JP7397437B2 - クロロフィル含有率が減少し、且つ油脂生産性が増加した緑藻変異体及びその利用 - Google Patents

クロロフィル含有率が減少し、且つ油脂生産性が増加した緑藻変異体及びその利用 Download PDF

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特許法第30条第2項適用 〔ウェブサイトにおける掲載による公開〕 公開日 :平成31年(2019年)3月5日 掲載アドレス: http://www.jsbba.or.jp/2019/index.html https://jsbba.bioweb.ne.jp/jsbba2019/download_pdf_pkg.php?pkg_id=all_pages https://jsbba.bioweb.ne.jp/jsbba2019/download_pdf_pkg.php?pkg_id=poster https://jsbba.bioweb.ne.jp/jsbba2019/download_pdf_pkg.php?pkg_id=26_1600 https://jsbba.bioweb.ne.jp/jsbba2019/download_pdf_pkg.php?pkg_id=26 https://jsbba.bioweb.ne.jp/jsbba2019/download_pdf_pkg.php?pkg_id=1600
特許法第30条第2項適用 〔集会での発表による公開〕 開催日 :平成31年(2019年)3月26日 集会名 :日本農芸化学会2019年度大会 開催場所 :東京農業大学 世田谷キャンパス
特許法第30条第2項適用 〔ウェブサイトにおける掲載による公開〕 掲載日 :平成31年(2019年)3月6日 掲載アドレス: https://jspp.org/annualmeeting/60/ https://confit.atlas.jp/guide/event/jspp2019/recommend
特許法第30条第2項適用 〔集会での発表による公開〕 開催日 :平成31年(2019年)3月14日 集会名 :第60回 日本植物生理学会年会 開催場所 :名古屋大学 東山キャンパス
特許法第30条第2項適用 〔集会での発表による公開〕 開催日 :令和1年(2019年)6月22日 集会名 :中央大学研究開発機構設立20周年記念行事内交流会 開催場所 :中央大学後楽園キャンパス
本発明は、B型レスポンスレギュレータータンパク質をコードする遺伝子に変異を持った結果、クロロフィル含有率が減少し、クロロフィルa/b比が増加し、強光耐性となり、バイオマス生産性(ここでは、培養液の単位体積あたり、あるいは単位培養面積あたりの藻体乾燥重量を「バイオマス生産量」と呼び、単位時間あたりのバイオマス生産量の増加を「バイオマス生産性」と呼ぶ)が増加し、油脂含有率が増加し、油脂生産性(ここでは、バイオマス生産量と油脂含有率の積を「油脂生産量」と呼び、単位時間あたりの油脂生産量の増加を「油脂生産性」と呼ぶ)が増加したという特徴のうちの1以上を有する緑藻変異体及びその利用に関する。
単細胞性の真核光合成生物(以下、「真核微細藻類」と呼ぶ)が生産するトリアシルグリセロール(以下「TAG」と呼ぶ)等を原料として、バイオディーゼル・バイオジェット燃料等の製品を生産する研究が、広く世界的に行われているが、現状では生産コストが高く、商業ベースでの生産は困難である(非特許文献1)。そのため更なる技術開発が続けられており、その1つに真核微細藻類の油脂生産性の改良がある。
緑色植物亜界(Viridiplantae)・緑藻植物門(Chlorophyta)・トレボキシア藻綱(Trebouxiophyceae)・コッコミクサ属(Coccomyxa)に属する株として、Coccomyxa sp. Obi株、及びCoccomyxa sp. KJ株(以下Obi株及びKJ株と呼ぶ)が知られている。Obi株は、特許文献1に記載された単細胞性緑藻Pseudochoricystis ellipsoidea MBIC11204株と同一の株で、受託番号FERM BP-10484として寄託されている。KJ株はObi株の約2倍の油脂生産性を有する単細胞性緑藻であり、特許文献2に記載されたシュードコッコミクサ属(Pseudococcomyxa) KJ株と同一の株で、受託番号FERM BP-22254として寄託されている。Obi株及びKJ株は、pH3.5以下の培地でも生育がよく、特許文献3に示された開放系培養システムで培養でき、特許文献4に示された方法で連続的に屋外において油脂生産を行うことができる。
本発明者等は、Obi株及びKJ株のゲノム配列を解読し、これらの育種と培養技術の改良に取り組んできた。油脂生産性が向上した株の育種のためには、例えば光合成の光利用効率を向上させる方法(特許文献5)、油脂生産に関わる酵素の活性を促進させる方法(特許文献6)、あるいは、油脂分解を抑制する方法(特許文献7)等が考えられる。
光合成の光利用効率を向上させる育種の方法の1つとして、集光性クロロフィル-タンパク質複合体(アンテナ)の反応中心あたりの数(アンテナサイズ)を減少させることが考えられる。光化学系のコア複合体に含まれるクロロフィルはクロロフィルaのみだが、アンテナにはクロロフィルaとbとが両方含まれる。このため、アンテナサイズが減少するとa/b比が増加する。すなわち、クロロフィルa/b比はアンテナサイズの指標となる。
アンテナサイズが減少しクロロフィル量当たりの光合成速度が増加した緑藻変異体は、これまでに多数取得されている。アンテナサイズの減少の原因となった遺伝子変異が不明なものもあるが(非特許文献2、3)、集光性クロロフィルa/b結合タンパク質の翻訳阻害(非特許文献4)、クロロフィルb合成に関与するクロロフィライドa合成酵素のノックダウン(非特許文献5)、集光性クロロフィルa/b結合タンパク質のチラコイド膜挿入に関わる葉緑体シグナル認識粒子(SRP, signal recognition particle)構成因子への変異導入(非特許文献6)、集光性クロロフィルa/b結合タンパク質遺伝子群のノックダウン(非特許文献7)やノックアウト(非特許文献8)等によって、アンテナサイズが減少した変異体が分離されている。また、機能未知の遺伝子、Lar1, Lar2, Lar3に変異を導入することによってもアンテナサイズの減少が達成されている(特許文献8)。
