以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
<実施例1> まず、3つの案内部同士の相対位置が固定されている実施例1の移動装置について説明する。
<実施例1-1> 実施例1-1の移動装置10について、図1~図19を参照しながら説明する。
図1は、移動装置10の略図である。図1に示すように、移動装置10は、3つの案内部16a~16cが、案内部16a~16c同士の相対位置が固定されるように、基礎部18によって、Y字状に繋ぎ合わされている。基礎部18は、第1の接続部18である。
案内部16a~16cは、それぞれ、車輪支持部14a~14cを移動自在に案内する。車輪支持部14a~14cは、それぞれ、車輪12a~12cを回転自在に支持している。移動装置10は、すべての車輪12a~12cが同時に接地面2に接するように構成されている。
車輪12a~12cは、それぞれ、回転中心線を中心に回転自在に、かつ、回転中心線の方向には移動不自在に、車輪支持部14a~14cに支持されている。
車輪12a~12cは、普通の車輪である。すなわち、車輪12a~12cは、回転中心線に対して周方向に移動自在、かつ、回転中心線に平行な方向に移動不自在である外周面12s(後述する図2及び図3(a)を参照。)を有する。車輪12a~12cは、回転中心線を中心に回転しながら、接地面2上を回転中心線に垂直な方向に移動することができ、接地面2との間の摩擦によって回転中心線に垂直な方向以外の方向への移動が制限されるものの、その場でスピン可能であり、車輪12a~12cの向きは変わり得る。例えば、案内部16a~16cを介して車輪支持部14a~14cに回転モーメントが与えられると、車輪12a~12cは、向きが変わり得る。詳しくは後述するが、移動装置10は、車輪12a~12c又は車輪支持部14a~14cが駆動されると、外周面12sが接地面に接している車輪12a~12cが、車輪12a~12cの向きを変えながら接地面上を移動できるように構成する。
案内部16a~16cは、それぞれ、車輪支持部14a~14cを所定経路に沿って移動自在に案内し、所定経路に対する車輪支持部14a~14cの向きが一定に保たれるように構成されている。すなわち、車輪12a~12cが接地面2に接している移動装置10を、案内部16a~16cに固定された座標系から接地面2に垂直な方向から見ると、車輪支持部14a~14cが案内部16a~16cに沿って移動しても、車輪支持部14a~14cに支持されている車輪12a~12cの中心の軌跡と、車輪12a~12cの回転中心線とがなす角の大きさが一定である。
例えば、案内部16a~16cが直線状であり、車輪支持部14a~14cが案内される所定経路が直線状である場合、車輪12a~12cの中心の軌跡は直線となり、軌跡の直線と車輪12a~12cの回転中心線とのなす角の大きさが一定である。案内部16a~16cが曲線状であり、車輪支持部14a~14cが案内される所定経路が曲線状である場合、車輪12a~12cの中心の軌跡は曲線となり、この軌跡の曲線の接線であって車輪12a~12cの中心を通る接線と車輪12a~12cの回転中心線とのなす角の大きさが一定である。
次に、移動装置10の具体的な構成例を説明する。図2は、移動装置10の試作機の写真である。図2に示すように、案内部16は直線状のレール16であり、車輪12を支持している車輪支持部14は、レール16に沿って移動するスライダ14である。レール16の一方の端部は、基礎部18に固定されている。
図3(a)は、車輪12を回転駆動する第1の駆動部81の構成例を示す略図である。図3(a)に示すように、第1の駆動部81は、スライダ14に搭載されたモータ13によって、車輪12を回転駆動する。モータ13は、車輪12の内部に配置してもよい。案内部16に固定された座標系から接地面2に垂直に見ると、車輪12が移動する方向(矢印12mで示す方向)は、スライダ14がレール16に沿って移動する方向(矢印14xで示す方向)に対して垂直である。
図3(b)は、変形例の車輪支持部14pの構成を示す要部平面図である。図3(b)に示すように、車輪12が接地面2に接する位置がレール16の直下から離れるように車輪支持部14pを構成してもよい。
次に、移動装置10の動きについて説明する。図4は、移動装置10の動きを示す平面図である。図4に示すように、3つの直線状の案内部16a~16cが基礎部18を中心に120°間隔で配置されている。車輪支持部14a~14cは、それぞれ、案内部16a~16cに沿って矢印15a~15cで示す方向に、案内部16a~16cに沿って真っ直ぐ移動する。車輪12a~12cは、それぞれ、矢印13a~13cで示す方向に接地面2上を移動する。車輪12a~12cの移動方向13a~13cは、案内部16a~16cに対して垂直であり、車輪12a~12cの移動方向13a~13cと、車輪支持部14a~14cの直進移動方向15a~15cとは互いに直交する。
このように移動装置10を対称に構成すると、移動装置10は対称的な動きをする。もっとも非対称に構成することも可能であり、例えば、車輪12a~12cの移動方向13a~13cが案内部16a~16cに対して斜めになるように構成することも可能である。
案内部16a~16cは、案内部16a~16c同士の相対位置が不変であるように、基礎部18によって繋ぎ合わされているので、案内部16a~16c及び基礎部18は一体となって移動する。車輪支持部14a~14cは、案内部16a~16cに沿って移動自在である。そのため、車輪12a~12cの接地面2上の位置が定まり、車輪支持部14a~14cの位置が決まると、案内部16a~16c及び基礎部18の位置及び向きが決まり、移動装置10全体の位置及び向きが決まる。例えば、すべての車輪12a~12cが回転を停止すると、移動装置10全体は停止し、動かなくなる。このことは、3つの車輪12a~12cの運動によって、基礎部18の運動が定まることを意味する。
以下、移動装置10の動きについて、図5~図14を参照しながら説明する。図5~図11及び図14は、車輪12a~12cが接地面2に接している移動装置10を、接地面2に垂直に見た平面図である。
図5及び図6は、移動装置10の基本的な動きを示す平面図である。
図5(a)に示すように、車輪12a~12cが矢印13p~13rで示す方向に移動すると、基礎部18は矢印19aで示す方向(図において上方向)に移動する。図5(b)に示すように、車輪12cが停止している状態で、車輪12a,12bが矢印13s,13tで示す方向に移動すると、基礎部18は矢印19bで示す方向(図において右方向)に移動する。図5(c)に示すように、車輪12a~12cが矢印13u~13wで示す方向に移動すると、基礎部18は矢印19cで示す方向(図において、上下方向でも左右方向でもない斜め方向)に移動する。つまり、図5(a)~図5(c)に示すように、移動装置10は、任意の方向に並進移動できる。
図5(d)に示すように、車輪12a~12cが矢印13i~13kで示す方向に移動すると、基礎部18は、その場で矢印19dで示す方向に回転する。つまり、移動装置10は、回転運動もすることができる。
図5(b)の動きについて詳しく説明すると、図6に示すように、基礎部18が回転せずに、案内部16cと平行な方向に直進移動するとき、車輪支持部14a,14bは案内部16a,16bを矢印23s,23tで示す方向に押し、車輪支持部14a~14cは、案内部16a~16cに対して矢印85a~85cで示す方向に受動的に、すなわち、結果として移動する。
車輪支持部14a~14cが案内部16a~16cに沿って移動を続けると、基礎部18は移動を続ける。やがて、車輪支持部14a~14cのうち少なくとも1つが案内部16a~16cの端に到達すると、基礎部18は、それまでと同じ移動を続けることができなくなる。
このように基礎部18が並進移動のみをする場合、すなわち、基礎部18が回転運動をしない場合、基礎部18は、どの方向にもある程度は並進移動できるものの、移動範囲は限られる。図7は移動装置の移動範囲を示す平面図である。図7に示すように、案内部16a~16cの中間に車輪支持部14a~14cが位置している場合、基礎部18が並進移動可動である範囲は、六角形の領域29内に限られる。
図8は移動装置の回転運動を示す平面図である。図8において矢印19rで示すように、基礎部18が並進移動をせず、その場で回転運動をするとき、車輪支持部14a~14cは案内部16a~16cに沿って移動することはない。
図6に示した基礎部18の並進移動と、図8に示した基礎部18の回転運動とを組み合わせると、図9に示すように、基礎部18が矢印19rで示す方向に回転しながら、矢印19xで示す方向に移動する。
このように基礎部18の並進移動と回転運動とを組み合わせると、例えば図10に示すように、移動装置10は、符号P1で示す位置及び向きから、符号P2、符号P3で示す位置及び向きに変化する。移動装置10が符号P1で示す位置及び向きのときの車輪支持部14a~14c及び基礎部18を、符号21a~21c及び21xで示す。同様に、移動装置10が符号P2で示す位置及び向きのときの車輪支持部14a~14c及び基礎部18を、符号22a~22c及び22xで示す。移動装置10が符号P3で示す位置及び向きのときの車輪支持部14a~14c及び基礎部18を、符号23a~23c及び23xで示す。
