以下、場合により図面を参照しつつ、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一又は対応する符号を付し、重複する説明は省略する。なお、各図における寸法比は、説明のため誇張している部分があり、必ずしも実際の寸法比とは一致しない。
[方法]
本発明は、1実施形態において、被験物質の細胞毒性を評価する方法であって、被験物質の存在下及び非存在下で細胞を培養する工程と、被験物質の存在下の細胞を撮像し、第1の画像を得る工程と、被験物質の非存在下の細胞を撮像し、第2の画像を得る工程と、第1の画像及び第2の画像を比較して、被験物質が細胞毒性を有するか否かを判定する工程と、を含み、第1の画像及び第2の画像が定量位相イメージングにより生成した定量位相画像である、方法を提供する。
被験物質としては、天然化合物、合成化合物等が挙げられるが、これに限定されない。
被験物質に曝露する細胞としては、特に限定されず、細菌等の原核生物の細胞;動物、植物、菌類、原生生物等の真核生物に分類される生物種の細胞;株化された細胞、人為的に操作された細胞等が挙げられる。被験物質の細胞への曝露は、in vivo曝露でもin vitro曝露であってもよいが、以下詳述されるように、試験管内で扱われる細胞や、生体から取り出された初代培養細胞などが好適に利用される。細胞は、スライドグラスや、12ウェルプレート、96ウェルプレートで培養されたものでもよいが、これらに限定されない。オーガンチップ(Organ-on-Chip)上で培養された細胞などでもよい。一般的に、オーガンチップとは、人体の臓器の機能の一部を模倣したデバイスで、薬剤スクリーニングや、薬剤の評価に利用されている。
本実施形態において、第1の画像は、被験物質の存在下の細胞を対象として定量位相イメージングによって撮像される。また、第2の画像は、被験物質の非存在下の細胞を対象として定量位相イメージングによって撮像される。
定量位相イメージングは、後述する干渉方式の定量位相イメージングであってもよいし、後述する非干渉方式の定量位相イメージングであってもよい。
干渉方式の定量位相イメージングは、以下に示すような方法であってもよい。非干渉方式の定量位相イメージングにおいては、コヒーレント光源から射出された光ビームが、例えばビームスプリッタ等により、物体光と、参照光とに分割される。
コヒーレント光源から射出される光ビームは、レーザービームであっても良い。レーザービームは、例えば、波長633nmのHe-Neレーザー等であってもよく、どのような種類のレーザー源であってもよい。
物体光は細胞等の生体サンプルに照射される。これに対し、参照光は、生体サンプルを通過せずに、例えばミラーや光ファイバー等の参照光学系を通る。
細胞等の生体サンプルを通過する前の、物体光の波面は既知である。物体光が透明な生体サンプルを通過するとき、生体は実質的に光を吸収しない。この生体サンプルを通過する光の光路によって、光路長に差が生じる。
生体サンプルを通過した物体光の波面の位相はシフトする。この光路長は、物理的/幾何学的厚さに屈折率を乗じて決まる。
生体サンプルを通過した物体光と、参照光とは、ビームスプリッタ等の光学素子によって重ね合わせられて干渉光を生成する。この干渉光の干渉縞を検出および解析することによって、例えば、生体サンプル物体光の情報を得ることができる。
この干渉縞は、CCDやCMOSなどのデジタルセンサによって検出される。検出された干渉縞は、ホログラムと呼ばれる。
上述の干渉縞を検出するために、例えばフーリエセットアップや、フレネルセットアップを使用することができる。フレネルセットアップが好ましく使用される。
検出した干渉縞から、生体サンプルを通過した波面の位相、振幅等の情報が再構築される。この再構築は、通常の再構築プロセスによって行われる。振幅情報を用いて、生体サンプルを通過した波面の焦点面を設定することができる。
再構築情報は、例えば、生体サンプルの2次元あるいは3次元画像を得るために使用することができる。この情報に基づいて、例えば、生体サンプルの形状と光学密度を決定することができる。
非干渉方式の定量位相イメージングは、以下に示すような方法であってもよい。
以下では、適宜図面を参照しながら、1実施形態の定量位相画像生成装置、定量位相画像生成方法、およびプログラム等について説明する。本実施形態の定量位相画像生成装置は、対象物における間隔Δz離れた複数の位置のそれぞれに、対物レンズの焦点(つまり、合焦面)を配置しつつ照明光を照射し、焦点が配置されたそれぞれの領域(つまり、それぞれの合焦面)からの光を検出し、当該検出により取得したデータに基づいて定量位相画像を作成するものであり、対物レンズの光軸方向に設定される当該間隔Δzは、対物レンズの開口数、照明光の波長および対物レンズと対象物の間の屈折率などに基づいて設定する。
図1は、本実施形態の定量位相画像生成装置の構成を示す概念図である。定量位相画像生成装置1は、顕微鏡、すなわち定量位相顕微鏡であり、顕微鏡100と、情報処理部40とを備える。顕微鏡100は、対象物Sに照明光を照射する透過照明光学系10と、ステージ8と、結像光学系7と、落射照明光学系110と、検出部9とを備える。結像光学系7は、対物光学系20と、フィルターキューブ120と、リレー光学系30とを備える。
なお、情報処理部40の機能は顕微鏡100から物理的に離れたPCやサーバなどの電子計算機等に配置してもよい。
透過照明光学系10は、光源11と、レンズ12と、バンドパスフィルター13と、視野絞り14と、レンズ15と、開口絞り16と、集光レンズ17とを備える。対物光学系20は、複数の対物レンズ21を備える。対物レンズ21としては、対物レンズ21a,21b,および21cの複数の対物レンズがターレット等により保持されており、いずれかを適宜選択して使用する。リレー光学系30は、結像レンズ31と、ビームスプリッタ32と、ミラー33a,33b,および33cと、レンズ34a,34b,34cと、接眼レンズ35とを備える。接眼レンズ35はユーザの眼Eを近づけて覗き込むことができるように構成されている。
なお、交換可能な対物レンズ21の数は特に限定されない。また、顕微鏡100に含まれる光学系の態様は、対象物Sの所望の面の画像を取得することができれば特に限定されない。
図1において、顕微鏡100の光学系の光軸を一点鎖線L1で示し、光源11からの照明光(光束)を二点鎖線L2で模式的に示した。対物レンズ21のうち、対象物Sの観察に使用されている対物レンズを対物レンズ21aとすると、後に詳述する対物レンズ21aの光軸Loは、顕微鏡100の光軸L1と一致しているため、これを図1においてL1(Lo)と示した。検出部9で検出された光の検出信号は、実線矢印A1で示されるように、情報処理部40に出力される。また、情報処理部40は顕微鏡100を制御するが、その制御を実線矢印A2で模式的に示した。一点鎖線L1,L2、実線矢印A1,A2は以下の実施形態でも同様のものを示す。
光源11は、ハロゲンランプ等の非コヒーレント光源を含み、情報処理部40による制御のもと、対象物Sに照射する照明光L2として非コヒーレント光を出射する。本実施形態の透過照明光学系10では、光源11から出射された非コヒーレント光が、後述する開口絞り16を含む各光学部材により、位相復元が可能な光軸に略垂直な波面を有する光とされて対象物Sに照射される構成となっている。「位相復元」とは、後に詳述するが、検出部9により計測した対象物Sからの光の強度から、強度輸送方程式を用いて対象物Sの構造を反映した位相値を算出することである。照明光L2は、対象物Sの構造を反映した位相の計測が可能であればどのような波長の光でも構わないが、可視光で見えづらい対象物の構造を反映した位相の計測により可視化できる観点では、そのまま可視光を使用することが簡素で好ましい。