しかしながら、アンテナサイズが減少した変異体を実際の屋外大量培養に使用すると、バイオマス生産性は必ずしも向上しなかった(非特許文献9)。その理由として、アンテナサイズが減少した変異体では、理想的な光条件での光合成の光利用効率及びバイオマス生産性は増加するものの、弱い光での生育は減少することに加え、強光による生育阻害を防ぐ光防御機構に必要なクロロフィル結合タンパク質も減少し、強光による生育阻害が起こるなどの原因が考えられた(非特許文献9)。
強光、弱光、低温、高温、栄養欠乏など様々な環境の変化やストレスによって、屋外培養における細胞の光合成活性は低下する。そこで強光条件での生育阻害(光阻害)を抑えることで、屋外培養における強光下での光合成活性を向上させ、油脂生産性を増加させることが考えられる。しかしこれまでに得られたObi株由来の強光耐性変異体(特許文献9)においては、強光条件(光合成有効光量子束密度が1,500 μmol/m2/s)でのバイオマス生産性及び油脂含有率は親株に比べて増加していたが、弱光条件(200 μmol/m2/s)でのバイオマス生産性及び油脂含有率は親株に比べて減少していた。これらの強光耐性変異体においては光防御機構の一つであるNon-photochemical quenching(NPQ)と呼ばれる光エネルギー散逸機構が弱光条件でも過剰に働いたため、弱光条件での光利用効率が低下し、その結果屋外培養における油脂生産性が低下した。
特許第4748154号公報 特許第6088375号公報 特許第6235210号公報 特許第5810831号公報 特開2013-102715号公報 特開2017-046643号公報 特開2017-046645号公報 米国特許第9,982,272号 特許第6589605号公報
Chisti Y. (2013) Constraints to commercialization of algal fuels. J. Biotechnol. 167: 201-214. Nakajima Y, Ueda R. (2000) The effect of reducing light-harvesting pigment on marine microalgal productivity. J. Appl. Phycol. 12: 285-290. Shin W-S, Lee B, Jeong B-r, Chang YK, Kwon J-H. (2016) Truncated light-harvesting chlorophyll antenna size in Chlorella vulgaris improves biomass productivity. J. Appl. Phycol. 28: 3193-3202. Beckmann J, Lehr F, Finazzi G, Hankamer B, Posten C,Wobbe L, Kruse O (2009) Improvement of light to biomass conversion by deregulation of light-harvesting protein translation in Chlamydomonas reinhardtii. J. Biotech. 142:70-77. Perrine Z, Negi S, Sayre RT. (2012) Optimization of photosynthetic light energy utilization by microalgae. Algal Res. 1:134-142. Jeong J, Baek K, Kirs, H, Melis A, Jin E. (2017) Loss of CpSRP54 function leads to a truncated light-harvesting antenna size in Chlamydomonas reinhardtii. Biochim. Biophys. Acta (BBA)-Bioenergetics, 1858:45-55. Oey M, Ross IL, Stephens E, Steinbeck J, Wolf J, Radzun KA, Kugler J, Ringsmuth AK, Kruse O, Hankamer B. (2013) RNAi knock-down of LHCBM1, 2 and 3 increases photosynthetic H2 production efficiency of the green alga Chlamydomonas reinhardtii. PLoS One 8:e61375. Verruto J, Francis K, Wang Y, Low MC, Greiner J, Tacke S, Kuzminova F, Lamberta W, McCarrena J, Ajjawia I, Baumana N, Kalba R, Hannuma G, Moelleringa ER. (2018) Unrestrained markerless trait stacking in Nannochloropsis gaditana through combined genome editing and marker recycling technologies. Proc. Natl, Acad, Sci. U. S. A. 1718193115. de Mooij T, Janssen M, Cerezo-Chinarro O, Mussgnug J, Kruse O, Ballottari M, Bassi R, Bujaldon S, Wollman F, Wijffels R. (2014) Antenna size reduction as a strategy to increase biomass productivity: a great potential not yet realized. J. Appl. Phycol. 27: 1063-1077.
