以下に、本願の開示する電気集塵機の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施例によって、本願の開示する電気集塵機の構造および制御方法が限定されるものではない。また、以下の説明による構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。
まず、実施例の電気集塵機を備える空気清浄機の概略について説明する。図1は、実施例の電気集塵機を備える空気清浄機の概略構成図である。実施例に係る空気清浄機1は、図1に示すように、空気を清浄化するための装置類を収納する筐体10を備えている。筐体10は、合成樹脂材で略直方体状に形成されており、室内の空気を吸引する吸込口11と、清浄化された空気を室内に吹き出す吹出口12とが形成されている。
筐体10内には、吸引された空気から大きな塵埃を除去するプレフィルタ14と、プレフィルタ14を通過した空気中の塵埃を静電気力によって集塵する複数の電気集塵機2と、電気集塵機2を通過した空気を脱臭処理する脱臭フィルタ5とが設けられる。電気集塵機2は、荷電部3と、後に詳述する集塵部4とを備える。なお、本実施例においては、筐体10に3つの電気集塵機2が筐体10内に配置されているが、配置される数は何ら限定されない。
プレフィルタ14は、例えば糸状のPET材を編みこんだ網目構造を有し、図示しない樹脂枠で保持される。プレフィルタ14は、筐体10の内部に吸い込まれた空気に含まれている比較的大きな塵埃を捕集する。脱臭フィルタ5は、プレフィルタ14および電気集塵機2で塵埃が除かれた空気から、触媒フィルタによって、例えばアンモニアやメチルメルカプタン等の臭気成分やホルムアルデヒド等の有害成分を取り除く脱臭処理を行う。
また、筐体10内には、脱臭フィルタ5の下流側に配置されるファン6と、ファン6を回転させるファンモータ61と、電気集塵機2やファンモータ61を制御する制御部7として機能する電源制御基板とが設けられる。
さらに、筐体10内には、吸込口11から吸引された空気の塵埃濃度を検出する埃センサ13と、運転開始操作、運転停止操作などを行う操作表示基板15とが設けられる。
本実施例においては、筐体10には、各電気集塵機2の各集塵部4に電力を供給する単一の集塵部用の定電圧高圧電源部40が配置されている。なお、荷電部3に電力を供給する荷電部用の定電流高圧電源部30は、3つの荷電部3にそれぞれ配置されている。
こうして、吸込口11から吸引された室内の空気は、矢印fで示されるように、空気中の塵埃がプレフィルタ14と電気集塵機2とにより捕集されることで除塵されるとともに、脱臭フィルタ5により脱臭された清浄空気が吹出口12から室内に吹き出される。
ここで、電気集塵機2の集塵作用について簡単に説明する。電気集塵機2の荷電部3が備える複数の放電電極(不図示)に、予め設定された正極性の高電圧(例えば+4.5kV)を印加し、複数の対向電極(不図示)を定電流高圧電源部30の接地極(アース)に接続する。こうすることで、放電電極と対向電極との間でコロナ放電が起こる。なお、複数の放電電極と複数の対向電極とは、異なる極性をもち、図示しない枠部に保持された状態で、交互に配置されている。なお、ここでの異なる極性とは、正極性、負極性、そして無極性(アース)の3つの極性のうちの、2つの極性の組合せのことを意味する。
放電電極と対向電極との間でコロナ放電が起こると、放電電極と対向電極との間の空間は、正に帯電したイオンを含む空気で満たされる。そして、正イオンで満たされた空間を塵埃が通過する際に、その通過時間と放電電極と対向電極とで作られる電界の強さに応じて、イオンと塵埃の衝突による電荷の移動が起こり、塵埃に正の電荷が帯電する。
一方、集塵部4では、高圧側の電極部を形成する複数の高圧電極42(図3参照)に予め設定された正極性の高電圧(例えば+4.5kV)が印加される。他方、集塵側の電極部を形成する複数の接地電極43(図3参照)は、定電圧高圧電源部40の接地極(アース)に接続される。こうすることにより、両電極間に所定の静電界が形成される。
