【発明の詳細な説明】
ジスルフィド-シクロ-[H-Cys-Glu-Gln-Tyr-Cys-OH]および
血液凝固障害におけるその用途
本発明は、血餅形成を減少させるペプチド試薬およびその組成物に関する。
血液凝固は一連のまたはカスケード状の活性化反応によって最終的にはフィブ
リン血餅を生成することに基づいている。フィブリン形成に導くカスケードは、
最初に二つの異なる手段で、すなわち異常な表面との接触により(「内因性経路
」)、あるいは「組織因子」または TF として知られているリポタンパク質の分
泌を生じさせる血管の外傷により(「外因性経路」)、引き起こされうる。本発
明は、主として外因性血液凝固経路に関する。
TF は多くの細胞型に現れる内在膜タンパク質である。しかしながら、構成的
に TF を発現する細胞、例えば脈管内膜の筋細胞は、通常は血液に暴露されない
(Edgington et al.,Thromb.Haemostas.66(1): 67-69(1991)参照)。従っ
て、外因性血液凝固経路の開始は、血管壁の破壊(Almus et al.,Blood 76: 35
4-360(1990)参照)および/または内皮細胞または単球の活性化による TF の
発現(Edwards et al.,Blood 54: 359-370(1979)およびBevilaqua et al.,P
NAS USA 83: 4533-4537(1986)参照)の何れかを必要とするようである。血管
壁の破壊は、組織マクロファージおよび平滑筋細胞を血液に暴露させるアテロー
ム硬化斑が亀裂するために生じることがある(Wilcox et al.,PNAS USA 86: 28
39-2843(1989)参照)。 TF はまた、血栓融解治療、移植手術、傷ついた後の
血管開通の機械的回復または他の同様な技術において血管に暴露されることもあ
る。一方、内皮細胞中または単球中でのTF 発現は、敗血症において腫瘍壊死因
子-αまたはインターロイキン-1 の産生のために誘発されることがある(Edward
s et al.上記および Gregory
et al.,J.Clin.Invest.76: 2440-2445(1985)参照)。
セリンプロテアーゼ因子 VIIa(FVIIa)は、外因性血液凝固経路に関係がある
。FVIIa は、タンパク質消化によってその不活性プロ酵素因子 VII(FVII)から
、因子 Xa 、因子 XIIa 、因子 IXa またはトロンビンを含む血液凝固過程にお
ける他の関与体により形成される。 FVII から FVIIa への活性化は、FVII がそ
の共同因子組織因子(TF)に結合されるときに著しく向上すると報告されている
(Nemerson,Semin.Hematol.29(3): 170-176(1992)参照)。Yamamoto et al
.はまた、FVII から FVIIa への変換は自己触媒的でありうると示唆している(
J.Biol.Chem.267(27): 19089-19094(1992)参照)。
FVIIa はカルシウムイオンの存在下に TF と複合体を形成し、FVIIa/TF 複合
体は、外因性経路を経る血液凝固過程の次の段階において因子 X からその活性
形態である因子 Xa への変換を触媒する。
FVII の構造が研究されており、cDNA 配列は Hagen et al.により PNAS USA 83
: 2412-2416(1986)で報告された。 FVII はビタミン K 依存性タンパク質で
あり、他のビタミン K 依存性タンパク質から類推して、推定のγ-カルボキシグ
ルタミン酸(Gla)ドメインがアミノ末端において同定された。再び他のビタミ
ン K 依存性タンパク質から類推して、Gla ドメインは TF に結合するために必
要であることが推定された(Hagen et al.上記参照)。Gla ドメインの後には
、二つの潜在的な成長因子(GF)ドメインが続いている。しかしながら、文献は
GF ドメインの機能については示唆していない。
血餅形成のための外因性経路の活性化はフィブリン形成に至る主要な現象であ
ることが示唆されており(Weiss et al.,Blood 71: 629-635(1988)および We
iss et al.,Blood 73: 968-975(1989)参照)、従って、動脈硬化病変の病因
論において、また動脈内膜切除後の再閉塞および再発狭窄症において