真核微細藻類の油脂生産性の増加は、バイオ燃料生産の実用化に必要なコスト削減を実現するための重要な要素である。油脂蓄積率(藻体乾燥重量あたりの油脂重量)及び油脂生産性が増大した真核微細藻類変異体を作出し、その変異体を培養することにより、バイオ燃料等に供する油脂生産コストを削減することが可能となる。
また、油脂を含む微細藻類由来の有用物質の生産性を増加させるためには、バイオマス生産性を向上させることが重要である。それを実現する方法としては、アンテナサイズを減少させることにより培養槽全体での光利用効率を向上させる方法や、強光条件での生育阻害を抑制して光合成効率を向上させる方法等が考えられる。
そこで、本発明は、クロロフィル含有率(単位藻体乾燥重量あたりの総クロロフィル重量)が減少し、クロロフィルa/b比が増加し、強光耐性となり、バイオマス生産性が増加し、油脂含有率が増加し、油脂生産性が向上したという特徴のうちの1以上を持った真核微細藻類を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、特定のB型レスポンスレギュレーター(ARR1)をコードする遺伝子が変異した真核微細藻類では、クロロフィル含有率が減少し、クロロフィルa/b比が増加し、強光耐性となり、バイオマス生産性が増加し、油脂含有率が増加し、油脂生産性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下を包含する。
(1)配列番号7及び8に示すB型レスポンスレギュレータータンパク質の保存領域のそれぞれと少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、且つB型レスポンスレギュレーター活性を有するタンパク質の活性を低下させた真核微細藻類変異体であって、親株と比較して、(i)クロロフィル含有率が減少すること、(ii)クロロフィルa/b比が増加すること、(iii)強光耐性となること、(iv)バイオマス生産性が増加すること、(v)油脂含有率が増加すること、及び(vi)油脂生産性が増加することから成る群より選択される1以上の特徴を有する、前記真核微細藻類変異体。
(2)前記タンパク質をコードする遺伝子を破壊した、(1)記載の真核微細藻類変異体。
(3)前記タンパク質をコードする遺伝子の発現を低下させた、(1)記載の真核微細藻類変異体。
(4)前記タンパク質をコードする遺伝子の翻訳効率を低下させた、(1)記載の真核微細藻類変異体。
(5)緑藻植物門(Chlorophyta)に属する、(1)~(4)のいずれか1記載の真核微細藻類変異体。
(6)トレボキシア藻網(Trebouxiophyceae)に属する、(5)記載の真核微細藻類変異体。
(7)コッコミクサ属(Coccomyxa)に属する、(6)記載の真核微細藻類変異体。
(8)(1)~(7)のいずれか1記載の真核微細藻類変異体を培養する工程を含む、油脂生産方法。
本発明によれば、クロロフィル含有率が減少し、クロロフィルa/b比が増加し、強光耐性となり、バイオマス生産性が増加し、油脂含有率が増加し、油脂生産性が増加したという特徴の1以上を持った真核微細藻類変異体を作出することが可能となる。また、本発明に係る真核微細藻類変異体を培養することにより、バイオ燃料等に供する油脂及び微細藻類由来の有用物質の生産コストを削減することが可能となる。
KJ株(KJ-WT)とKJ株由来のARR1遺伝子破壊株(arr1-432)を、50%濃度のA9培地(pH3.5)を用いて12時間/12時間の明暗周期下でビーカー培養した時の、OD750値(A)、バイオマス生産量(培養液の単位体積あたりの藻体乾燥重量)(B)、油脂含有率(単位藻体乾燥重量あたりの油脂重量)(C)、油脂生産量(バイオマス生産量と油脂含有率との積)(D)、クロロフィル含有率(単位藻体乾燥重量あたりの総クロロフィル重量)(E)、クロロフィルa/b比(クロロフィルaとbの重量比)(F)の変化を示すグラフである。それぞれの平均値と標準誤差を縦軸に、培養開始後の時間を横軸に示す(n=4)。 配列の一覧を示す。 図2-1の続きである。 図2-2の続きである。 図2-3の続きである。 図2-4の続きである。 図2-5の続きである。 図2-6の続きである。 図2-7の続きである。 KJ株(KJ-WT)とKJ株由来のARR1遺伝子破壊株(arr1-432)を、30%濃度のA9培地(pH3.5)を用いて12時間/12時間の明暗周期下でビーカー培養した時の、バイオマス生産量(培養液の単位体積あたりの藻体乾燥重量)(A)、油脂含有率(単位藻体乾燥重量あたりの油脂重量)(B)、油脂生産量(バイオマス生産量と油脂含有率との積)(C)、クロロフィル含有率(単位藻体乾燥重量あたりの総クロロフィル重量)(D)、クロロフィルa/b比(クロロフィルaとbの重量比)(E)の変化を示すグラフである。それぞれの平均値と標準誤差を縦軸に、培養開始後の時間を横軸に示す(n=3)。 Obi株、及びObi株由来のARR1遺伝子変異体(arr1-1)(A)、KJ株、KJ株由来のARR1遺伝子変異体(arr1-2)、及びARR1遺伝子破壊株(arr1-246, arr1-3141, arr1-432)(B)を連続光の弱光条件(50 μmol/m2/s)(Low-light; LL)及び強光条件(1,000 μmol/m2/s)(High-Light; HL)で培養した時の培養4日目(A)、及び6日目(B)の試験管の写真である。 Obi株、Obi株由来のARR1遺伝子変異体(arr1-1)、KJ株、KJ株由来のARR1遺伝子変異体(arr1-2)、及びARR1遺伝子破壊株(arr1-246, arr1-3141, arr1-432)をMA5培地を用いて連続光の弱光条件(50 μmol/m2/s)で4日間培養した時の、クロロフィル含有率(単位藻体乾燥重量あたりの総クロロフィル重量)(A)、及びクロロフィルa/b比(クロロフィルaとbの重量比)(B)の平均値と標準誤差(n=3)を示すグラフである。 Obi株、及びObi株由来のARR1遺伝子変異体(arr1-1)を連続光の強光条件(1,000 μmol/m2/s)で培養し生育を比較したグラフである。横軸に培養日数、縦軸にOD750値の平均値と標準誤差(n=3)を示す。 KJ株、KJ株由来のARR1遺伝子変異体(arr1-2)、及びARR1遺伝子破壊株(arr1-246, arr1-3141, arr1-432)を連続光の弱光条件(50 μmol/m2/s)(Low-light; LL)及び強光条件(1,000 μmol/m2/s)(High-Light; HL)で培養した時の7日目のOD750値の平均値と標準誤差(n=3)を示すグラフである。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、ARR1と命名したB型レスポンスレギュレーターの活性を低下させることにより、親株と比較して、
