JP7203555B2 - 油脂組成物 - Google Patents
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Description
焼菓子と油性菓子との間のマイグレーションを抑制するだけであれば、単に固い油脂を焼菓子製造時に使用することにより解消される。しかし、この手法では得られる焼菓子の食感が硬く詰まったものとなり、口溶けが悪化してしまいやすい。これを避けるため、近年は特定のエステル交換油脂を用いる手法の検討が進められている。
(イ)口溶けがよく、食感が良好な焼菓子が得られる油脂組成物を提供すること
(ロ)マイグレーションが抑制された複合菓子が得られる油脂組成物を提供すること
(1)含有される油相の脂肪酸組成中、炭素数20以上の飽和脂肪酸が2~10質量%含有される。
(2)含有される油相のトリグリセリド組成中、BO2が2~8%含有される。
(3)固体脂含量が、10℃で45~65%、20℃で25~42%、30℃で5~22%である。
但し、B:炭素数22の飽和脂肪酸残基/ O:炭素数18の不飽和脂肪酸残基/
BO2:Bが1分子、Oが2分子結合しているトリグリセリド
(イ)口溶けがよく、食感が良好な焼菓子が得られる
(ロ)マイグレーションが抑制された焼菓子や複合菓子が得られる。
本発明の油脂組成物は、下記条件(1)~(3)を全て満たすものである。
(1)油相の脂肪酸残基組成中の炭素数20以上の飽和脂肪酸残基の含有量が2~10質量%である。
(2)油相のトリグリセリド組成中のBO2の含有量が2~8%である。
(3)固体脂含量が、10℃で45~65%、20℃で25~42%、30℃で5~22%である。
Bは炭素数22の飽和脂肪酸残基を表し、Oは炭素数18の不飽和脂肪酸残基を表し、BO2はBが1つ、Oが2つ結合しているトリグリセリドを表す。
本発明の油脂組成物は、油相の脂肪酸残基組成中の炭素数20以上の飽和脂肪酸残基の含有量が2~10質量%、好ましくは3~9質量%、特に好ましくは4~8質量%である。油相の脂肪酸残基組成中の炭素数20以上の飽和脂肪酸残基の含有量を上記範囲とすることで、得られる焼菓子がサクサクとした噛みだしと良好なバラけを有し、且つ、良好な食感を有するものとなる。また、焼菓子を油性菓子とを複合させた場合に、マイグレーションが抑制される。
本発明の油脂組成物は、油相のトリグリセリド組成中のBO2の含有量が2~8質量%である。BO2の含有量が2質量%以上であることにより、十分にマイグレーションを抑制することができ、焼菓子の白色化現象の発生を抑制することができる。また、BO2が8質量%以下であることにより、製造作業性が良好なものとなり、口溶けが良好な焼菓子が得られる。白色化現象の発生を一層効果的に抑制し、且つ一層良好な食感を有する焼菓子を得る観点から、トリグリセリド組成中mのBO2の含量は3~8質量%であることが好ましく、4~8質量%であることがより好ましい。
BO2の含量が上述の範囲とすることによって、焼菓子の口溶けやサクサクとした食感を損なうことなく、焼菓子と油性菓子との間のマイグレーションが抑制される機構は明らかではないが、本発明者らは以下のとおりであると推定している。
・検出部:示差屈折検出器
・カラム:ドコシルカラム(DCS)
・移動相:アセトン:アセトニトリル=65:35(体積比)
・流速:1ml/min
・カラム温度:40℃
・背圧:3.8MPa
本発明の油脂組成物は、固体脂含量(SFC:Solid Fat Content)が10℃で45~65%、20℃で25~42%、30℃で5~22%である。SFC値が各測定温度における範囲の下限未満である場合、マイグレーション抑制効果が損なわれる。また、固体脂含量の値が各測定温度における範囲の上限超である場合、マイグレーション抑制効果は高まるものの、焼菓子の製造作業性が低下することに加えて、焼菓子の食感が、ガリガリとした硬く詰まった噛みだしとなる上、口溶けが悪化する。油脂組成物の固体脂含量が上記範囲内であることで、十分にコシのある焼菓子用油脂組成物が得られる上、マイグレーションを抑制することができ、良好な食感を有する焼菓子を得ることができる。
良好な製造作業性を有し、良好な食感の焼菓子を得ることができる油脂組成物を得る観点から、本発明の油脂組成物は10℃のSFCが45~60%であることが好ましく、50~60%であることがより好ましい。20℃のSFCが25~38%であることが好ましく、28~38%であることがより好ましい。30℃のSFCが5~18%であることが好ましく、8~18%であることがより好ましい。