最も重要である。しかしながら、この経路の活性化に介在可能な効果的治療剤は
、要求されるにもかかわらず、得られていない(Shepard,TIBTECH 9: 80-85(1
991)参照)。
本発明は、FVII または FVIIa が TF と会合するのを阻害する新規なペプチド
およびその類似体または塩を提供する。本発明に係るペプチドの作用により、FV
IIa/TF 複合体の形成が制限され、従って因子 X の活性化が低減される。
血液凝固治療に有用であるといわれる特定のペプチドは Board of Regents,T
he University of Texas System の WO-A-91/07432 に開示されている。開示さ
れたペプチドは、Gla と第一の GF ドメインとの間の領域内に、または FVII ま
たは FVIIa の触媒ドメイン内に存在している。FVIIa/TF 複合体形成が論じられ
ているが、このような効果を生じる WO-A-91/07432 に開示されたこれらのペプ
チドは、Gla 機能の阻害を介してそのように作用する。従って、このようなペプ
チドはその作用において非特異的である。なぜならば、他の生理的タンパク質は
Gla ドメインを有し、例えばタンパク質 C は FVII の Gla ドメインと近似し
た配列相同性を有するからである。それ故に、タンパク質 C の機能も、WO-A-91
/07432 に開示されたペプチドによって望ましくない方法で妨害されるであろう
。
WO-A-90/03390 において Corvas Inc.は、FVII(または FVIIa)のアミノ酸
配列から誘導された特定のペプチドが完全に形成された FVIIa/TF 複合体の作用
を阻止するのに有用であるかもしれないと示唆している。WO-A-90/03390 には、
二つの特別なペプチド配列がこの点で活性であることが開示された。配列 -VGHF
GV- は、カルボキシ末端付近に位置する FVII のアミノ酸 nos.372-377 に基づ
いている。他方の配列は -SDHTGTKRSCR- であり、これは FVII のアミノ酸 nos
.103-113 に位置しており、第二の GF ドメインの一部である。
Corvas Inc は、これらのペプチドおよびその類自体が FVIIa/TF 複合体により
開始されるカスケード反応を阻害することを示している。
さらに、WO90/03390 の第 14 頁の表1には、第二 GF ドメインの種々の領域
のうち、SDHTGTKRSC(103 〜 112)のみが活性であったこと、および他の領域、
すなわちアミノ酸 50 〜101 および 114〜127 からの領域は、因子 VIIおよび組
織因子による因子 X の活性化の阻害において全体として不活性であったことが
示されている。
しかしながら、Corvas Inc.が報告した知見とは異なり、103 〜 112 からの
領域 SDHTGTKRSC は、因子 VII の組織因子への結合の阻害剤としては寧ろ劣っ
ていること、および不活性であるといわれている領域のうち、特定のものは実際
に高い活性を有することを、我々は見出した。
我々の同時係属中の国際出願 PCT/GB94/01315 には、因子 VII の組織因子(T
F)への結合の阻害剤として特に活性である、因子 VII の領域 91 〜104 からの
ペプチドフラグメントが開示されており、これらのうちの幾つかについて、Corv
as Inc.の上記フラグメントを含む近隣領域からのフラグメントと比較した比較
結果が挙げられている。作成されたフラグメントを示した表が挙げられているけ
れども、図面の二つは、表には示されない 98-102(C)と称する化合物の結果が含
まれている。参照(C)は、アミノ酸配列 CEQYC(Cys-Glu-Gln-Tyr-Cys)を有する
この化合物が、二つの C(システイン)残基をジスルフィド結合により連結した
環状形態にあったことを意味する。記載されてはいないが、図面に示された結果
は、N-末端アセチル基と C-末端カルボキサミド基とを有する環状形態の誘導体
、すなわちジスルフィド-シクロ-[Ac-Cys-Glu-Gln-Tyr-Cys-NH2]についての結果
であった。一方、表には "98-102" と称するフラグメントが含まれているが、こ
れは AEQYV と称されるべきであり、CEQYC の類似体、すなわちその末端システ
イン残基がアラニンおよびバリンで