移動装置10の進行方向前方にある車輪支持部14cに注目すると、車輪支持部14cは、符号21c,22c,23cで示す位置に移動し、基礎部18は、符号21x,22x,23xで示す位置に移動する。このとき、車輪支持部14c(21c~23c)と基礎部18(21x~23x)との間の距離は、基礎部18が移動するにつれて減少する。
さらに、基礎部18が並進移動及び回転運動を続けると、図11の部分拡大図に示すように、移動装置10は符号P4で示す位置及び向きとなり、車輪支持部14c及び基礎部18は、符号24c及び24xで示す位置に移動する。このとき、車輪支持部14cは、基礎部18の進行方向に垂直な方向に基礎部18と並ぶ。
その後、移動装置10は符号P5、P6で示す位置及び向きとなり、車輪支持部14c及び基礎部18は、符号25c及び25x、符号26c及び26xで示す位置に移動し、車輪支持部14cは、基礎部18よりも基礎部18の進行方向後方に位置する。このとき、車輪支持部14c(25c,26c)と基礎部18(25x,26x)との間の距離は、基礎部18が移動するにつれて増加する。
さらに基礎部18が並進移動及び回転運動を続けると、車輪支持部14cは、再び、基礎部18よりも基礎部18の進行方向前方に来ることになる。このとき、車輪支持部14cと基礎部18との間の距離は、基礎部18が移動するにつれて減少する。
このように、基礎部18の並進移動と回転運動とを組み合わせると、車輪支持部14cと基礎部18との間の距離は増減を繰り返す周期的な変化をする。つまり、車輪支持部14cは、案内部16cに対する車輪支持部14cの移動を所定範囲内に収めながら運動することができる。他の車輪支持部14b,14cについても、同様である。
車輪12a~12cを適宜に回転駆動すると、車輪支持部14a~14cは、位相がずれた同じ動きをする。例えば、車輪支持部14a~14cと基礎部18との間の距離が単振動のように周期的に変化するように、車輪12a~12cを回転駆動することができる。
図12~図14は、並進移動と回転運動とを組み合わせた移動装置10の動きの一例の説明図である。
図12において、鎖線4は、接地面2上の仮想基準線4である。基礎部18は、基礎部18を中心に回転しながら、仮想基準線4に垂直な方向(図12において右方向)に移動する。図12は、基礎部18が90°回転するごとに、順次、仮想基準線4と平行かつ下方に位置をずらして移動装置10を図示している。
図13は、車輪支持部14cと基礎部18との間の距離lの変化を示すグラフである。図13のグラフの縦軸は、車輪支持部14cと基礎部18との間の距離lを示す。図13のグラフの横軸は、図12に示した基礎部18の反時計まわりの回転角度であり、図12(1)に示す状態を0°としている。
図12(2)及び図13に示すように、基礎部18が90°回転すると、車輪支持部14cと基礎部18との間の距離lは最小値になる。図12(3)及び図13に示すように、基礎部18が180°回転すると、車輪支持部14cと基礎部18との間の距離lは、基礎部18が0°のときと同じ値になる。図12(4)及び図13に示すように、基礎部18が270°回転すると、車輪支持部14cと基礎部18との間の距離lは最大値になる。図12(5)及び図13に示すように、基礎部18が360°回転すると、車輪支持部14cと基礎部18との間の距離lは、基礎部18が0°のときと同じ値になる。
図14は移動装置の動きを示す平面図であり、案内部16a~16cに垂直な方向の、車輪12a~12c及び車輪支持部14a~14cの移動速度Va~Vcを矢印で示している。矢印の長さは、移動速度Va~Vcの大きさに比例する。図14に示すように、案内部16a~16cが基礎部18よりも基礎部18の進行方向前方に位置するとき、案内部16a~16cが回転するにしたがって、車輪12a~12c及び車輪支持部14a~14cの移動速度Va~Vcが減少する。一方、案内部16a~16cが基礎部18よりも基礎部18の進行方向後方に位置するとき、案内部16a~16cが回転するにしたがって、車輪12a~12c及び車輪支持部14a~14cの移動速度Va~Vcが増加する。
すなわち、基礎部18よりも基礎部18の進行方向前方に案内部16a~16cが位置するとき、案内部16a~16cの先端側(すなわち、基礎部18とは反対側)は、案内部16a~16cの基端側(すなわち、基礎部18側)よりも、移動装置の移動方向の前側に位置する。この案内部16a~16cで案内される車輪支持部14a~14cに支持されている車輪12a~12cの移動速度は、移動装置の移動に伴って次第に小さくなる。一方、基礎部18よりも基礎部18の進行方向後方に案内部16a~16cが位置するとき、案内部16a~16cの先端側は、案内部16a~16cの基端側よりも、移動装置の移動方向の後側に位置する。この案内部16a~16cで案内される車輪支持部14a~14cに支持されている車輪12a~12cの移動速度は、移動装置の移動に伴って次第に大きくなる。
つまり、案内部が直線状である場合、案内部の先端側が案内部の基端側よりも移動装置の移動方向の前側に位置しているとき、この案内部で案内される車輪支持部が支持している車輪の移動速度が、移動装置の移動に伴って次第に小さくなり、案内部の先端側が案内部の基端側よりも移動装置の移動方向の後側に位置しているとき、この案内部で案内される車輪支持部が支持している車輪の移動速度が、移動装置の移動に伴って次第に大きくなるように、制御することができる。
次に、移動装置10の動きについて、運動学方程式を用いて説明する。
図15~図18はパラメータの説明図である。図15に示すように、接地面に固定されたx-y座標系を定義し、基礎部18の座標を(x,y)、基礎部18の基準方向XRの角度をθ、基礎部18の基準方向XRに対する案内部16の角度をα、案内部16に案内される車輪支持部14と基礎部18との間の距離をlとする。例えば、3つの案内部16a~16cが120°間隔でY字状に配置されている場合、α=0°,120°,240°である。
また、図16に示すように、基礎部18の反時計まわりの角速度をω、基礎部18の移動速度のx,y方向成分をv
x,v
yとする。車輪支持部14に支持されている車輪12の半径をr、車輪12の回転角を
とする。
車輪12が、案内部16に対する角度を一定(ここでは、直角)に保ったまま、接地面上を回転しながら移動すると、車輪12や案内部16の角度が変わり得る。このとき、次の運動学方程式が成り立つ。
基礎部18に所望の運動をさせるため、変数x,y,θの微分である本体の速度を決めると、式(1)及び(2)の運動学方程式に含まれる変数lとその微分の値が決まり、車輪支持部14が案内部16に沿って所定範囲内を往復する。r,αは定数である。したがって、式(1)及び(2)の運動学方程式から、
の値を導き出すことができる。
つまり、基礎部18、案内部16及び車輪支持部14が所望の運動をするには、車輪12がどのように回転すればよいかを導き出すことができる。
(1-1)基礎部が一定速度・一定角速度で運動する場合
基礎部18が一定角速度で回転しながら、一定方向に一定速度で移動する場合、初期時刻t=t
1における基礎部18の基準方向X
Rの角度θの初期値をθ
1、案内部16と基礎部18との間の距離lの初期値をl
1とすると、式(1)及び(2)の運動学方程式から、次の式(3)~(5)を導き出すことができる。
ここで、
であり、v
x,x
y,ωは一定値である。
車輪12の角速度
が式(3)を満たすように車輪12が回転すると、式(4)のように車輪支持部14は案内部16に沿って所定範囲内を単振動のように往復移動し、基礎部18は、一定方向に一定速度v
x、v
yで移動し、かつ、一定角速度ωで回転する。式(4)及び(5)から分かるように、lの振幅は、基礎部18の速度と角速度の比となる。
(1-2)基礎部が等加速度運動をした後、定速運動を行う場合
基礎部18が一定速度・一定角速度で運動する状態に至るまでの運動として、移動装置10全体が静止している状態から、基礎部18が一定加速度・一定角加速度で加速する場合を考える。この場合、式(1)及び(2)の運動学方程式から、車輪12の回転角速度は次の式(6)のようになり、車輪支持部14の位置は次の式(7)及び(8)のようになる。
ただし、図17に示すように、axは基礎部18の加速度のx方向成分、ayは基礎部18の加速度のy方向成分、aθは基礎部18の反時計まわりの角加速度である。θ0は、初期時刻t=0における基礎部18の基準方向XRの角度である。
式(7)から、案内部16に対する車輪支持部14の運動は、単振動ではなく、三角関数の引数に時刻tの2次式が入った式で表される振動をすることが分かる。
式(7)及び(8)から分かるように、lの振幅は、基礎部18の加速度と角加速度の比となる。基礎部18の加速度と角加速度の比は、加速が終わり定速になったときの速度と角速度の比に等しいので、lの振幅は、基礎部18の加速運動とその後の定速運動のときで等しくなる。また、運動が切替わるとき、式(3)~(5)と式(6)~(8)とが等しい値になる。これらを考慮して解析すると、運動の切替え前後で、案内部16に対する車輪支持部14の振動の中心も変わらないことが分かる。つまり、基礎部18の加速運動とその後の定速運動との運動の切替え前後で、lの取りうる値の範囲は変化しない。
