以下に、実施の形態にかかる保護レベル計算装置、保護レベル計算システム、測位システムおよび保護レベル計算方法を図面に基づいて詳細に説明する。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1にかかる測位システム100の構成例を示す図である。測位システム100は、測位の対象であるアプリケーション101と、アプリケーション101に搭載される測位端末102と、測位衛星である複数の衛星103と、無線通信用の基地局104と、通信ネットワークを介して基地局104と接続されたサーバー105とを有する。測位衛星は、例えば、GPSで用いられるGPS衛星、または、準天頂衛星システム(Quasi-Zenith Satellite System:QZSS)で用いられる準天頂衛星である。図1に示す例では、アプリケーション101は、車両である。測位端末102は、無線通信によって基地局104および通信ネットワークを介してサーバー105と通信可能である。
各衛星103は、測位用の信号を送信する。測位端末102は、測位用の信号を受信してアプリケーション101の測位を行う。なお、各衛星103の代わりに、基地局104が測位端末102へ測位用の信号を送信しても良い。すなわち、測位用の信号の信号源は、衛星103と基地局104とのどちらであっても良い。
測位端末102は、信号源からの測位用の信号を受信すると、信号源の位置の情報およびアプリケーション101と信号源との間の距離の情報を測定値として抽出する。測位端末102は、測定値を用いた測位演算によって、アプリケーション101の測位解を算出する。すなわち、測位端末102は、測位計算(positioning calculation)を行う。測位解には、水平位置の情報と垂直位置の情報とが含まれる。
測位用の信号を用いて抽出される測定値には、誤差が含まれる。衛星103が信号源である場合における測定値の誤差には、例えば、衛星クロック誤差または衛星軌道誤差等といった衛星103に起因する誤差、電離層遅延または対流圏遅延等といった大気に起因する誤差、マルチパス誤差または電波干渉等といった受信環境に起因する誤差、受信機クロック誤差または受信機信号間バイアス等といった受信機に起因する誤差がある。
そこで、測位端末102は、算出された測位解の有効性(validity)を判定するために、保護レベルを用いる。測位端末102は、測位演算に使用した測定値に対応する観測モデルと測位演算での重みとを用いて、保護レベルを計算する。すなわち、測位端末102は、保護レベルの演算(computing a Protection Level)を行う。保護レベルの具体的な計算方法については、後述する。
測位システム100には、測位端末102により算出される測位解をアプリケーション101が有効に利用できる測位誤差の限界を示す限界値が設定される。かかる限界値は、警報限界(alert limit)と呼ばれ、アプリケーション101によってあらかじめ定められている。測位端末102は、計算された保護レベルと限界値とを比較して、算出された測位解の有効性を判定する。測位端末102は、算出された測位解の有効性を判定した結果を基に、算出した測位解の利用可否を判断する。すなわち、測位端末102は、算出した測位解の利用可否を判定する。
測位システム100は、保護レベルを計算する保護レベル計算システムを備える。ここで、保護レベル計算システムの構成について説明する。図2は、実施の形態1にかかる測位システム100が有する保護レベル計算システム1の構成例を示す図である。図2に示す保護レベル計算システム1は、測位を行う測位装置2と、保護レベルを計算する保護レベル計算装置3とを備える。
ここでは、測位装置2と保護レベル計算装置3との双方が、図1に示す測位端末102に組み込まれている場合について説明する。なお、後述するように、測位装置2は測位端末102に組み込まれ、かつ、保護レベル計算装置3は測位端末102の外部の装置であるサーバー105等に組み込まれても良い。または、測位装置2と保護レベル計算装置3との双方が、サーバー105等の外部装置に組み込まれても良い。測位装置2が測位端末102以外の装置に組み込まれる場合には、次に説明する測位信号受信部10は測位装置2に備えられるものとする。
測位装置2は、信号源によって送信される測位用の信号を受信する測位信号受信部10と、測位演算を行う測位演算部11と、情報を記憶する記憶部12とを備える。測位信号受信部10は、アンテナと受信機とを備える。アンテナと受信機との図示は省略する。記憶部12は、測位演算部11により算出された測位解を記憶する。
保護レベル計算装置3は、測位用の信号から取得される測定値に含まれることが想定されるバイアス誤差の上限値および下限値を出力するバイアス誤差モデル部13と、測位解の保護レベルを計算する保護レベル計算部14と、情報を記憶する記憶部15とを備える。保護レベル計算部14は、測定値に基づいて算出される測位解の有効性を判定するための保護レベルを、バイアス誤差モデル部13が出力した上限値および下限値を用いて算出する。記憶部15は、算出された保護レベルを記憶する。バイアス誤差の上限値および下限値は、例えば、標準化団体3GPP(3rd Generation Partnership Project)で定められる標準規格においてインテグリティ補助情報(integrity assistance data)と呼ばれる情報に含まれ得る。上限値および下限値を含むインテグリティ補助情報は、バイアス誤差モデル部13から保護レベル計算部14へ伝達される。図2に示す例では、測位演算部11、バイアス誤差モデル部13および保護レベル計算部14は、測位端末102に組み込まれている。
測位信号受信部10は、測位用の信号を受信すると、信号源の位置の情報およびアプリケーション101と信号源との間の距離の情報を測定値として抽出する。測位信号受信部10は、測位演算部11へ測定値を出力する。測位信号受信部10が出力する測定値には、搬送波位相測定値またはドップラー周波数測定値等が含まれても良い。
測位演算部11は、入力された測定値を用いて測位解を算出する。測位演算部11は、測位解に加え、測位演算に使用した各信号源からの測定値に対応する観測モデルと測位演算での重みとの各情報も出力する。測位演算部11が算出する測位解には、速度または加速度等の情報が含まれても良い。
測位装置2は、測位演算部11から出力された測位解と、観測モデルと、測位演算での重みとを、保護レベル計算装置3へ送る。測位解と、観測モデルと、測位演算での重みとの各情報は、保護レベル計算部14へ入力される。保護レベル計算部14には、バイアス誤差モデル部13から出力されたバイアス誤差の上限値および下限値が入力される。保護レベル計算部14は、観測モデルおよび測位演算での重みと、バイアス誤差の上限値および下限値とを用いて、測位解の保護レベルを計算する。保護レベル計算部14によって算出された保護レベルは、記憶部15に格納される。
ここで、測位装置2および保護レベル計算装置3を実現するハードウェア構成について説明する。上述するように、測位装置2の測位信号受信部10は、アンテナと受信機とを備える。図2に示す測位装置2の構成要素のうち測位演算部11は処理回路により実現される。測位信号受信部10の一部が処理回路であっても良い。これらの処理回路は、プロセッサがソフトウェアを実行する回路であっても良いし、専用の回路であっても良い。
処理回路がソフトウェアにより実現される場合、処理回路は、例えば、図3に示す制御回路である。図3は、実施の形態1にかかる制御回路50の構成例を示す図である。制御回路50は、入力部51、プロセッサ52、メモリ53および出力部54を備える。
入力部51は、制御回路50の外部から入力されたデータを受信してプロセッサ52に与えるインターフェース回路である。出力部54は、プロセッサ52またはメモリ53からのデータを制御回路50の外部に送るインターフェース回路である。処理回路が図3に示す制御回路50である場合、プロセッサ52がメモリ53に記憶された、測位装置2の各構成要素に対応するプログラムを読み出して実行することにより各構成要素が実現される。また、プロセッサ52は、演算結果等のデータをメモリ53の揮発性メモリに出力する。メモリ53は、プロセッサ52が実施する各処理における一時メモリとしても使用される。プロセッサ52は、演算結果等のデータをメモリ53に出力して記憶させても良いし、演算結果等のデータを、メモリ53の揮発性メモリを介して補助記憶装置に記憶させても良い。記憶部12は、メモリ53または補助記憶装置により実現される。補助記憶装置の図示は省略する。
プロセッサ52は、CPU(Central Processing Unit、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、プロセッサ、またはDSP(Digital Signal Processor)ともいう)である。メモリ53は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(登録商標)(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)等の、不揮発性または揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスクまたはDVD(Digital Versatile Disc)等が該当する。
図2に示す保護レベル計算装置3の構成要素のうちバイアス誤差モデル部13および保護レベル計算部14は、上述と同様の制御回路50により実現される。記憶部15は、メモリ53または補助記憶装置により実現される。
図3は、汎用のプロセッサ52およびメモリ53により測位演算部11、バイアス誤差モデル部13および保護レベル計算部14を実現する場合のハードウェアの例であるが、測位演算部11、バイアス誤差モデル部13および保護レベル計算部14は、専用のハードウェア回路により実現されても良い。図4は、実施の形態1にかかる専用のハードウェア回路55の構成例を示す図である。
専用のハードウェア回路55は、入力部51、出力部54および処理回路56を備える。処理回路56は、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、またはこれらを組み合わせた回路である。なお、測位演算部11、バイアス誤差モデル部13および保護レベル計算部14は、制御回路50とハードウェア回路55とが組み合わされて実現されても良い。
次に、実施の形態1の保護レベル計算システム1の動作手順について説明する。図5は、実施の形態1にかかる測位システム100が有する保護レベル計算システム1の動作手順を示すフローチャートである。ここでは、保護レベル計算システム1による保護レベルを算出するための動作手順について説明する。
