時間ユニットの開始時刻と終了時刻に分けてそれぞれに合わせて再配置すると共に、インバータ電流が最小となる相の非還流期間をさらに選択し、これをインバータ電流が2番目に大きくなる相の非還流期間に合わせて再配置することで、各相の非還流期間を互いにずらすことができる。
(第6の実施形態)
以下に説明する第6の実施形態では、前述の第5の実施形態と同様にインバータ電流の極性を判定した結果、最小インバータ電流の極性と他の2相のインバータ電流の極性とが一致しない場合に、各相の非還流期間を再配置する例を説明する。図17は、本発明の第6の実施形態による進角指示値の算出方法を示した表である。
本実施形態では、前述の第5の実施形態と同様に、式(8)、(9)、(10)で算出される各相の非還流期間の高さHu,Hv,Hwを比較することで、インバータ電流が最小となる相を特定し、そのインバータ電流の極性と他の2相のインバータ電流の極性とが一致するか否かを判定する。その結果、これらのインバータ電流の極性が一致しないと判定した場合に、図17の表に示したように、インバータ電流が最大となる相の進角指示値と、2番目に大きくなる相の進角指示値と、最小となる相の進角指示値とを、前述の式(8)、(9)、(10)で算出される各相の非還流期間の幅Wu,Wv,Wwに基づいて、それぞれ表中の数式に従って算出することで、各相の進角指示値Ta,Tb,Tcを設定する。これにより、インバータ電流が最大となる相の非還流期間および最小となる相の非還流期間の開始時刻を時間ユニットの開始時刻に合わせてそれぞれ再配置すると共に、インバータ電流が2番目に大きくなる相の非還流期間の終了時刻を時間ユニットの終了時刻に合わせて再配置する。すなわち、インバータ電流が最小となる相の非還流期間を最大となる相の非還流期間に合わせて、これらを共に時間ユニットの開始時刻に揃えて再配置する。
以上説明したように、第6の実施形態では、インバータ電流が最小となる相の非還流期間を選択し、その非還流期間でのインバータ電流の極性と他の2相の非還流期間でのインバータ電流の極性とが一致するか否かを判定する。これらが異なる場合、当該非還流期間をインバータ電流が最大となる相の非還流期間に合わせて再配置することで各相の非還流期間を互いにずらすように、各相の進角指示値Ta,Tb,Tcを算出する。その結果、高さが最大の非還流期間に逆極性の非還流期間を重ねるようにして、モータ200を駆動することができる。したがって、共通母線に流れる電流Idのピーク特性を改善し、平滑キャパシタ110の充放電を抑制して、過大な温度上昇を抑制できる。
なお、上記の実施形態では、インバータ電流が最大となる相の進角指示値および最小となる相の進角指示値と、インバータ電流が2番目に大きくなる相の進角指示値とを、図17に示した表中の式に基づいてそれぞれ設定することで、これらの相の非還流期間を時間ユニットの開始時刻と終了時刻にそれぞれ合わせて再配置するようにした。しかし、表中の式の正負をそれぞれ逆転させることで、これらの相の非還流期間を時間ユニットの終了時刻と開始時刻にそれぞれ合わせて再配置することもできる。このようにしても、上記と同様の効果が得られる。すなわち、本実施形態では、インバータ電流が最大となる相と2番目に大きくなる相の非還流期間を選択し、これらを時間ユニットの開始時刻と終了時刻に分けてそれぞれに合わせて再配置すると共に、インバータ電流が最小となる相の非還流期間をさらに選択し、これをインバータ電流が最大となる相の非還流期間に合わせて再配置することで、各相の非還流期間を互いにずらすことができる。
(第7の実施形態)
以下に説明する第7の実施形態では、前述の第5の実施形態と同様にインバータ電流の極性を判定した結果、最小インバータ電流の極性と他の2相のインバータ電流の極性とが一致しない場合に、前述の第6の実施形態とは異なる方法で各相の非還流期間を再配置する例を説明する。図18は、本発明の第7の実施形態による進角指示値の算出方法を示した表である。