(i)クロロフィル含有率が減少すること、
(ii)クロロフィルa/b比が増加すること、
(iii)強光耐性となること(強光条件(例えば、光合成有効光量子束密度1,000 μmol/m2/s)下で培養した時の増殖が速いこと)、
(iv)バイオマス生産性が増加すること、
(v)油脂含有率が増加すること、及び、
(vi)油脂生産性が増加すること、
から成る群より選択される1以上の特徴を有する真核微細藻類変異体に関する。
本発明に係る真核微細藻類変異体は、上記(i)~(vi)の特徴のうち、1以上、好ましくは2以上、3以上、4以上、5以上、最も好ましくは全てを有する。
本発明では、アンテナサイズが減少し、強光耐性となり、弱光時の生育速度が低下しないという形質を獲得した結果、真核微細藻類の大量培養時における光合成の光利用効率が増加し、油脂生産性が向上した緑藻変異体の取得を目指した。具体的に、本発明では、突然変異誘起剤であるN-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(NTG)をKJ株及びObi株に処理して、クロロフィル含有率が減少し、クロロフィルa/b比が増加し、強光耐性となり、弱光時の生育速度が低下しない変異体をスクリーニングした。このようにして得られた変異株の中で最も油脂生産性が高かった株を、Obi株およびKJ株からそれぞれ1株選抜した。これらの変異体2株は、共に、転写因子として働くシロイヌナズナのARR2やARR12(ARR: Arabidopsis response regulator)等のB型レスポンスレギュレーター(Lohrmann J, Harter K. (2002) Plant two-component signaling systems and the role of response regulators. Plant Physiol. 128: 363-369)と配列類似性のあるタンパク質をコードする遺伝子に変異を有していた。そこで、この遺伝子がコードするタンパク質をARR1と命名した。
レスポンスレギュレーターは、His-Aspリン酸リレー情報伝達系(二成分制御系)と呼ばれる細胞内情報伝達系の構成要素で、センサータンパク質であるヒスチジンキナーゼからリン酸基を受け取るレシーバー領域を持つ。シロイヌナズナで見つかったB型レスポンスレギュレーターは、レシーバー領域以外に、Bモチーフと呼ばれる核移行シグナルを含むDNA結合領域を持ち(Hosoda K, Imamura A, Katoh E, Hatta T, Tachiki M, Yamada H, Mizuno T, Yamazaki T. (2002) Molecular structure of the GARP family of plant Myb-Related DNA binding motifs of the Arabidopsis response regulators. Plant Cell 14: 2015-2029)、植物ホルモンであるサイトカイニン受容体(ヒスチジンキナーゼ)の下流で他の多くの遺伝子発現を調節している(Xie M, Chen H, Huang L, O'Neil RC, Shokhirev MN, Ecker JR. (2018) A B-ARR-mediated cytokinin transcriptional network directs hormone cross-regulation and shoot development. Nat. commun. 9: 1604)。サイトカイニンは植物の成長や発達において重要な役割を担っている植物ホルモンで、細胞分裂や代謝の調節、葉緑体の発達促進、根や茎の成長の調整、老化の抑制、ストレス応答などに働くが、藻類においてはサイトカイニンを含む植物ホルモンやB型レスポンスレギュレーターの機能についてはほとんどわかっていない(Lu YD, Xu J. (2015) Phytohormones in microalgae: a new opportunity for microalgal biotechnology? Trends Plant Sci. 20: 273-282)。
配列番号5及び6にそれぞれ示すKJ株とObi株のARR1タンパク質は約96%の配列同一性を示し、保存領域であるレシーバー領域(配列番号7)及びBモチーフと呼ばれる核移行シグナルを含むDNA結合領域(配列番号8)においては100%の配列同一性を示した。
一方、KJ株のARR1遺伝子(ゲノム配列)及びそのCDSの塩基配列をそれぞれ配列番号1及び配列番号3に示す。また、Obi株のARR1遺伝子(ゲノム配列)及びそのCDSの塩基配列をそれぞれ配列番号2及び配列番号4に示す。
これらARR1遺伝子に変異を持つKJ株及びObi株由来の変異体は、ARR1遺伝子以外にも変異を有し、ARR1遺伝子変異によって油脂生産性が向上したと結論することが出来なかった。そこで、ゲノム編集技術の一つであるCRISPR/Cas9システムを用いてKJ株のARR1遺伝子に変異を導入した。その結果得られたKJ株由来のARR1遺伝子変異体では、クロロフィル含有率が減少し、クロロフィルa/b比が増加し、強光耐性となり、バイオマス生産性が増加し、油脂含有率が増加し、油脂生産性が増加することを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明において、真核微細藻類としては、緑藻、珪藻(diatomあるいはBacillariophyceae)、真正眼点藻綱(Eustigmatophyceae)等に属する真核微細藻類を挙げることができる。
