A.第1実施形態:
(A-1)蒸発器の構成:
図1は、第1実施形態における蒸発器10の外観の概略を表す斜視図である。また、図2は、蒸発器10の内部に形成される流路構成と流路内の様子を模式的に表す説明図である。図1、図2、および、蒸発器に係る構成を示す後述する各図には、方向を特定するために、互いに直交するXYZ軸を示している。各図に示されるX軸、Y軸、Z軸は、それぞれ同じ向きを表す。本願明細書においては、Z軸は鉛直方向を示し、X軸およびY軸は水平方向を示している。なお、図1、図2、および後述する各部の構成を表す図は、各部の配置を模式的に表しており、各部の寸法の比率を正確に表すものではない。
蒸発器10は、熱媒体を用いて液体を加熱して気化させる装置である。本実施形態では、気化させる液体として水(液水)を用いており、水と熱媒体とを熱交換させることにより水を気化させる。蒸発器10は、水が流れる蒸発流路30を複数備えると共に、蒸発流路の壁面を形成する流路壁32を介して蒸発流路内の流体と熱交換する熱媒体が流れる熱媒流路31を備える(図2参照)。本実施形態の蒸発器10は、各蒸発流路30が、数百マイクロメートルから数ミリメートルの長さの流路直径(代表直径)を有するマイクロリアクタとして形成されている。また、蒸発器10が備える蒸発流路30は、水が鉛直上方に流れる垂直管路として形成されている。なお、蒸発流路30が垂直管路であるとは、蒸発流路30の軸線方向が鉛直方向(Z軸方向)と平行であるものに加えて、蒸発流路30の軸線方向と鉛直方向とのなす角度が20°以下のものも含むものとする。また、本実施形態では、熱媒体は、熱媒流路31内を鉛直下方に流れる。さらに、本実施形態では、蒸発流路30には、水に加えて不凝縮性ガスが供給される。不凝縮性ガスとは、蒸発器10が使用される環境下において、蒸発流路30内で凝縮しない気体であり、本実施形態では、不凝縮性ガスとして水素を用いている。
図1に示すように、蒸発器10は、蒸発流路30および熱媒流路31が形成された熱交換部20と、熱交換部20の鉛直下方側に配置されて、各蒸発流路30に水と不凝縮性ガスとを分配する入口マニホールド部22と、熱交換部20の鉛直上方に配置されて、各蒸発流路30から排出されるガスが集合する出口マニホールド部26と、を備える。また、蒸発器10は、入口マニホールド部22に接続されて、各蒸発流路30に分配する水を入口マニホールド部22に供給する第1水供給路23と、入口マニホールド部22に接続されて、各蒸発流路30に分配する不凝縮性ガスを入口マニホールド部22に供給する第1ガス供給路24と、を備える。また、蒸発器10は、出口マニホールド部26に接続されて、各蒸発流路30から排出されたガスを、蒸発器10の下流の装置に導く第1ガス排出路27を備える。さらに、蒸発器10は、出口マニホールド部26の近傍に接続されて、熱交換部20内の熱媒流路31に熱媒体を供給する熱媒供給路28と、入口マニホールド部22の近傍に接続されて、熱媒流路31から排出される熱媒体を蒸発器10外部に導く熱媒排出路29と、を備える。
図2に示すように、各蒸発流路30は、鉛直下方側の端部において、第1水供給路23から分岐して入口マニホールド部22内に形成された第2水供給路33が接続されており、第2水供給路33から供給された水は、各蒸発流路30内を鉛直上方に流れる。また、各蒸発流路30は、鉛直下方側の端部において、第1ガス供給路24から分岐して入口マニホールド部22内に形成された第2ガス供給路34が接続されており、第2ガス供給路34から供給された不凝縮性ガスは、各蒸発流路30内で水に混合されて鉛直上方に流れる。蒸発流路30に水が流入する入口部に設けられ、第2水供給路33に第2ガス供給路34が接続される部位を、「混合部35」と呼ぶ。混合部35において水に不凝縮性ガスが混合されることにより、蒸発流路30内では、不凝縮性ガスの気泡が発生する。また、各蒸発流路30内を流れる水は、熱媒流路31内の熱媒体によって加熱されて、沸点以上の温度に昇温されて気化する。このような水の気化は、上記した不凝縮性ガスの気泡中で生じ、気泡を成長させる。図2では、熱媒体から流路壁32を介して伝えられる熱を、白抜き矢印によって示している。
各蒸発流路30の鉛直上方側の端部には、第2ガス排出路37が接続されており、各第2ガス排出路37は、集合して第1ガス排出路27となる。蒸発流路30内では、上記したように水蒸気が加わることによって不凝縮性ガスの気泡が成長しながら上昇し、蒸発流路30の鉛直上方側端部では、不凝縮性ガスと水蒸気の混合気体が、各第2ガス排出路37へと排出される。
(A-2)蒸発流路内での気液2相流の流動について:
(A-2-1)気液2相流がとり得る流動様式と蒸発の態様:
本実施形態の蒸発器10では、蒸発流路30内において、不凝縮性ガスの気泡に水蒸気が加わって気泡が成長しつつ上昇するが、望ましい形態として、水と不凝縮性ガスとの気液2相流がスラグ流を形成する形態が挙げられる。以下では、本実施形態の蒸発器10における水と不凝縮性ガスが流れる気液2相流の態様の説明に先立って、まず、一般的な気液2相流がとり得る流動様式について説明する。
図3は、液体の沸騰現象の推移を表すプール沸騰曲線を示した説明図である。横軸は、「過熱度ΔTs」を示し、縦軸は、伝熱面から液体へ単位時間あたりに伝えられる熱の量である「熱流束q」を示す。また、プール沸騰曲線の勾配は、沸騰熱伝達率(蒸発熱伝達率)αTP[W/m2/K]を示す。上記した過熱度ΔTsは、下記の(1)式で表される。
ΔTs=Tw-Ts … (1)
(式中、Tw[K]は伝熱面の温度(流体の流路の壁面温度)を表し、Ts[K]は流体の飽和温度を表す。)
図3において、点Aと点B(沸騰開始点)との間は非沸騰域である。非沸騰域では、熱源より熱交換器の流路壁を介して液水へと伝熱し、液水の熱伝導と自然対流(強制対流沸騰の場合は強制対流熱伝達を含む)により蒸発が主体となる気液界面(垂直管路の場合は気相と液相とを分離する界面)へと伝熱し、蒸発が行われる。流路の壁面温度Twの上昇に伴いΔTsが増大すると、非沸騰域から、点B(沸騰開始点)と点D(バーンアウト点)との間の核沸騰域へと移行する。核沸騰域では、溶存ガスや壁面に付着していた微小気泡を核として、液水内で流路壁より沸騰気泡が発生する。このとき、流路壁に発生する気泡の挙動、流路壁からの気泡離脱による熱や物質移動の促進により、流路壁近傍の液水は非沸騰域と比較して高い熱伝達率となる。すなわち、プール沸騰曲線の勾配が増大する。核沸騰域において過熱度ΔTsを上昇させると、流路壁近傍の気泡量が増大して点D(バーンアウト点)で最大熱流束となり、さらに過熱度ΔTsを上昇させると、点Dと点E(ライデンフロスト点)との間の遷移沸騰域、点E以降の蒸気膜沸騰域へと遷移する。
図4は、飽和沸騰型蒸発の様子を模式的に表す説明図であり、図5は、気液分離型界面蒸発の様子を模式的に表す説明図である。図4および図5において、第1実施形態の蒸発器10の各部に対応する部分には、同じ参照番号を付した。図4に示すように、例えば、液体が水であって、熱媒流路31を流れる熱媒体の温度が250℃以上のように比較的高く、過熱度ΔTsが点B(沸騰開始点)以上となる熱媒温度であって、顕熱量が蒸発熱量と比較して十分である場合には、熱交換式蒸発器における蒸発流路30内における気化の状態は核沸騰(図3の点B-点C間)主体となる。すなわち、流路壁32からの沸騰核の生成により気泡が生じて気液界面が増大し、高い熱伝達率となって蒸発が促進される。このとき、液水が存在する2相域と接触する流路壁面を通過する熱流束qが高いため、蒸発器の流路長さを短くすることができ、蒸発器を小型化することが可能になる。また、蒸発器における出力密度を向上させ、発生する蒸気量の応答性や始動性を向上させることができる。
これに対して、図5に示すように、例えば、液体が水であって、熱媒流路31を流れる熱媒体の温度が150-250℃程度のように比較的低く、過熱度ΔTsが点B(沸騰開始点)未満となる熱媒温度であって、顕熱量が蒸発熱量と比較して十分ではない場合には、熱交換式蒸発器における蒸発流路30内における気化の状態は界面蒸発(図3の点A-点B間)主体となる。このとき、流路壁32を通過する熱流束qが比較的低くなり、水の熱伝導と自然対流により、気相と液相とを分離する気液界面Intに熱が伝えられて、気液界面Intにおいて水の蒸発が進行する。このように、界面蒸発では、蒸発面積および熱伝達率が小さくなるため、蒸発器を大型化する必要が生じる可能性がある。また、このとき、蒸発させるべき液体の量が増減する場合には、蒸発界面位置が上下動して内部温度分布が変化するため、蒸発器の応答性が低下する。
