JP7050705B2 - 耐摩耗性に優れる衣料用編地 - Google Patents

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本発明は、伸縮性が高く、耐摩耗性に極めて優れた衣料用編地、及びその編地を用いたアウター衣料に関する。
オフィスユニフォームや学生服等のブレザーは、織物が多く用いられている。この理由として、工場労働者や学生は非常に活発に活動するため、ピリングや摩耗等が起こり易いが、織物だと比較的耐久性の良いものが作れるためである。しかし、織物は、経糸と緯糸が緻密に交差して互いに強く拘束しているために通気性が悪く、柔軟性・伸縮性にも劣ることが着用時の快適性を阻害する要因になっている。また、織物は、経緯の伸度が少ないので、着用して身体を大きく動かしたときに、活発な動きに追従しにくく、行動時の着心地が悪くなり易かった。
一方、編地は、伸縮性があり、活発な動きを阻害しにくく行動時の着心地を悪くしにくい利点があるが、構造上ピリングが起こり易く耐摩耗性が低いので、この用途にはこれまで使われていなかった。一方、耐摩耗性に優れた編物を得るための方策として、特定の紡績糸を用いてピリングを改善することで織物が担っていたジャケット、コートにおいて編物を適用する例が特許文献1で提案されている。この編物では、共重合ポリエステルからなる短繊維と吸湿性繊維からなり、且つ芯鞘構造を有し、鞘成分の短繊維束が芯成分の短繊維束の周りにほぼ一定の間隔で巻き付いており、実質的に無撚りである紡績糸を使うことにより、ピリング性を改善している。しかし、この編物では、特殊なポリエステル原料を用いて特別な紡績糸を使うので、編物の規格が限定されて使い難い面があり、また、この技術を使っても耐摩耗性能は十分ではなかった。
また、本発明者らは、表面を構成する柄糸と地糸の総繊度比が0.8~1.25であること、及び捲縮伸長率が30%以上のポリエステル仮撚加工糸が、表面を構成する糸の50重量%以上を構成することで、編地の表面を構成する糸が摩耗しにくい編地を提案した(特許文献2参照)。しかし、この編地では、地糸と柄糸は総繊度が近いものを用いる必要があった。また、更に高い耐摩耗性を持った編地が要望されている。
特開2015-203159号公報 特許6431637号公報
本発明は、上記のような従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その目的は、伸縮性が高く、通気性が良く、耐摩耗性が極めて高い、衣料用編地を提供することであり、特に、長期間着用されて摩耗耐久性を要求される体操服やユニフォームシャツ、制服、ユニフォーム外衣、学生服等に最適なジャケット、詰襟服、ブレザー、並びにスラックスを提供することにある。
本発明者らは、上記目的を達成するために伸縮性のある編地の耐摩耗性の向上について鋭意検討を重ねた結果、編地表面の摩耗面にある単繊維の拘束力を高めることと、編地表面の構造をできる限り平らにすることで、編地表面において局所的に摩耗が進行することを抑制することができ、耐摩耗性が格段に向上することを見出した。具体的には、特定撚係数の実撚を持った仮撚加工糸を耐摩耗性が必要な表面の少なくとも一部に構成し、且つ編みループを小さくして編地表面をフラットにする手段を講ずることによって、伸縮性が高い編地の特性や膨らみを維持しながらも、摩擦したときに局部的に摩擦されるのを防いで、耐摩耗性に優れた編地を提供することができることを見出し、本発明の完成に至った。
即ち、本発明は、以下の(1)~()の構成を有するものである。
(1)編地の完全組織において表面を形成するニットループのうち、個数割合で30%以上のループが撚係数K=1558121000の実撚を持つ仮撚加工糸からなり、表面のコース密度が40~80個/2.54cm、ウエール密度が35~70個/2.54cmであり、JIS-L1096のマーチンデール法における摩耗耐久性が4万回以上であり、JIS L1013の引張試験において初期荷重0.02mN×表示デシテックスで測定した編クリンプも含めた伸び率が45~150%である捲縮弾性糸が、編地全体に対して10~65質量%含まれることを特徴とする衣料用編地。