基礎部18が停止している状態から一定加速度・一定角加速度で加速する運動を行った後、基礎部18が一定速度で運動する場合、案内部16に沿って車輪支持部14が移動する範囲は、運動の切替え前後で変わらないため、車輪支持部14が案内部16の端に達することなく、基礎部18を移動させることが可能である。
(1-3)基礎部が減速運動する場合
基礎部18のx,y方向の速度成分がv
x,v
yであり、基礎部18の角速度がωである状態から、時刻t=t
2において一定加速度・一定角加速度で減速を開始し、時刻t=t
3において速度と角速度が0となり、停止する場合を考える。この場合、式(1)及び(2)の運動学方程式から、車輪12の角速度は次の式(9)のようになり、案内部16に対する車輪支持部14の位置(車輪支持部14と基礎部18との間の距離)は、次の式(10)及び(11)のようになる。
ただし、θ
2は時刻t=t
2における基礎部18の角度であり、l
2は時刻t=t
2における車輪支持部14a~14cの位置である。
式(10)及び(11)から、案内部16に対する車輪支持部14の運動は、加速時と同様に、単振動ではなく、三角関数の引数にtの2次式が入った式で表される振動になることが分かる。解析を行うと、lの振動の振幅と振動中心は、運動の切替え前後で変わらないことがわかる。つまり、運動の切替え前後で,lの取りうる値の範囲は変化しない。
基礎部18が定速で運動している状態から一定加速度・角加速度で減速し、停止するとき、案内部16に沿って車輪支持部14が移動する範囲は、運動の切替え前後で変わらないため、車輪支持部14が案内部16の端に達することなく、基礎部18を移動させることが可能である。
(2)基礎部が進行しながら、進行方向を変化させる場合
(2-1)基礎部が円弧軌道を追従する運動
基礎部18が円弧軌道に沿って運動し、進行方向をある方向から別の方向へ変える場合を考える。図18に示すように、x-y平面上で基礎部18が、x-y座標系の原点(0,0)から出発し、点(0,R)を中心とした半径Rの円弧軌道を角速度Ωで公転する場合を考える。このときの基礎部18の各速度成分は、
となる。
この場合も、車輪支持部14a~14cが案内部16a~16cに沿って移動する範囲を所定範囲内に収めるには、基礎部18が自転する必要がある。基礎部18が自転するときの角速度をωとすると、式(1)及び(2)の運動学方程式から、車輪12の角速度は次の式(14)で表され、車輪支持部14の位置は次の式(15)及び(16)で表される。
ただし、θ
0は初期時刻t=0における基礎部18の角度であり、l
0は初期時刻t=0における車輪支持部14a~14cの位置である。
式(14)から、車輪12a~12cの回転角速度は単振動することが分かる。また、式(15)及び(16)から、車輪支持部14a~14cの位置は案内部16a~16cに沿って単振動することが分かる。
したがって、車輪支持部14a~14cが案内部16a~16cの端に達することなく、基礎部18は、一旦停止せずに、一定の角速度ωで自転しながら円弧軌道を追従できる。
また、基礎部18は、加減速を行いながら円弧軌道を追従することもできる。複数の種類の円弧軌道を組み合わせると、基礎部18が任意の曲線軌道を追従するようにすることができる。
(2-2)基礎部が一旦停止して進路を変更する場合
上記のように基礎部18が円弧軌道を追従する運動によって進路を変更できるが、一旦停止してから別の方向に進路を変えることもできる。図19は移動装置の動きを示す平面図である。図19において矢印60aで示すように、基礎部18がある方向に並進移動している状態で、上述した(1-3)の減速運動を行い、符号28sで示す位置で停止した後、矢印60bで示す方向に再び並進移動を始める場合を考える。停止位置28sから矢印60bで示す方向に並進移動を開始する時刻を、初期時刻t=0とする。そして、基礎部18は、停止位置28sで加速度の方向を変え、停止位置28sから矢印60bの方向に並進移動するとき、上述した(1-2)と同様に、加速運動を行い、その後、定速運動を行う。進路変更の前後では、スタート時の初期条件が異なるため、lの振動の種類や取りうる値の範囲も異なるが、動作原理は同じである。
以上に説明したように、実施例1-1の移動装置10は、普通の車輪を用いて構成することができ、即座に任意の方向に移動することができる。
次に、実施例1-1の移動装置10の変形例1~6について、図20~図25の移動装置の略図を参照しながら説明する。以下では、実施例1-1と同じ構成部分には実施例1-1と同じ符号を用い、実施例1-1との相違点を中心に説明する。
<変形例1> 図20に示すように、移動装置10に、回転キャンセル装置20を追加してもよい。回転キャンセル装置20は、基礎部18に固定された回転装置22によって、支持板24を所望の方向に回転させることができるように構成されている。
回転キャンセル装置20は、一般的には、案内部16a~16cと第1の接続部である基礎部18とのうち少なくとも1つに固定された基部と、基部に回転自在に結合された台部と、台部を基部に対して回転させる台駆動部とを備える。回転装置22は基部及び台駆動部であり、支持板24は台部である。
回転キャンセル装置20を追加すると、案内部16a~16c及び基礎部18が回転しながら移動するときに支持板24を所望方向に向けることができる。そのため、支持板24に操作者が乗る場合や、支持板24に乗せて運ぶ荷物をなるべく回転させたくない場合に、好適である。
<変形例2> 図21(a)に示すように、案内部16a~16cは、等角度間隔で配置されていなくても構わない。また、図21(b)に示すように、少なくとも2つの案内部16a又は16bと16cとがそれぞれ車輪支持部14a,14b,14cを案内する所定経路の方向が互いに平行でなければ、案内部16a,16bが一直線上に並んでも構わない。
<変形例3> 図22に示すように、案内部16a~16c同士が複数個所で接続されても構わないし、案内部16a~16cの中間位置に他の案内部16a~16cが接続されても構わない。また、図22(c)に示すように、少なくとも2つの案内部16a又は16bと16cとがそれぞれ車輪支持部14cを案内する所定経路の方向が、互いに平行でなければ、案内部16a,16bが互いに平行に配置されても構わない。
<変形例4> 図23に示すように、案内部16a~16c同士が交差しても構わないし、案内部16a~16cによって車輪支持部14a~14cが案内される所定経路同士が交差しても構わない。
<変形例5> 図24に示すように、案内部16p~16qが曲線状でも構わないし、案内部16p~16qによって車輪支持部14p~14rが案内される所定経路が曲線状でも構わない。
<変形例6> 変形例1~5のうち2つ以上を適宜に組み合わせてもよい。例えば図25に示すように、曲線状の第1の案内部16pの中間位置に、基礎部18を介して、曲線状の第2の案内部16qの一方の端部が接続され、第2の案内部16qの他方の端部に、曲線状の第3の案内部16rの一方の端部が接続される構成としてもよい。
<実施例1-2> 図26は、実施例1-2の移動装置10aの平面図である。図26に示すように、移動装置10aは、3つの案内部16a~16cがΔ字状に配置され、案内部16a~16cの端部同士が繋ぎ合わされている。
実施例1-1と同様に、車輪12a~12cは、車輪支持部14a~14cによって回転自在に支持される。車輪支持部14a~14cは、直線状の案内部16a~16cによって移動自在に案内される。車輪12a~12cは、矢印13a~13cで示す方向に移動する。車輪支持部14a~14cは矢印15a~15cで示す方向に、すなわち、案内部16a~16cの長手方向と平行に、案内部16a~16cに沿って移動する。車輪12a~12cが移動する方向13a~13cと、車輪支持部14a~14cの移動方向15a~15cとがなす角は一定であり、直角でなくても構わない。
次に、移動装置10aの動きについて説明する。図26に示す基礎部18aによって、移動装置10aの運動を代表させる。基礎部18aは、案内部16a~16cに囲まれた三角形領域の内部において案内部16a~16cに対する相対位置が固定されている。基礎部18aは、実在する部材でも、仮想上の部材でも構わない。
図27はパラメータの説明図である。図27に示すように、接地面に固定されたx-y座標系を定義し、基礎部18aから案内部16までの距離をh、移動装置10aの基準方向X
Rに対する案内部16の角度をα、基礎部18の基準方向X
Rの角度をθ、車輪12の回転中心線12x(車輪12の移動方向に垂直な方向)と案内部16の中心線16x(車輪支持部14が案内される所定経路と平行な直線)とがなす角をβ、基礎部18aから案内部16の中心線16xに下ろした垂線の足16zと車輪支持部14との間の距離をlとする。車輪支持部14に支持されている車輪12は、案内部16の中心線16xの直下に位置しているとする。車輪12の半径をr、車輪12の回転角を