本実施形態の蒸発器10では、混合部35を設けて、蒸発流路30の入口部において水に不凝縮性ガスを混合して不凝縮性ガスの気泡を連続的に発生させている。このように、蒸発流路30内で不凝縮性ガスの気泡を上昇させることによって、熱媒体の温度が比較的低い非沸騰域(図3の点A-点B間)であっても、気液界面を増大させ、水の蒸発を促進している。以下では、本実施形態の蒸発器10における望ましい気液2相流の流動様式について説明する。
(A-2-2)望ましい流動様式としてのスラグ流:
図6は、気体と液体の2相流がとり得る流動様式の例を示す説明図である。図6に示すパターン(a)は気泡流を表し、パターン(b)はスラグ流を表し、パターン(c)はスラグ環状流を表し、パターン(d)は環状流を表す。流動様式は、流路の大きさや、流路管内の流動条件(温度,圧力,流量など)や、流体の物性(密度,粘性係数,表面張力など)等に応じて変化する。本実施形態の蒸発器10のようなマイクロリアクタでは、一般に、液相の流速を一定にして、流入する気相の速度を増加させると、上記パターン(a)から(b)(c)(d)の順で流動様式が変化する。
図7は、流動様式の遷移機構をモデル化し、気体および液体の見かけ流速(流量を管の断面積で割った値)を座標軸とする流動様式線図の例を示す図である。図7において、横軸は気相の見かけ流速UGSを示し、縦軸は液相の見かけ流速UISを示す。図7において、領域(a)は、2相流が図6のパターン(a)の気泡流となる領域を示し、領域(b)は、パターン(b)のスラグ流となる領域を示し、領域(c)はパターン(c)のスラグ環状流となる領域を示し、領域(d)は、パターン(d)の環状流となる領域を示す。本実施形態の蒸発器10では、蒸発流路30は、スラグ流を形成可能な代表直径を有しており、蒸発流路30内を2相流が上昇する際に、少なくとも一部の部位ではスラグ流が形成される。
特に、水のように表面張力が比較的大きい液体を流す流路において、流路直径が数百マイクロメートルから数ミリメートル程度である場合には、流路の微細化に伴い慣性力よりも界面張力の影響が強くなり、慣性力と界面張力の比を表す無次元数であるウェーバー数Weが小さくなる。ウェーバー数We<0.01となる流路直径では、流路断面にほぼ等しいサイズの断面形状を有する液水と気泡の塊が流路方向に交互に並んだスラグ流を形成することが知られている。ウェーバー数Weは、以下の(2)式で表される。
We=ρl・de・u2/σL … (2)
(式中、ρl[kg/m3]は水の密度を表し、de[m]は代表直径を表し、u[m/s]は流速を表し、σL[N/m]は水の表面張力を表す。)
以下では、スラグ流の形態について、さらに詳しく説明する。既述した図2では、蒸発流路30内にスラグ流が形成される様子が示されている。混合部35において水に不凝縮性ガスが混合されると、不凝縮性ガスは連続的に気泡40を形成する。そして、気泡の界面で気化が進行することによって気泡内の水蒸気が増加して気泡が成長すると、気泡スラグ42が形成される。なお、蒸発流路30の軸線方向に並ぶ気泡スラグ42間の部位は、液相スラグ44と呼ぶ。
蒸発流路30内でスラグ流が形成されるとき、気泡スラグ42と流路壁32との間には薄液膜46が形成される。薄液膜46が形成されることにより、気液界面が増大すると共に、流路壁32近傍におけるせん断力により、液相スラグ44から気泡スラグ42周りの薄液膜46へ液水供給され得る。このように、薄液膜46では、流路壁32とのせん断力により液水の循環流れを生じ、熱や物質の移動が促進され得る。
図8は、気泡スラグ42と流路壁32とが接する部分を拡大して模式的に示す説明図である。図8に示す各符号の示す内容は、以下の通りである。
Ae[m2]:蒸発流路30の伝熱面積
Af[m2]:薄液膜46の表面の面積
qw[W/m2]:熱流束
αTP[W/m2/K]:蒸発熱伝達率
λL[W/m/K]:水の熱伝導率
δw[m]:薄液膜46の厚み
Tw[K]:流路壁32の温度
Ts[K]:水の飽和温度
上記した各パラメータを用いて、蒸発流路30内へと単位時間あたりに流れる熱量Qは以下の(3)式で表すことができる。
(3)式において、右辺の分母は、熱伝達と薄液膜46の熱伝導を含む熱抵抗成分に相当する。(3)式より、薄液膜46の面積Afが大きいほど、また、薄液膜46の厚みδwが薄いほど、熱量Qの値が大きくなることが理解される。
図9は、慣性力と表面張力の比を表す液膜厚みの無次元数であるキャピラリー数Caと、無次元長さδw/deとの関係を示す説明図であり、図10は、蒸発流路30の代表直径deと薄液膜46の厚み(液膜厚み)δwとの関係を示す説明図である。キャピラリー数Caは、以下の(4)式で表され、無次元長さδw/deは、以下の(5)式で表される。
(式中、μL[Pa・s]は粘性係数を表し、σL[N/m]は水の表面張力を表し、ub[m/s]は気泡浮上速度を表す。)
(式中、δw[m]は液膜厚みを表し、de[m]は、代表直径を表し、α、β[-]は定数を表す。ただし、代表直径de=4×(流路断面積)/(濡れぶち長)。)
このように、スラグ流れにおける気泡スラグ42の周りの薄液膜46の厚みは、キャピラリー数Caと無次元長さδw/deで整理される。キャピラリー数Caが小さくなるほど、慣性力よりも表面張力の影響が強くなるため、液膜厚みの無次元数δw/deは小さくなる。一例として、代表直径de=3.64mm(流路幅20mm、流路高さ2mmの矩形断面)の場合、流路壁32上に形成される気泡スラグ42の周りの液膜厚みが7μm程度になると予測されることを、図10において星印で示す。
蒸発流路30においては、入口部から蒸発流路30に供給される不凝縮性ガスと液水(被蒸発水)との供給量比によって、初期のボイド率(流体の単位体積あたりに含まれる気泡の割合)を調整することができる。ボイド率[-]を表す式を、(6)式として以下に示す。
図11は、蒸発流路30内でスラグ流が形成されるときにボイド率および蒸気クオリティχが流れ方向(Z軸方向)に変化する様子を示す説明図である。図11では、一例として、蒸発流路30の入口部におけるボイド率を0.55(入口部における不凝縮性ガスの体積流量:0.34cc/min、液水の体積流量:0.28cc/min)に設定して不凝縮性ガスを供給したときのボイド率および蒸気クオリティχの変化を数値解析した結果を示す。図11において、横軸は、入口からの距離を蒸発流路30全体の流路長で除した値を示す。また、図11において、縦軸の左側には蒸気クオリティχ[-]を示し、縦軸の右側にはボイド率[-]を示す。蒸気クオリティχを表す式を、(7)式として以下に示す。
図12は、蒸発流路30内でスラグ流が形成されるときに、流路壁32から蒸発流路30内の流体へ単位時間あたりに伝えられる熱の量である「熱流束qw」が流れ方向に変化する様子を示す説明図である。図12では、図11と同様に蒸発流路30の入口部におけるボイド率が0.55となるように不凝縮性ガスを供給したときの、熱流束qwの変化を、(3)式に示す関係等を用いて数値解析した結果を示す。図12において、横軸は、入口からの距離を蒸発流路30全体の流路長で除した値を示す。
「液水/不凝縮性ガス(水素)」の密度比は713/1である。図11に示すように、蒸発流路30の入口で不凝縮性ガスを混合した場合のボイド率の流れ方向の変化は、入口における0.55から、出口に向かい曲線的に1まで増加する。また、図11に示すように、蒸発クオリティχは、流れ方向下流に向かって直線的に増加し、出口部の手前で蒸気クオリティχは、ほぼ1に達する。蒸発クオリティχが直線的に増加する領域は、後述する図12の領域(β)に対応し、熱流束qwが高いレベルでほぼ一定となる領域である。このような領域では、液相スラグ44と気泡スラグ42とが交互に流動しながら液相スラグ44から気泡スラグ42の周りの薄液膜46に液水(被蒸発水)が供給されるため、高い熱流束qwと、蒸発クオリティχの直線的な増加とを示す。
また、図12に示すように、熱流束qwは、流域(α)として示した入口近傍の領域では、下流側に向かって急激に高まる。この領域(α)は、蒸発流路30の入口で生じた不凝縮性ガスの気泡40が、気泡スラグ42に成長する過程の領域と考えられ、「液相域」とも呼ぶ。また、熱流束qwは、領域(α)の下流側端部から蒸発流路30の出口部近傍まで、具体的には「入口からの距離/流路長」が0.1~0.8までの広い範囲である領域(β)において、高いレベルでほぼ一定となる。この領域(β)は、流体の流れ方向に並んで気泡スラグ42が形成される領域と考えられ、「界面蒸発域」あるいは「2相域」とも呼ぶ。また、熱流束qwは、領域(β)よりも下流である出口部近傍の領域(γ)において、低下する。この領域(γ)は、蒸発流路30内の液水がほぼ蒸発した領域と考えられ、「気相域」とも呼ぶ。領域(β)から領域(γ)に向かって流体が流れると、ボイド率の増加に従い液相スラグ44の体積は減少し、流路壁32間をつなぐ液相スラグ44のブリッジが破断した後、管状流れ(薄液膜46のみ)へと推移し、蒸気クオリティ=1で気相となるため、熱流束が低下すると考えられる。
