JP7297282B2 - 組成物、細胞培養基材、及び細胞培養基材の製造方法 - Google Patents
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非特許文献1には、流動性を有する細胞培養基材により培養細胞の形態を制御する技術として、ε-カプロラクトンとDL-乳酸とから形成され、重合性基を有するマクロモノマーからなる細胞培養基材が記載されている。
また、本発明は、細胞培養基材、細胞培養基材の製造方法、及び、細胞の牽引力の測定方法の提供も課題とする。
上記繰り返し単位Aが、後述する式1で表される繰り返し単位であり、上記繰り返し単位Bが、後述する式b1で表される繰り返し単位、及び、後述する式b2で表される繰り返し単位からなる群より選択される少なくとも1種の繰り返し単位である、脂肪族ポリエステルと、光ラジカル発生剤と、を含有する細胞培養基材を形成するための組成物。
[2] 上記脂肪族ポリエステルにおける、上記繰り返し単位Bの含有量に対する、上記繰り返し単位Aの含有量の含有モル比が60/40以下である、[1]に記載の組成物。
[3] 上記細胞培養基材が細胞の牽引力の測定用である[1]又は[2]に記載の組成物。
[4] [1]~[3]のいずれかに記載の組成物に光照射してなる細胞培養基材。
[5] [1]~[4]のいずれかに記載の組成物に光照射して、細胞培養基材を得る、細胞培養基材の製造方法。
[6] 細胞の牽引力の測定方法であって、[1]~[3]のいずれかに記載の組成物に光照射して細胞培養基材を得る工程Aと、上記細胞培養基材を用いて測定対象である細胞を培養し、上記細胞培養基材上にシワを生成する工程Bと、上記シワの周期を測定する工程Cと、を有する細胞の牽引力の測定方法。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本発明の実施形態に係る組成物は、後述する式1で表される繰り返し単位Aと(以下、単に「単位A」ともいう。)、式b1で表される繰り返し単位(以下「単位b1」ともいう。)、及び、式b2で表される繰り返し単位(以下「単位b2」ともいう。)からなる群より選択される少なくとも1種の繰り返し単位B(以下、単に「単位B」ともいう。)と、を有する脂肪族ポリエステルと、光ラジカル発生剤と、を含有する細胞培養基材形成用の組成物である。
本発明の実施形態に係る組成物は、単位A及び単位Bを有する脂肪族ポリエステルを含有する。脂肪族ポリエステル中における単位A及び単位Bの配列順序としては特に制限されないが、ランダム、交互、及び、ブロックのいずれであってもよい。
下限値としては特に制限されないが、一般に0.1モル%以上が好ましい。
単位Aの含有量が60モル%以下であると、組成物を用いて得られる基材の流動性をより制御しやすい。これは、単位Aの含有量が60モル%以下であると、組成物がより流動的になるために、光照射時間を調節すれば、得られる基材の流動性をより広範囲に制御できるためと推測される。
式b1中、R2は分岐鎖状のアルキレン基を表す。R2で表されるアルキレン基としては特に制限されないが、炭素数2~20の分岐鎖状アルキレン基が好ましい。
式b2中、R3はアルキル基を表す。R3のアルキル基としては特に制限されないが、炭素数1~20の直鎖状のアルキル基、又は、炭素数2~20の分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。
上限値としては特に制限されないが、一般に99.9モル%以下が好ましい。
単位Bの含有量が40モル%以上であると、組成物を用いて得られる基材の流動性をより制御しやすい。これは、単位Bの含有量が40モル%以上であると、組成物がより流動的になるために、光照射時間を調節すれば、得られる基材の流動性をより広範囲に制御できるためと推測される。
なかでも、より優れた本発明の効果を有する脂肪族ポリエステルが得られる点で、脂肪族ポリエステルは、多価アルコールに基づく部分構造を有していることが好ましい。