(2)編地の完全組織の表面を形成するニットループを形成する糸の全てが単糸繊度1.5~4.5dtexであることを特徴とする(1)に記載の衣料用編地。
)完全組織がニットループとウエルトのみからなり、表面を構成する隣り合う1対の糸で表面を編立てる針全てに一つ毎のニットループを形成していることを特徴とする(1)または(2)に記載の衣料用編地。
)少なくとも編地の表面側を構成する糸が撥水加工されていることを特徴とする(1)~()のいずれかに記載の衣料用編地。
)厚みが0.35~1.3mmであり、目付が150~300g/mであることを特徴とする(1)~()のいずれかに記載の衣料用編地。
)(1)~()のいずれかに記載の編地を用いたアウター衣料であって、ユニフォームシャツ、体操服、ジャケット、ブレザー、ユニフォーム外衣、学生服、詰襟服、又はスラックスであることを特徴とするアウター衣料。
本発明によれば、織物には無い柔軟性、高通気性を有しながら、織物に匹敵する耐摩耗性に優れた編地を提供することができる。かかる特徴を有する本発明の編地を、体操服、、ユニフォーム、学生服等に最適なジャケット、詰襟服、ブレザーやスラックスなどの衣料品に用いることにより、着用者は活動的な作業や運動を快適に行なうことができる。
図1は、実施例1で使用したモックロディ柄の編組織図を示す。 図2は、実施例6で使用したツイル柄の編組織図を示す。 図3は、実施例6で使用したウエルト天竺の編組織図を示す。 図4は、比較例3で使用したサージ(ツイル)の織組織図を示す。
本発明の編地は、編地の完全組織において表面を形成するニットループのうち、個数割合で30%以上のループがK=4500~23000の実撚を持つ仮撚加工糸からなることが重要である。本発明の編地の表面に実撚を持つ仮撚加工糸を用いる理由は、糸の嵩高性を損なわずに糸の収束性を高めて糸表面に浮いた単繊維をなくすことで、糸にかかる摩擦力を単繊維単独で受けるのを防ぐためである。これにより糸表面の単繊維切れを抑制することができ、耐摩耗性が向上する。
実撚を持つ仮撚加工糸としては、ポリエステル長繊維、ポリアミド長繊維、セルロース長繊維等の仮撚加工糸を用いることができるが、編地の嵩高性や耐摩耗性、経済性の観点からポリエステル長繊維の仮撚加工糸を用いることが好ましい。ポリエステル長繊維は、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系繊維を用いることができる。
実撚を持つ仮撚加工糸は、施撚した糸を仮撚加工したり、仮撚加工糸に後から施撚(追撚)することによって製造されることができる。施撚には、イタリ-式撚糸機、アップツイスター、ダブルツイスター、リング式撚糸機、合撚機、カバーリング機等を用いることができる。品質と生産性の面からダブルツイスターを用いることが好ましい。仮撚方法は一般的な仮撚条件を用いればよい。仮撚加工糸の特性としては、捲縮伸長率が20~80%のものを用いるのが好ましい。より好ましくは30~60%である。捲縮伸長率が上記範囲未満では嵩高性が低下しやすく、上記範囲を超えると更なる耐摩耗性の向上効果は得られ難くなる一方、製造コストや仮撚品質が悪化しやすくなる。
施撚する強さとして、撚係数K=1558121000とする。撚係数Kが上記範囲未満になると摩耗性の向上効果が得られ難くなり、また上記範囲を超えると編立性が悪化して安定的に生産することが難しくなったり、嵩高性が低下したり、風合いが硬い編地になり易くなる。尚、撚係数Kは下記式で求めることができる。
K=T×D1/2
(ただし、K:撚係数、T:撚回数(回/m)、D:繊度(dtex)である)
本発明の編地では、編地の完全組織において表面を形成するニットループのうち、上述の実撚を持つ仮撚加工糸のループが、個数割合で30%以上を構成することが必要である。好ましくは40%以上、より好ましくは65%以上である。実撚を持つ仮撚加工糸が、表面を構成する糸の上記構成割合未満になると、耐摩耗性が低下しやすくなる。