とする。
運動学方程式は、次の式(17)及び(18)のようになる。
実施例1-1の移動装置10ではβ=0°としているが、実施例1-2の移動装置10aの場合には、-90°<β<90°,β≠0°を満たす値にすれば、移動装置10aがどの方向に移動する場合でも、案内部16に沿って車輪支持部14の移動する範囲が所定範囲内に収まるようにすることができる。
基礎部18aが一定速度・一定角速度で運動する場合、車輪12の角速度と車輪支持部14の位置は、以下の式(19)及び(20)のようになる。
ただし、式(20)のCは、初期条件によって定まる定数である。
式(20)から、右辺第1項の過渡的な項Ce-ωttanβ が時間の経過とともに減衰するように、ω tanβ>0となるように基礎部18aの回転角速度ωの符号を選べば、車輪支持部14の位置lは最終的に単振動となり、ある範囲に収まりながら運動する。このことは、案内部16a~16cがΔ字状に配置された実施例1-2の移動装置10aは、案内部16a~16cがY字状に配置された実施例1-1の移動装置10とは、案内部16a~16cの配置の態様が異なるだけであり、実施例1-1の移動装置10と同じ原理で動くことを意味している。
図28は、基礎部18aが回転しながら一方向に移動するときの移動装置10aの運動の様子の一例を示す平面図である。図28において、鎖線4は、接地面2上の仮想基準線4である。移動装置10aは、基礎部18aを中心に回転しながら、仮想基準線4に垂直な方向(図において右方向)に移動する。図28は、基礎部18aが60°回転するごとに、順次、仮想基準線4と平行かつ下方に位置をずらして移動装置10aを図示している。
3つの車輪支持部14a~14cのうちの1つ14bに注目すると、図28(1)~(4)に示すように、車輪支持部14bが基礎部18aに対して進行方向(図において右方向)前方にあるとき、車輪支持部14bは案内部16bの端に近付く。一方、図28(5)~(7)に示すように、車輪支持部14bが基礎部18aに対して進行方向後方にあるとき、車輪支持部14bは案内部16bの中央に近付く。車輪支持部が基礎部18aに対して進行方向の前後どちらにあるかは、基礎部18aの回転に伴って周期的に変わるため、車輪支持部14bは案内部16bに沿って往復する。他の車輪支持部14a,14cも同様に、案内部16a,16cに沿って往復する。
案内部16a~16cがΔ字状に配置される移動装置10aは、案内部16a~16cがY字状に配置された実施例1-1の移動装置10と比べると、案内部16a~16cによって車輪支持部14a~14cが案内される所定経路に対する、車輪支持部14a~14cが支持している車輪12a~12cの進行方向の誤差の影響を受けにくいため、移動装置10aの組み立てや調整が容易である。
<変形例1> 図29は、変形例1の移動装置の平面図である。図29に示すように、案内部16a~16cの一方端側を、案内部16a~16cで囲まれるΔ字状領域から離れる方向に延長しても構わないし、車輪支持部14a~14cが案内される所定経路が、案内部16a~16cで囲まれるΔ字状領域から離れる方向に延長されても構わない。図示していないが、案内部16a~16cの一方端側と他方端側の両方を、案内部16a~16cで囲まれるΔ字状領域から離れる方向に延長しても構わないし、車輪支持部14a~14cが案内される所定経路が、案内部16a~16cで囲まれるΔ字状領域から離れる方向に延長されても構わない。
<実施例1-3> 図30は、実施例1-3の移動装置10bの平面図である。図30に示すように、案内部16i~16kは、車輪支持部14i~14kを移動自在に案内する所定経路が環状になるように構成されている。基礎部18bは、案内部16i~16k同士の相対位置が固定されるように、案内部16i~16k同士を互いに繋ぎ合わせる。車輪支持部14i~14kは、車輪12a~12cをそれぞれ回転自在に支持している。
次に、移動装置10bの動きについて説明する。移動装置10bの運動を、基礎部18bによって代表させる。図31はパラメータの説明図である。図31に示すように、接地面に固定されたx-y座標系を定義し、車輪12の中心Sの軌跡を、案内部が車輪支持部を案内する環状の所定経路14gとし、所定経路14gは円形であり、所定経路14gの中心点をPとする。基礎部18bの中心から点Pまでの距離をhとする。点Pと車輪12の中心までの距離をdとする。
また、基礎部18bの中心と中心点Pとを結ぶ方向と、基礎部18bの基準方向X
Rとがなす角をαとする。車輪12の中心Sを通る所定経路14gの接線14sと、車輪12の回転中心線12xとがなす角をβとする。基礎部18bと中心点Pとを結ぶ線分と、中心点Pと車輪12の中心Sとを結ぶ線分とがなす角をγとする。車輪12の半径をr、車輪12の回転角を、
とする。
以上のように定義すると、運動学方程式は、次の式(21)及び(22)のようになる。
これらの式(21)及び(22)から数値解を求めることにより、環状の所定経路14g上の車輪支持部の位置γと車輪12の角速度
を求めることができる。
図32~図35は、移動装置10bの動きの説明図である。
図32のように、移動装置10bは、車輪12a~12cの向きが揃っていない状態から、任意の方向に並進移動できる。すなわち、移動装置10bは、図32(a)に示すように、図において左右方向に並進移動することも、図32(b)に示すように、図において上下方向に並進移動することも、図32(c)に示すように、図において斜め方向(左右方向でも上下方向でもない方向)に並進移動することもできる。
しかし、基礎部18bが回転せずに並進移動すると、図33のように、すべての車輪12a~12cの向きが揃ってしまい、車輪12a~12cの進行方向(矢印11yの方向)に対して垂直な方向(矢印11xの方向)に移動できなくなる。一方,図34のように基礎部18bが回転運動だけをするとき、車輪12a~12cの向きが揃うことがない。
そこで、図32の並進移動と図34の回転運動との組み合わせにより、基礎部18bが回転しながら並進移動すると、基礎部18bは任意の方向に移動することができる。
図35は、基礎部18bが回転しながら一方向に移動するときの移動装置10bの運動の様子の一例を示す。図35において、鎖線4は、接地面2上の仮想基準線4である。移動装置10bは、基礎部18bを中心に回転しながら、仮想基準線4に垂直な方向(図において右方向)に移動する。図35は、基礎部18bが60°回転するごとに、順次、仮想基準線4と平行かつ下方に位置をずらして移動装置10bを図示している。
3つの車輪支持部14i~14kのうちの1つ14kに注目すると、環状の案内部16kに沿って一方向に移動し続けていることが分かる。他の車輪支持部14i,14jも同様に、環状の案内部16i,16jに沿って一方向に移動し続けている。
車輪支持部14i~14kは、直線状の案内部を持つ実施例1-1及び1-2と異なり、案内部16i~16kに沿ってある範囲内を往復していないが、案内部16i~16kは環状であり、移動範囲に制限がないので、問題はない。
<変形例1> 案内部が車輪支持部を案内する所定経路は、円形に限らず、楕円形、長円形など、任意の形状の循環経路でもよい。
<変形例2> 案内部が車輪支持部を案内する所定経路は、円弧状、すなわち、円形の一部分、楕円形の一部分、長円形の一部分など、両端を有する経路でもよい。この場合、車輪支持部が経路の端に達する前に基礎部の回転方向が逆転するように車輪を回転駆動すれば、基礎部を回転させながら、かつ、基礎部の回転方向を切り替えながら、基礎部を任意の方向に移動させることができる。
<実施例1-4> 実施例1-3の移動装置10bの案内部16i~16k及び車輪支持部14i~14kをキャスター型機構60に置き換えた実施例1-4の移動装置10cについて説明する。
図36は、移動装置10cの平面図である。図37は、キャスター型機構60の説明図であり、図37(a)は側面図、図37(b)は正面図である。
図36及び図37に示すように、移動装置10cは、3つの車輪12a~12cと、3つの車輪支持部14u~14wと、3つの案内部16u~16wとを備える。
案内部16u~16wは、それぞれ、回転自在に互いに結合された第1及び第2の部材16m,16nを含む。第1の部材16mに、第1及び第2の部材16m,16nが相対回転する中心軸66のまわりを、車輪支持部14u~14wに回転自在に支持されている車輪12a~12cが移動するように、車輪支持部14u~14wが固定されている。例えば、第2の部材16nは、軸状の第1の部材16mを回転自在に支持する。第1の部材16mは、車輪支持部14u~14wに固定されている。
第1の接続部である基礎部18cは、案内部16u~16wの第2の部材16q同士の相対位置が不変であるように、案内部16u~16wの第2の部材16q同士を繋ぎ合わせる。
案内部16u~16wは、車輪支持部14u~14wを、図36において鎖線で示された所定経路17u~17wに沿って移動自在に案内し、所定経路17u~17wに対する車輪支持部14u~14wの向きが一定に保たれる。