A/Bが60/40以下であると、光照射条件によらず、得られる細胞培養基材が、37℃(通常の細胞培養温度)の条件下で損失弾性率が貯蔵弾性率を上回りやすく、結果として得られる細胞培養基材は粘性液体としての性質をより強く有し、応力場の異なる種々の細胞に合わせて、細胞培養基材の流動性をより調整しやすい。
なお、A/Bの下限値としては特に制限されないが、一般に1/100以上が好ましい。
なおA/Bの調製方法としては特に制限されないが、例えば、脂肪族ポリエステルの合成においてモノマーの仕込み比を調整する方法が挙げられる。
本発明の実施形態に係る組成物は光ラジカル発生剤を含有する。光ラジカル発生剤は、光照射によりラジカルを発生し、上記脂肪族ポリエステルを分子内、又は、分子間で架橋する作用を有し、得られる細胞培養基材の流動性を光照射条件により調整可能とする。
光ラジカル発生剤としては、特に限定されないが、例えば、アルキルフェノン系、アシルホスフィンオキサイド系、オキシムエステル系、及び、α-ヒドロキシケトン系等が挙げられる。
なお、組成物は、光ラジカル発生剤の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。組成物が、2種以上の光ラジカル発生剤を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
本実施形態に係る組成物は、脂肪族ポリエステルと、光ラジカル発生剤とを含有していれば、本発明の効果を奏する範囲内において他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、例えば、溶媒が挙げられる。
溶媒としては、脂肪族ポリエステル及び光ラジカル発生剤の両者に親和性を有し、両者を少なくとも部分的に溶解すれば特に制限されず、公知の溶媒が使用できる。
炭化水素系溶媒としては、例えば、ヘキサン、シクロへキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘプタン、及び、デカン等が挙げられる。
ケトン系溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロへキサノン、及び、イソホロン等が挙げられる。
エステル系溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸メチル、コハク酸エチル、炭酸メチル、安息香酸エチル、及び、ジエチレングリコールジアセテート等が挙げられる。
エーテル系溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、及び、ジフェニルエーテル等が挙げられる。
ハロゲン系溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、ジクロロエタン、1,1′,2,2′-テトラクロロエタン、クロロベンゼン、及び、ジクロロベンゼン等が挙げられる。
アミド系溶媒としては、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどが挙げられる。
本発明の実施形態に係る細胞培養基材の製造方法は、すでに説明した組成物に光照射して、細胞培養基材を得る、細胞培養基材の製造方法である。
組成物に光照射する方法としては特に制限されないが、典型的には、支持体上に組成物を塗布して組成物層を形成し、上記組成物層に光照射する方法が挙げられる。
上記の観点から、光照射は不活性ガス雰囲気で実施することが好ましく、中でも、アルゴンガス雰囲気で実施することがより好ましい。
照射時間は、所望の細胞培養基材の流動性等に応じて任意に選択可能である。特に制限されないが、例えば、0.01~60分間程度照射すればよい。
また、これらの細胞は、組織、及び、器官から直接採取した初代細胞でもよいし、又は、それらを何代か継代させたものでもよい。
また、細胞は単一種を培養してもよいし二種以上の細胞を共培養してもよい。