本発明の編地では、編地の伸縮性をより高めるために弾性糸を用いることができるが、弾性糸としては、ポリエステル系捲縮弾性糸を用いることが好ましい。ポリエステル系捲縮弾性糸を用いると、編地の伸縮性やキックバック性を高めることができるとともに、編地の密度を高めることができる。また、スパンデックス等の弾性糸と違って、高捲縮のポリエステル系捲縮弾性糸が表面に露出していても編地の耐摩耗性を高めることができる。ポリエステル系捲縮弾性糸としては、例えばポリトリメチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、およびそれらの少なくとも一つがサイドバイサイドでコンジュゲートされた複合繊維(コンジュゲート繊維)の仮撚加工糸や、捲縮伸長率が30%以上のポリエチレンテレフタレート仮撚加工糸が挙げられる。特にポリトリメチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、及びそれらのコンジュゲート繊維の仮撚加工糸を用いることが好ましい。捲縮弾性糸の仮撚条件は、ポリエチレンレテフタレート繊維の一般的な条件に準じて適宜設定すればよい。
本発明の編地に捲縮弾性糸を用いる場合、捲縮弾性糸の最大捲縮伸度が130~300%のものを用いるのが好ましい。より好ましくは150~250%のものである。最大捲縮伸度が上記範囲未満では、通常の仮撚糸に比べて伸縮性の向上効果が少なく、上記範囲を超えると、伸縮性は向上するが、できあがった編地の寸法安定性が低下し易くなる。
本発明の編地が、優れた伸縮性と耐摩耗性を両立した好適な編物になるためには、編地から取り出した捲縮弾性糸の特性として、JIS L1013の引張試験において0.02mN×表示デシテックスの弱い初期荷重をかけて測定したときの編クリンプも含めた伸び率が45~150%となっていることが好ましい。より好ましくは50~120%である。更に好ましくは50~90%である。この伸び率は、編クリンプと仮撚捲縮と繊維自身が引き延ばされて破断するまでの伸びの合計である。この伸び率が上記範囲未満では十分なストレッチ性が得られにくく、上記範囲を超えると編地が伸びすぎて耐摩耗性が低下しやすくなる。尚、編地に複数の種類の捲縮弾性糸を用いていたり、捲縮弾性糸の設定糸長が複数存在する場合は、種類別にそれぞれ伸び率を測定して、各糸の混率を考慮して編地に含まれる全捲縮弾性糸の平均値とすればよい。また、この捲縮弾性糸の前記編地全体に対する混率は10~65質量%であることが好ましい。より好ましくは15~70質量%である。更に好ましくは20~60質量%である。混率が上記範囲未満であると十分な伸縮性の向上効果を編地に与えることが困難になり、上記範囲を超えると実撚を有する仮撚糸の混率が下がってしまい耐摩耗性が低下しやすくなる。
本発明の編地では、編地の完全組織の表面を形成するニットループを形成する糸の全てが単糸繊度1.5~4.5dtexの太い繊維を用いることが好ましい。より好ましくは1.9~4.5dtexである。更に好ましくは1.9~4.0dtexである。このような太い単糸繊度を持つ糸は、編地表面を構成する糸のうち75質量%以上の割合で混用することが好ましい。より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは85質量%以上である。混用割合が上記範囲未満では、耐摩耗性を高める効果が低下しやすい。本発明の編物に用いる糸の総繊度は50~350dtexであることが好ましい。より好ましくは75~180dtexである。総繊度が上記範囲未満では、生地が薄くなり過ぎて耐摩耗性が低下しやすくなり、上記範囲を超えると、高密度にするのが難しくなったり、風合いが硬くなりやすくなる。
