以下、本発明の一実施形態を図1〜図10(B)に基づいて説明する。
図1には、本発明の露光方法が適用される一実施形態に係る露光装置100の概略構成が示されている。この露光装置100は、ステップ・アンド・スキャン方式の投影露光装置である。この露光装置100は、照明系10、マスクとしてのレチクルRが載置されるレチクルステージRST、投影光学系PL、物体としてのウエハWが搭載されるウエハステージWST、アライメント検出系AS、及び装置全体を統括制御する主制御装置20等を備えている。
前記照明系10は、例えば特開平2001−313250号公報及びこれに対応する米国特許出出願公開第2003/0025890号等に開示されるように、光源、オプティカル・インテグレータを含む照度均一化光学系、リレーレンズ、可変NDフィルタ、可変視野絞り(レチクルブラインド又はマスキング・ブレードとも呼ばれる)、及びダイクロイックミラー等(いずれも不図示)を含んで構成されている。オプティカル・インテグレータとしては、フライアイレンズ、ロッドインテグレータ(内面反射型インテグレータ)、あるいは回折光学素子などが用いられる。
この照明系10では、回路パターン等が描かれたレチクルR上で、レチクルブラインドで規定されたスリット状の照明領域(X軸方向に細長い長方形状の照明領域)部分を照明光(露光光)ILによりほぼ均一な照度で照明する。ここで、照明光ILとしては、KrFエキシマレーザ光(波長248nm)、ArFエキシマレーザ光(波長193nm)などの遠紫外光や、F2レーザ光(波長157nm)などの真空紫外光などが用いられる。照明光ILとして、超高圧水銀ランプからの紫外域の輝線(g線、i線等)を用いることも可能である。
前記レチクルステージRST上にはレチクルRが、例えば真空吸着により固定されている。レチクルステージRSTは、リニアモータ、ボイスコイルモータ等を駆動源とする不図示のレチクルステージ駆動部によって、照明系10の光軸(後述する投影光学系PLの光軸AXに一致)に垂直なXY平面内で微少駆動可能であるとともに、所定方向(ここでは図1における紙面内左右方向であるY軸方向とする)に、設定された走査速度で駆動可能となっている。
レチクルステージRSTには、レーザ光を反射するX軸方向及びY軸方向に面した移動鏡等から成る反射面が形成されており、レチクルステージRSTのステージ移動面内の位置は、その反射面にレーザ光を照射するレチクルレーザ干渉計(以下、「レチクル干渉計」という)16によって、例えば0.5〜1nm程度の分解能で常時計測されている。ここで、実際には、レチクルX干渉計とレチクルY干渉計とが設けられているが、図1ではこれらが代表的にレチクル干渉計16として示されている。そして、レチクルY干渉計とレチクルX干渉計の少なくとも一方、例えばレチクルY干渉計は、測長軸を2軸有する2軸干渉計であり、このレチクルY干渉計の計測値に基づきレチクルステージRSTのY位置に加え、θz方向(Z軸回りの回転方向)の回転量(ヨーイング量)も計測できるようになっている。ここでは、レチクルY干渉計を2軸干渉計とする。レチクル干渉計16からのレチクルステージRSTの位置情報(ヨーイング量などの回転情報を含む)は、ステージ制御装置19及びこれを介して主制御装置20に供給される。ステージ制御装置19は、主制御装置20からの指示に応じて、レチクルステージRSTの位置情報に基づいて不図示のレチクルステージ駆動部を介してレチクルステージRSTを駆動制御し、レチクルステージRST上に保持されたレチクルRの位置を制御する。なお、ステージ制御装置19は、レチクル干渉計16によって計測されたレチクルステージRSTの位置の計測値を、補正関数を用いて補正する機能を有している。走査露光中において、この補正関数を用いて補正を行うか否かは、主制御装置20からの指示により決定されるようになっており、この補正関数の各項の係数などの補正関数を規定するパラメータは、装置パラメータとして、主制御装置20からステージ制御装置19に対して設定可能となっている。
レチクルRの上方には、X軸方向に所定距離隔てて一対のレチクルアライメント検出系22(但し、図1においては紙面奥側のレチクルアライメント検出系22は不図示)が配置されている。各レチクルアライメント検出系22は、ここでは図示が省略されているが、それぞれ露光光ILと同じ波長の照明光にて検出対象のマークを照明するための落射照明系と、その検出対象のマークの像を撮像するための検出系とを含んで構成されている。検出系は結像光学系と撮像素子とを含んでおり、この検出系による撮像結果(すなわちレチクルアライメント検出系22によるマークの検出結果)は、主制御装置20に供給されている。この場合、落射照明系から射出された照明光をレチクルR上に導き、且つその照明によりレチクルRから発生する検出光をレチクルアライメント検出系22の検出系に導くための不図示のミラー(落射用ミラー)が露光光ILの光路上に挿脱自在に配置されており、露光シーケンスが開始されると、レチクル上のパターンを基板上に転写するための露光光ILの照射の前に、主制御装置20からの指令に基づいて不図示の駆動装置により落射用ミラーは露光光ILの光路外に退避される。
前記投影光学系PLは、レチクルステージRSTの図1における下方に配置され、その光軸AXの方向がZ軸方向とされている。投影光学系PLとしては、両側テレセントリックで所定の縮小倍率β=1/Mexp(βは、例えば1/5、又は1/4)を有する屈折光学系が使用されている。このため、照明系10からの照明光ILによってレチクルRの照明領域が照明されると、レチクルRの回路パターンの照明領域部分の縮小像(部分倒立像)が投影光学系PLを介してウエハW上の前記照明領域に共役な投影光学系の視野内の投影領域に投影され、ウエハW表面のレジスト層に転写される。
前記ウエハステージWSTは、投影光学系PLの図1における下方で、不図示のベース上に配置されている。このウエハステージWST上にウエハホルダ25が載置されている。このウエハホルダ25上にウエハWが例えば真空吸着等によって固定されている。
ウエハステージWSTは、図1のウエハステージ駆動部24により、X、Y、Z、θz(Z軸回りの回転方向)、θx(X軸回りの回転方向)、及びθy(Y軸回りの回転方向)の6自由度方向に駆動可能な単一のステージである。
ウエハステージWSTには、レーザ光を反射するX軸方向及びY軸方向に面した移動鏡等から成る反射面が形成されており、前記ウエハステージWSTの位置は、その反射面にレーザ光を照射する、外部に配置されたウエハレーザ干渉計(以下、「ウエハ干渉計」という)18により、例えば、0.5〜1nm程度の分解能で常時計測されている。なお、実際には、X軸方向に測長軸を有する干渉計及びY軸方向に測長軸を有する干渉計が設けられているが、図1ではこれらが代表的にウエハ干渉計18として示されている。それらの干渉計は、測長軸を複数有する多軸干渉計で構成され、ウエハステージWSTのX、Y位置の他、回転(ヨーイング(Z軸回りの回転であるθz回転)、ピッチング(X軸回りの回転であるθx回転)、ローリング(Y軸回りの回転であるθy回転))も計測可能となっている。ステージ制御装置19は、主制御装置20からの指示に応じて、ウエハステージWSTの位置情報に基づいてウエハステージ駆動部24を介してウエハステージWSTを駆動制御し、ウエハステージWST上に保持されたウエハWの位置を制御する。
また、ウエハステージWST上のウエハWの近傍には、基準マーク板FMが固定されている。この基準マーク板FMの表面は、ウエハWの表面とほぼ同じ高さに設定され、この表面には少なくとも一対のレチクルアライメント用基準マーク、及びアライメント検出系ASのベースライン計測用の基準マーク等が形成されている。
前記アライメント検出系ASは、投影光学系PLの側面に配置された、オフアクシス方式のアライメントセンサである。このアライメント検出系ASとしては、例えばウエハ上のレジストを感光させないブロードバンドな検出光束を対象マークに照射し、その対象マークからの反射光により受光面に結像された対象マークの像と不図示の指標(アライメント検出系AS内に設けられた指標板上の指標パターン)の像とを撮像素子(CCD)等を用いて撮像し、それらの撮像信号を出力する画像処理方式のFIA(Field Image Alignment)系のセンサが用いられている。なお、アライメント検出系ASのアライメントセンサとしては、FIA系に限らず、コヒーレントな検出光を対象マークに照射し、その対象マークから発生する散乱光又は回折光を検出する、あるいはその対象マークから発生する2つの回折光(例えば同次数の回折光、あるいは同方向に回折する回折光)を干渉させて検出するアライメントセンサを単独であるいは適宜組み合わせて用いることは勿論可能である。このアライメント検出系ASの撮像結果は、主制御装置20へ出力されている。
制御系は、図1中、主制御装置20及びこの配下にあるステージ制御装置19などによって主に構成される。主制御装置20は、CPU(中央演算処理装置)、メインメモリ等から成るいわゆるマイクロコンピュータ(又はワークステーション)を含んで構成され、装置全体を統括して制御する。
主制御装置20には、例えばハードディスクから成る記憶装置、キーボード,マウス等のポインティングデバイス等を含んで構成される入力装置、及びCRTディスプレイ(又は液晶ディスプレイ)等の表示装置(いずれも図示省略)、並びにCD(compact disc),DVD(digital versatile disc),MO(magneto−optical disc)あるいはFD(flexible disc)等の情報記録媒体のドライブ装置(不図示)が、外付けで接続されている。ドライブ装置にセットされた情報記録媒体(以下では、CDであるものとする)には、後述するフローチャートで示される計測動作及び露光動作時の処理アルゴリズムに対応するプログラム(以下、便宜上、「特定プログラム」と呼ぶ)、その他のプログラム、並びにこれらのプログラムに付属するデータベースなどが記録されている。
主制御装置20は、例えば露光動作が的確に行われるように、前述の特定プログラムに従った処理を実行する。例えば、走査露光を実行する場合には、ステージ制御装置19に対し、その動作を指示するとともに、その動作に必要な情報をステージ制御装置19に送信する。ステージ制御装置19には、レチクルステージRSTの位置及び速度を制御するためのフィードバック制御系としての位置−速度フィードバック制御系と、ウエハステージWSTの位置及び速度を制御するためのフィードバック制御系としての位置−速度フィードバック制御系とが構築されている。ステージ制御装置19は、その指示及び情報を受けると、その情報に基づいて、両ステージの位置−速度フィードバック制御系に対する単位時間当たりの位置指令を作成する。すると、両ステージの位置−速度フィードバック制御系が、その位置指令に対応するレチクルステージRST及びウエハステージWSTの駆動量を算出する。ステージ制御装置19は、算出された駆動量に応じて、レチクルステージ駆動部及びウエハステージ駆動部24を介して、例えば、走査露光中のレチクルRとウエハWの同期走査や、ウエハWの移動(ステッピング)等を行っている。なお、両ステージの同期走査を実現するために、両ステージの位置−速度フィードバック制御系は、一方が主で、一方が従の関係となっていても良い。例えば、レチクルステージRSTの制御系のフィードバック制御量に基づいて、ウエハステージWSTの制御系に対する位置指令を作成するようになっていても良く、また、その逆となっていても良い。
より具体的には、前記ステージ制御装置19は、例えば走査露光時には、レチクルRがレチクルステージRSTを介して、設定されたスキャン方向に基づいて、+Y方向又は−Y方向に設定されたスキャン速度で走査されるのに同期して、ウエハステージWSTを介してウエハWが、前述の照明領域に共役な投影領域に対してレチクルステージRSTの移動方向とは逆(スキャン方向)にレチクルRの速度のβ(=1/Mexp)倍の速度(βはレチクルRからウエハWに対する投影倍率で例えば1/4又は1/5)で走査されるように、走査露光中のフィードバック制御系に対する位置指令値を作成する。その位置指令値が前述のフィードバック制御系に入力されると、そのフィードバック制御系は、その位置指令値と、レチクル干渉計16、ウエハ干渉計18の計測値に基づくフィードバック量との偏差を算出し、その偏差がキャンセルされるように、不図示のレチクルステージ駆動部、ウエハステージ駆動部24をそれぞれ介してレチクルステージRST、ウエハステージWSTの位置及び速度をそれぞれ制御する。
また、ステッピングの際には、ステージ制御装置19は、設定されたステップ速度に基づいて、ステップ移動時の位置指令値を作成し、作成した位置指令値を、フィードバック制御系に入力し、そのフィードバック制御系において、その指令値と、ウエハ干渉計18の計測値に基づくフィードバック量との偏差に基づいて、ウエハステージ駆動部24を介してウエハステージWSTの位置を制御する。なお、以下では、ウエハステージWSTが+Y方向に走査される場合を「プラススキャン」と呼び、ウエハステージWSTが−Y方向に走査される場合を「マイナススキャン」と呼ぶ。
さらに、本実施形態の露光装置100は、投影光学系PLの最良結像面に向けて複数のスリット像を形成するための結像光束を光軸AX方向に対して斜め方向より供給する不図示の照射系と、その結像光束のウエハWの表面での各反射光束を、それぞれスリットを介して受光する不図示の受光系とから成る斜入射方式の多点フォーカス検出系を備えている。この多点フォーカス検出系としては、例えば特開平6−283403号公報及びこれに対応する米国特許第5,448,332号などに開示されるものと同様の構成のものが用いられ、この多点フォーカス検出系の出力が主制御装置20に供給されている。ステージ制御装置19は、主制御装置20からの指示により、この多点フォーカス検出系からのウエハの位置情報に基づいて、ステージ制御装置19及びウエハステージ駆動部24を介してウエハステージWSTをZ方向及び傾斜方向に駆動する。