なお、対象物Sに照射する照明光L2は、可視光でなくてもよく、紫外光や赤外光であってもよい。さらに、照明光L2の波面は光軸に略垂直でなくとも、波面の形状が既知であればよく、例えば、照明光L2の波面は略球面であってもよい。また、光源11は、パルスレーザや連続発振(CW)レーザなどのコヒーレント光源を含み、照明光L2としてコヒーレント光を出射してもよい。
光源11から出射した照明光L2は、レンズ12に入射する。レンズ12に入射した照明光L2は、レンズ12により屈折され略平行な光となってレンズ12を出射し、バンドパスフィルター13に入射する。バンドパスフィルター13に入射した照明光L2は、所望の波長範囲の波長成分の光のみがバンドパスフィルター13により透過されて、視野絞り14に入射する。ここで、バンドパスフィルター13により透過される光の波長範囲は、軸上色収差によって発生する、位相を復元する際の、位相の実測値と実際の位相との誤差(後述の位相復元誤差)が大きくなり過ぎないように適宜設定される。バンドパスフィルター13は透過照明光学系10の光路に挿脱可能に構成されており、情報処理部40の制御のもと、適宜光路外の位置P1に退避可能に構成される。バンドパスフィルター13を透過照明光学系10の光路に挿脱するバンドパスフィルター駆動部は、簡略化のため、図示を省略している。なお、バンドパスフィルター駆動部は必ずしも必要な構成でなく、例えば、ユーザが手動で、バンドパスフィルター13を透過照明光学系10の光路に挿脱してもよい。
なお、光源11としてレーザ光等の波長範囲が狭い光源を用いる際は、バンドパスフィルター13を光路に配置する必要は無い。また、バンドパスフィルター13は用いずに、対象物Sに対して結像側に配置されたフィルターキューブ120のフィルターにより、検出部9で検出する光の波長範囲を制限してもよい。
視野絞り14に入射した照明光L2は、その光束径が調節されて視野絞り14を出射し、レンズ15に入射する。レンズ15に入射した照明光L2は、レンズ15により収束されてレンズ15を出射し、開口絞り16に入射する。開口絞り16に入射した照明光L2は、その波面が球面状になるように変換され、開口絞り16を出射し、集光レンズ17に入射する。集光レンズ17に入射した照明光L2は、集光レンズ17により屈折され、対象物Sに照射される際に、透過照明光学系10の光軸L1に略垂直な波面を有する光となり、対象物Sに照射される。
対象物Sは、ステージ8上に配置される。対象物Sは、特に限定されないが、照明光L2が対象物Sに照射され透過する際に、振幅の変化の割合が比較的小さく、一方、位相の変化の割合が大きい場合に、本実施形態に係る位相計測の効果がより顕著に得られるので好ましい。このような物体を位相物体と呼ぶ。対象物Sとしては、上記の観点から、特に透過照明光L2を著しく吸収しない、単層の培養細胞等の細胞のような位相物体が好ましい。
ステージ8は、対物レンズ21aの光軸、および当該光軸に垂直な軸に沿って移動可能に構成されている。ここで、対物レンズ21aの光軸とは、対物レンズ21aの対象物S側のレンズ面の光学中心と対物レンズ21aの焦点を通る直線で示される軸Lo(図5参照)を指す。ステージ8は、モータ等の移動装置による電動駆動により、対象物Sを撮像する際に、対物レンズ21aの光軸Loに沿った移動が可能に構成されている。図5では、対物レンズ21aの光軸Loが、顕微鏡100の光軸L1と一致している点を、Lo(L1)と示した。以下の実施形態では、図1に座標軸900として示すように、顕微鏡100の光軸L1、すなわち対物レンズ21aの光軸Loに平行にz軸をとり、z軸に垂直であって紙面に平行にx軸を取り、x軸及びz軸に垂直にy軸をとる。情報処理部40は、図示しないステージ駆動部を駆動して、対象物Sにおける観察対象部分またはその近傍に、透過照明光学系10および対物レンズ21aの光軸が一致するようにステージ8を移動する。
対物光学系20は、対物レンズ21を含んで構成される。本実施形態では、対物レンズ21としては、複数の対物レンズ21a,21b,21cを備える。後述するように、定量位相画像生成装置1では、開口数NA等の異なる対物レンズ21a,21b,および21cを交換して対象物Sを撮像して、それぞれの対物レンズ21により得たデータに基づいて位相計測を行う際、位相を復元する空間周波数を示すパラメータkを揃える事で、得られる位相値のばらつきを抑制するように構成されている。対物レンズ21を変更した際に計測される位相値の変化が大きいと、異なる対物レンズ21を用いて取得したデータの間の比較が難しくなる。また、異なる対物レンズ21を用いて取得したデータのうち、どの対物レンズ21を用いて取得したデータが位相を復元する際の精度が高いのか判断が難しい等の理由により、一連の測定に係る作業に負担が生じる。
落射照明光学系110は、水銀ランプ等の光源111や、フィルターキューブ120等を含んで構成され、蛍光観察等のための励起光を出射する。光源111から出射した光は、フィルターキューブ120に入射する。
フィルターキューブ120は、励起フィルター121と、ダイクロイックミラー122と、吸収フィルター123とを含んで構成され、光源111から入射した光のうち、所定波長の光を励起光として対象物Sへと反射する一方、対象物Sから発せられる蛍光をリレー光学系30へと透過させる。フィルターキューブ120は、落射光学系110の光路に挿脱可能に構成されており、情報処理部40の制御のもと、光路外の位置P2に適宜退避できるように構成されている。フィルターキューブ120を落射光学系110の光路に挿脱するフィルターキューブ駆動部は、簡略化のため、図示を省略している。なお、フィルターキューブ駆動部は必ずしも必要な構成でなく、例えば、ユーザが手動で、フィルターキューブ120を落射光学系110の光路に挿脱してもよい。
励起フィルター121は、落射照明光学系110から入射した光のうち、所定の波長範囲の光を励起光として透過する。励起フィルター121の透過波長領域は、ダイクロイックフィルター122の反射波長領域に一致する。ダイクロイックフィルター122は、励起フィルター121を透過した励起光を対象物Sに向けて反射し、対物レンズ21aから入射した対象物Sからの蛍光を吸収フィルター123へと透過する。吸収フィルター123は、ダイクロイックフィルター122から入射した光のうち、対象物Sや光学系からの不要な散乱光や迷光を吸収し、必要な光、すなわち、対象物Sからの蛍光のみをリレー光学系30の結像レンズ31に出射する。
リレー光学系30の結像レンズ31は、フィルターキューブ120から入射した光を検出部9に結像するように屈折させてビームスプリッタ32に出射する。ビームスプリッタ32は、フィルターキューブ120から入射した光の一部を検出部9へと反射し、残りは透過させてミラー33aに出射する。ミラー33aで反射した光は、レンズ34a、ミラー33b、レンズ34b、レンズ34cおよびミラー33cの順で、ミラーでの反射またはレンズでの屈折を経て接眼レンズ35に入射する。接眼レンズ35に入射した光は接眼レンズ35により屈折されてユーザの眼Eに入射して知覚される。