本発明の編地は、シングル又はダブルの丸編機を用いて編成されることができる。ダブル編機を用いて編地を編成する場合は、ダイヤル針とシリンダー針の位置がずれているリブゲーティングで編まれることが好ましい。リブゲーティングにすると、より高い針密度で編み立てることができ、より高密度の編地とすることができる。編機の針密度は高いほど、緻密な編地を作ることができる点で好ましいが、針密度が高すぎるとストレッチ性が出にくくなったりするため、編機の針密度は、シングル編地の場合は好ましくは28~50本/2.54cm、より好ましくは28~46本/2.54cmであり、ダブル編機の場合は好ましくは22~46本/2.54cm、より好ましくは28~44本/2.54cmである。
本発明では、編地の耐摩耗性を必要とする面を便宜上、表面と呼ぶが、表面はニットループとウエルトのみで組織を作るのが好ましい。表面にタックループを作ると組織が緻密になりにくく、また編地表面に凸凹が起こり易いので耐摩耗性が低下しやすいためである。また、編地の表面は、表面を構成する隣り合う1対の糸で表面を編立てる針全てに一つ毎のニットループが作られる組織とすることが好ましい。こうすることで、(i)表面のウエルトループがニットループに隠れることができ、また、(ii)表面のニットループの大きさを均一にすることができ、更に、(iii)一対の糸が細密充填構造をとり、編地密度を高めることができるという利点がある。
更に、図1を用いて、本発明の編地の編構造を具体的に説明する。図1の組織はニットループとウエルトのみからなり、モックロディ柄の組織をなす。F1と3、F4と6、F7と9、F10と12はシリンダー側で表糸を形成する。F1、2、4、5、7、8、10及び11はダイヤル側で裏面を形成する。F1と3、F4と6、F7と9、F10と12は対となって、シリンダーの全針にニットを形成する。このため、F3、6、9、12には表面でウエルトを含む組織があるが、ウエルト部分にF1、4、7、10のニットが充当されるために、ウエルトは編地の内側に隠れて見かけ上は全針上にニットループが形成される。これにより、見かけ上オールニットの凹凸の少ない表面構造となり、また一対の糸同士が充填細密な構造となり耐摩耗性の向上に寄与している。
本発明の編地では、実撚を持つ仮撚加工糸と通常の仮撚加工糸、及び/又は捲縮弾性糸を主に用いて、見かけ上オールニットのフラットな表面の編地を形成することができる。このとき、本発明の編地の表面は最低2種類の糸条を使って構成されるので、2種類の糸の染色性の違いを利用して柄物にしてもよい。柄の例としては、チェック、千鳥格子、ダイヤ、ドット、ストライプ、水玉、ディンプル、その他の幾何学模様や、ツイル、カルゼ、ピッケ、ヘリンボン等の織柄に似せた編柄にすることもできる。
本発明では、編地の密度設計も重要である。適度なタテヨコのループ密度に調整することで、上記の編組織とあいまって編地でありながら、ハイゲージのシングル又はダブル編機で編成して、染色加工で更に縮めて高密度に仕上げられる。本発明の編地では、染色加工上がりのウエール密度は、35~70個/2.54cmである。より好ましくは37~65個/2.54cm、さらに好ましくは38~60個/2.54cmである。ウエール密度が上記範囲より低いと、柔軟性が高くなりすぎてハリ、コシが得られにくくなり、上記範囲より高いと、使う糸が細くする必要があるため生地が薄くなりすぎたり、ヨコ方向のストレッチが小さくなり過ぎて着用感が悪くなりうる。また、本発明の編地では、染色加工上がりのコース密度は、40~80個/2.54cmである。より好ましくは45~70個/2.54cm、さらに好ましくは47~60個/2.54cmである。コース密度が上記範囲より低いと、柔軟性が高くなりすぎてハリ、コシが得られにくくなり、上記範囲より高いと、生地が硬くなり、また通気性が低くなり蒸れ感が高まりやすい。
本発明の編地を編み立てる編機は、針床における編針の密度(ゲージ)は、2.54cm(1インチ)あたり28本以上とするのが好ましい。好ましい編機ゲージは28~50本/2.54cmである。ジャケット、パンツ等のアウター用途であれば、32~40本/2.54cmが更に好ましい。上記範囲を超えると、より細い糸を用いる必要があり、アウター衣料に必要な厚みが得られにくくなる。上記範囲より少ないと、ざっくりした密度の粗い編物になって耐摩耗性が低下し、風合いも柔らかくなりすぎる傾向がある。
