以下、図面を参照しながら、超音波診断装置の実施形態について詳細に説明する。
1.第1の実施形態に係る超音波診断装置
図1は、第1の実施形態に係る超音波診断装置の構成を示す概略図である。
図1は、第1の実施形態に係る超音波診断装置10を示す。また、図1は、超音波プローブ20と、入力インターフェース30と、ディスプレイ40とを示す。なお、超音波診断装置10に、超音波プローブ20と、入力インターフェース30と、ディスプレイ40とのうちの少なくとも1個を加えた装置を超音波診断装置と称する場合もある。以下の説明では、超音波診断装置10の外部に、超音波プローブ20と、入力インターフェース30と、ディスプレイ40との全てが備えられる場合について説明する。
超音波診断装置10は、送受信回路11と、Bモード処理回路12と、ドプラ処理回路13と、画像生成回路14と、画像メモリ15と、ネットワークインターフェース16と、処理回路17と、メインメモリ18とを備える。回路11~14は、特定用途向け集積回路(ASIC:Application Specific Integrated Circuit)等によって構成されるものである。しかしながら、その場合に限定されるものではなく、回路11~14の機能の全部又は一部は、処理回路17がプログラムを実行することで実現されるものであってもよい。
送受信回路11は、送信回路Tと受信回路112(図4に図示)とを有する。送受信回路11は、処理回路17による制御の下、超音波の送受信における送信指向性と受信指向性とを制御する。なお、送受信回路11が超音波診断装置10に設けられる場合について説明するが、送受信回路11は、超音波プローブ20に設けられてもよいし、超音波診断装置10及び超音波プローブ20の両方に設けられてもよい。なお、送受信回路11は、送受信部の一例である。
送信回路Tは、超音波プローブ20の超音波振動子に駆動信号を供給する。なお、送信回路Tの構成については、図4を用いて後述する。受信回路112は、超音波振動子が受信した受信信号を受け、この受信信号に対して各種処理を行ってエコーデータを生成する。なお、受信回路112の構成については、図4を用いて後述する。
Bモード処理回路12は、処理回路17による制御の下、受信回路112からエコーデータを受信し、対数増幅と、包絡線検波処理等を行って、信号強度が輝度の明るさで表現されるデータ(2次元又は3次元データ)を生成する。このデータは、RAWデータ(生データ)の1種であり、一般に、Bモードデータと呼ばれる。なお、Bモード処理回路12は、Bモード処理部の一例である。
なお、Bモード処理回路12は、フィルタ処理により、検波周波数を変化させることで、映像化する周波数帯域を変えることができる。Bモード処理回路12のフィルタ処理機能を用いることにより、コントラストハーモニックイメージング(CHI:Contrast Harmonic Imaging)や、ティッシュハーモニックイメージング(THI:Tissue Harmonic Imaging)等のハーモニックイメージングを実行可能である。
すなわち、Bモード処理回路12は、造影剤が注入された被検体の反射波データから、造影剤(微小気泡、バブル)を反射源とするハーモニック成分の反射波データ(高調波データ又は分周波データ)と、被検体内の組織を反射源とする基本波成分の反射波データ(基本波データ)とを分離することができる。Bモード処理回路12は、また、ハーモニック成分の反射波データ(受信信号)から、造影画像データを生成するためのBモードデータを生成することができ、また、基本波成分の反射波データ(受信信号)から、基本波(ファンダメンタル)画像データを生成するためのBモードデータを生成することができる。
また、Bモード処理回路12のフィルタ処理機能を用いることによるTHIにおいて、被検体の反射波データから、ハーモニック成分の反射波データ(受信信号)である高調波データ又は分周波データを分離することができる。そして、Bモード処理回路12は、ハーモニック成分の反射波データ(受信信号)から、ノイズ成分を除去した組織画像データを生成するためのBモードデータを生成することができる。
さらに、CHIやTHIのハーモニックイメージングを行なう際、Bモード処理回路12は、上述したフィルタ処理を用いた方法とは異なる方法により、ハーモニック成分を抽出することができる。ハーモニックイメージングでは、振幅変調(AM:Amplitude Modulation)法や位相変調(PM:Phase Modulation)法、AM法及びPM法を組み合わせたAMPM法と呼ばれる映像法が行なわれる。AM法、PM法及びAMPM法では、同一の走査線に対して振幅や位相が異なる超音波送信を複数回行なう。
これにより、送受信回路11は、各走査線で複数の反射波データ(受信信号)を生成し出力する。そして、Bモード処理回路12は、各走査線の複数の反射波データ(受信信号)を、変調法に応じた加減算処理することで、ハーモニック成分を抽出する。そして、Bモード処理回路12は、ハーモニック成分の反射波データ(受信信号)に対して包絡線検波処理等を行なって、Bモードデータを生成する。
例えば、PM法が行なわれる場合、送受信回路11は、処理回路17が設定したスキャンシーケンスにより、例えば(-1,1)のように、位相極性を反転させた同一振幅の超音波を、各走査線で2回送信させる。そして、送受信回路11は、「-1」の送信による受信信号と、「1」の送信による受信信号とを生成し、Bモード処理回路12は、これら2つの受信信号を加算する。これにより、基本波成分が除去され、2次高調波成分が主に残存した信号が生成される。そして、Bモード処理回路12は、この信号に対して包絡線検波処理等を行なって、THIのBモードデータやCHIのBモードデータを生成する。
又は、例えば、THIでは、受信信号に含まれる2次高調波成分と差音成分とを用いて映像化を行なう方法が実用化されている。差音成分を用いた映像化法では、例えば、中心周波数が「f1」の第1基本波と、中心周波数が「f1」より大きい「f2」の第2基本波とを合成した合成波形の送信超音波を、超音波プローブ20から送信させる。この合成波形は、2次高調波成分と同一の極性を持つ差音成分が発生するように、互いの位相が調整された第1基本波の波形と第2基本波の波形とを合成した波形である。送受信回路11は、合成波形の送信超音波を、位相を反転させながら、例えば、2回送信させる。かかる場合、例えば、Bモード処理回路12は、2つの受信信号を加算することで、基本波成分が除去され、差音成分及び2次高調波成分が主に残存したハーモニック成分を抽出した後、包絡線検波処理等を行なう。
ドプラ処理回路13は、処理回路17による制御の下、受信回路112からのエコーデータから速度情報を周波数解析し、平均速度、分散、パワー等の移動体の移動情報を多点について抽出したデータ(2次元又は3次元データ)を生成する。このデータは、生データの1種であり、一般に、ドプラデータと呼ばれる。ここで、移動体とは、例えば、血流や、心壁等の組織、造影剤である。なお、ドプラ処理回路13は、ドプラ処理部の一例である。
画像生成回路14は、処理回路17による制御の下、超音波プローブ20が受信した受信信号に基づいて、所定の輝度レンジで表現された超音波画像を画像データとして生成する。例えば、画像生成回路14は、超音波画像として、Bモード処理回路12によって生成された2次元のBモードデータから反射波の強度を輝度にて表したBモード画像を生成する。また、画像生成回路14は、超音波画像として、ドプラ処理回路13によって生成された2次元のドプラデータから移動態情報を表す平均速度画像、分散画像、パワー画像、又は、これらの組み合わせ画像としてのカラードプラ画像を生成する。なお、画像生成回路14は、画像生成部の一例である。
ここで、画像生成回路14は、一般的には、超音波走査の走査線信号列を、テレビ等に代表されるビデオフォーマットの走査線信号列に変換(スキャンコンバート)し、表示用の超音波画像データを生成する。具体的には、画像生成回路14は、超音波プローブ20による超音波の走査形態に応じて座標変換を行なうことで、表示用の超音波画像データを生成する。また、画像生成回路14は、スキャンコンバート以外に、種々の画像処理として、例えば、スキャンコンバート後の複数の画像フレームを用いて、輝度の平均値画像を再生成する画像処理(平滑化処理)や、画像内で微分フィルタを用いる画像処理(エッジ強調処理)等を行なう。また、画像生成回路14は、超音波画像データに、種々のパラメータの文字情報、目盛り、ボディーマーク等を合成する。
すなわち、Bモードデータ及びドプラデータは、スキャンコンバート処理前の超音波画像データであり、画像生成回路14が生成するデータは、スキャンコンバート処理後の表示用の超音波画像データである。なお、Bモードデータ及びドプラデータは、生データ(Raw Data)とも呼ばれる。画像生成回路14は、スキャンコンバート処理前の2次元超音波画像データから、表示用の2次元超音波画像データを生成する。
更に、画像生成回路14は、Bモード処理回路12によって生成された3次元のBモードデータに対して座標変換を行なうことで、3次元Bモード画像データを生成する。また、画像生成回路14は、ドプラ処理回路13によって生成された3次元のドプラデータに対して座標変換を行なうことで、3次元ドプラ画像データを生成する。画像生成回路14は、「3次元のBモード画像データや3次元ドプラ画像データ」を「3次元超音波画像データ(ボリュームデータ)」として生成する。