検出部9は、CCDやCMOS等の撮像素子の検出器を含んで構成され、リレー光学系30のビームスプリッタ32により反射された光を検出する。固体撮像素子の例として、二次元センサや、リニアセンサなどが使用される。本実施形態では、二次元センサを用いている。検出した光に対応する検出信号は不図示のA/D変換器等により適宜A/D変換されて情報処理部40に出力される。言い換えると、検出部9は、対象物9の像を撮像する。 なお、定量位相画像生成装置1では、対象物Sの構造を反映した位相の計測に際し、検出部9が、透過照明光学系10からの照明光L2が照射された対象物Sの像を撮像する構成にしたが、落射照明光学系110からの照明光が照射された対象物Sの像を撮像する構成にしてもよい。この場合、落射照明光学系110からの照明光は、対物レンズ21a(対物光学系20)を介して対象物Sに照射され、対象物Sで反射または散乱した光に基づく対象物Sの像を検出部9で撮像する。
図2は、情報処理部40の構成を示した図である。情報処理部40は、入力部41と、表示部42と、通信部43と、記憶部44と、制御部50とを備える。制御部50は、装置制御部51と、解析部52とを備える。これらはバス等により接続されているが、簡略化のため省略している。装置制御部51は、最適条件計算部511を備える。解析部52は、位相復元処理部521と、画像構築部522と、画像解析部523とを備える。
入力部41は、キーボード、マウスおよび/またはタッチパネル等の入力装置により構成され、顕微鏡100による対象物Sの撮像や解析部52による当該撮像により得られたデータの解析に必要な情報等を含む入力データを受け付ける。入力部41は、受け付けた入力データを、後述の記憶部44に適宜記憶させる。
なお、入力データは、後述の通信部43を介して取得してもよい。
表示部42は、液晶モニタ等の表示装置により構成され、顕微鏡100による撮像の条件、当該撮像により得られたデータに基づいて解析部52が生成した解析結果および定量位相画像等を表示する。
通信部43は、インターネット等の通信網を利用して通信を行う通信装置により構成され、顕微鏡100による撮像の条件、当該撮像により得られたデータに基づいて解析部52が生成した解析結果および定量位相画像等を送信したり、適宜必要なデータを送受信したりする。
記憶部44は、不揮発性メモリ等の記憶装置により構成され、制御部50に処理を行わせるプログラム、顕微鏡本体部100による撮像に必要なデータ、当該撮像により得られたデータおよび当該データに基づいて解析部52が生成した解析結果および定量位相画像等を記憶する。
制御部50は、CPU等のマイクロプロセッサ等を含むプロセッサにより構成され、定量位相画像生成装置1を制御する動作の主体として機能する。すなわち、記憶部44等に搭載されているプログラムを実行することにより、顕微鏡100による対象物Sの撮像を行う装置制御処理、当該撮像により得られたデータの位相復元処理等の解析処理、および出力処理等の各種処理を行う。
制御部50の装置制御部51は、ユーザにより入力された入力データに基づいて顕微鏡本体部100による対象物Sの撮像に必要なパラメータを適宜算出するとともに、取得した当該パラメータおよび入力データ等に基づいて顕微鏡100の各部の動作を制御する。
最適条件計算部511は、顕微鏡100が対象物Sにおける複数の位置のそれぞれに対物レンズ21aの焦点を順次配置して検出部9により対象物Sからの光を検出する際に設定するための、当該複数の位置の間隔Δzを算出する。対物レンズ21aの光軸L1に沿って設定されるこの間隔Δzを焦点間隔と呼ぶ。焦点間隔Δzは、精度よく位相計測を行うためのパラメータである。以下、この点に関し、強度輸送方程式を利用した位相計測の方法に基づいて説明する。
図3は、位相物体を透過した光の波面が変化する点を説明するための概念図である。対象物Sを通過後の波面の振幅変化は無視できても、波面が伝搬するに従って、強度分布は不均一になる。対象物Sは、細胞等の位相物体であり、対象物Sには、波面W1,W2,W3により模式的に示されているように、互いに平行で、透過照明光学系10の光軸L0に略垂直な波面を有する平面波が照射されている。平面波の進行方向は矢印A3で示した。対象物Sを透過した光は、振幅は大きく変化しないものの、位相が変化することにより、等位相面、すなわち波面が変化する(波面W4)。ホイヘンス=フレネルの原理で、曲線状の波面を構成する光は、実線矢印A4で示されるように計測面i1に到達する。ここで、後に詳述するように、一例として対物レンズ21aの焦点が配置される対象物Sにおける特定の面(言い換えると、対物レンズ21aの合焦面)を計測面i1と称する。計測面i1は、対物レンズ21aの光軸に実質的に垂直な面である。図3では、計測面i1は平面波の波面W1~W3と実質的に平行である。計測面i1上では、上述のように対象物Sによる波面の変化に伴い所定の光の強度分布(以下、光強度分布と呼ぶ)が形成される。対象物Sによる透過光の位相の変化と光強度分布との関係に基づいて、透過光の強度を解析することにより、位相の変化を計測する方法が提案されている。本実施形態では、以下に説明する強度輸送方程式を用いた方法を利用する。
伝播する波動における、強度Iと位相φの関係は、強度輸送方程式により記述される。強度輸送方程式は、以下の式(1)および(2)による連立方程式である。詳細は、Paganin D and Nugent KA, “Noninterferometric Phase Imaging with Partially Coherent Light,” Physical Review Letters, Volume 80, pp.2586-2589を参照されたい。なお、この文献は、特段の定めのない限り、参照としてここに組み込まれる。
ここで、∇の添字であるxyは、XY平面(光の伝搬方向に垂直な平面、すなわち本実施形態ではz軸(光軸L1(L0))に垂直な平面)を示す。すなわち、式(2)の左辺に現れる∇xyφは、XY平面における位相φの勾配(gradient)を示す。式(1)の左辺と式(2)の右辺に現れるΦは、式(1)をポアソン方程式の形にして計算しやすいように導入された関数であり、検出したXY平面における強度Iのzに関する微分係数の分布を得て、ポアソン方程式(1)を解くことにより導出できる。式(1)を解いて得た関数Φと光強度分布から、式(2)を解いて位相分布φを算出することができる。
図4は、位相分布φの算出のために行う対象物Sからの光の検出方法を説明するための図である。まず、対象物Sの計測面i1における光強度分布および計測面i1におけるzに関する微分係数分布を得る必要がある。このため、装置制御部51は、図4で示すように、対物レンズ21aの焦点が所望の計測面i1に含まれるように設定して、結像光学系7、具体的には、対物レンズ21およびレンズ31により検出部9の検出面に対象物9の像を結像させて対象物Sからの光を検出部9に検出させる。検出部9の各画素からの検出信号は、制御部50(図2)に入力され、位相復元処理部521により各画素の位置と、各画素で検出された光強度とが対応付けられた光強度分布データが生成される。
光強度分布データは、ある座標zの値に対応する計測面上での座標(x、y)の位置に対応する、検出部9における各画素で検出された光の強度分布を表すデータである。光強度分布データは、当該座標x、y、zの値に対応する光強度を示すデータであり、ルックアップテーブルの形式で構築されている。例えば、あるzの値に対応する計測面上での光強度分布を色または階調で区別して二次元にマッピングすることにより、当該zの位置における光の強度分布を示す画像(以下、光強度画像)を作成することができる。