緑藻としては、例えばトレボキシア藻網に属する緑藻が挙げられる。トレボキシア藻網に属する緑藻としては、例えば、トレボキシア(Trebouxia)属、クロレラ(Chlorella)属、ボトリオコッカス(Botryococcus)属、コリシスチス(Choricystis)属、コッコミクサ(Coccomyxa)属、シュードコッコミクサ(Pseudococcomyxa)属に属する緑藻が挙げられる。トレボキシア藻網に属する具体的な株としては、Obi株(受託番号FERM BP-10484)及びKJ株(受託番号FERM BP-22254)が挙げられる。Obi株は、平成17年(2005年)2月15日付で独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(〒305-8566日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に受託番号FERM P-20401として寄託され、さらに受託番号FERM BP-10484としてブダペスト条約に基づく国際寄託へ移管されている。Obi株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(NITE-IPOD)(〒292-0818日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)から入手可能である。KJ株は、平成25年(2013年)6月4日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(NITE-IPOD)(〒292-0818日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)に受託番号FERM P-22254として寄託され、さらに受託番号FERM BP-22254としてブダペスト条約に基づく国際寄託へ移管されている。
トレボキシア藻網に属する緑藻以外の緑藻としては、例えばテトラセルミス(Tetraselmis)属、アンキストロデスムス(Ankistrodesmus)属、ドラニエラ(Dunalliella)属、ネオクロリス(Neochloris)属、クラミドモナス属、イカダモ(=セネデスムス:Scenedesmus)属等に属する緑藻が挙げられる。
更に珪藻としては、フィストゥリフェラ(Fistulifera)属、フェオダクチラム属、タラシオシラ(Thalassiosira)属、シクロテラ(Cyclotella)属、シリンドロティカ(Cylindrotheca)属、スケレトネマ(Skeletonema)属等に属する真核微細藻類を挙げることができる。また、真正眼点藻綱としては、ナンノクロロプシス属が挙げられる。
本発明に係る真核微細藻類変異体は、上述の真核微細藻類を親株として、ARR1タンパク質の活性を低下させる方法に供することで得られた真核微細藻類変異体である。ここで、ARR1タンパク質(B型レスポンスレギュレーター)の活性とは、シグナル伝達経路上流のヒスチジンキナーゼからリン酸基を受け取り、下流の遺伝子発現またはタンパク質の活性を制御する能力を意味する。
本発明において、ARR1タンパク質としては、配列番号7及び配列番号8に示すアミノ酸配列(すなわち、ARR1タンパク質の保存領域のアミノ酸配列)のそれぞれと少なくとも80%、好ましくは、少なくとも85%、特に好ましくは、少なくとも90%、最も好ましくは、少なくとも95%、100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、且つB型レスポンスレギュレーターの活性を有するタンパク質が挙げられる。
また、ARR1タンパク質としては、配列番号5又は配列番号6に示すアミノ酸配列と少なくとも50%、好ましくは、少なくとも65%、特に好ましくは、少なくとも80%、最も好ましくは、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、100%の配列同一性を有するアミノ酸配列から成り、且つB型レスポンスレギュレーターの活性を有するタンパク質が挙げられる。
ARR1遺伝子としては、上記ARR1タンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。また、ARR1遺伝子としては、配列番号3又は配列番号4に示すmRNAのコーディング領域と少なくとも50%、好ましくは、少なくとも58%、特に好ましくは、少なくとも65%、少なくとも80%、最も好ましくは、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、100%の配列同一性を有する塩基配列から成り、且つB型レスポンスレギュレーターの活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。
多くの真核微細藻類においては、複数のARR1遺伝子、例えば対立遺伝子、同義遺伝子等が存在する場合があるが、本発明においては、これらのうち少なくとも1つ又は複数のARR1遺伝子を意味する。
本発明においては、以上に説明したARR1遺伝子を有する真核微細藻類に対して、ARR1タンパク質の活性を低下させる方法に供することで、本発明に係る真核微細藻類変異体を得ることができる。
具体的に、本発明に係るARR1タンパク質の活性を低下させる方法としては、薬剤や放射線、紫外線等による突然変異誘起や、マーカー遺伝子等の挿入、ゲノム編集による遺伝子改変等が挙げられる。
さらに、ARR1タンパク質の活性を低下させる方法としては、例えば
(1) ARR1遺伝子をターゲットとして変異を導入し、当該遺伝子を破壊する;
(2) ARR1遺伝子の転写を抑制し、該遺伝子の発現を低下させる;
(3) ARR1遺伝子の翻訳を抑制し、該遺伝子の翻訳効率を低下させる;
方法が挙げられる。
(1) ARR1遺伝子をターゲットとして変異を導入する方法
