JPH09177989A - リップ型シール - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【課題】 合成樹脂製リップ部材３０の共回りによるエ
ラストマ製リップ部材１０のヘッド１３の不安定化及び
これによるシール性能の低下を防止する。 【解決手段】 外環２０の内周面のエラストマ層１１ｂ
が内環４０の円筒部４２に形成された溝４４に食い込ん
だ咬合状態にあることによって、内環４０は外環２０及
びエラストマ製リップ部材１０に対して回り止めされ、
合成樹脂製リップ部材３０は、内環４０のフランジ部４
１に形成された各突起４３の食い込みによって、内環４
０及びエラストマ製リップ部材１０に対して回り止めさ
れる。このため、エラストマ製リップ部材１０と合成樹
脂製リップ部材３０との摩擦力が、熱によるエラストマ
の応力緩和によって低下しても、回転軸３との摩擦トル
クによる合成樹脂製リップ部材３０の共回りを防止でき
る。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【発明の属する技術分野】本発明は、例えば冷房装置な
どの冷凍機コンプレッサの回転軸周を密封するために設
けられるリップ型シールに関する。

【０００２】

【従来の技術】この種のリップ型シールの典型的な従来
例としては、図３に示すように、エラストマ製リップ部
材１０と、先端の内向鍔２１及び後端のカシメ部２２が
それぞれ内径側へ屈曲して形成されエラストマ製リップ
部材１０の外径部１１に埋設された金属製の外環２０
と、外径部３１がエラストマ製リップ部材１０の外径部
１１の背面に当接されたＰＴＦＥ等の合成樹脂製リップ
部材３０と、カシメ部２２に当接されて合成樹脂製リッ
プ部材３０の背面を押さえる金属製の内環４０とを備え
たものが周知である。外環２０の外周面は、エラストマ
製リップ部材１０の外径部１１から一体的に延在された
圧着部１２で被覆されている。エラストマ製リップ部材
１０の外径部１１の背面には図中に破線で示す環状突起
１１ａが形成されており、この環状突起１１ａが合成樹
脂製リップ部材３０の外径部３１の正面に押しつぶされ
た状態で圧接されている。

【０００３】すなわちこのリップ型シールは、外環２０
の外周のエラストマからなる圧着部１２が、軸封部ハウ
ジング１の軸孔１ａに、この軸孔１ａに形成された段差
部１ｂと止め輪２によって軸方向の移動が規制された状
態で圧入装着され、密封空間である機内Ａ側へ湾曲して
延びるエラストマ製リップ部材１０の先端部１３に形成
されたヘッド１３ａが、前記軸孔１ａに挿通されたシャ
フト３の外周面と摺接することによって、機内Ａで圧縮
される冷媒及び冷凍機油が軸周から反密封空間である大
気Ｂ中へ漏れるのを阻止するものである。合成樹脂製リ
ップ部材３０は、機内Ａ側へ向けて湾曲して延びる先端
部３２が、機内Ａの圧力を受けるエラストマ製リップ部
材１０の先端部１３を内周側から支承している。

【０００４】なお、文中において「正面」とは密封空間
である機内Ａ側を向いた面のことを言い、「背面」とは
反密封空間である大気Ｂ側を向いた面のことを言い、
「先端」とは機内Ａ側の端部を言い、更に「後端」とは
大気Ｂ側の端部を言う。

【０００５】

【発明が解決しようとする課題】この種のリップ型シー
ルは、エラストマ製リップ部材１０が一体化された外環
２０の内周に、合成樹脂製リップ部材３０及び内環４０
を順次挿入し、外環２０の後端をカシメして組み立てる
際に、このカシメ部２２の形成によって、合成樹脂製リ
ップ部材３０の外径部３１が内環４０を介してエラスト
マ製リップ部材１０の外径部１１の背面に押圧され、こ
の時の圧縮に対する反発力によって、エラストマ製リッ
プ部材１０の外径部１１と、合成樹脂製リップ部材３０
の外径部３１と、内環４０との相互の摩擦力が与えら
れ、合成樹脂製リップ部材３０が保持される。ところ
が、高温で長時間使用された場合は、エラストマに熱に
よる応力緩和が起こり、合成樹脂製リップ部材３０に対
する保持力が著しく低下して、回転軸３との摩擦トルク
によって、合成樹脂製リップ部材３０がエラストマ製リ
ップ部材１０に対して円周方向にスリップ（共回り）し
てしまうことがある。そしてこのような共回りが発生す
ると、合成樹脂製リップ部材３０の外径部３１あるいは
これに圧接されているエラストマ製リップ部材１０側の
環状突起１１ａの摩耗によって、合成樹脂製リップ部材
３０に対する保持力の低下が加速されるので、共回りの
速度が速くなる。このため合成樹脂製リップ部材３０の
先端部３２の外周面に支持されたエラストマ製リップ部
材１０の先端部１３の内周面１３ｂの摩耗が発生して、
回転軸３に対するエラストマ製リップ部材１０のヘッド
１３ａの接触状態が不安定になり、漏れが発生する問題
がある。