上記SFCの測定に際しては、測定対象となる試料を、80℃で15分保持して油脂を完全に融解し、これを60℃に30分保持した後、0℃に30分保持して固化させる。さらに、25℃に30分保持し、テンパリングを行い、その後、0℃に30分保持する。然る後、SFCの各測定温度に順次30分保持する。その後、上記パルスNMRにてSFCを測定する。
本発明の油脂組成物の油相に用いることのできる油脂としては、例えば、大豆油、菜種油、ハイエルシン菜種油、微細藻類油、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、からし油、ヒマワリ油、ハイオレイックヒマワリ油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、サル脂、マンゴ脂及びカカオ脂等の植物性油脂、乳脂、牛脂、豚脂魚油及び鯨油等の動物性油脂、並びにこれらの油脂に水素添加、分別、エステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂が挙げられる。上述の油脂の1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。本発明の油脂組成物は、上記条件(1)~(3)を満たす油相を、75質量%以上含有することが好ましく、85質量%以上含有することがより好ましく、95質量%以上含有することが最も好ましい。
本発明においては、保管中のマイグレーションを抑制しながら、好ましい製造作業性を有し、口溶けが良好でサクサクとした噛みだしの焼菓子を得る観点、及び上記条件(1)~(3)を満たす油相を容易に調製できる観点から、下記条件(a-1)~(a-3)を全て満たすエステル交換油脂(A)を含有することが好ましい。
(a-1)脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基と不飽和脂肪酸残基との質量比が、前者:後者で0.45~0.65:1である。
(a-2)脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基に対する炭素数22の飽和脂肪酸残基の含有量が、30~60質量%である。
(a-3)トリグリセリド組成中のBO2トリグリセリドとB2Oトリグリセリドとの質量比(BO2/B2O)が3以上である。
本発明の油脂組成物に好ましく含有されるエステル交換油脂(A)においては、脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基と不飽和脂肪酸残基との質量比が、前者:後者で0.40~0.65:1である。エステル交換油脂(A)の脂肪酸残基組成を上記比率とすることで、本発明の油脂組成物を用いて得られる焼菓子の食感が、良好な口溶けやバラけを有し、且つサクサクとした噛みだしを有するものとなりやすい。エステル交換油脂(A)の脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基と不飽和脂肪酸残基との質量比は、油脂組成物が好ましい可塑性と製造作業性を有するものとする観点から、0.50~0.65:1とすることがより好ましく、0.50~0.60:1とすることが最も好ましい。
本発明の油脂組成物に好ましく含有されるエステル交換油脂(A)においては、脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基に対する炭素数22の飽和脂肪酸残基の含有量が30~60質量%である。本発明の油脂組成物に含有されるエステル交換油脂(A)の脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基に対する炭素数22の飽和脂肪酸残基の含有量を上記範囲とすることで、焼菓子を油性菓子と複合させた際に、マイグレーションを効果的に抑制することができる。エステル交換油脂(A)の脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基に対する炭素数22の飽和脂肪酸残基の含有量は、より効果的にマイグレーションを抑制する観点から、35~55質量%であることが好ましく、40~50質量%であることがより好ましい。
また、脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基に対する、炭素数16の飽和脂肪酸残基の含有量と炭素数18と炭素数22の飽和脂肪酸残基の含有量との和が占める割合は80~100質量%であることが好ましく、85~100質量%であることがより好ましい。