さらに、画像生成回路14は、ボリュームデータをディスプレイ40にて表示するための各種の2次元画像データを生成するために、ボリュームデータに対してレンダリング処理を行なう。画像生成回路14は、レンダリング処理として、例えば、断面再構成法(MPR:Multi Planer Reconstruction)を行なってボリュームデータからMPR画像データを生成する処理を行う。また、画像生成回路14は、レンダリング処理として、例えば、3次元の情報を反映した2次元画像データを生成するボリュームレンダリング(VR:Volume Rendering)処理を行う。
画像メモリ15は、1フレーム当たり2軸方向に複数のメモリセルを備え、それを複数フレーム分備えたメモリである2次元メモリを含む。画像メモリ15としての2次元メモリは、処理回路17の制御による制御の下、画像生成回路14によって生成された1フレーム、又は、複数フレームに係る超音波画像を2次元画像データとして記憶する。なお、画像メモリ15は、記憶部の一例である。
画像生成回路14は、処理回路17による制御の下、画像メモリ15としての2次元メモリに配列された超音波画像に対し、必要に応じて補間処理を行う3次元再構成を行うことで、画像メモリ15としての3次元メモリ内に超音波画像をボリュームデータとして生成する。補間処理方法としては、公知の技術が用いられる。
画像メモリ15は、3軸方向(X軸、Y軸、及びZ軸方向)に複数のメモリセルを備えたメモリである3次元メモリを含む場合もある。画像メモリ15としての3次元メモリは、処理回路17の制御による制御の下、画像生成回路14によって生成された超音波画像をボリュームデータとして記憶する。
ネットワークインターフェース16は、ネットワークの形態に応じた種々の情報通信用プロトコルを実装する。ネットワークインターフェース16は、この各種プロトコルに従って、超音波診断装置10と、外部の医用画像管理装置60及び医用画像処理装置70等の他の機器とを接続する。この接続には、電子ネットワークを介した電気的な接続等を適用することができる。ここで、電子ネットワークとは、電気通信技術を利用した情報通信網全般を意味し、無線/有線の病院基幹のLAN(Local Area Network)やインターネット網のほか、電話通信回線網、光ファイバ通信ネットワーク、ケーブル通信ネットワーク及び衛星通信ネットワーク等を含む。
また、ネットワークインターフェース16は、非接触無線通信用の種々のプロトコルを実装してもよい。この場合、超音波診断装置10は、例えば超音波プローブ20と、ネットワークを介さず直接にデータ送受信することができる。なお、ネットワークインターフェース16は、ネットワーク接続部の一例である。
処理回路17は、専用又は汎用のCPU(central processing unit)、MPU(micro processor unit)、又はGPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサの他、ASIC、プログラマブル論理デバイス等を意味する。プログラマブル論理デバイスとしては、例えば、単純プログラマブル論理デバイス(SPLD:simple programmable logic device)、複合プログラマブル論理デバイス(CPLD:complex programmable logic device)、及び、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA:field programmable gate array)等が挙げられる。
また、処理回路17は、単一の回路によって構成されてもよいし、複数の独立した回路要素の組み合わせによって構成されてもよい。後者の場合、メインメモリ18は回路要素ごとに個別に設けられてもよいし、単一のメインメモリ18が複数の回路要素の機能に対応するプログラムを記憶するものであってもよい。なお、処理回路17は、処理部の一例である。
メインメモリ18は、RAM(random access memory)、フラッシュメモリ(flash memory)等の半導体メモリ素子、ハードディスク、光ディスク等によって構成される。メインメモリ18は、USB(universal serial bus)メモリ及びDVD(digital video disk)等の可搬型メディアによって構成されてもよい。メインメモリ18は、処理回路17において用いられる各種処理プログラム(アプリケーションプログラムの他、OS(operating system)等も含まれる)や、プログラムの実行に必要なデータを記憶する。また、OSに、操作者に対するディスプレイ40への情報の表示にグラフィックを多用し、基礎的な操作を入力インターフェース30によって行うことができるGUI(graphical user interface)を含めることもできる。なお、メインメモリ18は、記憶部の一例である。
超音波プローブ20は、前面部に複数個の微小な振動子(圧電素子)を備え、スキャン対象を含む領域、例えば管腔体を含む領域に対して超音波の送受波を行う。各振動子は電気音響変換素子であり、送信時には電気パルスを超音波パルスに変換し、また、受信時には反射波を電気信号(受信信号)に変換する機能を有する。超音波プローブ20は小型、軽量に構成されており、ケーブル(又は無線通信)を介して超音波診断装置10に接続される。
超音波プローブ20は、スキャン方式の違いにより、リニア型、コンベックス型、及びセクタ型等の種類に分けられる。また、超音波プローブ20は、アレイ配列次元の違いにより、アジマス方向に1次元(1D)的に複数個の振動子が配列された1Dアレイプローブと、アジマス方向かつエレベーション方向に2次元(2D)的に複数個の振動子が配列された2Dアレイプローブとの種類に分けられる。なお、1Dアレイプローブは、エレベーション方向に少数の振動子が配列されたプローブを含む。
ここで、3Dスキャン、つまり、ボリュームスキャンが実行される場合、超音波プローブ20として、リニア型、コンベックス型、及びセクタ型等のスキャン方式を備えた2Dアレイプローブが利用される。又は、ボリュームスキャンが実行される場合、超音波プローブ20として、リニア型、コンベックス型、及びセクタ型等のスキャン方式を備え、エレベーション方向に機械的に揺動する機構を備えた1Dプローブが利用される。後者のプローブは、メカ4Dプローブとも呼ばれる。
入力インターフェース30は、操作者によって操作が可能な入力デバイスと、入力デバイスからの信号を入力する入力回路とを含む。入力デバイスは、トラックボール、スイッチ、マウス、キーボード、操作面に触れることで入力操作を行うタッチパッド、表示画面とタッチパッドとが一化されたタッチスクリーン、光学センサを用いた非接触入力デバイス、及び音声入力デバイス等によって実現される。操作者により入力デバイスが操作されると、入力回路はその操作に応じた信号を生成して処理回路17に出力する。
また、入力インターフェース30は、後述する受信フィルタの周波数特性を調整するための調整スイッチを更に含むことができる。なお、入力インターフェース30は、入力部の一例である。
ディスプレイ40は、例えば液晶ディスプレイやOLED(Organic Light Emitting Diode)ディスプレイ等の一般的な表示出力装置により構成される。ディスプレイ40は、処理回路17の制御に従って各種情報を表示する。なお、ディスプレイ40は、表示部の一例である。
また、図1は、超音波診断装置10の外部機器である医用画像管理装置60及び医用画像処理装置70を示す。医用画像管理装置60は、例えば、DICOM(Digital Imaging and Communications in Medicine)サーバであり、ネットワークNを介してデータ送受信可能に超音波診断装置10等の機器に接続される。医用画像管理装置60は、超音波診断装置10によって生成された超音波画像等の医用画像をDICOMファイルとして管理する。
医用画像処理装置70は、ネットワークNを介してデータ送受信可能に超音波診断装置10や医用画像管理装置60等の機器に接続される。医用画像処理装置70としては、例えば、超音波診断装置10によって生成された超音波画像に対して各種画像処理を施すワークステーションや、タブレット端末等の携帯型情報処理端末等が挙げられる。なお、医用画像処理装置70はオフラインの装置であって、超音波診断装置10によって生成された超音波画像を可搬型の記憶媒体を介して読み出し可能な装置であってもよい。
続いて、送受信回路11に設けられる受信回路112の構成及び機能の概念について、図2及び図3を用いて説明する。
送受信回路11に設けられる受信回路112は、周波数特性解析回路(例えば、図4の周波数特性解析回路57)と、フィルタ設定回路(例えば、図4のフィルタ設定回路58)と、フィルタ処理回路(例えば、図4のフィルタ処理回路56)とを有する。周波数特性解析回路は、超音波プローブ20からの超音波の受信信号に基づいて、所定の深度の受信信号を周波数解析して周波数特性を取得する。フィルタ設定回路は、周波数特性解析回路によって取得された所定の深度の周波数特性が所定の周波数特性を示すように所定の深度の周波数特性を補正する受信フィルタを設定する。フィルタ処理回路は、所定の深度の受信信号に、フィルタ設定回路によって設定された受信フィルタをフィードバックさせて適用する。