なお、所定の座標x、y、zの値に対応する光強度の値を取り出すことができれば、光強度分布データのデータ構造は特に限定されず、他の既存のデータ構造であってもよい。
計測面i1の位置(言い換えると、対物レンズ21aの焦点位置)は、検出部9により検出される対象物Sからの光の光強度のコントラストに基づいた位置に設定されることが好ましい。ここで、検出部9により検出される対象物Sからの光の光強度のコントラストは、例えば、対象物Sが培養細胞の場合、細胞が存在する領域で検出される輝度値と、細胞が存在しない領域で検出される輝度値との信号の比を意味する。コントラスト値の一例として、シグマデルタ法で算出される値、すなわち、撮影された画像についてそれぞれ隣り合う画素値の差分の和であり一義的に決まる値などを使用してもよい。装置制御部51は、事前に(本実施形態に係る位相計測の前に)取得した対象物Sの三次元の光強度分布データから算出したパラメータ(以下に示す分散vz等の対象物Sからの光の光強度のコントラストを示すパラメータ)に基づいて、計測面i1の位置を設定することができる。上記三次元の光強度分布データを事前に撮像により取得する場合、この光強度分布データの取得のための撮像の際の対象物Sにおける焦点の位置は特に限定されず、適宜設定すればよい。
装置制御部51は、事前に取得した三次元の光強度分布データについて、各zの値に対応した、x方向およびy方向についての二次元の光強度分布をIz(x、y)としたとき、各zの値に対応する光強度分布の分散値vzを以下の式(11)により算出する。
ここで、Nxは事前に取得した光強度分布データのx方向のピクセル数、Nyは事前に取得した光強度分布データのy方向のピクセル数、Izの上にバーが示されたものは各zの値に対応する、当該光強度分布データ上の全ての(x,y)についてのIz(x,y)の算術平均等の平均値である。装置制御部51は、算出した各zの値に対応する分散vzに基づいて計測面i1の位置、すなわち、対物レンズ21aの焦点位置を設定する。例えば、装置制御部51は、算出した分散vzのうち、極小となる分散vzに対応するz方向の位置に計測面i1の位置を設定する。言い換えると、装置制御部51は、計測面i1の位置をコントラストが低い光強度分布データに対応するzの値に設置する。
装置制御部51は、最適条件計算部511が算出した焦点間隔Δzに基づいて、対物レンズ21aの焦点位置が、計測面i1上の位置からz軸に沿って-Δzおよび+Δzの距離ずれたそれぞれの位置となるように計測面i2およびi3上に当該焦点位置を順次設定する。焦点間隔Δzの具体的な値の決定方法は後述する。装置制御部51は、これらの計測面i2およびi3にそれぞれ対物レンズ21aの焦点を配置した際に、結像光学系7により検出部9の検出面に対象物Sの像を結像させて対象物Sからの光を検出部9に検出させる。計測面i2およびi3に対物レンズ21aの焦点を配置したそれぞれの場合に対応する検出部9の各画素からの検出信号は、制御部50(図2)に入力され、位相復元処理部521により各画素の位置と検出信号に基づいた光強度とが対応付けられた光強度分布データがそれぞれ生成される。なお、計測面i1~i3上に配置される、それぞれの対物レンズ21aの焦点の位置は、それぞれ計測面i1~i3上に存在すれば、XY平面上の位置は特に限定されない。
生成された計測面i2と計測面i3のそれぞれの計測面に対応するそれぞれの光強度分布データは、計測面i1における光強度のzに関する微分係数を算出するのに用いられる。位相復元処理部521は、計測面i2上の点および計測面i3上の点であって、XY平面上での座標が同じ位置等の互いに対応する位置にある2点の強度の値の差分を、計測面i2およびi3の間の距離である2Δzで割ることにより、計測面i1における光強度のzに関する微分係数に相当するdI/dz=(I3-I2)/2Δzを算出する。位相復元処理部521は、算出された光強度のzに関する微分係数分布に対応するデータ(以下、微分係数分布データと呼ぶ)を適宜記憶部44等に記憶させる。微分係数分布データは、座標x、y、zの値に対応する光強度のzに関する微分係数の分布を示すデータであり、ルックアップテーブルの形式で構築されている。
なお、所定の座標x、y、zの値に対応するzに関する微分係数の値を取り出すことができれば、微分係数分布データのデータ構造は特に限定されず、他の既存のデータ構造であってもよい。
図5は、対象物Sを撮像する際の対物レンズ21aの焦点と計測面i1~i3の配置例を示す。図5では、ステージ8上に対象物Sが載置されている。図5では、対物レンズ21aの光軸Loに平行にz軸が設定され、対象物Sから対物レンズ21aへ向かう向きをz軸の+の向きとしている。また、焦点位置Fから対物レンズ21aに入射する光の光束を二点鎖線L200で模式的に示した。図5では、対物レンズ21aの焦点位置Fをz=z0とし、z=z0の点を含んでz軸に垂直な面を計測面i1として示している。
装置制御部51は、モータ等の移動装置を介して電動駆動することによりステージ8を移動させ、計測面i1,i2,i3上にそれぞれ対物レンズ21aの焦点位置を設定する。装置制御部51は、対物レンズ21aの光軸Loに沿って互いに焦点間隔Δz離れた複数の位置のそれぞれに対物レンズ21aの焦点を順次配置する。ここで、「対物レンズ21aの光軸Loに沿って互いに焦点間隔Δz離れた複数の位置」とは、当該複数の位置を対物レンズ21aの光軸Loに射影した際に、互いにΔzの距離離れる複数の位置を指す。また、対物レンズ21aは結像光学系7においてステージ8側にあるため、対物レンズ21aの焦点位置Fは対物光学系20または結像光学系7の焦点位置と言い換えることもできる。
装置制御部51の最適条件計算部511は、本実施形態における顕微鏡本体部100の設定情報と、後に詳述するパラメータkとを用い、焦点間隔Δzを以下の式(100)により算出する。ここで、顕微鏡100の設定情報とは、定量位相画像の生成のために顕微鏡100に設定される情報であり、例えば、対物レンズ21aの開口数、照明光L2の波長、対物レンズ21aと対象物Sとの間で使用される浸液の屈折率情報である。
ここで、λは照明光L2の波長であり、入力部41へのユーザの入力等に基づいて装置制御部51が設定する。nは対物レンズ21aと対象物Sとの間の屈折率であり、入力部41へのユーザの入力等に基づいて装置制御部51が設定する。装置制御部51は、対物レンズ21aが乾燥対物レンズの場合、対物レンズ21aと対象物Sとの間の雰囲気は空気であるため、空気の屈折率として例えばn=1.00に設定する。一方、対物レンズ21aが液浸対物レンズの場合、装置制御部51は、対物レンズ21aと対象物Sとの間に満たされる浸液の屈折率を屈折率nとして設定する。NAは対物レンズ21aの開口数であり、入力部41へのユーザの入力等に基づいて装置制御部51が設定する。そして、最適条件計算部511は、顕微鏡100の設定情報に基づいて、焦点間隔Δzを算出する。具体的には、最適条件計算部511は、式(100)に示されたように、対物レンズ21aの開口数NA、照明光L2の波長λ、および対物レンズ21aと対象物Sとの間の屈折率nの情報に基づいて焦点間隔Δzを算出する。