次に、本実施形態の露光方法について説明する。露光装置100では、前述のように、レチクルステージRST(レチクルR)及びウエハステージWST(ウエハW)のY軸方向の同期走査により、レチクルR上のパターンをウエハW上に転写する走査露光を行う。このような走査露光では、レチクルR上のパターンの転写精度は、相対走査中のレチクルステージRST及びウエハステージWSTの同期走査の動特性に大きく左右されるようになる。例えば、ウエハ干渉計18の計測値に基づいて、両ステージRST、WSTのY軸方向の相対移動中に、両ステージRST、WSTの相対位置関係が、X軸方向に次第にずれていくような動特性を有していれば、ウエハW上に転写されるパターン像は、レチクルR上のパターンに対して歪んだものとなる。このような歪みは、ショット領域内のショットディストーション成分や、ショット領域の形成位置のスキャン方向によるずれ(以降では、このスキャン方向に伴うずれを「正逆差」と称す)となって露光結果として表れる。
このような歪みの問題に対処するため、本実施形態の露光装置100では、走査露光中のレチクル干渉計16の計測値の補正を行う。例えば、レチクルステージRSTが、Y軸方向への同期走査中に、+X方向にずれる場合、レチクル干渉計16のX干渉計の計測値を+X方向に補正してやれば、レチクルステージRSTを制御するステージ制御装置19のフィードバック制御系は、レチクルステージRSTを反対側(−X側)に駆動するようになるため、結果的に、レチクルステージRSTが+X側にずれずに、Y軸方向に正確に移動するようになる。
そこで、本実施形態では、実際の走査露光を行う前に、所定のレチクル(後述する計測用レチクルRT)を、図1のレチクルRに代えてレチクルステージRST上にロードして走査露光を行い、その走査露光により、ウエハ上に転写された露光結果(焼付結果)を計測してショット領域のショットディストーション成分等を検出し、検出されたショットディストーション成分等に基づいて、走査露光中のレチクル干渉計16又はウエハ干渉計18の計測値に対する適正な補正量を与える補正関数を作成し、走査露光中においては、その補正関数を用いて、レチクル干渉計16の計測値を補正するものとする。
通常、露光装置100においては、レチクルステージRST上に搭載されるレチクルのパターンは様々であり、そのパターンが形成されたパターン領域のサイズもレチクルによって異なる。すなわち、露光装置100においては、ウエハW上に形成すべき回路パターン等によって、走査露光中の両ステージRST、WSTの相対走査の移動距離(スキャン長)が変わる。また、露光装置100においては、両ステージの相対速度(スキャン速度)、走査露光前のステッピング移動の際の移動速度(ステップ速度)等もプロセス(露光プロセス)に応じて異なる場合がある。したがって、本実施形態の露光方法で作成される、レチクル干渉計16の計測値を補正する補正関数は、スキャン長、スキャン速度、ステップ速度等のいずれの走査条件がどのような値であっても適用可能な関数であることが望ましい。そこで、本実施形態では、複数の異なるスキャン長、スキャン速度等の下で、すなわち複数の異なる走査条件の下で走査露光を行い、各走査条件下での露光結果に基づいて、任意の走査条件に適用可能な補正関数を作成するものとする。
以下の表1に、走査露光の試行の際に、設定される走査条件の一例を示す。
上記表1には、低速(ファースト)、高速(セカンド)という2つの欄が設けられており、この2つの欄には、スキャン長、スキャン速度、ステップ速度の3つの項目が、走査条件として列挙されている。また、高速(セカンド)の欄は、条件0〜条件9の項目に区切られている。
本実施形態では、まず第1に、通常のプロセスにおいては採用されることがない非常に低速なスキャン速度の下で走査露光を行う。この走査露光での走査条件(以下、「低速の走査条件」あるいは「基準の走査条件」という)は、表1の低速(ファースト)の欄に記載されている。すなわち、低速(ファースト)の欄に記載されているスキャン長、スキャン速度、ステップ速度は、この低速の走査露光を行う際のそれぞれの設定値を示しており、その条件において、スキャン長、スキャン速度、ステップ速度は、それぞれ33mm、30mm/s、30mm/sに設定されている。このような低速の走査条件の下では、両ステージのフィードバック制御系による位置−速度制御により、両ステージがほぼ完全な同期状態に保たれたままで走査露光が行われるため、その条件での露光結果を、レチクルステージRST及びウエハステージWSTの同期走査の動特性の影響をほとんど受けていない露光結果であるとみなすことができる。そのため、本実施形態では、後述するように、その露光結果(上述の「基準の走査条件」を用いた場合の露光結果)を「基準の露光結果」として用いることとする。
また、本実施形態では、低速の走査条件の下での走査露光を行った後に、通常の走査露光で採用される程度の比較的高速なスキャン速度の下での走査露光を行う。表1の高速(セカンド)の欄には、複数の異なる走査条件、すなわち条件0〜条件9(以下、「高速の走査条件」と略述する)におけるスキャン長、スキャン速度、ステップ速度の設定値がそれぞれ示されている。表1からもわかるように、本実施形態では、スキャン長(33mm、25mm、17mm)、スキャン速度(30mm/s、170mm/s,240mm/s、300mm/s)、ステップ速度(30mm/s、495mm/s)のそれぞれの設定値の中からそれぞれ1つの設定値を選択することにより得られるスキャン長、スキャン速度、ステップ速度の組合せが、条件1から条件9までの高速の走査条件における組合せとして選択されている。なお、条件0(*)は、低速の走査条件と同一の条件となっている。
このように、本実施形態では、複数の異なる走査条件として、例えば表1に示される条件0から条件9までの走査条件(以下、「高速の走査条件」と略述する)の下で、走査露光を行い、低速の走査条件での走査露光により選択されたウエハ上に転写したパターンと同一のパターンを、そのウエハ上に重ね合わせるように転写する、いわゆる「低速−高速重ね」露光(以下、「低速−高速重ね」と略述する)を行う。なお、「低速の(基準の)走査条件」の下で走査露光を行う時の露光量(ドーズ)と、「高速の走査条件」の下で走査露光を行う時の露光量(ドーズ)とが同一の露光量(所定露光量)となるように主制御装置20によって走査条件毎に露光量制御がなされるように構成されている。
次に、上述した低速−高速重ねに用いられる計測用レチクルの一例について説明する。
図2には、低速−高速重ねで用いられる計測用のレチクルRTの一例が示されている。この図2は、計測用のレチクルRTを、パターン面側(図1における下面側)から見た平面図である。
この計測用レチクルRTでは、正方形のガラス基板42の一面(パターン面)に、斜線で示される遮光帯であるパターン領域PAが形成されており、そのパターン領域PA内に、所定のマークMpが、所定の間隔で、マトリクス状に配置されている。図2では、所定のマークMpが、3行5列(Y軸方向を行とする)の計15個だけ(M1〜M15)だけ図示されているが、実際には、より多数のマークがパターン領域PA内に形成されている。上記表1に示されるように、高速の走査条件においては、スキャン長が、17mm〜33mmの範囲で設定されているため、パターン領域PA上のY軸方向の両端のマークMpの間隔(マークM1、M6、M11と、マークM5、M10、M15との間隔)は、33mm×Mexp以上である必要があり、パターン領域PAの中心を基準とするY軸方向に関する17mm×Mexpの範囲内に、補正関数の算出に十分な数のマークMpが配置されている必要がある。
本実施形態における低速−高速重ねの走査露光では、図2に示される計測用レチクルRTにより、低速の走査条件下で走査露光を行い、ウエハステージWSTを駆動してウエハ(実際には、後述する計測用のウエハWT)の位置を−X方向及び−Y方向に所定距離Lだけずらし、高速の走査条件(例えば表1の条件0〜条件9のいずれか)下で、再度、走査露光を行う。
図3には、所定のマークMpの一例が示されている。図3に示されるように、マークMpには、X軸方向に延びるL/SパターンMX1、MX2と、Y軸方向に延びるL/SパターンMY1、MY2とが形成されている。図3においては、マークMpにおけるクロム部は斜線で示されており、光透過部は無地で示されている。図3に示されるように、L/SパターンMX1、MX2、MY1、MY2では、ラインが光透過部となっており、スペースがクロム部となっている。L/SパターンMX1、MY1は、その配列方向の両端に3本のラインパターンが形成され、中央付近にL/SパターンMX2、MY2をそれぞれ内包可能な領域を有するスペース(クロム部)が形成されたパターンとなっている。L/SパターンMX1、MY1は、それぞれL/SパターンMX2、MY2と、レチクルRT上において、X軸方向及びY軸方向に距離Mexp×Lだけ離間して設けられている。これは、上述のように、ウエハの位置を−X方向及び−Y方向に所定距離Lだけずらして走査露光を行うためである。
図4(A)には、低速−高速重ねの走査露光を行った場合のウエハWT上の露光結果が模式的に示されている。なお、ウエハWT上には、ネガ型のフォトレジストが塗布されているものとする。図4(A)に示されるように、ウエハステージWSTを−X方向及び−Y方向にLだけシフトさせて低速−高速重ねの走査露光を行うことにより、レチクルRT上に形成された各マークMpの重ね合わせ像MPpが+X方向及び+Y方向に、L(投影倍率βにより、レチクルRT上の1/Mexp倍となっている)だけシフトされて重ね合わせ転写形成されるようになる。
図4(B)には、低速−高速重ねの走査露光における各マークMpの転写結果が拡大して示されている。図4(B)に示されるように、重ね合わせの走査露光の結果、L/SパターンMX1と、L/SパターンMX2とが重なるように転写され、L/SパターンMY1と、L/SパターンMY2とが重なるように転写される。なお、前述のようにウエハWT上には、ネガ型のフォトレジストが塗布されているので、ウエハWT上に実際に感光され、現像により残るのは、各L/SパターンMX1、MX2、MY1、MY2のラインパターンが転写される部分だけとなる。この結果、図4(B)に示されるように、L/SパターンMX1の像と、L/SパターンMX2の像とでL/Sパターン像MXPpが形成され、L/SパターンMY1の像と、L/SパターンMY2の像とで、L/Sパターン像MYPpが形成されるようになる。
図4(C)には、L/Sパターン像MXPpが、拡大して示されている。図4(C)に示されるように、低速−高速重ねの走査露光において、各マークMpが正確に転写された場合、L/SパターンMX1の像MX1’の中心とL/SパターンMX2の像MX2’の中心とは一致するようになっており、L/Sパターン像MX1’の両端の各L/Sパターンの像の中心と、L/Sパターン像MX2’の中心との距離は、それぞれ所定の距離L1、L2となる。なお、L/SパターンMY1とL/SパターンMY2との距離についても、上述のL/SパターンMX1とL/SパターンMX2との関係と同様に、それらの転写像の中心を一致させて重ね合わせたときの各パターンの像の位置関係が既知となっているものとする。
また、図4(C)では、L/Sパターン像MX1’と、L/Sパターン像MX2’とが一体的にデューティ比50%のL/Sパターンを形成するかのように図示されているが、その必要はない。むしろ、L/SパターンMX1の像MX1’の中心とL/SパターンMX2の像MX2’の中心とが多少ずれていたとしても、L/SパターンMX1のラインパターン像と、L/SパターンMX2のラインパターン像とが重ならないように、L/SパターンMX2の中央のクロム部を十分に広くとるようにするのが望ましい。なぜならば、後述する工程では、計測用レチクルRT上に形成されたL/SパターンMX1とL/SパターンMX2とを、図4(C)に示されるように、重ね合わせるように転写し、その重ね合わせの転写結果において、L/SパターンMX1の像MX1’と、L/SパターンMX2の像MX2’の2つのラインパターンとの距離が、それぞれL1、L2からどのくらいずれているかを検出する必要があり、そのずれを正確に算出するには、各ラインパターンがウエハWT上にほぼ完全に再現されている必要があるからである。
図2に戻り、パターン領域PAの中心、すなわちレチクルRTの中心(レチクルセンタ)を通るパターン領域PAのX軸方向の両側には、一対のレチクルアライメントマークRM1,RM2が形成されている。なお、図2では、一対のレチクルアライメントマークRM1,RM2は一組しか示されていないが、実際には、Y軸方向に沿って複数組設けられている。
次に、上述のようにして構成された露光装置100により、本実施形態の露光方法を行う際の動作について、主制御装置20内のCPUの処理アルゴリズムを示す図5〜図7のフローチャートに沿って適宜他の図面を参照しつつ、説明する。なお、上記表1では、各走査条件の具体的な数値を示したが、以下では、一般化のため、以下の表2に示す走査条件を用いるものとして説明する。以下の表2では、高速の走査条件の数をN+1個とし、それぞれの条件をj(j=0〜N)で表すものとする。以下の表2においては、条件jにおける走査条件、すなわちスキャン長、スキャン速度、ステップ速度をそれぞれHScw,j,HVScw,j,HVStw,jとしている。このHScw,j,HVScw,j,HVStw,jは、表1の条件で言えば、(33mm、25mm、17mm)、(30mm/s、170mm/s、240mm/s、300mm/s)、(30mm/s、495mm/s)のいずれかの値に該当することになる。
また、この表2においては、表1と異なり、スキャン方向が走査条件に加えられている。スキャン方向としては、+Y方向(すなわちプラススキャン方向)と−Y方向(すなわちマイナススキャン方向)との2つがある。本実施形態では、上述のスキャン長、スキャン速度、ステップ速度の同一の組合せについてそれぞれプラススキャン、マイナススキャンの走査露光を行い、走査露光における正逆差補正をも補正可能となるように、プラススキャン時の補正関数と、マイナススキャンの補正関数とを別々に作成する。ここでいう正逆差とは、プラススキャンにより形成されたショット領域の形成位置と、マイナススキャンにより形成されたショット領域の形成位置との間に発生するオフセットを意味する。したがって、後述するように、上述のプラススキャン時の補正関数と、マイナススキャン時の補正関数とのいずれか一方には、そのオフセットをキャンセルするためのオフセット項が付与されることとなる。