置換されたものであって、従って、環状誘導体を形成できないことが示された。
いわゆる 98-102(C)について報告された因子 VII の組織因子への結合の阻害は
、無視しうるものであった。
我々は、遊離の末端 NH2 基および COOH 基を有する化合物ジスルフィド-シク
ロ-[H-Cys-Glu-Gln-Tyr-Cys-OH]が、我々の上記国際出願に開示されたフラグメ
ントのどれよりも著しく優れていることを見出した。
従って、本発明によれば、我々は、ペプチド、ジスルフィド-シクロ-[H-Cys-G
lu-Gln-Tyr-Cys-OH]およびその塩を提供する。
この新規な環状ペプチド(以下、ジスルフィド-シクロ-[H-Cys-Glu-Gln-Tyr-C
ys-OH]という)は、以前に開示されたペプチド、ジスルフィド-シクロ-[Ac-Cys-
Glu-Gln-Tyr-Cys-NH2]と比較して生理学的媒体中で優れた溶解特性を示すことと
は別に、FVII と TF との結合に対するその高い阻害作用によって卓越しており
、A.Kumar et al.の二段階色素原アッセイ(J.Biol.Chem.266.915-921,1
991)において 0.01 mM の IC50 を有することによって特徴づけることができる
。前記の末端キャップされたペプチド、ジスルフィド-シクロ-[Ac-Cys-Glu-Gln-
Tyr-Cys-NH2]は、同様のアッセイ条件下で約 0.2 mM の IC50 を有した。
種々の生化学アッセイにおいて FVIIa と TF との複合体形成を阻害するペプ
チドジスルフィド-シクロ-[H-Cys-Glu-Gln-Tyr-Cys-OH]の能力とは別に、我々は
このペプチドが、TF/FVII 依存性ヒト動脈血栓形成の臨床関連生体外モデルにお
いて効果的であることを見出した。K.S.Sakariassen et al.(1990,Arteriosc
lerosis,10,276)に記載された方法および装置を用いて、また、均質に混合し
ながらペプチド溶液を血栓形成表面に近い血流中に注入して、我々は、約 1 mM
の最終ペプチド濃度で血栓形成の本質的に完全な阻害を観察し
た。
本発明のもう一つの観点によれば、我々は、化合物ジスルフィド-シクロ-[H-C
ys-Glu-Gln-Tyr-Cys-OH]および/またはその塩の、組織因子が FVII に結合する
のを防止または阻害するための医薬組成物の製造への使用を提供する。
本発明の環状ペプチドの塩としては、生理的に許容される塩、例えば酸付加塩
、例えば塩酸塩が挙げられる。
前記の配列の幾つかでは、各天然産アミノ酸を指すのに標準的一文字コードが
用いられている。このコードはこの技術分野内で標準的な命名法であり、標準的
な生物化学の教科書、例えば W.H.Freeman and Company で出版される "Bioche
mistry"(Stryer)に見られる。同様に、三文字コードが用いられる場合は、こ
れは stryer の上記教科書に記載されている通常の意味を有する。いずれの場合
にも、アミノ酸残基は、グリシンを別として L-形にある。
本発明はまた、ジスルフィド-シクロ-[H-Cys-Glu-Gln-Tyr-Cys-OH]および/ま
たはその塩を含む医薬組成物を提供する。ペプチドは、当業者に公知の生理的に
許容される賦形剤をともに投与することができ、好適な賦形剤の例は、水および
油である。
本発明に係る組成物は、例えば経口、経鼻、非経口または直腸投与に適する形
態で提供できる。
ここで用いられるように、「医薬」という用語は、本発明の獣医学的適用を包
含する。
本発明に係る化合物は、従来の薬理投与形態、例えば錠剤、被覆錠剤、鼻ス
プレー、溶液、エマルジョン、粉末、カプセルまたは除放性形態で提供すること
ができる。従来の医薬賦形剤ならびに普通の製造方法を用いて、これらの形態を
製造することができる。錠剤は、例えば一つ以上の活性成分を公知の賦形剤、例
えば希釈剤、炭酸カルシウム、燐酸カルシウムまたは乳糖、分散剤、例えばトウ
モロコシ澱粉またはアルギン酸、結合剤、例えば澱粉またはゼラチン、滑剤、例
えばステアリン酸マグネシウムまたはタルク、および/または除放性を得るため
の剤、例えばカルボキシポリメチレン、カルボキシメチルセルロース、酢酸フタ
ル酸セルロースまたはポリ酢酸ビニルなどと混合することにより製造できる。
錠剤は、所望により数個の層からなっていてもよい。被覆錠剤は、錠剤と同様