図1において、荷電部3で正に帯電した塵埃は、集塵部4に移動すると、同極性の高圧側の電極部における高圧電極42からの斥力を受ける。そして、かかる塵埃は、塵埃と反対極性の接地電極43に吸引される方向に引力を受けて接地電極43に到達する。こうして、接地電極43に塵埃が付着することで塵埃が捕集される。さらに、正に帯電されていた塵埃が接地電極43に触れると、塵埃に帯電していた正の電荷がアースに流される。そのため、帯電した塵埃の付着により接地電極43が正極に帯電してしまうことが防止され、捕集力の低下が抑制される。
次に、図2Aおよび図2Bを参照しながら、実施例の電気集塵機2を備える空気清浄機1の機能を中心に説明する。図2Aは、実施例の電気集塵機2を備える空気清浄機1のブロック図、図2Bは、図2Aに示す集塵部出力制御部の説明図である。
図2Aに示すように、空気清浄機1は、本実施例に係る電気集塵機2やファン6およびファンモータ61に加え、AC入力処理部8、ADコンバータ9、制御部7、定電流高圧電源部30と定電圧高圧電源部40とを備える。
本実施例に係る電気集塵機2は、前述したように、荷電部3と集塵部4とを備えており、図示するように、集塵部4には電位計測部48(図3参照)が設けられる。電位計測部48としては、たとえば、高圧電極42の電位を非接触で測定可能な検知電極を有する周知の表面電位測定器を用いることができ、高圧電極42における実際の電位を測定することができる。
AC入力処理部8は、たとえば商用電源から100Vの交流を入力する。ADコンバータ9は、AC入力処理部8で入力処理された100Vの交流を、たとえば12Vの直流に変換する。
制御部7は、荷電部出力制御部71、集塵部出力制御部72およびモータ出力制御部73を備える。制御部7は、たとえばCPUやメモリなどのマイクロコンピュータを有し、所定のプログラムを読み出して処理することで荷電部出力制御部71、集塵部出力制御部72およびモータ出力制御部73としての機能を果たす。なお、モータ出力制御部73は、風量設定などを行う風量切替スイッチ62と電気的に接続されており、風量切替スイッチ62の操作に応じてファンモータ61の出力を制御する。
定電流高圧電源部30は、荷電部3に対して定電流の高電圧を印加するための電源であり、制御部7の荷電部出力制御部71により印加電圧が制御される。また、定電圧高圧電源部40は、集塵部4に対して定電圧の高電圧を印加するための電源(電源部)であり、制御部7の集塵部出力制御部72により印加電圧が制御される。すなわち、集塵効率をできるだけ高めるためには、荷電部3には一定の大電流を供給し、集塵部4には一定の高電圧を供給することが望ましいことから、荷電部3と集塵部4とに対し、それぞれ独立した電源を用意している。
図2Bに示すように、集塵部出力制御部72は、放電判定部721、印加電圧制御部722、および予想電位算出部723を備える。
放電判定部721は、集塵部4におけるコロナ放電の発生の有無を判定する。詳しくは後述するが、集塵部4は、複数の高圧電極42と複数の接地電極(集塵電極)43とが平行かつ交互に配置された電極部41(図3参照)を備えており、定電圧高圧電源部(電源部)40から高圧電極42に高電圧が印加されると、湿気や経年劣化による電極汚染のために、隣り合う高圧電極42と接地電極43との間でコロナ放電が発生することがある。放電判定部721は、集塵部4の電極部41においてコロナ放電が発生したかどうかを判定する。
印加電圧制御部722は、放電判定部721によって集塵部4の電極部41でコロナ放電が発生したと判定すると、定電圧高圧電源部40に対し、後述する放電開始印加電圧よりも小さい電圧を電極部41の高圧電極42に印加させて集塵運転を継続させることができる。
すなわち、電極部41でコロナ放電が発生して放電電流(空気の絶縁破壊を起こして流れる電流)が流れてしまうと、電圧降下が生じて集塵性能が低下する。そこで、集塵性能の低下をできるだけ抑えるために、コロナ放電が発生することなく、なおかつ支障なく集塵処理が行えるだけの印加電圧になるように、印加電圧制御部722は定電圧高圧電源部40を制御する。
より具体的には、印加電圧制御部722は、放電判定部721が集塵部4の電極部41においてコロナ放電が発生したと判定した場合、放電開始印加電圧を探索する放電開始電圧探索処理を実行する。そして、印加電圧制御部722は、放電開始電圧探索処理を行った後、探索した放電開始印加電圧よりも小さい電圧で高圧電極42に印加させる制御を行うようにしている。なお、コロナ放電が発生したか否かの詳細な判定方法については後述する。
