JP7460202B2 - 非接触材料同定方法、非接触温度同定方法、及び熱処理加工進行度同定方法 - Google Patents

非接触材料同定方法、非接触温度同定方法、及び熱処理加工進行度同定方法 Download PDF

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Description

本発明は非接触で測定対象の材料や状態の同定及び/またはその温度を同定する方法に関し、特に測定対象からの熱輻射を利用して上記同定を行う方法に関する。本発明はまた、熱処理による加工の進行度あるいは材料の変性や劣化を同定する方法にも関する。
周知のように、任意の物体はその温度により定まる電磁波(通常の温度領域では赤外線)を放射する。この現象(熱輻射または熱放射と呼ばれる。)を利用して物体から放射される赤外線を測定して当該物体の表面温度を求める、放射温度計やサーモグラフィー等と呼ばれる装置が提供されている(例えば非特許文献1の310~320ページ)。しかしながら、物体からの赤外線放射の放射率は温度だけではなくその表面の材料などによっても異なるため、放射される赤外線量を単純に測定するだけでは表面温度を正確に求めることはできない。そのため、放射率が既知の物体であれば当該物体表面の材料について赤外線量の温度依存性や放射率を較正しておくことにより放射温度計やサーモグラフィーを使用して高い精度で表面温度を求めることが可能である。この精度は精度の高いサーモグラフィーの場合、同じ材料や物体の相対的な温度の大小関係は0.05K程度の刻み(分解能)で識別できるが、求められた温度の絶対値の精度は1~2%程度である。後者の精度は、各材料に対して前もって提供される放射率の値の精度や受光素子の感度、環境温度などに起因する誤差である。物体表面の材料の種類や放射率についての情報が別途提供されない場合には、温度の絶対値の精度は保証されず大きな誤差を生む。
物体表面の材料の種類や放射率についての情報が別途提供されない場合の対処法としては、放射率の波長依存性が小さい(定数である、あるいは定数であるとみなすことができる)と仮定し、2波長の赤外光を計測し演算することで放射率による誤差の影響を低減する方法(2色法)が提案されている(特許文献1)。
ここで、測定対象の物体としてエポキシを採用し、その放射率が定数とみなせる波長範囲で、波長分解能の高いセンサーを2つ用いて2色法で放射温度計測を行う例を、図1及び図2を参照して説明する。
図1には、エポキシの放射率関数、並びに黒体及びエポキシ試料の分光放射強度の波長による変化を示す。エポキシの放射率εは非常に狭い間隔の2波長間(例えば、3.5μm~4μmの波長域)ではほぼ定数とみなせる(ε=0.88~0.92)。図1にはさらに、波長範囲3.5μm~4μm内の2つの波長λ及びλにそれぞれピークを有し、このような狭い波長域内の2つの近接した波長に対して高い波長分解能で検知を行うことのできる、高波長分解能の2つの波長識別赤外線センサーの感度曲線も示す。このような赤外線センサーの作成例としては、例えば非特許文献2を参照されたい。
ここで、各波長λ、λに対して、温度Tにおける熱輻射の強度L(λ,T)、L(λ,T)(以下ではそれぞれL、Lと略記することがある)は、ε(λ)を放射率、B(λ,T)をプランクの放射公式として、
L(λ,T)=ε(λ)B(λ,T)
L(λ,T)=ε(λ)B(λ,T)
と置くことができる。上の両式を辺々除算することにより、
/L=L(λ,T)/L(λ,T)
=[ε(λ)/ε(λ)]・[B(λ,T)/B(λ,T)]
を得る。ここで、近接する2つの波長λ、λにおいて放射率の値がほぼ一定、すなわちε(λ)/ε(λ)≒1であれば、上式中から放射率ε(λ)を消去して
/L≒B(λ,T)/B(λ,T)
とすることができる。ここで、波長λ、λにおける熱輻射強度L、Lは測定可能であり、また上式右辺のプランクの放射公式の関数は既知であることから、近接した波長λ、λにおいて測定されたそれぞれの熱輻射強度L、Lの比の値から測定対象試料(図1に示す例ではエポキシ)の温度Tを求めることができる。
上で一般的に説明した2色法を使用し、放射率εがある波長範囲でほぼ一定であるとみなすことができる波長域内の2つの波長λ、λ(ここでΔλ≡λ-λ)において赤外線計測を行うことによる真温度計測の例を以下に示す。ここでは測定対象材料として上で取り上げたエポキシを使用し、測定を行った波長については、短波長側の波長λ=3.5μmに固定し、長波長側の波長λは3.6μm、3.7μm、3.8μm及び3.9μm(Δλはそれぞれ0.1μm、0.2μm、0.3μm及び0.4μm)とした。また、波長識別赤外線センサーとして波長分解能が0.05μmのセンサーを使用した。
図2において、実線のカーブは、完全黒体の温度を室温付近から700Kの範囲で変化させたときの、波長λ、λにおける熱輻射L、Lの比の値(L/L)、つまりこれら2つの波長における熱輻射間のエネルギー比を求めてプロットしたグラフである。ただし、温度のプロット範囲は300~700Kとした。一方、同じ波長λ、λにおけるエポキシからの熱輻射から完全黒体の場合と同様にエネルギー比を求め、それを図2中に破線のカーブとして示す。上述したように、波長λ、λはエポキシの放射率がほぼ一定とみなせる範囲内にあるので、そのエネルギー比は完全黒体の場合のエネルギー比とほぼ同じ曲線上に乗るはずである。これを利用して、図2に示す計算結果からエポキシの温度を推定した。一方、エポキシの温度を別の測定方法により正確に求め、上記推定した温度と正確に求められたエポキシの温度との差異を得た。この差異を完全黒体と測定対象材料であるエポキシとの温度測定の誤差とした。その結果を下表に示す。
表からわかるように、上記条件下では2~6K程度の誤差で測定対象の温度の計測が可能である。また、波長分解能が0.05μmのセンサーを使用したこの実験では、Δλ=0.3μm程度の場合に最も高い精度が得られる。波長間隔Δλをさらに狭くしていくと熱輻射を測定した2つの波長における放射率の違いが小さくなるので測定精度が向上するようにも思われるが、実際には温度推定結果が放射率の小さな変動に敏感になり、逆に精度が落ちることが判る。
上で述べたように、ある波長範囲で放射率がほぼ一定とみなすことができる場合には2色法を用いることで測定対象の温度をかなりの精度で推定することができる。しかし、逆に物体表面の材質・性状についての情報が全く提供されない場合や、物体表面の放射率の波長依存性が大きく定数とはみなせない場合には、放射温度計やサーモグラフィーを使用して求められた表面温度の誤差を低減するのは困難であった。また、サーモグラフィーと同様にして非接触の測定環境で物体を構成する各種の材料を同定することも容易ではなかった。
分析化学の分野では、FTIRの赤外線の吸収スペクトルを用いて材料を同定することが知られている。例えば、非特許文献3に示すように、分子を選び、その後ラマン、ATR-IR、透過IRなどを選ぶとそのスペクトルが提示されるデータベースが存在する。このようなデータベースを利用すれば、測定された赤外線吸収スペクトルが見当をつけた材料からのものと類似しているかどうかを確認することで、ある程度の材料の同定が可能である。しかしながら、このような赤外の吸収スペクトルから材料を特定する方法では、単一材料から成る物体の材料を同定できる場合はあるが、混合物の同定は容易ではなく、またベースライン補正の最適化を行ったり、多数の吸収バンドが重なって複雑なスペクトルを持つ材料を判別したりする場合には、ある程度人間の判断を介在させる必要がある。また、この方法は強力な赤外光源とマイケルソン干渉計が必要であり、オンチップの小型センサーを用いたIRリモートセンシングには適していない。これに加えて、非特許文献3に掲載されているようなスペクトルは分子振動に起因する先鋭なピークを有する。このような場合にはピークの数及びその波長の値や強度の比などに基づいた材料の同定は比較的容易であるが、そのような先鋭なピークを有していないスペクトルに基づいた同定は通常は困難である。
なお、赤外線放射温度計測についての最新の動向に関して、非特許文献4のレビューがある。このレビューの結論などから、放射率の関数を仮定して多波長解析する方法には、特定の条件や材料の種類などのいろいろと制約が必要であることが判る。温度の決定だけでもまだ制約や問題点が多く、材料の同定までは研究が進展していない、というのが当該技術の現状であると考えられる。
また、応物・機械系分野においては、上ですでに述べた様に、熱輻射を利用する温度計測の研究が存在する。これらの研究では、放射温度計測の精度を高めるために、放射率関数ε(λ)を求めたうえで温度を求める方法も提案されている。この温度推定方法を以下では多波長解析法と呼ぶ。しかし放射率関数ε(λ)が求まることを利用して物質を同定するとの提案はなされていない。その理由は、このような応用を行う以前の問題として、N個の波長λで赤外線計測を行う場合、未知数はN+1個(具体的には、N個の波長λにおける放射率εの値+温度T、ここで1≦n≦N)なので、一意には解が求まらないという問題があるためである。また、放射率関数ε(λ)を求めるにあたって、各波長λにおける放射率ε及び温度Tの初期値が真の値に近いところにある場合には精度の高い解が得られるが、これらの初期条件が真の値から遠いと正確な解が得られない。以下で例を挙げて多波長解析法におけるこの問題を具体的に説明する。
図3に、測定対象材料として陽極酸化アルミナ(anodized alumina)を使用し、また放射率の関数形としてsin関数、3次関数を仮定し、最小二乗フィッティングを行って放射率を推定した場合の結果を示す。図中、放射率のグラフ中の実線のカーブが真の放射率を、また上側及び下側の放射率のグラフ中の〇印はそれぞれ初期値及び最小二乗フィッティングの結果を示す。また、放射強度のグラフでは、上下2つのグラフ中の〇印は放射強度の実測値であり、また下側の放射強度のグラフ中の破線は最小二乗フィッティング結果、つまり、放射強度のカーブが放射強度の実測値にうまく乗るように放射率関数を調節した結果である。さらに、上側の放射強度のグラフ中の破線は、温度の初期値を適当におき、その温度のプランクの放射公式と〇で示した放射率の初期値を掛け合わせたカーブである。このカーブでは初期温度が低い場合乖離が大きくなる。
図3にはまた放射率関数に特定の関数形を仮定しない場合のフィッティング結果も示す。図3では適切なフィッティングが行われているように見える。しかしながら、放射率が複雑な関数である場合にはフィッティング自体は可能であるが、その際の初期値を作為的に誘導する、つまり真の放射率関数が概ねどのようなものであるかという適切なフィッティング結果を見越した初期値に設定することが求められる。このような初期値の作為的な誘導なしでは、ほとんどの場合に妥当な解に収束しない。分光放射率の関数が複雑なものである場合には図3の右端に示すように関数形を設定しない方がフィッティングが簡便になるが、初期値の作為的な誘導は依然として必要である。なお、フィッティングにあたって放射率の関数形を特定した場合、選んだ関数の形に応じてそれだけフィッティングの柔軟性に制限がかかり、場合によってはうまくフィッティングが出来ないときもある。一方、関数を決めてしまわず、一個一個の点の放射率の値をフィティング変数として各波長で独立にその値を決める様にすると、関数形の制限が無くなり、どんなに急峻に激しく変化する放射率であっても必ずフィットできてしまう。その結果フィッティングがより精度高くできることになる。
上述したフィッティングの際の初期値の作為的な誘導について、図4に示す例を参照して説明する。図4は図3と同じ測定対象材料及び放射強度測定データを使用し、フィッティングの際には推定温度T’の初期値=300Kとし、また放射率関数ε(λ)の初期値としては波長が3.0μm~4.0μmの間の0.2μm刻みの点で何れも一定値0.2、0.5及び0.8であるとする3通りの場合についてのフィッティング結果及びこれにより求められた推定温度を示す。なお、ここで測定対象の実際の温度Tは350Kであった。図から判るように、上側の放射率のグラフに示す放射率の初期値(〇印)と実際の放射率(実線のカーブ)との乖離が小さいほど、つまり3つの例のうちの右側にあるものほど最小二乗フィッティング結果の放射率(下側の放射率のグラフ中の〇印)と実際の放射率(同グラフ中の実線のカーブ)との乖離が小さく、その結果としてこれから推定される最小二乗フィッティング後の推定温度T’の実際の温度Tからの乖離ΔTの値も小さくなる。この結果から、初期値が正しい解に近いほど高精度なフィッティング結果が得られる、換言すれば事前に測定対象の情報をある程度知っていないと高い精度のフィッティングを実現できないことがわかる。
