以下、本実施の形態について図に基づいて説明する。
実施の形態1.
まず本実施の形態のパワー半導体モジュールを製造するための装置としての、パワーモジュール製造装置の構成について、図1~図4を用いて説明する。なお、説明の便宜のため、X方向、Y方向、Z方向が導入されている。図1は実施の形態1に係るパワーモジュール製造装置の第1例の構成を示す概略断面図である。図2は実施の形態1に係るパワーモジュール製造装置の第1例の、特に固定部材よりZ方向下方の構成を示す概略平面図であり、図1中のII-II線に沿う部分の断面図として見た概略平面図である。
図1および図2を参照して、本実施の形態の第1例のパワーモジュール製造装置M1は、金型部材1と、第1の成形用部材としてのインサートキャビティ2と、第2の成形用部材としてのプランジャ3と、固定部材4とを主に有している。パワーモジュール製造装置M1は、パワー半導体モジュールに含まれるたとえばリード51と、ダイパッド52,53と、半導体素子8となどを樹脂材料により封止する工程に用いられる装置である。ここでダイパッド52,53は、端子部材としての後述するリードフレーム5のうち、半導体素子8を搭載する領域を意味する。
金型部材1は、上金型11と、下金型12とを有している。上金型11は金型部材1のうちZ方向の上側に配置され、下金型12は金型部材1のうちZ方向の下側に配置される。上金型11と下金型12とが噛み合うことにより、たとえば電気回路が形成されたリードフレーム5が型閉めされる。図1においては金型部材1にセットされたリードフレーム5が、上金型11および下金型12に接触しながら挟まれるように型閉めされた状態が示される。すなわち上金型11と下金型12とが図1のように噛み合った状態では、上金型11の上金型内壁面13と、下金型12の下金型内壁面14となどの内部に金型内空洞部15が形成される。上金型内壁面13は上金型11のうち下金型12と噛み合わせられた状態にて金型内空洞部15の内壁面となる面である。下金型内壁面14は下金型12のうち上金型11と噛み合わせられた状態にて金型内空洞部15の内壁面となる面である。上金型内壁面13および下金型内壁面14は、Z方向に沿って延びる部分がZ方向に対して傾斜した内壁面テーパ17を含んでいてもよい。
上金型内壁面13は金型が閉じられた状態で最上部に配置される面と、側面として配置される面とを有している。これに対して、下金型内壁面14は少なくとも図1の断面図においては金型が閉じられた状態で側面として配置される面のみを有し、最下部には面を有していない。しかし下金型内壁面14にも図1の断面以外の領域において最下部の面を有してもよいし、有さなくてもよい。
インサートキャビティ2は金型部材1内、特に下金型内壁面14内に配置されている。インサートキャビティ2は、たとえばXY平面に関して矩形状であり、下金型内壁面14に沿ってZ方向に延びる直方体状のキャビティ本体21として形成されている。インサートキャビティ2は下金型12の金型内空洞部15内を、図1中に矢印で示すようにZ方向に沿って上下に摺動可能である。図示されないが、インサートキャビティ2のキャビティ本体21は、たとえばモータを用いた一般公知の移動機構により、上下方向に往復運動が可能となっている。
たとえばインサートキャビティ2の最上面には、第1の熱硬化性樹脂としての第1のモールド樹脂101が載置される。インサートキャビティ2は、金型部材1内すなわち金型内空洞部15にて半導体素子8を搭載するリードフレーム5のダイパッド52,53とともに、Z方向に関して、封止される前の第1のモールド樹脂101を挟む。インサートキャビティ2は、ダイパッド52,53との間で第1のモールド樹脂101を挟みながら、Z方向に往復運動するように摺動可能である。図1においては、第1のモールド樹脂101は、ダイパッド52,53との間で、すなわちダイパッド52,53から見たときに、半導体素子8が配置されるZ方向上側とは反対側であるZ方向下側に配置されている。これを言い換えれば、インサートキャビティ2は、第1のモールド樹脂101を載せた状態で、金型内空洞部15をZ方向上側に摺動する。金型内空洞部15のインサートキャビティ2上には、たとえば半導体素子8の封止材料としての第1のモールド樹脂101aが供給される。第1のモールド樹脂101aは上記の第1のモールド樹脂101と同一の材質からなる同等の部材である。
本実施の形態においては、半導体素子8を封止する樹脂材料としては、第1のモールド樹脂101の他に、第2の熱硬化性樹脂としての第2のモールド樹脂102が存在する。第2のモールド樹脂102は、第2の成形用部材としてのプランジャ3により、金型部材1内、特に金型内空洞部15に注入される。プランジャ3はプランジャ配置領域31に配置される。プランジャ配置領域31には樹脂搭載用空洞部32が設けられている。この樹脂搭載用空洞部32は、金型部材1の樹脂通過部18を介して、金型内空洞部15と一体の空洞部として繋がっている。
したがって樹脂搭載用空洞部32の第2のモールド樹脂102は、樹脂通過部18を通って金型内空洞部15に進入可能である。このため金型内空洞部15には第1のモールド樹脂101と第2の熱硬化性樹脂とが供給される。このように2種類の熱硬化性樹脂が異なる部材から金型内空洞部15に供給されることにより、半導体素子8が封止されたパワー半導体モジュールが形成される。
このように2つの異なる部材により金型内空洞部15に2種類の熱硬化性樹脂が供給されるパワーモジュール製造装置M1においては、インサートキャビティ2を金型部材1に対して固定させる固定部材4が備えられている。固定部材4は、たとえば平面視においてXY平面に沿って主表面が拡がりX方向に長く延びる矩形状の平板であってもよい。
インサートキャビティ2は、下金型内壁面14に沿ったZ方向の摺動により、金型部材1内、特に金型内空洞部15に挿入可能である。ここで、金型部材1には固定部材挿入孔16aおよび固定部材挿入孔16bが形成されている。またインサートキャビティ2には、固定部材挿入孔22が形成されている。固定部材挿入孔16a、16b、22はいずれも、平面視においてたとえばXY平面に沿うように水平方向に拡がる矩形状を有している。なおインサートキャビティ2の外壁と下金型12の内壁との間隔23は、インサートキャビティ2の上下方向の摺動が可能でありかつ金型内空洞部15内に供給された樹脂材料が漏出しない程度であることが好ましい。
固定部材挿入孔16aは、X方向に複数並ぶ下金型12のX方向に関する外側の下金型内壁面14から外側へ、X方向に関して下金型12を貫通するように形成されている。具体的には、図1においてX方向に2つ並ぶ金型部材1のうち左側の金型部材1は、金型内空洞部15の左側の下金型12の部分を貫通するように固定部材挿入孔16aが形成されている。一方、図1における右側の金型部材1は、金型内空洞部15の右側の下金型12の部分を貫通するように固定部材挿入孔16aが形成されている。なおX方向において金型部材1の外側に駆動機構19を有する場合には、図1および図2のように、各固定部材挿入孔16aは下金型12に加え当該駆動機構19も貫通するように形成されてもよいし、貫通されなくてもよい。なお駆動機構19は、固定部材4をX方向に摺動させるための機材である。駆動機構19は、たとえば強度が高く熱伝導率が高い、超硬合金などにより形成されることが好ましい。
固定部材挿入孔16bは、X方向に複数並ぶ下金型12のX方向に関する内側の下金型内壁面14から内側へ掘られた凹部を形成するような態様を有している。具体的には、図1の左側の金型部材1においては、金型内空洞部15の右側の下金型12の部分に固定部材挿入孔16bが形成されている。また図1の右側の金型部材1においては左側の下金型12の部分に固定部材挿入孔16bが形成されている。なお固定部材挿入孔16bも固定部材挿入孔16aと同様に下金型12の基材部分を貫通してもよい。また1つの下金型12においては、固定部材挿入孔16aと固定部材挿入孔16bとはZ方向高さがほぼ同じ位置に形成される。
インサートキャビティ2の固定部材挿入孔22は、インサートキャビティ2をX方向、すなわちインサートキャビティ2の摺動方向に交差する方向に関して貫通するように形成されている。