にして得られたコアを、錠剤の被覆に普通に用いられる剤、例えばポリビニルピ
ロリドンまたはシェラック、アラビアゴム、タルク、二酸化チタンまたは蔗糖で
被覆することにより製造できる。除放性を得るため、または非融和性を回避する
ため、コアもまた数個の層からなっていてもよい。錠剤被覆もまた、除放性を得
るため数個の層からなっていてもよく、この場合は錠剤について上記した賦形剤
を使用できる。
器官特異性の担体システムも使用できる。
注射溶液は、例えば従来の方法により、例えば保存剤、例えば p-ヒドロキシ
ベンゾエート、または安定剤、例えば EDTA を添加することにより製造できる。
次いで溶液を注射用バイアルまたはアンプルに充填する。
鼻スプレーは、水溶液と同様に処方し、エーロゾル噴射剤とともにスプレー容
器に、または手動圧縮手段を備えたスプレー容器に包装することができる。1種
または数種の活性成分を含有するカプセルは、例えば活性成分を不活性担体、例
えば乳糖またはソルビトールと混合し、混合物をゼラチンカプセルに充
填することにより製造できる。
好適な座薬は、例えば一つ以上の活性成分をこの目的のために意図される従来
の担体、例えば天然脂肪またはポリエチレングリコールまたはその誘導体と組み
合わせて混合することにより製造できる。
本発明の化合物を含有する投与単位は、式(I)のペプチドまたはその塩を 0.1
〜10 mg、例えば 1〜5 mg 含んでいることが好ましい。
前記のように、本発明の一つの観点は、血液凝固障害または問題の処置または
予防に使用するために、化合物ジスルフィド-シクロ-[H-Cys-Glu-Gln-Tyr-Cys-O
H]およびその塩を提供することである。血液凝固障害としては、血栓症(特に血
管血栓症または深部静脈血栓症)、急性心筋梗塞、再発狭窄症、再閉鎖症、アン
ギナ、大脳血管疾患、末梢動脈閉塞症、凝血能冗進症および肺塞栓症が挙げられ
る。本発明に係るペプチドはまた、例えば血栓症治療、移植手術、血管開通性復
元などの間に血管を傷つけることにより生じる血液凝固問題の発生を予防するた
めにも使用できる。血液凝固障害は、敗血症により TNF-αまたは IL-1 の産生
のために引金が引かれることがある。
さらにもう一つの観点において、本発明はまた、哺乳類、好ましくはヒト及び
動物の身体における血液障害を処置する方法を提供し、この方法は、前記身体に
化合物ジスルフィド-シクロ-[H-Cys-Glu-Gln-Tyr-Cys-OH]またはその塩を投与す
ることからなる。処置の予防方法も提供され、これによれば、本発明に係るペプ
チドを患者に投与して、例えば手術または他の侵入的技術において起こりうる血
液凝固問題の発生を防止または低減させる。ペプチドは勿論、通常医薬的に許容
される組成物の形態で投与される。
本発明のペプチドは、任意の便利な手段で合成することができる。一般的に、
存在する反応性基(例えばアミノ、チオールおよび/またはカルボキシル)は全
体的合成中に保護される。通常、合成の最終段階は、一般的に本発明のペプチド
の保護された誘導体の脱保護に続く環化である。
あるいは、保護された(固相結合を含む)ペプチドを、脱保護(樹脂脱離)に
先立ってジスルフィド結合により環化させることができる(F.Albericio et al
.,1991,Int.J.Peptide Protein Res,37,402-413 参照)。
従って、他の観点において、本発明は、対応する直鎖ペプチドを環化させるこ
とによる、環状ペプチド、ジスルフィド-シクロ-[H-Cys-Glu-Gln-Tyr-Cys-OH]お
よび/またはその塩の製造方法を提供する。
一般的に、環化は酸化反応を用いて、例えば高希釈率で塩基性条件下に酸素を
用いて、あるいは例えば酸性条件下にトリフルオロ酢酸中でジメチルスルホキシ
ドを用いて行うことができる。Cys 残基が S-トリチル基または S-アセトアミド
メチル基で保護されているならば、ヨウ素またはトリフルオロ酢酸タリウム(III
)を用いて脱保護と酸化を同時に行うことができる。
好ましい合成方法において、Cys 残基を別個に、一方は酸に不安定な基、例え
ばトリチルで保護し、他方は酸に安定なジスルフィド形成保護基、例えば3-ニト
ロ-2-ピリジルスルフェニル基(Npys)で保護する。酸に不安定な保護基を用い
てペプチドを組み立てるならば、また、固体支持体を用いる場合は、酸に不安定