以上のように、移動装置10cがキャスター型機構60を含むと、案内部16u~16wが車輪支持部14u~14wを案内する所定経路17u~17wが環状になるように構成することが簡単である。
<実施例2> 3つ以上の案内部同士の相対位置が可変である実施例2について説明する。図38は、実施例2の移動装置50の構成を概念的に示す略図である。
図38に示すように、移動装置50は、実施例1と同様に構成された車輪52a~52c、車輪支持部54a~54c、及び案内部56a~56cを少なくとも3組備え、さらに、案内部56a~56c同士の相対位置が可変であるように案内部56a~56c同士を繋ぎ合わせる第1の接続部57a~57cを備える。第1の接続部57a~57cは、案内部56a~56c同士を、回転対偶や直進対偶などの対偶、又は、スライド機構やリンク機構や遊星機構など機構を介して繋ぎ合わせる。
移動装置50は、案内部56a~56cの少なくとも1つに対偶や機構を介して接続され、すべての案内部56a~56cに対する相対位置が可変である基礎部58を備える。もっとも、後述する実施例2-4のように、すべての案内部56a~56cに対する相対位置が可変である基礎部58を備えない構成でも構わない。
<実施例2-1> 基礎部に対する案内部の角度が可変である実施例2-1について説明する。
図39は、実施例2-1の移動装置50p,50qの構成を概念的に示す略図である。図39(a)及び図39(b)に示すように、移動装置50p,50qは、4組の車輪52p,52q、車輪支持部54p,54q、及び案内部56p,56qを備えている。案内部56p,56qは、それぞれの基準点55p,55qが一点鎖線59p,59qで示す所定経路上を移動し、基礎部58p,58qに対する案内部56p,56qの角度が変わるように構成されている。案内部56p,56qの基準点55p,55q同士は、破線57p,57qで概念的に示すように互いに接続され、案内部56p,56q同士の相対位置が不変である。
案内部56p,56qが車輪支持部54p,54qを案内する所定経路は、図39(a)に示すように直線状の所定経路でも、図39(b)に示すように環状又は円弧状の所定経路でも、不図示の任意の曲線状でも、これらの2つ以上の組み合わせでも構わない。
図40は、具体的な構成例を示す移動装置50rの略図である。図40に示すように、円盤58rのまわりに間隔を設けて外輪51rが配置され、円盤58rと外輪51rとの間に、4組の車輪52r、車輪支持部54r、及び案内部56rが配置されている。それぞれの案内部56rの周囲に、弾性体からなる無端ベルト55rが巻き付けられている。無端ベルト55rは、クローラのように案内部56rの周囲を循環可能であり、円盤58rの外周面58aと、外輪51rの内周面51aとに接している。
移動装置50rは、車輪52rが回転すると、無端ベルト55rが矢印57rで示す方向に移動する。これに伴い、無端ベルト55rは、円盤58rの外周面58aと、外輪51rの内周面51aとに接しながら移動し、案内部56rは、矢印59rで示すように円盤58rに対する角度が変化する。
<実施例2-2> 基礎部と案内部との間の距離が可変である実施例2-2について説明する。
図41及び図42は、実施例2-2の移動装置50s,50tの構成を概念的に示す略図である。図41及び図42に示すように、車輪支持部54s,54tは、それぞれ、車輪52s,52tを回転自在に支持している。案内部56s,56tは、それぞれ、車輪支持部54s,54tを案内する。移動装置50s,50tは、案内部56s,56tにカムフォロア55s,55tが設けられ、カムフォロア55s,55tがカム溝57s,57tに沿って移動することにより、案内部56s,56tは、基礎部58s,58tに対する角度を一定に保ったまま、基礎部58s,58tとの間の距離が変わるように構成されている。
図41(a)及び図41(b)に示すように、案内部56sが移動する方向は、案内部56sが車輪支持部54sを案内する方向に対して、直角でも斜めでも構わない。
案内部56s,56tが車輪支持部54s,54tを案内する所定経路は、図41のように直線状でも、図42のように環状又は円弧状でも、任意の曲線状でも、これら2つ以上の組み合わせでも構わない。
図43は、具体的な構成例を示す移動装置50uの略図である。図43に示すように、基礎部58uを中心に回転する楕円形のカム51uのまわりに、複数組の車輪52u、車輪支持部54u、及び案内部56uが配置されている。案内部56uには、それぞれ、断面が矩形状のピン55u(カムフォロア55u)が設けられている。ピン55uは、基礎部58uに向かって伸びるスリット57u(カム溝57u)の両側の溝面に係合するとともに、ゴム、ばね等の弾性部材57mによって基礎部58uに向かって引き寄せられて案内部56uがカム51uに押し付けられるように構成されている。矢印58mで示す方向にカム51uが回転すると、案内部56uは、矢印56mで示すように、基礎部58uに対して近付いたり離れたりする方向に並進移動する。
<実施例2-3> 基礎部に対する案内部の角度と、基礎部と案内部との間の距離が可変である実施例2-3について、説明する。実施例2-3は、基礎部に対する案内部の角度が可変である実施例2-1と、基礎部と案内部との間の距離が可変である実施例2-2とを組み合わせた構成である。
図44は、実施例2-3の移動装置50vの構成を概念的に示す略図である。図44に示すように、移動装置50vは、基礎部と案内部との間の距離が可変である実施例2-2と同様に、案内部56vに、断面が矩形状のカムフォロア55vが設けられ、カムフォロア55vがカム溝57vの両側の溝面に接しながら矢印56nで示す方向に移動することにより、案内部56vは、基礎部58vとの間の距離が変わるように構成されている。複数組の車輪52v、車輪支持部54v、案内部56vと、カムフォロア55vと、カム溝57vとが一体となって、矢印58nで示すように、基礎部58vの周りを回転するように構成されている。
運動学方程式は、例えば実施例1-2で説明した図27のように座標系とパラメータを定義すると、基礎部18aから案内部16までの距離hと、移動装置10aの基準方向X
Rに対する案内部16の角度αとが可変になるので、次の式(23)及び(24)のようになる。
これらを解析的、あるいは数値計算で解くことによって、車輪の回転速度
や、車輪支持部の位置lを求めることができる。
車輪を回転駆動する場合、各車輪について求めた車輪の回転速度を指令値として与えることによって、各車輪支持部の位置が従属して変化する。
実施例2-3の具体的な構成例として、遊星機構を含む実施例2-3-1、実施例2-3-2、及び実施例2-3-3を説明する。
<実施例2-3-1> 図45は、実施例2-3-1の移動装置30の構成を概念的に示す略図である。図45に示すように、移動装置30は、遊星機構31の遊星部材34に、車輪12、車輪支持部14、及び案内部16が設けられている。
遊星機構31は、内部材32と外部材36との間に4つの遊星部材34が配置されている。遊星部材34は、内部材32のまわりを、自転しながら公転する。遊星機構31は、遊星部材34の外周面34sが、内部材32の外周面32sと外部材36の内周面36sとに対して滑ることなく接触する摩擦車や、遊星部材34の外周面34sに形成された歯車と、内部材32の外周面32sと外部材36の内周面36sとに形成された歯車とが噛み合う歯車機構などである。
それぞれの遊星部材34には、車輪支持部14を所定経路上を移動自在に案内する案内部16が固定され、車輪支持部14に回転自在に支持されている車輪12が接地面2に接地するように構成されている。例えば、車輪支持部14が移動する所定経路は、直線状であり、車輪支持部14は、車輪支持部14が移動する所定経路が遊星部材34の自転中心軸と直交するように、遊星部材34に設けられている。車輪支持部14に支持されている車輪12の進行方向は、車輪支持部14が移動する直線状の所定経路に対して垂直でも斜めでも構わない。
移動装置30は、車輪12の回転駆動を適宜に制御することによって、任意の方向に移動させることが可能である。移動装置30が移動するときに、接地面2に対する内部材32又は外部材36の回転を禁止すれば、内部材32又は外部材36は、接地面2に沿って並進移動する。
遊星部材34の回転に伴い、内部材32に対する案内部16の角度と距離の両方が変化するので、内部材32は、案内部16に対する相対位置が可変である基礎部32である。
基礎部32を任意の方向に並進移動させる場合、遊星部材34だけを回転させればよく、基礎部32を回転させ続ける必要がなり、基礎部32の回転角速度は任意の値を取れるので、基礎部32に並進運動と回転運動を合わせた平面3自由度の運動をさせることができる。なお、基礎部32に平面3自由度の任意の運動をさせるときは、基礎部32と案内部16との相対位置が可変になり、自由度が1増えるので、能動的に回転させる車輪12は4つ以上必要であり、この場合、遊星部材34は4つ以上必要となる。
移動装置30の運動について、さらに説明する。
