本発明のエンドミルは、シャンク側から見て右まわりに回転駆動されて切削加工を行なうものでも、左まわりに回転駆動されて切削加工を行なうものでも良い。エンドミルの刃数は3枚~5枚が広く用いられているが、2枚刃或いは6枚刃以上のエンドミルにも適用され得る。外周切れ刃は、ねじれ角が0°の直刃でも良いし右ねじれ或いは左ねじれのねじれ刃であっても良い。
本発明のエンドミルは、例えばCFRP(炭素繊維強化プラスチック)やCFRTP(炭素繊維強化熱可塑性プラスチック)等のFRP(繊維強化プラスチック)に対するトリミング加工(外周切削加工)に好適に用いられるが、鉄鋼材料などの他の被削材に対する切削加工に使用することも可能である。エンドミルの材質としては、例えば超硬合金や高硬度焼結体が好適に用いられるが、高速度工具鋼等の他の硬質工具材料を採用することも可能で、必要に応じて切削耐久性を高めるために硬質被膜がコーティングされる。硬質被膜としては、金属間化合物の他、ダイヤモンド被膜などを採用することもできる。金属間化合物としては、元素の周期表の4族、5族、6族、13族の金属、例えばAl、Ti、V、Crなどの炭化物、窒化物、炭窒化物、或いはこれ等の相互固溶体が適当で、具体的にはTiN、TiAlN、TiCN、TiCrN、AlCrNなどが好適に用いられる。このような金属間化合物の硬質被膜は、例えばアークイオンプレーティング法やスパッタリング法等のPVD法によって好適に設けられるが、プラズマCVD法等の他の成膜法で設けることもできる。
以下、本発明の実施例を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において、図は説明のために適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明の一実施例であるエンドミル10を示す斜視図である。このエンドミル10は、シャンク12と刃部14とを同心に備えており、刃部14には3本の溝が設けられることにより3枚の外周切れ刃20a、20b、20c(以下、特に区別しない場合は単に外周切れ刃20という。)が形成されている。3枚の外周切れ刃20a、20b、20cの先端には、それぞれ底刃22a、22b、22c(以下、特に区別しない場合は単に底刃22という。)が連続して設けられている。このエンドミル10は、シャンク12側から見て右まわりに回転駆動されることにより切削加工を行なうものである。エンドミル10は超硬合金にて構成されているとともに、刃部14の表面にはダイヤモンド被膜等の硬質被膜24がコーティングされている。図1の斜線部は硬質被膜24を表している。
3枚の外周切れ刃20の少なくとも1枚は、ニック刃またはラフィング刃から成る凹凸刃Erが設けられている凹凸刃付き切れ刃である。図1では、2枚の外周切れ刃20aおよび20bが、凹凸刃Erを有する凹凸刃付き切れ刃である。図2の切れ刃A、切れ刃B、切れ刃Cは、凹凸刃Erが設けられた凹凸刃付き切れ刃の具体例で、図は凹凸刃Erとしてラフィング刃が設けられている場合であり、図2の切れ刃Dは、凹凸刃Erが設けられていない普通刃である。図3は、凹凸刃Erであるニック刃およびラフィング刃を普通刃と比較して例示した図で、すくい面側から見た拡大写真である。普通刃は、ニック(溝)やラフィング(波形)が無い一定外径寸法の滑らかな通常の切れ刃である。