身の回りにあるありふれた有機・無機材料(バルク材料)は厚みがあるため、全波長域で放射率が高くなる傾向にある(ただし、鏡面状の金属は放射率εが小さく、これに該当しない)。そこで、放射率関数ε(λ)の初期値を高め(例えば0.9程度)に設定することで、上述した放射率関数の多波長フィッティングを行った場合の温度計測の精度が向上することが多い。図5に、このような材料の例としてありふれた建材であって放射率εが概ね0.8~1の範囲にあるタイル、レンガ及びコンクリートを例に挙げて、波長が3~4μmの範囲の放射率関数ε(λ)の初期値を0.9に設定して上記フィッティングを行うことで高い精度の温度推定が実現できたことを示す。図5にはまた、ガラスも例に挙げている。ここに示されるように、ガラスの放射率関数ε(λ)の値は波長域3~4μmで約0.6であるので、その初期値を0.6とすることで高精度の温度推定が可能となった。
このように、放射率関数ε(λ)を多波長でフィッティングすれば高精度の温度推定が可能となるが、その際には測定対象の放射率についてある程度の情報を事前に得ておくことが求められる。したがって、測定対象の材料について放射率の近似値が事前にわからない場合、材料がわかってもその放射率の近似値が提供されていない場合等、この手法が適用できないこともしばしばある。
なお、放射率関数を求めるにあたって上記問題を解決したとされる非特許文献5が公表されている。この非特許文献では、初期条件に依らず(つまり材料の放射率関数の見当がついていない場合でも)正確な温度が得られるとされている。具体的には、複数の波長における測定対象物体からの放射強度を測定し、新たに提案されたGIM-EPF(Generalized Inverse Matrix-Exterior Penalty Function)データ処理アルゴリズムにより、当該物体の温度を求める。しかしながら、GIM-EPFアルゴリズムは従来のアルゴリズムに比較して計算時間が短くて済むと主張されているものの、依然として複雑であり、データ処理のためにかなりの計算能力が必要とされる。また、非特許文献5に示された具体例では材料の種類は6種類しかなく、多様な材料に対して等しくて機能できるか否かについての検証もない。また、適用温度も可視光を発する1600K以上となる可視-近赤外帯域のみであり、それ以下の温度でも等しく機能するか否かの検証も無い。さらには、GIM-EPFアルゴリズムを使用して材料の判別まで行うことは示唆すらされていない。仮に非特許文献5の記載の範囲内でそのような判別を行おうとしても、それが可能であるか否かは不明である。
従って、測定対象から放射される赤外線などの電磁波を測定することで、測定対象の物体を構成する材料や状態を非接触で簡単に同定することが本発明の課題である。さらに、この材料の同定と本質的に同じ原理で測定対象の表面温度を求めることも本発明の課題である。
本発明の一側面によれば、測定対象自身から放射される赤外帯域内の3波長またはそれより多くの波長における熱輻射強度の組み合わせである強度データと、前記測定対象の材料の同定のための候補となる複数の異なる材料のそれぞれからの赤外帯域内の複数波長における熱輻射強度データの組み合わせである参照データと複数の前記異なる材料に基づく複数の前記参照データ同士を結合することにより得られる前記複数の前記異なる材料の混合物についての結合された参照データとの少なくとも一方との類似度を比較し、前記測定対象の材料が、前記類似度が最も高い一つまたは複数の前記参照データもしくは前記結合された参照データに対応する前記候補となる材料またはそれらの混合物であると同定する、測定対象自体を熱輻射光源として測定し、非接触で材料を同定する方法が与えられる。
ここで、前記類似度の比較は少なくとも前記結合された参照データのすべてについて行ってよい。
また、前記類似度の比較及び前記同定に組み合わせ最適化問題の解法を適用してよい。
また、前記類似度を求めるにあたって、前記類似度を求めるために使用すべき点または特徴量を前記参照データと前記結合された参照データの少なくとも一方から抽出すること及び前記参照データと前記結合された参照データの少なくとも一方を複数の類に分けて前記複数の類の一部を前記類似度の比較に供することからなる群から選択された処理を行ってよい。
また、前記測定対象は固体、液体、気体またはこれらの混合物であってよい。
また、前記参照データは複数の離散的な波長で測定された強度データであってよい。
また、前記複数波長は少なくとも3つの波長であってよい。
また、前記類似度は、複数の波長における前記強度データと前記参照データとの強度の差に基づいて定められてよい。
また、前記参照データは前記測定対象の材料の同定のための候補となる複数の温度と複数の異なる材料毎の赤外帯域内の複数波長における熱輻射強度データとの組み合わせであってよい。
また、前記類似度はそれぞれの温度について複数の波長における前記強度データと前記参照データとの強度の差に基づいて定められてよい。
また、前記強度データ及び前記参照データを夫々正規化したのちに前記類似度を求めてよい。
また、光学系を用いて前記測定対象以外からの熱輻射を除去してよい。
また、前記光学系は放物面鏡などの曲面鏡、平面鏡、赤外線透過材料を用いたレンズまたは虹彩、あるいはそれらの組み合わせであってよい。
また、前記類似度は、前記強度データと前記参照データとの二乗平均平方根誤差に基づいて定められてよい。
本発明の他の側面によれば、測定対象自身から放射される赤外帯域内の3またはそれより多くの波長における熱輻射強度の組み合わせである強度データと、前記測定対象の材料の同定のための候補となる複数の異なる材料のそれぞれからの複数の既知の温度毎の赤外帯域内の複数波長における熱輻射強度データの組み合わせである参照データと複数の前記異なる材料に基づく複数の前記参照データ同士を結合することにより得られる前記複数の前記異なる材料の混合物についての結合された参照データとの少なくとも一方との類似度を比較し、前記測定対象の材料及びまたは温度が、前記類似度が最も高い一つまたは複数の前記参照データもしくは前記結合された参照データに対応する材料もしくは材料の混合物及びまたは温度であると同定する、測定対象自体を熱輻射光源として測定し、非接触で材料と温度との少なくとも一方を同定する方法が与えられる。
ここで、前記類似度の比較は少なくとも前記結合された参照データのすべてについて行ってよい。
また、前記類似度の比較及び前記同定に組み合わせ最適化問題の解法を適用してよい。
また、前記類似度を求めるにあたって、前記類似度を求めるために使用すべき点または特徴量を前記参照データと前記結合された参照データの少なくとも一方から抽出すること及び前記参照データと前記結合された参照データの少なくとも一方を複数の類に分けて前記複数の類の一部を前記類似度の比較に供することからなる群から選択された処理を行ってよい。
また、前記測定対象は固体、液体、気体またはこれらの混合物であってよい。
また、前記参照データは複数の離散的な波長で測定された強度データであってよい。
また、前記複数波長は少なくとも3つの波長であってよい。
また、前記類似度はそれぞれの温度について複数の波長における前記強度データと前記参照データとの強度の差に基づいて定められてよい。
また、前記強度データ及び前記参照データを夫々正規化したのちに前記類似度を求めてよい。
また、光学系を用いて前記測定対象以外からの熱輻射を除去してよい。
また、前記光学系は曲面鏡、平面鏡、赤外線透過材料を用いたレンズまたは虹彩、あるいはそれらの組み合わせであってよい。
また、前記類似度は、前記強度データと前記参照データとの二乗平均平方根誤差に基づいて定められてよい。
本発明のさらに他の側面によれば、材料の熱処理過程中の加工の所定の段階毎に、前記材料自身から放射される赤外帯域内の複数波長における熱輻射強度の組み合わせである強度データと、前記材料と同種の複数の異なる材料を熱処理する過程中の加工の所定の段階毎に得られる、前記同種の材料自身から放射される赤外帯域内の複数波長における熱輻射強度の組み合わせである参照データと複数の前記異なる材料に基づく複数の前記参照データ同士を結合することにより得られる前記複数の前記異なる材料の混合物についての結合された参照データとの少なくとも一方との類似度を比較し、前記類似度の最も高い一つまたは複数の前記参照データもしくは前記結合された参照データを同定する、熱処理による加工中の生成物、あるいは前記加工の状態、進行度または正常性を同定する方法が与えられる。
ここで、前記類似度の比較は少なくとも前記結合された参照データのすべてについて行ってよい。
また、前記類似度の比較及び前記同定に組み合わせ最適化問題の解法を適用してよい。
また、前記類似度を求めるにあたって、前記類似度を求めるために使用すべき点または特徴量を前記参照データと前記結合された参照データの少なくとも一方から抽出すること及び前記参照データと前記結合された参照データの少なくとも一方を複数の類に分けて前記複数の類の一部を前記類似度の比較に供することからなる群から選択された処理を行ってよい。
また、前記複数波長は少なくとも3つの波長であってよい。
また、前記参照データは更に前記材料の熱処理過程の異常進行によって生成される可能性のある不良材料自身から放射される赤外帯域内の複数波長における熱輻射強度の組み合わせを含んでよい。
また、前記強度データ及び前記参照データを夫々正規化したのちに前記類似度を求めてよい。
また、前記類似度は、複数の波長における前記強度データと前記参照データとの強度の差に基づいて定められてよい。
また、前記類似度は、前記強度データと前記参照データとの二乗平均平方根誤差に基づいて定められてよい。
本発明のさらに他の側面によれば、測定対象である材料自身から放射される赤外帯域内の複数波長における熱輻射強度の組み合わせである強度データと、前記測定対象である材料と同種の複数の異なる材料である基準材料自身から放射される赤外帯域内の複数波長における熱輻射強度の組み合わせである参照データと複数の前記異なる材料に基づく複数の前記参照データ同士を結合することにより得られる前記複数の前記異なる材料の混合物についての結合された参照データとの少なくとも一方との類似度を比較し、前記類似度の最も高い一つまたは複数の前記参照データもしくは前記結合された参照データを同定することにより前記測定対象材料の前記基準材料からの変化である材料変化を検出する方法が与えられる。
ここで、前記類似度の比較は少なくとも前記結合された参照データのすべてについて行ってよい。
また、前記類似度の比較及び前記同定に組み合わせ最適化問題の解法を適用してよい。
また、前記類似度を求めるにあたって、前記類似度を求めるために使用すべき点または特徴量を前記参照データと前記結合された参照データの少なくとも一方から抽出すること及び前記参照データと前記結合された参照データの少なくとも一方を複数の類に分けて前記複数の類の一部を前記類似度の比較に供することからなる群から選択された処理を行ってよい。
また、前記参照データは複数の温度において複数の離散的な波長で測定された強度データであってよい。
また、前記測定対象に対応する強度データ及び前記参照データを夫々正規化したのちに前記類似度を求めてよい。
また、前記類似度は、複数の波長における前記測定対象に対応する強度データと前記参照データとの強度の差に基づいて定められてよい。
また、光学系を用いて前記測定対象以外からの熱輻射を除去してよい。
また、前記光学系は曲面鏡、平面鏡、赤外線透過材料を用いたレンズまたは虹彩、あるいはそれらの組み合わせであってよい。
また、前記類似度は、前記測定対象に対応する強度データと前記参照データとの二乗平均平方根誤差に基づいて定められてよい。
また、前記変化は経時変化であってよい。