図46はパラメータの説明図である。図46に示すように、接地面2に固定されたx-y座標系を定義し、一組の車輪12、車輪支持部14及び案内部16に注目し、内部材32(基礎部32)の中心点の座標を(x,y)、案内部16によって車輪支持部14が案内される方向と基礎部32の基準方向XRとのなす角をα、基礎部32の基準方向XRの角度をθ、車輪12の回転中心線12xと、案内部16によって車輪支持部14が案内される方向とがなす角をβ、内部材32の中心点と遊星部材34の中心点とを結んだ線分と基礎部32の基準方向XRとのなす角をΨとする。内部材32の半径をr1、遊星部材34の半径をr2、外部材36の内周面である円筒の半径をr3とする。
案内部16によって車輪支持部が案内されて移動するときの車輪の接地点の軌跡が遊星部材34の中心を通るように、案内部16が遊星部材34に設けられており、車輪支持部14と遊星部材34の中心との間の距離をlとする。
このとき、運動学方程式は次の式(25)及び(26)のようになる。
内部材32と遊星部材34の接触又は噛み合いにより、α=π-Ψ(r
1+r
2)/r
2 の関係があるので、これを式(25)及び(26)に代入して解くことにより、車輪12の角速度
や、車輪支持部34の位置を示すlを求めることができる。
以上のように、基礎部32に対する遊星部材34の回転角Ψが変化し、案内部16が基礎部32と独立して回転することで、基礎部32は平面3自由度の運動をすることができる。
<実施例2-3-2> 図47は、実施例2-3-2の移動装置30aの構成を示す略図である。図47に示すように、移動装置30aは、遊星機構31aの遊星部材34に加え、遊星機構31aの内部材32にも、案内部16が設けられている。
内部材32に案内部16を取り付けると,内部材32には平面3自由度の任意の運動をさせることはできず、外部材36にのみ平面3自由度の任意の運動をさせることができる。
<実施例2-3-3> 図48は、実施例2-3-3の移動装置30bの構成を示す略図である。
図48に示すように、移動装置30bの遊星機構31bは、外部材36(図45、図47参照)の代わりに、遊星部材34を回転自在に支持するキャリア部材38を備えている。遊星部材34には、車輪支持部14を所定経路上を移動自在に案内する案内部16が固定され、車輪支持部14に支持されている車輪12が接地するように構成されている。
移動装置30bは、それぞれの車輪12の回転駆動を適宜に制御することによって、任意の方向に移動させることが可能である。移動装置30bが移動するときに、キャリア部材38の回転を禁止すれば、キャリア部材38は並進移動する。
<実施例2-3-4> 図49は、実施例2-3-4の移動装置30cの構成を示す略図である。
図49に示すように、移動装置30cの遊星機構31cは、中空円筒状の外部材36と、外部材36の内部に配置され、外部材36の中心線の周囲を、自転しながら公転する少なくとも4つの遊星部材34と、遊星部材34を回転自在に支持する1つのキャリア部材38とを含む。移動装置30cは、所定経路上を移動自在に車輪支持部14を案内する案内部16が遊星部材34に固定され、車輪支持部14に支持されている車輪12が接地するように構成されている。
移動装置30cは、それぞれの車輪12の回転駆動を適宜に制御することによって、任意の方向に移動させることが可能である。移動装置30cが移動するときに、キャリア部材38の回転を禁止すれば、キャリア部材38は並進移動する。
<実施例2-4> すべての案内部に対する相対位置が可変である基礎部を備えない実施例2-4の移動装置50aについて説明する。
図50は、実施例2-4の移動装置50aの構成を概念的に示す略図である。図50に示すように、移動装置50aは、案内部56a~56c同士が、破線57a~57cで示すように、対偶や機構で接続され、車輪52a~52cの回転に伴って案内部56a~56c同士の相対位置が変わるように構成されているが、すべての案内部56a~56cに対する相対位置が可変である基礎部58(図36参照)を備えていない。
図51は、実施例2-4の移動装置の具体的な構成例を示す略図である。図51に示すように、移動装置50b,50cは、4組又は5組の車輪52、車輪支持部54、及び案内部56同士が、回転ジョイント57を介して四角形状又は五角形状に接続され、隣り合う案内部56同士の角度が変わるように構成されている。図51(a)に示す移動装置50bは、車輪52が回転すると、案内部56によって形成される矩形形状が変化する。図51(b)に示す移動装置50cは、車輪52が回転すると、案内部56によって形成される五角形形状が変化する。
なお、案内部同士の相対位置が可変又は不変に統一されていない構成とすることも可能である。すなわち、案内部同士の組み合わせの一部について案内部同士の相対位置が可変であるが、他の組み合わせについては案内部同士の相対位置が不変であるように構成しても構わない。
<実施例3> 実施例1又は実施例2の構成に、車輪支持部同士を繋ぎ合わせる第2の接続部をさらに備える実施例3について説明する。
<実施例3-1-1> 図52は、実施例1-1の移動装置10に、第2の接続部53a,53b,53cが追加された構成例を示す略図である。図52に示すように、3組の車輪12a~12c、車輪支持部14a~14c、及び案内部16a~16cを備え、案内部12a~12c同士の相対位置が不変であった実施例1-1の移動装置10に、少なくとも2つの車輪支持部14a,14b;14b,14c;14c,14aについて、1つの車輪支持部14a,14b,14cの所定経路上の位置(すなわち、1つの車輪支持部14a,14b,14cが案内される案内部12a,12b,12cに対する1つの車輪支持部14a,14b,14cの位置)が他の車輪支持部14b,14c,14aの所定経路上の位置(すなわち、他の車輪支持部14b,14c,14aが案内される案内部12b,12c,12aに対する他の車輪支持部14b,14c,14aの位置)の制約を受けて決まるように、車輪支持部14a,14b;14b,14c;14c,14a同士を繋ぎ合わせる1つ以上の第2の接続部53a,53b,53cが追加されている。例えば、第2の接続部53aは、2つの車輪支持部14a,14bについて、1つの車輪支持部14aの所定経路上の位置(すなわち、1つの車輪支持部14aが案内される案内部16aに対する1つの車輪支持部14aの位置)が他の車輪支持部14bの所定経路上の位置(すなわち、他の車輪支持部14bが案内される案内部16bに対する他の車輪支持部14aの位置)の制約を受けて決まるように、対偶や機構を介して、車輪支持部14a,14b同士を繋ぎ合わせる。
図53は、第2の接続部26の具体的な構成例を示す略図である。図53に示すように、第2の接続部26として、車輪支持部14a~14cと基礎部18との間の距離の和を一定にする連動装置26を備える。連動装置26は、案内部16a~16cに沿って配置された流路26u~26wの一方端が互いに接続され、流路26u~26wの他方端が車輪支持部14a~14cに接続された油圧回路を含む。
第2の接続部26を追加すると、3つの車輪支持部14a~14cのうち、2つの位置が決まると他の1つの位置が制約を受けて決まるので、3つの車輪支持部14a~14cのうちの2つのみについて車輪を回転駆動しても、移動装置の移動を制御することができる。したがって、車輪駆動部を簡素化することができる。
図54は、他の第2の接続部28の具体的な構成例を示す略図である。図54に示すように、第2の接続部28として、車輪支持部14a~14cに接続され、車輪支持部14a~14cと基礎部18との間の距離La~Lcの和を一定にする連動装置28を備える。連動装置28は、車輪支持部14a~14cに回転自在に支持されたプーリー28u~28wに巻き掛けられたチェーンやタイミングベルトなどの1本の無端ベルト28mを、プーリー28i~28kを用いて、案内部16a~16cに沿って循環させる。
第2の接続部28を追加すると、3つの車輪支持部14a~14cのうち、2つの位置が決まると他の1つの位置が制約を受けて決まるので、3つの車輪支持部14a~14cのうちの2つのみについて車輪を回転駆動しても、移動装置の移動を制御することができる。したがって、車輪駆動部を簡素化することができる。
<実施例3-1-2> 図55は、実施例1-2の移動装置10aに、第2の接続部53a,53b,53cが追加された構成例を示す略図である。図55に示すように、案内部16a~16c同士の相対位置が不変であった実施例1-2の移動装置10aに、少なくとも2つの車輪支持部14a,14b;14b,14c;14c,14aについて、1つの車輪支持部14a,14b,14cの所定経路上の位置が他の車輪支持部14b,14c,14aの所定経路上の位置の制約を受けて決まるように、車輪支持部14a,14b;14b,14c;14c,14a同士を繋ぎ合わせる1つ以上の第2の接続部53a,53b,53cが追加されている。