表2に示されるように、本実施形態では、上述の正逆差補正のため、スキャン長、スキャン速度、ステップ速度などの組合せとしての条件jについて、それぞれプラススキャン、マイナススキャンの走査露光をそれぞれ行う必要がある。また、低速の走査条件では、スキャン長、スキャン速度、ステップ速度、スキャン方向を、それぞれAw_def、LVScw,LVStw,Ldwとする。低速の走査条件のスキャン方向Ldwは、プラススキャン(+)を示しているものとする。なお、条件0のスキャン長、スキャン速度、ステップ速度としてのHScw,0,HVScw,0,HVStw,0は、Aw_def、LVScw,LVStwとそれぞれ同一の値であるとする。
図5には、主制御装置20の動作を示すフローチャートが示されている。まず、ステップ502において、計測用のウエハW
Tが不図示のウエハローダによりウエハステージWST上にロードされるとともに、不図示のレチクルローダによりレチクルステージRST上にレチクルR
Tがロードされる。
次のステップ504では、レチクルの位置合わせ等の準備作業を行う。具体的には、ウエハステージ駆動部24を介してウエハステージWST上の基準マーク板FMを投影光学系PLの直下の所定位置(以下、便宜上「基準位置」と呼ぶ)に位置決めし、基準マーク板FM上の一対の第1基準マークと、その第1基準マークに対応するレチクルR上の一対のレチクルアライメントマークとの相対位置を前述の一対のレチクルアライメント検出系22を用いて検出する。そして、主制御装置20では、レチクルアライメント検出系22の検出結果と、ステージ制御装置19を介して得られるその検出時のレチクル干渉計16及びウエハ干渉計18の計測値とをメインメモリに記憶する。次いで、主制御装置20では、ウエハステージWST及びレチクルステージRSTを、それぞれ所定距離だけY軸方向に沿って相互に逆向きに移動して、基準マーク板FM上の別の一対の第1基準マークと、その第1基準マークに対応するレチクルR上の別の一対のレチクルアライメントマークとの相対位置を前述の一対のレチクルアライメント検出系22を用いて検出する。そして、主制御装置20では、レチクルアライメント検出系22の検出結果と、ステージ制御装置19を介して得られるその検出時の干渉計16、18の計測値とを不図示の記憶装置に記憶する。次いで、上記と同様にして、基準マーク板FM上の更に別の一対の第1基準マークと、その第1基準マークに対応するレチクルアライメントマークとの相対位置関係を更に計測しても良い。
そして、主制御装置20では、このようにして得られた少なくとも2対の第1基準マークと対応するレチクルアライメントマークとの相対位置関係の情報と、それぞれの計測時の干渉計16,18の計測値とを用いて、干渉計16の測長軸で規定されるレチクルステージ座標系と干渉計18の測長軸で規定されるウエハステージ座標系との相対位置関係を求める。これにより、レチクルアライメントが終了する。以下の走査露光では、ウエハステージ座標系のY軸方向にレチクルステージRSTとウエハステージWSTとを同期走査することにより走査露光を行うが、その際には、このレチクルステージ座標系とウエハステージ座標系との相対位置関係に基づいて、レチクルステージRSTの走査が行われるようになる。
そして、主制御装置20は、ベースライン計測を行う。具体的には、ウエハステージWSTを前述の基準位置に戻し、その基準位置から所定量、例えばベースラインの設計値だけXY面内で移動して、アライメント検出系ASを用いて基準マーク板FM上の第2基準マークを検出する(ステージ制御装置19を介して得られるウエハ干渉計18の計測値をメインメモリに記憶する)。主制御装置20では、このとき得られるアライメント検出系ASの検出中心と第2基準マークの相対位置関係の情報及び先にウエハステージWSTが基準位置に位置決めされた際に計測した一対の第1基準マークと、その第1基準マークに対応する一対のレチクルアライメントマークとの相対位置関係の情報と、それぞれの計測時のウエハ干渉計18の計測値と、ベースラインの設計値と、既知である第1基準マーク及び第2基準マークの位置関係とに基づいて、アライメント検出系ASのベースライン、すなわちレチクルパターンの投影中心とアライメント検出系ASの検出中心(指標中心)との距離(位置関係)を算出する。このベースラインを算出しておけば、アライメント検出系ASの撮像対象となるウエハWT(又はウエハW)上のマーク等を、アライメント検出系ASの撮像視野内に正確に位置決めすることができるようになる。
次のステップ506では、カウンタ値jを0に初期化するとともに、最初のショット領域(条件j(=0)(プラススキャン)番目のショット領域)を、露光対象領域としてセットする。なお、このとき、マイナススキャンフラグを初期化(クリア)しておく。後述するように、主制御装置20は、高速の走査条件を設定する際には、スキャン方向に関しては、このマイナススキャンフラグを参照し、このフラグがクリアされている場合には、プラススキャンを設定し、セットされている場合には、マイナススキャンを設定するようになる。
次のステップ508では、ステージ制御装置19等に対し、走査条件を、表2に示される低速走査条件(低速(ファースト)、すなわちスキャン長Aw_def、スキャン速度LVScw、ステップ速度LVStw、スキャン方向Ldw(+))に設定する。そして、ステップ510で、ステージ制御装置19に対し、ウエハステージWST及びレチクルステージRSTを、条件j(条件0)(プラススキャン)番目のショット領域の走査開始位置に位置決めするように指示する。これにより、ウエハステージWST及びレチクルステージRSTが、それぞれ走査開始位置に位置決めされる。そして、ステップ512において、設定された走査条件の下での走査露光を、ステージ制御装置19に指示する。これにより、図2に示されるレチクルRT上のパターンが、低速の走査条件の下で、ウエハWT上の条件j(プラススキャン)のショット領域に転写される。
次のステップ514では、走査条件を高速走査条件(条件jのスキャン長HScw,j、スキャン速度HVScw,j、ステップ速度HVStw,j)に設定する。このとき、スキャン方向も、走査条件の1つとして設定するが、このスキャン方向は、マイナススキャンフラグを参照して設定する。すなわち、このマイナススキャンフラグがクリアされていれば、プラススキャン(+)を設定し、セットされていれば、マイナススキャン(−)を設定するものとする。ここでは、上記ステップ506において、マイナススキャンフラグがクリアされているので、上記高速走査条件の1つとして、プラススキャンをセットする。そして、ステップ516では、ステージ制御装置19に対し、ウエハステージWST及びレチクルステージRSTを走査開始位置に位置決めするように指示する。なお、この走査開始位置は、走査条件jとして設定されているスキャン長HScw,j、スキャン方向(ここではプラススキャン)を考慮し、その走査露光によって形成されるショット領域が、ステップ512において低速走査条件でウエハWTに形成されたショット領域に対して、+X方向及び+Y方向にLだけシフトするような位置とする(すなわち、ウエハステージWSTを、低速の走査露光条件の下での走査露光における加速開始位置よりも−X方向及び−Y方向にLだけシフトさせた位置とする)。そして、ステップ518において、高速の走査条件(条件j(ここではj=0))の下での走査露光を開始するように、ステージ制御装置19に指示する。こうした一連のステップ508〜ステップ518の処理により、図4(A)に示されるような、条件j(=0)の重ね合わせショット領域が、ウエハWT上に形成される。
次のステップ520では、カウンタ値jが0であるか否かが判断される。その判断が否定されればステップ522に進み、判断が肯定されればステップ528に進む。ここでは、j=0であるので、判断は肯定され、ステップ528に進む。ステップ528では、カウンタ値jが1だけインクリメントされるとともに、マイナススキャンフラグがクリアされる。ステップ528処理終了後は、ステップ508に戻る。
以降、ステップ508〜ステップ518の処理が再度実行され、カウンタ値jは1となり、マイナススキャンフラグがクリアされているので、条件1(プラススキャン)に関する重ね合わせ露光領域が形成される。そして、ステップ520において、カウンタ値jが0であるか否かが判断され、ここではj=1であるので、判断は否定され、ステップ522に進む。
ステップ522では、条件j(マイナススキャン)に関する重ね合わせショット領域が形成されたか否かが判断される。この判断が否定されればステップ524に進み、この判断が肯定されればステップ526に進む。ここでは、まだ条件j(マイナススキャン)に関する重ね合わせショット領域が形成されていないので、判断は否定され、ステップ524に進む。ステップ524では、マイナススキャンフラグがセットされて、ステップ508に戻る。
以降、j=1で、マイナススキャンフラグがセットされているので、ステップ508〜ステップ518の処理が再度実行され、条件1(マイナススキャン)に関する重ね合わせショット領域が形成される。そして、ステップ520において、カウンタ値jが0であるか否かが判断される。ここではj=1であるので、判断は否定され、ステップ522に進む。
ステップ522では、条件j(マイナススキャン)に関する重ね合わせショット領域が形成されたか否かが判断される。ここでは、すでにその重ね合わせショット領域が作成されているので、判断は肯定され、ステップ526に進む。
次のステップ526では、全ての走査条件下での走査露光が終了したか否か(すなわち、カウンタ値jがN以上となったか否か)を判断する。判断が否定されれば、ステップ528に進み、判断が肯定されれば、ステップ530に進む。ここでは、j=1であるので、判断は否定され、ステップ528に進む。ステップ528では、jを1だけインクリメントするとともに、マイナススキャンフラグをクリアし、ステップ508に戻る。
以降、ステップ526で判断が肯定されるまで、すなわちカウンタ値jがN以上となるまで、ステップ508→ステップ510→ステップ512→ステップ514→ステップ516→ステップ518→ステップ520→ステップ522→ステップ524の処理によって条件j(プラススキャン)の重ね合わせ露光領域がウエハWT上に形成され、さらに、ステップ508→ステップ510→ステップ512→ステップ514→ステップ516→ステップ518→ステップ520→ステップ522→ステップ526→ステップ528までの処理によって条件j(マイナススキャン)の重ね合わせ露光領域の潜像がウエハWT上に形成されるようになる。
図8には、ウエハWT上に形成されたパターン像(潜像)の一例が示されている。図8においては、高速の走査条件jの下での走査露光により形成されたショット領域は斜線で示されている。なお、補正関数はまだ作成されていないため、ステップ512及びステップ518における走査露光中には、ステージ制御装置19では、レチクル干渉計16の計測値の補正を行わないように設定しておく。
ステップ526で判断が肯定されると、すなわち全走査条件下での走査露光が完了したと判断すると、ステップ530に進む。ステップ530では、不図示のレチクルローダに対し、計測用レチクルRTのアンロードを指示するとともに、不図示のウエハローダに対し、ウエハWTのアンロードを指示する。これにより、レチクルRTは、レチクルステージRSTからアンロードされ、ウエハWTは、ウエハホルダ25上からアンロードされた後、不図示のウエハ搬送系により、露光装置100にインラインにて接続されている不図示のコータ・デベロッパに搬送される。これにより、計測のための重ね合わせ露光の露光動作が終了する。
そして、主制御装置20は、上記のコータ・デベロッパに対するウエハWTの搬送後に、ステップ532に進んでウエハWTの現像が終了するのを待つ。このステップ532における待ち時間に、コータ・デベロッパによってウエハWTの現像が行われる。この現像の終了により、ウエハWT上には、2N+1個の低速−高速重ね合わせショット領域のレジスト像が形成される。なお、このレジスト像が形成されたウエハWTが、両ステージRST、WSTの同期走査の動特性を検出し、上述の補正関数を作成するための試料となる。なお、上述の実施形態では、1枚のウエハ上に複数の条件(条件0〜N)で、それぞれプラススキャン方向、マイナススキャン方向に焼き付けを行う形態を示したが、本発明はこれに限られるものではない。条件(条件0〜N)毎にウエハを1枚ずつ用い、1枚のウエハ上にそれぞれの条件でプラススキャン方向を数ショットとマイナススキャン方向を数ショットの焼付を行うようにしても良い(例えば、プラススキャンを11ショット、マイナススキャンを10ショット、それぞれ交互に焼き付ける)。この場合には、条件j(プラススキャンとマイナススキャンを含む)毎に1枚のウエハを用いるため、条件0〜Nの焼き付けを行うと、N+1枚のウエハを用いることになる。このような手法(1条件1ウエハ)を用いれば、計測データの数を増やすことができる。
上記ステップ532の待ち状態で、不図示のコータ・デベロッパの制御系からの通知によりウエハWTの現像が終了したことを確認すると、ステップ534に移行し、不図示のウエハローダに指示を出して、ウエハWTをウエハホルダ25上に再度ロードし、図6のステップ602に進む。なお、後述するX軸方向及びY軸方向の位置ずれ量を精度良く検出するため、ウエハWTを再ロードした後、いわゆるラフアライメントなどを行って、ウエハWT上に形成された重ね合わせショット領域によって規定されるショット座標系と、ウエハステージ座標系とを一致させる必要があるが、ここでは、その工程の説明を省略し、ショット座標系とウエハステージ座標系とが一致しているものとして話を進める。