図2において、切れ刃Aは、工具軸方向においてシャンク側端部から底刃側に向かって刃長Lの70%の範囲(0.7L)の中の刃長Lの5%~65%の範囲(0.05L~0.65L)に凹凸刃Erが設けられている。切れ刃Bは、工具軸方向において底刃側端部からシャンク側に向かって刃長Lの70%の範囲(0.7L)の中の刃長Lの5%~65%の範囲(0.05L~0.65L)に凹凸刃Erが設けられている。切れ刃Cは、工具軸方向における刃長Lの中央から工具軸方向の両方向へ刃長Lの35%の範囲(0.35L)の中の刃長Lの5%~65%の範囲(0.05L~0.65L)に凹凸刃Erが設けられている。そして、本実施例のエンドミル10の3枚の外周切れ刃20は、凹凸刃付き切れ刃である上記切れ刃A~C、および凹凸刃Erが無い切れ刃Dの計4種類の切れ刃A~Dの中の何れかで、且つ隣り合う外周切れ刃20が異なる種類となるように2種類以上を含んで構成されている。3枚刃である本実施例のエンドミル10は、切れ刃A~Dの中の異なる3種類で3枚の外周切れ刃20が構成されている。図1では、外周切れ刃20aが切れ刃Aで、外周切れ刃20bが切れ刃Bで、外周切れ刃20cが切れ刃Dであるが、図4に例示したように種々の態様が可能である。図4の刃1~刃3は、3枚の外周切れ刃20a~20cを表しており、図中の「A」~「D」は、図2の「切れ刃A」~「切れ刃D」を表している。この他、「切れ刃A」、「切れ刃C」、および「切れ刃D」の組合せや、「切れ刃B」、「切れ刃C」、および「切れ刃D」の組合せも可能である。
図5は、3枚刃、4枚刃、および5枚刃のエンドミルについて、隣り合う外周切れ刃が異なる種類となるように切れ刃A~Dの中の2種類以上を含んで構成した場合を例示した図である。
一方、3枚の外周切れ刃20a、20b、20cのねじれ角は互いに等しい。また、3枚の外周切れ刃20a、20b、20cのねじれ角は0°~5°の範囲内で、右ねじれであっても左ねじれであっても良く、左右両方で計10°の範囲内で定められる。本実施例では、3枚の外周切れ刃20a、20b、20cはねじれ角が0°の直刃、または切り屑がシャンク12側へ排出されるようにねじれ角が右ねじれ方向に5°以下の範囲内の右ねじれ刃とされる。図6は、エンドミル10の3枚の外周切れ刃20a、20b、20cが、それぞれ図2の切れ刃A、切れ刃B、切れ刃Dによって構成されている場合に、それ等の外周切れ刃20a、20b、20cを軸心まわりに展開して示した展開図で、刃1~刃3はそれぞれ外周切れ刃20a~20cに相当し、破線部分は凹凸刃Erである。また、刃1~刃3のねじれ角α1~α3(以下、特に区別しない場合は単にねじれ角αという。)はα1=α2=α3であり、その外周切れ刃20a、20b、20cは周方向に等間隔で配置されている。すなわち、刃1~刃3の間隔D1~D3(以下、特に区別しない場合は単に間隔Dという。)はD1=D2=D3である。図6は、ねじれ角α1~α3が25°程度の場合であるが、ねじれ角α1~α3を5°以下とした場合が本発明の一実施例である。図1~図4もねじれ角が20°程度であるが、5°以下とした場合が本発明の実施例である。
図7は図6に対応する展開図で、外周切れ刃30が左ねじれの場合で、ねじれ角β1~β3は何れも0°~5°の範囲内で且つβ1=β2=β3である。また、外周切れ刃30の3枚の刃1~刃3は周方向に等間隔で配置されており、D1=D2=D3である。図8は図6に対応する展開図で、外周切れ刃40は前記外周切れ刃20と同様に右ねじれで、ねじれ角α1~α3は0°~5°の範囲内で且つα1=α2=α3であるが、この外周切れ刃40の3枚の刃1~刃3は周方向に不等間隔で配置されており、D1≠D2≠D3である。間隔D1~D3の中の1つでも相違している場合は不等間隔である。これ等の外周切れ刃30、40も、本発明の一実施例である。図7の左ねじれの外周切れ刃30も、不等間隔とすることができる。