例えば、周波数特性解析回路は、深度に応じた各関心領域内の受信信号を周波数解析して周波数特性を関心領域ごとに取得する。フィルタ設定回路は、周波数特性解析回路によって取得された各関心領域の周波数特性が所定の周波数特性を示すように各関心領域の周波数特性を関心領域ごとに補正する受信フィルタを設定する。フィルタ処理回路は、各関心領域内の受信信号に、フィルタ設定回路によって設定された受信フィルタを関心領域ごとにフィードバックさせて適用する。
つまり、フィルタ設定回路は、深度に応じて可変であり、かつ、広範囲に亘り略フラットな帯域幅をもつ周波数特性を示すように受信信号を補正する受信フィルタを設定する。なお、略フラットとは、波形を形成する各点がつくる接線の傾きの絶対値が閾値以下の場合、つまり、ある程度緩やかな場合を意味する。加えて、受信フィルタは、中心周波数を中心として低周波側と高周波側とで対称(例えば、ガウス関数)の周波数特性を示すように受信信号を補正するものであってもよい。
図2は、設計上の周波数特性に近い略フラットの帯域幅をもつ目標の周波数特性を説明するための概念図である。
図2(A),(B)はそれぞれ、左側から、設計上の周波数特性と、臨床における当該関心領域内の受信信号に基づく周波数特性と、設計上の略フラットな帯域幅に近い略フラットな帯域幅の周波数特性をもつ目標の周波数特性とを示す。図2(A)は、臨床において超音波減衰が少なく高周波が支配的な場合、特に浅部の周波数特性を示す。図2(B)は、臨床において超音波減衰が多く低周波が支配的な場合、特に深部の周波数特性を示す。
フィルタ設定回路は、図2(A)の左側に示す設計上の周波数特性と、中央に示す臨床の周波数特性とから、右側に示す目標の周波数特性を算出する。例えば、目標の周波数特性は、広帯域で略フラットになるような特性を有する。
図2(A)の右側に示すように、目標の周波数特性は、高周波側で広帯域となり、高周波側と低周波側とで強度に偏りのないものとなる。フィルタ設定回路が設定する受信フィルタは、図2(A)の中央に示す臨床の周波数特性が、左側に示す略フラットな帯域幅に近づくように、臨床の周波数特性の波形を整形するものである。
一方で、フィルタ設定回路は、図2(B)の左側に示す設計上の周波数特性と、中央に示す臨床の周波数特性とから、右側に示す目標の周波数特性を算出する。例えば、目標の周波数特性は、広帯域で略フラットになるような特性を有する。
図2(B)の右側に示すように、目標の周波数特性は、低周波側で広帯域となり、高周波側と低周波側とで強度に偏りのないものとなる。フィルタ設定回路が設定する受信フィルタは、図2(B)の中央に示す臨床の周波数特性が、左側に示す略フラットな帯域幅に近づくように、臨床の周波数特性の波形を整形するものである。
図3は、受信フィルタの設定方法を説明するための概念図である。
図3(A)は、1フレーム分の受信信号のうち、深度に応じた関心領域内の受信信号を周波数解析して取得された周波数特性を示し、図2(B)の中央の波形と同一である。図3(B)は、図3(A)に示す周波数特性から算出される重心を破線として示す。図3(C)は、図3(B)に示す重心と目標の信号強度とによって設定される目標の略フラットな帯域幅を示す。
図3(D)は、図3(C)に示す信号強度をもち、目標の略フラットな帯域幅に近づけられた略フラットな帯域幅をもつ周波数特性を太い実線として示す。図3(E)は、図3(A)に示す周波数特性が、図3(D)に示す目標の周波数特性を示すように設定された受信フィルタを太い実線として示す。
図3(A)~(E)に示すように、フィルタ設定回路は、臨床における各関心領域内の受信信号の周波数特性が示す略フラットな帯域幅を設計上の周波数特性が示す略フラットな帯域幅に近づけるような受信フィルタを設定する。
なお、周波数特性を求めるための受信信号は、RF信号でもよく、又は、I/Q信号でもよい。つまり、ビームフォーミングの方法は、RF信号を遅延加算した後で直交検波(復調)を行いI(In-phase)信号及びQ(Quadrature-phase)信号からなるI/Q信号に変換して超音波画像を生成するRFビームフォーミングであってもよいし、又は、RF信号の直交検波を行ってI/Qのベースバンドに変換した後で遅延加算して超音波画像を生成するI/Qビームフォーミングであってもよい。以下、特に言及しない限り、周波数特性を求めるための受信信号がI/Q信号である場合、つまり、I/Qビームフォーミングが採用される場合を例に採って説明する。
続いて、送受信回路11に設けられる受信回路112の具体的な構成及び機能について、図4~図12を用いて説明する。
図4は、送受信回路11の構成を示すブロック図である。
図4は、送受信回路11に設けられる送信回路Tと、受信回路112とを示す。送信回路Tは、パルス発生回路T1と、送信遅延回路T2と、駆動回路(例えば、パルサ)T3とを有し、超音波プローブ20の超音波振動子に駆動信号を供給する。パルス発生回路T1は、所定のレート周波数で、送信超音波を形成するためのレートパルスを繰り返し発生する。送信遅延回路T2は、超音波振動子から発生される超音波をビーム状に集束して送信指向性を決定するために必要な圧電振動子ごとの遅延時間を、パルス発生回路T1が発生する各レートパルスに対し与える。送信遅延回路T2は、各レートパルスに対し与える遅延時間を変化させることで、圧電振動子面から送信される超音波ビームの送信方向を任意に調整する。また、駆動回路T3は、レートパルスに基づくタイミングで、超音波振動子に駆動パルスを印加する。
受信回路112は、アンプ51と、A/D(Analog to Digital)変換回路52と、直交検波回路53と、受信遅延回路54と、加算回路55と、フィルタ処理回路56と、周波数特性解析回路57と、フィルタ設定回路58とを備える。
アンプ51は、処理回路17による制御の下、超音波プローブ20からの受信信号をチャンネル毎に増幅してゲイン補正処理を行う機能を有する。アンプ51は、ゲインを制御することで、超音波画像の画質を良化することができる。
A/D変換回路52は、処理回路17による制御の下、アンプ51の出力である、ゲイン補正された受信信号をチャンネル毎にA/D変換する機能を有する。
直交検波回路53は、受信信号であるRF信号を直交検波してI信号及びQ信号からなるI/Q信号にチャンネル毎に変換する機能を有する。
受信遅延回路54は、処理回路17による制御の下、直交検波回路53の出力であるI/Q信号に受信指向性を決定に必要な遅延時間をチャンネル毎に与える機能を有する。受信遅延回路54は、I/Q信号に与える受信遅延カーブを制御することで、超音波画像の画質を良化することができる。
加算回路55は、受信遅延回路54の出力であるI/Q信号に、チャンネル毎に位相回転及び重み付け制御(アポダイゼーション)を行い、得られたI/Q信号の加算処理を行ってI/Q信号のビームデータを生成する機能を有する。加算回路55の加算処理により、受信信号の受信指向性に応じた方向からの反射成分が強調される。
フィルタ処理回路56は、処理回路17による制御の下、加算回路55の出力であるI/Q信号に、任意の複素受信フィルタを適用する機能と、複素受信フィルタが適用された後のI/Q信号をBモード処理回路12や、ドプラ処理回路13に出力する機能とを有する。なお、フィルタ処理回路56は、フィルタ処理部の一例である。
以上説明したように、アンプ51によるゲイン制御や、受信遅延回路54による受信遅延カーブの制御により超音波画像の画質をある程度良化することができる。しかし、超音波減衰が個人ごと、深度ごとに変化するため、それらの制御だけでは超音波の画質の最適化までは困難である。そこで、送受信回路11に設けられる受信回路112は、周波数特性解析回路57と、フィルタ設定回路58とを有する。
周波数特性解析回路57は、処理回路17による制御の下、加算回路55の出力であるI/Q信号に基づいて、深度に応じた各関心領域内のI/Q信号を周波数解析して周波数特性を取得する機能を有する。例えば、周波数特性解析回路57は、各関心領域内のI/Q信号に高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)を施すことにより周波数解析を行うことができる。なお、周波数特性解析回路57は、周波数特性解析部の一例である。
フィルタ設定回路58は、処理回路17による制御の下、周波数特性解析回路57の出力である各関心領域の周波数特性が所定の周波数特性を示すように補正する各関心領域の複素受信フィルタを設定する機能を有する。複素受信フィルタのフィルタ係数は、実部(Real)及び虚部(Imaginary)からなる複素係数である。
I/Qビームフォーミングの場合であって、各関心領域内のI/Q信号の波形がRF信号の波形の周波数をわずかに変化させる場合、変調信号を複素振幅として扱うことができる。なお、フィルタ設定回路58は、フィルタ設定部の一例である。
フィルタ処理回路56は、上述の機能に加え、処理回路17による制御の下、加算回路55の出力である各関心領域内のI/Q信号に、フィルタ設定回路58の出力である各関心領域の複素受信フィルタを関心領域ごとにフィードバックさせて適用する機能と、複素受信フィルタが適用されたI/Q信号をベースバンドデータとしてBモード処理回路12又はドプラ処理回路13に出力する機能とを有する。
続いて、超音波診断装置10の動作について説明する。