また、前記参照データは前記基準材料が正常でない状態に変化した際の前記強度データを更に含んでよい。
また、前記測定対象である材料は前記基準材料と同一の個体であってよい。
また、前記測定対象である材料は前記基準材料と別の個体であってよい。
本発明によれば、測定対象の物体から放射される赤外線等の電磁波の強度を一つあるいは複数の温度、また複数の波長において測定して、それを別途測定した複数の候補材料の温度-波長-強度の組と比較することで、非接触で、しかも測定対象の物体に赤外線等の照射を行うことなく、測定対象物体を構成する材料を簡単に同定することができる。このとき候補材料からの波長-放射強度のデータの組を、複数の温度において測定しておくことにより、材料同定の精度を飛躍的に高めることができ、さらに測定対象物の表面温度も同時に求めることができる。なお、測定対象の温度が既知である場合には候補材料の当該既知の温度における波長-強度の組との比較を行うだけで材料を特定することも可能である。また、熱輻射のスペクトルは分子振動に起因する微細なスペクトルに比べて、プランク放射に従って緩慢に変化する成分が大きく、微細なピークも先鋭ではないことが多い。本発明によればこのような熱輻射の特性にも関わらず測定対象の材料や温度の同定を容易にしかも高い精度で実現することができる。
従来技術に係る2色法の放射温度計測を説明するための図。 完全黒体及びエポキシの温度を室温付近から700Kの範囲で変化させたときの、波長λ、λにおける熱輻射L、Lの比の値(L/L)、つまりこれら2つの波長における熱輻射間のエネルギー比を計算してプロットしたグラフ。 従来技術に係る多波長解析を用いた温度推定方法の説明。高い精度の温度推定を行おうとする場合に、測定対象物の材料の放射率についての情報を事前に知る必要があるという問題点の例を説明している。 図3を参照して説明する問題点を更に具体的に示すための図。 図3を参照して説明する問題点を更に具体的に示すための図。 参照スペクトル及び測定対象スペクトル上の特徴点の選択法を説明する図。 正規化された参照スペクトルと測定対象スペクトルとの二乗平均平方根誤差を求めることによる測定対象の材料の同定を図形的に表現したグラフの例。 本発明の一実施例において、測定対象材料としてグラファイトを使用した場合の参照材料との比較・同定結果を図7に示す形式でグラフ化した図。 本発明の一実施例において、測定対象材料としてポリイミドを使用した場合の参照材料との比較・同定結果を図7に示す形式でグラフ化した図。 本発明の一実施例において、測定対象材料として陽極酸化アルミニウムを使用した場合の参照材料との比較・同定結果を図7に示す形式でグラフ化した図。 本発明の一実施例において、測定対象材料としてエボナイトを使用した場合の参照材料との比較・同定結果を図7に示す形式でグラフ化した図。 本発明の一実施例において、測定対象材料としてマイカを使用した場合の参照材料との比較・同定結果を図7に示す形式でグラフ化した図。 本発明の一実施例において、測定対象材料としてシリコンを使用した場合の参照材料との比較・同定結果を図7に示す形式でグラフ化した図。 本発明の一実施例において、測定対象材料としてテフロン(登録商標)を使用した場合の参照材料との比較・同定結果を図7に示す形式でグラフ化した図。 本発明の一実施例において、測定対象材料として鋼鉄を使用した場合の参照材料との比較・同定結果を図7に示す形式でグラフ化した図。 本発明の一実施例において、測定対象材料としてジルコニウムを使用した場合の参照材料との比較・同定結果を図7に示す形式でグラフ化した図。 本発明の一実施例において、測定対象材料としてポリカーボネートを使用した場合の参照材料との比較・同定結果を図7に示す形式でグラフ化した図。 本発明の一実施例において、測定対象材料としてタンタルを使用した場合の参照材料との比較・同定結果を図7に示す形式でグラフ化した図。 本発明の一実施例において、測定対象材料としてアルミニウムを使用した場合の参照材料との比較・同定結果を図7に示す形式でグラフ化した図。 本発明の一実施例において、測定対象材料としてモリブデンを使用した場合の参照材料との比較・同定結果を図7に示す形式でグラフ化した図。 本発明の一実施例において、測定対象材料としてアクリルを使用した場合の参照材料との比較・同定結果を図7に示す形式でグラフ化した図。 本発明の一実施例において、測定対象材料としてアルミナを使用した場合の参照材料との比較・同定結果を図7に示す形式でグラフ化した図。 本発明の一実施例において、測定対象材料としてNomex(登録商標)410シートを使用した場合の参照材料との比較・同定結果を図7に示す形式でグラフ化した図。 本発明の一実施例において、測定対象材料としてベークライトを使用した場合の参照材料との比較・同定結果を図7に示す形式でグラフ化した図。 本発明の一実施例において、測定対象材料として布を使用した場合の参照材料との比較・同定結果を図7に示す形式でグラフ化した図。 本発明の一実施例において、測定を繰り返した場合の材料の判別結果を、人造マイカを未知試料として示す図。上から類似度の高い順で配置されている。人造マイカが上位を占めており、未知材料が高い確度で人造マイカであると判別された。 本発明の一実施例において、測定を繰り返した場合材料の判別結果を、ポリイミド薄膜を未知試料として示す図。上から類似度の高い順で配置されている。ポリイミドが上位を占めており、未知材料が高い確度でポリイミドであると判別された。
本発明の一形態によれば、測定対象の物体自身から放射された赤外線(典型的には中赤外域(波長2.5~30μm))などの電磁波の波長-温度-強度の組み合わせを測定することで当該物体を構成する材料と温度とを同定する。ここで、上記波長-温度-強度の組み合わせとは、一般的に表現すれば、連続波長範囲上での波長λから熱輻射強度Iへの温度Tをパラメータとした連続関数I=f(λ)とすることができる。しかし、好ましくは離散的な波長について考える方が通常は実際的である。この場合、上記波長-温度-強度の組み合わせは、離散的な波長λ、・・・、λと離散的な温度T,・・・,Tにおける熱輻射強度I,・・・,Iの測定値の三つ組み(λ,T,I)(ここで、m、n、pはそれぞれ1≦m≦M、1≦n≦N、1≦p≦Pの範囲の整数値)の集合ということになる。本願では上記の連続関数及び測定値の三つ組みの集合を、同定の候補となる材料の測定結果については参照データ、また測定対象の測定結果については測定対象データなどと称する。また、上記離散的な波長は少なくとも3波長であるが、4波長以上であればさらに好ましい。なお、上記中赤外の波長範囲中でも、大気の窓と呼ばれる3~4.2μm及び8~14μmは数メートル程度以上の距離のリモートセンシングに使用できる。2.5~4.5μm付近は、プランク放射の立ち上がりが急峻であることからセラミックや金属などの高温物体を測定する際に有利である。また、14μm以上の波長範囲は温度が低い物体の測定に有効である。従って、用途に応じて参照データや測定対象データを測定する波長範囲を使い分けることが有益である。例えば、工場等の製造現場その他の比較的近距離の対象物が高温になる場合には2.5~4.5μmを、日常で使用する室温近傍の物体の認知やIoTデバイス応用などの用途である場合には4.5~14μmを、また創薬、医療その他の対象が低温である用途には14~30μmを使用してよい。上記同定を行うため、候補となる複数種類の材料(以下、参照材料とも称する)から複数の温度において放射された複数の波長における電磁波の放射強度の組み合わせ(多温度多波長の強度データ)を測定して参照データとしてデータベースに蓄積しておく。測定対象の物体から放射された電磁波強度の組み合わせ(測定対象データ)をデータベースに蓄積されている参照データと比較し、類似度が最も高い一つの参照データあるいは類似度の高い複数の参照データを求める。データベース中に蓄積されているそれぞれの参照データには材料及びその温度が対応付けられているため、測定対象の材料と最も類似度の高い一つの材料を同定し、あるいは類似度の高い複数種類の材料の候補を同定することが可能となる。また、この際に測定対象の温度も同定することができる。もちろん、測定対象の材料と温度の両方を同定してその結果を提示してもよいし、あるいはその一方だけを提示してもよい。ここで注意すべき点として、本願発明は従来のFTIRやラマンスペクトル等のような、光源からの入射光を照射してそれへの応答として現れる光を測定するものではない。本願発明においては、測定対象の物体自身を光源として放射された電磁波、すなわち入射光の有無には直接的には無関係に測定対象の物体の温度で決まるところの放射電磁波を測定する。
ここで、測定対象の物体の温度を設定するためにはこの物体を加熱及び/または冷却する必要があるが、そのための手段は特に限定されない。具体例としては、物体を載置するステージを通した熱伝導、熱風や冷風を吹き付ける等の物体周囲の雰囲気からの熱伝導などがある。加熱だけでよいのであれば、マイクロ波加熱、熱源からの熱輻射による加熱等が使用可能である。なお、加熱や冷却を行いながら参照データを求める際に、測定対象の表面温度をできるだけ正確に測定する手段が必要である。ところが、加熱/冷却の手段により程度の違いはあるものの、例えば物体の内部や裏面に設けられた熱電対等によって温度測定を行う場合、内部や裏面の温度が必ずしも表面の温度と同じではないかもしれない。このような場所による温度の違いが問題となる場合には、例えば一定の条件で充分長い時間加熱を続けることで物体全体の温度をできるだけ均一にすることで上記誤差を最小化する等の対策を行うことができる。また、測定対象の物体の表側の温度に限っても場所により温度が異なる場合がある。このような場所による温度の違いが問題になる場合には、例えば、放物面鏡などの曲面鏡、平面鏡、赤外線透過材料(例えば酸化ケイ素、Si、Ge等)を用いたレンズ、虹彩等、あるいはそれらを組み合わせた赤外光学系を使用することで表面のうちのできるだけ狭い領域からの熱輻射だけを捕捉して測定する、加熱/冷却用のステージとできるだけ大きな面積で一様に接触させる等の対策が可能である。さらには、熱輻射によって加熱する場合には、熱源からの赤外線が測定対象の物体から放射される赤外線に重畳することで、測定結果に誤差が導入されることがある。この場合には熱源からの熱輻射を終了あるいは中断してから物体からの熱輻射を測定すればよいが、これが困難である場合には熱源からの直接的なあるいは周囲にあるものからの反射による赤外線を遮断するシャッター状の可動部材を使用して測定中は熱源の影響を遮断したり、あるいは測定結果から何らかの演算処理や機械学習などによって熱源からの影響を打ち消したりしてもよい。また、測定対象の物体を収容する容器の内壁等や測定対象の物体の近傍にある他の部材、更には計測器そのものの光学系からの熱輻射についても同様な問題が生じる可能性がある。これが問題となる場合には、上述したような不要箇所からの熱輻射を遮断する赤外光学系を使用する、内壁面や近傍の部材、また計測器の光学系等の温度を測定対象の表面温度と比べてできるだけ低い温度になるように加熱/冷却を制御することで、そこから放射される赤外線のエネルギーを測定対象物体の表面から放射される赤外線のエネルギーに比べて充分小さくする等の対策をとることができる。
ここで、参照データ及び測定対象データは、多数の波長点に対する強度データを各種の要因で定められた所定の間隔の波長点毎の離散的波長と離散的温度の参照データへと加工してデータベースにして使用し、その後、測定対象から離散的波長で測定した熱輻射強度の測定対象データを、データベース中の離散的な参照データと比較して同定を行ってよい。あるいは、逆に、多数のほぼ連続した波長の測定対象データを離散的な波長の参照データと比較しても良い。このうち、連続スペクトル上の離散波長における強度を選択して測定、記録する例を図6に示す。図6に示す例では、放射される赤外線の連続スペクトルを実線で示すとともに、16の離散波長における強度をデータの特徴を示す点(特徴点)の強度(特徴値)として選択することを示す。選択された特徴点は図中では淡色の小円盤として示される。なお、データのピーク付近の2カ所ではやや横長の円盤が示されているが、これらはいずれも2つの円盤が近接しているために一部重なりあった状態で表記しているために横長の円盤のように見えることに注意されたい。また、図6のグラフの横軸は波数で表示されているが、波長と波数とは互いに逆数関係にあるので、本願では互いに等価なものとして取り扱うことに注意されたい。