このようなエンドミル10によれば、外周切れ刃20、30、40の複数の刃1~刃3の少なくとも1枚は、ニック刃またはラフィング刃から成る凹凸刃Erが設けられている凹凸刃付き切れ刃であり、且つその凹凸刃Erは凹凸刃付き切れ刃の刃長Lの一部分のみに設けられているため、凹凸刃Erの有無によって切削力の大きさが部分的に相違する。すなわち、凹凸刃Erが設けられた部分は切削力が小さくなるため、この切削力の相違によって共振が抑制され、外周切れ刃20、30、40のねじれ角α、βが等しい等リードのエンドミル10においても、共振に起因して生じるビビリ振動が抑制される。これにより加工面粗さが向上するとともに、高切削速度(高回転速度)による切削加工が可能となる。
また、凹凸刃Erが設けられる範囲が何れも刃長Lの5%~65%の範囲内で、その凹凸刃Erが設けられる位置が異なる3種類の切れ刃A、B、Cの何れかが凹凸刃付き切れ刃として設けられる場合には、凹凸刃Erの有無等による切削力の大きさの変化でビビリ振動を適切に抑制することができる。
また、例えば図4、図5に示すように、複数枚の外周切れ刃20(刃1~刃5)が、切れ刃A~Cと、凹凸刃Erが無い切れ刃Dとの4種類の切れ刃A~Dの何れかで、隣り合う外周切れ刃が異なる種類となるように、切れ刃A~Dの中の2種類以上で構成される場合には、凹凸刃Erの有無や凹凸刃Erの位置が隣接する外周切れ刃20同士で異なるため、ビビリ振動を一層適切に抑制することができる。また、凹凸刃Erを設けるとワークの表面部分でバリが生じる可能性があるが、凹凸刃Erの有無や位置が異なる3種類の切れ刃で構成されるため、バリの発生を抑制することができる。
また、本実施例ではねじれ角α、βが0°~5°の範囲内で比較的小さく、送り分力が大きくなって振動が発生し易くなるため、外周切れ刃20、30、40の刃1~刃3の少なくとも1枚が凹凸刃Erを有する凹凸刃付き切れ刃とされることにより振動を抑制する、という効果が顕著に得られる。また、ねじれ角α、βが小さいと溶着が発生し易くなって切削速度が制約されるが、凹凸刃Erによって切り屑が分断されることにより溶着が抑制され、切削速度の制限が緩和されて高切削速度(高回転速度)による切削加工が可能となる。また、切れ刃A~切れ刃C等の凹凸刃付き切れ刃が設けられると、ねじれ角α、βが大きくなった場合に刃欠けが生じ易くなるが、ねじれ角α、βが5°以下とされることにより刃欠けが抑制され、この点でも高切削速度(高回転速度)による切削加工が可能となる。
また、外周切れ刃20、30、40が設けられた刃部14の表面が硬質被膜24で被覆されているため、部分的な凹凸刃Erの存在に拘らず優れた切削耐久性が得られる。
図9は、前記図6に示す外周切れ刃20を備える前記エンドミル10である本発明品、および不等リードの従来品について、3枚の外周切れ刃(刃1~刃3)の展開図に切削力を白抜き矢印で示した図である。白抜き矢印の方向は切削力の方向で、太さは切削力の大きさを表している。本発明品は前記図6と同じで、3枚の刃1~刃3が図2の切れ刃A、切れ刃B、および切れ刃Dによって構成されている場合で、刃1および刃2は凹凸刃Erが設けられた部分で切削力が小さくなるため、この切削力の相違により共振が抑制されて、不等リードの従来品と同様に防振効果が適切に得られる。
次に、本発明の効果を具体的に明らかにするために行なった幾つかの切削加工試験を説明する。