本発明の編地は、伸縮性と耐摩耗性を兼ね備えるために、100ウエール(W)当りの糸長を、編地を構成している全ての糸の平均糸長として、80~350mm/100Wの範囲とするのが好ましい。このとき捲縮弾性糸は、その他の糸より長めに設定して、加工で縮めることで伸縮性を高めることができる。より好ましくは100~250mm/100Wである。平均糸長が上記範囲未満では、安定的に生産するのが難しくなり、編み欠点が発生し易くなる。また、上記範囲を超えると、編地の伸度が高くなって本発明の効果が得られにくくなりやすい。
本発明の編地の目付は、ブレザーやジャケット等のアウター用では羊毛織物の目付に近いものを使用することが好ましく、150~300g/mとするのがよい。好ましくは160~280g/m、より好ましくは170~260g/mである。目付が上記範囲を越えると、編地が自重で垂れて厚ぼったく感じやすく、上記範囲未満では薄くなり過ぎる。本発明の編地の厚みは、0.35~1.3mmとするのが好ましい。アウター用途として、より好ましくは0.4~1.2mmであり、さらに好ましくは0.45~1.0mmである。上記範囲より薄い編地では、透け感が強くなりすぎる傾向になり、上記範囲を超えると、肉感が付き過ぎて外観や着用感が悪くなりやすい。
本発明の編地を染色加工する場合、一般的なフィラメント編地の加工方法で行えばよく、本発明の編地には、所定の吸水加工、撥水加工や各種の機能加工を施してもよい。特に少なくとも編地の表面側を構成する糸が撥水加工されていることが好ましい。撥水加工を施す場合には、撥水加工剤は、合成繊維に使用される通常の撥水剤を用いることができるが、シリコーン系撥水剤、フッ素系撥水剤、炭化水素系撥水剤を用いると繊維表面の平滑性が高まり、耐摩耗性が向上することから特に好ましい。また、仕上げ加工でアクリル系樹脂やポリウレタン樹脂、メラミン樹脂、酢酸ビニル樹脂、エポキシ系樹脂、等の硬仕上加工を行うことでハリ、コシを高めると同時に摩耗耐久性も向上できる。
本発明の編地は、上述のような構成を有するので、JIS-L1096のマーチンデール法における摩耗耐久性が4万回以上を達成することができ、さらには4万5千回以上を達成することができる。
また、本発明の編地は、30cc/cm・sec以上、さらには40cc/cm・sec以上の通気度を達成することができ、特に50~200cc/cm・secの通気性を達成することができる。この数値は、従来のブレザーやジャケットに使用されている一般的の羊毛織物の通気性が5~30cc/cm・sec程度であることを考えると、極めて高い値である。
さらに、本発明の編地は、織物と比べて良く伸びることも重要な特徴である。本発明の編地の伸縮性は、JIS-L1096の伸長率においてタテ又はヨコ方向で10%以上、さらには20%以上、特に25~100%に到達することができる。この良好な伸縮性により、着用快適性に優れたアウター衣料を得ることができる。
以下に実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例における各性能評価は、以下の方法により行った。
(仮撚糸の捲縮伸長率)
適度なテンション調整装置を有するラップリール(周長1.125m)を用い、1/10(g/d)の荷重をかけて8巻きの綛を作る。これをフックにかけ、100℃の熱水中に無荷重の状態で5分間浸漬し、この試料を熱水中より取り出し湿潤状態のまま(2/10)×8×2×表示デニールのg数の荷重をかけ、1分後の長さaを測定する。次に、荷重を取り除き、無荷重の状態でフックにかけたまま60±2℃の乾燥機で30分間乾燥し、標準状態の試験室に1時間以上放置し、次に(2/1000)×8×2×表示デニールのg数の初荷重をかけ、1分後の長さbを測る。下記の式により、上記のa、bを用いて捲縮伸長率を算出する。試験回数は2回以上とし、その平均値で表わす(小数点以下1桁まで)。
捲縮伸長率(%)=(a-b/a)×100
(捲縮弾性糸の最大捲縮伸度)