なお、図6には16点の離散波長における熱輻射強度を特徴値としているが、これより少なくても、また多くてもよい。波長の数(特徴点の数)は一般的には多い方が同定の精度が上がるが、通常の場合は4点以上の波長を使用するのがよい。また、本願発明者の実験によれば、16点程度まで波長数を増やせば、ありふれた材料や物品の同定を95%以上の精度で行うことができた。また、本願発明で使用できる測定装置の波長分解能には限度があるので、現実の測定においては波長点数を増やせばどこまでも精度が向上するというわけではない。なお、参照データを準備する際の温度点数を増加することで、同定精度を向上することが可能である。すなわち、測定対象が取りえる温度の範囲で複数の温度を設定し、これらの温度に対応した参照データを準備するのであるが、当該温度範囲をより細かく細分することで設定温度点数を増やせば、同定精度が向上する。その際に、参照データを測定する際の材料の表面温度の測定精度(あるいは測定中の表面温度の測定精度)が温度設定における温度分解能(温度の間隔、あるいは刻み)に近ければ、温度決定の精度は表面温度の程度まで精度を上げることが可能である。
ここで、参照データは、全く同一のサンプルを複数回測定しておいた方が判別の精度が上がる。もちろん、全く同じ種類のサンプルを何個か用意して測定しても精度は上がる。当然ではあるが、このように参照データのデータベース整備が精度向上に大変有効であることが確認済みである。
本願発明では、上記の様に多数のサンプルに対し複数回の測定を行うことより、精度が上がる。このため、判別できる対象を拡大し、また、精度を向上させるためには参照データからなるデータベースが膨大になり、その結果コンピューター上で判別させる際の時間が増大する傾向がある。この判別時間の増大を抑えるための対策として、測定する試料のデータの特徴を把握させ、それに応じてデータベースから類似の特徴を持つデータとして分類された候補データの中から効率的に見つける機械学習のアルゴリズムを用いることができる。これによって解析にかかる時間を大きく短縮できることも確認済みである。具体的には、参照データの測定時に測定対象データの特徴(波長-強度の組み合わせの特徴)を機械学習で効率的に判別したのちに特徴に応じて分類をしてデータベースに蓄積しておく。未知試料の測定の際はその波長-強度の組み合わせの特徴を機械学習で判別し分類し、分類された上記データベースの中で最小RMSEとなる候補を絞りながら探すことにより時間を短縮できる。例えば、機械学習アルゴリズムとしてランダムフォレスト(random forest)を使用することで、1桁以上の時間短縮を実現することができる。具体的には、強度の値の最低値、最高値とその波長、隣接する波長の複数データの間の値の差の大きさ、ベースラインの傾きの方向などから特徴を数値化しておき、類似した波長-強度の特徴を持つグループごとへと分類しておく。そして測定対象から得た測定対象データを同じ方法で分類し、分類先のグループの中から、似た特徴を持つ参照データとRMSE値の比較を直接行い、最小のRMSE値を示すサンプルを解として決定する。
また、本発明は通常は大気中で行われるので、特徴点の波長は大気中のガスの吸収が少ない波長領域内から選択することが好ましい。実際の測定に当たっては、特に水、二酸化炭素の吸収が大きな波長領域は避けるべきである。なお、大気以外の雰囲気中で測定を行う場合にはその雰囲気を構成するガスの吸収を考慮する必要があり、また大気中での測定でも、大気成分以外のガスが測定対象や周囲の物品から放出される等、他のガスが混入する恐れがある場合には、そのようなガスの吸収への考慮も行うべきである。
なお、このようにこれらのデータ(波長-強度の組み合わせ)を離散波長と温度で測定、記録、照合するにあたって、参照データ中のデータ点の波長と離散波長中のデータ点の波長とは同じであってもよいし、あるいは違っていてもよい。比較すべき両データのデータ点の波長が異なる場合には、例えば波長軸上でデータ補間を行うことで同じ波長同士で比較を行うことができる。以下では、参照データと測定対象データの両者は波長軸上の有限個の点で与えられる離散データであるとし、また参照スペクトル中のデータ点の波長と測定対象スペクトル中のデータ点との波長は一致するものとして説明するが、この説明が一般性を失うものでないことは明らかである。
測定対象データと参照データとを比較するにあたっては、これに限定されるものではないが、先ず、各データにおける強度の最大値及び最小値が所定値(例えば0及び1)となるようにこれらのデータを正規化する。すなわち、測定対象データ及び各参照データの正規化に当たっては、これらのデータ
中の波長毎の強度I,I,・・・,I,・・・,I(nは各データ中のデータ点数)を下式
を使用してそれぞれ0から1の範囲に正規化する。
そして、このように正規化された測定対象データと参照データとの間の二乗平均平方根誤差(root mean square error、RMSE)
を求める。このようにして求められたRMSEが小さいほど類似度が高いとすることができる。
それぞれの強度が正規化された参照データと測定対象データとの間のRMSEを求めることによる測定対象の材料の同定を図形的に表現したグラフの例を図7に示す。図7においては、ある測定対象の温度を65~110℃の間で5℃間隔に設定し、各温度における測定対象データを、その縦軸に示す20種類の材料(参照材料)からこれらの温度において得られた参照データと比較し、RMSEを求め、各材料と温度との交差部分の濃度が、その右端に示す濃度チャートに示す当該交差部分のRMSEの値に対応する濃度になるように図示している。これからわかるように、いずれの温度においても、グラファイトからの参照データと測定対象データとの間のRMSEが最小となるため、この測定対象はグラファイトからなるものであると同定することができる。ここで、温度毎にRMSEが最小の交差部分にアスタリスク(*)を記入することで、当該温度におけるRMSEが最小の参照材料を指示している。図7の縦軸は、RMSEが小さな順序、つまり類似度(Degree of Similarity)が大きな材料が上になるように参照材料の順序を定めている。なお、測定対象材料や各所の測定条件によっては、RMSEが最小となる参照材料が温度により異なる場合がある。このような場合、例えばすべての温度にわたってのRMSEの平均値の一番小さな参照材料が類似度の一番大きな材料、すなわち測定対象の材料であると同定すべき材料であるとしてよい。あるいは、すべての温度にわたってのRMSEの単純平均ではなく材料毎の違いが表れやすい温度に大きな重みを付した加重平均を採用する等の別の評価基準を設定してもよい。
この方法の利点を従来技術との対比により検討する。既存の赤外吸収分光などの解析法では、波長に対してシャープな構造を持つ分子振動に着目するため、殆ど連続なスペクトルを測定し、その全体像を俯瞰して材料を判断せざるを得ない。しかし、本発明の方法では、このような各分子振動やフォノンによる急峻な発光スペクトル構造を判別に利用するだけではない。本発明では、温度を変える際のプランク放射や、(特に半導体の場合に影響が大きい)材料の導電性(熱励起によるプラズマ振動など)の変化に由来する、緩やかではあるが広い波長範囲の全体的な熱輻射スペクトルの強度変化も利用しつつ判別する。このために、前記吸収分光法などの方法に比べて、使用する波長の数が圧倒的に少なくても精度が高く判別できるメリットがある。また、測定対象自体の発光(熱輻射)を用いるため、試料に向けて光を照射するための光源が不要である(別の言い方をすれば、測定のために光源を用いない、また光源を省略できる)というメリットも大きい。
ここで念のため、本発明を非特許文献5に示された特定の従来技術と比較することで両者の違いをさらに明らかにしておく。本発明においては測定対象の物体からの熱輻射を複数の波長において測定し、これらの測定結果を参照のために同様にして測定された複数の温度において複数種類の物質からの複数の波長での熱輻射強度の組からなる参照用の集合と比較することで、もっともよく適合する物質と温度との組み合わせが求められる。なお、当該物体の表面を構成する物質があらかじめわかっているのであれば、当然ながら、上記参照用の集合中の当該物質についての熱輻射強度の組だけと比較すればよく、逆に温度が既知である場合には上記参照用の集合中の当該温度についての熱輻射強度の組だけと比較すればよい。一方、非特許文献5に開示された方法では、すでに述べたように、測定対象の物体からの熱輻射の強度を複数の波長において測定し、これらの強度を新たに提案されたアルゴリズムを使用することでこれらの強度から物体の温度を求めている。
これからわかるように、非特許文献5の方法は測定対象からの熱輻射の強度を複数の波長において測定する点は本発明と共通するが、本発明における参照用の集合との比較は行わず、測定対象からの複数の波長における熱輻射強度だけを使用して温度を求める。この点において本発明とはその手順が全く異なる。この相違により、非特許文献5の方法では測定対象物質の表面を構成する材料は同定されず、またこの同定を行うためにそこに記載されている方法をどのように修正すべきであるかについても全く示唆されていない。
また、非特許文献5の方法では温度の同定に当たって参照用の集合との比較を行う代わりに、かなり複雑なアルゴリズムを使用している。そのため、測定対象データを処理するために高いデータ処理性能が必要とされる。また、「発明を実施するための形態」の項の冒頭付近の多波長解析法について説明した従来の方法では、温度あるいは放射率の値が一意に決まらず、原理的に必ずあいまいさ・任意性が伴う。本発明ではRMSE等の直接的かつ単純な計算により参照用の集合中の熱輻射強度の各組との比較を行うことができ、また当該集合中に蓄積される材料の種類が増加しても比較回数は材料の種類に線形にしか増加しないため、計算負荷はそれほど高くならない。本発明では原理的にはデータベースとの比較を行う単純明快な方法で対象物の温度測定とその材料の同定の両方を行うことができ、その解は一意に決まる。もちろん、本発明で機械学習等の追加の処理を行うことで測定精度の向上等の一層の改善を図ることができることを注意しておく。
さらには、非特許文献5では測定の具体例として、1600Kあるいはより高温における熱輻射強度の測定を行っており、放射強度を測定する波長も主に可視帯域内である。この点は、中赤外帯域の分子振動やフォノン振動による熱輻射を主に利用し、それにより物質同定の精度を高めている本願発明の方法とは本質的な相違点である。また測定対象の材料もわずかに6種類である。従って、非特許文献5ではこのような極めて高温に耐える特殊なしかも少数の材料についての検証しか行っていないため、その一般性は必ずしも確かなものではない。この点でも、非特許文献5は本願実施例に示すような互いに特性が大きく異なる多様な材料(金属、セラミックス、半導体、有機材料、それらの複合材料、また気体や液体の材料)について幅広く検証済みの本発明と大きく異なるということができる。
加えて、測定対象データと参照データとの類似度の比較に関し、本明細書では専ら、二乗平均平方根誤差に基づいて決定する方法(RMSE法)を用いる態様について説明しているが、当該類似度の比較に用いることができる方法はこれに限定されない。まず、類似度の定義はRMSEに限定されず、コサイン類似度を始めとするあらゆる類似度が利用できる。次に、スペクトル上の重要な点を機械学習で抽出し(機械学習による特徴抽出)、その特徴から類似度を評価することもできる。例えば、変分オートエンコーダー(variational autoencoder)などを使用することで、スペクトルの特徴量を連続値・離散値として抽出し、類似度を評価し、物質や温度、状態の判別に用いることが可能である。さらに、特徴をハッシュ化できる(0/1で表せる)変分オートエンコーダーといった、特徴を0/1で抽出する機械学習手法を用いることで、各スペクトルを0/1のビット列で表現してもよい。これにより、ハッシュを用いた類似検索技術が利用でき、類似度探索(similarity search)を高速に実行することもできる。これらの方法ではもちろん、連続値、離散値を持つベクトルに対する各種類似検索技術が利用できる。