このように、蒸発流路30の出口部の近傍でボイド率が1となるように、入口部のボイド率を調整することで、蒸発流路30全体で広く気泡スラグ42を形成させて、薄液膜46において蒸発を促進することができる。気泡スラグ42内では、形成される薄液膜46の蒸発界面より小さい温度差ΔTs(蒸発流路側隔壁面温度Tw-水の飽和温度Ts)で蒸発が行われる。特に、蒸発流路30内で流れ方向に蒸発が進行すると、ボイド率が増加するため蒸発界面の面積比(Af/Ae)は大きくなり(気泡スラグ42の伸長)、気泡スラグ42の周りの薄液膜46(例えば、既述したように、代表直径de=3.64mmのときに厚みが7μmとなる)により、熱抵抗成分である熱伝達抵抗や液膜熱伝導抵抗を低減することで、高い蒸発性能を得ることが可能となる。
蒸発流路30の入口において不凝縮性ガスおよび液水を供給する場合、供給する不凝縮性ガス量が過剰であると、ガス流れの動圧(運動エネルギー)が過剰になることにより、蒸発流路30内の液水が蒸発されないまま出口まで押し出される可能性が生じる。ここで、蒸発流路30の入口で不凝縮性ガスにより形成される初期気泡(気泡サイズrini)の気泡浮上速度は、気泡の浮力と浮上による液水からの抗力とのバランスにより定まる。本実施形態では、このような気泡浮上速度よりも不凝縮性ガス流速が小さくなるように、不凝縮性ガスと液水との供給量を設定することで、不凝縮性ガスによる液水の押し出しを抑えた自発的なスラグ流形成を可能にしている。気泡の浮力と、気泡の浮上による液水からの抗力とがバランスする状態を表す式を、(8)式として以下に示す。(8)式において、左辺は、気泡の浮力を表す浮力項であり、右辺は、気泡の浮上による液水からの抗力を表す抗力項である。また、(8)式を、気泡浮上速度について解いた式を、(9)式として以下に示す。
(式中、ρ’[kg/m3]は密度差を表し、g[m/s2]は重力加速度を表し、rは気泡直径を表し、Cd[-]は抗力係数を表し、ubは気泡浮上速度を表す。)
図13は、(9)式に基づいて、気泡直径rと気泡浮上速度ubとの関係を示したグラフである。図13に示す気泡直径rと気泡浮上速度ubとの関係から、例えば、図13において星印で示すように、非加熱における代表直径de=3.64mm(流路幅20mm、流路高さ2mm)、流路長0.25mで、初期気泡サイズriniを流路幅より小さい14mmとすると、浮上速度は0.14m/s、滞在時間は2秒となる。本実施形態では、このようにして求められる浮上速度よりも小さい不凝縮性ガス流速となるように、不凝縮性ガスの供給量を設定することで、自発的なスラグ流を形成させている。これにより、液相スラグ44が蒸発流路30の出口から排出されること、すなわち、蒸発流路30の出口においてボイド率が1未満になることを抑えて、安定した蒸発を可能にしている。
(A-2-3)不凝縮性ガスによる拡散促進と、不凝縮性ガスの拡散速度:
本実施形態では、既述したように、蒸発流路30の入口部で、水に対して不凝縮性ガスを混合すると共に、不凝縮性ガスとして、水蒸気よりも拡散速度が速いガスである水素を用いる。このように、不凝縮性ガスを混合することにより気泡内での拡散促進と、不凝縮性ガスとして特に水素のように水蒸気よりも拡散速度が速いガスを用いることによるさらなる拡散促進について、以下に説明する。
図14は、気泡スラグ42と流路壁32とが接する部分を拡大して模式的に示す説明図である。図14に示すように、気泡スラグ42内における薄液膜46上には、不凝縮性ガスと水蒸気の混合ガスによって形成されて濃度勾配が強い層である気体境膜43が形成されている。薄液膜46の界面における蒸発のメカニズムは、以下のようになる。気泡スラグ42の周りの薄液膜46で蒸発が行われる際には、熱媒流路31内の熱媒体から流路壁32への熱伝達、および、流路壁32における熱伝導を介して、薄液膜46に熱が伝わる。蒸発流路30内部の壁面温度Twにおける液膜の飽和蒸気圧と、気泡内部の水蒸気分圧と、の圧力差を、「蒸発駆動圧」と呼ぶ。この「蒸発駆動圧」と、「気体境膜43における拡散抵抗」とにより、水蒸気の物質流束[kg/m2]が決まる。薄液膜46における界面蒸発量が多いと、蒸発潜熱により薄液膜46の温度および蒸発流路30内の壁面温度Twが低下し、熱供給量が低下する。そのため、蒸発流路30内部の壁面温度Twにおける液膜の飽和蒸気圧と、水の飽和温度Tsとの差であるΔTsは、最終的には一定の温度に飽和する。
蒸発流路30内の各相の圧力について説明する。蒸発流路30内の液相圧力は、流動抵抗(蒸発流路30の下流側に接続される機器の圧力損失と、蒸発流路30の圧力損失との和)と等価になる。気泡内のガス圧PG[kPa]は、上記液相圧力と、蒸発流路30内に形成される気泡の曲率と表面張力により決まるラプラス圧と、の和になる。この関係式を、(10)式として以下に示す。
(式中、PLは液相圧力を示し、ΔPはラプラス圧を示し、σLは水の表面張力を示し、rは流路直径を示す。)
蒸発流路30内において気泡の界面で蒸発が進行して、気泡(気泡スラグ42)内の水蒸気量が増加しても、気泡は流れ方向に伸張するため、気泡内の全圧はラプラス圧のみが加算されることになる。そのため、気泡が下流に流れながら気泡内への水の蒸発が進行しても、気泡内の圧力増加は比較的小さくなる。例えば、気泡の曲率r=20mmとする場合にラプラス圧ΔPは0.06kPaとなり、ラプラス圧ΔPによる気泡内の圧力上昇分は、0.06kPa以下になると考えられる。
図15は、蒸発流路30内で蒸発駆動圧や気泡内の水蒸気分圧が流れ方向に変化する様子を示す説明図である。図15では、一例として、流路壁32の温度であるTwが180℃、液相圧力PLが8.9kPaであって、ラプラス圧ΔPを0.06kPaとした場合について数値解析した結果を示している。図15において、横軸は、入口からの距離を蒸発流路30全体の流路長で除した値を示す。また、図15において、縦軸の左側には蒸発界面からの拡散推進圧[kPa]を示し、縦軸の右側には気泡内の水蒸気分圧[kPa]を示す。図15では、縦軸の右側の目盛りに対応して、破線(i)として、流路壁32の温度Twが180℃のときの飽和蒸気圧である115kPaのラインを示しており、破線(ii)として、液圧PLが8.9kPaであって、ラプラス圧ΔPを0.06kPaであるときの気泡内のガス圧PGである110kPa(8.9kPa+0.06kPa+大気圧)のラインを示している。
図15では、蒸発流路30内に不凝縮性ガスを混合する場合における気泡内の水蒸気分圧の変化と共に、蒸発流路30内に不凝縮性ガスを混合する場合と混合しない場合のそれぞれについて、「蒸発界面からの拡散推進圧」を示している。「蒸発界面からの拡散推進圧」とは、流路壁32の温度Twが180℃であるときの飽和蒸気圧115kPaと、気泡内の水蒸気分圧との差であり、流路壁32の温度Twが180℃であるときの蒸発駆動圧を示す。
既述したように、気泡が下流側に移動して気泡内への水の気化が進行しても、気泡内の圧力上昇はラプラス圧の上昇分だけであるため、気泡内の圧力上昇は小さい。そのため、蒸発流路30内に不凝縮性ガスを混合しない場合、すなわち、気泡が水蒸気のみによって形成される場合には、図15に示すように、流路壁32の温度Twと気泡内の水蒸気分圧との差である「蒸発界面からの拡散推進圧」は、蒸発流路体で、比較的低いレベルでほぼ一定(5kPa)となり、このような蒸発駆動圧によって蒸発が進行する。
これに対して、蒸発流路30内に不凝縮性ガスを混合する場合には、不凝縮性ガスを混合することにより、蒸発流路30全体で、不凝縮性ガスを混合しない場合に比べて、気泡内の水蒸気分圧が低くなり(図14参照)、「蒸発界面からの拡散推進圧」が高くなる。このとき、気泡が下流側に流れるに従って気泡内に気化する水蒸気量が増加するため、図15に示すように、気泡内の水蒸気分圧は下流ほど増加(52kPaから99kPaへと増加)し、「蒸発界面からの拡散推進圧」は下流側ほど低下(63kPaから16kPaへと低下)するが、「蒸発界面からの拡散推進圧」は不凝縮性ガスを混合しない場合に比べて高いレベルが維持される。図14および図15では、流路壁32の温度Twの飽和蒸気圧と気泡内の水蒸気分圧との差である蒸発駆動圧を、両矢印により示している。このように、本実施形態では、蒸発流路30内に不凝縮性ガスを混合することによって、蒸発駆動圧を高め、気化効率を高めている。