仮撚加工糸の応力-伸長率曲線を、以下の方法・条件で測定する。
仮撚加工糸を沸騰水で30分間処理した後、乾燥する。JIS-L-1013(引張試験法)に準じて、Full応力が0.882cN/デシテックスまでの応力-伸長率曲線を描く。上記の方法・条件で測定して得た応力-伸長率曲線上で、捲縮が伸ばされる過程(初期)の曲線の接線と、繊維自体が伸ばされる過程の曲線の接線との交点を求める。この交点に対応する伸度を最大捲縮伸度とする。
(編地密度)
JIS-L1096 8.6.2の編物の密度に準拠して編地のコース密度(個/2.54cm)、ウェール密度(個/2.54cm)を測定した。目視で測定する際、コース方向又はウエール方向に組織図上で最もニットループが多いところを選んで、そのニットループ数を測定して編地密度とした。
(編地の目付)
JIS-L1096 8.3.2A法の標準状態における単位面積当たりの質量に準拠して編地の目付を測定した。
(編地の厚み)
JIS-L1096 8.4A法の厚さに準拠して編地の厚みを測定した。測定条件の一定圧力は23.5kPaで行った。
(通気度)
JIS-L-1096 8.26.1に規定されている通気度(フラジール形法 A法)に準拠して編地の通気度を測定した。
(編地から取り出した捲縮弾性糸の伸び率)
編地から取り出した捲縮弾性糸が、編クリンプが延ばされ、仮撚捲縮が延ばされ、そして繊維が延ばされて破断するまでの伸び率を以下のように測定する。編地から捲縮弾性糸にできる限り張力を掛けないように丁寧に取り出す。取り出した捲縮弾性糸はJIS-L-1013 8.5.1(引張試験法)に準じて伸び率を測定する。但し、測定条件は、初期荷重は0.02mN×表示デシテックス、引っ張り速度25cm/min、つかみ間隔:25cm、20℃、65%HRの環境にて行った。n=20で測定して、破断に至る応力-伸長率曲線の形状が異常なものを除外してn=10~15の平均値を採用する。
(耐摩耗性)
JIS L1096のマーチンデール法に準じて耐摩耗性を測定した。4万回以上の耐久性を持つものを合格とする。
(伸長率)
JIS L1096B-1法(定荷重伸長法、荷重14.7N)に準じてタテ、ヨコの伸長率を測定した。
(ジャケットを着用したときの上半身の動きやすさ)
生地をジャケットになるように縫製した後、中肉中背の30才男性が着用して、両手を横に拡げて、背骨を軸に両手/両肩を水平に回旋したときの動きやすさ(動きに対する生地の抵抗)を感覚値として、動きやすい:○>△>×:動きにくいの順で三段階評価を行った。
<実撚を持つ仮撚糸の製造>
酸化チタン微粒子を0.5重量%練りこんだ(SD)丸断面のポリエチレンテレフタレート繊維である84dtex(T)、36フィラメント(f)のフリクション仮撚加工糸(単糸繊度2.33dtex、Z仮撚)をダブルツイスターを用いて追撚し、仮撚追撚糸1を作製した。追撚条件としては、同じ撚方向のZ撚で撚数1700回(T)/m施した。また、同様にして同じZ方向で、2200T/mの仮撚追撚糸2、1200T/mの仮撚追撚糸3を作製した。
<捲縮弾性糸の製造>
108T24fのポリブチレンテレフタレート半延伸糸(POY)を三軸摩擦型ディスク式仮撚装置を用いて、延伸倍率を1.29倍、延伸速度を820m/分として、ディスク回転数を7000rpmとして仮撚加工(Z撚方向)を行い、84T24fのポリブチレンテレフタレート(PBT)の捲縮弾性糸1を得た。同様にして108T24fのポリトリエチレンテレフタレートのPOYを延伸仮撚して、84T24fのポリトリエチレンテレフタレート(PTT)の捲縮弾性糸2を得た。
(実施例1)
30インチ、36ゲージのダブル丸編機(福原精機製作所製、V-4AL)を用いて、リブゲージングで図1に示す完全組織F1~F12からなるモックロディ柄の生機を製編した。その際、表裏両面を構成する糸として給糸口F1、F4、F7、F10には仮撚追撚糸1を用いた。裏糸になるF2,F5,F8,F11には酸化チタン微粒子を0.5重量%練りこんだ丸断面のポリエチレンテレフタレート繊維(SD)である84T72fのフリクション仮撚加工糸(捲縮伸長率25.3%)を用いた。そして、表面を構成する糸としてF3、F6、F9、F12にはPBTの捲縮弾性糸1を用いた。各フィーダーの糸長は、F1、F4を280mm/100Wとし、F2、F5、F8、F11の糸長を140mm/100Wとし、F3、F6の糸長を105mm/100Wとし、F7、F9、F10,F12の糸長を188mm/100Wとした。