ARR1遺伝子をターゲットとして変異を導入する方法としては、ZFN、TALENあるいはCRISPR/Casと呼ばれる遺伝子ノックアウト法(Gaj T, Gersbach CA, Barbas CF 3rd. (2013) ZFN, TALEN, and CRISPR/Cas-based methods for genome engineering. Trends Biotechnol. 31:397-405.)を用いることにより、その遺伝子が欠損した変異体を作出できる。
(2) ARR1遺伝子の転写を抑制し、該遺伝子の発現を低下させる方法
ARR1遺伝子の転写を抑制する方法としては、対象となる真核微細藻類における該遺伝子のプロモーター領域に変異やマーカー遺伝子等を導入する方法が挙げられる。
また、該遺伝子の正の発現制御に関わる遺伝子に変異を導入し、それらの機能を低下させる方法が挙げられる。
あるいは、該遺伝子の負の発現制御に関わる遺伝子に変異を導入し、負の発現制御が常時働くようにする方法が挙げられる。
(3) ARR1遺伝子の翻訳を抑制し、該遺伝子の翻訳効率を低下させる方法
ARR1遺伝子の翻訳を抑制する方法としては、いわゆるRNA干渉法(Cerutti H et al., 2011, Eukaryot Cell, 10, 1164)やアンチセンス法が挙げられる。
また、ARR1タンパク質の活性を低下させる方法としては、ARR1タンパク質の活性化に必要な因子を阻害する方法やARR1タンパク質の活性化を阻害する因子の活性化等が挙げられる。
さらに、本発明は、以上に説明した本発明に係る真核微細藻類変異体を大量培養し、TAGを含む油脂を生産する方法を含む。大量培養法としては、特許文献3に示された開放系培養システムや、特許文献4に示された連続的な培養方法等が挙げられる。培養後、例えば培養物からヘキサン抽出等によって、TAGを含む油脂を得ることができる。
なお、配列表と共に、配列の一覧を図2に示す。
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕ARR1遺伝子変異体の単離と油脂生産性評価
Obi株細胞(受託番号FERM BP-10484)に対して、N-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(NTG)による突然変異誘起処理を施し、クロロフィル含有率が減少した変異体を以下の方法で取得した。
セルソーターを用いてクロロフィル蛍光強度が低い細胞を選抜し、得られた細胞を寒天培地(MA5; Imamura et al., 2012, J Gen Appl Microbiol, 58, 1)に塗布し、シングルコロニーを得た。その後、コロニーの大きさが大きく緑色が薄いコロニーを選抜し、油脂生産性、クロロフィルa/b比、及びクロロフィル含有率を測定した。クロロフィルはN,N-ジメチルホルムアミドを用いて抽出し、分光光度計を用いて吸光度を測定し、クロロフィルa及びクロロフィルbの濃度を計算した。
親株と比べてクロロフィルa/b比が高く、クロロフィル含有率が減少した変異体の中で最も油脂生産性が高かった変異体のゲノム配列を解析した結果、配列番号2に示すARR1タンパク質をコードする遺伝子(ゲノム配列:配列番号2、CDS配列:配列番号4、全長アミノ酸配列:配列番号6、保存領域のアミノ酸配列:レシーバー領域(配列番号7)及びBモチーフ(配列番号8))に変異(g.134G>A, c.133+1G>A)が見つかり、この変異遺伝子及び当該変異を有する変異体をarr1-1と名付けた。arr1-1変異体では、スプライス部位の塩基置換による45番目のバリン残基のフレームシフト変異(p.Val45fs)が起こり、これによってarr1-1変異体ではARR1タンパク質の活性が失われていると予測された。
さらに、KJ株細胞(受託番号FERM BP-22254)に対してもNTGによる突然変異誘起処理を施し、クロロフィル含有率が減少した変異体を以下の方法で取得した。NTG処理後、細胞を200 mLのMA5液体培地にOD=0.1の細胞密度になるように播種し、1,000 μmol/m2/sの強光条件下で1週間培養後、80 μmol/m2/sの弱光条件で2週間培養した。この強光選抜を3回繰り返した。また、細胞をMA5寒天培地に播種し、2,000 μmol/m2/sの強光条件下で培養することで、強光条件下で生存するコロニーを選抜した。そのうち1系統の強光耐性変異体は親株と比べてクロロフィルa/b比が高く、クロロフィル含有率が減少し、油脂生産性が増加していた。その変異体のゲノム配列を解析した結果、配列番号1に示すARR1遺伝子(ゲノム配列:配列番号1、CDS配列:配列番号3、全長アミノ酸配列:配列番号5、保存領域のアミノ酸配列:レシーバー領域(配列番号7)及びBモチーフ(配列番号8))に変異(g.765G>A, c. 393G>A)が見つかり、この変異遺伝子及び当該変異を有する変異体をarr1-2と名付けた。arr1-2変異体では、131番目のトリプトファン残基にナンセンス変異(p.Trp131*)が起こり、これによってarr1-2変異体ではARR1タンパク質の活性が失われていると予測された。
arr1-1変異体にはARR1以外の約97個の遺伝子にも変異が存在し、arr1-2変異体にはARR1以外の約17個の遺伝子にも変異が存在した。このため、ARR1遺伝子変異によってクロロフィル含有率が減少し油脂生産性が向上したと結論することが出来なかった。そこでARR1遺伝子の変異によりクロロフィル含有率の減少が起こるかを確認するため、CRISPR/Cas9法を用いて、KJ株のARR1遺伝子の破壊を試みた。先ず、KJ株のARR1遺伝子を特異的に切断するためのガイドRNA(gRNA)を5種類設計した(表1)。これらのgRNAと精製したCas9タンパク質との複合体を形成させた後、それぞれの複合体をエレクトロポレーションでKJ株細胞に導入した。次にエレクトロポレーションを受けた細胞集団を強光条件下(1,500 μmol/m2/s)で5日間液体培養し、細胞集団の中で強光条件での生育が速い細胞の割合が増えるように選抜をかけた後、プレートに播種し、シングルコロニーを得た。その中からクロロフィル含有率が減少したコロニーを目視で選抜し、TEバッファーに懸濁してから80℃で熱処理をしてDNA抽出を行い、標的配列を含む領域をPCR法により増幅した。