また、パラメータkは1以上の値であり、式(100)において、k=1の場合には、対物レンズ21aの性能を最大限に生かす遮断空間周波数まで、強度輸送方程式により位相復元を行うことができる。kの値が1より大きくなるに従って、強度輸送方程式により位相復元を行うことができる空間周波数は低くなる。以下では、パラメータkを位相復元パラメータと呼ぶ。
なお、対象物Sの構造を反映した位相値と測定した位相値との差を位相復元誤差と称する。高い空間周波数で位相を復元すると、基本的に位相復元誤差が小さくなる。位相復元誤差が小さい場合には、実際の位相値により近い位相を(つまり、より高精度に位相を)復元することになるので、位相を復元する際の精度(位相復元精度と称する)が高いと言うことができる。
最適条件計算部511は、位相復元パラメータkを、25以下に設定することが好ましく、16以下に設定することがより好ましい。位相復元パラメータkが大きくなると、上記の通り、位相復元可能な空間周波数が低くなる。k=25の場合における焦点間隔Δzを採用した場合では、対物レンズ21aの遮断空間周波数の5分の1の空間周波数まで復元することに相当する性能となる。また、k=16の場合における焦点間隔Δzを採用した場合では、対物レンズ21aの遮断空間周波数の4分の1の空間周波数まで復元することに相当する性能となる。可視光での数μm~数百μm程度の大きさの細胞等の対象物S(位相物体)の観察では、位相復元パラメータkは25以下の比較的大きい値に設定すると細胞全体を検出する上で好ましく、パラメータkが16以下だと、核等の細胞内の比較的大きい構造物を検出しやすくなるためさらに好ましい。
なお、上記の例においては、対物レンズ21aの遮断空間周波数の5分の1や4分の1の空間周波数まで復元することに相当するようにパラメータkの値を決定したが、パラメータkの値はこれらの値に限られることはなく、対象物Sの構造を反映した位相の計測に必要な分解能に応じて設定すればよい。
最適条件計算部511が、照明光L2の波長λが340nm、400nm、550nm、700nmおよび1300nmにおける焦点間隔Δzを、位相復元パラメータkを1~16の範囲として式(100)に基づいて設定する場合の数値範囲の例を以下の表1に示す。
本実施形態に係る被験物質の細胞毒性を評価する方法は、第1の画像を得る工程及び第2の画像を得る工程で、異なる時間において、被験物質の存在下の細胞及び被験物質の非存在下の細胞を複数回撮像し、被験物質が細胞毒性を有するか否か判定する工程は、第1の画像と第2の画像の経時的な変化を比較することを含むものであってもよい。
具体的には、被験物質の存在下で培養した細胞を複数回撮像し、得られた画像を第1の画像とし、被験物質の非存在下で培養した細胞を複数回撮像し、得られた画像を第2の画像とする。細胞毒性を有する被験物質に曝露した場合、第1の画像と第2の画像の経時的な変化は異なる。また、細胞毒性を有しない被験物質に曝露した場合、第1の画像と第2の画像の経時的な変化はほぼ同一である。
すなわち、第1の画像と第2の画像の経時的な変化が異なる場合、被験物質は細胞毒性を有すると判定することができる。また、第1の画像と第2の画像の経時的な変化がほぼ同一である場合、被験物質は細胞毒性を有しないと判定することができる。
被験物質が細胞毒性を有するか否かを判定する工程は、被験物質の存在下の細胞及び被験物質の非存在下の細胞の、面積、体積、真円度若しくは縦横比を測定する工程を含んでもよい。また、細胞が複数個存在する場合には、細胞同士の間の間隙の面積を測定することもできる。
被験物質の存在下の細胞及び被験物質の非存在下の細胞は、Organ-on-Chip内に配置されていてもよい。
図6は、一例として、オーガンチップの一形態の構成を説明する模式断面図である。図7に示すように、オーガンチップ700は、一方面がオーガンチップ700の天井面711となる第1の基板710と、一方面がオーガンチップ700の底面721となる第2の基板720と、第1の基板710と第2の基板720との間に、第1の基板710及び第2の基板720に略平行に配置された多孔膜811と、第1の基板710、第2の基板720及び多孔膜811とを支持する支持体(図示せず)とを有する。第1の基板710と多孔膜811との間の空間は第1の流路740を形成し、第2の基板720と多孔膜811との間の空間は第2の流路750を形成する。多孔膜811のうち、第1の基板710に対向する面上では、細胞Cが培養される。また、第1の流路740には培地820が流される。また、第2の流路750には培地821が流される。培地820又は培地821には試薬等が添加されてもよい。
第1の画像を得る工程及び第2の画像を得る工程は、それぞれ、次のようなものであってもよい。
第1の画像を得る工程は、対物レンズの光軸上に被験物質の存在下の細胞を配置する工程と、被験物質の存在下の細胞に照明光を照射する工程と、対物レンズの光軸に沿って互いに間隔Δz離れた複数の位置のそれぞれに対物レンズの焦点を配置して被験物質の存在下の細胞からの光を検出する工程と、検出した光に基づいて、複数の位置のそれぞれに対応する光強度分布データを生成する工程と、光強度分布データに基づいて、定量位相画像を生成する工程と、を含み、前記間隔Δzは、前記対物レンズの開口数NA、前記照明光の波長λ、及び、前記対物レンズと被験物質の存在下の細胞との間の屈折率nの少なくとも1つに基づいて設定されてもよい。
第2の画像を得る工程は、対物レンズの光軸上に被験物質の非存在下の細胞を配置する工程と、被験物質の非存在下の細胞に照明光を照射する工程と、対物レンズの光軸に沿って互いに間隔Δz離れた複数の位置のそれぞれに対物レンズの焦点を配置して被験物質の非存在下の細胞からの光を検出する工程と、検出した光に基づいて、複数の位置のそれぞれに対応する光強度分布データを生成する工程と、光強度分布データに基づいて、定量位相画像を生成する工程と、を含み、前記間隔Δzは、前記対物レンズの開口数NA、前記照明光の波長λ、及び、前記対物レンズと被験物質の非存在下の細胞との間の屈折率nの少なくとも1つに基づいて設定されてもよい。
また、前記間隔Δzは、更にパラメータkに基づいて設定され、前記kは、生成する前記定量位相画像において位相を復元する空間周波数を示す値であってもよい。
一態様において、前記間隔Δzは、下記式(100)に基づいて設定されてもよい。
[式(100)中、NAは前記対物レンズの開口数を表し、λは前記照明光の波長を表し、nは前記対物レンズと前記細胞との間の屈折率を表し、kは前記定量位相画像の生成において位相を復元する空間周波数を示すパラメータを表し、前記パラメータkの値は1~25である。]
被検物質の存在下の細胞の第1の画像と、被検物質の非存在下の細胞の第2の画像とを撮像する工程において、上述した定量位相画像生成装置1を用いることができる。第2の画像で計測したデータが、健常細胞の参照データを意味する。
非干渉方式の定量位相イメージングにより細胞を撮像するときの、細胞を収容する容器としては、例えば、ガラスを含んでいてもよいし、プラスチックを含んでいてもよい。非干渉方式の定量位相イメージングにおいては、光路上にプラスチックがあっても、撮像することができる。
干渉方式の定量位相イメージングにより細胞を撮像するときの、細胞を収容する容器としては、例えば、ガラスを含むものを挙げることができるが、光路上にプラスチックを含むものは、撮像視野内でも局所的なノイズが発生する事があった。そのノイズ由来は、プラスチック容器の屈折率が一様でない為に(異方性)、透過照明光が当たる場所毎に、偏光が回転してしまう為、物体光と参照光間で干渉強度が変化してしまい、細胞(位相物体)そのものだけを検出して、画像構築することができない。