以上のように形成されるため、インサートキャビティ2の摺動による金型部材1に対する位置に応じて、金型部材1およびインサートキャビティ2を跨ぐように、固定部材挿入孔が形成されている。具体的には、インサートキャビティ2が上下方向に摺動することにより、固定部材挿入孔22のZ方向の位置が、固定部材挿入孔16a,16bのZ方向の位置とほぼ同じになることがある。このとき、それぞれの固定部材挿入孔16a,16b,22は同一のXY平面上に並ぶ位置となり、互いに連なって1つのX方向に長く延びる挿入孔となる。
このため、それぞれの固定部材挿入孔16a,16b,22は同一のXY平面上に並ぶ位置となったときには、各固定部材挿入孔16a,16b,22内には、たとえばX方向外側から、1つの平板状の固定部材4を挿入することが可能となる。またこの状態においては、挿入された固定部材4は、連なった各挿入孔内をX方向に関して移動可能となる。このように、平板形状を有する固定部材4がインサートキャビティ2の摺動方向であるZ方向に交差する方向、すなわちX方向に摺動する。これにより、固定部材挿入孔16a,16b,22内に固定部材4が挿入可能である。
図3は実施の形態1に係るパワーモジュール製造装置の第2例の、特に固定部材よりZ方向下方の構成を示す概略平面図であり、同製造装置の第1例における図2に対応する概略平面図である。図3を参照して、本実施の形態の第2例のパワーモジュール製造装置M2は、同第1例のパワーモジュール製造装置M1と大筋で同様の構成を有している。このため図3において図2と同一の構成要素には同一の符号を付しその説明を繰り返さない。ただしパワーモジュール製造装置M2は、プランジャ配置領域31を挟んで、その左側および右側のそれぞれに、X方向に2つずつの金型部材1が並ぶように配置されている。この点においてパワーモジュール製造装置M1は、プランジャ配置領域31を挟んでその左側および右側のそれぞれに、X方向に1つずつの金型部材1が配置されるパワーモジュール製造装置M1と構成上異なっている。
図3に示すように、プランジャ配置領域31のたとえば左側においてX方向に2つ並ぶ金型部材1のそれぞれの固定部材挿入孔16a,16b,22同士がX方向に関してすべて1つに連なることが可能な構成であってもよい。この場合、たとえば図3のX方向外側(プランジャ配置領域31の左側に2列並ぶ金型部材1のうちX方向左側の金型部材1)の固定部材挿入孔16bは、固定部材挿入孔16aと同様に、下金型内壁面14から外側へ、X方向に関して下金型12を貫通するように配置されてもよい。以上はプランジャ配置領域31の右側においてX方向に2つ並ぶ金型部材1のそれぞれの固定部材挿入孔16a,16b,22についても同様である。
図3に示すように、プランジャ配置領域31のX方向に関する片側に、X方向に関して2つ以上の金型部材1が並ぶように配置されてもよい。また図2、図3ともに金型部材1のインサートキャビティ2および金型内空洞部15などは、Y方向に関して3つずつ並ぶように配置されている。しかしこれらがY方向に関して並ぶ数についても3つに限らず、2つ以下であっても4つ以上であってもよい。
図4は図1におけるダイパッド52,53を含むリードフレームの構成、およびダイパッド52,53に半導体素子8が搭載された部分の構成を示す概略平面図である。図4および再度図1を参照して、端子部材としてのリードフレーム5は、銅などの金属材料により形成された薄い部材である。
リードフレーム5は、リード51と、ダイパッド52と、ダイパッド53と、接続部54とを有している。リード51は、形成されるパワー半導体モジュールとその外部との電気的な接続を可能とする、細長く延びた端子の部分である。ダイパッド52,53は既述のようにリードフレーム5のうち、半導体素子8を搭載する領域である。ダイパッド52およびダイパッド53のそれぞれはリード51と一体として形成されている。ダイパッド52およびダイパッド53は、半導体素子8を接合するために、リード51よりも幅が広く、平面積が大きくなっている。
ダイパッド52またはダイパッド53と一体として形成されたリード51は複数形成されている。それら複数のリード51同士が接続部54において互いに連結されている。図4においては接続部54は平面視においてそれぞれのダイパッド52,53を囲みつつ各リード51を繋ぐような矩形状を有しているがこれに限られない。なお接続部54は、パワー半導体モジュールの製造工程にて樹脂封止される前に切断され、個々のリード51が分離された状態となる。
より具体的には、図1および図4では、半導体素子8として、パワー半導体素子81と、これに接続される他の半導体素子82とを有している。パワー半導体素子81は、たとえば絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor)またはダイオードなどの素子が搭載された半導体チップである。他の半導体素子82は、たとえばIC(integrated circuit)またはダイオードなどの素子が搭載された半導体チップである。
パワー半導体素子81はダイパッド52上に、はんだまたは銀ペーストなどの導電性接着剤7により接合されている。また他の半導体素子82はダイパッド53上に、はんだまたは銀ペーストなどの導電性接着剤7により接合されている。
図4に示すように、ダイパッド52に接合されたパワー半導体素子81は、そのパワー半導体素子81が接合されたダイパッド52と一体のリード51とは異なるリード51と、ワイヤ91により接合されている。図4においては、各パワー半導体素子81は、それが接合されたダイパッド52の左隣のダイパッド52と一体のリード51に接合されている。
パワー半導体素子81と他の半導体素子82とは、ワイヤ92により接合されている。またダイパッド53に接合された他の半導体素子82は、その周囲のリード51とワイヤ93により接合されている。図4に示すように、他の半導体素子82が接合されるリード51は、パワー半導体素子81が接合されるリード51とは延びる方向が互いに逆向きであることが好ましい。ただしこれに限らず、たとえばパワー半導体素子81と他の半導体素子82とは互いに同じ向きに延びるリード51に接合されてもよい。
なおワイヤ91,92,93のそれぞれは、金または銀などの金属材料により形成され、一般公知のワイヤボンディング法により接合される。図4のような各部材の接続態様により、パワー半導体モジュールの電気回路が形成される。
次に、本実施の形態のたとえばパワーモジュール製造装置M1を用いたパワー半導体モジュールの製造方法について、図5~図9を用いて説明する。
図5は実施の形態1のパワーモジュール製造装置M1を用いたパワーモジュールの製造方法の第1工程を示す概略断面図である。なお以降の各図においては駆動機構19は図示省略されるが実際には図1のように駆動機構19が備えられてもよい。図5を参照して、図1に示す構成を有するパワーモジュール製造装置M1が準備される。他方、図4に示すようにダイパッド52,53に半導体素子8が接合され、各部同士がワイヤ9(ワイヤ91,92,93)で接合されたリードフレーム5が準備される。
このリードフレーム5がパワーモジュール製造装置M1に図5のようにセットされる。図5に示すように、型閉め時に上金型11と下金型12とが噛み合うように接近する部分にリード51の付け根部分が載置され、型閉め時に形成される金型内空洞部15にダイパッド52,53が配置されるように、リードフレーム5がセットされる。なお図5の時点においては上金型11と下金型12とは互いに開かれた状態となっている。
この時点ではインサートキャビティ2はZ方向下方に配置されていてもよい。この状態で、金型部材1の上金型11および下金型12が、150℃以上に加熱される。なお上金型11および下金型12には図示されないヒータが内蔵されている。上金型11および下金型12が加熱されたところで、インサートキャビティ2の上面上には第1の熱硬化性樹脂としての第1のモールド樹脂101aが配置される。またプランジャ3の上面上には第2の熱硬化性樹脂としての第2のモールド樹脂102aが配置される。第2のモールド樹脂102aは上記の第2のモールド樹脂102と同一の材質からなる同等の部材である。