本発明の油脂組成物に含有されるエステル交換油脂(A)においては、トリグリセリド組成中のBO2トリグリセリドとB2Oトリグリセリドとの質量比(BO2/B2O)が3以上である。BO2/B2Oを上記範囲とすることにより、本発明の油脂組成物を用いて製造された焼菓子を油性菓子と複合させた際に、マイグレーションを効果的に抑制することができる。トリグリセリド組成中のBO2トリグリセリドとB2Oトリグリセリドとの質量比の値は、エステル交換油脂(A)のトリグリセリド組成を測定し、得られたBO2トリグリセリドの含有量をB2Oトリグリセリドの含有量で除することにより得られる値である。得られる焼菓子の食感を損ねることなく、マイグレーションをより効果的に抑制する観点から、BO2/B2Oが3.7以上であることが好ましく、4.4以上であることがより好ましい。BO2/B2Oの値の上限値は、特に制限されないが、工業的な生産の観点から好ましくは8.0であり、より好ましくは7.0であり、最も好ましくは6.0である。
(b-1)トリグリセリド組成中のS3の含有量が1.0~12質量%である。
(b-2)トリグリセリド組成中のS2Uの含有量が50~90質量%である。
(b-3)トリグリセリド組成中のSU2及びU3の合計した含有量が5~40質量%である。
(b-4)脂肪酸残基組成に含まれる飽和脂肪酸残基が、実質的に炭素数16の飽和脂肪酸残基と炭素数18の飽和脂肪酸残基とで構成され、且つ炭素数18の飽和脂肪酸残基に対する炭素数16の飽和脂肪酸残基の質量比が1.0~2.5である。
S3はSが3分子結合しているトリグリセリドを表し、S2UはSが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリドを表す。
以下、エステル交換油脂(B)を各条件ごとに述べる。
また、12質量%以下であると、得られる焼菓子の食感を損ねずに、マイグレーションを抑制することができるため好ましい。
条件(b-4)における「飽和脂肪酸残基が実質的に炭素数16の飽和脂肪酸残基と炭素数18の飽和脂肪酸残基とで構成される」とは、脂肪酸残基中の飽和脂肪酸残基に占める、炭素数18の飽和脂肪酸残基と炭素数16の飽和脂肪酸残基の含有量の和が90質量%以上、より好ましくは95質量%以上であることを意味する
まず、炭素数16の飽和脂肪酸残基と炭素数18の飽和脂肪酸残基の含有量の和が、脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基の含有量の90質量%以上であり、炭素数18の飽和脂肪酸残基に対する炭素数16の飽和脂肪酸残基の質量比が好ましくは1.0~2.5、より好ましくは1.2~2.3、最も好ましくは1.3~2.0である油脂配合物を調製する。以下、このエステル交換油脂(B)を得るための油脂配合物を、油脂配合物(B)と記載する場合がある。
パーム油の極度硬化油脂を用いる場合、例えばパーム油と、パーム油の極度硬化油とを、50:50~70:30の質量比となるように混合することにより、上記条件を満たす油脂配合物を得ることができる。
分別工程では、上記のようにして得られたエステル交換油脂、好ましくはランダムエステル交換油脂から、晶析により上記エステル交換油脂の低融点部又は中融点部からなる、エステル交換油脂(B)を得る。晶析とは、融解状態の油脂を冷却結晶化して、結晶部を析出させ、これを結晶部と液状部に分離し、油脂中の成分を分別することを指す。低融点部とは、晶析により、高融点部分を分離除去して得られた低融点画分のことであり、中融点部とは、晶析により、高融点部分と液状画分を分離除去した中融点画分のことである。
尚、中融点部は、例えば晶析により、高融点部分が取り除かれた上記エステル交換油脂の低融点画分に対して、さらに分別を行うことにより、該低融点画分中の高融点画分として得られるものであり、例えば低融点部分が取り除かれた上記エステル交換油脂の高融点画分に対して、さらに分別を行うことにより、該高融点画分中の低融点画分として得られるものである。
その他油脂としては、例えば、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ヒマワリ油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、サル脂、マンゴ脂及びカカオ脂等の植物性油脂、乳脂、牛脂、豚脂、魚油及び鯨油等の動物性油脂、並びにこれらの油脂に水素添加、分別及びエステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂が挙げられる。上記油脂の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合し用いることができる。油相を構成するトリグリセリド組成を、複雑なトリグリセリド組成とすることにより、マイグレーションの発生を十分に抑制する観点から、ランダムエステル交換油脂が好ましく選択される。
