JPH0754997A - ピストンピン潤滑装置 - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【目的】 ピストンピンが荷重を受けて変形する際に、
潤滑油供給孔の近傍でピストンピンの段付き摩耗が発生
し、軸受が損傷することを防止する。 【構成】 コネクティングロッド２小端部のピストンピ
ン軸受４において、軸受の潤滑油供給孔８と対向する部
分のピストンピン３外周に潤滑油供給孔の径より大きな
幅の凹部１１を形成する。ピストンピンが荷重を受けて
変形する際にピストンピン外周と潤滑油供給孔の縁部が
接触しないため、潤滑油供給孔縁部でピストンピン外周
が削られて段付き摩耗が生じ、潤滑油供給孔が閉塞され
てコネクティングロッド小端部への潤滑油供給が不十分
になることが防止される。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本発明はピストンとコネクティン
グロッド小端部とを連結するピストンピンの潤滑装置に
関する。

【０００２】

【従来の技術】従来、コネクティングロッド小端部ピス
トンピン軸受の荷重部分（ピストンピン下側部分）に潤
滑油を供給して軸受の潤滑条件を改善するために種々の
方法が考案されている。例えば、実開昭５９−１２３６
４２号公報にはコネクティングロッド小端部ピストンピ
ン軸受のピストンピン下側部分に開口する潤滑油供給孔
を設け、コネクティングロッド内に形成した給油通路を
介してこの潤滑油供給孔からピストンピン軸受の上記荷
重部分に潤滑油を供給するようにした構成が開示されて
いる。

【０００３】

【発明が解決しようとする課題】上記従来技術のよう
に、ピストンピン軸受に潤滑油供給孔を設けて軸受の荷
重部分に潤滑油を供給することにより、軸受の潤滑条件
は改善される。しかし、上記潤滑油供給孔を設けたこと
により、逆にピストンピン軸受の焼付き等の損傷が生じ
る場合がある。

【０００４】すなわち、ピストンピンはその両端部がピ
ストンのピン穴に嵌合され、中央部はコネクティングロ
ッド小端部のピストンピン軸受に支承されている。この
ため、シリンダの爆発行程中にピストンがシリンダ内爆
発圧力を受けると、ピストンピンの両端部にはピストン
からの下向きの荷重が加わり、ピストンピン中央部には
コネクティングロッド小端部軸受から上記荷重に対する
上向きの反力が加わるため、ピストンピンには曲げモー
メントが生じる。この曲げモーメントによりピストンピ
ンとコネクティングロッド小端部軸受には変形を生じ、
この変形はピストンピン中央部で最も大きくなる。この
ため、ピストンピン軸受中央部近傍には比較的大きな面
圧が生じ、この部分に潤滑油供給孔等が存在するとピス
トンピン表面の潤滑油供給孔に対向する部分（軸受面に
接していない部分）がこの面圧により供給孔内に突出す
るように変形する。この状態が続くと、ピストンピン表
面の潤滑油供給孔の縁部に接する部分ではピストンピン
の外周が削られピストンピン外周に段付き摩耗を生じ
る。

【０００５】この段付き摩耗は上記ピストンピンの変形
量に応じて大きくなり、段付き摩耗により生じた突出部
が潤滑油供給孔や、潤滑油供給孔に連続して軸受面に設
けられた円周状の油溝内に進入し、潤滑油供給孔や油溝
を閉塞するようになる。このような閉塞が生じると、潤
滑油が軸受荷重面に供給され難くなるため、ピストンピ
ンと軸受の焼付きが生じ軸受が損傷を受ける場合があ
る。

【０００６】図３は上記のシリンダ内圧力によるピスト
ンピンとコネクティングロッド小端部軸受の変形の様子
を示す図である。図３において、２はコネクティングロ
ッド、３はピストンピン、４はコネクティングロッド小
端部２ａのピストンピン軸受、８は軸受４に設けた潤滑
油供給孔を示す。図示するように、ピストンピン２の両
端部にピストンから下向きの荷重Ｆが加わると、ピスト
ンピン３とコネクティングロッド小端部２ａはこの荷重
のため上に凸状に湾曲し、荷重が軸受４中央部近傍に集
中して潤滑油供給孔８の部分では軸受の面圧が大きくな
る。