ステップS1において、保護レベル計算システム1は、測位装置2の測位信号受信部10において測位用の信号を受信する。測位用の信号を受信すると、ステップS2において、保護レベル計算システム1は、測位信号受信部10において測位用の信号から測定値を抽出することによって、測定値を取得する。測位信号受信部10は、信号源の位置の情報およびアプリケーション101と信号源との間の距離の情報を測定値として抽出する。
ステップS3において、保護レベル計算装置3のバイアス誤差モデル部13は、測定値に含まれることが想定されるバイアス誤差の上限値および下限値を出力する。ステップS4において、保護レベル計算装置3の保護レベル計算部14は、バイアス誤差の上限値および下限値を用いて保護レベルを算出する。算出された保護レベルは、記憶部15に記憶される。これにより、保護レベル計算システム1は、図5に示す手順による動作を終了する。
次に、実施の形態1における保護レベルの計算方法について説明する。測位演算部11は、測位演算に使用した各信号源からの測定値y∈Rmに対応する観測モデルとして、係数行列H∈Rm×nを出力する。この係数行列H∈Rm×nは、状態量x∈Rnによる測定値に対する非線形の観測モデルh(x)∈Rmを、基準となる状態量x0∈Rnの周りで線形化することで得られる。なお、状態量x∈Rmは、測位端末102の3次元における位置を表す3次元位置情報を含む。
また、測位演算部11は、測位演算での重みとして、観測誤差の誤差共分散行列R∈Rm×mを出力する。なお、測位演算部11は、測位演算での重みとして、固有値の和がmとなる正定対称行列Wを、単位重みに対する観測誤差の分散σ0
2とともに出力しても良い。この場合、W=σ0
2R-1の関係から、観測誤差の誤差共分散行列Rが求まる。ここで、mは、測位演算に使用した測定値の次元数を表す。nは、測位演算で推定する状態量の次元数を表す。
バイアス誤差モデル部13は、バイアス誤差の上限値bmax∈Rmとバイアス誤差の下限値bmin∈Rmとを出力する。このバイアス誤差は、測位演算に使用した各測定値に含まれると想定されるバイアス誤差であって、測定値ごとに異なる。
保護レベル計算部14は、測位演算部11から入力される観測モデルおよび測位演算での重みと、バイアス誤差モデル部13から入力されるバイアス誤差の上限値および下限値とを用いて、水平位置の保護レベルHPLを算出する。水平位置の保護レベルHPLは、次の(1)に示す非線形計画問題をバイアスベクトルb∈Rmについて解くことで得られる。(1)に示す非線形計画問題は、一般的な非線形計画ソルバーで解くことができる。
ここで、係数行列Hに含まれる微係数である位置に関する微係数は、基準となる状態量x0で与えられる3次元位置を基準とした局所水平座標系で表される。局所水平座標系は、ENU(East,North,Up)座標系とも呼ばれる。微係数の座標変換が必要な場合は、測位演算部11または保護レベル計算部14が座標変換を行う。
(1)に示す非線形計画問題において、M1∈R1×mは、行列M=(HTR-1H)-1HTR-1∈Rn×mのうち、基準となる3次元位置に対する東西方向の位置の成分に関する行である。M2∈R1×mは、行列M=(HTR-1H)-1HTR-1∈Rn×mのうち、基準となる3次元位置に対する南北方向の位置の成分に関する行である。行列G∈Rm×mは、G=(R-1-R-1H(HTR-1H)-1HTR-1)と表される。bi,min,bi,maxは、bmin,bmaxの要素である。iは、測定値のインデックスである。λは、測位解の利用可否の判定における誤警報率、不検出率および自由度m-nから決まる非心パラメータである。誤警報率は、利用できるにもかかわらず利用できないと判定する確率である。不検出率は、利用すべきでないのに利用できると判定する確率である。非心パラメータλの値は、例えば、誤警報率と不検出率とを固定値とし、自由度の値に非心パラメータλの値を対応付けたテーブルが作成されることによって、メモリ53等に記憶される。または、非心パラメータλの値は、測位を行う周囲の環境の変化に応じて誤警報率と不検出率とを変化させ、その都度の計算によって得ることとしても良い。
次に、図6を参照して、非心パラメータλについて説明する。図6は、実施の形態1における保護レベルの計算に用いられる非心パラメータについて説明するための図である。図6に示すグラフの横軸は、測位解の検定統計量を表す。図6に示すグラフの縦軸は、測位解の検定統計量の確率密度(probability density)を表す。ここでは、検定統計量として、測位解の観測残差の重み付き二乗和(Weighted Sum Squared Error:WSSE)を用いる。測位解x^∈Rnの観測残差のWSSEは、WSSE=(y-h(x^))TR-1(y-h(x^))と表される。測定値が全て正常である場合は、検定統計量は、χ二乗分布(chi-squared)に従う。1つ以上の測定値が異常である場合は、検定統計量は、非心χ二乗分布(non-central chi-squared)に従う。測位端末102は、検定統計量の値が、誤警報率から決まる閾値Tを越える場合、保護レベルを計算することなく、その測位解を利用不可と判定する。測位端末102は、検定統計量が閾値T以下である場合に、保護レベルを計算し、警報限界との比較によって測位解の利用可否を判定する。測位端末102は、測位解の利用可否を判定することで、測位解の有効性を判定する。
ここでは一例として、誤警報率は10-4、不検出率は10-3、自由度は6であるものとする。この例の場合、非心パラメータλの値は、約63.632324となる。誤警報率は、自由度6のχ二乗分布の密度関数を閾値Tから無限大まで積分した値である。不検出率は、自由度6の非心χ二乗分布の密度関数を0から閾値Tまで積分した値である。図6には、χ二乗分布曲線と非心χ二乗分布曲線とを示す。まず、誤警報率が与えられた値となるような閾値Tを数値的に求める。続いて、不検出率が与えられた値となるような非心χ二乗分布の非心パラメータを数値的に求めることによって、非心パラメータλが得られる。
保護レベル計算部14は、水平位置の保護レベルHPLの算出と同様に、測位演算部11から入力される観測モデルおよび測位演算での重みと、バイアス誤差モデル部13から入力されるバイアス誤差の上限値および下限値とを用いて、垂直位置の保護レベルVPLを算出する。垂直位置の保護レベルVPLは、次の(2)に示す非線形計画問題をバイアスベクトルb∈Rmについて解くことで得られる。(2)に示す非線形計画問題は、一般的な非線形計画ソルバーで解くことができる。
(2)に示す非線形計画問題において、M3∈R1×mは、行列Mのうち、基準となる3次元位置に対する上下方向の位置の成分に関する行である。
次に、図7を参照して、水平位置の保護レベルHPLの具体的な計算手順について説明する。図7は、実施の形態1における水平位置の保護レベルの計算手順を説明するための衛星103の配置例を示す図である。図7には、10個のGPS衛星の天球上の位置を表したスカイプロット図を示す。図7に示すG14,G16,G21,G23,G25,G26,G27,G29,G31,G32の各々は、衛星103を表す。ここでは、測位演算部11は、10個のGPS衛星の各々から送信される信号のうち、測位を行う地点における1周波の擬似距離測定値のみを用いることとする。すなわちm=10とする。また、測位演算部11は、状態量として、3次元の位置の情報と受信機クロックオフセットのみを用いることとする。すなわち、n=4とする。したがって、保護レベル計算部14は、それら10個の測定値に関する、4つの状態量についての観測モデル、測位演算での重み、および、バイアス誤差の上限値および下限値を用いて、保護レベルを計算する。近似的に求められた概略位置の周りで線形化した係数行列H∈R10×4は、局所水平座標系であるENU座標系で表すと、次の(3)のような式になる。なお、(3)の式の右辺に含まれる各数値は、小数点5桁以下を省略したものとする。
係数行列Hは、観測モデルを表す。係数行列Hの各行は、各GPS衛星に対応している。(3)に示す行列の各行には、左から順に、東西方向ベクトル、南北方向ベクトル、および上下方向ベクトルの各値と、受信機クロックオフセットの係数とが示されている。
観測誤差の分散を、衛星103の仰角によらずσ2=1.0[m2]とすると、観測誤差の共分散行列R∈R10×10は、σ2=1.0を対角要素とする対角行列σ2I10となる。共分散行列R∈R10×10は、測位演算での重みを表す。ただし、このときImは、m×mの単位行列である。係数行列Hおよび観測誤差の共分散行列Rから、M1∈R1×10,M2∈R1×10,G∈R10×10の各々は、次の(4),(5),(6)のような式により表される。なお、(4)の式の右辺に含まれる各数値と、(5)の式の右辺に含まれる各数値と、(6)の式の右辺に含まれる各数値とは、小数点5桁以下を省略したものとする。
誤警報率を10-4、不検出率を10-3とすると、自由度はm-n=6であって、上述する自由度の値と同じになる。このため、非心パラメータλの値も、上述する値と同じになる。例えば、全ての測定値について、バイアス誤差の最小値が0[m]、最大値が10[m]である場合、bmin,bmaxの各々は、次の(7),(8)のような式により表される。
これらの値を用いて、上述の(1)に示す非線形計画問題をバイアスベクトルb∈R10について解くと、バイアスベクトルbは、次の(9)のような式により表される。なお、(9)の式の右辺に含まれる各数値は、小数点5桁以下を省略したものとする。
このとき、水平位置の保護レベルHPLは、7.591439[m]となる。
なお、ここではGPS衛星のみを用いた水平位置の保護レベルHPLの計算例について説明したが、測位システム100は、Galileo衛星または準天頂衛星を利用した水平位置の保護レベルHPLを算出しても良い。そのような場合、測位システム100は、利用する衛星103の種類に応じて、状態量に受信機の衛星系間バイアスを追加することができる。
また、ここでは1周波の擬似距離測定値のみを利用した水平位置の保護レベルHPLの計算例について説明したが、測位システム100は、2周波以上の複数の周波数を利用した水平位置の保護レベルHPLを算出しても良い。そのような場合、測位システム100は、利用する周波数の数に応じて、状態量に受信機の周波数間バイアスを追加することができる。