<実施例3-1-3> 図56は、実施例1-3の移動装置10bに、第2の接続部53a,53b,53cが追加された構成例を示す略図である。図56に示すように、案内部16i~16k同士の相対位置が不変であった実施例1-3の移動装置10bに、少なくとも2つの車輪支持部14i,14j;14j,14k;14k,14iについて、1つの車輪支持部14i,14j,14kの所定経路上の位置が他の車輪支持部14j,14k,14iの所定経路上の位置の制約を受けて決まるように、車輪支持部14i,14j;14j,14k;14k,14i同士を繋ぎ合わせる1つ以上の第2の接続部53a,53b,53cが追加されている。
<実施例3-1-4> 図57は、実施例1-4の移動装置10cに、第2の接続部53a,53b,53cが追加された構成例を示す略図である。図57に示すように、案内部14u~14wの第2の部材16n同士の相対位置が不変であった実施例1-4の移動装置10cに、少なくとも2つの車輪支持部14u,14v;14v,14w;14w,14uについて、1つの車輪支持部14u,14v,14wの所定経路上の位置が他の車輪支持部14v,14w,14uの所定経路上の位置の制約を受けて決まるように、車輪支持部14u,14v;14v,14w;14w,14u同士を繋ぎ合わせる1つ以上の第2の接続部53a,53b,53cが追加されている。
<実施例3-2-1> 図58は、実施例2-1の移動装置50に、第2の接続部53が追加された構成例を示す略図である。図58に示すように、複数組の車輪52a~52c、車輪支持部54a~54c、及び案内部56a~56cを備え、案内部56a~56c同士の相対位置が可変である実施例2-1の構成に、少なくとも2つの車輪支持部54a,54bについて、1つの車輪支持部54aの所定経路上の位置(すなわち、1つの車輪支持部54aが案内される案内部56aに対する1つの車輪支持部54aの位置)が他の車輪支持部54bの所定経路上の位置(すなわち、他の車輪支持部54bが案内される案内部56bに対する他の車輪支持部54bの位置)の制約を受けて決まるように、車輪支持部56a,56b同士を繋ぎ合わせる第2の接続部53が追加されている
<実施例3-2-2> 図59は、実施例2-2の移動装置50sに、第2の接続部53sが追加された構成例を示す略図である。図59に示すように、複数組の車輪52s、車輪支持部54s、及び案内部56sを備え、車輪支持部54s同士の相対位置が可変である実施例2-2の移動装置50sに、少なくとも2つの車輪支持部54sについて、1つの車輪支持部54sの所定経路上の位置が他の車輪支持部54sの所定経路上の位置の制約を受けて決まるように、車輪支持部56s同士を繋ぎ合わせる第2の接続部53sが追加されている。
<実施例3-2-3> 図60は、遊星機構31を含む実施例2-3-1の移動装置30に、第2の接続部53tが追加された構成例を示す略図である。図60に示すように、複数組の車輪12、車輪支持部14、及び案内部16を備え、車輪支持部14同士の相対位置が可変である実施例2-3-1の移動装置30に、少なくとも2つの車輪支持部14について、1つの車輪支持部14の所定経路上の位置が他の車輪支持部14の所定経路上の位置の制約を受けて決まるように、車輪支持部14同士を繋ぎ合わせる第2の接続部53tが追加されている。
<実施例4> 2組の車輪、車輪支持部、及び案内部を備える実施例4について説明する。
<実施例4-1> 図61は、実施例4の移動装置10u,10vの構成を示す略図である。図61に示すように、移動装置10u,10vは、2組の車輪12a,12b、車輪支持部14a,14b、及び案内部16a,16bと、基礎部18とを備える。案内部16a,16bは、案内部16a,16b同士の相対位置が不変であるように、基礎部18を介して互いに接続されている。
車輪12a,12bは、例えば図3(a)のように構成された第1の駆動部81によって回転駆動される。少なくとも一方の組において、車輪支持部14aは、第2の駆動部によって、矢印15で示す方向に案内部16aに沿って動かされ、基礎部18までの距離が変わる。
図62は、第2の駆動部82の構成例を示す部分断面斜視図である。図62に示すように、レール86に沿って摺動自在である角筒状のスライダ88に不図示のモータが搭載され、モータの出力軸83にローラ84が取り付けられている。第2の駆動部82は、ローラ84がレール86の上面86sに接し、ローラ84が回転しながらレール86の上面86sを移動することによって、スライダ88がレール86に沿って移動するように構成されている。レール86は案内部であり、スライダ88に、車輪12を支持する車輪支持部が固定される。
レール86の上面86sにラックを形成し、ローラ84の代わりにピニオンを取り付け、ラックアンドピニオンで第2の駆動部を構成してもよい。送りねじ、リニアモータなどを用いて、第2の駆動部を構成してもよい。
第2の駆動部が必要な理由を、以下に説明する。図61に示すように、車輪12a,12bが向きを変えるときの中心点をA,B、案内部16a,16bによって車輪支持部14a,14bが案内される所定経路の交点をMとする。
図61(a)のように、点A,M,Bが一直線上に並ばない場合、∠AMBの角度は一定であるので、点Mは、点A,Bを両端とする円弧上に位置する。車輪12a,12bの向きは変わり得る。そのため、点A,Bの位置、すなわち車輪12a,12bの位置が決まっただけでは、点Mの位置、すなわち基礎部18の位置は、一意に決まらない。この場合、第2の駆動部によって線分AM,BMのいずれか一方の長さが決まれば、点Mの位置が一意に決まる。
図61(b)のように点A,M,Bが一直線上に並んだ場合も、点A,Bの位置、すなわち車輪12a,12bの位置が決まり、さらに、第2の駆動部によって線分AM又はBMの長さが決まれば、点Mの位置が一意に決まる。
図63及び図64は、移動装置10u,10vの動きを示す平面図である。移動装置10u,10vの基礎部18が回転しながら、接地面上の仮想基準線4に垂直な方向(図において右方向)に移動する様子を、仮想基準線4の方向に順次、位置をずらして図示している。この場合、車輪支持部14a,14bが案内部16a,16bに沿って往復移動を繰り返すように、2つの車輪12a,12bを回転駆動し、かつ、1つの車輪支持部14a又は14bを案内部16a又は16bに対して動かして能動的に移動させる。
図63及び図64から分かるように、車輪支持部14a,14bが基礎部18よりも進行方向前方にあるとき、車輪支持部14a,14bと基礎部18との間の距離は減少する。車輪支持部14a,14bが基礎部18よりも進行方向後方にあるとき、車輪支持部14a,14bと基礎部18との間の距離は増加する。このような車輪支持部14a,14bの動きは、実施例1-1と同様である。
車輪12a,12b及び車輪支持部14a,14bの移動速度は、実施例1-1と同様に変化する。すなわち、案内部16a,16bの先端側(基礎部18とは反対側)が案内部16a,16bの基端側(基礎部18側)よりも移動装置10u,10vの移動方向の前側(図63、図64において右側)に位置しているとき、この案内部16a,16bで案内される車輪支持部14a,14bが支持している車輪12a,12bの移動速度は、移動装置10u,10vの移動に伴って次第に小さくなる。案内部16a,16bの先端側が案内部16a,16bの基端側よりも移動装置10u,10vの移動方向の後側(図63、図64において左側)に位置しているとき、この案内部16a,16bで案内される車輪支持部14a,14bが支持している車輪12a,12bの移動速度は、移動装置10u,10vの移動に伴って次第に大きくなる。
つまり、実施例4-1の移動装置10u,10vは、実施例1-1の移動装置10から1組の車輪12c、車輪支持部14c、及び案内部16cを取り除いたものに対応し、実施例1-1の移動装置10と同じ原理で動く。
車輪12a,12bを回転駆動する速度や、車輪支持部14a又は14bを動かす速度は、実施例1と同様に、運動学方程式から求めることができる。
例えば,図61(a)のように基礎部18と案内部16a,16bが同一直線上にないとき、上述した式(3)及び(4)の運動学方程式から、駆動部の速度を求めることができる。図61(b)のように基礎部と案内部が同一直線上にあるときも、上述した式(3)及び(4)から駆動部の速度を求めることができる。
移動装置10u,10vは、通常は、基礎部18が回転しながら移動するが、図61(b)のように2つの車輪12a,12bの進行方向が互いに平行である移動装置10vは、2つの車輪12a,12bの進行方向には、基礎部18を回転させなくとも無限に進み続けることができる。
図65及び図66に示すように、基礎部18と案内部14a,14bとが同一直線上にある移動装置10vは、矢印88rで示すように揺動しながら、矢印88xで示す一方向に移動することも可能である。図65及び図66は、移動装置10vの動きを、仮想基準線4の方向に順次、位置をずらして図示している。この場合も、車輪支持部14a,14bが案内部16a,16bに沿って往復移動を繰り返すように、2つの車輪12a,12bを回転駆動し、かつ、1つの車輪支持部14a又は14bを案内部16a又は16bに対して動かして能動的に移動させる。