第1のモールド樹脂101aは顆粒形状、容易に溶けて流動しやすい粉末形状、または搬送性の良好なシート形状のいずれかであることが好ましい。第2のモールド樹脂102aは搬送性の良好なタブレット形状のいずれかであることが好ましい。
第1のモールド樹脂101aは、インサートキャビティ2上に配置された時点で熱により溶けて拡がることが好ましい。また第1のモールド樹脂101aは、インサートキャビティ2上で溶融した際にダイパッド52,53の平面積よりも大きな平面積となるように拡がることが好ましい。このようにすれば、第1のモールド樹脂101aによるパワー半導体素子81からの放熱性を良好にすることができる。
第1のモールド樹脂101aおよび第2のモールド樹脂102aはほぼ同じ成分を有する樹脂材料であってもよい。具体的には、第1のモールド樹脂101aおよび第2のモールド樹脂102aはエポキシ樹脂をはじめとする樹脂材料に、シリカ、アルミナ、窒化ボロンからなる群から選択されるいずれかのセラミックフィラーが含有された絶縁性の材料であることが好ましい。ただし第1のモールド樹脂101aと第2のモールド樹脂102aとは、以下のように少しずつ互いに成分が異なるようにすればより大きな効果を奏する場合がある。
具体的には、第1のモールド樹脂101aは汎用的なシリカよりも熱伝導率が高い材料、すなわちアルミナまたは窒化ボロンを多く含有することがより好ましい。第1のモールド樹脂101aの全体の線膨張係数は25ppm以下であることが好ましく、17ppm以下であることがより好ましい。このようにすれば第1のモールド樹脂101aは、リードフレーム5を構成する銅との密着性を良好にすることができる。
一方、第2のモールド樹脂102aは、溶融シリカなどのサイズの小さなフィラーを有することがより好ましい。このようにすれば、流動性を良好にすることができる。また第2のモールド樹脂102aの全体の線膨張係数は25ppm以下であることが好ましく、17ppm以下であることがより好ましい。このようにすれば第2のモールド樹脂102aは、リードフレーム5を構成する銅との密着性を良好にすることができる。
なお第1のモールド樹脂101aおよび第2のモールド樹脂102aを配置するための供給機構は図示および説明を省略する。
また別の観点から言えば、第1のモールド樹脂101aの熱伝導率は、第2のモールド樹脂102aの熱伝導率よりも高いことがより好ましい。
図6は実施の形態1のパワーモジュール製造装置M1を用いたパワーモジュールの製造方法の第2工程を示す概略断面図である。図6を参照して、第1のモールド樹脂101aが溶融した後、上金型11および下金型12が互いに接触するまで接近する。これによりリードフレーム5が型閉めされる。
この後、コンプレッションモールド法により、インサートキャビティ2がZ方向上方へ上昇される。ここでコンプレッションモールド法とは、インサートキャビティ2上に載置された第1のモールド樹脂101aを、リードフレーム5に対してZ方向の下方から上方へ流動させる手法を意味する。すなわちZ方向に関してリードフレーム5のダイパッド52とインサートキャビティ2の間に第1のモールド樹脂101aが挟まれた状態を保ちながら、金型部材1内に配置された半導体素子8を搭載するリードフレーム5側すなわち上側へ、金型部材1内をインサートキャビティ2が摺動する。このようなインサートキャビティ2の上昇により、拡がった第1のモールド樹脂101aはダイパッド52の下側の表面に接触し、第1のモールド樹脂101bとしての態様となる。
なお図6のように、ダイパッド52の下側に第1のモールド樹脂101bが接触しながらインサートキャビティ2が上昇すれば、ダイパッド52が下からの力によって上方向に変形する場合がある。仮にダイパッド52が上方向に変形すれば、パワー半導体素子81からダイパッド52への放熱性が低下し、パワー半導体素子81が故障する可能性がある。
そこでこのような問題を回避し、第1のモールド樹脂101bがダイパッド52に与える力を小さくするとともに、第1のモールド樹脂101bの流動性を良好にする観点から、第1のモールド樹脂101bの粘度は50Pa・s以下であることが好ましい。なおそのなかでも、第1のモールド樹脂101bの粘度は20Pa・s以下であることがより好ましい。
また上記の問題を回避する観点から、図6に示すように、ダイパッド52を上方からピン103で下向きに押さえてもよい。これによっても第1のモールド樹脂101bの押圧に起因するダイパッド52の上方向への変形を抑制することができる。ピン103は図示しない駆動機構(たとえば図1の駆動機構19)により上下方向に移動させることができる棒状の部材である。
たとえば型閉めの後、インサートキャビティ2の上昇が開始する前に、ピン103は、ダイパッド52と接触する位置まで下降する。ピン103はインサートキャビティ2の上昇摺動が始まってから第1のモールド樹脂101bの流動が完了するまでダイパッド52に接触した状態が保たれる。第1のモールド樹脂101bの流動の完了後、ピン103は上方に引き上げられる。
図7は実施の形態1のパワーモジュール製造装置M1を用いたパワーモジュールの製造方法の第3工程を示す概略断面図である。図7を参照して、図6でのインサートキャビティ2の上昇により第1のモールド樹脂101bがダイパッド52に接触した後、さらにインサートキャビティ2が上昇する。このようなインサートキャビティ2の上方への摺動は、第1のモールド樹脂101bの摺動する方向であるZ方向に沿った第1の厚みhが、ダイパッド52の下に形成しようとする第1のモールド樹脂101bの封止樹脂層の第2の厚みに(ほぼ)等しくなるまで続けられる。第1のモールド樹脂101bのZ方向の厚みhが所望の厚みとなったところでインサートキャビティ2の上昇は終了し、その位置が固定される。
上記のように第1のモールド樹脂101bの第1の厚みが所望の第2の厚みと(ほぼ)等しくなるときにちょうど、インサートキャビティ2の固定部材挿入孔22と、下金型12の固定部材挿入孔16a,16bとが同一のXY平面上に並ぶ位置となり、互いに連なって1つのX方向に長く延びる挿入孔となる。この状態になったときに、連なって一体となった固定部材挿入孔16a,16b,22に固定部材4が挿入される。このため固定部材4が固定部材挿入孔16a,16b,22を跨ぐことにより当該固定部材4は金型部材1とインサートキャビティ2とを跨ぐように配置される。これによりインサートキャビティ2はその摺動方向すなわちZ方向について固定部材4から干渉を受けるため、Z方向の移動が妨げられ、インサートキャビティ2は金型部材1に対して位置固定される。このようにして、インサートキャビティ2を摺動する工程においては、固定部材4により、インサートキャビティ2が金型部材1に対して固定される。
なお固定部材4は、20mm以上のZ方向厚みを有することが好ましい。このようにすれば、固定部材4は、上からの圧力に対して強度を保ち、変形を抑制できる。また固定部材4と、固定部材挿入孔16a,16b,22のZ方向に関するクリアランスは100μm以下であることが好ましい。
図8は実施の形態1のパワーモジュール製造装置M1を用いたパワーモジュールの製造方法の第4工程を示す概略断面図である。図8を参照して、インサートキャビティ2の上方への摺動が終わりこれが固定部材4で金型部材1に対しZ方向に固定された後に、プランジャ3を用いて金型部材1の金型内空洞部15内に第2のモールド樹脂102aが注入される。具体的には、プランジャ3が図中の矢印に示すように上方向に押し上げられる。すなわちトランスファーモールド法により、第2のモールド樹脂102aは溶融され、第2のモールド樹脂102bとなる。プランジャ3の上昇により加圧された第2のモールド樹脂102bは、プランジャ配置領域31の樹脂搭載用空洞部32を通る。さらに当該第2のモールド樹脂102bは、樹脂搭載用空洞部32と一体に繋がる樹脂通過部18を通り、樹脂通過部18と一体に繋がる金型内空洞部15内に流入される。なお樹脂通過部18は、型閉めされたリードフレーム5の部分よりも下側に位置してもよく、上側に位置してもよい。
さらに、形成されるパワー半導体モジュールの第2のモールド樹脂102bによる封止樹脂層内のボイド発生を抑制する観点から、プランジャ3による上方への圧力は50kgf/cm2以上であることが好ましい。なお当該圧力は100kgf/cm2以上であることがより好ましい。