なエステル結合は、従来の酸分解により(例えば、D.S.King et al.1990,Int
.J.Peptide Protein Res.,36,255-256 のフェノール/エタンジチオール/
チオアニソール/TFA /水酸分解混合物を用いる)、Npys 以外は完全に脱保護
された線状形態のペプチドを与える。塩基性条件、例えば 0.1 M 重炭酸アンモ
ニウム水溶液 pH 9.0 では、ペプチドは分子間ジスルフィド交換を行い、所望の
環状生成物が得られる。
ペプチド鎖を作る際に、原理的には C-末端または N-末端の何れからも出発で
きるが、C-末端出発手法のみが普通に用いられる。
従って、好適に保護された例えばチロシンの誘導体と好適に保護されたシステ
インの誘導体との反応により C-末端から出発することができる。システイン誘
導体は遊離α-アミノ基を有するであろうが、チロシンは遊離のまたは活性化さ
れたカルボキル基と保護されたアミノ基の両方を有するであろう。カップリング
反応後、中間体を例えばクロマトグラフィーにより精製し、次いで選択的に N-
脱保護してもう一つのアミノ酸残基の付加を可能にすることができる。この手法
は必要なアミノ酸配列が完結するまで続けられる。
利用可能なカルボン酸活性化置換基としては、例えば対称または混合酸無水物
または活性化エステル、例えば p-ニトロフェニルエステル、2,4,5-トリクロロ
フェニルエステル、N-ヒドロキシベンゾトリアゾールエステル(OBt)または N-ヒ
ドロキシサクシンイミジルエステル(OSu)が挙げられる。
アミノ成分は、カップリング試薬、例えば 2-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル
)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェートおよびベンゾト
リアゾールから誘導される他の反応性種、ならびにカルボジイミド、2-エトキシ
-1-エトキシカルボニル-1,2-ジヒドロ-キノリンなどを用いて、遊離カルボキシ
ル基を有するアミノ酸誘導体により直接アシル化することができる。しばしば、
ラセミ化を抑制する特性をも有する触媒、例えば 1-ヒドロキシベンゾトリアゾ
ールが環化反応混合物に加えられる。
一般的に、カップリング反応は低温、例えば -20℃から室温で、好適な溶剤系
、例えばテトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、塩化メチレ
ンまたはこれらの溶剤の混合物中で行うことが便利である。
合成を固相樹脂支持体上で行うことがさらに便利なことがある。クロルメチル
化スチレン(1 % ジビニルベンゼンで架橋)は、一つの有用な支持体の種類であ
り、この場合、反応は、例えば N-保護システインを支持体にカップリングさせ
ることにより C-末端から開始するであろう。
好ましい支持体は、p-アルコキシベンジルアルコール樹脂(S-S,Wang,J.Am
Chem.Soc.1973,95: 1328-1333)であり、これは酸分解により切断してカル
ボキシル形の遊離ペプチドを与える。4-ヒドロキシメチルフェニルアセトアミド
メチル(PAM)樹脂を用いて、カルボキシル形のペプチドを与えることもできる
(B.Gutte,R.B.Merrifield(1971),J.Biol.Chem.246, 1922; A.R.Mitche
ll et al.(1978)J.Am.Chem.Soc.98,7357)。
アミノ酸の保護基を広範囲で選択することが知られており、Schroeder,E.,a
nd Lubke,K.,The Peptides,Vols.1 and 2,Academic Press,New York and
London 1965 and 1966; Pettit,G.R.,Synthetic Pept1des,Vols.1-4,Van N
ostrand,Reinhold,New York 1970,1971,1975 and 1976; Houben-Weyl,Meth
oden der Organischen Chemie,Synthese von Peptiden,Band 15,Georg Thiem
e Verlag,Stuttgart 1974; Amino Acids,Peptides and Proteins,Vol.4-8,