図5及び図6は、超音波診断装置10の動作をフローチャートとして示す図である。図5及び図6において、「ST」に数字を付した符号はフローチャートの各ステップを示す。なお、図5及び図6において、I/Qビームフォーミングの場合、つまり、受信フィルタが複素受信フィルタである場合を例にとって説明する。
図5に示すように、超音波診断装置10の処理回路17は、送受信回路11等を制御して、超音波プローブ20を用いた超音波スキャンを開始させる(ステップST1)。
周波数特性解析回路57は、加算回路55の出力である1フレーム分のI/Q信号を取得する(ステップST2)。周波数特性解析回路57は、ステップST2によって取得された1フレーム分のI/Q信号のうち、深度に応じた関心領域内のI/Q信号を周波数解析して周波数特性を取得する(ステップST3)。
フィルタ設定回路58は、ステップST3によって取得された当該関心領域の周波数特性が所定の周波数特性を示すように、当該関心領域の周波数特性の波形を補正する複素受信フィルタを当該関心領域について設定する。具体的には、後述するステップST4~ST8による。フィルタ設定回路58は、ステップST3によって取得された当該関心領域の周波数特性から重心を算出する(ステップST4)。
フィルタ設定回路58は、目標の信号強度を設定する(ステップST5)。フィルタ設定回路58は、ステップST3によって取得された周波数特性の波形と、ステップST4によって設定された重心と、ステップST5によって設定された目標の信号強度と、設計上の周波数特性が示す略フラットな帯域幅とから目標の周波数特性を設定する(ステップST6)。なお、設計上の周波数特性は、超音波スキャンが開始される前に予め設定されるもの、または、取得された周波数特性に応じて最適化されるものである。
例えば、フィルタ設定回路58は、重心の位置付近で目標の信号強度となり、かつ、設計上の略フラットな帯域幅に近い略フラットな帯域幅をもつ波形を求める。その波形は、ステップST3によって取得された臨床の周波数特性の波形に基づくものであり、例えば、臨床の周波数特性の波形を包絡線とすることができる。
フィルタ設定回路58は、ステップST3によって取得された当該関心領域内のI/Q信号の周波数特性が、ステップST6によって設定された目標の周波数特性を示すように波形を整形する複素受信フィルタを当該関心領域について設定し(ステップST7)、当該関心領域の複素受信フィルタをメインメモリ18に保存する(ステップST8)。操作者は、入力インターフェース30(調整スイッチ)を介して、設定された複素受信フィルタの周波数特性を調整してもよい。
図7は、当該関心領域の複素受信フィルタを示す図である。
図7(A)は、当該関心領域内のI/Q信号の周波数特性と、当該関心領域の目標の周波数特性と、当該関心領域の複素受信フィルタの周波数特性とを示す。当該関心領域内のI/Q信号の周波数特性が、目標の周波数特性を示すように波形を整形する複素受信フィルタが関心領域ごとに設定される。
また、I/Qビームフォーミングの場合であって、各関心領域内のI/Q信号の波形がRF信号の波形の周波数をわずかに変化させる場合、変調信号を複素振幅として扱うことができる。図7(B)は、複素受信フィルタのフィルタ係数の一例を示す図である。図7(B)に示すように、複素受信フィルタのフィルタ係数は、実部及び虚部からなる複素係数である。
図5の説明に戻って、フィルタ設定回路58は、全ての深度、つまり、全ての関心領域で複素受信フィルタが設定されたか否かを判断する(ステップST9)。ステップST9の判断にてNO、つまり、全ての関心領域で複素受信フィルタが設定されていないと判断された場合、周波数特性解析回路57は、関心領域の深度をシフトし(ステップST10)、ステップST2によって取得された1フレーム分のI/Q信号に基づき、シフト後の関心領域内のI/Q信号を周波数解析して周波数特性を取得する(ステップST3)。
一方、ステップST9の判断にてYES、つまり、全ての関心領域で複素受信フィルタが設定されたと判断された場合、図6のステップST11に進む。
図8は、各関心領域の複素受信フィルタのフィルタ係数を示す図である。図8は、深度方向に8分割した場合の各関心領域の複素受信フィルタのフィルタ係数を示す。
図8(A)は、各関心領域、つまり、各深度の実部成分のフィルタ係数を示す。図8(B)は、各関心領域、つまり、各深度の虚部成分のフィルタ係数を示す。図8(A),(B)に示すように、各関心領域の実部成分及び虚部成分において、適切なフィルタ係数が算出される。
図6の説明に戻って、フィルタ処理回路56は、加算回路55の出力である1フレーム分のI/Q信号に、ステップST8によって登録された関心領域ごとの複素受信フィルタをフィードバックさせて適用する(ステップST11)。
図9は、所定の関心領域内のI/Q信号に複素受信フィルタを適用した場合の効果を周波数特性として示す図である。
図9は、1フレーム分のI/Q信号に複素受信フィルタを適用する前の周波数特性を示す。また、図9は、1フレーム分のI/Q信号のうち、所定の関心領域内のI/Q信号に複素受信フィルタを適用した後の周波数特性を示す。加算回路55の出力である臨床の1フレーム分のI/Q信号に、ステップST8によって登録された関心領域ごとの複素受信フィルタをフィードバックさせて適用すると、臨床の1フレーム分のI/Q信号の周波数特性が目標の周波数特性に補正され、略フラットな帯域幅が拡がることになる。
図6の説明に戻って、Bモード処理回路12(又は、ドプラ処理回路13)及び画像生成回路14は、ステップST11によって複素受信フィルタが適用された全範囲のI/Q信号に基づいて1フレーム分の超音波画像を生成する(ステップST12)。
図10は、所定の関心領域内のI/Q信号に複素受信フィルタを適用した場合の効果を超音波画像(例えば、Bモード画像)として示す図である。図10が示すBモード画像の撮像対象(部位)は、腎臓である。
図10(A)は、1フレーム分のI/Q信号に複素受信フィルタを適用する前のBモード画像を示す。図10(B)は、1フレーム分のI/Q信号のうち、所定の関心領域、例えば、関心領域R内のI/Q信号に複素受信フィルタを適用した後のBモード画像を示す。
図10(A)に示すBモード画像領域と、図10(B)に示すBモード画像領域とを比較する。図10(B)に示すBモード画像領域によれば、腎臓の関心領域R内の構造物の距離分解能が改善されることで画質が最適化され、関心領域R内をより明瞭に視認することができる。
図6の説明に戻って、処理回路17は、ステップST1によって開始された超音波スキャンを終了するか否かを判断する(ステップST13)。例えば、入力インターフェース30を介した操作者による終了操作により、処理回路17は、超音波スキャンを終了するか否かを判断する。ステップST13の判断にてNO、つまり、ステップST1によって開始された超音波スキャンを終了しないと判断される場合、次のフレームに進み(ステップST14)、フィルタ処理回路56は、次の1フレーム分のI/Q信号に、ステップST8によって登録された複素受信フィルタの係数をフィードバックさせて適用する(ステップST11)。
一方、ステップST13の判断にてYES、つまり、ステップST1によって開始された超音波スキャンを終了すると判断される場合、超音波診断装置10の処理回路17は、送受信回路11等を制御して、超音波プローブ20を用いた超音波スキャンを終了させる。
なお、図5及び図6において、同一患者、かつ、同一撮影部位に対する超音波スキャンにおいて、1度設定されて登録された複素受信フィルタを、その後に生成される複数フレームのI/Q信号に適用する場合について説明した。つまり、同一撮影部位のスキャンであれば、一連の超音波検査中においては同一の複素受信フィルタを援用するものである。しかしながら、その場合に限定されるものではない。例えば、複素受信フィルタは、各フレームにおいて毎回設定されるものであってもよいし、一定間隔で設定されるものであってもよい。超音波プローブ20の動きに応じて、複素受信フィルタの設定の要否をフレームごとに切り替えられるようにしてもよい。
その場合、周波数特性解析回路57は、スキャン断面を示す値の変化が閾値以上であるか否かを判断し、スキャン断面を示す値の変化が閾値以上であると判断する場合に、判断後であってスキャン断面を示す値の変化が殆どなく閾値未満であると判断するときに、再びI/Q信号の周波数解析を行ってもよいし、もともと固定値として装置に設定されている複素受信フィルタに戻してもよい。スキャン断面を示す値は、当該スキャン断面に対応する超音波プローブ20の位置及び角度のうち少なくとも一方を示す値である。又は、スキャン断面を示す値は、当該スキャン断面に対応する超音波画像の輝度値である。超音波画像の輝度値とは、超音波画像(又はその関心領域)を構成する複数画素における平均輝度値、最大輝度値、最小輝度値、又は、輝度値のばらつきを意味する。
つまり、超音波プローブ20の位置や角度がフレーム間である程度変化している間は、スキャン断面を示す値の変化が閾値以上となるので、複素受信フィルタの再設定は行われない。又は、超音波画像(又はその関心領域)を構成する複数画素の平均輝度値がフレーム間である程度変化している間は、スキャン断面を示す値の変化が閾値以上となるので、複素受信フィルタの再設定は行われない。なお、スキャン断面を示す値の変化は、超音波プローブ20に設けられる超音波プローブ20の角度を測定可能な加速度センサ(図示省略)や、磁界を発生させて超音波プローブ20の位置及び角度を測定可能な磁気センサ(図示省略)が取得するデータに基づけばよい。または、センサを使わない場合は画像情報の時間的変化からスキャン断面を示す値の変化を検出してもよい。