図10は切削加工試験を行なう際に用いた試験品No1~No3の切れ刃形状を説明する図で、刃1~刃3は3枚の外周切れ刃20a~20cに相当する。試験品No1は、凹凸刃Erが無い前記図2の切れ刃Dのみから成る従来品で、試験品No2およびNo3は、凹凸刃Erとしてラフィング刃が設けられた凹凸刃付き切れ刃を有する本発明品である。試験品No2は、3枚の刃1~刃3が前記図2の切れ刃A、切れ刃B、および切れ刃Dから構成されており、試験品No3は、3枚の刃1~刃3が前記図2の切れ刃A、切れ刃B、および切れ刃Cから構成されている。各切れ刃の括弧内の%は、刃長Lに対する凹凸刃Erの長さの比率で、凹凸刃Erを有する切れ刃A、切れ刃B、切れ刃Cは何れも60%である。これ等の試験品No1~No3の3枚の刃1~刃3は、何れもねじれ角αが5°の右ねじれ刃であり、刃長Lは12mmで、刃径Φは6mmである。図11は、切削加工試験で測定する抵抗値の合力Fを説明する図で、工具送り方向の送り分力Fx、加工面Wf(図12参照)に直角な方向の主分力Fy、および工具軸方向(被削材の板厚方向)の背分力Fzの合力Fを測定する。この合力Fは、ワークWに加えられる負荷に対応する。図12は、切削加工試験におけるワークWと工具Tとの位置関係を説明する図で、テーブルから30mm突き出した位置でワークWの外周面にトリミング加工が行なわれる。図13は、切削加工試験で測定した抵抗値の合力Fの振幅を説明する図で、合力Fの最大値と最小値との幅が振幅である。
そして、図14に示す2つの加工条件(条件1および条件2)で被削材であるCFRTPにトリミング加工を行い、合力Fを測定してその振幅を求めた結果が図15である。条件1と条件2とでは、切削速度および1刃当りの送り量が相違しており、条件1に比較して条件2は切削速度が速くて1刃当りの送り量が小さい。図15は、測定した合力Fの振幅と、試験品No1(従来品)の振幅を100%とした場合の比率を示した図である。この図15から明らかなように、切削速度が200m/minで1刃当りの送り量が0.08mm/tの条件1では、試験品No2の本発明品によれば振幅が22%程度小さくなり、試験品No3の本発明品によれば振幅が41%程度小さくなった。また、条件1よりも切削速度が速くて1刃当りの送り量が小さい条件2では、試験品No2の本発明品によれば振幅が70%程度小さくなり、試験品No3の本発明品によれば振幅が80%程度小さくなり、防振効果が顕著となる。図16は、条件1の場合の振幅をグラフにより比較して示した図で、図17は、測定した合力Fの抵抗値の実際の振動波形を比較して示した図である。図18は、条件2の場合の振幅をグラフにより比較して示した図で、図19は、測定した合力Fの抵抗値の実際の振動波形を比較して示した図である。なお、ここで使用した試験品No1~No3には、硬質被膜24としてダイヤモンド被膜がコーティングされている。
図20は、図10と同じ試験品No1~No3を用いて被削材が異なる別の切削加工試験を行なった際の加工条件であり、ここではS50C(機械構造用炭素鋼)に対して切込みap(軸方向)=6mm、切込みae(径方向)=0.6mmで側面切削加工を行なった。図21は測定した合力Fの振幅と、試験品No1の振幅を100%とした場合の比率を示した図で、試験品No2の本発明品によれば振幅が12%程度小さくなり、試験品No3の本発明品によれば振幅が19%程度小さくなった。図22は、図21の振幅をグラフにより比較して示した図で、図23は、測定した合力Fの抵抗値の実際の振動波形を比較して示した図である。なお、ここで使用した試験品No1~No3には、硬質被膜24としてCr系の金属間化合物がコーティングされている。
図24~図26は、更に別の切削加工試験を行なった試験結果を説明する図で、図24は、前記外周切れ刃20a~20cに相当する3枚の刃1~刃3の切れ刃形状が異なる6種類の試験品No1~No6を説明する図である。試験品No1は、凹凸刃Erが無い前記図2の切れ刃Dのみから成る従来品である。試験品No2~No6は、3枚の刃1~刃3が、凹凸刃Erとしてラフィング刃が設けられた凹凸刃付き切れ刃で、前記図2の切れ刃A、切れ刃B、および切れ刃Cから成る本発明品であるが、刃長Lに対する凹凸刃Erの長さの比率が異なり、試験品No2は5%、試験品No3は25%、試験品No4は45%、試験品No5は65%、試験品No6は85%である。これ等の試験品No1~No6の3枚の刃1~刃3は、何れもねじれ角αが5°の右ねじれ刃であり、刃長Lは12mmで、刃径Φは6mmである。また、硬質被膜24としてダイヤモンド被膜がコーティングされている。