The Chemical Society,London 1972,1974,1975 and 1976; Peptides,Synthe
sis-physical data 1-6,Wolfgang Voelter,Eric Schmidt-Siegman,Georg Thi
eme Verlage Stuttgart,NY,1983; The Peptides,Analysis,synthesis,biol
ogy 1-7,Ed: Erhard Gross,Johannes Meienhofer,Academic Press,NY,San
Fransisco,London; Solidphase peptide synthesis 2nd ed.,John M.Stewart
,Janis D.Young,Pierce Chemical Company に例示されている。
従って、例えば使用可能なアミン保護基の例としては、カルボベンゾキシ
(以下、Z ともいう)、t-ブトキシカルボニル(以下、Boc ともいう)、9-フル
オレニルメトキシカルボニル(以下、Fmoc ともいう)などの保護基が挙げられ
る。ペプチドを C-末端から作る場合、付加した新たな各残基のα-アミノ基に保
護基が存在し、次のカップリングに先立って選択的に除去する必要があることが
認められる。このような一時的アミン保護に特に有用な一つの基は、有機溶剤中
でピペリジンを用いて処理することにより選択的に除去できる Fmoc 基である。
採用可能なカルボキシル保護基としては、例えば容易に切断されるエステル基
、例えばベンジル基(Bzl)、p-ニトロベンジル基(ONb)または t-ブチル基(OtBu)
、ならびに固体支持体上のリンカー、例えばポリスチレンに結合したp-アルコキ
シベンジルアルコール基が挙げられる。
チオール保護基としては、p-メトキシベンジル(Mob)、トリチル(Trt)、アセト
アミドメチル(Acm)および 3-ニトロ-2-ピリジルスルフェニル(Npys)が挙げられ
る。
例えば前記の参考文献に詳記された広範囲の他のこのような基があることが認
められ、このような全ての基を前記の方法に使用することは本発明の範囲内であ
る。
アミンおよびカルボキシル保護基を除去するための広範囲の手法がある。しか
しながら、これらは採用される戦略と合致しなければならない。側鎖保護基は、
次のカップリング段階に先立つ一時的α-アミノ保護基の除去に用いられる条件
に安定でなければならない。
アミン保護基、例えば Boc およびカルボキシル保護基、例えば tBu は、酸処
理例えばトリフルオロ酢酸を用いて同時に除去できる。
以下の実施例は、説明のためのみに記載される。実施例1 ジスルフィド-シクロ-[H-Cys-Glu-Gln-Tyr-Cys-OH]の合成
固相ペプチド合成
ペプチドは、Applied Biosystems モデル 433A ペプチドシンセサイザーを用
いて、標準的な 0.1 mmol FastMoc サイクルで組み立てた(N-メチルピロリドン
中、10 倍モル過剰の Fmoc-アミノ酸および 2-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)
-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート/1-ヒドロキシ
ベンゾトリアゾール/ pri 2 NEt を用いてアシル化)。Fmoc-Cys(Trt)-[p-アル
コキシベンジルアルコール樹脂(機能度 0.55 mmol/g; 0.1 mmol; S.-S.Wang,J
.Am.Chem,Soc.,1973,95: 1328-1333参照)]を、ピペリジン/DMF で脱保護
し、Fmoc-Tyr(But)-OH でアシル化した。さらなる延長は、Fmoc-Gln(Trt)-OH、F
moc-Glu(OBut)-OH および Boc-Cys(Npys)-OH を用いて同様に行った。完成した
ペプチジル樹脂をさらに CH2Cl2 および Et2O を用いて洗浄し、真空乾燥した(
乾燥重量 296 mg)。この物質を、0.75 g PhOH 、0.25 mL 1,2-エタンジチオー
ル、0.5 mL PhSMe、0.5 mL H2O および 10 mL CF3COOH を含む混合物を用いて反
応容器を攪拌しながら1時間処理した。次いで樹脂残留物を濾過および少量の清
浄な CF3COOH での洗浄により除去した。一緒にした濾液と洗浄液とを回転蒸発