ステップ602では、カウンタ値jを0に、pを1に初期化するとともに、マイナススキャンフラグをクリアする。このマイナススキャンフラグは、後述するように、マーク像を検出する重ね合わせショット領域を選択する際に参照される。すなわち、マイナススキャンフラグがクリアされている場合には、条件j(プラススキャン)の重ね合わせショット領域が検出対象として選択され、セットされている場合には、条件j(マイナススキャン)の重ね合わせショット領域が検出対象として選択されるようになる。
そして、次のステップ604では、マイナススキャンフラグがクリアされているため、条件j(プラススキャン)の下での走査露光により形成された重ね合わせショット領域上に、その条件jの下でp番目のマーク像MPpが形成されているか否かを判断する。図9(A)に示されるように、すべてのレチクルRT上のすべてのマークMpがマーク像MPpとしてウエハWT上に転写されているとは限らず、スキャン長が短いショット領域によっては、Y軸方向に関する両端のマークMpのマーク像MPpが形成されていない場合もある(図9(A)では、スキャン長が17mmのショット領域が示されているが、Y軸方向両端のマーク像MPpは、点線で示されるように形成されていない)。そこで、このステップ604では、そのマーク像MPpが形成されているか否かを、条件jのスキャン長HScw,jに基づいて判断する。ここで、判断が肯定されれば、ステップ606に進み、判断が否定されれば、ステップ620に進む。ここでは、判断が否定されたものとしてステップ620に進むものとする。ステップ620では、カウンタ値pを1だけインクリメントし、再びステップ604に戻る。以降、ステップ604において判断が肯定されるまで、ステップ604→ステップ620のループ処理が繰り返される。
ステップ604において判断が肯定されると、ステップ606に進む。ステップ606では、アライメント検出系ASの撮像視野を条件j(ここではj=0)に関する重ね合わせショット領域のマーク像MPpのパターン像MXPp(図9(B))に一致させるべく、ウエハステージWSTを位置決めするように、ステージ制御装置19に指示する。なお、このとき、条件j(プラススキャン)の重ね合わせショット領域を検出対象とするか、条件j(マイナススキャン)の重ね合わせショット領域を検出対象とするかは、マイナススキャンフラグに基づいて判断される。すなわち、マイナススキャンフラグがクリアされている場合には、条件j(プラススキャン)を検出対象とし、マイナススキャンフラグがセットされている場合には、条件j(マイナススキャン)を検出対象とする。ここでは、マイナススキャンフラグがクリアされているので、条件j(プラススキャン)の重ね合わせショット領域が選択されるようになる。なお、ここではj=0であり、プラススキャンの重ね合わせショット領域が当然に選択される。また、このときの位置決めには、前もって計測されたベースラインが考慮される。そして、ステップ608では、アライメント検出系ASに撮像を指示し、アライメント検出系ASからその撮像結果を取得する。
次のステップ610では、取得した撮像結果からマーク像MXPpにおけるX軸方向の位置ずれ量を検出する。図9(C)には、パターン像MXPpの拡大図が示されている。図9(C)に示されるように、低速の走査条件での走査露光で形成されたマークMpの像に対し、高速の走査条件での走査露光で形成されたマークMpの像が、X軸方向に関して位置ずれしている場合、パターン像MX2’とパターン像MX1’の両端のL/Sパターンとのそれぞれの距離は、L1,L2とは異なるようになる。図9(C)では、その位置ずれ量がdxとして示されている。本実施形態では、取得した撮像結果の画像データから、各L/Sパターンの鏡映対称位置に基づいて、それぞれの中心距離を算出し、それらとL1、L2との差の平均及びアライメント検出系ASの撮像倍率に基づいて、マーク像MPpに関するX軸方向の位置ずれ量dxを算出する。そして、算出した位置ずれ量dxを不図示の記憶装置に記憶する。
次のステップ612では、アライメント検出系ASの撮像視野を条件j(ここではj=0)の下での重ね合わせショット領域のマーク像MPpのパターン像MYPp(図9(B))に一致させるべく、ウエハステージWSTを位置決めするようにステージ制御装置19に指示する。そして、ステップ614では、アライメント検出系ASに対して撮像を指示し、アライメント検出系ASからその撮像結果を取得する。
次のステップ616では、ステップ610で検出したX軸方向の位置ずれ量dxと同様に、ステップ614で取得した撮像結果からマーク像MYPpに関するL/Sパターン像MY1’とL/Sパターン像MY2’とのY軸方向の位置ずれ量dyを検出する。そして、算出した位置ずれ量dyを、不図示の記憶装置に記憶する。
次のステップ618では、条件j(ここではj=0)に関する重ね合わせショット領域の全てのマーク像MPpについての撮像が完了したか否か判断する。その判断が否定されれば、ステップ620に進み、判断が肯定されればステップ622に進む。ここでは、まだ、すべてのマークMpの撮像が完了しておらず、判断は否定され、ステップ620に進むものとする。ステップ620において、pが1だけインクリメントされた後、ステップ604に戻る。
以降、ステップ618において判断が肯定されるまで、ステップ604(高速の走査条件で形成されたマーク像MPpがない場合には、ステップ604→ステップ620のループ処理)→ステップ606→ステップ608→ステップ610→ステップ612→ステップ614→ステップ616→ステップ618→ステップ620が繰り返し実行される。
全てのマーク像MPpについての計測が終了し、ステップ618において判断が肯定されると、ステップ622に進み、カウンタ値j=0であるか否かが判断される。この判断が肯定されれば、ステップ624に進み、否定されれば、ステップ626に進む。ここではj=0であるので、判断は肯定され、ステップ624に進む。
ステップ624では、ショット領域の番号を示すカウンタ値jが1だけインクリメントされるとともに、マーク像MPpの番号を示すカウンタ値pが1に初期化され、マイナススキャンフラグがクリアされる。そして、ステップ624終了後、ステップ604に戻る。
以降、ステップ604〜ステップ620の処理が再度実行され、ステップ618において、判断が肯定されるまで、条件j(ここでは条件1(プラススキャン))に関する重ね合わせショット領域における各マーク像MPpに関する位置ずれ量dx、dyが検出される。そして、次のステップ618において、判断が肯定されると、ステップ622において、jが0であるか否かが判断される。ここでは、j=1であるので、判断は否定され、ステップ626に進む。
ステップ626では、条件j(マイナススキャン)に関する計測が終了したか否かが判断される。この判断が否定されれば、ステップ628に進み、この判断が肯定されれば、ステップ630に進む。ここでは、まだ条件j(マイナススキャン)に関する計測が終了していないので、判断が否定され、ステップ628に進む。
ステップ628では、カウンタ値pが1に代入されるとともに、マイナススキャンフラグがセットされる。ステップ628終了後、ステップ604に戻る。
以降、ステップ618で判断が肯定されるまで、ステップ604(又はステップ604→ステップ620のループ処理)→ステップ606→ステップ608→ステップ610→ステップ612→ステップ614→ステップ616→ステップ618→ステップ620が繰り返し実行され、条件j(マイナススキャン)の重ね合わせショット領域において、形成されたマーク像MPpにおけるX軸方向に関する位置ずれ量dxと、Y軸方向に関する位置ずれ量dyとが検出される。ステップ618での判断が肯定されると、ステップ622を経てステップ626に進み、条件j(マイナススキャン)の重ね合わせショット領域の計測はすでに終了しているので判断が肯定され、ステップ630に進む。
ステップ630においては、カウンタ値jの値がN以上となったか否かが判断される。その判断が否定されれば、ステップ624に進み、判断が肯定されれば、ステップ626に進む。ここではj=1であるので、判断は否定され、ステップ624に進む。ステップ624では、カウンタ値jが1だけインクリメントされ、カウンタ値pが1に初期化されるとともに、マイナススキャンフラグがクリアされる。ステップ624終了後、ステップ604に戻る。
以降、ステップ630で、判断が肯定されるまで、ステップ604(又はステップ604→ステップ620のループ処理)→ステップ606→ステップ608→ステップ610→ステップ612→ステップ614→ステップ616→ステップ618→ステップ620が繰り返し実行され、条件j(プラススキャン)に関する重ね合わせ露光領域のマーク像MPp位置ずれ量dx、dyが検出され、さらに、ステップ622→ステップ626→ステップ628が実行された後、ステップ604(又はステップ604→ステップ620のループ処理)→ステップ606→ステップ608→ステップ610→ステップ612→ステップ614→ステップ616→ステップ618→ステップ620が繰り返し実行されて、条件j(マイナススキャン)に関する重ね合わせ露光領域のマーク像MPpの位置ずれ量dx、dyが検出される。そして、ステップ622→ステップ626→ステップ630→ステップ624が実行され、その後、次の条件j(プラススキャン)に関する重ね合わせ露光領域のマーク像MPの位置ずれ量dx、dyの検出を行っていく。
全ての重ね合わせショット領域についての計測が完了すると、ステップ630における判断が肯定され、ステップ632に進む。
次のステップ632では、各重ね合わせショット領域の各マーク像MPpにおけるX軸方向に関する位置ずれ量dxと、Y軸方向に関する位置ずれ量dyから、レチクル製造誤差を除去する。ここで、レチクル製造誤差とは、図2に示されるレチクルRTを製造する際に、図3に示されるマークMpが設計通りに形成されなかったために生じる誤差のことである。このようなレチクル製造誤差が大きい場合には、そのレチクル製造誤差の成分が、ステップ610及びステップ616で検出する位置ずれ量dx、dyに無視できない程度に含まれてしまう場合がある。
そこで、本実施形態では、位置ずれ量dx、dyからレチクル製造誤差成分をキャンセルするため、1つの重ね合わせショット領域については、低速の走査条件の下と同一の走査条件(上記条件0(プラススキャン))で走査露光を行っている。このようにすれば、この重ね合わせショット領域上の各マーク像MPpで検出される位置ずれ量dx、dyは、レチクル製造誤差による成分であるとみなすことができる。そこで、他の条件1〜Nで検出された各マーク像Mpの位置ずれ量dx、dyから、この条件0で検出された各マーク像MPpの位置ずれ量dx、dyをそれぞれ差し引けば、条件1〜条件Nにおける、レチクル製造誤差の影響を除去した位置ずれ量を検出することができる。なお、以下では、このレチクル製造誤差の影響を除去したX軸方向及びY軸方向の位置ずれ量を、それぞれのマークに対応する番号p及びショット領域の番号jを添え字に付して、それぞれ、dxp,j、dyp,jとする。
前述のように、この位置ずれ量dxp,j、dyp,jは、走査条件jの下の走査露光により形成されたショット領域jのショットディストーション成分(条件j(マイナススキャン)においては正逆差成分も含まれる)であるとみなすことができる。したがって、以下で作成する補正関数は、ショットディストーション成分等を補正する関数として作成されることとなる。
《補正関数の作成方法》
次のステップ634では、レチクル干渉計16の計測値を補正する補正関数の作成を行う。以下では、その補正関数の作成方法について詳述する。
まず、補正関数を作成するための前提となる両ステージの同期走査の動特性モデルについて説明する。図10(A)、図10(B)には、走査露光により形成されるショット領域が模式的に示されている。図10(A)には、プラススキャン時のショット領域が示されており、図10(B)には、マイナススキャン時のショット領域が示されている。ウエハWT上のショット座標系の各座標軸xw,j、yw,jは、ショット領域の中心を原点とする座標軸であり、その方向は、それぞれX軸、Y軸と方向が同一であるものとする。また、ショット領域のX軸方向の幅は、プラススキャン時とマイナススキャン時ともにBである。
走査露光中において、両ステージWST、RSTは、互いに逆方向に同期走査される。ウエハステージWSTは、プラススキャンの場合には、+Y方向(+yw,j方向)に、マイナススキャンの場合には−Y方向(−yw,j方向)に走査されるため、図10(A)、図10(B)に示されるように、結果的に、露光領域(Y軸方向の幅(スリット幅)をSwとする)は、ウエハWT上を、プラススキャン時には、−yw,j方向に移動し、マイナススキャン時には、+yw,j方向に移動するようになる。図10(A)、図10(B)には、前述の加速開始位置から加速して、スキャン速度に到達した時点の露光領域と、ショット領域jに到達した時点の露光領域と、ショット領域を抜けた時点の露光領域とがそれぞれ斜線で示されている。
なお、走査露光においては、ウエハステージWSTが加速してから、スキャン速度(一定速度)での移動に転じたときのオーバーシュートに起因してウエハステージWSTに発生する減衰振動を考慮して、スキャン速度へ到達した位置(スキャン速度到達位置)と露光開始位置との間には、その振動を十分に収束させるための区間(マージン,整定区間とも称す)が設けられている。その減衰振動が収束するまでの整定時間をTとし、ウエハステージWSTのスキャン速度をvw,jとすると、その区間の長さは、T×vw,jとなる。また、ショット領域の中心から露光開始位置における露光領域の中心との距離は、(Sw+HScw,j)/2となる。
本実施形態では、図10(A)、図10(B)に示されるようなショット座標系に基づいて補正関数の関数モデルを規定する。
前述のように、この補正関数でキャンセルすべき位置ずれ量dxp,j、dyp,jは、ショットディストーション成分を含んでおり、この位置ずれ量dxp,j、dyp,jは、そのショット座標系内の位置座標に依存するとみなすことができる。したがって、上述の位置ずれ量をキャンセルすべき補正関数は、図10(A)、図10(B)に示されるような、ショット座標系の座標値を独立変数として含むようにモデル化する必要がある。