また、各衛星系について基準衛星を決め、各衛星103からの信号による測定値を、基準衛星に対する一重差分値としても良い。そのような場合、測位システム100は、状態量から、受信機クロックオフセット、受信機の衛星系間バイアス、および周波数間バイアスを除くことができる。
また、ここでは擬似距離測定値(pseudo-range measurement)を利用した水平位置の保護レベルHPLの計算例について説明したが、搬送波位相測定値(carrier-phase measurement)が追加されても良い。そのような場合、測位システム100は、状態量に搬送波位相アンビギュイティを追加することができる。また、状態量に、受信機の速度または加速度が追加されても良い。
また、水平位置の保護レベルHPLの計算例では、バイアス誤差の最小値と最大値とを全ての測定値で共通としたが、バイアス誤差の最小値と最大値とは、測定値ごとに代えても良い。また、バイアス誤差の最小値として、0以外の値または負の値が与えられても良い。また、バイアス誤差の最大値として、0または負の値が与えられても良い。
また、水平位置の保護レベルHPLの計算例では、測位用の信号の信号源として衛星103を用いたが、信号源は、衛星103、基地局104のいずれであっても良い。信号源は、衛星103と基地局104との組み合わせであっても良い。
測位演算部11は、状態量の事前予測値xpre∈Rnを用いたカルマンフィルタ等による観測更新によって測位解を算出しても良い。保護レベル計算部14は、測位解の演算で用いた重みである、状態量の事前予測値の重みと、事前予測値に含まれることが想定されるバイアス誤差の上限値および下限値とをさらに用いて保護レベルを算出する。この場合、測位演算部11、バイアス誤差モデル部13、および保護レベル計算部14の各々は、次のように拡張される。
測位演算部11は、測位演算に使用した各信号源からの測定値y∈Rmに対応する観測モデルとして、係数行列H∈Rm×nを出力する。測位演算部11は、測位演算での重みとして、観測誤差の誤差共分散行列R∈Rm×mを出力する。これに加えて、測位演算部11は、状態量の事前予測値の重みとして、誤差共分散行列Q∈Rn×nを出力する。なお、測位演算部11は、上述の場合と同様に、測位演算での重みとして、固有値の和がmとなる正定対称行列Wを、単位重みに対する観測誤差の分散σ0
2とともに出力しても良い。この場合、W=σ0
2R-1の関係から、観測誤差の誤差共分散行列Rが求まる。ここで、mは、測位演算に使用した測定値の次元数を表す。nは、測位演算で推定する状態量の次元数を表す。測位解の検定統計量には、WSSE=(y-h(xpre))T(HQH+R)-1(y-h(xpre))を用いる。
また、測位演算部11は、加速度計またはジャイロ等の慣性センサの測定値を用いて、状態量の事前予測値と誤差共分散行列Qとを計算しても良い。特に、信号源が利用できる時間間隔が長い場合、慣性センサの測定値を用いることで、時間経過による事前予測値の誤差の増加を抑えることができる。この場合、誤差共分散行列Qの値も小さくなり、状態量の事前予測値の重みが増す。また、慣性センサの測定値を用いる場合、事前予測値に含まれると想定されるバイアス誤差が小さくなるよう、上限値と下限値とを設定することができる。その結果、保護レベルの値が小さくなる。
バイアス誤差モデル部13は、測位演算に使用した測定値ごとに含まれると想定されるバイアス誤差の上限値および下限値と、事前状態量に含まれると想定されるバイアス誤差の上限値および下限値とを出力する。このとき、当該2種類のバイアス誤差の上限値bmaxは、bmax∈Rm+nである。当該2種類のバイアス誤差の下限値bminは、bmin∈Rm+nである。
保護レベル計算部14は、測位演算部11から入力される観測モデル、測位演算での重み、および、状態量の事前予測値の重みと、バイアス誤差モデル部13から入力されるバイアス誤差の上限値および下限値とを用いて、水平位置の保護レベルHPLを算出する。水平位置の保護レベルHPLは、次の(10)に示す非線形計画問題をバイアスベクトルb∈Rm+nについて解くことで得られる。(10)に示す非線形計画問題は、一般的な非線形計画ソルバーで解くことができる。
ここで、係数行列Hに含まれる微係数である位置に関する微係数は、基準となる状態量x0を用いて、3次元位置を示す局所水平座標系であるENU座標系で表される。微係数の座標変換が必要な場合は、測位演算部11または保護レベル計算部14が座標変換を行う。
(10)に示す非線形計画問題において、M1∈R1×(m+n)は、行列M∈Rn×(m+n)のうち、基準となる3次元位置に対する東西方向の位置の成分に関する行である。M2∈R1×(m+n)は、行列M∈Rn×(m+n)のうち、基準となる3次元位置に対する南北方向の位置の成分に関する行である。
ここで、行列Mは、次の(11)のような式により表される。
また、行列G∈R(m+n)×(m+n)は、次の(12)のような式により表される。
保護レベル計算部14は、水平位置の保護レベルHPLの算出と同様に、測位演算部11から入力される観測モデル、測位演算での重み、および、状態量の事前予測値の重みと、バイアス誤差モデル部13から入力されるバイアス誤差の上限値および下限値とを用いて、垂直位置の保護レベルVPLを算出する。垂直位置の保護レベルVPLは、次の(13)に示す非線形計画問題をバイアスベクトルb∈Rm+nについて解くことで得られる。(13)に示す非線形計画問題は、一般的な非線形計画ソルバーで解くことができる。
(13)に示す非線形計画問題において、M3∈R1×(m+n)は、行列Mのうち、基準となる3次元位置に対する上下方向の位置の成分に関する行である。
このように、実施の形態1にかかる測位システム100は、保護レベル計算システム1を備える。保護レベル計算システム1は、測位解の有効性判定に用いる保護レベルを算出する保護レベル計算装置3を備える。保護レベル計算装置3は、各測定値に含まれると想定されるバイアス誤差の上限値および下限値を用いて保護レベルを算出する。このため、保護レベル計算システム1は、測定値に異常な値が含まれている場合であっても、この測定値のバイアス誤差が上限値と下限値との間の範囲内にあるとき、この測定値を使った測位解の有効性判定に有効な保護レベルを算出できる。
ここまで、測位端末102に測位装置2と保護レベル計算装置3との双方が組み込まれ、測位端末102が測位解と保護レベルとを算出する場合について説明した。上述するように、測位装置2は測位端末102に組み込まれ、かつ、保護レベル計算装置3はサーバー105等の外部装置に組み込まれても良い。または、測位装置2と保護レベル計算装置3との双方が、サーバー105等の外部装置に組み込まれても良い。
例えば、測位端末102に測位装置2と保護レベル計算装置3との双方が組み込まれる場合、測位端末102は、各測定値に含まれると想定されるバイアス誤差の上限値および下限値を用いて保護レベルを算出し、この測定値を用いて算出した測位解の有効性を、保護レベルを用いて判定する。なお、測位解の有効性を判定する構成要素の図示は省略する。
測位端末102が保護レベルを算出し、かつ測位解の有効性を判定する場合、測位端末102は、各測定値に含まれると想定されるバイアス誤差の上限値および下限値を、測位端末102のメモリにあらかじめ記憶しても良い。または、次の図8に示すように、測位端末102は、バイアス誤差の上限値および下限値を、インテグリティ補助情報としてサーバー105等の外部装置から受信しても良い。なお、保護レベル計算システム1が測位端末102の内部において測定解の有効性を判定する例を説明したが、これに限られない。保護レベル計算システム1は、測位端末102の外部において測定解の有効性を判定しても良い。測定解の有効性の判定は、保護レベル計算装置3の内部で行われても良く、保護レベル計算装置3の外部で行われても良い。
図8は、実施の形態1における保護レベル計算システム1の第1変形例を示す図である。図8に示す保護レベル計算システム1では、測位装置2と、保護レベル計算部14と、記憶部15とは、第1の装置である測位端末102に設けられている。バイアス誤差モデル部13は、第1の装置と通信可能な第2の装置であるサーバー105に設けられている。保護レベル計算装置3は、測位端末102の保護レベル計算部14および記憶部15とサーバー105のバイアス誤差モデル部13とにより構成される。図8に示す構成では、測位端末102は、バイアス誤差の上限値および下限値を、インテグリティ補助情報としてサーバー105から受信する。
図9は、実施の形態1における保護レベル計算システム1の第2変形例を示す図である。図9に示す保護レベル計算システム1では、測位装置2は測位端末102に組み込まれており、かつ、保護レベル計算装置3はサーバー105に組み込まれている。すなわち、測位演算部11は第1の装置である測位端末102に組み込まれており、かつ、バイアス誤差モデル部13および保護レベル計算部14は第2の装置であるサーバー105に組み込まれている。測位装置2は、測定値の情報をサーバー105へ送信する。サーバー105は、保護レベル計算部14において、受信した測定値に含まれると想定されるバイアス誤差の上限値および下限値を用いて保護レベルを算出する。サーバー105は、算出した保護レベルの情報を測位端末102へ送信する。測位端末102は、保護レベルの情報を受信すると、測位解の有効性を判定する。
なお、測位端末102が測位解の有効性を判定する代わりに、次の図10に示すように、サーバー105等の外部装置が測位解の有効性を判定しても良い。図10は、実施の形態1における保護レベル計算システム1の第3変形例を示す図である。
図10に示す保護レベル計算システム1では、測位装置2は測位端末102に組み込まれており、かつ、保護レベル計算装置3はサーバー105に組み込まれている。すなわち、測位演算部11は第1の装置である測位端末102に組み込まれており、かつ、バイアス誤差モデル部13および保護レベル計算部14は第2の装置であるサーバー105に組み込まれている。測位端末102は、測位演算部11により算出された測位解の情報をサーバー105へ送信する。サーバー105は、保護レベル計算部14において算出した保護レベルを用いて測位解の有効性を判定する。サーバー105は、有効性の判定結果を測位端末102へ送信する。
図10に示す保護レベル計算システム1では、測位端末102は、アプリケーション101が定める限界値をサーバー105へ送信する。または、サーバー105は、通信ネットワークを介して、測位端末102以外の装置から限界値を取得しても良い。このように、保護レベルの算出または測位解の有効性判定の処理を外部装置に委ねることによって、測位端末102の処理負担が軽減される。これにより、保護レベル計算システム1は、測位端末102を安価な構成とすることができる。