により濃縮した。粗製ペプチドを Et2O の添加により沈澱させた。濾過し、洗浄
液が実際上無色になるまで Et2O で洗浄することにより、沈澱を回収した。次い
でペプチドを乾燥し、0.1 % 水性 CF3COOH 中に再懸濁させ、凍結乾燥した。こ
うして、H-Cys(Npys)-Glu-Gln-Tyr-Cys-OH を含む黄色粉末(62.2 mg 、最初の
樹脂担持量に対して約 78 %)が得られた。
環化および精製
この物質を 0.1 M 水性 NH4HCO3(5 mL)に溶解し、得られた黄色溶液を0.4 m
L の 1 M 水性 NH4HCO3 の添加により pH = 9 に調節した。混合物を攪拌し、合
計 2.5 時間の反応時間(分析 RP-HPLC により監視)の後、今は無色の溶液を、
プレパラティブ RP-HPLC カラム(Vydac 218TP1022,22 x 250 mm)に直接注入
し(2回)、次いで 0.1 % 水性 CF3COOH 中 2〜6 % の MeCN グラジエントを用
い、10 mL/min で 60 分かけて溶出した。溶出液を280 nm で監視し、1分毎の
フラクションを集めた。分析 RP-HPLC(Vydac 218TP54,4.6 x 250 mm; 1 mL/mi
n,0.1 % 水性 CF3COOH 中 0〜12 % MeCN,20 min,λ = 215)によれば純粋な
これらのフラクションをプールし、凍結乾燥して 26.7 mg の純粋な(tR = 16.7
min; HPLC で >99 %)環状 H-Cys-Glu-Gln-Tyr-Cys-OH ペプチドを得た。 MAL
DI-TOF MS[M+H]+= 644.1、C25H34N6O10S2= 642.7。 FAB-MS[M+H]+= 643.3。
アミノ酸分析:Glx 、必要値 2(1 Glu & 1 Gln)、実測値 2.01; Cys、必要値 2
、実測値 1.99(システイン酸として決定); Tyr、必要値 1、実測値 1.00 。
還元
純粋なペプチドのアリコート(0.1mg)を 0.1 mL の 1 M 水性 NaHCO3 に溶解さ
せ、ジチオトレイトール(1 μL の 1 M 水溶液)を加えた。短時間のインキュ
ベーションの後、この溶液のアリコートを RP-HPLC(条件は上記のとおり)で分
析した。この分析は、還元 H-Cys-Glu-Gln-Tyr-Cys-OH(tR= 21.2 min)への定
量的変換を示した。実施例2 ジスルフィド-シクロ-[H-Cys-Glu-Gln-Tyr-Cys-OH]による 因子VIIa/組織因子-触媒の因子 X 活性化の阻害
これは、本質的に文献(A.Kumar et al.,1991,J.Biol.Chem.,266, 915
)に記載されるように、二段階インビトロ発色性生物化学アッセイ法を用いて決
定された。要約すると、ペプチドを、リピッド化 TF(5 pM; American Diagnost
ica,Inc.,Greenwich,CT,USA)およびカルシウム(5mM)とともに 10 分間予
備インキュベートし、FVIIa(5 pM; Novo Nordisk A/S,Gentofte,Denmark か
ら)および FX(20nM; Enzyme Research Laboratory,South Bend,IN,USA)を
加えた。EDTA(50 mM)を加えて反応を停止し、発色性 FXa S2765 基質(0.4 mM
; Chromogenix,Moelndal,Sweden)を用い、マイクロタイタープレートリーダ
ーで 405 nm における吸光度増加を測定して FXa の形成を監視した。最高の半
分阻害(IC50)濃度は、用量-阻害曲線から決定された。
このアッセイにおいては、ジスルフィド-シクロ-[H-Cys-Glu-Gln-Tyr-Cys-OH]
ペプチドは、10.1 ± 5.0 μM(平均±標準偏差)の IC50 値を示した。すでに
PCT/GB94/01315 に開示された対応する末端キャップされたペプチドであるジス
ルフィド-シクロ-[Ac-Cys-Glu-Gln-Tyr-Cys-NH2]は、同じアッセイにおいて 二
十六分の一(1/26)の低い力価、すなわち 265 ± 174 μM の IC50 値を示した
。代表的な実験用量-阻害曲線を図1に示す(脚注:■はジスルフィド-シクロ-[