本実施形態に係る細胞の牽引力の測定方法は、上記組成物に光照射して細胞培養基材を得る工程Aと、上記細胞培養基材を用いて測定対象である細胞を培養し、細胞培養基材上にシワを生成する工程Bと、上記シワの周期を測定する工程Cと、を有する細胞の牽引力の測定方法である。
本実施形態に係る細胞の牽引力の測定方法は、上記組成物に光照射して得られる細胞培養基材を用いる。上記細胞培養基材を用いると、細胞の種類、及び、牽引力の強さに応じて、光照射の時間、及び/又は、強度を調整することで、所望の形態での培養が容易に行える。
従って、後述するシワが明確に観察できるよう、細胞培養基材の流動性を制御することで、より容易に細胞の牽引力を測定することができる利点がある。
以下、各工程について詳述する。
工程Aは、組成物に光照射して細胞培養基材を得る工程である。
組成物に光照射する方法としては特に制限されないが、測定対象とする細胞を培養したとき、細胞の牽引力によって生じるシワが所定の条件で観察できる程度の流動性を有するように、光照射の条件を設定することが好ましい。
工程Bは、上記細胞培養基材を用いて測定対象である細胞を培養し、細胞培養基材上にシワを生成する工程である。培養方法としては特に制限されず公知の方法が適用可能である。上記組成物を用いて得られた基材は培養対象となる細胞にあわせた適度な流動性を有するため、細胞培養基材上において伸展する細胞の牽引力によって、細胞培養基材に周期的なシワを生じさせることができる。
一方、本工程においては、上記細胞培養基材を使用するため、測定対象とする細胞に応じて細胞培養基材の弾性率、及び、流動性が制御できるため、測定対象とする細胞の牽引力に応じた固さの細胞培養基材が調製でき、所望のシワを生成可能である。
工程Cは、シワの周期を測定する工程である。シワの周期は、細胞の牽引力を反映しており、これらを測定すれば、常法によって細胞の牽引力を計算することができる。なお、本工程において、シワの周期に加えて、振幅、及び、長さ等を測定し、これらを用いて細胞の牽引力を計算してもよい。
Pentaerythritol(多価アルコールに該当する)を開始剤とし、触媒としてオクチル酸スズを用いて、窒素気流下でε-カプロラクトン(CL)、及び、D,L-ラクチド(DLLA)との開環共重合により4分岐型の脂肪族ポリエステル「P(CL-co-DLLA)」を合成した(下記スキーム)。脂肪族ポリエステル中におけるD,L-ラクチドの含有量に対するε-カプロラクトンの含有量の含有モル比は、60/40だった。
得られた脂肪族ポリエステルとベンゾフェノンとをトルエンに溶解させた。このとき、脂肪族ポリエステルの含有量は、トルエン100質量部に対して10~100質量部、ベンゾフェノンの含有量は、トルエン100質量部に対して0.005~5質量部となるよう、それぞれ調製した。
上記組成物を用いて、下記の条件によりスピンコート法によりガラス基板上に成膜し、細胞培養基材(未架橋)を得た。その後、アルゴンガス雰囲気で所定時間光照射し、流動性の異なる細胞培養基材を作成した。
光照射条件:(<320nm以下を硫酸銅によりカット、0-60min照射)
上記で得られた細胞培養基材を用いて、種々の細胞(マウス繊維芽細胞(NIH3T3)、ヒト乳腺癌細胞(MCF-7)、イヌ腎臓尿細管上皮細胞(MDCK)等を用いた細胞実験を行った。
より具体的には、紫外線照射、エチレンオキシドガス(EGO)滅菌によりサンプルの滅菌を行い、フィブロネクチン等の接着を促進するタンパク質コーティングを必要に応じて行い、所定の細胞密度で播種した。
細胞の基材への接着形態について、位相差/蛍光顕微鏡を用いて経時的に観察した。結果を図1、及び、図2に示した。
なお、上の段の「In air」とあるのは、光照射を空気下で行ったもの、下の段の「Under Ar」とあるのは、光照射をアルゴンガス雰囲気で行ったものを表す。
上記の結果から、本発明の実施形態に係る組成物は、光照射時間を変えるだけで、細胞の接着形態を簡便に制御できることがわかった。
「4b100」のみ;
「4b500」のみ;
4b100とベンゾフェノンとを含有する組成物「4b100+BP」を用いて、光照射を行わなかったもの(図中「0min」と記載した。);