予想電位算出部723は、集塵部4の電極部41でコロナ放電が発生していないと仮定した場合に、電位計測部48での計測が予想される予想電位を算出する。なお、予想電位の詳細な算出方法についても後述する。
本実施例における放電判定部721は、詳しくは後述するが、電位計測部48により計測された実測電位に基づいてコロナ放電の有無を判定するようにしている。
図3は、実施例の電気集塵機2の集塵部4を示す模式図である。図3に示すように、集塵部4は、複数の高圧電極42と複数の接地電極(集塵電極)43とが平行かつ交互に配置された電極部41を備える。複数の高圧電極42は、それぞれシート状に形成され、各基部が絶縁性保持部材45に保持されるとともに高圧給電部材46に接続される。また、複数の接地電極43もそれぞれシート状に形成されるとともに、各基部が絶縁性保持部材45に保持されるとともに接地用給電部材47に接続されている。また、絶縁性保持部材45および接地用給電部材47には、放電防止絶縁部材44が設けられている。
高圧電極42は、たとえばPA(ポリアミド)やABS樹脂を混合した、体積抵抗率が109Ωcm~1013Ωcmの半絶縁性の樹脂により平板状に形成されている。また、接地電極43は、カーボンとABS樹脂を混合した、体積抵抗率が102Ωcm程度の半導電性の樹脂により平板状に形成されている。そして、高圧電極42と接地電極43とが、たとえば2mm以下の所定の間隔をあけて交互に配置される。
また、集塵部4には、前述したように電位計測部48が設けられている。電位計測部48としては、高圧電極42の電圧を非接触で測定可能な検知電極を有する周知の表面電位測定器を用いることができる。
ここで、電気集塵機2が長時間使用されて高圧電極42の汚染が進んで経年劣化すると、高圧給電部材46から最も近く、隣り合う接地電極43と対向する位置Sの間でコロナ放電が生じやすくなる。そして、コロナ放電が発生すると、高圧電極42上で高圧給電部材46から見て、放電箇所(位置S)よりも遠い位置(以下、「放電箇所以遠」と記載)では電位が下がる。そこで、本実施例において、かかる電位計測部48は、高圧給電部材46から離れた位置、すなわち、高圧電極42の先端部側に設けられている。これによって、絶縁性保持部材45を介して高圧給電部材46に接続された高圧電極42における放電箇所以遠の電位(高圧電極42の先端部側の電位)を計測するようにしている。
特に、本実施例における高圧電極42は、上述したように、体積抵抗率が高い半絶縁性の樹脂により形成されているため、放電により流れる電流がたとえ微小なコロナ放電であっても、放電直後に電位が急激に低下する。したがって、電位計測部48によって、高圧電極42の電位の急激な変化を検出することで、コロナ放電の発生の有無を正確に測定することができる。
ここで、図2~図6を参照しながら、本実施例に係る電気集塵機2が行う放電防止制御の一例について説明する。ここで、放電防止制御とは、コロナ放電が開始される放電開始印加電圧よりも小さい印加電圧で集塵運転を実行する制御を指す。かかる制御は、集塵部出力制御部72により行われる。詳しくは後述するが、本実施例では、集塵部出力制御部72は、放電開始印加電圧を探索する放電開始電圧探索処理を行うとともに、放電開始電圧探索処理を行った後、探索した放電開始印加電圧よりも小さい電圧で高圧電極42に印加させる制御を行うようにしている。
図4は、電気集塵機2の集塵部4の高圧電極42への印加電圧に対応する放電電流の変化特性を示すグラフ、図5は、電気集塵機2の集塵部4の高圧電極42への印加電圧に対応する電界強度の変化特性を示すグラフである。また、図6は、電気集塵機2における集塵部4の高圧電極42への印加電圧に対応する電流および放電箇所以遠の電位の関係を示すグラフ、図7は、実施例における電気集塵機2の集塵部出力制御部72が行う放電抑制印加電圧制御の処理の流れを示す説明図である。
なお、図4および図5において、実線は長時間使用後、破線は使用開始時点(初期状態)における電気集塵機2の高圧電極42の電圧と電流の変化を示す。図4において、横軸に印加電圧(高圧電極42への印加電圧)を取り、縦軸には放電電流(高圧電極42に流れる放電電流)を取っている。また、図5においては、横軸に印加電圧(高圧電極42への印加電圧)を取り、縦軸には高圧電極42と接地電極43との間の電界強度(集塵能力を示す指標)を取っている。