また、本実施形態で不凝縮性ガスとして用いているガスは、水蒸気よりも拡散速度が速い水素である。このように、水蒸気よりも拡散速度が速い水素を不凝縮性ガスとして蒸発流路30の入口に混合すると、蒸発流路30内で気泡内への水の蒸発が進行する際に、水蒸気の自己拡散係数(0.21cm2/s)よりも、水素ガス中への水蒸気の相互拡散係数(0.63cm2/s)の方が高くなる。
既述したように、水蒸気の物質流速[kg/m2]は、「蒸発駆動圧」と「気体境膜43における拡散抵抗」とにより決まる。そのため、本実施形態では、蒸発流路30の入口に不凝縮性ガスを混合することで、「蒸発駆動圧」を高めると共に、不凝縮性ガスとして水蒸気よりも拡散速度が速いガスを用いることで、拡散係数を高めて拡散抵抗を小さくし、水蒸気の物質流束[kg/s]を増大させている。
以上のように構成された本実施形態の蒸発器10によれば、蒸発器10の入口部において不凝縮性ガスを混合して、蒸発流路30内で不凝縮性ガスの気泡を発生させるため、蒸発界面を増大させて蒸発の効率を高めることができる。そのため、熱媒体の温度が比較的低く、蒸発流路30内の温度条件が非沸騰域となる場合であっても、蒸発量を多く確保して、蒸発器10の大型化を抑えることができる。
本実施形態の蒸発器10では、特に、蒸発流路30内でスラグ流を形成する。そのため、気泡スラグ42の周りの薄液膜46において、熱移動や物質移動を促進し、熱抵抗成分を低減することにより、蒸発の効率を向上させる効果を高めることができる。また、不凝縮性ガスとして、水蒸気よりも拡散速度が速いガスを用いることで、水蒸気の物質流束を増大させて、蒸発を促進することができる。
図16は、不凝縮性を混合する本実施形態の蒸発器10の一例としての実施例の蒸発器と、不凝縮性ガスを用いない比較例としての蒸発器とについて、蒸発流量および出力密度を比較した数値解析結果を示す説明図である。図16において、実施例の蒸発器では、蒸発流路30に供給する流体における「不凝縮性ガス/液水」の体積比を1.24とし、液水における不凝縮性ガスの溶存量を17.6mL/Lとした。また、実施例、比較例共に、熱媒温度が比較的低い条件として、過熱度ΔTs=10Kとし、同一体格(3.3L)の熱交換型蒸発器(並列な熱媒流路と蒸発流路の交互積層)とした。出力密度を表す式を、(11)式として以下に示す。
図16に示すように、比較例の蒸発器では、被蒸発水への溶存ガス量によるスラグ流形成を考慮しても、蒸発量は少なく(0.001mol/s)、低い出力密度(0.012kW/L)であった。これに対して、実施例の蒸発器では、蒸発流路30内で気泡スラグ42の周りに広くて薄い薄液膜46を形成することで、流路流れ方向へ蒸発界面を拡大し、高い蒸発量(0.025mol/s)と高出力密度(0.3kW/L)を得ることができた。
B.第2実施形態:
第2実施形態の蒸発器10は、蒸発流路30の流路壁面(内壁面)を粗面化したことを特徴とする。以下では、まず、流路壁面上で起こり得る液膜喪失(ドライアウト)について説明する。なお、第2実施形態において、第1実施形態と共通する部分には、同じ参照番号を付す。
蒸発流路30内でスラグ流が形成されるときに液相スラグ44は、気泡スラグ42の周りの薄液膜46に被蒸発水を供給しながら流れ方向下流側に向かって間欠的に流動する。このような蒸発流路30において、蒸発が進行し高いボイド率となる下流側では、薄液膜46における蒸発速度が、薄液膜46に対する液供給速度を上回り、時間的・空間的に断片的な液膜の消失(ドライアウト)が発生し得る。蒸発流路30の流路壁面においてドライアウト面が生じると、ドライアウト面では、蒸発界面として寄与しないために総括的な蒸発速度が低下する。
第2実施形態の蒸発器では、上記したドライアウトを抑えるために、蒸発流路30の流路壁面を粗面化している。ここで、例えばステンレス鋼によって形成される蒸発流路30の流路壁32が、平滑な伝熱面である場合には、平滑面上の液滴の接触角は、固相/気相/液相の3相界面における界面張力の固体表面方向の張力バランスにより決まることが知られている。このような関係を示すYoungの式を、(12)式として以下に示す。
(式中、θ0は平滑面上の液滴の接触角を示し、γSV[mN/m]は固相-気相間の表面張力を示し、γSL[mN/m]は固相-液相間の表面張力を示し、γLV[mN/m]は液相-気相間の表面張力を示す。)
平滑面が親水性(θ0<90°、γSL-γSV>0)であって、伝熱表面を粗面化した場合、固相-気相間と固相-液相間の界面張力差はより大きくなり(K倍)、その結果接触角は小さくなる。このような関係を示すWenzelの粗面濡れモデルを示す式を、(13)式として以下に示す。(13)式に示す「粗度K」は、以下の(14)式で表され、「粗化率」「ラフネスファクター」とも呼ばれる。
(式中、θwは粗面化した面上の液滴における見かけの接触角を示し、他は、(13)式と同様である。)
K=粗面化による実際の表面積/見かけの表面積 … (14)
図17は、粗面化により接触角が低減されることを示す説明図である。図17では、一例として、粗面化伝熱面の粗度K=1.3である場合について数値解析した結果を示している。図17に示すように、粗面化により比表面積は増加するが、接触角は低下する。
粗面化により伝熱面の接触角を小さくすることにより、液相スラグ44から気泡スラグ42の周りの薄液膜46への液供給がしやすくなる。具体的には、蒸発流路30の流路壁面は、粗度Kが1.1以上であることが望ましく、1.2以上であることがより望ましく、1.3以上であることがさらに望ましい。蒸発流路30の流路壁32の粗面化は、例えば、レーザ照射、プラズマ照射、ブラスト処理、化学エッチング、陽極酸化処理等により行うことができる。
マイクロリアクタを構成する蒸発流路30における流路壁32への液水の濡れ広がりは、液相スラグ44の位置からの距離xに対する運動量方程式から、キャピラリー項と重力項とにより表される。流路壁32への液水の濡れ広がりの速度を表す式を、(15)式として以下に示す。
(式中、x[m]は液相スラグからの距離を示し、σL[N/m]は水の表面張力を示し、θ[°]は接触角を示し、de[m]は代表直径を示し、ρ[kg/m3]は水の密度を示し、g[m/s2]は重力加速度を示し、γLV[mN/m]は液相-気相間の表面張力を示す。)
(15)式において、(2σL・cosθ/de)はキャピラリー項であり、(ρ・g・x)は重力項である。重力項は、液相スラグ44の下方の気泡スラグ42の周りの薄液膜46への供給力としてキャピラリー項に加算され、液相スラグ44の上方の気泡スラグ42の周りの薄液膜46への供給力としてキャピラリー項から減算される。キャピラリー項は、接触角θの余弦成分(cosθ)の関数であり、接触角θが小さいほど、濡れ広がり速度は増大する。
図18は、粗面化により濡れ広がり速度が増大することを示す説明図である。図18では、図17と同様に、粗面化伝熱面の粗度K=1.3である場合について数値解析した結果を示している。図18に示すように、粗面化により接触角が低下すると、濡れ広がり速度は増大する。
図19は、cosθ0-cosθwプロットを示す説明図である。図19では、図17および図18と同様に、ステンレス鋼製の蒸発流路30の流路壁32が平滑面である場合(K=1)と、粗面化した面である場合(K=1.3)とを示している。粗面化により右肩上がりのプロットとなり、蒸発流路30内でスラグ流が形成されたときに、流路壁32が平滑面であれば接触角度が53.1°であるのに対して、粗面化により接触角度は39.8°に低下する(図19の星印参照)。そのため、平滑伝熱面に対する粗面化伝熱面への濡れ広がり速度比は、1.28倍向上することができ(図18参照)、高ボイド率となる領域(蒸発流路30の出口部近傍の領域)における断片的な液膜の消失(ドライアウト)の発生を抑制し、高い蒸発速度を得ることができる。
C.第3実施形態:
第3実施形態の蒸発器10は、流路壁32の蒸発流路30側表面を覆うように、多孔質保水層50を設けたことを特徴とする。流路壁32に多孔質保水層50を設けることで、スラグ流の液相スラグ44により輸送される被蒸発水を多孔質保水層50によって保水し、流路壁32の層厚みによる熱抵抗を抑えつつ、流路壁32上で蒸発界面のドライアウトを抑制している。なお、第3実施形態において、第1実施形態と共通する部分には、同じ参照番号を付す。