その他の成分としては、例えば、水、乳化剤、増粘安定剤、食塩や塩化カリウム等の塩味剤、クエン酸、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、糖類や糖アルコール類、ステビア、アスパルテーム等の甘味料、β-カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、小麦蛋白や大豆蛋白等の植物蛋白、卵及び各種卵加工品、着香料、乳製品、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材や食品添加物が挙げられる。
本発明においてはマイグレーションを効果的に抑制する観点から、用いられるソルビタン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸残基は、好ましくは炭素数16以上の飽和脂肪酸残基であることが好ましく、炭素数18の飽和脂肪酸残基であることがより好ましい。
エステル化率(%)={エステル価/(エステル価+水酸基価)}×100
本発明の油脂組成物は、上記条件(1)~(3)を満たすことができる油相を溶解した後、必要に応じ、水相を添加して乳化し、冷却し、結晶化させることにより製造される。
詳しくは、まず、上記条件(1)~(3)を満たすことができるように、各種油脂を1種又は2種以上選択して、加熱溶解し、混合・撹拌を行い、油相を調製する。尚、油溶性のその他の成分については、必要により油相に含有させることができる。また、必要に応じて、水に水溶性のその他の成分を添加した水相を調製した後、該水相を油相に添加し、乳化する。
次に、冷却し、必要により可塑化する。本発明において、冷却条件は、好ましくは-0.5℃/分以上、さらに好ましくは-5℃/分以上とする。冷却に用いる機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えばボテーター、コンビネーター、パーフェクター等のマーガリン製造機やプレート型熱交換機等が挙げられ、また、開放型のダイアクーラーとコンプレクターの組合せ等が挙げられる。
また、本発明の油脂組成物は、焼菓子用途の他に、バタークリーム用、サンドクリーム用、マーガリン・ショートニング用、アイスクリームやアイスコーティング用、ホイップクリーム等の水中油型乳化油脂の油相、フライ用等に使用することもできる。
本発明の焼菓子は、上記の油脂組成物を練込油脂や折込油脂として用いたものである。焼菓子生地が乳脂を含む場合であっても、効果的にマイグレーションを抑制する観点から、本発明の油脂組成物を練込油脂として焼菓子生地中に練込ことが好ましい。
これらの焼菓子の生地は、シュガーバッター法、フラワーバッター法、オールインミックス法等、公知の方法によって製造することができ、常法に従って焼成される。
本発明の複合菓子は、本発明の焼菓子用油脂組成物を用いた本発明の焼菓子と油性菓子とを組合せたものである。焼菓子と油性菓子とを組合せるとは、焼菓子の表面に油性菓子を配置するか、又は焼菓子中に油性菓子を配置することをいう。油性菓子としては、例えば、ナッツ類及びチョコレート類等が挙げられる。本発明の焼菓子用油脂組成物の効果が顕著に得られることから、焼菓子とチョコレートとが組合せた複合菓子が好ましい。
尚、ナッツ類の場合についても、これに準じて複合することができる。
本発明の複合菓子のマイグレーションの抑制方法は、複合菓子に用いる焼菓子を製造する際に、上記の油脂組成物を用いることを特徴とする。
本方法によれば、焼菓子生地中に乳脂を含有する場合であっても、複合菓子におけるマイグレーションが抑制され、伴って焼菓子の白色化や、油性菓子表面のブルーム等の発生を抑制するものである。
本発明の抑制方法が用いられる複合菓子としては、特に限定されず、上記の油脂組成物を用いて製造された焼菓子と、ナッツ類、チョコレート等の油性菓子が組合せたものを挙げることができるが、マイグレーションを抑制する効果が顕著に得られることから、焼菓子とチョコレートとが組合せた複合菓子に好ましく適用される。
(製造例1:エステル交換油脂(1)の製造)
ハイオレイックヒマワリ油(脂肪酸残基組成中のオレイン酸残基量が80質量%超)70質量部と、ハイエルシン菜種油の極度硬化油(ヨウ素価1未満)30質量部とを、それぞれ加熱溶解した状態で混合して得られた油脂配合物(1)に対し、ナトリウムメトキシドを触媒として、常法に従ってランダムエステル交換反応を行った。この後、常法に従って、漂白(白土量は対油3質量%、処理温度85℃)及び脱臭(250℃、60分間、吹込み水蒸気量は対油5質量%)の精製処理を行い、エステル交換油脂(1)(以下、IE-1ともいう。)を得た。