図11は、実施の形態1における保護レベル計算システム1の第4変形例を示す図である。図11に示す保護レベル計算システム1では、測位装置2と保護レベル計算装置3との双方がサーバー105に組み込まれている。すなわち、測位演算部11、バイアス誤差モデル部13および保護レベル計算部14は、サーバー105に組み込まれている。測位信号受信部10は、測位端末102に設けられている。測位信号受信部10は、測位用の信号を受信すると、測位用の信号から測定値を抽出する。測位端末102は、抽出した測定値をサーバー105へ送信する。
サーバー105が測定値を受信すると、測位装置2は、測位解を算出する。保護レベル計算装置3は、測定値に含まれると想定されるバイアス誤差の上限値および下限値を用いて保護レベルを算出する。サーバー105は、算出した保護レベルとアプリケーション101が定める限界値とを比較して、測位解の有効性を判定する。サーバー105は、有効性の判定結果を測位端末102へ送信する。
図11に示す保護レベル計算システム1では、測位端末102は、アプリケーション101が定める限界値をサーバー105へ送信する。または、サーバー105は、通信ネットワークを介して、測位端末102以外の装置から限界値を取得しても良い。このように、保護レベルの算出または測位解の有効性判定の処理を外部装置に委ねることによって、測位端末102の処理負担が軽減される。これにより、保護レベル計算システム1は、測位端末102を安価な構成とすることができる。
なお、測位装置2と保護レベル計算装置3との双方がサーバー105等の外部装置に組み込まれる場合であっても、測位端末102が測位解の演算を行うこととしても良い。この場合、測位解を演算した測位端末102は、サーバー105等の外部装置から保護レベルの情報を受信し、測位解の有効性を判定しても良い。
図10および図11に示す各保護レベル計算システム1は、サーバー105のうち保護レベル計算装置3の内部において測定解の有効性を判定して、保護レベル計算装置3から判定結果を出力することとしたが、これに限られない。保護レベル計算システム1は、サーバー105のうち保護レベル計算装置3の外部において測定解の有効性を判定して、サーバー105のうち保護レベル計算装置3の外部から判定結果を出力しても良い。
測位装置2と保護レベル計算装置3との各々が測位端末102とサーバー105等の外部装置とのいずれに組み込まれる場合も、測位演算部11、バイアス誤差モデル部13および保護レベル計算部14は、図3に示す制御回路50または図4に示すハードウェア回路55により実現される。
このように、保護レベル計算システム1は、測位装置2と保護レベル計算装置3との各々が測位端末102とサーバー105等の外部装置とのいずれに組み込まれる場合であっても、各測定値に含まれると想定されるバイアス誤差の上限値および下限値を用いて保護レベルを算出する。このため、保護レベル計算システム1は、測位解の演算で用いる各測定値のバイアス誤差が、このバイアス誤差の上限値と下限値の範囲内に含まれていれば、測定値に異常な値が含まれている場合であっても、この測定値を使った測位解の有効性判定に有効な保護レベルを算出できる。これにより、保護レベル計算システム1は、測定値に異常な値が含まれ得る状況において、測定値から算出される測位解の有効性判定に有効な保護レベルを算出することができる。
実施の形態2.
測定値に含まれる誤差である、測位衛星に起因する誤差または大気に起因する誤差は、通常、補正されてから測位演算に用いられる。実施の形態2では、準天頂衛星から一律配信される補正情報、または、次に説明する基準局202から通信ネットワークを介して提供される補正情報を用いて測定値を補正し、その補正後の測定値に対して保護レベルを計算する場合について説明する。実施の形態2では、上記の実施の形態1と同一の構成要素には同一の符号を付し、実施の形態1とは異なる構成について主に説明する。
図12は、実施の形態2にかかる測位システム200の構成例を示す図である。測位システム200は、実施の形態1にかかる測位システム100と同様の構成に加え、測位補強衛星201と基準局(Continuously Operating Reference Station:CORS)202とを備える。基準局202は、正確な位置が既知である測位端末を搭載した局である。
測位補強衛星201および基準局202は、補正情報をバッファリングし、あらかじめ設定されたタイミングで測位端末102へ補正情報を送信する。ここで、補正情報とは、測定値に含まれる誤差を補正するための情報である。補正情報は、測位補強衛星201の一例である準天頂衛星から一律配信されるか、または基準局202から通信ネットワークを介して提供される。なお、基準局202が提供する補正情報は、測位補強衛星201が一律配信して基地局104がリピート送信する補正情報とは異なる。
各衛星103は、測位用の信号を送信する。測位端末102は、測位用の信号を受信してアプリケーション101の測位を行う。測位補強衛星201は、補正情報の信号を送信する。測位端末102は、補正情報の信号を受信して測定値を補正する。なお、測位端末102がビルの陰などに入ることによって測位補強衛星201からの補正情報の信号を受信し損ねた場合に備え、基地局104またはサーバー105が、測位補強衛星201が送信した補正情報を、通信ネットワークを介して測位端末102へリピートして送信しても良い。
測位端末102は、信号源からの測位用の信号を受信すると、信号源の位置の情報およびアプリケーション101と信号源との間の距離の情報を測定値として抽出する。測定値には、誤差が含まれるため、測位端末102は、測位補強衛星201または基準局202から受信した補正情報を用いて、抽出した測定値を補正する。そして、測位端末102は、補正した測定値を用いて、アプリケーション101の測位解を算出する。補正情報を用いて補正される誤差は、測位衛星に起因する誤差および大気に起因する誤差の少なくとも一方である。
測定値には、受信環境または受信機に起因する誤差も含まれる。そこで、測位端末102は、算出された測位解の有効性を判定するために、保護レベルを用いる。測位端末102は、測位演算に使用した測定値に対応する観測モデルと測位演算での重みとを用いて、保護レベルを計算する。すなわち、測位端末102は、保護レベルの演算を行う。そして、測位端末102は、算出した保護レベルとアプリケーション101の限界値とを比較して、算出した測位解の利用可否を判定する。保護レベルの具体的な計算方法については、後述する。
測位システム200は、保護レベルを計算する保護レベル計算システムを備える。ここで、保護レベル計算システムの構成について説明する。図13は、実施の形態2にかかる測位システム200が有する保護レベル計算システム1Aの構成例を示す図である。図2に示す保護レベル計算システム1Aは、測位を行う測位装置2Aと、保護レベルを計算する保護レベル計算装置3Aとを備える。
ここでは、測位装置2Aと保護レベル計算装置3Aとの双方が、図12に示す測位端末102に組み込まれている場合について説明する。なお、測位装置2Aは測位端末102に組み込まれ、かつ、保護レベル計算装置3Aは測位端末102の外部の装置であるサーバー105等に組み込まれても良い。または、測位装置2Aと保護レベル計算装置3Aとの双方が、サーバー105等の外部装置に組み込まれても良い。測位装置2Aが測位端末102以外の装置に組み込まれる場合には、次に説明する測位信号受信部10は測位装置2Aに備えられるものとする。
測位装置2Aは、信号源によって送信される測位用の信号を受信する測位信号受信部10と、測位演算を行う測位演算部11Aと、情報を記憶する記憶部12とを備える。測位信号受信部10は、アンテナと受信機とを備える。ここで、補正情報受信部16は、アンテナおよび受信機の少なくとも一方を測位信号受信部10と共用しても良い。または、補正情報受信部16は、測位信号受信部10とは別のアンテナと受信機とを備えても良い。アンテナと受信機との図示は省略する。記憶部12は、測位演算部11Aにより算出された測位解を記憶する。
測位装置2Aは、図2に示す測位装置2と同様の構成に加え、補正情報受信部16を備える。補正情報受信部16は、アンテナと受信機とを備える。アンテナと受信機との図示は省略する。補正情報受信部16は、測位補強衛星201および基準局202の各々が送信する補正情報を受信する。測位補強衛星201および基準局202の各々は、補正情報の信号の信号源である。
保護レベル計算装置3Aは、バイアス誤差の上限値および下限値を出力するバイアス誤差モデル部13Aと、測位解の保護レベルを計算する保護レベル計算部14Aと、情報を記憶する記憶部15とを備える。保護レベル計算装置3Aは、図2に示す保護レベル計算装置3と同様の構成を備える。このバイアス誤差は、測位用の信号から取得される測定値に含まれることが想定されるバイアス誤差のうち、補正情報に基づいた補正が行われても残るバイアス誤差である。
保護レベル計算システム1Aの測位演算部11A、バイアス誤差モデル部13Aおよび保護レベル計算部14Aは、図3に示す制御回路50または図4に示すハードウェア回路55により実現される。測位信号受信部10の一部と補正情報受信部16の一部とが処理回路であっても良い。
以下に、測位用の信号の信号源が衛星103である場合について説明する。測位信号受信部10は、衛星103からの測位用の信号を受信すると、衛星103の位置の情報およびアプリケーション101と衛星103間の距離の情報を測定値として抽出する。測位信号受信部10は、抽出した測定値を測位演算部11Aへ出力する。測位信号受信部10が出力する測定値は、衛星クロック誤差、軌道誤差または衛星信号間バイアス等の、衛星103に起因するバイアス誤差と、電離層遅延または対流圏遅延等の、大気に起因するバイアス誤差と、受信機クロック誤差または受信機信号間バイアス等の、受信機に起因するバイアス誤差とのうちの少なくとも1つを含む。
補正情報受信部16は、測位補強衛星201または基準局202が送信する補正情報の信号を受信し、測位演算部11Aへ補正情報を出力する。ここで、補正情報受信部16が受信する補正情報は、例えば準天頂衛星システムが提供するセンチメータ級測位補強サービスで配信される情報である。測位演算部11Aは、測定値に含まれるバイアス誤差のうち、衛星103に起因するバイアス誤差と大気に起因するバイアス誤差とを、補正情報を用いて補正する。
測位演算部11Aは、補正した測定値を用いて測位解を算出する。測位演算部11Aは、測位解に加え、測位演算に使用した各信号源からの測定値に対応する観測モデルと測位演算での重みとの各情報も出力する。測位演算部11Aが算出する測位解には、速度または加速度等の情報が含まれても良い。