さらに、過去に設定された複素受信フィルタと、スキャン断面を示す値(例えば、超音波プローブ20の位置)とをメインメモリ18に登録させておいてもよい。その場合、フィルタ処理回路56は、一連の超音波検査において過去と同一位置のスキャン断面がスキャンされたと判断された場合、メインメモリ18から、当該スキャン断面に対応する複素受信フィルタを取得して援用してもよい。これにより、複素受信フィルタの設定のための負荷が低減される。
設計上の周波数帯域から超音波減衰の多寡により実際の周波数特性が歪むが、超音波診断装置10によれば、その歪みを瞬時(又は、略リアルタイム)に補正することができる。それにより、超音波減衰に起因する画質劣化を抑制することができるので、高画質の超音波画像を提供することができる。
2.第1の変形例
フィルタ設定回路58は、受信フィルタを設定するために、各関心領域内のI/Q信号の周波数特性から、1つの目標の周波数特性を求める場合に限定されるものではない。例えば、フィルタ設定回路58は、複数の周波数成分を合成して、つまり、周波数コンパウンドして超音波画像を生成する場合、各関心領域で設定される各周波数成分に対して、複素受信フィルタを設定する。フィルタ設定回路58は、各関心領域内のI/Q信号の周波数特性から、低周波側の目標の周波数特性と高周波側の目標の周波数特性とを求める。
その場合、フィルタ処理回路56は、各目標の周波数特性を示すように臨床の周波数特性を補正し、画像生成回路14は、各目標の周波数特性で得られた超音波画像を合成する。これにより、コントラスト分解能の向上と結果画像の均一性の向上という効果がある。
図11は、周波数コンパウンドを説明するための図である。
図11の上段は、ターゲット、つまり、撮影対象の深度の関心領域における低周波側の目標の周波数特性(中心周波数f1)と高周波側の目標の周波数特性(中心周波数f2)とを示す。図11の下段は、超音波減衰が多い深部の関心領域における低周波側の目標の周波数特性(中心周波数f1)と高周波側の目標の周波数特性(中心周波数f2)とを示す。周波数コンパウンドが行われる場合、図11に示すように、低周波側の目標の周波数特性と高周波側の目標の周波数特性とで、レベル、つまり、強度を合せることが好適である。
3.第2の変形例
周波数特性解析回路57は、深度に応じた各関心領域内のI/Q信号を周波数解析する場合、各関心領域を、画像領域におけるスキャン方向の中心位置を含むように設定すればよい。所望される領域は画像領域の中心位置付近である場合が多いからである。しかしながら、その場合に限定されるものではない。例えば、周波数特性解析回路57は、同一深度において複数の関心領域を設定し、複数の関心領域の中から選択される関心領域を周波数解析することもできる。
図12は、同一深度における複数の関心領域からの所定の関心領域の選択方法を示す図である。
図12は、Bモード画像の画像領域を模擬している。同一深度についてスキャン方向(図12中の横方向)に沿って複数の関心領域が設定される。そして、周波数特性解析回路57は、同一深度における複数の関心領域について、スキャン方向の中心位置から外側位置に向けて順にS/N(Signal to Noise)が閾値より高いか否かのノイズ判定を行う。例えば、周波数特性解析回路57は、画像領域の最浅部において、スキャン方向の中心位置の関心領域についてノイズ判定を行い、当該関心領域が信号領域であると判定し、当該関心領域について周波数解析を行う。
続いて、周波数特性解析回路57は、画像領域の2番目の浅部において、スキャン方向の中心位置の関心領域についてノイズ判定を行い、当該関心領域がノイズ領域であると判定する。引き続き、周波数特性解析回路57は、画像領域の2番目の浅部において、中心位置の左隣の関心領域についてノイズ判定を行い、当該関心領域が信号領域であると判定し、当該関心領域について周波数解析を行う。
続いて、周波数特性解析回路57は、画像領域の3番目の浅部において、スキャン方向の中心位置の関心領域についてノイズ判定を行い、当該関心領域がノイズ領域であると判定する。引き続き、周波数特性解析回路57は、画像領域の3番目の浅部において、中心位置の左隣の関心領域についてノイズ判定を行い、当該関心領域がノイズ領域であると判定する。引き続き、周波数特性解析回路57は、画像領域の3番目の浅部において、中心位置の右隣の関心領域についてノイズ判定を行い、当該関心領域が信号領域であると判定し、当該関心領域について周波数解析を行う。
ここで、ある深度における複数の関心領域の中に信号領域が存在しない場合を有り得る。その場合、当該深度の受信フィルタとして、予め装置に設定されているダイナミックフィルタを利用するか、深さ方向の隣で設定された1つ受信フィルタを利用するか、深さ方向の両隣で設定された2つ受信フィルタの代表値(例えば、平均値)を利用する。
なお、同一深度についてスキャン方向に沿って複数の関心領域が設定される場合に、フィルタ設定回路58は、複数の関心領域に対して異なる複素受信フィルタを設定してもよい。この場合、同一深度についてスキャン方向に沿う複数の関心領域の設定は、スキャンコンバート前の生データ空間上に格子状に分割された複数の関心領域を設定し、各格子内のI/Q信号の周波数解析を行う。
以上のように、超音波診断装置10によれば、深度に応じて複素受信フィルタを制御することで、超音波減衰に起因する画質劣化を抑制することができる。それにより、高画質の超音波画像を提供することができる。
4.第2の実施形態に係る超音波診断装置
上述の第1の実施形態は、超音波の受信側、つまり、深度に応じた複素受信フィルタの制御により、高画質の超音波画像の提供を実現するものである。しかしながら、超音波の送信側、つまり、ビームの深部到達度に応じた送信周波数の制御により、高画質の超音波画像の提供を実現してもよい。その場合について、第2の実施形態に係る超音波診断装置として以下で説明する。
図13は、第2の実施形態に係る超音波診断装置の構成を示す概略図である。
図13は、第2の実施形態に係る超音波診断装置10Aを示す。また、図13は、超音波プローブ20と、入力インターフェース30と、ディスプレイ40とを示す。なお、超音波診断装置10Aに、超音波プローブ20と、入力インターフェース30と、ディスプレイ40とのうちの少なくとも1個を加えた装置を超音波診断装置と称する場合もある。以下の説明では、超音波診断装置10Aの外部に、超音波プローブ20と、入力インターフェース30と、ディスプレイ40との全てが備えられる場合について説明する。
超音波診断装置10Aは、送受信回路11Aと、Bモード処理回路12と、ドプラ処理回路13と、画像生成回路14と、画像メモリ15と、ネットワークインターフェース16と、処理回路17と、メインメモリ18とを備える。回路11A,12~14は、特定用途向け集積回路等によって構成されるものである。しかしながら、その場合に限定されるものではなく、回路11A,12~14の機能の全部又は一部は、処理回路17がプログラムを実行することで実現されるものであってもよい。
なお、図13において、図1に示す部材と同一部位には同一符号を付して説明を省略する。
送受信回路11Aは、送信回路111と受信回路U(図14に図示)とを有する。送受信回路11Aは、処理回路17による制御の下、超音波の送受信における送信指向性と受信指向性とを制御する。なお、送受信回路11Aが超音波診断装置10Aに設けられる場合について説明するが、送受信回路11Aは、超音波プローブ20に設けられてもよいし、超音波診断装置10A及び超音波プローブ20の両方に設けられてもよい。なお、送受信回路11Aは、送受信部の一例である。
送信回路111は、超音波プローブ20の超音波振動子に駆動信号を供給する。なお、送信回路111の構成については、図14を用いて後述する。受信回路Uは、超音波振動子が受信した受信信号を受け、この受信信号に対して各種処理を行ってエコーデータを生成する。なお、受信回路Uの構成については、図14を用いて後述する。
図14は、送受信回路11Aの構成を示すブロック図である。
図14は、送受信回路11Aに設けられる送信回路111と、受信回路Uとを示す。受信回路Uは、アンプU1と、A/D変換回路U2と、直交検波回路U3と、受信遅延回路U4と、加算回路U5と、フィルタ処理回路U6とを有し、超音波振動子が受信したエコー信号を受け、このエコー信号に対して各種処理を行ってエコーデータを生成する。
なお、アンプU1と、A/D変換回路U2と、直交検波回路U3と、受信遅延回路U4と、加算回路U5とは、図4に示すアンプ51と、A/D変換回路52と、直交検波回路53と、受信遅延回路54と、加算回路55と同等の機能を有するものであるため、説明を省略する。フィルタ処理回路U6は、加算回路U5の出力であるI/Q信号に、任意の複素受信フィルタ(実数の受信フィルタを含む)を適用する機能と、複素受信フィルタが適用された後のI/Q信号をBモード処理回路12や、ドプラ処理回路13や、送信回路111に出力する機能とを有する。
なお、上記の受信回路Uの説明では、受信回路Uが、RF信号の直交検波を行ってI/Qのベースバンドに変換した後で遅延加算して超音波画像を生成するI/Qビームフォーミングを行う構成を有する場合について説明するがその場合に限定されるものではない。受信回路Uは、RF信号を遅延加算した後で直交検波を行いI信号及びQ信号からなるI/Q信号に変換して超音波画像を生成するRFビームフォーミングを行う構成を有してもよい。