本実施形態に係る被験物質の細胞毒性を評価する方法は、被験物質が細胞毒性を有するか否かを判定する工程において、第1の画像における被験物質の存在下の細胞の短軸方向の長さに対する被験物質の存在下の細胞の長軸方向の長さの比(以下、R1という場合がある)が、第2の画像における被験物質の非存在下の細胞の短軸方向の長さに対する被験物質の非存在下の細胞の長軸の長さの比(以下、R2という場合がある)と比較して低下した場合に、被験物質が細胞毒性を有すると判定する、方法であってもよい。ここで比較する細胞は、時間経過が異なる、同じ細胞を撮影した画像同士(第1と第2)を比較しても良いし、別のウェルで撮影した画像同士(第1と第2)を比較する事でも良い。前者ではタイムラプス観察の実施が多く、後者ではタイムラプス観察を実施しなくても、被検物質の細胞毒性を短期間で評価できる。
ここで、R1は下記式(A1)により算出される。
R1=(第1の画像における細胞の長軸方向の長さ)/(第1の画像における細胞の短軸方向の長さ)…(A1)
また、R2は下記式(A2)により算出される。
R2=(第2の画像における細胞の長軸方向の長さ)/(第2の画像における細胞の短軸方向の長さ)…(A2)
定量位相イメージングによって得られた画像における細胞の長軸方向の長さは、細胞の実際の長軸方向の長さを反映する。また、定量位相イメージングによって得られた画像における細胞の短軸方向の長さは、細胞の実際の短軸方向の長さを反映する。すなわち、定量位相イメージングによって得られた画像における短軸方向の長さに対する長軸方向の長さの比は、細胞の短軸方向の実際の長さに対する長軸方向の実際の長さの比を反映する。
一般に、細胞は無色透明であるため、細胞を染色せずに、細胞の短軸方向の実際の長さ及び長軸方向の実際の長さを測定することは困難である。
実施例において後述するように、細胞を可視化するために細胞質を染色した場合、細胞質の染色の程度は、細胞の生命活動の強弱に依存することがある。
すなわち、細胞が毒性物質に曝露されていない場合であっても、個々の細胞の生命活動の強弱の程度に依存して、細胞が染色されないことがある。その結果、染色された細胞の形態を観察しても、被験物質の細胞毒性を正しく評価できない。
実施例において後述するように、発明者らは、細胞毒性を有する被験物質の存在下の細胞の定量位相イメージングの画像におけるR1は、R2と比較して、低下することを明らかにした。
すなわち、定量位相イメージングの画像に基づいて算出された、R1を低下させる被験物質は、細胞毒性を有すると推定することができる。
本実施形態に係る被験物質の細胞毒性を評価する方法は、被験物質が細胞毒性を有するか否かを判定する工程において、第1の画像において前記被験物質の存在下の細胞が存在しない領域の面積が、前記第2の画像において前記被験物質の非存在下の細胞が存在しない領域の面積と比較して増加した場合に、被験物質が細胞毒性を有すると判定する、方法であってもよい。
上述したように、細胞毒性を有する物質に細胞を曝露すると、一部の細胞は死に至り、結果として細胞数が減少する。一方、生存する細胞の形態については、形状等が変化し、健常細胞のそれと比較して球状に近づく。また、細胞数の減少に伴って、細胞を撮影した視野内(FОV:Field of view)で、細胞が存在しない領域の面積は大きくなる。
定量位相イメージングによって得られた画像における細胞の面積は、実際の細胞の面積を反映する。面積内の全画素を積分する事で、細胞の体積を算出する事も可能である。また、定量位相イメージングによって得られた画像における細胞が存在しない領域の面積は、細胞が存在しない領域の実際の面積を反映する。
実施例において後述するように、細胞毒性を有する被験物質の存在下の細胞の定量位相イメージングの画像における、細胞が存在しない領域の面積は、細胞毒性を有する被験物質の非存在下の細胞の定量位相イメージングの画像における、細胞が存在しない領域の面積と比較して増加する。
すなわち、定量位相イメージングの画像に基づいて算出された、細胞が存在しない領域の面積を増加させる被験物質は、細胞毒性を有すると推定することができる。
上述したように、細胞毒性を有する被験物質の存在下にある細胞は、その一部は死に至り、また、生存する細胞は生命活動が低下する。その結果、生存する細胞の実際の形態は球状に近づく。
細胞が球体に近づくと、任意の断面において、その断面における細胞の短軸方向の実際の長さに対する細胞の長軸方向の実際の長さの比は低下すると考えられる。定量位相画像に基づいて生成された、細胞の任意の断面において、その断面における細胞の短軸方向の長さに対する細胞の長軸方向の長さの比は低下すると考えられる。
また、細胞が球体に近づくと、任意の断面において、その断面における細胞が存在しない領域の実際の面積は増加すると考えられる。定量位相画像に基づいて生成された、細胞の任意の断面において、その断面における細胞が存在しない領域の面積は増加すると考えられる。
そこで、細胞毒性評価方法は、次のようなものであってもよい。まず、第2の画像に基づいてz軸に平行な画像を生成し、第1の画像に基づいてz軸に平行な画像を生成する。ここで、上述したように、z軸は光軸と平行である。
第1の画像に基づいたz軸に平行な画像における細胞の短軸方向の長さに対する細胞の長軸方向の長さの比が、第2の画像に基づいたz軸に平行な画像における細胞の短軸方向の長さに対する細胞の長軸方向の長さの比と比較して低下した場合に、被験物質が細胞毒性を有すると判定してもよい。
第1の画像に基づいたz軸に平行な画像における細胞が存在しない領域の面積が、第2の画像に基づいたz軸に平行な画像における細胞が存在しない領域の面積と比較して増加した場合に、被験物質が細胞毒性を有すると判定してもよい。
本実施形態に係る被験物質の細胞毒性を評価する方法は、被験物質の存在下で培養された細胞を異なる時間において複数回撮像し、定量位相イメージングにより複数の定量位相画像を生成する工程と、複数の定量位相画像における経時的な変化に基づいて、被験物質が細胞毒性を有するか否かを判定する工程と、を含む方法であってもよい。
具体的には、細胞を被験物質の存在下で培養し、異なる時間において、定量位相イメージングにより複数の定量位相画像を生成する。細胞を、細胞毒性を有する被験物質に曝露した場合、細胞の形態は経時的に変化すると考えられる。逆に、細胞を、細胞毒性を有しない被験物質に曝露した場合、細胞形態の経時的な変化量は顕著ではないと考えられる。
すなわち、被験物質に曝露した後、細胞形態が経時的に変化した場合、被験物質は毒性を有すると判定することができる。また、被験物質に曝露した後、細胞形態が経時的に顕著に変化しない場合、被験物質は毒性を有しないと判定することができる。
被験物質が細胞毒性を有するか否かを判定する工程は、被験物質の存在下の細胞の、面積、体積、真円度若しくは縦横比を測定する工程を含んでもよい。また、細胞が複数個存在する場合には、細胞同士の間の間隙の面積を測定することもできる。
被験物質の存在下の細胞は、Organ-on-Chip内に配置されていてもよい。