基準局202が測位端末102の周辺に配置されている場合、測位演算部11Aは、測位補強衛星201、基地局104、またはサーバー105から受信した補正情報の代わりに基準局202の測定値を用いて、測位信号受信部10から入力された測定値を補正しても良い。具体的には、補正情報受信部16が基準局202から測定値を受信し、受信した測定値を測位演算部11Aへそのまま出力する。基準局202と測位装置2Aとの間の通信は、例えば、携帯電話網等を介した無線通信で行われる。
測位演算部11Aは、補正情報受信部16から入力された基準局202での測定値を補正値とし、測位信号受信部10から入力された測定値からこの補正値を減算する。このようにして、測位演算部11Aは、衛星103に起因するバイアス誤差と大気に起因するバイアス誤差とを補正した測定値を得る。測位演算部11Aは、補正した測定値を用いて測位演算を行い、測位解を算出する。
なお、基準局202での測定値を補正情報として用いる場合、補正した測定値には、基準局202の周囲の環境に起因するバイアス誤差が含まれる。このため、基準局202は通常、周囲の環境に起因するバイアス誤差を無視できるようなオープンスカイ環境に設置される。
測位装置2Aは、測位演算部11Aから出力された測位解と、観測モデルと、測位演算での重みとを、保護レベル計算装置3Aへ送る。測位解と、観測モデルと、測位演算での重みとの各情報は、保護レベル計算部14Aへ入力される。保護レベル計算部14Aには、バイアス誤差モデル部13Aから出力されたバイアス誤差の上限値および下限値が入力される。保護レベル計算部14Aは、観測モデルおよび測位演算での重みと、バイアス誤差の上限値および下限値とを用いて、測位解の保護レベルを計算する。保護レベル計算部14Aによって算出された保護レベルは、記憶部15に格納される。
次に、実施の形態2における保護レベルの計算方法について説明する。測位演算部11Aは、測位演算に使用した補正された測定値yc∈Rmに対応する観測モデルとして、係数行列H∈Rm×nを出力する。この係数行列H∈Rm×nは、状態量x∈Rnによる測定値に対する非線形の観測モデルh(x)∈Rmを、基準となる状態量x0∈Rnの周りで線形化することで得られる。なお、状態量x∈Rmは、測位端末102の3次元位置情報を含む。ここで、mは、測位演算に使用した測定値の次元数を表す。nは、測位演算で推定する状態量の次元数を表す。
例えば、誤差共分散行列の各対角要素は、各測定値yi∈yの誤差分散σyi
2と、衛星103に起因するバイアス誤差と大気に起因するバイアス誤差とを補正した補正値ciの誤差分散σci
2との合計値であるσyi
2+σci
2となる。ここで、補正値ciは、補正情報受信部16が受信した補正情報を用いて、測位信号受信部10が受信した測定値yiを補正した値である。
測位演算部11Aが、測位補強衛星201または基準局202から受信した補正情報の代わりに、基準局202での測定値yrを用いて測位解を演算する場合、誤差共分散行列の各対角要素は、測位端末102における測定値の誤差分散σyi
2と、この測定値と同じ信号源からの測定値である、基準局202における測定値の誤差分散σyri
2との合計値であるσyi
2+σyri
2となる。
測位端末102における測定値の誤差分散σyi
2は、例えば、信号の種類または信号の仰角の関数としてあらかじめ生成したモデルを用いて求めることができる。衛星103に起因するバイアス誤差と大気に起因するバイアス誤差とを補正した補正値の誤差分散σci
2と、測位端末102での測定値と同じ信号源からの測定値である、基準局202における測定値の誤差分散σyri
2とは、信号の種類または信号の仰角の関数としてあらかじめ生成したモデルを用いて求めることができる。また、これらの誤差分散の値が補正情報に含まれる場合は、補正情報に含まれる値が用いられても良い。
バイアス誤差モデル部13Aは、バイアス誤差の上限値benv_max∈Rmとバイアス誤差の下限値benv_min∈Rmとを出力する。このバイアス誤差は、測位演算に使用した各測定値に含まれると想定される、周囲の環境に起因するバイアス誤差であって、測定値ごとに異なる。つまり、ここでは、測定値に含まれるバイアス誤差のうち、衛星103に起因するバイアス誤差と大気に起因するバイアス誤差とは補正によって取り除かれており、周囲の環境に起因するバイアス誤差のみが残っていると想定される。
保護レベル計算部14Aは、測位演算部11Aから入力される観測モデルおよび測位演算での重みと、バイアス誤差モデル部13Aから入力されるバイアス誤差の上限値および下限値とを用いて、水平位置の保護レベルHPLを算出する。水平位置の保護レベルHPLは、次の(14)に示す非線形計画問題をバイアスベクトルbenv∈Rmについて解くことで得られる。(14)に示す非線形計画問題は、一般的な非線形計画ソルバーで解くことができる。
ここで、係数行列Hに含まれる微係数である位置に関する微係数は、基準となる状態量x0で与えられる3次元位置を基準とした局所水平座標系であるENU座標系で表される。
(14)に示す非線形計画問題において、M1∈R1×mは、行列M=(HTR-1H)-1HTR-1∈Rn×mのうち、基準となる3次元位置に対する東西方向の位置の成分に関する行である。M2∈R1×mは、行列M=(HTR-1H)-1HTR-1∈Rn×mのうち、基準となる3次元位置に対する南北方向の位置の成分に関する行である。行列G∈Rm×mは、G=(R-1-R-1H(HTR-1H)-1HTR-1)と表される。bi,env_minは、benv_minの要素である。bi,env_maxは、benv_maxの要素である。iは、測定値のインデックスである。
保護レベル計算部14Aは、水平位置の保護レベルHPLの算出と同様に、測位演算部11Aから入力される観測モデルおよび測位演算での重みと、バイアス誤差モデル部13Aから入力されるバイアス誤差の上限値および下限値とを用いて、垂直位置の保護レベルVPLを算出する。垂直位置の保護レベルVPLは、次の(15)に示す非線形計画問題をバイアスベクトルbenv∈Rmについて解くことで得られる。(15)に示す非線形計画問題は、一般的な非線形計画ソルバーで解くことができる。
(15)に示す非線形計画問題において、M3∈R1×mは、行列Mのうち、基準となる3次元位置に対する上下方向の位置の成分に関する行である。
保護レベル計算部14Aは、測定値を補正するための補正値の標準バイアス誤差をさらに用いて保護レベルを算出しても良い。例えば、非線形計画問題の拘束条件は、補正値ごとの標準バイアス誤差μci>0を用いて、次の(16)に示すように変更しても良い。
補正値ごとの標準バイアス誤差μciは、信号の種類または信号の仰角の関数としてあらかじめ生成したモデルを用いて求めることができる。また、補正値ごとの標準バイアス誤差μciの値が補正情報に含まれる場合は、補正情報に含まれる値が用いられても良い。例えば、文献「J. Rife, et. al, “Paired Overbounding and Application to GPS Augmentation”, PLANS 2004. Position Location and Navigation Symposium」では、補正情報から導出される補正値の誤差をPaired Gauss分布で表現し、補正値、すなわち衛星に起因するバイアス誤差と大気に起因するバイアス誤差とを補正した補正値の誤差分散σci
2と、補正値ごとの標準バイアス誤差μciに相当するパラメータとを補正情報の一部として提供する方式が示されている。
このように、保護レベル計算システム1Aは、保護レベルの算出において補正値の標準バイアス誤差が追加されることによって、周囲の環境に起因するバイアス誤差に加え、補正情報に基づいた補正が行われても残り得る、衛星103に起因するバイアス誤差と大気に起因するバイアス誤差とを想定して、保護レベルを算出する。これにより、保護レベル計算システム1Aは、測位解の有効性判定に有効な保護レベルを算出することができる。
測位演算部11Aは、状態量の事前予測値を用いたカルマンフィルタ等による観測更新によって測位解を算出しても良い。この場合、測位演算部11A、バイアス誤差モデル部13A、および保護レベル計算部14Aの各々は、実施の形態1の場合と同様に拡張される。
このように、実施の形態2にかかる測位システム200は、測位システム100と同様の構成に加え、測位補強衛星201と基準局202とを備える。そして、保護レベル計算装置3Aを有する保護レベル計算システム1Aは、衛星103に起因するバイアス誤差と大気に起因するバイアス誤差とを補正する補正情報、または基準局202における測定値を用いて、測位装置2Aにおける測定値を補正する。
従来の多変量確率分布モデルを用いた保護レベル計算装置では、受信機が記録する測定品質の指標の種類および信頼度が受信機固有の値であるにも関わらず、一部の指標は外部出力されず、利用できる範囲が限定されていた。これに対し、実施の形態2の保護レベル計算装置3Aでは、例えば測位端末102の周囲の環境に起因するバイアス誤差に着目し、補正後の各測定値に含まれると想定されるバイアス誤差の上限値および下限値を用いて保護レベルを算出する。なお、周囲の環境とは、例えば、信号の直接波の建物による遮断またはマルチパスである。
各測定値のバイアス誤差の上限値および下限値は、この周囲の環境をモデル化した幾何的な環境モデルから得られる。バイアス誤差モデル部13Aは、測位対象であるアプリケーション101の周囲の環境をモデル化した環境モデルを基にバイアス誤差の上限値および下限値の各々を求める。このため、保護レベル計算システム1Aは、保護レベル計算装置3Aを用いることによって、実施の形態1に記載の効果に加え、受信機の機種または性能に依存せず測位解の有効性判定に有効な保護レベルを算出することもできる。保護レベル計算システム1Aは、周囲の環境をモデル化した幾何的な環境モデルを用いることで、個別の周囲の環境を反映した保護レベルを算出することができる。
ここまで、測位用の信号の信号源が衛星103である場合について説明した。信号源が基地局104である場合、測定値には、衛星に起因する誤差および大気に起因する誤差は含まれないため、保護レベル計算システム1Aは、補正情報を用いた補正は行わない。一方、信号源が基地局104であっても、周囲の環境に起因するバイアス誤差は測定値に含まれる。このため、保護レベル計算システム1Aは、測位用の信号の信号源が衛星103である場合と同様に、各測定値に含まれると想定されるバイアス誤差の上限値および下限値を用いて保護レベルを算出する。
実施の形態3.