また、測定対象が測定対象の材料の同定のための候補となる複数の材料のうちの一つではなく、これらの候補材料のうちの二以上の混合物である場合にも、本発明を適用することができる。すなわち、複数の材料からなる混合物のスペクトルを材料毎のスペクトルの合成と考えることで、混合物スペクトルにも対応することができる。この時、スペクトルの合成として、線形、非線形どちらの合成法を利用しても良い。また、どの単物質のスペクトルの合成であるかを理解するために、組合せ最適化問題に帰着させることができ、組合せ最適化問題の解法として、ブラックボックス最適化手法などの機械学習を用いた最適化手法を用いて類似度の高い参照データの組を選択することができる。そして、これをさらに高速化する際には、量子アニーリング手法を代表とする各種組合せ最適化解の手法が利用できる。
以上説明した非特許文献5と本発明との対比結果をまとめると、本発明は(A)主に赤外帯域の測定であり分子・原子振動を計測するため、材料の同定もできる、(B)高温だけでなく室温近傍で使用可能である、(C)データベースとの比較を行うことを基本とした単純明快な比較法であり手の込んだ解析手法に依存しない、等の有利な特徴を有する。
なお、一つの測定対象のデータ(波長-強度のデータ)を測定する間は測定対象の温度はできるだけ一定にすべきであるが、上で図7を参照して説明したように、一つの測定対象の温度を複数通りに変化させ、これらの複数の温度毎に測定対象データを測定して参照データとの比較を行うことで、同定精度を向上させることができる。この場合も測定温度点数を多くした方が同定精度が向上する。使用するセンサーの分解能、その他の測定条件にもよるが、本願発明者の実験ではほぼ50~70℃の温度範囲内で1~3点程度の温度で測定することで充分な精度が得られた。なお、このように室温近傍の温度変化を用いた計測を行うことで材料の同定が可能となり、また、室温近傍の温度の計測が可能となる点で、上記非特許文献5との違いは明らかである。
なお、測定対象データを複数点の温度で測定する場合、当該温度がわかっていてもわからなくてもよい。なぜなら、温度が不明であっても測定対象データをデータベース中の参照データと比較できるからである。
また、測定対象データを測定中に測定対象の材料の温度は一定であるがその温度自体は不明の場合について検討する。熱輻射強度は、プランクの放射公式I(λ,T)と放射率ε(λ)との積に比例する。よって、温度が変わればスペクトルが変化する。また、プランクの放射公式Iはスペクトルの広い波長範囲の形状に対して影響を及ぼし、放射率εは材料の違いにより細かくて急峻なスペクトル形状の違いを生じる。すなわち、熱輻射のスペクトルの形状は材料と温度の両方により変化する。したがって、複数の波長における熱輻射強度を知ることによって、測定対象の温度を求めることができる。もちろん、測定対象の材料と温度の両方を同時に求めることもできる。
以下でより具体的に説明する。測定対象の材料の温度が異なれば当該材料から放射される赤外線などの電磁波のスペクトルの形状がプランクの放射公式と当該材料の放射率の両方に依存して変化する。従って、一定の温度であるがその温度自体は不明である材料からの測定対象データ(波長-強度のデータ)を参照データと比較すれば、測定対象の材料と同じ材料に対応する参照データとの類似度が高くなるのは当然であるが、同じ材料に対応する参照データのうちでも測定対象データを求めた際の材料温度と異なる温度において得られた参照データは同じ温度において得られた参照データに比べて低い類似度を与えることになる。すなわち、温度を変えて測定することでプランクの放射公式I(λ,T)に従った熱輻射の緩やかな包絡曲線が変化し、これが例えば上述したRMSEを用いて行われる判別の際に有効に働くことによって高い精度で判別を行うことができる。従って、上述の類似度測定の結果、すなわち測定対象データを測定する際の温度がある特定の単一の温度であるという条件下で測定対象データと参照データとの比較を行った結果を図7の形式で表現した場合には(ただし、ここでグラフの横軸は比較を行ったそれぞれの参照データに対応付けられている温度)、グラフの縦軸方向(材料軸方向)に沿って類似度が大きく変化するだけではなく、横軸方向(温度軸方向)でも類似度の変化が大きなグラフとなる。この結果から、測定対象データと類似度が最大の参照データを選択すれば、測定対象の材料及び温度がそれぞれ当該参照データに対応付けられた材料及び温度であるとの同定結果が与えられる。あるいは、類似度が大きな順に複数の参照データを選択すれば、測定対象の材料の同定結果としては同定候補、つまりこれらの選択された複数の参照データにそれぞれ対応付けられた複数の材料及び温度のリストが与えられる。
ここで参照データ、測定対象データの測定には、これに限定するわけではないが、例えばFTIR(Fourier Transform Infrared Spectroscopy)を使用することができる。他の非限定的な例としては、感度のある波長帯域を互いにずらした複数のセンサーを配列した構成(多波長センサー、マルチバンドセンサー)を使用することで、入射する熱輻射の多波長強度データを求める装置を使用することができる。この場合、熱輻射のうちの材料や温度の同定に有益な波長域を複数の狭い波長域に分割してそれぞれの波長域内の放射強度を求めることになる。この際、一般的には波長域の分割数が多いほど同定の精度が向上する。本願発明者の実験によれば、実用的な同定を行うためには最低でも4つの小波長域に分割する必要があり、16程度まで分割できれば、身の回りのありふれた材料を95%程度の精度で同定することが可能であった。また、上記分割の結果の小波長域であってその中での放射強度を求める小波長域は、大気中のガス(水蒸気、二酸化炭素等)の吸収が少ない波長域の範囲から選択することが好ましい。
また、熱輻射を検出するために使用できる赤外線センサーとしては、熱輻射強度の波長依存性やスペクトルを測定できる装置に組み込めるものであれば特に制限はなく、測定対象の温度その他の各種の測定環境、要求される測定精度その他の各種の要件に適合する範囲内で適宜選択することができる。これに限定する意図はないが、使用可能な具体的なセンサーの例をいつくか挙げれば、テルル化カドミウム水銀(MCT)検出器、硫酸トリグリシン(TGS)検出器、TGS検出器の水素イオンを重水素化したDTGS検出器等がある。なお、実施例ではMCT検出器を使用して測定を行った。DTGS検出器を使用した測定も行った。
また、測定対象の温度がわかるのであれば、その測定対象データ(波長と強度の組み合わせ)とデータベースに蓄積されている参照データ(波長と強度の組み合わせ)とを比較する際に、当該測定対象温度に対応する参照データだけとの照合を行うことができる。このようにすることで照合する必要の小さい参照データを予め排除することができるので、特に参照データの個数が膨大である場合に照合時間を短縮でき、また誤った同定を行う確率が小さくなる。ただし、測定対象の温度を変化させて測定できるのであれば、複数通りの温度で測定を行い、これを参照データと比較することで、すでに説明したようにより高い精度での材料の同定が可能となる。もちろん、ここにおいて測定対象の波長-強度の測定の際にこれらの温度が判っている必要はなく、単にこれらの温度が互いに異なる温度であればよい。上記参照データとの比較により材料が同定されるが、もし測定対象の温度により同定された材料が異なったものとなった場合には、例えば上述した類似度が一番高い材料を最終的な同定結果とする、温度毎の同定結果の多数決を取る等の判定を行うことで、単一の温度での測定の場合に比べて同定精度が向上する。
参照データにおける当該複数の温度は、材料及び/または温度の同定を所要の精度で実現するために必要な温度とすることができる。この温度は使用される材料の耐熱性やセンサーの精度・感度等にもよるが、以下の実施例では65℃~110℃の範囲内で5℃間隔での測定を行うことにより、高い精度で材料を同定することができた。
なお、測定対象そのものの温度は例えば加熱ステージとの間の熱抵抗や測定対象自体の熱伝導、また測定対象と加熱ステージとの接触状態などでかなり変化し、具体的に言えば5℃程度の測定誤差が入る場合がある。従って、材料や温度の同定に高い精度が求められる場合には、加熱ステージの温度と測定対象の温度との関係を正確に知る必要がある。
なお、測定対象の材料の同定だけを行うのであれば参照データを上記の5℃間隔で準備するだけでかなりの精度の同定を達成することができるが、測定対象の温度を高い精度で同定しようという場合には、上述した誤差の影響を排除するとともに、5℃よりも狭い間隔(例えば1℃間隔)で測定を行った参照データを準備するのが望ましい。あるいは、近傍の複数の温度における参照データから、実際には測定していない温度での参照データを比較的小さな誤差で補間して求めておき、利用することも可能である。あるいは、プランクの放射公式を用いて補正を行った参照データを求めて利用することなども可能である。
また、同じ物質であっても、その表面の粗さやナノ・マイクロメートルスケールの表面構造などの表面状態によって熱輻射スペクトルが異なる。これに対応するため、同じ物質でできているが多様な表面粗さやナノ・マイクロ構造を持つ材料を系統的に集めてそのすべてについての参照データを取得し、データベース中に蓄積しておくことが考えられる。しかし、これではあまりにも多様な表面構造が可能であって簡単には対応できないなどの場合には、表面構造や粗さが熱輻射スペクトルに与える影響を機械学習で学習しておくことで、参照データを実際に求めていない材料についての同定も実現できる。あるいは、次に説明するように、機械学習を行わなくても、近傍の複数の温度における参照データから、実際には測定していない温度での参照データを比較的小さな誤差で補間できる場合もある。この補間に当たっては、単に近傍の実測された参照データを使用することに加えて、温度によるプランクの放射公式による放射スペクトルの変化の一般的な特徴も利用することができる。
また、参照データを実際に未だ求めていない材料についての同定の別の場合として、測定対象の材料の同定のための候補としてそれぞれについての参照データが既知の複数の材料から選択された二以上の材料の混合物である場合にも、本発明を適用することができる。さらには、同定対象が複数の候補材料のうちの一つであるかもしれないが、必ずしもその保証はなく、これらのうちから選択された複数の材料の混合物であるかもしれないという場合にも、同様に本発明を適用可能である。例えば、未知材料が材料Aと材料Bの複数材料が混ざった場合には、そのスペクトルはAとBのスペクトルの重ね合わせで表現できると仮定し、測定された未知材料のスペクトルは、すでに測定されたデータセット中のスペクトルの何らかの線形結合あるいは非線形結合、またはその両特徴を合わせもつ結合によって表せると考える。つまり、この方法は、未知材料のスペクトルを、構築された参照データの中にあるスペクトル同士(個数は任意)の線形(非線形)結合によって、入力したスペクトルが最もよく表現できるスペクトルの組みあわせを求める、という問題に置き換えることができる。なお、以下ではこのように参照データ中の任意の個数のスペクトル同士を結合して得られるスペクトルから得られる参照データを、結合された参照データとも称する。なお、結合された参照データは、比較に備えて予めすべて準備しておいてもよいが、その代わりに必要になった時点で必要になったものだけをその場で計算などすることにより生成して提供することもできる。これにより、膨大な量になりがちな結合された参照データの記憶のための容量やその準備のための計算量・計算時間などの削減が可能となる。さらには、結合された参照データを用いることにより、例えば限られた参照データから、まだ存在しない材料やこれから作ろうとする材料の同定なども可能となる。