送信回路111は、パルス発生回路61と、送信遅延回路62と、駆動回路63と、評価回路64と、周波数設定回路65とを備える。なお、評価回路64は、送受信回路11ではなく、Bモード処理回路12(又はドプラ処理回路13)に備えられていてもよい。
パルス発生回路61は、処理回路17による制御の下、所定のレート周波数で、送信超音波を形成するためのレートパルスを繰り返し発生する。
送信遅延回路62は、処理回路17による制御の下、超音波プローブ20の超音波振動子から発生される超音波をビーム状に集束して送信指向性を決定するために必要な圧電振動子ごとの遅延時間を、パルス発生回路が発生する各レートパルスに対し与える。
駆動回路63は、処理回路17による制御の下、レートパルスに基づくタイミングで、超音波振動子に駆動パルスを印加する。なお、駆動回路63は、駆動部の一例である。
ここで、超音波プローブ20から送信される超音波の送信周波数(最低周波数/中周波数/最高周波数)は、UI(User Interface)によって選択可能である。しかしながら、UIさえ触らない操作者が居たり、操作者が適切な送信周波数を選択する技量をもたない場合があったりするため、感度を含めた送信周波数の選択の最適化が望まれている。そこで、送受信回路11Aに設けられる送信回路111は、評価回路64と、周波数設定回路65とを有する。これにより、感度としてビームの深部到達度が評価され、深部到達度に応じて適切な送信周波数が自動選択される。ここで、最低周波数は、「PEN:Penetration」とも呼ばれる。中周波数は、「GEN:general」とも呼ばれる。最高周波数は、「RES:Resolution」とも呼ばれる。
評価回路64は、処理回路17による制御の下、超音波の受信信号に基づいて、所定の深度の受信信号を解析して、ビームの深部到達度を評価する。例えば、評価回路64は、Bモード処理回路12(又は、ドプラ処理回路13)からの、生データとしてのBモードデータ(又は、ドプラデータ)に基づいて、後述する深部の判定領域のSN(Signal to Noise)比により、ビームの深部到達度を評価する。なお、評価回路64は、画像生成回路14からの、スキャンコンバート後のBモード画像データ(又は、ドプラ画像データ)に基づいて、所定の深度の受信信号を解析してもよい。また、評価回路64は、評価部の一例である。
周波数設定回路65は、処理回路17による制御の下、評価回路64による結果に基づき、送信周波数を設定する。これにより、駆動回路63は、周波数設定回路65によって設定された送信周波数をフィードバックして駆動パルスを生成し、レートパルスに基づくタイミングで、超音波プローブ20の超音波振動子に駆動パルスを印加することができる。なお、周波数設定回路65は、周波数設定部の一例である。
続いて、超音波診断装置10Aの動作について説明する。超音波診断装置10Aは、低い送信周波数(例えば、切替可能な送信周波数のうち最低周波数(PEN))でサンプリングして、画像のSN比に余裕がある場合に高い送信周波数(例えば、中周波数(GEN))に切り替える制御を行う。
図15及び図16は、超音波診断装置10Aの動作をフローチャートとして示す図である。図15及び図16において、「ST」に数字を付した符号はフローチャートの各ステップを示す。なお、図15及び図16において、I/Qビームフォーミングの場合、つまり、受信フィルタが複素受信フィルタである場合を例にとって説明する。
図15に示すように、超音波診断装置10Aの処理回路17は、送受信回路11A等を制御して、超音波プローブ20を用いた超音波スキャンを開始させる(ステップST21)。送受信回路11Aは、周波数設定回路65によって設定された低い送信周波数(例えば、最低周波数(PEN))の駆動パルスにより超音波プローブ20を制御して、超音波の送受信を行う(ステップST22)。フィルタ処理回路U6は、加算回路U5の出力である1フレーム分のI/Q信号を取得する(ステップST23)。
フィルタ処理回路U6は、ステップST23によって取得された1フレーム分のI/Q信号に、任意の複素受信フィルタを適用する(ステップST24)。Bモード処理回路12は、ステップST24によって任意の複素受信フィルタが適用されたI/Q信号に基づいて、1フレーム分の生データとしてのBモードデータを生成する(ステップST25)。
評価回路64は、ステップST26~ST31において、所定の深度の受信信号を解析して、ビームの深部到達度を評価する。まず、評価回路64は、ステップST25によって生成された1フレーム分のBモードデータによって形成される画像領域を、各領域が複数のピクセルを有するように複数の分割領域に分割する(ステップST26)。評価回路64は、ステップST25によって生成された1フレーム分のBモードデータに基づいて、ステップST26によって分割後の各分割領域のSN比と、信号の分散とを算出する(ステップST27)。図17に、1フレーム分のBモードデータが形成する画像領域のうち、4×8の分割領域を例示する。各分割領域は、N(N:2以上の整数)個のピクセルを含む。
評価回路64は、ステップST27において、次の式(1)により、各分割領域の複数のピクセルにそれぞれ対応する複数の信号(Signals)を平均することで、各分割領域の信号平均を求める(Signal mean)。評価回路64は、ステップST27において、次の式(2)により、各分割領域の複数のピクセルにそれぞれ対応する複数のノイズ(Noises)を平均することで、各分割領域のノイズ平均(Noise mean)を求める。そして、評価回路64は、ステップST27において、次の式(3),(4)により、各分割領域の複数のピクセルの信号平均とノイズ平均とから、各分割領域のSN比(SNR)[dB]を算出する。また、評価回路64は、ステップST27において、次の式(5)により、各分割領域の複数のピクセルにそれぞれ対応する複数の信号(Signals)と、各分割領域の信号平均(Signal mean)とから、各分割領域の分散(Var)を算出する。
評価回路64は、1フレーム分のBモードデータが形成する画像領域のうち、浅部の判定領域のSN比が第1閾値以上であるか否かを判断する(ステップST28)。Bモードデータの基となるI/Q信号は、スキャン状態の受信信号、又は、超音波プローブ20が被検体の体表から離れた空中放置状態、つまり、被検体に超音波の送信を行わない状態の受信信号からなる。そこで、評価回路64は、ステップST28において、超音波プローブ20が空中放置状態である場合には、ビームの深部到達度の評価を行わないようにするための判断を行う。
図17は、1フレーム分のBモードデータが形成する画像領域に設定される浅部の判定領域の一例を示す図である。
図17に示すように、1フレーム分のBモードデータが形成する画像領域は、深さ方向(i)に8段、かつ、ビーム方向jに4列の計32個の分割領域をもつ。評価回路64は、画像領域のうち浅部に、判定領域Suを設定する。ここでは、画像領域のうち、上から3段目と、4段目に浅部の判定領域Suが設定され、浅部に相当する8個の浅部分割領域が設定される。
評価回路64は、8個の浅部分割領域におけるSN比を評価し、超音波プローブ20が被検体の体表に当てられたスキャン状態であるか、超音波プローブ20が被検体の体表から離れた空中放置状態であるかを判定する。評価回路64は、8個の浅部分割領域のうち少なくとも1つの浅部分割領域のSN比が第1閾値以上である場合、スキャン状態であると判定すればよい。又は、評価回路64は、8個の浅部分割領域の全てのSN比が第1閾値以上である場合に限り、スキャン状態であると判定してもよい。又は、評価回路64は、1個の分割領域のみを浅部分割領域として設定し、当該浅部分割領域のSN比が第1閾値以上である場合に、スキャン状態であると判定してもよい。
図15の説明に戻って、ステップST28の判断にてNO、つまり、画像領域のうち、浅部の判定領域のSN比が第1閾値未満であると判断される場合、ステップST36(図16に図示)に進む。つまり、周波数設定回路65は、浅部の判定領域のSN比が第1閾値未満の場合には、送信周波数を変更しない。一方、ステップST28の判断にてYES、つまり、画像領域のうち、浅部の判定領域のSN比が第1閾値以上であると判断される場合、評価回路64は、スキャン状態であると判断し、各分割領域の構造物又は実質の判定を行う(ステップST29)。ここで、実質とは、肝臓等の臓器を意味する。
評価回路64は、ステップST29において、4×8の分割領域のそれぞれが構造物であるか、又は、実質であるかを判定する。高輝度である構造物の存在が、ビームの深部到達度の評価を難しくするからである。評価回路64は、各分割領域のSN比が第1閾値以上で、かつ、当該分割領域の分散が第2閾値以上である場合には、当該分割領域は構造物に該当すると判定する。評価回路64は、各分割領域のSN比が第1閾値以上で、かつ、当該分割領域の分散が第2閾値未満で、かつ、当該分割領域の分散が第3閾値(第3閾値<第2閾値)以上である場合には、当該分割領域は実質に該当すると判定する。一方で、評価回路64は、各分割領域のSN比が第1閾値未満、又は、各分割領域の分散が第3閾値未満の場合は、当該分割領域は構造物にも実質にも該当しないと判定する。
図18は、1フレーム分のBモードデータに基づく構造物と実質との判定方法を説明するための図である。