実施の形態3では、道路脇に設置されたロードサイドユニットから、アプリケーション101が通過した時刻を示す時刻情報、および、ロードサイドユニットまたはアプリケーション101の位置情報を受信し、これらの情報と地図情報とを用いて保護レベルを計算する場合について説明する。実施の形態3では、上記の実施の形態1または2と同一の構成要素には同一の符号を付し、実施の形態1または2とは異なる構成について主に説明する。
図14は、実施の形態3にかかる測位システム300が有する保護レベル計算システム1Bの構成例を示す図である。実施の形態3にかかる測位システム300は、図13に示す保護レベル計算システム1Aとは異なる保護レベル計算システム1Bを備える。保護レベル計算システム1Bは、測位を行う測位装置2Bと、保護レベルを計算する保護レベル計算装置3Bと、ロードサイドユニット18とを備える。
ここでは、測位装置2Bと保護レベル計算装置3Bとの双方が、測位端末102に組み込まれている場合について説明する。なお、測位装置2Bは測位端末102に組み込まれ、かつ、保護レベル計算装置3Bは測位端末102の外部の装置であるサーバー105等に組み込まれても良い。または、測位装置2Bと保護レベル計算装置3Bとの双方が、サーバー105等の外部装置に組み込まれても良い。測位装置2Bが測位端末102以外の装置に組み込まれる場合には、測位信号受信部10は測位装置2Bに備えられるものとする。
ロードサイドユニット18は、道路脇などに設置される、カメラ等のセンサと時計とを搭載した装置である。ロードサイドユニット18は、カメラ等のセンサでアプリケーション101を検知する。ロードサイドユニット18は、ロードサイドユニット18の前をアプリケーション101が通過したことを検知すると、アプリケーション101が通過した時刻におけるアプリケーション101の位置情報としてロードサイドユニット18の位置情報を出力する。なお、ロードサイドユニット18は、ロードサイドユニット18とアプリケーション101との相対位置を計測してアプリケーション101の絶対位置を特定し、特定した位置情報をアプリケーション101の位置情報として出力しても良い。
測位装置2Bは、衛星103または基地局104である信号源によって送信される測位用の信号を受信する測位信号受信部10と、測位演算を行う測位演算部11Bと、情報を記憶する記憶部12と、補正情報受信部16とを備える。測位装置2Bは、保護レベル計算システム1Aの測位装置2Aと同様の構成を備える。なお、測位装置2Bは、図2に示す保護レベル計算システム1の測位装置2と同様の構成を備えるものであっても良い。
保護レベル計算装置3Bは、バイアス誤差の上限値および下限値を出力するバイアス誤差モデル部13Bと、測位解の保護レベルを計算する保護レベル計算部14Bと、情報を記憶する記憶部15と、地図情報部17とを備える。記憶部15には、保護レベルと地図情報とが記憶される。
測位端末102は、ロードサイドユニット18から送信された位置情報を受信する。地図情報部17には、受信した位置情報が入力される。また、地図情報部17には、測位装置2Bの測位演算部11Bから出力された測位解が入力される。また、地図情報部17は、記憶部15に記憶されている地図情報を読み出す。地図情報部17は、入力された測位解またはアプリケーション101の位置情報を用いて地図情報を参照し、アプリケーション101の周囲の環境のクラスを決定する。ここで、周囲の環境は、マルチパス誤差等の周囲の環境に起因するバイアス誤差の大きさおよび発生頻度の違いにより、郊外、準都市部、都市部のように複数のクラスに分類される。周囲の環境に起因するバイアス誤差は、郊外で最も小さく、都市部で最も大きい。すなわち、周囲の環境のクラスは、周囲の環境に起因するバイアス誤差の大きさまたは発生頻度を表す。
地図情報部17は、アプリケーション101の周囲の環境がいずれのクラスに該当するかを決定し、決定した結果をバイアス誤差モデル部13Bへ出力する。このように、地図情報部17は、測位解またはアプリケーション101の位置情報を用いて地図情報を参照することによって、アプリケーション101の周囲の環境について、環境に起因するバイアス誤差の大きさまたは発生頻度を表すクラスを決定する。
バイアス誤差モデル部13Bは、周囲の環境のクラスごとに、バイアス誤差の上限値および下限値の各モデルを保有している。バイアス誤差モデル部13Bは、地図情報部17が決定したクラスに応じて、バイアス誤差の上限値および下限値の各モデルを選択する。バイアス誤差モデル部13Bは、選択したモデルである環境モデルを用いて、バイアス誤差の上限値と下限値とを計算する。すなわち、バイアス誤差モデル部13Bは、地図情報部17が決定したクラスに応じた環境モデルを用いてバイアス誤差の上限値および下限値を求める。
このようにして、バイアス誤差モデル部13Bは、測定値に含まれることが想定されるバイアス誤差のうちアプリケーション101の周囲の環境に起因するバイアス誤差の上限値および下限値を計算する。バイアス誤差モデル部13Bは、バイアス誤差の上限値および下限値の計算結果を保護レベル計算部14Bへ出力する。
保護レベル計算システム1Bの測位演算部11B、バイアス誤差モデル部13B、保護レベル計算部14Bおよび地図情報部17は、図3に示す制御回路50または図4に示すハードウェア回路55により実現される。
ここで、周囲の環境のクラスごとに異なる、バイアス誤差の上限値および下限値の各モデルの例について説明する。図15は、実施の形態3の保護レベル計算システム1Bが用いるバイアス誤差の上限値および下限値の各モデルの例を示す図である。図15では、環境を郊外、準都市部、都市部のクラスに分けて、上限値bi,env_maxと下限値bi,env_minとの各々についてクラスごとのモデルの例を示す。
例えば、文献「GSG-5/6 Series GNSS Simulator User Manual with SCPI Guide」では、周囲の環境に起因するバイアス誤差をモデル化するため、仰角をOpen Sky Zone、Multipath Zone、およびObstruction Zoneに分けている。Open Sky Zoneでは、マルチパス誤差を受けず、周囲の環境に起因するバイアス誤差が無い。Multipath Zoneでは、測位衛星からの直接波は遮断されないが、マルチパス誤差が発生する。Obstruction Zoneでは、測位衛星からの直接波が遮断され、間接波のみが受信されることによるNLOS(Non Line Of Sight)誤差が発生する。
周囲の環境のクラスは、3つのZoneが切り替わる仰角で区別される。このため、例えば、マルチパス誤差によるバイアス誤差の上限値bi,env_maxおよび下限値bi,env_minの各々を衛星103の仰角eliの関数bi,env_mp_max(eli),bi,env_mp_min(eli)と表し、NLOS誤差によるバイアス誤差の上限値および下限値の各々を衛星103の仰角eliの関数bi,env_nlos_max(eli),bi,env_nlos_min(eli)と表すと、周囲の環境のクラスごとに異なる、バイアス誤差の上限値bi,env_maxおよび下限値bi,env_minは、図15に示すように表される。
このように、実施の形態3にかかる測位システム300は、測位システム100または測位システム200と同様の構成に加え、ロードサイドユニット18を備える。そして、保護レベル計算システム1Bが有する保護レベル計算装置3Bは、測位解の有効性判定に用いる保護レベルを算出する装置であって、バイアス誤差モデル部13Bと地図情報部17とを備える。地図情報部17は、測位演算部11Bが出力した測位解またはロードサイドユニット18が出力したアプリケーション101の位置情報を用いて地図情報を参照し、周囲の環境のクラスを決定する。また、バイアス誤差モデル部13Bは、地図情報部17が決定したクラスに応じてバイアス誤差の上限値のモデルとバイアス誤差の下限値のモデルとを選択する。バイアス誤差モデル部13Bは、選択したモデルを用いて、周囲の環境に起因するバイアス誤差の上限値と下限値とを計算する。保護レベル計算部14Bは、バイアス誤差モデル部13Bが計算したバイアス誤差の上限値および下限値を用いて保護レベルを算出する。このため、保護レベル計算システム1Bは、測定値に異常な値が含まれている場合であっても、この測定値を使った測位解の有効性を判定できるだけでなく、マルチパス誤差あるいはNLOS誤差の大きさまたは発生頻度を反映した保護レベルも算出できる。保護レベル計算システム1Bは、保護レベル計算装置3Bを用いることによって、実施の形態1または2に記載の効果に加え、より正確な保護レベルを算出することができる。
地図情報部17は、記憶部15に記憶された地図情報を参照し、測位演算部11Bが出力した測位解またはロードサイドユニット18が出力したアプリケーション101の位置情報から、周囲の環境の3次元モデルを出力しても良い。地図情報は、ダイナミックマップ等の3次元の地図情報である。この場合、バイアス誤差モデル部13Bは、地図情報部17が出力した3次元モデルである環境モデルを用いて、各測定値の誤差の上限値および下限値を求める。環境モデルは、3次元の地図情報から得られる幾何学なモデルである。