さらには、参照データのどの単物質のスペクトルの合成であるかを理解するために、組合せ最適化(combinatorial optimization)問題に帰着させることができ、機械学習を用いた手法を適用することができる。具体的には、組合せ最適化問題の解法として、ブラックボックス最適化手法(black-box optimization)、アニーリング手法(simulated annealing)(量子アニーニング手法(quantum annealing)など)、各種組合せ最適化解法が利用でき、判別の高速化が可能となる。特に、線形結合を考える場合には、混合された材料の種類に加えて混合比も予想することができる。すなわち、本発明において混合物の判別を単純に以下に示す方法で行う場合には組み合わせ数が膨大になって実現が困難となる場合がある。具体的に言えば、n個の参照データの集合R中から1~n個の参照データを選択して結合した結合参照データの集合Rcを考える(なお、参照データを1個しか選択しない場合には対応する結合参照データは当該元の参照データそのものである)。この場合、参照データ集合Rcの要素の個数はかなり多くなる場合が多い。さらに参照データの元になる単一材料同士の混合比を多くの段階に変化させることを考えると、結合参照データ集合の要素の個数は膨大なものとなる。従って、参照データの集合Rcから同定対象材料の測定データとの類似度が最も大きな結合参照データを決定する際に、総当たり式の類似度判定を行おうとすると、そのための比較回数も膨大になり、現実的でなくなる場合が多い。そこで、当業者に周知のブラックボックス最適化手法などの組み合わせ最適化問題の解法をここに適用することで、比較回数を大きく削減でき、現実的な時間内に判定を終了させることができるようになる。また、膨大な個数の結合参照データも皆あらかじめ準備するのではなく、必要になった時点で初めて計算すればよいので、この点でも時間削減に有益である。
また、上の説明では各データを、それぞれの最大値及び最小値が所定値(例えば0及び1)となるように、式(1)を用いてこれらの多波長強度データを線形に変換することで正規化しているが、正規化は必ずしもこの式を使用しなくてもよい。例えば、測定したデータのピーク付近にスパイク上の雑音が乗っている場合には、データの最大強度が真の最大強度よりも大きな値であるとされることにより、式(1)を使用して正規化を行うと正規化後のデータの強度は過度に小さなものとなってしまい、その後に行われる誤差評価に悪影響を与える恐れがある。このような雑音による影響を回避あるいは軽減するためには、他の種類の正規化を行うことができる。これに限定する意図はないが、いくつか例を挙げれば、データを複数回測定して得られた複数のデータの測定結果を得て、平均した後に正規化を行う(ここにおいて、得られた複数組の測定結果を調べてそこに過大なノイズが乗っていて明らかに不自然なデータ(強度の不自然なとびなど)となっている等の不都合な測定結果を排除してから平均することもできる)、データから個々の特徴値を抽出する際に単一の波長におけるデータの測定値を採用するのではなく、近接する複数の波長における強度から特徴値を求める(例えば、特徴値の公称波長及びその前後の波長において測定された3つの強度の平均を当該公称波長におけるデータの強度とする)、測定対象の波長域全体あるいはその一部の区間内の強度の平均値(同じことであるが強度データの合計値/積分値)が一定値になるように強度データをスケーリングする等により、雑音や装置ドリフトの影響を除去あるいは軽減してもよい。また、式(1)では線形の変換を行っているが、例えば多波長強度データ中の特定の部分(特定の測定値の範囲、波長範囲など)に大きな重みを与えることで、当該部分が比較結果により大きな影響を与えるようにしてもよい。
より一般的に言えば、ここで行われる正規化の主な目的は、同一の材料を同一の温度で測定した場合の参照用の多波長強度データと測定対象の多波長強度データとは同一になるはずのところ、これが各種の要因によって完全には一致しないことに対処することである。つまり、上記各種の要因を除くために参照用の多波長強度データと測定対象の多波長強度データの少なくとも一方を何らかの規則によって変換してから、変換後の両強度データとを比較することで、同一材料・同一温度における両データ間の誤差評価値(例えば式(2)による2乗平均平方根誤差)を最小なあるいは最小に近いものにすればよい。
また、正規化後の強度データの比較、すなわち類似度の算出は、上の説明では式(2)に示すように強度データ間の2乗平均平方根誤差を求めることにより行っているが、他の種類の比較を行うこともできる。例えば、これに限定されるものではないが、波長毎にデータの強度の絶対値を求めてこれらの平均をとることによる比較を行うこともできる。なお、これを含めた他の種類の比較にあたっては上でRMSEを使用した方法の説明の際に述べた正規化が必須となる場合がある。しかしながら、機械学習を使用した比較等では必ずしも正規化が必要とされないものもある。例えばスペクトルの形状を反映した特徴量を比較するような場合が後者に該当する。
例えば、ニューラルネットワークの一種である変分オートエンコーダーなどを利用することで、収集したデータ、強度のセットから特徴的な箇所を抽出させることが可能である。また、バイナリ変分オートエンコーダー(binary variational autoencoder)などを使用することで、スペクトルの特徴量を0/1で表し(各スペクトルが0/1のビット列で表現できる)、類似度探索を高速に実行できる。この類似度探索の方法を、RMSE法の代わりに用いて、物質や温度、状態の判別に用いることが可能である。本発明の方法では、スペクトルのいくつかの点の値を利用しているが、なんらかの特徴量として抽出しても良く、また、特徴量として、連続値だけでなく離散値、さらにはバイナリ値に変換しても良い。
また、この方法を前述した大量の参照データがかかわる判別を効率化・高速化のための分類の手法に適用してよい。また、測定データの分類に用いても良い。すなわち、未知材料のRMSEによる最終的な判別に先立つ大まかな分類を、この分類法を用いて行っておき、その後分類先の少数の参照データに対してRMSE判別を行い、判別にかかる時間を短縮することも可能である。あるいは、RMSE法と並行して用いて、相互に比較しながら、または両者の結果を取り入れた判別を行い、判別の精度を高めることも可能である。
なお、変分オートエンコーダーによるスペクトル類似度探索の高速化は、スペクトルからいかに重要な点を抽出するかということに帰結できる。このため、スペクトルにおける離散的な波長に対していくつかのデータ点を抽出しているが、オートエンコーダーによる機械学習手法を使って、重要な波長におけるデータ点を抽出しても良い。もちろんオートエンコーダーに限らず、特徴抽出用各種機械学習手法を利用して、特徴を抽出しても良い。またスペクトルのいくつかの離散的なデータ点の値を利用しているが、代わりになんらかの特徴量を抽出して用いても良い。その際、特徴量としては、連続値だけでなく離散値、さらにはバイナリ値に変換しても良い。そして、特徴量化した際に、類似度を高速で計算する手法を利用しても良い。例えば、ハッシュを用いた類似検索技術が利用できる。もちろん、それ以外にも、連続値、離散値を持つベクトルに対する各種類似検索技術が利用できる。
なお、以上の説明では特定の材料と温度などの条件がある特定の場合(例えば温度が90℃の場合など)との組み合わせについての参照用の強度データを得るための参照用試料からの熱輻射の測定にあたって、その熱輻射の多波長強度データの測定の回数を1回だけ行うか、あるいは複数回測定を行うとしても複数回の測定結果を例えば平均するなどの処理を行うことで当該材料と条件との組み合わせについて一つの参照データにまとめることを前提としていた。しかしながら、本発明はこのように特定の材料と特定の条件との組み合わせについての参照用の強度データを一つに限ることに限定されるものではない。
同じ材料について温度などの条件をそろえて熱輻射データ(ここでは参照データ)の測定を行っても、測定誤差等のばらつきが測定結果に導入されることによって、得られる参照データは測定毎に必ずしも同一とはならない。そこで、参照データの集合に同一材料かつ同一条件での測定で得られる複数の互いに異なる(あるいは異なるかもしれない)データを含めておき、材料及び/または温度の同定を行うための測定結果、つまり測定対象データとの比較を行うようにしてもよい。このような測定・比較を行い、類似度が高い順で参照データを並べてその上位のものを見て、材料及び/または温度について多数決を取ることで、多数を占めた材料及び/または温度を測定対象の材料及び/または温度として同定する。このような比較を行った場合、同一材料かつ同一条件での測定を行う際のばらつきが極端に大きくないとした場合には、同一材料及び同一温度での測定に対応する参照データが類似度順に並べた参照データの上位に来るようになる。したがって、上述のような多数決を取った場合、測定対象の材料及び/または温度と同じ場合に対応する参照データが高類似度になる。その結果、このような多数決を取った場合には、同定される材料及び/または温度は通常は正確なものとなる。さらに、個々の参照データを求める際のばらつきや誤差等の影響は上述のような多数決によって低減される。これにより、このような同一材料かつ同一条件の場合の参照データを複数通り準備しておく場合には、各場合について一つしか準備しておかないという方策に比べて同定の精度が高くなることが期待できる。
また、本願実施例においては測定対象の物体はすべて固体であるが、上述した本発明の原理から、当然ながら測定対象が気体や液体、あるいはこれらの混合された物体の何れであっても本発明は等しく適用できる。なお、巨視的には固体であるが微視的には液体と固体とが入り混じった構造になっているゲル、また固体と液体の中間的な状態を取る中間相(mesophase)があるが、本願ではこれらは皆固体であるとみなす。従って、本願において「測定対象の物体」という場合、固体、液体及び気体、またそれらの混合物、という全ての相や状態を包含することに注意されたい。気体については、気体やプラズマも温度が高いと発光するが、これも熱輻射と言うことができる。液体についても同様である。
なお、本発明を実施する際には、測定対象の材料等に非可逆的な変化を与えない程度の温度までの昇温に止めるのが普通であるが、本発明はこれに限定されるものではない。
本発明の他の態様として、材料や物品の加工過程における加工の程度を判定することもできる。例えば食品加工分野で通常行われる処理では典型的であるが、高温で変質、分解等する材料を加熱すると、それからの放射される赤外線等の電磁波のスペクトルは、単にその表面温度だけではなく、当初含まれていた複数の材料同士の反応その他による変質、当初は一つであった材料が相分離その他により分解によって別の物質に変化したこと等も反映して変化する。このような変質や分解は単に温度だけではなく加熱時間や加熱プロファイル、また加熱手段(放射熱による加熱、熱風による加熱、マイクロ波加熱等)による影響も受ける。さらには、熱処理対象物の原料や形状・サイズ、また前処理のばらつきも、変質、分解等の進行に影響を与える。同様な事態は食品加工以外にも塗装、プラスチックなどの乾燥・硬化の状態判別でも起こる。このような加工の進行度等の評価を非接触的に実現するのは従来は容易ではなかったが、これが可能となれば、生産ラインの品質管理に大いに役立つ。本発明の一態様では、このような材料等の加工や変性等の処理(以下、単に加工と称する)の進行により、その温度だけでなく、材料の物理的あるいは化学的な変化や揮発成分の蒸発に伴う成分組成、また表面の構造等が変化することを利用する。具体的には、加工の段階毎にその熱輻射の多波長データを測定して参照データとしてデータベースに記録しておき、処理段階を判別すべき加熱処理中の材料等からの熱輻射の測定から記録してあった参照データとを比較することで、測定対象の材料等の加工がどこまで進行しているかを判定することができる。