得られたIE-1は、上記のエステル交換油脂(A)に該当する。脂肪酸残基組成中の、飽和脂肪酸残基と不飽和脂肪酸残基との質量比が、前者:後者で0.54:1であった。脂肪酸残基組成中の不飽和脂肪酸残基に対するオレイン酸残基の割合は92.9質量%であった。また、脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基組成に対する炭素数22の飽和脂肪酸残基の含有量は、42.3質量%であった。脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基組成に対する炭素数16の飽和脂肪酸残基の含有量と18の飽和脂肪酸残基の含有量との和が占める割合は50.4質量%であった。さらに、トリグリセリド組成中のBO2トリグリセリドとB2Oトリグリセリドの質量比(BO2/B2O)は4.9、トリグリセリド組成中のBO2トリグリセリドとB2Oトリグリセリドとの和は17.40質量%であった。
パーム油55質量部と、ヨウ素価が1以下となるまで水素添加を施したパーム極度硬化油45質量部とからなる油脂配合物に対して、ナトリウムメトキシドを触媒としてランダムエステル交換反応を行い、常法により、漂白処理、脱臭処理を行い、精製した。この精製された油脂からドライ分別により高融点部を除去し、常法に従って、漂白(白土量は対油3質量%、処理温度85℃)及び脱臭(250℃、60分間、吹込み水蒸気量は対油5質量%)の精製処理を行い、エステル交換油脂(2)を得た。以下、このエステル交換油脂(2)をIE-2ともいう。
上記のIE-2を得るためのドライ分別については次のとおり行った。まず、精製されたランダムエステル交換油脂を完全に溶解した状態(60℃)で、ジャケット付ガラス製晶析槽に投入した。投入したランダムエステル交換油脂を、油脂温度が45℃となるまで8.3℃/時間で急冷し、油脂温度が45℃で3時間の熟成工程を経て、39.5℃で結晶化スラリーを得た。油脂を晶析槽に投入してから上記の3時間の熟成工程を終了するまでの工程は、40rpmで撹拌しながら行った。45℃から39.5℃への温度移行は1℃/時間での徐冷により行った。この結晶化スラリーを濾過分別し、高融点部を除去し、得られた低融点部を常法により精製したものを上記のIE-2として得た。
得られたIE-2は、エステル交換油脂(B)に該当する。IE-2は、トリグリセリド組成中にS3を8.3質量%含有し、S2Uを65.7質量%含有し、SU2とU3の含有量の和が19.5質量%であった。また、IE-2の脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基における炭素数16の飽和脂肪酸残基と炭素数18の飽和脂肪酸残基の含有量は97.5質量%であった。さらにIE-2の脂肪酸残基組成中の炭素数18の飽和脂肪酸残基に対する炭素数16の飽和脂肪酸残基の質量比は、1.85であった。また、脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基の含有量は60.2質量%であった。
ヨウ素価55のパーム分別軟部油80質量部とハイエルシン菜種油の極度硬化油(ヨウ素価1未満)20質量部とからなる油脂配合物に対して、ナトリウムメトキシドを触媒としてランダムエステル交換反応を行い、常法により、漂白処理、脱臭処理を行い、精製し、エステル交換油脂(3)を得た。以下、このエステル交換油脂(3)をIE-3ともいう。
得られたIE-3は、パーム系のランダムエステル交換油脂に該当する。脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基と不飽和脂肪酸残基との質量比が、前者:後者で1.31:1であった。脂肪酸残基組成中の不飽和脂肪酸残基に対するオレイン酸残基の割合は79.9質量%であった。また、脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基組成に対する炭素数22の飽和脂肪酸残基の含有量は、14.3質量%であった。脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基組成に対する炭素数16と18の飽和脂肪酸残基の含有量の和は79.6質量%であった。さらに、トリグリセリド組成中のBO2トリグリセリドとB2Oトリグリセリドの質量比(BO2/B2O)は5.0、トリグリセリド組成中のBO2トリグリセリドとB2Oトリグリセリドの和は2.76質量%であった。