そして、図25に示す加工条件で切削速度を変更しつつ切削加工を行い、ビビリ振動の発生状況を観察したところ、図26に示す結果が得られた。図26から明らかなように、従来品である試験品No1では切削速度が150m/min以上になるとビビリ振動が大きくなって加工不可になるのに対し、本発明品である試験品No2~No5では、切削速度50~400m/minの総ての条件で振動が小さく、安定した加工が可能であった。また、凹凸刃Erの比率が85%の試験品No6では、切削速度が250m/min以上になるとビビリ振動が大きくなって加工不可になる。この試験結果から、凹凸刃Erが設けられた凹凸刃付き切れ刃(切れ刃A~C)を有する本発明品の試験品No2~No5によればビビリ振動が抑制される。凹凸刃Erの比率が高くなると高切削速度(高回転速度)でビビリ振動が生じる可能性があるため、刃長Lに対する凹凸刃Erの長さの比率を5%~65%程度の範囲内とすることが望ましい。
図27~図29は、更に別の切削加工試験を行なった試験結果を説明する図で、図27は、前記外周切れ刃20a~20cに相当する3枚の刃1~刃3の切れ刃形状が異なる3種類の試験品No1~No3を説明する図である。試験品No1~No3は、何れも凹凸刃Erとしてラフィング刃が設けられた凹凸刃付き切れ刃を有し、試験品No1は、3枚の刃1~刃3が前記図2の3種類の切れ刃A、切れ刃B、および切れ刃Cから構成されており、試験品No2は、3枚の刃1~刃3が前記図2の2種類の切れ刃Aおよび切れ刃Bにて構成されおり、試験品No3は、3枚の刃1~刃3が前記図2の2種類の切れ刃Aおよび切れ刃Cにて構成されている。試験品No1は本発明品で、試験品No2およびNo3は比較品である。各切れ刃の括弧内の%は、刃長Lに対する凹凸刃Erの長さの比率で、何れも60%である。これ等の試験品No1~No3の3枚の刃1~刃3は、何れもねじれ角αが5°の右ねじれ刃であり、刃長Lは12mmで、刃径Φは6mmである。
そして、図28に示す加工条件で切削加工を行い、測定した合力Fの抵抗値の実際の振動波形、振幅、および試験品No1の振幅を100%とした場合の比率を図29に示した。図29から明らかなように、3種類の切れ刃A、切れ刃B、および切れ刃Cから成る試験品No1に比較して、2種類の切れ刃Aおよび切れ刃Bから成る試験品No2は振幅が28%程度大きくなり、2種類の切れ刃Aおよび切れ刃Cから成る試験品No3は振幅が22%程度大きくなる。この試験結果から、隣り合う切れ刃が異なる種類の凹凸刃付き切れ刃となるように、3種類の切れ刃A、切れ刃B、および切れ刃Cを用いて3枚の刃1~刃3を構成することが望ましい。なお、ここで使用した試験品No1~No3には、硬質被膜24としてダイヤモンド被膜がコーティングされている。
図30は、図27と同じ試験品No1~No3を用いて被削材が異なる別の切削加工試験を行なった際の加工条件であり、ここではS50C(機械構造用炭素鋼)に対して切込みap(軸方向)=6mm、切込みae(径方向)=0.15mmで側面切削加工を行なった。図31は、測定した合力Fの抵抗値の実際の振動波形、振幅、および試験品No1の振幅を100%とした場合の比率を示した図で、3種類の切れ刃A、切れ刃B、および切れ刃Cから成る試験品No1に比較して、2種類の切れ刃Aおよび切れ刃Bから成る試験品No2は振幅が12%程度大きくなり、2種類の切れ刃Aおよび切れ刃Cから成る試験品No3は振幅が15%程度大きくなる。したがって、この試験結果からも、隣り合う切れ刃が異なる種類の凹凸刃付き切れ刃となるように、3種類の切れ刃A、切れ刃B、および切れ刃Cを用いて3枚の刃1~刃3を構成することが望ましいことが分かる。なお、ここで使用した試験品No1~No3には、硬質被膜24としてCr系の金属間化合物がコーティングされている。