さらには、この種の加工の正常性を同定する、すなわち当該加工が正常に進行したのかあるいは何らかの原因によって正常に進行していなかったのか(または加工後に得られた生産物が正常に加工されたものであるかあるいは不良品であるのか)を判定することもできる。この場合、データベースに蓄積しておいた正常加工物の参照データとの照合により、正常加工物であると同定された場合には当該加工が正常なものであったと同定し、正常加工物と同定されなかった場合には当該加工が異常なものであったと同定する。あるいは、加工の異常進行によって生成される可能性のある典型的な不良材料(成分組成、表面状態等)から得られた参照データもデータベースに蓄積しておき、加工過程あるいは加工後に対象物から得られた熱輻射データをデータベース中の参照データと比較することで、加工の正常/異常の同定、つまり加工が正常に進行している(あるいは最終的に正常な加工がおこなわれたか)を判定できる。なお、この際に測定対象がデータベース中に蓄積された典型的な不良材料の参照データであると同定された場合には、加工の過程でどのような異常が起こったかの推定に有用な情報が得られることになる。あるいは、処理途中や最終結果の材料とも、またどの不良材料とも照合が取れなかった場合には、「その他の不良材料」であると同定される。この場合には、データベースに蓄積されていない事態(多くの場合、まれにしか起こらない、あるいはこれまで起こったことのない何らかの異常)が起こったとの推定が行われる。これは非常に多様な工業製品の品質管理に適用することが可能である。
さらには、本発明は、加工中の処理の進行の監視以外にも、任意の材料や物品の使用・保管中の劣化などの経時変化を調べることにも応用できる。より具体的には上記参照データを基準とするある時点(製造時、出荷時、使用開始時等の初期状態時点、あるいは他の任意の時点)に取得しておき、その後、経時変化を調べたい任意の時点(長期保管後、一定期間使用後などの定期点検時、中古品の再利用可否判断時、異常が疑われた時点等々)に熱輻射データを同様に取得し、両者を照合することで、経時変化が起こっているか否かを検査できる。また、参照データとして同じ材料や物品が経年変化・経年劣化したものや各種の異常状態に陥ったものについても取得しておき、上記比較時にこれらの経年変化・劣化データ及び/または異常状態データとも比較することで、経年変化・劣化の程度やどのようなまたどの程度深刻な異常が起こっているかなどまで調べることが可能となる。すなわち、この応用では、未知の材料を同定するのではなく、元は同種の材料であるがそれが何らかの要因(時間、環境、使用等)で変化した可能性があるという条件下で、対象となる材料や物品において元の材料からの変化が起こったか否か、あるいはどの程度及び/またはどのような種類の変化であったか、等の検査を行う。
もちろん、本応用においてもすでに述べたことと全く同じく、データ(波長-強度の組み合わせ)を離散波長と温度で測定、記録、照合するにあたって、参照データ中のデータ点の波長と上記任意の時点で測定を行う際の離散波長中のデータ点の波長とは同じであってもよいし、あるいは違っていてもよい。比較すべき両データのデータ点の波長が異なる場合には、例えば波長軸上でデータ補間を行うことで同じ波長同士で比較を行うことができる。また、上記参照データの測定および任意の時点での測定は単一の温度で行ってもよいし、また複数の温度で行ってもよい。なお、参照データを取得する対象となる材料や物品はその後の経年変化・劣化や異常状態の有無などを調べる対象となる材料や物品と同一のものでもよいし、あるいは必ずしも同一でなくても、同一の仕様の材料や物品などの十分に近い熱輻射特性を有するものであっても良い。さらには、検査等の対象として現れる可能性のある材料や物品の全てが参照データを取得する対象となる材料や物品のいずれか一つと熱輻射特性の点で充分に近いものでなくてもよい。より具体的に説明すれば、既に述べたように、検査等の対象として現れる可能性のある材料や物品の集合中の少なくとも一部は、参照データを取得する対象となる複数の材料や物品の集合中の複数のものの混合物であっても、そのような混合物の要素やこれら要素の混合比を求めることができる。これにより、加工や経時変化等の過程で対象物の成分やその比率などが連続的に変化していく場合、あるいは複数種類の変化が同時に起こることがあり得る場合等に、準備しておくべき参照データの量の増加を抑制できるなどの効果が得られる。また、この材料や物品としては、これに限定するものではないが、例えば部品、食品、美術品、展示品等が挙げられる。
なお、以下の実施例では測定の対象としては固体だけを例示しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、液体、更には気体に適用することもできる。気体について説明すれば、分子振動にもプランクの放射公式が適用できる、すなわちプランクの放射公式が包絡線的に気体の特定波長の放射それぞれの強度に変化を与えることから、上で説明した原理が気体にも適用されるからである。なお、測定対象が液体の場合、特に揮発性のある液体の場合には液体から発生する蒸気からの輻射が液体自身からの輻射に混ざった形で測定される事態を回避すべきである。このためには、例えば、窒素ガスなどの赤外光を吸収しないキャリアガスを液体表面に流しつつ蒸気を速やかに除去する、輻射を測定する際の測定対象となる波長領域で吸収などが少ない容器壁等を介して蒸気が介在しない状態での輻射を測定する、あるいは容器壁等の吸収スペクトルが既知の場合には同様な測定後に当該吸収の影響を補償する、などが可能である。
以上説明したように、比較的少ない波長における熱輻射の強度を測定するだけで、その物体の材料があらかじめ測定しておいた候補材料のどれであるかを簡単な処理により判定できる。さらには測定対象のデータを測定した際の当該物体の温度が未知であっても、参照データの測定の際の温度がわかれば、測定対象の温度も容易に同定することができる。本発明においては、温度を変えた場合のプランク放射による放射強度曲線や熱励起キャリアによるプラズマ振動からの放射による、緩やかではあるが広い波長範囲にわたる全体的な変化も利用することで測定中の情報を有効に利用するため、熱輻射の強度を測定する波長の個数を少なくしても高い精度を実現することができる。また、熱処理等によって変化する材料については、そこからの熱輻射データから熱処理等の進行度を判定することもできるようになる。
以下、実施例を参照して本発明をさらに詳細に説明するが、実施例はあくまで本発明の理解のために提示するものであって、実施例によって本発明を限定する意図は全くないことを注意しておく。
以下の実施例では18種類の測定対象の材料からの熱輻射のデータ(波長-強度のデータ)を65℃~110℃まで5℃刻みで測定し、これを50種類の参照材料について同じ温度範囲・温度刻みで測定して得られた参照データと比較した。本実施例では、すでに述べたように、これらの強度を検出する際の赤外線センサーとしてMCT検出器を使用した。両データの比較結果を、図7と同じ形式で、また類似度(Degree of Similarity)が大きな順(RMSEが小さな順)に上位20種類の参照材料について配列したグラフを図8から図25に示す。なお、温度によって最小のRMSEを示す参照材料が異なる場合がある(換言すれば、これらの図中で、必ずしもアスタリスクが付された交差部分のすべてがグラフの最上行中に存在するわけではない)ため、このグラフ上での参照材料の縦軸方向の配列は、厳密に言えば、図7の説明で述べたように温度全体にわたるRMSEの平均値が小さい順の配列とした。
ここにおいて、18種類の測定対象の材料は、具体的にはグラファイト(Graphite)、ポリイミド(Polyimide)、陽極酸化アルミニウム(Anodized_Al)、エボナイト(Ebonite)、マイカ(Mica)、シリコン(Silicon)、テフロン(Teflon)(登録商標)、鋼鉄(Steel)、ジルコニウム(Zirconium)、ポリカーボネート(Polycarbonate)、タンタル(Tantalum)、アルミニウム(Aluminium)、モリブデン(Molybdenum)、アクリル(Acrylic)、アルミナ(Al2O3)、Nomex(登録商標)410シート(Nomex_410)、ベークライト(Bakelite)、綿100%の布(Cloth)を使用し、参照材料とこれら測定対象材料との比較結果を、この順で図8~図25に示した。また、50種類の参照材料中、いずれかの測定対象材料との比較で図8~図25のうちの少なくとも一つにおいて上位20種類の参照材料として現れるものは以下のとおりである:アクリル(Acrylic)、開明伸銅株式会社から提供されたグレー有色電着塗装アルマイト(Anodized_G-600)(Al G600)、アズワン株式会社から供給される純度98%のアルミナ板(2-305-01)(Al2O3 98)、株式会社トリオセラミックスから提供された純度96%のAl(Al2O3 Trio Ceramic)、アルミニウム(Aluminium)、ブラックアルマイト(Anodized M6 Black alumite)(Anodized Al)、ベークライト(Bakelite)、クッキングシート(Baking Paper)、青ペンキ(Blue Paint)、株式会社ニラコから供給される純度99.5%の炭素シート(型番C-07346)(Carbon Sheet Nilaco)、布(綿98%、ポリウレタン2%)(Cloth)、新毛斯(綿100%)(Cloth Sinmosu)、羊毛製布(Cloth Wool)、食器拭き布(Dishcloth)、エボナイト(Ebonite)、ガラス繊維(Glass Fiber)、グラファイト(Graphite)、ミスミから供給される断熱シートHIPSKH(無機物鉱物繊維)(Heat Resistant Mineral)、株式会社ニッカトーが供給するセラミック製品であるマグネシアMg12G(MgO 99.6%、CaO 0.1%)(Mg12G MgO CaO)、マイカ(Mica)、モリブデン(Molybdenum)、Nomex(登録商標)410シート(Nomex 410)、オレンジ色ペンキ(Orange Paint)、写真用紙(Photo Paper)、ポリカーボネート(Polycarbonate)、ポリイミド(Polyimide)、多孔質ジルコニウム(Porous Zr)、障子紙(Shoji Paper)、シリコン(Silicon)、鋼鉄(Steel)、SUSTAPEEK(Sustapeek)、タンタル(Tantalum)、Tatsuya 60サンドペーパーNo. 60(Tatsuya 60)、テフロン(Teflon)(登録商標)、オレフィン系の壁紙(Wallpaper)、白ペンキ(White Paint)、黄色ペンキ(Yellow Paint)、ジルコニア(Zirconia)、ジルコニウム(Zirconium)。図面中では上に列挙した各参照材料名の末尾に置かれた丸括弧内に示す略称を表記した。なお、図7でも同じ略称を使用している。
図8~図25に示す比較・同定結果から明らかなように、本発明の一実施例では、65℃~110℃の間の5℃刻みの温度における18種類の多様な材料からの測定対象データ及び同じ温度における50種類の参照データを、それぞれ式(1)を使用して正規化し、式(2)を使用して正規化済みの両データから各温度におけるRMSEを求め、このRMSEが最小の参照材料をその温度における同定結果とした。これにより、非常に良好な同定の精度が達成された。すなわち、大多数の非常に多様な種類の測定対象材料、具体的には、グラファイト(図8)、ポリイミド(図9)、陽極酸化アルミニウム(図10)、エボナイト(図11)、マイカ(図12)、シリコン(図13)、テフロン(登録商標)(図14)、鋼鉄(図15)、ジルコニウム(図16)、ポリカーボネート(図17)、モリブデン(図20)、アクリル(図21)、アルミナ(図22)、Nomex(登録商標)410シート(図23)、ベークライト(図24)、布(図25)についてはすべての温度において材料を正確に同定することができた。例外となる2つの測定対象材料についても、タンタル(図18)では、10通りの測定温度のうちの70℃及び75℃ではそれぞれAl_G600及びアルミニウムであるとの誤同定が起こったが、それでもタンタルを参照材料とした場合の類似度も非常に大きいことがわかる。また、アルミニウム(図19)についても70℃のみで誤ってタンタルであると同定したが、ここでもアルミニウムを参照材料とした場合の類似度も非常に大きいことがわかる。このような場合には、複数の温度に対する同定の結果を数値化し、それを平均するなどして総合して判断することで、同定の精度を確保することができる。