図65に示すように、移動装置10vが揺動しながら一方向(図65において右方向)に移動するとき、一方の案内部16aは、仮想基準線4と平行な中立位置から、移動装置10vの進行方向後方に振れた後、仮想基準線4と平行な中立位置に戻る。このとき、一方の案内部16aによって案内される車輪支持部14aは、基礎部18から遠ざかり、車輪支持部14aと基礎部18との間の距離が大きくなる。次いで、図66に示すように、一方の案内部16aは、仮想基準線4と平行な中立位置から、移動装置10vの進行方向前方に振れた後、仮想基準線4と平行な中立位置に戻る。このとき、一方の案内部16aによって案内される車輪支持部14aは、基礎部18に近づき、車輪支持部14aと基礎部18との間の距離が小さくなる。
図65に示すように、他方の案内部16bは、仮想基準線4と平行な中立位置から、移動装置10vの進行方向前方に振れた後、仮想基準線4と平行な中立位置に戻る。このとき、他方の案内部16bによって案内される車輪支持部14bは、基礎部18に近づき、車輪支持部14bと基礎部18との間の距離が小さくなる。次いで、図66に示すように、他方の案内部16bは、仮想基準線4と平行な中立位置から、移動装置10vの進行方向後方に振れた後、仮想基準線4と平行な中立位置に戻る。このとき、他方の案内部16bによって案内される車輪支持部14bは、基礎部18から遠ざかり、車輪支持部14bと基礎部18との間の距離が大きくなる。
<変形例1> 図67は移動装置50m,50nの略図である。図67に示すように、案内部16a,16bが交わらずに互いに離れていてもよい。この場合、図67(a)に示すように、案内部16a,16b同士が互いに平行でも、図67(b)に示すように、互いに非平行でも構わない。
<変形例2> 図68は移動装置の略図である。実施例4-1では、図61において矢印13a,13b,15で示すように、2つの車輪12a,12bの両方を回転駆動し、2つの車輪支持部14a,14bのうち一方14bのみを駆動する。これに対し、変形例2では、図68において矢印13b,15a,15bで示すように、2つの車輪12a,12bのうち一方のみ12bを回転駆動し、2つの車輪支持部14a,14bの両方を駆動する。
この場合、回転駆動しない車輪12aを支持する車輪支持部14aは、案内部16aに対する車輪支持部14aの移動が、図61のように車輪12aを回転した場合と同じになるように駆動し、車輪12bは図61の場合と同じように回転駆動し、この回転駆動する車輪12bを支持する車輪支持部14bは、案内部16bに対する車輪支持部14bの移動が、図61のように車輪12bを回転した場合と同じになるように駆動すると、各部は、図61の場合と同じ動きをする。
<変形例3> 2つの車輪12a,12bの回転と2つの車輪支持部14a,14bの移動の合計4箇所を駆動してもよい。この場合、追加した1箇所は、3箇所を駆動し追加した1箇所は駆動しない場合と同じ速度となるように駆動すれば、基礎部は、3箇所を駆動し追加した1箇所を駆動しない場合と同じ運動をする。
<実施例5> 3組以上の車輪、車輪支持部、及び案内部を備える構成において、車輪支持部を動かす実施例5について説明する。
図69及び図70は移動装置の動きの説明図である。図69に示すように、前述した実施例1-2と同様に3つの案内部16a~16cがΔ字状に結合され、●記号が付された2つの車輪支持部14a,14cに支持された車輪12a,12cが接地面上で停止しており、車輪12a,12cの向きは変わり得るが、車輪12a,12cの位置は変わらないとする。残り1つの車輪12bの動きに注目し、その車輪12bを回転駆動する場合と、その車輪12bを支持する車輪支持部14bが案内部16bに沿って移動するように、車輪支持部14bを駆動する場合と、を考える。
図69(a-1)に示すように、注目する車輪12bを回転駆動すると、車輪12bは矢印13bで示した進行方向に、回転しながら移動する。同時に、この車輪12bを支持している車輪支持部14bが案内部16bに沿って移動し、案内部16bの一方端に近づく。このとき、三角形状に互いに結合されている案内部16a~16cは車輪支持部14a,14cによって位置が拘束されるため、図69(a-2)に示すように、車輪12a~12c、車輪支持部14a~14c、及び案内部16a~16c全体が回転する。
一方、図69(b-1)に示すように、車輪支持部14bが案内部16bに沿って移動するように車輪支持部14bを駆動すると、車輪支持部14bが支持する車輪12bは駆動力の反力を受ける。このとき、車輪12bは、車輪12bの回転中心線と平行な方向には移動できないが、車輪12bの回転中心線と垂直な方向には、回転しながら移動する。このとき、三角形状に互いに結合されている案内部16a~16cは車輪支持部14a,14cによって位置が拘束されるため、図69(b-2)に示すように、図69(a-2)と同様に、車輪12a~12c、車輪支持部14a~14c、及び案内部16a~16c全体が回転する。
図69(a-3)及び図69(b-3)に示すように、これら2つの駆動法の移動前後の様子を重ねて比較すると、車輪支持部14bや基礎部18aは同じ動きをする。このように、車輪12bを回転駆動しても、車輪支持部14bを駆動しても、車輪12a~12c、車輪支持部14a~14c、及び案内部16a~16c全体が同じ運動をする。
このように、車輪12bを回転駆動しても、車輪支持部14bを駆動しても、同じ運動を実現できる。すべての車輪12a~12cが動く場合でも同じことが言える。さらに、3つの車輪12a~12cのいずれについても、車輪12a~12cを回転駆動しても、車輪支持部14a~14cを駆動しても、車輪12a~12c、車輪支持部14a~14c、及び案内部16a~16c全体の運動は変わらない。
この関係を図示すると図70のようになる。すなわち、図70(a)において矢印13a~13cで示すように、車輪12a~12cを回転駆動しても、図70(b)において矢印15a~15cで示すように車輪支持部14a~14cを駆動して、すなわち、案内部16a~16cに対して車輪支持部14a~14cを相対移動させても、車輪12a~12c、車輪支持部14a~14c、及び案内部16a~16c全体の運動を代表する基礎部が同じ動きをするとき、各部12a~12c;14a~14c;16a~16cも同じ動きをする。
つまり、3組の車輪12a~12c、車輪支持部14a~14c、案内部16a~16cのそれぞれの組12a,14a,16a;12b,14b,16b;12c,14c,16cにおいて、車輪12a~12cの回転駆動の代わりに、車輪支持部14a~14cを駆動しても、同じ運動を実現できる。
例えば、回転駆動していた3つの車輪のうち1つを受動回転にし、その車輪を支持する車輪支持部の移動を能動的に駆動する場合、駆動する車輪支持部の速度は式(20)を時間微分した式から求めることができる。
なお、その車輪支持部の移動速度は、基礎部の並進速度と回転角速度が同じなら、上で説明した3つの車輪を回転駆動するときに受動的に生じる車輪支持部の移動の速度と同じである。また、受動回転とする車輪に生じる回転角速度は、式(19)で与えられる能動的に駆動するときの回転角速度と同じ速度で回転する。つまり、能動的に駆動する部分を取り替えても、基礎部の運動は変わらない。
実施例4のように2組の車輪、車輪支持部、及び案内部を備え、車輪の回転を受動とし車輪支持部の移動を駆動する場合や、実施例1、実施例2、実施例3のように3組の車輪、車輪支持部、及び案内部を備え、3組すべてについて車輪の回転を受動、車輪支持部を駆動する場合でも、同様の方法で基礎部を運動させることができる。
なお、車輪と車輪支持部のうち駆動する部分は、上記のように少なくとも3箇所あればよく、4箇所以上を駆動しても問題はない。例えば、3つの車輪の回転と1つの車輪支持部の移動を駆動する場合でも、2つの車輪の回転と2つの車輪支持部の移動を駆動する場合でも、1つの車輪の回転と3つの車輪支持部の移動を駆動する場合でも、3つの車輪の回転と2つの車輪支持部の移動を駆動する場合でも、2つの車輪の回転と3つの車輪支持部の移動を駆動する場合でも、3つの車輪の回転と3つの車輪支持部の移動を駆動する場合でも、駆動する各部を適切な速度で駆動すれば、同様に運動が可能である。また、車輪支持部が4個以上ある場合でも同様である。
実施例3のように、案内部の相対位置が可変である場合も、車輪を回転駆動する代わりに、車輪支持部が案内部に沿って移動するように車輪支持部を駆動することができる。
案内部の相対位置が可変である場合、車輪を回転駆動しても、車輪支持部を駆動しても、運動学方程式は同じになるので、車輪支持部を駆動する場合は、車輪支持部の速度を指令値として与えることによって、車輪の回転速度が従属して変化する。
<まとめ> 以上に説明したように、即座に任意の方向に移動することができる移動装置を、普通の車輪を用いて構成することができる。
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変更を加えて実施することが可能である。
以上に説明した構成に、他の構成を追加してもよい。例えば、車輪や車輪支持部にブレーキを設けてもよい。車輪、車輪支持部、案内部の個数を増やしてもよい。第1の駆動部によって回転駆動する車輪や、第2の駆動部によって案内部に対して動かす車輪支持部を増やしてもよい。