図20は、流路壁32上に多孔質保水層50が設けられた様子を気泡スラグ42と共に拡大して模式的に示す説明図である。図20に示すように、多孔質保水層50内の空隙内に液相スラグ44から液水が供給されて、供給された液水が上記空隙に浸透し充填される。これにより、多孔質保水層50内の液水が薄液膜46の少なくとも一部を構成する。このとき、薄液膜46を介した蒸発界面への伝熱は、多孔質保水層50と、多孔質保水層50内に浸透した液水との複合熱伝導となる。多孔質保水層50の空隙率ε[-]や多孔質保水層50の厚みδp[m]を設定することで、多孔質保水層50における単位面積当たりの保水量と、液水が浸透された多孔質保水層50における複合熱伝導率λcとを調節することができる。多孔質保水層50における単位面積当たりの保水量を表す式を、(16)式として以下に示す。また、複合熱伝導率λcを表す式を、(17)式として以下に示す。
保水量[kg/m2]=ρl・δp・ε … (16)
(式中、ρl[kg/m3]は水の密度を表し、δp[m]は多孔質保水層50の厚みを表し、ε[-]は空隙率を表す。)
λc[W/m・K]=λl・ε+ λp・(1-ε) … (17)
(式中、λl[W/m・K]は水の熱伝導率を表し、ε[-]は空隙率を表し、λp[W/m・K]は多孔質保水層50の熱伝導率を表す。)
多孔質保水層50は、水の熱伝導率(0.68W/m・K)よりも高い熱伝導率を示す部材により構成することが望ましい。これにより、例えば多孔質保水層50の厚みδpをより厚くして多孔質保水層50の保水量を高めた場合であっても、多孔質保水層50における熱抵抗を抑えて、流路壁32と、液水が浸透された多孔質保水層50の流路側表面と、の間の温度差を小さくすることができる。このような観点から、多孔質保水層50は、例えば、アルミナ多孔質体(熱伝導率:32W/m・K)、金属/セラミックスサーメット(熱伝導率:13W/m・K)、多孔質炭化ケイ素(SiC)コート(熱伝導率:200W/m・K)、多孔質窒化アルミニウム(AlN)コート(熱伝導率:150W/m・K)によって構成することが望ましい。
多孔質保水層50においては、上記のように、液相スラグ44から供給される液水が多孔質保水層50の空隙内に供給されることが望まれる。そのため、多孔質保水層50の目開きは、例えば300μm以下とすることが望ましく、250μm以下とすることがより望ましい。また、多孔質保水層50においては、空隙が目詰まりすること無く液水が供給されることが望まれる。そのため、多孔質保水層50の目開きは、例えば10μm以上とすることが望ましく、20μm以上とすることがより望ましい。多孔質保水層50の目開きは、例えば、多孔質保水層50を構成する材料の親水性等を考慮して、適宜設定すればよい。
第3実施形態の蒸発器10の蒸発流路30内では、液相スラグ44が下流側へと移動する際に、液相スラグ44を構成する液水の一部が多孔質保水層50に浸透される。このように、スラグ流が流れるときに多孔質保水層50に液水が浸透される状態にするためには、液相スラグ44から多孔質保水層50への液水の浸透速度の方が、蒸発流路30内での液相スラグ44の移送速度よりも速い必要がある。蒸発流路30内における液相スラグ44の移送速度の範囲は、最小値が、蒸発流路30の入口部において形成される不凝縮性ガスの気泡の気泡浮上速度であり、最大値が、蒸発流路30の出口部でボイド率が1となるときの蒸気速度であると考えられる。
図21は、図13と同様にして、気泡浮上速度を表す(9)式に基づいて、気泡直径rと気泡浮上速度ubとの関係を示したグラフである。また、図22は、一例として、蒸発流路30に、目開きが100μm、接触角が53.1°の多孔質保水層50を設けた場合に、多孔質保水層50に液水が浸透する速度を数値解析した結果を表す図である。また、図23は、蒸発流路30内における液相スラグ44の様子を模式的に表す説明図である。図21および図22では、図13と同様に、代表直径de=3.64mm(流路幅20mm、流路高さ2mm)、流路長0.25mとしている。以下では、図21から図23に基づいて、多孔質保水層50内に液水が浸透する範囲を検討した例を説明する。
既述したように、液相スラグ44の移送速度がとり得る最小値は、蒸発流路30の入口部における不凝縮性ガスの気泡の気泡浮上速度であると考えられる。蒸発流路30の入口では、不凝縮性ガスの気泡は比較的小さいと考えられるが、図21において星印で示すように、入口部における気泡直径が、より大きく、例えば、代表直径と同じ3.6mmであったとすると、気泡浮上速度は0.07m/sとなり、液相スラグ44の移送速度がこのような値であると、蒸発流路30における液相スラグ44の通過時間は29msとなる。
そこで、液相スラグ44の出口部の速度である移送速度の最大値として、上記の値よりも十分に大きな1.2m/sを設定する。また、図23に示すように、蒸発流路30の流路高さをh[m]、隣り合う気泡スラグ42間の最短距離をδ[m]とすると、液相スラグ44の長さは、「h+δ」で近似することができる。ここで、蒸発流路30の下流側ほど最短距離δは0に近づくため、δを0、液相スラグ44の流速を、上記した1.2m/sとすると、蒸発流路30における液相スラグ44の通過時間は1.6msとなる。
図22において、横軸は液相スラグ44が蒸発流路30の入口を離れてからの経過時間を示し、縦軸の左側には、多孔質保水層50の厚み方向に液水が浸透する範囲である保水部厚み方向距離[mm]を示し、縦軸の右側には、多孔質保水層50に液水が浸透する速度[m/s]を示す。図22より、1.6ms経過後に、液水が多孔質保水層50の厚み方向に浸透する距離は1.5mmとなる。すなわち、液相スラグ44の流速が、上記のように設定した最大速度となる場合であっても、多孔質保水層50の厚みが1.5mm以内であれば、液相スラグ44から供給される液水が多孔質保水層50の厚み方向全体に浸透可能となる。
このように、蒸発流路30において液水と接する流路壁32の内壁面に多孔質保水層50を設けることで、液相スラグ44により輸送される液水を多孔質保水層50によって保水し、流路壁32上で蒸発界面がドライアウトすることを抑制することができる。そして、流路壁32全体で蒸発界面が維持されることで、蒸発器10全体の蒸発効率を高めることができる。
第3実施形態において、蒸発界面のドライアウトを抑える効果を高めるためには、多孔質保水層50を構成する材料の親水性を高めて、多孔質保水層50内への液水の浸透速度を高めることが望ましい。例えば、多孔質保水層50は、接触角θが10~20°のセラミックス、あるいは金属とのサーメットから成る多孔質層とすることが望ましい。
D.第4実施形態:
図24は、第4実施形態の蒸発器110の概略構成を模式的に表す説明図である。第4実施形態において、第1実施形態と共通する部分には、同じ参照番号を付す。
第4実施形態の蒸発器110は、第1実施形態の蒸発器10と同様に、並列に接続された複数の蒸発流路30内の流体と熱媒流路31内の熱媒体とが熱交換して液水の蒸発が進行する熱交換部20を備える。また、熱交換部20の鉛直下方側に配置されて、各蒸発流路30に水と不凝縮性ガスとを分配する入口マニホールド部22を備える。図24では、蒸発器10の外観の概略を示す斜視図と共に、熱交換部20における複数の蒸発流路30の内部の構成を拡大して示す図と、蒸発流路30の入口部近傍を拡大して示す図とを、併せて示している。
第4実施形態の入口マニホールド部22では、第1水供給路23を介して入口マニホールド部22に供給された液水に対して不凝縮性ガスを混合する際に、第1ガス供給路24に連通して設けられた微細気泡発生部60によって、不凝縮性ガスが、微細気泡の状態で混合される。微細気泡は、蒸発流路30の流路断面の径よりも小さな気泡径、具体的には、例えば数μm~数百μm程度の大きさの気泡径を有している。上記した流路断面の径とは、例えば代表直径とすることができる。ただし、微細気泡の気泡径は、流路断面の中心を通る径のうちの最も短い径よりも小さいことが望ましい。
微細気泡発生部60は、例えば、第1ガス供給路24に連続して入口マニホールド部22内に設けられた不凝縮性ガスの流路の下流側端部において、ガスの放出口に配置された多孔質体(3次元的に連通する細孔を有する多孔質体)として構成することができる。微細気泡発生部60は、入口マニホールド部22内において、複数の蒸発流路30の入口部と鉛直方向(Z軸方向)に重なる広い範囲にわたって、複数設けられている。