本実施形態に係る被験物質の細胞毒性を評価する方法は、被験物質の存在下で培養された細胞を異なる時間において複数回撮像し、定量位相イメージングにより複数の定量位相画像を生成する工程が、対物レンズの光軸上に細胞を配置する工程と、細胞に照明光を照射する工程と、光軸に沿って互いに間隔Δz離れた複数の位置のそれぞれに対物レンズの焦点を配置して細胞からの光を検出する工程と、検出した光に基づいて、複数の位置のそれぞれに対応する光強度分布データを生成する工程と、光強度分布データに基づいて定量位相画像を生成する工程と、を含み、間隔Δzは、前記対物レンズの開口数NA、前記照明光の波長λ、及び、前記対物レンズと前記細胞との間の屈折率nの少なくとも1つに基づいて設定されるものであってもよい。
また、前記間隔Δzは、更にパラメータkに基づいて設定され、前記kは、生成する前記定量位相画像において位相を復元する空間周波数を示す値であってもよい。
一態様において、前記間隔Δzは、下記式(100)に基づいて設定されてもよい。
[式(100)中、NAは前記対物レンズの開口数を表し、λは前記照明光の波長を表し、nは前記対物レンズと前記細胞との間の屈折率を表し、kは前記定量位相画像の生成において位相を復元する空間周波数を示すパラメータを表し、前記パラメータkの値は1~25である。]
[定量位相画像生成装置]
1実施形態において、本発明は、被験物質の細胞毒性を評価するための定量位相画像を生成する定量位相画像生成装置であって、顕微鏡と、装置制御部と、検出器と、画像生成部とを備え、前記顕微鏡は、細胞が配置されるステージと、前記細胞に照明光を照射する照明光学系と、対物レンズとを有し、前記装置制御部は、前記対物レンズの光軸に沿って互いに間隔Δz離れた複数の位置のそれぞれに前記対物レンズの焦点が配置されるように前記焦点の位置を調整するものであり、前記検出器は、前記照明光学系から照射された照明光により、前記細胞から生じる光を検出するものであり、前記画像生成部は、前記検出器が検出した前記光に基づいて、前記複数の位置に対応する光強度分布データを生成し、前記光強度分布データに基づいて、定量位相画像を生成するものであり、前記装置制御部は、前記対物レンズの開口数NA、前記照明光の波長λ、及び、前記対物レンズと前記細胞との間の屈折率nの少なくとも1つに基づいて前記間隔Δzを設定するものである、定量位相画像生成装置を提供する。
本実施形態に係る定量位相画像生成装置は、図1等を参照して上述した定量位相画像生成装置と同様の構成を有しており、顕微鏡100と、装置制御部51と、検出部(検出器)9と、解析部(画像生成部)52とを備える。検出器9は、照明光学系(透過照明光学系10又は落射照明光学系110)から照射された照明光により、ステージ上の細胞から生じる光を検出する。
顕微鏡100は、Organ-on-Chip上に配置された細胞が配置されるステージ8と、前記細胞に照明光を照射する照明光学系(透過照明光学系10又は落射照明光学系110)と、対物レンズ21を有する。
本実施形態の定量位相画像生成装置のステージ8に配置される細胞は、スライドグラス、細胞培養容器、Organ-on-Chip等に配置されていてもよい。細胞培養容器としては、例えば、ウェルプレート、シャーレ、スライドチャンバー等が挙げられる。
本実施形態の定量位相画像生成装置によれば、細胞が細胞毒性を有する被験物質に曝露された場合に、細胞の、面積、体積、真円度若しくは縦横比、又は、前記細胞の間隙の面積の変化を明瞭に測定することができる。これにより、被験物質が細胞毒性を有するか否かを判定することができる。また、細胞を非侵襲的に観察することができる。
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実験例1]
(毒性物質を曝露した細胞の観察)
ヒト腎臓近位尿細管上皮細胞(RPTEC)に対して、各濃度のシスプラチンを24時間曝露し、カルセイン染色及びヘキスト染色を行った。各サンプルについて、位相差像、カルセイン染色画像、定量位相画像、ヘキスト染色画像を撮像した。シスプラチンは、近位尿細管上皮細胞を障害することで知られている。
撮影した画像を図7~10に示す。図7は位相差像であり、図7(a)はRPTECをシスプラチンに曝露しなかった場合の像であり、図7(b)はRPTECを10μM シスプラチンに曝露した場合の像であり、図7(c)はRPTECを50μM シスプラチンに曝露した場合の像であり、図7(d)はRPTECを100μM シスプラチンに曝露した場合の像である。
図8はカルセイン染色画像であり、図8(a)はRPTECをシスプラチンに曝露しなかった場合の像であり、図8(b)はRPTECを10μM シスプラチンに曝露した場合の像であり、図8(c)はRPTECを50μM シスプラチンに曝露した場合の像であり、図8(d)はRPTECを100μM シスプラチンに曝露した場合の像である。
図9は定量位相画像であり、図9(a)はRPTECをシスプラチンに曝露しなかった場合の像であり、図9(b)はRPTECを10μM シスプラチンに曝露した場合の像であり、図9(c)はRPTECを50μM シスプラチンに曝露した場合の像であり、図9(d)はRPTECを100μM シスプラチンに曝露した場合の像である。
図10はヘキスト染色画像であり、図10(a)はRPTECをシスプラチンに曝露しなかった場合の像であり、図10(b)はRPTECを10μM シスプラチンに曝露した場合の像であり、図10(c)はRPTECを50μM シスプラチンに曝露した場合の像であり、図10(d)はRPTECを100μM シスプラチンに曝露した場合の像である。
図中、丸枠と矢印で示される箇所は、同一視野において、ヘキスト染色画像をその他の各画像(位相差画像、定量位相画像、カルセイン染色画像)と比較した箇所である。ヘキスト染色画像と、位相差画像および定量位相画像との比較では、丸枠と矢印で示される領域に含まれる細胞は核を有する細胞であることが分かった。一方、細胞内エステラーゼの存在下で蛍光を発するカルセイン色素を用いた染色画像と、ヘキスト染色画像との比較では、カルセイン染色画像において、丸枠と矢印で示される領域に含まれる細胞の一部は観察されなかった。観察されなかった一部の細胞は死細胞であるが、細胞の構造を維持していたことが分かる。
[実験例2]
(定量位相画像による細胞数のカウント)
実験例1で取得した画像を用いて、細胞数をカウントした。
(方法)ヘキスト染色画像について、個々の細胞核領域を抽出する画像処理により、細胞数のカウント値の正解値を求めた。次に、同一の細胞群に対しての定量位相画像について、個々の細胞領域を検出する画像処理を行って、ヘキスト染色画像から抽出された細胞核領域を含む細胞領域の数をカウントした。同様に、カルセイン染色画像について、個々の細胞領域を検出する画像処理を行って、ヘキスト染色画像から抽出された細胞核領域を含む細胞領域の数をカウントした。
上記の画像処理で抽出し数値化した結果を図11に示す。図11(a)は、カルセイン染色陽性かつヘキスト染色陽性として検出された細胞数、定量位相画像で検出された細胞のうちヘキスト染色陽性として検出された細胞数、ヘキスト染色陽性として検出された細胞数を示すグラフであり、図11(b)は、カルセイン染色陽性として検出された細胞数とヘキスト染色陽性として検出された細胞数の相関関係を示すグラフであり、図11(c)は、定量位相画像で検出された細胞数とヘキスト染色陽性として検出された細胞数の相関関係を示すグラフである。
その結果、上記の画像処理で数値化した定量位相画像の細胞数とヘキスト染色画像の細胞数との相関性は、カルセイン染色画像の細胞数とヘキスト染色画像の細胞数との相関性よりも、高いことが明らかになった。