さらにそのDNA断片の塩基配列を決定することにより、ARR1遺伝子に変異を有していることを確認した。この結果、表1に示すように、標的配列部位に変異を持つ株がそれぞれのgRNAを用いて複数得られ、合計38系統の独立なARR1遺伝子破壊株が得られた。ARR1遺伝子破壊株では、それぞれの変異によってARR1タンパク質の活性が失われたと予測された。arr1-1141株は、配列番号9に示す標的部位に2塩基の欠失(g.29_30delAC, c.29_30delAC, p.D10fs)、arr1-246株は、配列番号10に示す標的部位に1塩基の欠失(g.329delT, c.164delT, p.L55fs)、arr1-3141株は、配列番号11に示す標的部位に2塩基の欠失(g.704_705delCA, c.332_333delCA, p.H112fs)、arr1-432株は、配列番号12に示す標的部位に1塩基の欠失(g.942delA, c.442delA, p.I148fs)、arr1-10143株は、配列番号13に示す標的部位に1塩基の重複(g.1209dupC, c.538dupC, p.R180fs)が起こり、それぞれフレームシフト変異によってARR1遺伝子(ゲノム配列:配列番号1、CDS配列:配列番号3、全長アミノ酸配列:配列番号5、保存領域のアミノ酸配列:レシーバー領域(配列番号7)及びBモチーフ(配列番号8))の機能が欠損していると考えられた。また、クロロフィル含有率が減少していないコロニーに関してもDNA抽出を行い、標的配列を含む領域をPCR法により増幅後、ARR1遺伝子に変異がないことを確認した。
これらのARR1遺伝子破壊株(arr1-432, arr1-1141, arr1-246, arr1-3141, arr1-10143)及びarr1-2変異体をKJ株とともに20 mLのMA5培地で4日間、2% (v/v) CO2を通気した試験管で白色LEDライトを用いて200 μmol/m2/s、12h/12hの明暗周期下で培養し(培養開始時のOD750値は0.1)、OD750値、クロロフィル含有率及びクロロフィルa/b比を比較した(表2)。表2に示すように、すべてのARR1遺伝子破壊株(arr1-432, arr1-1141, arr1-246, arr1-3141, arr1-10143)及びarr1-2変異体で、明暗培養4日目のクロロフィル含有率がKJ株より減少し、クロロフィルa/b比はKJ株より高い値を示したほか、生育速度の指標となるOD750値はKJ株と同程度かKJ株より増加した。このことから、KJ株においてARR1遺伝子に変異を持ちARR1タンパク質の活性が低下した変異体では、クロロフィルa/b比が増大し、クロロフィル含有率が減少することが示された。
Figure 0007397437000001
Figure 0007397437000002
〔実施例2〕ARR1遺伝子破壊株の油脂生産性及びクロロフィル含有率の評価
ARR1遺伝子破壊株の油脂生産性及びクロロフィル含有率を、屋外レースウェイ培養を模擬したビーカー培養装置を用いてKJ株と比較した。
A9培地(100%濃度)の1L当たりの組成を以下に示す。pHはイオン交換水に2N 硫酸を加えて調整した。
・尿素 191 mg
・リン酸二水素アンモニウム 15.2 mg
・硫酸マグネシウム七水和物 34 mg
・硫酸カリウム 25.1 mg
・塩化カルシウム二水和物 2.9 mg
・塩化ナトリウム 2.2 mg
・Fe(III)-EDTA 3.4 mg
・ミネラル溶液(ホウ酸 70 mg/L、塩化マンガン四水和物 100 mg/L、硫酸亜鉛七水和物 300 mg/L、硫酸銅五水和物 300 mg/L、塩化コバルト六水和物 70 mg/L、モリブデン酸ナトリウム 3 mg/L) 1 mL
前培養として、ガラス製の500 mL容扁平フラスコに500 mLの200%濃度のA9培地(pH3.5)を加え、OD750=0.2の細胞密度から、OD750=4の細胞密度になるまで、25℃、白色LEDライトを用いて連続光条件(約200 μmol/m2/s)で、50 mL/minの流量で2%(v/v) CO2を常時通気しながら3日間培養した。
本培養は、屋外レースウェイ培養を模擬したビーカー培養装置を用いて行った。この培養装置は、不透明なABS樹脂で作られた円筒形培養容器で、上部に透明アクリル製のふたを持つ。この培養容器に、硫酸を加えたイオン交換水(pH3.5)750 mLと、OD750=2の前培養液50 mL、200%濃度のA9培地(pH3.5)200 mLとを混合することによって、窒素濃度45 ppmの窒素リン欠乏培地、すなわち50%濃度のA9培地を用いて、OD750=0.2の細胞密度から本培養を開始した(n=4)。培養液の深さは15 cmであった。透明アクリル製のふたを通して培養液表面に達する光量が約800 μmol/m2/sになるように植物育成用LEDライトを用いて上方より光照射した。水温は25℃となるように調整し、12時間/12時間の明暗周期下で9日間培養した。培養液は、磁気撹拌子で600 rpmの速度で撹拌しながら、2%(v/v) CO2を50 mL/minの流量でガラス管を用いて常時通気した。藻体乾燥重量は凍結乾燥後に測定し、油脂の定量はOxford社のMQCパルス核磁気共鳴装置を用いて行った。
KJ株(KJ-WT)とKJ株由来のARR1遺伝子破壊株(arr1-432)のOD750値(図1A)及びバイオマス生産量(図1B)ではARR1遺伝子破壊株の方が約1.1倍に増加し、油脂含有率(図1C)では約1.5倍に増加した。バイオマス生産量と油脂含有率を掛け合わせた油脂生産量(図1D)ではARR1遺伝子破壊株の方が約1.7倍に増加した。総クロロフィル含有率(図1E)はARR1遺伝子破壊株で約0.6倍に減少し、クロロフィルa/b比(総クロロフィル量中のクロロフィルaとbの重量比)(図1F)はARR1遺伝子破壊株の方が約1.1倍の高い値を示した。すなわち、ARR1遺伝子破壊株では、強光での屋外培養を模擬した培養条件において、KJ株よりクロロフィル含有率が減少し、クロロフィルa/b比が増加するとともに、バイオマス生産性及び油脂蓄積率が増加し、油脂生産性が向上することが示された(図1)。