なお、以上のことから、例えば補正関数を作成する場合などにおいては、ウエハステージ座標系の座標値(この座標系上の座標値をxw,ywとする)をショット座標系上の座標値に変換する必要がある。この変換は、計測値xw,ywからそのショット領域の中心のウエハ座標系上におけるX位置、Y位置を差し引くことによって容易に行うことができる。
さらに、本実施形態の補正関数は、レチクルステージ座標系を規定するレチクル干渉計16の計測値を補正する関数であるので、補正関数で扱われる位置座標は、レチクル換算でのショット座標系上の位置座標である必要がある。このレチクル換算でのショット座標系の座標軸をXr,j、Yr,jとする。この座標軸Xr,j、Yr,jの向きは、ウエハ換算でのショット座標系の座標軸xw,j,yw,jと同一の向きであるとする。投影倍率は前述のとおり、1/Mexpであるため、以下の式(1)、式(2)を実行することにより、レチクル換算のショット座標系の計測値Xr,j、Yr,jに変換することができる。
ここで、上記式(1)、式(2)とも、負の変換となっているのは、レチクル上のパターンとウエハ上のパターン像との関係が、倒立の関係となっているためである。
また、上述の位置ずれ量dxw,j、dyw,jについても、レチクル換算の位置ずれ量dxr,j、dyr,jに変換する必要があるが、その変換式は、補正が効く方向(補正しなければならない方向)を正とすると、以下の式(3)、式(4)のように表される。
また、ウエハステージWSTのスキャン速度v
w,jと、レチクルステージRSTのスキャン速度v
r,jとの関係は、次式のようになる。
ここで、v
Bは、レチクル換算での正規化速度である。
また、前述のように、スキャン速度への到達時と露光開始時との間には、オーバーシュートによる減衰振動を収束させるための整定時間が設けられているが、この整定時間が短く、振動が十分に減衰しないまま露光が開始された場合には、その位置ずれ量dxp,j、dyp,jに、その振動によるずれの成分が含まれてしまう。そこで、スキャン速度への到達時を原点とする時間軸hr,jを設定し、補正関数では、その走査露光中の時間hr,jを独立変数として含むようにする。なお、ステージ制御装置19は、走査露光中の時間hr,jを計測するタイマを備えているものとする。
本実施形態では、上述した走査露光のモデルに基づいて、レチクルR(実際には、レチクルステージRST)の位置を計測するレチクル干渉計16の計測値を補正する補正関数を作成する。なお、レチクル干渉計16のX干渉計の計測値を補正する補正関数をdxr,j(Yr,j,hr,j)とし、Y干渉計の計測値を補正する補正関数をdyr,j(Yr,j,hr,j)とする。
また、本実施形態では、前述したように、プラススキャン時とマイナススキャン時とで、それぞれ別々に補正関数を作成する。まず、プラススキャン時のX軸方向の補正関数dxr,j(Yr,j,hr,j)及びY軸方向の補正関数dyr,j(Yr,j,hr,j)については、以下の式(6)、式(7)のように規定する。
なお、上記式(6)、式(7)において、f(Y
r,j,k)は、レチクル換算のショット座標系の座標Y
r,j及びk(式(6)においては、k=1〜p
yであり、式(7)においては、X
r,jを含む項に対しては、k=1〜q
xyであり、X
r,jを含まない項に対しては、k=1〜q
yである)を独立変数とする関数である。式(6)、式(7)において、f(Y
r,j,k)を含む項を、位置項(第1の項)と呼ぶC
dx,Y,f,k、C
dy,Y,f,k、C
dy,Y,f,kは、それぞれf(Y
r,j,k)を含む項の係数であり、添え字のY、XYは、その係数Cが、座標値Y
r,j、あるいは座標値Y
r,j、X
r,jを含む位置項の係数であることを示している。また、添え字のfは、その係数が、プラススキャン時の補正関数の係数であることを意味している。なお、以下では、補正関数の各項の係数をすべて指す場合には、これらの係数を、単に「係数C」とも呼ぶものとする。なお、低速−高速重ねの条件を1条件で補正関数を作成する場合は、式(6)は右辺第1項のみ、又は右辺第2項のみの関数となる。また、式(7)は右辺第2項までの関数となる。
また、上記式(6)、式(7)において、g(hr,j,l)は、走査露光中の時間hr,j及びl(式(6)においては、l=1〜ph、式(7)においては、l=1〜qh)を独立変数とする関数である。g(hr,j,l)を含む項を、時間項(第2の項)と呼ぶ。式(6)のCdx,h,f,l、式(7)のCdy,h,f,lは、g(hr,j,l)を含む項の係数であり、添え字のhは、その係数が、時間hr,jを含む時間項r,jの係数であることを示している。
なお、本実施形態では、X軸方向の補正関数dxr,j(Yr,j,hr,j)については、Xの1次関数の項が含まれておらず、Y軸方向の補正関数dyr,j(Yr,j,hr,j)については、Xr,jの1次関数の項(第3の項)が含まれている。このようにすれば、両軸方向の補正関数の補正により、レチクルステージRSTとウエハステージWSTとの間のθz成分のずれも補正することができるようになる。なお、Y軸方向の補正関数dyr,j(Yr,j,hr,j)の方に、Xr,jの1次の項が含まれるようにしたのは、レチクル干渉計16においては、Y干渉計の方が2軸干渉計となっており、後述するように、補正関数を、Y干渉計の各干渉計の補正関数に対応させるのが容易だからである。また、本実施形態で、Yr,j干渉計の各干渉計の計測値を補正することにより、補正できる成分は、Xr,jの1次の成分に限られるため、各軸方向の補正関数の項には、Xr,jの2次以上の関数が含まれることはない。なお、Y干渉計(2軸干渉計)の各干渉計の計測値をそれぞれ補正するということは、換言すれば、転写されるショットの形状をY軸方向において変形するということでもある。また、Y軸方向における回転誤差成分(ヨーイング誤差成分)を補正するということでもある。なお、Y干渉計の各軸に対して、上述したY軸方向の補正関数(式(7))がそれぞれ適用されて、2軸干渉計の各干渉計の計測値が補正されることになる。
また、本実施形態では、関数f(Yr,j,k)及び関数g(hr,j,l)には、それぞれ以下の式(8)、式(9)を用いることができる。
すなわち、上記式(8)に示されるように、f(Y
r,j,k)は、ショット内Y位置Y
r,jのべき関数であるとする。式(8)からもわかるように、f(Y
r,j,k)のkは、そのべき関数の乗数を示す。よって、この乗数が1(1次)であれば、式(7)で示される補正関数dy
r,j(Y
r,j,h
r,j)は、Y軸方向のスケーリングを補正する関数となり、また、この乗数が0(0次)であれば、式(7)で示される補正関数dy
r,j(Y
r,j,h
r,j)は、Y軸方向からみた時のステージの回転誤差成分を補正する関数となる。
また、上記式(9)に示されるように、g(hr,j,l)は、正弦関数であるとする。式(9)からもわかるように、Hmax_pは、ステージが加速から一定速度に切り替わったときに、ステージに発生するオーバーシュートに起因するステージの減衰振動が収束するまでの時間であり、g(hr,j,l)のlは、その減衰振動の周波数に対応する数である。Hmax_p及びlが決まれば、g(hr,j,l)が決まるようになる。
一方、マイナススキャン時のX軸方向の補正関数dxr,j(Yr,j,hr,j)及びY軸方向の補正関数dyr,j(Yr,j,hr,j)については、次式のように規定する。
すなわち、上記式(10)、式(11)においては、オフセット項として、C
dx,0,b,0,C
dy,0,b,0が設けられている点が、プラススキャン時の補正関数である式(6)、式(7)と異なっている。このオフセット項は、前述の正逆差補正に対応する項である。
なお、一条件で補正関数を作成する場合は、式(10)は、右辺第1項と第3項の組合せか、第2項と第3項の組合せとなる。式(11)は、右辺第1項、2、4項の組合せの関数となる。上記式(10)、式(11)におけるf(Yr,j,k)としては、上記式(8)、すなわち「べき関数」を適用することができる。このため上述のプラススキャン時の補正関数で説明したのと同様に、式(8)の乗数kによって、式(11)で示される補正関数dyr,j(Yr,j,hr,j)は、Y軸方向のスケーリングを補正する関数となったり、あるいはステージの回転を補正する関数となったりする。なお、係数Cの添え字bは、その係数が、マイナススキャン時の補正関数の係数であることを示しており、他の添え字の意味は、上記式(8)、式(9)と同じである。また、マイナススキャン時の時間項の関数g(hr,j,l)は、次式で表される。
ここで、H
min_mは、マイナススキャン時においてステージが加速から一定速度に変化したときに、レチクルステージRST又はウエハステージWSTの制御系に発生するオーバーシュートに起因するウエハステージWSTの減衰振動が収束するまでの時間であり、g(h
r,j,l)のlは、減衰振動中の周波数に対応する数である。
上記式(8)に示されるdxr,j(Yr,j,hr,j)を、各走査条件j(j=1〜N)に関してマトリクスで表現すると、次式のようになる。
すなわち、補正関数のdx
r,j(Y
r,j,h
r,j)は、スキャン速度v
r,jと、関数f(Y
r,j,k)又は関数g(h
r,j,l)との積を各要素とするマトリクスと、係数Cの列ベクトルとの積で、表現することができる。上記式(13)をまとめると、次式のようになる。
ここで、ξは、各走査条件jにおける補正関数dx
r,j(Y
r,j,h
r,j)の値を各要素とする列ベクトルであり、Ψは、v
r,j×f(Y
r,j)等を各要素とする行列であり、θは、各項の係数Cの列ベクトルである。
さらに、上記式(7)に示されるプラススキャン時のY軸方向に関する補正関数dyr,j(Yr,j,hr,j)を、各走査条件j(j=1〜N)に関しても上記式(14)に示されるようなマトリクスで表現することができる。ここで、ξのj行の要素をそれぞれξjとし、θのm行の要素をθmとし、Ψのj行、m行の要素をΨj,mとすると、θm、ξj、Ψj,mは、以下のように表すことができる。
さらに、上記式(10)に示されるマイナススキャン時のX軸方向に関する補正関数dx(Y
r,j,h
r,j)を、各走査条件j(j=1〜N)に関しても上記式(14)に示されるようなマトリクスで表現することができ、その要素θ
m、ξ
j、Ψ
j,mを、以下のように表すことができる。
さらに、上記式(11)に示されるマイナススキャン時のX軸方向に関する補正関数dy(Y
r,j,h
r,j)を、各走査条件j(j=1〜N)に関して、上記式(14)に示されるようなマトリクスで表現することができ、その要素θ
m、ξ
j、Ψ
j,mは、以下のように表すことができる。
図6のステップ634では、最終的に、上記式(6)、式(7)、式(10)、式(11)の補正関数を作成するが、前述したとおり、これらの補正関数は、走査露光によるパターンの転写を位置ずれなく行うようにするための関数であり、ステップ632において導き出された位置ずれ量dx
p,j、dy
p,jをキャンセルするためのものである。したがって、位置ずれ量dx
p,j、dy
p,jを、ξの各要素の値として適用することができる。
また、マトリクスΨの各要素の値は、上記式(8)、式(9)、各マーク像MPpのショット座標系の設計上の位置座標、及び各走査条件jにおけるvr,jより明らかである。その結果、プラススキャン時及びマイナススキャン時の補正関数dxr,j(Yr,j,hr,j)、dyr,j(Yr,j,hr,j)に関する上記式(14)の中で、各要素の値が未知であるのは、各項の係数Cの列ベクトルθのみとなる。したがって、例えば、プラススキャン時及びマイナススキャン時の補正関数dxr,j(Yr,j,hr,j)、dyr,j(Yr,j,hr,j)に関して、上記式(14)を、最小二乗法などで解けば、各関数についてのそれぞれの各項の係数Cを求めることができるようになる。
そこで、図6のステップ634では、プラススキャン時及びマイナススキャン時の補正関数dxr,j(Yr,j,hr,j)、dyr,j(Yr,j,hr,j)に関する上記式(14)について、最小二乗法を適用することにより、各項の係数Cを求める。すなわち、上記式(14)を次式のように変形して、θの推定値を求めることができる。
ここで、Ψ
Tは、Ψの転置行列であり、(Ψ
TΨ)
−1は、(Ψ
TΨ)の逆行列である。
なお、実際には、本実施形態では、上記式(24)からθの推定値を求めるのではなく、式(14)をLU分解して、θの推定値を求めるのが容易である。
したがって、図6のステップ634では、LU分解によって、プラススキャン時の補正関数dxr,j(Yr,j,hr,j)、dyr,j(Yr,j,hr,j)、及びマイナススキャン時の補正関数dxr,j(Yr,j,hr,j)、dyr,j(Yr,j,hr,j)についての各項の係数Cを求めるようにしても良い。その補正関数の各係数Cは、ステージ制御装置19で用いられる補正関数のパラメータとして、ステージ制御装置19にセットされる。ステップ634を終了後、図7のステップ702に進む。
図7のステップ702では、不図示のレチクルローダを用いてレチクルステージRSTにレチクルRをロードする。
次のステップ704では、例えば、前述のレチクルアライメント検出系22により、前述のステップ504と同様に、レチクルアライメントを行なう。また、ここで、主制御装置20は、ステージ制御装置19に対し、走査露光時には、補正関数を用いて、レチクル干渉計16の計測値を用いて補正するように指示する。
次いで、ステップ706において、主制御装置20では、不図示のウエハローダの制御系にウエハWのTアンロード及びウエハWのロードを指示する。これにより、ウエハローダによって、ウエハWTがウエハステージWST上のウエハホルダ25上からアンロードされ、ウエハWがウエハホルダ25上にロードされる。なお、ここで、ウエハWは、まだショット領域が形成されていないベアウエハであるとする。