また、第4実施形態の蒸発器10は、入口マニホールド部22内において、微細気泡発生部60の鉛直上方側(+Z方向側)であって、微細気泡発生部60と、各蒸発流路30の鉛直下方端部と、の間に、メッシュ62が配置されている。メッシュ62は、蒸発器10が備える複数の蒸発流路30の入口部全体と、鉛直方向に重なる領域全体にわたって設けられており、微細気泡発生部60が発生する微細気泡の気泡径よりも小さい目開きを有している。そのため、微細気泡発生部60から放出された微細気泡は、液水内を上昇してメッシュ62の下面(-Z方向の面)にトラップされる。メッシュ62の下面にトラップされた微細気泡は、容易に合体することなく、メッシュ62の下面においてメッシュ面に沿って移動可能となる。その結果、微細気泡発生部60から放出された微細気泡は、メッシュ62の下面において、流れ方向(Z軸方向)、および、メッシュ面方向(X-Y面方向)全体に、均一に分配される。メッシュ62の下面で滞留し、蓄積された微細気泡は、やがて、浮力によりメッシュ62を通過して浮上し、各蒸発流路30に供給される。このように、メッシュ62の下面で一旦トラップされることにより、微細気泡発生部60から放出された微細気泡は、液水と不凝縮性ガスとの混合比が均一化されて各蒸発流路30に分配される。第4実施形態では、微細気泡発生部60によって入口マニホールド部22内の液水に微細気泡を混合する構造が、混合部35を形成する。また、入口マニホールド部22において、メッシュ62は、複数の蒸発流路30の各々に液水を分配する分配部を構成する。
第4実施形態における各々の蒸発流路30には、入口近傍において、複数の気泡合体リブ64が、液水の流れ方向(Z軸方向)に複数段設けられている。図24では、液水の流れ方向に3段の気泡合体リブ64が設けられる様子を示すが、3以外の複数段としてもよい。各気泡合体リブは、蒸発流路30の幅方向の内壁面において蒸発流路30の高さ方向(Y軸方向)にわたって、蒸発流路30の流路断面の一部を塞ぐように形成されている。水平方向に隣り合う気泡合体リブ64間の間隔は、流体の流れ方向の下流側ほど広く形成されている。そのため、メッシュ62を経由して各蒸発流路30に流入した気泡40は、次第に間隔が広がる複数段の気泡合体リブ64間を通過することで、気泡合体リブ64の間隔に応じて気泡サイズが次第に大きくなる。このように気泡サイズが次第に大きくなることで、気泡合体リブ64を通過した気泡40は、速やかに気泡スラグ42を形成することが可能になる。蒸発流路30の入口近傍において複数の気泡合体リブ64が設けられた部位は、「気泡合体部」とも呼ぶ。
第4実施形態によれば、複数の蒸発流路30を備える蒸発器10において、不凝縮性ガスを液水に混合する混合部を、蒸発流路30ごとに個別に設ける必要がないため、装置構成を簡素化することができる。また、不凝縮性ガスを微細気泡の状態で液水に混合し、その後、メッシュ62を用いて各蒸発流路30に分配するため、各蒸発流路30における圧力損失の違いによりガス分配が不均一化することや、脈動が生じることを抑え、液水と不凝縮性ガスの混合比を均一化して各蒸発流路30に分配することができる。さらに、液水に対して微細気泡の状態で不凝縮性ガスを混合しても、気泡合体部により気泡を大型化するため、蒸発流路30内において速やかに気泡スラグ42を形成させることが可能になる。
E.第5実施形態:
第5実施形態の蒸発器10は、蒸発流路30の出口近傍において、液水を捕集する構造を設けて、蒸発流路30からの液水の排出を抑えている。なお、第5実施形態において、第1実施形態と共通する部分には、同じ参照番号を付す。
図25および図26は、蒸発流路30内において、薄液膜46が消失するドライアウトが生じるときの様子を模式的に表す説明図である。ドライアウトは、既述したように、例えば、蒸発が進行して高いボイド率となる下流側において、薄液膜46における蒸発速度が、薄液膜46に対する液供給速度を上回るときに生じる。
図25に示すように、ドライアウトが生じると、液相スラグ44は、水の表面張力により蒸発流路30の流路断面全体にわたってブリッジ状に形成される。ドライアウトにより、このようなブリッジ状の液相スラグ44が形成されると、蒸発流路30の下流側のように蒸気クオリティχが高い領域では(図11参照)、比較的小さい液相スラグ44は気泡スラグ42の圧力によって破断されて、蒸発流路30内を下流側に流れる液滴72と、壁面に残された破断液膜70と、に分離する(図26参照)。また、液相スラグ44は、蒸発流路30の出口部近傍では環状流へと遷移し得るが、このときの蒸気流速は比較的速く、流路壁32壁面にほぼ付着した液膜との間には強い流体せん断力が働くため、環状流の液膜から分離・剥離した液滴も発生し得る。上記のように、液相スラグ44の破断や流動様式の遷移により発生する液滴のうち、一部は伝熱面に再付着して気化するものの、残りは蒸発流路30の出口から排出され、出口マニホールド部26などの蒸発流路30の下流に設けられた配管等に付着する。このように、蒸発流路30から排出された液滴が滞留し、蒸発流路30よりも下流に設けられた加熱壁面などに接触すると、蒸発流路30の外部で蒸発が非定常的に生成され、定常的で安定した蒸気供給が困難となる可能性がある。
図27は、第5実施形態の蒸発器10の熱交換部20における複数の蒸発流路30の内部の構成を拡大した様子と、蒸発流路30の出口部近傍を拡大した様子とを、併せて示す説明図である。また、図28は、図27に示した蒸発流路30におけるA-A断面の様子を表す断面模式図である。図27および図28に示すように、第5実施形態における各々の蒸発流路30には、出口近傍において、複数の液滴捕集リブ74が設けられている。具体的には、複数の液滴捕集リブ74が、流路の流れ方向に垂直な方向(Y方向)から見たときに千鳥状になるように配置されている。すなわち、複数(本実施形態では2つまたは3つ)の液滴捕集リブ74が、流れ方向に垂直な方向(X軸方向)に一定の間隔で配置されると共に、このような構造が、流れ方向(Z軸方向)に複数段設けられ、任意の段に含まれる液滴捕集リブ74は、流れ方向(Z軸方向)から見たときに、上記任意の段に隣接する段に含まれて隣り合って設けられた液滴捕集リブ間に配置されている。各液滴捕集リブ74は、図28に示すように、蒸発流路30の高さ方向(Y軸方向)にわたって、蒸発流路30の流路断面の一部を塞ぐように形成されている。また、各液滴捕集リブ74は、図27に示すように、蒸発流路30の高さ方向(Y軸方向)に見たときに円形となる形状に形成されているが、異なる形状としてもよい。これら複数の液滴捕集リブ74から成る構造は、「液滴捕集部」とも呼ぶ。
図27および図28では、蒸発流路30の流路幅をW[mm]、流路高さをh[mm]、各々の液滴捕集リブ74のリブ径をdr[mm]、隣り合う液滴捕集リブ74の中心間の距離であるフィンピッチをfp[mm]として示している。第5実施形態では、以下の(18)式が成立するように、蒸発流路30および液滴捕集リブ74を形成している。
fp-d<h … (18)
すなわち、流路高さh[mm]とリブ径dr[mm]との和よりも小さいフィンピッチfp[mm]にて千鳥状に複数の液滴捕集リブ74を配置することで、流路高さh[mm]よりも径が小さい液滴72を、液滴捕集リブ74にてトラップすることを可能にしている。液滴72は、液滴捕集リブ74間に捕集されて静止すると、流路壁32を介して熱媒流路31から伝えられる熱によって蒸発する。
このような構成とすれば、液相スラグ44の破断や流動様式の遷移等により蒸発流路30内で液滴が発生する場合であっても、液滴捕集部で液滴を捕集して気化させることにより、蒸発流路30の出口における蒸気クオリティχを1にして、蒸発流路30からの液滴の排出を抑えることが可能になる。その結果、蒸発器10による定常的で安定した蒸気供給ができる。
第5実施形態では、液滴捕集部を複数の液滴捕集リブ74によって形成したが、異なる構成としてもよい。例えば、金属焼結体やフィルターを、各蒸発流路30の出口部に配置する、あるいは、各蒸発流路30の出口部を覆うように金属メッシュを配置する、等により、液滴捕集部を構成してもよい。ただし、第5実施形態のように、液滴捕集部を複数のリブによって構成するならば、液滴捕集部における圧力損失を低減することができるため、特に望ましい。
F.第6実施形態:
図29は、第6実施形態における蒸発器10を備えるシステム15の概略構成を表す説明図である。第6実施形態において、第1実施形態と共通する部分には、同じ参照番号を付す。システム15は、蒸発器10と、液体供給部12と、不凝縮性ガス供給部13と、気体消費装置14と、制御部18と、を備える。