また、上記の画像処理を用いて定量位相画像で検出された細胞のうちヘキスト染色画像から抽出された細胞核領域を含む細胞の数は、ヘキスト染色画像で検出された細胞数と、ほぼ同一であることが明らかになった。カルセイン染色画像から検出した細胞数と、ヘキスト染色画像から計測した細胞数とやや乖離があった。その理由として、カルセイン染色画像は定量位相画像と比較してシグナル輝度値と背景輝度値の比が低く、本画像処理を用いた解析に適さなかったことが考えられる。
シスプラチンの曝露による細胞数の変化は、定量位相画像を用いた画像処理により抽出した細胞領域を解析することで定量化でき、評価できることが示された。
[実験例3]
(毒性物質による細胞形態の変化)
実験例1で取得した画像を用いて、細胞形態を評価した。生細胞の細胞質を可視化するカルセインを用いた染色画像では、シスプラチンの濃度依存的に個々の細胞が徐々に球形に近くなっていく様子が示された。位相差画像でも、同様の傾向(形態変化の濃度依存性)が確認できる。
定量位相画像でも同様の傾向(形態変化の濃度依存性)が見られており、定量位相画像はカルセイン染色画像と同様に、細胞の形状を再現していることがわかった。
これらの細胞形態を定量化するために、定量位相画像について画像処理を行い、個々の細胞領域を検出した。同様に、カルセイン染色画像について画像処理を行い、個々の細胞領域を検出した。各々の画像に対して、画像処理を行い、検出した異なる複数の細胞の長軸方向の長さと、各細胞の短軸方向の長さとを計測した。続いて、各細胞の短軸方向の長さに対する各細胞の長軸方向の長さの比を算出して、各細胞の平均値を算出した。以下に記述する「細胞」は、「画像処理で検出された細胞領域マスク」とする。
具体的には、シスプラチンに曝露し、カルセイン染色された細胞について、RC1を下記式(C1)により算出した。
RC1=(カルセイン染色された細胞の長軸方向の長さ)/(カルセイン染色された細胞の短軸方向の長さ)…(C1)
また、シスプラチンに曝露しておらず、カルセイン染色された細胞について、RC2を下記式(C2)により算出した。
RC2=(カルセイン染色された細胞の長軸方向の長さ)/(カルセイン染色された細胞の短軸方向の長さ)…(C2)
また、上述したように、シスプラチンに曝露した細胞について定量位相画像を取得し、R1を下記式(A1)により算出した。
R1=(第1の画像における細胞の長軸方向の長さ)/(第1の画像における細胞の短軸方向の長さ)…(A1)
さらに、上述したように、シスプラチンに曝露していない細胞について定量位相画像を取得し、R2を下記式(A2)により算出した。
R2=(第2の画像における細胞の長軸方向の長さ)/(第2の画像における細胞の短軸方向の長さ)…(A2)
得られた結果から、曝露した各シスプラチンの濃度ごとにRC1の平均値、RC2の平均値を算出した。また、曝露した各シスプラチンの濃度ごとにR1の平均値、R2の平均値を算出した。
結果を図12に示す。図12は、カルセイン染色画像及び定量位相画像における、各細胞の短軸方向の長さに対する、同一細胞の長軸方向の長さの比を算出したデータ群に対して、平均値を算出した結果を示す図である。
その結果、シスプラチンの濃度が上昇しても、RC1の平均値はRC2の平均値と比較して低下しないことが明らかになった。これに対し、シスプラチンの濃度が上昇すると、R1の平均値はR2の平均値と比較して低下することが明らかになった。
細胞をシスプラチンに曝露しなかった場合、細胞は、容器の底面に張り付き、扁平な形状を示す。一方、細胞を曝露するシスプラチンの濃度が上昇すると、生存した細胞は、生命活動が低下した結果、本来の形態とは異なる球体に近い形状を示すようになることが、カルセイン染色画像、定量位相画像で示された。
定量位相画像を用いた画像解析により、細胞形態の変化が定量的に示された。一方で、カルセイン染色画像を用いた画像解析では示すことができなかった。その理由として、カルセイン染色画像は定量位相画像と比較してシグナル輝度値と背景輝度値の比が低く、本画像処理を用いた解析に適さなかったことが考えられる。
シスプラチンの曝露による細胞の形態の変化は、定量位相画像を用いた画像処理により抽出した細胞領域を解析することで定量化でき、評価できることが示された。
[実験例3]
(毒性物質添加による細胞間隙面積の変化)
実験例1で取得した画像を用いて、細胞が存在しない領域面積を評価した。生細胞の細胞質を可視化するカルセインを用いた染色画像では、シスプラチンの濃度依存的に細胞が存在しない領域面積が増加していた。定量位相画像でも同様の傾向が見られており、定量位相画像はカルセイン染色画像と同様に、細胞のない領域について再現していることがわかった。
細胞が存在しない領域面積を測定するために、定量位相画像について画像処理を行い、細胞のない領域の面積を算出した。同様に、カルセイン染色画像について画像処理を行い、細胞のない領域の面積を算出した。以下に記述数する「領域」は、「画像処理で抽出された領域」とする。
結果を図13に示す。図13は、Hochest染色画像における核が存在しない領域、カルセイン染色画像における細胞が存在しないように見える領域、定量位相画像における細胞が存在しない領域を可視化し、これらの領域を重ね合わせたものである。
図13(a)はシスプラチンに曝露しなかった場合の重ね合わせた画像であり、図13(b)は10μM シスプラチン曝露した場合の重ね合わせた画像であり、図13(c)は50μM シスプラチンに曝露した場合の重ね合わせた画像であり、図13(d)100μM シスプラチンに曝露した場合の重ね合わせた画像である。
図14(a)は、カルセイン染色画像において細胞が存在しない領域の面積、定量位相画像において細胞が存在しない領域の面積を示したグラフである。図14(b)は、得られた各画像に基づいて算出された各面積を、各画像全体に対する割合で示したグラフである。
図15は、カルセイン染色画像を用いた場合の細胞が存在しないように見える領域と、定量位相画像を用いた場合の細胞が存在しないように見える領域とを可視化した図である。
その結果、カルセイン染色画像を用いた画像解析により定量化した場合は、シスプラチン濃度が上昇しても、細胞が存在しない領域の面積は広くならなかった。これに対し、定量位相画像を用いた画像解析により定量化した場合は、シスプラチン濃度の上昇に伴って、細胞が存在しない領域の面積は広くなった。
細胞をシスプラチンに曝露させなかった場合、細胞は、容器の底面に張り付き、扁平な形状を示す。一方、細胞を曝露するシスプラチンの濃度が上昇すると、一部の細胞は、生命活動が低下した結果、本来の形態とは異なる球体に近い形状を示すようになる。すなわち、シスプラチンの濃度が上昇すると、実際の細胞が存在しない領域の面積は大きくなる。
定量位相画像を用いた画像解析により、細胞の存在しない領域の面積の変化が定量的に示された。一方で、カルセイン染色画像を用いた画像解析では示すことができなかった。その理由として、カルセイン染色画像は定量位相画像と比較してシグナル輝度値と背景輝度値の比が低く、本画像処理を用いた解析に適さなかったことが考えられる。
シスプラチンの曝露による細胞の存在しない領域の面積の変化は、定量位相画像を用いた画像処理により抽出した細胞領域を解析することで定量化でき、評価できることが示された。
定量位相画像における細胞が存在しない領域の面積は、細胞が実際に存在しない領域の面積を反映していると考えられる。