出来上がった生機を開反し、ヒラノテクシード製ピンテンターを用いて160℃×2分のプリセットを行い、その後、下記の処方で精練、染色、仕上げ加工を行なった。
精練処方:日阪製作所製液流染色機NSタイプを用いて里田加工 ノニゾールN 1g/l、日華化学 ネオクリスタル CG1000 0.5g/l、ソーダ灰0.5g/l、浴比1:15、95℃×30分。
染色処方:日阪製作所製液流染色機NSタイプ、浴比1:15 130℃×45分で酢酸0.2g/l pH=4、明成化学 ディスパーN 700 0.5g/l、日華化学 ネオクリスタル GC1000 0.5g/l、分散染料Kayalon Polyester Blue BD-S conc 2.0%owf で染色後、遠心脱水、乾燥(120℃×3分)を行ない、以下の条件で仕上げ剤を付与した。仕上げ剤のピックアップは70%であった。
アサヒガード AG-082(明成化学工業製 撥水加工剤)2% ows(on the weight of solution)
その後、最終セットをピンテンター160℃×2分の条件で行ない、性量調整し、最終生地を得た。仕上げでは縦に若干引っ張って仕上げた。仕上がった編地の密度はコース密度54個/2.54cm、ウェール密度46個/2.54cmであった。出来上がった仕上編地の詳細な構成と評価結果を表1に示す。
(実施例2)
実施例1において、仮撚追撚糸1(追撚数1700T/m)を仮撚追撚糸2(追撚数2200T/m)に変更した以外は実施例1と同様に編み立てて、染色加工を行った。出来上がった仕上編地の詳細な構成と評価結果を表1に示す。
参考例3)
実施例1において、仮撚追撚糸1(追撚数1700T/m)を仮撚追撚糸3(追撚数1200T/m)に変更した以外は実施例1と同様に編み立てて、染色加工を行った。出来上がった仕上編地の詳細な構成と評価結果を表1に示す。
(実施例4)
実施例1の生機においてF3、F6、F9、F12にPBTの捲縮弾性糸1の代わりに、PTTの捲縮弾性糸2を用いた以外は実施例1と同様にして生機を作製し、更に染色加工を行って仕上げを行った。出来上がった仕上編地の詳細な構成と評価結果を表1に示す。
(実施例5)
33インチ、36ゲージのダブル丸編機(福原精機製作所製、LPJ)を用いて、リブゲージングで図2に示す完全組織F1~F12からなるツイル柄の生機を製編した。その際、表裏両面を構成する糸として給糸口F1、F4、F7、F10には捲縮弾性糸1を用いた。裏糸になるF2,F5,F8,F11には酸化チタン微粒子を0.5重量%練りこんだ丸断面のポリエチレンテレフタレート繊維(SD)である84T48fのピン仮撚加工糸(単糸繊度1.75dtex、捲縮伸長率30.5%)を用いた。表面を構成する糸としてF3、F6、F9、F12には仮撚追撚糸1を用いた。各フィーダーの糸長は、F1、F4、F7、F10を240mm/100Wとし、F3、F6、F9、F12の糸長を150mm/100Wとし、F2、F5、F8、F11の糸長を130mm/100Wとした。実施例1に準じた工程で染色加工を行い、その後同様の仕上げを行った。出来上がった仕上編地の詳細な構成と評価結果を表1に示す。
(実施例6)
実施例5において、給糸口F1、F4、F7、F10にはPBTの捲縮弾性糸1の代わりに裏糸と同じ84T48fのピン仮撚加工糸(単糸繊度1.75dtex、捲縮伸長率30.5%)を用いた以外は実施例5と同様に仕上げた。出来上がった仕上編地の詳細な構成と評価結果を表1に示す。
(実施例7)