また、第2のモールド樹脂102bが最後に充填される領域、すなわちたとえば金型部材1のX方向外側の領域(図8の左側の金型部材1の左側、および図8の右側の金型部材1の右側)にはエアベント25が設けられることが好ましい。エアベント25は、図示しない真空引きの機構と接続されるために設けられる領域である。このエアベント25は、溶融した第1のモールド樹脂101bおよび第2のモールド樹脂102bから発生する溶剤揮発成分を取り除くため、真空引きの機構と接続し、金型内空洞部15を大気圧よりも大幅に低い真空状態に保つ処理がなされる。エアベント25のZ方向の厚みは25μm以下とすることが好ましい。このようにすれば、第2のモールド樹脂102bがエアベント25から外部に漏れることを抑制できる。
図9は実施の形態1のパワーモジュール製造装置M1を用いたパワーモジュールの製造方法の第5工程を示す概略断面図である。図9を参照して、最終的に第1のモールド樹脂101bおよび第2のモールド樹脂102bは、固化により第1のモールド樹脂101cおよび第2のモールド樹脂102cとなる。この状態で、固定部材挿入孔16a,16b,22内に挿入されていた固定部材4が元の位置に戻される。次に上金型11を上昇させて型開きがなされる。
その後、インサートキャビティ2がさらに上昇することにより、形成されたパワー半導体モジュールD1が離型される。このとき、仮に先の工程において樹脂通過部18が型閉めされたリードフレーム5の部分よりも下側に配置された場合、たとえば第2のモールド樹脂102cがパワー半導体モジュールの封止樹脂層からはみ出し残った樹脂残渣部102dを、製品であるパワー半導体モジュールD1からスムーズに切り離すことができる。最後にプランジャ3を上昇させて、樹脂残渣部102dがプランジャ3上から除去される。
図10は図5~図9の製造方法および製造装置により形成されたパワー半導体モジュールD1の構成を示す概略断面図である。図10を参照して、パワー半導体モジュールD1においては、コンプレッションモールド法により形成された第1のモールド樹脂101cと、トランスファーモールド法により形成された第2のモールド樹脂102cとが充填される。これらの2種類のモールド樹脂により、充填されるべき領域の全体がモールド樹脂で充填された構成となっている。当該モールド樹脂の外形は、金型部材1の金型内空洞部15の形状に沿っている。すなわち当該モールド樹脂の外形は、上金型内壁面13、下金型内壁面14および内壁面テーパ17の形状に沿っている。
パワー半導体モジュールD1において半導体素子81の駆動により発生する熱は、その真下のダイパッド52から下方に放熱される。ダイパッド52の下方の領域は、封止樹脂層として、当該熱を逃がす第1のモールド樹脂101cが充填されている。またダイパッド52の下方以外の領域は、封止樹脂層として、第2のモールド樹脂102cにより充填されている。
このように本実施の形態のパワー半導体モジュールD1は、パワーモジュール製造装置M1を用いて形成される。第1のモールド樹脂101cの充填にはコンプレッションモールド法が用いられ、第2のモールド樹脂101cの充填にはトランスファーモールド法が用いられる。
次に、本実施の形態の背景技術について簡潔に述べた上で、本実施の形態の作用効果について説明する。
第1に、たとえば1種類のモールド樹脂のみを用いて封止樹脂層の全体をたとえばトランスファーモールド法のみにより形成する比較例においては、特にダイパッド52の下側に形成される封止樹脂層の厚みが500μm未満と薄い場合に、当該モールド樹脂が当該ダイパッド52の下側に回り込みにくい。この場合にはモールド樹脂は上側から下側に向けて流入するように充填されることから、最後にモールド樹脂が到達するダイパッド52の下側の領域にはモールド樹脂が届きにくいためである。このためダイパッド52の下側の領域の封止樹脂層にはモールド樹脂が充填されずボイドが形成される可能性がある。
しかし本実施の形態の製造装置、およびこれを用いた製造方法では、ダイパッド52の下側の領域を充填するために第1のモールド樹脂101cが、ダイパッド52の上側の領域などを充填するために第2のモールド樹脂102cとは別の工程により形成されることが前提となる。このため図7のように先に第1のモールド樹脂101bがダイパッド52の下側の領域を充填するようにコンプレッションモールド法により配置され、その後に第2のモールド樹脂102bが上記以外の領域を充填するようにトランスファーモールド法により配置される。したがって形成される封止樹脂層の全体において十分に樹脂材料が充填される。よって封止樹脂層の絶縁性が向上し、パワー半導体モジュールの信頼性を向上させることができる。
第2に、家電製品に搭載されるパワー半導体モジュールは、小型化が特に求められる。パワー半導体モジュールは高電圧・大電流を扱うため発熱が大きい。このためパワー半導体モジュールに定まった容量の電流を通電させるためには、外部に効率的に放熱する必要がある。
特にダイパッド52の下側の領域は、ダイパッド52上に載置されたパワー半導体素子81の熱を逃がすために高い放熱性が要求される領域である。このためダイパッド52の下側の領域は、特に封止樹脂層が十分に充填されるべき領域である。この観点から、本実施の形態のように、トランスファーモールド法とは別のコンプレッションモールド法を用いてダイパッド52の下側の領域に第1のモールド樹脂101cを形成することにより、より高品質な第1のモールド樹脂101cを供給することができる。
本実施の形態の製造方法においては、第1のモールド樹脂101a~101cの熱伝導率は、第2のモールド樹脂102a~102cの熱伝導率よりも高いことが好ましい。仮に封止樹脂層の全体が熱伝導率の高い樹脂材料で構成されれば、半導体素子8からの放熱性をより高めることができ、半導体素子8により大きな電流を流すことができる。しかし樹脂材料は、その熱伝導率が高いほどコストが高くなるという問題がある。そこで本実施の形態のように、高い放熱性が要求されるダイパッド52の下側の領域にのみ選択的に、より熱伝導率の高い第1のモールド樹脂101a~101cを設ける。そしてダイパッド52の下側の領域以外の領域には熱伝導率がたとえば1W/mKと低く低コストな第2のモールド樹脂102a~102cを設ける。これにより、低コストで半導体素子8により大電流を流すことができる。
第3に、たとえ2種類の工程および樹脂材料により封止樹脂層を形成したとしても以下の問題が生じ得る。すなわち、たとえば本願発明の製造装置および製造方法を用いずに、第1のモールド樹脂101aを配置した後に第2のモールド樹脂102bにより封止する比較例では、ダイパッド52の下側に形成される第1のモールド樹脂101bの封止樹脂層が流動しない。すると先に配置された第1のモールド樹脂101aから揮発する成分によって形成される第1のモールド樹脂101cにボイドが残存し、封止樹脂層の絶縁性が不十分になる可能性がある。
しかし本実施の形態の製造装置によれば第1のモールド樹脂101bはこれをダイパッド52との間で挟みながら摺動可能である。また製造方法においては第1のモールド樹脂101bが載置された状態で、ダイパッド52側へ、インサートキャビティ2が摺動する。このため当該摺動時に第1のモールド樹脂101bも動くことにより、第1のモールド樹脂101b中に含まれる空気およびボイドが排出される。したがって最終製品の第1のモールド樹脂101c中にボイドが残存する可能性を低減することができる。よって封止樹脂層の絶縁性が向上し、パワー半導体モジュールの信頼性を向上させることができる。
第4に、たとえば本願発明の製造装置および製造方法を用いずに、本願と同様にコンプレッションモールド法とトランスファーモールド法とを用いた封止工程を行なった比較例においては以下の問題が生じ得る。すなわち、第1のモールド樹脂101bの供給後に上方から第2のモールド樹脂102bがトランスファーモールド法で供給されれば、第2のモールド樹脂102bの注入圧力により第1のモールド樹脂101bの形成されたインサートキャビティ2がZ方向下方に戻され、第1のモールド樹脂101bの厚みがばらつくなど変化する可能性がある。