蒸発器10は、第1実施形態の蒸発器10と同様の構成としているが、他の実施形態の蒸発器を用いてもよい。液体供給部12は、第1水供給路23を介して、蒸発器10に液水を供給する。不凝縮性ガス供給部13は、第1ガス供給路24を介して蒸発器10の混合部35に不凝縮性ガスを供給すると共に、第3ガス供給路25を介して、蒸発器10の出口部から排出される水蒸気と不凝縮性ガスとの混合気体(以下、単に「混合気体」とも呼ぶ)に不凝縮性ガスを供給する。
気体消費装置14は、蒸発器10から供給される混合気体を消費する装置である。本実施形態では、気体消費装置14として、水蒸気電解装置を用いている。水蒸気電解装置は、水蒸気電解反応により水素を製造する装置である。
制御部18は、論理演算を実行するCPUやROM、RAM等を備えたいわゆるマイクロコンピュータで構成され、システム15の各部の動作を制御する。制御部18が実行する制御には、液体供給部12が供給する液水の量の調節、および、不凝縮性ガス供給部13が供給する不凝縮性ガスの量の調節が含まれる。このとき、制御部18は、気体消費装置14が要求する気体の量(気体消費装置14の要求負荷)を取得すると共に、後述する温度センサ84-89のようなシステム15の各部に設けたセンサ等から検出信号を取得する。
図30および図31は、不凝縮性ガス供給部13による不凝縮性ガスの供給の態様により、蒸発流路30内の流体流れの流動状態が変化することを表す説明図である。蒸発器10は、気体消費装置14が要求する量の気体(水蒸気)を気体消費装置14に供給するように制御される。したがって、気体消費装置14が要求する気体の量が増大するときには、蒸発器10で生成する水蒸気量が増加され、気体消費装置14が要求する気体の量が低下するときには、蒸発器10で生成する水蒸気量が減少される。このとき、気体消費装置14に供給されるガス中における水蒸気量と不凝縮性ガス量との割合は、予め定めた範囲に維持される。具体的には、水蒸気量と不凝縮性ガス量との割合が予め定めた値となるように、液水および不凝縮性ガスの蒸発器10への供給が制御される。そして、不凝縮性ガス供給部13は、気体消費装置14に供給すべき不凝縮性ガスのうちの一部を、各蒸発流路30の上流に設けた混合部35に供給し、残余の不凝縮性ガスを、各蒸発流路30の下流において、蒸発流路30から排出される混合ガスに供給する。
なお、残余の不凝縮性ガスを混合ガスに供給する際には、蒸発器10内部において各蒸発流路30の出口部で供給してもよく、蒸発器10の外部で供給してもよい。図30、図31、および後述する図33では、各蒸発流路30から混合ガスが排出される第2ガス排出路37に追加混合部82を設け、不凝縮性ガスを供給するための第4ガス供給路80を追加混合部82に接続している。また、図29では、第3ガス供給路25を介して、不凝縮性ガス供給部13と第1ガス排出路27とを接続している。
図30は、気体消費装置14が要求するガス量が比較的少ないとき(以下、低蒸気生成モードとも呼ぶ)に実行される流体供給の様子を示している。蒸発器10に供給される液水量が少ないときには、各蒸発流路30内において、流れ方向における比較的入口に近い位置で蒸発が完了して(蒸気クオリティχ=1になり)、さらに下流側では気相熱交換となるため、流路壁32の温度は、蒸発器10に供給される熱媒体の温度と同等程度まで上昇し得る。すなわち、蒸発流路30における流れ方向の温度分布は、入口側で急激に温度上昇して高いレベルになる分布を示す。このような温度分布を、蒸発流路30の出口付近で蒸発クオリティχ=1になる状態に近づけるためには、供給量が少ない液水を、蒸発流路30内で流れ方向のより下流側へと移送し、界面蒸発域を下流側へと拡張する必要がある。第6実施形態のシステム15は、低蒸気生成モードでは、蒸発流路30の上流(以下、1段目とも呼ぶ)で供給する不凝縮性ガス量を増加させることにより、気泡スラグ長さ(気泡スラグ42の流れ方向の長さ)を大きくして、液相スラグ44を流れ方向に分配・拡張している。このとき、1段目の不凝縮性ガスの供給量の増加に伴い、蒸発流路30の下流(以下、2段目とも呼ぶ)で供給する不凝縮性ガス量は減少される。これにより、蒸発流路30における流れ方向の温度勾配を抑えつつ、水蒸気と不凝縮性ガスとを含むガスの安定供給が可能になる。
図31は、気体消費装置14が要求するガス量が比較的多いとき(以下、高蒸気生成モードとも呼ぶ)に実行される流体供給の様子を示している。蒸発器10に供給される液水量が多いときには、蒸発流路30内において、より多くの液相スラグ44を流れ方向に移送する必要がある。第6実施形態のシステム15は、高水蒸気生成モードでは、低蒸気生成モードよりも1段目における不凝縮性ガスの供給割合を小さくすることで、気泡スラグ長さをより小さくし、液相スラグ44の量(液相スラグ輸送量)をより多くして、流れ方向に分配している。このとき、1段目の不凝縮性ガスの供給量の減少に伴い、2段目で供給する不凝縮性ガス量は増加される。これにより、蒸発流路30における流れ方向の温度勾配を適正化しつつ、水蒸気と不凝縮性ガスとを含むガスの安定供給が可能になる。
図32は、蒸発流路30における流れ方向の温度分布の様子を概念的に示す説明図である。横軸は、蒸発流路30における入口からの流れ方向の距離を示し、縦軸は、温度を示す。図32において、「液相域」は、気泡スラグ42が形成される前の領域を示し、「2相域」は、スラグ流が形成される領域を示し、「気相域」は、蒸発クオリティχが1に達した後の領域を示す。図32では、隔壁温度分布と蒸気温度分布とを示しているため、これらについて以下に説明する。
図33は、第6実施形態の蒸発器10の構成として、不凝縮性ガスの供給量を1段目と2段目で変更する制御を行うための具体的な構成を、図2と同様にして示す説明図である。第6実施形態の蒸発器10は、流路壁32の温度(隔壁温度)を検出するための温度センサ84-86と、蒸発流路30内の蒸気温度を検出するための温度センサ87-89と、を備える。
温度センサ84-86は、流路壁32内において、上流側からこの順で配置されており、温度センサ84と温度センサ85との間の流れ方向の距離はδx1、温度センサ85と温度センサ86との間の流れ方向の距離はδx2である。図33では、さらに、温度センサ84の検出温度と温度センサ85の検出温度との差をδTw1、温度センサ85の検出温度と温度センサ86の検出温度との差をδTw2、として示している。
温度センサ87-89は、蒸発流路30内において、上流側からこの順で配置されており、温度センサ87と温度センサ88との間の流れ方向の距離はδx’1、温度センサ88と温度センサ89との間の流れ方向の距離はδx’2である。図33では、さらに、温度センサ87の検出温度と温度センサ88の検出温度との差をδTs1、温度センサ88の検出温度と温度センサ89の検出温度との差をδTs2、として示している。
図32では、上記のような温度センサを用いて測定した、流れ方向に沿った隔壁温度分布、および蒸気温度分布が示されている。各分布において、実線は、水の供給量が比較的多いとき(高水蒸気生成モード)を示し、破線は、水の供給量が比較的少ないとき(低蒸気生成モード)を示す。隔壁温度分布と蒸気温度分布のいずれにおいても、2相域よりも気相域の方が、温度勾配が大きくなる。また、特に気相域においては、高蒸気生成モードの方が低蒸気生成モードよりも温度勾配が大きくなる。図32では、2相域の蒸気温度勾配を(δTs/δx)TPとして示し、気相域の蒸気温度勾配を(δTs/δx)GPとして示している。また、2相域の隔壁温度勾配を(δTw/δx)TPとして示し、気相域の隔壁温度勾配を(δTw/δx)GPとして示している。
第6実施形態では、温度センサ84-86の検出値から求められる隔壁温度勾配の平均値Ave1、あるいは、温度センサ87-89の検出値から求められる蒸気温度勾配の平均値Ave2を用いて、蒸発流路30内の流動状態を判定し、所望の状態を維持するように、不凝縮性ガスの1段目の供給量と2段目の供給量の割合を変更している。隔壁温度勾配の平均値Ave1は、以下の(19)式で表され、蒸気温度勾配の平均値Ave2は、以下の(20)式で表される。