なお、一部誤同定が起こった事例(図18、図19に示されるタンタルとアルミニウム間での誤同定)についても、更に検討するに、両者はかなり類似した熱輻射特性を有しているということであるから、熱輻射特性の類似性という観点で材料を類別し、完全に同じものであると同定する代わりに、測定対象が属する類(上掲の例でいえば、アルミニウムとタンタル(あるいはそれ以外の金属も属するかもしれない)の類、あるタイプのプラスチックからなる類、等)を同定するという同定も可能である。
上で説明した実施例では一つの材料について参照データを一つ準備している。しかしながら、すでに述べたように、個々の材料に対応する参照データとして、当該材料を同一条件で測定して得られた複数のデータを準備することができる。ここで、同一の材料に対応するこれら複数の参照データは測定誤差等によりばらつくことで互いに異なることが多くなる。もちろん、たまたま同じになることを排除するものではない。材料及び/または温度の同定を行うための測定結果、つまり測定対象データとの比較を行うようにしてもよい。以下の実施例においては、このようにいくつかの材料について、最初の実施例と同じ測定方法により、同一の材料から複数回の測定により測定により得られた参照データを複数準備しておき、これを材料が未知の対象(ただし、温度は65℃~110℃の範囲で5℃毎に設定して測定した)を最初の実施例と同じ測定方法で測定することによって得られた測定対象データとの比較をやはり最初の実施例と同じ方法で行った。参照データを求めた材料としては、人造マイカ(M)、難燃性メタ系アラミド繊維(N)、白色のペンキ(W)、無機質鉱物断熱シート(H)、ポリイミドシート(P)、シリコンゴムシート(S)、多孔質ジルコニア(Z)を含む。また、ここで言う参照データのそれぞれは65℃から110℃の間を5℃毎に温度を変えて測定し、これを所定回数(本実施例では10回)繰り返すことで得られたデータの集合とした。上記本実施例ではこのような測定を8回行い、材料を表す上記アルファベット1文字の後ろに1~10までの数値を付加する(例えば、M-1、M-2、・・・、M10)ことにより、当該材料についての複数の参照データを相互に識別する。もちろん、それぞれの数値が付されたそれぞれの材料の参照データ(例えばM-1)毎に10通りの温度(65℃~110℃の範囲で5℃毎)についてのデータを測定しておいた。
測定対象の材料として人造マイカ(M)及びポリイミドシート(P)を選択して上記測定及び比較を行った。この比較により計算された二乗平均平方根誤差RMSEが小さい順(すなわち、類似度(Degree of Similarity)が大きい順)に参照データを上から下に列方向に並べた結果をそれぞれ図26及び図27に示す。また、これらの図において行方向は測定を行ったところの65℃~110℃までの5℃刻みの温度を示す。両図に示す結果からわかるように、二乗平均平方根誤差RMSEを小さい順に並べた場合の上位は人造マイカとポリイミドシートの何れにおいても同じ材料から得られた参照データで占められている。今回の測定においては材料と温度の何れの組み合わせにおいても同じ材料からの参照データが上位10位を独占した。なお、同じ材料を複数回(本実施例では10回)測定して参照データの測定値のばらつきが大きな場合には二乗平均平方根誤差の上位をこれら10個の参照データが独占しないこともあり得る。しかしながら、そのような場合においても同じ材料からの参照データとの比較結果が上位に入る確率は、他の材料からの参照データとの比較結果よりも通常は高くなる。したがって、例えば比較結果の上位側に入った参照データが対応している材料についての多数決を取ることで、測定対象の材料の同定を行うこともできる。
このように、熱輻射を用いることで、複数の材料について求められた参照データ群及び測定対象データを正規化してから両者の類似度を求めるという直接的かつ簡単な方法により、特に機械学習などの処理を行わない場合でさえも、測定対象の材料を高い精度で同定することができた。また、上記実施例では特に触れなかったが、参照データを複数の温度について求めることで、正規化後の参照データ群と測定対象データとの類似度の比較を行えば、測定対象の材料と温度の両方またはその一方を同定できることも明らかであろう。
以上説明したように、本発明は対象物からの熱輻射を利用してその材料や温度を同定することができるため、非常に広い分野に利用可能である。非限定的な例を挙げると、各種の材料や物品の判定・仕分け、加工途中あるいは加工後の製品の品質管理、典型的には自動車等の自動運転に使用可能な環境認知センサー(路面状態センサー、歩行者、動物その他の事物のセンサー等)が挙げられる。また、人間の顔等からの熱輻射を測定することによる個人特定等のセキュリティー機器への応用や入国管理等において防疫目的で行われる赤外線カメラ審査の高性能化も可能である。さらに、対象物は気相でもよいので、例えば湿度センサーや二酸化炭素センサーのガスセンサー、また自動車用エンジンやその他の各種の燃焼機関からの排ガスの試験、また毒ガス検知にも応用できる。また、食品、製品部品、建造物の経時劣化、あるいは美術品や博物館展示品のように損傷や劣化を極力避けたい材料や物品の劣化や材質の変化を、観測用のX線、電子線や紫外線などを照射せずに、非接触・非破壊・非損傷で分析・監視する方法としても有効である。さらに、オフィスなどのガスからの放射を測定することにより、成分ガスの分布の変化やその温度など、環境の変化を監視する方法としても有効である。
米国特許第4,561,786号明細書
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Claims (20)

  1. 測定対象自身から放射される赤外帯域内の3波長またはそれより多くの波長における熱輻射強度の組み合わせである強度データと、前記測定対象の材料の同定のための候補となる複数の異なる材料のそれぞれからの赤外帯域内の複数波長における熱輻射強度データの組み合わせである参照データと複数の前記異なる材料に基づく複数の前記参照データ同士を結合することにより得られる前記複数の前記異なる材料の混合物についての結合された参照データとの少なくとも一方との類似度を比較し、
    前記測定対象の材料が、前記類似度が最も高い一つまたは複数の前記参照データもしくは前記結合された参照データに対応する前記候補となる材料またはそれらの混合物であると同定する、
    測定対象自体を熱輻射光源として測定し、非接触で材料を同定する方法。
  2. 前記類似度の比較は少なくとも前記結合された参照データのすべてについて行う、請求項1に記載の非接触で材料を同定する方法。
  3. 前記類似度の比較及び前記同定に組み合わせ最適化問題の解法を適用する、請求項1に記載の非接触で材料を同定する方法。
  4. 前記類似度を求めるにあたって、前記類似度を求めるために使用すべき点または特徴量を前記参照データと前記結合された参照データの少なくとも一方から抽出すること及び前記参照データと前記結合された参照データの少なくとも一方を複数の類に分けて前記複数の類の一部を前記類似度の比較に供することからなる群から選択された処理を行う、請求項1から3の何れかに記載の非接触で材料を同定する方法。
  5. 前記測定対象は固体、液体、気体またはこれらの混合物である、請求項1から4の何れかに記載の非接触で材料を同定する方法。
  6. 前記参照データは複数の離散的な波長で測定された強度データである、請求項1から5の何れかに記載の非接触で材料を同定する方法。
  7. 前記複数波長は少なくとも3つの波長である、請求項6に記載の非接触で材料を同定する方法。
  8. 前記類似度は、複数の波長における前記強度データと前記参照データとの強度の差に基づいて定められる、請求項1から7の何れかに記載の非接触で材料を同定する方法。
  9. 前記参照データは前記測定対象の材料の同定のための候補となる複数の温度と複数の異なる材料毎の赤外帯域内の複数波長における熱輻射強度データとの組み合わせである、請求項1から8の何れかに記載の非接触で材料を同定する方法。
  10. 前記類似度の比較に基づいて、前記測定対象の温度をさらに同定するとともに、前記同定された材料及び温度の少なくとも一方を同定結果として提示する、請求項9に記載の非接触で材料を同定する方法。
  11. 前記類似度はそれぞれの温度について複数の波長における前記強度データと前記参照データとの強度の差に基づいて定められる、請求項9または10に記載の非接触で材料を同定する方法。
  12. 前記強度データ及び前記参照データを夫々正規化したのちに前記類似度を求める、請求項1から11の何れかに記載の非接触で材料を同定する方法。
  13. 光学系を用いて前記測定対象以外からの熱輻射を除去する、請求項1から12の何れかに記載の非接触で材料を同定する方法。
  14. 前記類似度は、前記強度データと前記参照データとの二乗平均平方根誤差に基づいて定められる、請求項1から13の何れかに記載の非接触で材料を同定する方法。
  15. 材料の熱処理過程中の加工の所定の段階毎に、前記材料自身から放射される赤外帯域内の3波長またはそれより多くの波長における熱輻射強度の組み合わせである強度データと、前記材料と同種の複数の異なる材料を熱処理する過程中の加工の所定の段階毎に得られる、前記同種の材料自身から放射される赤外帯域内の複数波長における熱輻射強度の組み合わせである参照データと複数の前記異なる材料に基づく複数の前記参照データ同士を結合することにより得られる前記複数の前記異なる材料の混合物についての結合された参照データとの少なくとも一方との類似度を比較し、
    前記類似度の最も高い一つまたは複数の前記参照データもしくは前記結合された参照データを同定する、
    熱処理による加工中の生成物、あるいは前記加工の状態、進行度または正常性を同定する方法。
  16. 前記類似度を求めるにあたって、前記類似度を求めるために使用すべき点または特徴量を前記参照データと前記結合された参照データの少なくとも一方から抽出すること及び前記参照データと前記結合された参照データの少なくとも一方を複数の類に分けて前記複数の類の一部を前記類似度の比較に供することからなる群から選択された処理を行う、請求項15に記載の熱処理による加工中の生成物、あるいは前記加工の状態、進行度または正常性を同定する方法。
  17. 前記参照データは更に前記材料の熱処理過程の異常進行によって生成される可能性のある不良材料自身から放射される赤外帯域内の複数波長における熱輻射強度の組み合わせを含む、請求項15または16に記載の熱処理による加工中の生成物、あるいは前記加工の状態、進行度または正常性を同定する方法。
  18. 測定対象である材料自身から放射される赤外帯域内の3波長またはそれより多くの波長における熱輻射強度の組み合わせである強度データと、前記測定対象である材料と同種の複数の異なる材料である基準材料自身から放射される赤外帯域内の複数波長における熱輻射強度の組み合わせである参照データと複数の前記異なる材料に基づく複数の前記参照データ同士を結合することにより得られる前記複数の前記異なる材料の混合物についての結合された参照データとの少なくとも一方との類似度を比較し、
    前記類似度の最も高い一つまたは複数の前記参照データもしくは前記結合された参照データを同定することにより
    前記測定対象材料の前記基準材料からの変化である材料変化を検出する方法。
  19. 前記類似度を求めるにあたって、前記類似度を求めるために使用すべき点または特徴量を前記参照データと前記結合された参照データの少なくとも一方から抽出すること及び前記参照データと前記結合された参照データの少なくとも一方を複数の類に分けて前記複数の類の一部を前記類似度の比較に供することからなる群から選択された処理を行う、請求項18に記載の材料変化を検出する方法。
  20. 前記参照データは前記基準材料が正常でない状態に変化した際の前記強度データを更に含む、請求項18または19に記載の材料変化を検出する方法。
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