しかし本実施の形態の製造装置においてはインサートキャビティ2と金型部材1とを跨ぐように配置されることによりインサートキャビティ2を金型部材1に対して固定させる固定部材4が備えられる。また製造方法においては上記のように固定部材4によりインサートキャビティ2が金型部材1に対して固定される。このためトランスファーモールド時の圧力によりインサートキャビティ2が動くことはなく、これに起因する第1のモールド樹脂101bの厚みの変化を抑制することができる。このため形成されるべき第1のモールド樹脂101bの厚みを精密に制御することができる。
図1などに示すように、通常はインサートキャビティ2の平面視における面積がプランジャ3の平面視における面積よりも大きい。このため、インサートキャビティ2をプランジャ3と同様に上昇させるためには、インサートキャビティ2にプランジャ3よりも大きな荷重を加える必要がある。このためパワーモジュール製造装置M1の全体が、大きなプレスを要する高価な装置となる。また一度の工程により封止されるパワー半導体モジュールD1の数が多い場合には、上方への摺動時にプレスによってインサートキャビティ2に印加可能な限界の圧力が、トランスファーモールド法が用いられるプランジャ3の上方への摺動時にプレスによって印加される圧力を下回る。このような場合にトランスファーモールド工程によりインサートキャビティ2が上下方向に意図せず動くことがある。このようにインサートキャビティ2が動いてしまえば、その上に形成される第1のモールド樹脂101cの厚みを制御することができなくなる。
これに対し、本実施の形態においては、インサートキャビティ2は固定部材4により上下方向に動かないよう固定された状態で、所望の厚みの第1のモールド樹脂101cが形成される。このためプランジャ3の摺動時にはプランジャ3のみに上昇のための圧力を加えればよく、インサートキャビティ2には圧力を加える必要がなくなる。したがってプランジャ3の上昇に用いられるモータなどの駆動能力を小さくすることができ、モータ本体のサイズを小さくすることができる。これによりパワーモジュール製造装置M1全体のサイズとを小さくして装置費用を削減することができる。
なお本実施の形態の製造装置によるインサートキャビティ2の金型部材1に対するZ方向位置の固定は、以下のようにして実現される。固定部材4によるインサートキャビティ2の固定は、インサートキャビティ2の上下方向の摺動位置に応じてインサートキャビティ2の固定部材挿入孔22が下金型12のそれと一体となるように連結し、その一体化された固定部材挿入孔内に、平板形状を有する固定部材4が挿入されることにより、容易に実現できる。固定部材挿入孔22が水平方向に関してインサートキャビティ2を貫通するように形成され、これを挟むように形成される金型部材1の固定部材挿入孔16a,16bと固定部材挿入孔22とが1つの連なった固定部材挿入孔を形成する。このため当該連なった固定部材挿入孔に平板状の固定部材4を挿入すれば、インサートキャビティ2を金型部材1に対して固定させることができる。固定部材4がインサートキャビティ2の金型部材1に対するZ方向の移動に対する障害となるためである。
また本実施の形態の製造方法における上記の第1のモールド樹脂101bの厚みの制御は、以下のようにして実現される。すなわちインサートキャビティ2のZ方向の位置が、形成する第1のモールド樹脂101bの厚み(上記の第2の厚み)に対応する好ましい位置に配置されたときにちょうどインサートキャビティ2の固定部材挿入孔22と下金型の固定部材挿入孔16a,16bとが一体連結され、固定部材4が金型部材1とインサートキャビティ2とを跨ぐように挿入される。これにより固定部材4はインサートキャビティ2を金型部材1に対して摺動できないように固定する。このため固定部材4によりインサートキャビティ2の位置固定、およびそれによる第1のモールド樹脂101bの厚みの制御が容易に実現可能となる。
その他にも本実施の形態の製造装置および製造方法は以下の各作用効果を奏する。
たとえば封止樹脂層の全体がコンプレッションモールド法のみにより封止される場合、流動させるべきモールド樹脂の量が多く、かつモールド樹脂を流動させるべき距離も多い。このような場合に比べれば、本実施の形態の製造方法においては、コンプレッションモールド法によりインサートキャビティ2の上方への摺動時に流動する第1のモールド樹脂101aの分量が少ない。このため摺動時におけるインサートキャビティ2の駆動距離が短くなる。これにより摺動時におけるインサートキャビティ2の摩耗が少なくなることにより、パワーモジュール製造装置M1の寿命が長くなり、メンテナンス費用を低減することができる。
なおインサートキャビティ2の上方への摺動距離が短くなれば、その分だけ第1のモールド樹脂101aから排出されるボイドなどの量も少なくなる。しかしそのことによる問題は特に生じない。そもそも摺動される第1のモールド樹脂101aの量が少ないためである。
本実施の形態の製造装置および製造方法によれば、第1のモールド樹脂101aの質量を第2のモールド樹脂102aの質量に対して自由に変更することができる。このため線膨張係数の異なる2種類の樹脂材料を組み合わせて形成されるパワー半導体モジュールD1の反りを容易に調整することができる。仮に形成されるパワー半導体モジュールD1の反りが大きければ、これを他の部材に表面実装する際に端子とはんだとの接合される部分の面積にばらつきが生じ、接合不良が発生する可能性がある。しかし第2のモールド樹脂102a内のセラミックフィラーの充填量を多くして線膨張係数を銅の値である17ppm前後に近づけることにより、形成されるパワー半導体モジュールD1の反り量を小さくすることができる。
さらに、図10に示すように、パワー半導体モジュールD1においては、ダイパッド52の下部のみを第1のモールド樹脂101cが覆う構成である。これにより、第1のモールド樹脂101cの側面は第2のモールド樹脂102cで挟まれ、第1のモールド樹脂101cと第2のモールド樹脂102cとの密着性を良好にすることができる。
その他にも、本実施の形態の製造装置および製造方法を用いて製造されたパワー半導体モジュールについて、以下の作用効果を奏する。
図11は図5~図9の製造方法および製造装置により形成されたパワー半導体モジュールD2の構成を示す概略断面図である。仮にトランスファーモールド法のみを用いて樹脂封止した場合、供給されるモールド樹脂の表面の凹凸は比較的小さくなる。しかし図11を参照して、本実施の形態のパワーモジュール製造装置M1および上記の製造方法を用いて製造されたパワー半導体モジュールD2においては、第1のモールド樹脂101cと第2のモールド樹脂102cとの界面の凹凸が大きくなる。これは第1のモールド樹脂101bの加圧時の流動が大きいためである(図6参照)。これにより、パワー半導体モジュールD2においては、第1のモールド樹脂101cと第2のモールド樹脂102cとの密着性をより向上させることができる。
図12は図5~図9の製造方法および製造装置により形成されたパワー半導体モジュールD3の構成を示す概略断面図である。図12を参照して、第1のモールド樹脂101b(図6参照)が加圧時に大きく流動することにより、高熱伝導性の第1のモールド樹脂101bがパワー半導体素子81の周囲にまで達する。これにより、パワー半導体モジュールD3においては、パワー半導体素子81からの放熱性が良好になる。
図13は図5~図9の製造方法および製造装置により形成されたパワー半導体モジュールD4の構成を示す概略断面図である。図13を参照して、パワー半導体モジュールD4においては、絶縁層104がダイパッド52の真下に配置され、これと第1のモールド樹脂101cとを有することにより他のパワー半導体モジュールD1~D3の第1のモールド樹脂101cと同様に機能する構成を有している。このように絶縁層104が別途配置されている点においてパワー半導体モジュールD4は他のパワー半導体モジュールD1~D3と構成上異なっている。
絶縁層104を有する場合においても、パワー半導体モジュールD4を本実施の形態のパワーモジュール製造装置M1および製造方法を用いて形成することができる。このようにすれば、絶縁層104の存在する分だけ、高熱伝導性を有する第1のモールド樹脂101bに高い圧力を加え、これをより薄く形成することが可能となる。
実施の形態2.