【０００６】本発明は、上記のような事情のもとになさ
れたもので、その技術的課題とするところは、合成樹脂
製リップ部材の共回りによるエラストマ製リップ部材の
シール性能の低下を防止することにある。

【０００７】

【課題を解決するための手段】上述した技術的課題は、
本発明によって有効に解決することができる。すなわち
本発明に係るリップ型シールは、内環が、合成樹脂製リ
ップ部材との圧接面に円周方向所定間隔で形成された複
数の突起を有すると共に、外周面に円周方向所定間隔で
形成された複数の起伏部を有し、この内環の外周面が、
前記外環の後部内周面に形成されたエラストマ層に圧接
された構成を有する。なお、ここでいう起伏部とは、突
条、溝、凹凸等を総称するものである。

【０００８】合成樹脂製リップ部材に対する内環の圧接
面は、この圧接面に形成された複数の突起が食い込んだ
状態で合成樹脂製リップ部材の外径部背面に圧接され、
これによって合成樹脂製リップ部材と内環との相対回転
が防止される。また、内環の外周面は、この外周面に形
成された複数の起伏部がエラストマ製リップ部材の外径
部に埋設された外環の後部内周面に形成されたエラスト
マ層に食い込んだ状態で圧接され、これによって内環と
外環及びエラストマ製リップ部材との相対回転が防止さ
れる。したがって、エラストマ製リップ部材のエラスト
マ材質に熱による応力緩和が発生しても、エラストマ製
リップ部材及び合成樹脂製リップ部材の双方に対する内
環の円周方向係合力によって、両リップ部材の相対回転
が防止される。

【０００９】

【発明の実施の形態】図１は本発明に係るリップ型シー
ルの一実施形態を示す半断面図であり、図２はこのリッ
プ型シールにおける内環４０を部分的に示す断面斜視図
である。すなわちこの実施形態によれば、内環４０は、
円盤状のフランジ部４１と、このフランジ部４１の外周
端から後方へ延びる円筒部４２とからなり、すなわち軸
心を通る平面で切断した断面形状が略Ｌ字形を呈するも
のであって、前記フランジ部４１には、エラストマ製リ
ップ部材１０の外径部１１の背面に形成された環状突起
１１ａの径方向位置と対応して、正面側へ突出した複数
の突起４３が円周方向所定間隔で形成されており、円筒
部４２の外周面には、軸方向に延びる複数の溝４４が円
周方向所定間隔で形成されている。突起４３は、内環４
０のプレス成形の際にフランジ部４１の背面側から打ち
出し形成されたものであり、溝４４は、円筒部４２の切
削によって形成されたものである。

【００１０】内環４０は、円筒部４２の後端が外環２０
のカシメ部２２に押さえられることによって、フランジ
部４１が合成樹脂製リップ部材３０の外径部３１の背面
に圧接すると共に各突起４３が食い込んだ状態となって
いる。合成樹脂製リップ部材３０の外径部３１は、前記
内環４０のフランジ部４１からの押圧力によってエラス
トマ製リップ部材１０の外径部１１の背面に、この背面
に形成された環状突起１１ａを押しつぶした状態に圧接
されている。エラストマ製リップ部材１０と一体の外環
２０の内周面には、前記エラストマ製リップ部材１０の
外径部１１の一部である適当な膜厚のエラストマ層１１
ｂが形成されており、前記内環４０の円筒部４２は、こ
のエラストマ層１１ｂの内周に圧入されており、このた
め、エラストマ層１１ｂはその弾性によって、円筒部４
２の外周面に形成された各溝４４に食い込んだ状態とな
っている。