4b500とベンゾフェノンとを含有する組成物「4b100+BP」を用いて、光照射を行わなかったもの(図中「0min」と記載した。);
のそれぞれを用いて、MCF-7を培養したもの、並びに、
「4b100+BP」に10~60min光照射して得られた細胞培養基材;
「4b500+BP」に10~60min光照射して得られた細胞培養基材;
のそれぞれを用いてMCF-7を培養したもの、の光学顕微鏡像を示した。
また、上記細胞培養基材を用いると、MCF-7が接着する際の細胞の牽引力により、細胞培養基材の表面において周期的なシワが形成されることがわかった。また、光照射時間によって形成されるシワの形状、長さ等が異なっており、細胞種を変えた場合であっても観察に最適なシワが形成されることが推測される。
上記で準備した4b100及び4b500の脂肪族ポリエステルを準備し、脂肪族ポリエステルとベンゾフェノンとをトルエンに溶解させ、細胞培養基材形成用の各組成物を調製した。このとき、脂肪族ポリエステルの含有量は、トルエン100質量部に対して、50(4b100)質量部、30(4b500)質量部、ベンゾフェノンの含有量は、トルエン100質量部に対して2(4b100)質量部、1.2(4b500)質量部質量部だった。
また、比較例として、ベンゾフェノンを含有しないことを除いては上記と同様の組成物を調製した。
原子間力顕微鏡を用いて、細胞培養基材の弾性率を測定した。測定試料は、上記各組成物に対して所定の時間紫外線照射して得られる細胞培養基材とした。
測定は、上記細胞培養基材に対して、カンチレバーを所定の速度(5μm/s、比較例については42μm/s)で近づけながら、カンチレバーにかかる力を測定し、そこから、力-距離曲線(force-distance curves)、及び、弾性率を求める方法とした。
4b100を含有する組成物を用いて得られた各細胞培養基材の力-距離曲線を図4に、弾性率を図5に示した。4b500を含有する組成物を用いて得られた各細胞培養基材の力-距離曲線を図6に、弾性率を図7に示した。
弾性率の測定で使用したのと同じ組成物を用いて、原子間力顕微鏡を用いて細胞培養基材の流動性を測定した。測定は、得られた細胞培養基材に対して、カンチレバーを所定の速度(5μm/s、比較例については42μm/s)で押し込み、その力の減衰挙動を観察する方法とした。
4b100を含有する組成物を用いて得られた各細胞培養基材の力緩和曲線を図9に、4b500を含有する組成物を用いて得られた各細胞培養基材の力緩和曲線を図10に示した。
上記の結果から、光照射時間により得られる細胞培養基材の流動性任意に制御できることがわかった。また、脂肪族ポリエステル(共重合体)の重合度を変えれば、調整可能な流動性の範囲も任意に制御できることがわかった。
Claims (4)
- 細胞培養基材を形成するための組成物であって、
繰り返し単位として、繰り返し単位Aと、繰り返し単位Bとのみを有する脂肪族ポリエステルと、
アルキルフェノン系の光ラジカル発生剤と、を含み、
前記脂肪族ポリエステルにおいて、
前記繰り返し単位Aと、前記繰り返し単位Bとは同一ではなく、
前記繰り返し単位Aが、式1で表される繰り返し単位であり、
前記繰り返し単位Bが、式b1で表される繰り返し単位、及び、式b2で表される繰り返し単位からなる群より選択される少なくとも1種の繰り返し単位である、組成物。
式1中、R1は直鎖状のアルキレン基を表し、式b1中、R2は分岐鎖状のアルキレン基を表し、式b2中、R3はアルキル基を表し、式b2の2つのR3はそれぞれ同一でも異なってもよい。 - 前記脂肪族ポリエステルにおける、前記繰り返し単位Bの含有量に対する、前記繰り返し単位Aの含有量の含有モル比が60/40以下である、請求項1に記載の組成物。
- 請求項1又は2に記載の組成物に光照射してなる細胞培養基材。
- 請求項1又は2に記載の組成物に光照射して、細胞培養基材を得る、細胞培養基材の製造方法。
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