次のステップ708では、ウエハW上のノッチ(又はオリエンテーション)を含むウエハの外縁部を検出することにより、ウエハステージWST上におけるウエハWの向きや中心位置のずれをラフに検出し、そのずれに応じてウエハWの位置を調整する、いわゆるラフアライメントを行う。
次のステップ710では、例えば露光装置100が稼動するリソグラフィシステムのホストコンピュータ等から送信されたウエハWを対象とするプロセスプログラムに登録されている、スキャン速度(Vとする)、スキャン長、スキャン方向等の走査条件をステージ制御装置19に設定する。これにより、ステージ制御装置19は、上記式(6)、式(7)、式(10)、式(11)の補正関数のvr,jに、スキャン速度Vを代入する。
次のステップ712では、ショット領域の配列番号を示すカウンタgに1をセットし、最初のショット領域を露光対象領域とする。
ステップ714では、ウエハWの位置がそのショット領域を露光するための加速開始位置となるようにウエハステージWSTを移動させるとともに、レチクルRの位置が加速開始位置となるようにレチクルステージRSTを移動させる。
ステップ716では、ステージ制御装置19に対し、レチクルステージRSTとウエハステージWSTの相対走査を開始するよう指示する。ステージ制御装置19の制御により、両ステージがそれぞれの目標走査速度に達し、等速同期状態に達すると、照明系10からの照明光ILによってレチクルRのパターン領域が照明され始め、走査露光が開始される。すなわち、この相対走査は、ステージ制御装置19により、ウエハ干渉計18及びレチクル干渉計16の計測値をモニタしつつ、ウエハステージ駆動系24及びレチクルステージ駆動系を制御することにより行われる。そして、レチクルRのパターン領域の異なる領域が照明光ILで逐次照明され、パターン領域全面に対する照明が完了することにより走査露光が終了する。これにより、レチクルRのパターンが投影光学系PLを介してウエハW上の露光対象領域に縮小転写される。
この走査露光中においては、ステージ制御装置19は、レチクル干渉計16の計測値をショット内座標系の座標値に変換し、変換されたショット座標系の座標値Xr,j、Yr,jと、不図示のタイマから取得された走査露光中の時間hr,jを補正関数(プラススキャンの場合には、上記式(6)、式(7)を用い、マイナススキャンの場合には、上記式(10)、式(11)を用いる)に代入し、その代入により算出された補正関数の値を、レチクル干渉計16の計測値から減算し(補正量を正で計算しているので、換言すれば補正が効く方向(補正しなければならない方向)を正としているので)、その減算値を現在のレチクルステージRSTの位置としてレチクルステージの位置制御(フィードバック制御系)に用いる。このようにすれば、レチクルステージRSTの位置が補正され、両ステージの走査露光中の動特性に起因するパターンの転写位置のずれがキャンセルされるようになる。なお、Y軸方向に関する補正関数のXr,jには、2軸干渉計の各軸干渉計のショット内座標のX位置がそれぞれ代入されるものとする。また、補正関数を適用する際には、レチクル干渉計16の計測値をショット座標系に変換する必要があり、補正関数で補正された計測値をフィードバック制御量とする際には、その計測値を、レチクルステージ座標系の位置座標に変換する必要があることはいうまでもない。なお、上述のように、走査露光中に使用する補正関数(特にY軸方向に関する補正関数)をプラススキャン時とマイナススキャン時とで使い分けるということは、換言すれば、プラススキャン時とマイナススキャン時とでY軸方向におけるスケーリング補正値を使い分けるということである。また、Y軸方向の2軸干渉計のそれぞれに適用する補正関数をプラススキャンとマイナススキャンとで使い分けるということは、換言すればプラススキャン時とマイナススキャン時とでY軸方向のヨーイング補正値を使い分けるということである。
次のステップ718では、カウンタ値gを参照し、全てのショット領域に露光が行われたか否かを判断する。この判断が否定されれば、ステップ722に進み、肯定されれば、ステップ724に進む。ここでは、g=1、すなわち最初のショット領域に対して露光が行なわれただけなので、ステップ718での判断は否定され、ステップ720に移行する。
ステップ720では、カウンタgの値をインクリメント(g←g+1)して、次のショット領域を露光対象領域とし、ステップ714に戻る。
以降、ステップ718での判断が肯定されるまで、ステップ714→ステップ716→ステップ718→ステップ720の処理、判断を繰り返し、ウエハW上の全てのショット領域への走査露光によるパターンの転写を行う。なお、ショット領域毎に、走査条件が変更となる場合には、各ショット領域の露光前に、スキャン速度、スキャン長、スキャン方向などの走査条件を、その都度(例えば走査露光間のステップ移動の際に)、ステージ制御装置19に対し、セットする必要がある。
ウエハW上の全てのショット領域へのパターンの転写が終了すると、ステップ718での判断が肯定され、ステップ722に移行する。
ステップ722では、不図示のウエハローダにウエハWのアンロードを指示する。これにより、ウエハWは、不図示のウエハローダにより、ウエハホルダ25上からアンロードされた後、不図示のウエハ搬送系により、露光装置100にインラインにて接続されている不図示のコータ・デベロッパに搬送される。そして、一連の露光処理動作を終了する。
なお、本実施形態では、図6のステップ634終了後に、図5のステップ502に戻り、ステップ502〜ステップ634を繰り返すようにしても良い。なお、この場合には、ステップ512及びステップ518の走査露光を行う際に、ステージ制御装置19に、作成した補正関数の係数Cを設定し、ステップ512及びステップ518における走査露光中には、レチクル干渉計16の計測値を補正するものとする。そして、補正関数を適用した場合の走査露光を行いつつ、ステップ512及びステップ518を実行した後、図6のステップ610及びステップ616において検出された位置ずれ量をdx’、dy’とする。
このdx’、dy’は、補正関数dxr,j(Yr,j,hr,j)、dyr,j(Yr,j,hr,j)でレチクル干渉計16の値を補正しても、なおかつ発生するショットディストーション成分(マイナススキャン時には、正逆差成分をも含む)であるとみなすことができる。したがって、その後、ステップ634において新たに作成された補正関数を、前回作成した補正関数dxr,j(Yr,j,hr,j)、dyr,j(Yr,j,hr,j)に加算し、その加算結果を新たな補正関数dxr,j(Yr,j,hr,j)、dyr,j(Yr,j,hr,j)として更新すれば、残存するショットディストーション成分等もキャンセルする補正関数を作成することができる。
このように、本実施形態では、ステップ502〜ステップ634を複数回実行することにより、補正関数dx(Yr,j,hr,j)、dy(Yr,j,hr,j)を、より高精度な制御を可能とする関数に修正することができる。このとき、ステップ502〜ステップ634の実行回数、すなわち補正関数の修正回数は、所定の回数とすることができる。また、ステップ610及びステップ616で検出されるX軸方向又はY軸方向に関する位置ずれ量dxp,j、dyp,jが、十分小さくなり、所定量以下となるまで、ステップ502〜ステップ634の処理を繰り返すこととしても良い。
また、本実施形態では、条件0を低速の走査条件と同一であるとし、この条件での重ね合わせ露光結果としての位置ずれ量を算出し、ステップ632において、その位置ずれ量をレチクル製造誤差として用いたが、本発明はこれには限られない。すなわち、レチクルRT上に形成されたマークの製造誤差が十分小さく、そのマークが高精度に形成されたものであるとみなすことができる場合には、低速の走査条件と同一走査条件下での重ね合わせ走査露光を行う必要はなく、ステップ632を行う必要もない。この場合には、各条件jで検出された位置ずれ量dx、dyを上記式(14)等の列ベクトルξにそのまま対応させることができる。
また、このようなレチクル製造誤差が存在する場合でも、その誤差の値が既知であれば、低速の走査条件と同一の条件下での重ね合わせ走査露光を行う必要はない。この場合、ステップ632では、その既知のレチクル製造誤差の値を、各条件jの下で検出された位置ずれ量から差し引けば良い。
また、ステージ制御装置19では、ウエハ干渉計18によって計測されたウエハステージWSTの位置の計測値を補正関数により補正が効く方向(補正しなければならない方向)を正として補正する機能を有していても良い。この場合も、レチクルステージRSTの制御と同様に、走査露光中においては、この補正関数を用いてウエハ干渉計18の計測値を補正するか否かは、主制御装置20からの指示により決定され、この補正関数の各項の係数などの補正関数を規定するパラメータは、主制御装置20からステージ制御装置19に対して設定可能となっている。このように、補正関数で補正するのは、レチクル干渉計16の計測値かウエハ干渉計18の計測値かのいずれか一方とすることができる。なお、補正関数による補正関数の程度によっては、レチクル干渉計16及びウエハ干渉計18の両方に、補正量を(補正が効く方向を正として)振り分けて、両方の干渉計の測定値を補正するようにしても良い。
これまでの説明から明らかなように、また、本実施形態では、主制御装置20が、本発明の露光装置の転写装置、取得装置、関数作成装置、関数修正装置に対応している。すなわち、主制御装置20のCPUが行う、ステップ508〜ステップ526(図5)の処理によって転写装置の機能が実現され、ステップ602〜ステップ632(図6)の処理によって取得装置の機能が実現され、ステップ634(図6)の処理によって、関数作成装置の機能が実現されている。また、ステップ502〜ステップ634を複数回実行する場合には、2回目以降のステップ502〜ステップ634の処理によって関数修正装置の機能が実現されている。また、本実施形態では、ステージ制御装置19が、本発明の露光装置の制御装置に対応している。しかしながら、本発明がこれに限定されるものではないことは勿論であり、例えば、主制御装置20及びステージ制御装置19の機能を1つのCPUで実現するようにしても良い。
以上述べたように、本実施形態の露光装置100によれば、走査露光によりレチクルRTに形成された少なくとも1つのマークMpを複数の異なる走査条件(条件j)の下でそれぞれ転写し、そのマーク転写位置の基準位置からのずれに関する情報(dxp,j、dyp,j)を、走査条件毎に取得し、取得された各情報と各走査条件とに基づいて、最適化手法を用いて、XY平面内におけるウエハWの位置の計測値の補正量を従属変数とする補正関数dxr,j(Yr,j,hr,j)、dyr,j(Yr,j,hr,j)を作成し、ウエハWの位置の計測値を補正し、補正された計測値に基づいて、ウエハW又はレチクルRの位置を制御しながら、レチクルR上のパターンをウエハW上に転写する。
したがって、露光装置100によれば、トライ・アンド・エラーでなく、最小二乗法等の最適化手法を用いて、ウエハWの位置の計測値を補正するための補正関数dxr,j(Yr,j,hr,j)、dyr,j(Yr,j,hr,j)を作成することができるので、短時間に、高精度な露光を実現することができる。
なお、上記実施形態では、補正関数dxr,j(Yr,j,hr,j)、dyr,j(Yr,j,hr,j)の独立変数として、走査露光中の時間hr,jを用いたが、走査露光中の時間hr,jが未知である場合には、次式のように時間hr,jをショット内座標yw,jに変換し、補正関数をショット座標値だけを独立変数とする関数とするようにしても良い。
上記実施形態においては、関数f(Y
r,j、k)、関数g(Y
r,j、l)として、べき関数又は正弦関数を用いたが、本発明はこれには限られず、ショット内Y位置Y
r,jを独立変数とする関数であれば、あらゆる関数を適用することができる。
また、上記実施形態におけるY軸方向の補正関数dy(Yr,j,hr,j)では、ショット内X位置Xr,jの1次関数を含む項を位置項だけとしたが、ショット内X位置Xr,jの1次関数を含む時間項を新たに加えるようにしても良い。また、上記式(6)、式(7)、式(10)、式(11)の右辺に含まれる速度vr,jを、その速度vr,jを独立変数とする関数に代えても良い。また、速度vr,jを含まない位置項、時間項を加えるようにしても良い。すなわち補正関数の関数モデルに関しては、適宜変形が可能である。
また、上記実施形態の低速−高速重ね露光で用いられるマークは、図3に示されるようなマークMpに限られない。例えば、L/SパターンMX1、MY1は、単なる1つのL/Sパターンであっても良い。また、図2に示されるL/SパターンMX1、MX2、MY1、MY2の他に、他のL/Sパターンや、低速−高速重ね露光の結果、ボックス・イン・ボックス・パターンとなるようなパターンを含むマークを用いても良い。このようなパターンでも、外側のパターンと内側のパターンとの重ね合わせのずれを、X軸方向及びY軸方向の位置ずれ量として検出することが可能である。また、このように、1つのマークの中で、複数の位置ずれ量計測用のパターンを設けるようにすれば、1つのマークにつき、各軸方向について、複数の位置ずれ量がそれぞれ検出されるため、検出された複数の位置ずれ量の平均値をそのマークでの位置ずれ量として、位置ずれ量の検出精度を高めることも可能となる。
また、上記実施形態では、最小二乗法を適用して、補正関数の各項の係数Cを求めた。しかしながら、求めるパラメータに対する関数モデルの非線形性が高い場合には、最急降下法等の非線形最小二乗法を適用して、係数Cを求めるようにしても良い。
また、上記実施形態では、アライメント検出系ASを用いてX軸方向及びY軸方向の位置ずれ量を検出したが、これに限らず、他の専用の撮像装置等を用いて、これらの位置ずれ量を検出するようにしても構わない。
《基準ウエハを用いる方法》