【００１１】なお、その他の部分の構成は、先に述べた
図３のリップ型シールとほぼ同様であるから、その説明
は省略する。

【００１２】この実施形態によれば、内環４０は、エラ
ストマ層１１ｂに対する円筒部４２の圧接による摩擦力
と、この円筒部４２に形成された各溝４４とエラストマ
層１１ｂの一部との咬合によって、外環２０及びエラス
トマ製リップ部材１０に対して回り止めされている。ま
た、合成樹脂製リップ部材３０は、その外径部３１とエ
ラストマ製リップ部材１０の外径部１１の背面（環状突
起１１ａ）との圧接による摩擦力と、内環４０のフラン
ジ部４１に形成された各突起４３との咬合によって内環
４０及びエラストマ製リップ部材１０に対して回り止め
される。したがって、エラストマ製リップ部材１０と合
成樹脂製リップ部材３０との摩擦力が、熱によるエラス
トマの応力緩和によって低下しても、回転軸３との摩擦
トルクによって、合成樹脂製リップ部材３０がエラスト
マ製リップ部材１０に対して円周方向にスリップするこ
とがなく、エラストマ製リップ部材１０の先端部１３の
ヘッド１３ａに対する合成樹脂製リップ部材３０の支持
が不安定となることによる漏れの発生が有効に防止され
る。

【００１３】なお、この実施形態におけるリップ型シー
ルは、エラストマ製リップ部材１０の外径部１１から一
体に延在され外環２０の外周面に加硫接着された圧着部
１２がハウジング１の軸孔１ａに圧接した状態に装着さ
れるが、その圧接面における円周方向長さ及び軸方向幅
は、回転軸３の外周面に対するリップ部材１０，３０の
摺動面の円周方向長さ及び軸方向幅に比較して十分に大
きく、その摺動トルクに比較して十分に大きな摩擦力が
与えられているので、エラストマ製リップ部材１０が軸
と共回りすることはなく、言い換えればリップ型シール
全体が共回りすることはない。

【００１４】また、内環４０のフランジ部４１に形成し
た突起４３は図２に示す形状以外にも種々のものが考え
られ、また、エラストマ層１１ｂに咬合させるための円
筒部４２の起伏は、切削による溝４４以外にも、突起４
３と同様に打ち出した突条あるいは陥没部とする等、種
々のものが考えられる。

【００１５】

【発明の効果】本発明のリップ型シールによると、高温
で長時間使用された場合のエラストマの応力緩和によっ
て、エラストマ製リップ部材と合成樹脂製リップ部材の
外径部同士の摩擦力が低下しても、回転軸との摩擦トル
クによって、合成樹脂製リップ部材がエラストマ製リッ
プ部材に対して円周方向にスリップすることがなく、こ
のため合成樹脂製リップ部材の先端部の外周面に支持さ
れたエラストマ製リップ部材の先端部が不安定となって
漏れが発生する問題を有効に解消できる。

【図面の簡単な説明】

【図１】本発明に係るリップ型シールの一実施形態を、
軸心を通る平面で切断して示す使用状態の半断面図であ
る。

【図２】上記実施形態における内環を部分的に示す断面
斜視図である。

【図３】従来技術におけるリップ型シールの一例を、軸
心を通る平面で切断して示す半断面図である。

【符号の説明】

１０ エラストマ製リップ部材 １１ｂ エラストマ層 ２０ 外環 ３０ 合成樹脂製リップ部材 ４０ 内環 ４３ 突起 ４４ 溝（起伏部）

Claims (1)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 回転軸の外周面に摺接する先端部が密封
   空間側を向いたエラストマ製リップ部材と、前記エラス
   トマ製リップ部材の外径部に埋設された外環と、 外径部が前記エラストマ製リップ部材の外径部背面に当
   接され前記密封空間側を向いた先端部が前記エラストマ
   製リップ部材の先端部を内周側から支承する合成樹脂製
   リップ部材と、 前記外環の後端のカシメ部に支持されて前記合成樹脂製
   リップ部材の外径部背面に圧接された内環とを備え、 前記内環が、前記合成樹脂製リップ部材との圧接面に円
   周方向所定間隔で形成された複数の突起を有すると共
   に、外周面に円周方向所定間隔で形成された複数の起伏
   部を有し、 この内環の外周面が、前記外環の後部内周面に形成され
   たエラストマ層に圧接されたことを特徴とするリップ型
   シール。