図18の最左端は、1フレーム分の生データとしてのBモードデータを示す。左から2番目は、4×8の分割領域におけるSN比の分布を示す。各分割領域が、配色バーB1により、SN比の大きさに応じて配色される。左から3番目は、4×8の分割領域における信号の分散の分布を示す。各分割領域が、配色バーB2により、信号の分散の大きさに応じて配色される。
図18の右から2番目は、Bモードデータのうち、構造物と判定された分割領域を示す。これらの分割領域は、SN比が比較的大きく、信号の分散も比較的大きい領域である。図18の最右端は、Bモードデータのうち、実質と判定された分割領域を示す。これらの分割領域は、SN比が比較的大きい一方で、信号の分散は比較的小さい領域である。なお、評価回路64は、図18に示すSN比の分布や分散の分布を、任意のタイミングでディスプレイ40に表示させてもよい。
図16の説明に進んで、評価回路64は、1フレーム分のBモードデータが形成する画像領域のうち深部の判定領域に、ステップST29によって判定された実質が存在するか否かを判断する(ステップST30)。ステップST30の判断にてYES、つまり、1フレーム分のBモードデータが形成する画像領域のうち深部の判定領域に、実質が存在すると判断される場合、評価回路64は、深部の判定領域のSN比が第5閾値以上であるか否かを判断する(ステップST31)。なお、ステップST27(図15に図示)において、評価回路64は、複数の分割領域の全てについてSN比と信号の分散とを算出したが、その場合に限定されるものではない。例えば、ステップST28~ST30が省略される場合がある。その場合、評価回路64は、ステップST27において、ステップST31のために、複数の分割領域のうち深部の判定領域に属する分割領域のみについてSN比のみを算出すればよい。
図19は、1フレーム分のBモードデータが形成する画像領域に設定される深部の判定領域の一例を示す図である。図19は、ステップST30,ST31を説明する図である。
図19に示すように、評価回路64は、1フレーム分のBモードデータが形成する画像領域のうち深部に、深部の判定領域Sbを設定する。ここでは、画像領域のうち、最下の2段に深部の判定領域Sbが設定され、深部に相当する8個の深部分割領域が設定される。評価回路64は、ステップST30において、判定領域Sbに属する8個の深部分割領域のうち3個が、実質に属すると判断する。
そして、評価回路64は、ステップST31において、8個の深部分割領域のうち実質に属する3個の深部分割領域におけるSN比を評価する。評価回路64は、実質に属する3個の深部分割領域にそれぞれ対応する3個のSN比の平均が第5閾値以上であるか否かを判断すればよい。なお、評価回路64は、8個すべての深部分割領域にそれぞれ対応する8個のSN比の平均が第5閾値以上であるか否かを判断してもよい。
図16の説明に戻って、ステップST31の判断にてYES、つまり、1フレーム分のBモードデータの領域のうち、深部の判定領域のSN比が第5閾値以上であると判断される場合、周波数設定回路65は、当該1フレーム分のBモードデータについてビームの深部到達度が高いと判定する。そして、周波数設定回路65は、送信周波数を、ステップST22に設定されたものより高く設定し、高い送信周波数に切り替える(ステップST32)。ビームの深部到達度が高い場合には、送信周波数を高く変更しても、深部の画像化への影響が少ないと思われるからである。
送受信回路11Aは、ステップST30の判断でNOの場合、又は、ステップST31の判断でNOの場合、周波数設定回路65によって設定された送信周波数を変更しない。送受信回路11Aは、ステップST22(図15に図示)と同様の低い送信周波数の駆動パルスにより超音波プローブ20を制御して、超音波の送受信を行う(ステップST33)。一方で、送受信回路11Aは、ステップST32によって切り替え後の高い送信周波数の駆動パルスにより超音波プローブ20を制御して、超音波の送受信を行う(ステップST33)。フィルタ処理回路U6は、加算回路U5の出力である1フレーム分のI/Q信号を取得する(ステップST34)。
フィルタ処理回路U6は、ステップST34によって取得された1フレーム分のI/Q信号に、任意の複素受信フィルタを適用する(ステップST35)。Bモード処理回路12(又は、ドプラ処理回路13)及び画像生成回路14は、ステップST35によって複素受信フィルタが適用された1フレーム分のI/Q信号に基づいて超音波画像を生成する(ステップST36)。ステップST24又はST35によって取得された、複素受信フィルタが適用された1フレーム分のI/Q信号に基づいて1フレーム分の超音波画像を生成する(ステップST36)。
図20は、送信周波数を制御する場合における超音波画像を示す図である。図20(A)は、低い送信周波数、例えば、最低周波数(PEN)の場合のBモード画像を示す。図20(B)は、高い送信周波数、例えば、中周波数(GEN)の場合のBモード画像を示す。図20が示すBモード画像の撮像対象(部位)は、肝臓である。
図20(A)に示す、最低周波数の超音波送受信に基づくBモード画像では、深部の形態まで十分に視認することができる。しかしながら、送信周波数が任意に最低周波数から中周波数や最高周波数に切り替えられてしまうと、図20(B)に示すように、ビームの深部到達度が低くなり、深部の視認が困難となる。そこで、超音波診断装置10Aは、最低周波数の超音波送受信に基づくBモード画像からビームの深部到達度を評価することで、送信周波数を最低周波数から中周波数に、又は、中周波数から最高周波数に切り替えるものである。
図16の説明に戻って、処理回路17は、ステップST21(図15に図示)によって開始された超音波スキャンを終了するか否かを判断する(ステップST37)。例えば、入力インターフェース30を介した操作者による終了操作により、処理回路17は、超音波スキャンを終了するか否かを判断する。ステップST37の判断にてNO、つまり、ステップST21によって開始された超音波スキャンを終了しないと判断される場合、次のフレームに進み(ステップST38)、送受信回路11Aは、低い、又は、切り替えられた後の高い送信周波数の駆動パルスにより超音波プローブ20を制御して、超音波の送受信を行う(ステップST33)。
一方、ステップST37の判断にてYES、つまり、ステップST21によって開始された超音波スキャンを終了すると判断される場合、超音波診断装置10Aの処理回路17は、送受信回路11A等を制御して、超音波プローブ20を用いた超音波スキャンを終了させる。処理回路17は、ステップST36によって生成された超音波画像(例えば、Bモード画像)をディスプレイ40に表示させることができる。また、処理回路17は、送信周波数の切り替え前後の超音波画像を、ディスプレイ40に並列表示することもできる。さらに、処理回路17は、送信周波数の切り替え後の超音波画像に対して、操作者が切り替え後の送信周波数をそのまま選択するメッセージをディスプレイ40に表示させることもできる。
なお、ステップST32による切り替え後の送信周波数は、ステップST22で設定される送信周波数より高いものであればよい。そのため、ステップST22で設定される送信周波数が最低周波数(PEN)である場合は、ステップST32による切り替え後の送信周波数は、中周波数(GEN)又は最高周波数(RES)である。ステップST22で設定される送信周波数が最低周波数(PEN)であり、ステップST32による切り替え後の送信周波数が最高周波数(RES)である場合、深部の判定領域のSN比が第6閾値(第6閾値>第5閾値)以上であるか否かが判断される。又は、ステップST22で設定される送信周波数が中周波数である場合は、ステップST32による切り替え後の送信周波数は、最高周波数である。
また、送信周波数の切り替えを段階的に行なってもよい。例えば、送信周波数が最低周波数に設定され(ステップST22)、深部の判定領域のSN比が第5閾値以上の場合に送信周波数が最低周波数から高い中周波数に切り替えられる(ステップST32)。続けて、送信周波数が、切り替え後の中周波数に設定され(ステップST22)、深部の判定領域のSN比が第5閾値以上であるかが判断される。そして、深部の判定領域のSN比が第5閾値以上の場合に送信周波数が中周波数から高い最高周波数に切り替えられる(ステップST32)。
なお、上述では、ステップST21による超音波スキャンの開始直後に、ステップST26による評価が開始されるものとして説明したが、その場合に限定されるものではない。例えば、ステップST26から開始される評価は、超音波スキャン中の超音波プローブ20の位置や角度の変化や、超音波画像の変化情報(表示深さ等のスキャン条件)や、フリーズ操作をトリガにしてもよい。また、評価対象は、ライブで取得される生データに限定されるものではなく、過去画像の生データであってもよい。
さらに、処理回路17は、図15及び図16に示すフローチャートに従って複数の送信周波数に対応する複数の超音波画像が生成されることで、深部のSN比が高い順に複数の超音波画像を並べてディスプレイ40に表示させてもよい。その場合、操作者により所定の超音波画像が選択されることで、周波数設定回路65は、当該超音波画像が得られた送信周波数を設定する。
以上のように、超音波診断装置10Aによれば、ビームの深部到達度に応じて送信周波数を制御することで、超音波減衰に起因する画質劣化を抑制することができる。それにより、高画質の超音波画像を提供することができる。