また、上記実施形態では、いわゆる低速−高速重ねの走査露光により、補正関数を求めたが、補正関数を作成するための転写結果を求める方法はこれだけには留まらない。例えば、レチクルRT上に形成されたパターンを理想的に転写したときに形成されるパターンと同一のパターンが表面上に形成されているウエハ、すなわちレチクルRT上のマークに対応する位置に基準マークが形成されている「基準ウエハ」を用い、そのパターン上に各走査条件jの下で走査露光を行い、基準ウエハ上の既成の基準マークと、各走査条件jの下での走査露光により転写形成されたマークとの位置ずれ量を、それらのマークの転写位置の位置ずれに関する情報として取得するようにしても良い。なお、この場合、プラススキャンの補正関数にオフセットを加えることができ、プラススキャン補正関数dxとしては、式(6)又は式(10)を用いることができ、プラススキャン補正関数dyとしては、式(7)又は式(11)式を用いることができる。
また、上記実施形態では、レチクル干渉計16の計測値を補正したが、ウエハ干渉計18の計測値を補正するようにしても良い。この場合には、補正関数に対応する座標系は、ウエハ換算のショット座標系となることは言うまでもない。
《計測データの除外又は平滑化処理》
なお、上記実施形態では、図6のステップ632において、複数の異なる走査条件下で形成された各マーク像MPpの位置ずれ量(dx、dy)から、低速の走査条件下で形成された各マーク像MPpの位置ずれ量(dx、dy)をそれぞれ差し引くことによって、補正関数の作成に用いられる位置ずれ量(dxp,j、dyp,j)を検出した。このようにすれば、その位置ずれ量から、ショットディストーションや正逆差などとは本来無関係なレチクル製造誤差を除去することができるからである。
このように、上記実施形態において作成される補正関数を高精度なものとするためには、ショットディストーション及び正逆差のみに起因する位置ずれ量を、マークの転写位置の位置ずれに関する情報として検出し、その他の成分によるものを誤差とみなし、その位置ずれ量から除去するのが望ましい。上記実施形態の位置ずれ量に含まれる誤差は、その性質から、以下のように分類することができる。
A.上記レチクル製造誤差や、レチクルなどに付着した異物による誤差など、レチクルに起因する誤差であり、規則的に現れることが多い誤差
B.計測誤差、いわゆる偶然誤差(確率誤差)であり、所定の確率分布に従ってランダムに現れる誤差
A.に分類される誤差に関しては、上記実施形態のように、低速の走査条件での走査露光を実施し、そのときのマークの位置ずれ量をレチクル製造誤差等とみなして計測するなど、何らかの計測処理を行うことにより、その誤差を計測された位置ずれ量から取り除くことができるが、実際にその誤差の計測を行わずとも他の方法によってもA.に分類される誤差は、除去可能である。一方、B.に分類される誤差に関しては、実際に計測するのは困難である。そこで、以下では、A.に分類される誤差を取り除く他の方法と、B.に分類される誤差を取り除く方法とについて説明する。
《A.に分類される誤差を取り除く他の方法》
図11には、A.に分類される誤差を取り除く方法を実現するための処理の一例を示すフローチャートが示されている。なお、前提として、図5のステップ502〜ステップ534及び図6のステップ602〜ステップ630の処理が複数回(send回とする)実行されて、異なる走査条件jの下でそれぞれ、send回の走査露光が実施されているものとし、その各回の走査露光により形成されたショット領域をショット領域s(s=1〜send)とし、ショット領域sに形成されたマーク像MPpをマーク像MPp,sとする。そして、計測されたX軸方向及びY軸方向に関する位置ずれ量をそれぞれ(dxp,s’、dyp,s’)とする。また、ショット内座標系におけるマーク像MPp,sの設計上の位置座標を(Xp、Yp)とし、マーク像MPp,sの数をpend個とする。これらのデータは、主記憶装置20の記憶装置(不図示)に予め格納されているものとする。
図11に示されるように、まず、ステップ302において、隣接するマーク像間のマーク像の転写位置の位置ずれ量の変化の許容値である許容変化量dを設定する。この許容変化量dは、不図示の入力装置を介して、主制御装置20に入力される。次のステップ304では、カウンタpの値(以下、カウンタ値pとする)を1に初期化する。次のステップ306では、カウンタ値pが、1つのショット領域におけるマーク像MPp,sの数pendより大きいか否かを判断する。この判断が肯定されれば処理を終了し、否定されればステップ308に進む。ここでは、p=1であり、判断が否定され、ステップ308に進む。
ステップ308では、ショット領域1〜sendにおけるマーク像MPp,s(ここでは、MP1,s)の位置ずれ量(dxp,s’、dyp,s’)の平均値(μp,dx、μp,dy)を算出する。
次いで、ステップ310では、マーク像MPXLを決定する。マーク像MPXLは、その設計上の位置座標を(XXL,YXL)とすると、今回のマーク像MPp,s(ここでは、マーク像MP1,s)に対し、設計上のY軸座標Ypの値が同じであって(すなわちYXL=Yp)、次式に示される条件を満たす設計上のX座標Xpを有するマーク像のことであり、ここでは、そのマーク像MPXLを、マーク像MPp,s(p=1〜pend)の中から選択する。
ただし、qは、1,2,…,p
endの中で、p≠qとなる整数である。すなわち、マーク像MP
XLは、マーク像MP
p,sよりも−X側にある最寄のマーク像ということになる。なお、マーク像MP
p,sがショット領域sの端部にあり、上記条件式を満たすマーク像MP
XLがない場合もありうる。この場合には、マーク像MP
XLがないものとして、ステップ310の処理を終了する。
そして、このステップ310では、上記条件式を満たすマーク像MPXLがあった場合、ショット領域1〜sendにおける、マーク像MPXLのX軸方向に関する位置ずれ量dxL,s’の平均値μL,dxを算出する。
次いで、ステップ312では、マーク像MPXLとマーク像MPp,sの間の位置ずれ量の平均値の変化量(勾配)ΔXLを、次式を用いて算出する。
次いで、ステップ314では、マーク像MPXRを決定する。マーク像MPXRとは、その位置座標を(XXR,YXR)とすると、今回のマーク像MPp,s(ここでは、マーク像MP1,s)に対し、そのマーク像MPp,sと、設計上のY軸座標Ypの値が同じであって、次式に示される条件を満たす設計上のX座標Xpを有するマーク像MPp,sのことであり、ここでは、そのマーク像MPXRをマーク像MPp,sの中から選択する。
ただし、qは、1,2,…,p
endの中で、p≠qとなる整数である。すなわち、マーク像MP
XLは、マーク像MP
p,sよりも+X側にある最寄のマーク像ということになる。なお、マーク像MP
p,sがショット領域の端部にあり、上記条件式を満たすマーク像MP
XRがない場合もありうる。この場合には、マーク像MP
XRがないものとして、そのままステップ314の処理を終了する。
そして、このステップ314では、上記条件式を満たすマーク像MPXRがあった場合、そのマーク像MPXRにおけるX軸方向に関する位置ずれ量dxR,s’の平均値μR,dxを算出する。
次いで、ステップ316では、マーク像MPp,sとマーク像MPXRの間の位置ずれ量の変化量(勾配)ΔXRを、次式を用いて算出する。
次のステップ318では、上記ステップ312で算出されたΔXLと、上記ステップ314で算出されたΔXRとの積が負であるか否かが判断される。この判断が肯定されれば、ステップ320に進み、否定されればステップ324に進む。ΔXLとΔXRとの積が負であるということは、マーク像MPp,sのX軸方向の位置ずれ量の平均値が、X軸方向に隣接する両側のマーク像のX軸方向の位置ずれ量の平均値に対して、正の方向又は負の方向に突出していることを示している。なお、マーク像MPXL、MPXRのいずれか一方がなかった場合には、この判断を行わず、そのままステップ320に進むものとする。
ステップ320では、ΔXL>d又はΔXR>dであるか否かが判断される。ここで、ステップ312でΔXLが算出されていない場合には、ΔXR>dであるか否かだけが判断され、ステップ314でΔXRが算出されていない場合には、ΔXL>dであるか否かだけが判断される。この判断が肯定されればステップ322に進み、否定されればステップ324に進む。ΔXL>d又はΔXR>dであるということは、マーク像MPp,sでのX軸方向の位置ずれ量の平均値の変化が、X軸方向に隣接する両側のマーク像のX軸方向の位置ずれ量の平均値に対して、許容範囲量dを超える程度に急峻であることを示している。
すなわち、ステップ318での判断が肯定され、さらにステップ320での判断が肯定されると、ステップ322が実行される。ステップ322では、マーク像MPXLとマーク像MPXRとの位置ずれ量の平均値を用いて、次式により、マーク像MPp,sにおける位置ずれ量の補間値を算出し、その補間値をマーク像MPp,sにおける位置ずれ量の平均値に置き換える。
以上のステップ308〜ステップ322においては、マーク像MPp,sのX軸方向の位置ずれ量の平均値の平滑化を行ったが、以降のステップ324〜ステップ336では、マーク像マーク像MPp,sのY軸方向の位置ずれ量の平均値の平滑化を行う。各ステップの具体的処理については、上記ステップ308〜ステップ322と同様に行われるので、詳細な説明を省略する。なお、X軸方向の位置ずれ量については、X軸方向に並んだマーク像(MPXL、MPp,s、MPXR)の間での勾配を算出し、その勾配に基づいて平滑化を行ったが、Y軸方向の位置ずれ量については、マーク像MPp,sを中心とするY軸方向に並んだ3つのマーク像(MPYL、MPp,s,MPYR)の間での勾配に基づいて平滑化を行う必要があることは勿論である。
ステップ332で判断が否定された場合や、ステップ334で判断が否定された場合や、ステップ336を終了した後は、ステップ338に進む。ステップ338では、カウンタ値pを1だけインクリメントして(p←p+1)、ステップ306に戻る。
ステップ306では、カウンタ値pがpendを越えたか否かが判断される。ここではp=2であり、判断が否定されて、ステップ308に進む。以降、マーク像MP2に関して、ステップ308〜ステップ322の処理によりそのX軸方向に関する位置ずれ量の平均値の平滑化が実施され、ステップ324〜ステップ336の処理によりそのY軸方向に関する位置ずれ量の平均値の平滑化が実施される。
以降、ステップ306において判断が肯定されるまで、すなわちカウンタ値pがpendを越えるまで、マーク像MP3、MP4、…に対するX軸方向及びY軸方向に関する位置ずれ量の平均値の平滑化が実施される。
ステップ306における判断が肯定されると、処理を終了する。このように、上述した図11に示される処理を、走査条件j(j=1〜N)各々のs個のショット領域についてそれぞれ実施すれば、各ショット領域の位置ずれ量から、上記A.に分類されるレチクル製造誤差等の系統誤差を除去することができる。なお、ステップ322及びステップ336においては、周辺のマーク像に対し、その平均値が突出したマーク像については、その平均値を、周辺のマーク像の位置ずれ量の平均値を用いて上記式(31)の補間演算により算出される値に置換したが、ここで、そのマーク像の計測データを、補正関数を作成するための計測データから除外するようにしても良い。また、そのマーク像の位置ずれ量の平均値が、周辺のマーク像の位置ずれ量の平均値に対して、許容範囲内となるように、そのマーク像の位置ずれ量の幾つかを、図6のステップ634において補正関数を作成するための計測データから除外するようにしても良い。すなわち、補正関数を作成するための計測データとして、ショット領域1〜sendのマーク像MPp,sにおける位置ずれ量の平均値を用いる場合には、その平均値の算出に、除外されたデータを用いないようにすれば良い。
また、図11に示される処理では、各マークの位置ずれ量の平均値を平滑化したが、上記実施形態のように、走査条件1〜Nについてそれぞれ1回ずつ走査露光を実施して、各条件についてそれぞれ1つのショット領域を形成し、そのショット領域の各マーク像の位置ずれ量を周辺のマーク像の位置ずれ量と比較して、平滑化するようにしても良いことは勿論である。
《B.に分類される誤差を取り除く他の方法》
図12には、B.に分類される誤差(計測誤差等の偶然誤差)を取り除く方法を実現するための処理の一例を示すフローチャートが示されている。なお、この場合も、前提として、ウエハWT上の異なる走査条件jの下での複数回(send回とする)の走査露光が実施されているものとし、その各走査露光により形成されたショット領域をショット領域s(s=1〜send)とする。また、ショット領域sに形成されたマーク像MPpをマーク像MPp,sとし、計測されたX軸方向及びY軸方向に関する位置ずれ量をそれぞれ(dxp,s’、dyp,s’)とする。また、ショット内座標系におけるマーク像MPp,sの設計上の位置座標を(Xp、Yp)とする。これらのデータは、主記憶装置20の記憶装置(不図示)に予め格納されているものとする。
図12に示されるように、まず、ステップ402において、X軸方向の分散σX 2と、Y軸方向の分散σY 2の値を設定する。ここでの分散σX 2、σY 2は、不図示の入力装置により、主制御装置20に設定される。分散σX 2、σY 2の値としては、これまでに行われた、走査条件jの下での複数回の走査露光により得られた露光結果、すなわち各マーク像MPp,sのX軸方向及びY軸方向に関する位置ずれ量の計測データから求められた統計量としての標本分散の値が設定されるのが望ましいが、それらの値が経験的に既知な場合、あるいは、設計値としての計測誤差の分散の値が既知な場合には、その値を設定するようにしても良い。なお、標本分散の値を計測データから算出する際には、明らかに真の値から外れていると思われる計測データについては、計算から除外しておくのが望ましい。
次のステップ404では、カウンタ値pを1に初期化する。そして、ステップ406では、カウンタ値pがpendより大きいか否かを判断し、ステップ408では、send個のマーク像MPp,s(ここではMP1)のX軸方向及びY軸方向に関する位置ずれ量の平均値μdx、μdyを算出する。