【０００７】このため、図４に示すように、この面圧に
よりピストンピン３表面の潤滑油供給孔８に対向する部
分が突出して、供給孔８内の空間に侵入するような変形
が生じる。この突出部３ａは、潤滑油供給孔の縁（また
は、軸受面に潤滑油供給のための円周状の油溝が設けら
れている場合は油溝の縁）に接触しているため、この縁
部で削られ、ピストンピン３の表面には図５に示すよう
な段付き摩耗が生じ、突出部３ａの潤滑油供給孔８（ま
たは油溝）内への侵入量が大きくなる。このため、潤滑
油のピストンピン軸受荷重面への供給が制限され、潤滑
油の供給不足により軸受の損傷が生じるのである。

【０００８】特に、２サイクルエンジンでは掃気ポンプ
により加圧した新気をシリンダに供給しているため、ピ
ストンは吸入行程の間もシリンダ内のガス圧により下向
きの力を受ける。このため、４サイクルエンジンの場合
とは異なり、ピストンには全作動行程にわたり下向きの
荷重が作用しており、コネクティングロッド小端部のピ
ストンピン軸受ではピストンピンは常に下側の軸受面に
押しつけられているため荷重部分に潤滑油が供給されに
くくなっているので、上記段付き摩耗が発生しやすい。

【０００９】従来、この問題を解決するためにはピスト
ンピン材料として剛性が大きく、かつ表面硬度の高いセ
ラミック材を使用することにより、荷重によるピストン
ピンの曲げ変形を抑えるとともに潤滑油供給孔縁部での
ピストンピン表面の削れを防止する必要があった。しか
し、セラミック材料は高価であり、また加工も困難であ
るためピストンピンに使用した場合コスト上昇を招く問
題がある。

【００１０】本発明は、上記問題に鑑み、ピストンピン
軸受の軸受面に潤滑油供給孔を設けて潤滑条件の改善を
図る場合に、高価なセラミック製ピストンを用いること
なく上記ピストンピンの荷重による変形により生じる段
付き摩耗と、それに伴う軸受の損傷を防止することを目
的としている。

【００１１】

【課題を解決するための手段】本発明によれば、コネク
ティングロッドに潤滑油通路を形成し、コネクティング
ロッド小端部のピストンピン軸受面下側に設けた潤滑油
供給孔からピストンピン下側に潤滑油を供給するピスト
ンピン潤滑装置において、ピストンピン外周面の前記潤
滑油供給孔に対向する部分に前記潤滑油供給孔の径より
大きな幅の凹部を設けたことを特徴とするピストンピン
潤滑装置が提供される。

【００１２】

【作用】ピストンピン外周面の潤滑油供給孔に対向する
部分に潤滑油供給孔の径より大きい幅の凹部が設けられ
ているため、ピストンピンが荷重を受けて変形した場合
でもこの凹部は潤滑油供給孔の縁部には接触しない。こ
のため、ピストンピン表面が潤滑油供給孔縁部により削
られることによる段付き摩耗が防止される。

【００１３】

【実施例】以下添付図面を用いて本発明の実施例を説明
する。図１に本発明を適用したピストンピン軸受の実施
例を示す。図１において、１はピストン、２はコネクテ
ィングロッド、３はピストン１とコネクティングロッド
２の小端部２ａとを連結するピストンピン、４はコネク
ティングロッド小端部のピストンピン軸受を示す。又、
８は軸受４の下部に開口する潤滑油供給孔である。図２
に示すように、コネクティングロッド２の内部には潤滑
油供給孔８に連通する潤滑油供給通路６が形成されてい
る。潤滑油供給通路６の下端は、コネクティングロッド
２の大端部２ｂに設けたクランクピン軸受７に接続さ
れ、クランクピン軸受７に供給された潤滑油の一部をピ
ストンピン軸受４に導くようになっている。すなわち、
図２に示すように、コネクティングロッド大端部２ｂの
クランクピン軸受７にはクランクピン５内に設けた軸線
方向の潤滑油通路５ａと半径方向の潤滑油通路５ｂとを
介してエンジンの潤滑油ポンプから潤滑油が供給されて
おり、この潤滑油の一部は、軸受７内面に設けた円周状
の油溝１０から軸受摺動面に供給される。潤滑油供給通
路６の下端は上記油溝１０に開口しており、油溝１０内
の潤滑油の一部がピストンピン軸受４に供給されるよう
になっている。