さらに培地の濃度を低下させた条件で、同様にKJ株由来のARR1遺伝子破壊株(arr1-432)の油脂生産性及びクロロフィル含有率をKJ株と比較した結果を図3に示す。
前培養として、ガラス製の500 mL容扁平フラスコに500 mLの200%濃度のA9培地(pH3.5)を加え、OD750=0.2の細胞密度から、OD750=4の細胞密度になるまで同様に3日間培養した。
本培養は、同様に屋外レースウェイ培養を模擬したビーカー培養装置を用いて行った。硫酸を加えたイオン交換水(pH3.5)850 mLと、OD750=4の前培養液150 mLとを混合することによって、窒素濃度27 ppmの窒素リン欠乏培地、すなわち30%濃度のA9培地を用いて、OD750=0.6の細胞密度から本培養を開始した(n=3)。
ARR1遺伝子破壊株(arr1-432)のバイオマス生産量はKJ株より増加し(図3A)、油脂含有率も増加した(図3B)。その結果、バイオマス生産量と油脂含有率とを掛け合わせた油脂生産量も増加した(図3C)。また、クロロフィル含有率は培養開始後10日目まではKJ株より減少していたが、窒素欠乏によってクロロフィル含有率が減少するにつれて、KJ株と同等になった(図3D)。しかし、クロロフィルa/b比(クロロフィルaとbの重量比)はKJ株より高く(図3E)、ARR1遺伝子破壊株ではアンテナサイズが減少することでクロロフィル量当たりの光合成活性が高くなり、培養槽全体での光利用効率が増加することで、バイオマス生産性及び油脂含有量が増加し、油脂生産性が増加する可能性が考えられた。
〔実施例3〕ARR1遺伝子変異体のクロロフィル含有率の減少と強光耐性
ARR1遺伝子変異体及びARR1遺伝子破壊株の強光及び弱光条件における生育及びクロロフィル含有率を、MA5培地を用いた試験管培養によって親株と比較した。光はすべて試験管の横から照射し、25℃、連続光条件下で2% (v/v) CO2を常時通気しながら培養した。
白色LEDライトを用いて弱光条件(50 μmol/m2/s)で前培養後、MA5培地でOD750=0.1の細胞密度に希釈して再度白色LEDライトを用いて弱光条件(50 μmol/m2/s)(Low-light; LL)及び植物育成用LEDライトを用いて強光条件(1,000 μmol/m2/s)(High-Light; HL)で培養した結果を図4から図7に示す。
図4Aに示す通り、Obi株は弱光条件での生育が良く緑色が濃くなり、強光条件では生育が阻害され培養液は白くなったが、Obi株由来のARR1遺伝子変異体(arr1-1)では弱光条件では緑色が薄く、強光条件の方で生育が良く緑色が濃くなった。同様に、図4Bに示す通り、KJ株は弱光条件での生育が良く緑色が濃くなり、強光条件では生育が阻害され培養液は白くなったが、KJ株由来のARR1遺伝子変異体(arr1-2)及びARR1遺伝子破壊株では、弱光条件では緑色が薄く、強光条件の方で生育が良く緑色が濃くなった。
図5Aに示す通り、弱光条件でのarr1-1株のクロロフィル含有量はObi株の約1/2に減少し、KJ株由来のARR1遺伝子変異体(arr1-2)、及びARR1遺伝子破壊株(arr1-246, arr1-3141, arr1-432)のクロロフィル含有率はKJ株の約3/4に減少した。また、図5Bに示す通り、弱光条件でのクロロフィルa/b比はARR1遺伝子変異体及びARR1遺伝子破壊株において親株の1-2割程度増加していた。
Obi株、及びObi株由来のARR1遺伝子変異体(arr1-1)を連続光の強光条件(1,000 μmol/m2/s)で培養し生育を比較したところ、arr1-1株ではObi株と比べて顕著に生育が増加した(図6)。また、KJ株由来のARR1遺伝子変異体及びARR1遺伝子破壊株の生育は、弱光条件ではKJ株と差がなく、強光条件ではKJ株よりも顕著に増加していた(図7)。
これらの結果から、ARR1遺伝子の機能が欠損することで、Obi株及びKJ株はクロロフィル含有率が減少し、クロロフィルa/b比が増加し、強光耐性となることが分かった。
ARR1遺伝子の変異体の表現型は、ナンノクロロプシスのLAR1、LAR2およびLAR3遺伝子変異体の表現型(特許文献8)に一部似ているが、ARR1遺伝子がコードするARR1タンパク質の配列は、ナンノクロロプシスのLAR1、LAR2およびLAR3遺伝子がコードするLAR1タンパク質、LAR2タンパク質およびLAR3タンパク質との類似性は認められなかった。
FERM BP-10484
FERM BP-22254

Claims (8)

  1. 配列番号5又は6に示すB型レスポンスレギュレータータンパク質と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、且つB型レスポンスレギュレータータンパク質活性を有するタンパク質の活性を低下させた真核微細藻類変異体であって、親株と比較して、
    (i)クロロフィル含有率が減少すること、
    (ii)クロロフィルa/b比が増加すること、
    (iii)強光耐性となること、
    (iv)バイオマス生産性が増加すること、
    (v)油脂含有率が増加すること、及び、
    (vi)油脂生産性が増加すること、
    から成る群より選択される1以上の特徴を有する、前記真核微細藻類変異体。
  2. 前記タンパク質をコードする遺伝子を破壊した、請求項1記載の真核微細藻類変異体。
  3. 前記タンパク質をコードする遺伝子の発現を低下させた、請求項1記載の真核微細藻類変異体。
  4. 前記タンパク質をコードする遺伝子の翻訳効率を低下させた、請求項1記載の真核微細藻類変異体。
  5. 緑藻植物門(Chlorophyta)に属する、請求項1~4のいずれか1項記載の真核微細藻類変異体。
  6. トレボキシア藻網(Trebouxiophyceae)に属する、請求項5記載の真核微細藻類変異体。
  7. コッコミクサ属(Coccomyxa)に属する、請求項6記載の真核微細藻類変異体。
  8. 請求項1~7のいずれか1項記載の真核微細藻類変異体を培養する工程を含む、油脂生産方法。
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