図32~図35は、更に別の切削加工試験を行なった試験結果を説明する図で、図32は、3枚刃のエンドミルの切れ刃形状が異なる8種類の試験品No1~No8を説明する図である。試験品No1~No4は、何れも3枚の刃1~刃3が凹凸刃Erが無い前記図2の切れ刃Dのみから成る従来品で、ねじれ角αが異なるだけである。すなわち、試験品No1はねじれ角αが0°の直刃で、試験品No2はねじれ角αが15°の右ねじれ刃で、試験品No3はねじれ角αが30°の右ねじれ刃で、試験品No4はねじれ角αが45°の右ねじれ刃である。また、試験品No5~No8は、凹凸刃Erとしてラフィング刃が設けられた凹凸刃付き切れ刃を有し、図33に具体的に示されているように何れも3枚の刃1~刃3が前記図2の3種類の切れ刃A、切れ刃B、および切れ刃Cから構成されているとともに、それ等の切れ刃A、切れ刃B、切れ刃Cにおける凹凸刃Erの刃長Lに対する比率は60%であり、ねじれ角αのみが相違する。すなわち、試験品No5はねじれ角αが0°の直刃で、試験品No6はねじれ角αが15°の右ねじれ刃で、試験品No7はねじれ角αが30°の右ねじれ刃で、試験品No8はねじれ角αが45°の右ねじれ刃である。試験品No5は本発明品で、試験品No6~No8は比較品である。これ等の試験品No1~No8の刃長Lは12mmで、硬質被膜24としてダイヤモンド被膜がコーティングされている。
そして、図34に示す加工条件で切削速度を変更しつつ切削加工を行い、溶着の有無や量、刃欠けの有無を観察したところ、図35に示す結果が得られた。図35から明らかなように、凹凸刃Erが無い切れ刃Dのみから成るねじれ角αが0°の試験品No1では、切削速度が150m/min以上で多くの溶着が認められた。また、ねじれ角αが45°の試験品No4では、切削速度50~400m/minの総ての条件で溶着や刃欠けの問題が無かったものの、試験品No2およびNo3では、切削速度が300m/min以上になると溶着が認められるようになる。一方、試験品No5~No8においては、ねじれ角αが45°の試験品No8で、切削速度が300m/min以上になると刃欠けが認められるものの、ねじれ角αが0°~30°の試験品No5~No7では、切削速度50~400m/minの総ての条件で溶着や刃欠けの問題が無かった。すなわち、凹凸刃Erが設けられた凹凸刃付き切れ刃(切れ刃A~C)を有する試験品No5~No8の場合、凹凸刃Erにより切り屑が分断されて溶着が防止されるものの、ねじれ角αが大きくなると刃欠けが生じ易くなることから、ねじれ角αは0°~30°程度の範囲内が望ましい。
図37は、ねじれ角αが15°の試験品No2および試験品No6について、切削速度400m/minで切削加工を行なった場合のすくい面における溶着の有無および切り屑の写真を例示したもので、図36は、この時の切削加工の加工条件を具体的に示した図である。図37において、凹凸刃Erが無い切れ刃Dのみから成る従来品の試験品No2では切り屑が大きくなり、すくい面に溶着が認められる。試験品No6では、凹凸刃Erであるラフィング刃によって切り屑が小さく分断されるため、切り屑排出性能が良くなって溶着が防止される。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。