まず本実施の形態のパワー半導体モジュールを製造するための装置としての、パワーモジュール製造装置の構成について、図14~図16を用いて説明する。図14は実施の形態2に係るパワーモジュール製造装置の第1例の構成を示す概略断面図である。図15は実施の形態2に係るパワーモジュール製造装置の第1例の、特に固定部材よりZ方向下方の構成を示す概略平面図であり、図14中のXV-XV線に沿う部分の断面図として見た概略断面図である。図16は図14中の点線で囲まれた領域XVIの概略拡大断面図である。
図14および図15を参照して、本実施の形態の第1例のパワーモジュール製造装置M3は、固定部材の部分の構成において、実施の形態1のパワーモジュール製造装置M1と異なっている。具体的には、パワーモジュール製造装置M3においてもパワーモジュール製造装置M1と同様に、インサートキャビティ2は、下金型内壁面14に沿ったZ方向の摺動により、金型部材1内、特に金型内空洞部15に挿入可能である。
金型部材1の下金型12の内壁には、当該内壁面が凹部として掘られた形状を有する空洞部16c,16dが形成されている。空洞部16cは図14に示す金型部材1の左側の内壁から図の左側へ、水平方向に沿って、言い換えればインサートキャビティ2の摺動方向に交差する方向に沿って延びている。同様に空洞部16dは図14に示す金型部材1の右側の内壁から図の右側へ、水平方向に沿って、言い換えればインサートキャビティ2の摺動方向に交差する方向に沿って延びている。
図14に示すように、金型部材1においては左側の空洞部16cと右側の空洞部16dとはZ方向の高さがほぼ同じ位置に形成される。また図14に示すように、インサートキャビティ2においては左側の空洞部22aと右側の空洞部22bとはZ方向の高さがほぼ同じ位置に形成される。
一方、インサートキャビティ2の外壁には、当該外壁面が凹部として掘られた形状を有する空洞部22a,22bが形成されている。空洞部22aは図14に示す金型部材1の左側の外壁から図の右側へ、水平方向に沿って、言い換えればインサートキャビティ2の摺動方向に交差する方向に沿って延びている。同様に空洞部22bは図14に示す金型部材1の右側の外壁から図の左側へ、水平方向に沿って、言い換えればインサートキャビティ2の摺動方向に交差する方向に沿って延びている。図15に示すように、空洞部22a,22bはいずれも、平面視においてたとえばXY平面に沿うように水平方向に拡がる矩形状を有している。
インサートキャビティ2は、実施の形態1と同様に、下金型12の金型内空洞部15内を、図14中に矢印で示すようにZ方向に沿って上下に摺動可能である。このインサートキャビティ2の摺動により、金型部材1に対するZ方向の位置が変化する。このためインサートキャビティ2の摺動による金型部材1に対する位置に応じて、金型部材1およびインサートキャビティ2を跨ぐように、X方向に延びる(XY平面に沿って拡がる)空洞部16c,16d,22a,22bが形成されている。具体的には、インサートキャビティ2が上下方向に摺動することにより、空洞部22a,22bのZ方向の位置が、空洞部16c,16dのZ方向の位置とほぼ同じになることがある。このとき、空洞部22aと空洞部16cとは同一のXY平面上に並ぶ位置となり、互いに連なって1つのX方向に長く延びる挿入孔となる。同様に、空洞部22bと空洞部16dとは同一のXY平面上に並ぶ位置となり、互いに連なって1つのX方向に長く延びる挿入孔となる。
金型部材1の空洞部16c,16d内には、固定部材41が配置可能となっている。固定部材41は、たとえばXY平面に沿う矩形状を有する平板形状である。また空洞部16c、16dは、Z方向下方に少し延び拡がる領域を有し、当該延び拡がる領域内には、回転駆動部42が配置されている。回転駆動部42はたとえばモータにより回転可能な歯車などの部材であり、回転中心42cを中心に回転する。回転駆動部42は、その周の回転による移動方向が、固定部材41の摺動方向すなわちX方向に沿うように配置されている。回転駆動部42のたとえば歯車状の周の部分は固定部材41のZ方向下面の、摺動方向に沿う歯車状の部分に沿い、噛み合いながら接するように配置されている。これにより、特に図16を参照して、回転駆動部42中の矢印Rの方向に回転することにより、これに接する固定部材41が、たとえばX方向に沿って図16中の矢印Mに示すように、空洞部16cなどの内部をX方向に沿って移動可能である。
すなわち固定部材41が金型部材1の空洞部16c,16d内のみに収納された第1の状態と、固定部材41が金型部材1の空洞部16c,16d内とインサートキャビティ2の空洞部22a,22bとを跨ぐように配置された第2の状態との切り替えが可能となっている。具体的には、図15においてY方向に3列並ぶインサートキャビティ2のうち1列目および3列目のものは第1の状態となっており、2列目のものは第2の状態となっている。
第1の状態においては固定部材41は金型部材1とインサートキャビティ2とを跨がないため、インサートキャビティ2は摺動方向すなわちZ方向に移動可能である。これに対して第2の状態においては固定部材41は金型部材1とインサートキャビティ2とを跨ぐように配置されるため、これによりインサートキャビティ2の摺動方向すなわちZ方向の移動が妨げられ、インサートキャビティ2は金型部材1に対して位置固定される。このことは実施の形態1と同様である。
以上の各点について、本実施の形態のパワーモジュール製造装置M3は実施の形態1のパワーモジュール製造装置M1と異なり、他の点については同様である。このためパワーモジュール製造装置M3におけるパワーモジュール製造装置M1と同一の構成要素には同一の符号を付しその説明を繰り返さない。またパワーモジュール製造装置M1と同一の特徴についてはその説明を繰り返さない。
次に、本実施の形態のたとえばパワーモジュール製造装置M3を用いたパワー半導体モジュールの製造方法について、図17を用いて説明する。
図17は、実施の形態2の第1例のパワーモジュール製造装置M3を用いたパワーモジュールの製造方法における、上記の図5~図7と同様の処理がなされた後の態様を示す概略断面図である。図17を参照して、本実施の形態の製造方法においても、パワーモジュール製造装置M3を用いて、実施の形態1の図5~図7と基本的に同様の処理がなされる。これにより第1のモールド樹脂101bの第1の厚みが所望の第2の厚みとなるときにちょうど、インサートキャビティ2の空洞部22a,22bと、下金型12の空洞部16c,16dとが同一のXY平面上に並ぶ位置となり、互いに連なって1つのX方向に長く延びる空洞部となる。
この状態になったときに、回転駆動部42がモータなどにより、回転中心42cを中心として回転する(図16参照)。回転駆動部42の回転駆動により、空洞部16c,16d内のみに収納され第1の状態となっていた固定部材41が、X方向に沿って摺動する。これにより当該固定部材41は図15に示す金型部材1とインサートキャビティ2とを跨ぐ第2の状態となるように配置される。このようにして、実施の形態1と同様に、インサートキャビティ2の金型部材1に対するZ方向移動に対して障害となる固定部材41の存在により、インサートキャビティ2は金型部材1に対してZ方向に関して固定される。以降の各工程については、実施の形態1の図8~図9と同様の処理がなされる。
以上の各点について、本実施の形態のパワーモジュールの製造方法は実施の形態1のパワーモジュールの製造方法と異なり、他の点については同様である。このため本実施の形態のパワーモジュールの製造方法における実施の形態1と同様の内容についてはその説明を繰り返さない。
次に、本実施の形態の作用効果について説明する。本実施の形態は、実施の形態1と同様の作用効果に加え、以下の作用効果を奏する。
実施の形態1においては、インサートキャビティ2を貫通する固定部材挿入孔22と固定部材挿入孔16a,16bとが一体として連結されそこに当該領域を跨ぐようにX方向に長く延びる固定部材4が挿入される。これに対し本実施の形態では、各空洞部16c,16d,22a,22bはインサートキャビティ2および下金型12を貫通するのではなく、これらの側面から凹部が掘られた態様である。すなわち空洞部16cと空洞部22aとのZ方向位置が等しくなり一体となって形成される本実施の形態の空洞部は、実施の形態1の固定部材挿入孔が一体となったものに比べてX方向に沿う長さが短く、XY平面に沿う平面積が小さい。このためパワーモジュール製造装置M3はパワーモジュール製造装置M1よりもサイズを小型化することができる。装置を小さくすることにより、供給される樹脂材料の領域間における加熱量のばらつきを小さくし、その加熱時の温度分布を均一にすることができる。