ヨウ素価55のパーム分別軟部油に対して、ナトリウムメトキシドを触媒としてランダムエステル交換反応を行い、常法により、漂白処理、脱臭処理を行い、精製し、エステル交換油脂(4)を得た。以下、このエステル交換油脂(4)をIE-4ともいう。
得られたIE-4は、パーム系のランダムエステル交換油脂に該当する。脂肪酸残基組成における飽和脂肪酸残基と不飽和脂肪酸残基との質量比は、前者:後者で0.9:1であり、脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基における、炭素数16の飽和脂肪酸残基と炭素数18の飽和脂肪酸残基の含有量の和は95.3質量%であった。脂肪酸残基組成中の炭素数18の飽和脂肪酸残基に対する炭素数16の飽和脂肪酸残基の質量比は、9.7であった。また、トリグリセリド組成におけるSU2トリグリセリドとU3トリグリセリドの和は34.3質量%であった。
ヨウ素価65のパーム分別軟部油に対して、ナトリウムメトキシドを触媒としてランダムエステル交換反応を行い、常法により、漂白処理、脱臭処理を行い、精製し、エステル交換油脂(5)を得た。以下、このエステル交換油脂(5)をIE-5ともいう。
得られたIE-5は、パーム系のランダムエステル交換油脂である。脂肪酸残基組成における飽和脂肪酸残基と不飽和脂肪酸残基との質量比は、前者:後者で0.7:1であり、脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基における、炭素数16の飽和脂肪酸残基と炭素数18の飽和脂肪酸残基の含有量の和は95.7質量%であった。脂肪酸残基組成中の炭素数18の飽和脂肪酸残基に対する炭素数16の飽和脂肪酸残基の質量比は、9.2であった。また、トリグリセリド組成におけるSU2トリグリセリドとU3トリグリセリドの和は38.1質量%であった。
パーム核油75質量部、ヨウ素価が1以下となるまで水素添加を施したパーム極度硬化油25質量部からなる油脂配合物に対して、ナトリウムメトキシドを触媒としてランダムエステル交換反応を行い、常法により、漂白処理、脱臭処理を行い、精製し、エステル交換油脂(6)を得た。以下、このエステル交換油脂(6)をIE-6ともいう。
得られたIE-6は、パーム系のランダムエステル交換油脂である。脂肪酸残基組成における飽和脂肪酸残基と不飽和脂肪酸残基との質量比は、前者:後者で5.2:1であり、脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基における、炭素数16の飽和脂肪酸残基と炭素数18の飽和脂肪酸残基の含有量の和は39.0質量%であり、脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基における炭素数12の飽和脂肪酸残基の含有量は40.7質量%であった。また、トリグリセリド組成におけるSU2トリグリセリドとU3トリグリセリドの和は3.2質量%であった。
表1中の油脂配合物A100質量部とレシチン0.1質量部とからなる油相を65℃に加熱溶解した。次に、加熱溶解された油相を、急冷可塑化しながら、油脂組成物100g中15ccとなるように含気させ、可塑性を有する油脂組成物Aを得た。
(実施例2)
表1中の油脂配合物Bを用いた以外は実施例1と同様にして、可塑性を有する油脂組成物Bを得た。
(実施例3)
表1中の油脂配合物Cを用いた以外は実施例1と同様にして、可塑性を有する油脂組成物Cを得た。
(実施例4)
表1中の油脂配合物Dを用いた以外は実施例1と同様にして、可塑性を有する油脂組成物Dを得た。
(実施例5)
表1中の油脂配合物Eを用いた以外は実施例1と同様にして、可塑性を有する油脂組成物Eを得た。
(実施例6)
表1中の油脂配合物Fを用いた以外は実施例1と同様にして、可塑性を有する油脂組成物Fを得た。
(実施例7)
表1中の油脂配合物Gを用いた以外は実施例1と同様にして、可塑性を有する油脂組成物Gを得た。
(実施例8)
表1中の油脂配合物Hを用いた以外は実施例1と同様にして、可塑性を有する油脂組成物Hを得た。
表1中の油脂配合物Iを用いた以外は実施例1と同様にして、可塑性を有する油脂組成物Iを得た。
(比較例2)
表1中の油脂配合物Jを用いた以外は実施例1と同様にして、可塑性を有する油脂組成物Jを得た。
(比較例3)
表1中の油脂配合物Kを用いた他は、実施例1と同様にして、可塑性を有する油脂組成物Kを得た。
(比較例4)
表1中の油脂配合物Lを用いた以外は実施例1と同様にして、可塑性を有する油脂組成物Lを得た。