本実施形態では、前述の第5、第6の実施形態と同様に、式(8)、(9)、(10)で算出される各相の非還流期間の高さHu,Hv,Hwを比較することで、インバータ電流が最小となる相を特定し、そのインバータ電流の極性と他の2相のインバータ電流の極性とが一致するか否かを判定する。その結果、これらのインバータ電流の極性が一致しないと判定した場合に、図18の表中に示した確認条件を満たすか否かを判定する。この確認条件は、インバータ電流が最大となる相の非還流期間と2番目に大きくなる相の非還流期間とが互いに重なっているか否かを確認するための条件式である。その結果、確認条件を満たさないと判定した場合は、これらの非還流期間は重なり合っていないと判断し、第6の実施形態で説明した方法に従って、各相の進角指示値Ta,Tb,Tcを設定する。
一方、確認条件を満たすと判定した場合、インバータ電流が最大となる相の非還流期間と2番目に大きくなる相の非還流期間とで重なり合う部分があると判断する。この場合、図18の表に示したように、インバータ電流が最大となる相の進角指示値と、2番目に大きくなる相の進角指示値と、最小となる相の進角指示値とを、前述の式(8)、(9)、(10)で算出される各相の非還流期間の幅Wu,Wv,Wwに基づいて、それぞれ表中の数式に従って算出することで、各相の進角指示値Ta,Tb,Tcを設定する。これにより、インバータ電流が最大となる相の非還流期間の開始時刻を時間ユニットの開始時刻に合わせて再配置すると共に、インバータ電流が2番目に大きくなる相の非還流期間の終了時刻を時間ユニットの終了時刻に合わせて再配置する。さらに、インバータ電流が最小となる相の非還流期間については、他の2相の非還流期間が重なり合う期間を求め、その期間の中心に合わせて再配置する。
以上説明したように、第7の実施形態では、インバータ電流が最大となる相の非還流期間と2番目に大きくなる相の非還流期間とが重なるか否かを判定する。これらが重なる場合、その重なり期間に合わせてインバータ電流が最小となる相の非還流期間を再配置することで各相の非還流期間を互いにずらすように、各相の進角指示値Ta,Tb,Tcを算出する。その結果、高さが最大の非還流期間と次点の高さの非還流期間との重なり期間に逆極性の非還流期間を重ねるようにして、モータ200を駆動することができる。したがって、共通母線に流れる電流Idのピーク特性を改善し、平滑キャパシタ110の充放電を抑制して、過大な温度上昇を抑制できる。
なお、上記の実施形態では、インバータ電流が最大となる相の進角指示値と、インバータ電流が2番目に大きくなる相の進角指示値とを、図18に示した表中の式に基づいてそれぞれ設定することで、これらの相の非還流期間を時間ユニットの開始時刻と終了時刻にそれぞれ合わせて再配置するようにした。しかし、表中の式の正負をそれぞれ逆転させることで、これらの相の非還流期間を時間ユニットの終了時刻と開始時刻にそれぞれ合わせて再配置することもできる。このようにしても、上記と同様の効果が得られる。すなわち、本実施形態では、インバータ電流が最大となる相と2番目に大きくなる相の非還流期間を選択し、これらを時間ユニットの開始時刻と終了時刻に分けてそれぞれに合わせて再配置すると共に、インバータ電流が最小となる相の非還流期間をさらに選択し、これを他の2相の非還流期間の重なり期間に合わせて再配置することで、各相の非還流期間を互いにずらすことができる。
なお、上記の各実施形態では、搬送波に三角波を用いたPWM制御の場合の例をそれぞれ説明したが、搬送波に鋸波を用いたPWM制御の場合にも適用可能である。この場合、再配置前の各相の非還流期間は、時間ユニットの開始時刻または終了時刻に合わせて配置されている。そのため、いずれかの相の非還流期間を時間ユニットの開始時刻または終了時刻に合わせて再配置するためには、進角指示値をゼロとすればよい。
以上説明した各実施形態や各種の変化例はあくまで一例であり、発明の特徴が損なわれない限り、本発明はこれらの内容に限定されない。