これは以下の理由に基づく。インサートキャビティ2内に空洞があれば、パワーモジュール製造装置M3の金型部材1の加熱時に、インサートキャビティ2は、空洞がない場合に比べて温度が下がる。これによりインサートキャビティ2に温度分布ができることが考えられる。しかし本実施の形態では実施の形態1に比べてインサートキャビティ2の体積が小さくなるため、その分だけ上記空洞の体積も小さくなる。このため本実施の形態では実施の形態1に比べて加熱時の温度分布のばらつきが小さくなる。
図18は実施の形態2に係るパワーモジュール製造装置の第2例の構成を示す概略断面図である。ただし図18においては1つの金型部材1のみが図示されており、図14などのようにこれがX方向に複数並ぶ構成については図示が省略されている。図18を参照して、本実施の形態の第2例のパワーモジュール製造装置M4は、基本的に第1例のパワーモジュール製造装置M3と同一の構成を有するため、同一の構成要素には同一の符号を付しその説明を繰り返さない。またパワーモジュール製造装置M3と同一の特徴についてはその説明を繰り返さない。
パワーモジュール製造装置M4においては、金型部材1の下金型12の内壁には、当該内壁面が凹部として掘られた形状を有する空洞部16e,16fが形成されている。空洞部16eは基本的に空洞部16cと同様であり、空洞部16fは基本的に空洞部16dと同様である。ただし空洞部16c,16dはほぼXY平面に沿って水平方向に拡がるのに対し、空洞部16e,16fはインサートキャビティ2側に向けて徐々にZ方向上方に向かうよう傾斜されている。なおこの傾斜角度は、金型部材1などの載置される水平方向すなわちXY平面に沿う方向に対して5°以上20°以下であることが好ましく、10°以上15°以下であることがより好ましい。
インサートキャビティ2の外壁には、当該外壁面が凹部として掘られた形状を有する空洞部22c,22dが形成されている。空洞部22cは基本的に空洞部22aと同様であり、空洞部22dは基本的に実施の形態2の空洞部22bと同様である。ただし空洞部22a,22bはほぼXY平面に沿って水平方向に拡がるのに対し、空洞部22c,22dはインサートキャビティ2の内側に向けて徐々にZ方向上方に向かうよう傾斜されている。
これにより、インサートキャビティ2の摺動による上昇により、空洞部16eと空洞部22cとが一体として繋がり、空洞部16fと空洞部22dとが一体として繋がる位置が存在する。このときが第1のモールド樹脂101bの厚みが所望の厚みとなった上記第2の状態である。このとき、空洞部16e,16f内に収納されこれらと同様にインサートキャビティ2側に向けて徐々にZ方向上方に向かうよう傾斜される固定部材43が、パワーモジュール製造装置M3と同様に、金型部材1とインサートキャビティ2とを跨ぐように配置される。これにより固定部材43はインサートキャビティ2を固定可能とする。
図18のように空洞部および固定部材が傾斜する構成とすることにより、図14の構成に比べて、固定部材43に加わる負荷が低減される。このため固定部材43の寿命を長くすることができる。
実施の形態3.
まず本実施の形態のパワー半導体モジュールを製造するための装置としての、パワーモジュール製造装置の構成について、図19を用いて説明する。図19は実施の形態3に係るパワーモジュール製造装置の構成を示す概略断面図である。
図19を参照して、本実施の形態のパワーモジュール製造装置M5は、固定部材の部分の構成において、パワーモジュール製造装置M1,M3と異なっている。具体的には、パワーモジュール製造装置M3においてもパワーモジュール製造装置M1と同様に、インサートキャビティ2は、下金型内壁面14に沿ったZ方向の摺動により、金型部材1内、特に金型内空洞部15に挿入可能である。
インサートキャビティ2の外壁26は、インサートキャビティ2の摺動方向すなわちZ方向に対して傾斜している。具体的には、外壁26は、Z方向下方に向けてインサートキャビティ2のX方向寸法が狭くなり平面積が小さくなるように傾斜している。なお外壁26はさらに、Z方向下側に向けてインサートキャビティ2のY方向寸法が狭くなるように傾斜してもよい。なおこの傾斜角度は、金型部材1などの摺動する鉛直方向すなわちZ方向に対して5°以上20°以下であることが好ましく、10°以上15°以下であることがより好ましい。
一方、金型部材1の下金型12の内壁27、すなわちインサートキャビティ2の外壁26に対向可能な金型部材1の内壁27には、当該内壁27が凹部として掘られた形状を有する空洞部16g,16hが形成されている。ここで内壁27とは、下金型内壁面14のうち内壁面テーパ17の部分を除く、Z方向に沿って延びる部分を意味する。空洞部16gは基本的に実施の形態2の空洞部16cと同様であり、空洞部16hは基本的に実施の形態2の空洞部16dと同様である。ただし空洞部16g,16hは空洞部16c,16dよりもZ方向の寸法がやや大きいことが好ましい。図19に示すように、金型部材1においては左側の空洞部16gと右側の空洞部16hとはZ方向の高さがほぼ同じ位置に形成される。
金型部材1の空洞部16g,16h内には固定部材44が収納可能となっている。固定部材44は、第1の固定部材領域44aと、第2の固定部材領域44bとを含んでいる。第1の固定部材領域44aは、固定部材44のうち下金型12の比較的外側に配置される領域である。第1の固定部材領域44aは、インサートキャビティ2の摺動方向であるZ方向に沿って延びる筒状の形状の領域である。第2の固定部材領域44bは、第1の固定部材領域44aよりも下金型12の比較的内側すなわちインサートキャビティ2側に設けられた領域である。第2の固定部材領域44bは、第1の固定部材領域44aと一体となるよう連続した構成となっている。第2の固定部材領域44bは、インサートキャビティ2の外壁26に沿うように延びている。
すなわち第2の固定部材領域44bのうち最もインサートキャビティ2側の領域は、インサートキャビティ2に対向する対向面44cとなっている。対向面44cは、インサートキャビティ2のZ方向に対して傾斜した外壁26にほぼ平行になるように沿っている。つまり当該対向面44cは、外壁26と同様に、Z方向に対して傾斜している。対向面44cのうち最もZ方向上側の部分は、第1の固定部材領域44aの最もインサートキャビティ2側の領域に接している。すなわち第2の固定部材領域44bは、固定部材44の最もZ方向上側の部分においてはX方向の幅を有さない。しかし対向面44cがZ方向に対して傾斜しているため、第2の固定部材領域44bは、Z方向下側に向かうにつれてX方向の幅が広くなるように形成されている。
インサートキャビティ2は、実施の形態1などと同様に、下金型12の金型内空洞部15内を、図1中に矢印で示すようにZ方向に沿って上下に摺動可能である。このインサートキャビティ2の摺動により、金型部材1に対するZ方向の位置が変化する。このためインサートキャビティ2の摺動による金型部材1に対する位置に応じて、第2の固定部材領域44bのほぼ全体が、金型部材1の下金型12とインサートキャビティ2との隙間28に挟持されることが可能な構成となっている。具体的には、インサートキャビティ2が上下方向に摺動することにより、インサートキャビティ2のZ方向の最上面の位置が、固定部材44、特に第2の固定部材領域44bのZ方向の最上部の位置とほぼ同じになることがある。このとき、元々全体が空洞部16g,16h内に収納されていた固定部材44をインサートキャビティ2側へ摺動させれば、第2の固定部材領域44bの全体が空洞部16g,16hとインサートキャビティ2との隙間28にすっぽり収まる状態とすることができる。このような状態となれば、金型部材1の金型内空洞部15に樹脂材料を供給して、ダイパッド52の真下に所望厚みの樹脂封止を行なうことができる。
固定部材44は、実施の形態2と同様に、たとえばXY平面に沿う矩形状を有する平板形状である。また空洞部16g,16hは、Z方向下方に少し延び拡がる領域を有し、当該延び拡がる領域内には、回転駆動部42が配置されている。実施の形態2と同様の歯車状の機構により、回転駆動部42の回転に追随して固定部材44がX方向に移動可能となっている。