次のステップ410では、カウンタsの値(以下、カウンタ値sと称する)を1に初期化する。そして、ステップ412では、カウンタ値sがsendより大きいか否かを判断する。この判断が否定されれば、ステップ414に進み、肯定されればステップ424に進む。
ステップ414では、ショット領域s(ここでは1)のマーク像MPp,sのX軸方向の位置ずれ量dxp,s’が、平均値μdxを基準とする±3σXの範囲内に入っているか否かを判断する。この判断が否定されればステップ416に進み、肯定されればステップ418に進む。ステップ416では、そのマーク像MPp,sの位置ずれ量dxp,s’を平均値μdxに置き換える。
ステップ418では、ショット領域s(ここでは1)のマーク像MPp,sのY軸方向の位置ずれ量dyp,s’が、平均値μdYを基準とする±3σYの範囲内に入っているか否かを判断する。この判断が否定されればステップ420に進み、肯定されればステップ422に進む。ステップ420では、そのマーク像MPp,sの位置ずれ量dyp,s’を平均値μdyに置き換える。
ステップ422では、カウンタ値sを1インクリメントし(s←s+1)、ステップ412に戻る。ステップ412では、カウンタ値sがsendより大きいか否かを判断する。ここでは、s=2であるので、判断が否定され、ステップ414に進む。
以降、ステップ412において判断が肯定されるまで、ステップ414〜ステップ422において、ショット領域2、3、4、…におけるマーク像MP1の位置ずれ量dx1,s’、dy1,s’(s=2、3、4、…)の平滑化が実施される。
ステップ412において判断が肯定されると、ステップ424においてカウンタ値pが1だけインクリメントされ、ステップ406に戻る。ステップ406では、カウンタ値pがpendより大きいか否かが判断される。ここでは、p=2であるので判断は否定され、ステップ408に進む。
以降、ステップ408〜ステップ422において、マーク像MP2における位置ずれ量dxp,s’、dyp,s’の平滑化が実施される。そして、ステップ412において判断が肯定されると、ステップ424に進み、カウンタ値pが1だけインクリメントされ(p←p+1)、ステップ406に戻る。
以降、ステップ406において判断が肯定されるまで、ステップ406〜ステップ424の処理が繰り返し実行され、ショット領域1〜sendにおけるマーク像MP3,s、MP4,s、…の位置ずれ量(dx3,s’、dy3,s’)、(dx4,s’、dy4,s’)、…の平滑化が実施される。
ステップ406の判断が肯定されると、処理を終了する。このように、上述した図12に示される処理を、全ての走査条件についてそれぞれ実施すれば、各ショット領域の位置ずれ量から、上記B.に分類される計測誤差等の偶然誤差を除去することができる。なお、ステップ416及びステップ420においては、位置ずれ量を平均値に置換したが、ここで、その位置ずれ量を、図6のステップ634で補正関数を作成するための計測データから除外するようにしても良い。すなわち、補正関数を作成するための計測データとして、ショット領域1〜sendのマーク像MPp,sにおける平均値を用いる場合には、その平均値の算出に、除外したデータを用いないようにすれば良い。
なお、図12に示されるような平滑化処理においては、走査条件jの下での走査露光におけるマーク像MPp,sの位置ずれ量の平均値μdx,μdyが、既知である場合には、send個のショット領域を形成しておく必要はなく、send=1として、上記ステップ402〜ステップ424の処理を実行すれば良い。
なお、上記図11、図12に示される平滑化処理は、基準ウエハを用いて補正関数を作成する際にも、その計測値を平滑化するのに有効であることはいうまでもない。また、図12に示される処理以外にも様々な平滑化処理を適用することができる。例えば、現在EGA方式などのウエハアライメントで行われている、サンプルマークのリジェクトなどに用いられている統計的手法を、上記位置ずれ量の平滑化に適用することは、可能である。また、図11、図12に行われる処理を両方適用することも勿論可能である。例えば、図12に示される平滑化を実行した計測データに対して、図11に示される平滑化を実行することができる。
《走査露光中の同期精度に関する補正関数》
また、上記実施形態では、実際の走査露光の露光結果(各マークの転写位置の位置ずれ量)に基づいて、ウエハ干渉計18の計測値を補正するための補正関数を作成したが、このような露光結果ではなく、走査露光中の両ステージの同期精度に基づいて、その同期精度を低減することを目的とするウエハ干渉計18の計測値を補正するための補正関数を作成することも可能である。
両ステージの同期精度は、ウエハステージWSTとレチクルステージRSTとの走査露光中における同期走査の相対的なずれが指標となり、その相対的なずれが0に近ければ近いほど、同期精度は良好であることになる。例えば、この両ステージの同期精度の指標値としては、レチクルステージRSTとウエハステージWSTとの理論上の走査露光中の相対的な位置関係と、走査露光中におけるレチクル干渉計16及びウエハ干渉計18の計測値とから算出される、両ステージRST、WSTの実際の相対的な位置関係との差が用いられる。この差を、例えばexi、eyiとする。ここで、iは、走査露光中のサンプリング番号であり、exi、eyiは、走査露光中の両ステージRST、WSTのフィードバック制御系のサンプリング周期と一致しているものとする。
主制御装置20は、走査露光中のexi、eyiをサンプリング周期毎に取得し、exi、eyiの移動時間平均値(いわゆるMEAN値)を、同期精度に関する情報として算出する。そして、この移動平均値を、dxp,j、dyp,jとし(この場合、pは、マークの番号ではなく、移動平均値の時系列の番号となる)、図6のステップ634の処理と同様に、最小二乗法などの最適化手法を行えば、上記式(6)、式(7)、上記(10)、式(11)の各項の係数Cを求めることができる。なお、この場合、プラススキャンの補正関数にオフセットを加えることができ、プラススキャン補正関数dxとしては、式(6)又は式(10)を用いることができ、プラススキャン補正関数dyとしては、式(7)又は式(11)を用いることができる。
なお、この同期誤差には、上記A.に分類されるレチクル製造誤差等の系統的な誤差が含まれているとは考えにくいため、図11に示されるような平滑化処理を行う必要はないが、計測誤差等の偶然誤差が含まれることが十分考えられるため、この同期誤差に対する補正関数を作成する際にも、図12に示されるような、X軸方向及びY軸方向に関する計測データの平滑化処理を、適用することができる。
すなわち、走査露光中の複数のサンプリング時点にそれぞれ対応する同期誤差の移動時間平均値の分散などの統計量に基づいて、図12に示される処理と同様に、標準偏差の所定倍の範囲外となる同期誤差の移動時間平均値の一部を、補正関数に用いる計測データから除外したり、同一サンプリング時点での同期誤差の移動時間平均値の平均値に平滑化したりすることができる。
また、上記実施形態では、アライメント検出系ASとして、FIA方式のアライメントセンサを用いたが、前述したように、レーザ光をウエハW上の点列状のアライメントマークに照射し、そのマークにより回折又は散乱された光を用いてマーク位置を検出するLSA(Laser Step Alignment)方式のアライメントセンサや、そのアライメントセンサと上記FIA方式とを適宜組み合わせたアライメントセンサにも本発明を適用することは可能である。また、例えばコヒーレントな検出光を被検面のマークに照射し、そのマークから発生する2つの回折光(例えば同次数)を干渉させて検出するアライメントセンサを、単独で、あるいは上記FIA方式、LSA方式などと適宜組み合わせたアライメントセンサに本発明を適用することは勿論可能である。
なお、アライメント検出系はオン・アクシス方式(例えばTTL(Through The Lens)方式など)でも良い。また、アライメント検出系は、アライメント検出系の検出視野内にアライメントマークをほぼ静止させた状態でその検出を行うものに限られるものではなく、アライメント検出系から照射される検出光とアライメントマークとを相対移動させる方式であっても良い(例えば前述のLSA系や、ホモダインLIA系など)。かかる検出光とアライメントマークとを相対移動させる方式の場合には、その相対移動方向を、前述の各アライメントマークを検出する際のウエハステージWSTの移動方向と同一方向とすることが望ましい。
また、投影光学系PLは、屈折系、反射屈折系、及び反射系のいずれでもよいし、縮小系、等倍系、及び拡大系のいずれでも良い。
さらに、本発明が適用される露光装置の光源は、KrFエキシマレーザやArFエキシマレーザ、F2レーザとしたが、他の真空紫外域のパルスレーザ光源であっても良い。この他、露光用照明光として、例えば、DFB半導体レーザ又はファイバーレーザから発振される赤外域、又は可視域の単一波長レーザ光を、例えばエルビウム(又はエルビウムとイッテルビウムの両方)がドープされたファイバーアンプで増幅し、非線形光学結晶を用いて紫外光に波長変換した高調波を用いても良い。
なお、複数のレンズから構成される照明光学系、投影光学系、並びにアライメント検出系ASを露光装置本体に組み込み、光学調整をするとともに、多数の機械部品からなるレチクルステージやウエハステージを露光装置本体に取り付けて配線や配管を接続し、更に総合調整(電気調整、動作確認等)をすることにより、上記実施形態の露光装置を製造することができる。なお、露光装置の製造は温度およびクリーン度等が管理されたクリーンルームで行うことが望ましい。
なお、本発明は、半導体製造用の露光装置に限らず、液晶表示素子などを含むディスプレイの製造に用いられる、デバイスパターンをガラスプレート上に転写する露光装置、薄膜磁気ヘッドの製造に用いられるデバイスパターンをセラミックウエハ上に転写する露光装置、撮像素子(CCDなど)、有機EL、マイクロマシン及びDNAチップなどの製造に用いられる露光装置などにも適用することができる。また、半導体素子などのマイクロデバイスだけでなく、光露光装置、EUV露光装置、X線露光装置、及び電子線露光装置などで使用されるレチクル又はマスクを製造するために、ガラス基板又はシリコンウエハなどに回路パターンを転写する露光装置にも本発明を適用することができる。ここで、DUV(遠紫外)光やVUV(真空紫外)光などを用いる露光装置では一般的に透過型レチクルが用いられ、レチクル基板としては石英ガラス、フッ素がドープされた石英ガラス、ホタル石、フッ化マグネシウム、又は水晶などが用いられる。また、プロキシミティ方式のX線露光装置、又は電子線露光装置などでは透過型マスク(ステンシルマスク、メンブレンマスク)が用いられ、マスク基板としてはシリコンウエハなどが用いられる。
また、本発明は、露光装置に限らず、2次元平面内に移動可能なステージに、物体を搭載し、そのステージをその2次元平面内の所定方向に移動させながら、物体に処理を施す装置であれば、適用が可能である。
《デバイス製造方法》
次に、上述した露光装置100をリソグラフィ工程で使用したデバイスの製造方法の実施形態について説明する。
図13には、デバイス(ICやLSI等の半導体チップ、液晶パネル、CCD、薄膜磁気ヘッド、マイクロマシン等)の製造例のフローチャートが示されている。図13に示されるように、まず、ステップ801(設計ステップ)において、デバイスの機能・性能設計(例えば、半導体デバイスの回路設計等)を行い、その機能を実現するためのパターン設計を行う。引き続き、ステップ802(マスク製作ステップ)において、設計した回路パターンを形成したマスクを製作する。一方、ステップ803(ウエハ製造ステップ)において、シリコン等の材料を用いてウエハを製造する。
次に、ステップ804(ウエハ処理ステップ)において、ステップ801〜ステップ803で用意したマスクとウエハを使用して、後述するように、リソグラフィ技術等によってウエハ上に実際の回路等を形成する。次いで、ステップ805(デバイス組立てステップ)において、ステップ804で処理されたウエハを用いてデバイス組立てを行う。このステップ805には、ダイシング工程、ボンディング工程、及びパッケージング工程(チップ封入)等の工程が必要に応じて含まれる。
最後に、ステップ806(検査ステップ)において、ステップ805で作成されたデバイスの動作確認テスト、耐久テスト等の検査を行う。こうした工程を経た後にデバイスが完成し、これが出荷される。
図14には、半導体デバイスにおける、上記ステップ804の詳細なフロー例が示されている。図14において、ステップ811(酸化ステップ)においてはウエハの表面を酸化させる。ステップ812(CVDステップ)においてはウエハ表面に絶縁膜を形成する。ステップ813(電極形成ステップ)においてはウエハ上に電極を蒸着によって形成する。ステップ814(イオン打ち込みステップ)においてはウエハにイオンを打ち込む。以上のステップ811〜ステップ814それぞれは、ウエハ処理の各段階の前処理工程を構成しており、各段階において必要な処理に応じて選択されて実行される。
ウエハプロセスの各段階において、上述の前処理工程が終了すると、以下のようにして後処理工程が実行される。この後処理工程では、まず、ステップ815(レジスト形成ステップ)において、ウエハに感光剤を塗布する。引き続き、ステップ816(露光ステップ)において、上記実施形態の露光装置100を用いてマスクの回路パターンをウエハに転写する。次に、ステップ817(現像ステップ)においては露光されたウエハを現像し、ステップ818(エッチングステップ)において、レジストが残存している部分以外の部分の露出部材をエッチングにより取り去る。そして、ステップ819(レジスト除去ステップ)において、エッチングが済んで不要となったレジストを取り除く。
これらの前処理工程と後処理工程とを繰り返し行うことによって、ウエハ上に多重に回路パターンが形成される。
以上説明した本実施形態のデバイス製造方法を用いれば、露光工程(ステップ816)において上記実施形態の露光装置100が用いられるので、高精度な露光を実現することができる。この結果、より高集積度のデバイスの生産することが可能になる。