保護レベル計算システム1Bは、環境モデルとして、3次元の地図情報から得られる幾何学なモデルを用いることにより、段階的な大まかなモデルを用いる場合と比べて、個別の周囲の環境を反映した、より正確な保護レベルを算出することができる。保護レベル計算システム1Bは、保護レベル計算装置3Bを用いることによって、実施の形態1または2に記載の効果に加え、より正確な保護レベルを算出することができる。
一般に、3次元の地図を用いたバイアス誤差の上限値および下限値の算出等において、最新の地図を保持すること、ならびに、建物の高さおよびアプリケーション101から建物までの距離からバイアス誤差の上限値および下限値を算出することには、コストが掛かる。例えば、保護レベル計算装置3Bをサーバー105に配置すると、アプリケーション101は、上述の効果に加えてコストも削減できる。
ここまで、測位端末102に測位装置2Bと保護レベル計算装置3Bとの双方が組み込まれる場合について説明した。実施の形態1の場合と同様に、測位装置2Bは測位端末102に組み込まれ、かつ、保護レベル計算装置3Bはサーバー105等の外部装置に組み込まれても良い。または、測位装置2Bと保護レベル計算装置3Bとの双方が、サーバー105等の外部装置に組み込まれても良い。
保護レベル計算システム1Bは、測位端末102を搭載したアプリケーション101は、サーバー105が算出した測定値ごとのバイアス誤差の上限値および下限値をインテグリティ補助情報として受け取って保護レベルを計算しても良い。または、測位端末102を搭載したアプリケーション101は、サーバー105等から保護レベルの計算結果を受け取っても良く、アプリケーション101が定める限界値と保護レベルとの比較によって測位解の利用可否を判定した結果を受け取っても良い。
図16は、実施の形態3にかかる測位システム300が有する保護レベル計算システム1Bの変形例を示す図である。図16に示す保護レベル計算システム1Bでは、測位装置2Bと、保護レベル計算部14Bと、保護レベルを記憶する記憶部15とは、第1の装置である測位端末102に設けられている。バイアス誤差モデル部13Bと、地図情報部17と、地図情報を記憶する記憶部15とは、第2の装置であるサーバー105に設けられている。保護レベル計算装置3Bは、測位端末102の保護レベル計算部14Bおよび記憶部15と、サーバー105のバイアス誤差モデル部13B、地図情報部17および記憶部15とにより構成される。図16に示す構成では、測位端末102は、バイアス誤差の上限値および下限値を、インテグリティ補助情報としてサーバー105から受信する。
図16に示す構成では、サーバー105は、アプリケーション101の位置情報を、アプリケーション101を介さずにロードサイドユニット18から携帯電話網などの通信網を介して取得することができる。このため、サーバー105が衛星103の軌道情報を有する場合、測位システム300は、アプリケーション101で測定し得る全ての衛星103に対応する測定値について、バイアス誤差の上限値および下限値を算出することができる。なお、アプリケーション101は、サーバー105に測定値の情報および測位解を送信することなく、測定値ごとのバイアス誤差の上限値および下限値を、インテグリティ補助情報として受け取ることができる。
実施の形態4.
実施の形態1から3では、擬似距離測定値から算出した測位解の保護レベルを算出する場合について説明した。実施の形態4では、擬似距離測定値に加えて、搬送波位相測定値を用いた測位演算で解いたアンビギュイティの整数値の誤りを考慮した、保護レベルを算出する。搬送波位相測定値は、精密な測距に適しているが、解いた整数値に誤りがあると、それがバイアス誤差となる。実施の形態4では、上記の実施の形態1から3と同一の構成要素には同一の符号を付し、実施の形態1から3とは異なる構成について主に説明する。
図17は、実施の形態4にかかる測位システム400が有する保護レベル計算システム1Cの構成例を示す図である。実施の形態4にかかる測位システム400は、実施の形態2にかかる測位システム200または実施の形態3にかかる測位システム300と同様の構成を備える。
保護レベル計算システム1Cは、測位を行う測位装置2Cと、保護レベルを計算する保護レベル計算装置3Cとを備える。測位装置2Cは、衛星103または基地局104である信号源によって送信される測位用の信号を受信する測位信号受信部10と、測位演算を行う測位演算部11Cと、情報を記憶する記憶部12と、補正情報受信部16とを備える。すなわち、測位装置2Cは、図13に示す測位装置2Aと同様の構成を備える。保護レベル計算装置3Cは、バイアス誤差の上限値および下限値を出力するバイアス誤差モデル部13Cと、測位解の保護レベルを計算する保護レベル計算部14Cと、情報を記憶する記憶部15とを備える。すなわち、保護レベル計算装置3Cは、図13に示す保護レベル計算装置3Aと同様の構成を備える。このように、保護レベル計算システム1Cは、実施の形態2の保護レベル計算システム1Aと同様の構成を備える。なお、保護レベル計算システム1Cは、実施の形態3の保護レベル計算システム1Bと同様の構成を備えるものであっても良い。
保護レベル計算システム1Cの測位演算部11C、バイアス誤差モデル部13Cおよび保護レベル計算部14Cは、図3に示す制御回路50または図4に示すハードウェア回路55により実現される。測位信号受信部10の一部と補正情報受信部16の一部とが処理回路であっても良い。
バイアス誤差モデル部13Cは、各搬送波位相の測定値について解いたアンビギュイティの整数値に含まれると想定される整数誤りを、搬送波位相の測定値に含まれると想定されるバイアス誤差として取り扱う。ここでの搬送波位相の測定値は、測位補強衛星201または基準局202が提供する補正情報を用いて補正された測定値である。
測位信号受信部10は、測位用の信号を受信すると、信号源の位置の情報およびアプリケーション101と信号源との間の距離の情報を擬似距離の測定値として抽出する。また、測位信号受信部10は、搬送波位相の情報を、搬送波位相の測定値として抽出する。測位信号受信部10は、擬似距離の測定値と搬送波位相の測定値とを測位演算部11Cへ出力する。測位信号受信部10が出力するこれらの測定値には、ドップラー周波数測定値が含まれても良い。
補正情報受信部16は、測位補強衛星201または基準局202が送信する補正情報の信号を受信し、受信した信号から補正情報を抽出する。補正情報受信部16は、測位演算部11Cへ補正情報を出力する。
測位演算部11Cは、測定値に含まれるバイアス誤差のうち衛星103に起因するバイアス誤差と大気に起因するバイアス誤差とを、補正情報を用いて補正する。測位演算部11Cは、補正した測定値を用いて測位演算を行い、測位解を算出する。測位演算部11Cは、測位解に加え、測位演算に使用した各信号源からの測定値に対応する観測モデルと測位演算での重みとの各情報も出力する。測位演算部11Cが算出する測位解には、速度または加速度等の情報が含まれても良い。
測位装置2Cは、測位演算部11Cから出力された測位解と、観測モデルと、測位演算での重みとを、保護レベル計算装置3Cへ送る。測位解と、観測モデルと、測位演算での重みとの各情報は、保護レベル計算部14Cへ入力される。保護レベル計算部14Cには、バイアス誤差モデル部13Cから出力されたバイアス誤差の上限値および下限値が入力される。保護レベル計算部14Cは、観測モデルおよび測位演算での重みと、バイアス誤差の上限値および下限値とを用いて、測位解の保護レベルを計算する。保護レベル計算部14Cによって算出された保護レベルは、記憶部15に格納される。
次に、実施の形態4における保護レベルの計算方法について説明する。測位演算部11Cは、測位信号受信部10から入力された搬送波位相の測定値yp∈Rmを、補正情報受信部16から入力された補正情報を用いて補正する。そして、測位演算部11Cは、補正した搬送波位相の測定値ypc∈Rmを用いて測位解の演算を行う。また、測位演算部11Cは、補正した搬送波位相の測定値ypc,i∈ypcに含まれる整数値不確定量、すなわち搬送波位相のアンビギュイティの整数値を解く(resolve integer ambiguity)演算を行う。搬送波位相のアンビギュイティは、各衛星系の基準衛星を決め、これらの基準衛星に対する衛星間一重差(satellite single difference)を整数化し、測位演算することによって得られる。
衛星103に起因するバイアス誤差と大気に起因するバイアス誤差とを補正した搬送波位相の測定値ypc,iの観測方程式は、非線形の観測モデルh(x)を用いて次の(17)のように表される。
ここで、∇は、それがかかる量が基準衛星に対する衛星間一重差であることを示す。ρは、幾何学距離であって、衛星103の3次元位置とpossviと、測位端末102の3次元位置posとを用いて表される。dtは、測位端末102の受信機クロックオフセットを表す。∇Ni,refの上にチェックマークを付したものは、整数化した衛星間一重差のアンビギュイティを表す。Nrefは、基準衛星のアンビギュイティを表す。fは信号の周波数、cは高速、εpc,iは測定誤差を表す。posと、dtと、Nrefとは、状態量xに含まれる。