H-Cys-Glu-Gln-Tyr-Cys-OH]ペプチド; ●はジスルフィド-シクロ-[Ac-Cys-Glu-G
ln-Tyr-Cys-NH2; ▲はネガティブコントロールペプチド)。図において、結果は
未処理コントロールに対する FXa 形成のパーセントで表される。実施例3 組織因子依存性血漿凝集に対するジスルフィド-シクロ-[H-Cys-Glu-Gln-Tyr-Cys -OH]の効果
一段階インビトロ凝集アッセイ法を以下のように使用した。 3-N-[モルホリ
ノ]プロパンスルホン酸緩衝液(100mM,pH 7.4)および NaCl(100 mM)に
Marburg,Germany)の希釈液(塩水中 1:50)および CaCl2(最終的に 5 mM 濃
度)と予備混合し、溶液を 37℃で 2 分間保持した。凍結した血小板不含ヒト血
漿プールの解凍アリコートを加えて凝集反応を開始した(37℃)。四つのレプリ
ケートインキュベーションについての凝固時間は、電磁凝固測定器(Thrombotra
ck 4,Nycomed Pharma AS,Oslo,Norway)で自動的に同時に決定された。レプ
リケート試料から決定された凝固時間の平均値は、Thromborel を用いて生じさ
せた log-log 検定曲線により任意 TF 単位に変換された。
ジスルフィド-シクロ-[H-Cys-Glu-Gln-Tyr-Cys-OH]ペプチドでは、凝固時間の
用量依存性延長が観察された。最高の半分阻害濃度(IC50)は四つの別個の実験
から得られ、IC50 = 1.3 ± 0.5 mM(平均±標準偏差)であった。これに対し、
すでに PCT/GB94/01315 に開示された対応する末端キャップされたペプチドであ
るジスルフィド-シクロ-[Ac-Cys-Glu-Gln-Tyr-Cys-NH2]は、このアッセイにおい
て試験した最高濃度(1.5 mM)まで効果を示さなかった。生理的媒体に自由に溶
解する遊離末端基を有するペプチドとは異なり、後者の末端キャップされたペプ
チドは、劣った溶解特性のため、約 1.5 mM 以上の濃度では試験できない。実施例4 組織因子依存性ヒト動脈血栓症に対するジスルフィド-シクロ-[H-Cys-Glu-Gln-T yr-Cys-OH]の効果
本質的に文献(K.S.Sakariassen et al.,1990,Arteriosclerosis,10,276
; U.φrvim et al.,1995,Arterioscl.Thromb.Vasc.Biol.,印刷中)に記
載されたようにして、TF- 依存性動脈血栓症のヒト生体外モデルにおいて
ペプチドの有効性を試験した。ヒト非凝固血液は前腕前部静脈から直接に採血
いたヘパリン被覆混合装置内でペプチド溶液と混合した。血流を 10 mL/min に
4 分間保持して、小動脈にとって代表的な 650 s-1 の剪断速度を生じさせた。
このアッセイを使用して、ジスルフィド-シクロ-[H-Cys-Glu-Gln-Tyr-Cys-OH]
を用いた六つの実験を、五つの異なる最終血漿濃度で行った。このペプチドは、
血栓形成を特徴づける四つのパラメーター(血小板/フィブリン付着、血小板/
血栓体積、フィブリン沈着およびトロンビン活性化)の全てに対して、全体とし
て 0.5 mM の最高の半分阻害濃度において用量依存性の様式で影響を与えた。無
関係の配列を有するネガティブコントロールペプチド(H-Tyr-Ala-Asp-Lys-Ile-
Glu-Asp-Thr-Lys-Leu-OH)は、1 mM の血漿濃度において血栓形成に対して効果
を示さなかった。結果を図2にまとめて示す(脚注: A)血小板/フィブリン付
着; B)フィブリンでの表面被覆; C)血栓体積; D)トロンビン-抗トロンビ
ン形成)。図において、結果は塩水のみの注入により得られたコントロール値の
パーセントで表される。
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V,MD,MG,MK,MN,MW,MX,NO,NZ
,PL,PT,RO,RU,SD,SE,SG,SI,
SK,TJ,TM,TT,UA,UG,US,UZ,V
N
(72)発明者 フィッシャー,ピーター
ノールウェー エヌ−0382 オスロ,ヴェ
ステラスファイエン 26エー
(72)発明者 エンゲブレットセン,メイ
ノールウェー エヌ−1342 ジャー,トレ
フ グラヴス フェイ 13