電気集塵機2は、初期状態(使用開始時)でコロナ放電が起きないことが確認されている所定の基準となる電圧(以下、「基準電圧」)Vxを集塵部4の高圧電極42に印加する設定で使用することができる。但し、印加電圧を基準電圧Vxとする設定で使用し続けていると、湿気や経年劣化による高圧電極42および接地電極(集塵電極)43の汚染によって、集塵部4の高圧電極42と接地電極43との間でコロナ放電が発生し、集塵能力が低下することが知られている。たとえば、電気集塵機2の使用開始時(初期状態)と長時間使用後とでは、長時間使用後のコロナ放電の発生によって、高圧電極42に流れる電流が変化する。
ここで、図4における印加電圧に対する放電電流を示すグラフ上の点、および、図5における印加電圧に対する電界強度を示すグラフ上の点を、以下、「動作点」と呼ぶ。図4および図5におけるA~Dは、それぞれ異なる動作点を表す。図4と図5とで動作点を示す記号が同じとき(例えば、図4における動作点Aと図5における動作点A)は、高圧電極42への印加電圧が同じときの特性であることを表す。
通常、電気集塵機2は、製造時において、コロナ放電が発生することなく良好な集塵動作が行われるよう、印加電圧が基準電圧Vxとなるよう設定される。製造時(使用開始時点)において設定される印加電圧Vxに対応する動作点を第1の動作点Aとすると、図4に示すように、第1の動作点Aは、放電電流値が0となる点、すなわち、コロナ放電が発生しない印加電圧に対応する動作点となる。たとえば、ここでは高圧電極42へ印加する印加電圧は4.5kVに設定される。また、この印加電圧を印加したときの電界強度(ここでは22.5kV/cm)である動作点Aは、図5に示すように、印加電圧と電界強度が比例する直線上の値をとる。
しかしながら、電気集塵機2が長時間使用されることによって、高圧電極42の汚染が進むと、初期状態ではコロナ放電が発生しなかった大きさの印加電圧である基準電圧Vxでもコロナ放電が発生するようになる。そのため、長時間使用後には、たとえば、印加電圧(高圧電極42への印加電圧)を4.0kVとしたときにコロナ放電が発生するようになり、このときの印加電圧に対応する動作点はD点である。すなわち、初期状態と同じように4.5kVの電圧を印加した場合でもコロナ放電が発生するようになり、コロナ放電に伴いわずかながら放電電流が高圧電極42に流れることになる。そして、わずかでも放電電流が流れれば、半絶縁性樹脂で形成された高圧電極42の電気抵抗が大きいため、高圧電極42の電位は著しく低下する。その結果、印加電圧が4.5kVのままであっても、放電電流や電界強度は、初期状態の第1の動作点Aから、長時間使用後には第2の動作点Bへ移動する。このように、印加電圧に対する放電電流の特性、および、印加電圧に対する電界強度の特性は、初期状態と長時間使用後とで異なってしまう。そのため、放電電流の大きさに比例して高圧電極42の電位が大幅に低下し、それに伴い、図5に示すように、第2の動作点Bにおいては、集塵性能を示す電界強度が大きく低下する。ここでは、電界強度が22.5kV/cmから15.0kV/cmまで低下している。
一方、高圧電極42に印加する電圧を、コロナ放電が発生し始める印加電圧(放電開始印加電圧)である4.0kVよりも小さくすれば、集塵部4でコロナ放電が発生することがない。そこで、本実施例における制御部7の集塵部出力制御部72は、動作点がコロナ放電の発生しない第3の動作点Cとなるように、定電圧高圧電源部(電源部)40による印加電圧を制御する。つまり、放電開始印加電圧よりも低い印加電圧を高圧電極42に印加するよう制御する。図4に示すように、放電電流値が0となってコロナ放電が発生しない第3の動作点Cとなるよう、ここでは、印加電圧を3.8kVとしている。
このように、動作点が第3の動作点Cとなるように印加電圧を制御することにより、集塵運転を継続しつつ、何ら制御を行わずにコロナ放電が発生した結果として動作点が第2の動作点Bに移動する場合に比べ、より高い集塵性能を得ることが可能となる。すなわち、図5に示すように、何ら制御を行わない場合の電界強度15.0kV/cmに比べ、電界強度19.0kV/cmによる集塵運転が可能となる。