基準衛星、すなわちi=refである衛星103については、補正した搬送波位相の測定値ypc,refの観測方程式は、非線形の観測モデルh(x)を用いて次の(18)のように表される。
または、測位演算において衛星間一重差の測定値を用いる場合、補正した搬送波位相の測定値∇ypc,i,refの観測方程式は、非線形の観測モデルh(x)を用いて次の(19)のように表される。
測位演算部11Cは、補正した搬送波位相の測定値ypc∈Rmまたは∇ypc∈Rmに対応する観測モデルとして、係数行列H∈Rm×nを出力する。ここで、mは、測位演算に使用した測定値の次元数を表す。nは、測位演算で推定する状態量の次元数を表す。このため、∇ypcを用いる場合、補正した搬送波位相の測定値におけるmは、衛星間一重差を取る前の測定値に対して基準衛星の数だけ小さくなる。係数行列H∈Rm×nは、状態量x∈Rnによる測定値に対する非線形の観測モデルh(x)∈Rmを、基準となる状態量x0∈Rnの周りで線形化することで得られる。なお、状態量x∈Rmは、測位端末102の3次元位置情報を含む。
また、測位演算部11Cは、測位演算での重みとして、観測誤差の誤差共分散行列R∈Rm×mを出力する。例えば、誤差共分散行列の各対角要素は、各測定値ypi∈yの誤差分散σypi
2と、衛星103に起因するバイアス誤差と大気に起因するバイアス誤差とを補正した補正値cpiの誤差分散σcpi
2との合計値であるσypi
2+σcpi
2となる。ここで、補正値cpiは、補正情報受信部16が受信した補正情報から算出した補正値である。
測位演算部11Cが、衛星103等から受信した補正情報の代わりに、基準局202での搬送波位相の測定値yrpを補正情報として用いる場合、誤差共分散行列の各対角要素は、各測定値ypi∈yの誤差分散σypi
2と、この搬送波位相の測定値と同じ信号源からの測定値である、基準局202における搬送波位相の測定値の誤差分散σyrpi
2との合計値であるσypi
2+σyrpi
2となる。
誤差分散σypi
2は、例えば、信号の種類または信号の仰角の関数としてあらかじめ生成したモデルを用いて求めることができる。衛星103に起因するバイアス誤差と大気に起因するバイアス誤差とを補正した補正値の誤差分散σcpi
2と、搬送波位相の測定値と同じ信号源からの測定値である、基準局202における搬送波位相の測定値の誤差分散σyrpi
2とは、信号の種類または信号の仰角の関数としてあらかじめ生成したモデルを用いて求めることができる。また、これらの誤差分散の値が補正情報に含まれる場合は、補正情報に含まれる値が用いられても良い。
バイアス誤差モデル部13Cは、測位演算に使用した各搬送波位相の測定値について、バイアス誤差bambの上限値bamb_max∈Rmとバイアス誤差bambの下限値bamb_min∈Rmとを出力する。このバイアス誤差は、測位演算に使用した各測定値において整数化した衛星間一重差の搬送波位相のアンビギュイティに含まれると想定される整数誤りにc/fを掛けた値であって、測定値ごとに異なる。
保護レベル計算部14Cは、測位演算部11Cから入力される観測モデルおよび測位演算での重みと、バイアス誤差モデル部13Cから入力されるバイアス誤差の上限値および下限値とを用いて、水平位置の保護レベルHPLを算出する。水平位置の保護レベルHPLは、次の(20)に示す非線形計画問題をバイアスベクトルbamb∈Rmについて解くことで得られる。(20)に示す非線形計画問題は、一般的な非線形計画ソルバーで解くことができる。
ここで、係数行列Hに含まれる微係数である位置に関する微係数は、基準となる状態量x0で与えられる3次元位置を基準とした局所水平座標系であるENU座標系で表される。
(20)に示す非線形計画問題において、M1∈R1×mは、行列M=(HTR-1H)-1HTR-1∈Rn×mのうち、基準となる3次元位置に対する東西方向の位置の成分に関する行である。M2∈R1×mは、行列M=(HTR-1H)-1HTR-1∈Rn×mのうち、基準となる3次元位置に対する南北方向の位置の成分に関する行である。行列G∈Rm×mは、G=(R-1-R-1H(HTR-1H)-1HTR-1)と表される。bi,amb_minは、bamb_minの要素である。bi,amb_maxは、bamb_maxの要素である。iは、測定値のインデックスである。
保護レベル計算部14Cは、水平位置の保護レベルHPLの算出と同様に、測位演算部11Cから入力される観測モデルおよび測位演算での重みと、バイアス誤差モデル部13Cから入力されるバイアス誤差の上限値および下限値とを用いて、垂直位置の保護レベルVPLを算出する。垂直位置の保護レベルVPLは、次の(21)に示す非線形計画問題をバイアスベクトルbamb∈Rmについて解くことで得られる。(21)に示す非線形計画問題は、一般的な非線形計画ソルバーで解くことができる。
(21)に示す非線形計画問題において、M3∈R1×mは、行列Mのうち、基準となる3次元位置に対する上下方向の位置の成分に関する行である。
バイアス誤差の上限値bi,amb_maxと下限値bi,amb_minとは、次の(22),(23)のような式により求めることもできる。
すなわち、バイアス誤差の上限値bi,amb_maxと下限値bi,amb_minとは、測位演算部11Cで推定した、整数化前の衛星間一重差の搬送波位相のアンビギュイティ∇Ni,refの標準偏差σ∇Ni,refに、あらかじめ設定された係数Kを掛けることで求められる。なお、係数Kは、搬送波位相のアンビギュイティの整数化アルゴリズムに依存する。係数Kは、整数誤りとしてアルゴリズムが想定する値の範囲を反映して設定される。
このように、実施の形態4にかかる測位システム400は、保護レベルの計算において、擬似距離の測定値に加えて搬送波位相の測定値を用いる。
擬似距離の測定値においては、信号の直接波の建物による遮断またはマルチパスといった、測位端末102の周囲の環境に起因する誤差が支配的である。これに対し、搬送波位相の測定値においては、搬送波位相の測定値について解いたアンビギュイティの整数誤りが、誤差として支配的である。測位演算が進むと、搬送波位相のアンビギュイティが整数化されるため、測定値の重みは、搬送波位相の測定値に関するものが大きくなり、擬似距離の測定値に関するものが小さくなる。すなわち、バイアス誤差の影響は、測位演算の初期段階では周囲の環境に起因する割合が大きいのに対し、測位演算がある程度進んだ後は搬送波位相のアンビギュイティの整数誤りの割合が大きくなる。
保護レベル計算システム1Cは、搬送波位相のアンビギュイティの整数誤りを想定して、搬送波位相の測定値の保護レベルを算出する。これにより、保護レベル計算システム1Cは、測位演算の処理が進み、測定値の搬送波位相のアンビギュイティが整数化された段階においても、測定値の有効性を判定するのに有効な保護レベルを算出することができる。
測位演算の処理段階によっては、バイアス誤差の要因には、搬送波位相の測定値について解いたアンビギュイティの整数誤りが支配的である衛星103の信号と、擬似距離の測定値に含まれる周囲の環境に起因するバイアス誤差が支配的である衛星103の信号とが混在する。このような場合、保護レベル計算システム1Cは、実施の形態4で説明した機能に、実施の形態2または3で説明した保護レベル計算システム1A,1Bの機能を併用しても良い。この場合、保護レベル計算部14Cは、測位演算に使用した補正された測定値yc∈Rmのうち、搬送波位相のアンビギュイティが整数化されていない衛星103の信号の擬似距離の測定値と、搬送波位相のアンビギュイティが整数化された衛星103の信号の搬送波位相の測定値に関する観測モデルと、観測重みと、バイアスベクトルとを用いて保護レベルを計算できる。
バイアス誤差の上限値bmax∈Rm1+m2と下限値bmin∈Rm1+m2とは、次の(24),(25)の式のように、擬似距離の測定値については周囲の環境に起因するバイアス誤差を反映すれば良く、搬送波位相の測定値については搬送波位相のアンビギュイティの整数誤りを反映すれば良い。
なお、周囲の環境に起因するバイアス誤差の上限値および下限値は、benv_max,benv_min∈Rm1である。搬送波位相のアンビギュイティに起因するバイアス誤差の上限値および下限値は、bamb_max,bamb_min∈Rm2である。ただし、m1は、測位演算に用いた擬似距離の測定値の数を表す。m2は、測位演算に用いた搬送波位相のうち、搬送波位相のアンビギュイティが整数化された搬送波位相の測定値の数を表す。
このように、実施の形態4にかかる測位システム400は、バイアス誤差の要因として、搬送波位相の測定値が支配的である衛星103の信号と、擬似距離の測定値が支配的である衛星103の信号とが混在する場合であっても、周囲の環境に起因するバイアス誤差の上限値および下限値、ならびに搬送波位相のアンビギュイティを用いて、測定値の有効性を判定するのに有効な保護レベルを算出できる。
以上の各実施の形態に示した構成は、本開示の内容の一例を示すものである。各実施の形態の構成は、別の公知の技術と組み合わせることが可能である。各実施の形態の構成同士が適宜組み合わせられても良い。本開示の要旨を逸脱しない範囲で、各実施の形態の構成の一部を省略または変更することが可能である。