上記の実施例1~8、及び比較例1~4で得られた油脂組成物A~Lを用いて、下記配合・製造方法でワイヤーカットクッキーA~Lを製造した。その後、得られたワイヤーカットクッキーとチョコレートとを複合させて、チョコレート複合クッキーを製造した。
15℃に調温した油脂組成物A~Lのうち1つを27質量部、無塩バター(油分83%)を22.5質量部、上白糖を50質量部だけミキサーボウルに量って、卓上ミキサーにセットし、軽く混合した後、高速で7分間クリーミングした。次いで、低速で混合しながら、30秒かけて水11.5質量部を添加した後、全卵(油分10.3%)12質量部、食塩1質量部を添加し、さらに1分混合した。ここに、予め混合して篩っておいた薄力粉(油分1.7%)100質量部とベーキングパウダー1質量部との混合物を添加し、低速で1分混合して、ワイヤーカットクッキー生地を得た。得られたワイヤーカットクッキー生地A~Lは、含まれる油脂中の38.4質量%が乳脂であった。
得られたクッキー生地を、厚さ7ミリ、直径48ミリの丸型にワイヤーカット成型した。成型したクッキー生地をオーブン(フジサワ社製)で、上火180℃下火170℃にて17分焼成後、25℃にて40分冷却し、ワイヤーカットクッキーA~Lを得た。ワイヤーカットクッキーの後の英字は使用した油脂組成物に対応している。
まず、複合化させるチョコレートを、砂糖44.6質量部、カカオマス25質量部、カカオバター30質量部及びレシチン0.4質量部からなる配合にて、常法に従い、溶解、ロール掛け、コンチング処理し、テンパー型チョコレートとして調製した。続いて、得られたテンパー型チョコレートをテンパリングし、ワイヤーカットクッキーA~Lの重量に対して3倍量をカップに量り、ここに上記ワイヤーカットクッキーA~Lを表面が出るように浸して、チョコレート複合クッキーA~Lを製造した。チョコレート複合クッキーの後の英字は使用した油脂組成物に対応している。
得られたチョコレート複合クッキーA~Lのクッキー部分の保存安定性(白色化現象の発生の有無)及びチョコレート部分の保存安定性(ブルーム現象の発生の有無)、チョコレート複合クッキーのクッキー部分の食感、並びにチョコレート複合クッキーの保存中のマイグレーションについて、下記評価基準に則って評価を行った。評価結果を表3に示す。
チョコレート複合クッキーA~Lを25℃で保存し、保存開始から60日後のクッキー部分の保存安定性(白色化現象の発生の有無)及びチョコレート部分の保存安定性(ブルーム現象の発生の有無)について、下記評価基準に従って4段階で評価した。
クッキー部分の保存安定性の評価基準
◎:白色化なし
〇:表面にやや色ムラあり
△:若干白色化
×:白色化あり
チョコレート部分の保存安定性の評価基準
◎:ブルームなし
○:やや艶がない
△:若干ブルームあり
×:ブルームあり
チョコレート複合クッキーA~Lを25℃で保存し、保存開始から60日後のクッキーの食感(噛みだし、口溶け、口中での崩壊性)について、同一の品を喫食した際に同一の評価点を付すことができるように訓練された10人のパネラーにより、下記評価基準に従って4段階で官能評価を行った。評価の際には、チョコレート複合クッキーと同一の保存条件で保存された、複合化されていないクッキーを対照品として用いた。
表3においては、パネラー10名の合計点を評価点数として、評価点数が32~40点を◎、23~31点を○、14~22点を△、13点以下を×として示した。
4点:非常に口溶けやバラけがよく、良好なサクサクとした噛みだしを有している。
3点:口溶け・バラけがよく、やや目が詰まっているが、サクサクとした噛みだしを有している。
2点:口溶けやバラけがやや悪く、目が詰まっていて、固い噛みだしを有している。若しくは、口溶け・バラけはよいが、軟らかく、サクサクとした噛みだしが乏しかった。
1点:口溶け・バラけが悪い上、噛みだしが固く、ガリガリとした食感を有している。若しくは、口溶け・バラけはよいが、軟らかく、サクサクとした噛みだしが感じられなかった。
チョコレート複合クッキーA~Lの製造直後に、得られたチョコレート複合クッキーのクッキー部分について、SMART System5(CEM Japan社製)を使用して油分を測定した。チョコレート複合クッキーを25℃で保存し、保存開始から60日後において、チョコレート複合クッキーのクッキー部分について、製造直後と同様にして油分を測定した。製造直後及び保存後の油分の値から、油分移行率を次式により求めた。
〔(A-B)/A〕×100 (%)
(A:製造直後のクッキーの油分、B:保存後のクッキーの油分)