しかしながら、放電開始印加電圧は、常に一定の値をとることはなく、電極の形状や材質のほか、温度や湿度といった使用環境、電極に堆積した汚れの種類などによっても変化してしまう。そのため、集塵部4でのコロナ放電の発生を検知した際に、高圧電極42への印加電圧を、予め所定の印加電圧(例えば3.8kV)となるように制御したとしても、コロナ放電が発生しなくなるとは限らない。そこで、本実施例では、使用環境や汚れの種類に関係なく放電開始印加電圧を検出できるように、以下に説明する放電開始電圧探索処理を行う。
ここで、図6を参照しながら、放電開始印加電圧を検出する放電開始電圧探索処理について簡単に説明する。図6における直線Lは、式1で示される一次関数で規定される。
E=pV・・・・・・・(式1)
E:放電箇所以遠の電位
V:印加電圧(V<V0,V0:放電開始印加電圧)
p:比例定数(p≒1)
また、図6において、ILはリーク電流(物体表面を伝わって流れる電流)、IDは放電電流(空気の絶縁破壊を起こして流れる電流)であり、検出可能なコレクタ電流であるItotalは、Itotal=IL+IDで表される。
図6に示すように、先ず、制御部7の予想電位算出部723(図2B参照)は、コロナ放電が発生していないと仮定したときに電位計測部48(図2Aおよび図3参照)で計測されると予想される予想電位Eesを算出(推定)する。式1で示すように、コロナ放電が起きていないとき、高圧電極42の放電箇所以遠の電位Eは、高圧電極42への印加電圧Vに比例する(E=pV)。そのため、コロナ放電が発生していないと仮定すると、放電箇所以遠の電位Eは、印加電圧Vに基づいて算出(推定)することができる。つまり、予想電位Eesは、印加電圧との比例関係を示す直線Lの式(Ees=pV)によって求めることができる。比例定数p≒1であり、ここでは簡単のためp=1とおく。例えば、印加電圧Vが放電開始電圧以下の4.0kVのとき、予想電位EesはEes=pV=4.0kVとなる。
次いで、電位計測部48により計測された実際の電位である実測電位Eacと、予想電位Eesとを比較する。ここで、予想電位Eesは、コロナ放電が発生していないと仮定して算出している。そのため、仮にコロナ放電が発生していれば、電位計測部48により計測された実際の電位である実測電位Eacは、コロナ放電に伴う電圧降下により、予想電位Eesよりも大幅に小さい値になっていると想定される。そこで、実測電位Eacと予想電位Eesとの差が所定の閾値(例えば、コロナ放電が起きた場合に生じる電圧降下に伴う電位の変化量)よりも大きい場合、放電判定部721(図2B参照)はコロナ放電が発生していると判定する。
次いで、制御部7は、コロナ放電が開始される放電開始印加電圧V0を探索する。ここでは、電位計測部48で計測された実測電位Eacに基づいて放電開始印加電圧V0を探索する。すなわち、印加電圧Vを徐々に変化させながら、各印加電圧Vと、それに対応する実測電位Eacとを比較して放電開始印加電圧V0を探索する。
すなわち、制御部7の印加電圧制御部722(図2B参照)は、放電開始電圧探索処理に際し、高圧電極42への印加電圧Vを漸次小さくなるように変化させて放電開始印加電圧V0を探索する。このとき、変化させていった印加電圧Vに対し、対応する実測電位Eacの変化量が、ある印加電圧V付近でこれまでの変化量よりも著しく大きくなった場合、放電電流IDが流れなくなったことにより実測電位Eacが急激に変化したと判断する。つまり、高圧電極42への印加電圧Vを漸次小さくなるように変化させたときに、実測電位Eacが急激に大きくなる変化(例えば、印加電圧Vの変化に伴う実測電位Eacの変動量が一定値以上であること)を検出したことをもって、コロナ放電が止まったと判断することができ、そのときに高圧電極42へ印加していた印加電圧Vを、放電開始印加電圧V0として検出する。なお、検出可能な電流値であるItotal(リーク電流ILと放電電流IDの合計)の変動をもとにコロナ放電の発生の有無を判定することも考えられる。しかし、集塵部4でコロナ放電が発生した際に高圧電極42に流れる放電電流IDは微弱であるため、図6に示すように、放電開始印加電圧V0付近でのItotalの変動は緩やかである。よって、変動が顕著な高圧電極42の電位の変化によってコロナ放電の有無を判定するのが望ましい。