6.変形例
超音波診断装置10Aでは、低い送信周波数における深部の判定領域のSN比が第2閾値以上の場合に送信周波数を低い送信周波数から高い送信周波数に切り替えるものとしたが、その場合に限定されるものではない。例えば、超音波診断装置10Aは、高い送信周波数における深部の判定領域のSN比が第5閾値未満の場合に、ビームの深部到達度が低いものとして、送信周波数を高い送信周波数から低い送信周波数に切り替えるものであってもよい。しかし、被検体の各検査の差を特段考慮せずに簡易で再現性の高い送信周波数の制御を望む場合には、低い送信周波数から高い送信周波数に切り替える制御の方が望ましい。
7.第3の実施形態に係る超音波診断装置
上述の超音波診断装置は、超音波の送信周波数の制御、又は、複素受信フィルタの制御により、高画質の超音波画像の提供を実現するものである。しかしながら、超音波の送信周波数の制御と、複素受信フィルタの制御との両方により、高画質の超音波画像の提供を実現してもよい。つまり、上述の第1及び第2の実施形態は、組み合わせられてもよい。その場合について、第3の実施形態に係る超音波診断装置として以下で説明する。
図21は、第3の実施形態に係る超音波診断装置の構成を示す概略図である。
図21は、第3の実施形態に係る超音波診断装置10Bを示す。また、図21は、超音波プローブ20と、入力インターフェース30と、ディスプレイ40とを示す。なお、超音波診断装置10Bに、超音波プローブ20と、入力インターフェース30と、ディスプレイ40とのうちの少なくとも1個を加えた装置を超音波診断装置と称する場合もある。以下の説明では、超音波診断装置10Bの外部に、超音波プローブ20と、入力インターフェース30と、ディスプレイ40との全てが備えられる場合について説明する。
超音波診断装置10Bは、送受信回路11Bと、Bモード処理回路12と、ドプラ処理回路13と、画像生成回路14と、画像メモリ15と、ネットワークインターフェース16と、処理回路17と、メインメモリ18とを備える。回路11B,12~14は、特定用途向け集積回路等によって構成されるものである。しかしながら、その場合に限定されるものではなく、回路11B,12~14の機能の全部又は一部は、処理回路17がプログラムを実行することで実現されるものであってもよい。
なお、図21において、図1に示す部材と同一部位には同一符号を付して説明を省略する。
送受信回路11Bは、送信回路111と受信回路112(図22に図示)とを有する。送受信回路11Bは、処理回路17による制御の下、超音波の送受信における送信指向性と受信指向性とを制御する。なお、送受信回路11Bが超音波診断装置10Bに設けられる場合について説明するが、送受信回路11Bは、超音波プローブ20に設けられてもよいし、超音波診断装置10B及び超音波プローブ20の両方に設けられてもよい。なお、送受信回路11Bは、送受信部の一例である。
図22は、送受信回路11Bの構成を示すブロック図である。
図22は、送受信回路11Bに設けられる送信回路111と、受信回路112とを示す。送信回路111は、パルス発生回路61と、送信遅延回路62と、駆動回路63とを有し、超音波プローブ20の超音波振動子に駆動信号を供給する。受信回路112は、アンプ51と、A/D変換回路52と、直交検波回路53と、受信遅延回路54と、加算回路55と、フィルタ処理回路56と、周波数特性解析回路57と、フィルタ設定回路58とを有し、超音波振動子が受信したエコー信号を受け、このエコー信号に対して各種処理を行ってエコーデータを生成する。
なお、図22の送信回路111において、図14に示す送信回路111と同一部材には同一符号を付して説明を省略する。また、図22の受信回路112において、図4に示す受信回路112と同一部材には同一符号を付して説明を省略する。
続いて、超音波診断装置10Bの動作について説明する。なお、超音波の送信周波数の制御のみを行うか、複素受信フィルタの制御のみを行うか、両方の制御を行うかについては、プリセットで選択可能である。
図23及び図24は、超音波診断装置10Bの動作をフローチャートとして示す図である。図23及び図24において、「ST」に数字を付した符号はフローチャートの各ステップを示す。なお、図23及び図24において、I/Qビームフォーミングの場合、つまり、受信フィルタが複素受信フィルタである場合を例にとって説明する。また、図23及び図24において、図15及び図16のフローチャートのステップと同一ステップには同一符号を付して説明を省略する。
図23に示すように、超音波スキャンを開始された後(ステップST21)、超音波診断装置10Bの処理回路17は、送信周波数の制御を行うか否かを判断する(ステップST51)。例えば、入力インターフェース30を介した操作者による終了操作により、処理回路17は、送信周波数の制御を行うか否かを判断する。ステップST51の判断にてYES、つまり、送信周波数の制御を行うと判断された場合、送受信回路11Bは、周波数設定回路65によって設定された低い送信周波数の駆動パルスにより超音波プローブ20を制御して、超音波の送受信を行う(ステップST22)。
一方、ステップST51の判断にてNO、つまり、送信周波数の制御を行わないと判断された場合、図24に示すステップST33に進む。
図24の説明に進んで、低い、又は、切り替えられた後の高い送信周波数に応じた駆動パルスにより超音波の送受信が行われると、超音波診断装置10Bの処理回路17は、複素受信フィルタの制御を行うか否かを判断する(ステップST52)。例えば、入力インターフェース30を介した操作者による終了操作により、処理回路17は、複素受信フィルタの制御を行うか否かを判断する。
ステップST52の判断にてYES、つまり、複素受信フィルタの制御を行うと判断された場合、図5のステップST2に進む。一方で、ステップST52の判断にてNO、つまり、複素受信フィルタの制御を行わないと判断された場合、図16のステップST34に進む。
超音波診断装置10Bにより、複素受信フィルタの制御(第1の実施形態)のみを行う場合と、送信周波数の制御(第2の実施形態)のみを行う場合と、複素受信フィルタの制御と送信周波数の制御とを共に行う場合とを、任意に選択することができる。ステップST51にてNOの場合、かつ、ステップST52にてYESの場合、超音波診断装置10Bは、複素受信フィルタの制御のみを行うことができる。ステップST51にてYESの場合、かつ、ステップST52にてNOの場合、超音波診断装置10Bは、送信周波数の制御のみを行うことができる。ステップST51にてYESの場合、かつ、ステップST52にてYESの場合、超音波診断装置10Bは、複素受信フィルタの制御と送信周波数の制御とを共に行うことができる。
図25は、送信周波数と、複素受信フィルタとを制御する場合における超音波画像を示す図である。図25(A)は、低い送信周波数、例えば、最低周波数(PEN)の場合、かつ、複素受信フィルタを深度に応じて制御する場合のBモード画像を示す。図25(B)は、高い送信周波数、例えば、中周波数(GEN)の場合、かつ、複素受信フィルタを深度に応じて制御する場合のBモード画像を示す。図25が示すBモード画像の撮像対象(部位)は、肝臓である。
図25(A)では、図20(A)と比較して、画質の最適化が実現される。また、図25(A)に示す、最低周波数の超音波送受信に基づき、かつ、深さに応じた複素受信フィルタが適用されたBモード画像では、深部の形態まで十分に視認することができる。一方で、送信周波数が任意に最低周波数から中周波数や最高周波数に切り替えられてしまうと、図25(B)に示すように、ビームの深部到達度が低くなり、深部の視認が困難となる。そこで、超音波診断装置10Bは、深さに応じた複素受信フィルタが適用される場合であっても、最低周波数の超音波送受信に基づくBモード画像からビームの深部到達度を評価することで、送信周波数を最低周波数から中周波数に、又は、中周波数から最高周波数に切り替えるものである。
なお、送信周波数の制御と複素受信フィルタの制御との両方を行う場合、所望の受信帯域で画質条件を最適化するために、複数の送信周波数を走査し、各送信周波数において深部到達度を評価し、深部のSN比が最も高い場合の送信周波数を採用することもできる。
以上のように、超音波診断装置10Bによれば、ビームの深部到達度に応じて送信周波数を制御し、かつ、深度に応じて複素受信フィルタを制御することで、超音波減衰に起因する画質劣化を抑制することができる。それにより、高画質の超音波画像を提供することができる。また、超音波診断装置10Bでは、超音波の送信周波数の制御(第2の実施形態)と複素受信フィルタの制御(第1の実施形態)との両方を組み合わせることも可能であり、超音波の送信周波数の制御のみの場合に送信周波数を下げて画質が落ちるときでも、複素受信フィルタの制御によりそのデメリットを補うこともできる。
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、超音波減衰に起因する画質劣化を抑制することができるので、高画質の超音波画像を提供することができる。
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、実施形態同士の組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。