一方で、例えばチョコレート複合クッキーAとチョコレート複合クッキーKを比較すると、同等程度に脂肪酸残基組成中の炭素数20以上の飽和脂肪酸残基量であるにも関わらず、その評価が分かれている。このことからも分かるとおり、単に炭素数20以上の飽和脂肪酸残基が含有されていればよいのではなく、BO2の形態で含有されることで、マイグレーションを抑えられ、良好な外観や食感が得られやすいことが確認された。
また、チョコレート複合クッキーJの結果から、単にBO2が多く含まれるだけではなく、用いる油脂組成物のSFCが一定程度高まっていることがマイグレーションの抑制に重要であることが示唆された。
上述の油脂組成物A及び油脂組成物Bの配合をベースに、乳化剤の使用について検討した。
油脂配合物A99.5質量部を65℃に加熱溶解した後、炭素数16の飽和脂肪酸残基を有するモノグリセリドの製剤としてエマルジーMP(理研ビタミン社製)0.1質量部、炭素数18の不飽和脂肪酸残基を有するモノグリセリドの製剤としてエマルジーMO(理研ビタミン社製)を0.4質量部加えて油相を調製し、この油相を急冷可塑化しながら油脂組成物100g中15ccとなるように含気させ、可塑性を有する油脂組成物A-2を得。
油脂配合物A99.0質量部を65℃に加熱溶解した後、炭素数16の飽和脂肪酸残基を有するモノグリセリドの製剤としてエマルジーMP(理研ビタミン社製)0.1質量部、炭素数18の不飽和脂肪酸残基を有するモノグリセリドの製剤としてエマルジーMO(理研ビタミン社製)0.4質量部、ソルビタン脂肪酸エステルとしてソルビタントリステアレート(エステル化率75%)0.5質量部を加えて油相を調製し、この油相を急冷可塑化しながら油脂組成物100g中15ccとなるように含気させ、可塑性を有する油脂組成物A-3を得た。
油脂配合物B99.5質量部を65℃に加熱溶解した後、炭素数16の飽和脂肪酸残基を有するモノグリセリドの製剤としてエマルジーMP(理研ビタミン社製)0.1質量部、炭素数18の不飽和脂肪酸残基を有するモノグリセリドの製剤としてエマルジーMO(理研ビタミン社製)を0.4質量部加えて油相を調製し、この油相を急冷可塑化しながら油脂組成物100g中15ccとなるように含気させ、可塑性を有する油脂組成物B-2を得た。
(実施例2-3)
油脂配合物B99.0質量部を65℃に加熱溶解した後、炭素数16の飽和脂肪酸残基を有するモノグリセリドの製剤としてエマルジーMP(理研ビタミン社製)0.1質量部、炭素数18の不飽和脂肪酸残基を有するモノグリセリドの製剤としてエマルジーMO(理研ビタミン社製)0.4質量部、ソルビタン脂肪酸エステルとしてソルビタントリステアレート(エステル化率75%)0.5質量部を加えて油相を調製し、この油相を急冷可塑化しながら油脂組成物100g中15ccとなるように含気させ、可塑性を有する油脂組成物B-3を得た。
Claims (7)
- 下記条件(1)~(3)を全て満たす油脂組成物。
(1)油相の脂肪酸残基組成中の炭素数20以上の飽和脂肪酸残基の含有量が2~10質量%である。
(2)油相のトリグリセリド組成中のBO2の含有量が4~8質量%である。
(3)固体脂含量が、10℃で45~65%、20℃で25~42%、30℃で5~22%である。
Bは炭素数22の飽和脂肪酸残基を表し、Oは炭素数18の不飽和脂肪酸残基を表し、BO2はBが1つ、Oが2つ結合しているトリグリセリドを表す。 - 下記条件(a-1)~(a-3)を全て満たすエステル交換油脂(A)を含有する、請求項1記載の油脂組成物。
(a-1)脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基と不飽和脂肪酸残基との質量比が、前者:後者で0.45~0.65:1である。
(a-2)脂肪酸残基組成中の飽和脂肪酸残基に対する炭素数22の飽和脂肪酸残基の含有量が、30~60質量%である
(a-3)トリグリセリド組成中のBO2トリグリセリドとB2Oトリグリセリドとの質量比(BO2/B2O)が3以上である。
B2OはBが2つ、Oが1つ結合しているトリグリセリドを表す。 - 炭素数16以上の飽和脂肪酸残基を有するモノグリセリドと、炭素数16以上の不飽和脂肪酸残基を有するモノグリセリドとを、前者対後者で1:2~6の質量比で含有する、請求項1又は2記載の油脂組成物。
- 焼菓子用である、請求項1~3のいずれか一項に記載の油脂組成物。
- 請求項4に記載の油脂組成物を用いて製造された焼菓子。
- 請求項5の焼菓子を用いて製造された複合菓子。
- 請求項1~4のいずれか一項に記載の油脂組成物を焼菓子生地に使用する、複合菓子のマイグレーションの抑制方法。
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