放電開始印加電圧V0を検出した後、印加電圧制御部722は、印加電圧Vと実測電位Eacとに基づき、高圧電極42(図3参照)への印加電圧Vの下限となる下限印加電圧Vminを設定する。そして、印加電圧制御部722は、その後については、定電圧高圧電源部40に対して放電開始印加電圧V0よりも小さい電圧を高圧電極42に印加させる。図6に示すように、下限印加電圧Vminは、例えば、コロナ放電が発生し電圧降下が起きている場合の実測電位Eac(印加電圧V=放電開始印加電圧V0の場合の実測電位Eacを含む)をEminとし、コロナ放電が発生していないと仮定した場合の予想電位Eesを示す直線L(E=pV)上において、予想電位Ees=Eminとなるときの印加電圧Vを、下限印加電圧Vminとすればよい。
こうして、制御部7の集塵部出力制御部72(図2A参照)は、放電開始印加電圧V0を探索した後、定電圧高圧電源部40に対して放電開始印加電圧V0よりも小さい印加電圧を高圧電極42に印加させて、集塵運転を継続しつつコロナ放電を防止する放電防止運転制御を行う。ここでは、印加電圧Vを下限印加電圧Vminよりも大きな値とすることで、電界強度が15kV/cmより大きくなり、集塵部4でのコロナ放電によって電界強度が低下した際よりも高い集塵性能を保つことができるようにしている。かかる放電防止運転制御を実行しているときの印加電圧Vの範囲FはVmin~Vmaxで示される範囲となる。
ここで、図7を参照しながら、放電開始印加電圧V0を探索して放電防止運転制御を実行する放電抑制印加電圧制御について説明する。なお、図7の処理では、便宜上、印加電圧と放電箇所以遠の電位の関係における比例定数p=1としている。
図7に示すように、制御部7は、高圧電極42への印加電圧Vを基準電圧Vxに設定する(ステップS110)。基準電圧Vxは、電気集塵機2の製造時点で、放電電流値が0となり、コロナ放電が発生しないと想定される電圧に予め設定される。
ここで、集塵部4でコロナ放電が発生していれば、電位計測部48により計測された実際の電位である実測電位Eacは、コロナ放電に伴う電圧降下により、印加電圧Vよりも大幅に小さくなることが想定される。一方で、集塵部4でコロナ放電が発生していなければ、電圧降下は起きず、実測電位Eacが印加電圧Vよりも大幅に小さくなることはないと想定される。そこで、制御部7は、電位計測部48による実測電位Eacを計測し(ステップS120)、実測電位Eacが、印加電圧Vと閾値ΔEとの差以上である(印加電圧Vと実測電位Eacとの差は、閾値ΔE以下である)と判定されるとき(ステップS130:No)は、放電による電位の降下が起きていない、すなわちコロナ放電が発生していないと判定する。他方、実測電位Eacが、印加電圧Vと閾値ΔEとの差よりも小さい(印加電圧Vと実測電位Eacとの差が、所定の閾値ΔEよりも大きい)と判定される(ステップS130:Yes)と、高圧電極42にコロナ放電による放電電流が流れている、すなわちコロナ放電が発生していると判定し、処理をステップS140に移す。
コロナ放電が発生した際に印加していた印加電圧(放電開始印加電圧)を探索するために、制御部7は、ステップS140において、印加電圧Vを所定の下げ幅ΔVだけ小さくする(印加電圧VをV=V-ΔVに変更)するとともに、そのときの実測電位Eacを検出し(ステップS150)、実測電位Eacが印加電圧Vと閾値ΔEとの差よりも大きいか否か、換言すると印加電圧Vと実測電位Eacとの差が所定の閾値ΔEよりも小さいか否かを判定する(ステップS160)。
実測電位Eacが印加電圧Vと閾値ΔEとの差よりも小さい(印加電圧Vと実測電位Eacとの差が所定の閾値ΔEよりも大きい)と判定されると(ステップS160:No)、コロナ放電が依然として起きていると判断し、制御部7は、処理をステップS140に移す。そして、制御部7は、さらに印加電圧Vを所定の下げ幅ΔVだけ落とし、実測電位Eacが印加電圧Vと閾値ΔEとの差以上(印加電圧Vと実測電位Eacとの差が所定の閾値ΔE以下)と判定するまで、つまり、コロナ放電が起きなくなったと判断されるまで処理を繰り返す。このように、印加電圧を徐々に小さくしながら放電の発生の有無を判定することで、コロナ放電が起きていた印加電圧とコロナ放電が起きなくなった印加電圧との境界となる印加電圧、すなわちコロナ放電が開始された印加電圧(放電開始印加電圧V0)を探索する。
そして、実測電位Eacが印加電圧Vと閾値ΔEとの差以上である(印加電圧Vと実測電位Eacとの差が所定の閾値ΔE以下である)と判定すると(ステップS160:Yes)、制御部7は、コロナ放電が起きなくなったと判定する。