30インチ,40ゲージのシングル丸編機(福原精機製作所製3FA)を用いて図3に示す完全組織F1~F4からなるウエルトニットの生機を製編した。その際、給糸口F1,F3に仮撚追撚糸1を用いた。また、給糸口F2,F4にはPBTの捲縮弾性糸1を用いた。F1~F4の糸長は145cm/inchとした。この生機を染色せずオフ白で仕上げた。出来上がった仕上編地の詳細な構成と評価結果を表1に示す。
(比較例1)
実施例1において、給糸口F1、F4、F7,F10の仮撚追撚糸1の代わりに、追撚する前の84T36fのフリクション仮撚加工糸を用いた以外は実施例1と同様にして編み立て、染色加工を行った。出来上がった仕上編地の詳細な構成と評価結果を表1に示す。
(比較例2)
仮撚追撚糸の追撚前の元糸として84T36fの仮撚加工糸の代わりに、SD丸断面のポリエチレンテレフタレート繊維である84T72fのフリクション仮撚加工糸(1.16dpf、捲縮伸長率25.3%)を用いた。この糸を仮撚追撚糸1と同様に追撚を行った糸を給糸口F1、F7に用いた。また、給糸口F4、F10には裏糸と同じ84T72fのフリクション仮撚加工糸を用いた。これ以外は実施例1と同様にして編み立て、染色加工を行った。出来上がった仕上編地の詳細な構成と評価結果を表1に示す。
(比較例3)
オーストラリア産メリノ種の羊毛50重量%、単糸繊度2.0dtex、54mmカットのポリエステル短繊維50重量%を混綿して、カード、練条、粗紡、精紡工程を通して1/52番手(メートル番手)の紡績糸を作製した。この紡績糸を経緯に用いて図4に示す織組織のサージ(2/2ツイル)を作製した。この生機を一般的な羊毛混用織物の一般的な工程条件で整理加工した。染色については、羊毛保護剤を併用して染色温度を120℃として羊毛の損傷を抑える以外は実施例1と同様に行ってポリエステルを染色した。この織物は目付250g/m、経密度62本/2.54cm、緯密度56本/2.54cmであった。出来上がった織物の詳細と評価結果を表1に示す。
Figure 0007050705000001
本発明によれば、織物にはない柔軟性、伸縮性、通気性を有しながら、織物に匹敵する高い耐摩耗性を有する編地を提供することができる。本発明の編地をアウター衣料に用いることにより、激しい活動的な運動や作業を快適に行なうことができる。

Claims (6)

  1. 編地の完全組織において表面を形成するニットループのうち、個数割合で30%以上のループが撚係数K=1558121000の実撚を持つ仮撚加工糸からなり、表面のコース密度が40~80個/2.54cm、ウエール密度が35~70個/2.54cmであり、JIS-L1096のマーチンデール法における摩耗耐久性が4万回以上であり、JIS L1013の引張試験において初期荷重0.02mN×表示デシテックスで測定した編クリンプも含めた伸び率が45~150%である捲縮弾性糸が、編地全体に対して10~65質量%含まれることを特徴とする衣料用編地。
  2. 編地の完全組織の表面を形成するニットループを形成する糸の全てが単糸繊度1.5~4.5dtexであることを特徴とする請求項1に記載の衣料用編地。
  3. 完全組織がニットループとウエルトのみからなり、表面を構成する隣り合う1対の糸で表面を編立てる針全てに一つ毎のニットループを形成していることを特徴とする請求項1または2に記載の衣料用編地。
  4. 少なくとも編地の表面側を構成する糸が撥水加工されていることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の衣料用編地。
  5. 厚みが0.35~1.3mmであり、目付が150~300g/mであることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の衣料用編地。
  6. 請求項1~のいずれかに記載の編地を用いたアウター衣料であって、ユニフォームシャツ、体操服、ジャケット、ブレザー、ユニフォーム外衣、学生服、詰襟服、又はスラックスであることを特徴とするアウター衣料。
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