図34は、隔壁温度勾配の許容される範囲を示す説明図である。本実施形態では、隔壁温度勾配の許容される範囲の下限値として、図32に示した2相域の隔壁温度勾配(δTw/δx)TPに基づく値である(1+α)・(δTw/δx)TPを設定している。また、隔壁温度勾配の許容される範囲の上限値として、図32に示した気相域の隔壁温度勾配(δTw/δx)GPに基づく値である(1-α)・(δTw/δx)GPを設定している。隔壁温度勾配の平均値Ave1が、上記した上限値と下限値の間であれば、温度センサ84-86を設けた下流域でも2相流が維持されるように、不凝縮性ガスの供給量の変化の応答性等に応じて、制御範囲係数αを適宜設定すればよい。例えば、制御範囲係数αは、0.05~0.2の範囲で設定することができる。
図35は、蒸気温度勾配の許容される範囲を示す説明図である。本実施形態では、蒸気温度勾配の許容される範囲の下限値として、図32に示した2相域の蒸気温度勾配(δTs/δx)TPに基づく値である(1+α)・(δTs/δx)TPを設定している。また、蒸気温度勾配の許容される範囲の上限値として、図32に示した気相域の蒸気温度勾配(δTs/δx)GPに基づく値である(1-α)・(δTs/δx)GPを設定している。制御範囲係数αは、隔壁温度勾配の場合と同様に、蒸気温度勾配の平均値Ave2が上記した上限値と下限値の間であれば、温度センサ84-86を設けた下流域でも2相流が維持されるように、適宜設定すればよい。
図36は、システム15の制御部18が実行する分配供給制御処理ルーチンを表すフローチャートである。本ルーチンは、システム15が起動されて蒸発器10による気体消費装置14への混合気体の供給の動作が開始された後に、制御部18において繰り返し実行される。システム15が起動されて蒸発器10の動作が開始されるときには、まず、不凝縮性ガス供給部13から第1ガス供給路24を介して蒸発器10に供給されるガス量が、蒸発流路30内における温度センサ84-86が設けられた領域で2相域と気相域の境界が入るように予め定められた1段目ガス流量nc1[mol/s]となるように、不凝縮性ガス供給部13が制御される。さらに、不凝縮性ガス供給部13から第3ガス供給路25を介して蒸発器10に供給されるガス量が、気体消費装置14に供給すべき不凝縮性ガス量から1段目ガス流量nc1を減算した2段目ガス流量nc2[mol/s]となるように、不凝縮性ガス供給部13が制御される。
本ルーチンが起動されると、制御部18のCPUは、温度センサ84-86から検出値を取得する(ステップS100)。その後、制御部18は、(19)式を用いて、隔壁温度勾配の平均値Ave1を算出する(ステップS110)。ステップS110の後、制御部18は、隔壁温度勾配のAve1と、図34に示した下限値(1+α)・(δTw/δx)TPとを比較する(ステップS120)。Ave1が下限値よりも小さいときには(ステップS120:YES)、制御部18は、不凝縮性ガスの1段目供給量が減少するように、不凝縮性ガス供給部13の制御変更を行い(ステップS130)、本ルーチンを終了する。不凝縮性ガスの1段目供給量を減少させることにより、液相スラグ輸送量を多くして、流れ方向に沿った隔壁温度分布の状態を望ましい状態に近づけることができる。ステップS120でAve1が下限値以上であると判断されたときには(ステップS120:NO)、制御部18のCPUは、隔壁温度勾配のAve1と、図34に示した上限値(1-α)・(δTw/δx)GPとを比較する(ステップS140)。Ave1が上限値以下であるときには(ステップS140:NO)、制御部18は、本ルーチンを終了する。Ave1が上限値よりも大きいときには(ステップS140:YES)、制御部18は、不凝縮性ガスの1段目供給量が増加するように、不凝縮性ガス供給部13の制御変更を行い(ステップS150)、本ルーチンを終了する。不凝縮性ガスの1段目供給量を増加させることにより、気泡スラグの流れ方向の長さを大きくして、液相スラグを流れ方向に分配・拡張し、流れ方向に沿った隔壁温度分布の状態を望ましい状態に近づけることができる。なお、制御部18は、ステップS130およびステップS150で不凝縮性ガスの1段目供給量を変更したときには、2段目供給量が、気体消費装置14に供給すべき不凝縮性ガス量から1段目供給量を減算した値となるように、不凝縮性ガス供給部13の制御変更を行う。
図36では、Ave1を下限値と比較する動作を、上限値と比較する動作よりも先に行ったが、異なる順序であってもよい。また、図36では、隔壁温度勾配を用いて不凝縮性ガスの供給量の制御を行ったが、既述した蒸気温度勾配を用いて、同様にして、不凝縮性ガスの供給量の制御を行ってもよい。制御部18は、蒸発器10から排出されるガス中の不凝縮性ガスと水蒸気との割合を、予め定めた範囲にしつつ、蒸発流路30内における流動状態が所望の状態となるときの条件として予め定めた条件を満たすように、混合部35に供給する不凝縮性ガスの量と、蒸発流路30から排出される混合ガスに供給する不凝縮性ガスの量と、の割合を調節すればよい。なお、第6実施形態では、隔壁温度勾配を求めるための温度センサや、蒸気温度勾配を求めるための温度センサは、流れ方向に3つ設けたが、温度センサの数は、3以外の複数であってもよい。温度勾配の平均値を求めて判断するためには、センサの数は、3以上とすればよい。
このような構成とすれば、気体消費装置14に供給すべきガス量が変動し、蒸発器10で蒸発させる液水量が変動する場合であっても、気体消費装置14に供給するガス中の不凝縮性ガスと水蒸気の割合を一定に保ちつつ、不凝縮性ガスの1段目供給量を変更することで、蒸発流路30内の流動様式を、所望の状態に調整することが可能になる。その結果、低蒸気生成モードであっても、高蒸気生成モードであっても、蒸発流路30内における液相域、2相域、気相域の分布の変更を抑えて、流れ方向の温度分布の変化を抑えることができる。そのため、蒸発器10で蒸発させる液水量が変動する場合であっても、蒸発器10内の温度調整の応答遅れに起因した蒸気供給の不安定性を抑え、蒸発器10で蒸発させる液水量の変動に対して、高い応答性で追従することができる。
C.他の実施形態:
上記した各実施形態では、蒸発器で蒸発させる液体を液水とし、不凝縮性ガスを水素としたが、異なる構成としてもよい。不凝縮性ガスは、蒸発器が使用される環境下において、蒸発流路内で凝縮しない気体であればよく、水素の他、例えば、空気、メタン、二酸化炭素を用いることができる。ただし、不凝縮性ガスは、蒸発器で蒸発させる液体の蒸気よりも、拡散速度が速いガスであることが望ましい。
上記した各実施形態では、蒸発流路30を流れる液体が鉛直上方に流れる向きとなるように蒸発器を配置したが、異なる構成としてもよい。蒸発流路30を流れる液体の流れの向きが、鉛直下方、あるいは水平横方向など、任意の向きとなるように、蒸発器を配置することができる。このような構成としても、蒸発器10の入口部において不凝縮性ガスを混合して、蒸発流路30内で不凝縮性ガスの気泡を発生させることにより、蒸発界面を増大させて蒸発の効率を高めるという同様の効果が得られる。特に、蒸発流路30の流路直径が比較的小さく、蒸発流路30が、慣性力よりも界面張力の影響が強くなる微細流路(例えば、流路直径が数百マイクロメートルから数ミリメートル程度の流路)である場合には、ウェーバー数Weが比較的小さくなり(例えば、ウェーバー数We<0.01)、重力による流動様式への影響が小さくなる。このような流路では、蒸発流路30内における流動様式は、蒸発流路30の向き、すなわち、蒸発器の姿勢の影響を受け難い。そのため、蒸発流路30の向きにかかわらず、各実施形態の蒸発器と同様に、スラグ流が形成されて、気泡スラグ42の周りの薄液膜46において、熱移動や物質移動を促進し、熱抵抗成分を低減することにより、蒸発の効率を向上させる効果を高めることが可能になる。また、上記のように蒸発流路30の向きを任意の向きにできることにより、蒸発器の設置場所や設置姿勢について、設計の自由度を高めることができる。
第6実施形態では、蒸発器で生成した気体を消費する気体消費装置として、水蒸気電解装置を用いたが、異なる装置に対して、蒸発器からガス供給することとしてもよい。このとき、気体消費装置が消費する気体の種類に応じて、蒸発器で蒸発させる液体を選択すればよい。また、気体消費装置に供給しても気体消費装置における反応に支障がないガス、あるいは、蒸発器で生成される蒸気と共に気体消費装置における反応に供されるガスとして、不凝縮性ガスを選択すればよい。例えば、気体消費装置が、水と二酸化炭素とを同時に電気分解(共電解)する装置であれば、不凝縮性ガスとして二酸化炭素を用いることができる。また、気体消費装置が、メタンの水蒸気改質反応による水素を生成する装置であれば、不凝縮性ガスとして、メタンや二酸化炭素を用いることができる。