その後、制御部7は、時間経過による変動の影響を抑えるため、所定時間t1(例えば30分)が経過するまで待機し(ステップS170:No)、所定時間t1に達すると(ステップS170:Yes)、印加電圧Vが基準として設定された基準電圧Vxよりも小さいか否かを判定する(ステップS180)。
そして、印加電圧Vが基準として設定された基準電圧Vxよりも小さいと判定されると(ステップS180:Yes)、処理をステップS190に移す。一方、印加電圧Vが基準として設定された基準電圧Vx以上であると判定すると(ステップS180:No)、本処理を終了する。
ところで、電気集塵機2内の湿度の変化などにより、一時的に放電開始印加電圧V0が低下することがある。この場合、一時的に下がった放電開始印加電圧V0が時間の経過によって戻ることが想定される。
そこで、ステップS190において、制御部7は、今度は印加電圧を増加させるように変化させる。すなわち、ステップS190の時点での印加電圧が、コロナ放電が開始される正確な印加電圧よりも小さくなっていることが想定されるため、印加電圧Vを幅ΔVだけ上げながら実測電位Eacを検出する(ステップS200)。次いで、制御部7は、実測電位Eacが印加電圧Vと閾値ΔEとの差以上であるか否か、換言すれば、閾値ΔEが印加電圧Vと実測電位Eacの差以上であるか否かを判定する(ステップS210)。
そして、実測電位Eacが印加電圧Vと閾値ΔEとの差よりも小さい(印加電圧Vと実測電位Eacとの差が所定の閾値ΔEよりも大きい)と判定すると(ステップS210:No)、制御部7は、処理をステップS140に移し、ステップS140~ステップS200の処理を繰り返すことで、放電開始印加電圧を探索する。
そして、実測電位Eacが印加電圧Vと閾値ΔEとの差以上である(印加電圧Vと実測電位Eacとの差が所定の閾値ΔE以下である)と判定したときに(ステップS210:Yes)、制御部7は、放電開始印加電圧を検出したことになる。
その後、制御部7は、所定時間t1が経過するまで待機し(ステップS220:No)、所定時間t1が経過すると(ステップS220:Yes)、印加電圧Vが、基準として設定された基準電圧Vx(電気集塵機2の製造時点でコロナ放電が発生しないと想定される電圧)以上であるか否かを判定する(ステップS230)。
制御部7は、印加電圧Vが基準として設定された基準電圧Vx以上であると判定されない限り、ステップS140~ステップS220までの処理を繰り返し(ステップS230:No)、印加電圧Vが基準電圧Vx以上であると判定された場合に限り(ステップS230:Yes)、本放電抑制印加電圧制御処理を終了する。
上述の放電抑制印加電圧制御処理により、実施例に係る集塵部4における集塵性能が、放電抑制印加電圧制御処理を行わない場合に比べてどの程度改善されたかについて、図8および表1を用いて説明する。図8は、実施例に係る集塵部4の等価回路を示す説明図、表1は、新しい電気集塵機と、長時間使用した電気集塵機において、放電抑制印加電圧制御を行った場合と行わなかった場合の性能比較結果を示している。なお、簡単のため、図8において、集塵部4における接地電極(集塵電極)43の抵抗は0としている。
図8および表1において、Vは電源電圧、Rhvは高圧電極抵抗(HV電極抵抗)、iは放電電流、Rdは放電抵抗、Eは電極間電圧である。また、表1におけるV0は放電開始電圧(実測値)である。
集塵能力を示す電界強度は、電極間電圧Eに比例することが分かっている。表1に示すように、電気集塵機2を長時間使用した後に、上述した放電抑制印加電圧制御を実行した場合の電極間電圧Eは4kVであるのに対し、放電抑制印加電圧制御を実行しなかった場合の電極間電圧Eは3.29kVである。
したがって、4kV/3.29kV=1.22となって、放電抑制印加電圧制御によって、集塵能力が22%改善したことが分かる。
ところで、上述してきた実施例において、コロナ放電が発生したか否かについては、実測電位Eacに基づいて制御部7が演算することによって判定するものとした。しかし、集塵部4の電極部41におけるコロナ放電を検出する放電検出センサを、集塵部4内に別途設け、かかる放電検出センサの検出結果に基づいて、制御部7の放電判定部721がコロナ放電の発生の有無を判定するようにしてもよい。