以上より、固定部材44が金型部材1の空洞部16g,16h内のみに収納された第1の状態と、固定部材44がその摺動によりインサートキャビティ2側に突出し第2の固定部材領域44bの(ほぼ)全体(たとえば体積の90%以上)が金型部材1とインサートキャビティ2との隙間28に挟持された第2の状態との切り替えが可能となっている。具体的には、図19においては固定部材44は、第2の固定部材領域44bも含めその全体が空洞部16g,16h内に収納されているため上記の第1の状態となっている。これに対し、図20においては固定部材44は、インサートキャビティ2の外壁26と対向する対向面44cにおいて、インサートキャビティ2の外壁26と接する。このように対向面44cが外壁26と接する位置において、金型部材1とインサートキャビティ2との隙間28を塞ぐことが可能である。なお第2の状態では、インサートキャビティ2の外壁26は、固定部材44の対向面44cの上に重畳するように接している。
なお固定部材44は、第2の状態においては、第2の固定部材領域44bが隙間28側へ突出し、そのZ方向の最上部すなわち半導体素子8が搭載される側に最も近い位置において隙間28を塞いでいてもよい。図20を参照して、第2の状態においては第2の固定部材領域44bが隙間28に収まり、第1の固定部材領域44aのみが空洞部16g,16hに収まった状態となっている。この状態においてはインサートキャビティ2の最上部において第2の固定部材領域44bにより隙間28が金型内空洞部15とつながらないよう塞がれた状態となっている。
第1の状態においては固定部材44はインサートキャビティ2に対し金型部材1側からX方向に押圧せず、インサートキャビティ2は固定部材44からの干渉を受けない。このため、インサートキャビティ2は摺動方向すなわちZ方向に移動可能である。これに対して第2の状態においては固定部材44はインサートキャビティ2に対し金型部材1側からX方向にこれを挟み込むように押圧する。これによりインサートキャビティ2はそのZ方向の位置がある程度固定される。
しかし第2の状態においては仮にインサートキャビティ2がZ方向下方へ動こうとしても動くことはない。これは以下の理由による。第2の状態においては外壁26が対向面44cに接している。対向面44cを含む固定部材44は、第2の状態においてインサートキャビティ2側へ突出しているが、少なくとも第1の固定部材領域44aが空洞16g,16h内に収納されていることから、Z方向に動くことはない。また対向面44cはZ方向に対して傾斜している。このため、たとえ対向面44cの上に外壁26が接するインサートキャビティ2にZ方向下側の力が加わったとしても、外壁26が対向面44cにZ方向下向きの力を加えるに過ぎず、インサートキャビティ2は下方に落下することはない。傾斜した対向面44cを含む固定部材44によりインサートキャビティ2はZ方向の下方から干渉を受けるため、固定部材44が障害となって下方に動けないためである。
以上により、第2の状態においては、インサートキャビティ2の摺動方向すなわちZ方向の移動が妨げられ、インサートキャビティ2は金型部材1に対して確実に位置固定される。
以上の各点について、本実施の形態のパワーモジュール製造装置M5は実施の形態1,2のパワーモジュール製造装置M1,M3と異なり、他の点については同様である。このためパワーモジュール製造装置M5におけるパワーモジュール製造装置M1,M3と同一の構成要素には同一の符号を付しその説明を繰り返さない。またパワーモジュール製造装置M1,M3と同一の特徴についてはその説明を繰り返さない。
次に、本実施の形態のパワーモジュール製造装置M5を用いたパワー半導体モジュールの製造方法について、図19および図20を用いて説明する。図19は、実施の形態3のパワーモジュールの製造方法における、上記の図5~図6と同様の処理がなされた後の態様を示す概略断面図であり、上記の第1の状態を示す概略断面図である。また図20は、実施の形態3のパワーモジュールの製造方法における、上記の図7と同様の処理がなされた後の態様を示す概略断面図であり、上記の第2の状態を示す概略断面図である。
図19を参照して、本実施の形態の製造方法においても、パワーモジュール製造装置M5を用いて、実施の形態1の図5~図6と基本的に同様の処理がなされる。これにより第1のモールド樹脂101b(図7など参照)の第1の厚みが所望の第2の厚みとなるときにちょうど、第2の固定部材領域44bのZ方向の最上部の高さ位置がインサートキャビティ2のZ方向の最上部の高さ位置とほぼ等しくなる。
この状態になったときに、回転駆動部42がモータなどにより、回転中心42cを中心として回転する(図16参照)。回転駆動部42の回転駆動により、空洞部16g,16h内のみに収納され第1の状態となっていた固定部材44が、X方向に沿って摺動する。なおここでは、図16中の固定部材41を固定部材44に置き換えて考える。
これにより当該固定部材44の第2の固定部材領域44bは、金型部材1とインサートキャビティ2との隙間28にすっぽり収まる第2の状態となるように配置される。すなわち第2の状態においては、図20に示すように、第1の固定部材領域44aは空洞部16g内に、第2の固定部材領域44bは空洞部16gとインサートキャビティ2との隙間28に収まるように配置される。言い換えれば第2の状態において、第2の固定部材領域44bは、X方向に関して、最も外側の面が下金型12の内壁27と同一の面となり、最も内側の面がインサートキャビティ2の外壁26と同一の面となる。
この状態となれば、第2の固定部材領域44bは、図20の左右双方から、インサートキャビティ2の外壁26を挟み込むように固定することが可能となる。またこの状態となれば、インサートキャビティ2に加わる重力の反作用として、インサートキャビティ2の外壁26は、空洞部16g,16h内に載置された固定部材44の対向面44cから上向きの力を受けるように接触する。このためインサートキャビティ2は、固定部材44により、金型部材1に対してZ方向の位置が変化しないよう固定される。以降の各工程については、実施の形態1の図8~図9と同様の処理がなされる。
以上の各点について、本実施の形態のパワーモジュールの製造方法は実施の形態1,2のパワーモジュールの製造方法と異なり、他の点については同様である。このため本実施の形態のパワーモジュールの製造方法における実施の形態1,2と同様の内容についてはその説明を繰り返さない。
次に、本実施の形態の作用効果について説明する。本実施の形態は、実施の形態1,2と同様の作用効果に加え、以下の作用効果を奏する。
実施の形態1においては、インサートキャビティ2が金型部材1内を摺動するために、図1に示す両者間の隙間としての間隔23が必要となる。この間隔23を過剰に狭くすればインサートキャビティ2の摺動が困難となる。他方、この間隔23を過剰に広くすれば金型内空洞部15内への樹脂封止時に、当該間隔23から樹脂材料の屑が落下し、間隔23には当該屑が溜まる。これによりインサートキャビティ2の摺動抵抗が増加し、インサートキャビティ2の外壁が摩耗する問題が生じ得る。
しかし本実施の形態によれば、第2の状態において、インサートキャビティ2の重力により、Z方向に対して傾斜する外壁26が、上記と同様に傾斜する対向面44cと接する。この接する領域にてインサートキャビティ2は下降しないよう下方から上向きの力を受けながら固定される。このように外壁26と対向面44cとが接する部分において両者が隙間28を塞ぐように接触する。これにより金型内空洞部15内への樹脂封止時に、当該間隔23から樹脂材料の屑が落下する可能性を低減できる。
なお第2の状態においては、第2の固定部材領域44bの最上部である、図19における三角形の頂点部が、インサートキャビティ2の外壁26および下金型12の内壁27の双方と密着することが好ましい。このようにすれば、金型内空洞部15に充填されるモールド樹脂が隙間28から下方へ落下する余地がなくなる。尖った形状の第2の固定部材領域44bの頂点部が外壁26および内壁27の双方と密着すれば、金型内空洞部15と隙間28とを完全に分離させる効果が高められる。
またインサートキャビティ2の外壁26は下金型12の内壁27に対して傾斜しており、特にZ方向下方において両者間の隙間28の幅が大きくなっている。このためインサートキャビティ2の摺動抵抗が増加する問題を解消させ、寿命の長いパワーモジュール製造装置M5を提供することができる。
以上に述べた各実施の形態(に含まれる各例)に記載した特徴を、技術的に矛盾のない範囲で適宜組み合わせるように適用してもよい。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。