【００１４】なお、図２の実施例は２サイクルエンジン
の場合を示し、油溝１０は軸受７の内周の一部にしか設
けられていない。これは、前述のように、２サイクルエ
ンジンでは稼働中ピストンは常に下向きの荷重を受けて
おり、クランクピン軸受７は下半分側のみが荷重面とな
っているため、上半分側には油溝から潤滑油を供給する
必要がないためである。本実施例では、油溝１０は潤滑
油供給通路６の開口部まで延設されており、クランク軸
の回転位置にかかわらず常に潤滑油通路５ａ、５ｂから
潤滑油供給通路６に潤滑油が供給されるようになってい
る。

【００１５】また、同様に本実施例では、コネクティン
グロッド小端部２ａのピストンピン軸受４では軸受下半
分の内面（荷重面）には潤滑油供給孔８に連通する半周
の油溝９及び軸線方向油溝９ａが設けられている。図１
に１１で示すのは、潤滑油供給孔８に対向するピストン
ピン３中央部の周面に設けられた凹部である。本実施例
では、凹部１１はピストンピン３の全周にわたって設け
られている。また、凹部１１の幅Ｗは、潤滑油供給孔８
の径より大きく設定されており、本実施例では軸受４に
油溝９が設けられているため、油溝９の幅にエンジン稼
働中のピストンピン２の長手方向移動量（例えば、約１
ミリメートル程度）を加えた幅とされている。

【００１６】また、凹部１１の深さＤは、ピストンピン
３の最大変形量（図４、Ｄ₀ ）より大きく設定し、ピス
トンピン３変形時にピストンピン中央部が油溝９内に侵
入して潤滑油供給の抵抗になることを防止する。なお、
ピストンピンの最大変形量Ｄ ₀ は有限要素法等を用いた
解析により予め求めておくが、一般にＤ₀ はピストンピ
ン３の直径に較べて極めて小さく（例えば、５ミクロン
程度）であり、凹部１１を設けたことにより実用上ピス
トンピン３の曲げ剛性が低下することはない。

【００１７】上述のように、ピストンピン３外周に最大
変形量Ｄ₀ より深い凹部１１を設けたことにより、ピス
トンに加わる爆発圧力によりピストンピンが図３に示す
ような変形をした場合でも、油溝９に対向するピストン
ピン外周面は油溝９（及び潤滑油供給孔８）内部に侵入
しない。このため、変形による突出部が潤滑油供給孔８
及び油溝９からの荷重面への潤滑油供給の際の抵抗にな
ることがない。また、凹部１１の幅は油溝９の幅より大
きいため、ピストンピン変形時に潤滑油供給孔８と油溝
９の縁部にピストンピン表面が接触することがないの
で、ピストンピン外周が油溝９等の縁部で削られて前述
の段付き摩耗が生じることが防止される。

【００１８】このため、セラミック製ピストンに較べて
剛性の低い鋼製ピストンを使用した場合でも段付き摩耗
によりピストンピンの焼付きや軸受の損傷が生じること
がない。なお、鋼製ピストンピンを使用する場合、表面
硬化処理により耐摩耗性を高めれば一層効果がある。ま
た、上記実施例は２サイクルエンジンの場合について説
明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、４
サイクルエンジンにも同様に適用できることはいうまで
もない。

【００１９】

【発明の効果】本発明は、上述のようにピストンピン軸
受の潤滑油供給孔に対向するピストンピン外周面に凹部
を設けたことにより、潤滑油供給孔近傍でのピストンピ
ンの段付き摩耗とそれに伴う潤滑油供給孔の閉塞を防止
し、コネクティングロッド小端部に確実に潤滑油を供給
することができるため軸受の損傷を効果的に防止するこ
とができる。

【図面の簡単な説明】

【図１】本発明のピストンピン潤滑装置の一実施例を示
すピストンの断面図である。

【図２】図１の実施例のコネクティングロッドの断面図
である。

【図３】爆発行程時のピストンピン軸受部の変形の様子
を説明する図である。

【図４】図３のＡ部の拡大図である。

【図５】ピストンピンの段付き摩耗の例を示す図であ
る。

【符号の説明】

１…ピストン ２…コネクティングロッド ３…ピストンピン ４…ピストンピン軸受 ６…潤滑油供給通路 ８…潤滑油供給孔 １１…ピストンピン凹部

Claims (1)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】コネクティングロッドに潤滑油通路を形成
   し、コネクティングロッド小端部のピストンピン軸受面
   下側に設けた潤滑油供給孔からピストンピン下側に潤滑
   油を供給するピストンピン潤滑装置において、ピストン
   ピン外周面の前記潤滑油供給孔に対向する部分に前記潤
   滑油供給孔の径より大きな幅の凹部を設けたことを特徴
   とするピストンピン潤滑装置。