たとえば、放電検出センサとしては、光検知素子または音検知素子などが考えられる。そして、光検知素子または音検知素子のうち、少なくともいずれか一方を備えた構成として、コロナ放電の発生時に放出される光、または音を検知することで、制御部7の放電判定部721が集塵部4においてコロナ放電が発生していると判定することができる。
また、放電検出センサとして、除塵後の粒子数を、たとえばパーティクルカウンタで計測し、粒子数が急激に変化したタイミングが発見された場合、コロナ放電が発生したものと判定することもできる。
さらに、集塵部4において、たとえばプローブなどの装置を配置して、電極部41の電界を監視し、電界が急激に変化したタイミングが発見された場合、コロナ放電が発生したものと判定することも可能である。
以上、本願の実施例を図面に基づいて説明したが、あくまでも例示であって、当業者の知識に基づいて種々の変形、改良を施すことができる。
上述してきた実施例より、以下の電気集塵機2が実現される。
(1)塵埃を帯電させる荷電部3と、複数の接地電極(集塵電極)43と半絶縁性樹脂で形成された複数の高圧電極42とが交互に配置されるとともに、荷電部3で帯電された塵埃を捕集する集塵部4と、高圧電極42に電圧を印加する定電圧高圧電源部(電源部)40と、集塵部4におけるコロナ放電の発生の有無を判定し、コロナ放電が発生したと判定すると、当該コロナ放電が開始される放電開始印加電圧V0を検出し、定電圧高圧電源部40に対し、検出した放電開始印加電圧V0よりも小さい電圧を高圧電極42に印加させる集塵部出力制御部72とを備える、電気集塵機2。
かかる電気集塵機2によれば、コロナ放電が発生しても集塵性能の低下を抑えつつ、無駄な電力消費を抑えることができる。
(2)上記(1)において、集塵部出力制御部72は、集塵部4におけるコロナ放電の発生の有無を判定する放電判定部721と、放電判定部721がコロナ放電が発生したと判定した場合、放電開始印加電圧V0を探索する放電開始電圧探索処理を行う印加電圧制御部722と、を有し、印加電圧制御部722は、放電開始電圧探索処理を行った後、探索した放電開始印加電圧V0よりも小さい電圧で高圧電極42に印加させる制御を行う、電気集塵機2。
(3)上記(2)において、印加電圧制御部722は、放電開始電圧探索処理に際し、高圧電極42への印加電圧を漸次小さくなるように変化させて放電開始印加電圧V0を探索する、電気集塵機2。
(4)上記(2)または(3)において、集塵部4は、高圧電極42の電位を測定する電位計測部48を備え、印加電圧制御部722は、電位計測部48で計測された実測電位Eacに基づいて、放電開始印加電圧V0を探索する、電気集塵機2。
集塵部4でコロナ放電が発生した際、高圧電極42に流れる放電電流IDが微弱であっても、半絶縁性樹脂で形成された高圧電極42の電位は急激に低下する。よって、かかる電気集塵機2によれば、電位計測部48で計測された実測電位Eacの変動に基づいてコロナ放電の発生の有無を判定することで、正確な放電開始印加電圧V0を探索することができる。
(5)上記(4)において、印加電圧制御部722は、集塵部4でコロナ放電が発生していないと仮定した場合に、電位計測部48での計測が予想される予想電位Eesを算出する予想電位算出部723をさらに備え、放電判定部721は、予想電位算出部723により算出した予想電位Eesと電位計測部48による実測電位Eacとの差が所定の閾値ΔEよりも大きい場合、集塵部4においてコロナ放電が発生したと判定する、電気集塵機2。
(6)上記(5)において、印加電圧制御部722は、放電判定部721がコロナ放電が発生したと判定したときに、電位計測部48によって計測された実測電位Eacと、予想電位算出部723により算出された予想電位Eesとに基づき、高圧電極42への印加電圧の下限である下限印加電圧Vminを設定し、定電圧高圧電源部40に対し、下限印加電圧Vmin以上の電圧を高圧電極42に印加させる、電気集塵機2。
(7)上記(2)~(6)のいずれかにおいて、集塵部4におけるコロナ放電を検出する放電検出センサを備え、放電判定部721は、放電検出センサの検出結果に基づいて、コロナ放電の発生の有無を判定する、電気集塵機2。
また、本実施例では、上記(2)~(6)の構成を有することから、コロナ放電が発生しても、集塵性能の低下を十分に抑えるとともに、無駄な電力消費を抑制することが可能となる。